(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】強誘電体ナノ粒子集積方法及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B82B 1/00 20060101AFI20230116BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20230116BHJP
B05B 5/025 20060101ALI20230116BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20230116BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20230116BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230116BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20230116BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230116BHJP
【FI】
B82B1/00
B01J19/08 J
B05B5/025 A
C01G23/00 C
H01B3/12 303
H01G4/30 311F
H01G4/30 311Z
H01C7/02
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2018128213
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-05-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行所名:公益社団法人日本セラミックス協会 刊行物名:2018年 年会 講演予稿集 発行日:平成30年3月1日 一般社団法人粉体粉末冶金協会の平成30年度春季大会において発表した事項のウェブサイトの掲載 ウェブサイトの掲載日:平成30年4月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術研究機構(研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業ニーズ対応タイプ)「セラミックスの高機能化と製造プロセス革新/単結晶ナノキューブの自己組織化を利用した新成形技術の開発委託研究」に係る産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】三村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一実
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209605(JP,A)
【文献】特開2016-186608(JP,A)
【文献】特開2008-000686(JP,A)
【文献】特開2013-188667(JP,A)
【文献】特開2015-112585(JP,A)
【文献】特開2003-137553(JP,A)
【文献】特開2016-225659(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060042(WO,A1)
【文献】特開2013-203611(JP,A)
【文献】特開2004-161533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0267156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00
B82Y 40/00
B01J 19/08
B05B 5/025
C01G 23/00
H01B 3/12
H01G 4/30
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に強誘電体ナノ粒子を集積させる強誘電体ナノ粒子集積方法であって、
前記強誘電体ナノ粒子が、圧力760mmHgにおける沸点が150℃~200℃の範囲にある分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、前記分散液とは反対の電荷を有するように帯電された前記基板に向けて吐出させ、前記基板の表面に前記分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去することを特徴とする強誘電体ナノ粒子集積方法。
【請求項2】
前記分散液における強誘電体ナノ粒子の濃度が2~20mg/mLである請求項1に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
【請求項3】
前記分散液が吐出される前記基板が、50℃~90℃に予熱されている請求項1又は2に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
【請求項4】
前記強誘電体ナノ粒子が強誘電体の正方晶である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
【請求項5】
前記分散液が静電噴霧により吐出される請求項1乃至4のいずれか一項に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
【請求項6】
基板と、前記基板の表面に形成された強誘電体ナノ粒子集積体とを備える電子部品の製造方法であって、
強誘電体ナノ粒子が、圧力760mmHgにおける沸点が150℃~200℃の範囲にある分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、前記分散液とは反対の電荷を有するように帯電された前記基板に向けて吐出させ、前記基板の表面に前記分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去し、前記強誘電体ナノ粒子集積体を形成することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記分散液における強誘電体ナノ粒子の濃度が2~20mg/mLである請求項
6に記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記分散液が吐出される前記基板が、50℃~90℃に予熱されている請求項
6又は
7に記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記分散液が静電噴霧により吐出される請求項
6乃至
8のいずれか一項に記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体ナノ粒子集積方法、強誘電体ナノ粒子の集積に用いる強誘電体ナノ粒子集積装置、及び基板の表面に強誘電体ナノ粒子集積体を形成する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体、例えば、室温で強誘電体であるチタン酸バリウム等はc軸方向に大きな自発分極を有し、焦電体、圧電体などとして利用することができる。また、このような強誘電体粒子を基板の表面に規則的に配列させて、強誘電体粒子からなる集積層を形成することにより、焦電素子、圧電素子等の各種の有用な電子部品として用いることができる。
【0003】
強誘電体粒子を基板の表面に規則的に配列させる方法としては、従来、強誘電体粒子が分散媒に分散させた分散液をインクジェット法により基板表面に塗布し、その後、媒体を除去する方法、分散液を基板シートの表面に塗布し、その後、媒体を除去する方法などが知られている。より具体的には、チタン酸バリウムナノ結晶等を非極性溶媒に分散させた溶液を遠心分離した上澄み液に凹凸構造を有する基板を浸漬し、引き上げることで、凹凸構造に沿って毛管現象によりナノ結晶が配列するナノ結晶構造体基板の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、毛管現象を利用してナノ粒子を規則的に配列させ、集積させる技術は知られており、電子デバイス等の製造に利用することができる。ここで、より面積の大きい強誘電体粒子からなる集積層を形成することができれば、より多くの電子デバイス等の用途において有用な強誘電体ナノ粒子集積体とすることができる。
本発明は、上述のような従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、強誘電体ナノ粒子を効率よく集積させる強誘電体ナノ粒子の集積方法、この集積方法に用いる集積装置、及び強誘電体ナノ粒子の集積面積がより大きく、各種の用途において有用な電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.基板の表面に強誘電体ナノ粒子を集積させる強誘電体ナノ粒子集積方法であって、
前記強誘電体ナノ粒子が分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、前記分散液とは反対の電荷を有するように帯電された前記基板に向けて吐出させ、前記基板の表面に前記分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去することを特徴とする強誘電体ナノ粒子集積方法。
2.前記強誘電体ナノ粒子が強誘電体の正方晶である前記1.に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
3.前記分散液が静電噴霧により吐出される前記1.又は2.に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法。
4.前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の強誘電体ナノ粒子集積方法に用いる強誘電体ナノ粒子集積装置であって、
基板を内部に収容するチャンバーと、前記チャンバーの上部に取り付けられた静電噴霧用ノズルと、前記チャンバーの下部の前記静電噴霧用ノズルの開口部に対向する位置に配置された基板載置用ボードと、前記基板載置用ボードを加熱するためのヒーターと、前記静電噴霧用ノズルに電圧を印加するための電源と、前記基板載置用ボードに電圧を印加するための電源と、を備えることを特徴とする強誘電体ナノ粒子集積装置。
5.前記チャンバーに通気用開口部が設けられ、且つ前記チャンバーに、前記チャンバー内の気体を外部へ排出するためのポンプが配設された前記4.に記載の強誘電体ナノ粒子集積装置。
6.基板と、前記基板の表面に形成された強誘電体ナノ粒子集積体とを備える電子部品の製造方法であって、
強誘電体ナノ粒子が分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、前記分散液とは反対の電荷を有するように帯電された前記基板に向けて吐出させ、前記基板の表面に前記分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去し、前記強誘電体ナノ粒子集積体を形成することを特徴とする電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の強誘電体ナノ粒子集積方法によれば、帯電された分散液が、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に向けて吐出される。これにより、強誘電体ナノ粒子が基板の面方向に配列されるとともに、ナノ粒子が順次積層されて集積され、各種の電子部品として有用な集積体が形成される。
また、強誘電体ナノ粒子が強誘電体の正方晶である場合は、各々の結晶が基板表面から順次集積され、各種の電子部品として有用な厚さを有する集積体を容易に形成することができる。
更に、分散液が静電噴霧により吐出される場合は、均質な集積体を容易に形成することができる。
本発明の強誘電体ナノ粒子集積方法に用いる強誘電体ナノ粒子集積装置によれば、チャンバーの上部に取り付けられた静電噴霧用ノズルと、チャンバーの下部の静電噴霧用ノズルの開口部に対向する位置に配置された基板載置用ボードとを備える。これにより、基板載置用ボード上に載置された基板の表面に分散液を吐出させ、塗着させることができ、各種の電子部品として有用な厚さを有する集積体を精度よく形成することができる。
また、チャンバーに通気用開口部が設けられ、且つチャンバーに、チャンバー内の気体を外部へ排出するためのポンプが配設された場合は、分散媒が効率よく除去され、容易に集積体を形成することができる。
本発明の電子部品の製造方法によれば、帯電された分散液が、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に向けて吐出される。これにより、基板の表面に所要厚さの集積体が形成され、基板と、強誘電体ナノ粒子集積体とを備える各種の用途において有用な電子部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】強誘電体ナノ粒子集積方法に用いる集積装置の一例の模式図である。
【
図2】実施例1の強誘電体ナノ粒子集積体の電子顕微鏡観察による画像である。
【
図3】実施例2の強誘電体ナノ粒子集積体の電子顕微鏡観察による画像である。
【
図4】比較例1の強誘電体ナノ粒子集積体の電子顕微鏡観察による画像である。
【
図5】比較例2の強誘電体ナノ粒子集積体の電子顕微鏡観察による画像である。
【
図6】実施例1の強誘電体ナノ粒子集積体の粒子充填率を表す電子顕微鏡観察による画像である。
【
図7】比較例1の強誘電体ナノ粒子集積体の粒子充填率を表す電子顕微鏡観察による画像である。
【
図8】実施例1及び比較例1、2の強誘電体ナノ粒子集積体のX線回折画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図も用いて詳しく説明する。
[1]強誘電体ナノ粒子集積方法
本発明の強誘電体ナノ粒子集積方法は、強誘電体ナノ粒子が分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に向けて吐出させ、基板の表面に分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去することを特徴とする。
【0010】
強誘電体は外部に電場がなくても電気双極子が整列しており、且つ双極子の方向を電場によって変化させることができる誘電体である。この強誘電体としては、チタン酸バリウム、チタン酸カドミウム、チタン酸ジルコン酸鉛等が挙げられ、チタン酸バリウムが用いられることが多い。また、強誘電体ナノ粒子の形状は正方晶であることが好ましく、例えば、チタン酸バリウムの正方晶では、横より縦が1%程度長くなっており、中心のチタン及び周辺の酸素が立方晶と比べて僅かにずれた位置で安定になることで強誘電性が発現される。
【0011】
ここで、ナノ粒子を構成する強誘電体の比誘電率は100~10000、特に1000~5000である。このような比誘電率を有する強誘電体からなるナノ粒子であれば、集積体は、各種の用途において有用な電子デバイス等として用いることができる。
【0012】
更に、強誘電体ナノ粒子は、強誘電体の粒子の最大寸法(直方体である正方晶の場合、各辺のうちの最も寸法の大きい辺の寸法)がナノメートル単位である微小粒子である。強誘電体ナノ粒子の最大粒子径は特に限定されないが、10~50nm、特に15~45nmとすることができる。尚、強誘電体ナノ粒子は各々の寸法差が小さい粒子とすることができ、強誘電体の粒子の最大寸法の平均値の標準偏差は10%以下とすることができる。従って、誘電体ナノ粒子の平均粒子径は上述の最大寸法と大差のない数値範囲となる。
【0013】
強誘電体ナノ粒子は分散媒に分散され、且つ帯電された分散液として用いられる。分散媒としては沸点(圧力;760mmHg)が150~200℃程度の高沸点溶剤が好ましい。このような高沸点溶剤としては、例えば、1、3、5-トリメチルベンゼン(沸点;165℃)、ベンズアルデヒド(沸点;178℃)、シクロヘキサノール(沸点;161℃)、N,N-ジメチルアセトアミド(沸点;163~166℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点;153℃)などが挙げられる。このように沸点の高い溶剤であれば、吐出後、塗着されるまでに蒸散してしまう分散媒が少なく、基板の表面に塗着された分散液に所要量の分散媒が残留するため、基板の表面に強誘電体ナノ粒子を効率よく集積させることができる。
【0014】
また、分散媒に分散させる強誘電体ナノ粒子の分散量は、強誘電体ナノ粒子の所要の集積量等にもより、特に限定されないが、2~20mg/mL、特に4~15mg/mLとすることができる。このような分散量であれば、基板上に強誘電体ナノ粒子を効率よく集積させることができる。更に、分散液の流量、言い換えれば、分散液の吐出量も、強誘電体ナノ粒子の所要の集積量等にもより、特に限定されないが、上述のような分散量である場合、分散液の流量を20~150μL/分、特に40~120μL/分とすることで、基板上に強誘電体ナノ粒子を効率よく集積させることができる。
【0015】
また、分散液を基板に向けて吐出させるときの雰囲気の温度、圧力などは特に限定されず、温度は環境温度、例えば、室温(25~35℃)でよく、特に加熱したり、冷却したりする必要はない。圧力も常圧(大気圧)でよく、特に加圧したり、減圧したりする必要もない。尚、吐出される分散液は液滴となって基板の表面に塗着されてもよい。
【0016】
分散液を帯電させ、吐出させる方法は特に限定されないが、同一の器材により分散液を帯電させつつ吐出させることができる静電噴霧が好ましい。静電噴霧の場合、吐出された分散液は全量が微細な液滴となって基板の表面に塗着される。分散液を静電噴霧し、基材に向けて吐出させる方法は特に限定されないが、従来公知の静電噴霧装置又はその原理を利用することができる。更に、帯電され、吐出された分散液は、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に向けて吐出され、基板の表面に塗着される。基板は、通常、金属製のボード上に載置され、このボードを帯電させることにより、同時に基板も帯電される。
【0017】
分散液に印加される電圧、及び基板に印加される電圧は、強誘電体ナノ粒子の種類及びその寸法、並びに強誘電体ナノ粒子の所要の集積量等によるが、分散液に印加される電圧は2~20kV、特に2~15kVとすることができる。また、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に印加される電圧は1~15kV、特に2~10kVとすることができる。
【0018】
基板に塗着された分散液からは分散媒が除去され、基板上に所要量の強誘電体ナノ粒子が集積されてなる強誘電体ナノ粒子集積体が形成される。この際、基板上に強誘電体ナノ粒子を効率よく集積させるためには、基板の表面に塗着された分散液には所要量の分散媒が残留している必要がある。従って、分散媒としては前述のような高沸点溶剤が用いられる。このような高沸点溶剤を速やかに、且つ確実に除去するためには、基板を加熱する必要がある。
【0019】
基板の加熱温度は特に限定されないが、分散媒として、通常、150~200℃程度の高沸点溶剤が用いられるため、50~90℃、特に50~70℃の加熱温度とすることが好ましい。更に、加熱され、蒸散した分散媒は強誘電体ナノ粒子が集積される雰囲気から速やかに除去されることが好ましい。これにより、基板に塗着された分散液からの分散媒の除去が、継続的に、且つ効率よくなされる(分散媒が除去された強誘電体ナノ粒子集積体の電子顕微鏡観察による画像である
図2、3参照)。
【0020】
[2]強誘電体ナノ粒子集積装置
本発明の強誘電体ナノ粒子集積装置(
図1参照)は、本発明の強誘電体ナノ粒子集積方法に用いる集積装置であって、基板を内部に収容するチャンバーと、チャンバーの上部に取り付けられた静電噴霧用ノズルと、チャンバーの下部の静電噴霧用ノズルの開口部に対向する位置に配置された基板載置用ボードと、基板載置用ボードを加熱するためのヒーターと、静電噴霧用ノズルに電圧を印加するための電源と、基板載置用ボードに電圧を印加するための電源と、を備えることを特徴とする。
【0021】
強誘電体ナノ粒子集積装置としては、例えば、
図1のような強誘電体ナノ粒子集積装置10を用いることができる。
図1の集積装置10において、チャンバー1は電気絶縁性素材により形成されていてもよく、電気導伝性素材により形成されていてもよい。電気絶縁性素材は特に限定されが、成形が容易な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂は特に限定されず、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂などを用いることができる。電気導伝性素材も特に限定されず、ステンレスなどを用いることができる。尚、チャンバー1が電気導伝性素材により形成されている場合は、静電噴霧用ノズル2等と接触する所要個所には電気絶縁させるための部材を配設する必要がある(
図1の絶縁部12参照)。
【0022】
チャンバー1の形状も特に限定されないが、通常、直方体又は立方体、特に
図1のチャンバー1のように直方体とすることができる。このような形状のチャンバー1は、素材が電気絶縁性素材であるときは、平面形状が正方形又は長方形の熱可塑性樹脂シートの各々の端縁を接着剤により接合する、又は熱融着せる等の方法によって形成することができる。一方、素材が電気導伝性素材であるときは、平面形状が正方形又は長方形の素材を折り曲げ、必要に応じて所要個所を接合させることにより形成することができる。
【0023】
チャンバー1の上部には静電噴霧用ノズル2が取り付けられる。静電噴霧用ノズル2は、正負いずれかの電荷を有するように帯電させる必要があるため、金属製の管状体により構成される。金属は特に限定されず、ステンレススティール、アルミニウム等が挙げられるが、強度、耐腐食性等を考慮するとステンレススティールが好ましい。静電噴霧用ノズル2の径方向の断面形状も特に限定されず、円形、楕円形、方形等とすることができるが、通常、断面円形の管状体を用いることができる。
【0024】
また、チャンバー1の下部の静電噴霧用ノズル2の開口部21に対向する位置には、基板載置用ボード3が配置される。この基板載置用ボード3は、静電噴霧用ノズル2から吐出される帯電された分散液が塗着される基板4とともに、分散液とは反対の電荷を有するように帯電させる必要があるため、金属製の板状体により構成される。金属は特に限定されず、ステンレススティール、アルミニウム等が挙げられるが、強度、耐腐食性等を考慮するとステンレススティールが好ましい。
【0025】
更に、基板4の表面に強誘電体ナノ粒子を集積させるためには、基板4の表面に塗着された分散液から分散媒を除去する必要があるため、基板載置用ボード3を加熱するためのヒーター5が配設される。基板載置用ボード3は特に高温に加熱する必要はなく、且つ金属製であるとともに、板状体であるため加熱は容易であり、ヒーター5としては、ハロゲンランプヒーター、赤外線ランプヒーター等の各種のヒーターを用いることができる。
【0026】
また、強誘電体ナノ粒子集積装置10では、チャンバー1の下部にチャンバー1内の気体を外部へ排出するためのポンプ6が配設され、且つチャンバー1の上部に通気用開口部11が設けられることが好ましい。基板4の表面に塗着された分散液からは分散媒が除去されるが、除去された分散媒がチャンバー1内に滞留した場合、更なる分散媒の除去が阻害される。そこで、ポンプ6を配設することにより、チャンバー1内の気体が速やかに外部へ排出され、基板4の表面に塗着された分散液から効率よく分散媒を除去することができる。
【0027】
ポンプ6はチャンバー1内の気体を速やかに、且つ定量的に排出できればよく、ポンプ6としては、通常、ダイヤフラムポンプ等を用いることができる。更に、排気にともなってチャンバー1の上部に設けられた通気用開口部11から大気が吸入され、チャンバー1内の雰囲気を略一定に保持することもできる。通気用開口部11は排気にともなって等量の大気が速やかに吸入されればよく、所要の開口面積を有する樹脂製、金属製等の管状体がチャンバー1の壁面に挿通されて設けられていてもよく、チャンバー1の壁面に所定面積の開口部が設けられていてもよい。
【0028】
強誘電体ナノ粒子集積装置10は、上述の各種の部材の他、静電噴霧用ノズル2に、分散液を配管により送液し、供給するための分散液供給手段7を備える。この分散液供給手段7は、静電噴霧用ノズル2に分散液を定量的に供給することができればよく、例えば、シリンジポンプ等を用いることができる。また、強誘電体ナノ粒子集積装置10は、静電噴霧用ノズル2に電圧を印加するための電源81及び基板載置用ボード3に電圧を印加するための電源82を備える。これらの電源81、82により静電噴霧用ノズル2及び基板載置用ボード3が帯電され、これにより、分散液と基板4とを、それぞれ反対の電荷を有するように帯電させることができる。尚、静電噴霧用ノズル2と基板4との距離は、塗布面積等に応じて変更することができる。また、電源81、82は、正・負両極性の出力を有する単一の電源であってもよい。
【0029】
[3]電子部品の製造方法
本発明の電子部品の製造方法は、強誘電体ナノ粒子が分散媒に分散され、且つ帯電された分散液を、分散液とは反対の電荷を有するように帯電された基板に向けて吐出させ、基板の表面に分散液を塗着させつつ、塗着された分散液に含まれる分散媒を除去し、強誘電体ナノ粒子集積体を形成することを特徴とする。
【0030】
この電子部品の製造方法において、強誘電体ナノ粒子、分散媒、基板については、前記[1]強誘電体ナノ粒子集積方法及び[2]強誘電体ナノ粒子集積装置における各々についての記載をそのまま適用することができる。更に、分散媒及び基板の帯電、並びに分散液の吐出、基板表面への分散液の塗着、及び分散媒を除去についても、前記[1]強誘電体ナノ粒子集積方法及び[2]強誘電体ナノ粒子集積装置における各々についての記載をそのまま適用することができる。
【0031】
また、この電子部品の製造方法によれば、各種の有用な電子部品を製造することができ、電子部品としては、積層セラミックコンデンサ、セラミックコンデンサ、PTCサーミスタ、温度センサー、圧電素子、強誘電体メモリー、赤外線検出素子、X線発生素子及びアクチュエーターなどが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
図1のような強誘電体ナノ粒子集積装置10を用いて基板4の表面に強誘電体ナノ粒子集積体を形成した。この装置10は、チャンバー1の内部において、電源81により荷電された静電噴霧用ノズル2により正帯電の強誘電体ナノ粒子が分散媒に分散された分散液を連続的に流下させ、予熱された基板載置用ボード3上の負帯電の基板4に向けて吐出させ、集積させつつ、分散媒を除去し、基板4の表面に強誘電体ナノ粒子集積体を形成する装置である。
【0033】
この強誘電体ナノ粒子集積装置10では、分散液を収容し、静電噴霧用ノズル2に定量的に供給する分散液供給手段7を、チャンバー1の外部の上部に配設し、分散液を、この分散液供給手段7から、ステンレス製の配管を介して、チャンバー1の上部から内部に向けて配設された静電噴霧用ノズル2に供給される。強誘電体ナノ粒子を集積させるシリコンウェハ製の基板4は、静電噴霧用ノズル2の下端の開口部21の直下に40mmの間隔をおいて基板載置用ボード3の上に載置した。
【0034】
上述のような集積装置10を用いて、基板載置用ボード3に載置された基板4に電源82により直流電圧を印加する一方、電源81により静電噴霧用ノズル2に正電圧を印加することにより、静電噴霧用ノズル2から吐出される分散液を正電荷とし、分散液が、電源82により負電圧を印加されて負電荷を有する基板4に向かって吐出されるようにした。また、強誘電体ナノ粒子の集積を促進するため、基板4が載置された基板載置用ボード3を所要温度に加熱するヒーター5(ハロゲンランプ)を配設した。
【0035】
更に、分散液に含まれる分散媒(高沸点溶剤)の気化に伴って、気化した分散媒がチャンバー1内に充満するのを抑制し、所定の厚さの強誘電体ナノ粒子集積の形成が維持されるように、チャンバー1の側面の上方に通気用開口部11を設け、チャンバー1の下面にポンプ6(ダイヤフラムポンプ)を配設した。これにより、ポンプ6による排気と通気用開口部11からの大気の流入とにより、チャンバー1の内部の換気をすることにより、チャンバー1の内部は大気圧に保持された。
【0036】
実施例1
分散液供給手段7から、電源81により接地され、+4kVに荷電された静電噴霧用ノズル2に、平均粒子寸法29.6nm(標準偏差10%以下)のチタン酸バリウムのナノ粒子を高沸点溶剤であるメシチレンに7mg/mLの濃度で分散させた分散液を70μL/分の流速で供給しながら、30秒間静電噴霧させ、基板載置用ボード3に載置され、電源82により接地され、-2kVに荷電された基板4上に集積させた。また、集積された分散液からメシチレンを気化させ、効率よく除去するため、基板4が載置された基板載置用ボード3を、ハロゲンランプにより下方より60℃に加熱した。更に、気化したメシチレンがチャンバー1内に滞留しないようにポンプ6により排気した。その結果、排気と同時に通気用開口部11から大気が流入することで、チャンバー1内は大気雰囲気に保持された。
【0037】
上述のようにして、
図2の走査型電子顕微鏡による観察画像のように、基板4の表面にチタン酸バリウムナノ粒子が配列され、集積されてなる厚さ略500nmの強誘電体ナノ粒子集積体を形成することができた。この強誘電体ナノ粒子集積体の厚さと、チタン酸バリウムナノ粒子の平均粒子寸法とから算出される積層数は略17層である。
【0038】
実施例2
-4kVに荷電された基板4を用いた他は、実施例1と同様にして強誘電体ナノ粒子集積体を形成した。その結果、
図3の走査型電子顕微鏡による観察画像のように、基板4の表面にチタン酸バリウムナノ粒子が配列され、集積されてなる厚さ略500nmの強誘電体ナノ粒子集積体を形成することができた。
【0039】
比較例1
基板4に電圧を印加しなかった他は、実施例1と同様にして強誘電体ナノ粒子集積体の形成を試みた。その結果、
図4の走査型電子顕微鏡による観察画像のように、基板4の表面に比較的大寸の液滴が付着した状態となり、均一な集積層は形成されなかった。
【0040】
比較例2
静電噴霧用ノズル2を+12Vに荷電させるとともに、基板4に電圧を印加しなかった他は、実施例1と同様にして強誘電体ナノ粒子集積体の形成を試みた。その結果、
図5の走査型電子顕微鏡による観察画像のように、基板4の表面に粒子が凝集して数百nm程度の2次粒子が堆積した状態となった。
【0041】
また、実施例1の強誘電体ナノ粒子集積体と、比較例1の基板4の表面に比較的大寸の液滴が付着した状態の集積体の、集積体表面の全面積に対する強誘電体ナノ粒子が存在する割合、言い換えれば、粒子充填率を測定した。その結果、実施例1の強誘電体ナノ粒子集積体(
図6参照)では、粒子充填率は略96%、比較例1の集積体(
図7参照)では、粒子充填率は略79%であり、粒子充填率からみても、比較例1ではナノ粒子が十分に集積せず、空隙が多いことが分かる。
【0042】
更に、
図8のX線回折画像によれば、比較例1(3本の回折線のうちの下方の回折線)、及び比較例2(3本の回折線のうちの中間の回折線)では、ナノ粒子が所定方向に配向していないことを表す110面のピークが高く、ナノ粒子が所定方向に配向していることを表す200面のピークが低い。一方、実施例1(3本の回折線のうちの上方の回折線)では、110面のピークが低くなるとともに、200面のピークが極めて高くなっており、ナノ粒子が所定方向、即ち、荷電方向に十分に配向していることが分かる。このように、実施例1では、電子部品として有用な強誘電体ナノ粒子集積体が形成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、各種の特性を有する強誘電体ナノ粒子が基板上に集積されてなり、積層セラミックコンデンサ、PTCサーミスタ、圧電素子等の各種の電子部品の技術分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10;強誘電体ナノ粒子集積装置、1;チャンバー、11;通気用開口部、12;絶縁部、2;静電噴霧用ノズル、21;静電噴霧用ノズルの開口部、3;基板載置用ボード、4;基板、5;ヒーター、6;ポンプ、7;分散液供給手段、81、82;電源。