(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/02 20090101AFI20230113BHJP
H04W 52/18 20090101ALI20230113BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20230113BHJP
【FI】
H04W24/02
H04W52/18
H04W84/12
(21)【出願番号】P 2019093840
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中平 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】アベセカラ ヒランタ
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】石原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 崇文
(72)【発明者】
【氏名】山本 高至
【審査官】篠田 享佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224949(JP,A)
【文献】特開2019-041338(JP,A)
【文献】特開2017-224948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共用無線周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信システムにおいて、
前記無線通信局は、
周辺の無線環境情報および宛先無線通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得手段と、
前記宛先無線通信局における前記SINRと、自局で検知される前記共用無線周波数帯を用いる周辺の無線通信局数に応じて、前記宛先無線通信局のスループットが最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定するパラメータ算出・設定手段と
、を備え
、
前記無線環境情報取得手段は、前記周辺の無線環境情報として、2ホップ以内の全隣接無線通信局における運用周波数チャネル、送信電力値およびキャリアセンス閾値と、前記宛先無線通信局における前記SINRを収集する構成であり、
前記パラメータ算出・設定手段は、前記無線環境情報取得手段より収集された無線環境情報を基に、所定の利得関数が最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定する構成であり、
前記利得関数は、
u3
i
=(1-w)・u1
i
(a
Ni
,c
Ni
)+w・u2i(a
Si
,c
Si
)
で表され、cは運用周波数チャネル、aは送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量であり、u1は自局を含む全ての隣接無線基地局N
i
の情報a
Ni
,c
Ni
に基づく利得関数、u2は自局を含む2ホップ以内の隣接無線基地局S
i
の情報a
Si
,c
Si
に基づく利得関数であり、wは重み係数であり、
前記利得関数u1およびu2は、前記宛先無線通信局における前記SINRと、自局で検知される共用周波数チャネルを用いる周辺の無線通信局数の関数であって、前記SINRに比例して値が大きくなり、前記周辺の無線通信局数に応じて値が小さくなる性質を持つ
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
共用無線周波数帯上で複数の無線通信局が無線通信を行う無線通信方法において、
前記無線通信局は、
周辺の無線環境情報および宛先無線通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得ステップと、
前記宛先無線通信局における前記SINRと、自局で検知される前記共用無線周波数帯を用いる周辺の無線通信局数に応じて、前記宛先無線通信局のスループットが最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定するパラメータ算出・設定ステップと
、を有
し、
前記無線環境情報取得ステップは、前記周辺の無線環境情報として、2ホップ以内の全隣接無線通信局における運用周波数チャネル、送信電力値およびキャリアセンス閾値と、前記宛先無線通信局における前記SINRを収集するステップを含み、
前記パラメータ算出・設定ステップは、前記無線環境情報取得ステップより収集された無線環境情報を基に、所定の利得関数が最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定するステップを含み、
前記利得関数は、
u3
i
=(1-w)・u1
i
(a
Ni
,c
Ni
)+w・u2i(a
Si
,c
Si
)
で表され、cは運用周波数チャネル、aは送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量であり、u1は自局を含む全ての隣接無線基地局N
i
の情報a
Ni
,c
Ni
に基づく利得関数、u2は自局を含む2ホップ以内の隣接無線基地局S
i
の情報a
Si
,c
Si
に基づく利得関数であり、wは重み係数であり、
前記利得関数u1およびu2は、前記宛先無線通信局における前記SINRと、自局で検知される共用周波数チャネルを用いる周辺の無線通信局数の関数であって、前記SINRに比例して値が大きくなり、前記周辺の無線通信局数に応じて値が小さくなる性質を持つ
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)の稠密環境において、各無線通信局のCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)制御に起因するスループットの低下を改善する無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやスマートフォン等の持ち運び可能で高性能な無線端末の普及により企業や公共スペースだけではなく、一般家庭でもIEEE802.11標準規格の無線LANが広く使われるようになっている。IEEE802.11標準規格の無線LANには、 2.4GHz帯を用いるIEEE802.11b/g/n 規格の無線LANと、5GHz帯を用いるIEEE802.11a/n/ac規格の無線LANがある。
【0003】
IEEE802.11b規格やIEEE802.11g規格の無線LANでは、2400MHzから2483.5MHz間に5MHz間隔で13チャネルが用意されている。ただし、同一場所で複数のチャネルを使用する際は、干渉を避けるためスペクトルが重ならないようにチャネルを使用すると最大で3チャネル、場合によっては4チャネルまで同時に使用できる。
【0004】
IEEE802.11a規格の無線LANでは、日本の場合は、5170MHzから5330MHz間と、5490MHzから5710MHz間で、それぞれ互いに重ならない8チャネルおよび11チャネルの合計19チャネルが規定されている。なお、IEEE802.11a規格では、チャネル当たりの帯域幅が20MHzに固定されている。
【0005】
無線LANの最大伝送速度は、IEEE802.11b規格の場合は11Mbps であり、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格の場合は54Mbps である。ただし、ここでの伝送速度は物理レイヤ上での伝送速度である。実際にはMAC(Medium Access Control )レイヤでの伝送効率が50~70%程度であるため、実際のスループットの上限値はIEEE802.11b規格では5Mbps 程度、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格では30Mbps 程度である。また、伝送速度は、情報を送信しようとする無線通信局が増えればさらに低下する。
【0006】
一方で、有線LANでは、Ethernet(登録商標)の100Base-T インタフェースをはじめ、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、 100Mbps ~1Gbps 級の高速回線の提供が普及しており、無線LANにおいても更なる伝送速度の高速化が求められている。
【0007】
そのため、2009年に標準化が完了したIEEE802.11n規格では、これまで20MHzと固定されていたチャネル帯域幅が最大で40MHzに拡大され、また、空間多重送信技術(MIMO:Multiple input multiple output)技術の導入が決定された。IEEE802.11n規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で 600Mbps の通信速度を実現可能である。
【0008】
さらに、2013年に標準化が完了したIEEE802.11ac規格では、チャネル帯域幅を80MHzや最大で 160MHz(または80+80MHz)まで拡大することや、空間分割多元接続(SDMA:Space Division Multiple Access)を適用したマルチユーザMIMO(MU-MIMO)送信方法の導入が決定している。IEEE802.11ac規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で約 6.9Gbps の通信速度を実現可能である。
【0009】
IEEE802.11規格の無線LANは、 2.4GHz帯または5GHz帯の免許不要な周波数帯で運用するため、IEEE802.11規格の無線基地局は、無線LANセル(BSS:Basic Service Set )を形成する際に、自無線基地局で対応可能な周波数チャネルの中から1つの周波数チャネルを選択して運用する。
【0010】
自セルで使用するチャネル、帯域幅およびそれ以外のパラメータの設定値および自無線基地局において対応可能なその他のパラメータは、定期的に送信するBeaconフレームや、無線端末から受信するProbe Request フレームに対するProbe responseフレーム等に記載し、運用が決定された周波数チャネル上でフレームを送信し、配下の無線端末および周辺の他無線通信局に通知することで、セルの運用を行っている。
【0011】
無線基地局において、周波数チャネルや帯域幅およびその他のパラメータの選択および設定方法には、次の4つの方法がある。
(1) 無線基地局の製造メーカで設定されたデフォルトのパラメータ値をそのまま使用する方法
(2) 無線基地局を運用するユーザが手動で設定した値を使用する方法
(3) 各無線基地局が起動時に自局において検知する無線環境情報に基づいて自律的にパラメータ値を選択して設定する方法
(4) 無線LANコントローラなどの集中制御局で決定されたパラメータ値を設定する方法
【0012】
また、同一場所で同時に使えるチャネル数は、通信に用いるチャネル帯域幅によって、 2.4GHz帯の無線LANでは3つ、5GHz帯の無線LANでは2つ,4つ,9つ,または19のチャネルになるので、実際に無線LANを導入する際には無線基地局が自BSS内で使用するチャネルを選択する必要がある(非特許文献1)。
【0013】
チャネル帯域幅を40MHz、80MHz、 160MHzまたは80+80MHzと広くする場合、5GHz帯において同一場所で同時に使えるチャネル数は、チャネル帯域幅が20MHzで19チャネルだったものが、9チャネル、4チャネル、2チャネルと少なくなる。すなわち、チャネル帯域幅が増加するにつれて、使えるチャネル数が低減することになる。
【0014】
使用可能なチャネル数よりもBSS数が多い無線LANの稠密環境では、複数のBSSが同一チャネルを使うことになる(OBSS:Overlapping BSS )。そのため無線LANでは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)を用いて、キャリアセンスによりチャネルが空いているときにのみデータの送信を行う自律分散的なアクセス制御が使われている。
【0015】
具体的には、送信要求が発生した無線通信局は、まず所定のセンシング期間(DIFS:Distributed Inter-Frame Space )だけキャリアセンスを行って無線媒体の状態を監視し、この間に他の無線通信局による送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行う。無線通信局は、引き続きランダム・バックオフ期間中もキャリアセンスを行うが、この間にも他の無線通信局による送信信号が存在しない場合に、チャネルの利用権を得る。なお、他の無線通信局による送受信は、予め設定されたキャリアセンス閾値よりも大きな信号を受信するか否かで判断される。チャネルの利用権を得た無線通信局は、同一BSS内の他の無線通信局にデータを送信し、またそれらの無線通信局からデータを受信できる。このようなCSMA/CA制御を行う場合、同一チャネルを使用する無線LANの稠密環境では、キャリアセンスによりチャネルがビジーになる頻度が高くなるためスループットが低下する。したがって、周辺環境をモニタリングし、適切なチャネルを選択し、同時送受信を可能とする送信電力値およびキャリアセンス閾値を選択することが重要となる。
【0016】
無線基地局におけるチャネルの選択方法は、IEEE802.11標準規格で定まっていないため、各ベンダーが独自の方法を採用しているが、最も一般的なチャネル選択方法としては、干渉電力の最も少ないチャネルを自律分散的に選択する方法がある。無線基地局は、一定期間すべてのチャネルをキャリアセンスして最も干渉電力が小さいチャネルを選択し、選択したチャネル上で配下の端末装置とデータの送受信を行う。なお、干渉電力とは、近隣BSSや他システムから受信する信号のレベルである。
【0017】
IEEE802.11標準規格では、BSS周辺の無線状況が変化した場合におけるチャネルの変更手順が規定されているが、基本的に、レーダ検出などによる強制移行以外は、一度選択したチャネルの再選択を行っていない。すなわち、現状無線LANでは、無線状況の変化に応じたチャネルの最適化は行われていない。
【0018】
特許文献1では、無線LANの稠密環境において隠れ端末およびさらし端末の影響によるスループットの低下を回避できるように無線基地局が使用するチャネルを選択する方法を示す。例えば、隣接無線基地局および次隣接無線基地局の使用チャネルを自局の使用チャネルとして選択しないことにより、無線LANの稠密環境であっても局所的なスループットの低下を回避することができる。
【0019】
また、IEEE802.11標準規格では、各国で定められている電波法に従って送信する信号の最大送信出力値を規定している。キャリアセンス閾値として検知信号が無線LAN信号の場合は-82dBmであり、それ以外の場合は-62dBmと規定されている。
【0020】
このように、送信電力値およびキャリアセンス閾値の最大値が規定されているが、同一チャネル上で複数の無線通信局が送受信を行う際に、無線状況の変化に応じた最適値については規定されていない(非特許文献2)。
【0021】
特許文献2では、無線通信局のアッテネータの減衰値を調整することにより、送信電力値およびキャリアセンス閾値を同時に調整する方法を示す。例えば、アッテネータの減衰値をa[dB]大きくすると、無線通信局の送信電力値がa[dB]下がり、また受信電力値もa[dB]下がるので、キャリアセンス閾値をa[dB]上げたことと等価になる。このとき、送信電力値をa[dB]下げたことにより、宛先の無線通信局におけるSINRが劣化し、スループットが減少する。一方、キャリアセンス閾値をa[dB]上げると、周辺の無線通信局数が減り、アクセス権が取得しやすくなってスループットが増加する。したがって、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量には、スループットを最大化しながらSINRが大幅に低下しない最適な値があり、特許文献2はその最適な送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量a、すなわちアッテネータの補正値aを算出する方法を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】特開2017-224948号公報
【文献】特開2017-224949号公報
【非特許文献】
【0023】
【文献】守倉正博、久保田周治監修、「802.11高速無線LAN教科書」改訂三版、インプレスR&D、2008年3月.
【文献】Robert Stacey,“Specification Framework for TGax, ”2016年1月28日.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前述した周波数チャネルや帯域幅およびその他のパラメータの選択および設定方法 (1)~(4) のうち、特に安価な無線基地局は、(1) の製造メーカで設定されたデフォルトのパラメータをそのまま使用することが多い。しかし、近くに同じ製造メーカの無線基地局が複数台設置された環境の場合は、全ての無線基地局が同じ周波数チャネルや送信電力値を使うことになるので、無線基地局間で干渉が発生してしまい通信品質が劣化する問題がある。
【0025】
一般家庭など比較的小規模なネットワークでは、(2) の無線LANを運用するユーザが適切なパラメータを設定することが考えられる。しかし、外部干渉源がない環境では各種パラメータの設定は可能だが、都市部や集合住宅など周りで無線LANが使われている環境、または中規模や大規模なネットワークでは、ユーザまたは管理者による適切なパラメータ設定が困難である。
【0026】
自律分散動作が可能な無線基地局は、(3) の各無線基地局が起動時に自局において検知する無線環境情報に基づいて自律的にパラメータ値の選択が可能である。しかし、無線基地局が起動される順番によって適切なパラメータ値が異なる。
【0027】
また、起動中の無線基地局数の変化、各々の無線基地局配下の無線端末装置の変化、各々のセル内の無線装置により送出されるデータ量の変化などの環境変化が起きたときに、使用チャネル、使用送信電力値、使用キャリアセンス閾値、使用減衰値の最適化を行っていないため、各々のセルのスループット間で差が生じたり、システム全体でもスループットが劣化したりする問題がある。
【0028】
本発明は、共用無線周波数帯を用いる無線通信局が密集している環境において、データ送信を行う無線通信局の周辺の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比(SINR)を用いて、データ送信の際に使用する周波数チャネルと、最適な送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を算出することができる無線通信システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の発明は、共用無線周波数帯上で無線通信を行う複数の無線通信局を備えた無線通信システムにおいて、無線通信局は、周辺の無線環境情報および宛先無線通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得手段と、宛先無線通信局におけるSINRと、自局で検知される共用無線周波数帯を用いる周辺の無線通信局数に応じて、宛先無線通信局のスループットが最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定するパラメータ算出・設定手段とを備える。
【0030】
第1の発明の無線通信システムにおいて、無線環境情報取得手段は、周辺の無線環境情報として、2ホップ以内の全隣接無線通信局における運用周波数チャネル、送信電力値およびキャリアセンス閾値と、宛先無線通信局におけるSINRを収集する構成である。
【0031】
第1の発明の無線通信システムにおいて、パラメータ算出・設定手段は、無線環境情報取得手段より収集された無線環境情報を基に、所定の利得関数が最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定する構成である。
【0032】
第1の発明の無線通信システムにおける利得関数は、
u3i =(1-w)・u1i(aNi,cNi)+w・u2i(aSi,cSi)
で表され、cは運用周波数チャネル、aは送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量であり、u1は自局を含む全ての隣接無線基地局Ni の情報aNi,cNiに基づく利得関数、u2は自局を含む2ホップ以内の隣接無線基地局Si の情報aSi,cSiに基づく利得関数であり、wは重み係数である。
【0033】
第2の発明は、共用無線周波数帯上で複数の無線通信局が無線通信を行う無線通信方法において、無線通信局は、周辺の無線環境情報および宛先無線通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得ステップと、宛先無線通信局におけるSINRと、自局で検知される共用無線周波数帯を用いる周辺の無線通信局数に応じて、宛先無線通信局のスループットが最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定するパラメータ算出・設定ステップとを有する。
【0034】
第2の発明の無線通信方法において、無線環境情報取得ステップは、周辺の無線環境情報として、2ホップ以内の全隣接無線通信局における運用周波数チャネル、送信電力値およびキャリアセンス閾値と、宛先無線通信局におけるSINRを収集する。
【0035】
第2の発明の無線通信方法において、パラメータ算出・設定ステップは、無線環境情報取得ステップより収集された無線環境情報を基に、所定の利得関数が最大となる自局の周波数チャネルと、送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量を同時に算出して設定する。
【0036】
第2の発明の無線通信方法における利得関数は、
u3i =(1-w)・u1i(aNi,cNi)+w・u2i(aSi,cSi)
で表され、cは運用周波数チャネル、aは送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量であり、u1は自局を含む全ての隣接無線基地局Ni の情報aNi,cNiに基づく利得関数、u2は自局を含む2ホップ以内の隣接無線基地局Si の情報aSi,cSiに基づく利得関数であり、wは重み係数である。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、共用無線周波数帯を用いる無線通信局が密集している環境において、無線通信局の与干渉および被干渉を低減させる効果があるため、無線通信局がデータ送信を行う際のアクセス権(チャネル利用権)を獲得するまでの待機時間が短くなる。そのため、受信する無線通信局のスループットが改善され、使用アプリケーションの通信品質とユーザの体感品質が向上する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図2】従来の無線通信システムと本発明の無線通信システムを比較する図である。
【
図3】本発明の無線通信システムの無線通信局の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の無線通信システムの無線通信局の処理手順例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の無線通信システムの無線基地局における環境情報通知手順例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の無線通信システムの無線通信局におけるパラメータ算出手順例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の効果1を平均スループットの比較により示す図である。
【
図8】本発明の効果2をさらし状態の無線通信局数の比較により示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明の無線通信システムの構成例を示す。
図1において、無線基地局AP1~AP5は、共用無線周波数帯でそれぞれ帰属する無線端末局と無線通信を行う。AP1は帰属する無線端末局STA11~STA13と無線通信を行い、AP2は帰属する無線端末局STA21と無線通信を行い、AP3は帰属する無線端末局STA31と無線通信を行い、AP4は帰属する無線端末局STA41~STA42と無線通信を行い、AP5は帰属する無線端末局STA51と無線通信を行う。
【0040】
図2は、従来の無線通信システムと本発明の無線通信システムの比較を示す。
図2(1) に示す従来の無線通信システムでは、チャネル設定とアッテネータ(ATT)設定が個別に行われている。例えば、チャネル設定後にATT設定が行われている。
【0041】
図2(2) に示す本発明の無線通信システムでは、チャネルとATTの最適化設定を同時に実施するため、収束特性が良くなり、局所最適化に落ちず全体最適化により周波数リソースの有効活用が可能となる。
【0042】
図3は、本発明の無線通信システムの無線通信局の構成例を示す。なお、無線通信局は、無線基地局APまたは無線端末局STAであり、どちらも同じ構成である。
図3において、無線通信局は、宛先局とデータ送受信を行う無線通信部11と、周辺の無線環境情報のスキャニングを実施し、周辺の無線通信局の使用パラメータ等の無線環境情報および宛先通信局における信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する無線環境情報取得部12と、取得した無線環境情報を用いて周波数チャネル、送信電力値、キャリアセンス閾値、減衰値などのパラメータを算出するパラメータ算出部13と、算出した周波数チャネル、送信電力値、キャリアセンス閾値、減衰値などのパラメータを設定するパラメータ設定部14と、設定されたパラメータを用いたキャリアセンスによりアクセス権を獲得するアクセス権獲得部15とにより構成される。
【0043】
図4は、本発明の無線通信システムの無線通信局の処理手順例を示す。
図4において、本手順が開始されると、無線通信局の無線環境情報取得部12は、周辺の無線通信局の使用パラメータ等の無線環境情報を取得し(S11)、現在運用中の送信電力値における宛先通信局での信号電力対干渉電力比SINRの情報を取得する(S12)。次に、パラメータ算出部13は、各取得情報を用いて当該無線通信局における最適な周波数チャネル、送信電力値およびキャリアセンス閾値の最適な調整量を算出する(S13)。次に、パラメータ設定部14は、最適な周波数チャネルを設定するとともに、算出された送信電力値およびキャリアセンス閾値の調整量をアッテネータの補正値として設定し(S14)、運用を開始する。
【0044】
図5は、本発明の無線通信システムの無線基地局における環境情報通知手順例を示す。
図5において、本手順が開始されると、無線基地局は初期チャネルC、送信電力値P、キャリアセンス閾値Θを用いて運用を開始し(S21)、自局および隣接無線基地局のC,P,Θの情報を他の隣接無線基地局に通知する(S22)。
【0045】
図6は、本発明の無線通信システムの無線通信局におけるパラメータ算出手順例を示す。
図6において、本手順が開始されると、隣接無線基地局のC,P,Θの情報、無線環境情報、および自無線基地局のC,P,Θを用いて、自無線基地局iのスループットが最大となるよう予め設計された利得関数u3
i を計算する(S31)。そして、自無線基地局iにおける利得関数u3
i が最大となるC
* ,P
* ,Θ
* を自無線基地局iの運用パラメータとして設定する(S32)。
【0046】
ここで、利得関数u3について説明する。無線基地局iの利得関数u3i は、次のように表される。
u3i =(1-w)・u1i(aNi,cNi)+w・u2i(aSi,cSi)
【0047】
ここで、cは運用周波数チャネル、aは送信電力値Pおよびキャリアセンス閾値Θの調整量であり、アッテネータの補正値である。u1は自局を含む全ての隣接無線基地局Ni の情報aNi,cNiに基づく利得関数、u2は自局を含む2ホップ以内の隣接無線基地局Si の情報aSi,cSiに基づく利得関数である。本利得関数は、宛先端末におけるSINRと、自局で検知される共用周波数チャネルを用いる周辺の無線通信局数の関数である。本利得関数は、SINRに比例して値が大きくなり、周辺の無線通信局数に応じて値が小さくなる性質を持つ。wは重み係数である。
【0048】
図7は、本発明の効果1を平均スループットの比較により示す。
図7において、無線基地局40台、無線端末局80台とし、通信距離は3-10mの一様分布とした。「ランダム選択」とは、各無線基地局がチャネルを完全ランダムに選択する場合である。「アッテネータ制御のみ」および「チャネル制御のみ」とは、
図2(1) の「現状の無線通信システム」のチャネル設定のみを実施した場合と、ATT設定のみを実施した場合の結果である。一方、本発明(アッテネータ+チャネル制御)は、
図2(2) の「本発明の無線通信システム」でチャネルおよびATTを同時設定した場合の結果である。本発明を用いることで、他手法に比べて高い平均スループットが得られることが確認できる。
【0049】
図8は、本発明の効果2をさらし状態の無線通信局数の比較により示す。
図8において、条件は
図7の効果1と同じである。本発明を用いることで、チャネル制御のみと同様に、送信権取得できずさらし状態の無線通信局を大幅に減らし、ほぼゼロにできることが確認できる。
【符号の説明】
【0050】
AP 無線基地局
STA 無線端末局
11 無線通信部
12 無線環境情報取得部
13 パラメータ算出部
14 パラメータ設定部
15 アクセス権獲得部