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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-12
(45)【発行日】2023-01-20
(54)【発明の名称】紫外線遮蔽ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
D01F6/92 301Q
D01F6/92 301M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019009099
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020117827
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】河角 慎也
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-197309(JP,A)
【文献】特開2005-97754(JP,A)
【文献】特開2004-121043(JP,A)
【文献】特開2011-111704(JP,A)
【文献】特開2006-152459(JP,A)
【文献】特許第5299243(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径0.06~1.0μmの粒子表面がシリコーンで被覆された酸化亜鉛粒子0.1~5.0重量%と、平均粒子径0.01~1.0μmのシリカゾル0.3~5.0重量%を含有することを特徴とする、ポリエステル繊維。
【請求項2】
前記酸化亜鉛粒子のシリコーン被覆量が酸化亜鉛重量に対して0.02~2.0重量%である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高発色でかつ紫外線遮蔽性、抗菌性を有し、かつ良好な耐候性が得られるポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、機械的特性をはじめ、様々な優れた特性から一般衣料分野をはじめインテリア、産業資材製品等の各種分野に幅広く利用されている。合成繊維に機能を付与する方法として、種々の機能剤を添加する方法が知られており、紫外線遮蔽性や抗菌性を有する機能剤として酸化亜鉛が知られている。
【0003】
機能剤を含有する繊維として、微粒子酸化亜鉛と微粒子酸化チタンを含有し、その光活性点を利用して抗菌性を付与したポリエステル繊維が知られている(特許文献1)。しかしながら、上述のポリエステル繊維においては、微粒子の無機粒子は凝集しやすく、製糸時に糸切れによる工程性不良となるばかりか、紫外線照射時に光活性による樹脂劣化を起こすという欠点を有している。
【0004】
また、凝集を抑制し、製糸時のブリードアウトを防ぐ方法として、酸化亜鉛を添加する際に可塑剤を使用したポリアミド繊維が提案されている(特許文献2)。しかしながら、可塑剤を用いる方法はポリアミド等の親水性の高いポリマー組成物には使用できるが、疎水性の高いポリエステル等に用いると、ポリエステルの優れた力学特性や耐熱性、耐薬品性が著しく損なわれるという欠点を有している。
【0005】
また、ポリエステル繊維への酸化亜鉛添加量を少量とすることで、酸化亜鉛の凝集を抑制する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、繊維に機能性を付与するには他の機能剤と合わせて用いる必要があり、また、酸化亜鉛が有する光活性効果により、紫外線照射時に熱劣化を起こすといった耐候性に劣るという欠点があった。
【0006】
また、酸化亜鉛の糸中の分散性を向上させるため、酸化亜鉛に特定の物質による表面被覆処理を施すことが提案されている(特許文献4)。しかしながら、繊維化工程性を考慮した分散性としては不十分であり、さらに酸化チタンを添加することによる発色性の低下や、特定物質による表面処理によって高価になるため適当ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-84758号公報
【文献】特開2002-339163号公報
【文献】特開平7-189018号報
【文献】特許第5299243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前記した従来技術の問題を解決し、繊維化工程性に優れ、紫外線遮蔽性、抗菌性を有し、かつ発色性・耐候性に優れたポリエステル繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、平均粒子径が0.06~1.0μmの粒子表面をシリコーンで被覆処理した酸化亜鉛粒子0.1~5.0重量%と平均粒子径が0.01~1.0μmのシリカゾル0.3~5.0重量%を含有することを特徴とし、紫外線遮蔽性能を有し高発色性および抗菌性を有するポリエステル繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を提供するものである。
【0010】
[1]平均粒子径0.06~1.0μmの粒子表面がシリコーンで被覆された酸化亜鉛粒子0.1~5.0重量%と平均粒子径0.01~1.0μmのシリカゾル0.3~5.0重量%を含有することを特徴とする、ポリエステル繊維。
[2]前記酸化亜鉛粒子のシリコーン被覆量が酸化亜鉛重量に対して0.02~2.0重量%である、前記[1]に記載のポリエステル繊維。
[3]前記[1]または[2]に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いた織編物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下に説明するとおり、ポリエステル繊維中の酸化亜鉛粒子の分散性が高く、高発色性、紫外線遮蔽性、抗菌性、耐候性、繊維化工程性に優れたポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステル繊維に含有させる酸化亜鉛は粒子表面をシリコーンで被覆処理したものが適用される。酸化亜鉛微粒子は、紫外線吸収や脱臭という作用に加えて、殺菌、抗菌作用を有しているが、光触媒活性を有するために、樹脂中に含有させたときに光劣化を生じ、得られる繊維の物性が劣ったものになるという欠点がある。
【0014】
そこで、本発明においては、発色性、風合い向上に効果のあるシリカゾルとの分散性の点、さらに酸化亜鉛微粒子の欠点である光触媒活性を抑制し、かつ光学的にも化学的にも酸化亜鉛の性質を有するようにするために、粒子の表面をシリコーンで被覆処理したものを用いる。
【0015】
上記シリコーン表面処理は、ケイ素酸化物、ケイ素酸化物の水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物による皮膜を形成させる表面処理を行うものである。
【0016】
上記ケイ素酸化物、ケイ素酸化物の水和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物による皮膜の形成は、Si源化合物を加水分解や加熱分解などにより粉体表面に析出させる方法や、撥水性有機化合物により処理する方法等で行うことができる。上記Si源化合物としては、テトラアルコキシシランやその加水分解縮合物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムやその加水分解縮合物等、容易にSiO2に変換する化合物等を使用することができる。
【0017】
上記加水分解としては、硫酸、塩酸、酢酸、硝酸などの酸を使用した方法が挙げられる。シリカの処理方法における中和方法は、分散体に酸を入れてからSi源化合物を添加する方法、分散体にSi源化合物を入れてから酸を添加する方法、分散体にSi源化合物と酸を同時に添加する方法のいずれでも良い。
【0018】
撥水性有機化合物による処理としては、繊維中のシリカゾル分散性の点と化学的な安定性からもシリコーンオイルが好ましい。このシリコーンオイルの具体例としては、ジメチルポリシロキサン(例えば、信越化学工業製KF-96A-100cs、旭化成ワッカーシリコーン製DM10)、メチルハイドロジェンポリシロキサン(例えば、信越化学工業製KF-99P、東レ・ダウコーニング製SH1107C)、(ジメチコン/メチコン)コポリマー(例えば、信越化学工業製KF-9901)、メチルフェニルシリコーン(例えば、信越化学工業製KF-50-100cs)、アミノ変性シリコーン(例えば、信越化学工業製KF-8015、東レ・ダウコーニング製JP-8500 Conditioning Agent、旭化成ワッカーシリコーン製ADM6060)、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルジメチコン(例えば、信越化学工業製KF-9908)、トリエトキシシリルエチルポリジメチルシロキシエチルヘキシルジメチコン(例えば、信越化学工業製KF-9909)による処理等を挙げることができる。
【0019】
そして、シリコーンの被覆量は、酸化亜鉛微粒子の表面積にもよるが、酸化亜鉛の重量に対して0.02~2.0重量%が好ましい。このように酸化亜鉛微粒子の表面がシリコーンで被覆されていることによって、酸化亜鉛微粒子が有する光触媒活性を無駄なく十分に抑制することができ、一方では、紫外線吸収作用や抗菌、殺菌等の作用をそのまま維持することができる。また、繊維中に存在するシリカゾルの分散性向上にも効果を発揮し、製糸工程安定性と高発色性、良好なキシミ風合いが得られることとなる。シリコーンの被覆量は、より好ましくは0.04~1.0重量%であり、さらに好ましくは0.05~0.6重量%である。
【0020】
本発明のポリエステル繊維に含有させる酸化亜鉛粒子の含有量は、ポリエステル繊維の重量に対して、0.1~5.0重量%であることが必要であり、好ましくは0.2~3.5重量%である。含有量が0.1重量%未満では、紫外線遮蔽性、抗菌性といった機能が十分に付与されなくなる。一方、含有量が5.0重量%を超えると、一部の酸化亜鉛粒子が分散されにくくなり、繊維の強度低下が発生し、耐候性が悪化する。また、製編織時のガイド摩耗等による糸切れや毛羽が発生し、製糸工程性が悪化する。
【0021】
本発明のポリエステル繊維に含有させるシリコーンで表面が被覆された酸化亜鉛粒子は平均粒子径が0.06~1.0μmであることが必要であり、好ましくは0.07~0.7μm、より好ましくは0.1~0.5μmである。平均粒子径が0.06μm未満では、酸化亜鉛粒子の表面積が大きくなり、光触媒活性を十分に抑制するための被覆処理量が大きくなり、光触媒活性点のみならず抗菌や殺菌等を司る活性点も被覆されてしまうため、抗菌機能が得られなくなるばかりか、酸化亜鉛の凝集が発生し、繊維の強度低下や溶融ポリマー吐出時の圧力上昇等の製糸性の悪化を引き起こす。一方、平均粒子径が1.0μmを超えると、被覆処理された酸化亜鉛粒子の表面積が小さくなり、抗菌機能が得られなくなるばかりか、繊維の強度低下が発生し、製編織時のガイド摩耗等による糸切れや毛羽が発生し、製糸工程性が悪化する。なお、本発明における平均粒子径は、シリコーンで表面が被覆された後の酸化亜鉛粒子にて、レーザー回折・散乱法による測定装置で求めた値であり、(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-1000を用いた粒度分布測定における、ふるい上50%に対応する値である。
【0022】
本発明のポリエステル繊維に含有させるシリカゾルの含有量は、ポリエステル繊維の重量に対して、0.3~5.0重量%であることが必要であり、好ましくは0.5~3.0重量%である。シリカゾルの含有量が0.3重量%未満では、ポリエステル繊維中の酸化亜鉛の分散性が低くなり繊維化工程性が悪化し、さらに発色性は不十分である。酸化亜鉛の分散性は、ポリエステル繊維への分散性の高いシリカゾルが同一元素を持つシリコーンで表面処理された酸化亜鉛の粒子間に存在するようになることで、酸化亜鉛が凝集することを抑制し、分散性が向上することが考えられる。よって、シリカゾルを用いることでポリエステル繊維中の酸化亜鉛の分散性を高くすることができ、酸化亜鉛粒子が有する紫外線遮蔽性、抗菌性を効果的に付与することが可能となり、製糸時の酸化亜鉛粒子のブリードアウトや凝集による製糸工程性の悪化を防ぐことができる。一方、シリカゾル含有量が5.0重量%を超えると、酸化亜鉛粒子の分散性は維持されるが、繊維の強度低下が発生し、製編織時にガイド摩耗等による糸切れや毛羽が発生し、製糸工程性が悪化する。
【0023】
本発明のポリエステル繊維に含有させるシリカゾル粒子は平均粒子径が0.01~1.0μmである必要があり、好ましくは0.02~0.8μm、より好ましくは0.04~0.5μmである。シリカゾルの平均粒子径が0.01μm未満では、粒子の凝集が発生し製糸工程性悪化を引き起こし、酸化亜鉛の分散剤としての効果が得られなくなる。一方シリカゾルの平均粒子径が1.0μmを超えると、粗大粒子により繊維の強度低下が発生し、製編織時のガイド摩耗等による糸切れや毛羽が発生し、製糸工程性が悪化する。なお、本発明における平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による測定装置で求めた値であり、(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-1000を用いた粒度分布測定における、ふるい上50%に対応する値である。
【0024】
本発明のポリエステル繊維は紫外線を10時間照射した強制劣化時の強力保持率が70%以上であることが好ましい。強力保持率が70%未満では、紫外線をはじめとするエネルギーの大きな光が照射された際の耐候性に劣り、カーテンや屋外で使用される産業資材等の耐候性が要求される用途には使用し難くなる。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は50回洗濯試験後の殺菌活性値が0以上であることが好ましい。殺菌活性値が0未満では、繊維上の皮膚常在菌や有害細菌が増加するため、医療機関で使用されるカーテンやシーツ等の清潔で衛生的な管理を求められる用途では使用し難くなる。
【0026】
本発明においてポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とする繊維形成能を有するポリエステルを指称し、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート等を挙げることができる。また、これらポリエステルは第3成分として、ブタンジオールのようなアルコール成分又はイソフタル酸等のジカルボン酸を共重合させた共重合体でも良く、更にこれら各種ポリエステルの混合体でも良い。これらのうち、良好な取扱性や低価格であることの観点から、ポリエチレンテレフタレート系重合体が最適である。
【0027】
本発明のポリエステル繊維に用いられるポリエステルの極限粘度〔η〕は、製糸性、物性、染色安定性の観点から、0.50~0.75であることが好ましい。より好ましくは0.55~0.70、さらに好ましくは0.60~0.68である。
【0028】
本発明のポリエステル繊維の製造方法は、特に限定されないが、公知の方法により、溶融紡糸装置を用いて製造することができる。また、ポリエステル中への酸化亜鉛、シリカゾル各無機粒子の添加は、これらの無機粒子を高濃度で含有する樹脂組成物(マスターチップ)を作製し、適量添加する方法や、ポリエステル重合時に無機粒子を粉末で添加する方法等が挙げられ、特に限定されないが、シリカゾルが酸化亜鉛粒子の分散剤として有効に機能させるためには、ポリエステル中にシリカゾルを先に添加し、その後酸化亜鉛粒子を添加する方法が好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル繊維の総繊度は特に限定されるものではないが、15~300dtexであることが好ましい。特に56~84dtex程度にしたものでは、スポーツ衣料用途、カーテン用途として低密度の織編物にしたときの紫外線遮蔽性を最も良好にすることができる。
【0030】
本発明のポリエステル繊維は、強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは3.2cN/dtex以上、さらに好ましくは3.5cN/dtex以上である。強度の上限値については特に制限されるものではないが、単成分における通常の溶融紡糸法で得られる強度は5.0cN/dtex程度である。強度が3.0cN/dtex未満の場合、製編織時にガイド摩耗等による糸切れや毛羽が発生し操業性が悪化する傾向にあり、また、布帛にした際に破れやすく実用的な安定性に乏しい傾向にある。また、伸度が20~200%であることが好ましく、より好ましくは20~180%、さらに好ましくは25~100%である。伸度が20%未満の場合、布帛にした際に伸縮性の点から安定性に乏しい傾向にある。一方、伸度が200%を超える場合、高次工程にて染めムラなどの異常を発生しやすく実用性に劣る傾向にある。
【0031】
本発明のポリエステル繊維の断面形態は、丸断面の他、扁平断面、多葉断面、中空断面等の種々の断面形態の繊維が可能である。更に、本発明のポリエステル繊維には、本発明の効果を損なわない限り、蛍光増白剤、安定剤、難燃剤、着色剤等の任意の添加剤を必要に応じて含有することができる。
【0032】
本発明のポリエステル織編物は、本発明の紫外線遮蔽性、高発色性および抗菌性を有するポリエステル繊維を少なくとも一部に用いて製編織して得られたものである。十分な紫外線遮蔽性、高発色性、抗菌性が得られる範囲であれば、本発明の紫外線遮蔽性、高発色性および抗菌性を有するポリエステル繊維以外の繊維との交絡混繊糸や合撚糸等を製造しておき製編織したものや、本発明の紫外線遮蔽性、高発色性および抗菌性を有するポリエステル繊維以外の繊維とを交織、交編したものでもよい。
【実施例
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の測定、評価項目は以下に述べる方法で測定した。
・紫外線遮蔽性
84dtex/24フィラメントの延伸糸を用い、丸編機により筒編地を作製し、次いで厚さ1mmになるよう精練・乾熱加工処理を施した。日立製作所製分光光度計(U-3400)を用いて波長0.28~0.38μm域の紫外線透過度を測定し、測定試料なし(ブランク)との面積比を紫外線遮蔽率(紫外線吸収率)とし、以下の基準で評価した。紫外線遮蔽率80%以上を合格とした。
◎:90%以上
○:80%以上
△:70%以上
×:70%未満
【0034】
・抗菌性(抗菌活性値)
実施例または比較例で得られた繊維を、丸編機を用いて筒編にした筒編サンプルに精練を行った後、社団法人繊維評価技術協議会が定める制菌加工繊維製品認証基準JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」に従い、試験菌として黄色ぶどう球菌を用いて以下のように抗菌活性値および増殖値を測定し、評価した。
・抗菌活性値:無加工検体には綿布を用い、下記式より算出した。
抗菌活性値=(logCt-logC0)-(logTt-logT0
t=(綿標準布18時間培養の生菌数の平均値)
0=(綿標準布接種直後の生菌数の平均値)
t=(抗菌加工布18時間培養の生菌数の平均値)
0=(抗菌加工布接種直後の生菌数の平均値)
・増殖値:lоgCt-lоgC0
抗菌性の基準値:(抗菌活性値)-(増殖値)≧0
【0035】
・耐候性
スガ試験機製UVテスターを使用し、ブラックパネル温度83±3℃で10時間紫外線照射を行い、照射前後の繊維の引張強力をテンシロンで測定し、以下の式により強力保持率を求めた。強力保持率70%以上を合格とした。
強力保持率(%)=照射後の繊維の最大強力/紫外線照射前の繊維の最大強力×100
【0036】
・繊維中の無機微粒子の分散性評価
延伸糸の束をシリコンチューブに通し、繊維軸に対して垂直方向に切断して、3%水酸化ナトリウム水溶液を用いて沸騰温度で15分間繊維断面をエッチングしてサンプルとした。このサンプルを乾燥した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)により、1000倍拡大写真を撮影した。次に、延伸糸300本の断面中において観察されるボイドの面積を円に換算した場合の円相当直径を、画像解析装置により測定し、直径が2μm以上5μm未満、及び5μm以上となるボイドの数をカウントし、以下の基準で評価した。
2μm以上5μm未満 5μm以上
◎: 0個 0個
○: 10個以下 0個
△: 11個以上 1個以上5個未満
×: 〃 5個以上
【0037】
・繊維物性
強度、伸度:JIS L 1013に準拠して測定した。
【0038】
・発色性
得られた繊維の筒編地を精練した後、170℃でプレセットし、プレセット後、水酸化ナトリウムでアルカリ処理した(濃度10%owf、温度80℃、時間40分)。この時、編地の減量率は約10%とした後、以下の条件で染色し、還元洗浄をした後、染着濃度(K/S)を測定した。染着濃度が高いほど、発色性が高いといえる。
(染色)
染料:Dianix NavyBlue SPH conc5.0%omf
助剤:Disper TL:1.0cc/l、ULTRA MT-N2:1.0cc/l
浴比:1/50
染色温度×時間:95~100℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
<染着濃度(K/S)>
染着濃度は、上記の染色後サンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka-Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C-2000S Color Analyzer
K/S=(1-R)2 /2R
【0039】
(実施例1)
酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールを用い、重合触媒として三酸化アンチモンを使用し、3種のポリエステル樹脂(A)、(B)、(C)を準備した。樹脂(A)は、平均粒子径0.04μmのシリカゾル(日産化学工業製:スノーテックス0Lおよび20L、0L:20L=7:3)を組成物全量に対して5重量%になるように添加し、公知の方法によりエステル化ならびに重縮合を行ってポリエステルを合成し、極限粘度〔η〕=0.68であった。樹脂(B)は、微粒子添加のない通常のポリエステル樹脂で、極限粘度〔η〕=0.68であった。樹脂(C)は、通常ポリエステルに粒子表面をコート剤としてシリコーンを用いて被覆処理した平均粒子径が0.3μmの粉体の酸化亜鉛粒子を10重量%となるように二軸押出機を用いて混練したポリエステル樹脂で、極限粘度〔η〕=0.66であった。3種の樹脂を用いて狙いとする粒子添加量(重量%)に二軸押出機を用いて混練し作製する。(A):(B):(C)=6:3:1の比にして二軸押出機を用いて混練し、目的のポリエステル樹脂を作製した。なお、極限粘度〔η〕は、テトラクロロエタンとフェノールの等量混合溶媒を用い30℃恒温槽中でウベローデ型粘度計を用い測定した値である。
【0040】
この樹脂を用いて、公知の溶融紡糸方法にて紡糸し、通常の延伸条件で延伸して84dtex/24フィラメント、伸度32%のポリエステル繊維を得た。該ポリエステル繊維の酸化亜鉛の含有量、シリカゾルの含有量、平均粒子径を表1に示す。また、該ポリエステル繊維の強度、伸度、紫外線遮蔽率、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性を表1に示す。紫外線遮蔽性、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性に優れた繊維が得られた。
【0041】
(実施例2~3)
表1に示すように、実施例2は酸化亜鉛の含有量を0.3重量%、実施例3は酸化亜鉛の含有量を4.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。紫外線遮蔽性、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性に優れた繊維が得られた。
(実施例4~5)
表1に示すように、実施例4はシリカゾルの含有量を0.5重量%、実施例5はシリカゾルの含有量を4.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。紫外線遮蔽性、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性に優れた繊維が得られた。
【0042】
(実施例6~7)
表1に示すように、実施例6は酸化亜鉛の平均粒子径を0.1μm、実施例7は酸化亜鉛の平均粒子径を0.6μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。紫外線遮蔽性、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性に優れた繊維が得られた。
【0043】
(実施例8~9)
表1に示すように、実施例8はシリカゾルの平均粒子径を0.02μm、実施例9はシリカゾルの平均粒子径を0.7μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。紫外線遮蔽性、抗菌性、繊維化工程性、耐候性、分散性、発色性に優れた繊維が得られた。
【0044】
(比較例1~2)
表1に示すように、酸化亜鉛のコート剤を、比較例1はアルミナ、比較例2はシランカップリング剤に変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。紫外線遮蔽性、抗菌性は僅かに得られたが、分散性、繊維化工程性が不十分であった。
【0045】
(比較例3~4)
表1に示すように、比較例3は酸化亜鉛の含有量を0重量%、比較例4は酸化亜鉛の含有量を7重量%に変更する以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。添加量が0重量%の場合は紫外線遮蔽性、抗菌性が得られなかった。添加量が7重量%の場合は、分散性や繊維化工程性が不十分であった。
【0046】
(比較例5~6)
表1に示すように、比較例5は酸化亜鉛の平均粒子径を0.03μm、比較例6は酸化亜鉛の平均粒子径を1.2μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。いずれも紫外線遮蔽性、抗菌性が不十分であり、分散性、繊維化工程性も不十分であった。
【0047】
(比較例7~8)
表1に示すように、比較例7はシリカゾルの含有量を0.1重量%、比較例8はシリカゾルの含有量を7重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。添加量が0.1重量%では発色性が不十分であり、添加量7重量%の場合は、繊維化工程性が不十分であった。
【0048】
(比較例9~10)
表1に示すように、比較例9はシリカゾルの平均粒子径を1.2μm、比較例10はシリカゾルの平均粒子径を0.004μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で紡糸・延伸を実施しポリエステル繊維を得た。いずれも分散性、繊維化工程性が不十分であった。
【0049】
【表1】