(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-05
(45)【発行日】2023-01-16
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、基板処理方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20230106BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230106BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20230106BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20230106BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20230106BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/31 B
H01L21/318 B
C23C16/04
C23C16/02
(21)【出願番号】P 2020163759
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 崇之
(72)【発明者】
【氏名】中川 崇
(72)【発明者】
【氏名】出貝 求
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-135112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0080904(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0168453(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0366317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/31
H01L 21/318
C23C 16/04
C23C 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
(a1)表面に第1下地と第2下地と
を有する基板に対して、
アミノ基または置換アミノ基を含む第1官能基及び
炭化水素基を含む第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤
を供給する工程と、
(a3)前記基板に対して、酸素及び水素含有物質を供給する工程と、(a2)前記基板に対して、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤
を供給する工程と、を
この順に非同時に行うことで、前記第1下地の表面を改質させる工程と、
(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に膜を形成する工程と、
を有する
基板処理方法。
【請求項2】
(a1)では、前記第1改質剤を前記第1下地の表面に吸着させ、
(a3)では、前記第1下地の表面に吸着した前記第1改質剤の一部の前記第1官能基を水酸基へ置換し、
(a2)では、前記第2改質剤を前記水酸基に吸着させる、請求項
1に記載の
基板処理方法。
【請求項3】
(a1)では、前記第1改質剤の一部を、少なくとも1つの前記第1官能基を含んだ状態で、前記第1下地の表面に吸着させる、請求項
2に記載の
基板処理方法。
【請求項4】
(a1)では、前記第1改質剤を、前記第2官能基を含んだ状態で、前記第1下地の表面に吸着させ、
(a2)では、前記第2改質剤を、前記第2官能基を含んだ状態で、前記水酸基に吸着させる、請求項
2または
3に記載の
基板処理方法。
【請求項5】
(a1)では、前記第1改質剤の一部を、前記第1下地の表面に存在し且つ隣接する2つの水酸基と、1分子の前記第1改質剤との反応を用いて、前記第1下地の表面に吸着させる、請求項
2~
4のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項6】
(a)では、(a1)と、(a3)と、を複数回繰り返す、請求項
2~
5のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項7】
(a3)では、前記基板に対して前記酸素及び水素含有物質として、H
2Oガスを供給する、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項8】
前記第1改質剤における1分子中に含まれる前記第1官能基の数が2であり、前記第2改質剤における1分子中に含まれる前記第1官能基の数が1である、請求項
1~
7のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項9】
前記第1改質剤及び第2改質剤は、いずれも、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有する、請求項
8に記載の
基板処理方法。
【請求項10】
前記第2官能基は、アルキル基を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項11】
(a)は、(a1)を行う前に、
(a4)前記基板の表面をフッ化水素水溶液に曝露する工程を更に有する、請求項
1~
10のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項12】
前記第1下地は酸化膜であり、前記第2下地は酸化膜以外の膜である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の
基板処理方法。
【請求項13】
(a)
(a1)表面に第1下地と第2下地と
を有する基板に対して、
アミノ基または置換アミノ基を含む第1官能基及び
炭化水素基を含む第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤
を供給する工程と、
(a3)前記基板に対して、酸素及び水素含有物質を供給する工程と、(a2)前記基板に対して、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤
を供給する工程と、を
この順に非同時に行うことで、前記第1下地の表面を改質させる工程と、
(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に膜を形成する工程と、
を有する
半導体装置の製造方法。
【請求項14】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して、
アミノ基または置換アミノ基を含む第1官能基及び
炭化水素基を含む第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤を供給する第1改質剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤を供給する第2改質剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して、酸素及び水素含有物質を供給する酸素及び水素含有物質供給系と、
前記処理室内の基板に対して成膜ガスを供給する成膜ガス供給系と、
前記処理室内において、(a)
(a1)表面に第1下地と第2下地と
を有する基板に対して、前記第1改質剤
を供給する処理と、
(a3)前記基板に対して、前記酸素及び水素含有物質を供給する処理と、(a2)前記基板に対して、前記第2改質剤
を供給する処理と、を
この順に非同時に行うことで、前記第1下地の表面を改質させる処理と、(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、前記成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に膜を形成する処理と、を行わせるように、前記第1改質剤供給系、前記第2改質剤供給系、
前記酸素及び水素含有物質供給系、および
前記成膜ガス供給系を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項15】
(a)
(a1)表面に第1下地と第2下地と
を有する基板に対して、
アミノ基または置換アミノ基を含む第1官能基及び
炭化水素基を含む第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤
を供給する手順と、
(a3)前記基板に対して、酸素及び水素含有物質を供給する手順と、(a2)前記基板に対して、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤
を供給する手順と、を
この順に非同時に行うことで、前記第1下地の表面を改質させる手順と、
(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に膜を形成する手順と、
をコンピュータによっ
て基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法、基板処理方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのスケーリングに伴い、加工寸法の微細化やプロセスの複雑化が進んでいる。微細且つ複雑な加工をするためには、高精度なパターニング工程を何度も繰り返す必要があり、半導体デバイス製造におけるコスト増加に繋がっている。近年、高精度かつコスト低減が期待できる手法として、選択成長が注目されている。選択成長とは、基板の表面に露出した2種類以上の下地のうち、所望の下地の表面上に選択的に膜を成長させて成膜する技術である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、選択成長を継続すると、2種類以上の下地のうち、所望の下地以外の下地の表面上においても、局所的な成膜が進行してしまうことがあり、選択性が低下してしまうことがある。
【0005】
本開示の目的は、選択成長における選択性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)表面に第1下地と第2下地とが露出した基板に対して、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤と、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤と、を供給することで、前記第1下地の表面を改質させる工程と、
(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に膜を形成する工程と、
を行う技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、選択成長における選択性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は、シリコン酸化膜(SiO膜)の表面における水酸基(OH)終端の構造の一例を示す概略図である。
図1(b)は、
図1(a)に示すSiO膜の表面に(ジアルキルアミノ)トリアルキルシランを供給した後に形成された、(ジアルキルアミノ)トリアルキルシラン由来の3つのアルキル基でカバーしきれない領域xを示す概略図である。
図1(c)は、
図1(b)に示すSiO膜の表面の領域xに成膜原料が物理吸着した状態を示す概略図である。
【
図2】
図2(a)は、SiO膜の表面におけるOH終端の構造の一例を示す概略図である。
図2(b)は、
図2(a)に示すSiO膜の表面に(ジアルキルアミノ)トリアルキルシランを供給した後、近接した2つのOH終端の一方のみに(ジアルキルアミノ)トリアルキルシランが化学吸着し、OH終端が残存した状態を示す概略図である。
図2(c)は、
図2(b)に示すSiO膜の表面に残存したOH終端に成膜原料が化学吸着した状態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を図
3のA-A線断面図で示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の一態様の選択成長における処理シーケンスの一例を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、ウエハ200が有するSiO膜の表面の化学構造を示す概略図である。
図7(b)は、
図7(a)に示すSiO膜の表面に、ビス(ジアルキルアミノ)ジアルキルシランを供給することで形成された化学構造を示す概略図である。
図7(c)は、
図7(b)に示すSiO膜の表面に、O及びH含有物質を供給することで形成された化学構造を示す概略図である。
図7(d)は、
図7(c)に示すSiO膜の表面に、(ジアルキルアミノ)トリアルキルシランを供給することで形成された化学構造を示す概略図である。
【
図8】
図8(a)~
図8(d)は、本開示の一態様の選択成長における各ステップでのウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
図8(a)は、表面に第1下地と第2下地とが露出したウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
図8(b)は、ステップAを行うことで、第1下地の表面に第3改質層を形成した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
図8(c)は、ステップBを行うことで、第2下地の表面上に膜を形成した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
図8(d)は、ステップCを行うことで、第3改質層を除去した後のウエハ200の表面における断面部分拡大図である。
【
図9】
図9は、実施例における評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、選択破れとそれに起因する選択成長における選択性の低下について、本件開示者らが得た知見に基づき、表1、
図1~
図2を参照しつつ説明する。
【0010】
なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0011】
選択成長の1つに、基板の表面に露出した特定の下地(下地Aとする)の表面における吸着サイトに優先的に化学吸着できる「インヒビター(成膜阻害剤ともいう)」を用いる手法がある。この手法の場合、インヒビターを基板に暴露することによって、下地Aの表面上での成膜を阻害し、下地A以外の下地(下地Bとする)の表面上に膜を成長させることで、選択成長が可能となる。
【0012】
インヒビターは下地Aの表面上に化学吸着すると、化学吸着したインヒビター由来の構造の化学的な安定性により、インヒビターと成膜原料との反応が抑制される。また、化学吸着したインヒビター由来の構造の立体障害によって、成膜原料が下地Aの表面に到達することを抑制することもできる。これらの結果、インヒビターが化学吸着した下地Aの表面上への成膜を阻害することができる。このように、インヒビターを用いて、特定の下地の表面を成膜阻害可能な状態に改質させる処理を「modification」と称する。本明細書では、modificationを行う目的で基板に対し供給する化合物そのものをインヒビターと称するが、modificationにより成膜阻害対象の下地の表面に化学吸着した後の化合物の残基(上記「化学吸着したインヒビター由来の構造」に相当する)をインヒビターと称することもある。すなわち、本明細書において、インヒビターという言葉を用いた場合は、「modificationを行う目的で基板に対し供給する化合物」を示す場合、「modificationにより成膜阻害対象の下地の表面に化学吸着した後の化合物の残基」を示す場合、又はそれらの両方を示す場合がある。
【0013】
しかしながら、従来のインヒビターを用いる手法では、成膜を継続すると、modificationを行った後の下地Aの表面上においても、局所的な成膜が進行してしまうことがある。本明細書において、インヒビターが化学吸着した下地A(すなわち、modificationを行った後の下地A)の表面上での局所的な成膜の進行を「選択破れ」ともいう。選択破れが生じると、modificationを行った後の下地Aの表面上での成膜量と、下地Bの表面上での成膜量と、の差が小さくなり、選択成長における選択性が低下してしまうという課題が生じる。
【0014】
選択破れは、modificationを行った後の下地の表面に成膜原料が吸着することによって生じる。ここでは、modificationでの成膜阻害の対象となる下地が「SiO膜」であり、インヒビターとして、中心原子であるSiに1つのアミノ基(ジアルキルアミノ基)と、3つのアルキル基と、が結合した構造を有する「(ジアルキルアミノ)トリアルキルシラン(以下、DAATASとも称する)」を用いた場合を一例として説明する。
【0015】
SiO膜の表面には、吸着サイトであるOH終端が存在し、OH終端は下記表1に示す3つの構造を持つことが知られている。
【0016】
【0017】
DAATASは、DAATASに含まれるアミノ基がSiO膜の表面に存在するOH終端と反応することによって、SiO膜の表面に化学吸着する。DAATASがSiO膜の表面に化学吸着する際、DAATASの中心原子であるSiは3つのアルキル基と結合した状態を維持する。なお、DAATASの中心原子であるSiとアミノ基との結合はアミノ基がOH終端と反応する際に切断される。すなわち、SiO膜の表面には、DAATAS由来の残基としてトリアルキルシリル基が結合した状態となる。トリアルキルシリル基が持つアルキル基は化学的に安定であり、成膜原料と反応しにくい性質を有する。また、3つのアルキル基による立体障害は、成膜原料がSiO膜の表面へ到達することを阻害する。これらの効果によって、DAATAS及びトリアルキルシリル基は「インヒビター」として機能することとなり、SiO膜の表面に対してのみ選択的に成膜阻害することが可能となる。
【0018】
上記のようにしてDAATASによりmodificationを行い、SiO膜の表面に対して成膜阻害することが可能な状態としたにもかかわらず、成膜原料がSiO膜の表面に吸着するメカニズム、すなわち、選択破れが生じるメカニズムとしては、下記に示す2つが挙げられる。
【0019】
1.DAATASの3つのアルキル基の立体障害によってカバーしきれなかったSiO膜の表面に成膜原料が物理吸着する。
2.DAATASが化学吸着しておらず、SiO膜の表面に残存したOH終端に成膜原料が化学吸着する。
【0020】
まず、上記1.について、
図1(a)~
図1(c)を参照しつつ説明する。ここで、
図1(a)~
図1(c)中、「R」はいずれもアルキル基を示す。また、「PG」は成膜原料(原料ガス)を示す。
【0021】
上記1.におけるSiO膜の表面への成膜原料の物理吸着は、SiO膜の表面において、表1に記載の「Isolated」のようなOH終端が存在する領域にて生じやすい。これは、
図1(a)に示すように、「Isolated」のOH終端では、隣接するOH終端同士の距離が離れているため、
図1(b)に示すように、OH終端にDAATASが化学吸着した後においても、SiO膜の表面をDAATAS由来の3つのアルキル基でカバーしきれない領域xが形成されてしまうためである。この場合、成膜時、すなわち、modificationを行った後の基板に対し成膜原料を供給する時には、
図1(c)に示すように、SiO膜の表面の領域xに成膜原料PGが物理吸着することとなり、その結果、選択破れが生じる。SiO膜の表面の領域xへの成膜原料PGの物理吸着を抑えるためには、例えば、インヒビターのアルキル基の分子サイズを大きくすることで、3つのアルキル基の立体障害による成膜阻害領域を拡大させることが考えられる。
【0022】
次に、上記2.について、
図2(a)~
図2(c)を参照しつつ説明する。ここで、
図2(a)~
図2(c)中、「R」はいずれもアルキル基を示す。また、「PG」は成膜原料(原料ガス)を示す。
【0023】
上記2.におけるSiO膜の表面に残存したOH終端と成膜原料との化学吸着は、SiO膜の表面において、表1に記載の「Vicinal」や「Germinal」などのOH終端が近接して存在する構造にて生じやすい。これは、
図2(a)に示すように、SiO膜の表面に近接した2つのOH終端がある場合、その一方にしかDAATASが化学吸着できず、
図2(b)に示すように、SiO膜の表面にOH終端が残存してしまうことに起因する。より具体的にいえば、SiO膜の表面において、近接した2つのOH終端のうち一方のOH終端にDAATASが化学吸着すると、DAATAS由来の3つのアルキル基が立体障害となり、他方のOH終端にはDAATASが化学吸着できず、
図2(b)に示すように、SiO膜の表面にOH終端が残存してしまう。この場合、成膜時、すなわち、modificationを行った後の基板に対し成膜原料を供給する時には、
図2(c)に示すように、成膜原料PGが、SiO膜の表面に残存したOH終端と化学吸着することとなり、その結果、選択破れが生じる。SiO膜の表面に残存したOH終端と成膜原料PGとの化学吸着を抑えるためには、例えば、インヒビターのアルキル基の分子サイズを小さくし、近接した2つのOH終端のそれぞれにインヒビターを化学吸着させ、残存するOH終端を低減することが考えられる。
【0024】
以上のような知見をもとに、本件開示者らが鋭意研究を行った結果、modificationの際に、特定の構造を有するインヒビターを2種併用することで(具体的には、後述する第1改質剤及び第2改質剤を用いることで)、選択破れを抑制し、選択成長における選択性を向上させることができる技術を見出した。以下、本開示の一態様として、選択破れを抑制し、選択成長における選択性を向上させる技術の一例について説明する。
【0025】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、
図3~
図6、
図7(a)~
図7(d)、
図8(a)~
図8(d)を参照しつつ説明する。
【0026】
(1)基板処理装置の構成
図3に示すように、処理炉202は温度調整器(加熱部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0027】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状に、マニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0028】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249a,249cのそれぞれは、ノズル249bに隣接して設けられている。
【0029】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232d,232e,232hがそれぞれ接続されている。ガス供給管232b,232cのバルブ243b,243cよりも下流側には、ガス供給管232f,232gがそれぞれ接続されている。ガス供給管232d~232hには、ガス流の上流側から順に、MFC241d~241hおよびバルブ243d~243hがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232hは、例えば、SUS等の金属材料により構成されている。
【0030】
図4に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249bは、処理室201内に搬入されるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249a,249cは、ノズル249bと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249bとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249aと反対側に設けられているということもできる。ノズル249a,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0031】
ガス供給管232aからは、表面改質剤としての第1改質剤が、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0032】
ガス供給管232hからは、表面改質剤としての第2改質剤が、MFC241h、バルブ243h、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0033】
ガス供給管232bからは、成膜原料としての原料ガスが、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0034】
ガス供給管232cからは、反応ガス、酸素(O)及び水素(H)含有物質が、MFC241c、バルブ243c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。
【0035】
ガス供給管232dからは、触媒ガスが、MFC241d、バルブ243d、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0036】
ガス供給管232e~232gからは、不活性ガスが、それぞれMFC241e~241g、バルブ243e~243g、ガス供給管232a~232c、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0037】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、第1改質剤供給系(第1表面改質剤供給系)が構成される。主に、ガス供給管232h、MFC241h、バルブ243hにより、第2改質剤供給系(第2表面改質剤供給系)が構成される。第1改質剤供給系及び第2改質剤供給系を改質剤供給系(表面改質剤供給系)とも称する。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、原料ガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232c、MFC241c、バルブ243cにより、反応ガス供給系、O及びH含有物質供給系が構成される。主に、ガス供給管232d、MFC241d、バルブ243dにより、触媒ガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232e~232g、MFC241e~241g、バルブ243e~243gにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0038】
第1改質剤及び第2改質剤はインヒビターとして機能することから、改質剤供給系(第1改質剤供給系、第2改質剤供給系)を、インヒビター供給系(第1インヒビター供給系、第2インヒビター供給系)と称することもできる。O及びH含有物質は酸化剤(酸化ガス)としても作用することから、O及びH含有物質供給系を酸化剤(酸化ガス)供給系と称することもできる。反応ガスとして酸化剤(酸化ガス)を用いる場合は、反応ガス供給系を酸化剤(酸化ガス)供給系と称することもできる。原料ガス、反応ガス、触媒ガスは、成膜ガスとして作用することから、原料ガス供給系、反応ガス供給系、触媒ガス供給系を、成膜ガス供給系と称することもできる。
【0039】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243hやMFC241a~241h等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232hのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232h内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243hの開閉動作やMFC241a~241hによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232h等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0040】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。
図4に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231は、例えばSUS等の金属材料により構成されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0041】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、例えばSUS等の金属材料により構成され、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0042】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0043】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0044】
図5に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0045】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121によって基板処理装置に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0046】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241h、バルブ243a~243h、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0047】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すことが可能なように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241hによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243hの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0048】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリ、SSD等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0049】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200の表面に露出した第1下地及び第2下地のうち、第2下地の表面上に選択的に膜を形成するための処理シーケンス(ガス供給シーケンス)の例について、主に、
図6、
図7(a)~
図7(d)、
図8(a)~
図8(d)を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0050】
図6に示す処理シーケンスでは、
(a)表面に第1下地と第2下地とが露出したウエハ200に対して、第1改質剤と、第2改質剤と、を供給することで、第1下地の表面を改質させるステップAと、
(b)第1下地の表面を改質させた後のウエハ200に対して、成膜ガスを供給して、第2下地の表面上に選択的に膜を形成するステップBと、を行う。
【0051】
ここで、第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む。また、第2改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を含み、且つ、第2改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数は第1改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数よりも少ない。また、成膜ガスは、原料ガス、反応ガス、触媒ガスを含む。
【0052】
なお、
図6に示す処理シーケンスでは、ステップAにて、ウエハ200に対して第1改質剤を供給するステップA1と、ウエハ200に対して第2改質剤を供給するステップA2と、を非同時に、且つ、ステップA1と、ステップA2と、をこの順に行う。また、ステップAは、ウエハ200に対してO及びH含有物質を供給するステップA3を含み、ステップAでは、ステップA1と、ステップA3と、ステップA2と、をこの順に行う。
【0053】
また、
図6に示す処理シーケンスでは、ステップBにて、ウエハ200に対して原料ガスと触媒ガスとを供給するステップB1と、ウエハ200に対して反応ガスと触媒ガスとを供給するステップB2と、を非同時に行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行う。なお、
図6では、反応ガスとして、例えば、O及びH含有物質を用いる例を示している。
【0054】
また、
図6に示す処理シーケンスでは、選択成長後のウエハ200に対する後処理として、第2下地の表面上に選択的に膜が形成された後のウエハ200を加熱するステップCを行う。なお、ステップCは必ずしも行う必要はなく、省略することもできる。
【0055】
本明細書では、上述の処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の他の態様や変形例等の説明においても、同様の表記を用いる。
【0056】
第1改質剤→O及びH含有物質→第2改質剤→(原料ガス+触媒ガス→反応ガス+触媒ガス)×n→後処理
【0057】
なお、
図6では、反応ガスとして、例えば、O及びH含有物質を用いる例を示していることから、
図6に示す処理シーケンスを、以下のように示すこともできる。
【0058】
第1改質剤→O及びH含有物質→第2改質剤→(原料ガス+触媒ガス→O及びH含有物質+触媒ガス)×n→後処理
【0059】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0060】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、
図3に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0061】
なお、ボート217に充填されるウエハ200の表面には、
図8(a)に示すように、第1下地と第2下地とが露出している。ウエハ200における第1下地の表面は、全域(全面)にわたり吸着サイトであるOH終端を有している。すなわち、ウエハ200における第1下地の表面は、全域(全面)にわたりOH基で終端された表面を有している。一方で、ウエハ200における第2下地の表面は、その多くの領域がOH基で終端されていない表面を有している。
【0062】
(圧力調整および温度調整)
その後、処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0063】
(ステップA)
その後、上述のステップA1と、ステップA3と、ステップA2と、をこの順に行う。以下、これらの各ステップについて説明する。
【0064】
(ステップA1)
ステップA1では、処理室201内のウエハ200、すなわち、表面に第1下地と第2下地とが露出したウエハ200に対して、第1改質剤を供給する。
【0065】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へ第1改質剤を流す。第1改質剤は、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して第1改質剤が供給される。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0066】
後述する処理条件下でウエハ200に対して第1改質剤を供給することにより、第1下地の表面を選択的に(優先的に)改質させることが可能となる。すなわち、ステップA1では、第1下地の表面のOH終端と第1改質剤との化学反応を利用し、ウエハ200における第1下地の表面に選択的に(優先的に)第1改質剤を化学吸着させることで、第1下地の表面を改質させることが可能となる。この際、第1改質剤が有する2つ以上の第1官能基のうち1つ以上がOH終端との化学反応により脱離し、第2官能基を含む第1改質剤由来の残基が第1下地の表面に存在することとなる。また、第1下地の表面に存在する第1改質剤由来の残基の一部は、OH終端との化学反応に使用されなかった第1官能基を含むこととなる。よって、第1改質剤により改質された第1下地の表面には、第1官能基及び第2官能基を含んだ状態の第1改質剤由来の残基による第1改質層(具体的には、例えば、後述する
図7(b)に示される第1改質層10)が形成される。ここで、第1改質層中に含まれる第2官能基は、化学的に安定性の高い官能基である。
【0067】
第1下地の表面を第1改質剤にて改質させた後、バルブ243aを閉じ、処理室201内への第1改質剤の供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留する第1改質剤等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。ノズル249a~249cより供給される不活性ガスは、パージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。
【0068】
ステップA1において第1改質剤を供給する際における処理条件としては、第1改質剤自体が熱分解(気相分解)しない条件であることが好ましく、具体的には、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは50~300℃
処理圧力:1~13300Pa、好ましくは50~1330Pa
第1改質剤供給流量:1~3000sccm、好ましくは50~1000sccm
第1改質剤供給時間:0.1秒~120分、好ましくは30秒~60分
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
が例示される。
【0069】
ステップA1においてパージを行う際における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは50~300℃
処理圧力:1~400Pa
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):50~20000sccm
不活性ガス供給時間:10~120秒
が例示される。
【0070】
ここで、本明細書における「1~13300Pa」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「1~13300Pa」とは「1Pa以上13300Pa以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。なお、処理温度とはウエハ200の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、ガス供給流量:0sccmとは、そのガスを供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0071】
なお、ステップA1では、第2下地の表面の一部に、第1改質剤が化学吸着することもある。但し、第2下地の表面に対する第1改質剤の化学吸着量は僅かであり、第1下地の表面への第1改質剤の化学吸着量の方が圧倒的に多くなる。このように、第2下地の表面と第1下地の表面とで第1改質剤の化学吸着量が大きく異なるのは、上述のように、ウエハ200において、第1下地の表面が全域にわたりOH終端を有しているのに対し、第2下地の表面の多くの領域がOH終端を有していないためである。また、ステップA1における処理条件を処理室201内において第1改質剤が熱分解(気相分解)しない条件としているためでもある。
【0072】
(ステップA3)
ステップA1が終了した後、ステップA3を行う。ステップA3では、ステップA1が終了した後の処理室201内のウエハ200、すなわち、第1下地の表面に第1改質層が形成されたウエハ200に対して、O及びH含有物質を供給する。なお、ウエハ200に対してO及びH含有物質を供給する際、
図6に示すように、触媒ガスを共に供給することが好ましい。これにより、後述する化学反応を促進させ、ステップA3の処理時間を短縮させることが可能となる。ただし、処理条件によっては、触媒ガスの供給は、必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。以下では、触媒ガスを併用する例について説明する。
【0073】
具体的には、バルブ243c,243dを開き、ガス供給管232c内へO及びH含有物質を、ガス供給管232d内へ触媒ガスをそれぞれ流す。O及びH含有物質、触媒ガスは、それぞれ、MFC241c,241dにより流量調整され、ノズル249c,249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内に供給された後に混合され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してO及びH含有物質および触媒ガスが供給される。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0074】
後述する処理条件下でウエハ200に対してO及びH含有物質と触媒ガスとを供給することにより、ステップA1にて形成された第1改質層にOH終端を形成することが可能となる。すなわち、ステップA3では、第1下地の表面に形成された第1改質層中に含まれる第1改質剤由来の残基中の第1官能基とO及びH含有物質とを化学反応させて、第1改質層に含まれる第1官能基をOH基へと置換させる。この際、第1改質層に含まれる第2官能基は、上記化学反応に寄与せず、そのままの状態で維持される。よって、O及びH含有物質と触媒ガスとが供給されると、第1改質層にOH終端が形成されて、第1改質層はOH終端を有する第2改質層(具体的には、例えば、後述する
図7(c)に示される第2改質層20)へと変化する。第2改質層中には、第1改質剤由来の残基中の第2官能基はそのまま含まれることとなる。
【0075】
ステップA3では、第1改質層に含まれる第1官能基をOH基へと置換させる反応を生じさせさえすればよく、上述の反応を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で進行させることが可能となる。このように、ステップA3を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、第1改質層を第2改質層へ変化させる過程において、第1改質層(第1改質剤由来の残基)が第1下地の表面から脱離し除去されることを抑制することが可能となる。
【0076】
第1下地の表面に形成された第1改質層を第2改質層へ変化させた後、バルブ243c,243dを閉じ、処理室201内へのO及びH含有物質、触媒ガスの供給をそれぞれ停止する。そして、上述のステップA1におけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0077】
ステップA3においてO及びH含有物質を供給する際における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは室温~300℃
処理圧力:1~101325Pa
O及びH含有物質供給流量:10~10000sccm
O及びH含有物質供給時間:1秒~24時間
触媒ガス供給流量:0~10000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
が例示される。
【0078】
(ステップA2)
ステップA3が終了した後、ステップA2を行う。ステップA2では、ステップA3が終了した後の処理室201内のウエハ200、すなわち、第1下地の表面に第2改質層が形成されたウエハ200に対して、第2改質剤を供給する。
【0079】
具体的には、バルブ243hを開き、ガス供給管232h内へ第2改質剤を流す。第2改質剤は、MFC241hにより流量調整され、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して第2改質剤が供給される。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0080】
後述する処理条件下でウエハ200に対して第2改質剤を供給することにより、第1下地の表面に形成された第2改質層が有するOH終端に第2改質剤を化学吸着させることが可能となる。すなわち、ステップA2では、第2改質層が有するOH終端と第2改質剤との化学反応を利用し、ウエハ200における第1下地の表面、具体的には、第2改質層の表面に選択的に(優先的に)第2改質剤を化学吸着させることで、第1下地の表面を更に改質させることが可能となる。この際、第2改質剤に含まれる第1官能基が、第2改質層に含まれるOH終端との化学反応により脱離し、第2官能基を含む第2改質剤由来の残基が第1下地の表面、具体的には、第2改質層の表面、すなわち、第1下地の最表面に存在することとなる。第2改質剤は、第1改質剤に比べ、1分子中に含まれる第1官能基の数が少ないことから、第2改質剤に含まれる第1官能基はそのほとんどが、第2改質層に含まれるOH終端との化学反応に用いられる。よって、第2改質剤により更に改質された第1下地の最表面には、第2官能基を含んだ状態の第1改質剤由来の残基と、第2官能基を含んだ状態の第2改質剤由来の残基と、を含む第3改質層(具体的には、例えば、後述する
図7(d)に示される第3改質層30)が形成される。上記のことから、第3改質層中には、第1官能基は残存しないか又は第1官能基の残存量はわずかとなる。ここで、
図8(b)に、ウエハ200の表面に露出した第1下地の表面に第3改質層が形成された状態を示す。
【0081】
第1下地の表面を第2改質剤にて更に改質させた後、バルブ243hを閉じ、処理室201内への第2改質剤の供給を停止する。そして、上述のステップA1におけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0082】
ステップA2において第2改質剤を供給する際における処理条件としては、第2改質剤自体が熱分解(気相分解)しない条件であることが好ましく、具体的には、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは50~300℃
処理圧力:1~13300Pa、好ましくは50~1330Pa
第2改質剤供給流量:1~3000sccm、好ましくは50~1000sccm
第2改質剤供給時間:0.1秒~120分、好ましくは30秒~60分
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
が例示される。
【0083】
-第1改質剤及び第2改質剤-
ここで、ステップA1において用いられる第1改質剤、及びステップA2において用いられる第2改質剤について、説明する。第1改質剤及び第2改質剤は、いずれも、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む。
【0084】
・第1改質剤
第1改質剤における第1官能基は、第1下地の表面における吸着サイト(例えば、OH終端)への第1改質剤の化学吸着を可能とする官能基であることが好ましい。第1官能基としては、アミノ基を含むことが好ましく、置換アミノ基を含むことが好ましい。第1改質剤が、アミノ基(好ましくは置換アミノ基)を含む場合、第1下地の表面への第1改質剤の化学吸着量を多くすることができる。特に、第1下地への吸着性の観点から、第1改質剤が有する第1官能基は、全て、置換アミノ基であることが好ましい。
【0085】
置換アミノ基が有する置換基としては、アルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。置換アミノ基が有するアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。置換アミノ基が有するアルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0086】
置換アミノ基が有する置換基の数は、1又は2であるが、2であることが好ましい。置換アミノ基が有する置換基の数が2である場合、2つの置換基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0087】
第1改質剤における第1官能基の数は、後述する第2改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数よりも多ければよい。第1改質剤における第1官能基の数は、具体的には、2以上の整数であり、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子の価数-1以下の整数であればよい。第1改質剤の入手容易性等の観点から、第1改質剤における第1官能基の数は、2であることが好ましい。なお、第1改質剤が有する複数の第1官能基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0088】
第1改質剤における第2官能基は、第1下地の表面を成膜阻害領域に改質することが可能な官能基であることが好ましい。第2官能基は、化学的に安定な官能基であることが好ましく、炭化水素基であることがより好ましい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。中でも、炭化水素基としてはアルキル基が好ましい。特に、化学的な安定性が高い観点、及び、入手容易性の観点から、第1改質剤が有する第2官能基は、全て、アルキル基であることが好ましい。
【0089】
第2官能基としてのアルキル基は、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。置換アミノ基が有するアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。置換アミノ基が有するアルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0090】
第1改質剤における第2官能基の数は1以上の整数であり、(第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子の価数)-(第1改質剤における第1官能基の数)以下の整数であればよい。第1改質剤における第1官能基の数が2の場合、第1改質剤における第2官能基の数は2であることが好ましい。第1改質剤が有する複数の第2官能基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0091】
第1改質剤において、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、炭素(C)原子、シリコン(Si)原子、ゲルマニウム(Ge)原子、4価の金属原子等が挙げられる。ここで、4価の金属原子としては、チタン(Ti)原子、ジルコニウム(Zr)原子、ハフニウム(Hf)原子、モリブデン(Mo)原子、タングステン(W)原子等が挙げられる。なお、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子は、4価の金属原子の他、4つ以上の配位子と結合可能な金属原子であってもよい。この場合、第2官能基の数を増やすことができ、インヒビターとして強い効果を発揮することもできる。
【0092】
これらの中でも、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、C原子、Si原子、Ge原子が好ましい。これは、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子として、C原子、Si原子、Ge原子のいずれかを用いる場合、第1下地の表面への第1改質剤の高い吸着性、および、第1下地の表面への吸着後の第1改質剤すなわち第1改質剤由来の残基の高い化学的安定性のうち、少なくともいずれかの特性を得ることができるからである。これらの中でも、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としては、Si原子がより好ましい。これは、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子としてSi原子を用いる場合、第1下地の表面への第1改質剤の高い吸着性、および、第1下地の表面への吸着後の第1改質剤すなわち第1改質剤由来の残基の高い化学的安定性の両方の特性をバランスよく得ることができるからである。第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子には、上述のように、第1官能基及び第2官能基が直接結合しているが、これら以外に、水素(H)原子、または、第3官能基が結合していてもよい。
【0093】
第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子に結合する第3官能基としては、第1官能基及び第2官能基として上述された官能基以外の官能基であればよい。第3官能基としては、例えば、C原子、Si原子、Ge原子、4価の金属原子、4つ以上の配位子と結合可能な金属原子、O原子、窒素(N)原子、およびH原子のうち2つ以上を適宜組み合わせて構成される官能基が挙げられる。
【0094】
第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含むが、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を2つ以上含んでいてもよい。以降、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を、便宜上、原子Yとも称する。2つ以上の原子Yは、直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。また、第1改質剤における原子Yの数としては、1以上の整数であればよく、例えば、1であってもよいし、2であってもよいし、3以上であってもよい。中でも、第1改質剤における原子Yの数としては、1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0095】
第1改質剤において、分子内における原子Yの数が2の場合、2つの原子Yを結合する連結基としては、-CnH2n-、-O-、および-NR”-が挙げられる。ここで、-CnH2n-におけるnは、1以上の整数を表す。また、-NR”-におけるR”としては、H原子またはアルキル基が挙げられる。中でも、2つの原子Yを結合する連結基としては、-CnH2n-が好ましい。-CnH2n-におけるnは、1~5が好ましく、1または2がより好ましい。
【0096】
第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した4価の原子を1つ以上含む構造を有することが好ましい。中でも、第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合したSiを1つ以上含む構造を有することがより好ましい。その中でも、第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合したSiを1つ又は2つ含む構造を有することが更に好ましい。第1改質剤が、第1官能基及び第2官能基が直接結合したSiを2つ含む構造を有する場合、2つのSiは直接結合していてもよいし、上述の連結基を介して結合していてもよい。また、第1改質剤が、第1官能基及び第2官能基が直接結合したSiを2つ含む構造を有する場合、2つのSiには、第1官能基、第2官能基、及び上述の連結基のみが直接結合していることが好ましい。さらにその中でも、第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合したSiを1つ含む構造を有することが特に好ましい。すなわち、第1改質剤は、中心原子としてのSiに、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合した構造を有することが特に好ましい。
【0097】
第1改質剤は、1分子中に2つのアミノ基を含む構造を有することが好ましい。中でも、第1改質剤は、1分子中に2つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とを含む構造を有することがより好ましい。その中でも、第1改質剤は、1分子中に2つのアミノ基と2つのアルキル基とを含む構造を有することが更に好ましい。
【0098】
また、第1改質剤は、中心原子であるSiに2つのアミノ基が結合した構造を有することが好ましい。中でも、第1改質剤は、中心原子であるSiに2つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とが結合した構造を有することがより好ましい。その中でも、第1改質剤は、中心原子であるSiに2つのアミノ基と2つのアルキル基とが結合した構造を有することが更に好ましい。
【0099】
なお、アミノ基は、上述の通り、置換アミノ基であることが好ましい。置換アミノ基が有する置換基については上述の通りである。
【0100】
第1改質剤としては、例えば、下記式1で表される化合物を用いることが好ましい。
【0101】
式1 : [R1]n1-(X)-[R2]m1
式1中、R1はXに直接結合する第1官能基を表し、R2はXに直接結合する第2官能基又はH原子を表し、Xは、C原子、Si原子、Ge原子、及び4価の金属原子からなる群より選択される4価の原子を表し、n1は2又は3を表し、m1は1又は2を表す。
【0102】
R1で表される第1官能基は、上述の第1官能基と同義であり、好ましい例も同様である。n1が2又は3である場合、2つ又は3つあるR1、すなわち、2つ又は3つの第1官能基は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。R2で表される第2官能基は、上述の第2官能基と同義であり、好ましい例も同様である。m1が2である場合、2つあるR2は、一方がH原子であり、他方が第2官能基であってもよく、両方が第2官能基であってもよい。2つあるR2の両方が第2官能基である場合、2つの第2官能基は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0103】
Xで表される4価の原子としては、Si原子が好ましい。
n1としては、2が好ましい。
m1としては、2が好ましい。
【0104】
第1改質剤としては、例えば、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン([(CH3)2N]2Si(CH3)2、略称:BDMADMS)、ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン([(C2H5)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDEADES)、ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン([(CH3)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDMADES)、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン([(C2H5)2N]2Si(CH3)2、略称:BDEADMS)、ビス(ジメチルアミノ)シラン([(CH3)2N]2SiH2、略称:BDMAS)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)エタン([(CH3)2N(CH3)2Si]
2
C2H6、略称:BDMADMSE)、ビス(ジプロピルアミノ)シラン([(C3H7)2N]2SiH2、略称:BDPAS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジメチルシラン([(C3H7)2N]2Si(CH3)2、略称:BDPADMS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジエチルシラン((C3H7)2N]2Si(C2H5)2、略称:BDPADES)、(ジメチルシリル)ジアミン((CH3)2Si(NH2)2、略称:DMSDA)、(ジエチルシリル)ジアミン((C2H5)2Si(NH2)2、略称:DESDA)、(ジプロピルシリル)ジアミン((C3H7)2Si(NH2)2、略称:DESDA)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)メタン([(CH3)2N(CH3)2Si]
2
CH2、略称:BDMADMSM)、ビス(ジメチルアミノ)テトラメチルジシラン([(CH3)2N]2(CH3)4Si2、略称:BDMATMDS)等が挙げられる。第1改質剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0105】
・第2改質剤
第2改質剤における第1官能基は、第1改質剤における第1官能基と同義であり、好ましい例も同様である。第2改質剤における第1官能基の数は、第1改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数よりも少ない。すなわち、第1改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数が2であれば、第2改質剤における第1官能基の数は1であり、第1改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数が3であれば、第2改質剤における第1官能基の数は1又は2である。第2改質剤の入手容易性等の観点から、第2改質剤における第1官能基の数は、1であることが好ましい。なお、第2改質剤が複数の第1官能基を有する場合は、複数の第1官能基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0106】
第2改質剤における第2官能基は、第1改質剤における第2官能基と同義であり、好ましい例も同様である。第2改質剤における第2官能基の数は1以上の整数であり、(第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子の価数)-(第2改質剤における第1官能基の数)以下の整数であればよい。第1改質剤における第1官能基の数が1の場合、第2改質剤における第2官能基の数は3であることが好ましい。第2改質剤が複数の第2官能基を有する場合は、複数の第2官能基は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0107】
第2改質剤における第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子は、第1改質剤における第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子と同義であり、好ましい例も同様である。第2改質剤においても、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子には、第1官能基及び第2官能基以外に、H原子、または、第3官能基が結合していてもよい。第3官能基としては、第1改質剤における第3官能基と同義であり、好ましい例も同様である。
【0108】
第2改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有することが好ましい。中でも、第2改質剤は、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合した4価の原子を含む構造を有することがより好ましい。その中でも、第2改質剤は、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合したSiを1つ含む構造を有することが特に好ましい。すなわち、第2改質剤は、中心原子としてのSiに、第1官能基及び第2官能基のみが直接結合した構造を有することが特に好ましい。
【0109】
第2改質剤は、1分子中に1つのアミノ基を含む構造を有することが好ましい。中でも、第2改質剤は、1分子中に1つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とを含む構造を有することがより好ましい。その中でも、第2改質剤は、1分子中に1つのアミノ基と3つのアルキル基とを含む構造を有することが更に好ましい。
【0110】
また、第2改質剤は、中心原子であるSiに1つのアミノ基が結合した構造を有することが好ましい。中でも、第2改質剤は、中心原子であるSiに1つのアミノ基と少なくとも1つのアルキル基とが結合した構造を有することがより好ましい。その中でも、第2改質剤は、中心原子であるSiに1つのアミノ基と3つのアルキル基とが結合した構造を有することが更に好ましい。
【0111】
なお、アミノ基は、上述の通り、置換アミノ基であることが好ましい。置換アミノ基が有する置換基については上述の通りである。
【0112】
第2改質剤としては、例えば、下記式2で表される化合物を用いることが好ましい。
【0113】
式2 : [R1]n2-(X)-[R2]m2
式2中、R1はXに直接結合する第1官能基を表し、R2はXに直接結合する第2官能基又はH原子を表し、Xは、C原子、Si原子、Ge原子、及び4価の金属原子からなる群より選択される4価の原子を表し、n2は1又は2を表し、m2は2又は3を表す。
【0114】
R1で表される第1官能基は、上述の第1官能基と同義であり、好ましい例も同様である。n2が2である場合、2つあるR1は、それぞれ、同じ第1官能基であってもよいし、異なる第1官能基であってもよい。R2で表される第2官能基は、上述の第2官能基と同義であり、好ましい例も同様である。m2が2又は3であり、2つ又は3つあるR2は、1つ又は2つがH原子であり、残りが第2官能基であってもよく、全てが第2官能基であってもよい。2つ又は3つあるR2の全てが第2官能基である場合、全ての第2官能基は、それぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0115】
Xで表される4価の原子としては、Si原子が好ましい。
n2としては、1が好ましい。
m2としては、3が好ましい。
【0116】
第2改質剤としては、例えば、(ジメチルアミノ)トリメチルシラン((CH3)2NSi(CH3)3、略称:DMATMS)、(ジエチルアミノ)トリエチルシラン((C2H5)2NSi(C2H5)3、略称:DEATES)、(ジメチルアミノ)トリエチルシラン((CH3)2NSi(C2H5)3、略称:DMATES)、(ジエチルアミノ)トリメチルシラン((C2H5)2NSi(CH3)3、略称:DEATMS)、(トリメチルシリル)アミン((CH3)3SiNH2、略称:TMSA)、(トリエチルシリル)アミン((C2H5)3SiNH2、略称:TESA)、(ジメチルアミノ)シラン((CH3)2NSiH3、略称:DMAS)、(ジエチルアミノ)シラン((C2H5)2NSiH3、略称:DEAS)等が挙げられる。第2改質剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0117】
第1改質剤及び第2改質剤は、それぞれ、上述の第1改質剤供給系及び第2改質剤供給系を経て、ガスとしてウエハ200へと供給されるが、それらの少なくとも一部は、必ずしもガス状でなくともよい。すなわち、ステップA1における第1改質層の形成、及び、ステップA2における第3改質層の形成が可能であって、上述の第1改質剤供給系及び第2改質剤供給系を経て、ウエハ200へと供給されることが可能であれば、第1改質剤及び第2改質剤の少なくとも一部はガス状でなくともよい。
【0118】
-不活性ガス-
ステップA1~A3にて用いる不活性ガスとしては、例えば、窒素(N2)ガスの他、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。この点は、後述する不活性ガスを用いる各ステップにおいても同様である。
【0119】
-O及びH含有物質-
ステップA3にて用いられるO及びH含有物質としては、水蒸気(H2Oガス)、過酸化水素(H2O2)ガス等のO-H結合を含むO含有ガスを用いることができる。また、O及びH含有物質としては、水素(H2)ガス+酸素(O2)ガス、H2ガス+オゾン(O3)ガス等のO-H結合非含有のO含有ガスを用いることもできる。本明細書において「H2ガス+O2ガス」というような2つのガスの併記記載は、H2ガスとO2ガスとの混合ガスを意味している。混合ガスを供給する場合は、2つのガスを供給管内で混合(プリミックス)した後、処理室201内へ供給するようにしてもよいし、2つのガスを異なる供給管より別々に処理室201内へ供給し、処理室201内で混合(ポストミックス)させるようにしてもよい。
【0120】
O及びH含有物質は、上述のO及びH含有物質供給系を経て、通常、ガスとしてウエハ200へと供給されるが、その少なくとも一部は、必ずしもガス状でなくともよい。すなわち、ステップA3における第2改質層の形成が可能であって、上述のO及びH含有物質供給系を経て、ウエハ200へと供給されることが可能であれば、O及びH含有物質の少なくとも一部はガス状でなくともよい。例えば、その一部は、液体、例えばミスト状であってもよい。これらの点は、後述するO及びH含有物質を用いるステップB2においても同様である。
【0121】
-触媒ガス-
ステップA3にて用いられる触媒ガスとしては、例えば、C、NおよびHを含むアミン系ガスを用いることができる。アミン系ガスとしては、例えば、ピリジンガス(C5H5N、略称:py)ガス、アミノピリジン(C5H6N2)ガス、ピコリン(C6H7N)ガス、ルチジン(C7H9N)ガス、ピペラジン(C4H10N2)ガス、ピペリジン(C5H11N)ガス等の環状アミン系ガスや、トリエチルアミン((C2H5)3N、略称:TEA)ガス、ジエチルアミン((C2H5)2NH、略称:DEA)ガス等の鎖状アミン系ガスを用いることもできる。触媒ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。これらの点は、後述する触媒ガスを用いるステップB1およびステップB2においても同様である。
【0122】
<ステップAのより具体的な一態様>
ここで、ステップAにおけるmodificationのより具体的な一態様を
図7(a)~
図7(d)を参照しつつ説明する。なお、
図7(a)~
図7(d)は、ウエハ200の表面における第1下地の表面で生じる反応に着目した図であり、ウエハ200の表面のうち第1下地の部分だけを抜き出した図である。
【0123】
ここでは、表面に第1下地としてSiO膜が露出したウエハ200に対し、第1改質剤としてビス(ジアルキルアミノ)ジアルキルシラン(略称:BDAADAS)を用い、第2改質剤として(ジアルキルアミノ)トリアルキルシラン(略称:DAATAS)を用いた例について説明する。ここで、
図7(a)~
図7(d)中、「R」及び「R’」はいずれもアルキル基を示す。
【0124】
図7(a)に示すように、ウエハ200の表面に露出したSiO膜の表面は、多くのOH終端を有する化学構造を有する。ステップA1において、ウエハ200に対して第1改質剤としてのBDAADASを供給すると、SiO膜の表面に、BDAADASが化学吸着する。
【0125】
より具体的に言えば、
図7(b)に示すように、SiO膜の表面における2つのOH終端が近接した部分(例えば、表1の「Vicinal」や「Germinal」の構造を有する部分)においては、その2つのOH基と、1つのBDAADAS分子に含まれる2つのジアルキルアミノ基と、が反応し、1つのBDAADAS分子に含まれる1つのSi原子が、その2つのOH基における2つのO原子と結合し、橋掛け構造(架橋構造)が形成されるように化学吸着する。この化学吸着により、BDAADAS分子からは2つのジアルキルアミノ基(第1官能基に相当)が脱離し、SiO膜の表面には、2つのアルキル基を有する残基(
図7(b)中の「>SiR
2基」)が残る。これが、SiO膜の表面にBDAADASが化学吸着する1つの態様である。
【0126】
また、
図7(b)に示すように、SiO膜の表面における2つのOH終端が離れている部分(例えば、表1の「Isolated」の構造を有する部分)においては、その2つのOH基のうち1つのOH基と、1つのBDAADAS分子に含まれる1つのジアルキルアミノ基と、が反応し、1つのBDAADAS分子に含まれる1つのSi原子が、その1つのOH基におけるO原子と結合して、化学吸着する。この化学吸着により、BDAADAS分子からは1つのジアルキルアミノ基(第1官能基に相当)が脱離し、SiO膜の表面には、2つのアルキル基と、1つのジアルキルアミノ基と、を有する残基(
図7(b)中の「-SiR
2(NR’
2)基」)が残る。これが、SiO膜の表面にBDAADASが化学吸着する他の1つの態様である。
【0127】
このように、BDAADASは、SiO膜の表面におけるOH終端の構造によらず、化学吸着することが可能となる。結果として、SiO膜の表面には、BDAADAS由来の残基である、「>SiR2基」及び「-SiR2(NR’2)基」を含む第1改質層10が形成される。
【0128】
次いで、ステップA3において、ウエハ200に対してO及びH含有物質としてのO及びH含有ガスを供給すると、ステップA1にてSiO膜の表面に形成された第1改質層10にOH終端が形成される。
【0129】
より具体的に言えば、ステップA3では、ステップA1にて形成された第1改質層10に含まれるジアルキルアミノ基と、O及びH含有ガスと、が反応(具体的には、加水分解反応)して、
図7(c)に示すように、第1改質層10に含まれていたジアルキルアミノ基がOH基へと置換される。結果として、SiO膜の表面に形成された第1改質層10は、OH終端を有する第2改質層20へと変化する。ステップA3によれば、上述の反応により、ジアルキルアミノ基は第1改質層10から脱離することから、得られた第2改質層20中にはジアルキルアミノ基は、ほぼ存在しなくなる。
【0130】
続いて、ステップA2において、ウエハ200に対して第2改質剤としてのDAATASを供給すると、ステップA3にて形成された第2改質層20が有するOH終端にDAATASが化学吸着する。
【0131】
より具体的に言えば、ステップA3にて形成された第2改質層20が有するOH終端におけるOH基と、DAATAS分子に含まれるジアルキルアミノ基と、が反応し、DAATAS分子に含まれるSi原子が、そのOH基におけるO原子と結合して、化学吸着する。この化学吸着により、DAATASからは1つのジアルキルアミノ基(第1官能基に相当)が脱離し、3つのアルキル基を有する残基(
図7(d)中の「-SiR
3基(トリアルキルシリル基)」)が残る。これが、第2改質層20にDAATASが化学吸着する1つの態様である。
【0132】
このようにして、SiO膜の表面には、BDAADAS由来の残基と、DAATAS由来の残基と、を含む第3改質層30が形成される。上述のように、第2改質剤としてのDAATASは、第1官能基に相当するジアルキルアミノ基を1つ有する化合物であるため、上述の反応によりジアルキルアミノ基が脱離することから、得られた第3改質層30中にはジアルキルアミノ基は取り込まれ難く、ほぼ存在しなくなる。
【0133】
第3改質層30の最表面、すなわち、SiO膜の最表面は、BDAADAS由来の残基と、DAATAS由来の残基と、で覆われることとなる。すなわち、SiO膜の最表面は、BDAADAS由来の残基に含まれるアルキル基(第2官能基に相当)と、DAATAS由来の残基に含まれるアルキル基(第2官能基に相当)と、で覆われることとなる。結果として、SiO膜の最表面は、BDAADAS由来の残基に含まれるアルキル基(第2官能基に相当)と、DAATAS由来の残基に含まれるアルキル基(第2官能基に相当)と、で終端されることとなる。
【0134】
ステップA1、ステップA3、ステップA2をこの順で行った後の、SiO膜の表面には、BDAADAS由来の残基と、DAATAS由来の残基と、を含む第3改質層30が形成される。形成された第3改質層30は、
図7(d)に示すように、化学的に安定性が高いアルキル基を多く有しており、また、化学的に安定性が高いアルキル基の存在密度が高く、且つ、DAATAS由来の残基として、立体障害の大きなトリアルキルシリル基を有している。そのため、このような第3改質層30が表面に形成されたSiO膜を有するウエハ200への成膜時においては、成膜原料のSiO膜の表面への物理吸着及び化学吸着を効果的に抑制することが可能となる。すなわち、ステップA1、ステップA3、ステップA2をこの順に行うことによりmodificationを行ったウエハ200を用いることで、その後の成膜時において、選択破れを抑制し、選択成長における選択性を高めることが可能となる。
【0135】
(繰り返し)
ステップAにおいては、ステップA1と、ステップA3と、を複数回繰り返すようにしてもよい。これらを繰り返すことで、第1下地の表面のより多くのOH終端に、第1改質剤をより充分に化学吸着させ、更に、第1改質層に含まれる第1官能基をより充分にOH基に置換することが可能となる。そのため、これらを繰り返した後、ステップA2を行うことで、第1下地の表面の改質密度、すなわち、第1下地の表面の第2官能基による終端率を高めることが可能となる。
【0136】
また、ステップAにおいては、ステップA1と、ステップA3と、ステップA2と、を複数回繰り返すようにしてもよい。これらを繰り返すことで、第1下地の表面の改質密度、すなわち、第1下地の表面の第2官能基による終端率を高めることが可能となる。なお、上記ステップの繰り返しは、第1下地の表面の改質密度が所望のレベルに達する回数まで行えばよい。
【0137】
(ステップB)
ステップBでは、ステップAにより、第1下地の表面を改質させた後のウエハ200、すなわち、第1下地の表面に第3改質層が形成された後のウエハ200に対して、成膜ガス(原料ガス、反応ガス、触媒ガス)を供給して、第2下地の表面上に選択的に膜を形成する。なお、ステップBでは、ヒータ207の出力を調整し、ウエハ200の温度を、ステップAにおけるウエハ200の温度以下とした状態、好ましくは、ステップAにおけるウエハ200の温度よりも低くした状態を維持する。
【0138】
ステップBでは、ウエハ200に対して、成膜ガスとして、原料ガスと反応ガスとを交互に供給するか、もしくは、ウエハ200に対して、成膜ガスとして、原料ガスと反応ガスとを交互に供給し、原料ガスおよび反応ガスのうち少なくともいずれかと一緒に触媒ガスを供給することが好ましい。ただし、処理条件によっては、触媒ガスの供給は、必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。例えば、ステップBでは、以下の処理シーケンスのうちいずれかを行うことができる。なお、以下の処理シーケンスは、ステップBだけを抜き出して示したものである。
【0139】
(原料ガス→反応ガス)×n
(原料ガス→反応ガス+触媒ガス)×n
(原料ガス+触媒ガス→反応ガス)×n
(原料ガス+触媒ガス→反応ガス+触媒ガス)×n
【0140】
以下では、触媒ガスを併用する例、具体的には、ステップBにおいて、成膜ガスとして、原料ガスと反応ガスとを交互に供給し、原料ガスおよび反応ガスのそれぞれと一緒に触媒ガスを供給する例について説明する。具体的には、ステップBでは、次のステップB1、ステップB2を順次実行する。なお、上述のように、
図6では、反応ガスとして、例えば、O及びH含有物質を用いる例を示している。
【0141】
(ステップB1)
ステップB1では、処理室201内のウエハ200、すなわち、第1下地の表面に第3改質層が形成された後のウエハ200に対して、原料ガスおよび触媒ガスを供給する。
【0142】
具体的には、バルブ243b,243dを開き、ガス供給管232b内へ原料ガスを、ガス供給管232d内へ触媒ガスを、それぞれ流す。原料ガス、触媒ガスは、それぞれ、MFC241b,241dにより流量調整され、ノズル249b,249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内に供給された後に混合されて、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して原料ガスおよび触媒ガスが供給される。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0143】
後述する処理条件下でウエハ200に対して原料ガスと触媒ガスとを供給することにより、第3改質層、すなわち、第1下地の表面への原料ガスの吸着を抑制しつつ、原料ガスを第2下地の表面に、選択的(優先的)に、吸着させることが可能となる。これにより、第2下地の表面に原料ガスが吸着し、例えば、1原子層(1分子層)未満から数原子層(数分子層)程度の厚さの第1層が形成される。
【0144】
ステップB1では、触媒ガスを原料ガスとともに供給することにより、上述の反応を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で進行させることが可能となる。このように、第1層の形成を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、第1下地の表面に形成された第3改質層が、第1下地の表面から除去(脱離)されることを抑制することが可能となる。
【0145】
なお、ステップB1では、第1層を形成する際、第1下地の表面の一部に原料ガスが吸着することもあるが、その吸着量は、ごく僅かであり、第2下地の表面への原料ガスの吸着量よりも遥かに少量となる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、第1下地の表面の全域にわたり、成膜阻害層として作用する第3改質層が形成されているのに対し、第2下地の表面の多くの領域もしくは全域には、成膜阻害層として作用する第3改質層が形成されていないためである。また、ステップB1における処理条件を、処理室201内において原料ガスが気相分解(自己分解)しない条件としているためである。原料ガスが気相分解しない条件とすることで、原料ガスの気相分解により生じる中間体等の分解物を第1下地の表面及び第2下地の表面に堆積させることなく、原料ガスを第2下地の表面に選択的に吸着させることができるようになる。
【0146】
第2下地の表面に第1層を選択的に形成した後、バルブ243b,243dを閉じ、処理室201内への原料ガス、触媒ガスの供給をそれぞれ停止する。そして、上述のステップA1におけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0147】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~200℃、好ましくは室温~120℃
処理圧力:133~1333Pa
原料ガス供給流量:1~2000sccm
原料ガス供給時間:1~60秒
触媒ガス供給流量:1~2000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
が例示される。
【0148】
-原料ガス-
原料ガスとしては、例えば、Si及びハロゲン含有ガスを用いることができる。ハロゲンには、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が含まれる。Si及びハロゲン含有ガスは、ハロゲンを、Siとハロゲンとの化学結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスは、更に、Cを含んでいてもよく、その場合、CをSi-C結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、Si、Clおよびアルキレン基を含み、Si-C結合を有するシラン系ガス、すなわち、アルキレンクロロシラン系ガスを用いることができる。ここで、アルキレン基には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が含まれる。アルキレンクロロシラン系ガスは、ClをSi-Cl結合の形で含み、CをSi-C結合の形で含むことが好ましい。これらのように、原料ガスとしては、例えば、Si及びハロゲン含有ガスや、Si,C及びハロゲン含有ガス等を用いることができる。
【0149】
原料ガスとしては、例えば、ビス(トリクロロシリル)メタン((SiCl3)2CH2、略称:BTCSM)ガス、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン((SiCl3)2C2H4、略称:BTCSE)ガス等のアルキレンクロロシラン系ガスや、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン((CH3)2Si2Cl4、略称:TCDMDS)ガス、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラメチルジシラン((CH3)4Si2Cl2、略称:DCTMDS)ガス等のアルキルクロロシラン系ガスや、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタン(C2H4Cl4Si2、略称:TCDSCB)ガス等のSiとCとで構成される環状構造およびハロゲンを含むガスを用いることができる。また、原料ガスとしては、例えば、テトラクロロシラン(SiCl4、略称:STC)ガス、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6、略称:HCDS)ガス、オクタクロロトリシラン(Si3Cl8、略称:OCTS)ガス等の無機クロロシラン系ガスを用いることもできる。原料ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0150】
-触媒ガス-
触媒ガスとしては、例えば、上述のステップA3で例示した各種触媒ガスと同様の触媒ガスを用いることができる。
【0151】
(ステップB2)
ステップB2では、ステップB1にて第1層が形成された後、処理室201内のウエハ200、すなわち、第2下地の表面に選択的に形成された第1層に対して、反応ガスおよび触媒ガスを供給する。以下、反応ガスとして、例えば、O及びH含有物質を用いる例について説明する。
【0152】
具体的には、バルブ243c,243dを開き、ガス供給管232c内へ反応ガスとしてO及びH含有物質を、ガス供給管232d内へ触媒ガスをそれぞれ流す。O及びH含有物質、触媒ガスは、それぞれ、MFC241c,241dにより流量調整され、ノズル249c,249aを介して処理室201内へ供給され、処理室201内に供給された後に混合されて、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対してO及びH含有物質および触媒ガスが供給される。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0153】
後述する処理条件下でウエハ200に対してO及びH含有物質と触媒ガスとを供給することにより、ステップB1で第2下地の表面に形成された第1層の少なくとも一部を酸化させることが可能となる。これにより、第2下地の表面に、第1層が酸化されてなる第2層が形成される。なお、第2層を形成する際、第1層に含まれていたCl等の不純物は、第1層のO及びH含有物質による酸化反応の過程において、Cl等の不純物を含むガス状物質を構成する等して第1層から除去され、処理室201内から排出される。これにより、第2層は、第1層に比べ、Cl等の不純物が少ない層となる。
【0154】
ステップB2では、触媒ガスをO及びH含有物質とともに供給することにより、上述の反応を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で進行させることが可能となる。このように、第2層の形成を、ノンプラズマの雰囲気下で、また、後述するような低い温度条件下で行うことにより、第1下地の表面に形成された第3改質層が、第1下地の表面から除去(脱離)されることを抑制することが可能となる。
【0155】
第2下地の表面に形成された第1層を酸化させて第2層へ変化させた後、バルブ243c,243dを閉じ、処理室201内への反応ガスとしてのO及びH含有物質、触媒ガスの供給をそれぞれ停止する。そして、上述のステップA1におけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0156】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~200℃、好ましくは室温~120℃
処理圧力:133~1333Pa
反応ガス供給流量:1~2000sccm
反応ガス供給時間:1~60秒
触媒ガス供給流量:1~2000sccm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20000sccm
が例示される。
【0157】
-反応ガス-
反応ガスとしては、酸化膜系の膜を形成する場合は、O及びH含有物質を用いることができる。O及びH含有物質としては、例えば、上述のステップA3で例示した各種O及びH含有物質と同様のO及びH含有物質を用いることができる。この他、反応ガスとしては、酸素(O2)ガス、オゾン(O3)ガス、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO2)ガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガス等の酸素(O)含有ガス等を用いることができる。O及びH含有物質の多くは、O含有ガスでもあることから、以下、O及びH含有物質を、便宜上、O含有ガスと称することもある。反応ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0158】
また、反応ガスとしては、窒化膜系の膜を形成する場合は、窒化剤(窒化ガス)を用いることができる。窒化剤としては、N及びH含有ガスを用いることができる。N及びH含有ガスとしては、例えば、アンモニア(NH3)ガス、ヒドラジン(N2H4)ガス、ジアゼン(N2H2)ガス、N3H8ガス等のN-H結合を含む窒化水素系ガスを用いることができる。なお、窒化膜系の膜を形成する場合は、上述のO及びH含有物質、酸化、酸化反応を、それぞれ、窒化剤、窒化、窒化反応に置き換えて考えればよい。反応ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0159】
-触媒ガス-
触媒ガスとしては、例えば、上述のステップA3で例示した各種触媒ガスと同様の触媒ガスを用いることができる。
【0160】
(所定回数実施)
上述のステップB1とステップB2とを非同時に、すなわち、同期させることなく行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、
図8(c)に示すように、ウエハ200の表面に露出した第1下地および第2下地のうち第2下地の表面上に、所望の膜厚の膜を、選択的に、形成することが可能となる。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成される第2層の厚さを所望の膜厚よりも薄くし、第2層を積層することで、選択成長させる膜が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0161】
なお、ステップB1及びステップB2を実施する際、第1下地の表面に、ごく僅かに膜が形成される場合もある。ただし、この場合であっても、第1下地の表面に形成される膜の膜厚は、第2下地の表面に形成される膜の膜厚に比べて、遥かに薄くなる。本明細書において、「選択成長における選択性が高い」とは、第1下地の表面に膜が全く形成されず、第2下地の表面のみに膜が形成される場合だけではなく、上述のように、第1下地の表面に、ごく薄い膜が形成されるものの、第2下地の表面にはそれよりも遥かに厚い膜が形成される場合をも含むものとする。
【0162】
ステップBにおける選択成長では、原料ガスや反応ガスの種類によって得られる膜が異なる。例えば、ステップBにて、原料ガスとしてSi,C及びハロゲン含有ガスを用い、反応ガスとしてO含有ガスを用いることで、膜として、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)を形成することができる。また例えば、ステップBにて、原料ガスとしてSi,C及びハロゲン含有ガスを用い、反応ガスとしてN及びH含有ガスを用いることで、膜として、シリコン炭窒化膜(SiCN膜)を形成することができる。また例えば、ステップBにて、原料ガスとしてSi,C及びハロゲン含有ガスを用い、反応ガスとしてO含有ガス、N及びH含有ガスを用いることで、膜として、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を形成することができる。また例えば、ステップBにて、原料ガスとしてSi及びハロゲン含有ガスを用い、反応ガスとしてO含有ガスを用いることで、膜として、シリコン酸化膜(SiO膜)を形成することができる。また例えば、ステップBにて、原料ガスとしてSi及びハロゲン含有ガスを用い、反応ガスとしてN及びH含有ガスを用いることで、膜として、シリコン窒化膜(SiN膜)を形成することができる。これらのように、ステップBでは、シリコン系酸化膜やシリコン系窒化膜等の各種膜を形成することができる。なお、上述のように、処理条件によっては、触媒ガスは必ずしも必要ではなく、触媒ガスを用いない場合は、ステップBにおける処理温度を、例えば、200~500℃の範囲内の所定の温度とすることができる。
【0163】
また、ステップBにおける選択成長では、原料ガスとして、Al,Ti,Hf,Zr,Ta,Mo,W等の金属元素を含む原料ガスを用い、反応ガスとして、O含有ガスやN及びH含有ガスを用いることで、膜として、例えば、アルミニウム酸化膜(AlO膜)、チタン酸化膜(TiO膜)、ハフニウム酸化膜(HfO膜)、ジルコニウム酸化膜(ZrO膜)、タンタル酸化膜(TaO膜)、モリブデン酸化膜(MoO)、タングステン酸化膜(WO)等の金属系酸化膜や、アルミニウム窒化膜(AlN膜)、チタン窒化膜(TiN膜)、ハフニウム窒化膜(HfN膜)、ジルコニウム窒化膜(ZrN膜)、タンタル窒化膜(TaN膜)、モリブデン窒化膜(MoN)、タングステン窒化膜(WN)等の金属系窒化膜等を形成することができる。なお、上述のように、処理条件によっては、触媒ガスは必ずしも必要ではなく、触媒ガスを用いない場合は、ステップBにおける処理温度を、例えば、200~500℃の範囲内の所定の温度とすることができる。
【0164】
(ステップC)
ステップCでは、ステップAと、ステップBと、を行うことで、選択成長が終了した後のウエハ200に対し、アニール処理を行う。
【0165】
具体的には、選択成長が終了した後、処理室201内の温度、すなわち、第2下地の表面に選択的に膜が形成された後のウエハ200の温度を、選択成長におけるウエハ200の温度以上の温度とするように、好ましくは、選択成長におけるウエハ200の温度よりも高い温度とするように、ヒータ207の出力を調整し、選択成長後のウエハ200を加熱し、ウエハ200に対してアニール処理を行う。
【0166】
これにより、第1下地の表面の第3改質層が有するインヒビターとしての機能を無効化することが可能となる。具体的には、選択成長後のウエハ200をアニールすることで、第3改質層中に含まれる第2官能基を、第1下地の表面から脱離させて除去するか、又は、この第2官能基におけるインヒビターとしての機能を無効化することが可能となる。なお、第2官能基におけるインヒビターとしての機能の無効化とは、第2官能基の分子構造や原子の配列構造等を変化させ、第1下地の表面への成膜ガス(原料ガス、反応ガス等)の吸着や、第1下地の表面と成膜ガス(原料ガス、反応ガス等)との反応を可能とすることを意味する。
【0167】
ステップCでは、第3改質層のインヒビターとしての機能を無効化し、第1下地の表面における成膜阻害状態をリセットさせることで、その後の工程で、第1下地の表面上への成膜処理等を進行させることが可能となる。なお、選択成長後のウエハ200をアニールすることで、第3改質層中に含まれる第2官能基を、第1下地の表面から脱離させて除去する場合、第3改質層そのものが脱離し除去されることもある。
図8(d)は、ウエハ200の表面に露出した第1下地の表面から、第3改質層そのものを除去した状態を示している。
【0168】
ステップCは、処理室201内へ、N2ガス等のN含有ガス、H2ガス等のH含有ガス、O2ガス等のO含有ガス等、第3改質層中に含まれる第2官能基(例えば、メチル基等のアルキル基)の除去(脱離)を促すガス(アシストガス)を供給した状態で行ってもよく、また、処理室201内へのアシストガスの供給を停止した状態で行ってもよい。アシストガスとしては、この他、上述の反応ガスを用いることもできる。
【0169】
ステップCにおける処理条件としては、
処理温度:200~1000℃、好ましくは400~700℃
処理圧力:1~120000Pa
アシストガス供給流量:0~50000sccm
アシストガス供給時間:1~18000秒
が例示される。
【0170】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
第2下地の表面への膜の選択成長が完了し、第1下地の表面における成膜阻害状態のリセットが完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれからパージガスとしての不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0171】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0172】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0173】
ステップAにおいて、第1改質剤及び第2改質剤を用いることで、選択成長における選択性を向上させることが可能となる。
【0174】
すなわち、第1改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含み、第1下地の表面の吸着サイト(例えば、OH終端)に、第1改質剤を化学吸着させることが可能な第1官能基を、1分子中に、第2改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数よりも多く、例えば2つ以上有する。第1改質剤がこのような構造を有することで、第1下地の表面の吸着サイトの構造(例えば、OH終端の、Vicinal、Germinal、Isolatedの3つの構造)によらず、より効果的に、第1下地の表面(の吸着サイト)に、第1改質剤を、化学吸着させることができる。すなわち、第1下地の表面の全域に存在する吸着サイトに第1改質剤を化学吸着させることができる。また、第1改質剤が化学吸着した後の第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基が存在することとなる。
【0175】
また、第2改質剤は、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を含み、1分子中に含まれる第1官能基の数が第1改質剤の1分子中に含まれる第1官能基の数よりも少ない。第2改質剤がこのような構造を有し、更に、第1改質剤が上述の構造を有することで、第1改質剤に第2改質剤を化学吸着させることができる。第1改質剤に第2改質剤が化学吸着した後の第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基が、高い存在密度で、多く存在することとなる。この状態において、第1下地の表面は、第1改質剤由来の残基に含まれる第2官能基と、第2改質剤由来の残基に含まれる第2官能基と、で終端されることとなる。
【0176】
例えば、第1改質剤と第2改質剤とをこの順に供給した場合、第1改質剤が第1下地の表面に化学吸着した後に、第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基だけでなく、第1官能基の一部も残る。この第1下地の表面に残った第1官能基をOH基等の吸着サイトへ変換させることで、このOH基と第2改質剤の第1官能基との化学反応により、このOH基に第2改質剤を化学吸着させることができる。第2改質剤は、その分子中に、化学的な安定性の高い第2官能基を第1改質剤よりも多く含むことから、第2改質剤が化学吸着した後の第1下地の表面は、第2改質剤が化学吸着する前よりも、化学的な安定性の高い第2官能基が多く、また、化学的な安定性の高い第2官能基の存在密度が高く、且つ、更に大きい立体障害を構成する第2官能基を含むこととなる。すなわち、第1改質剤及び第2改質剤によりmodificationを行った後の第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基が多く、また、高密度に存在し、且つ、化学的な安定性の高い第2官能基により構成される極めて大きな立体障害が存在することとなる。つまり、この状態において、第1下地の表面は、第1改質剤由来の残基に含まれる化学的な安定性の高い第2官能基と、第2改質剤由来の残基に含まれる化学的な安定性の高い第2官能基と、で高密度に終端されることとなる。これにより、成膜時における原料ガスの第1下地の表面への吸着をより効果的に阻害することが可能となる。その結果、選択破れを抑制することができ、選択成長における選択性を向上させることが可能となる。
【0177】
ステップAにおいて、ステップA1と、ステップA2と、を非同時に、特に、ステップA1と、ステップA2と、をこの順に行うことで、上述の化学反応を、段階的に(多段階で)、適正に生じさせることが可能となる。その結果、第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基が多く、また、高密度に存在し、且つ、化学的な安定性の高い第2官能基により構成される極めて大きな立体障害が存在することとなる。これにより、成膜時における原料ガスの第1下地の表面への吸着をより効果的に阻害することが可能となり、その結果、選択破れを抑制することができ、選択成長における選択性を、より向上させることが可能となる。
【0178】
ステップAにおいて、ステップA1と、ステップA3と、ステップA2と、をこの順に行うことで、上述の化学反応を、段階的に(多段階で)、より適正に生じさせることが可能となる。その結果、第1下地の表面には、化学的な安定性の高い第2官能基が多く、また、高密度に存在し、且つ、化学的な安定性の高い第2官能基により構成される極めて大きな立体障害が存在することとなる。これにより、成膜時における原料ガスの第1下地の表面への吸着をより効果的に阻害することが可能となり、その結果、選択破れを抑制することができ、選択成長における選択性を、より向上させることが可能となる。
【0179】
なお、この場合に、ステップA1において、第1改質剤の一部を、少なくとも1つの第1官能基を含んだ状態で、第1下地の表面に吸着させることで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。
【0180】
また、この場合に、ステップA1において、第1改質剤を、第2官能基を含んだ状態で、第1下地の表面に吸着させ、ステップA2において、第2改質剤を、第2官能基を含んだ状態で、OH基(すなわち吸着サイト)に吸着させることにより、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。
【0181】
また、この場合に、ステップA1において、第1改質剤の一部を、第1下地の表面に存在し且つ隣接する2つのOH基(すなわち吸着サイト)と、1分子の第1改質剤と、の反応を用いて、第1下地の表面に吸着させることができる。すなわち、第1下地の表面に存在し且つ隣接する2つのOH基と、1分子の第1改質剤の2つ以上の第1官能基と、反応させることができる。これにより、1分子の第1改質剤で、2つOH基を、吸着阻害化させることができ、上述の化学反応を、より適正に、また、効率的に、生じさせることが可能となる。
【0182】
ステップAにおいて、ステップA1と、ステップA3と、を複数回繰り返すことで、また、ステップA1と、ステップA3と、ステップA2と、を複数回繰り返すことで、第1下地の表面の改質密度を高めることができる。言い換えれば、このような繰り返しを複数回行うことで、第1下地の表面の全域にわたり第3改質層をより充分に形成することができる。第1下地の表面の全域にわたり第3改質層をより充分に形成することで、選択破れを、より効果的に抑制することができ、選択成長における選択性を、より高めることが可能となる。
【0183】
ステップA3において、ウエハ200に対してO及びH含有物質として、O及びH含有ガスを供給することで、第1下地の表面に存在する第1官能基をより効率的にOH基へと変換させることができ、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。
【0184】
1分子中に含まれる第1官能基の数が2である第1改質剤と、1分子中に含まれる第1官能基の数が1である第2改質剤と、を用いることで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。また、1分子中に含まれる第1官能基の数が2であり1分子中に含まれる第2官能基の数が2である第1改質剤と、1分子中に含まれる第1官能基の数が1であり、1分子中に含まれる第2官能基の数が3である第2改質剤と、を用いることで、上述の化学反応を、更に適正に生じさせることが可能となる。
【0185】
第1官能基及び第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有する第1改質剤と、第1官能基及び第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有する第2改質剤と、を用いることで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。
【0186】
第1官能基がアミノ基である第1改質剤および第2改質剤を用いることで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。第1官能基が置換アミノ基である第1改質剤および第2改質剤を用いることで、上述の化学反応を、更に適正に生じさせることが可能となる。
【0187】
第2官能基が炭化水素基である第1改質剤および第2改質剤を用いることで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。第2官能基がアルキル基である第1改質剤および第2改質剤を用いることで、上述の化学反応を、更に適正に生じさせることが可能となる。
【0188】
第1下地が酸化膜であり、第2下地が酸化膜以外の膜であるウエハ200に対して各ステップを行うことで、上述の化学反応を、より適正に生じさせることが可能となる。第1下地がO含有膜(例えばSiO膜等)であり、第2下地がO非含有膜(例えばSiN膜やSi膜等)であるウエハ200に対して各ステップを行うことで、上述の化学反応を、更に適正に生じさせることが可能となる。
【0189】
ステップAおよびステップBを、ノンプラズマの雰囲気下で行うことで、第1下地の表面の改質と、第2下地の表面上への選択成長と、を適正に行うことが可能となる。また、ステップAおよびステップBを、ノンプラズマの雰囲気下で行うことで、ウエハ200へのプラズマダメージを回避することもできる。
【0190】
(4)変形例
本態様における処理シーケンスは、以下に示す変形例のように変更することができる。これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0191】
(変形例1)
ステップAによるmodificationを行う前に、ウエハ200の表面をフッ化水素(HF)水溶液に曝露するステップA4を更に行うようにしてもよい。ステップA4にて、HF水溶液を用いた洗浄処理(DHF洗浄ともいう)を行うことで、第1下地および第2下地のうち少なくともいずれかの表面に形成された自然酸化膜を除去することが可能となる。
【0192】
本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例によれば、第1下地の表面をOH基でより確実に終端させることが可能となる。そのため、その後に行うステップAによるmodificationにおいて、第1下地の表面の全体にわたり第3改質層の形成をより充分に行うことが可能となる。これにより、選択成長における選択性を、より高めることが可能となる。
【0193】
(変形例2)
ステップA3におけるウエハ200へのO及びH含有物質(例えば、O及びH含有ガス)の供給の代わりに、ウエハ200を大気に曝露させてもよい。すなわち、ウエハ200を大気に曝露することで、ウエハ200に対してO及びH含有物質として、大気(に含まれる水分(H2O))を供給するようにしてもよい。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。なお、この場合、O及びH含有物質としての水分は、気体であってもよく、液体、例えばミスト状であってもよい。
【0194】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0195】
例えば、ステップBにより選択成長を行った後、後処理(ステップC)を不実施としてもよい。この場合においても、後処理による効果以外については上述の態様と同様の効果が得られる。選択成長後に行う工程によっては、第1下地の表面の成膜阻害状態をリセットする必要がない場合があり、その場合、後処理が不要となる。
【0196】
また例えば、ウエハ200は、第1下地として複数種類の膜を有していてもよいし、第2下地として複数種類の膜を有していてもよい。第1下地及び第2下地を構成する膜としては、上述のSiO膜、SiN膜の他、SiOCN膜、SiON膜、SiOC膜、SiC膜、SiCN膜、SiBN膜、SiBCN膜、Ge膜、SiGe膜等の半導体元素を含む膜、TiN膜、W膜等の金属元素を含む膜、アモルファスカーボン膜(a-C膜)等であってもよい。第1改質剤及び第2改質剤により改質可能な表面(すなわち、吸着サイトを有する表面)を有する膜であれば、いずれの膜も第1下地として用いることができる。一方で、第1改質剤及び第2改質剤により改質し難い表面(すなわち、吸着サイトを有しない又は吸着サイトが少ない表面)を有する膜であれば、いずれの膜も第2下地として用いることができる。その場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0197】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0198】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0199】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0200】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0201】
上述の態様や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【実施例】
【0202】
(実施例1)
実施例1として、表面に、第1下地としてのSiO膜と、第2下地としてのSiN膜と、が露出したウエハを用い、上述の態様における処理シーケンスにより、SiOC膜の選択成長を行い、第1評価サンプルを作製した。第1評価サンプル作製の際は、第1改質剤としてBDAADASを用い、第2改質剤としてDAATASを用い、H及びO含有物質としてH及びO含有ガスを用い、原料ガス、反応ガス、触媒ガスとして、それぞれ、Si,C及びハロゲン含有ガス、O及びH含有ガス、アミン系ガスを用いた。なお、上述の態様における処理シーケンスを行う前に、表面にSiO膜とSiN膜とが露出したウエハを、HFをH2Oで1%に希釈したHF水溶液(以下、DHF)に30秒間浸漬させた。第1評価サンプル作製の際の各ステップにおける処理条件は、上述の態様の処理シーケンスの各ステップにおける処理条件範囲内の所定の条件とした。
【0203】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様にDHFに30秒間浸漬させた実施例1と同様のウエハを用い、ステップA1及びステップA3を行わなかった以外は上述の態様の処理シーケンスと同様にして、SiOC膜の選択成長を行い、第2評価サンプルを作製した。第2評価サンプル作製の際における、第2改質剤、原料ガス、反応ガス、触媒ガス、各ステップにおける処理条件は、第1評価サンプル作製の際におけるそれらと同様とした。
【0204】
(比較例2)
比較例2として、実施例1と同様にDHFに30秒間浸漬させた実施例1と同様のウエハを用い、ステップA3及びステップA2を行わなかった以外は上述の態様の処理シーケンスと同様にして、SiOC膜の選択成長を行い、第3評価サンプルを作製した。第3評価サンプル作製の際における、第1改質剤、原料ガス、反応ガス、触媒ガス、各ステップにおける処理条件は、第1評価サンプル作製の際におけるそれらと同様とした。
【0205】
第1~第3評価サンプルを作製した後、それぞれの評価サンプルにおける、SiO膜上に形成されたSiOC膜の厚さと、SiN膜上に形成されたSiOC膜の厚さと、を測定した。次いで、それぞれの評価サンプルにおける、SiN膜上に形成されたSiOC膜の厚さと、SiO膜上に形成されたSiOC膜の厚さと、の膜厚差(以下、単に膜厚差と称する)を算出した。
【0206】
その結果を
図9に示す。
図9の横軸は、それぞれ、左から順に、比較例1(第2評価サンプル)、比較例2(第3評価サンプル)、実施例1(第1評価サンプル)を示しており、縦軸はSiOC膜の膜厚(Å)を示している。棒グラフにおいて、左側の棒はSiO膜上に形成されたSiOC膜の膜厚を示しており、右側の棒はSiN膜上に形成されたSiOC膜の膜厚を示している。折れ線グラフは、膜厚差を示している。
図9では、この膜厚差を、便宜上、選択性(Selectivity)と称している。なお、この膜厚差が大きいほど、選択性が良好であり、この膜厚差が小さいほど、選択性が良好ではないことを示している。
【0207】
図9より、実施例1(第1評価サンプル)における膜厚差は、比較例1(第2評価サンプル)および比較例2(第3評価サンプル)におけるそれぞれの膜厚差よりも、遥かに大きいことが分かる。このように、実施例1によれば、選択成長における選択性を大幅に高めることが可能であることを確認することができた。
【0208】
なお、本件開示者らが行った他の成膜評価では、第2下地がSiN膜である場合だけでなく、第2下地が、単結晶Si、a-C膜、a-Si膜、AlO膜、SiCN膜、TiN膜である場合であっても、これらの第2下地上にSiOC膜が選択的に形成されることを確認済である。
【0209】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0210】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
(a)表面に第1下地と第2下地とが露出した基板に対して、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤と、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤の1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤と、を供給することで、前記第1下地の表面を改質させる工程と、
(b)前記第1下地の表面を改質させた後の前記基板に対して、成膜ガスを供給して、前記第2下地の表面上に(選択的に)膜を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法、または、基板処理方法が提供される。
【0211】
(付記2)
付記1に記載の方法であって、
(a)は、(a1)前記基板に対して前記第1改質剤を供給する工程と、(a2)前記基板に対して前記第2改質剤を供給する工程と、を非同時に行うことを含む。
【0212】
(付記3)
付記2に記載の方法であって、
(a)は、(a1)と、(a2)と、をこの順に行うことを含む。
【0213】
(付記4)
付記3に記載の方法であって、
(a)は、(a3)前記基板に対して酸素及び水素含有物質を供給する工程を更に含み、
(a1)と、(a3)と、(a2)と、をこの順に行うことを含む。
【0214】
(付記5)
付記4に記載の方法であって、
(a1)では、前記第1改質剤を前記第1下地の表面に吸着させ、
(a3)では、前記第1下地の表面に吸着した前記第1改質剤の一部の前記第1官能基を水酸基(すなわち吸着サイト)へ置換し、
(a2)では、前記第2改質剤を前記水酸基(すなわち吸着サイト)に吸着させる。
【0215】
(付記6)
付記5に記載の方法であって、
(a1)では、前記第1改質剤の一部を、少なくとも1つの前記第1官能基を含んだ状態で、前記第1下地の表面に吸着させる。
【0216】
(付記7)
付記5または6に記載の方法であって、
(a1)では、前記第1改質剤を、前記第2官能基を含んだ状態で、前記第1下地の表面に吸着させ、
(a2)では、前記第2改質剤を、前記第2官能基を含んだ状態で、前記水酸基(すなわち吸着サイト)に吸着させる。
これらにより、(a)において、前記第1下地の表面を前記第2官能基で終端させる。
【0217】
(付記8)
付記5~7のいずれか1項に記載の方法であって、
(a1)では、前記第1改質剤の一部を、前記第1下地の表面に存在し且つ隣接する2つの水酸基(すなわち吸着サイト)と、1分子の前記第1改質剤との反応を用いて、前記第1下地の表面に吸着させる。
【0218】
(付記9)
付記5~8のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)では、(a1)と、(a3)と、を複数回繰り返す。また、(a)では、(a1)と、(a3)と、(a2)と、を複数回繰り返すようにしてもよい。
【0219】
(付記10)
付記4~9のいずれか1項に記載の方法であって、
(a3)では、前記基板に対して前記酸素及び水素含有物質として、H2Oガスを供給する。また、(a3)では、前記基板を大気に曝露することで、前記基板に対して前記酸素及び水素含有物質として、大気に含まれる水分を供給するようにしてもよい。
【0220】
(付記11)
付記1~10のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1改質剤における1分子中に含まれる前記第1官能基の数が2であり、前記第2改質剤における1分子中に含まれる前記第1官能基の数が1である。
【0221】
(付記12)
付記11に記載の方法であって、
前記第1改質剤及び第2改質剤は、いずれも、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した4価の原子を含む構造を有する。
【0222】
(付記13)
付記1~12のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1官能基はアミノ基を含む。また、前記第1官能基は置換アミノ基を含むことが好ましい。
【0223】
(付記14)
付記1~13のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第2官能基は、炭化水素基を含む。
【0224】
(付記15)
付記1~14のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第2官能基は、アルキル基を含む。
【0225】
(付記16)
付記1~15のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)は、(a1)を行う前に、
(a4)前記基板の表面をフッ化水素水溶液に曝露する工程を更に有する。
【0226】
(付記17)
付記1~16のいずれか1項に記載の方法であって、
前記第1下地は酸化膜(例えば、シリコン酸化膜)であり、前記第2下地は酸化膜(例えば、シリコン酸化膜)以外の膜である。
【0227】
(付記18)
付記1~17のいずれか1項に記載の方法であって、
(a)および(b)を、ノンプラズマの雰囲気下で行う。
【0228】
(付記19)
本開示の他の態様によれば、
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して、第1官能基及び第2官能基が直接結合した原子を1つ以上含む第1改質剤を供給する第1改質剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して、前記第1官能基及び前記第2官能基が直接結合した原子を含み且つ1分子中に含まれる前記第1官能基の数が前記第1改質剤における1分子中に含まれる前記第1官能基の数よりも少ない第2改質剤を供給する第2改質剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して成膜ガスを供給する成膜ガス供給系と、
前記処理室内において、付記1の各処理(各工程)を行わせるように、前記第1改質剤供給系、前記第2改質剤供給系、および成膜ガス供給系を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置が提供される。
【0229】
(付記20)
本開示の更に他の態様によれば、
付記1の各手順(各工程)をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム、または、該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【符号の説明】
【0230】
200 ウエハ(基板)
10 第1改質層の一例
20 第2改質層の一例
30 第3改質層の一例
PG 成膜原料