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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】酸素抽出フィルタ及び酸素抽出装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230110BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20230110BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20230110BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
B01D71/02 500
C01B13/02 Z
C04B35/50
B01D53/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021020596
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2021137797
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020034531
(32)【優先日】2020-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】320001927
【氏名又は名称】スズキ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101524
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】籠宮 功
(72)【発明者】
【氏名】木村 和揮
(72)【発明者】
【氏名】水野 賢太
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220368(JP,A)
【文献】特開2005-281077(JP,A)
【文献】特開2003-210952(JP,A)
【文献】特開2016-016389(JP,A)
【文献】特開2017-113714(JP,A)
【文献】寺岡靖剛ほか3名,La1-xSrxCo1-yFeyO3 ペロブスカイト型酸化物の酸素透過能,日本化学会誌,日本,1988年,No.7,1084-1089
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61/00-71/82
C01B 13/02
C04B 35/00-50
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気から酸素を抽出する酸素抽出フィルタであって、
酸素透過性を有する酸化物イオン・電子混合伝導体と、酸化物イオン伝導体とが混合状態で焼結された焼結体(ただし、酸化物イオン・電子混合伝導体と酸化物イオン伝導体とが積層されて焼結された焼結体を除く。)であり、
前記酸化物イオン・電子混合伝導体が、La-Sr-Co-Fe系のペロブスカイト型の酸化物であって、La,Sr,Co,Feのモル比が、x:1-x:1-y:yであって、0<x≦0.2,0<y≦0.2であり、
前記酸化物イオン伝導体が、サマリウムドープセリア、ランタンドープセリア及びガドリニウムドープセリアのうちから選択された少なくとも1種からなり、
前記酸化物イオン・電子混合伝導体と前記酸化物イオン伝導体との体積比が、40:60~60:40である、
酸素抽出フィルタ
【請求項2】
請求項1に記載の酸素抽出フィルタを用いた酸素抽出装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングの上流端部に接続された圧縮空気流入管と、
前記ハウジング内に配設された前記酸素抽出フィルタと、
前記酸素抽出フィルタの下流側に設けられた酸素流出管と
を有する、酸素抽出装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気(大気)中の酸素のみを透過させて空気(大気)から酸素を抽出する酸素抽出フィルタ用材料等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば病院等の医療現場において、純粋な酸素(正確には、99.5%以上のほぼ純粋な酸素)の需要がある。重篤な患者に酸素を吸入させるためである。
【0003】
そして、従来は、工場において化学的に製造された酸素が、ボンベに収容された状態で搬送されて、医療現場等に供給されている。
しかしながら、それではコスト高であるとともに、ボンベの在庫が枯渇し、新たなボンベが搬送され得ない場合には、患者に酸素を吸入させることができないこととなる、という不安定要素がある。
【0004】
ここで、大気の約2割は酸素であり、大気中から酸素を抽出すれば、上記の問題は解決する。すなわち、酸素のみを透過させるフィルタが求められており、フィルタに適した材質が模索されている。
【0005】
Sr-Co系酸化物は酸素透過性が高い(特に高温の時に高い)ことが知られている。
しかしながら、この酸化物は、結晶の相転移が起こりやすいという欠点がある。このため、酸素抽出フィルタには不適である。
【0006】
非特許文献1及び非特許文献2に開示されているように、La-Sr-Co-Fe系酸化物は、酸素透過性が高いとともに、結晶の相転移が起こりにくい。特に、そのうちでも、La,Sr,Co,Feのモル比が、1:9:9:1の酸化物が特に酸素透過性に優れていることが知られている。
【0007】
しかしながら、この酸化物は機械的強度が弱く、実用に足りないという欠点がある。
すなわち、特許文献1には、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.13-δで表記されるペロブスカイト型混合伝導体の室温三点曲げ強度の値が約3MPaであり、一般的な構造用セラミックスであるアルミナの同400MPa、部分安定化ジルコニアの同1000MPa、ムライトの同200MPa、窒化ケイ素の同800MPaなどと比較して著しく低い旨が指摘されている。
このため、この酸化物も酸素抽出フィルタには不適である。
【0008】
また、酸素抽出フィルタは、単独で使用することは基本的に不可能であり、耐熱性を有するステンレス鋼等の金属によって形成された酸素抽出装置(その装置本体)に対して、金や銀を接着剤として取り付けられて使用されることが想定されている。
各材質は温度によって膨張・収縮する性質を有しており、その度合い(熱膨張率)は各材質によって異なる。
【0009】
しかしながら、La-Sr-Co-Fe系酸化物の熱膨張率は、ステンレス鋼等の熱膨張率と比較してかなり大きい。すなわち、特許文献2には、ステンレス鋼(SUS310S)の線熱膨張係数が17.5ppm/℃程度であるところ、La0.2Sr0.8Co0.8Fe0.23-δで表記されるLSCF系ペロブスカイト型混合伝導体の室温から800℃までの平均線熱膨張係数が約26ppm/℃であり、その数値が非常に高い旨が指摘されている。
このため、この酸化物によって形成されたフィルタが、ステンレス鋼製の酸素抽出装置(装置本体)に取り付けられた状態において、温度変化に伴うフィルタの膨張・収縮が接着剤としての金属や装置本体(そのうちの該当する部材)の膨張・収縮に調和せず、破損してしまうという欠点もある。
この点でも、この酸化物は酸素抽出フィルタに不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-210952号公報
【文献】特開2002-020180号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】寺岡靖剛「Chemistry Letters」1985年 pp.1743~1746
【文献】寺岡靖剛「日本化学会誌」1988年(7)pp.1084~1089
【文献】寺岡靖剛「日本セラミックス協会学術論文誌」1989年 Vol.97 No.4 pp.467-472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、機械的強度に優れるとともに適度な熱膨張率を有する(所定の金属の熱膨張率に近い)酸素抽出フィルタ用材料等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、酸素透過性を有する酸化物イオン・電子混合伝導体と、酸化物イオン伝導体とが混合状態で焼結して形成された複合材料が、空気中の酸素を抽出する、酸素抽出フィルタ用材料として好適であることを見出したのである。
すなわち、前記酸化物イオン伝導体が補強機能及び熱膨張率低下機能を有する場合に好適である。
【0014】
なお、「酸化物イオン・電子混合伝導体」とは、酸化物イオン及び電子の双方が伝導可能な材料をいう。「酸化物イオン伝導体」とは、酸化物イオンが伝導可能な材料をいう。
【0015】
前記酸化物イオン・電子混合伝導体(以下、単に「混合伝導体」ともいう。)については、例えば、La-Sr-Co-Fe系のペロブスカイト型の酸化物が挙げられる。La,Sr,Co,Feのモル比については、x:1-x:1-y:yであって、0<x≦0.2,0<y≦0.2であることが望ましい。
【0016】
前記酸化物イオン伝導体については、例えば、サマリウムドープセリア、ランタンドープセリア及びガドリニウムドープセリアのうちから選択された少なくとも1種からなることが望ましい。
【0017】
前記混合伝導体と前記酸化物イオン伝導体との体積比については、20:80~80:20であることが望ましい。
そのうちでも、混合伝導体の下限であり酸化物イオン伝導体の上限の体積比は、40:60がより好ましい。また、混合伝導体の上限であり酸化物イオン伝導体の下限の体積比は、60:40がより好ましい。また、混合伝導体の下限であり酸化物イオン伝導体の上限、又は、混合伝導体の上限であり酸化物イオン伝導体の下限の体積比は、50:50がさらに好ましい。
【0018】
上述のいずれかの酸素抽出フィルタ用材料によって、好適な酸素抽出用フィルタが形成される。すなわち、所定の大きさや厚みのものにされることによって、フィルタとして好適なものとなる。
【0019】
また、上述の酸素抽出フィルタを備えることによって、好適な酸素抽出装置が形成される。例えば、ハウジングに対して空気流入管及び酸素流出管が接続されている等、空気流入管から酸素流出管へと向かう流路が形成されている装置本体において、その流路の途中に上述の酸素抽出フィルタが配設される。これによって酸素抽出フィルタの上流側の空間と下流側の空間との間に生じる酸素分圧差に基づいて、当該上流側の空気中の酸素が、酸素のみを透過させる酸素抽出フィルタを通って、当該下流側に流れることとなる。
このようにして、空気(大気)中から酸素が抽出され、酸素が製造されるのである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複合材料(酸素抽出フィルタ用材料)は、酸素透過性に優れているとともに、機械的強度に優れ、熱膨張率が所定の金属の熱膨張率に近いため、酸素抽出フィルタとして好適である。そして、その酸素抽出フィルタ(それを利用した酸素抽出装置及び酸素製造方法)によって、効率の良い酸素抽出(製造)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態である酸素抽出フィルタを用いた酸素抽出装置を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の実施例及び比較例における酸素透過速度を測定する装置を概略的に示す図(大半が断面)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について説明する。
この酸素抽出フィルタ用材料(酸素抽出フィルタ)は、酸素透過性を有する酸化物である酸化物イオン・電子混合伝導体(混合伝導体)と、酸化物イオン伝導体との混合物が焼結されて形成されている。
【0023】
[混合伝導体]
混合伝導体の代表例が、La-Sr-Co-Fe系(「LSCF系」とも称される)のペロブスカイト型酸化物である。
これは、LaxSr1-xCo1-yFey3-δとも表記される。なお、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である。x,yの好適な範囲は、0<x≦0.2,0<y≦0.2である。
そのうちでも、特に、x=0.1,y=0.1が好ましい。
すなわち、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.13-δである。これは、便宜的に「LSCF1991」とも表記される。
【0024】
[LSCF系ペロブスカイト型混合伝導体粉末の製造]
LSCF系ペロブスカイト型混合伝導体粉末は、次のようにして得られる。
酸化ランタン(La23),炭酸ストロンチウム(SrCO3),酸化コバルト(Co34),酸化第二鉄(Fe23)を所定の組成になるように秤量し、水、アルコール、アセトンなどの溶媒を用いて湿式ボールミルを16時間から120時間実施する。
次いで、この混合物を乾燥して得られた粉末を800~1200℃で2~16時間焼成し、粉砕することによって、平均粒子径0.5~5.0μmのLSCF系ペロブスカイト型混合伝導体の粉末を得る。
【0025】
[酸化物イオン伝導体]
酸化物イオン伝導体は、酸化物イオン伝導性を有する酸化物であって、混合伝導体の酸素透過性を阻害することなく、機械的強度を高め、熱膨張率(線熱膨張係数)を適度なものにするのに有効な材質が好ましい。
その代表例として、サマリウムドープセリア(SDC),ランタンドープセリア(LDC),ガドリニウムドープセリア(GDC)がある。これらのうち、1種類で構成されてもよいし、2種類以上で構成されてもよい。
ドープする希土類元素の添加割合については、5~30モル%程度、さらには5~20モル%とすることが望ましい。ほぼ20モル%の場合に酸化物イオン伝導性が非常に良好である。
【0026】
サマリウムドープセリア(SDC)は、SmxCe1-x2-δとも表記される。なお、δは、電荷中性条件を満たすように定まる値である(以下同様である)。xの範囲は、0<x<1である。x=0.2の場合は、Sm0.2Ce0.82-δである。これは、便宜的に「SDC20」とも表記される。
ランタンドープセリア(LDC)は、LaxCe1-x2-δとも表記される。xの範囲は、0<x<1である。x=0.07の場合は、La0.07Ce0.932-δである。これは、便宜的に「LDC07」とも表記される。
ガドリニウムドープセリア(GDC)は、GdxCe1-x2-δとも表記される。xの範囲は、0<x<1である。x=0.2の場合は、Gd0.2Ce0.82-δである。これは、便宜的に「GDC20」とも表記される。
【0027】
[酸化物イオン伝導体の粉末の製造]
酸化物イオン伝導体の粉末は、次のようにして得られる。
酸化セリウムと、酸化セリウムにドープするLa,Sm,Gdの金属酸化物を所定の組成になるように秤量し、水、アルコール、アセトンなどの溶媒を用いて湿式ボールミルを16時間から120時間実施する。
次いで、この混合物を乾燥して得られた粉末を1000~1400℃で2~16時間焼成し、粉砕することによって、平均粒子径0.5~5.0μmの酸化物イオン伝導体の粉末を得る。
【0028】
[複合材料の製造]
LSCF系ペロブスカイト型混合伝導体粉末と酸化物イオン伝導体粉末を所定の組成になるように秤量し、水、アルコールなどの溶媒を用いて湿式ボールミルを16時間から120時間実施する。
次いで、この混合物を乾燥して得られた粉末に有機バインダーを3~10重量%となるように添加し混錬した後、ダイスを用いて一軸成形を行い、さらにCIP成形を行う。
これによって得られた成形物を1200~1300℃の焼成温度で2~10時間焼成することによって、複合材料の焼結体を得る。
【0029】
[複合材料の評価用の試験体]
上述のように製造される複合材料(フィルタ用材料)について、後述のように各種の試験を行うことができるが、その際の試験体は、次のように製造される。
【0030】
(1)熱膨張係数測定用の試験体・酸素透過性能評価用の試験体
上述の複合材料の製造における一軸成形の際には、直径25mmのダイスを用いる。
そして、上述のようにして得られた複合材料の焼結体を約5mm×5mm×20mmとなるように切削、研磨を行い、線熱膨張係数測定用の試験体とする。
同じく複合材料の焼結体を厚み1mmになるように切削、研磨を行い、酸素透過性能評価用の試験体とする。
【0031】
(2)強度試験用の試験体
上述の複合材料の製造における一軸成形の際には、70×700mmの角型ダイスを用いる。
そして、上述のようにして得られた複合材料の焼結体を約4mm×3mm×50mmとなるように切削、研磨を行い強度試験用の試験体とする。
【0032】
[酸素抽出フィルタ]
上述の複合材料(酸素抽出フィルタ用材料)を素材として、それが所定の大きさや厚みにされて、酸素抽出フィルタが形成される。
図1に示すように、酸素抽出フィルタが装置本体に対して取り付けられ、酸素抽出装置として使用される。
装置本体(符号省略)は、ハウジング10,圧縮空気流入管20,ホルダ30,酸素流出管40を有している。装置本体は、耐熱性を有するステンレス鋼(SUS310S)によって形成されている。
ハウジング10は、両端部が閉塞された円筒状をしている。ハウジング10には加熱機構(図示省略)が伴っている。
圧縮空気流入管20(その下流端部)は、ハウジング10の上流端部(その上流貫通孔12)に接続されている。
このようして、圧縮空気流入管20→ハウジング10→酸素流出管40という流路が形成されている。
ホルダ30は、ハウジング10の内部(上述の流路の途中)に配設されている。ホルダ30は、円板状をなし、その中心には円孔34が形成されている。
円板状のホルダ30の縁部には、円環状の突起状のフィルタ設置部32が形成されており、フィルタ設置部32には酸素抽出フィルタ50が取り付けられる。その際、金や銀(溶融状態)が接着剤として使用され、フィルタ設置部32に対して酸素抽出フィルタ50が接着される。
酸素流出管40(その上流端部)はホルダ30(その円孔34)に接続されている。酸素流出管40は、ハウジング10内を下流側に向かって延び、ハウジング10(その下流貫通孔14)を貫通して、ハウジング10の外部に露出している。酸素流出管40の下流端部は大気に開放されている。又は、さらにそれ以下の気圧に減圧されている。こうして、酸素流出管40内の気圧は、1気圧(大気圧)又はそれ以下とされている。
【0033】
そして、酸素抽出装置(酸素製造方法)は、次のように使用される。
ハウジング10及びその内部の全て(酸素抽出フィルタ50を含む)は、700~900℃の温度に維持される。
圧縮空気流入管20を通ってハウジング10内に圧縮空気が供給される。圧縮空気の気圧は、0.2~0.8MPa(約2気圧~約8気圧)であり、その代表例は0.5MPa(約5気圧)である。その圧縮空気が0.05~5.00リットル/秒の流量で供給され、ハウジング10内に流入する。
そして、酸素抽出フィルタ50の上流側の空間と下流側の空間との間に生じる酸素分圧差に基づいて、酸素抽出フィルタ50において、ハウジング10内の空気のうちの酸素のみが透過し、酸素流出管40を通って酸素が流出する。
こうして、空気のうちから酸素のみが抽出(製造)されるのである。
【実施例
【0034】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、本発明がこれらの実施例に限定さ
れるものではない。
[混合伝導体におけるLa,Sr,Co,Feのモル比についての実験]
前述したように、混合伝導体としては、La-Sr-Co-Fe系のペロブスカイト型の酸化物が好ましいのであるが、La,Sr,Co,Feのモル比について実験した。
LaxSr1-xCo1-yFey3-δにおけるx,yが種々の値をとる場合において、その酸素透過速度を測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1は、その実験結果を示すものである。
横軸はxの値であり、縦軸が酸素透過速度である。
また、▲は、yの値が0.1の場合を示し、○は、yの値が0.2の場合を示し、□は、yの値が0.3の場合を示す。
【0037】
これによると、酸素透過速度が0.15μmol/(cm・sec) 以上を好ましいとすると、xについては、0<x≦0.2が好ましいこととなる。それを前提とすると、yについては、0<y≦0.2が好ましいこととなる。
なお、酸素透過速度については、後述のようにして測定した。
【0038】
[複合材料における混合伝導体と酸化物イオン伝導体との体積比についての実験]
次に、複合材料(酸素抽出フィルタ用材料)における混合伝導体と酸化物イオン伝導体との体積比について種々の実験を行い、以下の実施例1~8及び比較例1~3を得た。
表2は、その実験結果を示すものである。
【0039】
【表2】
【0040】
(混合伝導体)
すべての実施例及び比較例において、混合伝導体として、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.13-δのペロブスカイト型の酸化物(LSCF1991)を使用した。
混合伝導体を製造する際の焼成温度については、実施例1~3,7及び8、並びに、比較例1~3においては1000℃,実施例4~6においては1200℃であった。
【0041】
(酸化物イオン伝導体)
実施例1~4,7及び8、並びに、比較例2及び3においては、酸化物イオン伝導体として、サマリウムドープセリア(SDC)を使用した。より詳細にいえば、Sm0.2Ce0.82-δであり、前述したように「SDC20」とも表記される。
実施例5においては、酸化物イオン伝導体として、ランタンドープセリア(LDC)を使用した。より詳細にいえば、La0.07Ce0.932-δであり、前述したように「LDC07」とも表記される。
実施例6においては、酸化物イオン伝導体として、ガドリニウムドープセリア(GDC)を使用した。より詳細にいえば、Gd0.2Ce0.82-δであり、前述したように「GDC20」とも表記される。
【0042】
(体積比)
混合伝導体と酸化物イオン伝導体との体積比は、次のとおりである。
実施例1においては80:20であり、実施例2においては60:40である。実施例3~実施例6においては50:50である。実施例7においては40:60であり、実施例8においては20:80である。
一方、比較例1においては100:0であり、比較例2においては90:10である。また、比較例3においては、10:90である。
なお、いずれにおいても、その焼成温度は1250℃であった。
【0043】
これによると、実施例1~実施例8においては、機械的強度(室温3点曲げ強度),平均線熱膨張係数,酸素透過速度のいずれについても、良好又は概ね良好な結果が得られた。
一方、比較例1及び2においては、機械的強度が弱いとともに、平均線熱膨張係数が高すぎた。また、比較例3においては、平均線熱膨張係数が低すぎた。
以下に詳細に分析する。
【0044】
機械的強度については、JIS(日本工業規格)のR1601 に基づいて室温3点曲げ強度を測定した。
実施例3~実施例8及び比較例3においては、機械的強度(室温3点曲げ強度)が100MPa以上であり、フィルタ用材料として良好である。また、実施例1においては85MPaであり、実施例2においては95MPaであり、いずれも概ね良好である(実施例2は、その中でもかなり良い方であるといえる)。
一方、比較例1及び2においては、機械的強度は65MPa以下であり、フィルタ用材料としては不適である。
【0045】
平均線熱膨張係数は、20℃(室温)から900℃まで温度が上昇した際における1℃上昇あたりの線的な膨張の割合である。
図1に基づいて前述したように、700~900℃の高温状態で使用される酸素抽出装置の装置本体がステンレス鋼(耐熱性を有するSUS310S)等によって形成されることが想定されており、その装置本体(ホルダ30)に対して溶融状態の金や銀を接着剤としてフィルタが取り付けられることが想定されている。
そして、ステンレス鋼(SUS310S)の線熱膨張係数(室温~900℃)は17.9ppm/℃ であり、金,銀の線熱膨張係数(室温~各溶融温度である1064℃,960℃)が各々14.2ppm/℃,18.9ppm/℃であるところ、フィルタもそれらの値(特に、接着剤である金や銀の線熱膨張係数)に近い線熱膨張係数を有している必要がある。
その観点から、実施例1~8における線熱膨張係数は、上記の金属(接着剤としての金属を含む)の線熱膨張係数に近く、フィルタ用材料として良好である。中でも、実施例2~6はステンレス鋼(SUS310S)や銀の熱膨張係数に近く、銀を接着剤として使用する場合には、フィルタ用材料として特に良好であるといえる。実施例7及び8は金の熱膨張係数に近く、金を接着剤として使用する場合には、フィルタ用材料として特に良好であるといえる。
一方、比較例1及び2においては、上記の金属の線熱膨張係数よりも相当大きく、不適である。また、比較例3においては、上記の金属の線熱膨張係数よりも相当小さく、不適である。
【0046】
酸素透過速度については、図2に示す装置を用いて測定した。
その装置は、一対のアルミナ製の円筒(第1円筒60A,第2円筒60B)を有し、両者は直列的に配設されている。
第1円筒60A・第2円筒60Bの間に、円板状のマセライト68,試験体80(酸素抽出フィルタ),金リング69が気密状態で挟持されている。マセライト68の中央部には貫通孔(符号省略)が形成されている。
第1円筒60Aの基端部には第1弁装置62Aが設けられており、第1弁装置62Aを貫通して空気流入管64Aが設けられている。空気流入管64Aは、第1円筒60Aよりも小径で、第1円筒60Aと同心的に延びており、第1円筒60Aの内側にも及んでいる。第1弁装置62Aには第1流出管66Aも設けられており、第1円筒60Aと空気流入管64Aとの間の円環状断面の流路を第1円筒60Aの基端部の側に向かって流れる気体が第1流出管66Aを通って流出する。
同様に、第2円筒60Bの基端部には第2弁装置62Bが設けられており、第2弁装置62Bを貫通してヘリウム流入管64Bが設けられている。ヘリウム流入管64Bは、第2円筒60Bよりも小径で、第2円筒60Bと同心的に延びており、第2円筒60Bの内側にも及んでいる。第2弁装置62Bには第2流出管66Bも設けられており、第2円筒60Bとヘリウム流入管64Bとの間の円環状断面の流路を第2円筒60Bの基端部の側に向かって流れる気体が第2流出管66Bを通って流出する。第2流出管66Bの下流側にはガスクロマトグラフが設けられている。
電気炉70によって、第1円筒60Aの下流部と第2円筒60Bの下流部との間の部分が高温(900℃)にされる。
【0047】
そして、空気流入管64Aを通って、大気圧の空気が、第1円筒60A内に自然流入する。
一方、ヘリウム流入管64Bを通って、ヘリウムが第2円筒60B内に流入するようにされている。こうして、第2円筒60B内におけるヘリウム以外の気体が、ヘリウムとともに第2流出管66Bを通って流出するようにされている。
第1円筒60A内の空気については、そのうちの酸素のみが試験体80を通過し、酸素が第2円筒60B内に流入し、ヘリウムと酸素が第2流出管66Bを通って流出する。
その酸素の流出量がガスクロマトグラフによって計測され、試験体80における酸素透過速度(mol/(cm2・sec ))が算出される。
【0048】
その結果、実施例1~実施例6においては、酸素透過速度が0.10μmol/(cm2・sec)以上であり、良好である。実施例7及び実施例8においては、酸素透過速度が0.08μmol/(cm2・sec)以上、0.10μmol/(cm2・sec)未満であり、概ね良好である。
【0049】
以上を総合すると、混合伝導体と酸化物イオン伝導体との体積比は、20:80~80:20が好ましいといえる。
そのうちでも、混合伝導体の下限であり酸化物イオン伝導体の上限の体積比は40:60がより好ましく、混合伝導体の上限であり酸化物イオン伝導体の下限の体積比は60:40がより好ましいといえる。
また、混合伝導体の下限であり酸化物イオン伝導体の上限、又は、混合伝導体の上限であり酸化物イオン伝導体の下限の体積比は、50:50がさらに好ましいといえる。
図1
図2