(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド、及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 63/10 20060101AFI20230110BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230110BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230110BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230110BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C08L63/10
C08K3/22
C08K3/26
C08K5/14
C08J5/04 CEY
(21)【出願番号】P 2019026560
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】蒋 建業
(72)【発明者】
【氏名】柴田 欧
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/100174(WO,A1)
【文献】特開平10-087978(JP,A)
【文献】特開平11-140335(JP,A)
【文献】特開2011-127023(JP,A)
【文献】特開昭58-173114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00 ~ 63/10
C08K 3/00 ~ 3/40
C08J 5/00 ~ 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ(メタ)アクリレート(A)、重合性単量体(B)、無機フィラー(C)、及び有機過酸化物(D)を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機フィラー(C)が、炭酸カルシウム(c1)、水酸化アルミニウム(c2)、及び酸化マグネシウム(c3)を含
み、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)及び前記重合性単量体(B)の合計100質量部に対して、前記炭酸カルシウム(c1)が100~300質量部の範囲であり、前記水酸化アルミニウム(c2)が100~300質量部の範囲であり、前記酸化マグネシウム(c3)が300~750質量部の範囲であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項
1記載の熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とするバルクモールディングコンパウンド。
【請求項3】
請求項
2記載のバルクモールディングコンパウンドを成形したことを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド、及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に、低収縮剤、禁止剤、硬化剤、充填材、離型剤、強化材等を加えて、混練機で混練した熱硬化性樹脂組成物は、電気絶縁性、耐熱性、難燃性、高剛性、寸法安定性等の利点があるため、家電、自動車等に関連する電子部品のパッケージ(封止材)に広く応用されている。前記熱硬化性樹脂組成物の中でも、バルク状にしたバルクモールディングコンパウンド(Bulk Molding Compound;以下、「BMC」と略記する。)は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形方法により、成形品にすることができる。
【0003】
近年、電子部品は、高出力(高密度化)、小型化(軽量化)が進んでおり、電子部品内部により大量の熱が蓄積されやすくなっており、この熱によって電子部品の動作効率を低下する問題が生じている。この問題を解決するために、優れた熱伝導性を有する熱硬化性樹脂組成物(BMC)が求められている。
【0004】
熱硬化性樹脂組成物に熱伝導性を付与する方法として、熱硬化性樹脂組成物に、熱伝導性が高い窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の無機フィラーを添加する技術が知られている。これらの無機フィラーの中で、窒化ホウ素は、高い熱伝導性を有するフィラーであるが、コスト面で実用性が低く、また六方晶の薄片状結晶構造であることより、BMC中で窒化ホウ素が配向し、成形品の熱伝導性に異方性が生じてしまう問題があった。また、窒化アルミニウムは、熱伝導性に異方性はないが、窒化ホウ素と同様にコスト面での実用性が低く、さらに容易に加水分解してアンモニアを発生する問題があった。さらに、酸化アルミニウムは、モース硬度が高く、成形工程時に金型を摩耗させる問題があった。
【0005】
そこで、熱伝導性が比較的高く、異方性も生じず、かつ低コストいう利点もある無機フィラーである酸化マグネシウムを用いた熱硬化性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1~3を参照。)。しかしながら、これらの熱硬化性樹脂組成物は、酸化マグネシウムの充填量が少なく、硬化物(成形品、成形体)の熱伝導率が低いという問題があった。
【0006】
また、高熱伝導率硬化物を得るため、酸化マグネシウム等の高熱伝導率充填材の高充填を用いた熱硬化性樹脂組成物も提案されているが(例えば、特許文献4~5を参照。)。
しかしながら、これらの熱硬化性樹脂組成物は、高熱伝導率充填材や繊維材料等の固形分の体積含有率が非常に高いため、樹脂組成物の混練性や得られた樹脂組成物の流動性が不十分という問題があった。
【0007】
そこで、優れた混練性及び流動性を有し、かつ優れた熱伝導性及び難燃性を有する成形品を得ることのできる熱硬化性樹脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-192885号公報
【文献】特開2008-150486号公報
【文献】特開2009-102586号公報
【文献】特許第5636169号公報
【文献】特許第6419090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、優れた混練性を有し、経時的な粘度上昇を生じにくい高い保存安定性を有し、かつ優れた熱伝導性及び難燃性を有する成形品を得ることのできる熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、エポキシ(メタ)アクリレート、重合性単量体、特定の無機フィラー、及び有機過酸化物を含有する熱硬化性樹脂組成物は、優れた混練性を有し、経時的な粘度上昇を生じにくい高い保存安定性を有し、かつ優れた熱伝導性及び難燃性を有する成形品を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、エポキシ(メタ)アクリレート(A)、重合性単量体(B)、無機フィラー(C)、及び有機過酸化物(D)を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機フィラー(C)が、炭酸カルシウム(c1)、水酸化アルミニウム(c2)並びに酸化マグネシウム(c3)を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物、BMC及びそれを用いた成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、優れた混練性及び保存安定性を有し、該熱硬化性樹脂組成物を用いた成形品は、優れた熱伝導性及び難燃性を有するため、家電、自動車等に用いられる電子部品の支持体、電気自動車用モーター封止材、リチウムイオン二次電池の保持体、リチウムイオン二次電池集合体のケースなどに非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ(メタ)アクリレート(A)、重合性単量体(B)、無機フィラー(C)、及び有機過酸化物(D)を含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記無機フィラー(C)が、炭酸カルシウム(c1)、水酸化アルミニウム(c2)並びに酸化マグネシウム(c3)を含むものである。
【0014】
前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)は、例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応させることで得られる。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方又は一方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの両方又は一方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルの両方又は一方をいう。
【0016】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、オキゾドリドン変性エポキシ樹脂、これらの樹脂の臭素化エポキシ樹脂等のフェノールのグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等の多価アルコールのグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル-p-オキシ安息香酸、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、トリグリシジル-p一アミノフェノール、N,N-ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミン、1,3-ジグリシジル-5,5-ジメチルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、成形品強度と成形材料の取り扱い性、成形材料の成形時の流動性により優れることから2官能性芳香族系エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。なお、これらのエポキシ樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0017】
前記したエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応は、エステル化触媒を用い、60~140℃において行われることが好ましい。また、重合禁止剤等を使用することもできる。
【0018】
前記重合性単量体(B)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ジビニルベンゼン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリールフタレ-ト、トリアリールシアヌレ-ト、(メタ)アクリロイル基を有する単量体等が挙げられる。これらの重合性単量体は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0019】
前記(メタ)アクリロイル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレ-ト、ポリテトラメチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス〔(メタ)アクリロイルオキシ〕-2-プロパノール、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシ・ポリエトキシフェニル〕プロパン、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等が挙げられる。
【0020】
また、硬化物表面の耐摩耗性、耐擦傷性、耐薬品性等の性能をさらに向上する必要がある場合には、2以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体を前記単量体(B)として用いることが好ましく、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体を前記単量体(B)として用いることがより好ましい。3以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレ-ト、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド・ε-カプロラクトン変性トリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)と前記重合性単量体(B)との質量比[(A)/(B)]が、90/10~30/70の範囲が好ましく、80/20~40/60の範囲がより好ましく、70/30~50/50の範囲がさらに好ましい。
【0022】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)及び前記重合性単量体(B)以外の他の樹脂成分を配合してもよい。このような他の樹脂成分としては、例えば、不飽和ポリエステル、ウレタン(メタ)アクリレート等の樹脂が挙げられる。なお、本発明における樹脂成分には、前記重合性単量体(B)を含む。
【0023】
前記無機フィラー(C)は、優れた混練性及び保存安定性を有し、かつ優れた熱伝導性及び難燃性を有する成形品が得られることから、炭酸カルシウム(c1)、水酸化アルミニウム(c2)、及び酸化マグネシウム(c3)を含むことが重要である。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における混練性がより向上することから、前記炭酸カルシウム(c1)の平均粒径は、1~10μmの範囲が好ましく、1~5μmの範囲がより好ましい。
【0025】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、前記炭酸カルシウム(c1)の配合量としては、混練性、保存安定性、得られる成形品の熱伝導性及び難燃性のバランスがより優れることから、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)及び前記重合性単量体(B)の合計100質量部に対して、100~300質量部の範囲が好ましく、100~200質量部の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における混練性がより向上することから、前記水酸化アルミニウム(c2)の平均粒径は、1~30μmの範囲が好ましく、1~15μmの範囲がより好ましい。
【0027】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、前記水酸化アルミニウム(c2)の配合量としては、混練性、得られる成形品の熱伝導性及び難燃性のバランスがより優れることから、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)及び前記重合性単量体(B)の合計100質量部に対して、100~300質量部の範囲が好ましく、100~200質量部の範囲がより好ましい。
【0028】
本発明の成形品の熱伝導性がより向上することから、前記酸化マグネシウム(c3)の平均粒径は、40~120μmの範囲が好ましく、60~100μmの範囲がより好ましい。
【0029】
前記酸化マグネシウム(c3)を使用する際の配合量としては、混練性、保存安定性、得られる成形品の熱伝導性及び難燃性のバランスがより優れることから、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)及び前記重合性単量体(B)の合計100質量部に対して、300~750質量部の範囲が好ましく、400~650質量部の範囲がより好ましい。
【0030】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭酸マグネシウム等の他の無機フィラーを配合しても構わない。
【0031】
なお、本発明において、「平均粒径」とは、レーザー回折法を用いて得られた体積基準平均粒径(D50)の値である。
【0032】
前記有機過酸化物(D)は、本発明の熱硬化性樹脂組成物において、硬化剤となるものである。前記有機過酸化物(D)としては、例えば、ジアシルパーオキサイド系有機過酸化物、パーオキシエステル系有機過酸化物、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物、ケトンパーオキサイド系有機過酸化物、パーオキシケタール系有機過酸化物、アルキルパーエステル系有機過酸化物、パーカーボネート系有機過酸化物等が挙げられる。
【0033】
前記有機過酸化物(D)の配合量は、前記エポキシ(メタ)アクリレート(A)と前記重合性単量体(B)との合計100質量部に対して、0.5~5質量部の範囲が好ましく、1~3質量部の範囲がより好ましい。
【0034】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、上記の成分(A)~(D)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、重合禁止剤、硬化促進剤、低収縮化剤、分散剤、離型剤、補強材、顔料、難燃剤、着色剤、消泡剤等を配合してもよい。
【0035】
前記重合禁止剤としては、例えば、トルハイドロキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、1,4-ナフトキノン、パラベンゾキノン、トルハイドロノン、p-t-ブチルカテコール、2,6-t-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。本発明の熱硬化性樹脂組成物に重合禁止剤を配合する際の配合量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中10~1,000ppmの範囲が好ましい。
【0036】
前記低収縮化剤は、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化収縮を抑制するために配合するものである。前記低収縮化剤としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、飽和ポリエステル、スチレン-ブタジエン系ゴム、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。これらの低収縮化剤は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0037】
前記離型剤は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を、金型を用いて成形した後、金型から得られた成形品の取り出しを容易にするためのものである。前記離型剤としては、例えば、不飽和脂肪酸アミド系離型剤、ポリエチレンワックス系離型剤、金属石鹸系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。また、前記金属石鹸系離型剤としては、例えば、ラウリル酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛等が挙げられる。
【0038】
前記補強材としては、例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維、フェノール繊維、ポリエステル繊維等の繊維状の材料が挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点からガラス繊維が好ましい。このガラス繊維は、ガラスチョップ、ミルドガラス、ロービングガラス等のいずれのものも用いることができる。
【0039】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記の各成分をプラネタリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて混錬することにより製造することができる。また、得られる樹脂組成物がバルク状になるように、配合組成を調整することで、バルクモールディングコンパウンド(BMC)とすることができる。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をBMCとすることで、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形方法により、容易に成形品にすることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0042】
(製造例1:エポキシ(メタ)アクリレート(A-1)の製造)
温度計、窒素導入管、撹拌機を設けた2Lフラスコに、エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン850」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量188)671質量部、メタクリル酸310質量部、及びt-ブチルハイドロキノン0.28質量部を仕込み、窒素と空気とを1対1で混合したガス流通下で、90℃まで昇温した。ここに2-メチルイミダゾール0.60質量部を入れ、110℃に昇温して10時間反応させると、酸価が6以下になったので、反応を終了した。60℃付近まで冷却した後、反応容器より取り出し、エポキシ(メタ)アクリレート(A-1)を得た。
【0043】
(実施例1:熱硬化性樹脂組成物(1)の調整)
製造例1で得られたエポキシエタクリレート(A-1)65質量部、フェノキシエチルメタクリレート30質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート5質量部、炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製「ソフトン1200」;平均粒径1.8μm)135質量部、水酸化アルミニウム(昭和電工株式会社製「ハイジライトHC-32」;平均粒径8μm)135質量部、酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製「RF-70C-SC」;平均粒径90μm)400質量部、湿潤分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK W9010」)8質量部、離型剤(ステアリン酸亜鉛;堺化学工業株式会社製「SZ-2000」)5質量部、及び有機過酸化物(パーオキシエステル;日油株式会社製「パーキュアHO(TN)」)1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて12分間混錬した後、補強材(ガラス繊維/チョップドストランド;重慶国際複合材料有限公司製「ECS404-6」;繊維長6mm)51.5質量部を加えて、さらに6分間混錬することで、熱硬化性樹脂組成物(1)を得た。
【0044】
(実施例2~5)
表1に示した配合組成に変更した以外は実施例1と同様に行い、熱硬化性樹脂組成物(2)~(5)を得た。
【0045】
(比較例1~4)
表1に示した配合組成に変更した以外は実施例1と同様に行い、熱硬化性樹脂組成物(R1)~(R4)を得た。
【0046】
上記の実施例1~5及び比較例1~4で得られた熱硬化性樹脂組成物(1)~(5)及び(R1)~(R4)を用いて、それぞれ下記の評価を行った。なお、比較例2~4で作製した熱硬化性樹脂組成物(R2)~(R4)については、混錬性が不良であったため、それ以降の評価は行わなかった。
【0047】
[混錬性の評価]
得られた熱硬化性樹脂組成物の外観を目視で観察し、下記の基準にしたがって混錬性を評価した。
◎:バルク状になり、補強材の分散状態が優れているもの。
○:バルク状になり、補強材の分散状態が良好なもの。
×:バルク状にならないもの。
【0048】
[保存安定性の評価]
得られた熱硬化性樹脂組成物を25℃の温度条件下に保管し、1日毎に熱硬化性樹脂組成物の粘度を測定した。なお、粘度測定は、キャピラリー粘度計(細管型レオメータ)を用いて下記の測定条件により行った。また、保存安定性の評価は、初期粘度から粘度増加が15%未満である期間(日)で判断し、この期間が長いほど、保存安定性に優れるものと判断した。
・サンプル量:75g
・測定温度条件:50℃
・押出速度:50mm/分
・ノズル径:6mm
・ノズル長さ:10mm
【0049】
[熱伝導率の測定]
成形温度125℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間360秒の条件で圧縮成形を行い、300mm×300mm×厚さ10mmの平板を作製し、QTM法により熱伝導率を測定した。
【0050】
[酸素指数の測定]
成形温度125℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間300秒の条件で圧縮成形を行い、300mm×300mm×厚さ3mmの平板を作製し、JIS K7201に基づいて測定用試験片(長さ:130mm、幅:6.5mm、厚さ:3mm)を切り出し、酸素指数を測定した。
【0051】
上記で調製した熱硬化性樹脂組成物の組成及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
表中の「酸化アルミニウム(アルミナ)」は日本軽金属株式会社製「V325F」(平均粒径12μm)である。
【0055】
実施例1~5の本発明の熱硬化性樹脂組成物は混錬性及び保存安定性に優れ、得られた成形品は、熱伝導率及び酸素指数が高いことが確認された。
【0056】
一方、比較例1は、本発明の必須成分である水酸化アルミニウムを含有しない例であるが、酸素指数が低いことが確認された。
【0057】
比較例2は、本発明の必須成分である炭酸カルシウムを含有しない例であるが、混錬性が不良であることが確認された。
【0058】
比較例3は、無機フィラーとして、酸化マグネシウムのみを含有した例であるが、混練性が不良であることが確認された。
【0059】
比較例4は、無機フィラーとして、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムを含有した例であるが、混練性が不良であることが確認された。