(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】Platinum TALENを用いたT細胞受容体の完全置換技術
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230111BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230111BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20230111BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/31 ZNA
C07K14/195
C07K19/00
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2019548192
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2018037590
(87)【国際公開番号】W WO2019073964
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017197010
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018167954
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514286871
【氏名又は名称】Repertoire Genesis株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】一戸 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】本庶 仁子
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 孝和
(72)【発明者】
【氏名】美山 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆二
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515822(JP,A)
【文献】特許第5931022(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/070429(WO,A1)
【文献】特表2016-520320(JP,A)
【文献】特表2015-528298(JP,A)
【文献】無菌生物,2017年09月01日,Vol.47, No.1,p.68
【文献】臨床血液,2017年09月30日,Vol.58, No.9,p.1530
【文献】Methods in Molecular Biology,2016年,Vol.1338,p.61-70
【文献】PNAS,2009年,Vol.106,p.19078-19083
【文献】J. Autoimmun.,2017年05月,Vol.79,p.63-73
【文献】Front. Immunol.,2017年09月21日,Vol.8,1117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、
ここで、該DNA結合ドメインと該機能ドメインは、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数であ
り、前記機能ドメインがDNA切断ドメインであり、前記DNA結合ドメインが、配列番号86のアミノ酸配列、配列番号87のアミノ酸配列、配列番号88のアミノ酸配列、配列番号89のアミノ酸配列、配列番号90のアミノ酸配列、または配列番号91のアミノ酸配列を含む、組成物。
【請求項2】
前記DNA結合ドメインと前記機能ドメインは、40~50のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
該DNA結合ドメインは、34のアミノ酸からなる16~20のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~5の自然数であり、
該DNA結合ドメインの由来は、TALEである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記DNA結合ドメインがTCRα遺伝子またはTCRβ遺伝子に特異的に結合する、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記DNA結合ドメインが、TRAC エクソン1、TRBC1 エクソン1、またはTRBC2 エクソン1に特異的に結合する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記DNA結合ドメインが、配列番号80の核酸配列、配列番号81の核酸配列、配列番号82の核酸配列、配列番号83の核酸配列、配列番号84の核酸配列、または配列番号85の核酸配列に特異的に結合する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリペプチドをコードする前記核酸を含む発現ベクターを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリペプチドをコードする前記核酸を、mRNAの形で含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物を細胞に導入する工程を含む、TCR遺伝子を編集する方法
(但し、ヒト体内で行われる方法を除く)。
【請求項9】
前記DNA結合ドメインがTCRα遺伝子に特異的に結合する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物を細胞に導入する工程と、
前記DNA結合ドメインがTCRβ遺伝子に特異的に結合する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物を細胞に導入する工程と
を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記TCR遺伝子の編集が、内因性TCR遺伝子の除去である、請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
外因性TCR遺伝子を前記細胞に導入する工程をさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記外因性TCRが、NY-ESO-1に対する特異性を有する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸とを含む、TCR遺伝子を編集するための組み合わせ物であって、
ここで、該DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数であ
り、前記機能ドメインがDNA切断ドメインであり、前記DNA結合ドメインが、配列番号86のアミノ酸配列、配列番号87のアミノ酸配列、配列番号88のアミノ酸配列、配列番号89のアミノ酸配列、配列番号90のアミノ酸配列、または配列番号91のアミノ酸配列を含む、組み合わせ物。
【請求項14】
DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドであって、
ここで、該DNA結合ドメインと該機能ドメインは、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数であり、
前記機能ドメインがDNA切断ドメインであり、前記DNA結合ドメインが、配列番号86のアミノ酸配列、配列番号87のアミノ酸配列、配列番号88のアミノ酸配列、配列番号89のアミノ酸配列、配列番号90のアミノ酸配列、または配列番号91のアミノ酸配列を含み、
該DNA結合ドメインがTCRα遺伝子またはTCRβ遺伝子に特異的に結合する、
ポリペプチド。
【請求項15】
前記DNA結合ドメインと前記機能ドメインは、40~50のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
該DNA結合ドメインは、34のアミノ酸からなる16~20のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~5の自然数であり、
該DNA結合ドメインの由来は、TALEである、請求項
14に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記DNA結合ドメインが、TRAC エクソン1、TRBC1 エクソン1、またはTRBC2 エクソン1に特異的に結合する、請求項
14または15に記載のポリペプチド。
【請求項17】
前記DNA結合ドメインが、配列番号80の核酸配列、配列番号81の核酸配列、配列番号82の核酸配列、配列番号83の核酸配列、配列番号84の核酸配列、または配列番号85の核酸配列に特異的に結合する、請求項
14~16のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
請求項
14~17のいずれか1項に記載のポリペプチドの全
部をコードする核酸。
【請求項19】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物または請求項
13に記載の組み合わせ物と、
内因性TCR遺伝子の変異を確認する手段、および/または内因性TCR遺伝子の除去を確認する手段と
を備える、TCR遺伝子を編集するためのキット。
【請求項20】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物または請求項
13に記載の組み合わせ物と、
外因性TCR遺伝子を導入する手段、およ
び遺伝子が導入された細胞を検出する手段と
を備える、TCR遺伝子を編集するためのキット。
【請求項21】
内因性TCR遺伝子を外因性TCR遺伝子で置換するための、請求項
20に記載のキット。
【請求項22】
TCR改変制御性T細胞を製造するための、請求項
19~21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項23】
NY-ESO-1に対する特異性を有する外因性TCRを発現するTCR改変T細胞を製造するための、請求項
20または21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞における生物工学的な操作に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原特異的なT細胞受容体(TCR)遺伝子の導入技術は、悪性腫瘍やウイルス感染症に対するエフェクターT細胞(Teff)の養子移入免疫療法の手段として近年需要が高まっている。しかし、これまでに開発された方法では、T細胞に内在するTCRと導入された新規TCRとの共発現の影響を完全に回避することができない。
【0003】
また、制御性T細胞(Treg)は生体内における免疫応答調節に主要な役割を果たす細胞集団であり、その調節作用は抗原非特異的とされてきたが、近年、特定の自己抗原や同種抗原に反応して免疫制御作用を発揮する抗原特異的Tregの存在が明らかにされている。抗原特異的Tregは、自己免疫疾患のモデルにおいて、従来のTregよりも高い有効性を発揮することが報告されている。しかし、任意の所望の抗原に対して、該抗原に特異的なTregを作製する際に、内因性のTCRとの共発現の影響を防止しながらTregに外因性TCRを導入する技術はこれまで開発されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の1つの局面では、内因性TCR遺伝子を編集するための、ゲノム編集酵素改変TALENまたはそれを含む組成物が提供される。改変TALENによって内因性TCR遺伝子を編集し、切断することによって、内因性TCRを発現しないT細胞を作出することが可能となる。1つの実施形態では、改変TALENとしてPlatinum TALENと称されるTALENを用いる。Platinum TALENは、そのDNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールにおける2つの特定の位置のアミノ酸が、4つのDNA結合モジュールごとに異なる繰り返し様式を呈することを1つの特徴とする。Platinum TALENは、機能ドメインによる機能の高さとDNA配列に対する認識特異性の高さを両立していることを特徴としている。
【0005】
本開示の1つの局面では、本発明の改変TALENを用いて制御性T細胞における内因性TCR遺伝子を除去する工程を含む方法が提供される。例えば、末梢血から分離したTregのTCR遺伝子を改変TALENを用いて切断し、内因性TCRの発現を抑止することができる。本発明の改変TALENは、高い切断効率によって内因性TCRの発現をより完全に抑止することができることに加えて、配列の認識特異性が高いため、T細胞におけるオフターゲットの遺伝子改変による危険性を低く抑えることができる。
【0006】
本開示の1つの局面では、本発明の改変TALENによって内因性TCR遺伝子を除去したTregに、TCR遺伝子を導入する工程を含む方法が提供され得る。本発明の改変TALENは、上記の特性から、TCRの編集と併せて新たなTCRを導入する場合に有用であると考えることができる。これにより、所望抗原特異的に高結合能を示すTCRを発現するTregを作出することができる。
【0007】
1つの局面において、本開示ではTCR遺伝子を編集するための組成物またはキットが提供される。さらなる局面において、TCR改変T細胞を製造するための組成物またはキットが提供される。
【0008】
本開示において、本開示の方法を用いて製造されたT細胞(例えば、制御性T細胞)も提供される。かかる制御性T細胞は、免疫抑制が所望される様々な状況において有用である。例えば、本発明の制御性T細胞を、自己免疫疾患、アレルギー疾患、または移植の際の移植片対宿主病(GVHD)、拒絶反応もしくは生着不全の処置または予防に用いることができる。本開示において、本開示の方法において用いるための物も提供される。
【0009】
本開示の改変TALENはまた、上記の特性から、以下のような特徴を有する方法における使用において有用である。本発明の改変TALENは、T細胞(例えば、制御性T細胞)において、エフェクターT細胞のT細胞レセプター(TCR)を発現させることを特徴とする方法における使用において有用である。1つの実施形態において、本開示の方法は、制御性T細胞にTCR遺伝子の全部または一部を導入する工程であって、TCRαおよびTCRβが対になって発現されるように導入する工程を含む。所望の抗原に反応するエフェクターT細胞において、抗原結合能の高いTCRを同定および/または単離し、T細胞への導入に用いてもよい。本開示の1つの実施形態は、本開示の改変TALENによって内因性のTCRを欠損させた制御性T細胞(Treg)に、所望の抗原に反応するエフェクターT細胞(Teff)から得られた抗原結合能の高いTCRのみを発現させることを1つの特徴とする。抗原結合能の高いTCRの同定は、抗原に特異的なエフェクターT細胞集団に存在するT細胞レセプター(TCR)クローンの頻度に基づいて行うことができる。TCRの同定には、TCRの核酸配列を非バイアス的に増幅するステップを含む、TCRのレパトアを測定する方法を用いることができる。本開示においては、抗原結合能の高いTCRαおよびTCRβの対を同定および/または単離する方法を用いることができる。例えば、所望の抗原に特異的に反応するエフェクターT細胞(Teff)群をHLAテトラマー等を用いて分離し、それらが発現するTCRα鎖・TCRβ鎖の抗原認識領域を含む遺伝子配列を取得することができる。さらに、得られたTCRクロノタイプそれぞれの所望の抗原に対する結合能の評価を行うことができる。
【0010】
例えば、本開示は以下の発明を提供する。
(項目1) DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、
ここで、該DNA結合ドメインと該機能ドメインは、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、組成物。
(項目2) 前記DNA結合ドメインと前記機能ドメインは、40~50のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
該DNA結合ドメインは、34のアミノ酸からなる16~20のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~5の自然数であり、
該DNA結合ドメインの由来は、TALEである、前記項目に記載の組成物。
(項目3) 前記機能ドメインがDNA切断ドメインである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目4) 前記DNA結合ドメインがTCRα遺伝子またはTCRβ遺伝子に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目5) 前記DNA結合ドメインが、TRAC エクソン1、TRBC1 エクソン1、またはTRBC2 エクソン1に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目6) 前記DNA結合ドメインが、配列番号80の核酸配列、配列番号81の核酸配列、配列番号82の核酸配列、配列番号83の核酸配列、配列番号84の核酸配列、または配列番号85の核酸配列に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目7) 前記ポリペプチドをコードする前記核酸を含む発現ベクターを含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目8) 前記ポリペプチドをコードする前記核酸を、mRNAの形で含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目9) 前記項目のいずれかに記載の組成物を細胞に導入する工程を含む、TCR遺伝子を編集する方法。
(項目10) 前記DNA結合ドメインがTCRα遺伝子に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載の組成物を細胞に導入する工程と、
前記DNA結合ドメインがTCRβ遺伝子に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載の組成物を細胞に導入する工程と
を含む、前記項目に記載の方法。
(項目11) 前記TCR遺伝子の編集が、内因性TCR遺伝子の除去である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A1) 外因性TCR遺伝子を前記細胞に導入する工程をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A1-1) 前記導入する工程が、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を介して前記外因性TCR遺伝子を前記細胞のゲノムにノックインすることを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A1-2) 前記導入する工程が、前記外因性TCR遺伝子をコードするベクターを前記細胞に導入することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A2) 前記外因性TCRが、NY-ESO-1に対する特異性を有する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A3) 前記項目のいずれかに記載の方法により作製された、TCR改変T細胞。
(項目A4) 対象においてがんを処置するための、前記項目のいずれかに記載のTCR改変T細胞を含む組成物。
(項目A5) 前記がんが、NY-ESO-1陽性のがんである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目12) DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、
ここで、該DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数であり、
該組成物は、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と組み合わせて用いられることを特徴とする、組成物。
(項目12A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の組成物。
(項目13) 機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と組み合わせて用いられることを特徴とし、
ここで、該DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、組成物。
(項目13A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の組成物。
(項目14) DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸とを含む、TCR遺伝子を編集するための組み合わせ物であって、
ここで、該DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、組み合わせ物。
(項目14A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載の組み合わせ物。
(項目15) DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドであって、
ここで、該DNA結合ドメインと該機能ドメインは、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数であり、
該DNA結合ドメインがTCRα遺伝子またはTCRβ遺伝子に特異的に結合する、
ポリペプチド。
(項目15A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載のポリペプチド。
(項目16) 前記DNA結合ドメインと前記機能ドメインは、40~50のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、
該DNA結合ドメインは、34のアミノ酸からなる16~20のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおける4番目のアミノ酸と32番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、
ここで、nは、1~5の自然数であり、
該DNA結合ドメインの由来は、TALEである、前記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(項目17) 前記機能ドメインがDNA切断ドメインである、前記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(項目18) 前記DNA結合ドメインが、TRAC エクソン1、TRBC1 エクソン1、またはTRBC2 エクソン1に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(項目19) 前記DNA結合ドメインが、配列番号80の核酸配列、配列番号81の核酸配列、配列番号82の核酸配列、配列番号83の核酸配列、配列番号84の核酸配列、または配列番号85の核酸配列に特異的に結合する、前記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(項目20) 前記DNA結合ドメインが、配列番号86のアミノ酸配列、配列番号87のアミノ酸配列、配列番号88のアミノ酸配列、配列番号89のアミノ酸配列、配列番号90のアミノ酸配列、または配列番号91のアミノ酸配列を含む、前記項目のいずれかに記載のポリペプチド。
(項目21) 前記項目のいずれかに記載のポリペプチドの全部または一部をコードする核酸。
(項目22) 前記項目のいずれかに記載の組成物または前記項目のいずれかに記載の組み合わせ物と、
内因性TCR遺伝子の変異を確認する手段、および/または内因性TCR遺伝子の除去を確認する手段と
を備える、TCR遺伝子を編集するためのキット。
(項目23) 前記項目のいずれかに記載の組成物または前記項目のいずれかに記載の組み合わせ物と、
外因性TCR遺伝子を導入する手段、および/または遺伝子が導入された細胞を検出する手段と
を備える、TCR遺伝子を編集するためのキット。
(項目24) 内因性TCR遺伝子を外因性TCR遺伝子で置換するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目25) TCR改変制御性T細胞を製造するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目25A) 前記項目のいずれか1つまたは複数に記載の特徴を有する、前記項目に記載のキット。
(項目B1) NY-ESO-1に対する特異性を有する外因性TCRを発現するTCR改変T細胞を製造するための、前記項目のいずれかに記載のキット。
(項目X) 目的の外因性TCRを含む細胞の細胞集団であって、該細胞集団において、該目的の外因性TCR以外の外因性TCRを含む細胞の割合が10%未満である、細胞集団。
(項目X1) 前記外因性TCRは、NY-ESO-1に対する特異性を有する、前記項目のいずれかに記載の細胞集団。
(項目X2) 前記項目のいずれかに記載の細胞集団を作出する方法であって、
細胞から内因性TCRを除去する工程と、
前記外因性TCRをコードする核酸を該内因性TCRが除去された該細胞に導入する工程と
を含む、方法。
(項目X2-1) 前記導入する工程が、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を介して前記外因性TCR遺伝子を前記細胞のゲノムにノックインすることを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目X2-2) 前記導入する工程が、前記外因性TCR遺伝子をコードするベクターを前記細胞に導入することを含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目X3) 前記外因性TCRはNY-ESO-1に対する特異性を有する、前記項目のいずれかに記載の方法。
【0011】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0012】
T細胞における内因性のTCRα鎖、TCRβ鎖とのミスペアリングによる導入TCR発現効率の低下や、自己反応性TCRの出現を低減または回避することができる。これにより、特定のTCR遺伝子をT細胞(例えば、ヒトT細胞)に導入し、所望のTCRを発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、単一細胞のCMV NLV特異的TCRαおよびTCRβレパトアを示す図である。2名のHLA A2抗原陽性およびCMV抗体陽性の健康なドナー(V001およびV004)から得られた細胞のCMV NLV特異的TCRαおよびTCRβの対を示す。V001およびV004からそれぞれ118個および29個のT細胞を分析し、それぞれ3種(TCR ID;001-17、48および41)と、6種(TCR ID; 004-66、22、63、30、28および71)のCDR3αおよびCDR3βの対を同定した。各CDR3配列は、配列番号93~110に対応する。
【
図2】
図2は、各TCR対のTCRレパトアにおける存在頻度と、抗原への親和性との関係を示す散布図である。縦軸はリードにおける頻度であり、横軸は結合親和性を示す。
【
図3】
図3は、内因性TCR遺伝子を、TALENによって除去した際の、対照と比較したCD3発現の変化を示すヒストグラムである(右パネル)。
図3左には、TALEN-TCR mRNAを用いた実験スキーム、ならびにGFP-AおよびSSC-AによるFACS分析結果を示す。CD3発現はTCR発現のマーカーとして利用可能であり、対照と比較してCD3発現が陰性にシフトしていることから、内因性TCR遺伝子の除去が成功裡に行われたことが示される。
【
図4】
図4は、TALENによるTCR遺伝子の切断成功を示すT7E1アッセイの結果を示す電気泳動図である。ヒトT細胞由来のJurkat細胞株において、TRA・TRB遺伝子が切断されたことが示される(それぞれ左パネル・右パネル)。
【
図5】
図5は、TCRの導入に用いる発現ベクターの1つの例の模式図である。
【
図6】
図6は、内因性TCRの除去および外因性抗原特異的TCRの導入によって、多クローン性TregのTCRを抗原特異的TCRで完全に置換することができることを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の方法による内因性TCRの除去および外因性抗原特異的TCRの導入の手順を示す模式図である。各工程での細胞のCD3発現の状態が示される。中段はCD3発現によるソーティング前の細胞集団のCD3発現の分布を示し、下段はCD3発現によってソーティングした後の細胞集団のCD3発現の分布を示している。
【
図8】
図8は、ポリクローナルの制御性T細胞(Poly-Treg)と、CD8+T細胞が認識するCMV抗原(QYD516)特異的TCRを導入した制御性T細胞(QYD-Treg)との、抗原(QYD516)への親和性を比較した図である。左列はGFP標識、右列はQYD-テトラマー標識を示す。各々の細胞集団の機能性亜集団(CD4+)において、ポリクローナルと比較し、抗原特異的TCRを導入した群では、抗原への親和性を獲得していることが理解される。
【
図9】
図9は、本開示の技術を用いたサイトメガロウイルス特異的細胞傷害性T細胞の作成(ヒト末梢血T細胞)を示す。細胞傷害性T細胞に対して、TCR導入を行った結果が示される。上段は、TCRαβの発現量での分析、下段はCMV抗原結合能をNLV-テトラマーで分析した結果を示す。左列は内因性TCRを有するT細胞での分析を示し、右列は内因性TCRを除去してNLV特異的TCRを導入したT細胞での分析を示す。内因性TCRの干渉を受けずTCRの入れ替えが可能であったことが理解される。
【
図10】
図10は、抗原特異的制御性T細胞(右端列)、ポリクローナル制御性T細胞(左から2列目)およびTCRノックアウト制御性T細胞(右から2列目)と、対照(CD25が陰性のCD4陽性T細胞分画;左端列)との、表面マーカーの発現を示すドットプロットである。上段はCD127とCD25での分析、上から2段目はCD25とFoxP3での分析、上から3段目はFoxP3とCTLA4での分析、および上から4段目はFoxP3とHELIOSでの分析を示す。
【
図11】
図11は、抗原特異的制御性T細胞、ポリクローナル制御性T細胞およびTCRノックアウト制御性T細胞と、対照(CD25が陰性のCD4陽性T細胞分画)との、表面マーカーの発現を示すヒストグラムである。上段は左からCD25、CD127、FoxP3での分析を示し、下段は左からCTLA4、HELIOSでの分析を示す。
【
図12】
図12は、抗原刺激による抗原特異的エフェクターT細胞の増殖を示す図である。左からそれぞれ0日目、3日目、5日目を示す。抗原刺激に応答して、QYD-516特異的エフェクターT細胞が増殖したことが理解される。
【
図13】
図13は、抗原刺激に応答したQYD-516特異的Tregの増殖を示す。QYD516-特異的Tregが抗原提示細胞による抗原刺激に応答して増殖したことが示される。制御性T細胞の増殖は、ポリクローナル制御性T細胞では観察されなかったが、抗原特異的制御性T細胞集団で観察された。
【
図14】
図14は、抗原刺激による抗原特異的エフェクターT細胞の増殖が、抗原特異的制御性T細胞によって抑制されることを示す図である。QYD-Tregは、QYD-Teff増殖の抑制において、Poly-Tregよりも優れていたことが示される。
【
図15】
図15は、抗原刺激による抗原特異的エフェクターT細胞の増殖が、抗原特異的制御性T細胞によって抑制されることを示す図である。QYD-Tregは、QYD-Teff増殖の抑制において、Poly-Tregよりも優れていたことが示される。
【
図16】
図16は、実施例6における動物モデルを用いた実験の概要を示す図である。
【
図17】
図17は、いくつかの改変TALENの例を示す図である。DNA結合ドメインにおける結合モジュールの部分について、具体的配列の例が示されている。下線はRVDであり、図ではHD(塩基Cに対応するRVD)を一例として記載している。Voytas TALENや、Voytas TALENの結合モジュールの4番目および32番目のアミノ酸配列を変化させたZhang TALENの構造の例が示されているが、これらのTALENでは全てのモジュールでこれらの部分のアミノ酸残基は同一である。他方、Platinum TALENでは、結合モジュールの4番目および32番目のアミノ酸配列が、モジュール毎に周期的に変化している。図中、Voytas TALENのDNA結合モジュールの例およびPlatinum TALENのDNA結合モジュールの例の上から1つ目は配列番号1に対応し、以下上から順に配列番号111~114に対応する。
【
図18】
図18は、本発明の好ましい実施形態の一例を示す図である。本開示により、例えば、高機能TCRを用いた抗原特異的Treg移入療法を実現することができる。
【
図19】
図19Aは、ドロマイトバイオ社製シングルセルRNA-Seqシステムを示す。
図19Bは、オリゴビーズの概略を示す。オリゴビーズ中のSMART配列は、配列番号45に対応する。
図19Cは、顕鏡下のオリゴビーズを示す。
図19Dは、マイクロチップ内のビーズフローとドロップレットを示す。中央のライン(黄)をビーズが流れ、2本の細胞ライン(白)と混合された後に、オイルライン(赤)に注入されることでドロップレットが形成される(左図)。ビーズが通過したタイミングで、ランダムにドロップレットに封入される。回収されたドロップレット(白色)はオイル層(透明)と分離され、容易に回収できる。
【
図20】
図20は、本発明の改変TALENの作製方法を示す模式図である。
【
図21】
図21は、Stepwise TCR genome editing法による1G4 TCR発現T細胞の作出の手順を示す模式図である。各工程での細胞のCD3発現の状態が示される。中段はCD3発現によるソーティング前の細胞集団のCD3発現の分布を示し、下段はCD3発現によってソーティングした後の細胞集団のCD3発現の分布を示している。
【
図22】
図22は、TCR非発現T細胞株(αβ null Jurkat 細胞)への1G4 TCRの導入の結果を示す図である。左図は導入したTCRの発現効率を示し、右図はTCR導入細胞のSLLペプチドテトラマーへの結合能を示している。左図と右図で同様の効率が得られていることから、発現したTCRのほぼ全てがSLLペプチドを認識していることが示される。これにより、ゲノム編集T細胞へのpMXベクターの適合性が示される。
【
図23】
図23は、ヒト末梢血T細胞への1G4 TCRの導入の結果を示す図である。
【
図24】
図24は、TAL-PITChベクターの設計を示す模式図である。図中の配列は、それぞれ配列番号120および121に対応する。
【
図25】
図25は、TAL-PITChベクターの設計を示す模式図である。図中の配列は、それぞれ配列番号120および121に対応する。
【
図26】
図26は、1G4発現ゲノム編集T細胞のSLLペプチド発現LCLに対する特異的殺細胞活性を示す図である。1G4発現ゲノム編集T細胞が、細胞数依存的にNY-ESO-1由来SLLペプチド発現LCLに対する細胞傷害活性を発揮していることが示されている。
【
図27】
図27は、TAL-PITChベクターを用いて内在性TCR欠損NY-ESO-1特異的T細胞を作成した結果を示す図である。内在性TCR欠損細胞の15.7%にTAL-PITChベクターに組み込まれた1G4 TCRが発現していることが示されている。
【
図28】
図28は、マウスTCR切断用に作成した3種類のplatinum TALEN(TRA2-TALEN、TRB1―TALEN、TRB2-TALEN)のレポータープラスミドを用いたアッセイ法(SSAアッセイ)による切断活性の評価結果を示す図である。Zinc finger nucleaseコントロール(pSTL-ZFA36/ZFA36)の切断活性を1とする時、マウスTRA2-TALEN、マウスTRB1-TALEN、マウスTRB2-TALENの標的切断部位に対する活性は、それぞれ3.09倍、3.79倍、3.41倍であることがわかる。pSTLはZFA36の陰性コントロールであり、TRA2、TRB1、TRB2はそれぞれTALEN非存在下のレポーターのみの陰性コントロール、TRA2-TALEN/ZFA36、TRB1-TALEN/ZFA36、TRB2-TALEN/ZFA36はそれぞれレポーター遺伝子がZFA36の場合の陰性コントロールである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。したがって、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(1.定義および基本技術の説明)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0016】
本明細書において、「エフェクターT細胞」とは、樹状細胞やマクロファージ、B細胞などの抗原提示細胞によって提示された抗原をT細胞受容体を介して認識し、分化活性化されたT細胞をいう。本明細書において、「Teff」などの表記がなされる場合もある。
【0017】
本明細書において、「制御性T細胞(Regulatory T cell)」とは、Foxp3発現が陽性であり、免疫抑制作用を示すCD4陽性T細胞である。本明細書において、「Treg」とも称される場合がある。CD25強陽性およびCD127発現弱陽性を制御性T細胞の指標として用いることも可能である。Tregは内因性T細胞(Naturally Occurring Regulatory T cell、nTreg)と、ナイーブCD4陽性T細胞から分化する自己認識能の低い誘導性T細胞(Inducible Regulatory T cell、iTreg)に大別される。
【0018】
本明細書において「フローサイトメトリー」とは、液体中に懸濁する細胞,個体およびその他の生物粒子の粒子数,個々の物理的・化学的・生物学的性状を計測する技術をいう。この技術を用いた装置は、「フローサイトメーター」という。
【0019】
本明細書において、「クロノタイプ」とは、T細胞受容体もしくは免疫グロブリン分子またはそれらの一部分をコードするT細胞またはB細胞由来の組換え配列を指す。通常の体細胞のゲノム配列は個体中において同一であるが、T細胞またはB細胞の受容体のコード配列においては、各細胞において再編成が生じるため、個体中のT細胞またはB細胞においては複数のクロノタイプが存在する。
【0020】
本明細書において、「優勢」クローンとは、当業者が適宜設定できる一定の閾値より多い頻度で、クローンの集団中に存在するクローンを指す。
【0021】
本明細書において「T細胞レセプター(TCR)」とは、T細胞に存在するレセプターをいう。TCRは、2つのTCRポリペプチド鎖からなるヘテロダイマー受容体分子であり、通常のT細胞が発現するαβ型TCRと特殊な機能をもつγδ型TCRが存在する。αおよびβ鎖TCR分子は複数のCD3分子(CD3ζ鎖、CD3ε鎖、CD3γ鎖、CD3δ鎖)と複合体を形成し、抗原認識後の細胞内シグナルを伝達し、様々な免疫応答を開始させる。ウイルス感染に伴い細胞内で増殖したウイルス抗原やがん細胞由来のがん抗原などの内因性抗原は、MHCクラスI分子上に抗原ペプチドとして提示される。また、外来微生物由来の抗原はエンドサイトーシスにより抗原提示細胞に取り込まれ、プロセシングを受けたのちにMHCクラスII分子上に提示される。これらの抗原は、それぞれCD8+ T細胞あるいはCD4+T細胞の発現するTCRにより認識される。TCR分子を介した刺激には、CD28、ICOS、OX40分子などの共刺激分子が重要であることも知られている。本明細書において主要な目的の一つとされるαβ型TCRについてみると、αおよびβの各々の遺伝子産物は、ユニークな組み合わせにより、特異性を発現するとされる。
【0022】
免疫システムによる生体防御機構は、主にT細胞やB細胞によって担われる特異的免疫に大きく依存している。T細胞やB細胞は原則として自己の細胞や分子には反応せず、ウイルスや細菌などの外来性の病原体を特異的に認識して攻撃することができる。そのために、T細胞やB細胞は細胞表面上に発現した受容体分子によって自己抗原とともに他の生物由来の多様な抗原を認識し、識別できる機構を有している。T細胞ではT細胞受容体(T cell receptor, TCR)が抗原受容体として働く。それら抗原受容体からの刺激によって細胞内シグナルが伝達され、炎症性サイトカインやケモカインなどの産生が亢進し、細胞増殖が増進され、様々な免疫応答が開始される。
【0023】
TCRは、抗原提示細胞上に発現する主要組織適合遺伝子複合体(Major histocompatibility complex,MHC)のペプチド結合溝に結合したペプチド(peptide-MHC complex, pMHC)を認識することで、自己と非自己を識別するとともに抗原ペプチドを認識している(Cell 1994, 76, 287-299)。
【0024】
TCR遺伝子は、ゲノム上では異なる領域にコードされた多数のV領域(variable region、V)、J領域(joining region、J)、D領域(diversity region、D)と定常領域のC領域(constant region, C)から成る。T細胞の分化過程において、これら遺伝子断片が様々な組み合わせで遺伝子再構成され、α鎖およびγ鎖TCRはV-J-Cから成る遺伝子を、β鎖およびδ鎖TCRはV-D-J-Cから成る遺伝子を発現する。これら遺伝子断片の再構成により多様性が創出されるとともに、VとDあるいはDとJ遺伝子断片の間に1つ以上の塩基の挿入や欠失が起こることにより、ランダムなアミノ酸配列が形成され、より多様性の高いTCR遺伝子配列が作り出されている。
【0025】
TCR分子とpMHC複合体表面が直接結合する領域(TCRフットプリント)は、V領域内の多様性に富んだ相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)CDR1、CDR2およびCDR3領域から構成される。中でもCDR3領域はV領域の一部、ランダム配列により形成されるV-D領域(α鎖およびγ鎖)またはV-D-J領域(β鎖およびδ鎖)とJ領域の一部を含み、最も多様性に富んだ抗原認識部位を形成している。一方、他の領域はFR(framework region)と呼ばれ、TCR分子の骨格となる構造を形成する役割を果たしている。胸腺におけるT細胞の分化成熟過程において、β鎖TCRが最初に遺伝子再構成され、pTα分子と会合してpre-TCR複合体分子を形成する。その後、α鎖TCRが再構成され、αβTCR分子が形成されるとともに、機能的αβTCRが形成されない場合はもう一方のα鎖TCR遺伝子アレルにおいて再構成が起こる。胸腺における正・負の選択を受け、適切な親和性をもったTCRが選択され、抗原特異性を獲得することが知られる(Annual Review Immunology, 1993, 6,309-326)。
【0026】
T細胞は、特定の抗原に対し高い特異性を持った1種類のTCRを産生する。生体には多数の抗原特異的T細胞が存在することで、多様なTCRレパートリー(レパトア)が形成され、様々な病原体に対する防御機構として有効に機能することができる。
【0027】
本明細書において、「高機能TCR」とは、ある抗原に対して結合性を有するTCRのうち、他のTCRよりも高い結合性を持つTCRをいい、あるTCRが高機能TCRかどうかは、例えば、そのTCRを発現させた細胞を一定濃度(例えば、10μg/ml)の抗原テトラマー-PE複合体とインキュベートした後に、TCRαβ陽性細胞におけるMFI(平均蛍光強度)が一定の数値(例えば、5000)を超えるような親和性でその抗原と結合することができるかを測定することで判定することができる。
【0028】
(2.好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参照して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0029】
また、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0030】
(2.1.1.改変TALEN)
本発明の1つの局面において、DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物が提供される。DNA結合ドメインと機能ドメインとは別個に提供されてもよい。そのため、本発明の1つの実施形態においては、DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と組み合わせて用いられることを特徴とする、組成物が提供される。あるいは、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸を含む、TCR遺伝子を編集するための組成物であって、DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と組み合わせて用いられることを特徴とする、組成物が提供される。さらなる実施形態においては、DNA結合ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸と、機能ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸とを含む、TCR遺伝子を編集するための組み合わせ物が提供される。本発明におけるゲノム編集酵素は、好ましくはTALENであり、より好ましくはPlatinum TALENである。
【0031】
Platinum TALENは、TALENのDNA結合リピートに含まれる34アミノ酸のうち、4番目と32番目のアミノ酸にバリエーションをもたせた周期的配置にすることで、Voytas TALENよりも活性を上昇させている(Sakuma et al., Sci Rep, 2013)。本開示の方法において、好ましくは、Platinum TALENを用いて内因性TCR遺伝子を編集する。Platinum TALENについては、特開2016-175922に記載されており、その内容の全体は本明細書において参考として援用される。本開示の改変TALENは、例えば、以下に記載するような特徴を有するものであり得る。
【0032】
本開示の1つの実施形態では、機能ドメインによる機能の高さとDNA配列に対する認識特異性の高さを両立し、所望の機能を高確率で安全に発揮させることができ、しかも、簡便な操作で作製することができるポリペプチドまたはそれをコードする核酸を用いて内因性TCR遺伝子の改変を行う。
【0033】
DNA結合ドメインと機能ドメインが、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続され、かつ、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールにおける2つの特定の位置のアミノ酸が、4つのDNA結合モジュールごとに異なる繰り返し様式を呈するポリペプチドは、機能ドメインによる機能の高さとDNA配列に対する認識特異性の高さを両立することができる。当該ポリペプチドを発現させるためのベクターは、特定の特徴を有するベクターセット、および特定の特徴を有するベクターライブラリーを用いることによって簡便に作製することができる。
【0034】
本開示の1つの実施形態において、本発明は、DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドを利用することができる。このポリペプチドでは、DNA結合ドメインと機能ドメインは、35~55のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されており、DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み、N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり、N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、ここで、nは、1~10の自然数であり、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である、ポリペプチドまたはそれをコードする核酸を用いることができる。機能ドメインは、DNA切断ドメインであり得る。ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0035】
本発明はまた、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを作製するためのベクターライブラリーを利用することができ、ここで、ベクターライブラリーは、5’末端から順に、第1の制限酵素切断部位、4つのDNA結合モジュールをコードするポリヌクレオチド、および第2の制限酵素切断部位を有する複数のベクターによって構成され、ここで、第1の制限酵素切断部位および第2の制限酵素切断部位の組合せは、A型の制限酵素切断部位およびB型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、A型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せ、B型の制限酵素切断部位およびC型の制限酵素切断部位の組合せ、C型の制限酵素切断部位およびD型の制限酵素切断部位の組合せ、ならびにD型の制限酵素切断部位およびE型の制限酵素切断部位の組合せのいずれかであり、ここで、A型の制限酵素切断部位~E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、いずれも、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、4つのDNA結合モジュールのうち、5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のベクターに関して同一であり、5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、および5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり、ここで、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である。
【0036】
本発明はさらに、上記ベクターライブラリーを作製するためのベクターセットを利用することができる。ここで、このベクターセットは、5’末端から順に、1番目の制限酵素切断部位、DNA結合モジュール、および2番目の制限酵素切断部位を含む複数のベクターを含み、1番目の制限酵素切断部位、および2番目の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、互いに異なる切断末端を生じさせるものであり、DNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、4つの異なる組合せのいずれかであり、ここで、xは、1~40の自然数であり、yは、1~40の自然数であり、xとyは、異なる自然数である。
【0037】
上記ポリペプチドは、機能ドメインによる高い機能を実現すると同時に、DNA配列に対する高い認識特異性を実現するため、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入することによって、安全に、かつ高確率で、所望のTCR遺伝子の改変を実現することができる。また、上記ベクターライブラリーを用いれば、機能ドメインによる高い機能とDNA配列に対する高い認識特異性を両立するポリペプチド発現用ベクターを、簡便かつ迅速に調製することができる。
【0038】
DNA結合ドメインの由来としては、植物病原菌XanthomonasのTALE(Transcription Activator-Like Effector)、ジンクフィンガー(Zinc finger)などが挙げられる。
【0039】
機能ドメインとしては、酵素、転写調節因子、レポータータンパク質などをコードするドメインが挙げられる。酵素としては、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、リガーゼ、キナーゼ、フォスファターゼなどのDNA修飾酵素;ラクタマーゼなどのその他の酵素が挙げられる。本明細書においては、ヌクレアーゼをコードするドメインを、DNA切断ドメインと称する。転写調節因子としては、アクチベーター、リプレッサーなどが挙げられる。レポータータンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト化ウミシイタケ緑色蛍光タンパク質(hrGFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)、増強青色蛍光タンパク質(eBFP)、増強シアン蛍光タンパク質(eCFP)、増強黄色蛍光タンパク質(eYFP)、赤色蛍光タンパク質(RFPまたはDsRed)、mCherryなどの蛍光タンパク質;ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質;アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼなどの化学発光基質を変換する酵素などが挙げられる。DNA切断ドメインは、好ましくは、他のDNA切断ドメインと接近して多量体を形成し、向上したヌクレアーゼ活性を取得するものである。このようなDNA切断ドメインとしては、FokIに由来するものなどが挙げられる。
【0040】
DNA結合ドメインと機能ドメインは、35~55、好ましくは、40~50、より好ましくは、45~49、最も好ましくは、47のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されている。
【0041】
DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールをN末端側から連続的に含み得る。1つのDNA結合モジュールは、1つの塩基対を特異的に認識する。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの数は、機能ドメインの機能の高さとDNA配列認識特異性の高さの両立性の観点から、好ましくは、8~40、より好ましくは、12~25、さらにより好ましくは、15~20である。DNA結合モジュールとしては、たとえば、TALエフェクターリピート(effector repeat)などが挙げられる。1つのDNA結合モジュールの長さとしては、例えば、20~45、30~38、32~36、または34などが挙げられる。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、全てのDNA結合モジュールに関して同一である。DNA結合モジュールとしては、例えば、LTPDQVVAIASHDGGKQALETVQRLLPVLCQDHG(配列番号1)の配列が挙げられる。例えば、本配列の12番目のアミノ酸と13番目のアミノ酸が、順にH、Dである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてCを認識し、順にN、Gである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてTを認識し、順にN、Iである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてAを認識し、順にN、Nである場合には、当該DNA結合ドメインは、塩基としてGを認識すると考えられる。また、DNA結合モジュールとしては、例えば、配列番号1のアミノ酸配列と、85%、90%、95%、または97%の同一性を有し、1つの塩基対を認識する機能を実質的に保持するポリペプチドが挙げられる。
【0042】
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり得る。また、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり得る。また、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり得る。また、N末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、任意のnに関して同一であり得る。ここで、nは、1~10の自然数、好ましくは、1~7の自然数、より好ましくは、1~5の自然数であり得る。nは、好ましくは、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの全てを指し示すに足りる自然数である。また、xは、1~40の自然数、好ましくは、1~10の自然数、より好ましくは、2~6の自然数、さらにより好ましくは、3~5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1~40の自然数、好ましくは、25~40の自然数、より好ましくは、30~36の自然数、さらにより好ましくは、31~33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。xおよびyの数値は、用いるDNA結合モジュールの長さによって異なりうる。xは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける2番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。yは、好ましくは、34のアミノ酸からなるDNA結合モジュールにおける32番目のアミノ酸に相当する位置を示す数値である。
【0043】
N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、互いに異なり得る。ここで、nは、1~10の自然数、好ましくは、1~7の自然数、より好ましくは、1~5の自然数である。nは、好ましくは、DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの全てを指し示すに足りる自然数である。また、xは、1~40の自然数、好ましくは、1~10の自然数、より好ましくは、2~6の自然数、さらにより好ましくは、3~5の自然数、最も好ましくは、自然数4である。また、yは、1~40の自然数、好ましくは、25~40の自然数、より好ましくは、30~36の自然数、さらにより好ましくは、31~33の自然数、最も好ましくは、自然数32である。xとyは、異なる自然数である。好ましくは、N末端から4n-3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、N末端から4n-2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せ、およびN末端から4n番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、それぞれ、xとyの順にDとDの組合せ、EとAの組合せ、DとAの組合せ、およびAとDの組合せからなる群から選ばれ得る。
【0044】
使用され得るベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、酵母人工染色体ベクター(YAC)、細菌人工染色体ベクター(BAC)、P1人工染色体ベクター(PAC)、マウス人工染色体ベクター(MAC)、ヒト人工染色体ベクター(HAC)が挙げられる。また、ベクターの成分としては、DNA、RNAなどの核酸、GNA、LNA、BNA、PNA、TNAなどの核酸アナログなどが挙げられる。ベクターは、糖類などの核酸以外の成分によって修飾されていてもよい。
【0045】
ベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、上記ポリペプチドを調製することができる。また、ベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、細胞内において、DNA組換え、DNA切断などのDNA修飾;転写調節などのその他の酵素活性の発現;レポータータンパク質によるDNA領域の標識化などの機能ドメインに応じた所望の機能を発揮させることができる。機能ドメインがDNA切断ドメインである場合には、複数の、好ましくは、2つのベクターを、細胞などに導入して、発現させることによって、ベクターを導入した細胞のゲノムDNA上において塩基配列特異的な二本鎖切断を生じさせることができ、細胞のゲノム上に変異を導入することができる。ベクターを導入する細胞の由来としては、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウスなどの哺乳類などの動物、シロイヌナズナなどの植物、ES細胞、iPS細胞などの培養細胞などが挙げられる。
【0046】
(2.1.2.改変TALENの製造スキーム)
ある認識配列に対応するPlatinum TALENは、予め用意したか、または新たに作製したベクターライブラリー中のベクターを組み合わせて、Platinum TALENをコードする核酸を調製することによって製造することができる。例えば、Platinum TALENの作製キット(Platinum Gate TALEN Kit、http://www.addgene.org/kits/yamamoto-platinumgate/)を用いて所望の認識配列に対応するPlatinum TALENを製造することができる。新規にPlatinum TALENのベクターセットを立ち上げる場合、
図20に示される作製スキームに従って製造することができる。
【0047】
ベクターライブラリー中の各ベクターは、例えば、4つのDNA結合モジュールを含み得る。1つのベクター中の4つのDNA結合モジュールは、上記のようなPlatinum TALENの周期的な配列の変化(例えば、結合モジュールの4番目および32番目のアミノ酸の変化)の一周期分の変化を有し得る。各DNA結合モジュールは、有するRVDに応じて対応する認識塩基が規定される。4つのDNA結合モジュールによって認識され得る塩基配列は、44=256通りの配列が存在し得、4塩基配列を認識するベクターが網羅的にベクターライブラリー中に存在してよいが、所望の結合ドメインの作製に必要なもののみが存在すれば十分である。
【0048】
具体的には、所望の認識配列に結合するDNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの配列に対応するベクターを、ベクターライブラリーから選択し、選択したベクターを、A型の制限酵素切断部位~E型の制限酵素切断部位を切断する制限酵素によって消化して、消化によって得られたベクター断片を接続することによって、DNAドメインをコードするベクターを作製することができる。ベクターライブラリーを構成する全てのベクターは、同一の制限酵素によって切断される制限酵素切断部位を2つ有し、かつ、その制限酵素切断部位は、当該酵素による切断によって互いに異なる切断末端を生じさせる。したがって、Platinum TALENをコードするベクターの作製において、選択したベクターの消化、およびベクター断片の接続は、それぞれ、同一の反応液において行うことができる。そのため、ベクターライブラリーを用いて、極めて簡便に、Platinum TALENをコードするベクターを作製することができる。
【0049】
なお、制限酵素切断部位についてのA型~E型は、制限酵素切断部位の性質の相違を示すために本明細書において便宜的に設定した表記である。型が異なる場合には、制限酵素切断部位の性質が互いに異なり、および型が同一である場合には、制限酵素切断部位の性質が共通であることを示す。ベクターライブラリーにおいて、A型の制限酵素切断部位~E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素によって切断されるものである。また、A型の制限酵素切断部位~E型の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素による切断によって、いずれも、互いに異なる切断末端を生じさせるものである。このような制限酵素切断部位としては、制限酵素による認識部位に隣接する任意の部位を切断する制限酵素(たとえば、BsaI、BbsI、BsmBIなど)による切断部位が挙げられる。
【0050】
5’末端から1番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。同様に、5’末端から2番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。また、5’末端から3番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。また、5’末端から4番目のDNA結合モジュールにおけるx番目のアミノ酸とy番目のアミノ酸の組合せは、ベクターライブラリーを構成する任意のベクターに関して同一である。
【0051】
(2.2.内因性TCR遺伝子の除去)
(2.2.1 内因性TCRの除去の機構)
本発明の改変TALENは、内因性TCRを除去するために用いることができる。以下、内因性TCRの除去について説明する。
【0052】
TCRの導入においては、内因性TCRを除去することが好ましい場合がある。内因性TCRが存在する場合、TCRの導入により、混合ダイマーが形成され、新規の抗原反応性が出現し得ることが、Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jun 15;107(24):10972-7(PMID:20534461)において報告されている。
【0053】
TCR混合ダイマー(内因性TCR鎖と外因性TCR鎖の対)が形成されると、導入したTCR鎖および内因性TCR鎖の発現が減少し特異的な反応性が損なわれるのみではなく、この混合ダイマーは、潜在的に有害な特異性を有している可能性がある。上記文献において、TCRの導入によって新規の反応性が出現し、ほとんどの新規の反応性はアロ-HLA反応性であったものの、自己反応活性を有するものも見出されたことが報告されている。また、Mol Biol Rep. 2010 Dec;37(8):3951-6(PMID:20373027)においては、ミスペアリングによって生じたTCRを定量的に検出する技術としてFRET法が記載されている。
【0054】
内因性TCRの除去は、内因性TCR遺伝子の改変によって行うことができる。内因性TCRの除去は、例えば、内因性TCR遺伝子のノックダウンによって行うことができ、アンチセンス法や、RNAiなどを利用することができる。内因性TCRの除去はまた、内因性TCR遺伝子のノックアウトによって行うことができる。内因性TCR遺伝子の改変は、例えば、コード領域の全部または一部の欠失、調節領域への変異の導入、ナンセンスまたはミスセンス変異の導入などによって行うことができる。
【0055】
好ましくは、ゲノム編集技術を用いて内因性TCR遺伝子の改変を行うことができる。ゲノム編集は、部位特異的なヌクレアーゼを利用して、標的遺伝子を改変する技術である。ゲノム編集技術としては、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9等が挙げられる。それぞれ所望の配列へのDNA配列特異的な結合を実現する結合ドメインと、所望の配列の部位でDNAを切断する切断ドメインを有する。
【0056】
ZFNはジンクフィンガードメインとDNA切断ドメインを含む人工制限酵素である。ジンクフィンガードメインは任意のDNA塩基配列を認識するように改変可能で、これによってジンクフィンガーヌクレアーゼが複雑なゲノム中の単一の配列を標的とすることが可能となる。
【0057】
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/Cas9 (Crispr ASsociated protein 9)システムは、ZFN、TALENが基本的に一つのタンパク質として使用されるのに対して、ガイドRNAとCas9の2つの別々の分子を含む。DNAの標的部位と相補的な配列をガイドRNAに含めることにより、ガイドRNAは標的部位に特異的に結合できる。そうするとガイドRNAとDNAを覆うようにCas9タンパク質が結合して、DNAを切断する。Cas9自体は使い回しができて、標的部位によってガイドRNAだけを作成すれば済むため、多重化が容易であるとされる。
【0058】
TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)は、制限酵素であるFokIをDNA切断ドメインとして、植物病原細菌キサントモナス属(Xanthomonas)から分泌されるTALEタンパク質のDNA結合ドメインを融合させた人工酵素である。TALEタンパク質のDNA結合ドメインは34個程度のアミノ酸の繰返し構造をとっている。この繰返しの単位をモジュールとよぶ。その中で、アミノ酸第12位と13位が可変となっており、標的配列と結合する部分で「反復可変二残基」(RVD)と呼ばれる。TALENは、L TALENとR TALENのペアとして、標的DNAの反対鎖にそれぞれ結合する分子を用いる。FokIが切断活性を示すためにはTALENが、適切な距離を維持して二量体を形成する必要がある。TALENにおけるミスマッチ寛容やオフターゲット活性はほとんど報告されておらず、高い特異性が特徴である。T細胞の改変にあたり、オフターゲットでの改変が生じた場合、予期しない有害作用を引き起こし得ることから、高い特異性を有するTALENを用いることは、本開示において好ましい。
【0059】
従来型のTALENに加えて、様々な改変TALENが作製されている。このようなTALENにより内因性TCR遺伝子の改変を行うことは、高い特異性および改変効率の高さから好ましい。本明細書の実施例においては、改変TALENを用いて、T細胞の内因性TCRの完全な除去が実現できたことが実証されている。
【0060】
改変TALENの一部の例は
図17に示される。例えば、SuperTALENは、モジュールの4番目と32番目のアミノ酸が改変されており、特定の改変型リピートのみをアセンブルして使用している(PCT/JP2014/071116、その全体が本明細書において参考として援用される)。このSuperTALENによって改変する2つのアミノ酸を、EとAとに改変したものが、Zhang TALEN(EA型のSuperTALEN)であり、
図17に示されるEA型の他、QA型によっても活性が上昇することが報告されている。
【0061】
(2.2.2 改変TALENの標的)
本開示のゲノム編集酵素(改変TALENともいう。)は、TCR遺伝子を標的とするように設計され得る。したがって、DNA結合ドメインは、TCRα遺伝子またはTCRβ遺伝子に特異的に結合し得る。TCR遺伝子上でDNA結合ドメインが結合する部分については、例えば、TRAC エクソン1、TRBC1 エクソン1、またはTRBC2 エクソン1などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記のとおり、DNA結合ドメインは、各モジュールに存在するRVDを選択することで、所望の配列に対して特異性を有するように設計することが可能であり、本明細書に開示される任意の標的配列に対して、当業者は特異的なDNA結合ドメインを設計することができる。
【0062】
DNA結合ドメインは、例えば、以下:
【化1】
のような配列を標的として設計することができる。本明細書の実施例2において、このような位置を標的としたDNA結合ドメインを有するゲノム編集酵素によって内因性TCR遺伝子を除去することができたことが実証されている。なお、各標的配列の左端のTの塩基は、TALEのN末ドメイン(DNA結合リピートの外側の領域)によって認識されるTである。このTの塩基は、「DNA結合リピートの認識配列」としては含まれないと考えられるが、「TALENの標的配列」としては含まれると考えられる。
【0063】
例えば、上記のような配列を標的とするPlatinum TALENのDNA結合ドメインは、以下のようなパターン配列を有するものが挙げられる。このようなDNA結合ドメインを有するTALENを用いて、T細胞の内因性TCR遺伝子を成功裡に除去できたことが本明細書の実施例2において実証されている。なお、DNA結合モジュールの最終リピートはhalf repeatと呼ばれるトランケート型のリピートになっている。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0064】
本開示において、TCRα遺伝子を標的化するためのTALENプラスミドの例としては、TALEN-TCR-alpha2_L19(配列番号46)およびTALEN-TCR-alpha2_R19(配列番号47)が挙げられる。これらの配列は、対として使用することができる。
【0065】
本開示において、TCRβ遺伝子を標的化するためのTALENプラスミドの例としては、TALEN-TCR-beta1_L19(配列番号48)およびTALEN-TCR-beta1_R19(配列番号49)の対、またはTALEN-TCR-beta3_L19(配列番号50)およびTALEN-TCR-beta3_R19(配列番号51)の対が挙げられる。
【0066】
本開示において、具体的に示される配列については、所望の活性を維持する限りで改変を加えたものを使用できることに留意すべきである。例えば、本開示において、具体的に示された配列に対して、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%または少なくとも約99%の同一性を有する配列を使用できる。
【0067】
改変アミノ酸配列は、1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0068】
複数の遺伝子コドンによって同一のアミノ酸がコードされ得ることから、同一のアミノ酸配列をコードする複数の核酸配列が存在し得、アミノ酸配列のコードを目的とする限りにおいて、異なる核酸配列を利用し得る。
【0069】
(2.3 抗原特異的制御性T細胞)
1つの局面では、本開示の改変TALENは、内因性TCR遺伝子を除去する工程を含む、抗原に特異的な制御性T細胞を生産する方法に用いることができる。例えば、本開示は、抗原に特異的な制御性T細胞を生産する方法であって、エフェクターT細胞ドナーにおける該抗原に特異的なエフェクターT細胞集団において、TCRレパトアを測定する工程であって、非バイアス的にTCR遺伝子を増幅することを含む、工程と、該エフェクターT細胞集団におけるTCRαおよびTCRβの対を同定する工程と、該同定されたTCRαおよびTCRβの対が、抗原に対する親和性を有するかを確認する工程と、該同定されたTCRαおよびTCRβの対におけるTCRαの核酸配列の全部または一部およびTCRβの核酸配列の全部または一部をクローニングする工程と、改変TALENを用いて制御性T細胞の内因性TCR遺伝子を除去する工程と、該制御性T細胞に、該クローニングされたTCRαの核酸配列の全部または一部およびTCRβの核酸配列の全部または一部を導入する工程であって、該TCRαおよび該TCRβが対になって発現されるように導入する工程とを含む、方法を提供する。
【0070】
1つの好ましい実施形態は、
図18に記載されるようなものである。高機能TCRを同定し、かかる高機能TCRをドナーから得られた抗原非特異的ポリクローナル制御性T細胞に導入する。この際に、Platinum TALENを用いて内因性TCR遺伝子を編集することができる。好ましくは、上記TCRが対になって発現されるように、上記TCRを導入する。得られた抗原特異的モノクローナルまたはオリゴクローナル制御性T細胞を体外で増幅し、レシピエントに移入する。本開示によって得られた抗原特異的制御性T細胞は、未知の抗原反応性を有しないため安全であると考えられ、高機能TCRを使用することによって、高い抗原特異的免疫抑制能力を示すと考えられる。レシピエントは、制御性T細胞のドナーと同一の個体であってもよく、異なる個体であってもよい。
【0071】
本開示において、本開示の方法において使用するための任意の物も提供され得る。例えば、本開示において、本開示の方法において使用するための、前記TCRαおよび前記TCRβが対となって発現するように構成されるベクターを含む組成物が提供され得る。本開示の方法において使用するための、MHCテトラマーを含む組成物もまた提供され得る。
【0072】
さらに、本開示の方法において使用するための、DNA結合ドメインおよび機能ドメインを含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸を含む組成物であって、該DNA結合ドメインは、TCR遺伝子に特異的に結合する、組成物もまた提供され得る。
【0073】
本開示の方法によって同定されるエフェクターT細胞集団のTCRレパトアまたはその一部、あるいはそれをコードする核酸もまた本開示の範囲内である。エフェクターT細胞集団のTCRレパトアまたはその一部、あるいはそれをコードする核酸を含む、TCR改変T細胞を製造するための組成物もまた提供される。好ましくは、TCR改変T細胞は、TCR改変制御性T細胞を含む。
【0074】
(2.4 T細胞内因性TCR遺伝子改変)
本開示の1つの局面において、本開示の改変TALENは、T細胞の内因性TCR遺伝子を改変する方法において用いることができる。この方法は、好ましくは、内因性TCRが発現されないようにT細胞を改変する工程を含み得る。
【0075】
かかる工程は、本開示の組成物を細胞に導入することによって行い得る。本開示の改変TALENは、TCRα遺伝子および/またはTCRβ遺伝子を標的化できるため、TCRα遺伝子およびTCRβ遺伝子のそれぞれに特異的な改変TALENを同時に、または逐次的に細胞に導入することができる。逐次的に導入を行う場合、その順序は問わない。したがって、T細胞を改変する工程は、TCRα遺伝子に特異的に結合するDNA結合ドメインを有するポリペプチドまたはそれをコードする核酸を含む組成物を細胞に導入する工程と、TCRβ遺伝子に特異的に結合するDNA結合ドメインを有するポリペプチドまたはそれをコードする核酸を含む組成物を細胞に導入する工程とを含み得る。
【0076】
本開示の別の局面では、T細胞に外因性のTCRを導入する(例えば、核酸を導入することによって)工程が含まれ得る。本開示の対象となるT細胞としては、限定されるものではないが、制御性T細胞、エフェクターT細胞、ヘルパーT細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、γδT細胞等が挙げられる。制御性T細胞のTCRの改変/導入は、抗原特異的な免疫寛容を含めた免疫調節につながるため好ましい。NKT細胞またはγδT細胞は、それら自体が抗原非特異的なキラー活性を有するため、本開示の方法により抗原特異的なTCRαβを導入することは有意義である。例えば、γδT細胞については、J Immunol. 2009 Jan 1;182(1):164-70.(PMID: 19109147)に記載されるように、γδT細胞に対してTCRαβを形質導入することにより、抗原特異的なエフェクターT細胞を生成することが可能であることが示されており、本開示により同定されるような高機能TCRをγδT細胞に導入することは有効である。
【0077】
T細胞またはT細胞集団は、常法によって、被験体から得られたサンプル等から単離することができる。例えば、被験体の末梢血、骨髄、腫瘍組織、造血組織、脾臓、正常組織、リンパ液等から行うことができる。末梢血からのサンプル採取は、非侵襲的で簡便であるため、有利であり得る。T細胞集団の分取は、フローサイトメトリーを用いたソーティングの他、磁気を用いた細胞分離を利用することもできる。
【0078】
本開示においては、内因性TCR遺伝子を改変しようとする第1のT細胞と、導入しようとするTCRを有する第2のT細胞とを利用し得る。ここで、第1のT細胞と第2のT細胞とは、同一の被験体から得てもよく、異なる被験体(第1のドナーおよび第2のドナー)から得てもよい。さらに、改変した第1のT細胞を用いて同一の被験体への処置を行ってもよく、いずれのドナーとも異なる被験体(レシピエント)への処置を行ってもよい。1つの好ましい実施形態では、第1のT細胞は制御性T細胞であり、第2のT細胞はエフェクターT細胞である。
【0079】
本開示の一部の実施形態において、改変されたT細胞またはそれを含む組成物が提供される。1つの実施形態では、内因性TCR遺伝子を含まない制御性T細胞が提供される。かかるT細胞は、TCR遺伝子のミスペアリングを生じず、所望の抗原特異性を安全に付与することができる。
【0080】
さらなる実施形態では、エフェクターT細胞ドナーにおけるエフェクターT細胞集団に存在するT細胞レセプター(TCR)クローンに含まれるTCRα遺伝子の核酸配列の全部または一部およびTCRβ遺伝子の核酸配列の全部または一部を含む、制御性T細胞が提供される。ドナーにおけるT細胞集団に存在するT細胞レセプター(TCR)クローンは高機能であるといえ、そのようなTCRを有する制御性T細胞は、抗原特異的な免疫抑制を示すと考えられる。内因性TCR遺伝子を含まず、エフェクターT細胞ドナーにおけるエフェクターT細胞集団に存在するT細胞レセプター(TCR)クローンに含まれるTCRα遺伝子の核酸配列の全部または一部およびTCRβ遺伝子の核酸配列の全部または一部を含む、制御性T細胞もまた提供される。
【0081】
(2.5 T細胞亜集団の組成の分析)
本開示の改変TALENを用いる際に、T細胞亜集団の組成の分析を行いうる。
【0082】
サンプルまたはT細胞集団中における所望のT細胞亜集団の組成は当業者が常法によって測定することができる。一般的には、サンプルまたはT細胞集団中の目的とする細胞亜集団を規定するマーカー、または所望の特徴と相関するマーカー(例えば、CD3)について陽性である細胞の数を、フローサイトメトリーなどを用いて測定することが可能である。また、フローサイトメトリー技術では、同時に所望の細胞亜集団を分取することが可能である。フローサイトメトリーの利点としては、例えば、所望の遺伝子が導入された細胞の占める割合を把握しやすいこと、特異性および感度が高いこと、再現性が高いこと、多数の細胞を解析することができること、所要時間が短いことなどが挙げられる。
【0083】
フローサイトメーターは、細胞の均一な浮遊液より、浮遊物(細胞)の光学特性を測定する機器である。細胞は液流に乗ってレーザー光の焦点を通過するが、その通過時に毎秒500~4,000個の細胞より前方散乱光、側方散乱光、及び1つ以上の異なる波長の蛍光の光学特性を、個々の細胞について同時に測定し、それら細胞の大きさ、内部構造、及び細胞膜・細胞質・核内に存在する種々の抗原あるいは核酸量等の、生物学的特性を迅速、かつ正確に測定することができる。
【0084】
散乱光とは、レーザーが細胞に当たって周囲に散乱した光である。前方散乱光(Forward Scatter:FSC)はレーザー光軸に対して前方で検出し、散乱光強度は細胞の表面積に比例する。すなわち、相対的にFSCの値が大きければ細胞も大きく、FSCの値が小さければ細胞も小さいと考えられる。側方散乱光(Side Scatter:SSC)はレーザー光軸に対して90度(直角)の位置で検出し、細胞の顆粒や細胞内構造の状態に散乱光強度が比例する。すなわち、相対的にSSCの値が大きければ細胞の内部構造は複雑であり、SSCの値が小さければ細胞の内部構造は単純であると考えられる。
【0085】
フローサイトメトリーの結果は、代表的には、FSCをX軸に、SSCをY軸にとったドットプロットとして表現され得る。各細胞は図の中の一つのドット(点)で示されており、それらの位置は、FSCとSSCとの相対値によって決められる。比較的サイズが小さく内部構造が単純なリンパ球は左下部に、サイズが大きく内部に顆粒を持つ顆粒球は右上部に、またサイズは大きいが内部構造が単純な単球はリンパ球と顆粒球の間に、それぞれお互いに分離した集団を作って表示される。
【0086】
蛍光とは、細胞に標識されている蛍光色素が照射されたレーザー光によって励起され、エネルギーを放出する際生じた光をいう。フローサイトメーター(例えば、製品名:Becton & Dickinson FACSCalibur)は、代表的には、488nmの単一波長レーザー光と635nmの単一波長レーザー光とを照射する。細胞はそれ自体も弱い蛍光を発する性質を有しているが(自家蛍光)、実際に細胞の持つ分子を蛍光を用いて特異的に検出しようとする場合は、あらかじめ何らかの形で細胞あるいはその持つ分子に蛍光色素を結合させる必要がある。例えば、FITC(Fluorescein isothiocyanate)は、488nmの励起光を吸収し、主に530nmの蛍光(緑色)を発する。抗体にあらかじめFITCを標識しておけば、細胞の表面に存在する抗原量に応じて結合する抗体量に差が生じ、その結果FITCの蛍光強度が異なってくるため、その細胞の表面に存在する抗原量を推定することができる。例示的に使用され得るFACSCaliburは、異なる蛍光波長域を検出できる4本の蛍光検出器を搭載しており、異なった波長の光を発する複数の蛍光色素を用意しておけば、最大4つの異なる抗原を同時に検出することが可能である。488nmの単一波長レーザー光によって励起されるFITC以外の蛍光色素として、PE(phycoerythrin)は主に585nmの蛍光を発し、PerCP(peridinin chlorophyll protein)およびPE-Cy5(carbocyanin-5)は主に670nmの蛍光を発する。635nmの単一波長レーザー光によって励起される蛍光色素であるAPC(allophycocyanin)は、主に670nmの蛍光を発する。これらの蛍光色素が種々の抗体と組み合わされ、細胞の二重染色や三重染色に用いられる。Tリンパ球の表面に発現しているCD3、CD4、CD8、CD25、TCR、細胞内に発現するFoxp3分子などを、これらと特異的に反応するモノクローナル抗体で検出することができる。
【0087】
厳密にいうと、フローサイトメーターには、細胞を解析するだけの機器と、解析した細胞を分取(ソーティング)することが可能な機器の2種類があり、後者は「FACS」と呼ばれる。本明細書において「FACS」とは、fluorescence-activated cell sorterの略で、レーザー光線を使ってリンパ球などの遊離細胞の表面抗原の解析をしたり、表面抗原の有無などによって、ある特定の細胞を分取する方法において用いられる装置をいう。
【0088】
フローサイトメトリーの結果は、ヒストグラム、ドットプロットなどで表すことができる。本明細書において「ヒストグラム」とは、フローサイトメーターを用いた蛍光測定において、各パラメータの光信号の強度をX軸に、細胞数をY軸にとったグラフをいう。このような形態により、総計で1万個以上の細胞を計数することが可能である。
【0089】
本明細書において「ドットプロット」とは、二種類の蛍光色素の蛍光強度をX軸とY軸にとったプロットをいう。二重染色および三重染色をした場合には、それぞれの蛍光強度をXあるいはY軸におき、個々の細胞が二次元グラフ上の一つ一つの点に対応するような表示方法を用いて解析することができる。
【0090】
例えば、末梢血もしくは骨髄液を採取後、溶血法か比重遠心法にて赤血球を除いた後に蛍光標識抗体(目的とする抗原に対する抗体とそのコントロール抗体)と反応させ、十分に洗浄してからフローサイトメトリーを用いて観察することができる。検出された散乱光や蛍光は電気信号に変換されコンピュータにより解析される。その結果は、FSCの強さは細胞の大きさを表しSSCの強さは細胞内構造を表すことによりリンパ球、単球、顆粒球を区別することが可能である。その後、必要に応じて目的とする細胞集団にゲートをかけて、それらの細胞における抗原発現様式を検討する。
【0091】
本開示の方法の実施において、当業者は、示される細胞の表面マーカーを適切に識別して、細胞を分画または計数することが可能である。CD抗原は、国際ワークショップによって、主にそれが認識する抗原の生化学的特徴(とくに分子量)を基準として群別(cluster)して分類する(clustering)ことが合意された。これがCD分類(CD classification)とよばれるもので、これにより特定の白血球分化抗原を認識する多くの種類のモノクローナル抗体は、CDに続けて番号すなわちCD番号(CD number)をつけた形(例えばCD1、CD2など)の統一的な名称がつけられている。
【0092】
CD3分子は細胞膜に存在し、TCRと複合体を形成するため、TCRの発現のマーカーとして使用可能である。
【0093】
インターロイキン-2受容体α鎖であるCD25分子を高発現するCD4+T細胞が自己免疫疾患を抑制する機能を有することが明らかにされ、CD4およびCD25は制御性T細胞のマーカーとして使用されている。近年、転写因子であるFoxp3がTreg分化のマスター遺伝子であることが明らかになり、CD4+CD25+Tregを同定する分子マーカーとして広く利用されるようになっている。また、Foxp3以外のTregの細胞表面メーカーとして、CD127が用いられており、CD4+CD25強陽性CD127陰性または弱陽性のT細胞分画にTregが豊富に存在することが明らかとなっている。
【0094】
(2.6.TCRレパトアの解析)
本開示の改変TALENは、TCRレパトア解析で得られた情報に基づいてTCRを改変する際に用いることができる。
【0095】
本開示の1つの実施形態においては、T細胞集団のTCRレパトアを測定することを含む方法が提供される。ドナーにおける抗原に特異的なエフェクターT細胞集団に存在するTCRクローンを同定するにあたり、エフェクターT細胞集団に存在する各TCRクローン(α鎖またはβ鎖)の存在頻度を測定することにより、高機能なTCRクローンを同定できることが見出されている。本開示の改変TALENは、TCRクローンをT細胞に導入する際に、内因性TCR遺伝子による干渉を防ぐことができる点で有用である。そのため、高機能TCRクローンを同定し、かかるTCRクローン(その核酸配列の全部または一部)を導入する工程を含む方法において、本開示の改変TALENを使用することができ、かかる方法における使用のための組成物もまた提供される。
【0096】
TCRレパトアを測定する方法の1つとしては、試料中のT細胞が個々のV鎖をどれくらい使用するかを、特定のVβ鎖特異的抗体を用いて、個々のVβ鎖を発現するT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析する方法(FACS解析)がある。
【0097】
その他に、ヒトゲノム配列から入手されるTCR遺伝子の情報をもとに、分子生物学的手法によるTCRレパトア解析が考案されてきた。細胞試料からRNAを抽出し、相補的DNAを合成後、TCR遺伝子をPCR増幅して定量する方法がある。
【0098】
細胞試料からの核酸の抽出は、RNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)などの当技術分野で公知のツールを用いて行うことができる。TRIzol LS試薬に溶解した細胞からRNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)を用いて全RNAの抽出および精製を行うことができる。
【0099】
抽出されたRNAからの相補的DNAの合成は、Superscript IIITM(Invitrogen)などの、当技術分野で公知の任意の逆転写酵素を用いて行うことができる。
【0100】
TCR遺伝子のPCR増幅は、当技術分野で公知の任意のポリメラーゼを用いて、当業者が適宜行うことができる。しかしながら、TCR遺伝子のような変動の大きい遺伝子の増幅においては、「非バイアス」で増幅することができれば、正確な測定のためには有利な効果があるといえる。
【0101】
PCR増幅のために用いるプライマーとしては、個々のTCR V鎖特異的プライマーを多数設計して、別個にリアルタイムPCR法等で定量する方法、あるいはそれら特異的プライマーを同時に増幅する方法(Multiple PCR)法が用いられてきた。しかしながら、各V鎖について内因性コントロールを用いて定量する場合でも、利用するプライマーが多いと正確な解析ができない。さらに、Multiple PCR法ではプライマー間の増幅効率の差が、PCR増幅時のバイアスを引き起こす欠点がある。このMultiple PCR法の欠点を克服するため、鶴田らはTCR遺伝子の二本鎖相補的DNAの5’末端にアダプターを付加した後に、共通のアダプタープライマーとC領域特異的プライマーによってすべてのγδTCR遺伝子を増幅するAdaptor-ligation PCR法を報告した(Journal of Immunological Methods, 1994,169, 17-23)。さらに、αβTCR遺伝子の増幅にも応用し、個々のV鎖に特異的なオリゴプローブによって定量するReverse dot blot法(Journal of Immunological Methods, 1997,201, 145-15.)やMicroplate hybridization assay法(Human Immunology, 1997, 56, 57-69)が開発された。
【0102】
本開示の好ましい実施形態では、WO2015/075939(Repertoire Genesis Inc.、本明細書において、その全体が参考として援用される)に記載されているような、1種のフォーワードプライマーと1種のリバースプライマーからなる1セットのプライマーですべてのアイソタイプやサブタイプ遺伝子を含むTCR遺伝子を、存在頻度を変えることなく増幅して、TCR多様性を決定する。以下のようなプライマー設計は、非バイアス的な増幅に有利である。
【0103】
TCRあるいはBCR遺伝子の遺伝子構造に着目し、高度な多様性をもつV領域にプライマーを設定することなく、その5’末端にアダプター配列を付加することにより、すべてのV領域を含む遺伝子を増幅する。このアダプターは塩基配列上において任意の長さと配列であり、20塩基対程度が最適であるが、10塩基から100塩基までの配列を使用することができる。3’末端に付加されたアダプターは制限酵素により除去され、20塩基対のアダプターと同一配列のアダプタープライマーと共通配列であるC領域に特異的なリバースプライマーにより増幅することですべてのTCR遺伝子を増幅する。
【0104】
TCRあるいはBCR遺伝子メッセンジャーRNAから逆転写酵素により相補鎖DNAを合成し、続いて二本鎖相補的DNAを合成する。逆転写反応や二本鎖合成反応によって異なる長さのV領域を含む二本鎖相補的DNAが合成され、それら遺伝子の5’末端部に20塩基対と10塩基対からなるアダプターをDNAリガーゼ反応によって付加する。
【0105】
TCRのα鎖、β鎖、γ鎖、δ鎖のC領域にリバースプライマーを設定し、これらの遺伝子を増幅することができる。C領域に設定されるリバースプライマーは、TCRの各Cβ、Cα、Cγ、Cδの配列に一致し、かつ他のC領域配列にはプライミングしない程度のミスマッチをもつプライマーを設定する。C領域のリバースプライマーはアダプタープライマーとの増幅ができるように、塩基配列、塩基組成、DNA融解温度(Tm)、自己相補配列の有無を考慮し、最適に作製する。C領域配列におけるアレル配列間で異なる塩基配列を除く領域にプライマーを設定することで、すべてのアレルを均一に増幅することができる。増幅反応の特異性を高めるため、複数段階のnested PCRを行う。
【0106】
いずれのプライマーもアレル配列間で異なる配列を含まない配列に対して、プライマー候補配列の長さ(塩基数)は、特に制限されないが、10~100塩基数であり、好ましくは、15~50塩基数であり、より好ましくは、20~30塩基数である。
【0107】
このような非バイアス的な増幅を用いることは、低頻度(1/10,000~1/100,000またはそれ以下)の遺伝子の同定に有利であり、好ましい。以上のように増幅したTCR遺伝子をシークエンシングすることによって、得られたリードデータからTCRレパトアを決定することができる。
【0108】
ヒト試料からTCR遺伝子をPCR増幅し、次世代シーケンス解析技術を利用することで、従来は小規模かつV鎖使用頻度など限られた情報を得るTCRレパトア解析から、クローンレベルのより詳細な遺伝子情報を入手して解析する大規模高効率TCRレパトア解析が実現できるようになった。
【0109】
シークエンシングの手法は、核酸試料の配列を決定することができる限り限定されず、当技術分野で公知の任意のものを利用することができるが、次世代シークエンシング(NGS)を用いることが好ましい。次世代シークエンシングとしては、パイロシーケンシング、合成によるシークエンシング(シークエンシングバイシンセシス)、ライゲーションによるシーケンシング、イオン半導体シーケンシングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
得られたリードデータを、V、D、J遺伝子を含む参照配列にマッピングすることで、ユニークリード数を導出して、TCR多様性を決定することができる。
【0111】
1つの実施形態では、使用される参照データベースは、V、D、J遺伝子領域ごとに準備する。典型的にはIMGTより公開されている領域ごと、アリルごとの核酸配列データセットを使用するが、それに限らず、各配列に一意のIDが割り振られているデータセットであれば利用可能である。
【0112】
得られたリードデータ(トリミングなどの適当な処理を必要に応じて行ったものを含む)を入力配列セットとして、遺伝子領域ごとの参照データベースと相同性検索し、最も近しい参照アリルおよびその配列とのアラインメントを記録する。ここで相同性検索には、Cを除きミスマッチ許容性の高いアルゴリズムを使用することになる。例えば相同性検索プログラムとして一般的なBLASTを使用する場合、ウィンドウサイズの短縮、ミスマッチペナルティの低減、ギャップペナルティの低減といった設定を、領域ごとに行うことになる。最も近しい参照アリルの選択においては、相同性スコア、アラインメント長、カーネル長(連続して一致する塩基列の長さ)、一致塩基数を指標とし、これらを定められた優先順位にしたがって適用する。本開示で使用されるVおよびJが確定した入力配列については、参照V上のCDR3先頭および参照J上のCDR3末尾を目印に、CDR3配列を抽出する。これをアミノ酸配列に翻訳することで、D領域の分類に使用する。D領域の参照データベースが準備できている場合は、相同性検索結果とアミノ酸配列翻訳結果の組合せを分類結果とすることができる。
【0113】
上記により、入力セット中の各配列についてV、D、Jの各アリルがアサインされる。続いて、入力セット全体でV、D、Jの各出現頻度、もしくはその組合せの出現頻度を算出することで、TCRレパトアを導出する。分類に要請される精確さに応じて、出現頻度はアリル単位もしくは遺伝子名単位で算出される。後者は、各アリルを遺伝子名に翻訳することで可能となる。
【0114】
リードデータにV領域、J領域、C領域がアサインされたのち、一致するリードを集計し、ユニークリード(他に同じ配列をもたないリード)別に、試料中に検出されたリード数および全リード数に占める割合(頻度)を算出することができる。 サンプル数、リード種類、リード数などのデータを使って、ESTIMATESあるいはR(vegan)などの統計解析ソフトウェアを用いて多様性指数あるいは類似性指数を算出することができる。好ましい実施形態では、TCRレパトア解析ソフトウェア(Repertoire Genesis Inc.)を用いる。
【0115】
本開示の好ましい実施形態では、大規模高効率TCRレパトア解析を用いてTCR多様性を測定する。本明細書において、「大規模高効率レパトア解析」とは、WO2015/075939(この文献の開示は本明細書においてその全体が必要に応じて参考として援用される。)に記載されており、対象がTCRの場合「大規模高効率TCRレパトア解析」と称する。この方法は、(1)非バイアス的に増幅したT細胞レセプター(TCR)の核酸配列を含む核酸試料を提供する工程;(2)該核酸試料に含まれる該核酸配列を決定する工程;および(3)決定された該核酸配列にもとづいて、各遺伝子の出現頻度またはその組み合わせを算出し、該エフェクターT細胞集団のTCRレパトアを導出する工程を包含し得る。
【0116】
別の実施形態においては、(1)非バイアス的に増幅したTCRの核酸配列を含む核酸試料を提供する工程は、以下の工程:
(1-1)標的となる細胞に由来するRNA試料を鋳型として相補的DNAを合成する工程;
(1-2)該相補的DNAを鋳型として二本鎖相補的DNAを合成する工程;
(1-3)該二本鎖相補的DNAに共通アダプタープライマー配列を付加してアダプター付加二本鎖相補的DNAを合成する工程;
(1-4)該アダプター付加二本鎖相補的DNAと、該共通アダプタープライマー配列からなる共通アダプタープライマーと、第1のTCRのC領域特異的プライマーとを用いて第1のPCR増幅反応を行う工程であって、
該第1のTCRのC領域特異的プライマーは、該TCRの目的とするC領域に十分に特異的であり、かつ、他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程
(1-5)(1-4)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーと、第2のTCRのC領域特異的プライマーとを用いて第2のPCR増幅反応を行う工程であって、該第2のTCRのC領域特異的プライマーは、該第1のTCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;および
(1-6)(1-5)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーの核酸配列に第1の追加アダプター核酸配列を含む付加共通アダプタープライマーと、第2の追加アダプター核酸配列を第3のTCRのC領域特異的配列に付加したアダプター付の第3のTCRのC領域特異的プライマーとを用いて第3のPCR増幅反応を行う工程であって、
該第3のTCRのC領域特異的プライマーは、該第2のTCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;
を包含し得る。この方法の具体的な詳細はWO2015/075939に記載されており、当業者はこの文献および本明細書の実施例等を適宜参照して解析を実施することができる。
【0117】
(2.7.TCRペア同定)
本開示の改変TALENは、TCRペア同定を行い、所望のTCRを導入する際においても利用することができる。
【0118】
本開示の1つの実施形態においては、T細胞集団中に存在するTCRクローンとして、TCRα鎖とTCRβ鎖の対が同定される。TCRは、α鎖とβ鎖の対として抗原特異性を発揮していると考えられ、同定された対を用いることにより、TCRの対を導入することによるT細胞への抗原特異性の付与をより確実に行うことができる。したがって、TCRクローンを同定する工程において、同一の細胞に由来するTCRα遺伝子およびTCRβ遺伝子を増幅し、T細胞集団におけるTCRαおよびTCRβの対を同定することが含まれ得る。さらなる実施形態では、方法は、同定されたTCRαおよびTCRβの対が抗原に対する親和性を有するかを確認する工程をさらに含み得る。なおさらなる実施形態においては、同定されたTCRαおよびTCRβの対におけるTCRαの核酸配列の全部または一部およびTCRβの核酸配列の全部または一部をクローニングする工程をさらに含み得る。
【0119】
本開示の改変TALENは、内因性TCRによって生じ得るミスペアリングを防止することができるため、同定された対をT細胞に導入するにあたり、対が有する抗原特異性を適切に発揮させることができ、好適である。
【0120】
例えば、そのようなペア同定の技術としては、Nature Medicine 19, 1542~1546(2013)に記載されているものを用いることができる。ヒトTCR cDNAを単一の細胞から増幅し、発現ベクターにクローニングし、TCR陰性T細胞(例えば、TG40細胞株)に形質導入する。MHCテトラマーによって当該T細胞を染色するか、またはCD69発現をモニタリングすることによってTCRの抗原特異性を評価する。このようなプロセスの全体は、10日以内に行うことが可能である。
【0121】
また、例えば、J Clin Invest. 2011 Jan;121(1):288-95. doi: 10.1172/JCI44752. Epub 2010 Dec 6.(PMID:21135507)やPloS one [23 May 2012, 7(5):e37338](PMID: 22649519)などにも記載されているような、multiplex PCRによってα鎖とβ鎖を同時に増幅する技術により、単一細胞からのペア同定が理論的に可能である。
【0122】
TCRのペアリングの技術については、すでに商業化されているものもあり、Trends Biotechnol. 2017 Mar;35(3):203-214. doi: 10.1016/j.tibtech.2016.09.010. Epub 2016 Oct 26.(PMID: 28341036)などの総説にも記載されている。当該文献の表2には、一般的なシングルセルのシークエンシング技術が記載されており、例えば、連続流微小流体を用いた技術(Fluidigm、Kolodziejczyk, A.A. et al. (2015) The technology and biology of single-cell RNA sequencing. Mol. Cell 58, 610-620)、プレートをベースにした技術(Cellular Research/BD Biosciences、 65. Fan, H.C. et al. (2015) Expression profiling. Combinatorial labeling of single cells for gene expression cytometry. Science 347,1258367)、ドロップレット(液滴)ベースの微小流体を用いた技術(10X Genomics、76. Murphy, K.M. et al. (2016) Janeway’s Immunobiology. (9th), Garland Science)などが記載されている。それ以外にも、Sci Transl Med. 2015 Aug 19;7(301):301ra131. doi: 10.1126/scitranslmed.aac5624.(PMID:26290413)に記載されているような、単一細胞の単離を必要としないTCRの高スループットペアリングの技術を用いてもよい。当業者は、このような手法を用いてTCRのペアを同定することも可能である。
【0123】
代表的なTCRの対を同定する技術としては、単一の細胞に由来するTCRを解析することが挙げられ、例えば、フローサイトメーターによるソーティング後の解析や、ドロップレット作成装置を用いたシングルセルRNA-seqが存在する。例えば、SMART法によるシングル・セル解析キットが、SMARTer(登録商標) Human scTCR a/b Profiling Kitとして販売されている。逆転写(RT)反応、テンプレートスイッチ(TS)反応および、PCR反応によって、5’端側の配列が未知であったり、共通配列をもたないRNAを増幅することができる。このような方法の改良法も使用可能である。
【0124】
フローサイトメーターによるソーティング後の解析では、目的とする抗原ペプチドが分かっている、または予想される場合には、100~300個程度のシングル・セル解析で、テトラマーを使ってその抗原ペプチドに反応するTCRを保有するT細胞をFACSでソートし、α鎖とβ鎖を決定し、抗原ペプチドに反応するTCRのペアを同定することができる。抗原ペプチドが不明な場合であっても、α鎖のみ、およびβ鎖のみの解析データから確認される保有率の高いα鎖、および保有率の高いβ鎖の情報からその組み合わせを考慮できる場合は、この方法で主要なペアを決定することが可能となる。
【0125】
ドロップレット作成装置を用いたシングルセルRNA-seqは、~10000個のシングル・セル解析が可能であり、上記抗原ペプチドが不明な場合にフローサイトメーターを用いる方法で行うような、二段階での解析を行う必要がなく、~10000個以上のシングル・セルを一回で解析することが可能である。
【0126】
これらの手法は、目的によって使い分けることができる。多くの細胞を解析できるドロップレットベースの方法によりペア同定を行う事で本工程の目的は達成できるが、抗原ペプチドが分かっている、または想定された抗原ペプチドの場合は、テトラマーを作成して100~300個程度のシングル・セルを解析することでも本工程の目的を達成することができる。高機能TCRを見出すことが目的であれば、高々数百個以内のシングルセル解析が対費用効果的にも優れており、低頻度に存在するTCRを(ナイーブ分画のTCRやshared TCRなど)網羅的に解析することが目的であれば、費用はかかるものの、ドロップレットによる解析が有利であると考えられる。
【0127】
シングルセルRNA-Seq法が近年開発され様々な研究に用いられるようになっている(Hashimshony T et al: Cell Rep, 2(3): 666-673, 2012、Hashimshony T et al: Genome Biol, 17: 77, 2016)。シングルセル解析にはFACSソーティング、マイクロウェルまたはマイクロ流体回路など様々な分離装置が用いられる。ドロップレット分離装置を用いた方法は高効率かつ簡便にシングルセルライブラリを作成できる。
【0128】
ドロップレット作製装置を用いたシングルセルRNA-SeqによりシングルセルレベルのTCR解析が可能である。ドロップレット法は100μm程度の油中水滴型ドロップレットにオリゴプローブを固相化した担体と細胞を高速に封入することで、30分程度で10,000細胞ものシングルセルライブラリを作成できる。2016年Cell誌においてMocoskoらはオリゴビーズを用いたDrop-Seq法(Macosko EZ et al: Cell, 161(5): 1202-1214, 2015)を、Kleinらはハイドロジェルを用いたInDrop法(Klein AM et al: Cell, 161(5):1187-1201, 2015)を報告した。いずれもセルバーコード(CBC)と分子識別配列(UMI)を付加したpoly(T)プローブを担体に結合し、マイクロチップを用いてドロップレット中にオリゴ担体と細胞を封入する。その後、cDNA合成、PCR、シーケンスを実施することでscRNA-Seqが可能になった。
【0129】
さらに、Drop-Seq法を改良し、高効率にTCRペア遺伝子を決定するGene Capture Drop-SeqTM法が開発されている。Gene Capture Drop-SeqTM法は、バーコード標識したαおよびβ鎖TCRオリゴマーをマイクロビーズに結合し、ドロップレット内でTCR mRNAを選択的にキャプチャーすることで、高効率にTCRペア遺伝子を決定する技術である。Gene-specific probeを用いてセルバーコード配列とCDR3配列を同時にシーケンスし、ペア遺伝子を決定する方法はハイスペックなシーケンサを必要とすることなく、効率的に多数のペア遺伝子を同定することができる。本技術は、抗体遺伝子の重鎖および軽鎖ペアの決定や特定遺伝子の発現に絞ったサブセット解析にも応用することができる有用なシングルセル解析法である。当業者は、上記のような技術を用いて、T細胞集団中に存在するTCRクローンとして、TCRα鎖とTCRβ鎖の対を同定することができる。
【0130】
(2.8.高機能TCR)
本開示の改変TALENは、高機能TCRの提供において使用することができる。
【0131】
異なる個体間で高頻度に共有されているT細胞クロノタイプのTCRが、全ての機能的T細胞サブセット(ナイーブ、SCM、CM、EM、およびEFF)のレパトアにおいて、そして、抗原特異的T細胞レパトア中において一貫して検出されることが見出されている。本明細書の実施例1において実証されているように、より優勢な抗原特異的TCRが、より高いエピトープ結合親和性を有し、そして、より高度に共有されているクロノタイプに由来することが見出された(
図2)。さらに、実施例1においては、このような抗原特異的TCRは、他のT細胞に導入した場合も抗原親和性を保持していることが実証されている。
【0132】
優勢なCMV NLV特異的クロノタイプのエピトープ結合親和性がより高かったこと、そして、優勢なクロノタイプが、異なる個体間で比較的高い頻度で存在するTCRクロノタイプを共有して含有していることが示されている(例えば、Scientific Reports 7, Article number: 3663 (2017)も参照。その全体は、本明細書において全ての目的のために参考として援用される)。より優勢なCMV pp65特異的クロノタイプがより高いエピトープ結合親和性を有し、より高度に共有されたクロノタイプに由来することが示されている。また、この観察から、所与の個体中に存在する機能的TCRクロノタイプは比較的少数であるものの、これらのクロノタイプは異なる個体間でも高頻度に共有されていることが示唆されている。
【0133】
本開示の1つの実施形態においては、T細胞集団に存在するTCRクローン(核酸配列の全部または一部)をT細胞に導入する工程を含む工程が提供される。上述のように、個体の抗原特異的T細胞集団において優勢に存在するクローンは抗原親和性が高く、このようなクローンの使用は、改変しようとする細胞の抗原特異性の付与において有利である。ただし、抗原特異的なT細胞集団中に存在しているクローンは、比較的少数のクロノタイプで構成されており、そこに含まれるクローンであれば、優勢とは言えない場合であっても抗原特異性の付与において利用可能である。好ましくは、T細胞集団は、抗原特異的なエフェクターT細胞集団である。
【0134】
導入するクローンは、抗原特異的T細胞集団における各クローンの存在頻度の平均より、大きい頻度で存在するクローンであり得る。例えば、導入するクローンは、抗原特異的T細胞集団における各クローンの存在頻度の平均より、1標準偏差以上、2標準偏差以上または3標準偏差以上大きい頻度で存在し得る。
【0135】
導入するTCRクローンは、T細胞集団において、約1、約2、約5、約8、約10%、約12%または約15%以上の頻度で存在し得る。
【0136】
上記のとおり、本開示の改変TALENは、TCRクローンをT細胞に導入する際に、内因性TCR遺伝子による干渉を防ぐことができる点で有用である。上述の高機能TCRクローンを同定し、かかるTCRクローン(その核酸配列の全部または一部)を導入する工程を含む方法において、本開示の改変TALENを使用することができ、かかる方法における使用のための組成物もまた提供される。
【0137】
(2.9.外因性TCRの導入)
本開示の1つの実施形態において、本開示の改変TALENは、TCRをT細胞に導入する工程を含む方法において使用することができる。T細胞は、好ましくは制御性T細胞である。本開示の改変TALENは、内因性TCRの影響を排除することができるため、かかる方法において用いるのに好適である。本開示の一部の実施形態において、TCRをT細胞に導入する工程を含む方法において使用するための改変TALENを含む組成物が提供される。
【0138】
導入する工程は、TCRα遺伝子の核酸配列の全部または一部およびTCRβ遺伝子の核酸配列の全部または一部を導入する工程であり得る。好ましくは、本明細書において記載される高機能のTCRをT細胞に導入する。高機能のTCRは、TCRの対として同定され得、好ましくは、そのようなTCRα鎖とTCRβ鎖とが対になって発現されるように導入する。
【0139】
対になって発現されるような導入については、Cancer Immunol Immunother. 2016 Jun;65(6):631-49(PMID:27138532)などに記載されている。対になって発現されるような導入については、Cys化(Cys残基の導入)によるジスルフィド結合形成以外の方法としてコドン最適化・細胞内領域へのロイシンジッパーの導入・TCRの糖鎖改変などの技術が存在する。
TCR導入ベクターに応用されているミスペアリング回避既存技術としては、例えば、
1)Cysの導入(Blood.109:2331, 2007.)
2)Leucin zipper (Proc Natl Acad Sci. 91:11408, 1994.)
3)2A配列を用いたα・β鎖の均等発現(必要に応じてコドン最適化) (J Mol Med 88:1113, 2010)
4)特定のN-glycosylation部位の除去(J Exp Med. 206:463, 2009.)
5)マウス等の細胞内ドメイン使用(Cancer Res. 66:8878, 2006;J Immunol. 184:6223,2010)
6)単鎖TCRの使用(α-β-Constant)(Blood. 115:5154, 2010)
などが存在する。
【0140】
そのような発現を可能にするようなベクターを用いてTCRを導入することができ、例えば、ベクターは、発現されるTCRαおよびTCRβの間にジスルフィド結合が形成されるようにCysをコードする核酸配列を含むか、TCRαおよびTCRβのコード配列がコドン最適化されているか、TCRαおよびTCRβの細胞内領域へロイシンジッパーが導入されるように構成されているか、または、TCRαおよびTCRβが糖鎖改変されて発現されるように構成されていてもよい。
【0141】
本開示においては、同定したTCRクローンの核酸の全部を導入してもよく、また、結合親和性が維持されれば、一部のみを導入してもよい。1つの実施形態では、Vα-JαのCDR3領域に対応する配列を含むTCRα遺伝子の核酸配列の一部を導入することができる。また、Vβ-D-JβのCDR3領域に対応する配列を含むTCRβ遺伝子の核酸配列の一部を導入することができる。Vα-Jα-CαのcDNA配列を含むTCRα遺伝子の核酸配列の一部を導入することができる。Vβ-D-Jβ-CβのcDNA配列を含むTCRβ遺伝子の核酸配列の一部を導入することができる。
【0142】
本開示の1つの実施形態では、内因性TCRの完全置換のため、内因性TCR遺伝子の除去と、TCRの導入を2ステップで行ってもよい。例えば、T細胞において、内因性TCRαまたは内因性TCRβ遺伝子のいずれか一方を除去する工程と、TCRα遺伝子の核酸配列の全部または一部およびTCRβ遺伝子の核酸配列の全部または一部を該T細胞に導入する工程と、該T細胞において、内因性TCRαまたは内因性TCRβ遺伝子のいずれか他方を除去する工程と、TCRα遺伝子の核酸配列の全部または一部およびTCRβ遺伝子の核酸配列の全部または一部を、該T細胞に再度導入する工程とを含む、方法が提供される。
【0143】
内因性TCRの完全置換において、ウイルスベクターを用いずに、外因性TCRをゲノムにノックインして導入してもよい。ノックイン技術としては、相同組み換え(HR)によるものが知られている。また、相同組み換え(HR)ではなく、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を介する方法を用いてもよい。MMEJは、真核生物が持つDNA修復機構の一つであり、二本鎖切断の際に生じた切断両末端間で、相補的な配列(5~25塩基対)同士で結合し、修復される機構である。MMEJ修復機構を利用して外来遺伝子を挿入するにあたり、ドナーベクターに人工ヌクレアーゼの認識配列を加え、当該配列は、二本鎖切断時に染色体上標的部位とベクターの切断末端とで相補結合するようにする。このドナーベクターを人工ヌクレアーゼ(TALENおよびCRISPR/Casなど)と一緒に導入することにより、標的部位に遺伝子をノックインすることができる(それぞれTAL-PITCh法およびCRIS-PITCh法と称される)(Nature Communications volume 5, Article number: 5560 (2014))。ウイルスベクターを用いて外因性TCRを導入する場合、実際的に問題となる確率ではないとしても、理論的には発がん性が存在することから、ウイルスベクターを用いないことは、かかるリスクを回避できる点で有利であり得る。
【0144】
(2.10 細胞集団)
本開示の1つの実施形態では、目的の外因性TCRを含む細胞の細胞集団であって、当該目的の外因性TCR以外の外因性TCRを含む細胞の割合が低減されている細胞集団が提供される。本発明の細胞集団において、目的の外因性TCR以外の外因性TCRを含む細胞の割合は、例えば、約20%、約15%、約12%、約10%、約7%、約5%、約3%、約2%または約1%未満であるか、本発明の細胞集団は、目的の外因性TCR以外の外因性TCRを含む細胞を実質的に含まない。目的の外因性TCRの非限定的な例としては、NY-ESO-1に対する特異性を有するものが挙げられる。
【0145】
目的の外因性TCR以外の外因性TCRは、目的の外因性TCRのα鎖とβ鎖の対以外のTCRを包含し、例えば、導入したTCR鎖と内因性TCR鎖との意図しない対合(ミスペアリング)の結果発現しているTCRが包含される。従来、外因性TCRを含む細胞の細胞集団を作出する際には、内因性TCRとのミスペアリングが生じること、これにより、抗原特異性の喪失および/または意図しない抗原特異性の出現の可能性が報告されており、かかるミスペアリングを低減する方法が検討されていたが、例えば、内因性TCRの発現をsiRNAにより抑制し、TCR導入ベクターにおいてCys修飾を用いたとしても、TCRミスペアリングの割合は12~22%程度までの低減に留まることが報告されている(Okamoto et al., Molecular Therapy-Nucleic Acids (2012) 1, e63)。
【0146】
本開示の1つの実施形態は、上述の細胞集団を作出する方法であって、細胞から内因性TCRを除去する工程と、外因性TCRをコードする核酸を内因性TCRが除去された細胞に導入する工程とを含む、方法を提供する。本方法における内因性TCRを除去する工程および外因性TCRをコードする核酸を内因性TCRが除去された細胞に導入する工程は、本明細書に記載されるか、または当業者に周知の技術を用いてよい。例えば、内因性TCRの除去は、本明細書に記載される改変TALENによって行ってよい。例えば、外因性TCRをコードする核酸の導入は、本明細書に記載されるCys修飾を有するベクターを用いて行ってよい。
【0147】
(2.11 その他の応用例)
このほか、本開示の改変TALENは、T細胞の特異性を操作するのに有用である。本開示の改変TALENを用いてミスペアリング/オフターゲットが生じないように外因性TCRを発現するように操作されたT細胞を養子免疫療法等に利用することができる。
【0148】
本開示の制御性T細胞を、自己免疫疾患、アレルギー疾患、または移植の際の移植片対宿主病(GVHD)、拒絶反応もしくは生着不全の処置、治療または予防に用いることができる。抗原特異的制御性T細胞は、当該抗原に対する免疫応答の抑制に有効であると考えられるからである。
【0149】
自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質症候群、多発性筋炎・皮膚筋炎、全身性硬化症、混合結合組織病、血管炎症候群、I型糖尿病、グレーブス病、橋本病、特発性アジソン病、自己免疫性肝炎、グッドパスチャー症候群、糸球体腎炎、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性好中球減少症、重症筋無力症、天疱瘡、白斑、特発性無精子症、などが挙げられるが、これらに限定されない。アレルギー疾患としては、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などが挙げられるが、これらに限定されない。その他、特定の抗原への異常な免疫応答が発症や病態の進展に関与する疾患に対して、本開示の抗原特異的制御性T細胞による処置や予防を用いることが可能である。
【0150】
(3.キット)
本開示において、TCR遺伝子を編集するためのキットもまた提供される。キットは、本開示の改変TALENを含む組成物または組み合わせ物と、内因性TCR遺伝子の変異を確認する手段、および/または内因性TCR遺伝子の除去を確認する手段とを備え得る。
【0151】
さらなる実施形態では、キットは、本開示の改変TALENを含む組成物または組み合わせ物と、外因性TCR遺伝子を導入する手段、および/または遺伝子が導入された細胞を検出する手段とを備え得る。さらに、キットは、内因性TCR遺伝子を外因性TCR遺伝子で置換するためのものであり得る。また、キットは、TCR改変T細胞を製造するために用いることができ、TCR改変T細胞は、例えば、TCR改変制御性T細胞である。
【0152】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0153】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0154】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0155】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる対象の取り扱いは、必要な場合、国の定めるヒトゲノム遺伝子・解析研究に関する倫理指針、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、広島大学において規定される基準を遵守し、明示していない場合であっても、動物実験が関与する場合は、動物愛護精神および関連する法規に従って行った。
【0156】
(実施例1:高アフィニティクローンの同定・クローニング)
(概要)
本実施例は、免疫学的に優勢なクローンは高アフィニティクローンであることおよびかかるクローンの同定・クローニングの方法を実証することを目的とする。
【0157】
T細胞集団を抗原刺激した後の、抗原特異的なT細胞集団におけるTCRクローンの存在頻度の分布を測定し、各TCRクローンについてクローニングを行った。各TCRクローンの抗原への結合能を測定したところ、T細胞集団において優勢なクローンが高い抗原結合能を有していることが見出された。本実施例に関する情報については、Scientific Reports 7, Article number: 3663 (2017)にも記載されており、その全体は、本明細書において全ての目的のために参考として援用される。
【0158】
(材料および方法)
[ドナーサンプル]
本実施例は、ヘルシンキ宣言の原則に従って行われ、ヒトサンプルを用いる全ての実験は、広島大学の倫理委員会の承認を受けたプロトコルに従ってなされた。書面による同意を提供した5人の健康なドナーから、末梢血単核細胞(PBMC)を得た。全てのドナーをCMV血清状態についてスクリーニングし、そして、高解像度Luminex法を用いて、HLA-A、-B、-C、-DRB1、-DQB1および-DPB1アレルについてジェノタイピングした。PBMCを、標準Ficoll勾配分離プロトコルを使用して単離し、そして、液体窒素中で保管した。
【0159】
[フローサイトメトリー分析およびセルソーティング]
細胞表面分子の発現を、以下の蛍光標識モノクローナル抗体(mAb)を用いて決定した:アロフィコシアニン(APC)コンジュゲートもしくはフルオロセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート抗CD8、アロフィコシアニン-hilite7(APC-H7)コンジュゲート抗CD3、フィコエリスリン-cyanine7(PE-Cy7)コンジュゲート抗CD45ROmAb、brilliant violet 510(BV510)コンジュゲート抗CD62LmAb、brilliant violet 421(BV421)コンジュゲート抗CD197mAb、APCコンジュゲート抗CD95およびAPCコンジュゲート抗TCRαβ。これらの抗体は、BD Bioscience (San Jose, CA)から購入した。CMV pp65特異的T細胞を、フィコエリスリン(PE)コンジュゲートHLA-A*02-ペプチドテトラマーと、Kuzushima, K. et al. Tetramer-assisted identification and characterization of epitopes recognized by HLA A*2402-restricted Epstein-Barr virus-specific CD8+ T cells. Blood 101, 1460-1468 (2003)に記載されるように反応させた。テトラマーのMHC-I上のCD8結合部位はインタクトであった。本発明者らは、HLA-A*02拘束性CMVpp65ペプチド(NLVペプチド)のNLVPMVATV(配列番号2)配列をモデル抗原として選択した。MHCテトラマー染色を室温で15分間行い、その後、細胞表面染色を、4℃で30分間行った。全ての実験で用いたテトラマーの濃度は、系列希釈実験を除いて、10μg/mlであった。非特異的テトラマー染色を、ネガティブコントロールテトラマー(HLA-A2-HIV(KLTPLCVTL(配列番号3))テトラマー-PE)を用いてチェックした。
【0160】
フローサイトメトリー分析およびセルソーティングは、それぞれFACSCanto II(BD Biosciences, San Jose, CA)およびFACSAria(BD Biosciences, San Jose, CA)を用いて行った。全てのフローサイトメトリーデータは、FlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用いて分析した。7-AADを用いて死細胞および損傷細胞を除去し、そして、FSC-A/FSC-HおよびSSC-A/SSC-Hを用いてダブレット細胞を除去した。CD3+CD8+T細胞を、さらに以下に示す機能的サブセットに分画した:ナイーブ、CD45RO-CD62L+CCR7+CD95-;SCM、CD45RO-CD62L+CCR7+CD95+;CM、CD45RO+CD62L+CCR7+;EM、CD45RO+CD62L-CCR7-;EFF、CD45RO-CD62L-CCR7-。
【0161】
[細胞培養]
PBMCおよびソートしたCD8+T細胞は、10% AB血清、2mmol/l L-グルタミンおよび1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するX-VIVO20(Lonza, Walkersville, MD)中で培養した。Bリンパ芽球細胞株(B-LCL)は、10% FBS、2mmol/l L-グルタミンおよび1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI1640(Sigma-Aldrich, St Louis, MO)中で培養した。全ての細胞は、5%CO2含有雰囲気中、37℃で加湿インキュベーター内で培養した。
【0162】
5μg/ml PHA-L(Sigma-Aldrich, St Louis, MO)を含有するCTL培地においてPBMCを培養することにより、フィトヘマグルチニン(PHA)芽球を生成し、翌日、)IL-2(Peprotech, Rocky Hill, NJ)を50U/mlの最終濃度まで添加した。次いで、培地の半分を、IL-2(50U/ml)およびIL-7(Peprotech, Rocky Hill, NJ)(20ng/ml)を含有する新鮮な培地で、各週2回置換した。PHA芽球は、培養開始の14日後に使用した。
【0163】
CRISPR-Cas9によってTCR発現を欠損するように操作されたJurkat細胞は以下のとおり確立した。簡潔には、内因性TCRα鎖のCRISPR/Cas9媒介ノックアウトの後、CD3陰性細胞をフローソーティングによって富化した。ソートした細胞を、TCRα鎖を含むエピソームベクターで形質導入し、次いで、CD3陽性細胞(形質導入されたα鎖および内因性β鎖を有するJurkat細胞)をフローソーティングによって富化した。ソートした細胞の内因性TCRβをCRISPR/Cas9でノックアウトし、次いで、CD3陰性細胞(内因性TCRαおよびTCRβを有しないJurkat細胞)を富化した。次いで、フローサイトメトリーによるシングルセルソーティング法を用いて、Jurkat細胞のシングルセルクローニングを行った。最後に、クローニングしたJurkat細胞にTCRβ鎖を形質導入し、次いで、内因性TCRα、内因性TCRβおよび形質導入TCRαの全てが陰性のJurkatクローンを選択した。クローンのTCRα陰性は、TCRβをクローンに形質導入することによって確認し、そして、クローンのTCRβ陰性は、TCRαをクローンに形質導入することによって確認した。このクローンを、pMX-CD8α発現ベクターによっても形質導入し、抗CD8mAbによって明るく染色した。
【0164】
[CMVpp65特異的T細胞のin vitro刺激]
CD8マイクロビーズを用いて、PBMCからCD8+T細胞を単離した。CD4+ T-cell isolation kit(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を用いて、残りの細胞から、CD4+T細胞を除去した。残りのCD4/CD8ダブルネガティブ細胞を、抗原提示細胞(APC)として使用した。放射線照射(35Gy)後、APCを、室温で2時間NLVペプチドに曝露し、IL-2およびIL-7を含有するCTL培地中で、等数のCD8+T細胞と共培養した。合成NLVペプチドは、GenScript(Piscataway, NJ)から購入した。培地の半分を、各週2回交換した。
【0165】
[高スループットNGSを用いたTCRレパトアの半定量的解析]
アダプターライゲーションPCRを用いた非バイアス的遺伝子増幅法およびNGSを用いた網羅的TCレパトア解析は、簡潔には以下のとおり行った。総RNAをPBMC(5×106)、またはソートされたT細胞から抽出し、ポリ(T)18およびNotI部位を含むBSL-18Eプライマーを用いてcDNAに変換した。その後、二本鎖(ds)DNAを合成し、T4 DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を用いて平滑末端化した。P10EA/P20EAアダプターをdsDNAの5’末端にライゲーションし、次いで、NotIで切断した。アダプターおよびプライマーを除去した後、TRA定常領域特異的プライマーまたはTRB定常領域特異的プライマーと、P20EAとを用いてPCRを行った。第2のPCRを、同一のPCR条件を用いて、定常領域特異的P20EAプライマーによって行った。第2のPCRの産物を、Illumina Miseqプラットフォームを用いる高スループットシーケンシングのために用いた。低クオリティスコアの配列を除去した後、TCRレパトア分析を、Repertoire Genesis Incorporation (Ibaraki, Japan)によって作成されたバイオインフォマティクスソフトウェアを用いて行った。個々の手順のさらなる詳細は、下記の項目に記載される。
【0166】
[TCR遺伝子の非バイアス的増幅]
RNeasy Lipid Tissue Mini Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて、Manufacturer’s instructionに従って、総RNAをPBMCまたはソートしたT細胞から抽出した。RNA量および純度を、Agilent 2200 TapeStation(Agilent Technologies, Palo Alto, CA)を用いて測定した。1μgの総RNAを、Superscript III reverse transcriptase(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてcDNAに変換した。cDNA合成には、ポリ(T)18およびNotI部位を含むBSL-18Eプライマーを用いた。cDNAの合成後、Escherichia coli DNA polymerase I(Invitrogen)、E. coli DNA Ligase(Invitrogen)およびRNase H(Invitrogen)を用いて二本鎖(ds)cDNAを合成した。dscDNAの末端は、T4 DNA polymerase(Invitrogen)を用いて平滑末端化した。dscDNAの5’末端にP10EA/P20EAアダプターをライゲーションし、次いで、NotIで切断した。MinElute Reaction Cleanup kit(Qiagen)によるアダプターおよびプライマーの除去後、TCRα鎖定常領域特異的プライマー(CA1)またはTCRβ鎖定常領域特異的プライマー(CB1)のいずれかと、P20EAとのプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃(30秒)、55℃(30秒)および72℃(1分)を20サイクルであった。第2のPCRを、CA2またはCB2のいずれかと、P20EAとのプライマーにより、同一のPCR条件を用いて行った。
【0167】
用いたプライマーは、以下の表に示される。
【表1】
【0168】
[Roche 454シーケンシングシステムを用いたアンプリコンシーケンシング]
NGSのためのアンプリコンは、第2のPCRの産物から、P20EAプライマーおよび融合タグプライマー(表1)を用いて調製した。融合タグプライマーは、Aアダプター配列(CCATCTCATCCCTGCGTGTCTCCGAC(配列番号34))、4塩基のシーケンスキー(TCAG)、および分子同定(MID)タグ配列(10ヌクレオチド)を含んだ。TCR定常領域特異的配列は、Manufacturer’s instructionに従って設計した。PCR増幅の後、アンプリコンを、アガロースゲル電気泳動を用いて評価した。不完全フラグメントまたはプライマーは、Agencourt AMPure XP(Beckman Coulter, Brea, CA)を用いて、Manufacturer’s instructionに従って除去した。精製したアンプリコンの量は、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて定量した。異なる融合タグプライマーにより10サンプルから得られた各アンプリコンを、等モル濃度で混合した。エマルジョンPCR(emPCR)を、アンプリコン混合物を用いて、GS Junior Titanium emPCR Lib-L kit(Roche 454 Life Sciences, Branford, CT)により、Manufacturer’s instructionに従って行った。
【0169】
[TRVおよびTRJセグメントの割り当て]
全ての配列リードは、そのMIDタグ配列に従って分類した。人工的に付加した配列(タグ、アダプターおよびキー)および低クオリティスコアの配列を、454 Sequencing Systemとともに提供されているソフトウェアを用いて配列リードの量末端から除去した。残りの配列を、TCRα配列のTRAVおよびTRAJ、ならびにTCRβ配列のTRBVおよびTRBJの割り当てに使用した。配列の割り当ては、ImMunoGeneTics Information System(IMGT)データベース(http://www.imgt.org)から利用可能であるリファレンス配列(54のTRAV、61のTRAJ、65のTRBVおよび14のTRBJ遺伝子(偽遺伝子およびオープンリーディングフレーム(ORF)リファレンス配列を含む)のデータセットにおける、最も高いパーセント同一性を有するものを決定することによって行った。データ処理、割り当て、およびデータ集約は、Repertoire Genesis Incorporation(Osaka, Japan)によって独自に開発されたレパトア解析ソフトウェア(Repertoire Genesis, RG)を用いて自動的に行った。RGは、まずBLASTNおよびIMGTデータセットを用いてTRVおよびTRJアレルをクエリに割り当てる。クエリおよびリファレンス配列の間の同一性をこのステップで算出した。感度および正確性を増加させるパラメータ(E値閾値、ミニマムカーネル、高スコアセグメントペア(HSP)スコア)wp、各レパトア解析について最適化した。次いで、RGは、クエリのCDR3領域を、翻訳されるリーディングフレームを検討することにより推定する。次いで、RGは、TRV-CDR3-TRJパターンの分布を算出し、グラフィック(例えば、TRV-TRJ使用ヒストグラムやCDR3長分布チャート)を生成する。これらのステップは、クエリの入力後自動で行われた。
【0170】
[データ分析]
CDR3領域の翻訳されたヌクレオチド配列は、IMGT命名法に従って、保存されているCys104から、保存されているPhe118またはGly119の範囲にわたった。ユニーク配列リード(USR)は、TRV、TRJおよび他の配列リードのCDR3ドメインの演繹アミノ酸配列に対して0%の同一性として定義した。RGソフトウェアは、自動的に各サンプル中の同一のUCRのコピー数をカウントし、次いで、コピー数の順にそれらをランク付けた。TRAV、TRAJ、TRBVおよびTRBJ遺伝子の配列リードのパーセンテージ頻度を算出した。
【0171】
[シングルセルソーティングおよびRT-PCR]
単一の細胞によって発現されるCMV NLV特異的TCRαβ対を同定および特徴付けるため、本発明者らは、以下のとおり改変したhTEC10システム(Kobayashi, E. et al. A new cloning and expression system yields and validates TCRs from blood lymphocytes of patients with cancer within 10 days. Nat. Med. 19, 1542-1546 (2013).、Hamana, H., Shitaoka, K., Kishi, H., Ozawa, T. & Muraguchi, A. A novel, rapid and efficient method of cloning functional antigenspecific T-cell receptors from single human and mouse T-cells. Biochem. Biophys. Res. Commun. 474, 709-714 (2016).)を用いた。CD8/NLVテトラマーダブルポジティブ細胞を、96ウェルPCRプレートの各ウェルにソートした。マルチプレックスRT-PCRを用いて、cDNAを合成・増幅した。TCRα鎖およびTCRβ鎖をコードする配列を増幅するために用いた遺伝子特異的プライマーは、IMGTデータベース(http://www.imgt.org/)から得られたリーダーペプチド配列から設計した。PCR反応については、以下の「TCRAおよびTCRB対のRT-PCR分析」で詳述する。TCRレパトア分析を、IMGT/V-Quest tool(http://www.imgt.org/)を用いて行った。
【0172】
[TCRAおよびTCRB対のRT-PCR分析]
RT-PCRは、0.1μlの40U/μl RNase Inhibitor(NEB, Ipswich, MA)、0.1μlの200U/μl PrimeScript II RTase(TaKaRa, Otsu, Japan)、0.4μlのプライマー混合物、0.025μlの2.5U/μl PrimeStar HS DNA Polymerase(TaKaRa)、0.4μlの2.5mM dNTPおよび2.5μlの5×PrimeStar GC buffer(TaKaRa)を含有する反応混合物中で行った。DEPC処置したH2Oを加え、最終体積を5μlにした。RT反応は、45℃で40分間行い、その後、以下のPCR反応を行った:98℃で1分間、その後、98℃で10秒、55℃で5秒、および72℃で1分を30サイクル。PCR反応物は、水で10倍に希釈し、その後のネステッドPCRのためのテンプレートDNAとして用いた。TCRAおよびTCRBの増幅のためのネステッドPCRは、異なる96ウェルPCRプレートで行った。反応混合物は、第1のPCR反応からの2μlのDNAテンプレート、0.4μlの10μMのそれぞれの特異的プライマーセット(TCRαについてA-ADおよびA-RV2プライマー、TCRβについてB-ADおよびB1-RV2プライマー、B2-RV2プライマー)、0.1μlの2.5U/μl PrimeSTAR HS DNA Polymerase、1.6μlの2.5mM dNTP、10μlの5×PrimeSTAR GC Buffer、0.1μlの2.5U/μlおよびH2O(最終体積20μlまで添加)を含んだ。PCRサイクルは、以下のとおりであった:98℃で1分間、その後、98℃で10秒、55℃で5秒、および72℃で1分間を35サイクル。TCRAおよびTCRBのPCR産物を、サンガーシーケンシングで分析した。
【0173】
[クローニングされたTCRの結合能の確認]
1)上記クローニングされた各TCRαβペア遺伝子(CMVpp65 NLVPMVATV : NLV特異性)をTCRαβ欠損 Jurkat cellにレトロウイルスベクター(pMXs-IRES GFP)を用いて遺伝子導入した。
【0174】
2)各TCR遺伝子が導入されたJurkat cellからセルソーター(AriaII)を用いてGFP陽性細胞を分離した。
【0175】
3)各TCRが導入されたJurkat cellを、濃度が2、4、6、8、10μg/mlと段階希釈されたNLVテトラマーで染色した。
【0176】
4)フローサイトメトリーを用いてテトラマー陽性細胞の蛍光強度(MFI)を測定し各TCRのテトラマーとの結合力を解析した。
【0177】
(結果)
結果は、
図1および
図2に示される。ドナーV001およびV004について、
図1に示されるクロノタイプを有するT細胞クローンが、抗原特異的なクロノタイプとして同定された。非常に少数のクローンによって抗原特異的なクローンの集団が構成されていることが見出された。
【0178】
さらに、上記方法により測定した各TCRクローンの存在頻度と、抗原への結合性の比較を
図2に示す。結果から、存在頻度と結合親和性との直線的な相関がみられ、抗原特異的T細胞集団内で優勢なクローンが高アフィニティクローンであることが理解される。
【0179】
(実施例1-2)
上記実施例1における[高スループットNGSを用いたTCRレパトアの半定量的解析]の工程を、異なるシーケンサ(Miseq, Illumina)を用いて、以下の手順で行った。
【0180】
[実験プロトコールの変更点の概要]
RNA~二本鎖DNA合成までは実施例1と同一工程で行った。PCRは1st PCR、2nd PCRまで同一工程で、それ以降をMiseq用のPCR(Tag PCRとIndex PCR)として行った。試薬の変更点として、次世代シーケンスのPCR酵素として推奨されるKAPA HiFi HotStart ReadyMixを使用した。
【0181】
3-2-9:サンプル操作7(1st、2nd PCR)
※ヒトTCRαβの2遺伝子を解析するための流れを記載する。
【0182】
<1st PCR>
1サンプル分の試薬量を示す。
10μLの2×KAPA HiFi Hot Start Ready Mixを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
7.6μLのDW(DNA専用、ボトル)を、それぞれαもしくはβチューブに加える。0.2μL 10μM P20EA primerを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
0.2μL 10μM CA1 primerをαチューブに、0.2μLの10μM CB1 primerをβチューブに加える。
αもしくはβ液が入ったチューブに、各dsDNAサンプルを2μLずつ加える。
サーマルサイクラーより該当する設定(プログラム名:KAPA20、条件は95℃ 3min、20cycles(98℃ 20sec、65℃ 30sec、72℃ 1min)、72℃ 2min、最後、12℃ forever)を選択する。
【0183】
<2nd PCR>
1サンプル分の試薬量を示す。
10μLの2×KAPA HiFi Hot Start Ready Mixを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
6μLのDWを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
1μLの10μM P20EA primerを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
1μLの10μM CA2 primerをαチューブに、1μLの10μM CB2 primerをβチューブに加える。
αもしくはβの1stPCR産物を、それぞれのαもしくはβPCR用2ndPCRチューブに2μLずつ加える。
サーマルサイクラーより該当する設定(プログラム名:KAPA20、条件は95℃ 3min、20cycles(98℃ 20sec、65℃ 30sec、72℃ 1min)、72℃ 2min、最後、12℃ forever)を選択する。
【0184】
<DNA精製1>
3-2-10:サンプル操作8(AMpure 精製1)
本工程ではBECKMAN COULTER社のAgencourt AMPure XPを用いる。
AMPure XPビーズを均一になる迄よく混和し、8μLをチューブ分注する。
10μLの2ndPCR産物をAMPure XPビーズを分注したチューブに加え、MM-Separater M96(マグネットプレート)にセットし、磁気ビーズを集める。
上清を除去し、70%エタノールを200 μLでリンス、MM-Separater M96にセットし、磁気ビーズを集める。
上清を完全に除去し、30μLのDW(DNA用、ボトル)分注し、ボルテックスする。MM-Separator M96にセットして磁気ビーズを集める。
上清を25μL回収する。
【0185】
<Tag PCR>
3-2-11:サンプル操作9(Tag PCR)
10μLの2×KAPA HiFi Hot Start Ready Mixを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
4.2μLのDW(DNA専用、ボトル)を、それぞれαもしくはβチューブに加える。0.4μL 10μM P22EA-ST1-R primerを、それぞれαもしくはβチューブに加える。
0.4μL 10μM CA-ST1-R primerをαチューブに、0.4μL の10μM CB-ST1-R primerをβチューブに加える。
αもしくはβ試薬混合液が入ったチューブに、各2ndPCR精製済みサンプルを5μLずつ加える。
サーマルサイクラーより該当する設定(プログラム名:KAPA20、条件は95℃ 3min、20cycles(98℃ 20sec、65℃ 30sec、72℃ 1min)、72℃ 2min、最後、12℃ forever)を選択する。
【0186】
<DNA精製2>
3-2-14:サンプル操作11(AMpure精製2)※
※本項の操作は、プロトコール「3-2-10:サンプル操作8(AMpure 精製1)」と同一である。
【0187】
<複数検体を1回のシーケンスで解析するためのIndex PCRの設計>
3-2-15:サンプル操作12(Index PCRに必要なシートの作成)
3-2-15-1:要点
Index PCRは各サンプルにインデックス配列、およびP5/P7配列(フローセルに結合する部分)を付加するために行うものである。
予めサンプルとプライマーの並び順(マトリックス)を決め、Illumina Experiment Managerでサンプルシートを作成する。
インデックスプライマーはイルミナの既製品(Nextera XT Index Kit v2 Set A)を用いる。
【0188】
<Index PCR>
3-2-16:サンプル操作13(Index PCR)
本手順書では1サンプル分の試薬量を示す。
10μLの2×KAPA HiFi Hot Start Ready Mixをチューブに加える。
4μLのDW(DNA用、ボトル)を、チューブに加える。
PCR8連チューブに14μL分注していく。
2μLずつNプライマーを分注していく。
2μLずつSプライマーを分注していく。
Tag PCR精製済みサンプルを所定のチューブに2μLずつ分注していく。
サーマルサイクラーより該当する設定(プログラム名:INDEX12、条件は95℃ 3min、12cycles(95℃ 30sec、55℃ 30sec、72℃ 30sec)、72℃ 5min、最後、4℃ forever)を選択する。
【0189】
<電気泳動>
3-2-17:サンプル操作14(電気泳動と評価2)
※TCR遺伝子の場合はおよそ650bpとなる。
1.5%アガロースゲル調製し、染色はAtlas ClearSightを用いる。
泳動槽にゲルを設置し、4μLのindex PCR産物を100bp DNAラダー、10x Dyeとともに電気泳動(100Vで30分間)し、UVトランスイルミネーターやデジカメを用いて増幅結果を評価する。
※著しく薄い場合は、プロトコール「3-2-16:サンプル操作13(Index PCR)」に戻り、PCR条件を変更する(15サイクルに増やす)必要がある。
【0190】
<濃度測定1>
3-3-3:サンプル操作1(QubitによるDNA濃度測定)
Index PCR産物を用いてDW(DNA用、ボトル)で10倍希釈する。
Qubit dsDNA HS Assay kitに付属のdyeを、付属のbufferで200倍希釈する。
500μL専用チューブ2本(Standard用)に190μL、検体用は198μLのdye希釈液を加える。
dye希釈液190μLを加えた500μL専用チューブ(2本)に、Qubit dsDNA HS Assay kitに付属のStandard#1、Standard#2を、それぞれ10μL加える。
dye希釈液198μLを加えた500μL専用チューブ(10本)に、Index PCR産物を2μL加える。
Qubitを起動し、測定モード「dsDNA」を選択、続いて「High Sensitivity」を選択する。
測定画面に移動し、一番下の「Read standards」を選択する。
順番にStandard#1、Standard#2を測定し、値として「数十」、「数万」になることを確認する。
検体のインプット量を2μL設定し、測定する。
※測定範囲が0.1~50ng/μLであるため、レンジを超えた場合は希釈して測定を再度行う。
測定結果をもとに、複数の検体(通常Miseqのシーケンスでは50~60検体を同時に測定する)から等量のDNA量が混合できるように別チューブに分注し、プール検体とする。
【0191】
<DNA精製3>
3-2-18:サンプル操作15(AMpure精製3)
※本項の操作は、プロトコール「3-2-10:サンプル操作8(AMpure 精製1)」と操作は同一であるが、プール検体の液量に合わせて調整する。
【0192】
<濃度測定2>
3-3-3:サンプル操作1(QubitによるDNA濃度測定と希釈)と同様の操作となる。
Miseqでシーケンスに用いる検体濃度は4nM(650bpの場合は1.72ng)であるため、測定後に指定濃度まで希釈する。
【0193】
<Miseqを用いたシーケンスラン>
3-3:MiSeqシーケンス解析
3-3-4:サンプル操作2(Phi-X、DNAライブラリーの変性)
5μLの0.2N-NaOHと、5μLの4nMに調製されたプール検体(DNA)を混合する
5μLの0.2N-NaOHと、5μLの4nMに調製されたPhiX(シーケンス安定化試薬、ランダムな塩基が入っている)を混合する。
それぞれにHyb-Bufferを分注し、最終濃度が10pM、DNA:PhiX=4:1(PhiXが20%)になるように混合、最終調製する。
【0194】
3-3-5:サンプル操作3(Miseq ラン)
シーケンス解析ではイルミナ社のMiseqを用い、主なシーケンス試薬はMiSeq Reagent Kit v3(600サイクル)MS-102-3003を使用する。操作方法は、解凍した試薬カセットに、最終調整した検体を指定されたウェルに分注し、機器にセットする。
以下にプライマー配列等の情報を記載する。
【表2】
【0195】
Index PCR primerのさらなる情報については、https://support.illumina.com/content/dam/illumina-support/documents/documentation/chemistry_documentation/experiment-design/illumina-adapter-sequences_1000000002694-01.pdfを参照のこと。
【0196】
(実施例1-3)
実施例1における[シングルセルソーティングおよびRT-PCR]、[TCRAおよびTCRB対のRT-PCR分析]の部分を以下のような手順で行うことも可能である。本手順は、Drop-Seq法を改良し、高効率にTCRペア遺伝子を決定するGene Capture Drop-SeqTM法として開発されたものである。TCR特異的オリゴビーズの作製法とGene Capture Drop-SeqTM法を用いたシングルセルTCRペア遺伝子決定法が記載される。本手順のさらなる詳細は、羊土社「実験医学・別冊」シングルセル解析プロトコール(2017年10月10日号)に記載されており、当該文献は、その全体が本明細書において参考として援用される。
【0197】
[準備]
(機器)
□ ドロマイトバイオ社製シングルセルRNA-Seqシステム(
図19A)
(Pポンプ3台、流量計3セット、細胞撹拌機、デジタル顕微鏡、シングルセルRNA-Seqチップ)
□ MiSeqシーケンサ(イルミナ社)
□ Qubit 3.0フルオロメーター(サーモフィッシャー サイエンティフィック社)
【0198】
シングルセル分離装置(ドロマイトバイオ社)は、Pポンプ3台、流量計3セット、細胞撹拌機、デジタル顕微鏡、シングルセルRNA-Seqチップから構成される。モニタを装備しており、ドロップレット形成をリアルタイムで確認でき、様々なアッセンブルが可能な拡張性の高い仕様となっている。
【0199】
(試薬)
1.ビーズオリゴ作成
□ TE 10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA
□ TE/TW 10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA、0.1% Tween20
□ TE/SDS 10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA、0.5% SDS
□ Bst反応停止液 100mM KCl、10mM Tris-HCl(pH8.0)、50mM EDTA、0.1% Tween20
□ NaOH洗浄液 I 150mM NaOH、0.5% Brij35P
□ NaOH洗浄液 II 100mM NaOH、0.5% Brij35P
□ 中和緩衝液 100mM NaCl、100mM Tris-HCl(pH8.0)、10mM EDTA、0.1% Tween20
□ オリゴ固相化ビーズ(カスタム合成、Chemgene社)
1 (
図19B)
□ 合成DNA
□ Bst 3.0 DNA Polymerase(NEB)
□ Exonuclease I(NEB)
【0200】
1オリゴビーズは米国ChemGene社へ合成委託する。MocoskoらのRNA-Seq用オリゴビーズはSMART配列(配列番号45)に続き、12塩基のミックス&プール塩基(セルバーコード配列、J)、8塩基のランダム配列(分子識別配列、N)および30塩基のPoly(T)配列から成る。Gene CaptureにはPoly(T)配列の代わりにアニーリング配列を付加し、エクステンション反応によりシングルビーズにTCRα鎖C領域特異的プローブとTCRβ鎖C領域特異的プローブの両プローブを結合させる。
【0201】
プローブオリゴはエクステンション反応によりビーズに結合される。アニーリング配列をもつGene-specific probe(GSP)を合成し、伸長反応を行うことで目的遺伝子のオリゴビーズを作成することができる。ペアとなる2つの遺伝子には同じセルバーコード配列がついており、シーケンス配列からペア遺伝子を決定することができる。
【0202】
2.細胞分離
□ 血清培地 RPMI1640(和光純薬)、10%FCS、ペニシリン・ストレプトマイシン(和光純薬)、50μM 2-メルカプトエタノール
□ ACK溶解緩衝液 0.15M NH4Cl、0.01M KHCO3、0.1mM
Na2EDTA、pH7.2~7.4
□ 70μm セルストレイナー(コーニング社)
□ MACS分離用磁気装置(ミルテニー バイオテク社)
□ CD8a+ T Cell Biotin-Antibody Cocktail(ミルテニー バイオテク社)
□ Anti-Biotin MicroBeads(ミルテニー バイオテク社)
□ MACS LSカラム(ミルテニー バイオテク社)
□ MACS緩衝液 PBS、2mM EDTA、0.5% BSA
【0203】
3.シングルセル分離
□ 100μm フィルター
□ 40μm フィルター
□ 細胞溶解液 200mM Tris-HCl(pH7.5)、6%フィコールPM400(GEヘルスケア社)、0.2%サルコシル(20% N-Lauroylsarcosine sodium salt、シグマ アルドリッチ社)、20mM EDTA、1.5M Betaine、0.2 ×SSC、5% DMSO
□ 1M DTT
□ 細胞用緩衝液 PBS、0.01% BSA
□ Droplet Generator オイル for EvaGreen(バイオラッド社)
□ パーフルオロオクタノール (PFO、シグマ アルドリッチ社)
□ 6×SSC
【0204】
4.テンプレートスイッチ逆転写反応
□ Superscript IV (サーモフィッシャー サイエンティフィック社)□ 10mM dNTPs(プロメガ社)
□ RNasin(登録商標) Plus RNase Inhibitor(プロメガ社)
□ KAPA HiFi HotStart ReadyMix(KAPAバイオサイセンス社)
□ TSOオリゴ:GTCGCACGGTCCATCGCAGCAGTCACAGG(lG)、lG:LNAオリゴ(配列番号40)
□ TSO PCRプライマー:GTCGCACGGTCCATCGCAGCAGTC(配列番号41)
□ SMART PCRプライマー:AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT(配列番号42)
□ TSO_TAGプライマー:GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGCGTCGCACGGTCCATCGCAGCAGTC(配列番号43)
□ SMART_TAGプライマー:TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGAAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT(配列番号44)
□ Nextera XT Index Kit v2 SetA(illumina社)
□ Agencourt AMPure XP(Beckman Coulter社)
□ EB緩衝液(5mM Tris-HCl、pH8.5)
□ Qubit dsDNAアッセイキット(サーモフィッシャー サイエンティフィック社)
【0205】
(細胞)
Tリンパ腫細胞株(EL-4)
マウス脾臓細胞(C57BL/6)
【0206】
[プロトコール]
1. オリゴビーズの作成
(1) ChemGene社より入手したカスタムオリゴビーズ(10μmoleスケール)を30mLのTE/TWに懸濁し、1,000g、1分間遠心を行って洗浄する(2回繰り返し)。ビーズの洗浄および回収は、緩衝液に懸濁した後に1,000g、1分間の遠心により容易に回収できる。スイングロータを用い、ビーズを吸い込まないよう慎重に緩衝液を除去する
(2) ビーズ数を血球計数盤を用いてカウントする(
図19C)。500,000ビーズ/mLになるようにTE/TW溶液で懸濁し、冷蔵保存する。TE/TW中で長期間冷蔵保存できる。ChemGene社製ビーズはトヨパールHWを使用しており、ビーズは約30μm径である。
(3) ビーズ懸濁液1mL(500,000ビーズ)をエッペンドルフチューブに分取し、1,000g、1分間遠心する。
(4) 500μLの1×Isothermal緩衝液(NEB社)に懸濁し、1,000g、1分間遠心する(次のエクステンション反応用緩衝液での前洗浄を行うため)。
(5) 次のオリゴエクステンション反応液を準備し、(4)のビーズに加える。
【表3】
(6) 85℃、2分間保温した後、60℃、20分間保温する。
(7) 2μL Bst 3.0ポリメレース(800U/μL)を添加し、60℃、1時間30分間、加温ローテーターで反応する。酵素反応中にビーズが沈降するため、均一な反応を保つため加温ローテーターの使用が望まれる。
(8) 1mLのBst反応停止液を加え、30分間インキュベートし、1,000g、1分間遠心する(2回繰り返す)。
(9) エキソヌクレアーゼI処理をおこなうため、1mLの1×エキソヌクレアーゼ緩衝液を加え前洗浄し、1,000gで1分間遠心する(未反応のビーズ結合オリゴを除去するため、一本鎖DNAを分解処理する)。
(10) 次のエキソヌクレアーゼI反応液を調製し、ビーズを懸濁する。
【表4】
(11) 終濃度1U/μLになるように2.5μL エキソヌクレアーゼI(20U/μL)を加え、37℃、45分間、加温ローテーターで反応させる。
(12) 1mLのTE/SDSに懸濁し、1,000g、1分間遠心する(2度繰り返す)。
(13) 1mLのNaOH洗浄液Iに懸濁し、1,000g、1分間遠心する(アルカリ洗浄によりビーズに結合する二本鎖DNAを変性して、一本鎖DNAプローブにする)。
(14) 1mLのNaOH洗浄液IIに懸濁し、1,000g、1分間遠心する(2度繰り返す)。
(15) 1mLのTE/TWに懸濁し、1,000g、1分間遠心する(2度繰り返す)。最終的に、5×10
5ビーズ/mLとなるようにTE/TWに懸濁し、使用するまで冷蔵保存する。
【0207】
2. 細胞の調製
<マウスT細胞株>
(1) 血清培地で培養したマウスTリンパ腫細胞株を800g、5分間遠心、細胞を回収する。
(2) 10mLの血清培地で洗浄する。
(3) 10mLの血清培地に懸濁し、75μmセルストレイナーを通してろ過する。細胞を血球計数盤でカウントする。
【0208】
<マウス脾細胞>
(1) マウス(C57BL/6、6週齢)を解剖し、脾臓を摘出する。細胞の調製は、細胞のダメージを軽減するため、できるだけシングルセル分離直前に行う。
(2) 10mLの血清培地を含む培養皿上で、スライドグラスのフロスト部を使って脾臓を軽くすりつぶす。
(3) 15mL遠沈管に血清培地を移し、デブリスが沈降するのを待つ。
(4) 上清を別の遠沈管に移し、800g、5分間遠心する。
(5) 上清を除いた後、2mL ACK溶解緩衝液を加え懸濁し、室温2分間放置して、赤血球を壊す。
(6) 10mLの血清培地を加え溶血を止め、800g、5分間遠心する。
(7) 10mLの血清培地に懸濁し、75μmセルストレイナーを通してろ過する。細胞を血球計数盤でカウントする。
【0209】
<マウス脾臓CD8陽性細胞>
(1) 1×108細胞溶液を分取し、800g、5分間遠心する。
(2) 10mLの氷冷MACS緩衝液に懸濁した後、800g、5分間遠心する。
(3) 400μLのCD8α+ T Cell Biotin-Antibody Cocktailを加え、氷上5分間静置する。
(4) 300μLのMACS緩衝液を加え、次いで200μLのAnti-Biotin Microbeadsを加え、氷上で10分間静置する。
(5) その間、LSカラムを磁気分離装置に装着し、3mLのMACS緩衝液を加え、カラムを再生する。
(6) 1mLの細胞懸濁液をLSカラムにロードし、通過画分(flow-through)を集める。
(7) さらに、3mLのMACS緩衝液を加え、すべての通過画分を回収する。
(8) 6mLの血清培地を加え、800g、5分間遠心する。
(9) 10mLの血清培地を加え、800g、5分間遠心する。
(10) 4mL血清培地を加え、細胞をカウントする。
【0210】
3. シングルセルの分離
3-1.ドロマイトバイオ社シングルセル分離装置のセットアップ(微細繊維の混入がラインを詰まらせる原因になるので、埃などが落ちないように実験台を清潔にし、クリーンルーム用無塵ワイパー等を用いるとよい。)
(1) コンプレッサーを起動し、PCと制御用専用ソフト(Mitos Flow Control Center)を起動する
(2) 各ラインの接合を確認するともに、マイクロスコープ下で流路がモニタで確認できるようマイクロチップを装着する
(3) Pポンプ内のボトルに、ろ過滅菌水およびコントロールオイルをセットする。ラインに入れるすべての試薬はあらかじめフィルターろ過をしておく。界面活性剤を含むEvaGreen Droplet Oilは高価なため、試行時にはNovec7700やFC40(スリーエム社)を用いるとよい。
(4) 細胞用ラインおよびビーズ用ラインは流速40μL/分に、オイル用ラインは200μL/分にセットし、テストフローを実施する。流速を変えることでドロップレットサイズを調整できる。本条件では85μm程度であるが、30μL/分(細胞)、30μL/分(ビーズ)、166μL/分(オイル)では100μm径程度に調整できる。
(5) マイクロスコープにてドロップレットが問題なく形成されていることを確認する。
【0211】
3-2.ビーズの準備
(6) 1.5×105ビーズを分取し、1,000g、1分間遠心し、ペレットダウンする。
(7) 500μLの溶解緩衝液を加え、ビーズを前洗浄し、1,000g、1分間遠心する。
(8) 500μLの溶解緩衝液を加え、3×105ビーズ/mLに調整する。
(9) 70umフィルターでろ過した後、1mLシリンジで吸引する。
(10) 500μLのサンプルループにビーズを注入するためバルブを切り替え、シリンジを転倒混和しながらが、ゆっくりとビーズを注入する。ビーズが沈殿しないようにシリンジを転倒混和しながら操作する。
(11) ビーズラインの流速は40μL/分にセットし、バルブは閉めた状態でスタンバイする。
【0212】
3-3.細胞の準備
(12) 血清培地に懸濁した1×106細胞を分取し、800g、5分間遠心する。
(13) 10mL PBS/BSAに懸濁し、800g、5分間遠心する。
(14) 3×105細胞/mLになるようにPBS/BSAに懸濁し、70μmフィルターでろ過した後にPポンプ内にボトルをセットする。細胞が劣化しないよう氷冷する。(15) スターラーバーで攪拌しながら、流速40μL/分でRUNする。
【0213】
3-4.オイルの準備
(16) コントロールオイルが入ったボトルを取り出し、ドロップレット用Droplet Generation Oil for EvaGreenをPポンプ内に設置する。
(17) 流速を200μL/分にセットし、オイルが流れドロップレットが形成されていることを確認する。
【0214】
3-5.アウトプットラインの準備
(18) マイクロチップから出るドロップレットを回収するため、アウトプットラインをチューブにセットする。
(19) ビーズラインを開放し、マイクロチップ内にビーズを流す。モニタ画面を見ながら、ビーズが流れ、ドロップレットが形成されていることを確認する(
図19D)。この条件で4,000/秒のドロップレットが形成され、20ドロップレットのうち1つにビーズが封入される。
(20) 15分から20分間ドロップレットを回収する。モニタ画面上でビーズがなくなったことを確認する。回収したドロップレット溶液は、上層ドロップレット、下層オイルの2層が確認できる。
【0215】
4. ドロップレットの破壊
(1) ドロップレットをチューブに回収し、下層のオイルを除去する。チップの先でオイルを吸い取ることで除去する。以降の操作はできるだけ迅速に行う。
(2) 上層(白色)のドロップレットをすべて8連マイクロチューブに分注する。
(3) ドロップレットを75℃2分、65℃から50℃まで30秒間隔で1℃温度を下げていきアニーリングを行う。完了後、氷上で保管する。
(4) すべてのドロップレットを50mLコニカルチューブに移し、冷却した10mLの6×SSC溶液を加える。
(5) 500μLのパーフルオロオクタノール(PFO)を加え、激しくボルテックスする。
(6) 1,000gで1分間遠心し、上清を慎重に除去する。ビーズは白色の層を形成する。6×SSC中でビーズが浮き上がることがあるので注意する。ビーズが沈降しない場合は、再度遠心するか、25μmフィルターで回収することができる。同時に、底部にたまったオイル層(透明)も除去する。
(7) 10mLの6×SSCを加え、激しくボルテックスした後、再度1,000g、1分間遠心する。上清を慎重に取り除き、ビーズを洗浄する(2度繰り返す)。
(8) 白色ビーズをエッペンドルフチューブに移し、1,000g、1分間遠心し、上清を除去する。
【0216】
5. テンプレートスイッチ逆転写反応
(1) ビーズペレットに100μLの5×RT緩衝液を加え、1,000g、1分間遠心して前洗浄する。
(2) 次の逆転写反応液を調製し、ビーズに加える。
【表5】
(3) 2μLのSuperScript IV(200U/μL)を加え、ヒートローテーターで1時間30分間、50℃で保温する。
(4) 100μLのTE/SDS溶液を加え、1,000g、1分間遠心して上清を除去する。
(5) 100μLのTE/TW溶液を加え、1,000g、1分間遠心して上清を除去する(2度繰り返す)。
(6) 100μLの1×エキソヌクレアーゼ緩衝液を加え、1,000g、1分間遠心して前洗浄する。
(7) 次のエキソヌクレアーゼ反応液をビーズに加える。
【表6】
(8) 1μLのエキソヌクレアーゼ(20U/μL)を添加し、37℃で30分間ヒートローテーターで保温する。
(9) 100μLのTE/SDS溶液を加え、1,000g、1分間遠心して上清を除去する(2度繰り返す)。
(10) 100μLのTE/TW溶液を加え、1,000g、1分間遠心して上清を除去する(2度繰り返す)。
【0217】
6. PCR反応
(1) 100μLのDWを加え、1,000g、1分間遠心して上清を除去する。
(2) 次のプレPCR反応液を調製し、ビーズに加える
【表7】
(3) 15μLのPCR産物に12μLのAmpureビーズを加え、室温5分静置する。
(4) マグネットプレート上で室温2分間静置し、上清を除去する。
(5) 200μLの70%エタノールで洗浄する(2度繰り返す)。
(6) 完全に70%エタノールを除去した後、1分間ドライアップする。
(7) 15μLのEB緩衝液(5mM Tris-HCl、pH8.5)を添加して、ボルテックスして1分間静置する
(8) マグネットプレート上で室温2分間静置し、上清を新しいチューブに回収する
(9) 次のPCR反応液を調製し、2μLの精製したプレPCR反応液を加え、次のサイクルでPCRを行う。
【表8】
(10) PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動で確認する。
(11) (3)~(8)同様のAmpureビーズによる精製によりPCR産物を回収する。
(12) INDEXタグ付加用PCR反応液を調製し、2μLの精製したPCR反応液を加え、次のサイクルでPCRを行う。
【表9】
(13) (3)~(8)同様のAmpureビーズによる精製によりPCR産物を回収する。
(14) INDEX PCR用のPCR反応液を調製する。2μLの精製したタグPCR反応液を加え、次のサイクルでPCRを行う。
【表10】
(15) (3)~(8)同様のAmpureビーズによる精製によりPCR産物を回収する。
(16) 精製したINDEX PCR産物について、Qubit dsDNAアッセイキットを用いてQubit3.0フルオロメーターにてDNA量を測定する。
(17)4pMになるようにPCR産物を希釈し、30万から100万リードを目標にMiSeqにてシーケンスを実施する。
【0218】
7. TCRレパトア
シーケンスデータのマウスTCRリファレンス配列によるV,D,J領域配列のアサインメント、リード集計などの解析はRepertoire Genesis社が開発したレパトア解析用専用ソフトウェアにより行われた。入手可能なTCR解析ソフトとしては、MiXCRやIMGTが提供するHighVQuestなどが知られており、それらのソフトウェアを用いることもできる。リード配列間のバーコードマッチングはRのBiostringsや類似のパッケージを用いて行うことができる。
【0219】
[考察]
実施例1-1で用いたフローサイトメーターによるソーティング後の解析と、実施例1-3に記載されたドロップレットベースの手法とは、目的によって使い分けることができる。高機能TCRを見出すことが目的であれば、高々数百個以内のシングルセル解析が対費用効果的にも優れており、低頻度に存在するTCRを(ナイーブ分画のTCRやshared TCRなど)網羅的に解析することが目的であれば、費用はかかるものの、ドロップレットによる解析が有利であると考えられる。
【0220】
(実施例2:内因性TCRの除去)
(概要)
本実施例では、TCR遺伝子を標的としたゲノム編集による内因性TCR遺伝子の完全な除去を実証する。
【0221】
(材料および方法)
[Platinum TALENの作製]
Platinum TALENの作製キット(Platinum Gate TALEN Kit、http://www.addgene.org/kits/yamamoto-platinumgate/)を用いて、製造者のプロトコール(http://www.addgene.org/kits/yamamoto-platinumgate/#protocols-and-resources)に従い、内因性TCR遺伝子を標的とするPlatinum TALENを作製した。
【0222】
[Platinum TALENからのmRNA合成]
(1)TRAあるいはTRB遺伝子切断用のLeft(L)-TALENとRight(R)-TALENのプラスミドをSmaIで30℃x2時間処理した。
(2)Proteinase Kで50℃x20分処理したのち、QIAGEN PCR Purification Kitにて精製した。
(3)mMESSAGE MACHINE T7 Kit(Life technologies)、続いてpoly(A) Tailing Kit(Life technologies)にてmRNAを合成しLiCl沈殿法で精製(Manufacture’s instructionの通り)した。
【0223】
本実施例において、TCRα遺伝子を標的化するために、TALEN-TCR-alpha2_L19およびTALEN-TCR-alpha2_R19の対を用いた。これらのプラスミドの全長配列は、配列番号46および配列番号47で表される。また、TALEN-TCR-alpha2_L19のTALENコーディング配列は配列番号52で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号53で表される。TALEN-TCR-alpha2_R19のTALENコーディング配列は配列番号54で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号55で表される。
【0224】
本実施例において、TCRβ遺伝子を標的化するために、TALEN-TCR-beta1_L19およびTALEN-TCR-beta1_R19の対、またはTALEN-TCR-beta3_L19およびTALEN-TCR-beta3_R19の対を用いた。これらのプラスミドの全長配列は、記載順に配列番号48、配列番号49、配列番号50および配列番号51で表される。また、TALEN-TCR-beta1_L19のTALENコーディング配列は配列番号56で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号57で表される。TALEN-TCR-beta1_R19のTALENコーディング配列は配列番号58で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号59で表される。また、TALEN-TCR-beta3_L19のTALENコーディング配列は配列番号60で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号61で表される。TALEN-TCR-beta3_R19のTALENコーディング配列は配列番号62で表され、当該TALENのアミノ酸配列は配列番号63で表される。
【0225】
[Platinum TALEN mRNAを用いたTCR欠損T細胞の調製]
(1)Jurkat細胞を、RPMI1640+ 10%FBS+ 2mmol/l L-Glutamin+ 1% penicillin/streptomycin で3日間培養した。
(2)以下の手順により、TCRα遺伝子を標的にする場合には、TALEN-TCR-alpha2_L19(TCRα-L-TALEN) mRNAおよびTALEN-TCR-alpha2_R19(TCRα-R-TALEN) mRNAそれぞれ10μgずつを、TCRβ遺伝子を標的にする場合にはTALEN-TCR-beta1_L19(TCRβ1-L-TALEN) mRNAおよびTALEN-TCR-beta1_R19(TCRβ1-R-TALEN) mRNAの対、またはTALEN-TCR-beta3_L19(TCRβ3-L-TALEN) mRNAおよびTALEN-TCR-beta3_R19(TCRβ3-R-TALEN) mRNAの対を培養Jurkat細胞に導入(SE CellLine 4D-NucleofectorTM X Kit
S))した。
(2-1)Jurkat細胞5×105~1×106cellを遠心(400G、10分、室温)により細胞ペレットにした。
(2-2)1反応あたりNucleofector SE solution 16.4μlにSupplement 3.6μlを加え合計20μlのNucleofector solutionで細胞ペレットを懸濁した。
(2-3)TCRα遺伝子標的用あるいはTCRβ遺伝子標的用TALEN mRNA
の対をそれぞれ10μgずつ添加した。
(2-4)Amaxa 4D-Nucleofector(プログラム:プログラム:CL-120)を用いてNucleofectionを行った。
【0226】
[内因性TCR除去の確認]
Jurkat細胞にTALEN mRNAを導入後にFACSで確認されたCD3陰性分画が出現しているのを確認した。CD3陰性分画をソーティングした細胞はFACSでTCR(内因性)も陰性となっていることを確認した。FACSで得られたCD3の発現強度は、FACS解析ソフト(Flow Jo)で解析した。
【0227】
さらに、出現したCD3/TCR陰性分画がTALENの導入によって得られたものであるかについて、T7 Endonuclease I(T7E1)アッセイにより切断断片の存在の確認を行った。
【0228】
[T7 Endonuclease Iアッセイ]
(1)抽出したゲノムDNAを用いてPCRを行った。PCRは最終濃度1xバッファー、200μM dNTP、0.4μM プライマー、2.5~5ng DNA、Excellent Taq HS(アプロサイエンス)の反応混合物中で、94℃ 10分の後、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分を30サイクルし、さらに72℃ 5分の反応を行った。
(2)プライマー配列は以下の通りであった。
【化8】
(3)1% agarose ゲルで電気泳動し、DNAをGel Extraction kit(QIAGEN)を用いて抽出した。
(4)抽出したDNAを200~250ngを95℃ 5分加熱した後、室温に戻して再アニーリングした。
(5)T7 Endonuclease Iを加え、37℃で30分処理した。その後2%ゲルで電気泳動して確認した。
【0229】
(結果)
結果は、
図3に示される。それぞれのTCR遺伝子を標的としたゲノム編集により、各内因性TCR遺伝子がノックアウトされたことが理解される。また、
図4には、T7E1アッセイの結果を示しており、
図4から、TCR遺伝子のノックアウトがゲノム編集によるものであることが理解される。
【0230】
(実施例3:TCRの導入)
(概要)
本実施例では、システイン変異TCR導入ベクターを用いて、ミスペアリングを生じずにTCR遺伝子をT細胞に発現させることができることを実証する。また、実施例2で実証した内因性TCR遺伝子の除去と併せてTCR遺伝子の導入を行い、導入TCRのみを発現するT細胞を作出できることを実証する。
【0231】
(材料および方法)
(1)T細胞をCD3/28ビーズで刺激し、X-VIVO20+ 10%AB serum+ 2mmol/l L-Glutamin+ 1% penicillin/streptomycin で3日間培養した。
(2)Amaxa 4D-Nucleofectorを用いて、以下の手順によりTCRα-L-TALEN mRNAとTCRα-R-TALEN mRNAを培養T細胞に導入(P3 Primary Cell 4D-NucleofectorTM X Kit S)した。
(2-1)T細胞5×105~1×106cellを遠心(400G、10分、室温)により細胞ペレットにした。
(2-2)1反応あたりNucleofector P3 solution 16.4μlにSupplement 3.6μlを加え合計20μlのNucleofector solutionで細胞ペレットを懸濁した。
(2-3)TCRα-L-TALEN mRNA、TCRα-R-TALEN mRNAをそれぞれ10μgずつ添加した。
(2-4)Nuceofection(プログラム:EO-115)を行った。
(2-5)再び培養を継続した。
(2-6)Nucleofectionの3日後にTCR遺伝子の切断効率をフローサイトメトリーによるCD3およびTCRαまたはβの発現喪失で確認した。
(3)CD3陰性分画をマグネットソーティングあるいはFACS(AriaII)により回収した。
(4)(3)で得られたCD3陰性T細胞に、下記で詳述する手順に従って、目的のTCR遺伝子をレトロウイルスベクターで導入した。
(5)翌日にFACSでTCR陽性CD3陽性分画が出現していることを確認した。
(6)CD3陽性分画をマグネットソーティングあるいはFACS(AriaII)により回収した。
(7)(6)で得られたCD3陽性T細胞に(2)と同じ手法でTCRβ3-L-TALEN mRNAとTCRβ3-R-TALEN mRNAを導入した。
(8)CD3陰性分画をマグネットソーティングあるいはFACS(AriaII)により回収した。
(9)(8)で得られたCD3陰性T細胞に再度同様の手順により目的のTCR遺伝子をレトロウイルスベクターで導入した。
(10)CD3陽性分画が出現していることを確認しマグネットソーティングあるいはFACS(AriaII)により回収した。
【0232】
[TCR欠損T細胞への所望のTCRの導入]
上記手順中のTCR遺伝子の導入は、以下の手順で行った。
Day1:
(1)PLAT-GPを10cmデッシュにまき70%コンフルエントにした。
(2)OPTI-MEMI 1.4mlにベクター10μg、VSV-G 5μgを加え室温5分静置した。
(3)OPTI-MEMI 1.4mlにLipofectamine2000を50μl加え室温5分静置した。
(4)上記の(2)と(3)を混合し室温20分静置した。
(5)(4)の混合液をPLAT-GPの培養液に加え48時間培養した。
【0233】
Day 4-1:
(1)PLAT-GPから上清を回収し遠心(1500 rpm x5 min, 4℃)した。
(2)上清を0.45μMフィルターに通してさらに遠心(6000G x16 hr, 4℃)した。
【0234】
Day 4-2:
培養中のTCR欠損T細胞を、24wellプレートに5×105/wellとなるように分注した。
【0235】
Day 5:
(1)Day 4-1(2)の遠心tubeの上清を除きペレットをX-VIVO20
500μlで懸濁し、ウイルス液を作成した。
(2)前日に分注したTCR欠損細胞の培地にウイルス液を加えて遠心(2000 rpm x30 min, 32℃)した後、24時間培養を継続した。翌日に生細胞中のGFP陽性細胞(フローサイトメトリー)の比率により感染効率を確認した。
【0236】
[TCR遺伝子のpMXs-IRES-GFPベクターへのクローニング]
(1)pMXs-IRES-GFPベクターをBamHIとNotIで切断した。
(2)各結合部にoverlap配列が来るようプライマーをデザインした。具体的には以下のとおり:
【化9】
(3)各断片を(2)のプライマーを用いてPCRで増幅した。
(4)(1)と(3)で得られた断片を精製した。
(1)の断片(ベクター)を25ng/μlとなるよう精製した。
(2)の断片(Vα、Cα、Vβ、Cβ)がそれぞれ10ng/μlとなるよう精製した。
(5)Gibson assembly reaction (NEB, Gibson Assembly Master Mix, Manufacture’s Instruction通り)を行った。Gibson Assembly Master Mix 5μlにベクター 1μl、Vα0.75μl、Vβ0.75μl、Cα0.75μl、Cβ0.75μlを加えて50℃ 1時間。
(6)(5)の反応液を4倍希釈しコンピテントセル(JM109)に形質転換した。
(7)MiniprepでDNAを精製しシーケンスで確認した。
【0237】
[導入ベクター]
導入ベクターとしては、pMXs-IRES-GFP Retroviral Vector(Cell Biolabs, Inc.)をバックボーンとして用いた。ベクターの模式図は
図5に示されている。導入しようとするTCRβ鎖のV領域と、TCRβ鎖の定常領域(Cβ)と、P2A配列と、導入しようとするTCRα鎖のV領域と、TCRα鎖の定常領域(Cα)を、この順にpMXs-IRES-GFP Retroviral Vectorの導入配列部分に組み込んで使用した。このようなベクターの作製については、Incorporation of Transmembrane Hydrophobic Mutations in the TCR Enhance Its Surface Expression and T Cell Functional Avidity Astar Haga-Friedman, Miryam Horovitz-Fried and Cyrille J. Cohen J Immunol 2012; 188:5538-5546; Prepublished online 27 April 2012に記載されている。
【0238】
Enhanced antitumor activity of T cells engineered to express T-cell receptors with a second disulfide bond. Cohen CJ, Li YF, El-Gamil M, Robbins PF, Rosenberg SA, Morgan RA.Cancer Res. 2007 Apr 15;67(8):3898-903.を参考として、C領域に追加のCysを導入しS-S結合を1つ追加した。さらに、Incorporation of Transmembrane Hydrophobic Mutations in the TCR Enhance Its Surface Expression and T Cell Functional Avidity Astar Haga-Friedman, Miryam Horovitz-Fried and Cyrille J. Cohen J Immunol 2012; 188:5538-5546; Prepublished online 27 April 2012を参考として、膜貫通領域に疎水性アミノ酸への変異を導入した。
【0239】
自己切断性のリンカーとして、P2A配列を用いた(J.H. Kim, S.R. Lee, L.H. Li, H.J. Park, J.H. Park, K.Y. Lee, et al., High cleavage efficiency of a 2A peptide derived from porcine teschovirus-1 in human cell lines, zebrafish and mice, PLoS One. 6 (2011) 1-8. doi:10.1371/journal.pone.0018556.)
【0240】
なお、用いたTCRα鎖およびTCRβ鎖の定常領域のアミノ酸配列は以下のとおりであった。
【化10】
【0241】
[導入TCR遺伝子]
健常者末梢血に存在するCMVpp65 QYD抗原特異的CD8+T細胞からhTEC10を用いてQYD特異的TCRαβ遺伝子を取得し、導入遺伝子として用いた。
【0242】
[Tregの抗原特異性]
導入を行ったT細胞のQYD抗原に対する結合性を測定し、TCRの導入を確認した。Treg(QYD-Treg)の抗原特異性があるかをQYDテトラマー染色で確認した。
【0243】
(結果)
制御性T細胞に対して導入を行った結果は、
図5および6に示される。フローサイトメトリー分析の結果から、改変後のT細胞において、導入されたTCRのみが発現されていることが理解される。
【0244】
QYDへの結合性を測定した結果を、
図8に示した。ポリクローナルのTregと比較して、QYD特異的TCRを導入したTregでは、QYDへの結合性が上昇していた。
【0245】
また、細胞傷害性T細胞に対して、同様にTCR導入を行った結果を、
図9に示した。内因性のTCRの干渉を受けずTCRの入れ替えが可能であったことが理解される。
【0246】
TCR-特異的TALENによる内因性TCRのノックダウンとCys-TCRによる遺伝子導入により、高アフィニティのCMV pp65 NLV特異的TCR発現T細胞を樹立することが可能であった。
【0247】
(実施例4:作製した抗原特異的制御性T細胞の性質)
(概要)
実施例3の手法に従って作製した抗原特異的制御性T細胞の性質を以下のとおり評価した。
【0248】
[Treg固有形質の保持の確認]
実施例3の手法に従って作製した抗原特異的制御性T細胞、ポリクローナル制御性T細胞およびTCRノックアウト制御性T細胞と、対照(CD25が陰性のCD4陽性T細胞分画)を下記の抗体で染色し、FACSで測定し蛍光強度をFACS解析ソフト(flow jo)で解析し、TCRを置換したTregとポリクローナルTreg(TCR置換前)の性質に差がないかを検証した。
抗体:Anti-human CD25 antibody、Anti-human CD127 antibody、Anti-human FoxP3 antibody、Anti-human CTLA-4 antibody、Anti-human HELIOS antibody。
【0249】
結果を、
図10および11に示した。これらの細胞の表面マーカー発現には、有意な差がなく、本発明のTCR除去およびTCR導入では、制御性T細胞に固有の形質は保持されることがわかった。
【0250】
[抗原刺激に対する増殖]
実施例3でTCR置換によって得られたTreg(QYD-Treg)がQYDペプチド抗原を認識し増殖するかを確認した。より詳細には、以下のとおりである。
(1)QYD-Tregを遠心によりペレットにPBS 1mlで懸濁した。
(2)1μLのCell trace violetを加え(Invitrogen, CellTrace Violet Cell Proliferation Kit, cat#C34557 )、37℃で20分暗所で静置した。
(3)PBSで2回洗浄(300G, 10min, 室温)した。
(4)ペプチドパルスした抗原提示細胞とcell trace voletで標識したQYD-Tregの細胞数が1:1となるようにT cell培地中(X-VIVO20+ 10%AB serum+ 2mmol/l L-Glutamin+ 1% penicillin/streptomycin)で混合し96wellプレート内で5日間培養した。
(5)FACSでCell trace violetの蛍光強度が減弱しQYD-Tregが分裂していることを確認した。
【0251】
結果は、
図12および13に示される。5日間の培養後、Cell trace violetの蛍光強度が減弱しており、QYD-Tregが抗原提示細胞による抗原刺激に応答して増殖したことが理解される。この増殖は、QYD刺激を行わなかった群、およびポリクローナル制御性T細胞の群では観察されず、本発明の方法によって、製造された制御性T細胞の抗原への特異的反応性の高さが実証されている。
【0252】
[抗原特異的制御性T細胞による抗原特異的エフェクターT細胞抑制]
TCR置換によって得られたTreg(QYD-Treg)がQYD-Teffの抗原特異的増殖を抑制するかを確認した。より詳細には、以下のとおりである。
【0253】
A.抗原提示細胞の分離(CD4陰性CD8陰性細胞の分離)
Miltenyi CD8 マイクロビーズ, ヒト(130-045-201)を使用Miltenyi CD4+ T Cell アイソレーションキット, ヒト(130-096-533)を使用:
(1)末梢血50mLからFicoll-Paque PREMIUMでPBMCsを分離し、遠心(400G, 10min, 室温)により細胞ペレットを作成した。
(2)ペレットを80μLのMACS Bufferで懸濁し、20μLのCD8 MicroBeadsを加えた。
(3)4℃で15分静置した。
(4)MACS Bufferで洗浄した(300G, 10 min, 室温)。
(5)計500μLとなるようにMACS Bufferを加え、Magnetic separationによりCD8-の分画を回収し遠心(400G, 10min, 室温)により細胞ペレットを作成した。
(6)ペレットを40μLのMACS Bufferで懸濁し、10μLのT Cell Biotin-Antibody Cocktailを加えた。
(7)4℃で5分静置した。
(8)30μLのMACS Bufferと20μLのCD4+T Cell MicroBead Cocktailを添加した
(9)4℃で10分静置した。
(10)合計500μLとなるようにMACS Bufferを加え、Magnetic separationによりCD4-の分画を回収(CD4-8-T細胞となっている)した。
【0254】
B.抗原提示細胞をペプチドパルス
(1)A.で回収したCD4-8- cellを1mlのX-XIVO20で懸濁した。
(2)ペプチド(ここではQYDPVAALF:QYD(配列番号92))を1μMとなるよう加えた。
(3)室温で2時間静置した。
(4)35Gyのγ線照射を行った。
【0255】
C.Treg suppression assay
(1)QYD-TCRを遺伝子導入したCD8+ T cell(QYD-T eff)を遠心によりペレットにPBS 1mlで懸濁した。
(2)1μLのCell trace violetを加え(Invitrogen,
CellTrace Violet Cell Proliferation Kit, cat#C34557 )、37℃で20分暗所で静置した。
(3)PBSで2回洗浄した(300G, 10min, 室温)。
(4)B.の工程でペプチドパルスした抗原提示細胞とcell trace violetで標識したQYD-Teffの細胞数が2:1となるようにT cell 培地中(X-VIVO20+ 10%AB serum+ 2mmol/l L-Glutamin+ 1% penicillin/streptomycin) で混合し96 wellプレートにまいた。
(5)C.(4)の各wellにTreg(所望のTCRが導入されたTreg,)の細胞数を調整し、CD8+ T cellとの細胞数の比が16:1、8:1、4:1、2:1、1:1となるように加えた。
(6)5、7日目にFACSで各細胞比率の条件でのcell trace violetの蛍光強度を測定しQYD-Teffの増殖抑制を確認した。
【0256】
結果を、
図14および15に示した。ポリクローナルの制御性T細胞と比較して、抗原特異的制御性T細胞は、著しく高いエフェクターT細胞の増殖抑制を示した。
【0257】
(実施例5:in vitroでの抗原特異的制御性T細胞による免疫抑制)
(概要)
本実施例は、本発明の方法に従って製造した抗原特異的制御性T細胞が自己免疫疾患への応用可能性を有することを、in vitroで実証することを目的とする。
【0258】
皮膚色素細胞の自己抗原であるMART-1抗原は皮膚科領域の難治性自己免疫疾患である尋常性白斑の原因となる標的抗原である。また健常者末梢血中にもこの抗原を認識するT細胞は存在している。
【0259】
(材料および方法)
(1)健常者の検体から、hTEC10を用いてMART-1特異的TCRαβペア遺伝子をクローニングする。
(2)Platinum TALENにより、制御性T細胞のTCRゲノムを編集し、内因性TCRの発現を排除する。
(3)ゲノム編集後の制御性T細胞を増殖させる。
(4)増殖させた制御性T細胞へクローニングしたTCRαβペア遺伝子を導入する。
(5)TCR遺伝子を導入した制御性T細胞と共培養することによる、MART-1抗原特異的なエフェクターT細胞などのMART-1抗原への応答性の変化を評価する。
【0260】
(結果)
2人の健常者の検体から、hTEC10を用いて18種類以上のMART-1特異的TCRαβペア遺伝子をクローニングすることが可能である。これらのMART-1特異的TCRのMART-1に対する結合性を評価し、最も高機能なTCRを選択するとともに、該TCRの遺伝子を導入したMART-1抗原特異的Tregの作成が可能であり、自己免疫疾患のモデル抗原としてのMART-1抗原に対する免疫応答を、上記のTCR置換Tregが抑制する。
【0261】
(実施例6:自己免疫疾患マウスモデルに対するTeff→Tregの有効性の検討)
(概要)
本実施例では、in vivoでの抗原特異的制御性T細胞の自己免疫疾患への応用可能性の実証を目的として、製造した抗原特異的制御性T細胞による免疫抑制を動物モデルで示す。本実施例の概要は、
図16に示される。
【0262】
(材料および方法)
以下のマウスおよび自己抗原を用いて、以下のモデル疾患への応用可能性を検証する。モデルマウス:NOD(non-obese diabetic)マウス
モデル自己抗原:GAD65
モデル疾患:I型糖尿病
【0263】
動物実験を以下のように実施する。
(1)7日齢のNODマウスにGAD65由来のペプチド抗原p546(30μg)を出生後7日目、9日目、11日目に経鼻的に投与する。
(2)(1)の方法で免疫した4週齢の雌マウスから、H-2Kd/p546テトラマーを用いてp546反応性エフェクターCD8+T細胞(p546-Teff)をフローサイトメトリーで分離する。
(3)p546-TeffのTRAV、TRBVを次世代シーケンサーで網羅的に同定し、高頻度クロノタイプの存在を確認した後、単一細胞クローニングによりペア同定する。(4)上記の(1)-(3)の過程によって同定されたp546抗原反応性TCR(p546-TCReffを、内因性TCRの発現を欠いたマウスT細胞株にレトロウイルスベクターを用いて導入し、それらの機能的階層性を決定する。
(5)4週齢の雄NODマウスの脾・リンパ節・末梢血より、ビーズカラム法によってCD4+CD25+制御性T細胞を分離し、Platinum TALENを用いてTCRをノックアウトする。
(6)(4)の過程によって得られた高機能p546-Teff-TCRの候補を、TCRをノックアウトしたCD4+CD25+制御性T細胞に導入する(p546-Teff-TCR発現Treg)。
(7)Mockベクターを導入したTregおよびp546-TCReffを導入したTregを抗CD3/CD28抗体およびIL-2存在下に増幅し、I型糖尿病を発症したNODマウスに輸注し、膵臓β細胞傷害および耐糖能傷害の改善が得られるかを比較する。
【0264】
(結果)
Mockベクターを導入したTregを輸注したNODマウスにおいては、膵臓β細胞傷害および耐糖能傷害の改善が見られないが、p546-TCReffを導入したTregを輸注したNODマウスにおいては膵臓β細胞傷害および耐糖能傷害の改善が見られる。
【0265】
(実施例6-2:マウスTCRの切断)
(概要)
マウスTCR切断用にPlatinum TALENを作成し、レポータープラスミドを用いたアッセイ法(SSAアッセイ)により切断活性を評価した。
【0266】
(材料および方法)
マウスTCR切断用に、3種類のPlatinum TALEN(TRA2-TALEN、TRB1-TALEN、TRB2-TALEN)を作成した。
マウスTRA2-TALEN、マウスTRB1―TALEN、マウスTRB2-TALENは、それぞれ、マウスのTRA遺伝子Cα2領域、TRB遺伝子Cβ1領域、TRB遺伝子Cβ2領域内に切断部位を含むように設計した。それぞれの標的配列は、
マウスTRA2-TALEN:左側TCTGCCTGTTCACCGACT(配列番号130)および右側AATGTGCCGAAAACCATGGA(配列番号131)、
マウスTRB1―TALEN:左側TGACTCCACCCAAGGTCTCC(配列番号132)および右側AAAAGCAGAGATTGCAAACA(配列番号133)、
マウスTRB2-TALEN:左側TGTGCTTGGCCAGGGGCTTC(配列番号134)および右側GGAGCTGAGCTGGTGGGTGA(配列番号135)
であった。Platinum TALENの調製手順は、(実施例2:内因性TCRの除去)の[Platinum TALENの作製]に従った。
【0267】
以下のURLに記載されている方法により、ヒト胎児腎由来細胞株HEK293Tを用いたSSAアッセイを行った(Sakuma T, et al. Genes to Cells 2013)。http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/smg/genome_editing/documents/6-module.pdf
【0268】
(結果)
結果を
図28に示す。Zinc finger nucleaseコントロール(pSTL-ZFA36/ZFA36)の切断活性を1とする時、マウスTRA2-TALEN, マウスTRB1-TALEN, マウスTRB2-TALENの標的切断部位に対する活性は、それぞれ3.09倍、3.79倍、3.41倍であることがわかる。pSTLはZFA36の陰性コントロールであり、TRA2, TRB1, TRB2はそれぞれTALEN非存在下のレポーターのみの陰性コントロール、TRA2-TALEN/ZFA36, TRB1-TALEN/ZFA36, TRB2-TALEN/ZFA36はそれぞれレポーター遺伝子がZFA36の場合の陰性コントロールである。
【0269】
(実施例7:製品化例)
本発明の方法に用いるために、以下のようなコンポーネントの1つまたは複数を含む製品を提供する。
【0270】
TCR遺伝子を編集する手段:TCR遺伝子を編集するための組成物などの形で提供する。TCR遺伝子を標的化するゲノム編集酵素(TALEN、CRISPR/Cas9、ZFN)などを用いる。標的化部位と機能的ドメインとを一緒に提供する。あるいは、標的化部位と機能的ドメインとを別個にも提供する。ゲノム編集酵素を核酸の形で提供する。あるいは、ゲノム編集酵素をポリペプチドの形で提供する。ゲノム編集酵素を、mRNAの形で提供する。ゲノム編集酵素を、導入用ベクターと一緒に提供する。
【0271】
内因性TCR遺伝子の変異を確認する手段:内因性TCR遺伝子に特異的なPCR用プライマーを提供する。ゲノム編集を行う前に、標的化される部位に変異が存在せず、特異的な編集を行うことができることを確認できる。
【0272】
内因性TCR遺伝子の除去を確認する手段:内因性TCRが除去された場合の変化の測定に用いられる抗体を提供する。抗CD3抗体または抗TCR抗体を提供する。標識した抗体を提供する。
【0273】
外因性TCRを導入する手段:TCRを導入するためのベクター等を提供する。Venusのように細胞毒性の少ない蛍光色素を組み込んだレンチウイルス系ベクターや、トランスポゾンを利用したSleeping Beautyなどの非ウイルス系ベクターを用いる。
【0274】
遺伝子が導入された細胞を検出する手段:内因性TCRが導入された場合の変化の測定に用いられる抗体を提供する。抗CD3抗体または抗TCR抗体を提供する。標識した抗体を提供する。
【0275】
(実施例8:がん抗原特異的TCRを発現するT細胞の作出)
(概要)
本実施例において、本明細書に記載の方法に従って、がん抗原特異的TCRを発現するT細胞を作出し、当該細胞の殺細胞活性を検証した。
【0276】
(方法および材料)
標的エピトープとして、HLA-A*0201-restricted NY-ESO-1
157-165(SLLMWITQC)(配列番号115)を選択した。かかるエピトープに特異性を有するTCRとして、可変領域の各セグメントにおいて以下の構成を有する1G4 TCRを用いた。
【表11】
【0277】
[pMXsベクターを用いた1G4 TCR導入用ベクターの作出]
(1)1G4 TCRのVαカセット、Vβカセットを準備した(各塩基配列は下記)。
【化11】
(2)pMXs-IRES-GFPベクターをBamHIとNotIで切断した。
(3)各結合部にoverlap配列が来るようプライマーをデザインした。具体的には以下のとおり:
【化12】
(4)各断片を(3)のプライマーを用いてPCRで増幅した。
(5)(2)と(4)で得られた断片を精製した。
(2)の断片(ベクター)を25ng/μlとなるよう精製した。
(4)の断片(Vα、Cα、Vβ、Cβ)がそれぞれ10ng/μlとなるよう精製した。
(6)Gibson assembly reaction (NEB, Gibson Assembly Master Mix, Manufacture’s Instruction通り)を行った。Gibson Assembly Master Mix 5μlにベクター 1μl、Vα0.75μl、Vβ0.75μl、Cα0.75μl、Cβ0.75μlを加えて50℃ 1時間。
(7)(6)の反応液を4倍希釈しコンピテントセル(JM109)に形質転換した。
(8)MiniprepでDNAを精製しシーケンスで確認した。
【0278】
[TCR-null Jurkat細胞およびprimary T細胞への1G4 TCRの導入]
以下の手順で細胞への1G4 TCRの導入を行った。TCR-null Jurkat細胞は、Miyama et al. Sci Rep 2017に記載される手順に基づき、CRISPR系を用いて作出した。primary T細胞は、ドナー末梢血から分離したT細胞を使用した。なお、TCR-null Jurkat細胞の作製過程でのCD3発現の変化については、
図21に示している。
【0279】
Day1:
(1)PLAT-GPを10cmデッシュにまき70%コンフルエントにした。
(2)OPTI-MEMI 1.4mlにpMXs-IRES-1G4ベクター10μg、VSV-G 5μgを加え室温5分静置した。
(3)OPTI-MEMI 1.4mlにLipofectamine2000を50μl加え室温5分静置した。
(4)上記の(2)と(3)を混合し室温20分静置した。
(5)(4)の混合液をPLAT-GPの培養液に加え48時間培養した。
【0280】
Day4-1:
(1)PLAT-GPから上清を回収し遠心(1500 rpm x5 min, 4℃)した。
(2)上清を0.45μMフィルターに通してさらに遠心(6000G x16hr,
4℃)した。
【0281】
Day4-2:
培養中のTCR-null Jurkat細胞あるいはprimary T細胞を、24wellプレートに5×105/wellとなるように分注した。
【0282】
Day5:
(1)Day4-1-(2)の遠心tubeの上清を除きペレットをX-VIVO20
500μlで懸濁し、ウイルス液を作成した。
(2)前日に分注したTCR-null Jurkat細胞あるいはprimary T細胞の培地にウイルス液を加えて遠心(2000 rpm x30min, 32℃)した後、24時間培養を継続した。翌日に生細胞中のGFP陽性細胞(フローサイトメトリー)の比率により感染効率を確認した。
【0283】
[B-LCL(B-lymphoblastoid cell lines)を用いたNY-ESO-1 SLL特異的TCR-Tのkilling assay]
以下に示す手順により、作出したがん抗原特異的TCRを発現するT細胞の殺細胞活性を検証した。
【0284】
B-LCL(ターゲット細胞)の準備:
B-LCL 2X106を24wellプレートに準備し、50μlの51CrとNY-ESO-1エピトープペプチド(SLLMWITQC(配列番号115))(最終濃度1ng/μl)を加え1時間培養した。
RPMI1640にて2回洗浄(300G, 10 min, 4℃)した。
SLLペプチド添加B-LCLを1X104/100μl RPMI1640に調整した。
同様にエピトープペプチドを添加していないB-LCL 1X104/100μl RPMI1640をコントロール用に調整した。
【0285】
NY-ESO-1 SLL特異的TCR-T(エフェクター細胞)、およびポジティブコントロール、ネガティブコントロールの準備:
培養中のNY-ESO-1 SLL特異的TCR-Tを、最終的にエフェクター(NY-ESO-1 SLL特異的TCR-T):ターゲット(B-LCL)比が30:1、10:1、3:1、1:1になるように細胞数を調整(3X105/100μl RPMI1640、1X105/100μl RPMI1640、3X104/100μl RPMI1640、1X104/100μl RPMI1640)し、96wellプレートに分注した。
ポジティブコントロールとして、Triton X-100 100μlを96wellプレートに分注した。
ネガティブコントロールとして、RPMI1640 100μlを96wellプレートに分注した。
【0286】
Chromium-51 release assay:
2.で準備した96wellプレートの各wellに1.で準備したB-LCLを100μl分注し4時間培養した。
各wellから100μlの上清をとってマイクロチューブに移し、各wellの上清中に放出された51Crのガンマ値をガンマカウンターで計測した。
{(各wellのガンマ値)-(ネガティブコントロールのガンマ値)}/(ポジティブコントロールのガンマ値)の計算式により、各wellのポジティブコントロールに対する殺細胞効果の割合(%lysis)を計算しグラフ化した。
【0287】
(結果)
TCR-null Jurkat細胞およびprimary T細胞への1G4 TCRの導入結果は、それぞれ
図22および
図23に示される。
図22左図において、導入したTCRの発現効率は46.2%であり、
図22右図において、SLLペプチドテトラマーへの結合能を有するTCR導入細胞の割合は46.8%であった。これらの双方で同様の効率が得られていることから、TCR-null Jurkat細胞に導入し、発現させたTCRのほぼ全てがSLLペプチドを認識していること、すなわち、ミスペアリングなく発現していることが示される。このことは、ゲノム編集を行ったT細胞に対して、pMXベクターが適合性であることを示している。primary T細胞については6.28%の導入効率であった(
図23)。
【0288】
ネガティブコントロールではいずれの濃度比率においても殺細胞活性(細胞からの
51Crの放出)は観測されなかったが、作出したがん抗原特異的TCR発現T細胞は、濃度依存的に殺細胞活性を示した(
図26)。
【0289】
(実施例9:TAL-PITCh法によるTCRの置換)
(概要)
本発明の改変T細胞は、TAL-PITCh法によって、ウイルスベクターを用いずに作出することができる。
【0290】
(材料および方法)
TAL-PITCh法を用いた内在性TCR欠損NY-ESO-1特異的T細胞の作成
以下に記載される手順に従って、内在性TCR欠損NY-ESO-1特異的T細胞を作成した。
【0291】
1.Platinum TALENからのmRNA合成:
(1)TRAあるいはTRB遺伝子切断用のLeft(L)-TALENとRight(R)-TALENのプラスミドをSmaIで30℃x2時間処理する。
(2)Proteinase Kで50℃x20分処理したのち、QIAGEN PCR
Purification Kitにて精製する。
(3)mMESSAGE MACHINE T7 Kit(Life technologies)、続いてpoly(A) Tailing Kit(Life technologies)にてmRNAを合成しLiCl沈殿法で精製(Manufacture’s instructionの通り)する。
【0292】
2.
TAL-PITChベクターの設計:
TAL-PITChベクターは、TRA遺伝子切断用のLeft(L)-TALENとRight(R)-TALENで導入遺伝子の両端を切断され、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)修復により目的遺伝子がTRA遺伝子切断部位に組み込まれるように設計する(
図24;四角で囲まれた部分がマイクロホモロジー配列を示す)。TRA遺伝子切断部位に目的遺伝子が組み込まれた後は、両端にTALEN結合部位が存在するも、切断部位までの十分なスペースがないためDNA二重鎖切断(DSB)は起こらない(
図25)。TAL-PITChベクターは、TRA遺伝子の両アレルが切断されたことをフローサイトメトリーで確認するためEGFPを組み込んだベクターとmKate2を組み込んだベクターを準備する(
図24および25ではEGFPを組み込んだベクターを示す)。臨床応用の際には選択マーカーとしてEGFP、mKate2をそれぞれCD20、CD34に置き換えたベクターを作成する。
【0293】
3.Platinum TALEN mRNAを用いたTRB遺伝子切断T細胞の調製:
(1)末梢血T細胞をCD3/28ビーズで刺激し、X-VIVO20+ 10%AB serum+ 2mmol/l L-Glutamin+ 1% penicillin/streptomycin で3日間培養する。
(2)Amaxa 4D-Nucleofectorを用いてTCRβ-L-TALEN
mRNAとTCRβ-R-TALEN mRNAを培養T細胞に導入する(P3 Primary Cell 4D-NucleofectorTM X Kit S)。
1)T細胞5×105~1×106cellを遠心(400G、10分、室温)により細胞ペレットにする.
2)1反応あたりNucleofector P3 solution 16.4μlにSupplement 3.6μlを加え合計20μlのNucleofector solutionで細胞ペレットを懸濁する。
3)TCRβ-L-TALEN mRNA、TCRβ-R-TALEN mRNAをそれぞれ10μgずつ添加する。
4)Nuceofection(プログラム:EO-115)を行う。
5)再び培養を継続する。
6)Nucleofectionの3日後にTCR遺伝子の切断効率をフローサイトメトリーによるCD3およびTCRαβの発現喪失で確認する。
(3)CD3陰性分画をマグネットソーティングあるいはFACS(AriaII)により回収する。
【0294】
4.TAL-PITCh法を用いたTRA遺伝子切断部位へのNY-ESO-1特異的TCR(1G4)の導入:
(1)2.で得られたTRB遺伝子切断T細胞をCD3/28ビーズで刺激し、X-VIVO20+10%AB serum+2mmol/l L-Glutamin+1% penicillin/streptomycinで3日間培養する。
(2)Amaxa 4D-Nucleofectorを用いてTCRα-L-TALEN
mRNAとTCRα-R-TALEN mRNAおよび2種類のTAL-PITChベクター(1G4-EGFPと1G4-mKate2)を培養T細胞に導入する(P3 Primary Cell 4D-NucleofectorTM X Kit S)。
1)T細胞5×105~1×106 cellを遠心(400G、10分、室温)により細胞ペレットにする.
2)1反応あたりNucleofector P3 solution 16.4μlにSupplement 3.6μlを加え合計20μlのNucleofector solutionで細胞ペレットを懸濁する。
3)TCRα-L-TALEN mRNA、TCRα-R-TALEN mRNA、1G4-EGFP TAL-PITChベクターおよび1G4-mKate2 TAL-PITChベクターをそれぞれ10μgずつ添加する。
4)Nuceofection(プログラム:EO-115)を行う。
5)再び培養を継続する。
6)Nucleofectionの3日後に1G4-EGFPおよび1G4-mKate2の導入効率をフローサイトメトリーによるEGFPおよびmKate2の発現で確認する。
(3)EGFPとmKate2がともに陽性である分画をFACS(AriaII)により回収する。
【0295】
(結果)
図27に示されるように、1G4TCRを発現する細胞集団を得ることができた。TAL-PITCh法によって、ウイルスベクターを用いずに内在性TCR欠損NY-ESO-1特異的T細胞を作出することができることが理解される。NY-ESO-1特異的TCRに換えて、所望の外因性TCRを導入することによって、所望の抗原特異性を有するTCRを発現する内在性TCR欠損T細胞をウイルスベクターを用いずに作出することができる。
【0296】
(実施例10:作出細胞の全ゲノムシーケンシング)
以下に示す方法によって、作出細胞を限界希釈法等によってクローン化した後、全ゲノムシーケンシングを行い、細胞の特性を評価することができる。
【0297】
[QIAamp DNA Mini Kitを用いたDNAの抽出](Manufacture’s instructionの通り)
1. 1.5mlマイクロチューブの底にQIAGEN Protease 20μlをピペッティング。
2. このマイクロチューブにPBS 200μlに懸濁した1X105個のT細胞を添加。
3. サンプルに200μlのBuffer ALを添加。
4. 56℃で10分間インキュベート。
5. 1.5mlマイクロチューブを数秒間スピンダウンして蓋の内側についた溶液を収集する。
6. サンプルにエタノール200μlを添加し、15秒間ボルテックスした後、1.5mlマイクロチューブを数秒間スピンダウンして蓋の内側についた溶液を収集する。
7. ステップ6の混合液をQIAamp Mini Spin Columnにアプライする。蓋を閉めて6,000xgで1分間遠心分離する。QIAamp Mini Spin Columnを新しい2mlコレクションチューブに移し、ろ液の入っているコレクションチューブは捨てる。
8. QIAamp Mini Spin Columnを開き、500μlのBuffer AW1を添加する。蓋を閉めて6,000xgで1分間遠心分離する。QIAamp Mini Spin Columnを新しい2mlコレクションチューブに移し、ろ液の入っているコレクションチューブは捨てる。
9. QIAamp Mini Spin Columnを開き、500μlのBuffer AW2を添加する。蓋を閉めて20,000xgで3分間遠心分離。
10. QIAamp Mini Spin Columnを新しい1.5mlマイクロチューブに移し、ろ液の入っているコレクションチューブは捨てる。QIAamp Mini Spin Columnを開き、200μl精製水を添加。室温(20℃)で1分間インキュベートした後、6,000xgで1分間遠心しDNAを抽出する。
【0298】
[PCRフリーライブラリーの作成と全ゲノムシーケンシング]
1. 1μgの高分子量DNAをBioruptor Pico(Diagenode, Belgium)で平均300bp程度に断片化処理し、Agilent Bioanalyzer(Agilent Technologies, USA)で処理後の状態を確認する。
2. 断片化後のDNAにエンドリペア、A-テーリング、インデックスアダプターライゲーションを行い、Agentcourt AMPure XP beads(Beckman Coulter, USA)で純化する。
3. 調整済みDNAライブラリーのサイズと濃度をAgilent Bioanalyzer(Agilent Technologies, USA)とBio-Rad real time PCR systemで品質確認する。
4. DNAライブラリーのシーケンスをmanufacture’s instructionにしたがってHiSeq Xten(Illumina, USA)で行い、Q30%以上かつカバレージ30xで得られたユニークリードの配列に基づき、全ゲノム配列を決定する。
【0299】
[注記]
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本発明は、日本国特許庁に2017年10月10日に出願された特願2017-197010および日本国特許庁に2018年9月7日に出願された特願2018-167954に対して優先権主張を伴うものであり、それらの内容の全体が本明細書において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0300】
本発明は、T細胞の生物工学的操作において利用可能であり、ミスペアリング/オフ・ターゲットのない高機能TCR遺伝子導入T細胞療法を実現することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0301】
配列番号1:TALE DNA結合モジュールのアミノ酸配列の例
配列番号2:HLA-A
*02拘束性CMVpp65ペプチド
配列番号3:HLA-A2-HIV
配列番号4:BSL-18Eプライマー
配列番号5:P20EAプライマー
配列番号6:P10EAプライマー
配列番号7:CA1プライマー
配列番号8:CA2プライマー
配列番号9:CB1プライマー
配列番号10:CB2プライマー
配列番号11:HuVaFプライマー
配列番号12:HuVbFプライマー
配列番号13:B-P20EAプライマー
配列番号14:MID1
配列番号15:MID2
配列番号16:MID3
配列番号17:MID4
配列番号18:MID5
配列番号19:MID6
配列番号20:MID7
配列番号21:MID8
配列番号22:MID10
配列番号23:MID11
配列番号24:MID15
配列番号25:MID16
配列番号26:MID17
配列番号27:MID18
配列番号28:MID19
配列番号29:MID20
配列番号30:MID21
配列番号31:MID22
配列番号32:MID23
配列番号33:MID24
配列番号34:Aアダプター配列
配列番号35:P22EA-ST1-Rプライマー
配列番号36:Tag-1プライマー
配列番号37:Tag-2プライマー
配列番号38:CA-ST1-R
配列番号39:CB-ST1-R
配列番号40:TSOオリゴ
配列番号41:TSO PCRプライマー
配列番号42:SMART PCRプライマー
配列番号43:TSO_TAGプライマー
配列番号44:SMART_TAGプライマー
配列番号45:オリゴビーズ中のSMART配列
配列番号46:TALEN-TCR-alpha2_L19 プラスミド全長
配列番号47:TALEN-TCR-alpha2_R19 プラスミド全長
配列番号48:TALEN-TCR-beta1_L19 プラスミド全長
配列番号49:TALEN-TCR-beta1_R19 プラスミド全長
配列番号50:TALEN-TCR-beta3_L19 プラスミド全長
配列番号51:TALEN-TCR-beta3_R19 プラスミド全長
配列番号52:TALEN-TCR-alpha2_L19 TALENコーディング配列
配列番号53:TALEN-TCR-alpha2_L19 TALENアミノ酸配列
配列番号54:TALEN-TCR-alpha2_R19 TALENコーディング配列
配列番号55:TALEN-TCR-alpha2_R19 TALENアミノ酸配列
配列番号56:TALEN-TCR-beta1_L19 TALENコーディング配列
配列番号57:TALEN-TCR-beta1_L19 TALENアミノ酸配列
配列番号58:TALEN-TCR-beta1_R19 TALENコーディング配列
配列番号59:TALEN-TCR-beta1_R19 TALENアミノ酸配列
配列番号60:TALEN-TCR-beta3_L19 TALENコーディング配列
配列番号61:TALEN-TCR-beta3_L19 TALENアミノ酸配列
配列番号62:TALEN-TCR-beta3_R19 TALENコーディング配列
配列番号63:TALEN-TCR-beta3_R19 TALENアミノ酸配列
配列番号64:TCR-alpha2-f プライマー
配列番号65:TCR-alpha2-r プライマー
配列番号66:TCR-beta1-c1-f プライマー
配列番号67:TCR-beta1-c1-r プライマー
配列番号68:TCR-beta1-c2-f プライマー
配列番号69:TCR-beta1-c2-r プライマー
配列番号70:Vαクローニング用フォワードプライマー
配列番号71:Vαクローニング用リバースプライマー
配列番号72:Cαクローニング用フォワードプライマー
配列番号73:Cαクローニング用リバースプライマー
配列番号74:Vβクローニング用フォワードプライマー
配列番号75:Vβクローニング用リバースプライマー
配列番号76:Cβクローニング用フォワードプライマー
配列番号77:Cβクローニング用リバースプライマー
配列番号78:導入用TCRα定常領域
配列番号79:導入用TCRβ定常領域
配列番号80:α2Lの標的配列
配列番号81:α2Rの標的配列
配列番号82:β1Lの標的配列
配列番号83:β1Rの標的配列
配列番号84:β3Lの標的配列
配列番号85:β3Rの標的配列
配列番号86:TALEN_α2L結合ドメイン
配列番号87:TALEN_α2R結合ドメイン
配列番号88:TALEN_β1L結合ドメイン
配列番号89:TALEN_β1R結合ドメイン
配列番号90:TALEN_β3L結合ドメイン
配列番号91:TALEN_β3R結合ドメイン
配列番号92:QYDペプチド
配列番号93~110:ヒトTRAまたはTRBのCDR3配列の例
配列番号111~113:Platinum TALENのDNA結合モジュールのアミノ酸配列の例
配列番号114:Zhang TALENのDNA結合モジュールのアミノ酸配列の例
配列番号115:HLA-A*0201-restricted NY-ESO-1
157-165
配列番号116:1G4 TCRA CDR3
配列番号117:1G4 TCRB CDR3
配列番号118:1G4 TCRのVαカセット
配列番号119:1G4 TCRのVβカセット
配列番号120~129:
図24および25中の塩基配列
配列番号130:マウスTRA2-TALEN左側の標的配列
配列番号131:マウスTRA2-TALEN右側の標的配列
配列番号132:マウスTRB1―TALEN左側の標的配列
配列番号133:マウスTRB1-TALEN右側の標的配列
配列番号134:マウスTRB2―TALEN左側の標的配列
配列番号135:マウスTRB2-TALEN右側の標的配列
【配列表】