(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、並びこれを用いた二軸延伸フィルムおよび積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20230111BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230111BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20230111BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230111BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20230111BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20230111BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L101/00
C08L27/12
C08L21/00
C08L33/02
C08L25/08
B32B15/08
(21)【出願番号】P 2022514558
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046419
(87)【国際公開番号】W WO2022149427
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2021001343
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】小橋 一範
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓介
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/225694(WO,A1)
【文献】特開2008-280508(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220882(WO,A1)
【文献】特開2009-179766(JP,A)
【文献】特開2017-179041(JP,A)
【文献】特開2014-189573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、含フッ素系樹脂(B)と、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)を原料とする、連続相および分散相を有する樹脂組成物であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を含み、
前記分散相の平均分散径が0.5~7μmであり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)
、およびシランカップリング剤の合計量100質量%中、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の配合割合が51~95質量%であり、
前記分散相が、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、およびシランカップリング剤の合計量100質量%中、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する含フッ素系樹脂である含フッ素系樹脂(B)を含み、含フッ素系樹脂(B)の配合量の割合が
10~40質量%であり、
前記熱可塑性樹脂(C)がポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである熱可塑性樹脂(C)を含み、熱可塑性樹脂(C)の配合割合が1~40質量%であり、
樹脂組成物中にカルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であるシランカップリング剤を、0.01~5質量%含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
更に、反応性基が付与された変性エラストマー(D)を含有した請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性エラストマー(D)がエポキシ基、酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するオレフィン系重合体からなる、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性エラストマー(D)の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、
変性エラストマー(D)及びシランカップリング剤の合計100質量%に対して、1~15質量%の範囲である請求項2または3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
更に、スチレンー(メタ)アクリル酸共重合体(E)を含有した請求項1~4いずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(E)の配合量
の割当が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)、スチレンー(メタ)アクリル酸共重合体(E)、及びシランカップリング剤の合計100質量%に対して、0.5~10質量%の範囲である請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を二軸延伸してなる、二軸延伸フィルム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する二軸延伸積層フィルム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の二軸延伸フィルムまたは二軸延伸積層フィルムと、前記二軸延伸フィルムまたは二軸延伸積層フィルムの少なくとも一方の面に配置される金属層と、を含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製膜・延伸性に優れ、低誘電率であり、金属との接着性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、並びこれを用いた二軸延伸フィルムおよび積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)の分野では、クラウドやIoT(Internet of Things)などの発展、自動車の自動運転化の技術の向上、電気自動車、ハイブリッド車の発展に伴い、大量のデータ処理や高速かつ損失のなく伝送できるケーブルやアンテナが求められている。しかし、従来、FPC基材にはポリイミド(PI)フィルム、FCC基材にはポリエステルフィルム(PETフィルム等)が用いられており、次世代の高速伝送に対応できる誘電特性を有しているとはいえない。
【0003】
ところで、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド系樹脂を用いたフィルムは、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性に優れるため、コンデンサーやモーターの絶縁材料、耐熱テープに用いられている。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、PIやPETに比べ誘電特性に優れることから、FPCやFFCの分野等に好適に適用され得る。しかし、次世代の高速伝送に対応するには、更なる低誘電率、低誘電正接化が必要である。また、FCCL、FPC基材フィルムとして用いるには加熱による銅等の金属との接着性が必要となる
【0004】
これを改善するものとして、例えば、特許文献1には、PPS樹脂に無機粒子を含有させ、二軸延伸時に空孔を形成する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載のフィルムでは、低誘電率化する効果は十分得られるが、空孔が存在する事によりフィルムの機械物性が低下する。そのため、表層に無機粒子を含有しない層を積層させているが、十分な機械強度が得られない。また、積層化させる必要があり、積層体の延伸では、層間の接着性や延伸性の一致が重要であり、生産上の観点から非常に難しい傾向にある。また、FCCL、FPC基材フィルムとして用いるには加熱による銅等の金属との十分な接着性が得られない。
【0005】
また、PPS樹脂とフッ素樹脂の優れた特性を両立させるために、両樹脂を配合する試みが幾つか報告されている。例えば、特許文献2には、PPS樹脂と官能基を含有するフッ素樹脂からなる樹脂組成物で滞留前後の分散粒子径の安定化を図った樹脂組成物が提案されている。しかしながら、これら特許に記載された提案は、射出成形用途を主目的に提案されたもので、低誘電率化した二軸延伸フィルムとしての記載も何ら記載されておらず、フィルム物性に影響をおよぼす、フィルム中での分散相の分散径に関する記載、また、金属との接着に関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-83415号公報
【文献】特開2015-110732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、連続押出製膜性、延伸性に優れ、得られる二軸延伸フィルムにおいて低誘電率で、優れた金属との接着性を有する事のできる樹脂組成物、およびかかるフィルムを使用した積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく誠意検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、含フッ素系樹脂(B)、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)からなる樹脂組成物を用いる事で、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)~(11)に関する。
【0009】
(1)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を主成分として、含フッ素系樹脂(B)と、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)を原料とする、連続相および分散相を有する樹脂組成物であり、
前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を含み、
前記分散相が、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)を含むポリアリーレンスルフィド系樹脂組成物に関する。
(2)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が51~95質量%である(1)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(3)前記分散相である含フッ素系樹脂(B)とガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)の平均分散径が0.5μm~7μmである(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記含フッ素系樹脂(B)が、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する含フッ素系樹脂である、(1)~(3)いずれかに記載の樹脂組成物。
(5)前記含フッ素系樹脂(B)の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)の合計量100質量%に対して、5~49質量%である(1)~(3)いずれかに記載の樹脂組成物。
(6)前記ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)がポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである(1)~(5)いずれかに記載の樹脂組成物。
(7)前記ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)の合計量100質量%に対して、1~40質量%である(1)~(6)いずれかに記載の樹脂組成物。
(8)更に、反応性基が付与された変性エラストマー(D)を含有した(1)~(7)いずれかに記載の樹脂組成物。
(9)前記変性エラストマー(D)がエポキシ基、酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するオレフィン系重合体からなる、(8)に記載の樹脂組成物。
(10)前記変性エラストマー(D)の配合量の割合が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)及び変性エラストマー(D)の合計100質量%に対して、1~15質量%の範囲である(8)または(9)に記載の樹脂組成物。
(11)更に、スチレンー(メタ)アクリル酸共重合体(E)を含有した(1)~(10)いずれかに記載の樹脂組成物。
(12)前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(E)の配合量が、0.5~10質量%の範囲である(11)記載の樹脂組成物。
(13)(1)~(12)のいずれかに記載の樹脂組成物を二軸延伸してなる、二軸延伸フィルム。
(14)(1)~(12)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する二軸延伸積層フィルム。
(15)(13)または(14)に記載の二軸延伸フィルムまたは二軸延伸積層フィルムと、前記二軸延伸フィルムまたは二軸延伸積層フィルムの少なくとも一方の面に配置される金属層と、を含む積層体。
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、連続押出製膜性、延伸性に優れ、得られる二軸延伸フィルムが低誘電特性及び優れた金属との接着性を有する事のできる樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0012】
[樹脂組成物]
樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「PAS樹脂」と称することがある)を主成分として、含フッ素系樹脂と、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂を原料とする。この際、前記樹脂組成物は、連続相および分散相を有し、この際、前記連続相が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含み、前記分散相が、含フッ素系樹脂と、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)を含む。
【0013】
分散相の平均分散径は、0.5~7μmであり、好ましくは0.5~5μm以下であり、さらに好ましくは0.5~3μmである。分散相の平均分散径が0.5~7μmの範囲内であれば、フィルム物性を維持し、金属との接着性に優れた、均一な延伸フィルムを得ることができる。なお、本発明細書において、「分散相の平均分散径」は実施例に記載の方法で測定された値を採用するものとする。
【0014】
[ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)]
ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)(PAS系樹脂(A))は、樹脂組成物の主成分であり、フィルムに優れた耐熱性、耐薬品性、誘電特性を付与する機能を有する成分である。
PAS系樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造(具体的には、下記式(1)で表される構造)を繰り返し単位として含む重合体である。
【0015】
【化1】
(上記式中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表し、nは、それぞれ独立して、1~4の整数である。)
【0016】
ここで、式(1)で表される構造中のR1は、いずれも水素原子であることが好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の機械的強度をより高めることができる。R1がいずれも水素原子である式(1)で表される構造としては、下記式(2)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してパラ位で結合する構造)、および下記式(3)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してメタ位で結合する構造)が挙げられる。
【0017】
【化2】
これらの中でも、式(1)で表される構造は、式(2)で表される構造であることが好ましい。式(2)で表される構造を有するPAS系樹脂(A)であれば、耐熱性や結晶性をより向上させることができる。
【0018】
また、PAS系樹脂(A)は、上記式(1)で表される構造のみならず、下記式(4)~(7)で表される構造を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0019】
【0020】
式(4)~(7)で表される構造は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、30モル%以下含まれることが好ましく、10モル%以下含まれることがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の耐熱性や機械的強度をより高めることができる。
また、式(4)~(7)で表される構造の結合様式としては、ランダム状、ブロック状のいずれであってもよい。
【0021】
また、PAS系樹脂(A)は、その分子構造中に、下記式(8)で表される3官能性の構造、ナフチルスルフィド構造等を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0022】
【0023】
式(8)で表される構造、ナフチルスルフィド構造等は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、1モル%以下含まれることが好ましく、実質的には含まれないことがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)中における塩素原子の含有量を低減することができる。
また、PAS系樹脂(A)の特性は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されないが、その300℃における溶融粘度(V6)は、100~2000Pa・sであることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、120~1600Pa・sであることがより好ましい。
【0024】
さらに、PAS系樹脂(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いた測定において、分子量25,000~40,000の範囲にピークを有し、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率(Mw/Mn)が5~10の範囲にあり、かつ、非ニュートン指数が0.9~1.3の範囲にあることが特に好ましい。かかるPAS系樹脂(A)を用いることにより、フィルムの機械的強度を低下させることなく、PAS系樹脂(A)自体における塩素原子の含有量を500~2,000ppmの範囲にまで低減でき、ハロゲンフリーの電子・電気部品用途への適用が容易となる。
【0025】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値を採用する。なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定条件]
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製SSC-7000)
カラム :UT-805L(昭和電工社製)
カラム温度:210℃
溶媒 :1-クロロナフタレン
測定方法 :UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正に
用いて分子量分布とピーク分子量を測定する。
【0026】
PAS系樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、1)硫黄と炭酸ソーダの存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法等が挙げられる。これらの製造方法の中でも、上記2)の方法が汎用的であり好ましい。
なお、反応の際には、重合度を調節するために、カルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加してもよい。
【0027】
上記2)の方法の中でも、次の2-1)の方法または2-2)の方法が特に好ましい。
2-1)の方法では、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に、含水スルフィド化剤を、水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させる際に、反応系内の水分量を、有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(特開平07-228699号公報参照)。
2-2)の方法では、固形のアルカリ金属硫化物および非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物と、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物および有機酸アルカリ金属塩とを反応させる際に、有機酸アルカリ金属塩の量を硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲にコントロールすること、および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(WO2010/058713号パンフレット参照)。
【0028】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、および上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられる。
また、ポリハロゲノ芳香族化合物としては、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。
なお、上記化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0029】
重合工程により得られたPAS系樹脂(A)を含む反応混合物の後処理方法には、公知慣用の方法が用いられる。かかる後処理方法としては、特に限定されないが、例えば、次の(1)~(5)の方法が挙げられる。
【0030】
(1)の方法では、重合反応終了後、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過および乾燥する。
(2)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS系樹脂(A)に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS系樹脂(A)や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する。
(3)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて攪拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥する。
(4)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄のときに酸を加えて酸処理し、乾燥する。
(5)の方法では、重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに水洗浄、濾過および乾燥する。
【0031】
上記(4)の方法で使用可能な酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、モノクロロ酢酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。
また、水素塩としては、例えば、硫化水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。ただし、実機での使用においては、金属部材への腐食が少ない有機酸が好ましい。
なお、上記(1)~(5)の方法において、PAS系樹脂(A)の乾燥は、真空中で行ってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0032】
特に、上記(4)の方法で後処理されたPAS系樹脂(A)は、その分子末端に結合する酸基の量が増加することで、含フッ素系樹脂(B)、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)やスチレンー(メタ)アクリル酸共重合体(E)と混合する場合、それらの分散性を高める効果が得られる。酸基としては、特に、カルボキシル基であることが好ましい。
樹脂組成物中における主成分としてのPAS系樹脂(A)の含有量は、51~95質量%であればよいが、60~90質量%であることが好ましい。PAS系樹脂(A)の含有量が上記範囲であれば、PAS樹脂本来の耐熱性および耐薬品性をフィルムに付与する事ができ、延伸性も維持する事ができる。なお、本発明において主成分とするということは、当該樹脂組成物を形成するために用いる樹脂成分の全質量に対し、50質量%以上で当該特定の樹脂を含有することを言うものであり、好ましくは60質量%以上で含有することを言うものである。
【0033】
[含フッ素系樹脂(B)]
含フッ素系樹脂(B)の構造は、特に限定されるものでは無いが、少なくとも1種のフルオロオレフィン単位から構成される。例えば、テトラフルオロエチレン重合体や、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとの共重合体、更には、エチレン、プロピレン、ブテン、アルキルビニルエーテル類等のフッ素を含まない非フッ素エチレン系単量体との共重合体も挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。中でも、溶融押出性が容易である点からエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
【0034】
含フッ素系樹脂(B)の中でも官能基を有する含フッ素系樹脂(B)が好ましい。官能基を有する含フッ素系樹脂(B)としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。これらの反応性官能基が2種以上含まれても良い。中でも、PAS系樹脂(A)との反応性に優れる点からカルボニル基含有基が好ましい。カルボニル基含有基としては、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基、ポリフルオロアルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0035】
官能基を有する含フッ素系樹脂(B)の反応性官能基を導入する方法としては、(1)重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂の主鎖を製造する際に、反応性官能基を有するモノマーを使用する。(2)反応性官能基を有するラジカルを発生する連鎖移動剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(3)反応性官能基を有するラジカルを発生する重合開始剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(4)フッ素樹脂を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられる。(5)フッ素樹脂に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0036】
反応性官能基含有単量体としては、カルボニル基含有基を有する単量体、エポキシ基含有単量体、ヒドロキシ基含有単量体、イソシアネート基含有単量体等が挙げられる。
【0037】
カルボキシル基含有基を有する単量体としては、不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、5-ノルボルネン-2、3-ジカルボン酸、マレイン酸)、それらの不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸)、ビニルエステル(酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル)等が挙げられる。
【0038】
ヒドロキシ基含有単量体としては、ヒドロキシ基含有ビニルエステル、ヒドロキシ基含有ビニルエーテル、ヒドロキシ含有アリルエーテル、ヒドロキシ含有(メタ)アクリレート、クロトン酸ヒドロキシエチル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0039】
エポキシ基含有単量体としては、不飽和グリシジルエーテル(アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル(アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)が挙げられる。
【0040】
イソシアネート基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
官能基を有する含フッ素系樹脂(B)中に含まれる反応性官能基量は、官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。反応性官能基量が前記範囲内であれば、PAS樹脂との反応性に優れ、流動性の悪化も抑制できる。
【0042】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)の融点は、特に限定されるものではないが、170℃~320℃であり、180℃~310℃が好ましく、190℃~300℃がより好ましい。含フッ素系樹脂(B)の融点が前記範囲内であれば、耐熱性の維持と良好な溶融押出安定性が得られる。
【0043】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、110℃以下であり、100℃以下がより好ましい。前記のガラス転移温度を有する含フッ素系樹脂(B)であれば、PAS系樹脂(A)との混合後の延伸において、PAS系樹脂(A)の延伸温度で含フッ素系樹脂(B)の分散相も延伸されるため、連続相であるPAS系樹脂(A)と分散相である含フッ素系樹脂(B)との界面での剥離を抑える事ができる。それにより、延伸時の破断が抑制でき、更には、優れた機械物性を有するフィルムを得る事ができる。
【0044】
樹脂組成物中における含フッ素系樹脂(B)の含有量は、5~49質量%であればよいが、10~40質量%であることが好ましい。含フッ素系樹脂(B)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの誘電特性(低誘電率化)の改善効果がより顕著に発揮される。
【0045】
本発明では、含フッ素系樹脂(B)と共に反応性官能基を含有する含フッ素系樹脂を併用することも可能である。
【0046】
[含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)]
本発明の含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)(以下、「熱可塑性樹脂(C)」と称することがある。)は、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂であれば良い。ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の熱可塑性樹脂(C)であれば、本発明の樹脂組成物から得られる延伸フィルムと金属との接着に際し、PPS樹脂の融点以下で延伸フィルムと金属を熱接着させることができる。PPS樹脂の融点以下での熱接着のため、延伸フィルムを変形させずに接着が可能となる。また、前記の熱特性の熱可塑性樹脂であれば、PPS樹脂の耐熱性を維持することができる。
【0047】
含フッ素系樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂(C)としては、ガラス転移温度140℃以上、若しくは融点270℃以下の含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂であれば良いが、例えば、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルフォン、ポリエーテルイミド等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも1種を含むブレンド物を用いることができる。中でも、低誘電特性、PASとの混合性の観点からポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0048】
本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(C)は、中でもポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、「PPE系樹脂」と称することがある。)が好ましく用いられる。
PPE系樹脂は、下記式(9)で表される構造を繰り返し単位として含む重合体である。
【0049】
【0050】
上記式中、R2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7の第一級アルキル基、炭素数1~7の第二級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基であり、mは、それぞれ独立して、1~4の整数である。
【0051】
PPE系樹脂の具体例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエ-テル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等の単重合体、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール)との共重合体等が挙げられる。
これらの中でも、PPE系樹脂としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体であることが好ましく、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)であることがより好ましい。
【0052】
PPE系樹脂の数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、1,500~50,000であることがより好ましく、1,500~30,000であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の樹脂組成物中における熱可塑性樹脂(C)の含有量は、1~40質量%であればよいが、5~35質量%であることが好ましい。熱可塑性樹脂(C)の含有量が上記範囲であれば、延伸フィルムの物性を維持し、金属との密着性の改善効果がより顕著となる。
【0054】
[変性エラストマー(D)]
変性エラストマー(D)は、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)の少なくとも一種と反応可能な反応性基を有することにより、フィルムの機械的強度(耐折強度等)を向上させる機能を有する成分である。
変性エラストマー(D)が有する反応性基としては、エポキシ基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ基であることがより好ましい。これらの反応性基は、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)が有する分子末端の官能基と迅速に反応可能である。
【0055】
かかる変性エラストマー(D)としては、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位とを含む共重合体、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位と、アクリル酸エステルに基づく繰り返し単位とを含む共重合体等が挙げられる。
【0056】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。
また、官能基を有するビニル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸およびそのエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸、そのモノまたはジエステル、その酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸、そのエステルおよびその酸無水物、α,β-不飽和グリシジルエステル等が挙げられる。
【0057】
α,β-不飽和グリシジルエステルとしては、特に限定されないが、下記式(10)で表される化合物等が挙げられる。
【0058】
【0059】
上記式中、R3は、炭素数1~6のアルケニル基である。
炭素数1~6のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1,1-ジメチル-1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0060】
R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基である。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,4-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられる。
【0061】
α,β-不飽和グリシジルエステルの具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、グリシジルメタクリレートであることが好ましい。
変性エラストマー(D)中に占めるα-オレフィンに基づく繰り返し単位の割合は、50~95質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。α-オレフィンに基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、フィルムの延伸均一性、耐折強度等を向上することができる。
また、変性エラストマー(D)中に占める官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の割合は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、目的とする改善効果のみならず、良好な押出安定性が得られる。
【0062】
樹脂組成物中における変性エラストマー(D)の含有量は、1~15質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。変性エラストマー(D)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの誘電特性、耐折強度等の向上効果が顕著に発揮される。
【0063】
[スチレン-メタクリル酸共重合体(E)]
樹脂組成物は、さらにスチレン-メタクリル酸共重合体(E)を含有することが好ましい。スチレン-メタクリル酸共重合体(E)は、流動性と分散相の分散性を高める機能を有する成分である。
また、スチレン-メタクリル酸共重合体(E)は、後述するように相溶化剤としても機能すると本発明者らが考えている変性エラストマー(D)と反応して、PAS系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(C)で中でもポリフェニレンエーテル系樹脂の場合、界面接着性を高め、二軸延伸フィルムの機械的強度(耐折強度等)を向上させる機能も有する。
スチレン-メタクリル酸共重合体(E)は、スチレン系モノマーとメタクリル酸系モノマーとの共重合体である。
【0064】
スチレン系モノマーとしては、特に限定されないが、スチレンおよびその誘導体が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン;フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン;アセチルスチレン;メトキシスチレン等が挙げられる。これらのスチレン系モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸の他、置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。この場合、置換基としては、特に限定されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基等が挙げられる。なお、置換基は、1つのみ有していてもよいし、2以上有していてもよい。置換基を2以上有する場合には、それぞれの置換基は同じであっても異なってもよい。
【0066】
置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-へキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等が挙げられる。中でも、変性エラストマー(D)との相溶性、反応性の観点から、メタクリル酸アルキルエステルは、メタクリル酸であることが好ましい。なお、これらのメタクリル酸系モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
スチレン-メタクリル酸共重合体(E)中に含まれるメタクリル酸に基づく繰り返し単位の含有率は、全繰り返し単位の1~30質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、1~18質量%であることがさらに好ましい。この場合、スチレン-メタクリル酸共重合体(E)にPPE系樹脂(C)および変性エラストマー(D)との良好な相溶性が得られ、二軸延伸フィルムの延伸均一性、耐折強度等をより向上させることができる。
【0068】
スチレン-メタクリル酸共重合体(E)の重合反応には、汎用されているスチレン系モノマーの重合方法を応用することができる。
重合方式は、特に限定はないが、塊状重合、懸濁重合または溶液重合が好ましい。中でも、生産効率のから、重合方式は、特に連続塊状重合が好ましい。例えば、1個以上の攪拌式反応器と、可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器とを組み込んだ装置を用いて、連続塊状重合を行うことにより、特性に優れたスチレン-メタクリル酸共重合体(E)を得ることができる。
なお、重合開始剤を使用せずに熱重合させることもできるが、種々のラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。また、重合反応に必要な懸濁剤や乳化剤等の重合助剤は、通常のポリスチレンの製造で使用される化合物を利用することができる。
【0069】
重合反応での反応物の粘性を低下させるために、反応系に有機溶剤を添加してもよい。かかる有機溶剤としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトニトリル、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、ジシナモイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシイシプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類;N,N’-アゾビスイソブチルニトリル、N,N’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N’-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
さらに、得られるスチレン-メタクリル酸共重合体(E)の分子量が過度に大きくなり過ぎないように、反応系に連鎖移動剤を添加してもよい。
連鎖移動剤としては、連鎖移動基を1つ有する単官能連鎖移動剤でも、連鎖移動基を複数有する多官能連鎖移動剤でも使用することができる。
単官能連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸エステル類等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール中のヒドロキシ基をチオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸でエステル化した化合物等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
また、得られるスチレン-メタクリル酸共重合体(E)のゲル化を抑制するために、長鎖アルコールやポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル等も使用することが可能である。
樹脂組成物中におけるスチレン-メタクリル酸共重合体(E)の含有量は、0.5~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることより好ましく、1~5質量%であることが特に好ましい。スチレン-メタクリル酸共重合体(E)の含有量が上記範囲であれば、二軸延伸フィルムの延伸均一性、耐折強度等をより向上させることができる。
【0073】
本発明では、PAS系樹脂(A)と、他の成分(含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)との相溶性(相互作用)を高める機能を有する成分としてシランカップリング剤を使用することが好ましく、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォロジーを形成することができる。
【0074】
シランカップリング剤は、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であることが好ましい。かかるシランカップリング剤は、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)及び含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)、スチレン-メタクリル酸共重合体(E)のいづれかと反応することで、これらと強固に結合する。その結果、シランカップリング剤の効果がより顕著に発揮され、PAS系樹脂(A)中における含フッ素系樹脂(B)及び含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)の分散性を特に高めることができる。
【0075】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基または水酸基を有する化合物が挙げられる。
シランカップリング剤の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0076】
樹脂組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.05~2.5質量%であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記範囲であれば、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性を向上する効果が顕著に発揮される。
【0077】
[スチレン系樹脂]
樹脂組成物は、スチレン系樹脂を含んでいてもよい。スチレン系樹脂は、原則として樹脂組成物の分散相に含まれる。なお、スチレン系樹脂は、特にポリフェニレンエーテル系樹脂と相溶性が高いことから、ポリフェニレンエーテル樹脂と相溶、またはこれに近い形で含まれうる。前記スチレン系樹脂は、溶融時の流動性を向上させる機能を有する。なお、本明細書において、「スチレン系樹脂」とは、上述のスチレン-メタクリル酸共重合体以外のものであって、スチレン系モノマーを主要なモノマー単位とする樹脂を意味する。
【0078】
前記スチレン系樹脂としては、特に制限されないが、スチレン系モノマーの重合体が挙げられる。この際、前記スチレン系モノマーとしては、上述したものが用いられうる。
【0079】
スチレン系樹脂は、スチレン系モノマーの単独重合体であってもよいし、2種以上を共重合してなる共重合体であってもよい。例えば、グリシジル基及び、又はオキサゾリン基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体、スチレンモノマーと共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体およびこのブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体が挙げられる。また、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体等のゴム成分を用いてゴム変性スチレン(ハイインパクトスチレン)とであっても良い。
【0080】
なお、上述のスチレン系樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
[添加剤]
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、導電剤等を含有してもよい。
【0082】
<樹脂組成物及び製造方法>
樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)、変性エラストマー(D)、スチレン-(メタ)アクリル酸(E)、および必要に応じてその他の成分をタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられ、この溶融混錬は剪断流動場での混錬、伸長流動場での混錬のいづれか一方、若しくは、両方であってもよい。この溶融混練は、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~0.2(kg/hr・rpm)となる条件で行うことが好ましい。
【0083】
混合時の設定温度は、PAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)のうち融点が高い方の樹脂の融点より+5~70℃の範囲が選択され、+10~50℃の範囲がより好ましい。設定温度がPAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)の融点より低い場合には、部分的に融解しないPAS系樹脂(A)または含フッ素系樹脂(B)の存在により、組成物の粘度が大幅に上昇し、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性上好ましくない。
更に詳述すれば、各成分を二軸押出機内に投入し、前記設定温度でストランドダイでの樹脂温度310℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が好ましい。この際、混練物の吐出量は、回転数250rpmで5~50kg/hrの範囲となる。特に各成分の分散性を高める観点からは、混練物の吐出量は、回転数250rpmで20~35kg/hrであることが好ましい。よって、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、0.08~0.14(kg/hr・rpm)であることがより好ましい。
【0084】
<フィルム>
以上のような樹脂組成物から本発明のフィルムが形成される。
かかるフィルムの一実施態様では、PAS系樹脂(A)をマトリックス(連続相)として、このマトリックス中に含フッ素系樹脂(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む粒子(分散相)が分散している。
なお、変性エラストマー(D)は、含フッ素系樹脂(B)若しくは熱可塑性樹脂(C)の粒子の表面(すなわちマトリックスと粒子との界面)、含フッ素系樹脂(B)若しくは熱可塑性樹脂(C)の粒子内、または含フッ素系樹脂(B)、熱可塑性樹脂(C)の粒子と別の粒子(分散相)として存在する。
【0085】
また、本発明者らは、変性エラストマー(D)は、PAS系樹脂(A)と含フッ素系樹脂(B)及び熱可塑性樹脂(C)との相溶化剤としても機能することにより、粒子がマトリックス中に微分散化することで、フィルムの機械的強度が向上するものと考えている。さらに、本発明者らは、シランカップリング剤との併用により、変性エラストマー(D)を介したマトリックスと粒子との界面の接着性がより向上し、フィルムの機械的強度がさらに向上するものとも考えている。
【0086】
フィルムは、樹脂組成物から得られたシートを二軸延伸してなる二軸延伸フィルムであることが好ましい。
二軸延伸フィルムとすれば、マトリックスを構成するPAS系樹脂(A)は、その分子鎖が伸張された状態で結晶化するため、寸法精度の高いフィルムを得ることができる。
【0087】
二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2.0~3.8倍であることがより好ましい。
また、二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2.0~3.8倍であることがより好ましい。
なお、二軸延伸フィルムの長手方向(MD方向)の延伸倍率に対する二軸延伸フィルムの幅方向(TD方向)の延伸倍率の比(幅方向(TD方向)/(長手方向(MD方向))は、0.8~1.3であることが好ましく、長手方向の物性と幅方向の物性とをバランスさせ易いことから、0.9~1.2であることがより好ましい。
【0088】
<二軸延伸フィルムの製造方法>
二軸延伸フィルムは、例えば、次のようにして製造される。
まず、樹脂組成物を140℃で3時間以上で乾燥した後、280~320℃に加熱された押出機に投入する。
その後、押出機を経た溶融状態の樹脂組成物(すなわち混練物)をTダイにてシート(フィルム)状に吐出させる。
次いで、シート状の混練物を、表面温度20~50℃の冷却ロールに密着させて冷却固化する。これにより、無配向状態の未延伸シートを得る。
【0089】
次に、未延伸シートを二軸延伸する。延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、またはこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
逐次二軸延伸法により二軸延伸をする場合には、例えば、得られた未延伸シートを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に1.5~4倍(好ましくは2.0~3.8倍)に、1段または2段以上の多段で延伸した後、30~60℃の冷却ロール群で冷却する。
なお、延伸温度は、PAS系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)~Tg+40℃であることが好ましく、Tg+5℃~Tg+30℃であることがより好ましく、Tg+5℃~Tg+20℃であることがさらに好ましい。
【0090】
次に、テンターを用いる方法により幅方向(TD方向)に延伸する。MD方向に延伸させたフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、TD方向の延伸を行う。
なお、延伸倍率は、1.5~4倍であることが好ましく、2.0~3.8倍であることがより好ましい。
また、延伸温度は、Tg~Tg+40℃であることが好ましく、Tg+5℃~Tg+30℃であることがより好ましく、Tg+5℃~Tg+20℃であることがさらに好ましい。
【0091】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。
熱固定温度は、特に限定されないが、200~280℃であることが好ましく、220~280℃であることがより好ましく、240~275℃であることがさらに好ましい。なお、熱固定は、熱固定温度を変更して2段で実施してもよい。この場合、2段目の熱固定温度を1段目の熱固定温度より+10~40℃高くすることが好ましい。この範囲の熱固定温度で熱固定された延伸フィルムは、その耐熱性、機械的強度がより向上する。
また、熱固定時間は、1~60秒間であることが好ましい。
【0092】
さらに、このフィルムを50~270℃の温度ゾーンで、幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、0.5~10%であることが好ましく、2~8%であることがより好ましく、3~7%であることがさらに好ましい。
【0093】
[積層体]
本発明の積層体は、上述のフィルム(好ましくは二軸延伸フィルム又は二軸延伸積層フィルム)と、このフィルムの少なくとも一方の面側に設けられた金属層とを有する。
金属層の構成材料(金属材料)としては、特に限定されないが、銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ニッケル、またはこれらを含む合金等が挙げられる。
なお、金属層は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。金属層が積層構造である場合、各層は同一の金属材料で構成されても、異なる金属材料で構成されてもよい。
【0094】
一実施形態において、積層体は、金属層-フィルム、金属層-フィルム-金属層、金属層-フィルム-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム-金属層等の構造を有し得る。
なお、金属層を形成する方法としては、金属の真空蒸着、スパッタリング、めっき等による方法が挙げられる。また、フィルムと金属箔とを重ね合わせ、熱溶着させる方法により金属層を形成してもよい。
【0095】
かかる積層体は、フィルムが優れた誘電特性を有するため、次世代の高速伝送に好適なフレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)に加工して使用することができる。
また、延伸均一性に優れる二軸延伸フィルムを使用すれば、積層体は、厚み均一性に優れ、その誘電率のばらつきを抑制することができる。
さらに、フィルムと金属層との間には、例えば、これらの密着性を向上する機能を有する中間層を設けるようにしてもよい。
【0096】
以上、本発明のフィルムおよび積層体について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明のフィルムおよび積層体は、それぞれ、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0097】
次に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
[実施例1]
1.樹脂組成物および二軸延伸フィルムの製造
69.5質量%のポリフェニレンスルフィド樹脂(A)(DIC株式会社製、リニア型、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)110Pa・s)と、20質量%の含フッ素系樹脂(B)(AGC株式会社製、官能基を有する。「AH-2000」、融点240℃)と、10質量%のポリフェニレンエーテル系樹脂(C)(三菱エンジニアリングプラスチックス製、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ガラス転移温度210度)と、0.5質量%の3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランとを、タンブラーで均一に混合して混合物を得た。
【0099】
なお、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その分子末端にカルボキシル基を有している。
以下では、ポリフェニレンスルフィド樹脂を「PPS」と、ポリフェニレンエーテル系樹脂を「PPE」と、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを「シランカップリング剤」と記載する。
【0100】
次に、上記で得られた混合物を、ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、原料供給口側シリンダー設定温度200℃、それ以外のシリンダー設定温度280~320℃、ストランドダイでの樹脂温度300℃程度の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物を製造した。
【0101】
次に、この樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥した後、フルフライトスクリューの単軸押出機に投入して、280~310℃の条件で溶融させた。溶融した樹脂組成物をTダイから押出した後、40℃に設定したチルロールで密着冷却し、未延伸シートを作製した。
次に、作製された未延伸シートを、バッチ式二軸延伸機(株式会社井本製作所製)を用いて100℃で3.0×3.0倍に二軸延伸することで、厚み50μmのフィルムを得た。さらに、得られたフィルムを型枠に固定し、275℃のオーブンにて熱固定処理することで、二軸延伸フィルムを製造した。
【0102】
製造した樹脂組成物中の粒子の平均粒径を、次のようにして測定した。
具体的には製造した二軸延伸フィルムを、超薄切片法で、(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向に切断した。切断されたフィルムの切断面(ア)、(イ)をそれぞれ2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、得られた画像をA3サイズに拡大した。拡大SEM写真の任意の50個の分散相を選択し、破断面(ア)、(イ)のそれぞれの分散相の最大直径を計測し、切断面(ア)と(イ)の2方向分併せて平均径を算出した。
その結果、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径は、1.5μmであった。
【0103】
また、切断された二軸延伸フィルムのSEM-EDS分析を行い、樹脂組成物のマトリックスおよび粒子を構成する成分について分析した。その結果、マトリックスを構成する成分は、PPSであり、粒子を構成する成分は、含フッ素系樹脂、PPE樹脂であることが判った。
【0104】
[実施例2]
含フッ素系樹脂に(B)(AGC株式会社製、「EA-2000」、融点300℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.6μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂、PPE樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0105】
[実施例3]
熱可塑性樹脂(C)にポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス化学社製、ガラス転移温度145℃、以下「PC」と称することがある。)を用いた以外は、実施例2と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.3μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂とPC樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0106】
[実施例4]
熱可塑性樹脂(C)にポリエーテルサルフォン樹脂(BASF株式会社製、ガラス転移温度225℃、以下「PES」と称することがある。)を用いた以外は、実施例2と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.8μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂とPES樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0107】
[実施例5]
含フッ素系樹脂以外の熱可塑性樹脂(C)にポリフェニレンサルフォン樹脂(BASF株式会社製、ガラス転移温度220℃、以下「PPSU」と称することがある。)を用いた以外は、実施例2と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.5μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂とPPSU樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0108】
[実施例6]
PPS樹脂を74.5質量%、EA-2000を20質量%、熱可塑性樹脂(C)にポリエーテルイミド樹脂(SABIC株式会社製、ガラス転移温度216℃、以下「PEI」と称することがある。)5質量%を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物および二軸延伸フィルムを製造した。
なお、実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.9μmであった。
また、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂とPEI樹脂の粒子が分散していることが判った。
【0109】
[実施例7]
PPS樹脂を66.5質量%、EA-2000を20質量%、PPE樹脂を10質量%、反応基を有する変性エラストマーにボンドファースト7L(住友化学社製、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル=70/3/27(質量%)、以下「BF7L」と称することがある。)3質量%、シランカップリング剤を0.5質量%とした以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
なお、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂、PPE樹脂の粒子が分散していることが判った。実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.5μmであった。なお、変性エラストマーは、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスと含フッ素系樹脂の粒子との界面に存在していた。
【0110】
[実施例8]
PPS樹脂を63.5質量%、EA-2000を20質量%、PPE樹脂を10質量%、BF7Lを3質量%、スチレンーメタクリル酸(メタクリル酸量2.5%)を3質量%、シランカップリング剤を0.5質量%とした以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
なお、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物の構成成分について分析した結果、PPSのマトリックス中に、含フッ素系樹脂、PPE樹脂の粒子が分散していることが判った。実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルム中の粒子の平均粒径を測定したところ、1.3μmであった。なお、変性エラストマーは、単独で分散する粒子として存在するか、マットリックスと含フッ素系樹脂の粒子との界面に存在していた。
【0111】
[比較例1]
ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)にPPS樹脂-1を投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、設定温度320℃、ストランドダイでの樹脂温度300℃程度の条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングして樹脂組成物を製造した。次に実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0112】
[比較例2]
PPS樹脂を79.5質量%、EA-2000を20質量%、シランカップリング剤を0.5質量%とした以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0113】
[比較例3]
PPS樹脂を79.5質量%、EA-2000を20質量%、シランカップリング剤を0.5質量%の混合物を、ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入し、原料供給口側シリンダー設定温度280℃、ダイス先端側シリンダー2か所の設定温度300℃、それ以外のシリンダー設定温度240℃の条件で溶融押出した以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0114】
2.評価
2-1.延伸
30枚の二軸延伸時を行い、破断せずに延伸フィルムが得られた成功率。
[評価基準]
◎:90%以上
〇:70%以上
×:70%未満
【0115】
2-2.誘電率
誘電率は、JIS C 2565:1992に規定された空洞共振法に基づいて行った。具体的には、二軸延伸シートから幅2mm×長さ150mmの短冊を作製した。次いで、作製した短冊を23℃、50%Rhの環境下、24hr静置した後、ADMS010cシリーズ(株式会社エーイーティー製)を用いて、空洞共振法にて周波数1GHzの誘電率を測定した。
[評価基準]
〇;誘電率3.2以下
×;誘電率3.2より大きい
【0116】
2-3.接着性
圧延銅箔(厚さ18μm、Rz0.9μm)と延伸フィルムを直接重ね合わせ、熱プレスにて270℃/5MPaの条件で銅箔と延伸フィルムを熱圧着し、試験片を作製した。
接着性は、JIS K 6854:1999に規定された試験方法に基づいて、導体と延伸フィルムとの剥離強度を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:5N/cm以上
○:4N/cm以上5N/cm未満
×:4N/cm未満
【0117】
以上の結果を表1~表3に示す。
【0118】
【0119】
【0120】