(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】データページ及び冊子類
(51)【国際特許分類】
B42D 25/305 20140101AFI20230106BHJP
B42D 25/24 20140101ALI20230106BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20230106BHJP
G06K 19/02 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
B42D25/305 100
B42D25/24
G06K19/077 156
G06K19/02 050
G06K19/077 264
G06K19/077 144
(21)【出願番号】P 2019087255
(22)【出願日】2019-05-07
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藏野 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 潤
(72)【発明者】
【氏名】新免 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇
(72)【発明者】
【氏名】金子智一
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001087(JP,A)
【文献】特開2017-205917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151238(WO,A1)
【文献】特開2018-187839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 1/00-25/485
G06K 19/00-19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも三つ以上の第一の熱可塑性樹脂シートを積層した第一の熱可塑性樹脂層を形成する中層の前記第一の熱可塑性樹脂シートの一部の表面及び/ 又は裏面に第二の熱可塑性樹脂シートを積層したヒンジ付データページであって、前記中層の前記第一の熱可塑性樹脂シートは、ICシートであり、前記ICシートのICチップは、前記第一の熱可塑性樹脂シートと前記第二の熱可塑性樹脂シートが重畳する連結部に配置されていることを特徴とするヒンジ付データページ。
【請求項2】
前記第一の熱可塑性樹脂層が透明レーザ発色シート、有色印刷シート、前記ICシートの並びで積層されていることを特徴とする請求項1記載のヒンジ
付データページ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のヒンジ
付データページのヒンジ
において、少なくとも表紙又は裏表紙にミシン綴及び/又は接着して成ることを特徴とする冊子類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジ付きデータページとパスポートに関する。
【背景技術】
【0002】
国際交流の進展によって人材の移動が活発化している。それに伴って、個人を特定し身元を証明するために、信頼性の高いパスポートの必要性が高まっている。
【0003】
個人を特定する手段としては、プラスチック基材のIDカードを使用することが多くあるが、IDカードと類似する仕様をパスポートに付与するために、パスポートの所持人情報を記載したデータページをプラスチック基材とする国が多くなっている。パスポートにプラスチック基材のデータページを綴じる手段として、可とう性を有し、綴じた後は引裂けにくいヒンジを介してプラスチック基材のデータページをパスポートに保持させている。
【0004】
また、IDカードに非接触で通信が可能なICチップを組み込み、機械によってID情報が読み出せるようになっているが、これと同様にパスポートにもICチップを組み込み、出入国手続きの際に利用されている。
【0005】
パスポートに組み込まれたICチップには、所持人の氏名や誕生日、更にパスポートの有効期限の他に、所持人の顔画像データ等、数10Kバイト相当の情報が記録されている。パスポートのICチップから情報を読み出すには、スキミング防止の観点から、ICチップが情報を暗号化する機能を有している。パスポートに使用されているICチップは、情報記録媒体であるとともに、情報処理機能を有している。
【0006】
ICチップを組み込んだヒンジ付きプラスチック基材として、ヒンジ層及び無ヒンジ層の両者に跨って貫通する収容穴に、ICモジュールを収容して保持したヒンジ付積層体、ヒンジ付積層体配列シート、ヒンジ付積層体の製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、ヒンジ層と、ヒンジ層の一方の面に中間層を介して設けられたICモジュール保持層を有する情報ページであり、中間層とICモジュール保持層のいずれもポリカーボネートからなるセキュリティ文書の情報ページがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2017/104718号
【文献】国際公開第2018/151238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パスポートは、冊子形態を有しており、携帯されることを前提としている。また、出入国の際には、スタンプを押されたり、ペンによる書き込みしたりすることを想定していることから、様々な衝撃に対する耐久性が要求される。そして、ICチップを組み込んだパスポートにおいては、上記衝撃に対してICチップが故障しにくいことが求められる。
【0010】
パスポートには、データページの外端部にあるMachine Readable Zone(以下、「MRZ」という。)とよばれる領域がある。これを機械的に読取る必要があるが、その手段として、ある隙間にOCR文字が印刷された用紙等を通すことで読取を行うスワイプ方式があり、MRZをスワイプ式のリーダーで読むために、厚さの最大値を0.9mm以下とすることが標準規格として定められている。
【0011】
しかしながら、特許文献1の技術は、ヒンジ層及び無ヒンジ層の両者に跨って貫通する収容穴に、ICモジュールを収容することで、データページの厚みを軽減することが可能であるが、ICチップに保護層が形成されておらず、外部からの衝撃によりICチップが破損するおそれがある。
【0012】
また、特許文献2の技術は、ヒンジ層によりICシート全体を積層しているため、衝撃に対してICチップ破壊からの耐久性が期待できるものの、データページの厚さが増していることから、MRZに対する標準規格に定められている厚さの制限を準拠できないおそれがある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ICチップの外部からの衝撃による破損を防止するとともに、データページ端部に形成されたMRZの厚さを薄くすることが可能なデータページを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも三つ以上の第一の熱可塑性樹脂シートを積層した第一の熱可塑性樹脂層を形成する中層の前記第一の熱可塑性樹脂シートの一部の表面及び/又は裏面に第二の熱可塑性樹脂シートを積層したヒンジ付データページであって、中層の第一の熱可塑性樹脂シートは、ICシートであり、ICシートのICチップは、第一の熱可塑性樹脂シートと第二の熱可塑性樹脂シートが重畳する連結部に配置されていることを特徴とするヒンジ付データページである。
【0015】
また、本発明は、第一の熱可塑性樹脂層が透明レーザ発色シート、有色印刷シート、前記ICシートの並びで積層されていることを特徴とするヒンジ付データページである。
【0016】
また、本発明は、ヒンジ付きデータページのヒンジを、少なくとも表紙、又は裏表紙にミシン綴及び/又は接着して成ることを特徴とする冊子類である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の層構成により、厚さの制限を受けることなく、ヒンジ層による厚さを増すことにより、ICに対する外部からの衝撃耐性を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明のヒンジ付きデータページの他の形態を示す一例図。
【
図3】本発明のヒンジ付きデータページ断面の一例図。
【
図4】本発明のヒンジ付きデータページの表面状態を示す一例図。
【
図5】本発明のヒンジ付きデータページの他の形態を示す一例図。
【
図6】本発明のヒンジ付きデータページの他の形態を示す一例図。
【
図7】本発明のヒンジ形状が異なるヒンジ付きデータページの一例図。
【
図8】本発明のヒンジ付きデータページ断面の一例図。
【
図9】本発明のヒンジ付きデータページ断面の一例図。
【
図10】本発明のヒンジ付きデータページの一例図。
【
図11】本発明のヒンジ付きデータページを有する冊子類の一例図。
【
図12】実施例の本発明のヒンジ付きデータページを示す一例図。
【
図13】実施例の本発明のヒンジ付きデータページを示す一例図。
【
図14】比較例のヒンジ付きデータページを示す一例図。
【
図15】本発明のヒンジ付きデータページの二丁掛けの一例図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0020】
(ヒンジ付データページ)
図1に、本発明のヒンジ付きデータページ(1)を示す。
図1(a)は、個人に発行された状態のヒンジ付きデータページ外観であり、データページ部(2)と、データページ部(2)に隣接するヒンジ部(3)を示している。
【0021】
図1(b)は、ヒンジ付きデータページ(1)に内蔵されたICチップ(6)、アンテナ(7)及び第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)を示す構成図である。データページ部(2)内にある第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)は、ヒンジ部(3)の第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)と一体をなしている。このデータページ部(2)の第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)が存在する部分を連結部(4)といい、第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)が存在しない部分を非連結部(5)という。
図1(b)に示すように、連結部(4)にICチップ(6)が含まれていることが本発明の特徴の一つである。
【0022】
図1(c)に、
図1(b)のX-X’における断面図を示す。本発明のヒンジ付データページ(1)は、複数の第一の熱可塑性樹脂シート(8、12)を積層した第一の熱可塑性樹脂層(16)の中間層の一部に第二の熱可塑性樹脂シート(17)を積層された連結部(4)を有するデータページ部(2)と、第二の熱可塑性樹脂シート(17)により形成されたヒンジ部(3)が連結部(4)と隣接し、データページ部(2)とヒンジ部(3)は、連結部(4)を介して一体化されて成る。
【0023】
データページ部(2)の連結部(4)は、第一の熱可塑性樹脂シート(8、12)、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)及び中間層を形成する第一の熱可塑性樹脂シートであるICシート(9)からなり、このICシート(9)には、ICチップ(6)及びアンテナ(7)を含んでいる。一方、データページ部(2)の非連結部(5)は、連結部(4)から連続する第一の熱可塑性樹脂シート(8、12)、連結部(4)から連続するICシート(9)から成っているが、非連結部(5)のICシート(9)には、ICチップ(6)を含んでいない。ヒンジ部(3)は、連結部(4)から連続する第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)から成っている。
【0024】
図1(c)のヒンジ付きデータページ(1)を第一の方向(A1)から観察した場合に、第一の熱可塑性樹脂シート(8)の厚さが薄い、又は透明である場合は、連結部(4)及び非連結部(5)の第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)の有無による表面状態の違い、あるいは連結部(4)及び非連結部(5)の中央に段差跡による筋状の模様(図示せず)が見える場合がある。また、第一の熱可塑性樹脂シート(8)をレーザ発色シートとすることで、データページ(1)表面からレーザによる印字が可能となるが、レーザ印字によって、更に上記表面状態の違いや筋状の模様が更に視認できるようになる場合がある。
【0025】
次に、
図2により、本発明のヒンジ付きデータページ(1)のその他の構成例について説明する。なお、
図1と共通する箇所については省略する。
図2(a)は、第一の熱可塑性樹脂層(16)の中間層であるICシート(9)上に積層された第一の熱可塑性樹脂シート(8)上に第一の熱可塑性樹脂シート(11)を積層した例である。第一の熱可塑性樹脂シート(8、11)を二枚とすることで、前述の連結部(4)と非連結部(5)の表面形状の違いや段差跡による筋状の模様を軽減、又はなくすことが可能となる。
【0026】
あるいは、第一の熱可塑性樹脂シート(8)を透明レーザ発色シート、第一の熱可塑性樹脂シート(11)を有色印刷シートとすることで、前述したレーザ印字による上記表面状態の違いや筋状の模様が視認されることがなくなり、印字品質を良好とすることが可能となる。
【0027】
図2(b)は、前述のICシート(9)と異なり、アンテナと接続していないICチップ(6)の面に、衝撃からICチップ(6)を保護するための補強板(13)を積層したICシート(90)であり、補強板(13)のない面に対して、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)によってICチップ(6)を保護する例である。
【0028】
図2(c)は、第一の熱可塑性樹脂層(16)の中間層であるICシート(9)のICチップ(6)の双方の面に対して、ヒンジ部(3)を形成する第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成る二枚のヒンジシート(10、100)によりICチップ(6)を挟み、更に第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(100)に第一の熱可塑性樹脂シート(15)及び第一の熱可塑性樹脂シート(14)の順に積層した例である。ICチップ(6)の双方の面に第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10、100)を積層することによって、ICチップ(6)の衝撃耐性を強化することが可能となる。
【0029】
図2(d)は、
図2(b)の変形例であり、アンテナと接続していないICチップ(6)の面に、ヒンジ部(3)を形成する二枚の第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10、100)を積層した構成例であり、衝撃に対して高い耐久性が得られることが可能となる。
【0030】
なお、図示していないが、第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)を厚くするか、又は炭素繊維シート等の高い強度を有するシートを採用することで高い耐久性を得ることが可能となる。あるいは、図示しないが、ICチップ(6)上の二枚の第一の熱可塑性樹脂シート(8、11)の一部を互いに密着しないような加工を施すことで、衝撃の応力がICチップ(6)に届きにくくなるようにすることで、ICチップ(6)の故障を防ぐことが可能である。密着しないようにする加工としては、印刷インキを付与したり、紫外線を部分的に照射したりすることで密着しないように加工することが可能となる。
【0031】
次に、
図3は、熱圧着により形成されたヒンジ付データページ(1)について説明する。
図3(a)は、熱圧着後の第一の熱可塑性樹脂シート(8)が、連結部(4)と非連結部(5)の境界(21)において、非平滑(凹凸)な状態となったものを示したものである。また、
図3(b)は、表面形状がメッシュの第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)を使用した場合に、非連結部(5)にメッシュの表面形状の凹凸の影響が第一の熱可塑性樹脂シート(11)の表面に現れた状態を示したものである。
【0032】
一般的に熱圧着による製造方法では、積層した複数の第一の熱可塑性樹脂シート(8、11)の双方の面それぞれに、金属板ではさんで熱と圧力をかけることになるが、金属板が平面である場合には、
図3(a)における最表面にある第一の熱可塑性樹脂シート(11)の表面は、境界(21)の非平滑な箇所の影響を受けることなく、平滑となる。第一の熱可塑性樹脂シート(11)が有色の場合は、第一の熱可塑性樹脂シート(8)の表面が非平滑状態となっても視覚的に影響ないが、第一の熱可塑性樹脂シート(11)が透明の場合は、境界(21)の非平滑な状態が若干視認されることとなる。更に、第一の熱可塑性樹脂シート(11)がレーザ発色シートで第一の熱可塑性樹脂シート(8)が有色印刷シートの場合は、有色印刷シートである第一の熱可塑性樹脂シート(8)の表面の影響を、レーザ発色シートである第一の熱可塑性樹脂シート(11)が受けて、レーザ発色シートの均一性が損なわれることから、レーザ印字した際には、第一の熱可塑性樹脂シート(11)の表面形状の影響が更に視認されることとなる。
【0033】
なお、パスポートの偽造を防止する手段として、前述のメッシュの表面形状の視認しやすい状態を利用して、
図4に示すように、データページ部における連結部(4)と非連結部(5)の境界(21)に、デザイン性を有する印刷、又は当該場所にセキュリティスレッド等の封印部(40)を挿入することで、更に偽造を抑制する効果が得られる。
【0034】
また、
図5に示すように、第一の熱可塑性樹脂層(16)を形成する第一の熱可塑性樹脂シート(11)及び第一の熱可塑性樹脂シート(8)の間に、第一の熱可塑性樹脂シート(22)を積層する形態を示している。また、第一の熱可塑性樹脂シート(11)をレーザ発色シート、第一の熱可塑性樹脂シート(22)を有色印刷シートとすることで、レーザ発色シートである第一の熱可塑性樹脂シート(11)の均一性が保持され、良好なレーザ印字品質が得られる。図示しないが、第一の熱可塑性樹脂シート(8)の厚さを増すことで、同等の効果が得られる。
【0035】
図6は、第一の熱可塑性樹脂層(16)を形成する中間層である補強板入りICシート(90)のアンテナと接続していないICチップ(6)の面に対して、ヒンジ部(3)を形成する第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)、三枚の第一の熱可塑性樹脂シート(14、15、20)を積層し、更に反対面に複数の第一の熱可塑性樹脂シート(8、22、23)と、第一の熱可塑性樹脂シート(22、23)の間にホログラム(24)をICチップ(6)上にあるように配置している。さらに、第一の熱可塑性樹脂シート(14、15)の間にセキュリティスレッド(25)が、ICチップ(6)の下に配置されている。これによって、ICチップ(6)は、ヒンジ部(3)を形成する第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)、第一の熱可塑性樹脂シート(8、14、15、20、22、23)、補強板(13)、ホログラム(24)、セキュリティスレッド(25)によって耐久性が得られるように構成することができる。それぞれ単体では十分な耐性強化が図れなくても、全体で高い耐性を確保することが可能である。
【0036】
また、第一の熱可塑性樹脂シート(8、15)を有色印刷シート、第一の熱可塑性樹脂シート(14、22)を透明レーザ発色シート、第一の熱可塑性樹脂シート(20、23)を透明保護シートとすることで、双方の面をレーザ印字可能としつつ、透明保護シートを設けることで、ホログラムを配置することも可能であり、表層は印字されずそれより内層にレーザ印字できることから、改ざん防止効果を有する。
【0037】
有色印刷シートとして、模様印刷済の有色シートを使用することで、デサイン性を有しつつ、別途、有色印刷シートを追加して厚さを増やす必要のない、実現性の高いヒンジ付きデータページを構成することが可能となる。
【0038】
さらに、クリアウィンドウ(26)を付与することで、偽造防止効果が得られる。それ自体で特殊性がある他、クリアウィンドウ(26)の部分の表面形状を加工して、前後のページと組み合わせることによってレンズ効果による潜像等を出現させる等、更に高度な偽造防止技術を付与することが可能となる。有色印刷シートである第一の熱可塑性樹脂シート(8、15)及びレーザ発色シートである第一の熱可塑性樹脂シート(20、23)、並びにICシート(90)を貫通して、透明な熱可塑性樹脂を充填して形成されたクリアウィンドウ(26)を構成するために、貫通しない第一の熱可塑性樹脂シート(14、22)が透明である必要がある。例えば、第一の熱可塑性樹脂シート(15)のみが有色印刷シートで、第一の熱可塑性樹脂シート(8)は、透明シートでICシート(90)の基材も透明であれば、第一の熱可塑性樹脂シート(15)のみ貫通して、透明な熱可塑性樹脂を充填することで、クリアウィンドウ(26)とすることが可能である。
【0039】
(第一の熱可塑性樹脂層)
第一の熱可塑性樹脂層(16)は、複数の第一の熱可塑性樹脂シートを積層して構成される。第一の熱可塑性樹脂シートの材料は、ポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。複数の第一の熱可塑性樹脂シートとして単一の材料を使用してもよいし、異なる材料を組み合わせて使用してもよい。また、第一の熱可塑性樹脂シート1枚1枚が複数の材料を混合した材料から成っていてもよい。
【0040】
また、使用可能なポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常1,000~100,000の範囲であり、好ましくは5,000~50,000、より好ましくは10,000~40,000、さらに好ましくは20,000~30,000の範囲である。当該粘度平均分子量が高いポリカーボネート樹脂を最外層に使用した場合は、よりICチップ(6)の保護が良好と成る。なお、複数の第一の熱可塑性樹脂シートを積層して構成するために熱圧着を行う場合は、各シートの温度特性が同じ又は近いことが望ましい。なぜならば、温度特性が異なる材料を組み合わせて、低い温度で熱圧着した場合には、熱圧着不良の要因となり、高い温度で熱圧着した場合には、低い温度特性の材料の流動特性が高まって歩留まりが低減する要因となるからである。
【0041】
(ヒンジシート)
一般的に、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10、100)としては、可とう性を有し、ヒンジ部(3)において冊子と綴じた際に、裂けにくいという性質が求められる。そのため、そのような性質を有する均一な熱可塑性シートであればよい。また、繊維シート、繊維シートの両面に第一の熱可塑性樹脂シートを積層したシート、多孔性樹脂シート、或いはこれらの組合せでもよい。材料としては、ポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。
【0042】
次に、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)の形状の変形例について説明する。前述した
図1(b)に示す第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)の連結部(4)の形状は、長方形であるが、
図7(a)に示すとおり、ICチップ(6)と重なるように第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)の一部を凸形状として、他の部分のオーバーラップする面積を小さくしてもよい。これによって、レーザ印字する領域と、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)とデータページ(1)がオーバーラップする領域を可能な限り小さくすることが可能となる。
【0043】
また、
図7(b)に示すように、第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)の1辺を、波型とすることで、第二の熱可塑性樹脂シートから成るヒンジシート(10)の形状が表面に現れる場合に、意匠性を有するようにすることが可能となる。
【0044】
第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)は、複数の第一の熱可塑性樹脂シート(8、11、12、14、15)間、或いは第一の熱可塑性樹脂シート(8、11、12、14、15)とICシート(9)との間に配置するだけでなく、
図8に示すように、第一の熱可塑性樹脂層(16)を形成する複数の第一の熱可塑性樹脂シート(8、14、15、20、22、23)の最外層の第一の熱可塑性樹脂シート(20)に第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)を配置することも可能である。接着方法としては、熱圧着、接着剤、あるいはそれらの組合せによることが可能である。
【0045】
なお、
図9に示すように、ICシート(9)が衝撃に対して十分な耐性を有する場合は、第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)をICチップ(6)上まで配置する必要はない。ただし、冊子に確実にデータページ(1)を綴じる必要性から、データページ(1)から第二の熱可塑性樹脂シート(17)から成るヒンジシート(10)が容易に抜けない程度にオーバーラップさせておく必要がある。この場合、
図3と同様に、第一の熱可塑性樹脂シート(11)を透明レーザ発色シート、第一の熱可塑性樹脂シート(8)を有色印刷シートとすることで、
図2の形態で発生したレーザ印字による表面状態の違いや筋状の模様が視認されることがなくなり、基材の影響を受けない印字品質とすることが可能である。
【0046】
(ICシート)
本発明において、ICシート(9、90)は、非接触ICカード内にあるICチップ(6)及びアンテナシート(7)からなるインレットと、それを複数の第一の熱可塑性樹脂シート間に挿入した構成からなる。あるいは、ICチップ(6)を第一の熱可塑性樹脂シートに配置した後に、ワイヤボンディングによってアンテナ(7)となる金属線を配置し、それに別の第一の熱可塑性樹脂シートを積層するという方法がある。これら製造設備は、カードサイズの非接触ICカードの製造に利用されることが多いが、電磁誘導を利用して通信するために、一般的には、カードサイズと同等な形状でのアンテナ設計とすることが多い。しかし、通信に支障をきたさない電磁誘導効果が得られるのであれは、例えば、
図10に示すように、アンテナ(7)の領域を小さくし、ICチップ(6)をアンテナ(7)の領域外に配置することが可能である。このように配置することで、保護したいICチップ(6)が連結部(4)側にあり、連結部(4)の領域を小さくすることが可能である。また、アンテナ(7)領域外の面積が大きいことから、前述の
図6に示すデータページ(1)に付与する技術であるクリアウィンドウ(26)のための領域を確保しやすくなる。
【0047】
(冊子類)
図11は、ヒンジ付きデータページ(1)のヒンジ部(3)を糸綴じて形成したパスポート(P1)の一例図である。
図11(a)に示すように、パスポート(P1)は、ヒンジ付きデータページ(1)と各ページ(510)により形成され、
図11(b)のYY´断面図に示すように、ヒンジ付きデータページ(1)は、各ページ(510)と表紙又は表紙に貼り付けられる見返し紙(530)とが、ヒンジ部(3)を糸(19)によって縫い合わされることで構成されている。
【0048】
本実施形態では、ヒンジ部(3)を、表紙又は見返し紙(530)にミシン綴により糸綴じしてパスポート(P1)を形成しているが、接着剤又は熱圧着により冊子の紙とヒンジ部(3)と一体化するか、又はそれらと糸綴じを併用してもよい。
【実施例】
【0049】
(実施例)
本実施例は、
図12に示すヒンジ付きデータページ(1)を下記の表1に示す材料により作製した水準1である。
【0050】
【0051】
(熱圧着)
表1に示す材料を熱圧着するために、初めに超音波接着機(ズズキ株式会社製「SUH-30CW」)を使用して、材料を仮止めした。仮止めは、最終的にデータページ小切れに断裁する際の余白部に対して超音波接着した。
【0052】
仮止めしたヒンジ付きデータページ(1)の上下に対して、120mm(幅)×300mm(奥行き)×1mm(厚さ)のアルミ板を、データページ部(2)からはみ出ないように積層した。さらにその上下に、クッション材を積層する。本実施例では、クッション材としてA4(210mm×297mm)のリサイクル用紙10枚かさねたものをそれぞれ上下に積層した。奥行きがアルミ板より若干短くなるものの、アルミ板がおおむねクッション材の中央にあるように配置した。
【0053】
更に、クッション材の上下に、350mm(幅)×300mm(奥行き)×1mm(厚さ)のステンレス板を積層している。これらをSD型成形プレス機(株式会社ダンベル社製「SDOP-1042-2HC-AT-WC1V-PG3」)を使用し、170℃、200秒、1.5MPaの機械設定で熱圧着を行ない、55℃まで冷却した後、取り出すことによって、
図13に示す2丁掛けのヒンジ付きデータページ(500)を作製した。
【0054】
(断裁)
熱圧着後の2丁付けのヒンジ付きデータページ(500)に対して、
図15に示す断裁線(S1、S2)に沿って二つのヒンジ付きデータページ(1)を切り出した。二つに断裁する際には、データページ部(2)が125mm(
図13の縦方向)×88mm(
図15の横方向)となるようにしてヒンジ部(3)とデータページ部が切り離されないようにして断裁した。
【0055】
(水準2)
同様に、水準2としてヒンジシートを二枚積層し、
図13に示すヒンジ付きデータページ(1)を下記の表2に示す材料により水準1と同様な方法で作製した。
【0056】
【0057】
(比較例1)
水準1と水準2のヒンジ付きデータページ(1)の効果を確認するために、下記の表3に示す材料により
図14に示す比較例を作製した。なお、水準1と同様な箇所については省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0058】
【0059】
(厚さ評価)
表4に、水準1、水準2及び比較例のヒンジ付きデータページ(1)の厚さを測定した結果を示す。水準1及び水準2のヒンジを有するヒンジ側端部(T1)の厚さが比較例1よりも厚くなっていることが分かる。これは、ヒンジシート(10、100)の厚さ相当が加算されているからである。ただし、繊維シートの網目にポリカーボネートが侵入しているため、繊維シートの厚さを加算したものよりも薄いことが確認できる。一方、水準1、水準2においてヒンジを有しない非ヒンジ端部(T2)においては、比較例1と同等の厚さであった。この部分は、MRZの領域にあたり、ICAOの規格である900μm以下となっており、一般的なスワイプ型のOCRで読み取りが可能な厚さであった。
【0060】
【0061】
(落下物衝撃評価)
図16に、水準1、水準2及び比較例に対する落下物衝撃評価を行った結果を示す。落下物衝撃評価のために、株式会社東洋精機製作所製 ICカード衝撃試験機を用いた。先端部半径1mm、50gのポンチをあらかじめICチップ上に置き、40gの重りを19mm~24mmの高さから落下させた後、試験検体に対してICの通信が行えた検体の数をパーセントで表したものである。水準1は、比較例よりも落下物に対する耐性を有することが確認できた。また、水準2については、どの距離から重りを落下させても、全ての検体でIC通信が行えており、水準1及び比較例よりも強い耐性を有することが確認できた。
【0062】
次に、
図17に示すように、水準1と水準2により作製したヒンジ付きデータページ(1)に対して、各(査証)ページ(510)及び見返し(520)で挟み込み、ミシン(JUKI株式会社製「DDL-9000B-SH」)で
図24の点線部を糸とじした後、見返し(520)と表紙(530)を糊付けしてパスポートを作製した。
【0063】
なお、熱圧着後の二丁掛けのヒンジ付きデータページ(500)を、二丁掛けサイズの査証ページと二丁掛けサイズの見返しで挟んで糸綴じした後に2丁掛けサイズの表紙を糊付けしてから、パスポートサイズに断裁する工程によってもパスポート製造が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 ヒンジ付データページ
2 データページ部
3 ヒンジ部
4 連結部
5 非連結部
6 ICチップ
7 アンテナ
8、11、12、14、15、20、22、23 第一の熱可塑性樹脂シート
9 ICシート
10、100 ヒンジシート
13 補強板
16 第一の熱可塑性樹脂層
17 第二の熱可塑性樹脂シート
18 封印部
19 糸
21 境界
24 ホログラム
25 セキュリティスレッド
26 クリアウィンド
P1 パスポート
S1、S2 断裁線
500 二丁掛けのヒンジ付きデータページ
510 各ページ
520 見返し
530 表紙