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特許7206686燃料ガス吸着カートリッジ、これを用いた燃料ガス吸着装置、及び燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法
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  • 特許-燃料ガス吸着カートリッジ、これを用いた燃料ガス吸着装置、及び燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】燃料ガス吸着カートリッジ、これを用いた燃料ガス吸着装置、及び燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20230111BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230111BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20230111BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20230111BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20230111BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230111BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F17C11/00 A
B01D53/04 110
B01J20/08 A
B01J20/10 D
B01J20/18 B
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018151837
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020025924
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】金子 淳
(72)【発明者】
【氏名】野末 満
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505731(JP,A)
【文献】特開2014-202269(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0109879(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0083896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
B01D 53/04
B01J 20/08
B01J 20/10
B01J 20/18
B01J 20/20
B01J 20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口と出口とを有する燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなり、前記細粒状多孔質ガス吸着材の少なくとも一部が吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させたものである燃料ガス吸着カートリッジと、
前記燃料ガス吸着容器の出口側に設けられた前記吸着性の低い成分のセンサと
を有する、燃料ガス吸着装置。
【請求項2】
前記吸着対象となる燃料ガスが、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス又はこれらのガスを主成分とする混合ガスである、請求項に記載の燃料ガス吸着装置。
【請求項3】
前記細粒状多孔質ガス吸着材が、炭素系多孔質材料、ゼオライト、シリカゲル又は多孔質アルミナから選ばれたものである、請求項又はに記載の燃料ガス吸着装置。
【請求項4】
前記吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が、燃料ガスの流通方向に対して前記燃料ガス吸着容器の下流側に配置されている、請求項のいずれか一項に記載の燃料ガス吸着装置。
【請求項5】
前記吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が、細粒状多孔質ガス吸着材の総量に対して、2~50容積%である、請求項に記載の燃料ガス吸着装置。
【請求項6】
入口と出口とを有する燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなり、前記細粒状多孔質ガス吸着材の少なくとも一部が吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させたものである燃料ガス吸着カートリッジの前記燃料ガス吸着容器の入口側から吸着対象となるガスを流通し、前記燃料ガス吸着カートリッジの出口側に設けた前記吸着性の低い成分のセンサにより該吸着性の低い成分を計測して、前記燃料ガス吸着カートリッジのガス吸着能を予測する、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交換時期の判断が可能な燃料ガス吸着カートリッジ、及びこれを用いた燃料ガス吸着装置に関する。また、本発明は、燃料ガス吸着カートリッジの燃料ガス吸着能が破過する前に交換することを可能とした燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ガスのガスメータの交換やプロパンガスボンベの交換時などには、配管内には燃料ガスが残存しているため、そのまま処理すると燃焼性の燃料ガスを大気に放散させたり、付臭ガス成分が拡散したりするため好ましくない。また、これとは逆に燃料ガスの配管に対しパージ処理を行う際には、配管内を燃料ガスで置換してやる必要があり、所定のカロリーとなるまで燃料ガスと管内空気との混合ガスを排出する必要がある。このような場合において、都市ガスの成分であるメタンガスは空気よりも軽い一方、プロパンガスは空気より重いため、高層マンションでの燃料ガスの漏洩は作業階だけでなくその上下の階層にも配慮する必要があり、地上階においては近隣周辺にも配慮する必要がある。そこで、従来はガス吸着材を充填した減圧ガス吸着容器を接続して、このガス吸着容器に燃料ガスを吸着させることで、燃料ガスの漏洩を防止することが行われている。
【0003】
しかしながら、この減圧容器に燃料ガスを吸着させる方法では、燃料ガスだけでなく、混合ガス成分や空気なども一緒に吸着し、容器内が常圧になると吸着できなくなるため、十分な量の燃料ガスを吸着させるためには容器を大型化する必要があるだけでなく、減圧容器としての耐圧性を備えたものとする必要があり、これらに伴い多量のガス吸着材を充填することになるので、重量が過大で持ち運び等の作業性が良くない。
【0004】
そこで、最近では小型化が可能であることから、燃料ガスがガス吸着材を通過する際に対象となる燃料ガス成分を選択的に吸着する一過式の燃料ガス吸着カートリッジも開発されつつある。このガス吸着材による一過式の燃料ガスの吸着法では、燃料ガスの漏洩を防止するために、ガス吸着材の破過の時期を把握して、あらかじめ燃料ガスのパージ処理を停止したり、パージ処理に用いた燃料ガス吸着容器を事前に交換したりすることが、燃料ガスの大気への漏洩を防止して安全性を向上する上で必要である。
【0005】
このような一過式のガス吸着カートリッジの場合、ガス吸着材の破過の時期を予測するために、事前にガス吸着量を把握することで、通風累計流量やガス濃度の絶対量から、おおよそのガス処理終了時間を予測したり、また吸着対象となる燃料ガスの濃度を測定するセンサを用いてガスの漏洩を検知したりしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、通風累計流量やガス濃度の絶対量から、ガス処理終了時間を予測する方法では、燃料ガスの漏洩を完全に防止するには、ある程度余裕をもって処理終了時間を設定せざるを得ず、燃料ガス吸着カートリッジ内のガス吸着材の有効利用が図れない、という問題点がある。また、吸着対象となる燃料ガスの濃度を測定するセンサを用いてガスの漏洩を検知する方法では、燃料ガスが漏れてからでなければ検知できないだけでなく、燃料ガスが検出されたとしても、上流側の燃料ガスの濃度変動により一次的に漏洩する場合もあり、ガス吸着材が破過したかの判断が必ずしもできない、という問題点がある。
【0007】
一方、ガス吸着材におけるガス吸着がどの程度進行したかを調査分析する方法もある。この方法は、燃料ガス吸着カートリッジ内ではガスの流通方向に対して上流側からガス吸着材が破過していくので、通ガス途中で一旦処理を停止し、燃料ガス吸着カートリッジ内のガス吸着材を前段、中段、後段とそれぞれサンプルを取り出し、サンプルの燃料ガスの吸着能の劣化の進行具合をそれぞれ分析して、破過する前に確認する方法である。しかしながら、この方法ではメンテナンスが煩雑となるばかりか、分析結果がでるまで時間を要するだけでなく、何度も停止・分析を繰り返さない限り、おおよその結果しか得られないため現実的でない、という問題点がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、交換時期の判断が可能な燃料ガス吸着カートリッジ、及びこれを用いた燃料ガス吸着装置を提供することを目的とする。また、本発明は、燃料ガス吸着カートリッジの燃料ガス吸着能が破過する前に交換することを可能とした燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、入口と出口とを有する燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなる燃料ガス吸着カートリッジであって、前記細粒状多孔質ガス吸着材の少なくとも一部が吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させたものである、燃料ガス吸着カートリッジを提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材を用いることで、燃料ガス吸着カートリッジの入口から吸着対象となる燃料ガスを流通すると、燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が燃料ガスを吸着する一方、吸着されていた燃料ガスよりも吸着性の低い成分が出口から流出するので、これをセンサで検出して、その吸着性の低い成分の濃度の挙動(増減)を監視することにより、燃料ガス吸着カートリッジの破過時期を事前に予測することができる。
【0011】
また、第二に本発明は、入口と出口とを有する燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなり、前記細粒状多孔質ガス吸着材の少なくとも一部が吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させたものである燃料ガス吸着カートリッジと、前記燃料ガス吸着容器の出口側に設けられた前記吸着性の低い成分のセンサとを有する、燃料ガス吸着装置を提供する(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明2)によれば、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材を充填した燃料ガス吸着カートリッジの入口から吸着対象となる燃料ガスを流通すると、燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が燃料ガスを吸着する一方、吸着されていた燃料ガスよりも吸着性の低い成分が出口から流出するので、これを燃料ガス吸着容器の出口側に設けられた吸着性の低い成分のセンサで検出して、その吸着性の低い成分の濃度の挙動(増減)を監視することにより、燃料ガス吸着カートリッジの破過時期を事前に予測することができる。
【0013】
上記発明(発明2)においては、前記吸着対象となる燃料ガスが、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス又はこれらのガスを主成分とする混合ガスであることが好ましい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明3)によれば、燃料ガスとして一般に流通しているメタンガス、プロパンガス、ブタンガス又はこれらのガスを主成分とする混合ガスの吸着に好適に対応することができる。
【0015】
上記発明(発明2,3)においては、前記細粒状多孔質ガス吸着材が、炭素系多孔質材料、ゼオライト、シリカゲル又は多孔質アルミナから選ばれたものであることが好ましい(発明4)。
【0016】
かかる発明(発明4)によれば、これらの細粒状多孔質ガス吸着材は、燃料ガスを吸着することができるとともに、窒素、酸素、水、アルコール類などを燃料ガスよりも弱い吸着力で吸着することができ、これをあらかじめ吸着した状態で燃料ガスを吸着すると、これらの成分が開放されるので、これを検出することで、燃料ガス吸着カートリッジの破過時期を事前に検知することができる。
【0017】
上記発明(発明2~4)においては、前記吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が、燃料ガスの流通方向に対して前記燃料ガス吸着容器の下流側に配置されていることが好ましい(発明5)。
【0018】
かかる発明(発明5)によれば、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が燃料ガスを吸着すると代わりに吸着性の低い成分が放出される。そして、細粒状多孔質ガス吸着材は、燃料ガスの流通方向に対して燃料ガス吸着容器の上流側から破過し、その後次第に下流側に向けて破過が進行していくので、出口からの排出ガスにおける吸着性の低い成分濃度が上昇し低下し始めることは、燃料ガス吸着カートリッジの破過が近いことがわかるので、吸着性の低い成分の挙動を監視することで、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期を判断することができる。
【0019】
上記発明(発明5)においては、前記吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が、細粒状多孔質ガス吸着材ガスの総量に対して、2~50容積%であることが好ましい(発明6)。
【0020】
かかる発明(発明6)によれば、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材をこの範囲として、燃料ガスの流通方向に対して前記燃料ガス吸着容器の下流側に配置することにより、吸着性の低い成分の放出から燃料ガス吸着カートリッジの破過まで適切な時間を確保することができ燃料ガスの漏洩を防止することができるとともに、吸着性の低い成分が早く検出されすぎることがないので、破過の時期の見極めを容易なものとすることができる。
【0021】
さらに、第三に本発明は、入口と出口とを有する燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなり、前記細粒状多孔質ガス吸着材の少なくとも一部が吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させたものである燃料ガス吸着カートリッジの前記燃料ガス吸着容器の入口側から吸着対象となるガスを流通し、前記燃料ガス吸着カートリッジの出口側に設けた前記吸着性の低い成分のセンサにより該吸着性の低い成分を計測して、前記燃料ガス吸着カートリッジのガス吸着能を予測する、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法を提供する(発明7)。
【0022】
かかる発明(発明7)によれば、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材を充填した燃料ガス吸着カートリッジの入口から吸着対象となる燃料ガスを流通すると、燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材が燃料ガスを吸着する一方、吸着されていた燃料ガスよりも吸着性の低い成分が出口から流出するので、これを燃料ガス吸着容器の出口側に設けられた吸着性の低い成分のセンサで検出して、その吸着性の低い成分の濃度の挙動(増減)を監視することにより、燃料ガス吸着カートリッジの破過時期を事前に予測することができるため、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期を判断することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の燃料ガス吸着装置は、少なくとも一部に吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材を燃料ガス吸着容器に充填し、この燃料ガス吸着容器の下流側に吸着性の低い成分のセンサを設けたものであるので、燃料ガスよりも吸着性の低い成分をセンサで検出して、その吸着性の低い成分の濃度の増減を監視することにより、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期を判断して、燃料ガスの漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態による燃料ガス吸着装置の燃料ガス吸着カートリッジの充填状態を示す概略図である。
図2】前記実施形態による燃料ガス吸着装置を示す概略図である。
図3】実施例1及び実施例2の燃料ガス吸着装置の入口と出口におけるプロパンガス濃度と出口における二酸化炭素濃度を示すグラフである。
図4図3における燃料ガス吸着装置の出口における二酸化炭素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態の燃料ガス吸着装置について詳細に説明する。
【0026】
本実施形態の燃料ガス吸着装置は、燃料ガス吸着カートリッジ、及び燃料ガス吸着カートリッジの出口側に設けられた後述する吸着対象となる燃料ガスよりも細粒状多孔質ガス吸着材に対して吸着性の低い成分のセンサからなる。この燃料ガス吸着カートリッジは、細粒状多孔質ガス吸着材とこの細粒状多孔質ガス吸着材を充填する入口と出口とを有する一過式の燃料ガス吸着容器とからなる。以下、各構成要素について説明する。
【0027】
〔燃料ガス〕
本実施形態において、吸着対象となる燃料ガスとしては、メタンガス、プロパンガス、ブタンガスなどの炭化水素系のガス、またはこれらのガスを主成分とする混合ガスであり、特に安全性のために着臭剤を含有しているものに対して好適に適用することができる。これらの中では、プロパンガス及びメタンガスが好適である。
【0028】
〔燃料ガス吸着カートリッジ〕
(燃料ガス吸着容器)
本実施形態において、細粒状多孔質ガス吸着材を充填する燃料ガス吸着容器は、一過式のものであり、円柱状や矩形筒状の容器の両端が開口してそれぞれ入口部と出口部とが形成された筐体、あるいは入口部と中空排出管により形成された出口部とを有する円柱状や矩形筒状の容器を用いることができる。この入口部には燃料ガス源に接続したチューブ配管が接続されるとともに、出口部には排出用のチューブ配管が接続され、その途中には後述するセンサが設けられる。
【0029】
(細粒状多孔質ガス吸着材)
本実施形態において細粒状多孔質ガス吸着材としては、ガス吸着能を有する多孔質材料であれば特に制限はなく、無機多孔質材料や炭素系多孔質材料を好適に用いることができる。
【0030】
無機多孔質材料としては、多孔質シリカ、金属ポーラス構造体、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ゼオライト、多孔質アルミナ、酸化チタン、アパタイト、多孔質ガラス、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等を用いることができる。また、炭素系多孔質材料としては、細粒状活性炭を用いることができる。
【0031】
これらの無機多孔質材料及び炭素系多孔質材料は単独で用いてもよいし、2種類以上の素材を併用してもよい。これらの中では、炭素系多孔質材料、ゼオライト、シリカゲル又は多孔質アルミナが好ましく、特に細粒状炭素系多孔質材料が好ましい。
【0032】
この細粒状炭素系多孔質材料は、一般に細孔径と極性とによって、吸着可能な分子の選択性を有する。したがって、細孔径と極性を調整することによってメタンガス、プロパンガス、ブタンガスなどの吸着対象の燃料ガスに対して好適なものとすることができる。具体的には細粒状炭素系吸着材は、平均細孔径が20Å以下であることが好ましい。平均細孔径が20Åより大きいと吸着した燃料ガスを保持するのが困難となる。なお、平均細孔径の下限については、4Åより小さい平均細孔径とするのは困難である。この細粒状炭素系吸着材は、0.3mm未満では、燃料ガスを通気した際の圧損が大きくなりすぎる一方、5mmを超えると燃料ガスが透過しやすくなるため、平均粒径0.3~5mmであることが好ましい。
【0033】
また、細粒状炭素系吸着材は、プロパンガス、ブタンガスなどの極性のある燃料ガスを吸着する場合には、その表面官能基を調整して極性を付与したものであることが好ましい。この細粒状炭素系吸着材の表面官能基の調整は、細粒状炭素系吸着材を炭酸ガス、窒素ガス又はアルゴンガスで賦活処理を行うことにより行うことができる。具体的には、未処理(初期状態)の細粒状炭素系吸着材の表面は、カルボキシル基やフェノール系水酸基であるが、炭酸ガスで賦活化することにより、その全部または一部を-CH末端とすることができる。特に細粒状炭素系吸着材の表面に臭素を添着して臭素添着担持活性炭とすることで、燃料ガスの選択的吸着性及び着臭気剤の吸着性を向上させることができて好ましい。
【0034】
この臭素添着担持活性炭は、例えば活性炭を酸素不存在下で350~900℃で熱処理することにより、活性炭に含まれる水分及び塩化物を除去し、得られた活性炭に臭素を1~15重量%程度添着することにより得ることができる。
【0035】
なお、細粒状炭素系吸着材は、その表面積が100~1000m/g、好ましくは200~800m/gであることが好ましい。
【0036】
これら比表面積、細孔容積及び平均細孔径は、例えばマイクロトラック・ベル社製「BELSORP-max」(商品名)により測定した値である。
【0037】
(燃料ガス吸着カートリッジの構造)
燃料ガス吸着カートリッジは、上述したような燃料ガス吸着容器に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなる。
【0038】
ここで、細粒状多孔質ガス吸着材、特に細粒状炭素系吸着材は、吸着対象により吸着性が異なる。例えば、代表的な吸着物質を例にするとその吸着力の強さは下記順番となる。
プロパンガス>CO>メタンガス>窒素>酸素>水>メタノール
【0039】
そこで、本実施形態においては、細粒状多孔質ガス吸着材として、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分をあらかじめ吸着させたものを少なくとも一部に用いる。具体的には、吸着対象となる燃料ガスがプロパンガスの場合にはCOをあらかじめ吸着させたものを、吸着対象となる燃料ガスがメタンガスの場合には、窒素や酸素、あるいは水やメタノールをあらかじめ吸着させたものを用いることが好ましい。
【0040】
具体的には、燃料ガス吸着カートリッジは、図1に示すような充填構造を有するのが好ましい。図1において、燃料ガス吸着カートリッジ1は、入口部としてのガス流入部材3が上部に設けられているとともに、出口部としての排出管4が底部より延在しており、燃料ガス吸着容器2の上端部及び下端部には、気体が流通可能で細粒状多孔質ガス吸着材を透過させないスペーサ部材5A及び5Bを設置し、ガス流通方向(ガス流入部材3から排出管4の底部へ向けての方向)の上流側に通常の(吸着性の低い成分を吸着させていない)細粒状多孔質ガス吸着材6が、下流側に吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7がそれぞれ配置された一過式の構造を有する。すなわち、本実施形態において、ガス流入部材3は、その下端がスペーサ部材5Aに連通しており、排出管4は、その下端がスペーサ部材5Bに連通している。燃料ガス吸着容器2は、外殻部はステンレスなどの金属製のものを、排出管4、スペーサ部材5A及び5Bはポリプロピレンなどの樹脂製のものをそれぞれ用いることができる。このような一過式の燃料ガス吸着カートリッジ1は、ガス吸着材を充填した容器内を減圧して燃料ガスを吸引吸着する減圧式容器と比較して、容積が5000cc以下と小さく取扱い性に優れる、という特徴を有する。
【0041】
このような構造とすることが好ましい理由は、以下のとおりである。すなわち、燃料ガス吸着容器2のガス流入部材3から燃料ガスとしてのプロパンガスG(プロパンガスGの混合ガスを含む)を供給すると、プロパンガスGはスペーサ部材5Aにおいて燃料ガス吸着容器2の全周方向に拡散して細粒状多孔質ガス吸着材6に流入し、細粒状多孔質ガス吸着材6,7がプロパンガスG中のプロパンや着臭成分を吸着する。そして、プロパンガスGが含まれない排出ガスG1のみがスペーサ部材5Bから排出管4を経て排出されることになる。このような処理を継続すると、細粒状多孔質ガス吸着材6,7は上流側から破過し、次第に下流側に向けて破過が進行していく。そして、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7がプロパンガスGを吸着すると、代わりにあらかじめ吸着させておいた吸着性の低い成分が放出される。そして、排出管4からの排出ガスG1における吸着性の低い成分を検出し、その挙動(濃度変化)を監視することにより、燃料ガス吸着カートリッジ1の破過時期を事前に予測することができる。
【0042】
この吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7は、燃料ガス吸着容器2のガス流通方向の下流側で、細粒状多孔質ガス吸着材による吸着帯以上の長さで、該吸着帯の5倍以下の容積とすることが好ましい。吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7が細粒状多孔質ガス吸着材による吸着帯よりも短いと、吸着性の低い成分が検出されてから燃料ガス吸着カートリッジ1が破過するまでの時間が短時間となり、燃料ガスとしてのプロパンガスGの流通の停止が間に合わず、プロパンガスGが漏洩しやすくなる一方、細粒状多孔質ガス吸着材による吸着帯の5倍を超えると、吸着性の低い成分が短時間で放出されるようになるため、破過の時期の見極めのために長期間の監視が必要となるため、好ましくない。
【0043】
一般的には、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7は、燃料ガス吸着容器2のガス流通方向下流側で、細粒状多孔質ガス吸着材の総量(細粒状多孔質ガス吸着材6+細粒状多孔質ガス吸着材7)を100容積%として、2~50容積%、特に3~30容積%とすることが好ましい。吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7が2容積%未満では、吸着性の低い成分が検出されてから燃料ガス吸着カートリッジ1が破過するまでの時間が短時間となり、燃料ガスとしてのプロパンガスGの流通の停止が間に合わず、プロパンガスGが漏洩しやすくなる一方、50容積%を超えると、吸着性の低い成分が短時間で放出されるようになるため、破過の時期の見極めのために長期間の監視が必要となるため、好ましくない。
【0044】
〔センサ〕
本実施形態においてセンサとしては、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分を検出可能なものを用いる。具体的には、COを吸着させた場合には炭酸ガスセンサを、窒素や酸素を吸着させた場合には窒素や酸素のそれぞれのセンサを、水やメタノールを吸着させた場合には、湿度センサあるいはアルコール計を用いればよい。
【0045】
〔燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法〕
次に上述したような燃料ガス吸着装置を用いた燃料ガス吸着カートリッジの交換時期判断方法について説明する。
【0046】
図2は、本発明の一実施形態による燃料ガス吸着装置を用いた、燃料ガス吸着カートリッジの交換時期の判断の可否を判定するための試験装置を示しており、同図において燃料ガス吸着装置11は、燃料ガス吸着容器13に細粒状多孔質ガス吸着材を充填してなる燃料ガス吸着カートリッジ12と、この燃料ガス吸着カートリッジ12の燃料ガス吸着容器13の入口部14に接続した燃料ガス供給配管14Aと、出口部15に接続した排出用配管15Aとを備える。この出口部15は本実施形態においては管状部材であり、燃料ガス吸着容器13の底部にまで延在している。そして、排出用配管15Aには、熱量計16と、吸着対象となる燃料ガスよりも吸着性の低い成分(本実施形態においてはCO)を検出可能なCOセンサ17が設けられている。一方、燃料ガス供給配管14Aの基端側には、燃料ガスとしてのプロパンガスGのガスボンベ18が接続されているとともに、流量計19が設けられている。なお、符号20はプロパンガスGの供給を開始・停止する開閉バルブである。このような試験装置において、燃料ガス吸着カートリッジ12に充填される細粒状多孔質ガス吸着材は、燃料ガス吸着容器13のプロパンガスGのガス流通方向の下流側にあらかじめCOを吸着させたものが配置されている。
【0047】
上述したような試験装置において、開閉バルブ20を開いてガスボンベ18からプロパンガスGを供給する。このときプロパンガスGの流量を流量計19で計測する。このプロパンガスGは、燃料ガス供給配管14Aを通って、入口部14から燃料ガス吸着容器13に流入し、燃料ガス吸着容器11中の細粒状多孔質ガス吸着材を通過することにより、細粒状多孔質ガス吸着材によりプロパンガスG中のプロパン成分や着臭成分が吸着される。そして、出口部15から吐出された排出ガスG1の熱量を熱量計16で計測するとともに、COセンサ17によりCO濃度を計測する。
【0048】
このプロパンガスGの流通した状態を継続すると、細粒状多孔質ガス吸着材は入口部14側から破過し、プロパンガスGの流通方向に対して次第に下流側に破過が進行していく。このとき本実施形態においては、燃料ガス吸着容器13の下流側にあらかじめCOを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材を配置しているので、このCOを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材のエリアまで破過が進行してプロパンガスGを吸着すると、代わりに吸着性の低い成分であるCOが放出される。その結果、COセンサ17で検出される排出ガスG1中のCO濃度が上昇するので、このCO濃度に基づき、プロパンガスGの漏洩を確実に防止し、かつ細粒状多孔質ガス吸着材を効率的に利用することの可能な交換時期を判断することができる。
【0049】
具体的にはCOを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材がプロパンガスGを吸着すると、代わりにCOを放出する。
これは下記式(1)のような化学反応による。
R-CO+C → R-C+CO↑+吸着熱 ・・・・(1)
(式中、Rはガス吸着材である)
【0050】
この結果、排出ガスG1中のCO濃度は、COを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材層の破過が進行するに伴い上昇し、その後ピークに至り、その状態がしばらく維持される。そして、COを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材層の破過が進行して、燃料ガスの吸着能が低下し始めると、CO濃度は下降の挙動を示し、下降しきった時点で燃料ガス吸着カートリッジ12が完全に破過したとみなすことができる。そこで、燃料ガス吸着容器13の容積と細粒状多孔質ガス吸着材の容積とあらかじめCOを吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材の容積とプロパンガスGの流量と濃度とから、上昇→ピーク→下降のいずれかの時点で燃料ガス吸着カートリッジ12を交換するかを適宜設定することで、プロパンガスGの漏洩を確実に防止できるとともに細粒状多孔質ガス吸着材を効率的に利用することの可能な交換時期を判断することができる。
【0051】
以上、本実施形態の燃料ガス吸着装置について説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7は、燃料ガス吸着容器2の下流側に配置するのが好ましいが、最下流である必要はなく、下流側の途中に配置してもよい。さらに、細粒状多孔質ガス吸着材7は燃料ガス吸着容器2内に存在していればよく、細粒状多孔質ガス吸着材の全量を吸着性の低い成分を吸着させたものとしてもよいし、場合によっては、細粒状多孔質ガス吸着材6と、吸着性の低い成分を吸着させた細粒状多孔質ガス吸着材7とを所定の比率で混合したものを燃料ガス吸着容器2内の全体に充填してもよい。
【実施例
【0052】
以下の具体的実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
燃料ガス吸着装置11として図2に示す装置を用い、燃料ガス吸着容器13に臭素添着活性炭(平均粒径4mm、平均細孔径15Å)を総量で1500g充填したものを燃料ガス吸着カートリッジ12として用意した。この際、燃料ガスの流通方向に対して燃料ガス吸着容器13の下流側にあらかじめCOを吸着させた活性炭を60g(4容積%)充填した。なお、COセンサ17としては、WINSEN社製「MH-Z14A」COセンサを使用した。
【0054】
このような燃料ガス吸着装置11において、燃料ガスとしてプロパンガスGを10L/分の流量で流通し、燃料ガス吸着カートリッジ12の出口からの排出ガスのカロリーを熱量計16により測定するとともにCOセンサ17によりCOガスの濃度を測定した結果を燃料ガス吸着カートリッジ12に流入するプロパンガスGのカロリーとともに図3に示す。また、図3におけるCOガスの濃度の12分間の推移を図4に示す。
【0055】
(実施例2)
実施例1において、下流側にあらかじめCOを吸着させた活性炭を410g(27容積%)充填した以外は同様にして燃料ガス吸着装置11を構成し、同様にしてプロパンガスGを10L/分の流量で流通し、燃料ガス吸着カートリッジ12の出口からの排出ガスのカロリーを熱量計16により測定するとともにCOセンサ17によりCOガスの濃度を測定した結果を、燃料ガス吸着カートリッジ12に流入するプロパンガスGのカロリーとともに図3にあわせて示す。また、図3におけるCOガスの濃度の推移を図4にあわせて示す。
【0056】
図3及び図4から明らかなとおり、燃料ガス吸着カートリッジ12の出口からの排出ガスのカロリーは約15分経過するまでほぼ「0」であることから、実施例1,2の燃料ガス吸着装置11により、プロパンガスGを吸着することができることがわかる。一方、排出ガスのCO濃度は約10分経過後から上昇し始め、約13分経過後から低下しはじめ、これとともに排出ガスのカロリーは約15分後から上昇(プロパンガスGが漏洩)し始め、燃料ガス吸着カートリッジ12が破過したことが確認でき、CO濃度が低下しはじめてから燃料ガス吸着カートリッジ12の破過まで約2分要することから、COセンサ17で検出されるCOガスの挙動により、燃料ガス吸着カートリッジ12の交換時期の判断が可能であることがわかる。このようにプロパンガスGなどの燃料ガスの濃度や流量により、燃料ガス吸着カートリッジ12が破過するまでの時間は変動するので、CO濃度の変動に応じて、燃料ガス吸着カートリッジ12の交換時期を適宜設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
上述したような本発明の燃料ガス吸着装置は、一過式の燃料ガス吸着カートリッジの破過時期を判断可能とするものであり、都市ガス代替プロパンガスジェネレータ、一過式の燃料ガス吸着カートリッジを燃料ガスのガス流量メータの交換用、ガス配管新設施工時の燃料ガスパージ処理用の他、VOCタンクの定修時の換気工程におけるVOCの大気放出用、浄化槽出口での硫化水素臭の除去用、活性炭吸着塔の入れ替え工事の際の腐食性ガス及び硫黄系ガスの大気放散防止用、さらには、下水マンホールにおける開港時の硫黄分主体の充満ガス(例えば、硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄系有毒ガス)の除去用など各種用途に適用することができ、その産業上の利用価値は大きい。
【符号の説明】
【0058】
1,12 燃料ガス吸着カートリッジ
2,13 燃料ガス吸着容器
3 入口部(ガス流入部材)
4 出口部(排出管)
5A,5B スペーサ部材
6,7 細粒状多孔質ガス吸着材
11 燃料ガス吸着装置
14 入口部
14A 燃料ガス供給配管
15 出口部
15A 排出用配管
16 熱量計
17 COセンサ(吸着性の低い成分のセンサ)
18 ガスボンベ
19 流量計
20 開閉バルブ
G プロパンガス(燃料ガス)
G1 排出ガス
図1
図2
図3
図4