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特許7207604アルコール透過抑制フィルム、及びアルコール透過抑制フィルムを用いた包装材並びに包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】アルコール透過抑制フィルム、及びアルコール透過抑制フィルムを用いた包装材並びに包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230111BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230111BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022512358
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039734
(87)【国際公開番号】W WO2022102414
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020187117
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】アウリア アウェルロース
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康史
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-111982(JP,A)
【文献】特開2016-117227(JP,A)
【文献】特開2004-107417(JP,A)
【文献】特開2002-275327(JP,A)
【文献】特開2004-315582(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂を主成分とし、該ポリプロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体(a1)及びプロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)とを含有する基材層(A)、
環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)、
及びポリオレフィン系樹脂を主成分とするシール層(D)が、(A)/(B)/(D)の順に積層された共押出多層フィルムであり、
前記基材層(A)と第一の中間層(B)との間に、ポリエチレン系樹脂を主成分とする第二の中間層(C)を有し、
前記多層フィルムの総厚みが20~90μmであり、
前記環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)の多層フィルムに対 する厚み比率が3%以上である、
アルコール透過抑制フィルム。
【請求項2】
環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂を主成分とし、該ポリプロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体(a1)及びプロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)とを含有する基材層(A)、
環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)、
及びポリオレフィン系樹脂を主成分とするシール層(D)が、(A)/(B)/(D)の順に積層された無延伸の多層フィルムであり、
前記基材層(A)と第一の中間層(B)との間に、ポリエチレン系樹脂を主成分とする第二の中間層(C)を有し、
前記多層フィルムの総厚みが20~90μmであり、
前記環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)の多層フィルムに対 する厚み比率が3%以上である、
アルコール透過抑制フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルコール透過抑制フィルムであって、
(A)/(C)/(B)/(D)の各層間を直接積層したアルコール透過抑制フィルム。
【請求項6】
アルコール透過抑制フィルムの全厚に対し、前記第二の中間層(C)の厚み比率が35~70%であり、前記第一の中間層(B)の厚み比率が5~25%である、請求項4又は に記載のアルコール透過抑制フィルム。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のアルコール透過抑制フィルムを袋状に密閉した内部にアルコール揮散剤を有する包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医療品等の包装材に使用するアルコール透過抑制フィルムに関し、より詳細には、フィルムからのアルコール透過を抑制することによりアルコール保持性を高めた包装材を実現可能なアルコール透過抑制フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬及び医療品等の包装材として、プラスチック素材を使用したフレキシブルパッケージングが世界的に使用されている。近年は、消費者の嗜好性の向上やCOVID19による生活様式の変化に伴い、包装材には、内容物の変質を抑制して安全性を確保すること、更に食品用においては作り立てのおいしさを維持した状態で品質保持期間を1日でも長く確保することへの要求が高まっている。
【0003】
例えばパン、菓子類、麺類、乾物等の食品は、品質や鮮度を保持するために、袋・容器等の包装体内部にアルコール揮散剤が封入される場合がある。アルコール揮散剤は包装体の内部でエチルアルコールを揮散させ、ガス化したエチルアルコールが食品の表面を覆うことにより、食品のカビを防ぐ品質保持剤である。アルコール揮散剤を封入することにより、食品の柔らかさを守り作りたての食感を保ち、賞味期限延長に貢献できると考えられる。アルコール揮散剤を包装体に封入する場合、包装体の内部に気化したアルコールを充満させる必要があることから、アルコールガスの透過量が低く、また、シール性が高い包装体が求められる。
【0004】
アルコール透過量が低い包装体の材料としては、例えば、プラスチック基材上に無機化合物を含むガスバリア蒸着層と、ケイ素化合物を含むガスバリア被覆層を積層したガスバリア積層フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。当該積層フィルムは、透明性を有し、アルコール遮断性にも優れていることから、アルコール液体容器や酒類の紙容器などに適した包装部材として利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルコール揮散剤を封入した食品用包装材には、通常、柔軟性に優れたポリオレフィン系のフィルムを貼り合わせたラミネートフィルムが用いられている。しかし、上述のように品質保持期間を1日でも長く確保するためには、よりアルコールガスの透過量が低い材料が求められる。
【0007】
一方、特許文献1に記載の材料は無機化合物を含むガスバリア蒸着層やガスバリア被覆層を設ける必要があることから、工程数が多く、柔軟性が劣り、また、コストが高くなってしまう。そのため、蒸着層を設けたり、他のフィルムと積層してラミネートしたりすることなく、単体のフィルムで高いアルコール保持性と適度な柔軟性を有するフィルムが望まれている。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、アルコールガスの透過性が低く、また、柔軟性と耐衝撃性を有し、フィルム単体で用いた場合においても優れたアルコール保持性を有し、包装材として好適に利用することが可能なアルコール透過抑制フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂を主成分とし、該ポリプロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体(a1)及びプロピレンと他のα-オレフィン共重合体(a2)を含有する基材層(A)、
環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)、
及びポリオレフィン系樹脂を主成分とするシール層(D)が、(A)/(B)/(D)の順に積層された多層フィルムである、アルコール透過抑制フィルム
により、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルコール透過抑制フィルムは、アルコールガスの透過性が低いことから、フィルム単体で用いた場合においても優れたアルコール保持性を有することが可能である。また、本発明のアルコール透過抑制フィルムは柔軟性と耐衝撃性に優れていることから、密封用の袋や容器等の様々な包装形態への加工性に優れており、更に、良好な透明性を有することから包装体内部の視認性も優れている。そのため、アルコール揮散剤を封入して品質や鮮度を維持したい食品や医療・医薬品の包装用途に好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアルコール透過抑制フィルムは、環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂を主成分とする基材層(A)、環状ポリオレフィン系樹脂を主成分とする第一の中間層(B)、及びポリオレフィン系樹脂を主成分とするシール層(D)が、(A)/(B)/(D)の順に積層された多層フィルムである。
なお、本明細書において各層の「主成分」とは、具体的には、層を構成する各成分のうち最も割合が多い成分をいうものとする。
【0012】
[基材層(A)]
本発明の多層フィルムの基材層(A)は、環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂を主成分とし、該ポリプロピレン系樹脂として、プロピレン単独重合体(a1)及びプロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)を含有する層である。ポリプロピレン系樹脂としてこれらの2成分を含有することにより、安価及び工業的入手容易な材料を用いてアルコール透過を抑制することができ、また、耐熱性や適度な剛性を付与できる。更に、単体で使用する場合には、この基材層(A)が包装材の表層となることから、光沢を有した包装材とすることができる。
【0013】
プロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)としては、プロピレン-オレフィンランダム共重合体、たとえばプロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレンなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。
【0014】
前記その他のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1等が挙げられ、これらの2種以上を同時に共重合したものであっても良い。共重合形式としてはランダム共重合、ブロック共重合のいずれもでも使用できる。
【0015】
これらの中でも、エチレンとの共重合体であることが好ましい。また、共重合体におけるその他のオレフィンの含有率としては、2~23モル%が好ましく、より好ましくは2.5~15モル%である。
【0016】
中でも、プロピレン単独重合体(a1)と、プロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)としてプロピレン-エチレンランダム共重合体を併用することが好ましい。プロピレン単独重合体は、耐熱性や剛性の向上が期待でき、プロピレン-エチレンランダム共重合体は、光沢性の向上が期待できる。そして、これらポリプロピレン系樹脂を併用する事で、アルコール透過抑制・耐熱性・光沢性を有した包装材を得やすくなる。
【0017】
また、これらのポリプロピレン系樹脂は、MFR(230℃)が0.5~30.0g/10分で、融点が110~165℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃)が2.0~15.0g/10分で、融点が115~162℃のものである。MFR及び融点がこの範囲であれば、フィルムの成膜性が向上する。
【0018】
環状構造を有さないポリプロピレン系樹脂において、プロピレン単独重合体(a1)及びプロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)の割合は、質量比で、プロピレン単独重合体(a1):プロピレンと他のオレフィン共重合体(a2)=20:80~80:20の範囲であることが好ましく、30:70~70:30の範囲であることがより好ましく、40:60~60:40の範囲であることが更に好ましい。
【0019】
基材層(A)は、上記ポリプロピレン系樹脂を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない範囲で共押出可能なその他の樹脂を併用しても良い。基材層(A)に用いる樹脂成分の総質量うち、上記ポリプロピレン系樹脂の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0020】
基材層(A)に使用する、上記ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂としては、包装用フィルムに使用される各種樹脂を使用でき、なかでも、エチレン系樹脂等のオレフィン系樹脂を好ましく使用できる。エチレン系樹脂としては超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状中密度ポリエチレン(LMDPE),中密度ポリエチレン(MDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等を使用できる。
【0021】
上記プロピレン系樹脂以外の樹脂としてオレフィン系樹脂を使用する場合には、その含有量が表面層(A)に含まれる樹脂成分中の30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
また、オレフィン系樹脂として環状ポリオレフィン系樹脂を使用してもよいが、基材層(A)に含まれる樹脂成分中の環状ポリオレフィン系樹脂の含有量は10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましく、実質的に使用しないことも好ましい。
【0023】
本発明で使用する基材層(A)中には、上記以外の他の樹脂を併用してもよい。当該他の樹脂としては、例えば、エチレン系エラストマー、プロピレン系エラストマー、ブテン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等を例示できる。
【0024】
上記他の樹脂を使用する場合には、その含有量が基材層(A)に含まれる樹脂成分中の30質量%以下で使用することが好ましく、20質量%以下で使用することがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
基材層(A)中には、上記樹脂成分以外に各種添加剤等を適宜併用してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐電防止剤、防曇剤等、着色剤等を適宜使用できる。これら添加剤を使用する場合には、基材層(A)に使用する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以下、より好ましくは0.01~1質量部程度で使用する。
【0026】
特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、基材層(A)の摩擦係数は0.9以下、中でも0.8以下である事が好ましいので、基材層(A)には、滑剤やブロッキング防止剤を適宜添加する事も好ましい。
【0027】
基材層(A)の多層フィルムに対する厚み比率は、アルコール透過を抑制し、且つ、好適な剛性や耐熱性、包装機械適性等を得やすいことから、多層フィルムの総厚み(全厚)に対する基材層(A)の厚み比率としては、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。一方、柔軟性と光沢性の観点から、厚み比率の上限は、75%以下であることが好ましく、50%以下であることが好ましく、30%以下であることが好ましく、25%以下であることが好ましい。
【0028】
[第一の中間層(B)]
本発明の多層フィルムの第一の中間層(B)には環状ポリオレフィン系樹脂を含有することで、優れた易引き裂き性や直進カット性を実現できる。当該環状ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」という。)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」という。)等が挙げられる。また、COP及びCOCの水素添加物も、特に好ましい。また、環状ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0029】
前記ノルボルネン系重合体と原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0030】
前記ノルボルネン系共重合体(COC)は、前記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したものであり、このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数2~20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエンなどが挙げられる。
【0031】
また、前記ノルボルネン系共重合体(COC)中のノルボルネン系単量体の含有比率は、40~90モル%が好ましく、より好ましくは50~80モル%である。含有比率がこの範囲にあれば、アルコール透過抑制効果、フィルムの剛性、加工安定性が向上する。
【0032】
第一の中間層(B)中に含まれる環状ポリオレフィン系樹脂の含有量は、第一の中間層(B)に含まれる樹脂成分中の70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。環状ポリオレフィン系樹脂の含有量を当該範囲とすることで、耐衝撃性を損なうことなく、好適な易引き裂き性や直進カット性を実現しやすくなる。
【0033】
また、第一の中間層(B)中に使用する環状ポリオレフィン系樹脂は、そのガラス転移温度が140℃以下であることが好ましく、50~140℃であることがより好ましく、70~120℃であることがさらに好ましい。環状ポリオレフィン系樹脂として当該ガラス転移温度のものを使用することで、良好な耐熱性や剛性を得やすく、また、落下等に対する耐破袋性を向上させやすくなる。また、良好な相溶性を得やすくなり、外観ムラを抑制しやすくなる。ガラス転移温度(Tg)は、DSCにより測定して得られる値である。
【0034】
また、異なるガラス転移温度の環状ポリオレフィン系樹脂を併用してもよいが、その60質量%以上は、押出適性、コスト、易裂け性等の観点からガラス転移点が120℃以下の環状ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0035】
環状ポリオレフィン系樹脂のMFRは、0.2~17g/10分(230℃、21.18N)、好ましくは3~15g/10分(230℃、21.18N)、より好ましくは5~13g/10分(230℃、21.18N)である。MFRがこの範囲であると、直鎖状低密度ポリエチレンとの相溶性に優れ、なおかつ各種の多層成膜法において良好な成膜性が得られる点で好ましい。
【0036】
本発明に使用する環状ポリオレフィン系樹脂として使用できる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、ポリプラスチックス社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0037】
第一の中間層(B)中の樹脂成分としては、上記環状ポリオレフィン系樹脂のみを含有することも好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、これら樹脂成分以外の他の樹脂を併用してもよい。その他の併用できる樹脂種としては、例えば、上記基材層(A)にて、例示したポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等の環状ポリオレフィン系樹脂以外の環状構造を有さないオレフィン系樹脂を例示できる。これら環状構造を有さないオレフィン系樹脂を使用する場合には、第一の中間層(B)に含まれる樹脂成分中の30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることがさらに好ましい。また下限は特に制限されるものではないが、所望する特性に応じて1質量%以上の含有量にて適宜使用すればよい。
【0038】
第一の中間層(B)中には、上記樹脂成分以外に各種添加剤等を適宜併用してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐電防止剤、防曇剤等、着色剤等を適宜使用できる。これら添加剤を使用する場合には、第一の中間層(B)に使用する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以下、より好ましくは0.01~1質量部程度で使用する。
【0039】
また、第一の中間層(B)の多層フィルムに対する厚み比率としては、コスト面と成膜性やフィルムのカール性の観点より、25%以下であることが好ましく、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが好ましく、10%以下であることが好ましい。また、下限は、アルコール透過を抑制するために、3%以上であることが好ましく、5%以上であることが好ましい。
【0040】
[シール層(D)]
本発明の多層フィルム使用するシール層(D)は、例えば、各種包装用フィルムに使用されるヒートシール層を適宜使用できる。なかでも、前記基材層(A)、第一の中間層(B)等と積層しやすいことから、ポリオレフィン系樹脂、特に環状構造を有さないポリオレフィン系樹脂を主成分とする層であることが好ましい。当該ポリオレフィン系樹脂としては、上記基材層(A)等にて例示したポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を好ましく使用できる。
【0041】
なかでも、強度や密封性、包装機械適性の観点から、密度が0.916~0.935g/cmのポリエチレン系樹脂あるいはメタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体であるポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。特に、好適なシール性を得やすいことから直鎖低密度ポリエチレンを使用することが好ましい。また、ボイル殺菌工程でのフィルムの互着の抑制からも上記密度の範囲が好ましい。
【0042】
シール層(D)に含まれる樹脂成分中の上記ポリオレフィン系樹脂の含有量は70質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、シール層(D)に含まれる樹脂成分中の100質量%が、直鎖低密度ポリエチレンであってもよい。
【0043】
シール層(D)中には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリオレフィン系樹脂以外の他の樹脂を併用してもよく、当該他の樹脂としては、基材層(A)等にて例示した熱可塑性エラストマーやエチレン系共重合体、アイオノマー等を例示できる。当該他の樹脂を使用する場合には、その含有量がシール層(D)に含まれる樹脂成分中の30質量%以下で使用することが好ましく、20質量%以下で使用することがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
シール層(D)中には、上記樹脂成分以外に各種添加剤等を適宜併用してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐電防止剤、防曇剤等、着色剤等を適宜使用できる。これら添加剤を使用する場合には、シール層(D)に使用する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以下、より好ましくは0.01~1質量部程度で使用する。特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、シール層(D)の摩擦係数は0.9以下、中でも0.8以下である事が好ましいので、シール層(D)には、滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加する事も好ましい。
【0045】
また、特に単体で包装機械を使用して包装する場合には、多層フィルムの基材層(A)と、シール層(D)とで、融点に差がある樹脂を用いることが、シールバーの温度を高くすることができ、シール強度を向上できる観点より好ましく、具体的には、基材層(A)の融点が、シール層(D)の融点より10℃以上高くすることが好ましい。
【0046】
シール層(D)の多層フィルムの総厚みに対する厚み比率は、好適な裂け性とシール強度とを得やすいことから、30%以下であることが好ましく、10~25%の範囲であることがより好ましい。
【0047】
本発明のアルコール透過抑制フィルムは、基材層(A)と第一の中間層(B)との間に、ポリエチレン系樹脂を主成分とする第二の中間層(C)を有していてもよい。つまり、基材層(A)、第二の中間層(C)、第一の中間層(B)、及びポリオレフィン系樹脂を主成分とするシール層(D)が、(A)/(C)/(B)/(D)の順に積層された多層フィルムであってもよい。このように、ポリエチレン系樹脂を主成分とする第二の中間層(C)を有する構成により、柔軟性、耐衝撃性及びアルコール透過抑制効果を高めることができる。
【0048】
[第二の中間層(C)]
第二の中間層(C)は、ポリエチレン系樹脂(c)を主成分とする層であることが好ましい。
【0049】
ポリエチレン系樹脂(c)としては、具体的には、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状中密度ポリエチレン(LMDPE)、線状高密度ポリエチレン(LHDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン-ブテンーゴム共重合体(EBR)、エチレン-プロピレンーゴム共重合体(EPR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられ、単独でも、2種類以上を混合して使用して良い。これらの中でもアルコール透過抑制、耐熱性、落下衝撃性等とのバランスが良好なことからLDPE、LMDPE、LHDPE、LLDPE、MDPE、HDPE、EBRを用いることが好ましい。
【0050】
中でも、ポリエチレン系樹脂(c)として、密度が0.950g/cm以上の高密度ポリエチレン(c1)、及び密度が0.900g/cm以上0.945g/cm未満のエチレン系樹脂(c2)の少なくともいずれかを含有することが好ましい。
【0051】
高密度ポリエチレン(c1)は、アルコール透過抑制効果及び剛性を向上させやすいため好ましい。高密度ポリエチレン(c1)の密度は、前述のように0.950g/cm以上であることが好ましく、0.955g/cm以上であることがより好ましい。
エチレン系樹脂(c2)は、耐衝撃性を向上させるため好ましく、第二の中間層においてエチレン系樹脂を主成分として用いることが好ましい。エチレン系樹脂(c2)はLLDPEあるいはLMDPEであることが好ましく、前述のように密度は0.900g/cm以上0.945g/cm未満の範囲であることが好ましいが、0.930g/cm以下であることがより好ましく、は0.925g/cm以下であることがより好ましく、0.910~0.920g/cmであることが更に好ましい。また、エチレン系樹脂(c2)のMFRは、0.1~20g/10分(190℃、21.18N)、好ましくは0.3~10g/10分(190℃、21.18N)、より好ましくは0.5~5g/10分(190℃、21.18N)である。MFRがこの範囲であると、良好な成膜性が得られる点で好ましい。
【0052】
アルコール透過抑制効果と、柔軟性及び耐衝撃性とを両立させる観点から、高密度ポリエチレン(c1)及びエチレン系樹脂(c2)を共に用いることが好ましい。高密度ポリエチレン(c1)及びエチレン系樹脂(c2)の割合は、質量比で高密度ポリエチレン(c1):エチレン系樹脂(c2)=10:90~50:50であることが好ましく、20:80~40:60であることがより好ましい。
【0053】
本発明においては、第二の中間層(C)中のポリエチレン系樹脂(c)の含有量を第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の65質量%以上とすることで、好適な耐衝撃性やアルコール保持性を実現できる。当該含有量は、第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の68質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。また、第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の100質量%が、ポリエチレン系樹脂であってもよい。
【0054】
第二の中間層(C)中には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリエチレン系樹脂(c)以外の他の樹脂を併用してもよい。その他の併用できる樹脂種としては、例えば、上記基材層(A)にて例示したポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂等を例示できる。上記ポリエチレン系樹脂(c)以外の樹脂としてポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂を使用する場合には、その含有量が第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0055】
また、オレフィン系樹脂として環状ポリオレフィン系樹脂を使用してもよいが、第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の環状ポリオレフィン系樹脂の含有量は10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましく、実質的に使用しないことも好ましい。
【0056】
また、第二の中間層(C)中には、上記以外の他の樹脂を併用してもよく、当該他の樹脂としては、基材層(A)にて例示した熱可塑性エラストマーやエチレン系共重合体、アイオノマー等を例示できる。当該他の樹脂を使用する場合には、その含有量が第二の中間層(C)に含まれる樹脂成分中の35質量%以下で使用することが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
第二の中間層(C)中には、上記樹脂成分以外に各種添加剤等を適宜併用してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐電防止剤、防曇剤等、着色剤等を適宜使用できる。これら添加剤を使用する場合には、第二の中間層(C)に使用する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.01~3質量部程度で使用する。
【0058】
前記ポリエチレン系樹脂(c)を主成分とする第二の中間層(C)の多層フィルムに対する厚み比率としては、アルコール透過抑制効果と、その他の性能バランス、特に耐低温衝撃性の観点より、30%以上であることが好ましく、特に35~70%の範囲であることが好ましい。
【0059】
[多層フィルム]
本発明の多層フィルムは、上記基材層(A)、第一の中間層(B)、及びシール層(D)が、(A)/(B)/(D)の順に少なくとも積層された多層フィルムである。本発明の多層フィルムは当該構成により、アルコール透過を抑制でき、また、耐衝撃性、柔軟性を実現できる。また、本発明の多層フィルムは、アルコール透過をより抑制し、且つ柔軟性及び耐衝撃性をより向上させるために、基材層(A)、第二の中間層(C)、第一の中間層(B)及びシール層(D)が、(A)/(C)/(B)/(D)の順に少なくとも積層された多層フィルムであることが好ましい。
【0060】
本発明の多層フィルムは、フィルムの総厚みが20~90μmのものが好ましく、より好ましくは30~60μmである。フィルムの厚さがこの範囲であれば、安定したシール強度、包装機械適性、優れた耐ピンホール性能と、アルコール透過抑制効果を両立しやすくなる。
【0061】
また、各層の厚みは、特に制限されるものではないが、例えば、表面層(A)の厚みとしては、3~15μmであることが好ましく、5~12μmであることがより好ましい。第一の中間層(B)の厚みは1~20μmであることが好ましく、2~15μmであることが好ましい。第二の中間層(C)を有する場合には第一の中間層(B)の厚みは1~15μmであることが好ましく、2~10μmであることがより好ましい。第二の中間層(C)の厚みは8~35μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。シール層(D)の厚みは2~20μmであることが好ましく、4~15μmであることがより好ましい。
【0062】
本発明の多層フィルムは、内容物保護の観点から、そのシール強度が5N/15mm以上である事が好ましく、10N/15mm以上であることがより好ましい。
【0063】
本発明の多層フィルムの曇り度は、包装する内容物を視認しやすいことから、10%以下である事が好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。本発明の多層フィルムは、このような高い透明性を有する場合には、好適な包装適性や好適な印刷密着性を実現しやすい。
【0064】
本発明の多層フィルムは、温度25℃の条件下で6日間保持した後のアルコール濃度の残存率が10ppm以上であることが好ましく、20ppm以上であることがより好ましい。このように、本発明の多層フィルムはアルコール保持性に優れていることから、単層で用いてもアルコール透過を効果的に抑制することができ、フィルムを貼り合わせたラミネート構成のフィルムに比べて低コスト化を図れる。
【0065】
また、本発明の積層フィルムの衝撃強度は、0.60J(0℃)以上であることが好ましく、0.70J(0℃)以上であることがより好ましく、0.80J(0℃)以上であることがよりより好ましく、0.90J(0℃)以上であることが更に好ましい。衝撃強度は、積層フィルムを0℃に状態調整された恒温室内で、サンプルを4時間保持した後、直径1.5インチの球状の衝撃頭を用いてフィルムインパクト法で測定することにより求められる。
【0066】
本発明の多層フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基材層(A)、第二の中間層(C)、第一の中間層(B)、シール層(D)に用いる各樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で(A)/(C)/(B)/(D)の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。特に、第二の中間層(C)を設ける場合は、第二の中間層(C)で用いるポリエチレン系樹脂は、その他の層で使用する環状ポリオレフィン系樹脂との軟化点(融点)の差が大きいため、相分離やゲルを生じることがある。このような相分離やゲルの発生を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0067】
本発明の多層フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形も可能となる。
【0068】
さらに、印刷インキとの接着性や、ラミネート用シーラントフィルムとして使用する場合のラミネート適性を向上させるため、前記基材層(A)に表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の表面凹凸処理を挙げることができるが、好ましくはコロナ処理である。
【0069】
本発明の多層フィルムからなる包装材としては、食品、薬品、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。中でも、本発明の多層フィルムはアルコール透過を抑制できることから、多層フィルムを用いて密閉した包装体の内部にアルコール揮散剤封入して使用することが好ましい。このような包装体としては、アルコール透過抑制フィルムを袋状にして密閉した包装袋や、容器の蓋等が挙げられる。本発明の多層フィルムを用いてアルコール揮散剤を封入することにより、食品寿命をより延長することができる。
【0070】
前記包装袋は、本発明の多層フィルムのシール層(D)をヒートシール層として、シール層(D)同士を重ねてヒートシール、あるいは基材層(A)とシール層(D)とを重ね合わせてヒートシールすることにより形成した包装袋であることが好ましい。例えば当該多層フィルム2枚を所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をヒートシールして袋状にした後、ヒートシールをしていない1辺から内容物を充填しヒートシールして密封することで包装袋として用いることができる。さらには自動包装機によりロール状のフィルムを円筒形に端部をシールした後、上下をシールすることにより包装袋を形成することも可能である
【0071】
また、シール層(D)とヒートシール可能な別のフィルムを重ねてヒートシールすることにより包装袋・容器を形成することも可能である。その際、使用する別のフィルムとしては、比較的機械強度の弱いLDPE、EVA等のフィルムを用いることができる。また、LDPE、EVA等のフィルムと、比較的引き裂き性の良い延伸フィルム、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等とを貼り合わせたラミネートフィルムも用いることができる。
【0072】
本発明の多層フィルムは、他の基材と貼りあわせても使用できる。この時使用することができる他の基材としては、特に限定されるものではないが、本発明の効果を容易に発現させる観点から、高剛性、高光沢を有するプラスチック基材、特には二軸延伸された樹脂フィルムを用いることが好ましい。また透明性を必要としない用途の場合はアルミ箔を単独あるいは組み合わせて使用することもできる。
【0073】
延伸された樹脂フィルムとしては、易引裂き性等の観点から、例えば、二軸延伸ポリエステル(PET)、易裂け性二軸延伸ポリエステル(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリアミド(PA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)を中心層とした共押出二軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をコートした共押出二軸延伸ポリプロピレン等が挙げられる。これらは、単独あるいは複合化して使用しても良い。
【0074】
上記の製造方法によって得られた多層フィルムに前記基材を積層し、ラミネートフィルムとする場合の積層方法としては、例えば、ドライラミネーション、ウェットラミネーション、ノンソルベントラミネーション、押出ラミネーション等の方法が挙げられる。
【0075】
前記ドライラミネーションで用いる接着剤としては、例えば、ポリエーテル-ポリウレタン系接着剤、ポリエステル-ポリウレタン系接着剤等が挙げられる。また各種の粘着剤を使用することもできるが、感圧性粘着剤を用いることが好ましい。感圧性粘着剤としては、例えば、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、これらの混合物をベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤に溶解したゴム系粘着剤、或いは、これらゴム系粘着剤にアビエチレン酸ロジンエステル、テルペン・フェノール共重合体、テルペン・インデン共重合体などの粘着付与剤を配合したもの、或いは、2-エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸n-ブチル共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体などのガラス転移点が-20℃以下のアクリル系共重合体を有機溶剤で溶解したアクリル系粘着剤などを挙げることができる。
【0076】
(実施例1)
基材層(A)、第一の中間層(B)及びシール層(D)の各層を形成する樹脂成分として、各々下記の樹脂を使用して、各層を形成する樹脂混合物を調整した。各層を形成する樹脂混合物を3台の押出機に各々供給し、基材層(A)/第一の中間層(B)/シール層(D)にて形成される積層フィルムの各層の平均厚さが25μm/3μm/7μmとなるように、押出温度250℃でTダイから共押出して、40℃の水冷金属冷却ロールで冷却し、全厚が35μmの積層フィルムを成形した。
【0077】
基材層(A):プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm、MFR8.0g/10min)(以下、HOPP(1)と称する。)50質量部と、プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10min)(以下、COPP(1)と称する。)50質量部との混合物。
第一の中間層(B):ノルボルネン系共重合体(密度1.010g/cm、MFR7.0g/10min)(以下、COC(1)と称する。)100質量部。
【0078】
シール層(D):直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.935/cm、MFR4.0g/10min(以下、LLDPE(1)と称する。)100質量部。
(実施例2)
基材層(A)、第二の中間層(C)、第一の中間層(B)及びシール層(D)の各層を形成する樹脂成分として、各々下記の樹脂を使用して、各層を形成する樹脂混合物を調整した。各層を形成する樹脂混合物を4台の押出機に各々供給し、基材層(A)/第二の中間層(C)/第一の中間層(B)/シール層(D)にて形成される積層フィルムの各層の平均厚さが8μm/17μm/3μm/7μmとなるように、押出温度250℃でTダイから共押出して、40℃の水冷金属冷却ロールで冷却し、全厚が35μmの積層フィルムを成形した。
【0079】
基材層(A):実施例1の基材層(A)と同じ。
【0080】
第二の中間層(C):LLDPE(1)65質量部と、高密度ポリエチレン(密度0.960g/cm、MFR8.0g/10min)(以下、HDPE(1)と称する。)35質量部との混合物。
第一の中間層(B):実施例1の第一の中間層(C)と同じ。
シール層(D):実施例1の第一の中間層(C)と同じ。
【0081】
(比較例1)
基材層(A)に使用する樹脂混合物の樹脂成分を下記とした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0082】
基材層(A):LLDPE(1)65質量部と、HDPE(1)35質量部との混合物。
【0083】
(比較例2)
基材層(A)、第一の中間層(B)、及びシール層(D)に使用する樹脂混合物の樹脂成分を下記として、基材層(A)/第一の中間層(B)/シール層(D)にて形成される積層フィルムの各層の平均厚さが6μm/24μm/5μmとなるように共押出しした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。
【0084】
基材層(A):HOPP(1)100質量部。
【0085】
第一の中間層(B):プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10min)(以下、HOPP(2)と称する。)85質量部と、直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.905g/cm、MFR4.0g/10min)(以下、LLDPE(2)と称する。)15質量部との混合物。
【0086】
シール層(D):プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR8.0g/10min)(以下、COPP(2)と称する。)100質量部。
(比較例3)
基材層(A)、第二の中間層(C)、第一の中間層(B)、及びシール層(D)に使用する樹脂混合物の樹脂成分を下記として、基材層(A)/第二の中間層(C)/第一の中間層(B)/シール層(D)にて形成される積層フィルムの各層の平均厚さが12μm/7μm/12μm/4μmとなるように共押出しした以外は実施例2と同様にして積層フィルムを得た。
【0087】
基材層(A):COC(1)50質量部と、ノルボルネン系共重合体(密度1.020g/cm、MFR8.0g/10min)(以下、COC(2)と称する。)50質量部。
【0088】
第二の中間層(C):LLDPE(1)100質量部。
【0089】
第一の中間層(B):比較例3の基材層(A)と同じ。
【0090】
シール層(D):LLDPE(1)30質量部と、LLDPE(2)70質量部。
【0091】
[アルコール保持性]
実施例及び比較例にて得られたフィルムを用いて、A4サイズの半分、内容積100ccの三方シールの包装袋を作製した。続いて、PETバック(2L)中に50~60ppmのエタノールガスを調整し、各包装袋中に該エタノールガス100ccを投入した後、封入口をニトフロン(登録商標)テープで封じ、指定条件下で放置した。それぞれ1日後、3日後、6日後の封入ガス中のエタノール濃度をGC法で調査した。
[耐衝撃性]
実施例及び比較例にて得られたフィルムを、0℃下に調整した恒温室内で4時間静置した。その後、テスター産業製BU-302型フィルムインパクトテスターを用いて、振り子の先端に1.5インチのヘッドを取り付け、フィルムインパクト法による衝撃強度を測定した。
【0092】
[剛性の測定]
実施例及び比較例にて得られたフィルムを、23℃における1%接線モジュラス(単位:MPa)を、ASTM D-882に基づき、テンシロン引張試験機〔株式会社エー・アンド・デー製〕を用いて測定した。測定はフィルム製造時の押出方向(以下、「MD」という)及びフィルム幅方向(以下、「CD」という)にて実施した。
【0093】
[透明性]
実施例及び比較例にて得られたフィルムの曇り度を、JIS K7105に基づきヘーズメーター(日本電飾工業株式会社製)を用いて測定した(単位:%)。透明性は下記基準にて評価した。
【0094】
上記で得られた結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
上記表から明らかなとおり、実施例1及び2の本発明の多層フィルムは、基材層(A)がポリプロピレン系樹脂を主成分としない比較例1や、一般的に使用されているオレフィン系樹脂である比較例2に比べて、耐衝撃性、剛性、透明性について実用性に問題ない性能を維持した状態で、アルコール透過を抑制することができた。ポリエチレン系樹脂を主成分とする第二の中間層を設けた実施例2は、アルコール透過を実施例1と同等に抑制することができ、且つ、耐衝撃性に優れ、更に剛性、透明性のバランスも優れる結果となった。比較例3はアルコール透過抑制効果は高いものの、耐衝撃性が劣るものであった。