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特許7207588III族窒化物半導体ウエーハ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体ウエーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20230111BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/365
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022037420
(22)【出願日】2022-03-10
【審査請求日】2022-08-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保埜 一平
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-165962(JP,A)
【文献】特開平07-226349(JP,A)
【文献】特開2007-134461(JP,A)
【文献】特開平10-321487(JP,A)
【文献】特開平09-139365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハであって、前記成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであることを特徴とするIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項2】
前記III族窒化物半導体膜は、GaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項3】
前記成膜用基板は、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項4】
前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位が〈111〉であることを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項5】
前記III族窒化物半導体膜の膜厚が10μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項6】
前記成膜用基板の厚さが1150μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項7】
前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)が200μm以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハ。
【請求項8】
成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を成膜してIII族窒化物半導体ウエーハとするIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であって、前記成膜用基板として、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であり、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下である基板を用いることを特徴とするIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項9】
前記III族窒化物半導体膜を、GaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むものとすることを特徴とする請求項8に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項10】
前記成膜用基板として、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板を用いることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項11】
前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位を〈111〉とすることを特徴とする請求項10に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項12】
前記III族窒化物半導体膜の膜厚を10μm以下とすることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項13】
前記成膜用基板の厚さを1150μm以下とすることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【請求項14】
前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)を200μm以上とすることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体ウエーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表されるIII族窒化物半導体は、Siの材料としての限界を超える次世代の半導体材料として期待されている。GaNは飽和電子速度が大きいという特性から高周波動作可能なデバイスの作製が可能であり、また絶縁破壊電界も大きいことから、高出力での動作が可能である。また、軽量化や小型化、低消費電力化も見込める。
【0003】
近年、5G等に代表されるような通信速度の高速化、またそれに伴う高出力化の要求により、高周波、且つ高出力で動作可能なGaN HEMTが注目されている。また、GaNはパワーデバイス用途としても用いられる。
【0004】
III族窒化物半導体を製造する方法の一つとして、MOCVD法がある。MOCVD法は、大口径化や量産性に優れている上、急峻な膜制御が可能であり、また均質な薄膜結晶を成膜できるため、広く用いられている。MOCVD法でIII族窒化物半導体(例えばGaN)をヘテロエピタキシャル成膜する際の基板としては、安価で大口径化が可能なSi基板が広く用いられている。
【0005】
基板上にエピタキシャル成長をさせた際に、基板外周部にクラウンと呼ばれるエピタキシャル層の異常成長による局部的な厚膜化が発生し、割れなど不具合の原因となることが知られており、これを防ぐため様々な工夫がされている。
【0006】
特許文献1には、シリコン系基板の外周部の面取り角度θをθ1、2≦16度となるように面取りし、且つ面取り終端部と表面の垂線の距離を限定することでクラウンの発生を防止する方法が提案されている。しかし、面取り角度θは22度前後とすることが一般的であり、この値を変更する事は工程変更によるコストアップが生じる。また、デバイス工程に流した際の不良増加や工程変更によるコストアップの要因となり得る。
【0007】
特許文献2の段落28にはシリコン系基板の周辺部をリングで覆った状態でエピタキシャル成長を行うことで、物理的に周辺部にエピタキシャル成膜がされない状態を作り出し、クラウンの発生を防止する方法が記載されている。しかしこの方法ではデバイスとして利用できる有効面積が小さくなってしまう。
【0008】
特許文献3には、エッジクラウンの発生位置が加工面取り斜面上になるように面取り幅を設定することが開示されている。特許文献3には、表クラウンの発生位置は面取り角度や面取り幅の大きさによらず略一定であるため、面取り幅をクラウンの発生位置よりも広くすると、クラウンが加工面取り斜面上に位置するようになるため、エピ主面に対する相対的なクラウン高さが低くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭59-227117号公報
【文献】特開2013-171898号公報
【文献】特開平07-226349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、発明者がGaNヘテロエピタキシャル成長において研究を行った所、クラウンの最も高くなる位置は、面取り幅Xの長さによらずエピタキシャル層と面取りテーパー開始部との境界近傍(面取り幅開始部のクラウンB)(図5)であり、面取り幅Xの幅を増大させることでクラウンの絶対高さの減少効果が確認された。また特許文献3はシリコン基板上にシリコン層を成膜したホモエピタキシャル成長であるが、本発明のヘテロエピタキシャル成長では、基板とエピタキシャル層間の格子定数差や熱膨張係数差による応力も印加されているため割れやすい状況にあり、厚いエピタキシャル膜でなくともクラウンの影響は顕著になる。
【0011】
GaNのヘテロエピタキシャル成膜では、基板とGaNの格子定数差や熱膨張係数差により大きな応力が印加されているため割れやすいのに加え、クラウンが発生するとその近傍に生じる応力も加わり、デバイスプロセス加工やハンドリング中に非常に割れやすい。またクラウンが存在すると、デバイスプロセスの露光工程でデフォーカスが発生する問題もある。このような理由によりGaNヘテロエピタキシャル成膜において、クラウン防止策が必須であるが、面取り角度θが汎用の22度±1度のままで、面取り幅Xのみの変更でクラウンを抑制する技術は、これまでに開示されていない。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハであって、前記成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであるIII族窒化物半導体ウエーハを提供する。
【0014】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減する事ができる。
【0015】
また、本発明では、前記III族窒化物半導体膜は、GaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むことが好ましい。
【0016】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、近年要求されている、高周波、高出力デバイス等に好適なものとなる。
【0017】
また、本発明では、前記成膜用基板は、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板であることが好ましい。
【0018】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、比較的安価で高品質なものとする事ができる。
【0019】
この時、前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位が〈111〉であることが好ましい。
【0020】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、GaN等の六方晶の結晶構造を持つIII族窒化物半導体を、基板上にエピタキシャル成長することができる。
【0021】
また、本発明では、前記III族窒化物半導体膜の膜厚が10μm以下のものであることが好ましい。
【0022】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、クラウンの高さが高くならないため好ましい。
【0023】
また、本発明では、前記成膜用基板の厚さが1150μm以下のものであることが好ましい。
【0024】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、十分な強度を有するとともに、必要以上に厚くすることもなくなる。
【0025】
また、本発明では、前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)が200μm以上のものであることが好ましい。
【0026】
が200μm以上のものであれば、基板のエッジ部分が極端に薄くならず、欠けや割れの原因とならない。
【0027】
また、本発明では、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を成膜してIII族窒化物半導体ウエーハとするIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であって、前記成膜用基板として、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であり、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下である基板を用いるIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法を提供する。
【0028】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減したIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0029】
また、本発明では、前記III族窒化物半導体膜を、GaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むものとすることが好ましい。
【0030】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、近年要求されている、高周波、高出力デバイス等に好適なIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0031】
また、本発明では、前記成膜用基板として、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板を用いることが好ましい。
【0032】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、比較的安価で高品質なIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0033】
この時、前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位を〈111〉とすることが好ましい。
【0034】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、GaN等の六方晶の結晶構造を持つIII族窒化物半導体を、基板上にエピタキシャル成長することができる。
【0035】
また、本発明では、前記III族窒化物半導体膜の膜厚を10μm以下とすることが好ましい。
【0036】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、クラウンの高さが高くならないIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0037】
また、本発明では、前記成膜用基板の厚さを1150μm以下とすることが好ましい。
【0038】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、十分な強度を有するとともに、必要以上に厚くすることのないIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0039】
また、本発明では、前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)を200μm以上とすることが好ましい。
【0040】
が200μm以上のものであれば、基板のエッジ部分が極端に薄くならず、欠けや割れの原因とならない。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明のIII族窒化物半導体ウエーハであれば、成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、面取り角度を21度≦θ≦23度、面取り幅を500μm≦X≦1000μmとすることで、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減する事ができる。また、近年要求されている、高周波、高出力デバイス等に好適なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明のIII族窒化物半導体ウエーハの成膜用基板の面取り部の基板表面の径方向の断面形状の各パラメータを示す図である。
図2】実施例3の面取り部の基板表面の径方向の断面形状を示す図である。
図3】比較例1の面取り部の基板表面の径方向の断面形状を示す図である。
図4】実施例および比較例における、エピタキシャル膜厚値に対するクラウン高さの比を示すグラフである。
図5図4におけるクラウン測定箇所の説明図である。
図6】実施例および比較例における、デバイス工程におけるウエーハ割れの割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
上述のように、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハ、及びその製造方法の開発が求められていた。
【0044】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、成膜用基板の面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであるIII族窒化物半導体ウエーハであれば、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減する事ができることを見出し、本発明を完成させた。
【0045】
即ち、本発明は、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハであって、前記成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであるIII族窒化物半導体ウエーハである。
【0046】
さらに、本発明では、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を成膜してIII族窒化物半導体ウエーハとするIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であって、前記成膜用基板として、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であり、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下である基板を用いるIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法を提供する。
【0047】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[III族窒化物半導体ウエーハ]
本発明は、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハであって、前記成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであるIII族窒化物半導体ウエーハである。
【0049】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハであれば、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減する事ができる。
【0050】
前記III族窒化物半導体膜は、GaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むものであることが好ましい。このようなIII族窒化物半導体膜であれば近年要求されている、高周波、高出力デバイス等に好適なものとなるため好ましい。
【0051】
本発明において、用いられる成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状は、面取り角度が21度≦θ≦23度、面取り幅が500μm≦X≦1000μmである。
【0052】
ここで、面取り角度θの範囲は、成膜用基板の一般的な面取り角度である21度以上23度以下の範囲である。面取り角度がこの範囲外であると、工程変更等による余分なコストアップや歩留まり低下等が発生するため好ましくない。
【0053】
面取り幅Xの長さが500μm以上1000μm以下であれば、基板割れが抑制できる高さまでクラウンの発生を抑制する事ができる。
【0054】
また、面取り幅Xの長さが500μm未満であると、クラウン高さ低減によるウエーハ割れの防止に十分な効果が得られない。また、面取り幅Xの長さが1000μmを超えると、ウエーハ表面の有効面積が小さくなり、デバイス歩留まりが低下するため好ましくない。
【0055】
成膜用基板直上には超格子Buffer層を有することができる。超格子Buffer層は、成膜用基板直上にAlN層を有し、その上にAlGaN層、さらにその上にAlN層、AlGaN層、もしくはGaN層から2つ又は3つを数nmずつ有するものとすることができる。超格子Buffer層の構造はこれに限らず、AlGaN層を有さない場合や、AlGaN層の上にさらにAlN層を有する場合もある。また、Al組成を変化させたAlGaN層を複数層有する場合もある。III族窒化物半導体膜(エピタキシャル層)の総膜厚は用途によって変更されるため、特に限定されないが、厚いほどクラウン高さも高くなる傾向にあるため、10μm以下とすることが好ましい。
【0056】
エピタキシャル層の表層側にはデバイス層を設けることができる。デバイス層は、2次元電子ガスが発生する結晶性の高い層(チャネル層)、2次元電子ガスを発生させるための層(バリア層)、最表層にキャップ層を設けた構造とすることができる。バリア層にはAl組成が20%程度のAlGaNを用いることができるが、例えばInGaN等も用いることができ、これに限定されない。キャップ層は例えばGaN層やSiN層とすることもでき、これに限定されない。また、これらのデバイス層の厚さやバリア層のAl組成は、デバイスの設計によって変更される。
【0057】
本発明において、前記成膜用基板は、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板であることが好ましい。このような成膜用基板であれば比較的安価で高品質なものとすることができるため好ましい。この時、前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位が〈111〉であることが好ましい。このような軸方位であればGaN等の六方晶の結晶構造を持つIII族窒化物半導体を、基板上にエピタキシャル成長することができるため好ましい。
【0058】
前記III族窒化物半導体膜の膜厚が10μm以下であることが好ましい。このような膜厚であればクラウン高さも高くならないため好ましい。
【0059】
また、前記成膜用基板の厚さが1150μm以下のものであることが好ましい。成膜用基板の厚さがこのようなものであれば、十分な強度を有するとともに、必要以上に厚くすることもなくなるため好ましい。
【0060】
さらに、前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)が200μm以上のものであることが好ましい。Tがこのような長さであれば、基板のエッジ部分が極端に薄くならず、欠けや割れの原因とならないため好ましい。
【0061】
図1を用いて面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状の各パラメータについて説明する。本発明に用いられる成膜用基板は、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度をθとし、前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅をXとし、外周端部と表面側の面取り面との間は曲率半径Rの曲面を有する。
【0062】
これらの他に、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、基板裏面に対する面取り角度をθとし、前記基板裏面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅をXとし、外周端部と裏面側の面取り面との間は曲率半径Rの曲面を有する。
【0063】
さらに、成膜用基板の厚さをTとし、前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さをTとする。
【0064】
[III族窒化物半導体ウエーハの製造方法]
本発明は、成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を成膜してIII族窒化物半導体ウエーハとするIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であって、前記成膜用基板として、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であり、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下である基板を用いるIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法である。
【0065】
このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、基板割れが十分に抑制できる程度まで、クラウンの高さを低減したIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0066】
また、本発明では、例えばMOCVD反応炉において、成膜用基板上にGaN、AlN、又はAlGaNのいずれか一つ以上を含むIII族窒化物半導体膜のエピタキシャル成長を行うことができる。この際、成膜用基板は特に限定されず、SiC基板、貼り合わせ基板等のどのような成膜用基板を用いても同様の効果が得られる。このようなIII族窒化物半導体ウエーハの製造方法であれば、近年要求されている、高周波、高出力デバイス等に好適なIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0067】
本発明において、用いられる成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状は、面取り角度を21度≦θ≦23度、面取り幅を500μm≦X≦1000μmとなるように作製する。
【0068】
ここで、面取り角度θの範囲は、成膜用基板の一般的な面取り角度である21度以上23度以下の範囲から変更を加えずに作製する。面取り角度がこの範囲外であると、工程変更等による余分なコストアップや歩留まり低下等が発生するため好ましくない。
【0069】
面取り幅Xの長さを500μm以上1000μm以下となるように作製することで、基板割れが抑制できる高さまでクラウンの発生を抑制する事ができる。
【0070】
また、面取り幅Xの長さが500μm未満であると、クラウン高さ低減によるウエーハ割れの防止に十分な効果が得られない。面取り幅Xの長さが1000μmを超えると、デバイスを作製できる平坦な領域が少なくなり、デバイス歩留まりを低下させてしまうため好ましくない。
【0071】
エピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いることができる。また、キャリアガスはN、H、またはその両方とすることができ、プロセス温度は900~1250℃程度とすることができる。
【0072】
前記成膜用基板として、シリコン基板、もしくは表層がシリコン層である基板を用いることが好ましい。このような成膜用基板を用いることで、比較的安価で高品質なIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。この時、前記シリコン基板、もしくは前記表層がシリコン層である基板の表面に垂直な方向の軸方位を〈111〉とすることが好ましい。このような軸方位とすることで、GaN等の六方晶の結晶構造を持つIII族窒化物半導体を、基板上にエピタキシャル成長することができる。
【0073】
前記III族窒化物半導体膜の膜厚を10μm以下とすることが好ましい。このような膜厚とすることで、クラウン高さも高くならないIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0074】
前記成膜用基板の厚さを1150μm以下とすることが好ましい。このような成膜用基板の厚さとすることで、十分な強度を有するとともに、必要以上に厚くすることのないIII族窒化物半導体ウエーハを製造できる。
【0075】
前記成膜用基板の外周端部の前記基板表面の径方向の断面形状における、前記表面と垂直な部分の長さ(T)を200μm以上とすることが好ましい。Tをこのような長さとすることで、基板のエッジ部分が極端に薄くならず、欠けや割れの原因とならない。
【実施例
【0076】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
MOCVD反応炉において、シリコン基板上にAlN、AlGaNおよびGaN等のIII族窒化物半導体膜のエピタキシャル成長を行った。
シリコン基板は、厚さが1000μmで、表面に垂直な方向の軸方位が〈111〉であって、面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状は面取り角度θ=22度、面取り幅X=500μmの物を用いた。
シリコン基板直上にAlN層を成膜させ、その上にAlGaN層、さらにその上にAlN層とAlGaN層を交互に成膜する超格子Buffer層を成膜した。Buffer層の直上にはC-dopeしたGaN層を成膜し、その上にC non-dopeのGaN層および、デバイス層を設けた。
エピタキシャル層の総膜厚は、10μmに設計した。
エピタキシャル成長の際、Al源としてTMAl、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いた。また、キャリアガスはN、H、またはその両方とし、プロセス温度は900~1250℃程度とした。
エピタキシャル層の成膜後、基板をへき開し、SEM等の電子顕微鏡で断面方向から分析を行い、クラウンの高さと、クラウンからウエーハ中央方向に向かって十分遠い位置(2mm以上離れた箇所)のエピタキシャル層の膜厚を調べ、その比を計算した。
また、デバイス工程中での割れ率を計算した。
【0078】
[実施例2、3、4]
実施例1において準備したシリコン基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状の面取り幅Xの長さを600μm、800μm、1000μmとした。面取り角度θの条件は実施例1と同様の22度とした。
その後、実施例1と同様にそれぞれのシリコン基板上にMOCVD反応炉にて、同様のエピタキシャル成長条件にて成膜を行った。
【0079】
[比較例1、2、3]
実施例1において準備したシリコン基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状の面取り幅Xの長さを200μm、400μm、450μmとした。面取り角度θの条件は実施例1と同様の22度とした。
その後、実施例1と同様にそれぞれのシリコン基板上にMOCVD反応炉にて、同様のエピタキシャル成長条件にて成膜を行った。
【0080】
実施例3の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状を図2に示し、比較例1の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状を図3に示す。
【0081】
実施例および比較例における、エピタキシャル層の膜厚値に対するクラウン高さの比を図4に示す。図4に示す通り、本発明のIII族窒化物半導体ウエーハは、エピタキシャル層の膜厚値に対するクラウン高さの比が比較例と比べて低くなっている。
【0082】
図5図4におけるクラウン測定箇所を示す。エピタキシャル層の膜厚Aと、面取り幅開始部のクラウンBと、曲率半径開始部のクラウンCを有する。
【0083】
実施例および比較例における、デバイス工程におけるウエーハ割れの割合を図6に示す。図6に示す通り、本発明のIII族窒化物半導体ウエーハは、デバイス工程におけるウエーハ割れが起こらない。
【0084】
また、面取り幅Xの長さが1000μmを超えると、ウエーハ表面の有効面積が小さくなり、デバイス歩留まりが低下する。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0086】
…面取り幅、 θ…面取り角度、 R…曲率半径、
…面取り幅、 θ…面取り角度、 R…曲率半径、
…成膜用基板の厚さ、 T…表面と垂直な部分の長さ、
A…エピタキシャル層の膜厚、 B…面取り幅開始部のクラウン、
C…曲率半径開始部のクラウン。
【要約】
【課題】成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】成膜用基板上にIII族窒化物半導体膜を備えたIII族窒化物半導体ウエーハであって、前記成膜用基板の面取り部の前記基板表面の径方向の断面形状において、前記基板表面に対する面取り角度(θ)が21度以上23度以下であって、且つ前記基板表面の径方向における、前記成膜用基板の外周端部と前記面取り部の内周端部との間隔である面取り幅(X)が500μm以上1000μm以下のものであることを特徴とするIII族窒化物半導体ウエーハ。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6