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  • 特許-スパッタリングターゲット材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230110BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 29/14 20060101ALI20230110BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230110BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20230110BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230110BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C19/07 C
C22C29/14 Z
C22C38/00 303Z
G11B5/39
H01F1/147
H01F1/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021146612
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-25077(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175424(WO,A1)
【文献】特開2020-143372(JP,A)
【文献】特開2021-109980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 19/07
C22C 29/14
C22C 38/00
G11B 5/39
H01F 1/147
H01F 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、Co及び/又はFeと、Bと、添加元素Mと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金であり、
上記合金におけるBの含有量が49.0at%以上52.0at%以下であり、
上記添加元素Mが、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上であり、この選択された添加元素Mの合計含有量が、0.1at%以上2.0at%以下である、スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
上記合金におけるCo及びFeの合計含有量(at%)をxとし、Bの含有量(at%)をyとし、添加元素Mの合計含有量(at.%)をzとして、この合金の組成を、組成式:(CoFe)xByMzとして表すとき、下記式1及び式2を満たす、請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
6 ≧ (y-x) ≧0 ・・・(式1)
4 ≧ (y-x)/z ≧ 0・・・(式2)
【請求項3】
Bと上記添加元素Mによる化合物からなるホウ化物相を含有する、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
X線回折測定で得られる回折パターンにおいて、Bと上記添加元素Mによる化合物からなるホウ化物相に由来するピークが検出される、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット材に関する。詳細には、本発明は、磁性層の製造に用いるCoFeB合金系スパッタリングターゲット材に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の磁気デバイスには、磁気トンネル接合(MTJ)素子が採用されている。MTJ素子は、高いトンネル磁気抵抗(TMR)信号、低いスイッチング電流密度(Jc)等の特徴を示す。
【0003】
磁気トンネル接合(MTJ)素子は、通常、CoFeB系合金からなる2枚の磁性層で、MgOからなる遮蔽層を挟んだ構造を有している。この磁性層は、その材質がCoFeB系合金であるターゲット材を用いたスパッタリングにより得られる薄膜である。ターゲット材をなすCoFeB系合金中のホウ素(B)含量を増加することにより、得られる磁性層の磁気性能が向上して、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。
【0004】
一方、ホウ素含量の増加に従って、スパッタリング時にパーティクルの発生頻度が高くなる傾向にある。パーティクルの発生は、得られる磁性膜の品質劣化の原因となる。品質が劣化した磁性膜は、磁気デバイスの性能を不安定化させる。そのため、歩留まりが低下するという問題があり、パーティクルの発生が少ないCoFeB系合金からなるターゲット材が求められている。
【0005】
特開2004-346423公報(特許文献1)には、断面ミクロ組織においてホウ化物相を微細分散化させたCo-Fe-B系合金ターゲット材が開示されている。国際公開WO2015-080009公報(特許文献2)では、パーティクル発生を抑制したターゲット材として、Bの高濃度相とBの低濃度相とを含み、Bの高濃度相を細かく分散している磁性材スパッタリングターゲットが提案されている。
【0006】
特開2017-057477公報(特許文献3)には、(CoFe)B、CoB及びFeBの形成を抑制することにより、パーティクルの発生を低減したスパッタリングターゲット材が開示されている。国際公開WO2016-140113公報(特許文献4)には、酸素含有量を100wtppm以下にすることで、パーティクルの発生を抑制した磁性材スパッタリングターゲットが開示されている。特開2017-057490号公報(特許文献5)には、機械的強度改善のために水素含有量が20ppm以下に低減されたスパッタリングターゲット材において、材質であるCoFeB系合金に1又は2種以上の他の元素が添加されている。特開2021-109979号公報(特許文献6)には、Bの比率が33at.%以上50at.%以下のCo-Fe-B系合金において、非B合金相を含むことによりパーティクルの発生を抑制したスパッタリングターゲット材が開示されている。特開2021-109980号公報(特許文献7)には、Bの比率が33at.%以上50at.%以下のCo-Fe-B系合金において、(CoFe)B相と(CoFe)B相との境界長さを制御した金属組織を形成することによりパーティクルの発生を抑制したスパッタリングターゲット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-346423公報
【文献】国際公開WO2015-080009公報
【文献】特開2017-057477公報
【文献】国際公開WO2016-140113公報
【文献】特開2017-057490号公報
【文献】特開2021-109979号公報
【文献】特開2021-109980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、MTJ素子の性能向上のために、CoFeB系合金中のホウ素含量のさらなる増加が要望されている。特に、ホウ素含有量50at%のCoFeB系合金からなるターゲット材により、磁気性能に優れた磁性膜が得られうる。ここで、Co-B及びFe-Bの2元平衡状態図によれば、ホウ素含有量が50at%の場合、理論上は、(CoFe):B=1:1の化学量論的化合物である(CoFe)B相が生成する。しかし、例えば、粉末焼結法を用いて、工業的にホウ素含有量50at%となるターゲット材を製造する場合、目的とする組成とできあがった組成との差によって、ホウ素含有量が50at%より多い場合と、ホウ素含有量が50at%より少ない場合とが生じる。具体的には、ホウ素含有量が50at%より少ない場合には、(CoFe):B=2:1である(CoFe)B相が生成し、ホウ素含有量が50at%より多い場合には、純B相が生成する。そのため、ホウ素含有量50at%を目的として製造されたターゲット材の金属組織はロットによる違いが大きく、スパッタリングの安定性に欠ける傾向にあった。特に、ホウ素含有量が50at%を超える場合に生成する純B相は、スパッタリング時のパーティクル発生の要因となるため、生産性を阻害するという問題があった。
【0009】
特許文献1-7に開示されたターゲット材は、いずれも、ホウ素含有量50at%前後の組成において、スパッタリング時のパーティクル発生を十分に低減するものではない。本発明の目的は、優れた磁気性能が得られるホウ素含有量50at%近いCoFeB系合金を材質としつつ、スパッタリング時のパーティクル発生が低減されたターゲット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、CoFeB系合金に、ホウ化物形成能を有する特定の元素を添加することにより、その金属組織において純B相の生成が顕著に抑制されることに着目して本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Co及び/又はFeと、Bと、添加元素Mと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金である。この合金におけるBの含有量は、49.0at%以上52.0at%以下である。この添加元素Mは、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金における選択された添加元素Mの合計含有量は、0.1at%以上2.0at%以下である。
【0012】
好ましくは、この合金におけるCo及びFeの合計含有量(at%)をxとし、Bの含有量(at%)をyとし、添加元素Mの合計含有量(at.%)をzとして、この合金の組成を、組成式:(CoFe)として表すとき、このスパッタリングターゲット材は、下記式1及び式2を満たす。
6 ≧ (y-x) ≧0 ・・・(式1)
4 ≧ (y-x)/z ≧ 0・・・(式2)
【0013】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材は、Bと添加元素Mによる化合物からなるホウ化物相を含有する。好ましくは、このスパッタリングターゲット材を、X線回折測定して得られる回折パターンにおいて、Bと添加元素Mによる化合物からなるホウ化物相に由来するピークが検出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、その材質である合金におけるホウ素及び添加元素Mの含有量が適正である。このターゲット材の金属組織では、添加元素Mにより純B相の生成が抑制される。このターゲット材を用いたスパッタリングでは、パーティクルの発生が顕著に低減される。このターゲット材を用いたスパッタリングによれば、高品質かつ高性能の磁性膜を効率よく得ることができる。このターゲット材は、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに用いる磁性膜の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材のX線回折により得られた回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、「CoFeB系合金」とは、その組成において、Co又はFeが0at%の場合を含む概念である。また、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0017】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、Co及び/又はFeと、Bと、添加元素Mと、を含み、その残部が、不可避的不純物とからなる合金である。換言すれば、この合金は、添加元素Mを含むCoFeB系合金である。本発明において、添加元素Mは、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上である。本発明の効果が阻害されない限り、この合金は、任意成分として他の元素を含みうる。不可避的不純物としては、O、S、C、N等が例示される。
【0018】
この合金におけるBの含有量は、49.0at%以上52.0at%以下であり、添加元素Mの含有量は、0.1at%以上2.0at%以下である。この合金が、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される2種以上を含む場合、その合計含有量が0.1at%以上2.0at%以下とされる。
【0019】
Bの含有量が49.0at%以上52.0at%以下であることにより、得られる磁性膜の磁気性能が向上する。Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfから選択される添加元素Mは、CoFeB系合金の金属組織においてホウ化物を形成することができる。この合金では、添加元素Mが過剰なBとホウ化物を形成することにより、49.0at%以上52.0at%以下という高い含有量でBを含むにも関わらず、パーティクル発生の要因となる純B相の形成が抑制される。このターゲット材によれば、スパッタリング時のパーティクル発生が顕著に低減される。このターゲット材を用いてスパッタリングすることにより、高い磁気性能を有する磁性膜を効率的に製造することができる。この磁性膜を組み込むことにより、MTJ素子の高いTMR信号が達成される。このターゲット材は、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに用いる磁性膜の製造に適している。
【0020】
磁気性能向上の観点から、この合金におけるBの含有量は49.0at%以上であり、49.0at%を超えることが好ましく、49.3at%以上がより好ましく、49.5at%以上がさらに好ましい。純B相の過剰な形成抑制の観点から、この合金におけるBの含有量は52.0at%以下であり、52.0at%未満が好ましく、51.5at%以下がより好ましく、51.0at%以下がさらに好ましい。
【0021】
純B相の生成を抑制して、スパッタリング時のパーティクル発生を低減する観点から、この合金における添加元素Mの合計含有量は0.1at%以上であり、0.2at%以上が好ましく、0.3at%以上がより好ましく、0.4at%以上がさらに好ましい。
【0022】
ここで、Bの含有量が50at%以上のCoFeB系合金の金属組織では、理論上、(CoFe):B=1:1である(CoFe)B相と、純B層とが形成されるが、この合金における添加元素Mの合計含有量が2.0at%を超える場合、添加元素Mが、純B層のみならず、(CoFe)B相中のBと反応して、過剰なホウ化物相を形成する。添加元素Mによる過剰なホウ化物相の形成は、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となりうる。添加元素Mによる過剰なホウ化物相形成を回避する観点から、CoFeB合金における添加元素Mの合計含有量は2.0at%以下であり、1.9at%以下が好ましく、1.8at%以下がより好ましく、1.7at%以下がさらに好ましい。なお、本願明細書中、「(CoFe)B相」は、Co又はFeが0at%である場合を含む概念であり、CoFeB相に加えて、CoB相及び/又はFeB相を含む。
【0023】
Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される限り、添加元素Mの種類は特に限定されないが、好ましくは、Mo及びWである。Mo及びWは、いずれも、Co及びFeと類似のホウ化物形成能を有している。そのため、Mo及びWは、Bの含有量が略50at%のCoFeB系合金の金属組織において、(CoFe)B相中のBと反応して過剰なホウ化物相を形成することなく、過剰なBと反応して純B相の生成を抑制することができる。
【0024】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材をなすCoFeB系合金は、組成式:(CoFe)として表される。この組成式中、xはCo及びFeの合計含有量(at%)であり、yはBの含有量(at%)であり、zは添加元素Mの合計含有量(at.%)である。Mは、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される添加元素である。
【0025】
前述した通り、この合金におけるBの含有量yは、49.0at%以上52.0at%以下である。磁気特性向上及びパーティクル発生低減の観点から、yは、49.0at%を超えてよく、49.3at%以上がより好ましく、49.5at%以上がさらに好ましく、また、52.0at%未満であってよく、51.5at%以下がより好ましく、5.0at%以下がさらに好ましい。
【0026】
この合金における添加元素Mの合計含有量zは、0.1at%以上2.0at%以下である。スパッタリング時のパーティクル発生低減の観点から、zは、0.2at%以上が好ましく、0.3at%以上がより好ましく、0.4at%以上がさらに好ましく、また、1.9at%以下が好ましく、1.8at%以下がより好ましく、1.7at%以下がさらに好ましい。
【0027】
Bの含有量y及び添加元素Mの合計含有量zが前述の範囲を満たす限り、Co及びFeの合計含有量xは、特に限定されないが、本発明の効果が得られやすいとの観点から、xは、50.0at%未満が好ましく、49.9at%以下がより好ましい。好ましくは、xは46.0at%以上である。また、本発明の効果が得られる限り、この合金におけるCo及びFeの配合比は、特に限定されず、0:100~100:0の範囲で適宜調整されうる。
【0028】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材では、Co及びFeの合計含有量x(at%)と、Bの含有量y(at%)とが、下記式1を満たす。
6 ≧ (y-x) ≧0 ・・・(式1)
【0029】
Bの含有量yと、Co及びFeの合計含有量xとの差(y-x)が6以下のターゲット材によれば、CoFeB系合金の金属組織における純B相の形成が抑制され、スパッタリング時のパーティクル発生が低減される。この観点から、差(y-x)は4以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。差(y-x)が0未満の場合、Bの含有量がCo及びFeの合計含有量より少ないため純B相の形成は生じないが、所望の磁気性能が得られない場合がある。磁気性能向上の観点から、好ましい差(y-x)は0以上である。
【0030】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材では、Co及びFeの合計含有量x(at%)、Bの含有量y(at%)及び添加元素Mの合計含有量z(at%)が、下記式2を満たす。
4 ≧ (y-x)/z ≧ 0・・・(式2)
【0031】
差(y-x)と、添加元素Mの合計含有量zとの比(y-x)/zが4以下であるターゲット材によれば、添加元素Mによる過剰なホウ化物相の形成が抑制され、スパッタリング時のパーティクル発生が低減されるとともに、得られる磁性膜の磁気性能が向上する。この観点から、比(y-x)/zは3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。比(y-x)/zが0以上のターゲット材によれば、磁気性能に優れた磁性膜を効率的に製造することができる。この観点から、より好ましい比(y-x)/zは0.5以上である。
【0032】
前述した通り、Bの含有量が49.0at%以上52.0at%以下であるCoFeB系合金の金属組織において、添加元素Mのホウ化物相が適正な量で形成されることにより、純B相の形成が抑制されて、スパッタリング時のパーティクル発生が低減される。換言すれば、このCoFeB系合金からなるスパッタリングターゲット材は、Bと添加元素Mとによる化合物からなるホウ化物相を含む。ここで、Bと添加元素Mとによる化合物は、B及び添加元素Mによる2元化合物(MB)であってもよく、B、添加元素M、及び、Co又はFeによる3元化合物(CoMB又はFeMB)であってもよい。このホウ化物相が、2元化合物(MB)とともに3元化合物(CoMB及び/又はFeMB)を含んで形成されてもよい。このCoFeB系合金からなるスパッタリングターゲット材を、X線回折測定して得られる回折パターンにおいて、好ましくは、Bと添加元素Mによる化合物からなるホウ化物相に由来するピークが検出される。なお、X線回折測定の詳細については、実施例にて後述する。
【0033】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材のX線回折測定により得られた回折パターンの一例が、図1に示されている。このターゲット材の材質は、添加元素MとしてZrを含むCoFeB系合金である。図1中、Bと添加元素Zrによる化合物からなるホウ化物相ZrB相に由来するピークが、▼及び▽として示されている。
【0034】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、原料粉末を焼結する焼結工程を含む。詳細には、この製造方法は、原料である粉末を高圧下で加熱して固化成形する、いわゆる粉末冶金により焼結体を形成する工程を含む。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、ターゲット材が得られる。
【0035】
原料粉末は、多数の粒子からなる。本発明に係る製造方法において、原料粉末をなす各粒子の材質は、Co及び/又はFeと、Bと、添加元素Mと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金である。この合金におけるBの含有量は49.0at%以上52.0at%以下である。添加元素Mは、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金における、選択された添加元素Mの合計含有量は、0.1at%以上2.0at%以下である。
【0036】
この製造方法では、ホウ素B及び添加元素Mの含有量が、それぞれ前述の範囲内にある原料粉末が用いられることにより、この原料粉末を焼結して得られるターゲット材の金属組織における純B相の形成が抑制される。この製造方法により得られるターゲット材によれば、スパッタリング時のパーティクル発生が顕著に低減され、磁気性能に優れた磁性膜を効率よく得ることができる。
【0037】
この原料粉末は、アトマイズ法により製造されうる。アトマイズ法の種類は特に限定されず、ガスアトマイズ法であってもよく、水アトマイズ法であってもよく、遠心力アトマイズ法であってもよい。アトマイズ法の実施に際しては、既知のアトマイズ装置及び製造条件が適宜選択されて用いられる。
【0038】
好ましくは、原料粉末は、焼結工程前に篩分級される。この篩分級の目的は、焼結を阻害する粒子径500μm以上の粒子(粗粉)を除去することにある。
【0039】
ターゲット材の製造に際し、原料粉末を固化成形して焼結体を得る方法及び条件は、特に限定されない。例えば、熱間静水圧法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0040】
本発明に係る製造方法により得られるターゲット材は、例えば、MTJ素子に使用される磁性薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、高いホウ素含量にもかかわらず、スパッタリング時のパーティクル発生が低減される。このターゲット材によれば、磁気ヘッド、MRAM等の磁気デバイスに適した、高性能かつ高品質の磁性膜を効率良く製造することができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0042】
[原料粉末の製造]
表1-2に示される組成となるように、各原料を秤量して、耐火物からなる坩堝に投入して、減圧下、Arガス雰囲気又は真空雰囲気で、誘導加熱により溶解した。その後、溶解した溶湯を、坩堝下部に設けられた小孔(直径8mm)から流出させ、高圧のArガスを用いてガスアトマイズすることにより、ターゲット材製造用の原料粉末を得た。
【0043】
[スパッタリングターゲット材の製造]
得られた原料粉末を、以下の手順により焼結して、実施例1-13のターゲット材及び比較例1-6のターゲット材を製造した。
【0044】
始めに、ガスアトマイズ法で得た原料粉末を篩分級して、直径500μm以上の粗粉を除去した。次に、篩分級後の原料粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して真空脱気した後、HIP装置を用いて、温度900~1200℃、圧力100~150MPa、保持時間1~5時間の条件で焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工して、スパッタリングターゲット材とした。
【0045】
[X線回折測定]
実施例及び比較例の各ターゲット材から試験片を採取し、この試験片をガラス板に両面テープで貼り付け、X線回折装置で測定することにより回折パターンを得た。回折条件は、下記の通りである。
X線源:Cu-α線
スキャンスピード:4°/min
回折角2θ:20~80°
【0046】
得られた回折パターンにて、添加元素Mのホウ化物相に由来するピークの有無を確認した。下表1-2中、ホウ化物相のピークが検出された場合が「有」、検出されなかった場合が「無」として示されている。Bと添加元素Mからなるホウ化物相の(101)面に由来するピーク強度が、このピーク近隣のノイズ強度の平均値に対し1.3倍以上の場合を、「有」と評価した。一例として、実施例2のターゲット材のX線回折測定で得られた回折パターンが、図1に示されている。図中、▼及び▽は、ZrB相に由来するピークであり、▽が、ZrB相の(101)面に由来するピークである。
【0047】
[パーティクル評価]
実施例及び比較例のターゲット材を用いて、DCマグネトロンスパッタにて、スパッタリングをおこなった。スパッタリング条件は、以下の通りである。
基板:アルミ基板(直径95mm、厚み1.75mm)
チャンバー内雰囲気:アルゴンガス
チャンバー内圧:圧力0.9Pa
スパッタリング後、Optical Surface Analyzerにて、直径95mmのアルミ基板上に付着した直径0.1μm以上のパーティクルを係数し、下記の基準に基づき、格付けをおこなった。この結果が、パーティクル評価として、下表1-2に示されている。
A:パーティクル数10個以下
B:パーティクル数10個超200個以下
C:パーティクル数200超
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1に示される通り、添加元素Mの合計含有量zが0.1at%以上2.0at%以下であり、ホウ素含有量yが49.0at%以上52.0at%であるCoFeB系合金からなる実施例1-13では、パーティクルの発生が顕著に低減された。一方、表2に示される通り、ホウ素含有量yが49.0at%未満である比較例1及び2では、純B相の生成がないため、添加元素Mによる純B相の抑制効果がなく、逆に、添加元素Mのホウ化物相が過剰に形成されることにより、スパッタリング時に多くのパーティクルが発生した。また、添加元素Mの合計含有量zが2.0at%を超える比較例3、添加元素Mを含まない比較例4、並びに、ホウ素含有量yが52at%を超える比較例5及び6では、純B相の形成又は添加元素Mによる過剰なホウ化物相の形成により、スパッタリング時に多くのパーティクルが発生した。また、ホウ素含有量が少ない比較例1及び2では、得られる磁性膜の性能向上効果が見込めない。
【0051】
以上説明された通り、実施例のターゲット材は、比較例のターゲット材に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明されたスパッタリングターゲット材は、種々の用途における磁性層の製造に適用されうる。
【要約】
【課題】スパッタリング時のパーティクル発生が低減されたCoFeB合金系ターゲット材の提供。
【解決手段】このスパッタリングターゲット材の材質は、Co及び/又はFeと、Bと、添加元素Mと、を含み、その残部が不可避的不純物からなる合金である。この合金におけるBの含有量は、49.0at%以上52.0at%以下である。この添加元素Mは、Mo、W、Nb、Ta、Zr及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上である。この合金における、選択された添加元素Mの合計含有量は、0.1at%以上2.0at%以下である。
【選択図】図1
図1