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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】成膜方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20230116BHJP
   C23C 14/44 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019027809
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132944
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 勲
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-016314(JP,A)
【文献】特開2001-135143(JP,A)
【文献】特開平08-335676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
C23C 14/34
C23C 14/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ法により誘電体膜を形成する成膜方法であって、
前記誘電体膜の母材となるターゲットに対して、第一電源からRFを印加するとともに、第二電源からパワー[W]が100~400の範囲内のpulse-DCを印加する重畳スパッタ法を用い、
所定の基体上に、前記誘電体膜としてBST[(Ba,Sr)TiO]膜を形成することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記誘電体膜の母材となるターゲットの比抵抗[mΩ・cm]が、20~60の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記誘電体膜の成膜速度[nm/min]が、8.5~12.0の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記誘電体膜におけるBa/Sr比が、0.0915~0.0920の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
スパッタ法により誘電体膜を形成する成膜装置であって、
真空槽と、
前記真空槽の内部空間を減圧するための排気手段と、
前記真空槽の内部空間へ所望のガスを導入するための供給手段と、
前記真空槽の内部空間に配された前記誘電体膜の母材となるターゲットに対して、RFを印加する第一電源、および、パワー[W]が100~400の範囲内のpulse-DCを印加する第二電源と、
前記真空槽の内部空間に配され、前記誘電体膜を形成するための所望の基体を載置する支持手段と、を含み、
前記ターゲットが誘電体であり、
前記第一電源から印加されるRFと前記第二電源から印加されるpulse-DCが、前記ターゲットに対して重畳されるように電気回路が構成されている、ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲットの材料がBST[(Ba,Sr)TiO]であることを特徴とする請求項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる、成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムストロンチウム[(Ba,Sr)TiO(BSTと略称する)]等の誘電体は、スマートフォンに代表される通信機器において用いられる、チューナブルデバイス(Tunable device)の材料として期待されている[特許文献1]。中でも、BST膜は注目されており、各機関において盛んに研究されている。
【0003】
チューナブルデバイスには、1つの端末(たとえばスマートフォン)において、複数の周波数帯[たとえば、TV(television)や、Telephone、WLAN(wireless local area network)、Bluetooth(variety of short-range wireless LAN)、GPS(Global Positioning System)、RFID(radio frequency identification)等に対応する各周波数の帯域]の信号を明瞭に識別して受信することが求められている。
【0004】
チューナブルデバイスを構成する誘電体膜を形成する代表的な成膜方法としては、スパッタ法が挙げられる。スパッタ法で用いるカソードは、銅やアルミ等で構成された導電性のバッキングプレートの上に、誘電体の母材となるターゲットが、インジウム等の接着剤によって接着されている。
【0005】
しかしながら、ターゲットの材料として絶縁体を用い、Ar等のプロセスガスと共に、酸素や窒素等の反応性ガスを導入してスパッタを行う場合には、ターゲットの表面にターゲットの構成物質による高抵抗の薄膜が堆積し、この薄膜が表面でチャージアップしてしまう場合があった。このように、ターゲットの表面においてチャージアップした場合、その電荷は容易にカソード側に移動し、アーキング(異常放電)が発生する原因となっていた。アーキングが発生すると、ターゲットの表面が溶融、飛散し、パーティクルが生じ、これにより薄膜の性質に影響を及ぼす、という問題があった。
【0006】
特許文献1には、アーキングの発生を防止することによりパーティクルの発生量を低減させ、均質な薄膜を安定して形成する手法が開示されている。しかしながら、本発明者らは、BTSターゲットを用い、特許文献1の手法を応用して成膜方法を検討したが、アーキングの発生を防止することが困難であった。
そこで、本発明者らは、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる、成膜方法および成膜装置の開発を鋭意検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-124184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる、成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、スパッタ法により誘電体膜を形
成する成膜方法であって、前記誘電体膜の母材となるターゲットに対して、第一電源からRFを印加するとともに、第二電源からパワー[W]が100~400の範囲内のpulse-DCを印加する重畳スパッタ法を用い、所定の基体上に、前記誘電体膜としてBST[(Ba,Sr)TiO]膜を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成膜方法において、前記誘電体膜の母材となるターゲットの比抵抗[mΩ・cm]が、20~60の範囲内であることを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の成膜方法において、前記誘電体膜の成膜速度[nm/min]が、8.5~12.0の範囲内であることを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の成膜方法において、前記誘電体膜におけるBa/Sr比が、0.0915~0.0920の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
請求項に記載の発明は、スパッタ法により誘電体膜を形成する成膜装置であって、真空槽と、前記真空槽の内部空間を減圧するための排気手段と、前記真空槽の内部空間へ所望のガスを導入するための供給手段と、前記真空槽の内部空間に配された前記誘電体膜の母材となるターゲットに対して、RFを印加する第一電源、および、パワー[W]が100~400の範囲内のpulse-DCを印加する第二電源と、前記真空槽の内部空間に配され、前記誘電体膜を形成するための所望の基体を載置する支持手段と、を含み、前記ターゲットが誘電体であり、前記第一電源から印加されるRFと前記第二電源から印加されるpulse-DCが、前記ターゲットに対して重畳されるように電気回路が構成されていることを特徴とする成膜装置。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の成膜装置において、前記ターゲットの材料がBST[(Ba,Sr)TiO3]であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明(成膜方法)は、誘電体膜の母材となるターゲットに対して、第一電源からRFを印加するとともに、第二電源からpulse-DCを印加する重畳スパッタ法を用い、所定の基体上に、前記誘電体膜としてBST[(Ba,Sr)TiO]膜を形成する。これにより、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる成膜方法が得られる。
【0017】
請求項に記載の発明(成膜装置)は、前記誘電体膜の母材となる誘電体のターゲットに対して、RFを印加する第一電源、および、パワー[W]が100~400の範囲内のpulse-DCを印加する第二電源を含み、前記第一電源から印加されるRFと前記第二電源から印加されるpulse-DCが、前記ターゲットに対して重畳されるように電気回路が構成されている。これにより、本発明は、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる、成膜装置の提供に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の成膜方法で用いられる成膜装置の全体構成を示す概略図。
図2】従来の成膜装置で形成された誘電体膜の誘電率とBa/Sr比とRFパワーとの関係を示すグラフ。
図3】アーキングの発生がある状態(従来)を示すターゲット表面の写真。
図4】重畳スパッタ状態の波形を示すオシロスコープの写真。
図5】アーキングの発生がない状態(本発明)を示すターゲット表面の写真。
図6】成膜速度とpulse-DCパワーとの関係を示すグラフ。
図7】Ba/Sr比とpulse-DCパワーとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0020】
(成膜装置および成膜方法)
図1は、本発明の成膜方法にて用いられる成膜装置の全体構成を示す概略図である。 本発明の成膜装置10は、スパッタ法により誘電体膜を形成する成膜装置であり、誘電体膜を形成するための内部空間を有する真空槽11を備える。真空槽11は、その内底面に被処理体である所望の基体Sを載置するための支持手段(ステージとも呼ぶ)12が配されている。真空槽11は接地電位に接続される一方、支持手段12は浮遊電位とされており、そのため、支持手段12に載置された基体Sも浮遊電位となる。支持手段12に載置される基体Sとしては、たとえば、シリコン基板(や、シリコン基板に対してPt/TiOx/SiO層が順に積層されたもの)が用いられる。
【0021】
真空槽11の排気口11aには、真空槽11の内部空間を減圧するための排気手段16が接続されており、真空槽11内の流体を真空槽11の外部へ排気する。排気手段16は、たとえば、真空槽11の内部空間の圧力を調節するバルブや、ターボ分子ポンプ及びドライポンプ等の真空ポンプによって構成されている。
【0022】
真空槽11のガス供給口11bには、真空槽11の内部空間にプロセスガスとして所望のガス(たとえば、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガス等)を導入するための供給手段17が接続されている。供給手段17は、所望のガスが貯蔵されたボンベに接続されるマスフローコントローラであって、真空槽11に供給する所望のガスの流量を調節する。
【0023】
真空槽11の内部空間において、支持手段12の上方には、真空槽11を封止するバッキングプレート13を介してLCOからなるターゲット14が、基板Sと対向するように設置されている。ターゲット14の直径は例えば300mmであり、また、ターゲット14と基板との距離であるTS距離は例えば60mmである。
【0024】
基板ステージ12の上方には、真空槽11を封止するバッキングプレート13を介して誘電体からなるターゲット14が、基体Sと対向するように設置されている。ターゲット14の直径は、たとえば100~300mmであり、ターゲット14と基体Sとの距離であるTS距離は、たとえば30~90mmである。
【0025】
バッキングプレート13には、ターゲット14に対して高周波電力を供給(印加)する第一電源(高周波電源)RFが、マッチングボックスMを介して接続されている。ここで、マッチングボックスMは、高周波電源RFの出力インピーダンスとその負荷の入力インピーダンスとを整合させる。
【0026】
また、同バッキングプレート13には、ターゲット14に対して直流電力(pulse-DC)を供給(印加)する第二電源(直流電源)DCが、LCフィルタFを介して接続されている。ここで、LCフィルタFは、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせて、電気信号の特定の周波数帯域をカットしたり、通過させたりする回路である。コンデンサは、直流電流は遮断し交流の周波数が高いほど通しやすくなるという性質がある。これに対して、インダクタは、直流電流はそのまま通過させ交流の周波数が高いほど通しにくくなる性質がある。このように逆の性質を有するインダクタとコンデンサを組み合わせることにより、LCフィルタFは、ノイズをカットしたり、特定の信号を抽出することができる。
【0027】
つまり、本発明の成膜装置10においては、上述した「高周波電力を供給(印加)する第一電源(高周波電源)RF」と、「直流電力(pulse-DC)を供給(印加)する第二電源(直流電源)DC」とが、バッキングプレート13に対して並列に接続されている。第一電源(高周波電源)RFは、たとえば13.56MHzの周波数の高周波電力をバッキングプレート13に対して出力する。他方、第二電源(直流電源)DCは、負の電圧を同バッキングプレート13に、パルス状(間欠的)に印加する。
【0028】
また、バッキングプレート13においてターゲット14とは反対側の位置には、ターゲット14の表面に垂直磁場を形成するマグネット15が搭載されている。
本発明の成膜装置10においては、排気手段16を用いて真空槽11の内部空間を減圧するとともに、供給手段17を介して真空槽11の内部空間へ所望のガスから構成されるプロセスガスを導入した状態において、バッキングプレート13に対して、第一電源(高周波電源)RFからは高周波電力を供給(印加)し、かつ、第二電源(直流電源)DCからは直流電力(pulse-DC)を供給(印加)する。
【0029】
換言すると、本発明の成膜装置10においては、第一電源RFから印加されるRFと第二電源DCから印加されるpulse-DCが、バッキングプレート13を介してターゲット14に対して重畳されるように電気回路が構成されている。
【0030】
これにより、プロセスガスからプラズマ化された原子が、バッキングプレート13に載置されたタ-ゲット14の表面(図1では下面)に衝突し、スパッタリングが生じる。このスパッタリングにより、タ-ゲット14の表面から飛翔した物体が、ターゲット14と対向する位置に配された基体Sの表面(図1では上面)に到達し、堆積する。その際に、誘電体からなるタ-ゲット14を用いることにより、所望の誘電体膜が基体S上に形成される。
【0031】
(比較例1)
図2は、比較例1の成膜装置により形成された誘電体の膜誘電率及びBa/Sr比とRFパワーとの関係を示すグラフである。
ここで、比較例1の成膜装置とは、図1に示した本発明の成膜装置において、第一電源(高周波電源)RFから高周波電力を供給(印加)ラインのみ存在し、第二電源(直流電源)DCからは直流電力(pulse-DC)を供給(印加)ラインが存在しない回路構成を備えたものである。
【0032】
図2のグラフにおいて、横軸は第一電源から供給(印加)されたRFパワー(RF Power)[W]であり、左縦軸は形成された誘電体膜の誘電率(Dielectric Constant)、右縦軸は形成された誘電体膜に含まれるSrに対するBaの比率(Ba/Sr ratio)、を各々表している。
図2に示した誘電体膜は、BST[(Ba,Sr)TiO]である。誘電体膜の主な成膜条件は、ターゲットの材料がBST、RFパワーが500~1500[W]、RFパワーが1500Wの場合における成膜速度が7[nm/min]、誘電体膜の厚さが240[nm]、成膜温度(基体温度)が750[deg.C]である。
【0033】
図2より、以下の点が明らかとなった。
(a1)誘電体膜の誘電率は、RFパワーが増加するに連れて、減少する傾向を示す。
(a2)誘電体膜に含まれるSrに対するBaの比率も、誘電率と同様に、RFパワーが増加するに連れて、減少する傾向を示す。
(a3)誘電体膜の成膜速度は、RFパワーが増加するに連れて、増大する傾向を示す(図2には不図示)。
以上の結果より、RFパワーを上げると、成膜速度は増加するが、誘電率が低下してしまうことが分かった。すなわち、RFパワー(成膜速度)と誘電率はトレードオフの関係にあり、膜質(誘電率)を維持しつつ、成膜速度の向上を図ることは、困難であることが確認された。
【0034】
(比較例2)
図3は、比較例2の状態(アーキング発生ありの状態)を示すターゲット表面の写真であり、「RF+DC重畳スパッタ」を採用した場合である。「RF+DC重畳スパッタ」を採用した理由は、高速成膜を実現するためである。
ここで、比較例2で用いた成膜装置とは、図1に示した本発明の成膜装置において、第一電源(高周波電源)RFから高周波電力を供給(印加)ラインと、第二電源(直流電源)DCからは直流電力を供給(印加)ラインとを備える回路構成ではあるが、第二電源が常時、所定の直流電力を供給(印加)する回路構成とした点が、後述する本発明の成膜装置と異なっている。
【0035】
図3の写真は、使用したターゲットの比抵抗が20~60[mΩ・cm]であり、RFパワーが1400[W]、DCパワーが300[W]として、「RF+DC重畳スパッタ」を行った後のターゲット表面の写真である。
図3の写真から、以下の点が明らかになった。
(b1)第二電源が常時、所定の直流電力を供給(印加)する回路構成とした「RF+DC重畳スパッタ」では、ターゲット表面にアーキング(図3の写真において傷状に見える部位)が発生する。
(b2)直流成分(DC成分)が印加されることにより、ターゲット表面がチャージアップされやすくなり、アーキングが発生しやすくなった。
(b3)比較例1に比べて、比較例2の成膜速度は1.7倍になった。
以上の結果より、「RF+DC重畳スパッタ」によれば、高速成膜の可能性は示唆されたが、アーキングが発生するため、その改善策を見出す必要があることが分かった。
【0036】
(実施例1)
図4は、本発明の重畳スパッタ状態の波形を示すオシロスコープの写真であり、「RF+(pulse-DC)重畳スパッタ」を採用した場合である。図5は、本発明の状態(アーキング発生なしの状態)を示すターゲット表面の写真である。
ここで、実施例1で用いた成膜装置とは、図1に示した本発明の成膜装置である。すなわち、図1に示すように、第一電源(高周波電源)RFから高周波電力を供給(印加)ラインと、第二電源(直流電源)DCからは直流電力(pulse-DC)を供給(印加)ラインとを備える回路構成である。ゆえに、第二電源は、所定の直流電力を間欠的に供給(印加)する回路構成となっている。実施例1は、この点が前述した比較例2と異なっている。
【0037】
図4の写真は、使用したターゲットの比抵抗が20~60[mΩ・cm]であり、RFパワーが1500[W]、pulse-DCパワーが400[W]、パルス周波数が20[kHz]、オフ時間が10[μsec]として、「RF+(pulse-DC)重畳スパッタ」を行った状態の波形を示すオシロスコープの写真である。
図5の写真は、上記の「RF+(pulse-DC)重畳スパッタ」を行った後のターゲット表面の写真である。
【0038】
図4及び図5の写真より、以下の点が明らかになった。
(c1)図4に示すオシロスコープの写真から、期待通りの「RF+(pulse-DC)」波形になっていることが確認された。
(c2)連続放電(60分間)を行ったが、反射波電力(Pr)もなく、放電が安定していることが確認された。
(c3)図5に示すターゲット表面の写真から、合計で約50[kWh]放電させても、アーキングは見られなかった。
以上の結果より、「RF+(pulse-DC)重畳スパッタ」によれば、アーキングが発生しない、安定した放電が可能であることが分かった。
【0039】
(実施例2)
図6は、成膜速度とpulse-DCパワーとの関係を示すグラフである。
実施例2で用いた成膜装置は、上述した実施例1と同様、図1に示した本発明の成膜装置である。すなわち、図1に示すように、第一電源(高周波電源)RFから高周波電力を供給(印加)ラインと、第二電源(直流電源)DCからは直流電力(pulse-DC)を供給(印加)ラインとを備える回路構成である。
【0040】
図6のグラフにおいて、横軸は第二電源から供給(印加)されたpulse-DCパワー(Pulse-DC Power)[W]であり、縦軸は形成された誘電体膜の成膜速度(Deposition rate)である。
図6に示した誘電体膜は、BST[(Ba,Sr)TiO]である。誘電体膜の主な成膜条件は、ターゲットの材料がBST、RFパワーが1500[W]固定である。pulse-DCパワーが0~400[W]であり、pulse-DCのパルス周波数が20[kHz]、オフ時間が10[μsec]である。
【0041】
図6のグラフより、以下の点が明らかになった。
(d1)pulse-DCパワーの増加(0~400[W])に伴い、誘電体膜の成膜速度は、線形関数的に増加する。
(d2)「RFパワーが1500[W]、かつ、pulse-DCパワーが400[W]」という条件で、成膜速度が目標とする12[nm/min]を達成した。pulse-DCパワーがない場合(0[W])と比べて、約1.7倍の成膜速度が得られた。
(d3)実施例1と同様に、アーキングが発生しない、安定した放電が可能であった。
以上の結果より、「RF+(pulse-DC)重畳スパッタ」によれば、アーキングが発生しない、安定した放電が可能であり、高速成膜も実現できることが分かった。
【0042】
(実施例3)
図7は、Ba/Sr比とpulse-DCパワーとの関係を示すグラフである。
実施例3で用いた成膜装置は、上述した実施例1及び実施例2と同様、図1に示した本発明の成膜装置である。すなわち、図1に示すように、第一電源(高周波電源)RFから高周波電力を供給(印加)ラインと、第二電源(直流電源)DCからは直流電力(pulse-DC)を供給(印加)ラインとを備える回路構成である。
【0043】
図7のグラフにおいて、横軸は第二電源から供給(印加)されたpulse-DCパワー(Pulse-DC Power)[W]であり、縦軸は形成された誘電体膜のBa/Sr比である。
図7に示した誘電体膜は、BST[(Ba,Sr)TiO]である。誘電体膜の主な成膜条件は、ターゲットの材料がBST、RFパワーが1500[W]固定である。pulse-DCパワーが0~400[W]であり、pulse-DCのパルス周波数が20[kHz]、オフ時間が10[μsec]である。
【0044】
図7のグラフより、以下の点が明らかになった。
(e1)pulse-DCパワーの増加(0~400[W])に伴い、誘電体膜のBa/Sr比は増加傾向を示す。
(e2)誘電体膜のBa/Sr比が大きくなるに連れて、誘電体膜の誘電率が増大することが分かった。
上述した実施例3の結果と前述した実施例2の結果から、本発明によれば、誘電率を低下させずに(維持させながら)、成膜速度の向上が図れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、アーキングの発生を防止し、かつ、誘電体膜の膜質(誘電率)を維持するとともに、成膜速度の向上が図れる、成膜方法および成膜装置として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
DC 第二電源(直流電源)、F LCフィルタ、M マッチングボックス、S 基体、RF 第一電源(高周波電源)、10 成膜装置、11 真空槽、11a 排気口、11b ガス供給口、12 支持手段、13 バッキングプレート、14 ターゲット、15 マグネット、16 排気手段、17 供給手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7