(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】酵素を用いた畜肉練製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230113BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20230113BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20230113BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230113BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/60 Z
A23L13/60 A
A23L13/40
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2018119549
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】大貫 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長尾 伸人
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】相楽 浩二
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154992(WO,A1)
【文献】特開2011-062126(JP,A)
【文献】特開2018-068257(JP,A)
【文献】特開2009-106271(JP,A)
【文献】特開2017-212930(JP,A)
【文献】国際公開第2010/131719(WO,A1)
【文献】特開平10-056976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状素材にトランスグルタミナーゼ溶液を含浸させてなる粒状物を配合することを特徴とする、畜肉練製品の製造方法であって、ここで、粒状素材が、JIS-Z8801-1規格における目開き0.25mmの篩での篩い分け後に、篩上物が40重量%以上となる粒状素材であり、且つ、粒径の上限が20mmである、製造方法。
【請求項2】
粒状素材が、粒状澱粉、および粒状大豆タンパク質からなる群から選択される1以上である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
トランスグルタミナーゼ溶液のトランスグルタミナーゼ濃度が、0.0001~1000U/mLである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
トランスグルタミナーゼ溶液が増粘剤を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
増粘剤が、未加工澱粉、加工澱粉、およびガム類からなる群から選択される請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
畜肉練製品が、肉粒感が付与された畜肉練製品である、請求項1~5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
畜肉練製品が、不均一な食感を有する畜肉練製品である、請求項1~5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
畜肉練製品が、ハンバーグ、メンチカツ、餃子、肉団子およびソーセージからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項9】
粒状素材にトランスグルタミナーゼ溶液を含浸させてなる粒状物であって、ここで、粒状素材が、JIS-Z8801-1規格における目開き0.25mmの篩での篩い分け後に、篩上物が40重量%以上となる粒状素材であり、且つ、粒径の上限が20mmである粒状素材である、粒状物
であって、
ここで、該粒状物が、畜肉練製品用である、粒状物。
【請求項10】
粒状素材が、粒状澱粉、および粒状大豆タンパク質からなる群から選択される1以上である、請求項9記載の粒状物。
【請求項11】
トランスグルタミナーゼ溶液のトランスグルタミナーゼ濃度が、0.0001~1000U/mLである、請求項9または10記載の粒状物。
【請求項12】
トランスグルタミナーゼ溶液が増粘剤を含む、請求項9~11のいずれか一項記載の粒状物。
【請求項13】
増粘剤が、未加工澱粉、加工澱粉、およびガム類からなる群から選択される請求項12記載の粒状物。
【請求項14】
畜肉練製品の肉粒感の付与用である、請求項9~13のいずれか一項記載の粒状物。
【請求項15】
畜肉練製品の食感を不均一にするためのものである、請求項9~13のいずれか一項記載の粒状物。
【請求項16】
畜肉練製品が、ハンバーグ、メンチカツ、餃子、肉団子およびソーセージからなる群から選択される、請求項9~
15のいずれか一項記載の粒状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いた畜肉練製品の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の美味しさを構成する重要な要素の一つに食感がある。食感とは、食品を口腔に含み咀嚼した際の歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどを意味する。食感が、呈味や風味などの他の要素と組み合わさることで食品の美味しさが構成されている。
【0003】
食品の食感をより好ましいものとする手段の開発が、食品製造業界において広く検討されており、畜肉加工分野においても有用な技術が報告されている。例えば、特許文献1には、酵素と無機塩を添加することを特徴とする、食感が改善された畜肉練製品の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、アミノ酸の一つであるアルギニンと酵素を用いることを特徴とする、畜肉加工食品の食感改質方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4529843号公報
【文献】特許第5811098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または2に記載される方法はいずれも一定の食感改質効果を示し、有用な方法であるといえるが、近年の消費者の嗜好の多様化・高級化に伴い、これまでにはない食感を備えた食品および該食品の製造方法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼ溶液を含浸させた粒状の澱粉やタンパク質を原料に配合して畜肉練製品を製造すると、トランスグルタミナーゼが原料肉へ作用する領域が不均一化されるため、畜肉練製品に対して不均一な食感を付与することができることを見出した。また、本発明者らは、当該不均一な食感が好ましい肉粒感に感じられることを見出した。かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]粒状素材にトランスグルタミナーゼ溶液を含浸させてなる粒状物を配合することを特徴とする、畜肉練製品の製造方法。
[2]粒状素材が、JIS-Z8801-1規格における目開き0.25mmの篩での篩い分け後に、篩上物が40重量%以上となる粒状素材であり、且つ、粒径の上限が20mmである、[1]記載の製造方法。
[3]粒状素材が、粒状澱粉、および粒状大豆タンパク質からなる群から選択される1以上である、[1]または[2]記載の製造方法。
[4]トランスグルタミナーゼ溶液のトランスグルタミナーゼ濃度が、0.0001~1000U/mLである、[1]~[3]のいずれか記載の製造方法。
[5]トランスグルタミナーゼ溶液が増粘剤を含む、[1]~[4]のいずれか記載の製造方法。
[6]増粘剤が、未加工澱粉、加工澱粉、およびガム類からなる群から選択される[5]記載の製造方法。
[7]畜肉練製品が、肉粒感が付与された畜肉練製品である、[1]~[6]のいずれか記載の製造方法。
[8]畜肉練製品が、不均一な食感を有する畜肉練製品である、[1]~[6]のいずれか記載の製造方法。
[9]畜肉練製品が、ハンバーグ、メンチカツ、餃子、肉団子およびソーセージからなる群から選択される、[1]~[8]のいずれか記載の製造方法。
[10]粒状素材にトランスグルタミナーゼ溶液を含浸させてなる粒状物。
[11]粒状素材が、JIS-Z8801-1規格における目開き0.25mmの篩での篩い分け後に、篩上物が40重量%以上となる粒状素材であり、且つ、粒径の上限が20mmである粒状素材である、[10]記載の粒状物。
[12]粒状素材が、粒状澱粉、および粒状大豆タンパク質からなる群から選択される1以上である、[10]または[11]記載の粒状物。
[13]トランスグルタミナーゼ溶液のトランスグルタミナーゼ濃度が、0.0001~1000U/mLである、[10]~[12]のいずれか記載の粒状物。
[14]トランスグルタミナーゼ溶液が増粘剤を含む、[10]~[13]のいずれか記載の粒状物。
[15]増粘剤が、未加工澱粉、加工澱粉、およびガム類からなる群から選択される[14]記載の粒状物。
[16]畜肉練製品用である、[10]~[15]のいずれか記載の粒状物。
[17]畜肉練製品の肉粒感の付与用である、[10]~[15]のいずれか記載の粒状物。
[18]畜肉練製品の食感を不均一にするためのものである、[10]~[15]のいずれか記載の粒状物。
[19]畜肉練製品が、ハンバーグ、メンチカツ、餃子、肉団子およびソーセージからなる群から選択される、[10]~[18]のいずれか記載の粒状物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、畜肉練製品に対して不均一な食感を付与することができるため、畜肉練製品に対して好ましい肉粒感を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
1.畜肉練製品の製造方法
本発明は、粒状素材にトランスグルタミナーゼ溶液を含浸させてなる粒状物を配合することを特徴とする、畜肉練製品の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)を提供する。
【0011】
本発明の製造方法に用いられる「粒状素材」とは、保水性を有する粒状の食品素材を意味する。本発明の製造方法に用いられる粒状素材は、トランスグルタミナーゼ溶液を効率よく含浸させ得る程度の粒径を有することが好ましい。換言すれば、粒径が小さな素材(例えば、粉状の素材)は本発明の製造方法には不向きである。従って、本発明の製造方法に用いられる粒状素材の粒径の下限は、好ましくは、JIS-Z8801-1規格における目開き0.25mmの篩での篩い分けた後に、篩上物が40重量%以上となる粒径であり得る。一方で、本発明の製造方法に用いられる粒状素材の粒径の上限としては、20mm(好ましくは、15mm)である。なお、本明細書においては、文脈において特に断らない限り、TG溶液を吸水させる前の状態のものを「粒状素材」、粒状素材にTG溶液を吸水させた後の状態のものを「粒状物」と称する。
【0012】
また、本発明の製造方法に用いられる粒状素材は、トランスグルタミナーゼ溶液を効率よく含浸させ得る程度の吸水性を有することが好ましい。すなわち、粒状素材の吸水率の下限が、250重量%以上、好ましくは350重量%以上、より好ましくは400重量%以上である。一方、粒状素材の吸水率の上限は、700重量%以下であり、好ましくは660重量%以下、より好ましくは600重量%以下である。所定の吸水率の粒状素材を用いることにより、畜肉練製品に対して好ましい肉粒感を付与することができる。なお、粒状素材の吸水率の測定方法は、実施例の項に記載する。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる粒状素材の一例としては、例えば、粒状澱粉、粒状大豆タンパク質などが使用可能である。原料価格や呈味などの観点から、粒状澱粉および粒状大豆タンパク質がより好ましい。かかる粒状素材は市販のものを用いればよく、例えば、粒状澱粉であれば「ネオトラスト(登録商標)W-120」(J-オイルミルズ)、粒状大豆タンパク質であれば、「ニューフジニック15R」(不二製油)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の製造方法に用いられるトランスグルタミナーゼ溶液とは、トランスグルタミナーゼを水などの溶媒に溶解させた溶液を意味する。
【0015】
トランスグルタミナーゼ溶液を調製するにおいて用いられる「トランスグルタミナーゼ(TG)」とは、タンパク質やペプチド中のグルタミン残基を供与体とし、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素であり、例えば、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のもの等、種々の起源のものが知られている。TG溶液の調製において用いられるTGは、上述の活性を有すればその起源は特に制限されず、いかなる起源のTGであっても使用でき、また組み換え酵素を使用してもよい。本発明において用いられるTGは市販品であってもよく、具体例としては、味の素株式会社より「アクティバ」という商品名で市販されている微生物由来のTGを用いることができる。
【0016】
本明細書においてTGの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、TGを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめる酵素量を1ユニット(1U)とする(特開昭64-27471号公報参照)。
【0017】
本発明の製造方法におけるTG溶液の調製に用いられる溶媒としては、水、液体調味料、アルコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、溶媒は水である。
【0018】
TG溶液のTG濃度は、本発明の所望の効果を得られる限り特に限定されないが、通常0.0001~1000U/mL、好ましくは0.001~1000U/mL、より好ましくは0.01~1000U/mL、さらに好ましくは0.1~1000U/mL、特に好ましくは1~1000U/mLである。
【0019】
好ましい一態様において、TG溶液はさらに増粘剤を含んでいてもよい。TG溶液に粘度を付与することで、所望の効果をより高めることができる。増粘剤は、粒状素材以外の食品に添加可能なものであり、増粘作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、未加工澱粉、加工澱粉、およびガム類などの1種または複数を混合して用いることができるが、加工澱粉を必須に含むことが好ましい。未加工澱粉としては、食品に添加可能な澱粉であれば特に限定されないが、米、小麦、トウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、キャッサバ等に由来する澱粉が挙げられる。また、加工澱粉は、前記未加工澱粉の加工処理された澱粉である。前記加工処理として、ヒドロキシアルキル処理等のエーテル化処理;カルボキシアルキル処理、リン酸モノエステル化処理、リン酸架橋処理、アジピン酸架橋処理等のエステル化処理;α化処理;酸処理;酸化処理;酵素処理から選ばれる1種または2種以上が挙げられ、TG溶液への増粘のさせやすさの観点からα化処理が好ましく挙げられる。また、ガム類としては、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ジェランガム等が挙げられる。TG溶液への増粘剤の配合量は、増粘剤の種類により適宜調節すればよいが、通常、0.1~30重量%、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは0.1~15重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。一態様において、増粘剤を含むTG溶液の粘度(20~25℃)は、通常1~1000mPa・s、好ましくは1~100mPa・s、より好ましくは1~50mPa・s、特に好ましくは1~10mPa・sである。
【0020】
粒状素材にTG溶液を含浸させた粒状物の調製方法は、特に限定されないが、予めTG溶液を調製し、これに粒状素材を配合する方法、粒状素材と粉末のTGの混合物に溶媒を加える方法、または、溶媒に対して粒状素材と粉末のTGを加えて撹拌することにより調製してもよい。なお、粒状素材と溶媒の割合は、粒状素材を十分にTG溶液に含浸できれば特に限定されないが、通常、粒状素材:溶媒(またはTG溶液)=1:1~10000(重量%)、好ましくは粒状素材:溶媒(またはTG溶液)=1:1~1000(重量%)、より好ましくは粒状素材:溶媒(またはTG溶液)=1:1~100(重量%)、特に好ましくは粒状素材:溶媒(またはTG溶液)=1:1~10(重量%)である。この範囲で粒状素材と溶媒(またはTG溶液)を混合した場合、TG溶液を含浸させた粒状物は柔らかくなり、やや膨張した形状となる。当該粒状物を、畜肉練製品の原材料へ配合し混合物を得る。
【0021】
TG溶液を含浸させた粒状物の配合量は、本発明の所望の効果を得られる限り特に限定されないが、トランスグルタミナーゼの配合量が、畜肉原料の重量1gあたり、通常0.0001~1000U、好ましくは0.001~1000U、より好ましくは0.01~1000U、特に好ましくは0.1~1000Uとなるよう配合することができる。
【0022】
TGが畜肉練製品の原材料に十分に作用するように、当該混合物をすぐに調理工程に供さずに、酵素反応工程を設けてもよい。当該反応工程の条件は、特に制限されないが、通常、0~50℃で0.1~24時間、好ましくは0~50℃で0.1~12時間、より好ましくは0~50℃で0.1~6時間、特に好ましくは0~50℃で0.1~4時間とすることができる。
【0023】
本発明の製造方法により製造された畜肉練製品は、TGの作用が不均一(局所的)となり、その結果として畜肉練製品の食感が不均一と改質される。この改質された不均一な食感が、非常に好ましい肉粒感に感じられる。従って、本発明の製造方法は、肉粒感が付与された畜肉練製品の製造方法とも言い換えられる。
【0024】
本発明の製造方法により調製される畜肉練製品としては、肉粒感を付与することが好ましい製品であれば特に限定されないが、例えば、ハンバーグ、メンチカツ、餃子、肉団子、およびソーセージなどが例示される。
【0025】
2.TGを含浸させてなる粒状物
本発明はまた、粒状素材にTG溶液を含浸させてなる粒状物(以下、「本発明の粒状物」と称することがある)を提供する。一態様において、本発明の粒状物は、増粘剤を含み得る。
【0026】
本発明の粒状物における、粒状素材の特性および種類、TG、TG溶液、その調製方法、増粘剤の種類及び好ましい粘度などは、上述の「1.畜肉練製品の製造方法」と同様である。
【0027】
本発明の粒状物は、TGを作用させることにより食感が改質され得る食品全般に使用することができる。即ち、TGの作用を受けるタンパク質やペプチドを多量に含む食品全般の食感を不均一にする目的で使用することができる。一態様において、本発明の粒状物は、畜肉練製品の食感改質に用いるための素材であり得る。また、別態様において、本発明の粒状物は、畜肉練製品の肉粒感付与用の素材であり得る。また、更に別態様において、本発明の粒状物は、畜肉練製品の食感を不均一にするための素材で有り得る。
【0028】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、以下表1、3および4に示される原材料の単位は、別途説明がない限り、全て「重量部」である。
【実施例】
【0029】
(粒状素材の吸水率の測定方法)
(1)試料5gを50mL容ファルコンチューブに秤量した。
(2)(1)の試料に40gの蒸留水を添加し、30℃にて1時間吸水させた。
(3)(2)の吸水させた試料を目開き0.25mm篩の上に載せて、よく水切りをした。具体的には、篩を30°傾倒した状態で3分間静置した。水切り後に吸水させた試料の重量を測定した。
(4)以下の式に基づき、試料の吸水率を算出した。
吸水率(重量%)=(吸水後試料重量-吸水前試料重量)/吸水前試料重量×100
【0030】
[実施例1]ハンバーグの食感改質
1.TG溶液を含浸させた粒状物の調製
以下の表1に示される配合で、TG溶液を含浸させた粒状物を調製した。具体的には、室温下(20℃)において、溶媒(水)にTGを溶解させ、次いで増粘剤を用いてTG溶液に粘度を付与した。当該TG溶液に、粒状大豆タンパク質を加え、スパチュラ等を用いて充分に撹拌した。粒状物を5分以上静置することにより、TG溶液を粒状素材に充分に浸漬させた。その他、TGや粒状素材を粉末のまま添加するものは表1の配合率通り添加した。なお、粒状素材として、粒状澱粉(ネオトラストW-120、吸水率484重量%)及び粒状大豆タンパク質(ニューフジニック15R、吸水率364重量%)を用い、増粘剤として、α化澱粉(ジェルコールGT-α、株式会社J-オイルミルズ製)を用いた。
【0031】
2.ハンバーグの調製
以下の表1に示される配合で原材料を混合し、これにTG溶液を含浸させた粒状物を加え、ホバートミキサーを用いて4分間混合した。粒状物を使用しない試験区は、表1の配合通りTGや粒状素材を添加した。混合物を150gずつに小分けし、丸型に成型した。これを冷蔵(4℃)で2時間静置し、TGを原料に作用させた。ついでこれをホットプレートで焼成した(250℃、2分間→裏返してさらに2分間)。焼成したハンバーグをスチームコンベクションオーブン(RATIONAL社、SCC WE 61型番、「コンビモード」、200℃、6分、湿度80%)で加熱し、その後室温に静置することで冷却した。これを-20℃で冷凍することで、ハンバーグを調製した。
【0032】
【0033】
3.評価
上記のようにして調製した冷凍ハンバーグを流水で解凍し、85℃で10分湯浴することで調理し、その食感を官能試験により評価した。評価は、5名の専門パネルにより以下の基準を用いて評価した。点数は、5名の専門パネルの点数の平均である。なお、本明細書において「肉粒感」とは、「肉塊が大きく、その弾力が強い」食感を意味する。また、本明細書において「不均一な食感」とは、「肉塊とその他部分の弾力の差」との食感を意味する。
[基準]
5:柔らかい部分と弾力のある部分に差がある不均一な食感が明確で、肉粒感が強い。
4:不均一な食感がやや強く、肉粒感がやや強い。
3:不均一な食感があり、肉粒感がある。
2:不均一な食感が弱く、肉粒感が弱いがある。
1:均一な食感で、肉粒感がない。
【0034】
結果を以下の表2に示す。
【0035】
【0036】
表2に示される通り、TG溶液を含浸させた粒状澱粉または粒状大豆タンパク質をハンバーグに配合すると、ハンバーグの食感が不均一となり、その結果、好ましい肉粒感を付与できることが示された(試験区4および試験区7)。また、TG溶液に増粘剤(加工澱粉)を加え、粘性を高めることによって、更に顕著な効果を得られることが示された(試験区5および試験区8)。
【0037】
[実施例2]メンチカツおよび餃子の食感改質
1.TG溶液を含浸させた粒状物の調製
表3(メンチカツ)または表4(餃子)に示される配合で、実施例1と同様にTG溶液を含浸させた粒状物を調製した。
【0038】
2.メンチカツの調製
以下の表3に示される配合のうち、粒状物以外の原材料を混合し、これに粒状澱粉にTG溶液もしくは水を含浸させた粒状物(TG溶液を使用した場合は増粘剤を含む)を加え、ホバートミキサーを用いて4分間混合し、混合物を得た。混合物を80gずつに小分けし、丸型に成型した。これを冷蔵(4℃)で2時間静置し、中具を調製した。ついで調製した中具をバッター液に浸漬させ、その後パン粉で衣付けし、180℃、7分間フライすることでメンチカツを調製した。なお、対照(試験区9)は、上記の調製方法から粒状物を加える操作を除いてメンチカツを調製した。
【0039】
3.餃子の調製
以下の表4に示される配合で原材料を混合し、これにメンチカツの調製時に使用したものと同じ方法で得た粒状物を加え、ホバートミキサーを用いて4分間混合した。混合物を冷蔵(4℃)で2時間静置し餡を調製した。次いで市販の餃子の皮で調製した餡を25gずつ包餡し、油を敷き250℃に熱したフライパンに並べ、水を加え10分焼成することで餃子を調製した。なお、対照(試験区12)は、上記の調製方法から粒状物を加える操作を除いて餃子を調製した。
【0040】
【0041】
【0042】
4.評価
上述の通りに調製したメンチカツおよび餃子の食感を官能試験により評価した。評価は、4名の専門パネルにより行った。なお、基準は、実施例1と同様である。結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
表5に示される通り、メンチカツ、餃子の両方において、増粘剤を含むTG溶液を含浸させた粒状澱粉を配合すると、好ましい肉粒感を付与することができた(試験区11および試験区14)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、畜肉練製品の食感を不均一に改質することができ、好ましい肉粒感を付与することができる。従って、本発明は食品産業において極めて有用である。