(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 59/00 20060101AFI20230106BHJP
C08K 5/25 20060101ALI20230106BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20230106BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/25
C08K5/3445
C08K5/098
(21)【出願番号】P 2018239103
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 章宏
(72)【発明者】
【氏名】原科 初彦
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/044917(WO,A1)
【文献】特開2005-163019(JP,A)
【文献】特開2008-031348(JP,A)
【文献】特開2008-156489(JP,A)
【文献】特開2008-260874(JP,A)
【文献】特開2015-078387(JP,A)
【文献】特開2017-082098(JP,A)
【文献】特開2003-192812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
(A)ポリアセタール重合体100質量部、
(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジド
0.05~
0.35質量部、
(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物
0.005~
0.45質量部、
(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩
0.005~
0.20質量部、
とを含有してなり、
前記(B)は、セバシン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、またはドデカン二酸ジヒドラジドであり、
前記(B)と(C)の合計量が、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して
0.06~
0.5質量部であるポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩が、ステアリン酸カルシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1種である請求項
1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物が、1,3-ビス(ヒドラジノカルボ
ニルエチル)-5-イソプロピルヒダントインである請求項1
または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた加工性及び安定性を有し、その成形品からのホルムアルデヒド発生量が著しく抑制され、かつ、安定的に成形時のモールドデポジットが抑制されたポリアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は優れた諸特性を有し、その成形品は広汎な分野に利用されているが、その化学構造上の特徴から、加熱酸化雰囲気下や、酸性或いはアルカリ性条件下では分解されやすいという性質を有する。その為、ポリアセタール樹脂の課題として、熱安定性を高くし、成形加工過程又は成形品からのホルムアルデヒドの発生を抑制することが挙げられる。熱安定性が低いと、押出又は成形などの加工工程において加熱によりポリマーが分解し、金型への付着物(モールドデポジット)が発生したり、成形性や機械的物性などが低下したりする。
【0003】
また、通常の使用条件下においてポリアセタール樹脂成形品から発生するホルムアルデヒドは極めて微量であるが、発生したホルムアルデヒドは化学的に活性であり、酸化により蟻酸となってポリアセタール樹脂の耐熱性に悪影響を及ぼしたり、電気・電子機器の部品などに用いると、ホルムアルデヒド或いはその酸化物である蟻酸により金属製接点部品が腐蝕したり、有機化合物の付着により変色や接点不良を生じる要因になる場合がある。
【0004】
そこで、ポリアセタール樹脂を安定化させるため、酸化防止剤やその他の安定剤が配合されている。ポリアセタール樹脂に添加される酸化防止剤としては、立体障害を有するフェノール化合物(ヒンダードフェノール)、立体障害を有するアミン化合物(ヒンダードアミン)などが知られており、その他の安定剤として、メラミン、ポリアミド、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物などが使用されている。また、通常、酸化防止剤は他の安定剤と組み合わせて用いられる。
【0005】
しかしながら、このような汎用的な安定剤を通常のホルムアルデヒド品質を有するポリアセタール樹脂に配合しただけでは、発生するホルムアルデヒド、特に、成形品から発生するホルムアルデヒドを大幅に低減させることは困難である。さらに、上記のような問題を解決しホルムアルデヒドの発生量を低減させるため、種々の化合物を配合したポリアセタール樹脂組成物が開示されている。
【0006】
例えば、特定末端基のポリアセタール樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒドラジド化合物およびイソシアネート化合物を併用する技術が開示されている(特許文献1)。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒドラジド化合物および特定カルボン酸のアルカリ土類金属塩を共存させる技術も開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-286874号公報
【文献】特開2006-45489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの文献1に開示された技術によれば、ポリアセタール樹脂成形時のモールドデポジットをかなりのレベルで低減することが可能である。しかしながら、モールドデポジットを低減するためには有効ではあるが、ホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できていないのが実情であった。
また、文献2に開示された技術によれば、ホルムアルデヒド発生の抑制効果は発現されるものの、モールドデポジット抑制効果が不十分であり、安定的な成形技術ではなかった。
【0009】
本発明の目的は、成形品からのホルムアルデヒドの発生を極めて低レベルに抑制でき、かつ、安定的に成形時のモールドデポジットが抑制されたポリアセタール樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記によって達成された。
【0011】
1. 少なくとも
(A)ポリアセタール重合体100質量部、
(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジド0.01~0.50質量部、
(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物0.001~0.50質量部、
(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩0.001~0.30質量部、
とを含有してなり、
前記(B)と(C)の合計量が、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して0.03~0.55質量部であるポリアセタール樹脂組成物。
2. 前記(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジドが、セバシン酸ジヒドラジドである前記1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
3. 前記(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩が、ステアリン酸カルシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1種である前記1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
4. 前記(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物が、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインである前記1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホルムアルデヒドの発生量が著しく低減され、かつ、安定的に成形時のモールドデポジットが抑制されたポリアセタール樹脂組成物、及び、成形品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<(A)ポリアセタール重合体>
本発明に使用される(A)ポリアセタール重合体は、オキシメチレン基(-OCH2-)を構成単位とするホモポリマーでもよいし、オキシメチレン単位以外に他のコモノマー単位を有する共重合体であってもよく、共重合体であることが好ましい。
【0014】
一般的にはホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状化合物を主モノマーとし、環状エーテルや環状ホルマールから選ばれた化合物をコモノマーとして共重合させることによって製造され、通常、熱分解、(アルカリ)加水分解等によって末端の不安定部分を除去して安定化される。
【0015】
特に、主モノマーとしてはホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを用いるのが一般的である。トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることにより得られ、これを蒸留などの方法で精製して使用される。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノール、蟻酸などの不純物の含有量が極力少ないものが好ましい。
コモノマーとしては、一般的な環状エーテル及び環状ホルマール、また分岐構造や架橋構造を形成可能なグリシジルエーテル化合物などを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0016】
上記の如きポリアセタール共重合体は、一般には適量の分子量調整剤を添加し、カチオン重合触媒を用いてカチオン重合することにより得ることができる。使用される分子量調整剤、カチオン重合触媒、重合方法、重合装置、重合後の触媒の失活化処理、重合によって得られた粗ポリアセタール共重合体の末端安定化処理法などは多くの文献によって公知であり、基本的にはそれらが何れも利用できる。
【0017】
本発明で使用するポリアセタール共重合体の分子量は特に限定されないが、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)法にて決定したPMMA(ポリメタクリル酸メチル)相当の重量平均分子量が10,000~400,000程度のものが好ましい。また、樹脂の流動性の指標となるメルトインデックス(ASTM-D1238に準じ、190℃、荷重2.16kgで測定)が0.1~100g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは0.5~80g/10分である。
【0018】
本発明において使用する(A)ポリアセタール重合体は、特定の末端特性を有していることが特に好ましい。具体的には、ヘミホルマール末端基量が1.0mmol/kg以下、ホルミル末端基量が0.5mmol/kg以下、不安定末端量が0.5質量%以下である。ここでヘミホルマール末端基は-OCH2OHで示されるものであり、ヒドロキシメトキシ基あるいはヘミアセタール末端基とも称される。また、ホルミル末端基は-CHOで示される。このようなヘミホルマール末端基およびホルミル末端基の量は1H-NMR測定により求めることができ、その具体的な測定方法は、特開2001-11143号公報に記載された方法を参照できる。
【0019】
また、不安定末端量とは、ポリアセタール重合体の末端部分に存在し、熱や塩基に対して不安定で分解し易い部分の量を示す。かかる不安定末端量は、ポリアセタール共重合体1gを、0.5%(体積%)の水酸化アンモニウムを含む50%(体積%)メタノール水溶液100mlとともに耐圧密閉容器に入れ、180℃で45分間加熱処理した後、冷却し、開封して得られる溶液中に分解溶出したホルムアルデヒド量を定量し、ポリアセタール共重合体に対する質量%で表したものである。
【0020】
本発明において用いる(A)ポリアセタール重合体は、ヘミホルマール末端基量が1.0mmol/kg以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.6mmol/kg以下である。またホルミル末端基量は0.5mmol/kg以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.1mmol/kg以下である。また不安定末端量は0.5質量%以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.3質量%以下である。ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、不安定末端量の下限は特に限定されるものではない。
【0021】
前記の如く特定の末端特性を有する(A)ポリアセタール重合体は、モノマー及びコモノマーに含まれる不純物の低減、製造プロセスの選択およびその製造条件の最適化などを行うことにより製造できる。
【0022】
以下に本件の発明の要件を満たす特定の末端特性を有する(A)ポリアセタール重合体を製造する方法は、例えば特開2009-286874号公報記載の方法を使用することができる。ただし、この方法に限定されるものではない。
【0023】
本発明において、(A)ポリアセタール重合体に分岐又は架橋構造を有するポリアセタール樹脂を添加して使用してもよく、その場合配合量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対し0.01~20質量部であり、特に好ましくは0.03~5質量部である。
【0024】
<(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジド>
本発明において使用する(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジドとしては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、等が挙げられる。好ましくは、セバシン酸ジヒドラジドが挙げられ、ホルムアルデヒドを捕捉し、更にヒダントイン系ヒドラジドと併用することで本来発生するモールドデポジットを著しく抑えることができる。
【0025】
本発明において、(B)の添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して0.01~0.50質量部であり、好ましくは0.02~0.30質量部である。
【0026】
<(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物>
本発明の(C)2つのヒドラジノカルボニルアルキル基を有するヒダントイン化合物(以下、ヒダントイン化合物と略すこともある)としては、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)ヒダントイン、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-メチルヒダントイン、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5、5-ジメチルヒダントイン、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等が挙げられ、ヒダントインの5位には1又は2つの置換基(メチル基などの直鎖又は分岐鎖状炭素数1~6のアルキル基、フェニル基などの炭素数6~10のアリール基など)を有していてもよく、5位の2つの置換基は5位の炭素原子とともに環を形成してもよい。好ましくは、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントインが用いられる。
この本発明の(C)ヒダントイン化合物は、本発明の(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジドと併用することによって、モールドデポジットを抑制する。とくに、セバシン酸ジヒドラジドとの併用で効果が大きい。
【0027】
本発明において(C)ヒダントイン化合物の添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して0.001~0.50質量部であり、好ましくは0.01~0.30質量部である。
また本発明において(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジドと(C)ヒダントイン化合物の両方が含有されていれば本発明の効果が得られるが、合計量として、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して、0.03~0.55質量部であることが好ましい。そして(B)と(C)の含有質量比は(B):(C)=10:90~99:1であることが好ましい。
【0028】
<(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩>
本発明の(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩を構成する脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族カルボン酸であってもよく、不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。このような脂肪族カルボン酸としては、炭素数10以上の1価又は2価の脂肪族カルボン酸、例えば、炭素数10以上の1価の飽和脂肪族カルボン酸[カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の炭素数10~34飽和脂肪族カルボン酸(好ましくは炭素数10~30飽和脂肪族カルボン酸)等]、炭素数10以上の1価の不飽和脂肪族カルボン酸[オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸等の炭素数10~34不飽和脂肪族カルボン酸(好ましくは炭素数10~30不飽和脂肪族カルボン酸)等]、炭素数10以上の2価の脂肪族カルボン酸(二塩基性脂肪族カルボン酸)[セバシン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、タプシア酸等の2価の炭素数10-30飽和脂肪族カルボン酸(好ましくは2価の炭素数10~20飽和脂肪族カルボン酸)等]、炭素数10以上の2価の不飽和脂肪族カルボン酸[デセン二酸、ドデセン二酸等の2価の炭素数10~30不飽和脂肪族カルボン酸(好ましくは2価の炭素数10~20不飽和脂肪族カルボン酸)等]が例示できる。
【0029】
また、上記の脂肪族カルボン酸には、その一部の水素原子がヒドロキシル基等の置換基で置換され、分子内に1又は複数のヒドロキシル基等を有する脂肪族カルボン酸(例えば、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ飽和炭素数10~26脂肪族カルボン酸等)も含まれ、また精製の精度により炭素数が若干相違する脂肪族カルボン酸も含まれるものである。
【0030】
本発明においてアルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムが好ましく、特にカルシウムが好ましい。
本発明において、特に好ましい脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩は、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムである。
【0031】
ポリアセタール樹脂組成物中の脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩の添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して、0.001質量部~0.30質量部であり、好ましくは0.01~0.25質量部である。
【0032】
<(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
本発明においては、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を通常の酸化防止剤として使用することができる。一般的に使用される単環式ヒンダードフェノール化合物、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物などが挙げられ、具体的には、特開2009-286874号公報記載の化合物、IRGANOX1010、同1035、同1076、同1098、同1135、同1330、同1425、同245、同259、同565、同3114等(以上製品名、BASFジャパン社製)等、市販の化合物を使用することができる。
【0033】
これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対して0.01~3質量部である。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、さらに、熱安定性、長期熱安定性等を向上させるために、金属酸化物、金属水酸化物から選ばれた化合物を添加することが可能である。その添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対し、0.01~1質量部が好ましい。
【0035】
金属酸化物、金属水酸化物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが好ましい。
【0036】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、さらに、成形加工性等を向上させるために、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸アミド、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーン化合物から選ばれた少なくとも一種の離型剤を添加することが可能であり好ましい。その添加量は、(A)ポリアセタール重合体100質量部に対し、0.01~1質量部が好ましい。
【0037】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、本発明を阻害しない限り、必要に応じて、さらに、耐侯(光)安定剤、耐衝撃性改良剤、光沢性制御剤、摺動性改良剤、充填剤、着色剤、核剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、抗カビ剤、芳香剤、発泡剤、相溶化剤、物性改良剤(ホウ酸又はその誘導体など)、香料などを一種または二種以上配合することができる。
【0038】
本発明のポリアセタール樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、樹脂組成物の調製法として従来から知られた各種の方法により調製することができる。例えば、(1)組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法などが採用できる。
【0039】
押出機を用いた組成物の調製においては、一カ所以上の脱揮ベント口を有する押出機を用いるのが好ましく、さらに、主フィード口から脱揮ベント口までの任意の場所に水や低沸点アルコール類をポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1~10質量部程度供給し、押出工程で発生するホルムアルデヒド等を水や低沸点アルコール類と共に脱揮ベント口から脱揮除去するのが好ましい。これにより、ポリアセタール樹脂組成物およびその成形品から発生するホルムアルデヒド量をさらに低減することができる。
【0040】
このようにして調製された本発明のポリアセタール樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、吹き込み成形、発泡成形等、従来から知られた各種の成形方法によって成形することができる。
【0041】
本発明には、前記ポリアセタール樹脂組成物及び上記による着色されたポリアセタール樹脂組成物からなる成形品のリサイクルも含まれる。具体的には、これらの樹脂組成物からなる成形品又はその粉砕物を、単独で、或いは同一又は異なる組成の樹脂材料又は成形品と共に、溶融混練し押出してなるリサイクル樹脂組成物、及び、これらの樹脂組成物からなる成形品又はその粉砕物を、単独で、或いは同一又は異なる組成の樹脂材料又は成形品と共に、溶融混練し成形してなるリサイクル成形品である。
【0042】
このように、溶融熱履歴の繰返しを受けて調製されたリサイクル樹脂組成物及びリサイクル成形品も、それらの基になるポリアセタール樹脂組成物と同様に、ホルムアルデヒド発生量が極めて低レベルに保持されたものである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」はすべて質量部を表す。また、実施例及び比較例において評価した諸特性及びその評価方法は以下の通りである。表1、2に記載の数値の単位は、質量部である。
【0044】
表1、2に示す各種成分を表1、2に示す割合で添加混合し、ベント付き二軸の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。
なお、全ての試料において、溶融混錬の際に(A)ポリアセタール重合体成分100質量部に対して(E)エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert―ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](BASFジャパン社製 IRGANOX245)0.35質量部を添加した。
実施例で使用した表1、2に記載の各成分は以下のものである。
・(A)ポリアセタール重合体
a-1:トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体(メルトインデックス(190℃,荷重2160gで測定):27g/10min)
・(B)脂肪族カルボン酸ヒドラジド化合物
b-1:セバシン酸ジヒドラジド
b-2:アジピン酸ジヒドラジド
b-3:ドデカン二酸ジヒドラジド
・(C)ヒダントイン化合物
c-1:1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(味の素ファインテクノ社製 「アミキュア」VDH)
・(D)脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩
d-1:ステアリン酸カルシウム
d-2:12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム
【0045】
<評価>
実施例における特性評価項目及び評価方法は以下の通りである。
【0046】
<成形品からのホルムアルデヒド発生量(VOC)評価>
実施例及び比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、下記条件で平板状試験片(100mm×40mm×2mmt)を成形した。この平板状試験片2枚を、10Lのポリフッ化ビニル製サンプリングバッグに封入し脱気して、4Lの窒素を入れ、65℃で2時間加熱した後、サンプリングバッグ内の窒素を0.5ml/minで3L抜き取り、発生したホルムアルデヒドをDNPH(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)捕集管(Waters社製 Sep―Pak DNPH―Silica)に吸着させた。
【0047】
その後、DNPH捕集管からDNPHとホルムアルデヒドとの反応物をアセトニトリルで溶媒抽出し、高速液体クロマトグラフでDNPHとホルムアルデヒドとの反応物の標準物質を用いた検量線法により、発生したホルムアルデヒド量を求め、試験片単位質量あたりのホルムアルデヒド発生量(μg/g)を算出した。
【0048】
*成形機:FANUC ROBOSHOT α―S100ia (ファナック(株))
*成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1- C2- C3
190 190 180 160℃
射出圧力 60(MPa)
射出速度 1.0(m/min)
金型温度 80(℃)
【0049】
<モールドデポジット(MD)の評価>
実施例および比較例で調製したポリアセタール樹脂組成物を用い、下記条件でモールドデポジット試験片(33mm×23mm×1mmt)を成形した。
[評価方法]
5000shot連続成形した後、金型内のキャビティ部表面を目視にて観察し、以下の基準に従って付着物量を目視で判定した。
◎:付着物は全く確認されない
○:付着物はほとんど確認されない
△:一部付着物が確認される。
×:全体に付着物が確認される
××:全体に多量の付着物が確認される
【0050】
*成形機:FANUC ROBOSHOT S-2000i 50B(ファナック(株))
*成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1-C2- C3
205 215 205 185℃
射出圧力 40(MPa)
射出速度 1.5(m/min)
金型温度 80(℃)
【0051】
【0052】
【0053】
上記の通り、本発明の組成の範囲では、ホルムアルデヒド発生量およびモールドデポジットの発生量も安定的に抑制されることが明らかである。