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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】光導波路素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/122 20060101AFI20230110BHJP
   G02B 6/132 20060101ALI20230110BHJP
   G02F 1/035 20060101ALI20230110BHJP
   G02B 6/30 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
G02B6/122
G02B6/132
G02F1/035
G02B6/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019046138
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020148896
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 優
(72)【発明者】
【氏名】一明 秀樹
【審査官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-281536(JP,A)
【文献】特開2006-284961(JP,A)
【文献】特開2005-340516(JP,A)
【文献】特開2005-189347(JP,A)
【文献】特開2015-075568(JP,A)
【文献】特開昭61-134730(JP,A)
【文献】特開平03-252610(JP,A)
【文献】特開2007-271694(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020641(WO,A1)
【文献】特開2005-227731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0077060(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一面にTi拡散による光導波路が形成され、
該基板の端部には、該光導波路へ光を入射する入射部又は該光導波路から光を出射する出射部が配置され、
該入射部又は該出射部の少なくとも一方とその近傍の光導波路上に誘電体膜が形成された光導波路素子において、
該誘電体膜は、該基板の屈折率より高い屈折率をもつ第1の材料の誘電体膜と、該基板の屈折率よりも低い屈折率をもつ第2の材料の誘電体膜とを含む誘電体膜が、互に積層されており、
該誘電体膜の平均屈折率をn、該基板の屈折率をnsとしたときに、n/nsが0.970以上、1.003以下であり、
該誘電体膜の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光導波路を形成するチタン膜の幅は、6μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該基板の厚みが20μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項に記載の光導波路素子において、該基板が樹脂層を介して補強基板に接合されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載の光導波路素子において、該誘電体膜は、該光導波路が該端部から離れるに従い、徐々に膜厚が減少する部分を有することを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板がニオブ酸リチウムであり、該誘電体膜がニオブ、タンタル、シリコン、チタン、ジルコニア、イットリア、テルル、ハフニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ゲルマニウムの内、少なくとも一つ以上の元素を含有する酸化膜もしくは窒化膜で構成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項に記載の光導波路素子において、該誘電体膜の第1の材料又は第2の材料の少なくとも一つの材料の線膨張係数が、ニオブ酸リチウムのa軸とc軸の線膨張係数の間の値であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項8】
基板の一面にTi拡散による光導波路が形成された光導波路素子の製造方法において、
該光導波路を形成した後に、該光導波路へ光を入射する入射部又は該光導波路から光を出射する出射部の少なくとも一方とその近傍の光導波路上に、誘電体膜を形成すると共に、
該誘電体膜は、該基板の屈折率より高い屈折率をもつ第1の材料の誘電体膜と、該基板の屈折率よりも低い屈折率をもつ第2の材料の誘電体膜とを含む誘電体膜が、互に積層されており、
該誘電体膜の平均屈折率をn、該基板の屈折率をnsとしたときに、n/nsが0.970以上、1.003以下であり、
該誘電体膜の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする光導波路素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びその製造方法に関し、特に、基板の一面に光導波路を形成した光導波路素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、光変調器や光スイッチなど、基板の少なくとも一面に光導波路を形成した光導波路素子が利用されている。変調周波数の広帯域化などのニーズに応えるため、多値変調器などのように、一つの基板に形成される光導波路に複数の光変調部分を組み込むことが行われており、光波を分岐又は合波する頻度が増え、光導波路素子全体での低損失化が求められている。
【0003】
光変調部分が増えるということは、光導波路のパターン形状が複雑化するだけでなく、光変調部分に配置される信号電極などの制御電極の数も増え、制御電極に繋がる配線パターンも複雑化する。そのため、Xカット型の電気光学基板を用いた光導波路素子では、光導波路上に配置される交差部分の信号電極の幅を狭窄化させて、光損失を低く抑える方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、光導波路素子の低損失化には、光入出力部における結合損失の低減も求められている。ニオブ酸リチウム(LN)の基板にTiを熱拡散して光導波路を形成した光導波路素子では、チタン熱拡散に起因して、光導波路のモードフィールド径(MFD)が非対称になる。他方、対称なモードフィールド径を持つ光ファイバと光導波素子との光学的結合では、MFDの形状のミスマッチにより、一つの光入出射部あたり約0.7dBの結合損失が発生する。
【0005】
光導波路素子における光導波路のモードフィールド径の非対称性を要因とした、光ファイバとの結合損失を低減するため、特許文献2では、光導波路の光入出力部において、LN基板と同一の材料であるLN膜を基板上にスパッタ成膜する方法が提案されている。具体的には、LN基板上に光導波路のパターンにTi膜を蒸着し、その後、光導波路の入出力部に相当する部分には、Ti膜を含むLN基板上にLN膜をスパッタ法などで形成する。その後、TiをLN基板やLN膜内に熱拡散させて光導波路を形成する。これにより、光入出力部でのモードフィールド径の非対称性を緩和させて、光ファイバとの結合損失を低減させるものである。
【0006】
しかし、LN膜のような非晶質なスパッタ膜とLN基板のような結晶では、Tiの熱拡散速度は異なるため、モードフィールド径の非対称性を緩和することは困難である。また、特許文献2では、LN膜の厚みをテーパ形状に形成して徐々にモードフィールド径を変化させることが提案されている。しかしながら、Tiが熱拡散する範囲よりも厚いLN膜ではTiの熱拡散の形状は同じであるが、厚みが連続して変化しているテーパ部では、LN膜の厚みによってTiの熱拡散形状が大きく異なる。具体的には、LN膜の厚みがTiの熱拡散する範囲よりも薄い部分では、LN膜の厚さまで熱拡散したTiは、厚さ方向に垂直な横方向に重点的に拡散が発生する。このため、テーパ部の光導波路の断面形状は歪な非対称形状となり易く、テーパ部を設けることは、むしろ光伝搬損失が増大する要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6107868号公報
【文献】特公平6-44086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、光導波路素子の光導波路におけるモードフィールド径の非対称性を緩和し、光導波路素子と光ファイバとの結合損失を低減可能な光導波路素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
(1) 基板の一面にTi拡散による光導波路が形成され、該基板の端部には、該光導波路へ光を入射する入射部又は該光導波路から光を出射する出射部が配置され、該入射部又は該出射部の少なくとも一方とその近傍の光導波路上に誘電体膜が形成された光導波路素子において、該誘電体膜は、該基板の屈折率より高い屈折率をもつ第1の材料の誘電体膜と、該基板の屈折率よりも低い屈折率をもつ第2の材料の誘電体膜とを含む誘電体膜が、互に積層されており、該誘電体膜の平均屈折率をn、該基板の屈折率をnsとしたときに、n/nsが0.970以上、1.003以下であり、該誘電体膜の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする。
【0010】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光導波路を形成するチタン膜の幅は、6μm以下であることを特徴とする。
【0012】
) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該基板の厚みが20μm以下であることを特徴とする。
【0013】
) 上記()に記載の光導波路素子において、該基板が樹脂層を介して補強基板に接合されていることを特徴とする。
【0014】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該誘電体膜は、該光導波路が該端部から離れるに従い、徐々に膜厚が減少する部分を有することを特徴とする。
【0015】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板がニオブ酸リチウムであり、該誘電体膜がニオブ、タンタル、シリコン、チタン、ジルコニア、イットリア、テルル、ハフニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ゲルマニウムの内、少なくとも一つ以上の元素を含有する酸化膜もしくは窒化膜で構成されていることを特徴とする。
【0016】
) 上記()に記載の光導波路素子において、該誘電体膜の第1の材料又は第2の材料の少なくとも一つの材料の線膨張係数が、ニオブ酸リチウムのa軸とc軸の線膨張係数の間の値であることを特徴とする。
【0017】
) 基板の一面にTi拡散による光導波路が形成された光導波路素子の製造方法において、該光導波路を形成した後に、該光導波路へ光を入射する入射部又は該光導波路から光を出射する出射部の少なくとも一方とその近傍の光導波路上に、誘電体膜を形成すると共に、該誘電体膜は、該基板の屈折率より高い屈折率をもつ第1の材料の誘電体膜と、該基板の屈折率よりも低い屈折率をもつ第2の材料の誘電体膜とを含む誘電体膜が、互に積層されており、該誘電体膜の平均屈折率をn、該基板の屈折率をnsとしたときに、n/nsが0.970以上、1.003以下であり、該誘電体膜の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、基板の一面に光導波路が形成され、該基板の端部には、該光導波路へ光を入射する入射部又は該光導波路から光を出射する出射部が配置され、該入射部又は該出射部の少なくとも一方とその近傍の光導波路上に誘電体膜が形成された光導波路素子において、該誘電体膜は、該基板の屈折率より高い屈折率をもつ第1の材料の誘電体膜と、該基板の屈折率よりも低い屈折率をもつ第2の材料の誘電体膜とを含む誘電体膜が、互に積層されているため、入射部又は出射部におけるモードフィールド径の非対称性を緩和することが可能となる。その結果、光導波路素子と光ファイバとの結合損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る光導波路素子の一例を示す図(光導波路素子の一端面の図)である。
図2】本発明に係る光導波路素子の一例を示す平面図である。
図3図2の点線A-A’における断面図である。
図4】本発明に係る光導波路素子の他の例を示す図(光導波路素子の一端面の図)である。
図5】誘電体膜を形成していない場合のMFDを示す図である。
図6】誘電体膜を形成した場合のMFDを示す図である。
図7】光導波路幅(Ti幅)に対するMFDの対称性の変化を示すグラフである。
図8】規格化屈折率(n/ns)に対する結合損失の変化を示すグラフである。
図9】五酸化タンタルと五酸化ニオブとの組成比率に対する規格化屈折率の変化示すグラフである。
図10】2種類の材料の組合せに関し、組成比率に対する規格化屈折率の変化を示すグラフである。
図11】基板ウェハにおける誘電体膜の配置例を示す図である。
図12】誘電体膜のひび割れ状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光導波路素子及びその製造方法について、詳細に説明する。
まず、特許文献2に示されるような従来例の問題は、上述したように、ニオブ酸リチウム(LN)基板の上にLN膜を積層し、LN基板とLN膜の両方に対してTiの熱拡散を行っているが、両者の熱拡散速度が異なるため、非対称なモードフィールド径が十分緩和できないことである。しかも、LN膜のテーパ部分では、光導波路の断面形状が歪な非対称形状となり易く、特に光伝搬損失も大きくなる。
【0021】
これに対し、本発明者らは、図1~3に示すように、LN基板のTi拡散による光導波路において、光入出力部を含む光導波路上にLNに近い屈折率を有する誘電体膜(従来は空気あるいは低屈折率(n<1.6)の接着層が存在)を形成することにより、モードフィールド径の非対称性が緩和されることを確認した。このため、光導波路の形成プロセスであるTiの熱拡散を実施した後、光導波路を含むLN基板上にLN膜を積層する方法を検討した。また、LN基板上に配置する誘電体膜は、通常、LN基板と同一もしくはLN基板よりも低い屈折率を有する膜であることが必要であり、基板と同一材料であるLNの膜が誘電体膜の第一候補に挙げられる。しかしながら、LNは異方性を有する材料であり、LN基板のTi拡散による光導波路は、異常光を利用している。このような光導波路上に、通常の蒸着膜やスパッタ膜を形成しても、異方性結晶のように光の偏光方向によって屈折率の異なる膜を形成することが出来ないため、光導波路のモードフィールド径の非対称性を緩和する効果は得られない。基板上にLN膜を配置する方法として、エピタキシャル膜を形成する方法や同一のLN基板を直接接合する方法は有効であるが、技術的な難易度も高いため、生産性が劣ることとなる。
【0022】
後に詳述するように、本発明者らは、光ファイバとの結合損失低減のためには、誘電体膜の特徴として、Tiの熱拡散による光導波路上に配置する誘電体膜の屈折率nを、LN基板の屈折率(ns=2.138)で規格化した屈折率n/nsを0.970~1.003として、厚さ0.5μm以上で形成することが必要になることを見出した。
【0023】
しかしながら、LN基板の屈折率よりも低く、かつ近い屈折率を有する材料として、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化亜鉛などが挙げられるが、モードフィールド径の非対称緩和に効果のある、規格化屈折率n/nsを計算した結果、これらの膜を形成しても、好ましい範囲である0.970~1.003にすることは出来ないことが判明した。
【0024】
また、窒化シリコン膜は窒化率で屈折率が変化することが知られており、窒素ガスを導入する反応性スパッタで、所望の規格化屈折率を有する誘電体膜の形成を検討した。ところが、図4に示すように、光導波路が形成されている基板の厚みが20μm以下であり、その基板が接着層である樹脂層を介して補強基板に接合されている構造を有する際には、誘電体膜の形成を行う場合に、当該樹脂層が存在するため、成膜時の温度を十分に高くすることが出来ない。そのため、膜強度が不十分であり、形成後に膜割れや膜剥がれの問題が生じた。
【0025】
そこで、LNの基板屈折率よりも高い屈折率を持つ第1の材料と低い屈折率を持つ第2の材料を組み合わせた積層構造の誘電体膜について検討した。誘電体膜としては、ニオブ、タンタル、シリコン、チタン、ジルコニア、イットリア、テルル、ハフニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ゲルマニウムの内、少なくとも一つ以上の元素を含有する酸化膜もしくは窒化膜が利用可能である。
【0026】
例えば、LN基板の基板屈折率よりも高い屈折率を有する材料である、シリコン、酸化チタン、酸化ニオブのいずれかと、LN基板の基板屈折率よりも低い屈折率を有する材料である、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化シリコン、酸化マグネシウム、窒化シリコンのいずれかを、同時にスパッタすればよい。また、両者の材料を混合したターゲットを作製してスパッタしてもよい。さらに、屈折率に対する組成変化の影響を考慮した場合、両者の屈折率差の少ない酸化ニオブと酸化タンタルの組み合わせが、特に好ましい。実際に、酸化ニオブと酸化タンタルを同時にスパッタし、ターゲット毎に入力する高周波パワーを調整することにより、所望の規格化屈折率の範囲に入る誘電体膜が形成できることを確認した。
【0027】
化学気相成長(CVD)やイオンプレーティング蒸着などの他の成膜方法により、所望の規格化屈折率範囲の誘電体膜を形成することも可能である。しかしながら、光導波路が形成されている基板の厚みが20μm以下であり、その基板が接着層である樹脂層を介して補強基板に接合されている構造の場合は、樹脂層への影響を抑制し、十分な膜強度を有する誘電体膜の形成が可能となる低温プロセスのスパッタ法がより好ましい。
【0028】
誘電体膜の形状としては、図3図2の点線A-A’における断面図)に示すように、光導波路が基板の端部から離れるに従い、徐々に誘電体膜の膜厚が減少する部分(テーパ部)を有することが好ましい。これにより、モードフィールド径を徐々に変化させることができ、光伝搬損失の発生を抑制することが可能となる。特許文献2の場合は、テーパ部により光伝搬損失がむしろ増大していたが、本発明の構成においては、当該テーパ部による特性の改善が期待できる。本発明において、誘電体膜の膜厚の急激な変化による光伝搬損失の増大を回避するには、テーパ部の傾斜角θは最大1°以下であることが好ましい。
【0029】
(確認試験)
本発明の光導波路素子の製造プロセスの条件を確認するため、以下の試験を行った。
LN基板として、市販の直径4インチ、厚さ0.5mmのニオブ酸リチウムウェハ(X板、品質:オプティカルグレード)を用いた。
LN基板上に形成するチタン膜のパターン幅を3.0μm,3.5μm,4.0μm,4.5μm,5.0μm,5.5μm,6.0μm,7.0μm,及び8.0μmとし、Ti膜の高さを1000Åに設定した。
LN基板上でチタンを熱拡散させるため、電気炉内の温度を1000℃に設定し、拡散時間として15時間を設けた。
【0030】
誘電体膜の形成には、多元同時マグネトロンスパッタ装置を用いて、五酸化タンタル(純度4N)と五酸化ニオブ(純度3N)をスパッタ材料にした。プロセスガスとして、アルゴンを8.2sccm、酸素を1.0sccmを導入して、五酸化タンタルに320W、五酸化ニオブに500Wの高周波パワーを加えてスパッタを行った。
ターゲットと対向して配置されているウェハが装置内で回転しており、ターゲット上を通過する度に成膜されるため、誘電体膜は積層構造の酸化膜で構成されている。
【0031】
図2に示すように、LNチップの光入射部と光出射部に限定して誘電体膜を形成するために、LNウェハ表面をマスクした。
また、急激なMFD変動による光損失の増加を防ぐため、光導波路の進行方向に対する誘電体膜の膜厚を緩やかに変化させている(図3のテーパ部参照)。
【0032】
チタン膜の幅5μmにおいて、誘電体膜を形成していない場合のMFDを図5、誘電体膜を形成した場合のMFDを図6に示す。図5図6とを比較すると、LN基板にTiの熱拡散で形成した光導波路上に誘電体膜を設けることで、モードフィールド径の非対称性が緩和していることが確認できた。
【0033】
チタン膜のパターン幅は、光学顕微鏡(オリンパス(株)社製,MX50)に自動線幅測定システム((株)フローベル社製,TARCY LS200)を取り付け、熱拡散前のLN基板のチタン膜のパターン幅を測定した。
熱拡散後のパターン幅も本システムで測定可能であり、熱拡散前後でパターン幅に大きな差異は生じなかった。
MFDは、高機能型ニアフィールドパターン(NFP)計測光学系(シナジーオプトシステムズ社製,M-Scope type S)を用いて、波長1550nmで測定した。
【0034】
各チタン幅に対する縦方向におけるMFDの対称性を図7のグラフに示す。ここで、縦方向におけるMFDの対称性σy(+)/σy(-)は、MFDの光強度分布の最大値から基板表面に垂直な方向(縦方向)のおける上方向(+)と下方向(-)におけるモードフィールドの幅(最大値の1/eとなる強度)であり、σy(+)/σy(-)が1に近いほど対称性が高いことを表す。
【0035】
図7を参照すると、誘電体膜が有る場合は、誘電体膜が無い場合と比較して、縦方向におけるMFDの対称性σy(+)/σy(-)が1に近づいており、非対称性が緩和されていることを確認した。特に、光閉じ込めの弱いチタン幅6μm以下の光導波路において、非対称性が大幅に改善している。また、本発明に係る誘電体膜を光導波路の曲がり部に適用した場合でも、放射損失の低減効果が期待される。
【0036】
結合損失と屈折率依存性を計算した結果を図8のグラフ(グラフ中の凡例は、誘電体膜の膜厚を意味している。)に示す。誘電体膜の規格化屈折率を0.970~1.003に設定することで、結合損失が効果的に抑制されていることが理解される。しかも、誘電体膜の膜厚については、1~4μmのいずれにおいても改善が見られ、より詳細に分析したところ、モードフィールド径の非対称性の緩和は不十分であるが膜厚を0.5μm以上に設定することで、結合損失の低減に寄与することが確認されている。特に、規格化屈折率0.981~1.001、膜厚1μm以上である場合が十分なモードフィールド径の非対称性の緩和が得られ結合損失の大幅な低減に繋がるため好ましい。一方、誘電体膜の規格化屈折率が基板の屈折率よりも大きくなると結合損失が増加し、光導波路の規格化屈折率1.005付近で誘電体膜が無い場合よりも結合損失が悪化することが理解できる。
【0037】
形成した屈折率と誘電体膜の五酸化タンタルと五酸化ニオブの組成比率の関係を図9のグラフに示す。図9の横軸は、組成比率が0の場合は、五酸化タンタルが100%、組成比率が1の場合は五酸化ニオブが100%であることを意味する。誘電体膜の規格化屈折率0.970~1.003にする場合は五酸化タンタルに対する五酸化ニオブの割合を5~60%にすることが好ましく、誘電体膜の規格化屈折率を0.981~1.001にする場合は五酸化タンタルに対する五酸化ニオブの割合を20~60%にすることが好ましい。
【0038】
誘電体膜の候補となる材料の屈折率と熱膨張係数を表1に示す。
屈折率に対する組成変化の影響を考慮した場合、酸化ニオブと酸化タンタルのように屈折率差の少ない材料を組み合わせることが好ましい(図9)。
また、図10に、誘電体膜の規格化屈折率(n/ns)を0.970~1.003の範囲内に設定可能な材料の組合せの例と、組合せ材料毎の組成比率による規格化屈折率の変化を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
異常光を利用するLNチタン拡散光導波路においては、屈折率2.20の酸化ニオブと屈折率2.11の酸化ジルコニウム(イットリア安定化ジルコニアを含む)の組み合わせが、屈折率に対する組成変動の影響は最も少ない。
しかし、酸化ジルコニウムは高強度で破壊靭性も高いため、スパッタによる成膜速度が遅いことがプロセス上の課題になる。
【0041】
次に、屈折率2.20の酸化ニオブと屈折率2.08の酸化テルルの組み合わせが挙げられるが、XカットのLNウェハにおいて、光入射部と光出射部に誘電体膜を形成する場合(図11)、結晶c軸(ne)方向の熱膨張係数7.5(×10-6/℃)に近づけることが望ましい。また、結晶a軸(no)方向(図11のウェハ面に垂直な方向)の熱膨張係数15.0(×10-6/℃)も考慮し、誘電体膜の第1の材料又は第2の材料の少なくとも一つの材料の線膨張係数が、基板のa軸とc軸の線膨張係数の間の値であることが望ましい。
【0042】
酸化ニオブと酸化テルルの熱膨張係数はそれぞれ14.3、15.0(×10-6/℃)であるため、ZカットのLNウェハには好ましいが、XカットのLNウェハにはあまり好ましくはない。XカットのLNウェハにおいて、熱膨張係数3.3(×10-6/℃)程度の窒化シリコン膜を形成した場合、図12に示すように熱膨張係数の異なるc軸方向に膜割れが生じた。XカットのLNウェハを用いる場合、酸化ニオブと屈折率差の少ない酸化ハフニウム、酸化タンタル、窒化シリコン、酸化亜鉛を組み合わせることが屈折率制御および熱膨張係数の整合を図る上で好ましい。特に、光導波路が形成されているXカットのLN基板の厚みが20μm以下であり、その基板が樹脂層を介して補強基板に接合されている構造に対して膜形成を行う場合、膜質の安定性が高い酸化タンタルを膜応力の弱い酸化ニオブと組み合わせることが好ましい。
【0043】
以上の説明では、基板材料としてニオブ酸リチウム(LN)を中心に説明したが、それ以外に、タンタル酸リチウム、ジルコン酸チタン酸ランタン(PLZT)などの結晶材料や、InPなどの半導体基板を用いることも可能である。
また、光導波路の形成方法としては、ニオブ酸リチウム基板(LN基板)上にチタン(Ti)などの高屈折率物質を熱拡散する方法だけでなく、プロトン交換法などにより形成される場合にも、本発明が適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、光導波路素子の光導波路におけるモードフィールド径の非対称性を緩和し、光導波路素子と光ファイバとの結合損失を低減可能な光導波路素子及びその製造方法を提供することができる。
図1
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図10
図11
図12