(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】易解砕性銅粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230112BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20230112BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20230112BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20230112BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230112BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230112BHJP
B22F 10/00 20210101ALI20230112BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20230112BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20230112BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F9/24 B
H01B5/00 F
H01B1/00 F
H01B1/22 A
B33Y70/00
B22F10/00
B22F10/34
C09D11/30
(21)【出願番号】P 2019059248
(22)【出願日】2019-03-26
(62)【分割の表示】P 2018177901の分割
【原出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-002250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-12/90
H01B1/00-1/24
H01B5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位の絶対値が20mV以上であ
り、
タップ密度が3gcm
-3
未満である、銅粉。
【請求項2】
BET比表面積が2m
2g
-1以上である、請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
炭素付着量が0.1~0.6%の範囲にある、請求項1~2のいずれかに記載の銅粉。
【請求項4】
TMA1%収縮温度が200~500℃の範囲にある、請求項1~3のいずれかに記載の銅粉。
【請求項5】
銅粉が易解砕性銅粉である、
請求項1~4のいずれかに記載の銅粉。
【請求項6】
銅粉が積層造形用銅粉である、
請求項1~5のいずれかに記載の銅粉。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の銅粉を含む、銅粉ペースト。
【請求項8】
銅粉ペーストがインクジェット印刷用インクである、
請求項7に記載の銅粉ペースト。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の銅粉、又は
請求項7~8のいずれかに記載の銅粉ペーストが焼結されてなる、焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易解砕性銅粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料として、銅粉ペーストが広く使用されてきている。銅粉ペーストは、例えば、塗布した後に焼結して、積層型セラミックコンデンサの電極の形成等に使用される。使用される電極層の薄膜化、及び配線の狭ピッチ化等に伴って、ペースト材料の銅粉には微粉化が求められている。サブミクロンサイズの銅粉の製造のために、化学還元や不均化法を利用した湿式法で銅粉を合成する方法が用いられる。特許文献1は銅粉を用いたペーストの製造方法を開示している。特許文献2は不均化法による銅粉の製造方法を開示している。特許文献3は化学還元法による銅粉の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/125659号
【文献】特許第6297018号公報
【文献】特許第4164009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湿式法で得られた銅粉は、固液分離工程を経て、いったん乾燥ケーキの形態となる。この乾燥ケーキにおいては、銅粉のサイズが小さいと銅粉同士が凝集を引き起こすという現象を、本発明者は見いだしている。そして、もし、この凝集を放置すると、銅粉(一次粒子)の凝集によって形成された粒子(二次粒子)が、ペースト中に残存して、銅粉ペーストとしての特性を悪化させてしまう。そのため、微細な銅粉同士が凝集してしまった乾燥ケーキでは、これを解砕して分級するという複雑な工程が、必要となっていた。この場合に要する粗解砕から、ジェットミルによる解砕とそれに続く分級の工程は、複雑であると同時に損失も多く、製造上大変に負担が重い。
【0005】
したがって、本発明の目的は、乾燥ケーキからの解砕と分級の工程の負担を低減して製造可能な銅粉であって、二次粒子の残存が十分に低減された銅粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、湿式法によって製造された銅粉を、特定のpH条件下で処理することによって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0007】
したがって、本発明は、次の(1)を含む。
(1)
湿式法によって製造された銅粉であって、ゼータ電位の絶対値が20mV以上である、銅粉。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乾燥ケーキからの解砕と分級の工程の負担を低減しつつ、二次粒子の残存が十分に低減された、易解砕性の銅粉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、粘度測定試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0011】
[易解砕性の銅粉]
本発明に係る銅粉は、湿式法によって製造された銅粉であって、ゼータ電位の絶対値が20mV以上である。
【0012】
このような銅粉とすることによって、銅粉(一次粒子)同士が反発することに起因して、銅粉の分散性が向上する。換言すれば、このような銅粉は、銅粉の凝集体(二次粒子)の発生を抑制できる。その結果、乾燥ケーキからの解砕と分級の工程の負担を低減しつつ、二次粒子の残存が十分に低減された、易解砕性の銅粉とすることができる。
【0013】
このような銅粉は、 積層造形(AM:Additive Manufacturing)用の金属粉体 として好適に用いられる。積層造形の一態様として、金属粉体を敷き詰めてパウダーベッドを形成した後に、バインダーとして機能する有機物を含むインクをインクジェットでパウダーベッドに吹き付けて成形し、それを焼結させることによって造形物を作る技術が知られている。このような積層造形では、金属粉末(パウダーベッド)に対しインク(バインダ)ぬれ性が求められる。インクぬれ性が悪いと、金属粉末がインクをはじいてしまい、造形精度が低くなるためである。この点において、上述の易解砕性の銅粉を用いた積層造形は、銅粉(一次粒子)同士が反発することに起因して優れた分散性を発揮するため、銅粉間にインクが流れ込みやすく、換言すれば、インクぬれ性が高く、高い造形精度を実現できる。
【0014】
[易解砕性]
易解砕性とは、乾燥ケーキからの解砕が容易であって、分級の工程を行わなくても、二次粒子の残存が十分に低減されたものとなっていることをいい、具体的には、後述する実施例に記載の条件で作成したペーストについて、スライドガラス上にペーストの乾燥塗膜を形成した場合、Raが0.2μm以下、Rzが2μm以下となっていることをいう。
【0015】
[ゼータ電位]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、pH7の条件下で測定されたゼータ電位の絶対値を、例えば20mV以上、好ましくは20から100mVの範囲とすることができる。ゼータ電位は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。
【0016】
[BET比表面積]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、BET比表面積を、例えば2m2g-1以上、好ましくは2m2g-1以上100m2g-1以下、さらに好ましくは2.5m2g-1以上20m2g-1以下、さらに好ましくは3m2g-1以上15m2g-1以下とすることができる。BET比表面積は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。
【0017】
[炭素付着量]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、燃焼法によって測定される炭素付着量として、銅粉に対する炭素付着量を、例えば0.1~0.6質量%の範囲、好ましくは0.1~0.5質量%の範囲、さらに好ましくは0.2~0.5質量%の範囲、さらに好ましくは0.2~0.4質量%の範囲とすることができる。燃焼法による炭素付着量は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。銅粉から測定される炭素付着量は、湿式法による銅粉の製造の工程に由来する。炭素を含む添加材の添加量が同じであれば、小さい銅粉(比表面積の大きい銅粉)ほど、炭素付着量が多くなる。また、炭素付着量が多い銅粉ほど、後述するpH処理によりゼータ電位変動の影響を受けやすくなる。好適な実施の態様において、この特定の炭素付着量とゼータ電位の組みあわせを備えた銅粉とすることによって、優れた易解砕性を実現できると、本発明者は考えている。
【0018】
[TMA1%収縮温度]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、TMA1%収縮温度を、例えば500℃以下、好ましくは200~500℃、さらに好ましくは200~400℃の範囲とすることができる。TMA1%収縮温度は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。すなわち、ネッチ・ジャパン(株)製のTMA4000を使って測定することができ、その条件は、以下とすることができる:圧粉体密度:4.7g/cm3、測定雰囲気:窒素、昇温速度:5℃/min、荷重:10mN。
【0019】
[タップ密度]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、タップ密度(固めかさ密度)を、例えば3g/cm3以下、好ましくは3.0g/cm3未満、好ましくは2.9g/cm3以下、好ましくは2.5g/cm3以下とすることができる。上記の上限よりもタップ密度(固めかさ密度)を小さくすることによって、ペースト中における銅粉の分散性を良好なものとすることができる。タップ密度は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。すなわち、ホソカワミクロン(株)製のパウダテスタPT-Xを使って測定することができる。具体的には10ccのカップにガイドを取り付けて粉体を入れ、1000回タップさせて、ガイドを外して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている粉体の重量を測定し、固めかさ密度を求めることができる。
【0020】
好適な実施の態様において、本発明による銅粉はペースト中での分散性が良好である。これはタップ密度(固めかさ密度)が低いことが関係していると本発明者は推定している。理由は明らかではないが、乾燥粉の状態でタップ密度が低いと、乾燥粉間に生じている隙間が多く、ここに、溶剤、樹脂が入りやすいことが要因の一つであるのではないかと本発明者は考えている。
【0021】
好適な実施の態様において、本発明による銅粉は解砕が十分に行われているため、表面積が大きい。このため、ペースト中では溶剤、ビークルとの相互作用が強まり、本件で得られる銅粉はペースト中で増粘剤としてふるまうのではないかと、本発明者は考えている。後述するように、好適な実施の態様において、本発明による銅粉を使用したペーストは低せん断速度領域では粘度が高く、高せん断速度領域では粘度が低下する。低せん断速度領域では銅粉と溶剤、樹脂等との相互作用が強いため粘度が高くなっていると本発明者は推定している。一方、高せん断速度領域では銅粉自身が十分に解砕されているので、せん断速度の上昇とともにペーストが変形しやすく低粘度になっていると本発明者は推定している。このようなペーストは低せん断速度領域の挙動から印刷パターンの形状保持、高せん断速度領域の挙動から印刷性に優れていると期待される。好適な実施の態様において、本発明による銅粉を単独でペースト材料として使用してもよいし、より大きなミクロンサイズ銅粉と混ぜ合わせることでペーストの粘度を高めて印刷性を調整してもよい。また、後者の場合、本発明による銅粉自体が低温焼結性を有するので、ペースト全体としては焼結が進行し、高密度な焼結体が得られる。
【0022】
[易解砕性銅粉の製造]
好適な実施の態様において、本発明の易解砕性銅粉は、湿式法によって製造された銅粉を、pH8~14のアルカリ水溶液、又はpH0~4の酸水溶液と接触させる、pH処理工程、を含む方法によって製造することができる。
【0023】
[pH処理工程]
好適な実施の態様において、pH処理工程は、上記pHのアルカリ水溶液又は酸水溶液と接触させることによって行われる。好適な実施の態様において、接触としては、例えば、湿式法によって製造された銅粉を、上記水溶液中で撹拌することによって行うことができる。撹拌は、例えば、公知の手段によって行うことができ、例えば回転羽根、ミキサー、及び撹拌子を用いて撹拌することができる撹拌の時間は、例えば5分以上48時間以内、好ましくは10分以上、24時間以内とすることができる。好適な実施の態様において、接触としては、例えば、湿式法によって製造された銅粉に対して、上記水溶液を通液することによって行うことができる。アルカリ水溶液又は酸水溶液との接触は、例えばバッチ式で1回行ってもよく、あるいは複数回行うこともできる。アルカリ水溶液又は酸水溶液と接触させた後の銅粉は、公知の手段によって固液分離して、ケーキとして得ることができる。好適な実施の態様において、アルカリ水溶液又は酸水溶液と接触させた後の銅粉を、純水で洗浄することができる。
【0024】
好適な実施の態様において、純水による洗浄は、公知の手段によって行うことができるが、例えば、固液分離して得られたケーキに対して純水を通液することによって行うことができる。
【0025】
[アルカリ水溶液]
好適な実施の態様において、湿式法によって製造された銅粉と接触させるアルカリ水溶液のpHは、例えばpH8~14、好ましくはpH8~13、好ましくはpH9~13とすることができる。上記pHへと調整されたアルカリ水溶液としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、分子末端にアミノ基を含む有機物の水溶液、あるいはこれらの混合水溶液を使用することができる。
【0026】
[酸水溶液]
好適な実施の態様において、湿式法によって製造された銅粉と接触させる酸水溶液のpHは、例えばpH0~4、好ましくはpH1~4好ましくはpH1~3とすることができる。上記pHへと調整された酸水溶液としては、例えば希硫酸、メタンスルホン酸等の有機酸の水溶液、あるいはこれらの混合水溶液を使用することができる。
【0027】
[乾燥]
好適な実施の態様において、pH処理された銅粉は、その後に乾燥される。乾燥は、公知の手段によって行うことができ、例えば60~300℃、好ましくは60~150℃で、窒素雰囲気あるいは真空雰囲気で乾燥することができる。このようにして得られた銅粉は、しばしば乾燥ケーキの形態として得られる。
【0028】
[解砕]
好適な実施の態様において、pH処理されて次に乾燥された銅粉は、その後に解砕される。解砕は、公知の手段で行うことができ、例えば乳棒、乳鉢、ミキサーを使用することができる。本発明によれば、このような簡易な手段による粗解砕によって十分に解砕されて、二次粒子が十分に低減されたものとなっているので、従来は必要であるとされていたその後の強力な解砕手段による解砕の工程と、分級の工程が必要ではない。また、セラミックビーズを用いるビーズミル解砕のような強力な解砕手段を必要としないことから、湿式法によって製造された銅粉の自然な形状を保持することができ、機械的に変形した形状となること回避できる。本発明によれば、このように簡易な手段による粗解砕によって十分に解砕されるのであるが、所望により、その後に、ヘンシェルミキサーのような機械的な解砕や、ジェットミル解砕を行うことを排除するものではなく、所望により、その後に、分級の工程を行うことを排除するものではない。本発明による銅粉は、pH処理によって易解砕性を実現しており、容易に解砕することができ、例えば乳棒、乳鉢、ミキサーによって、十分な解砕を達成することができる。ただし、易解砕性の銅粉の解砕手段としては、さらに強力な解砕手段を採用することを除外するものではなく、例えばヘンシェルミキサーのような機械的な解砕や、ジェットミル解砕を行ってもよい。
【0029】
[銅粉ペースト]
好適な実施の態様において、本発明の易解砕性の銅粉は、この銅粉を含む銅粉ペーストの態様として好適に使用することができる。銅粉ペーストは、例えば易解砕性の銅粉を、バインダー樹脂、有機溶剤と混練して調製することができ、所望によりさらにガラスフリットを添加してもよく、所望によりさらに分散剤、チキソ剤及び/又は消泡剤を添加してもよい。本発明の易解砕性の銅粉は、簡易な手段によっても十分に解砕されていて、一次粒子同士が互いに反発し合うため、その後の再凝集のリスクが低減されたものとなっており、ペースト中に高度に分散されたものとなる。そのため、本発明による銅粉ペーストは、これを印刷し焼成して得られた電極は、表面が滑らかなものとなり、配線の断線のリスクが低減されたものとなっている。
このような銅粉ペーストは、インクジェット印刷用の金属インクとして好適に用いられる。その理由は、インクジェット印刷用の金属インクには、ノズルでつまらない特性が要求されるところ、上述の易解砕性の銅粉は、ノズルで詰まりにくいためである。これは、易解砕性の銅粉が分散性に優れ、二次粒子を形成しづらいことに起因する。
【0030】
好適な実施の態様において、ペーストに使用されるバインダー樹脂としては、例えばセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール、ケトン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンをあげることができる。銅粉ペースト中のバインダー樹脂は、銅粉の質量に対して例えば0.1~10%の比率となるように含有させることができる。好適な実施の態様において、有機溶剤としては、アルコール溶剤(例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、テルピネルオキシエタノール、ジヒドロテルピネルオキシエタノールからなる群から選択された1種以上)、グリコールエーテル溶剤(例えばブチルカルビトール)、アセテート溶剤(例えばブチルカルビトールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ジヒドロカルビトールアセテート、カルビトールアセテート、リナリールアセテート、ターピニルアセテートからなる群から選択された1種以上)、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン)、炭化水素溶剤(例えばトルエン、シクロヘキサンからなる群から選択された1種以上)、セロソルブ類(例えばエチルセロソルブ、ブチルセロソルブからなる群から選択された1種以上)、ジエチルフタレート、またはプロピネオート系溶剤(例えばジヒドロターピニルプロピネオート、ジヒドロカルビルプロピネオート、イソボニルプロピネオートからなる群から選択された1種以上)をあげることができる。好適な実施の態様において、ガラスフリットとしては、例えば直径が0.1~10μm、好ましくは0.1~5.0μmの範囲のガラスフリットを使用することができる。好適な実施の態様において、分散剤としては、例えばオレイン酸、ステアリン酸及びオレイルアミンをあげることができる。好適な実施の態様において、消泡剤としては、例えば有機変性ポリシロキサン、ポリアクリレートをあげることができる。好適な実施の態様において、銅粉ペースト中には、銅粉ペーストの質量に対して、銅粉の質量比率を30~90%とし、ガラスフリットの質量比率を0~5%とし、バインダー樹脂の質量比率を上記の通りにし、残部を有機溶剤、分散剤等として含有させることができる。混練は公知の手段を使用して行うことができる。好適な実施の態様において、易解砕性の銅粉からの銅粉ペーストの調製は、例えば特許文献1(WO2013/125659号)に開示されたペーストの調製にしたがって行うことができる。
【0031】
[焼結体]
好適な実施に態様において、本発明の易解砕性の銅粉を含む銅粉ペーストは、所望によりこれを印刷あるいは塗工した後に、焼結して、焼結体とすることができる。好適な実施に態様において、得られた焼結体は、その表面が滑らかなものとなっている。
【0032】
好適な実施の態様において、本発明の易解砕性の銅粉を含む銅粉ペーストを印刷した後に、乾燥した塗膜の表面粗さRaは、例えば0.01~0.4μmの範囲、好ましくは0.01~0.3μmの範囲とすることができる。焼結体の粗さは、実際にはペースト中の銅粉の分散性に加えて印刷条件も影響してくるので、本法では分散性を評価するという意味で乾燥塗膜の粗さを測定した。乾燥塗膜の表面粗さRaは、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。このような塗膜を焼結して形成された焼結体は、電子回路や電子部品において、電極層、及び導電層等として、好適に使用できるものとなっている。好適な実施に態様において、本発明の易解砕性の銅粉を、焼結して、焼結体とすることができる。
【0033】
好適な実施に態様において、焼結は、公知の条件によって行うことができ、例えば200~1000℃の範囲の温度で、非酸化性雰囲気下において、0.1~10時間の加熱によって、焼結することができる。
【0034】
[湿式法によって製造された銅粉]
好適な実施の態様において、pH処理工程に供される銅粉は、湿式法によって製造された銅粉である。湿式法には、いわゆる不均化法といわゆる化学還元法が含まれる。
【0035】
好適な実施の態様において、不均化法による銅粉の製造方法として、例えば特許文献2(特許第6297018号)に開示された方法を使用することができる。好適な実施の態様において、不均化法による銅粉の製造方法として、例えば、アラビアゴムの添加剤を含む水性溶媒中に亜酸化銅を添加してスラリーを作製する工程、スラリーに希硫酸を5秒以内に一度に添加して不均化反応を行う工程、を含む製造方法をあげることができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、室温(20~25℃)以下に保持するとともに、同様に室温以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、7℃以下に保持するとともに、同様に7℃以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、希硫酸の添加は、pH2.5以下、好ましくはpH2.0以下、さらに好ましくはpH1.5以下となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、スラリーへの希硫酸の添加は、5分以内、好ましくは1分以内、さらに好ましくは30秒以内、さらに好ましくは10秒以内、さらに好ましくは5秒以内となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、上記不均化反応は10分間で終了するものとすることができる。好適な実施の態様において、上記スラリー中のアラビアゴムの濃度は、0.229~1.143g/Lとすることができる。上記亜酸化銅としては、公知の方法で使用された亜酸化銅、好ましくは亜酸化銅粒子を使用することができ、この亜酸化銅粒子の粒径等は不均化反応によって生成する銅粉の粒子の粒径等とは直接に関係がないので、粗粒の亜酸化銅粒子を使用することができる。この不均化反応の原理は次のようなものである:
Cu2O+H2SO4 → Cu↓+CuSO4+H2O
【0036】
このようにして得られた銅粉は、洗浄した後に、スラリーの形態で、上記pH処理工程に供してもよく、いったん乾燥した銅粉の形態とした後に、上記pH処理工程に供してもよい。
【0037】
好適な実施の態様において、化学還元法による銅粉の製造方法として、例えば特許文献3(特許第4164009号)に開示された方法を使用することができる。好適な実施の態様において、化学還元法による銅粉の製造方法として、例えば、アラビアゴム2gを2900mLの純水に添加した後、硫酸銅125gを添加し撹拌しながら、80%ヒドラジン一水和物を360mL添加して、ヒドラジン一水和物の添加後~3時間かけて室温から60℃に昇温し、更に3時間かけて酸化銅を反応させて、反応終了後、得られたスラリーをヌッチェでろ過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥させて銅粉を得ることができる。このように得られた乾燥した銅粉を、上記pH処理工程に供してもよく、スラリーの形態のままで、上記pH処理工程に供してもよい。
【0038】
[好適な実施の態様]
本発明は次の(1)以下の実施態様を含む。
(1)
湿式法によって製造された銅粉であって、ゼータ電位の絶対値が20mV以上である、銅粉。
(2)
BET比表面積が2m2g-1以上である、(1)に記載の銅粉。
(3)
炭素付着量が0.1~0.6%の範囲にある、(1)~(2)のいずれかに記載の銅粉。
(4)
TMA1%収縮温度が200~500℃の範囲にある、(1)~(3)のいずれかに記載の銅粉。
(5)
タップ密度が3gcm-3未満である、(1)~(4)のいずれかに記載の銅粉。
(6)
銅粉が易解砕性銅粉である、(1)~(5)のいずれかに記載の銅粉。
(7)
銅粉が積層造形用銅粉である、(1)~(6)のいずれかに記載の銅粉。
(8)
(1)~(7)のいずれかに記載の銅粉を含む、銅粉ペースト。
(9)
銅粉ペーストがインクジェット印刷用インクである、(8)に記載の銅粉ペースト。
(10)
(1)~(7)のいずれかに記載の銅粉、又は(8)~(9)のいずれかに記載の銅粉ペーストが焼結されてなる、焼結体。
(11)
湿式法によって製造された銅粉を、pH8~14のアルカリ水溶液、又はpH0~4の酸水溶液と接触させる、pH処理工程、
を含む、銅粉に易解砕性を付与する方法。
(12)
湿式法によって製造された銅粉を、pH8~14のアルカリ水溶液、又はpH0~4の酸水溶液と接触させる、pH処理工程、
を含む、易解砕性銅粉の製造方法。
【0039】
したがって、本発明は、セラミック積層体に設けられた外部電極、セラミック積層体に外部電極が設けられてなる積層セラミック製品を含み、積層セラミックコンデンサ、及び積層セラミックインダクタを含む。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
[不均化法による銅粉の製造 (製粉法A)]
亜酸化銅1kg、アラビアゴム4g、純水7Lからなるスラリーに、25vol%の希硫酸2.5Lを瞬間的に添加し、500rpmで10分間撹拌した。この操作で得られた銅粉が十分に沈降した後に上澄み液を取り除き、純水を7L加え500rpm、10分間撹拌した。上澄み液中のCu2+由来のCu濃度が1g/Lを下回るまでこの操作を繰り返した。その後、デカンテーションして、不均化法による銅粉のスラリーを得た。不均化法による銅粉を表1の製法として「A」と記載する。
【0042】
[pH処理]
デカンテーションして得られた上澄み液を取り除き、沈降していた銅粉のスラリー500g(湿質量)を、pH8へ調製したアンモニア水1L中に投入して、攪拌した。攪拌は、25℃で1時間行った。その後、吸引ろ過によって固液分離して、pH処理された銅粉のケーキを得た。得られたケーキを、ろ過後の純水のpHが8を下回ることを目安として純水によって洗浄した。
【0043】
[乾燥と解砕]
洗浄後の銅粉のケーキを、100℃で窒素雰囲気下で乾燥して、pH処理された銅粉の乾燥ケーキを得た。
得られた乾燥ケーキを、乳棒と乳鉢によって粗解砕した。このようにして、実施例1による銅粉を得た。
【0044】
[タップ密度]
実施例1による銅粉に対して、次の条件でタップ密度を測定した。
ホソカワミクロン(株)パウダテスタPT-Xを使って測定した。10ccのカップにガイドを取り付けて粉体を入れ、1000回タップさせて、ガイドを外して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている粉体の重量を測定し、タップ密度(固めかさ密度)を求めた。
【0045】
[BET比表面積]
実施例1による銅粉に対して、マイクロトラック・ベル社のBELSORP-miniIIを使い、真空中で200℃、5時間加熱する前処理後にBET比表面積を測定した。
【0046】
[炭素付着量]
実施例1による銅粉に対して、LECO社のCS600を使って燃焼法による炭素付着量を測定した。
【0047】
[TMA1%収縮温度]
実施例1による銅粉に対して、次の条件でTMA1%収縮温度を測定した。
ネッチ・ジャパン(株)製のTMA4000を使って測定した。その条件は、以下とした:
圧粉体密度:4.7g/cm3
測定雰囲気:窒素
昇温速度:5℃/min
荷重:10mN
【0048】
[ゼータ電位]
実施例1による銅粉に対して、pH7の条件で、次のようにゼータ電位を測定した。
マルバーンパナリティカルのゼータサイザーナノZSを用いて、粉体のゼータ電位を測定した。より具体的には、50mLの試料瓶に約50mgのサンプルを採取し、全量が50gとなるように0.1wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を注入し、3分間超音波照射した。その際、超音波照射装置として、アズワン製のUS-4Rを用い、出力を180W、周波数を40kHzに設定した。その後、900μLの0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液で100μLの上記分散液を希釈し、マイクロピペットで900μLを測定セルに注入した。液温は25℃に調整した。
【0049】
[塗膜の表面粗さRa]
あらかじめターピネオールとエチルセルロースを自転公転ミキサー、および3本ロールに通して十分に混練したビークルと、オレイン酸、および実施例1の銅粉の比率が銅粉:エチルセルロース:オレイン酸:ターピネオール=80:2.3:1.6:16.1(重量比)となるように混合し、自転公転ミキサーで予備混練した後、3本ロールに通し(仕上げロールギャップ5μm)、自転公転ミキサーを使って脱泡した。得られたペーストを25μmギャップのアプリケーターを使ってスライドガラス上に塗膜し、120℃、10分で乾燥させた。得られた塗膜の塗工方向のRaをJIS B 0601-2001に従って触針式粗さ計で計測し、5点平均で算出した。
【0050】
[結果]
実施例1の銅粉に対して上記測定した結果を、表1にまとめて示す。
【0051】
[実施例2~6]
[不均化法による銅粉の製造 (製粉法A)]
実施例1と同様にして、不均化法による銅粉のスラリーを得た。
【0052】
[pH処理]
処理に用いたアンモニア水のpHを、実施例1とは変更するか(実施例2~4)、あるいはアンモニア水に代えてpH1へ調製した希硫酸(実施例5)又はpH13へ調製した水酸化カリウム水溶液で1時間撹拌後、吸引ろ過で固液分離を行い、pH1の希硫酸5Lで回収ケーキをろ過し、さらにろ液のpHが5を上回るまでケーキを純水で洗浄した(実施例6)ことを除いて、実施例1と同様にして、pH処理を行って、pH処理された銅粉のスラリーを得た。
その後、吸引ろ過によって固液分離して、pH処理された銅粉のケーキを得た。得られたケーキを、ろ過後の純水のpHが5を上回ることを目安として純水によって洗浄した。
ただし、実施例6については、得られたケーキの洗浄を純水に代えて、銅粉100gに対してpH1の希硫酸1250mLを使用して、吸引ろ過によってケーキ洗浄した。
実施例2~6において用いたpHの値を、それぞれ表1にまとめて示す。なお、pH調製は、アンモニア及び希硫酸を適宜添加して行った。また、pH処理の処理方法について、さらに表2にまとめて示す。
【0053】
[乾燥と解砕]
銅粉のケーキを、実施例1と同様に処理して、乾燥ケーキを得て、これを粗粉砕して、実施例2~6の銅粉を得た。
【0054】
[測定と結果]
実施例2~6の銅粉に対して、実施例1と同様にして、測定した結果を、表1にまとめて示す。
【0055】
[実施例7]
[還元法による銅粉の製造 (製粉法B)]
特許文献3(特許第4164009号)に従い、化学還元法によって銅粉を得た。すなわち、アラビアゴム2gを2900mLの純水に添加した後、硫酸銅125gを添加し撹拌しながら、80%ヒドラジン一水和物を360mL添加した。ヒドラジン一水和物の添加後~3時間かけて室温から60℃に昇温し、更に3時間かけて酸化銅を反応させた。反応終了後、得られたスラリーをヌッチェでろ過し、ろ液のpHが7台になるまで純水ろ過を繰り返し、銅粉スラリーを得た。このようにして、還元法による銅粉のスラリーを得た。還元法による銅粉を表1の製法として「B」と記載する。
【0056】
[pH処理]
得られた銅粉のスラリーに対して、処理に用いたアンモニア水のpHを、実施例1とは変更したことを除いて、実施例1と同様にして、pH処理を行って、pH処理された銅粉のケーキを得た。得られたケーキを、実施例1と同様にして、純水によって洗浄した。実施例7において用いたpHの値を、表1に示す。
【0057】
[乾燥と解砕]
銅粉のケーキを、実施例1と同様に処理して、乾燥ケーキを得て、これを粗粉砕して、実施例7の銅粉を得た。
【0058】
[測定と結果]
実施例7の銅粉に対して、実施例1と同様にして、測定した結果を、表1に示す。
【0059】
[実施例8~9]
[還元法による銅粉の製造 (製粉法B)]
実施例7と同様にして、還元法による銅粉のスラリーを得た。
【0060】
[pH処理]
アンモニア水に代えてpH3又はpH1へ調製した希硫酸(実施例8~9)を使用したことを除いて、実施例1と同様にして、pH処理を行って、pH処理された銅粉のケーキを得た。得られたケーキを、ろ液のpHが5を上回るまで純水で洗浄した。実施例8~9において用いたpHの値を、それぞれ表1にまとめて示す。
【0061】
[乾燥と解砕]
pH処理された銅粉のスラリーを、実施例1と同様にして、乾燥ケーキを得て、これを粗粉砕して、実施例8~9の銅粉を得た。
【0062】
[測定と結果]
実施例8~9の銅粉に対して、実施例1と同様にして、測定した結果を、表1にまとめて示す。
【0063】
[比較例1]
[不均化法による銅粉の製造 (製粉法A)]
実施例1と同様にして、不均化法による銅粉のスラリーを得た。
【0064】
[乾燥と解砕]
銅粉のスラリーに対して、pH処理を行うことなく、実施例1と同様にして、乾燥ケーキを得て、これを粗粉砕して、比較例1の銅粉を得た。
比較例1の銅粉に対して、実施例1と同様にして、測定した結果を、表1にまとめて示す。
【0065】
[比較例2]
[還元法による銅粉の製造 (製粉法B)]
実施例7と同様にして、還元法による銅粉のスラリーを得た。
【0066】
[乾燥と解砕]
銅粉のスラリーに対して、pH処理を行うことなく、実施例1と同様にして、乾燥ケーキを得て、これを粗粉砕して、比較例2の銅粉を得た。
比較例2の銅粉に対して、実施例1と同様にして、測定した結果を、表1にまとめて示す。
【0067】
【0068】
【0069】
[粘度測定試験]
実施例3と比較例1の銅粉を用いて、実施例1と同様にしてペーストを作製した。得られたペーストの粘度を、E型粘度計MCR102を使って測定した(2°のコーンプレート、25℃、せん断速度範囲0.01~1000s
-1)。この結果を
図1に示す。
図1に示すように、0.2s
-1以下の低せん断速度領域では実施例3の銅粉を使ったペーストの粘度が高く、10s
-1を超えるせん断速度領域では実施例3の銅粉を使ったペーストの方が粘度が低い。このように、本発明による銅粉のペーストは、低せん断速度領域の挙動から形状保持性、高せん断速度領域の挙動から印刷性に優れたものとなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、易解砕性の銅粉を提供する。本発明は産業上有用な発明である。