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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-06
(45)【発行日】2023-01-17
(54)【発明の名称】有価金属を分離回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20230110BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20230110BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230110BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/04
C22B3/22
C22B61/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019061730
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158855
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/023716(WO,A1)
【文献】特開2000-169116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/04
C22B 3/22
C22B11/00
C22B61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を分離回収する方法であって、
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する沈殿物を調製する工程と、
前記沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させ、80℃以下の温度で、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させる工程と、
溶出後の残渣を回収する工程と
を含む、該方法であって、
前記沈殿物は、塩酸及び過酸化水素で電解精製スライムを処理した後の溶液に由来する、方法
【請求項2】
セレンとテルルのうち少なくとも一方を分離回収する方法であって、
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する沈殿物を調製する工程と、
前記沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させ、80℃以下の温度で、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させる工程と、
固液分離を行い、セレンとテルルのうち少なくとも一方を含む溶液を回収する工程と
を含む、該方法であって、
前記沈殿物は、塩酸及び過酸化水素で電解精製スライムを処理した後の溶液に由来する、方法
【請求項3】
請求項1又は2の方法であって、前記溶出させる工程が以下のうち少なくともいずれか1つを含む、該方法:
・亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウム、及び/又は亜硫酸水素ナトリウムを使用すること。
・水酸化ナトリウム溶液に二酸化硫黄を吸収させた溶液を使用すること。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の方法であって、亜硫酸又は亜硫酸塩の量が、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍以上である、該方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の方法であって、前記溶出させる工程が、液温20℃以上で溶出することを含む、該方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、前記溶出させる工程が、液温50℃以上で溶出することを含む、該方法。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の方法であって、
前記溶出させる工程が、前記沈殿を懸濁させることを含み、
懸濁液はアルカリ性であり、
前記懸濁液の水酸化ナトリウムの濃度は10g/L以下である、
該方法。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項に記載の方法であって、
前記溶出させる工程が、亜硫酸又は亜硫酸塩を、複数回に分割して供給することを含み、
一回当たりの供給量が、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍未満である、
該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有価金属を回収する方法に関する。より具体的には、本開示は、白金とパラジウムのうち少なくとも一方、及び/又は、セレンとテルルのうち少なくとも一方を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅乾式製錬の工程では、まず、銅精鉱を熔解し、次に転炉へ投入し、更に精製炉へ投入し、そして、アノード鋳造機へ投入して、99%以上の粗銅を作る。その後、粗銅を用いて電解精製を行い、純度99.99%以上の電気銅が作られる。
【0003】
近年では、銅精鉱ではなく、リサイクル原料を転炉に投入する技術も開発されている。リサイクル原料として、電子部品由来の貴金属を含む金属屑があげられる。
【0004】
これら銅精鉱及びリサイクル原料を用いて銅を精製する過程、特に電解精錬の過程で、スライムと呼ばれる沈殿物が生じる。このスライムには、多少の銅が含まれるものの、基本的には銅以外の有価物が含まれる。
【0005】
具体的には、このスライムにおいては、貴金族類、希少金属等(例えば、銅精鉱に含まれているセレン及びテルル)が同時に濃縮されている。銅製錬副産物としてこれらの金属元素は個別に分離及び回収される。
【0006】
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば、特許文献1においては湿式製錬法を通して、銀、金、白金族元素、セレン、テルル等を回収することが開示されている。具体的には、まず、スライムを塩酸及び過酸化水素により処理して銀を回収することが開示されている。次に、塩酸及び過酸化水素によって金が浸出した溶液に対して、溶媒抽出を行って金を回収することが開示されている。そして、金回収後の溶液に対して、二酸化硫黄による三段階の還元処理を行い、その他の有価物を順次回収する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、特許文献1と同様の方法で金銀を回収した後、亜硫酸ガスを導入してセレン又はテルル及び白金族を還元する工程と、還元析出したセレンを蒸留して高純度セレンを得ることが開示されている。
【0008】
貴金属を回収した後の溶液には希少金属イオン、テルル、セレンが含まれておりさらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法等が知られている。
【0009】
とりわけ特許文献1に示されている、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。更に、各元素が順次沈殿することから、特許文献1の方法は、分離精製の観点からも有利である。
【0010】
二酸化硫黄を用いて有価物を回収する方法では溶解後に順次有価物を還元して回収する。初めに、第1還元処理では、白金及びパラジウムが沈殿する。ただし、原料が銅電解スライムであれば、沈殿物にセレンが大量に含まれているためにセレンとの混合物として回収される。次に、第2還元処理では、セレンが還元を受ける。なお、イリジウム、ルテニウム、ロジウムは酸化還元電位が比較的低く還元を受け難い。第3還元処理では、白金、パラジウム、及びセレンを回収した後の液をさらに還元してカルコゲン類との混合物として回収する。
【0011】
第1還元で得られた白金、パラジウムの沈殿とセレンとの混合物を再度酸化溶解処理し、白金、パラジウム、及びセレンを溶解させる。その後、溶媒抽出により、白金とパラジウムは、セレンから分離される。なお、沈殿には金も幾らか含まれているがいずれにしても溶媒抽出により分離される。各元素ごとに分離後にアンモニウム塩として沈殿回収している。
【0012】
カルコゲン類との混合物に含まれるイリジウム、ルテニウム、ロジウムは数%程度であり、さらに濃縮して分離精製工程に供される。濃縮はアルカリによりカルコゲン類を溶出する事で達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2001-316735号公報
【文献】特開2004-190134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
第1還元で得られた白金、パラジウムの沈殿とセレンとの混合物において、セレンが40~70mass%含まれる。従って、酸化浸出する時に過剰に酸化剤を消費することになる。また、この時溶解したセレンは、溶媒抽出時にエントレインメントとして有機相に混入し、抽出剤の劣化を引き起こし、更に、白金及びパラジウムの不純物となる。予めセレンのみを選択的に除いておくことが望まれる。
【0015】
一方で、セレンを選択的に回収することができれば、上記第2還元で得られたセレンと合わせることで、セレンの回収量を増やすことができる。
【0016】
ORP(酸化還元電位)を管理しながら酸化溶出する方法もあるが、この方法では、セレンを選択的に溶出できない。更に、この方法では、ORPの厳密な管理が必要であり、その制御方法に問題がある。
【0017】
このような従来の事情を鑑み、本開示は、白金、パラジウム等の白金族の混合物を、セレン及びテルルの少なくとも一方から分離して、白金及びパラジウムのうち少なくとも一方を回収する方法を提供する。別の側面において、本開示は、白金、パラジウム等の白金族の混合物から、セレン及びテルルのうち少なくとも一方を回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、白金、パラジウム、セレン、及びテルルが混合した沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させることで、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させることが出来る事を見出した。
【0019】
上記知見に基づいて完成された発明は、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を分離回収する方法であって、
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する沈殿物を調製する工程と、
前記沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させ、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させる工程と、
溶出後の残渣を回収する工程と
を含む、該方法。
(発明2)
セレンとテルルのうち少なくとも一方を分離回収する方法であって、
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する沈殿物を調製する工程と、
前記沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させ、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させる工程と、
固液分離を行い、セレンとテルルのうち少なくとも一方を含む溶液を回収する工程と
を含む、該方法。
(発明3)
発明1又は2の方法であって、前記溶出させる工程が以下のうち少なくともいずれか1つを含む、該方法:
・亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウム、及び/又は亜硫酸水素ナトリウムを使用すること。
・水酸化ナトリウム溶液に二酸化硫黄を吸収させた溶液を使用すること。
(発明4)
発明1~3いずれか1つに記載の方法であって、亜硫酸又は亜硫酸塩の量が、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍以上である、該方法。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載の方法であって、前記溶出させる工程が、液温20℃以上で溶出することを含む、該方法。
(発明6)
発明5の方法であって、前記溶出させる工程が、液温50℃以上で溶出することを含む、該方法。
(発明7)
発明1~6いずれか1つに記載の方法であって、
前記溶出させる工程が、前記沈殿を懸濁させることを含み、
懸濁液はアルカリ性であり、
前記懸濁液の水酸化ナトリウムの濃度は10g/L以下である、
該方法。
(発明8)
発明1~7いずれか1つに記載の方法であって、
前記溶出させる工程が、亜硫酸又は亜硫酸塩を、複数回に分割して供給することを含み、
一回当たりの供給量が、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍未満である、
該方法。
【発明の効果】
【0020】
上記発明は、一側面において、沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させる。これにより、セレンとテルルのうち少なくとも一方を溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】亜硫酸Naの添加量とORPの関係、及び亜硫酸Naの添加量とセレンの溶出量との関係を示す。
図2】亜硫酸Naの添加量と白金及びパラジウムの溶出量との関係を示す。
図3】亜硫酸Naの添加量とセレンの溶出量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0023】
1.概要
一実施形態において、本開示は、白金とパラジウムのうち少なくとも一方を分離回収する方法に関する。別の実施形態において、本開示は、セレンとテルルのうち少なくとも一方を分離回収する方法に関する。
【0024】
これらの方法は、少なくとも以下の工程を含む。
(1)白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する沈殿物を調製する工程。
(2)前記沈殿物に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させ、セレンとテルル のうち少なくとも一方を溶出させる工程。
【0025】
白金とパラジウムのうち少なくとも一方を分離回収する方法に関しては、
(3)溶出後の残渣を回収する工程を更に含む。
即ち、残渣中に含まれる白金とパラジウムのうち少なくとも一方を回収することができる。
【0026】
一方で、セレンとテルルのうち少なくとも一方を分離回収する方法に関しては、
(4)固液分離を行い、セレンとテルルのうち少なくとも一方を含む溶液を回収する工程を更に含む。
即ち、溶液中に含まれるセレンとテルルのうち少なくとも一方を回収することができる。
【0027】
以下では、各工程の具体例について説明する。
【0028】
2.沈殿物を調製する工程
沈殿物は、白金とパラジウムのうち少なくとも一方を含有し、且つセレンとテルルのうち少なくとも一方を含有する。ここで、当該沈殿物は、これらの金属元素が溶解した溶液に対して、所定の操作(例えば還元処理など)を行うことにより、沈殿させることができる。
【0029】
一実施形態において、沈殿を調製する工程は、特に限定されないが、例えば以下の流れで、調製することができる。
(1)銅精鉱、又はリサイクル原料から粗銅アノードを製造すること。
(2)粗銅アノードを使用して銅の電解精錬を行い、スライムを回収すること。
(3)スライムに対して、塩酸及び過酸化水素で処理すること(これにより、沈殿側に、塩化銀等が生じ、一方で、溶液に、金、白金、パラジウム、セレン、テルル等が溶解する)。
(4)溶液を冷却すること(これにより、鉛、アンチモン等が沈殿除去される)。
(5)溶液に対して金の溶媒抽出を行うこと(これにより、水相側に白金、パラジウム、セレン、テルル等が移動し、一方で、有機相側に金が移動する)、及び
(6)水相側の溶液に対して第一還元処理を行うこと(これにより、白金及びパラジウム、並びに一部のセレン及びテルルの混合物が沈殿し、溶液側に一部のセレン及びテルルが残存する)。
【0030】
以上の(1)~(6)のサブ工程を経ることで、所望の沈殿物を得ることができる。前記沈殿物は、少なくとも、白金、パラジウム、セレン、テルルを含む。セレンの含有量は特に限定されないが、典型的には40~90mass%である(上限値として好ましくは80mass%以下、及び/又は下限値として好ましくは50mass%以上)。
【0031】
上記(1)~(6)のサブ工程は、所望の沈殿物を得るためにすべて必須というわけではなく、目的に応じて省略してもよい。例えば、(4)及び/又は(5)については、回収対象物への混入の懸念が無いのであれば省略してもよい。更には、上記(1)~(6)のサブ工程のほかに別のサブ工程を追加してもよい。例えば、スライム中に残存する銅を除去するために硫酸等で処理するサブ工程を追加してもよい。
【0032】
また、上述した所望の沈殿物を得る目的の観点からは必須ではないものの、溶液に対して、更に以下のサブ工程を実施してもよい。
(7)溶液に対して第二還元処理を行うこと(これによりセレンが沈殿し、テルルが溶液に残存する)。
(8)溶液に対して第三還元処理を行うこと(これにより、テルルが沈殿)
【0033】
以下では、上記(1)~(8)のサブ工程について補足説明する。
【0034】
上記(1)のサブ工程に関して、原料は銅精鉱又はリサイクル原料であってもよい。銅精鉱は銅を主成分とするものの、他の有価金属元素も少量ながら含んでいる。また、リサイクル原料は、電子部品由来の金属屑、他の金属精錬の副産物として回収される物、廃触媒等があげられる。
【0035】
上記(3)のサブ工程に関して、スライムは白金族元素とカルコゲン元素が濃縮されている。塩酸と過酸化水素を添加して電解スライムを溶解することができる。しかし、銀は、溶解直後に塩化物イオンと結合して不溶性の塩化銀沈殿を形成する。
【0036】
このように、酸化剤と塩素を含む溶液(例えば王水や塩素水)であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。また、塩化物浴であるため浸出貴液(pregnant leached solution、PLS)には白金族元素、希少金属元素、セレン、テルルが分配する。
【0037】
上記(4)のサブ工程に関して、浸出貴液(PLS)は一度冷却され、鉛、アンチモン等の卑金属類の塩化物を沈殿分離することができる。溶液は、10℃以下、典型的には5℃以下まで冷却してもよい。
【0038】
上記(5)のサブ工程に関して、金の溶媒抽出剤は、特に限定されないが、典型的には、ジブチルカルビトール(DBC)を使用してもよい。
【0039】
上記(6)~(8)のサブ工程に関連して、金を抽出した後のPLSに対して、数段階に分けて還元処理を行うことができる。これにより有価物を沈殿-回収できる。元素により酸化還元電位が異なるため、必然的に沈殿の順序が決まっている。初めに金及び白金族元素(例えば白金、パラジウム等)、次にカルコゲン(例えば、セレン、テルル等)、更に不活性貴金属類が沈殿する。
【0040】
還元処理に使用する還元剤は特に限定されないが、価格と効率の観点から、還元性硫黄が好ましい。とりわけ、二酸化硫黄が好ましく、この理由として、転炉ガス、及び硫化鉱の焙焼を通して、大量且つ安価に供給できるからである。
【0041】
上記(6)~(8)のサブ工程に関連して、還元処理の条件は、例えば、特許文献1(特開2001-316735号)に開示の条件であってもよい。
【0042】
例えば、第一還元処理については、液中塩素イオン濃度を1.5モル/L以下に維持して、60~90℃の温度において、空気で8~12%濃度に希釈した亜硫酸ガス(二酸化硫黄)を白金族・金モル濃度の8~15倍の量において吹き込んでもよい。
【0043】
例えば、第二還元処理については、液中の塩素イオン濃度を2.0モル/L以下に維持し、且つ溶液中のセレン濃度を3g/L以上に保ちながら、60~90℃の温度において、亜硫酸ガスをセレンのモル濃度の2倍以下において吹き込んでもよい。
【0044】
例えば、第三還元処理については、セレンを分離した後液に60~90℃の温度において亜硫酸ガスを吹き込んでもよい。
【0045】
3.溶出させる工程
上記所望の沈殿物(少なくとも、白金、パラジウム、セレン、テルルを含む沈殿物)に対して、亜硫酸又は亜硫酸塩と接触させる。これにより、セレンとテルル のうち少なくとも一方を溶出させる。
【0046】
以下の説明は本発明の範囲を限定するものではないが、セレンとテルルが溶出する仕組みは以下の反応式によってイオン化するためである。
Se+SO3 2-→SSeO3 2-
TeO2+OH-→HTeO3 -
【0047】
上記の反応により、単体として沈殿していたセレンが、セレノ硫酸イオンに変化して溶出する。同様に、テルルも、亜テルル酸イオンに変化して、溶出する
【0048】
亜硫酸塩は、亜硫酸ナトリウム、及び/又は亜硫酸水素ナトリウムであってもよい。また、亜硫酸又は亜硫酸塩の供給方法について、例えば、亜硫酸又は亜硫酸塩が溶解した溶液中に沈殿物を投入してもよい。別の例では、沈殿物を懸濁させた液中に、亜硫酸又は亜硫酸塩を添加してもよい。さらに別の例では、水酸化ナトリウム溶液に二酸化硫黄を吸収させた溶液を使用してもよい。ただし、二酸化硫黄を過剰に溶液に吹き込むと、溶液が酸性に変化し、セレノ硫酸等が再度セレンとして沈殿する可能性がある。
【0049】
亜硫酸又は亜硫酸塩の供給量は特に限定されないが、好ましくは、沈殿物に含まれるセレン及びテルルの合計量に応じて決定してもよい。例えば、亜硫酸又は亜硫酸塩の量が、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍以上(より好ましくは0.6モル倍以上)の濃度となるように、亜硫酸又は亜硫酸塩の濃度を設定してもよい。亜硫酸又は亜硫酸塩の量の上限値は、好ましくは、3倍モル倍以下である。理由は、セレン等を溶解することにより、白金とパラジウムの粒子が微細になりすぎて固液分離が困難になる可能性があるからである。更には、別の理由として、セレン等だけでなく、白金とパラジウムが溶出しやすくなるからである。
【0050】
亜硫酸又は亜硫酸塩は、一度に供給してもよいし、複数回にわたって分割して供給してもよい。複数回供給する場合には、一回当たりの供給量を調節することが好ましい。これにより白金とパラジウムの溶出を抑える事が可能となる。典型的には、一回当たりの供給量は、セレン及びテルルの合計量の0.5モル倍未満であってもよい。
【0051】
また、沈殿を懸濁する液のpHについては、中性からアルカリ性の範囲であることが好ましい(即ちpH7以上、更に、好ましくはpH9以上)。この理由は、酸性だと、上述したように、セレノ硫酸等が再度セレンに変化して沈殿するからである。亜硫酸又は亜硫酸塩の供給源として、亜硫酸ナトリウムを使用する場合は、別途アルカリ塩を添加する必要はない。理由としては、この場合、通常、液はアルカリ性になるからである。しかし、あらかじめ溶液中に水酸化ナトリウムを含有させておくことが好ましい。水酸化ナトリウムの添加量は、10g/L以下であることが好ましい(更に好ましくは5g/L以下)。水酸化ナトリウムの量の下限値は特に限定されないが、典型的には0.05g/L以上である。
【0052】
沈殿物からセレン及びテルルの少なくとも一方を溶出させるための温度は、20~80℃が好ましい(さらに好ましくは、50℃以上)。温度が低いとセレンの溶解反応速度が遅くなる。温度が高すぎると亜硫酸イオンが分解する(特に、二酸化硫黄に分解し、溶解度の関係で揮発及び拡散する)。
【0053】
また、沈殿物からセレン及びテルルの少なくとも一方を溶出させるための時間は、1.5時間以上が好ましい(更に好ましくは、2時間以上)。理論上では、時間が長ければ長いほどセレン及びテルルが溶出するので好ましいところではあるが、極端に長くしても効果が頭打ちになるため、典型的には5時間程度であるである。
【0054】
4.溶出後の残渣を回収する工程
溶出後は、固液分離を行い、残渣と、溶出後液とに分離できる。そして、残渣を回収することができる。残渣は、テルル及びセレンの少なくとも一方の含有量が低減されている。また、セレンとテルルの少なくとも一方を低減させた後の残渣は白金とパラジウムが濃縮されている。この残渣に対して酸化浸出(過酸化水素と塩酸による浸出)を行って、白金とパラジウムを溶解させることができる。そして、従来法の通り、溶媒抽出とアンモニウム晶析を行い、白金とパラジウムを分離精製することができる。
【0055】
セレンは4電子供与でき、しかも白金、パラジウムよりもORPが低い。従って、セレンが混入した状態で、過酸化水素を使用すると、本来白金やパラジウムを浸出させるための過酸化水素が、セレンの浸出に消費されてしまうことになる。しかし、溶出後の残渣は、セレンとテルルの少なくとも一方を低減させているため、酸化浸出の際に使用する過酸化水素量を節約できる。
【0056】
5.溶出後の溶液を回収する工程
上述した残渣の回収と同様、溶出後は、固液分離を行い、残渣と、溶出後液とに分離できる。そして、溶出後液を回収することができる。溶出後液には、セレン及びテルルが含まれる。一方で、白金及びパラジウムは残渣側に分配されている。溶出後液中のセレンは、セレノ硫酸等の形態で存在している。セレノ硫酸は酸と接触させるとセレンが生じる。
【0057】
また、溶出した溶液は、セレンとテルルの少なくとも一方が含まれているため、上述した第二還元工程に供してもよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例により上記実施形態をさらに具体的に説明する。
【0059】
銅製錬から回収された電解スライムを、硫酸で処理して銅を除去した。次に、銅を除去した電解スライムに、濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解させた。そして、固液分離してPLSを得た。更に、PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した。沈殿除去後のPLSを、DBC(ジブチルカルビトール)と混合して金を抽出した。
【0060】
1. 亜硫酸Na及び二酸化硫黄によるセレンの浸出
金抽出後のPLSを70℃に加温した。そして、PLSに、二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20%)を吹き込んで、PLS中の貴金属を還元し、沈殿物を得た。2つのロットの沈殿物を、実験に使用した。成分を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
ロット1の固体分を15g量りとった。表2に示す所定のアルカリ液を200ml添加して70℃に加温した。表2に示す条件で2時間浸出を行った。
【表2】
【0063】
蒸発した液量は適宜純水で補充した。固液分離し残渣を乾燥後、重量を測定した。一方で、溶液は2ml分取し、塩酸で中和した。中和した時に沈殿が生じたので硝酸を1ml添加してこれを溶解した。50mlに規正してICP-OES(セイコー社製SPS3100)により濃度を定量した。
【0064】
回収残渣を適当量分取し、王水で溶解した。100mlに規正してICP-OESにより濃度を測定し成分を定量した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
上述したようにロット1の固体分を15g量りとっており、当該固体分におけるSeの品位は88mass%である。従って、固体分におけるSeの量は13.2gとなる。一方で、実施例1では、残渣3.58g中、Seの品位は82mass%である。従って、残渣におけるSeの量は、2.936gとなる。従って、当初13.2g分存在していたSeが2.936gまで減少しており、減少分はすべて溶液中へ溶出したことを示す。同様の計算を行うと、固体分におけるPtの量は0.03gとなり、残渣におけるPtの量は0.021gとなる。
【0067】
従って、亜硫酸ナトリウムを添加した系では、セレンが選択的に溶解している事は明らかである。実施例1と実施例4の比較から考察すると、アルカリの濃度は本質的な問題ではないこともわかる。尚、実施例1と実施例4は一部粒子が濾紙を通過してしまった。場合によっては亜硫酸イオンの供給量を落としてセレンを幾らか残し、濾過に支障が出ない様調節しても良い。
【0068】
また、エアレーションは阻害要因にならないこともわかる。二酸化硫黄を吹き込んでも効果は認められたが亜硫酸イオンとして添加した方が有効であることは明らかである。
【0069】
2.亜硫酸ナトリウムの濃度、水酸化ナトリウムの濃度、及び温度条件等
表1のロット2を15g量りとった。溶解液を200ml添加した。表4に示す条件で浸出を行った。15分毎にサンプリングし1時間浸出を行った。浸出終了後に固液分離し、溶液側に対して塩酸を添加し、更にその後に過酸化水素を添加して定量用サンプルとした。ICP-OESで定量サンプル中の成分を定量した。
【0070】
最終液濃度の結果を同じく表4に示す。
【表4】
【0071】
亜硫酸ナトリウム添加量が増えるほどセレンが溶解することが判る。しかし亜硫酸ナトリウム添加量が増えるとセレンばかりでなく白金やパラジウムの溶解も見られた(実施例8)。原料のセレン品位は85%であることから添加セレンは0.32モルである。亜硫酸ナトリウムは15gで0.12モルである。一度に添加する亜硫酸ナトリウムは単体セレンの約0.5モル倍以下が好ましい。
【0072】
また温度は高い方が迅速にセレンを溶解する。液温は25℃以上なら効果が高い。80℃まで加熱するとなおよい。白金がやや温度の影響を受けるが無視できる程度である。
【0073】
白金とパラジウムの溶出を抑制するには水酸化ナトリウムの濃度を低くしておく。水酸化ナトリウム液は10g/L以下にしておくことが好ましい。
【0074】
3.亜硫酸Naの添加量との関係
表1のロット2沈殿物を30g分取した。1g/L水酸化ナトリウム液を400ml注ぎ50℃に調整した。ORP電極(参照電極:Ag/AgCl)を装入し撹拌、亜硫酸ナトリウムを徐々に添加した。亜硫酸Naは予め小分けして順次計量して投入量を把握した。適当量添加したところでサンプリングをした。分析方法は実験例1に準じる。結果を図1図2に示す。さらに図1の縦軸をモル表記し、添加セレンと亜硫酸ナトリウムの合計物質量で除した値を図3として示す。
【0075】
亜硫酸ナトリウムを分割して徐々に添加することで白金とパラジウムの溶出を抑える事が可能であった。最終的な浸出率は白金1%、パラジウム0.2%であった。
【0076】
原料のセレン品位は85%であることから添加セレンは0.32モルである。図3の結果から傾きの鈍化が見られるのは亜硫酸ナトリウム0.2モル添加時以降である。さらに大きく鈍化するのは亜硫酸ナトリウム0.4モル添加以降である。よって亜硫酸イオンの添加はセレンの0.6モル倍までは効果的に反応しており0.5モル倍以上とすればよい。さらに条件に応じて1.3モル倍以上添加すればよい。
【0077】
過剰に亜硫酸ナトリウムを添加してもセレンの溶解量は上昇する。しかしパラジウムと白金の溶解量も上昇する。図2の結果から投入したセレンの3モル倍程度までが好ましい。
【0078】
テルルは、セレンと同族元素(カルコゲン)である。従って、上記実験結果で示されるセレンと同様の傾向を、テルルも示すと考えられる。
【0079】
以上、本開示の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3