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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】金属皮膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022540726
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2021038874
(87)【国際公開番号】W WO2022097486
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020184979
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 憲正
(72)【発明者】
【氏名】冨士川 亘
(72)【発明者】
【氏名】白髪 潤
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173112(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54,
C25D 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1、
前記オゾン雰囲気下で処理を行った絶縁性基材(A)上に、10nm~30μmの厚さのプライマー層(B)を形成した後、プライマー層(B)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程2‘、
前記金属粒子層(M1)上にめっき法により金属層(M2)を形成する工程3、
を有し、前記プライマー層(B)に反応性官能基[X]を有する樹脂を用い、前記高分子分散剤に反応性官能基[Y]を有するものを用い、前記反応性官能基[X]と前記反応性官能基[Y]との間で結合を形成させることを特徴とする金属皮膜形成方法。
【請求項2】
前記金属粒子層(M1)中の金属粒子が、少なくとも銀、銅、ニッケル、金、白金からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の金属皮膜形成方法。
【請求項3】
前記反応性官能基[Y]が、塩基性窒素原子含有基である請求項1または2記載の金属皮膜形成方法。
【請求項4】
前記反応性官能基[Y]を有する高分子分散剤が、ポリアルキレンイミン、及びオキシエチレン単位を含むポリオキシアルキレン構造を有するポリアルキレンイミンからなる群から選ばれる1種以上である請求項3記載の金属皮膜形成方法。
【請求項5】
前記反応性官能基[X]が、ケト基、アセトアセチル基、エポキシ基、カルボキシル基、N-アルキロール基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基からなる群から選ばれる1種以上である請求項3または4記載の金属皮膜形成方法。
【請求項6】
前記、絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1が、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する水系溶液と接触させる工程であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の金属皮膜形成方法。
【請求項7】
前記、絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1が、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する気体と接触させる工程であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の金属皮膜形成方法。
【請求項8】
前記、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する気体と接触させる工程が、絶縁性基材(A)に対し、酸素を含有する雰囲気下で紫外線(UV)光を照射することによるものであることを特徴とする請求項7記載の金属皮膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基材上に高い密着力で金属皮膜を形成することのできる金属皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性基材に金属皮膜を形成した部材は、プリント配線板等の電子機器や、電磁波シールド、装飾用途等に幅広く用いられている。絶縁性基材上に金属皮膜を形成する方法としては、真空蒸着や、スパッタ法、めっき法が用いられているが、真空蒸着やスパッタ法は、真空装置を必要とするため、基材サイズに制限があることや、コスト高となることが問題であり、湿式のめっき法が広く用いられている。
【0003】
従来、絶縁性基材上に湿式のめっき法によって金属皮膜を形成するためには、基材表面を粗化処理し、アンカー効果によって基材とめっき膜の密着性を確保しているが、粗化処理は、クロム酸や過マンガン酸等、環境負荷の大きい薬液が使用されており、これらの薬液を用いない、代替の方法が求められている。さらに、表面を粗化処理する方法は、透明性が重視される基材や、耐薬品性が低い、もしくは、逆に耐薬品性が高すぎる等、表面を粗化することが難しい基材に対しては、適用することができず、また、基材表面が粗化処理されていることによって、めっきにより形成された金属皮膜表面も基材表面の粗面を反映して凹凸のある面となるため、光沢面を得るためには、めっき膜厚を厚くする必要があり、めっき時間を長くする必要があるため、生産性が低下してコスト増となるだけでなく、基材重量が大きくなるという欠点もあった。さらに、近年、高密度化、高周波対応が進むプリント配線板用途では、粗化処理によって表面に凹凸が形成されると、狭ピッチ回路の形成が難しくなることや、信号の遅延が起こるなどの問題があった。従って、基材表面の粗化処理を行わずに、基材表面に形成した金属皮膜の密着強度を確保するための技術が求められていた。
【0004】
環境負荷の大きいクロム酸や過マンガン酸等を用いた粗化処理を必要とせず、めっき皮膜の密着性を確保する方法として、オゾンを含有する溶液で処理した基材にめっきを行う方法が報告されている。例えば、特許文献1には、不飽和結合を有する樹脂からなる基材の表面に、樹脂基材の表面の不飽和結合を活性化するためのオゾンを含む第1溶液を接触させる工程1と、第1溶液を接触させて処理した樹脂基材の表面に、界面活性剤を含む第2溶液を接触させる工程2と、第2溶液を接触させた樹脂基材の表面に、触媒を吸着させる工程3と、触媒を吸着させた樹脂基材の表面で無電解めっきを行う工程4、を有する無電解めっき方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、樹脂とめっき膜の密着強度を確保するために、樹脂表面をオゾンと十分に接触させることによって、樹脂内部にオゾンを浸透させる必要があるが、オゾン水に含まれるオゾンやヒドロキシラジカルなどの活性種は、分解しやすく、水溶液中における存在時間が非常に短いため、浸透する前に失活してしまうことが多い。そのため、オゾン濃度の高い水溶液を使用する必要がある。しかし、特許文献2が指摘されているように、高濃度のオゾン水溶液を使用すると、オゾンが樹脂表面に残存し、残存オゾンの強い酸化力によって、無電解めっきによる金属析出が阻害される問題があった。
【0006】
この対策として、特許文献2では、めっき前処理として合成樹脂をオゾン水溶液に接触させる処理を行い、オゾン水処理の後、合成樹脂の表面に残存する酸化力を取り除くためにオゾン還元処理を行った後、無電解めっきと電解めっきを行う技術を開示しているが、めっき工程が増加し、プロセスが煩雑になるという課題があった。
【0007】
特許文献3においては、上記2文献の方法が、高いオゾン濃度の水溶液を前処理において使用することから、水溶液中にバブリングされたオゾンが、水面に上昇し、大気中に拡散し、作業環境の悪化を招き、作業者の健康被害につながる問題を指摘しており、この対策として、平均粒径が0.1μm~100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を接触させて、基材表面を改質する表面改質処理を施した上で、当該樹脂基材の表面に無電解めっきにより金属層を形成することを提案している。
【0008】
特許文献3においては、微細気泡状態のオゾンが、水に長時間にわたって滞留し、従って、低濃度のオゾン水であっても、樹脂基材の表面と十分に接触して改質処理を行うことができることから、生産効率の向上、及び、生産環境の安全性を向上させることができることを開示している。
【0009】
特許文献3のグループの研究によれば(非特許文献1)、オゾン水による樹脂表面の処理により、樹脂表面の百数十nm程度に改質層が形成され、無電解めっき触媒が浸透すること、めっき膜がこの浸透層から析出することによって、めっきの密着力が確保されることが示されている。
【0010】
また非特許文献1には、UV光照射によるオゾン発生と、基材表面の改質に関して開示されており、気相においても、やはり、樹脂表面に100nm程度の触媒、金属めっき浸透層が形成されて、密着力が確保されていることが示されている。
【0011】
上記浸透層が、基材表面の粗度を増大させる可能性は小さく、非粗化表面での密着性確保には有用であるが、めっき金属の浸透層が形成された場合、例えば、当該基材上で回路形成を行う場合には、浸透した金属により絶縁信頼性が低下し、特に高密度化配線では、深刻な影響を及ぼす可能性があった。
【0012】
また、特許文献1における、金属析出不良の課題は、無電解めっき触媒が上記基材表面の浸透層に存在することが問題であり、基材表面の改質層外に触媒を保持し、かつ基材とめっき膜の密着を確保する技術を確立することが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2007-239084号公報
【文献】特開2011-127155号公報
【文献】特開2013-189667号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】「各種樹脂の表面改質および機能性めっき皮膜形成技術に関する研究」、関東学院大学 博士学位論文、平成26年1月、西村宜幸、p.58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、クロム酸や過マンガン酸による表面粗化、アルカリによる表面改質層形成などを必要とせず、真空装置を用いることなく、基材と金属めっき膜との高い密着性を有し、基材への金属浸透がなく、絶縁信頼性に優れるめっき処理基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、オゾン雰囲気下で処理した絶縁性基材(A)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有するめっきシード層(M1)を形成し、めっき処理することによって、基材表面に金属浸透層を形成することなく、密着性に優れる金属めっき膜を基材上に形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
また、本発明者らは、オゾン雰囲気下で処理した絶縁性基材(A)上に、プライマー層(B)を形成し、さらに高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有するめっきシード層(M1)を形成して、めっき処理することによって、基材表面に金属浸透層を形成することなく、密着性に優れる金属めっき膜を基材上に形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、
1.絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1、
前記オゾン雰囲気下で処理を行った絶縁性基材(A)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程2、
前記金属粒子層(M1)上にめっき法により金属層(M2)を形成する工程3、
を有することを特徴とする金属皮膜形成方法。
2.絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1、
前記オゾン雰囲気下で処理を行った絶縁性基材(A)上に、プライマー層(B)を形成した後、プライマー層(B)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程2‘、
前記金属粒子層(M1)上にめっき法により金属層(M2)を形成する工程3、
を有することを特徴とする金属皮膜形成方法。
3.前記金属粒子層(M1)中の金属粒子が、少なくとも銀、銅、ニッケル、金、白金からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする1または2記載の金属皮膜形成方法。
4.前記プライマー層(B)に反応性官能基[X]を有する樹脂を用い、前記高分子分散剤に反応性官能基[Y]を有するものを用い、前記反応性官能基[X]と前記反応性官能基[Y]との間で結合を形成させる2または3記載の金属皮膜形成方法。
5.前記反応性官能基[Y]が、塩基性窒素原子含有基である4記載の金属皮膜形成方法。
6.前記反応性官能基[Y]を有する高分子分散剤が、ポリアルキレンイミン、及びオキシエチレン単位を含むポリオキシアルキレン構造を有するポリアルキレンイミンからなる群から選ばれる1種以上である5記載の金属皮膜形成方法。
7.前記反応性官能基[X]が、ケト基、アセトアセチル基、エポキシ基、カルボキシル基、N-アルキロール基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基からなる群から選ばれる1種以上である4~6のいずれか1記載の金属皮膜形成方法。
8.前記、絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1が、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する水系溶液と接触させる工程であることを特徴とする1~7のいずれか1記載の金属皮膜形成方法。
9.前記、絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1が、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する気体と接触させる工程であることを特徴とする1~7記載のいずれか1記載の金属皮膜形成方法。
10.前記、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する気体と接触させる工程が、絶縁性基材(A)に対し、酸素を含有する雰囲気下で紫外線(UV)光を照射することによるものであることを特徴とする9記載の金属皮膜形成方法。
絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程1、
前記オゾン雰囲気下で処理を行った絶縁性基材(A)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程2、
前記金属粒子層(M1)上にめっき法により金属層(M2)を形成する工程3、
を有することを特徴とする金属皮膜形成方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属皮膜形成方法を用いることにより、クロム酸や過マンガン酸等、環境負荷の大きい薬液を使用せず、透明性が重視される基材や、耐薬品性が低い、もしくは、逆に耐薬品性が高すぎる等、表面を粗化することが難しい難めっき基材に対して、密着性の高い金属めっきを行うことができる。基材表面を粗化しないため、めっきにより形成された金属皮膜表面が、基材表面の平滑面を反映した光沢面となるため、めっき膜厚を薄くすることができ、めっき時間の短縮や、生産性向上に寄与するだけでなく、基材の軽量化にも貢献する。さらに、近年、高密度化、高周波対応が進むプリント配線板用途では、粗化処理によって表面に凹凸が形成されると、狭ピッチ回路の形成が難しくなることや、信号の遅延が起こるなどの問題があるが、本発明の技術を用いることによって、基材表面の粗化処理を行わずに、高い密着強度を確保することができる。また、基材表面に金属浸透層を形成しないため、回路パターン形成を行った場合、絶縁信頼性の高いプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の工程1は、絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する工程である。
本発明で用いる前記絶縁性基材(A)の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂をグラフト共重合化した塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ウレタン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、セルロースナノファイバー、シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウム、サファイア、セラミックス、ガラス、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アルミナ等が挙げられる。
【0021】
また、前記絶縁性基材(A)として、熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂基材を好適に用いることもできる。前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。一方、前記無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ珪酸ガラス等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂と無機充填剤は、それぞれ1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0022】
前記絶縁性基材(A)の形態としては、フレキシブル材、リジッド材、リジッドフレキシブル材のいずれのものも用いることができる。より具体的には、前記絶縁性基材(A)にフィルム、シート、板状に成形された市販材料を用いてもよいし、上記した樹脂の溶液、溶融液、分散液から、任意の形状に成形した材料を用いてもよい。また、前記絶縁性基材(A)は、金属等の導電性材料の上に、上記した樹脂の材料を形成した基材であってもよい。
【0023】
また、前記絶縁性基材(A)の形態としては、フィルム、シート、板等、平面状基材の両面を貫通する貫通孔を有してもよく、基材が積層体であって、外層が貫通孔を有しており、積層体全体としては非貫通孔を有し、内層部に達する孔を持つ構造を有してもよい。
【0024】
本発明の工程1において、前記絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する方法の一形態は、オゾンを含有する水系溶液に、前記絶縁性基材(A)を浸漬する方法である。水系溶液中のオゾン濃度は、基材種類や、めっき処理した基材の使用目的によって適宜選択すれば良いが、0.1~100ppmの範囲とすることが好ましく、オゾン含有水系溶液から揮発するオゾンによる、作業者の生産環境の安全性向上の観点から、0.1~50ppmが好ましい。水系溶液中に存在するオゾンを、平均径が0.05~100μmの気泡とすることによって、オゾンの濃度をさらに低下させることができ、0.1~10ppm濃度の水系溶液を好適に用いることができる。
【0025】
オゾン濃度は、市販のオゾン濃度計や、紫外線吸光型濃度計を用いて測定することができる。また、オゾン気泡のサイズは、レーザー光散乱法により、粒粒径測定することができる。
【0026】
オゾンを含有する水系溶液に用いられる溶媒としては、通常は水を用いれば良いが、必要に応じて、メタノール, エタノール, イソプロピルアルコールなどのアルコール類、N , N - ジメチルホルムアミド、N , N - ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N - メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、蟻酸, 酢酸などの有機酸類を、水に混同して用いても良い。また、硝酸、塩酸、 フッ化水素酸などの無機酸を水に混合して用いても良い。水に対する、これらの溶剤の混合量としては、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
オゾンを含有する水系溶液の温度は、10~40℃に設定することが好ましい。温度が高すぎると、オゾンの溶解量が低下し、溶液から揮発するオゾン量が多くなるため、安定したオゾン濃度での処理が難しくなる。一方、温度が低すぎる場合には、処理効果が小さい。
【0028】
前記絶縁席基材(A)のオゾンを含有する水系溶液での処理時間は、使用する絶縁性基材(A)の種類や、最終的なめっき処理基材の用途、生産性により、適宜選択すれば良いが、1~60分間が好ましい。
【0029】
オゾンを含有する水系溶液の製造法としては、市販のオゾン水発生装置を用いるのが簡便である。また、オゾンを気泡化して使用する場合にも、市販のオゾンナノバブル発生器を用いると良い。
【0030】
本発明の工程において、前記絶縁性基材(A)をオゾン雰囲気下で処理する方法の一形態は、絶縁性基材(A)を、オゾンを含有する気体と接触させる方法である。オゾンを含有する気体としては、オゾン発生器で生成したオゾンを任意のガスと混合して、使用することができるが、作業者の安全性の観点から、絶縁性基材(A)への紫外線(UV)光照射を酸素の存在下に行うことによるオゾン生成を利用する方法が好ましい。
【0031】
紫外線(UV)光照射によるオゾン発生には、250nm以下の波長の光を用いることができる。水銀灯に含まれる185nmや、エキシマーランプの172nmの光は効率良くオゾンを発生するため好ましい。また、254nmの光は、オゾンを分解して活性酸素を生成する。250nm以下の光と254nmの光が混合した光源を用いるとオゾンと活性酸素の表面処理効果を用いることができる。
【0032】
絶縁性基材(A)への紫外線照射は、チャンバー内を大気、もしくは、酸素濃度が制御された窒素/酸素混合気体雰囲気にして実施されるのが好ましい。窒素/酸素雰囲気下におくる酸素の濃度は、0.1~20vol%であることが好ましい。
【0033】
また、前記絶縁性基材(A)は、オゾン雰囲気下で処理する前に、基材製造時の汚れや油分を除去する目的で脱脂や洗浄操作を行ってもよい。さらに、前記絶縁性基材(A)は、オゾン雰囲気下で処理する前に、酸、もしくは塩基性の溶剤によって処理を行っても良く、有機溶剤を用いて表面を膨潤させる等の処理を行っても良い。
【0034】
前記オゾン雰囲気下での処理によって、前記絶縁性基材(A)の表面には、少なくとも、C = O 及びC - O H から選ばれる一つの官能基が生成し、親水性の浸透層が形成されていると考えられる。本発明においては、これら、オゾン雰囲気下での処理によって生成する浸透層に、後述する、金属粒子を被覆している高分子分散剤、もしくは、プライマー層(B)が浸透し、また、オゾン処理によって生成する官能基と、金属粒子を被覆している高分子分散剤、もしくは、プライマー層(B)が化学的に反応することによって、金属粒子を絶縁性基材(A)上に固定化することが可能になる。
【0035】
本発明の工程2は、工程1において、オゾン雰囲気下で処理された絶縁性基材(A)上に、高分子分散剤で被覆された金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程である。
【0036】
この金属粒子層(M1)は、後述する工程3において、めっき法により金属層(M2)を形成する際のめっき下地層となる。前記金属粒子層(M1)を形成する金属粒子は、銀、銅、ニッケル、金、白金、パラジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、チタン、インジウム、イリジウム等からなる群から選ばれる1種以上の金属を好適に用いることができる。
【0037】
これらの金属粒子の中でも、比較的安価であること、導電性金属層として電気抵抗値が十分に低いことから、銀、もしくは銅の粒子を主成分として用いることが好ましく、大気下で保存しても表面が酸化されにくいことから、銀粒子を主成分として用いることが特に好ましい。
【0038】
金属粒子として銀粒子を主成分として用いる場合、金属粒子には、銀以外の金属が含有されていても良く、銀以外の金属が含有される場合、銀以外の金属の割合は、後述する工程3におけるめっきが問題なく実施できる限りは、特に制限はないが、銀100質量部に対して5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0039】
金属粒子として銀粒子を主成分として用いる場合、銀以外の金属は、個別の金属粒子中において、銀以外の成分を含有していても良いし、銀以外の金属の粒子を含有していても良い。銀と置換又は混合される金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、スズ、銅、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、インジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が挙げられる。
【0040】
本発明の工程2においては、前記絶縁性基材(A)上に、前記金属粒子の分散液を塗工することによって、前記絶縁性基材(A)上に金属粒子層(M1)が形成される。前記金属粒子分散液の塗工方法は、後述する工程3のめっきが良好に実施できる限り、特に制限はなく、種々の塗工方法を、用いる絶縁性基材(A)の形状、サイズ、剛柔の度合いなどによって適宜選択すればよい。具体的な塗工方法としては、例えば、グラビア法、オフセット法、フレキソ法、パッド印刷法、グラビアオフセット法、凸版法、凸版反転法、スクリーン法、マイクロコンタクト法、リバース法、エアドクターコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、スクイズコーター法、含浸コーター法、トランスファーロールコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、インクジェット法、ダイコーター法、スピンコーター法、バーコーター法、ディップコーター法等が挙げられる。
【0041】
また、フィルム、シート、板状の前記絶縁性基材(A)の両面に、金属粒子分散液を塗工する方法は、金属粒子層(M1)が良好に形成できれば特に制限はなく、上記で例示した塗工方法を適宜選択すればよい。この際、金属粒子層(M1)は、前記絶縁性基材(A)の両面に同時形成してもよいし、前記絶縁性基材(A)の片面に形成した後、他方の面に形成してもよい。さらに、前記絶縁性基材(A)が立体形状の成形体の場合は、成形体のサイズ、形状に応じて、上記で例示した塗工方法を適宜選択すればよいが、スプレーコーター法、インクジェット法、ディップコーター法等が好適である。
【0042】
前記金属粒子分散液を前記絶縁性基材(A)上に塗工した後、塗工膜を乾燥・焼成することにより、金属粒子分散液に含まれる溶媒が揮発し、金属粒子同士が密着して接合することで、前記絶縁性基材(A)上に金属粒子層(M1)が形成される。ここで、乾燥とは、主として、前記金属粒子の分散液から溶媒を揮発させるプロセスであり、焼成とは、主として金属粒子同士を接合させるプロセスを意味する。
【0043】
上記の乾燥と焼成は、同時に行ってもよいし、塗工膜を一旦乾燥しておき、使用前に必要に応じて焼成を行ってもよい。乾燥の温度及び時間は、後述する前記銀粒子分散液に使用する溶媒の種類に応じて適宜選択すればよいが、20℃~250℃の範囲で、時間は1~200分の範囲が好ましい。また、焼成の温度及び時間は、所望とする導電性に応じて適宜選択すればよいが、温度は80~350℃の範囲で、時間は1~200分の範囲が好ましい。また、前記絶縁性基材(A)上に、密着性に優れた金属粒子層(M1)を得るためには、前記焼成の温度を80~250℃の範囲にすることがより好ましい。
【0044】
上記の乾燥・焼成は、送風を行ってもよいし、特に送風を行わなくてもよい。また、乾燥・焼成は、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガスの置換雰囲気下、もしくは気流下で行ってもよく、真空下で行ってもよい。
【0045】
塗工膜の乾燥・焼成は、前記絶縁性基材(A)が、枚葉のフィルム、シート、板、もしくは立体形状の成形体の場合には、塗工場所での自然乾燥の他、送風、定温乾燥器などの乾燥器内で行うことができる。また、前記絶縁性基材(A)がロールフィルムやロールシートの場合には、塗工工程に続けて、設置された非加熱または加熱空間内でロール材を連続的に移動させることにより、乾燥・焼成を行うことができる。この際の乾燥・焼成の加熱方法としては、例えば、オーブン、熱風式乾燥炉、赤外線乾燥炉、レーザー照射、マイクロウェーブ、光照射(フラッシュ照射装置)等を用いる方法が挙げられる。これらの加熱方法は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0046】
前記金属粒子層(M1)は、層中に80~99.9質量%の範囲で金属粒子を含有し、0.1~20質量%の範囲で、後述する高分子分散剤成分を含有するものが好ましい。
【0047】
前記金属粒子層(M1)の厚さは、後述する工程3におけるより優れためっき下地層とすることができることから、30~500nmの範囲が好ましい。工程3におけるめっき工程において、直接電解めっきを実施する場合には、前記金属粒子層(M1)の厚さは、50~500nmであることが好ましい。また、前記金属粒子層(M1)をセミアディティブ工法用の導電シードとして用いる場合には、シードエッチング工程における除去性をより向上できることから、40~200nmの範囲が好ましい。
【0048】
前記金属粒子層(M1)の厚さは、公知慣用の種々の方法によって見積もることができ、例えば、電子顕微鏡を用いた断面観察法や、蛍光X線による方法を用いることができるが、蛍光X線法を用いることが、簡便で好ましい。
【0049】
前記金属粒子層(M1)を形成するために、本発明で用いる金属粒子分散液は、金属粒子が溶媒中に分散したものである。前記金属粒子の形状としては、金属粒子層(M1)を良好に形成するものであれば特に制限はなく、球状、レンズ状、多面体状、平板状、ロッド状、ワイヤー状など、種々の形状の金属粒子を用いることができる。これらの金属粒子は、単一形状の1種で用いることも、形状が異なる2種以上を併用することもできる。
【0050】
前記金属粒子の形状が球状や多面体状である場合には、その平均粒子径が1~20,000nmの範囲のものが好ましい。また、微細な回路パターンを形成する目的に用いる場合には、金属粒子層(M1)の均質性がより向上し、エッチング液による除去性もより向上できることから、その平均粒子径が1~200nmの範囲のものがより好ましく、1~50nmの範囲のものがさらに好ましい。なお、ナノメートルサイズの粒子に関する「平均粒子径」は、前記銀粒子を分散良溶媒で希釈し、動的光散乱法により測定した体積平均値である。この測定にはマイクロトラック社製「ナノトラックUPA-150」を用いることができる。
【0051】
一方、金属粒子がレンズ状、ロッド状、ワイヤー状などの形状を有する場合には、その短径が1~200nmの範囲のものが好ましく、2~100nmの範囲のものがより好ましく、5~50nmの範囲のものがさらに好ましい。
【0052】
前記金属粒子層(M1)を形成するために用いる金属粒子分散液は、金属粒子を各種溶媒中に分散したものであり、その分散液中の金属粒子の粒径分布は、単分散で揃っていてもよく、また、上記の平均粒子径の範囲である粒子の混合物であってもよい。
【0053】
前記金属粒子の分散液に用いる溶媒としては、水性媒体や有機溶剤を使用することができる。前記水性媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水、及び、前記水と混和する有機溶剤との混合物が挙げられる。
【0054】
前記の水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール溶剤;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール溶剤;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤などが挙げられる。
また、有機溶剤単独で使用する場合の有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物等が挙げられる。
【0055】
前記アルコール溶剤又はエーテル溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ステアリルアルコール、アリルアルコール、シクロヘキサノール、テルピネオール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0056】
前記ケトン溶剤としては、例えば、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等が挙げられる。また、前記エステル溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、3―メトキシブチルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート等が挙げられる。さらに、その他の有機溶剤として、トルエン等の炭化水素溶剤、特に炭素原子数8以上の炭化水素溶剤が挙げられる。
【0057】
前記炭素原子数8以上の炭化水素溶剤としては、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロオクタン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、トリメチルベンゼンシクロヘキサン等の非極性溶剤が挙げられ、他の溶媒と必要に応じて組み合わせて用いることができる。さらに、混合溶剤であるミネラルスピリット、ソルベントナフサ等の溶媒を併用することもできる。
【0058】
前記溶媒は、金属粒子が安定に分散し、前記絶縁性基材(A)上、もしくは、後述する前記絶縁性基材(A)上に形成されたプライマー層(B)上に、前記金属粒子層(M1)を良好に形成するものであれば特に制限はない。また、前記溶媒は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。金属粒子分散液を、直接、オゾン雰囲気下で処理した絶縁性基材(A)上に塗工する場合には、前記オゾン雰囲気下での処理によって形成された親水性表面との親和性が高い、水性媒体を用いることが好ましい。
【0059】
前記金属粒子分散液中の金属粒子の含有率は、上記の塗工方法に応じて最適な塗工適性を有する粘度になるように調整するが、0.5~90質量%の範囲が好ましく、1~60質量%の範囲がより好ましく、さらに2~10質量%の範囲がより好ましい。
【0060】
前記金属粒子分散液は、前記金属粒子が、前記の各種溶媒媒中で凝集、融合、沈殿することなく、長期間の分散安定性を保つことが好ましく、金属粒子を、前記の各種溶媒中に分散させるため、高分子分散剤により被覆されたものである。このような高分子分散剤としては、金属粒子に配位する官能基を有する分散剤が好ましく、例えば、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、アセトアセチル基、リン原子含有基、チオール基、チオシアナト基、グリシナト基等の官能基を有する分散剤が挙げられる。
【0061】
前記高分子分散剤としては、市販、もしくは独自に合成した分散剤を用いることができ、金属粒子を分散する溶媒や、金属粒子の分散液を塗工する前記絶縁性基材(A)の種類など、目的に応じて適宜選択すればよいが、金属粒子を、後述するプライマー層(B)を用いずに、直接絶縁性基材(A)上に塗工する場合には、前記、オゾン雰囲気下での処理によって、絶縁性基材(A)表面に生成する浸透層に浸透し、オゾン雰囲気下の処理で生成するC = O 、及びC - O H等の官能基と結合を形成しうる反応性官能基を有することが好ましい。
【0062】
ここで、後述するプライマー層(B)上に金属粒子層(M1)を形成する場合は、これら2層の密着性が良好になることから、後述するプライマー層(B)に用いる樹脂が有する反応性官能基[X]と結合を形成しうる反応性官能基[Y]を有する化合物を用いることが好ましい。
【0063】
反応性官能基[Y]を有する化合物としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルキロールアミド基、カルボキシル基、無水カルボキシル基、カルボニル基、アセトアセチル基、エポキシ基、脂環エポキシ基、オキセタン環、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(ブロック化)イソシアネート基、(アルコキシ)シリル基等を有する化合物、シルセスキオキサン化合物等が挙げられる。特に、プライマー層(B)と導電性金属層(M1)との密着性をより向上できることから、前記反応性官能基[Y]は塩基性窒素原子含有基が好ましい。前記塩基性窒素原子含有基としては、例えば、イミノ基、1級アミノ基、2級アミノ基等が挙げられる。
【0064】
前記塩基性窒素原子含有基は、分散剤1分子中に単数、もしくは複数存在してもよい。分散剤中に複数の塩基性窒素原子を含有することで、塩基性窒素原子含有基の一部は、銀粒子との相互作用により、金属粒子の分散安定性に寄与し、残りの塩基性窒素原子含有基は、前記絶縁性基材(A)との密着性向上に寄与する。また、後述するプライマー層(B)に反応性官能基[X]を有する樹脂を用いた場合には、分散剤中の塩基性窒素原子含有基は、この反応性官能基[X]との間で結合が形成でき、前記絶縁性基材(A)上への後述する金属めっき層(M2)の密着性をより一層向上できるため好ましい。
【0065】
前記高分子分散剤は、金属粒子の分散液の安定性、塗工性、及び、前記絶縁性基材(A)上に良好な密着性を示す金属粒子層(M1)を形成できることから、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のポリアルキレンイミン、前記ポリアルキレンイミンにポリオキシアルキレンが付加した化合物などが好ましい。
【0066】
前記ポリアルキレンイミンにポリオキシアルキレンが付加した化合物としては、ポリエチレンイミンとポリオキシアルキレンとが、直鎖状で結合したものであってもよく、前記ポリエチレンイミンからなる主鎖に対して、その側鎖にポリオキシアルキレンがグラフトしたものであってもよい。
【0067】
前記ポリアルキレンイミンにポリオキシアルキレンが付加した化合物の具体例としては、例えば、ポリエチレンイミンとポリオキシエチレンとのブロック共重合体、ポリエチレンイミンの主鎖中に存在するイミノ基の一部にエチレンオキサイドを付加反応させてポリオキシエチレン構造を導入したもの、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基と、ポリオキシエチレングリコールが有する水酸基と、エポキシ樹脂が有するエポキシ基とを反応させたもの等が挙げられる。
【0068】
前記ポリアルキレンイミンの市販品としては、株式会社日本触媒製の「エポミン(登録商標)PAOシリーズ」の「PAO2006W」、「PAO306」、「PAO318」、「PAO718」等が挙げられる。
【0069】
前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量は、3,000~30,000の範囲が好ましい。
【0070】
前記金属粒子を分散させるために必要な前記分散剤の使用量は、前記金属粒子100質量部に対し、0.01~50質量部の範囲が好ましく、また、前記絶縁性基材(A)上、もしくは、後述するプライマー層(B)上に、良好な密着性を示す金属粒子層(M1)を形成できることから、前記金属粒子100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲が好ましく、さらに前記金属粒子層(M1)の導電性を向上できることから、0.1~5質量部の範囲がより好ましい。
【0071】
前記金属粒子の分散液の製造方法としては、特に制限はなく、種々の方法を用いて製造できるが、例えば、低真空ガス中蒸発法などの気相法を用いて製造した金属粒子を、溶媒中に分散させてもよいし、液相で金属化合物を還元して直接金属粒子の分散液を調製してもよい。気相、液相法とも、適宜、必要に応じて、溶媒交換や溶媒添加により、製造時の分散液と塗工時の分散液の溶剤組成を変更することが可能である。気相、液相法のうち、分散液の安定性や製造工程の簡便さから、液相法を特に好適に用いることができる。液相法としては、例えば、前記高分子分散剤の存在下で金属イオンを還元することによって製造することができる。
【0072】
前記金属粒子の分散液には、さらに必要に応じて、界面活性剤、レベリング剤、粘度調整剤、成膜助剤、消泡剤、防腐剤などの有機化合物を配合してもよい。
【0073】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系界面活性剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルホネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム塩等のアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0074】
前記レベリング剤としては、一般的なレベリング剤を使用することができ、例えば、シリコーン系化合物、アセチレンジオール系化合物、フッ素系化合物等が挙げられる。
【0075】
前記粘度調整剤としては、一般的な増粘剤を使用することができ、例えば、アルカリ性に調整することによって増粘可能なアクリル重合体、合成ゴムラテックス、分子が会合することによって増粘可能なウレタン樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、水添加ヒマシ油、アマイドワックス、酸化ポリエチレン、金属石鹸、ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
【0076】
前記成膜助剤としては、一般的な成膜助剤を使用することができ、例えば、ジオクチルスルホコハク酸エステルソーダ塩等アニオン系界面活性剤、ソルビタンモノオレエート等の疎水性ノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シロキサン、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0077】
前記消泡剤としては、一般的な消泡剤を使用することができ、例えば、シリコーン系消泡剤、ノニオン系界面活性剤、ポリエーテル,高級アルコール、ポリマー系界面活性剤等が挙げられる。
【0078】
前記防腐剤としては、一般的な防腐剤を使用することができ、例えば、イソチアゾリン系防腐剤、トリアジン系防腐剤、イミダゾール系防腐剤、ピリジン系防腐剤、アゾール系防腐剤、ピリチオン系防腐剤等が挙げられる。
【0079】
また、本発明のより好ましい態様として、絶縁性基材(A)上に、金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する前に、絶縁性基材(A)上に、プライマー層(B)を形成した後、その層の上に金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する方法がある(工程1’)。このプライマー層を設ける方法は、前記オゾン雰囲気下における処理によって前記絶縁性基材(A)表面に形成された浸透層への金属の浸透を、抑制する観点から、好ましく、さらに、前記絶縁性基材(A)への金属めっき層(M2)の密着性をより一層向上できることから好ましい。
【0080】
前記プライマー層(B)は、前記絶縁性基材(A)の表面の一部、又は全面にプライマーを塗工し、前記プライマー中に含まれる水性媒体、有機溶剤等の溶媒を除去することによって形成できる。ここで、プライマーとは、絶縁性基材(A)へのめっき金属層(M2)の密着性を向上させる目的で用いるものであり、後述する各種の樹脂を溶剤中に溶解、もしくは分散させた液状組成物である。
【0081】
前記プライマーを前記絶縁性基材(A)に塗工する方法としては、プライマー層(B)が良好に形成できれば特に制限は無く、種々の塗工方法を、使用する絶縁性基材(A)の形状、サイズ、剛柔の度合いなどによって適宜選択すればよい。具体的な塗工方法としては、例えば、グラビア法、オフセット法、フレキソ法、パッド印刷法、グラビアオフセット法、凸版法、凸版反転法、スクリーン法、マイクロコンタクト法、リバース法、エアドクターコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、スクイズコーター法、含浸コーター法、トランスファーロールコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、インクジェット法、ダイコーター法、スピンコーター法、バーコーター法、ディップコーター法等が挙げられる。
【0082】
また、フィルム、シート、板状の前記絶縁性基材(A)の両面に、前記プライマーを塗工する方法は、プライマー層(B)が良好に形成できれば特に制限はなく、上記で例示した塗工方法を適宜選択すればよい。この際、前記プライマー層(B)は、前記絶縁性基材(A)の両面に同時形成してもよく、前記絶縁性基材(A)の片面に形成した後、他方の面に形成してもよい。さらに、前記絶縁性基材(A)が立体形状の成形体の場合は、成形体のサイズ、形状に応じて、上記で例示した塗工方法を適宜選択すればよいが、スプレーコーター法、インクジェット法、ディップコーター法等が好適である。
【0083】
前記プライマーを絶縁性基材(A)の表面に塗工した後、その塗工層に含まれる溶媒を除去してプライマー層(B)を形成する方法としては、例えば、乾燥機を用いて乾燥させ、前記溶媒を揮発させる方法が一般的である。乾燥温度としては、前記溶媒を揮発させることが可能で、かつ前記絶縁性基材(A)に悪影響を与えない範囲の温度に設定すればよく、室温乾燥でも加熱乾燥でもよい。具体的な乾燥温度は、20~350℃の範囲が好ましく、60~300℃の範囲がより好ましい。また、乾燥時間は、1~200分の範囲が好ましく、1~60分の範囲がより好ましい。
【0084】
上記の乾燥は、送風を行ってもよいし、特に送風を行わなくてもよい。また、乾燥は、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの置換雰囲気、もしくは気流下で行ってもよく、真空下で行ってもよい。
【0085】
前記絶縁性基材(A)が、枚葉のフィルム、シート、板、もしくは立体形状の成形体の場合には、塗工場所での自然乾燥の他、送風、定温乾燥器などの乾燥器内で行うことができる。また、前記絶縁性基材(A)がロールフィルムやロールシートの場合には、塗工工程に続けて、設置された非加熱または加熱空間内でロール材を連続的に移動させることにより、乾燥を行うことができる。
【0086】
前記プライマー層(B)の膜厚は、本発明を用いて製造するめっき処理製品の用途によって適宜選択すればよいが、前記絶縁性基材(A)と前記めっき金属層(M2)との密着性を、より向上できることから、10nm~30μmの範囲が好ましく、10nm~1μmの範囲がより好ましく、10nm~500nmの範囲がさらに好ましい。
【0087】
プライマー層(B)を形成する樹脂は、前記絶縁性基材(A)がオゾン雰囲気下で処理されることによって生成する浸透層への浸透がしやすく、オゾン雰囲気下で処理されることによって生成する官能基と結合しうる官能基を有するものが好ましく、さらに、前記金属粒子の分散剤に反応性官能基[Y]を有するものを用いる場合、反応性官能基[Y]に対して反応性を有する反応性官能基[X]を有する樹脂が好ましい。前記反応性官能基[X]としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルキロールアミド基、ケト基、カルボキシル基、無水カルボキシル基、カルボニル基、アセトアセチル基、エポキシ基、脂環エポキシ基、オキセタン環、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(ブロック化)イソシアネート基、(アルコキシ)シリル基等が挙げられる。また、プライマー層(B)を形成する化合物として、シルセスキオキサン化合物を用いることもできる。
【0088】
特に、前記分散剤中の反応性官能基[Y]が、塩基性窒素原子含有基の場合、前記絶縁性基材(A)上でのめっき金属層(M2)の密着性をより向上できることから、プライマー層(B)を形成する樹脂は、反応性官能基[X]として、ケト基、カルボキシル基、カルボニル基、アセトアセチル基、エポキシ基、脂環エポキシ基、アルキロールアミド基、イソシアネート基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基を有するものが好ましい。
【0089】
前記プライマー層(B)を形成する樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂をシェルとしアクリル樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、アミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ポリイソシアネートにフェノール等のブロック化剤を反応させて得られたブロックイソシアネートポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。なお、ウレタン樹脂をシェルとしアクリル樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂は、例えば、ウレタン樹脂存在下でアクリル単量体を重合することにより得られる。また、これらの樹脂は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0090】
上記のプライマー層(B)を形成する樹脂の中でも、絶縁性基材(A)上へのめっき金属層(M2)の密着性をより向上できることから、加熱により還元性化合物を生成する樹脂が好ましい。前記還元性化合物としては、例えば、フェノール化合物、芳香族アミン化合物、硫黄化合物、リン酸化合物、アルデヒド化合物等が挙げられる。これらの還元性化合物の中でも、フェノール化合物、アルデヒド化合物が好ましい。
【0091】
加熱により還元性化合物を生成する樹脂をプライマーに用いた場合、プライマー層(B)を形成する際の加熱乾燥工程でホルムアルデヒド、フェノール等の還元性化合物を生成する。加熱により還元性化合物を生成する樹脂の具体例としては、例えば、N-アルキロール(メタ)アクリルアミドを含む単量体を重合した樹脂、ウレタン樹脂をシェルとしN-アルキロール(メタ)アクリルアミドを含む単量体を重合した樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂、尿素―ホルムアルデヒド-メタノール縮合物、尿素-メラミン-ホルムアルデヒド-メタノール縮合物、ポリN-アルコキシメチロール(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミドのホルムアルデヒド付加物、メラミン樹脂等の加熱によりホルムアルデヒドを生成する樹脂;フェノール樹脂、フェノールブロックイソシアネート等の加熱によりフェノール化合物を生成する樹脂などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、密着性向上の観点から、ウレタン樹脂をシェルとしN-アルキロール(メタ)アクリルアミドを含む単量体を重合した樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂、メラミン樹脂、フェノールブロックイソシアネートが好ましい。
【0092】
なお、本発明において、「(メタ)アクリルアミド」とは、「メタクリルアミド」及び「アクリルアミド」の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とは、「メタクリル酸」及び「アクリル酸」の一方又は両方をいう。
【0093】
加熱により還元性化合物を生成する樹脂は、加熱により還元性化合物を生成する官能基を有する単量体をラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の重合方法により重合することによって得られる。
【0094】
加熱により還元性化合物を生成する官能基を有する単量体としては、例えば、N-アルキロールビニル単量体が挙げられ、具体的には、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エタノール(メタ)アクリルアミド、N-プロパノール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0095】
また、上記の加熱により還元性化合物を生成する樹脂を製造する際には、加熱により還元性化合物を生成する官能基を有する単量体等とともに、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどのその他の各種単量体を共重合することもできる。
【0096】
前記ブロックイソシアネートを、前記プライマー層(B)を形成する樹脂として用いた場合は、イソシアネート基間で自己反応することでウレトジオン結合を形成し、又は、イソシアネート基と、他の成分が有する官能基とが結合を形成することによって、プライマー層(B)を形成する。この際形成される結合は、前記銀粒子分散液を塗工する前に形成されていてもよいし、前記銀粒子分散液を塗工する前には形成されておらず、前記銀粒子分散液を塗工した後に加熱によって形成されてもよい。
【0097】
前記ブロックイソシアネートとしては、イソシアネート基がブロック剤によって封鎖され形成した官能基を有するものが挙げられる。
【0098】
前記ブロックイソシアネートは、ブロックイソシアネート1モルあたり、前記官能基を350~600g/molの範囲で有するものが好ましい。
【0099】
前記官能基は、密着性向上の観点から、前記ブロックイソシアネートの1分子中に1~10個有するものが好ましく、2~5個有するものがより好ましい。
【0100】
また、前記ブロックイソシアネートの数平均分子量は、密着性向上の観点から、1,500~5,000の範囲が好ましく、1,500~3,000の範囲がより好ましい。
【0101】
さらに、前記ブロックイソシアネートとしては、密着性をさらに向上する観点から、芳香環を有するものが好ましい。前記芳香環としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0102】
なお、前記ブロックイソシアネートは、イソシアネート化合物が有するイソシアネート基の一部又は全部と、ブロック剤とを反応させることによって製造することができる。
【0103】
前記ブロックイソシアネートの原料となるイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香環を有するポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物又は脂環式構造を有するポリイソシアネート化合物などが挙げられる。また、前記したポリイソシアネート化合物のそれらのビュレット体、イソシアヌレート体、アダクト体等も挙げられる。
【0104】
また、前記イソシアネート化合物としては、上記で例示したポリイソシアネート化合物と、水酸基又はアミノ基を有する化合物等とを反応させて得られるものも挙げられる。
【0105】
前記ブロックイソシアネートに芳香環を導入する場合、芳香環を有するポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。また、芳香環を有するポリイソシアネート化合物の中でも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのイソシアヌレート体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体が好ましい。
【0106】
前記ブロックイソシアネートの製造に用いるブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール化合物;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム化合物;ホルムアミドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物;2-ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、n-ブタノール、イソブタノール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、アセトアニリド、酢酸アミド、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ジフェニルアニリン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、1H-ピラゾール、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等が挙げられる。これらの中でも、70~200℃の範囲で加熱することによって解離してイソシアネート基を生成可能なブロック化剤が好ましく、110~180℃の範囲で加熱することによって解離するイソシアネート基を生成可能なブロック化剤がより好ましい。具体的には、フェノール化合物、ラクタム化合物、オキシム化合物が好ましく、特に、フェノール化合物は、ブロック化剤が加熱により脱離する際に還元性化合物となることからより好ましい。
【0107】
前記ブロックイソシアネートの製造方法としては、例えば、予め製造した前記イソシアネート化合物と前記ブロック化剤とを混合し反応させる方法、前記イソシアネート化合物の製造に用いる原料とともに前記ブロック化剤を混合し反応させる方法等が挙げられる。
【0108】
より具体的には、前記ブロックイソシアネートは、前記ポリイソシアネート化合物と、水酸基又はアミノ基を有する化合物とを反応させることによって末端にイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を製造し、次いで、前記イソシアネート化合物と前記ブロック化剤とを混合し反応させることによって製造することができる。
【0109】
上記の方法で得られたブロックイソシアネートの前記プライマー層(B)を形成する樹脂中の含有比率は、50~100質量%の範囲が好ましく、70~100質量%の範囲がより好ましい。
【0110】
前記メラミン樹脂としては、例えば、メラミン1モルに対してホルムアルデヒドが1~6モル付加したモノ又はポリメチロールメラミン;トリメトキシメチロールメラミン、トリブトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン等の(ポリ)メチロールメラミンのエーテル化物(エーテル化度は任意);尿素-メラミン-ホルムアルデヒド-メタノール縮合物などが挙げられる。
【0111】
また、上記のように加熱により還元性化合物を生成する樹脂を用いる方法の他に、樹脂に還元性化合物を添加する方法も挙げられる。この場合に、添加する還元性化合物としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤、ビタミンC、ビタミンE、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、亜硫酸塩、次亜燐酸、次亜燐酸塩、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、フェノール等が挙げられる。
【0112】
本発明において、樹脂に還元性化合物を添加する方法は、最終的に低分子量成分やイオン性化合物が残留することで電気特性が低下する可能性があるため、加熱により還元性化合物を生成する樹脂を用いる方法がより好ましい。
【0113】
前記プライマー層(B)を形成するために用いるプライマーは、塗工性、成膜性の観点から、プライマー中に前記樹脂を1~70質量%含有するものが好ましく、1~20質量%含有するものがより好ましい。
【0114】
また、前記プライマーに使用可能な溶媒としては、各種有機溶剤、水性媒体が挙げられる。前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。
【0115】
前記の水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール溶剤;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール溶剤;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤などが挙げられる。
【0116】
また、前記プライマー層(B)を形成する樹脂は、必要に応じて、例えば、アルコキシシリル基、シラノール基、水酸基、アミノ基等、架橋反応に寄与する官能基を有していてもよい。これらの官能基を利用して形成される架橋構造は、後工程の銀粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以前に、すでに架橋構造を形成していてもよく、また、金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以降で架橋構造を形成してもよい。金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以降で架橋構造を形成する場合、前記めっき金属層(M2)を形成する前に、前記プライマー層(B)に架橋構造を形成しておいてもよく、前記めっき金属層(M2)を形成した後に、例えば、エージングすることによって、前記プライマー層(B)に架橋構造を形成してもよい。
【0117】
前記プライマー層(B)には、必要に応じて、架橋剤をはじめ、pH調整剤、皮膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤等の公知のものを適宜添加して使用してもよい。
【0118】
前記架橋剤としては、例えば、金属キレート化合物、ポリアミン化合物、アジリジン化合物、金属塩化合物、イソシアネート化合物等が挙げられ、25~100℃程度の比較的低温で反応し架橋構造を形成する熱架橋剤、メラミン系化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ブロックイソシアネート化合物等の100℃以上の比較的高温で反応し架橋構造を形成する熱架橋剤や各種光架橋剤が挙げられる。
【0119】
前記架橋剤の使用量は、種類によって異なるものの、基材上へのめっき金属層(M2)の密着性向上の観点から、前記プライマーに含まれる樹脂の合計100質量部に対して、0.01~60質量部の範囲が好ましく、0.1~10質量部の範囲がより好ましく、0.1~5質量部の範囲がさらに好ましい。
【0120】
前記架橋剤を用いた場合、後工程の金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以前に、すでに架橋構造を形成していてもよく、また、金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以降で架橋構造を形成してもよい。金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する工程以降で架橋構造を形成する場合、前記めっき金属層(M2)を形成する前に、前記プライマー層(B)に架橋構造を形成してもよく、前記めっき金属層(M2)を形成した後に、例えば、エージングすることによって、前記プライマー層(B)に架橋構造を形成してもよい。
【0121】
本発明の工程1’において、前記プライマー層(B)上に、金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する方法は、絶縁性基材(A)上に、金属粒子を含有する金属粒子層(M1)を形成する方法と同様である。
【0122】
また、前記プライマー層(B)は、前記絶縁性基材(A)と同様に、前記金属粒子分散液の塗工性向上や、めっき金属層(M2)の基材への密着性を向上する目的で、金属粒子分散液を塗工する前に、表面処理を行ってもよい。
【0123】
本発明の工程3で実施するめっき法としては、例えば、無電解めっき、電解めっき、無電解めっきと電解めっきを組み合わせた方法等が挙げられる。前記めっき法として無電解めっきを実施する場合、前記金属粒子層(M1)は、触媒シードとして用いる。前記めっき層(M2)は、無電解めっきのみで厚膜化して形成してもよいし、無電解めっきにより形成した無電解めっき層を導電性シードとして、さらに電解めっきを実施することで、前記めっき層(M2)を厚膜化してもよい。さらに、無電解めっきを実施せずに、直接電解めっきを実施する場合、前記金属粒子層(M1)は、導電性シードとして用いる。また、無電解めっきの後に電解めっきを行うことでめっき層(M2)を形成してもよい。電解めっきを併用すると、めっき析出速度を大きくすることができるため、製造効率が高くなり有利である。
【0124】
金属めっき層(M2)を無電解めっきで形成する場合、めっき金属として、例えば、銅、ニッケル、クロム、コバルト、コバルト-タングステン、コバルトータングステン-ホウ素、スズ等が挙げられる。金属めっき層(M2)が導体回路パターンである場合には、これらの金属の中でも、電気抵抗値が低いことから、銅を用いることが好ましい。また、上記の通り、無電解めっきの後に電解めっきを行うことで金属めっき層(M2)を形成することもできる。電解めっきを併用すると、めっき析出速度を大きくすることができるため、製造効率が高くなり有利である。
【0125】
本発明の工程3において、無電解めっきと電解めっきを併用して金属めっき層(M2)を形成する場合、無電解めっきと電解めっきの析出金属は、同じであっても、異なっていても良い。例えば、無電解銅めっき後に電解銅めっき、無電解ニッケルめっき後に電解銅めっき、無電解ニッケルめっき後に電解ニッケルめっき、無電解コバルトめっき後に電解銅めっき等の組み合わせが挙げられる。金属めっき層(M2)が回路パターンである場合には、金属めっき層(M2)を構成する主金属としては、電気抵抗値が低いことから、銅を用いることが好ましく、無電解ニッケルや無電解コバルトなどを組み合わせると、銅の基材への拡散を抑制できることから、プリント配線板の長期信頼性を向上させることができる。
【0126】
本発明の工程3において、無電解めっきと電解めっきを併用して金属めっき層(M2)を形成する場合、無電解めっき層の厚さは、必要に応じて適宜選択すればよいが、電解めっきを適切に行うための導電性を確保するため0.1μm~2μmの範囲であることが望ましく、生産性を向上させる観点から、0.15μm~1μmの範囲であることがより好ましい。
【0127】
工程3において、直接電解めっきを実施する場合、金属めっき層(M2)を構成するめっき金属としては、例えば、銅、ニッケル、クロム、亜鉛、スズ、金、銀、ロジウム、パラジウム、白金等が挙げられる。これらの金属の中でも、形成する金属パターンが回路パターンである場合には、前述のように、安価で電気抵抗値が低いことから、銅が好ましく、電解銅めっきにより前記金属めっき層(M2)を形成することが好ましい。電解銅めっきは、公知慣用の方法を用いて行えばよいが、硫酸銅浴を用いる硫酸銅めっき法が好ましい。
【0128】
直接電解めっき法を実施する場合、金属めっき層(M2)を構成するめっき金属は、上述の各種金属の1種、もしくは複数種を組み合わせて用いても良い。例えば、形成する金属めっき層(M2)が、装飾用途である場合、めっき金属の応力緩和を目的として、最外層のニッケルークロムめっきの下層に銅めっきが実施される。この際に実施される銅めっきは、前記金属粒子層(M1)上に電解ニッケルめっきを行った後、電解銅めっきを行い、さらに電解ニッケル、電解クロムめっきを行ってもよいし、前記金属粒子層(PM1)上に電解銅めっきを行い、その後、電解ニッケル、電解クロムめっきを行ってもよい。
【0129】
本発明の金属皮膜形成方法においては、前記絶縁性基材(A)上に形成するめっき金属層(M2)がパターン化されたものであっても良い。めっき金属層(M2)をパターン化する方法としては、前記工程1~3を実施して、絶縁性基材(A)の全面にめっき金属層(M2)を形成した後に、不用部を除去してパターン化しても良いし、工程2で形成した前記金属粒子層(M1)上にパターンレジストを形成して、工程3において、必要なパターン部のみにめっき金属層(M2)を形成した後、レジストを剥離し、不用部の金属粒子層(M1)をエッチング除去する方法を用いても良い。また、工程2で形成した金属粒子層(M1)の不用部を、ケガキなどの機械的方法やレーザー照射により除去して、パターン部の金属粒子層(M1)を残し、この金属粒子層(M1)をシードとして、パターン部のめっきを形成しても良い。
【0130】
以上に述べた本発明の金属皮膜形成方法を用いることにより、クロム酸や過マンガン酸等、環境負荷の大きい薬液を使用せず、透明性が重視される基材や、耐薬品性が低い、もしくは、逆に耐薬品性が高すぎる等、表面を粗化することが難しい難めっき基材に対して、密着性の高い金属めっきを行うことができる。基材表面を粗化しないため、めっきにより形成された金属皮膜表面が、基材表面の平滑面を反映した光沢面となるため、めっき膜厚を薄くすることができ、めっき時間の短縮や、生産性向上に寄与するだけでなく、基材の軽量化にも貢献する。さらに、近年、高密度化、高周波対応が進むプリント配線板用途では、粗化処理によって表面に凹凸が形成されると、狭ピッチ回路の形成が難しくなることや、信号の遅延が起こるなどの問題があるが、本発明の技術を用いることによって、基材表面の粗化処理を行わずに、高い密着強度を確保することができる。また、基材表面に金属浸透層を形成しないため、回路パターン形成を行った場合、絶縁信頼性の高いプリント配線板を提供することができる。また、本発明の金属被膜形成方法により、プリント配線板のみならず、基材表面にパターン化された金属層を有する種々の部材、例えば、コネクター、電磁波シールド、RFIDなどのアンテナ、フィルムコンデンサーなども製造できる。さらに、本発明の金属被膜形成方法は、種々の形状、サイズの基材上にパターン化された金属層を有する装飾めっき用途においても好適に用いることが可能である。
【実施例
【0131】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0132】
[製造例1:プライマー用樹脂(B-1)の製造]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備え、窒素置換された反応容器に、2,2-ジメチロールプロピオン酸9.2質量部、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)57.4質量部及びメチルエチルケトン233質量部を仕込み、70℃で6時間反応させ、イソシアネート化合物を得た。次いで、反応容器内にブロック化剤としてフェノール26.4質量部を供給し、70℃で6時間反応させた。その後、40℃まで冷却し、ブロックイソシアネートの溶液を得た。
【0133】
[調製例1:銀粒子分散液の調製]
エチレングリコール45質量部及びイオン交換水55質量部の混合溶媒に、分散剤としてポリエチレンイミンにポリオキシエチレンが付加した化合物を用いて平均粒径30nmの銀粒子を分散させることによって、銀粒子及び分散剤を含有する分散体を調製した。次いで、得られた分散体に、イオン交換水、エタノール及び界面活性剤を添加して、5質量%の銀粒子分散液を調製した。
【0134】
[調製例2:プライマー(B-1)の調製]
上記製造例1で得られたブロックイソシアネートの溶液に、40℃でトリエチルアミン7質量部を加えて前記ブロックイソシアネートが有するカルボキシル基を中和し、水を加えて十分に攪拌した後、メチルエチルケトンを留去して、不揮発分20質量%のブロックイソシアネートと水とを含有するプライマー層用樹脂組成物を得た。次に、この樹脂組成物にメチルエチルケトンを加えて希釈混合することで、不揮発分2質量%のプライマー(B-1)を得た。
【0135】
[調製例3:プライマー(B-2)の調製]
エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON HP-4032D」;ナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ当量140g/当量、2官能)をメチルエチルケトンで希釈して固形分を2質量%にした溶液100質量部に、トリメリット酸無水物をメチルエチルケトンで希釈した固形分2質量%溶液4.57質量部を均一に混合して、プライマー(B-2)を得た。
【0136】
[調製例4:プライマー(B-3)の調製]
エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON HP-4700」;ナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ当量162g/当量、4官能)をメチルエチルケトンで希釈して固形分を2質量%にした溶液100質量部に、トリメリット酸無水物をメチルエチルケトンで希釈した固形分2質量%溶液9.9質量部を均一に混合して、プライマー(B-3)を得た。
【0137】
[調製例5:プライマー(B-4)の調製]
エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON HP-4700」;ナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ当量162g/当量、4官能)をメチルエチルケトンで希釈して固形分を2質量%にした溶液100質量部に、2-エチル-4―イミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ)をメチルエチルケトンで希釈した固形分2質量%溶液4質量部を均一に混合して、プライマー(B-4)を得た。
【0138】
[調製例6:プライマー(B-5)の調製]
エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON HP-4770」;ナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ当量204g/当量、2官能)をメチルエチルケトンで希釈して固形分を2質量%にした溶液100質量部に、トリメリット酸無水物をメチルエチルケトンで希釈した固形分2質量%溶液15.7質量部を均一に混合して、プライマー(B-5)を得た。
【0139】
[作製例1:ポリフェニレンスルフィド(PPS)基材の作製]
リニア型ポリフェニレンスルフィド(ASTM D1238-86によるMFR:600g/10分)100質量部、チョップドガラス繊維(旭ファイバーグラス株式会社製「FT562」、繊維状無機充填剤)58.8質量部、エチレン-メタクリル酸共重合体亜鉛イオンタイプ(三井デュポンケミカル株式会社製「ハイミラン1855」)、8.4質量部及びモンタン酸複合エステルワックス(クラリアントジャパン株式会社製「リコルブWE40」)0.8質量部を均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用いて290~330℃で溶融混錬し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形機で成形することにより、50mm×105mm×2mmのサイズのPPS基材を作製した。
【0140】
[絶縁性基材上に形成した金属めっき層の密着強度の評価]
絶縁性基材上に形成された金属めっき層の密着強度の評価は、15μm厚の金属めっき膜を5mm幅で短冊状にパターン形成し、西進商事株式会社製「ボンドテスターSS-30WD」を用いて90°剥離し、1cm辺りの強度に換算することにより評価した。
【0141】
[金属めっき層形成後の基材の絶縁信頼性評価]
絶縁性基材上に形成された銅めっき層上にドライフィルムレジストをラミネートし、L/S=200/200μmのエッチングレジストパターンを形成した後、塩化第二鉄を用いたサブトラクティブ工法により、銅めっき層にパターン形成した。基材の洗浄後、乾燥した基材の、銅がエッチングされた表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-IT500」)、及び、付属のエネルギー分散形X線分析装置(EDS)で、観察と金属残渣の分析を行った。配線パターン間に金属残渣が確認されない場合、絶縁信頼性OK。確認される場合を信頼性NGと判定した。
【0142】
(実施例1)
オゾンマイクロナノバブル発生装置(株式会社ナック製)を用いて、オゾンマイクロナノバブル含有水を作製し、簡易オゾン水チェッカー(荏原実業株式会社製、DOC-05A型)を用いてオゾン濃度が5ppmであることを確認し、19cmx25cmサイズにカットしたポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製「ユーピレックス 25SGA」;厚さ25μm)を、オゾンナノバブル含有水に15分間浸漬した。
【0143】
オゾンナノバブル含有水で処理したポリイミドフィルムの表面に、調製例1で得られた銀粒子分散液を、卓上型小型コーター(RKプリントコートインストルメント社製「Kプリンティングプローファー」)を用いて、乾燥後の平均厚さが30nmとなるように塗工した。次いで、熱風乾燥機を用いて200℃で5分間乾燥することによって、ポリイミドフィルムの表面に銀粒子層(M1)を形成した。
【0144】
次いで、銀粒子層を形成したポリイミドフィルムを無電解銅めっき液(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製「サーキュポジット6550」)中に35℃で、10分間浸漬し、銀粒子表面に無電解銅めっき膜(厚さ0.2μm)を形成した。さらに、無電解銅めっき層をカソードに設置し、含リン銅をアノードとして、硫酸銅を含有する電解めっき液(硫酸銅60g/L、硫酸190g/L、塩素イオン50mg/L、添加剤(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製 カパーグリームST-901」)を用いて、電流密度2A/dmで34分間電解めっきを行うことによって、15μm厚の銅めっき層(M2)を形成した。
【0145】
(実施例2)
銀粒子層の乾燥後の平均厚さを30nmから80nmに変更した以外は、実施例1と同様にして、オゾンマイクロナノバブル水で処理したポリイミドフィルム上に銀粒子層(M1)を形成した。次にポリイミド上に形成された銀ナノ粒子層(M1)をカソードに設置し、実施例1と同様にして、15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。

(実施例3、4)
実施例1、2において、オゾンマイクロナノバブル水のオゾン濃度を5ppmから2.5ppmに変更し、ポリイミドフィルムの浸漬処理時間を15分から40分に変更した以外は、それぞれ実施例1、2と同様にして、ポリイミドフィルム上に形成した銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0146】
(実施例5)
実施例1と同様にして、オゾンマイクロナノバブル含有水で処理したポリイミドフィルムの表面に、製造例1で得られたプライマー(B-1)を、卓上型小型コーター(RKプリントコートインストルメント社製「Kプリンティングプローファー」)を用いて、乾燥後の厚さが100nmとなるように塗工した。次いで、熱風乾燥機を用いて120℃で5分間乾燥することによって、ポリイミドフィルムの表面にプライマー層(B)を形成した
【0147】
オゾンナノバブル含有水で処理したポリイミドフィルムの表面に、調製例1で得られた銀粒子分散液を、卓上型小型コーター(RKプリントコートインストルメント社製「Kプリンティングプローファー」)を用いて、乾燥後の平均厚さが80nmとなるように塗工した。次いで、熱風乾燥機を用いて200℃で5分間乾燥することによって、ポリイミドフィルムの表面に銀粒子層(M1)を形成した。
【0148】
銀粒子層(M1)を形成した以降は、実施例1と同様にして、無電解銅めっき、電解銅めっきを実施し、銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0149】
(実施例6)
実施例5において、銀粒子層(M1)上に無電解銅めっき、及び電解銅めっきを実施する代わりに、実施例2と同様にして、銀粒子層(M1)をカソードにして、直接電解銅めっきを実施することにより、銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0150】
(実施例7)
実施例5において、無電解銅めっきを実施する代わりに、無電解ニッケル-ホウ素めっき(奥野製薬工業株式会社製「トップケミアロイ66-LF」)を用いて、65℃、2分間を実施し、銀粒子層(M1)上に、膜厚0.2μmのニッケル-ホウ素めっき層を形成し、ニッケル-ホウ素めっき層をカソードとして、実施例5と同様に電解銅めっきを行うことで、ニッケル-ホウ素めっき、及び銅めっきからなる金属めっき層(M2)を得た。
【0151】
(実施例8)
実施例6において、電解銅めっきを実施する代わりに、電解ニッケルめっき液(スルファミン酸浴:スルファミン酸ニッケル・4水和物350g/L、塩化ニッケル・6水和物5g/L、ホウ酸60g/L)を用いて、60℃、8A/dm、8分40秒のめっきを実施することによって、銀粒子層(M1)上に15μm厚のニッケルめっき層(M2)を得た。
【0152】
(実施例9)
オゾンマイクロナノバブル発生装置(株式会社ナック製)を用いて、オゾンマイクロナノバブル含有水を作製し、簡易オゾン水チェッカー(荏原実業株式会社製、DOC-05A型)を用いてオゾン濃度が5ppmであることを確認した。次に、上記作製例1で作製したPPS成形基材を、オゾンマイクロナノバブル含有水に15分間浸漬して処理した後、基材を乾燥させた。
【0153】
このようにしてオゾンマイクロナノバブル含有水で処理したPPS基材を、調製例2で得られたプライマー(B-1)に10秒間浸漬して乾燥した後、200℃で5分間焼成し、120nm厚のプライマー層(B)を得た。続いて、表面にプライマー層を形成したPPS基材を、調製例1で得た銀粒子分散液に10秒間浸漬し、乾燥後、200℃で30分間の焼成を行った。得られた銀粒子層(M1)の膜厚は、100nmであった。
【0154】
このようにして、銀粒子層(M1)を形成したPPS基材を、実施例1と同様にして、無電解銅めっき、及び電解銅めっき処理することにより、PPS基材上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0155】
(実施例10)
実施例9において、銀粒子層(M1)上に無電解銅めっき、及び電解銅めっきを実施する代わりに、実施例2と同様にして、銀粒子層(M1)をカソードにして、直接電解銅めっきを実施することにより、PPS基材上に形成したプライマー層/銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0156】
(実施例11~20)
プライマー層に用いるプライマーの種類、めっき工程、金属めっき層(M2)の種類を表1のものに変更した以外は、実施例9、10と同様にして、PPS基材上に金属めっき層(M2)を得た。
【0157】
(実施例21)
実施例10において、PPS基材の処理を、オゾンマイクロナノバブル発生装置(株式会社ナック製)を用いて作製した、オゾンマイクロナノバブル含有水に15分間浸漬する代わりに、荏原実業株式会社製造の、酸素発生器―オゾン発生器―溶存オゾン濃度計-調節計-溶解槽ラインを利用して製造した、オゾン濃度10ppmのオゾン水に1時間浸漬した以外は、実施例10と同様にして、PPS基材上に形成したプライマー層/銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0158】
(実施例22)
作製例1で得られたPPS成形基材の表面に、エキシマ光照射装置(ウシオ電機株式会社製、UER20-172型)を用いて、分圧0.5%の酸素を含む窒素気流下で、172nmの光を5分間照射し、オゾン雰囲気下で処理した。PPS基材表面のオゾン雰囲気下での処理以降は、実施例10と同様にして、PPS基材上に形成したプライマー層/銀粒子層(M1)上に15μm厚の銅めっき層(M2)を得た。
【0159】
(比較例1)
実施例1において、ポリイミドフィルムをオゾンマイクロナノバブル含有水で処理しない以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドフィルム表面に銀粒子層(M1)/15μm厚銅めっき層を形成した。
【0160】
(比較例2)
実施例2において、ポリイミドフィルムをオゾンマイクロナノバブル含有水で処理しない以外は、実施例2と同様にして、ポリイミドフィルム表面に銀粒子層(M1)/15μm厚銅めっき層を形成した。
【0161】
(比較例3)
実施例9において、PPS成形基材をオゾンマイクロナノバブル含有水で処理しない以外は、実施例9と同様にして、PPS成形基材表面に銀粒子層(M1)/15μm厚銅めっき層を形成した。
【0162】
(比較例4)
実施例10において、PPS成形基材をオゾンマイクロナノバブル含有水で処理しない以外は、実施例10と同様にして、PPS成形基材表面に銀粒子層(M1)/15μm厚銅めっき層を形成した。
【0163】
(比較例5)
実施例1と同様にして、オゾン濃度5ppmのオゾンマイクロナノバブル含有水で15分間ポリイミドフィルムを処理した。ポリイミドフィルム上へのめっき処理は、文献(「各種樹脂の表面改質および機能性めっき皮膜形成技術に関する研究」、関東学院大学 博士学位論文、平成26年1月、西村宜幸、p.48)に基づき行った。めっきオゾン雰囲気で処理したポリイミドフィルムを65℃に設定したアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム50g/L)に2分間浸漬し、45℃で2分間コンディショナー処理した(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製、CC231コンディショナー)。続いて、45℃に設定した塩化パラジウム水溶液(0.3g/L)に2分間浸漬するキャタリスト工程を経て、45℃に設定したホスフィン酸ナトリウム水溶液(30g/L)に1分間浸漬して、パラジウム触媒の活性化を行った。
パラジウム触媒の活性化を行ったポリイミドフィルムを、40℃に設定した無電解銅-ニッケルーリンめっき液(Na3(C3H5O(COO)3) 15 g/L、CuSO4・5H2O 7 g/L、NiSO4・6H2O 3 g/L、H3BO3 15 g/L、NaH2PO2・H2O 19.4 g/L、pH 8)で処理することにより、0.2μm厚の銅―ニッケル―リンめっき膜を形成した。このフィルムを120℃で1時間アニーリングした後、室温の希硫酸(H2SO4 1vol%)で30s浸漬し、電解銅めっきを実施することで15μm厚の銅めっき層を形成した。
【0164】
(比較例6)
比較例5において、用いる絶縁性基材(A)をポリイミドフィルムの代わりに、作製例1で製造したPPS成形体に変更し、オゾンマイクロナノバブル含有水への浸漬処理時間を15分から60分に変更した以外は、比較例5と同様にしてPPS成形基材表面に0.2μm銅―ニッケル―リン無電解めっき/15μm厚銅めっきの金属めっき層を形成した。
【0165】
表1、表2に実施例1~22、比較例1~6の作成条件、剥離強度(kN/m)、線間金属除去性を示した。比較例5,6は、銅―ニッケル―リン無電解めっきと電解銅めっきを行ったが、基材表面に浸透層を形成するため、前記[金属めっき層形成後の基材の絶縁信頼性評価]において、パターニング後の表面にめっき金属の残渣が確認された。








【0166】
【表1】



【0167】
【表2】