(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】窓を有する偽造防止媒体及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/333 20140101AFI20230106BHJP
B42D 25/351 20140101ALI20230106BHJP
B42D 25/40 20140101ALI20230106BHJP
【FI】
B42D25/333
B42D25/351
B42D25/40
(21)【出願番号】P 2019119674
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】城村 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】堀内 直人
(72)【発明者】
【氏名】中澤 賢治
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525474(JP,A)
【文献】特表2016-525953(JP,A)
【文献】特表2017-510719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/333
B42D 25/351
B42D 25/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を有して成る基材に、少なくとも一つの開口部を備え、前記開口部が、前記基材の表裏に積層された熱可塑性樹脂層によって覆われて成る窓が形成され、
前記基材は、前記開口部によって全周が囲まれた領域を有し、前記窓の輪郭の少なくとも一部に沿って、部分的に繊維の密度が高い領域が形成され、
前記開口部によって囲まれた前記領域に、前記繊維同士が密着され、前記基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、前記基材よりも光透過性の高い透かし模様が形成されたことを特徴とする窓を有する偽造防止媒体。
【請求項2】
前記開口部によって囲まれた基材、前記透かし模様及び前記窓により、合成模様が形成されたことを特徴とする
請求項1記載の窓を有する偽造防止媒体。
【請求項3】
繊維を有する基材の表裏に、熱可塑性樹脂層を積層し、前記熱可塑性樹脂層が積層された領域に、凸形状の第1の凸部及び前記第1の凸部よりも高さが低い
第2の凸部を有する金型を用いて超音波加工を行うことで、前記第1の凸部に対応した前記基材において、前記基材を構成する繊維を前記第1の凸部の周囲に寄せることで、前記基材の一部が貫通した少なくとも一つの開口部を形成するとともに、前記基材の表裏に積層した熱可塑性樹脂層によって、前記開口部を覆った窓を形成し、前記第2の凸部により、前記繊維同士が密着され、前記基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、前記基材よりも光透過性の高い透かし模様を形成することを特徴とする窓を有する偽造防止媒体の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、通行券等の貴重印刷物の分野において、基材に窓を備えた偽造防止媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、通行券等の貴重印刷物は、その性質上、偽造や改ざんされないことが要求され、偽造防止の対策として、蛍光インキによる印刷、微小文字の印刷、光学的変化インキによる印刷等が施されている。また、紙基材自体を加工する偽造防止技術として、抄き入れ、スレッド、機能性繊維の混抄等が用いられている。
【0003】
また、基材自体に施される偽造防止技術として、基材に透明な窓を施した技術が、オーストラリア、カナダ等の紙幣に用いられている。これらの紙幣において透明な窓の構成は、基材自体を透明なポリマー材料で構成し、窓の周りを印刷によって遮蔽した構成となっており、その存在が簡単に認証できることから真偽判別要素として用いられている。
【0004】
また、透明な窓を基材に施した技術としては、基材がポリマー材料の場合だけでなく、紙で構成される基材の一部に、開口部を設け、開口部を覆うようにフィルムを積層した技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の技術は、基材に設けた開口部にフィルムを積層する際に、高圧で基材を圧縮することで、基材に凹部を形成するとともに、凹部にフィルムを積層して平らな表面の窓を形成するものである。特許文献1の技術は、透明な窓による真偽判別効果や偽造防止効果に加えて、複数枚の有価証紙を積み上げても積載性に優れるという効果がある。なお、特許文献1の技術は、パンチ加工によって基材の一部を打ち抜いて開口部を形成するものである。また、特許文献1の技術は、透明な窓とは別の領域に、公知の手法によって透かし模様、マイクロ印刷等の加工を施すことも開示されている。
【0005】
また、基材に設けた開口部をフィルムによって覆うことで窓を形成する技術において、従来の乾いた状態の紙基材を切削加工手段によって単純に打ち抜いて形成した窓の偽造防止を課題とし、開口部の繊維が不規則な状態の窓を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の技術は、円網抄紙機の製紙スクリーンに設けた凸形状の封止要素を用いて加工することで、開口部の繊維が不規則に形成されるもので、当該構成を真似することは容易ではなく、偽造防止効果に優れる。なお、特許文献2の技術は、円網に凹凸を設けることで、開口部の周囲に透かし模様を同時に施し、それを開口部の模様と関連付けることも開示されており、その場合、透過光下で観察した際に、合成した模様が視認できるという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4064449号公報
【文献】特許第4495460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術において、透明な窓に加えて透かし模様を形成することで、有価証紙の偽造防止効果を向上させることができるが、窓(開口部)と透かし模様の加工は、別の手段によって行われることから、それらを位置精度よく形成することが難しいという課題があった。また、仮に透明な窓と透かし模様を位置精度よく形成できたとしても、位置を調整するための機構が必要であり、加工する装置の構成が複雑で高価になるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2の技術においては、開口部と透かしを円網上で同時に形成することから、位置精度よく形成することができるが、特許文献2の技術は、円網に設けた弾性封止要素によって開口部を形成するため、窓(開口部)の輪郭が不規則になるという問題があった。
【0009】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、窓(開口部)と透かし模様を位置精度よく形成することができ、かつ、窓(開口部)の輪郭が鮮明な偽造防止媒体及びその作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の窓を有する偽造防止媒体は、繊維を有して成る基材に、少なくとも一つの開口部を備え、開口部が、基材の表裏に積層された熱可塑性樹脂層によって覆われて成る窓が形成され、窓の輪郭の少なくとも一部に沿って、部分的に繊維の密度が高い領域が形成され、開口部とは異なる領域に、繊維同士が密着され、基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、基材よりも光透過性の高い透かし模様が形成されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の窓を有する偽造防止媒体は、透かし模様と窓により、合成模様が形成されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の窓を有する偽造防止媒体は、開口部は、基材の一部を囲む形状で形成されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の窓を有する偽造防止媒体は、開口部によって囲まれた基材に、透かし模様が形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の窓を有する偽造防止媒体は、開口部によって囲まれた基材、透かし模様及び窓により、合成模様が形成されたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の窓を有する偽造防止媒体の作製方法は、繊維を有する基材の表裏に、熱可塑性樹脂層を積層し、熱可塑性樹脂層が積層された領域に、凸形状の第1の凸部及び第1の凸部よりも高さが低い第2の凸部を有する金型を用いて超音波加工を行うことで、第1の凸部に対応した基材において、基材を構成する繊維を第1の凸部の周囲に寄せることで、基材の一部が貫通した少なくとも一つの開口部を形成するとともに、基材の表裏に積層した熱可塑性樹脂層によって、開口部を覆った窓を形成し、第2の凸部により、繊維同士が密着され、基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、基材よりも光透過性の高い透かし模様を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の窓を有する偽造防止媒体は、超音波加工による一度の工程によって、窓と透かし模様を形成することから、位置精度よく形成することができる。また、窓の輪郭に沿って形成された繊維の密度の高い領域を備えることで、窓の認証性を高めることができる。
【0017】
また、開口部によって囲まれた基材を備える構成の窓を有する偽造防止媒体もまた、窓と透かし模様と同時に超音波加工による一度の工程によって形成することから、位置精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の偽造防止媒体の概要を示す図である。
【
図2】偽造防止媒体に窓が形成される領域の断面図である。
【
図4】開口部を形成するための金型の構成を示す図である。
【
図5】本発明の偽造防止媒体の作製方法のフロー図である。
【
図6】超音波加工によって、開口部及び窓が形成される状態を模式的に示す図である。
【
図7】繊維の密度が高い領域の厚さが、周りの基材より厚い構成を示す図である。
【
図8】複数の窓を設けた偽造防止媒体の構成を示す図である。
【
図9】基材に形成される開口部の図柄の例を示す図である。
【
図10】窓と透かし模様によって合成模様を形成した例を示す図である。
【
図11】開口部が基材の一部を囲んだ状態で形成された窓の構成を示す図である。
【
図12】開口部が基材の一部を囲んだ状態で形成するための金型の構成を示す図である。
【
図13】超音波加工によって、開口部が基材の一部を囲んだ状態で形成される状態を模式的に示す図である。
【
図14】基材の一部を囲む開口部の例を示す図である。
【
図15】窓と透かし模様と開口部によって囲まれた基材によって合成模様を形成した例を示す図である。
【
図16】基材の一部を囲む開口部の別の例を示す図である。
【
図17】基材と熱可塑性樹脂層の表面の位置関係を示す図である。
【
図18】実施例1の偽造防止媒体に形成した窓の領域の断面図である。
【
図19】実施例2の窓と透かし模様の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0020】
図1に、本発明の窓を有する偽造防止媒体(1)(以下「偽造防止媒体」という。)の平面図を示す。本発明の偽造防止媒体(1)は、
図1に示すように、開口部(11)を含む窓(10)及び透かし模様(15)を備え、窓(10)を通して奥側が透けて見える効果を備える。以下、本発明の偽造防止媒体(1)の詳細な構成について説明する。なお、窓(10)の形状は、
図1に示す「円形状」とした例であり、透かし模様(15)の形状は、「ドーナツ形状」とした例で説明する。
【0021】
(基材)
本発明において基材(2)は、繊維を有する紙であり、基材(2)を構成する繊維の種類は、特に限定されるものでなく、各種木材を原料とするKP、SP等化学パルプ、GP、TMP、CTMP等機械パルプ、古紙再生パルプ等を使用することができる。また、イネ、アバカ、木綿、ケナフ、みつまた、竹等の非木材も使用することができる。また、後述する偽造防止媒体(1)の作製方法である超音波加工の際に生じる熱によって、溶融しない化学繊維、例えば、レーヨン繊維、ガラス繊維等であってもよい。これらの繊維を単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。なお、紙の材料として一般的に用いられるサイズ剤、紙力増強剤等の薬品、顔料、添料は、必要に応じて配合してもよい。また、紙の色については、赤、青、黄、緑等、特に限定されるものではなく、白色でもよい。また、以上の構成で成る紙の表面に、印刷適性や表面光沢を向上させるための塗工材料が施されたものでもよい。
【0022】
また、本発明において、基材(2)に紙を用いる場合、紙の厚さ、坪量は特に限定されるものではなく、一般的な範囲で用いることができ、薄紙の例としては、坪量20~30g/m2、厚さ30~50μm程度であり、厚紙の例としては、坪量250~300g/m2、厚さ300~500μm程度である。なお、偽造防止媒体(1)の取扱性や耐久性の点から坪量80~100g/m2、厚さ90~120μm程度の紙を用いることが好ましい。
【0023】
(窓の構成)
図2は、
図1のA-A’線における断面図である。本発明の偽造防止媒体(1)おいて、窓(10)は、基材(2)の一部が貫通して孔が開いた状態の開口部(11)が、基材(2)の表裏に積層された熱可塑性樹脂層(12)によって覆われることで形成される。本発明において窓(10)及び透かし模様(15)を形成するための超音波加工の詳細については後述するが、超音波加工によって窓(10)を形成する場合、加工部において、基材(2)を構成する繊維が超音波加工による振動で金型の端に寄せられることで開口部(11)が形成されると同時に、繊維の密度の高い領域(S)が形成される。また、基材(2)の表裏に積層した熱可塑性樹脂層(12)が接着することで、
図2に示す構成の窓(10)が形成される。このため、超音波加工によって窓(10)を形成する場合、基材(2)には、繊維を含んで成る紙を用いる。
【0024】
(熱可塑性樹脂層)
本発明において、熱可塑性樹脂層(12)は、透明又は半透明な熱可塑性樹脂から成る材料によって構成され、熱可塑性樹脂層(12)は窓(10)の奥側が透けて見えれば、着色されていてもよいが、無色透明の方が、奥側を透かして見る際に視認性がよいことから好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂層(12)の具体的な構成としては、フィルムの形態があり、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等の熱可塑性樹脂から成るフィルムを用いることができる。また、正反射光下で色彩が変化する干渉フィルムでもよい。また、異なる材料のフィルムを積層した多層フィルムでもよい。なお、基材(2)の表裏にフィルムを積層する場合は、同じ材料のフィルムを用いてもよく、異なる材料のフィルムを用いてもよい。
【0026】
本発明において、熱可塑性樹脂層(12)に用いるフィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、一般的な範囲のフィルムを用いることができ、市販されているフィルムとしては、厚さ5μm~500μmのものがあり、適宜選択して用いることができる。ただし、偽造防止媒体(1)の取扱性の点から、50μm程度の厚さのフィルムを用いることが好ましい。
【0027】
また、別の熱可塑性樹脂層(12)の構成としては、前述した熱可塑性樹脂を含む液体状の材料を基材(2)に塗布して形成してもよい。なお、熱可塑性樹脂を含む液体状の材料は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を、芳香族系、環状エーテル系、アミド系等の溶剤に溶解させることで、作製することができる。熱可塑性樹脂を含む液体状の材料を塗布する場合においても、偽造防止媒体(1)の取扱性の点から、50μm程度の厚さとすることが好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂層(12)としてフィルムを用いる場合には、必要に応じて基材(2)と接着するための接着層を設けてもよく、接着層としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等の各種合成樹脂を用いることができる。
【0029】
(超音波加工機)
図3は、本発明の偽造防止媒体(1)が備える窓(10)及び透かし模様(15)を形成するための超音波加工機(30)の模式図である。超音波加工機(30)は、
図3に示すように、ホーン(31)、アンビル(33)及びアンビル(33)を固定する台座(34)によって構成される。ホーン(31)とアンビル(33)は金属製であり、アンビル(33)の上には、開口部(11)、すなわち窓(10)及び透かし模様(15)形状に対応した凸形状の金型(32)が設けられている。なお、超音波加工機(30)は、枚葉紙に加工を行うスタンプ型と、連続紙に加工を行うミシン方式があるが、いずれの加工機を用いてもよい。
【0030】
図4は、
図1に示す「円形状」の開口部(11)及び「ドーナツ形状」の透かし模様(15)を形成するための金型(32)の構成を示す図であり、
図4(a)は、金型(32)の斜視図、
図4(b)は、
図4(a)のB-B’線における断面図である。
図4(a)及び
図4(b)に示すように、金型(32)は、「円形状」の窓(10)を形成するために、凸形状で構成された第1の凸部(32A)を有して成り、第1の凸部(32A)は、
図4(a)に示すように開口部(11)の「円形状」に対応した形状となっている。また、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、金型(32)は、「ドーナツ形状」の透かし模様(15)を形成するために、第1の凸部(32A)の高さ(h1)よりも高さの低い第2の凸部(32B)を有して成る。
【0031】
図5は、本発明の偽造防止媒体(1)が備える窓(10)を超音波加工によって形成する方法のフロー図であり、
図6は、超音波加工機(30)による加工によって窓(10)及び透かし模様(15)が形成される状態を模式的に示す図である。以下、
図5及び
図6を用いて、本発明の偽造防止媒体(1)が備える窓(10)を形成する方法について説明する。
【0032】
はじめに、
図5に示す熱可塑性樹脂層積層工程(S1)において、基材(2)の表裏に熱可塑性樹脂層(12)を積層する。熱可塑性樹脂層(12)は、前述のように、フィルムを積層してもよく、熱可塑性樹脂を含む液体状の材料を塗布して積層してもよい。なお、熱可塑性樹脂層(12)の材質として、超音波加工によって生じる熱の温度(200℃程度)より融点が低いほど、金型(32)の加圧による熱可塑性樹脂層(12)の変形に伴い繊維が移動しやすくなる。このため、融点が200℃より低いポリプロピレン、ポリエチレン等から成る材料を用いると繊維を移動させやすいことから好ましい。
【0033】
次に、
図5に示す超音波加工工程(S2)において、
図6(a)に示すように、ホーン(31)とアンビル(33)の間に、熱可塑性樹脂層(12)が積層された基材(2)を配置して、超音波加工を行う。超音波加工工程(S2)では、
図4に示す金型(32)を用いて、熱可塑性樹脂層(12)が積層された基材(2)に超音波加工を行うが、基材(2)に開口部(11)を設けるために、第1の凸部(32A)の高さ(h1)は、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)と基材(2)の厚さの和と同じにすればよい。なお、第1の凸部(32A)の高さ(h1)は、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)と基材(2)の厚さの和より大きくてもよいが、反対側の熱可塑性樹脂層(12)、すなわち
図6(a)において、基材(2)の上側に積層される熱可塑性樹脂層(12)が貫通しないように、後述する超音波加工の際の圧力を調整する必要がある。また、第1の凸部(32A)の高さ(h1)が、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)と基材(2)の厚さの和より小さくてもよいが、超音波加工によって開口部(11)と窓(10)を形成するために、後述する超音波加工の際の圧力を調整する必要がある。
【0034】
透かし模様(15)を形成するための第2の凸部(32B)の高さ(h2)は、少なくとも、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)の厚さより高い必要がある。また、超音波加工によって基材(2)が貫通しないため、前述のように第1の凸部(32A)の高さ(h1)より低い構成とする必要がある。この範囲において、第2の凸部(32B)の高さ(h2)が高いほど明るい透かし模様を形成することができるので、所望とする透かし模様(15)に応じて、第2の凸部(32B)の高さ(h2)を適宜調整すればよい。
【0035】
超音波加工は、
図6(b)に示すように、ホーン(31)が下降し、基材(2)を挟んで超音波加工を行う。超音波加工を行うと、
図6(b)の拡大図に示すように、第1の凸部(32A)に対応した基材(2)、詳細には、凸形状の第1の凸部(32A)と接触する熱可塑性樹脂層(12)の上の基材(2)においては、ホーン(31)からの超音波振動と、下降による加圧により、元々、基材(2)を構成していた繊維が、凸形状の第1の凸部(32A)の輪郭に沿って外側へ寄せられることで、
図6(c)に示すように、第1の凸部(32A)に応じた開口部(11)が形成されるとともに、開口部(11)の領域において基材(2)の表裏に積層されていた熱可塑性樹脂層(12)は、接着された状態となり、窓(10)が形成される。なお、
図6(c)に示す矢印線は、基材(2)を構成する繊維が開口部(11)の輪郭に向かって寄せられる方向を示している。
【0036】
また、第2の凸部(32B)に対応した基材(2)、詳細には、凸形状の第2の凸部(32B)と接触する熱可塑性樹脂層(12)の上の基材(2)においても、超音波加工によって同様な作用が生じるが、第2の凸部(32B)の高さ(h2)が、第1の凸部(32A)より低いことから、基材(2)が貫通することなく、基材(2)の厚さが薄く、密度が高くなって凹形状の透かし模様(15)が形成される。この紙基材に形成される透かし模様(15)については、特開2017-206792号公報に記載の構成と同じように、基材(2)の繊維間の空隙がなくなり、基材(2)を構成する繊維同士が一体化した状態、所謂、繊維同士が密着した状態となっている。このような構成の透かし模様(15)は、光が透過する際に、基材(2)の内部での光の散乱や屈折する頻度が低下し、基材(2)よりも光の透過光量は高く明るく視認される。
【0037】
前述のように、第1の凸部(32A)の高さを所定の範囲とすることで、窓(10)を形成できるが、超音波加工工程(S2)では、必要に応じて、超音波加工機(30)の加工条件を調整して、超音波加工を行ってもよい。具体的な超音波加工機(30)の加工条件とは、超音波振動の振幅と圧力であり、超音波振動の振幅とは、ホーン(31)先端の振れ幅(縦振動)である。また、圧力とは、ホーン(31)と金型(32)が、基材(2)を押圧する圧力のことである。
【0038】
本出願人が用いた超音波加工機(日本アビオニクス株式会社製 W5080 スタンプ式)(30)によれば、振幅が0.5~50μmの範囲で調整可能であり、圧力が0.001MPa~0.4MPaの範囲で調整が可能である。これらの条件の値が大きいほど、基材を構成する繊維が移動しやすいことから、必要に応じて調整すればよい。なお、超音波加工機(日本アビオニクス株式会社製 W5080 スタンプ式)(30)によれば、超音波加工を行う時間の調整も可能であり、必要に応じて調整してもよい。また、上述した調整の範囲は、超音波加工機(日本アビオニクス株式会社製 W5080 スタンプ式)(30)によるものであり、各種の超音波加工機(30)の仕様によって調整の範囲は異なるが、超音波加工によって、窓(10)を形成する原理は同じであることから、適宜調整して加工を行えばよい。これらの超音波加工機(30)の加工条件を、基材(2)と熱可塑性樹脂層(12)の条件に応じて調整することで、基材(2)を構成する繊維を、第1の凸部(32A)の輪郭に沿って外側へ寄せて、第1の凸部(32A)に応じた開口部(11)を形成することができるとともに、開口部(11)の領域において基材(2)の表裏に積層されていた熱可塑性樹脂層(12)が接着された状態となり、窓(10)を形成することができる。
【0039】
超音波加工によって形成した窓(10)の構成の特徴としては、凸形状の第1の凸部(32A)の輪郭に沿って外側へ繊維が寄せられることで、
図6(c)に示す開口部(11)の輪郭に沿って繊維の密度が高い領域(S)が形成されることであり、従来技術のようにレーザ加工、切削加工等によって開口部(11)を形成する場合には、開口部(11)に存在していた繊維が打ち抜かれて除去されるだけで、
図6(c)に示すような繊維の密度が高い領域(S)が形成されることはない。また、本発明の加工方法とは異なり、紙基材をエンボス加工することで密度が高い領域を形成することもできるが、この場合、本発明のように繊維の移動はないため、紙基材の単位面積当たりにおける繊維の量は同じになる。これに対して、超音波加工によって本発明の窓(10)を形成する場合の繊維の密度が高い領域(S)は、繊維の移動によって周りの基材(2)よりも繊維の量が高く、繊維の密度が高い構成となっている。なお、開口部(11)の輪郭とは、
図1に示す模様の場合、「円形状」の円周部分のことである。
【0040】
また、
図6(c)に示す繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)は、超音波加工によって窓(10)を形成する一つの形態によれば、周りの基材(2)の厚さと同じ状態で形成される。前述のように、本発明の加工方法とは異なり、紙基材をエンボス加工することで繊維の密度が高い領域(S)を形成することもできるが、この場合、紙基材の厚さ方向に圧縮されて周りの領域に比べて厚さが薄くなる。一方、本発明の超音波加工によって形成した窓(10)の構成は、
図6(c)に示すように、基材(2)を構成する繊維が寄せられることで繊維の密度が高いものの、基材(2)の厚さが薄くならないことも特徴である。
【0041】
超音波加工によって形成した窓(10)を備えた偽造防止媒体(1)の効果は、超音波加工により繊維が寄せられた領域(S)が、周りの領域、すなわち超音波加工が施されていない基材(2)と比べて、部分的に繊維密度が高いことで、反射光下の観察では、紙の色が濃く視認され、透過光下の観察では、暗く視認されることによって、窓(10)の認証性を高めることができる。なお、
図6(c)に示す超音波加工により繊維が寄せられた領域(S)の範囲(T)を、100μm以上形成すると、窓(10)の輪郭として認証性が高まることから好ましい。
【0042】
図7は、超音波加工によって形成した窓(10)の別の構成を示す図であり、
図6(c)に示す構成に対して、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さよりも厚い状態で形成され、熱可塑性樹脂層(12)もまた、繊維の密度が高い領域(S)に応じて盛り上がった状態で形成される。
図7に示すように、熱可塑性樹脂層(12)が、繊維の密度が高い領域(S)によって盛り上がると、開口部(11)の輪郭が盛りあがった状態となることで、立体的にも窓(10)の形状を視認できることから好ましい。なお、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)は、立体的な視覚効果を得るために、基材(2)に対して20μm以上厚いことが好ましく、流通適正を考慮すると50μm以下とするのが好ましい。
【0043】
なお、
図6(c)に示すように、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さと同じ状態で形成されるか又は
図7に示すように繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さよりも厚い状態で形成されるかは、超音波加工によって金型(32)が基材(2)を加圧する際に、金型(32)の表面(第1の凸部(32A)の凸形状の表面)が、金型(32)と接触する側の熱可塑性樹脂層(12)をどこまで押し上げるかによるもので、
図7に示すように、金型(32)と接触する側の熱可塑性樹脂層(12)を基材(2)の表面まで押し上げる場合に、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さよりも厚い状態で形成される。一方、
図6(c)に示すように、金型(32)と接触する側の熱可塑性樹脂層(12)が基材(2)の表面まで押し上げられない場合には、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さと同じ状態で形成される。
【0044】
超音波加工によって形成した本発明の偽造防止媒体(1)を作製する方法による効果は、金型(32)に設けた第1の凸部(32A)及び第2の凸部(32B)の図柄がそのまま基材(2)に再現されることから、位置精度よく開口部(11)と透かし模様(15)を形成することができる。また、本発明のように超音波加工によって開口部(11)及び窓(10)を形成する場合、開口部(11)の輪郭が不規則になることがなく、繊維の密度の高い領域(S)によって、窓(10)の認証性を高めることができる。また、特許文献2の技術において、円網上で開口部と透かし模様を形成する場合、穴が開いた紙基材を取り扱うことから破れやすく、フィルムを積層するまでの間、基材の取扱いに注意する必要があったが、本発明の偽造防止媒体(1)を作製する方法によれば、一度の加工により、開口部(11)と窓(10)を形成することから、基材(2)の取扱性の問題がない。
【0045】
(開口部の形状)
本発明において、基材(2)に形成される開口部(11)の数、すなわち窓(10)の数は、
図1に示すように、一つだけ設けてもよく、
図8に示すように、複数設けてもよい。また、本発明の第1の実施の形態において開口部(11)の形状は、「円形状」に限定されるものではなく、
図9(a)に示すような「星型」、
図9(b)に示すような「数字」、
図9(c)に示すような「文字」等であってもよい。また、
図9(a)から
図9(c)までに示すように、開口部(11)によって図柄を形成する構成とは異なり、
図9(d)に示すように、開口部(11)を設けることで残った基材(2)によって、図柄を形成してもよく、
図9(d)は、「JAPAN」の文字の背景を開口部(11)とし、残った基材(2)によって、「JAPAN」の文字を形成した例を示している。
【0046】
(透かし模様の形状)
本発明において、透かし模様(15)の形状は、
図1に示す「ドーナツ形状」に限定されるものではなく、文字、数字、記号、マーク等の他の模様であってもよい(図示せず)。また、基材(2)に透かし模様(15)を形成する領域は、熱可塑性樹脂層(12)が積層された領域に限定されるものではなく、基材(2)自体に直接、超音波加工を行って、透かし模様(15)を形成してもよいし、これらの複数の領域に形成してもよい。また、透かし模様(15)は、金型(32)が備える第2の凸部(32B)の高さ(h2)を部分的に異ならせることで、基材(2)の厚さが部分的に異なって成る透かし模様(15)を形成してもよく、この場合、透過光下で基材(2)の厚さの差によって濃淡が生じ、階調のある透かし模様(15)が視認できる。
【0047】
(窓と透かし模様による合成模様)
本発明の偽造防止媒体(1)において、透かし模様(15)と窓(10)の形状によって合成模様を形成してもよく、それらの一例について説明する。
図10(a)は、合成模様が「三角形」であって、透かし模様(15)が合成模様の一部である「下側の台形」を構成し、窓(10)が残りの一部を構成した例である。
図10(b)は、合成模様が「100」の文字であって、窓(10)が合成模様の一部である「1」の文字を構成し、透かし模様(15)が残りの文字である「00」を構成した例である。
図10(c)は、合成模様として、透かし模様(15)を「星型」の形状とし、その輪郭を窓(10)の形状として施した例である。なお、窓(10)が「星型」の形状であって、その輪郭を透かし模様(15)の形状として施してもよい(図示せず)。
図10(d)は、合成模様が「5枚の桜の花びら」であって窓(10)が、「3枚の桜の花びら」を構成し、透かし模様(15)が「2枚の桜の花びら」を構成した例である。この形態において合成模様とは、一つの有意な情報が、別々に形成された透かし模様(15)と窓(10)によって構成された一つの模様のことであり、合成模様が現す情報は、
図10に示す図柄や文字等に限定されるものではない。ここでは、
図10(a)から
図10(d)に示す合成模様の例について説明したが、窓(10)と、熱可塑性樹脂(12)が積層されていない基材(2)に形成された透かし模様(15)によって合成模様を形成してもよい。
【0048】
続いて、開口部(11)、すなわち窓(10)の形状の変形例について説明する。
図11(a)は、開口部(11)の形状の変形例を示す平面図であり、
図11(a)に示す開口部(11)は、基材(2)の一部を囲む形状で形成されることが特徴である。以降の説明では、開口部(11)によって囲まれた基材を符号「2’」として説明する。なお、開口部(11)の形状に、特に限定はないが、ここでは、
図11に示すように、「ドーナツ形状」で構成され、基材(2)の一部を「円形状」で囲む形状とした例について説明する。また、開口部(11)の形状の変形例において、透かし模様(15)は、
図11に示すように、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)に「星型」の形状で形成された例について説明するが、透かし模様(15)が形成される位置は、前述のように、熱可塑性樹脂層(12)が積層されていない基材(2)自体に直接、形成してもよいし、開口部(11)の外側で隣接する基材(2)と熱可塑性樹脂層(12)が重なる領域に形成してもよい。
【0049】
図11(b)は、
図11(a)のA-A’線における断面図である。
図11(a)に示す構成において、窓(10)は、基材(2)の一部が貫通して孔が開いた状態の開口部(11)が、熱可塑性樹脂層(12)によって覆われることで形成される。また、
図11(a)の平面図において、開口部(11)によって囲まれる基材(2’)は、
図11(b)の断面図では、熱可塑性樹脂層(12)によって囲まれた状態となっている。
【0050】
図12は、
図11に示す「ドーナツ形状」の開口部(11)及び「星型」の透かし模様(15)を形成するための金型(32)の構成を示す図であり、
図12(a)は、金型(32)の斜視図、
図12(b)は、
図12(a)のB-B’線における断面図である。
図12(a)及び
図12(b)に示すように、金型(32)は、「ドーナツ形状」の開口部(11)を形成するために、凸形状で構成された第1の凸部(32A)と、「ドーナツ形状」で囲まれた「円形状」の基材(2’)を形成するために、凹形状で構成された領域(32a)と、「星型」の透かし模様(15)を形成するために、凸形状で構成された第2の凸部(32B)から成る。なお、
図12(a)に示すように、凸形状の第1の凸部(32A)は、開口部(11)の「ドーナツ形状」に対応した形状であり、凹形状の領域(32a)は、開口部(11)によって囲まれる「円形状」(「星型」の透かし模様を除く。)に対応した形状である。「円形状」の基材(2’)が「ドーナツ形状」の開口部(11)によって囲まれることから、金型(32)において凹形状の領域(32a)は、凸形状の第1の凸部(32A)に囲まれた構成となっている。
【0051】
また、超音波加工機(30)に用いる金型(32)は、基材(2)に開口部(11)を設けるために、
図12(b)に示す第1の凸部(32A)の高さ(h1)は、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)と基材(2)の厚さの和と同じにすればよい。なお、前述のように、第1の凸部(32A)の高さ(h1)が、金型(32)が接触する側の熱可塑性樹脂層(12)と基材(2)の厚さの和と異なる場合であっても、超音波加工の際の圧力を調整することで、開口部(11)及び窓(10)を形成することもできる。
【0052】
図13は、
図12に示す金型(32)を用いた超音波加工により、窓(10)及び透かし模様(15)が形成される状態を模式的に示す図である。超音波加工を行うと、
図13(a)の拡大図に示すように、凸形状の第1の凸部(32A)に対応した基材(2)、詳細には、凸形状の第1の凸部(32A)と接触する熱可塑性樹脂層(12)の上の基材(2)においては、ホーン(31)からの超音波振動と、下降による加圧により、元々、基材(2)を構成していた繊維が、第1の凸部(32A)の輪郭に沿って外側へ寄せられることで、第1の凸部(32A)に応じた開口部(11)が形成されるとともに、開口部(11)の領域において基材(2)の表裏に積層されていた熱可塑性樹脂層(12)は、熱圧着した場合と同じように接着された状態となり、窓(10)が形成される。また、凸形状の第2の凸部(32B)に対応した基材(2)、詳細には、凸形状の第2の凸部(32B)と接触する熱可塑性樹脂層(12)の上の基材(2)においても、超音波加工によって同様な作用が生じるが、第2の凸部(32B)の高さ(h2)が、第1の凸部(32A)より低いことから、基材(2)が貫通することなく、基材(2)の厚さが薄くなって凹形状の透かし模様(15)が形成される。また、凹形状の領域(32a)に対応した基材(2)、詳細には、凹形状の領域(32a)と接触する熱可塑性樹脂層(12)の上の基材(2)は、超音波加工が行われないことで、そのまま残った状態となり、
図13(b)に示すように、開口部(11)によって挟まれた基材(2’)が形成される。また、凸形状の第1の凸部(32A)と接触する熱可塑性樹脂層(12)は、
図12(b)に示す金型(32)の凹凸に沿って加工されることで、
図13(b)に示すような基材(2’)を囲んだ状態に加工される。
【0053】
なお、凸形状の第1の凸部(32A)の外側とは、
図13(a)の拡大図に示すように、詳細には、凸形状の第1の凸部(32A)の外径に対しては外側であり、内径に対しては内側である。したがって、「ドーナツ形状」の開口部(11)を形成した場合には、
図11(a)に示すように、「ドーナツ形状」の外径の輪郭部分と、内径の輪郭部分に、繊維の密度の高い領域(S)が形成される。前述のように、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)においても、超音波加工により繊維が寄せられた領域の範囲(T)を、100μm以上形成すると、窓(10)の輪郭として認証性が高まることから好ましい。
【0054】
また、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)においても、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)が、周りの基材(2)の厚さよりも厚いことで、熱可塑性樹脂層(12)が盛り上がると、立体的にも窓(10)の形状を視認できることから好ましい。なお、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)においても、繊維の密度が高い領域(S)の厚さ(H)は、立体的な視覚効果を得るために、基材(2)に対して20μm以上厚いことが好ましく、流通適正を考慮すると50μm以下とするのが好ましい。
【0055】
以上の説明では、開口部(11)の形状が「ドーナツ形状」で構成され、基材(2)の一部を「円形状」で囲む形状とした例について説明したが、開口部(11)によって囲まれる基材(2’)の形状は、「円形状」に限定されるものではなく、
図14(a)に示すような「星型」、
図14(b)に示すような「数字」、又は他の文字、記号、図形等であってもよい。また、
図14(c)に示すように、開口部(11)の外形と、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)を相似形状の関係で形成してもよい。また、
図14(d)に示すように、開口部(11)と開口部(11)によって囲まれた基材(2’)によって、一つの文字を構成してもよい。また、
図14(e)に示すように、開口部(11)によって囲まれる基材(2’)を二つ設けてもよく、更に多くの基材(2’)を設けてもよい(図示せず)。また、
図14(f)に示すように、開口部(11)によって囲まれる基材(2’)(「P」の文字)の内側に、更に開口部を備えていてもよい。なお、
図14(a)から
図14(f)は、開口部(11)の形状の他の例を示したもので、透かし模様(15)は図示していないが、透かし模様(15)を形成する領域は、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂層(12)が積層された領域又は基材(2)自体に透かし模様(15)を形成してもよいし、これらの複数の領域に形成してもよい。
【0056】
また、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)、透かし模様(15)及び窓(10)の形状によって、合成模様を形成してもよく、
図15(a)は、合成模様が「100」の文字であって、透かし模様(15)によって「1」の文字を現し、窓(10)と、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)によって「00」の文字を現した例である。また、
図15(b)は、合成模様が「100」の文字であって、窓(10)が「100」の文字の背景を構成し、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)の一部によって「1」の文字を現し、開口部(11)によって囲まれた残りの基材(2’)と透かし模様(15)によって「00」の文字を現した例である。ここでは、
図15に示す「100」の文字の合成模様の例について説明したが、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)、透かし模様(15)及び窓(10)の形状によって構成される合成模様は、これに限定されるものではない。
【0057】
また、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)は、
図16(a)に示すように、網点印刷物の原理と同様にして、濃淡差のある画像を形成してもよく、この場合、
図16(a)の拡大図に示すように、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)の面積率によって、画像の濃淡を表現することができる。また、
図16(b)に示すように、彩紋模様を形成してもよい。
【0058】
また、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)に相当する領域に、あらかじめ紙の製造工程で円網、ダンディロールによる抄き入れ加工により、白透かし、黒透かし又はそれらを組み合わせた透かしを形成してもよい。また、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)に相当する領域に、あらかじめ印刷により模様を形成してもよい。
【0059】
(効果)
開口部(11)、すなわち窓(10)の形状の変形例の構成を備えた偽造防止媒体(1)は、窓(10)を認証することで、真偽判別が可能であることに加えて、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)又はそれによる模様を認証することでも、真偽判別を行うことができる。また、窓(10)の形状の変形例の構成を備えた偽造防止媒体(1)においても、超音波加工による一つの工程により、透かし模様(15)と窓(10)の作製ができることから、製造性に優れる。
【0060】
また、開口部(11)、すなわち窓(10)の形状の変形例の構成を備えた偽造防止媒体(1)は、開口部(11)、すなわち窓(10)によって囲まれた基材(2’)を備えることから、偽造をより困難にする効果がある。これは、基材(2)から切り取った基材(2’)を窓(10)に囲まれた位置に配置する際に精度を要するためであり、基材(2’)の形状が複雑であるほど、例えば、
図16(a)及び
図16(b)に示すように、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)を複数設け、かつ、基材(2’)の配置に高度な精度を要する構成とすることで偽造の困難性を向上させることができる。また、本発明の製造方法によれば、窓(10)、窓(10)によって囲まれた基材(2’)及び透かし模様(15)を位置精度よく形成することができ、偽造をより困難にする効果がある。また、
図15に示すような開口部(11)によって囲まれた基材(2’)、透かし模様(15)及び窓(10)の位置精度を要する構成についても、容易に加工することができる。
【0061】
また、以上に説明した偽造防止媒体(1)において、熱可塑性樹脂層(12)が積層された部分と基材(2)に凹凸差が生じる(
図2及び
図7)が、積層形態や流通時の耐久性を考慮して、熱可塑性樹脂層(12)の表面が、
図17(a)に示すように基材(2)の表面と同じ構成か又は
図17(b)に示すように、基材(2)の表面より低い位置に積層する構成でもよい。この場合、熱可塑性樹脂層(12)の厚さに応じて、あらかじめ基材(2)に凹部を形成した後、熱可塑性樹脂層(12)を積層すればよい。なお、凹部を形成する手段としては、レーザ加工によって基材(2)を切削する方法や、公知の抄き入れ加工を用いることができる。
【0062】
また、以上に説明した偽造防止媒体(1)において、特願2019-469号公報に記載の構成と同様に、窓(10)の視認性を向上させるための輪郭部を、印刷材料や金属箔によって形成してもよい。
【0063】
また、以上に説明した偽造防止媒体(1)において、特願2019-469号公報に記載の構成と同様に、基材(2)と熱可塑性樹脂層(12)の間に金属層を積層した状態で超音波加工を施して窓(10)を形成してもよく、超音波加工による振動により、基材(2)を構成する繊維とともに金属層を金型(32)の端に寄せることで窓(10)を形成することができる。この構成において、Al、Cu、Au、Ni等の光を遮断する材料の場合、透かし模様(15)は、金属層が積層されていない領域に形成する必要があるが、TiO2、ZnSのような光透過性のある材料の場合、金属層と重なる領域に透かし模様(15)を形成してもよい。
【0064】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した偽造防止媒体(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
実施例1は、基材(2)の表裏にフィルムを積層して超音波加工を行って窓(10)を形成した例である。以下、実施例1の偽造防止媒体(1)の詳細について説明する。
【0066】
はじめに、熱可塑性樹脂層積層工程(S1)として、基材(2)に厚さ100μm、坪量80g/m2の茶色の紙を用い、基材(2)の表裏へ、熱可塑性樹脂層(12)として、厚さ55μmのPPフィルム(パイレン 東洋紡株式会社)を貼付した。
【0067】
超音波加工機(日本アビオニクス株式会社製 W5080 スタンプ式)(30)に用いる金型(32)は、アルミ合金製(JIS A 7075)であり、金型(32)の高さ(h)が、500μmのものを用いた。また、金型(32)の凸形状の第1の凸部(32A)のデザインは、
図4(a)に示すとおりであり、直径10mmの「円形状」とした。また、凸形状の第2の凸部(32B)のデザインは、
図4(a)に示すとおりであり、幅500μm、直径20mmの「ドーナツ形状」とした。そして、超音波加工工程(S2)として、加工条件を圧力0.3MPa、加工時間0.3秒、振幅40μmとして超音波加工を行って、
図1に示す「円形状」の窓(10)と「ドーナツ形状」の透かし模様(15)を備えた偽造防止媒体(1)を作製した。
【0068】
図18は、偽造防止媒体(1)の窓(10)が形成された領域の断面図である。
図18に示すように、基材(2)自体は、繊維同士の間に空隙が見られるが、窓(10)の輪郭部分では、超音波加工により、繊維が寄せられることで空隙が少ない状態であり、部分的に密度が高い状態となっていた。超音波加工により形成された窓(10)の輪郭に沿って繊維が寄せられた領域の範囲(T)は、700μmであり、繊維の密度が高い領域の厚さ(H)は、300μmで周囲の基材(2)よりも厚い状態であった。
【0069】
実施例1の偽造防止媒体(1)を反射光下で観察すると、窓(10)の輪郭が、周囲の基材(2)より厚いことで、立体的にも窓(10)の形状を視認することができた。また、透かし模様(15)は、反射光下で視認することができないが、透過光下で観察した際に、「ドーナツ形状」の図柄が周囲の基材(2)より明るくなって視認することができた。また、窓(10)の輪郭に沿って繊維の密度が高まったことで、黒透かしのような外観となり、透過光下でも窓(10)の視認性が高まることが確認できた。
【0070】
(実施例2)
実施例2は、実施例1の偽造防止媒体(1)に対して、窓(10)と透かし模様(15)により合成模様を形成した構成である。合成模様は、
図19に示すように、「鳳凰」の図柄であり、窓(10)によって「胴体と羽根の一部」を構成し、透かし模様(15)によって「羽根の一部」を構成した。なお、第1の凸部(32A)の高さ(h1)は、500μmとし、第2の凸部(32B)の高さ(h2)は、400μmとし、実施例1と同じ加工条件で超音波加工を行った。
【0071】
実施例2の偽造防止媒体(1)を反射光下で観察すると、窓(10)による「胴体と羽根の一部」のみ視認することができた。また、透過光下で観察すると、窓(10)と透かし模様(15)が合成されて「鳳凰」の図柄を視認することができた。
【0072】
(実施例3)
実施例3は、窓(10)の形状の変形例として、
図14(a)に示す開口部(11)によって囲まれた基材(2’)を備え、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)に透かし模様(15)を形成した偽造防止媒体(1)の例である。なお、基材(2)及び熱可塑性樹脂層(12)の構成については、実施例1と同じであるため、説明を省略する。
【0073】
超音波加工に用いる金型(32)は、凸形状の第1の凸部(32A)は、
図14(a)に示す「星型」に対応した形状で高さ(h1)は、500μmであり、凸形状の第1の凸部(32A)と凹形状の領域(32a)の高低差が、70μmのものを用いた。また、第2の凸部(32B)の高さ(h2)は、430μmとした。そして、超音波加工工程(S2)として、加工条件を圧力0.3MPa、加工時間0.3秒、振幅25μmとして超音波加工を行って、
図14(a)に示す形状の窓(10)を備えた偽造防止媒体(1)を作製した。実施例3のように、開口部(11)によって囲まれた基材(2’)を形成する場合においても、超音波加工機(30)を用いた一度の加工により、容易に窓(10)を形成することができた。
【符号の説明】
【0074】
1 窓を有する偽造防止媒体、偽造防止媒体
2 基材
2’ 開口部によって囲まれた基材
10 窓
11 開口部
12 熱可塑性樹脂層
15 透かし模様
20 輪郭部
21 輪郭要素
30 超音波加工機
31 ホーン
32 金型
32A 第1の凸部
32a 凹形状の領域
32B 第2の凸部
33 アンビル
34 台座
S 繊維の密度が高い領域
H 繊維の密度が高い領域の厚さ