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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】ループ型ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20230116BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
F28D15/02 101K
F28D15/04 E
F28D15/04 B
F28D15/02 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019102791
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020197331
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】町田 洋弘
(72)【発明者】
【氏名】倉嶋 信幸
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/087451(WO,A1)
【文献】特開2018-036012(JP,A)
【文献】特開2015-064118(JP,A)
【文献】特開2016-142416(JP,A)
【文献】特開2002-122392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F28D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を気化させる蒸発器と、
前記作動流体を液化する凝縮器と、
前記蒸発器と前記凝縮器とを接続する液管と、
前記蒸発器と前記凝縮器とを接続する蒸気管と、
前記液管内に設けられた多孔質体と、
前記液管内の一部に前記多孔質体と区画されて設けられ、前記蒸発器から前記液管の長さ方向に沿って延び、前記蒸発器で気化された前記作動流体が移動する蒸気移動経路と、を有し、
前記蒸気移動経路は、前記蒸発器で気化された前記作動流体が移動する流路と、前記流路を囲む壁部とを有し、
前記壁部は、前記多孔質体と前記流路との間に設けられるとともに、前記多孔質体と前記流路とを分断する区画壁を有するループ型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記蒸気移動経路は、前記流路に接して形成された多孔質部を有する請求項1に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記多孔質部は、前記壁部のうち前記区画壁以外の壁部に形成されている請求項2に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項4】
前記多孔質部は、一方の面側から窪む第1有底孔と、他方の面側から窪む第2有底孔と、前記第1有底孔と前記第2有底孔とが部分的に連通して形成された細孔と、を有する金属層を含む請求項2又は請求項3に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項5】
前記蒸気移動経路は、前記流路に接するように前記壁部に形成された溝部を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項6】
記区画壁は、前記蒸発器の内部空間に突出して形成されている請求項から請求項5のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項7】
前記壁部は、前記区画壁と前記液管の管壁とを含む請求項6に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項8】
前記流路の横断面積は、前記多孔質体が有する流路の横断面積よりも大きく形成されるとともに、前記蒸気管が有する流路の横断面積よりも小さく形成されている請求項から請求項7のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項9】
前記蒸気移動経路は、前記蒸発器から前記液管の長さ方向の途中まで延びるように形成されており、前記途中の部分において前記蒸気移動経路の端部が閉塞されている請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【請求項10】
前記液管は、前記蒸気移動経路と隣接して前記蒸気移動経路と前記多孔質体との間に設けられ、前記凝縮器で液化された前記作動流体が流れる流路を有する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のループ型ヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ型ヒートパイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器に搭載される半導体デバイス(例えば、CPU等)の発熱部品を冷却するデバイスとして、作動流体の相変化を利用して熱を輸送するヒートパイプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ループ型ヒートパイプは、発熱体から受熱して液相の作動流体を蒸発させる蒸発部と、気相の作動流体を放熱により凝縮させる凝縮部とを備えている。また、ループ型ヒートパイプは、蒸発部で気相に変化した作動流体を凝縮部へ流通させる蒸気管と、凝縮部で液相に変化した作動流体を蒸発部へ流通させる液管とを備えている。そして、ループ型ヒートパイプは、蒸発部と、蒸気管と、凝縮部と、液管とが直列に接続されたループ構造を有しており、内部に作動流体が封入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6146484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のループ型ヒートパイプでは、そのループ型ヒートパイプの周囲温度が作動流体の凝固点よりも低い温度になると、作動流体が凝固し固化してしまう。この場合には、作動流体が液相から固相に相変化するため、流体としての移動が実現できなくなり、熱輸送動作ができなくなる。この結果、発熱部品を冷却できなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、作動流体を気化させる蒸発器と、前記作動流体を液化する凝縮器と、前記蒸発器と前記凝縮器とを接続する液管と、前記蒸発器と前記凝縮器とを接続する蒸気管と、前記液管内に設けられた多孔質体と、前記液管内の一部に前記多孔質体と区画されて設けられ、前記蒸発器から前記液管の長さ方向に沿って延び、前記蒸発器で気化された前記作動流体が移動する蒸気移動経路と、を有し、前記蒸気移動経路は、前記蒸発器で気化された前記作動流体が移動する流路と、前記流路を囲む壁部とを有し、前記壁部は、前記多孔質体と前記流路との間に設けられるとともに、前記多孔質体と前記流路とを分断する区画壁を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一観点によれば、発熱部品を好適に冷却できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態のループ型ヒートパイプを示す概略平面図である。
図2】一実施形態のループ型ヒートパイプの一部を示す拡大平面図である。
図3】一実施形態の液管を示す概略断面図(図2の3A-3A断面図)である。
図4】一実施形態の多孔質体を説明する概略平面図である。
図5】(a)~(e)は、一実施形態のループ型ヒートパイプの製造方法を示す概略断面図である。
図6】(a),(b)は、一実施形態のループ型ヒートパイプの製造方法を示す概略断面図である。
図7】変更例の液管を示す概略断面図である。
図8】変更例の液管を示す概略断面図である。
図9】変更例の液管を示す概略断面図である。
図10】変更例のループ型ヒートパイプを示す概略平面図である。
図11】変更例の液管を示す概略断面図(図10の11A-11A断面図)である。
図12】変更例のループ型ヒートパイプを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して一実施形態を説明する。なお、添付図面は、便宜上、特徴を分かりやすくするために特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率については各図面で異なる場合がある。また、断面図では、各部材の断面構造を分かりやすくするために、一部の部材のハッチングを梨地模様に代えて示し、一部の部材のハッチングを省略している。なお、本明細書において、「平面視」とは、対象物を図3等の鉛直方向(図中上下方向)から視ることを言い、「平面形状」とは、対象物を図3等の鉛直方向から視た形状のことを言う。
【0010】
[構成]
図1に示すループ型ヒートパイプ1は、例えば、スマートフォンやタブレット端末等のモバイル型の電子機器2に収容される。ループ型ヒートパイプ1は、蒸発器11と、蒸気管12と、凝縮器13と、液管14とを有している。
【0011】
蒸発器11と凝縮器13は、蒸気管12と液管14とにより接続されている。蒸発器11は、作動流体Cを気化させて蒸気Cvを生成する機能を有している。蒸発器11で生成された蒸気Cvは、蒸気管12を介して凝縮器13に送られる。凝縮器13は、作動流体Cの蒸気Cvを液化する機能を有している。液化した作動流体Cは、液管14を介して蒸発器11に送られる。蒸気管12及び液管14は、作動流体C又は蒸気Cvを流すループ状の流路を形成する。
【0012】
蒸気管12は、例えば、長尺状の管体に形成されている。液管14は、例えば、長尺状の管体に形成されている。本実施形態において、蒸気管12と液管14とは、例えば、長さ(つまり、長さ方向の寸法)が互いに同じである。なお、蒸気管12の長さと液管14の長さとは、互いに異なっていてもよい。例えば、液管14の長さに比べて蒸気管12の長さが短くてもよい。ここで、本明細書における蒸発器11、蒸気管12、凝縮器13及び液管14の「長さ方向」とは、各部材において作動流体C又は蒸気Cvが流れる方向(図中矢印参照)に一致する方向のことである。
【0013】
蒸発器11は、図示しない発熱部品に密着して固定される。蒸発器11内の作動流体Cは、発熱部品にて発生した熱により気化し、蒸気Cvが生成される。なお、蒸発器11と発熱部品との間に、熱伝導部材(TIM:Thermal Interface Material)が介在されていてもよい。熱伝導部材は、発熱部品と蒸発器11の間の接触熱抵抗を低減し、発熱部品から蒸発器11への熱伝導をスムーズにする。
【0014】
蒸気管12は、例えば、蒸気管12の長さ方向と平面視で直交する幅方向の両側に設けられた一対の管壁12wと、一対の管壁12wの間に設けられた流路12rとを有している。流路12rは、蒸発器11の内部空間と連通している。流路12rは、上述のループ状の流路の一部である。蒸発器11において発生した蒸気Cvは、蒸気管12を介して凝縮器13へと導かれる。
【0015】
凝縮器13は、例えば、放熱用に面積を大きくした放熱プレート13pと、放熱プレート13pの内部において蛇行した流路13rとを有している。流路13rは、上述のループ状の流路の一部である。蒸気管12を介して導かれた蒸気Cvは、凝縮器13において液化する。このように、ループ型ヒートパイプ1では、発熱部品で発生した熱を凝縮器13に移動し、その凝縮器13において放熱する。これにより、発熱部品が冷却され、発熱部品の温度上昇が抑制される。
【0016】
凝縮器13で液化した作動流体Cは、液管14を通って蒸発器11に導かれる。ここで、作動流体Cとしては、蒸気圧が高く、蒸発潜熱が大きい流体を使用するのが好ましい。このような作動流体Cを用いることで、蒸発潜熱によって発熱部品を効率的に冷却できる。作動流体Cとしては、例えば、アンモニア、水、フロン、アルコール、アセトン等を用いることができる。
【0017】
例えば、液管14の長さ方向と平面視で直交する幅方向の寸法W1は、蒸発器11の長さ方向と平面視で直交する幅方向の寸法W2よりも小さく形成されている。
図2に示すように、蒸発器11には、多孔質体20が設けられている。多孔質体20は、連結部21と複数の突起部22とを有している。連結部21は、例えば、平面視において、蒸発器11の内部空間のうち最も液管14側(つまり、蒸発器11に液管14が接続されている側)に設けられている。連結部21は、例えば、蒸発器11の幅方向(図2の左右方向)に延びるように形成されている。連結部21の液管14側の面は、例えば、その一部が蒸発器11の管壁11wに接しており、残りの部分が空間S1に接している。連結部21の蒸気管12側の面は、その一部が突起部22と連結しており、残りの部分が空間S2に接している。各突起部22は、例えば、平面視において、連結部21から蒸気管12側に向かって突出して形成されている。各突起部22は、例えば、蒸発器11の長さ方向に沿って延びるように形成されている。複数の突起部22は、例えば、平面視において、蒸発器11の幅方向に沿って所定の間隔を空けて設けられている。各突起部22の蒸気管12側の端部は、蒸発器11の管壁11wから離間している。各突起部22の蒸気管12側の端部は、互いに連結されていない。すなわち、本実施形態の多孔質体20は、平面視において、連結部21と複数の突起部22とを有する櫛歯状に形成されている。なお、多孔質体20における櫛歯の数は、適宜変更することができる。
【0018】
蒸発器11内において、多孔質体20が設けられていない領域は空間S2が形成されている。空間S2は、蒸気管12の流路12rとつながっている。
液管14は、液管14の幅方向の両端に設けられた一対の管壁14wと、一対の管壁14wの間に設けられた多孔質体30及び蒸気移動経路40とを有している。
【0019】
多孔質体30は、例えば、液管14の長さ方向に沿って、凝縮器13(図1参照)から蒸発器11の近傍まで延びるように形成されている。多孔質体30は、その多孔質体30に生じる毛細管力によって、凝縮器13で液化した作動流体Cを蒸発器11へと導く。多孔質体30は、例えば、多数の細孔62z,63z,64z,65z(図3参照)を有している。これら多数の細孔62z~65zは、作動流体Cの流れる流路14rとして機能する。この流路14rは、上述のループ状の流路の一部である。
【0020】
多孔質体30の蒸発器11側の面は、例えば、空間S1に接している。本実施形態では、液管14の多孔質体30と蒸発器11の多孔質体20との間には、空間S1が介在している。なお、多孔質体20と多孔質体30との間の空間S1を省略してもよい。すなわち、多孔質体20と多孔質体30とを、空間S1を介さずに直接接続してもよい。
【0021】
蒸気移動経路40は、蒸発器11から液管14の長さ方向に沿って延びるように形成されている。蒸気移動経路40は、例えば、液管14の長さ方向に沿って、蒸発器11から液管14の長さ方向の途中まで延びるように形成されている。蒸気移動経路40は、例えば、一対の管壁14wのうち一方の管壁14wの近傍に設けられている。例えば、蒸気移動経路40は、一対の管壁14wのうち、液管14の屈曲部の曲げ内側を構成する管壁14wの近傍に設けられている。蒸気移動経路40は、例えば、区画壁41と、区画壁42と、流路43と、多孔質部50とを有している。
【0022】
区画壁41は、液管14の長さ方向に沿って、蒸発器11の内部空間から液管14の長さ方向の途中まで延びるように形成されている。区画壁41の蒸発器11側の端部41Aは、例えば、蒸発器11の内部空間に突出するように形成されている。区画壁41の端部41Aは、例えば、蒸発器11の多孔質体20に食い込むように形成されている。例えば、区画壁41の端部41Aは、多孔質体20の連結部21に食い込むように形成されている。区画壁42は、例えば、区画壁41の端部41Aと長さ方向において反対側の端部41Bから液管14の幅方向に沿って、一方(ここでは、図中下側)の管壁14wまで延びるように形成されている。区画壁42は、区画壁41の端部41Bと管壁14wとを接続するように形成されている。区画壁42は、蒸気移動経路40の長さ方向の一端部を構成している。蒸気移動経路40の長さ方向の一端部は、液管14の長さ方向の途中において、区画壁42により閉塞されている。これら区画壁41,42は、蒸気移動経路40の流路43と多孔質体30とを区画するように形成されている。流路43と多孔質体30とは、区画壁41,42により完全に分断されている。
【0023】
蒸気移動経路40の流路43は、区画壁41と区画壁42と管壁14wとによって囲まれた空間によって構成されている。流路43は、蒸気移動経路40の長さ方向の全長にわたって延びるように形成されている。流路43は、蒸気移動経路40の長さ方向の全長にわたって、区画壁41,42によって多孔質体30と分断されている。これら区画壁41,42及び管壁14wは、流路43を囲む壁部として機能する。
【0024】
流路43は、例えば、蒸気移動経路40の長さ方向と直交する平面によって蒸気移動経路40を切断した断面の断面積(つまり、横断面積)が多孔質体30の有する流路14rの横断面積よりも大きく形成されている。流路43の横断面積は、例えば、蒸気管12の流路12rの横断面積よりも小さく形成されている。
【0025】
蒸気移動経路40には、例えば、多孔質部50が設けられている。多孔質部50は、例えば、蒸気移動経路40の長さ方向に沿って、蒸発器11の近傍から区画壁42まで延びるように形成されている。多孔質部50は、例えば、その多孔質部50に生じる毛細管力によって、蒸気移動経路40内で液化した作動流体Cを蒸発器11へと導く。多孔質部50と多孔質体30とは、蒸気移動経路40の長さ方向の全長にわたって、区画壁41,42によって完全に分断されている。
【0026】
多孔質部50の蒸発器11側の面は、例えば、空間S1に接している。本実施形態では、多孔質部50と蒸発器11の多孔質体20との間には、空間S1が介在している。なお、多孔質部50と多孔質体20との間の空間S1を省略してもよい。すなわち、多孔質部50と多孔質体20とを、空間S1を介さずに直接接続してもよい。
【0027】
なお、図2では、液管14内の多孔質体30及び多孔質部50と蒸発器11内の多孔質体20の平面形状を示すため、後述する複数の金属層61~66のうち最外層となる金属層(例えば、図3に示す金属層61)の図示が省略されている。
【0028】
図3は、図2の3A-3A線に沿う液管14の横断面を示している。この断面は、液管14において作動流体Cの流れる方向(図2で矢印にて示す方向)と直交する面である。
図3に示すように、液管14は、例えば、6層の金属層61~66を積層した構造を有している。換言すると、液管14は、一対の最外金属層となる金属層61,66の間に、中間金属層となる金属層62~65を積層した構造を有している。各金属層61~66は、例えば、熱伝導性に優れた銅(Cu)層であって、固相接合(例えば、拡散接合、圧接、摩擦圧接や超音波接合)等により互いに直接接合されている。なお、図3では、各金属層61~66を判り易くするため、実線にて区別している。例えば、金属層61~66を拡散接合により一体化した場合、各金属層61~66の界面は消失していることがあり、境界は明確ではないことがある。ここで、固相接合とは、接合対象物同士を溶融させることなく固相(固体)状態のまま加熱して軟化させ、更に加圧して塑性変形を与えて接合する方法である。
【0029】
なお、金属層61~66は、銅層に限定されず、ステンレス層やアルミニウム層、マグネシウム合金層等から形成してもよい。また、積層した金属層61~66のうちの一部の金属層について、他の金属層と異なる材料が用いられてもよい。金属層61~66の各々の厚さは、例えば、50μm~200μm程度とすることができる。なお、金属層61~66のうちの一部の金属層を他の金属層と異なる厚さとしてもよく、また全ての金属層を互いに異なる厚さとしてもよい。
【0030】
図1に示す蒸発器11、蒸気管12及び凝縮器13は、図3に示す液管14と同様に、6層の金属層61~66を積層して形成される。すなわち、図1に示すループ型ヒートパイプ1は、6層の金属層61~66を積層して構成される。なお、金属層の積層数は、6層に限定されず、5層以下や7層以上とすることができる。
【0031】
図3に示すように、本実施形態の液管14は、積層された金属層61~66からなり、管壁14wと多孔質体30と蒸気移動経路40(区画壁41,42、流路43及び多孔質部50)とを有している。なお、本実施形態において、金属層61~66のうち最外層となる金属層61,66には、孔や溝は形成されていない。これら金属層61,66は、液管14の壁部(天井部や底部)として機能する。
【0032】
金属層62は、金属層61~66の積層方向と直交する幅方向(図3の左右方向)の両端に設けられた一対の壁部62wと、一対の壁部62wの間に設けられた壁部62tとを有している。金属層62は、一方(ここでは、図中右側)の壁部62wと壁部62tとの間に設けられた多孔質体62sと、他方(ここでは、図中左側)の壁部62wと壁部62tとの間に設けられた多孔質部62eとを有している。
【0033】
金属層63は、幅方向の両端に設けられた一対の壁部63wと、一対の壁部63wの間に設けられた壁部63tとを有している。金属層63は、一方(ここでは、図中右側)の壁部63wと壁部63tとの間に設けられた多孔質体63sと、他方(ここでは、図中左側)の壁部63wと壁部63tとの間に形成され、金属層63を厚さ方向に貫通して形成された貫通孔63Xとを有している。
【0034】
金属層64は、幅方向の両端に設けられた一対の壁部64wと、一対の壁部64wの間に設けられた壁部64tとを有している。金属層64は、一方(ここでは、図中右側)の壁部64wと壁部64tとの間に設けられた多孔質体64sと、他方(ここでは、図中左側)の壁部64wと壁部64tとの間に形成され、金属層64を厚さ方向に貫通して形成された貫通孔64Xとを有している。
【0035】
金属層65は、幅方向の両端に設けられた一対の壁部65wと、一対の壁部65wの間に設けられた壁部65tとを有している。金属層65は、一方(ここでは、図中右側)の壁部65wと壁部65tとの間に設けられた多孔質体65sと、他方(ここでは、図中左側)の壁部65wと壁部65tとの間に設けられた多孔質部65eとを有している。
【0036】
次に、各管壁14wの具体的な構造について説明する。
各管壁14wは、金属層61~66のうちの中間の金属層62~65がそれぞれ有する壁部62w~65wにより構成されている。各管壁14wは、複数の壁部62w~65wが順に積層されて構成されている。本実施形態の壁部62w~65wには、孔や溝は形成されていない。
【0037】
次に、多孔質体30の具体的な構造について説明する。
多孔質体30は、金属層61~66のうちの中間の金属層62~65がそれぞれ有する多孔質体62s~65sにより構成されている。多孔質体30は、複数の多孔質体62s~65sが順に積層されて構成されている。
【0038】
多孔質体62sは、金属層62の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔62uと、金属層62の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔62dとを有している。有底孔62u,62dの内壁は、底面側(金属層62の厚さ方向の中央部側)から開口側(金属層62の上下面側)に向かうに連れて拡がるテーパ形状とすることができる。なお、有底孔62u,62dの内壁は、例えば、底面に対して垂直に延びるように形成してもよい。また、有底孔62u,62dの内壁面を断面視形状が半円形や半楕円形状となる凹形状としてもよい(例えば、図8等参照)。ここで、本明細書において、「半円形」とは、真円を二等分した半円のみでなく、例えば、半円よりも円弧が長いものや短いものも含む。また、本明細書において、「半楕円形」とは、楕円を二等分した半楕円のみでなく、例えば、半楕円よりも円弧が長いものや短いものも含む。また、有底孔62u,62dを、内壁が底面にかけて円弧状に連続する形状としてよい。
【0039】
図4に示すように、有底孔62u,62dは、例えば、それぞれ平面視円形状に形成されている。有底孔62u,62dの直径は、例えば、100μm~400μm程度とすることができる。なお、有底孔62u,62dの平面形状を、楕円形や多角形等の任意の形状とすることができる。有底孔62uと有底孔62dとは、平面視で部分的に重複している。図3及び図4に示すように、有底孔62uと有底孔62dとが平面視で重複する部分において、有底孔62uと有底孔62dとは部分的に連通して細孔62zを形成している。図4は、有底孔62u,62dの配列状態と、有底孔62u,62dの部分的な重なりと細孔62zを示す説明図である。このような有底孔62u,62dと細孔62zを有する多孔質体62sは、多孔質体30の一部を構成する。
【0040】
図3に示すように、多孔質体63sは、金属層63の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔63uと、金属層63の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔63dとを有している。有底孔63u,63dは、金属層62の有底孔62u,62dと同様の形状とすることができる。有底孔63uと有底孔63dとは、平面視で部分的に重複している。有底孔63uと有底孔63dとが平面視で重複する部分において、有底孔63uと有底孔63dとは部分的に連通して細孔63zを形成している。このような有底孔63u,63dと細孔63zを有する多孔質体63sは、多孔質体30の一部を構成する。
【0041】
金属層62の有底孔62dと金属層63の有底孔63uとは、例えば、平面視で重なる位置に形成されている。このため、有底孔62dと有底孔63uとの界面には、細孔が形成されていない。
【0042】
多孔質体64sは、金属層64の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔64uと、金属層64の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔64dとを有している。有底孔64u,64dは、金属層62の有底孔62u,62dと同様の形状とすることができる。有底孔64uと有底孔64dとは、平面視で部分的に重複している。有底孔64uと有底孔64dとが平面視で重複する部分において、有底孔64uと有底孔64dとは部分的に連通して細孔64zを形成している。このような有底孔64u,64dと細孔64zを有する多孔質体64sは、多孔質体30の一部を構成する。
【0043】
金属層63の有底孔63dと金属層64の有底孔64uとは、例えば、平面視で重なる位置に形成されている。このため、有底孔63dと有底孔64uとの界面には、細孔が形成されていない。
【0044】
多孔質体65sは、金属層65の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔65uと、金属層65の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔65dとを有している。有底孔65u,65dは、金属層62の有底孔62u,62dと同様の形状とすることができる。有底孔65uと有底孔65dとは、平面視で部分的に重複している。有底孔65uと有底孔65dとが平面視で重複する部分において、有底孔65uと有底孔65dとは部分的に連通して細孔65zを形成している。このような有底孔65u,65dと細孔65zを有する多孔質体65sは、多孔質体30の一部を構成する。
【0045】
金属層64の有底孔64dと金属層65の有底孔65uとは、例えば、平面視で重なる位置に形成されている。このため、有底孔64dと有底孔65uとの界面には、細孔が形成されていない。
【0046】
各金属層62~65に形成された細孔62z,63z,64z,65z同士は互いに連通している。そして、互いに連通する細孔62z,63z,64z,65zは、多孔質体30内に三次元的に広がっている。作動流体Cは、毛細管力により、互いに連通する細孔62z~65z内を三次元的に広がる。このように、細孔62z~65zは、液相の作動流体Cが流れる流路14rとして機能する。
【0047】
次に、蒸気移動経路40(区画壁41,42、流路43及び多孔質体50)の具体的構造について説明する。
区画壁41は、金属層61~66のうちの中間の金属層62~65がそれぞれ有する壁部62t~65tにより構成されている。区画壁41は、複数の壁部62t~65tが順に積層されて構成されている。図示は省略するが、区画壁42は、区画壁41と同様に、金属層61~66のうちの中間の金属層62~65がそれぞれ有する壁部62t~65tにより構成されている。本実施形態の壁部62t~65tには、孔や溝は形成されていない。
【0048】
流路43は、積層された金属層61~66のうちの中間の金属層63,64をそれぞれ厚さ方向に貫通する貫通孔63X,64Xにより構成されている。金属層63と金属層64とは、それぞれの貫通孔63X,64Xが互いに重なるように積層されている。
【0049】
金属層63の上面に金属層62が積層され、金属層64の下面に金属層65が積層されている。これら金属層62~65と、金属層63,64の貫通孔63X,64Xとにより、流路43が区画されている。流路43は、区画壁41,42の一部を構成する壁部63t,64tと、管壁14wの一部を構成する壁部63w,64wと、金属層62,65とにより囲まれている。換言すると、壁部62t,63t,64t,65tと、壁部62w,63w,64w,65wと、金属層62,65とは、流路43を囲む壁部として機能する。
【0050】
多孔質部50は、金属層62,65がそれぞれ有する多孔質部62e,65eにより構成されている。多孔質部62eは、流路43の直上に設けられている。多孔質部65eは、流路43の直下に設けられている。
【0051】
多孔質部62eは、流路43の長さ方向に沿って延びている。多孔質部62eは、流路43に接して形成されている。多孔質部62eは、流路43を囲む壁部として機能する金属層62に形成されている。多孔質部62eは、金属層62の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔62fと、金属層62の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔62gとを有している。有底孔62f,62gは、例えば、多孔質体62sの有底孔62u,62dと同様に、それぞれ平面視円形状に形成されている。有底孔62fと有底孔62gとは、平面視で部分的に重複している。有底孔62fと有底孔62gとが平面視で重複する部分において、有底孔62fと有底孔62gとは部分的に連通して細孔62hを形成している。有底孔62gは、流路43(具体的には、金属層63の貫通孔63X)と連通している。これら有底孔62f,62g及び細孔62hは、多孔質体62sの有底孔62u,62d及び細孔62zと同様の形状に形成することができる。
【0052】
金属層65は、流路43の直下に多孔質部65eを有している。多孔質部65eは、流路43の長さ方向に沿って延びている。多孔質部65eは、流路43に接して形成されている。多孔質部65eは、流路43を囲む壁部として機能する金属層65に形成されている。多孔質部65eは、金属層65の上面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔65fと、金属層65の下面から厚さ方向の略中央部にかけて窪む有底孔65gとを有している。有底孔65f,65gは、多孔質体62sの有底孔62u,62dと同様に、それぞれ平面視円形状に形成されている。有底孔65fと有底孔65gとは、平面視で部分的に重複している。有底孔65fと有底孔65gとが平面視で重複する部分において、有底孔65fと有底孔65gとは部分的に連通して細孔65hを形成している。有底孔65fは、流路43(具体的には、金属層64の貫通孔64X)と連通している。これら有底孔65f,65g及び細孔65hは、多孔質体62sの有底孔62u,62d及び細孔62zと同様の形状に形成することができる。
【0053】
以上説明したように、蒸気移動経路40は、流路43を有している。流路43は、2つの多孔質部62e,65eと、区画壁41,42の一部(壁部63t,64t)と、管壁14wの一部(壁部63w,64w)とにより囲まれている。この流路43には、蒸発器11で気化された作動流体、つまり蒸気Cvが流れる。そして、図2に示すように、蒸気Cvは、流路43の長さ方向に沿って、蒸発器11から区画壁42に向かって流路43内を移動する。
【0054】
液管14には、図示は省略するが、作動流体C(図2参照)を注入するための注入口が設けられている。但し、注入口は、封止部材により塞がれており、ループ型ヒートパイプ1内は気密に保たれる。また、図示は省略するが、蒸発器11に設けられた多孔質体20は、図3及び図4に示した多孔質体30と同様の構造を有している。
【0055】
(作用)
次に、ループ型ヒートパイプ1の作用について説明する。
ループ型ヒートパイプ1は、作動流体Cを気化させる蒸発器11と、蒸気Cvを液化する凝縮器13と、気化した作動流体(つまり、蒸気Cv)を凝縮器13に流入させる蒸気管12と、液化した作動流体Cを蒸発器11に流入させる液管14とを有している。
【0056】
液管14には多孔質体30が設けられている。この多孔質体30は、凝縮器13から液管14の長さ方向に沿って蒸発器11の近傍まで延びている。多孔質体30は、その多孔質体30に生じる毛細管力によって、凝縮器13で液化した液相の作動流体Cを蒸発器11へと導く。
【0057】
蒸発器11では、多孔質体20のうち液管14寄りの多孔質体20(連結部21等)に液相の作動流体Cが浸透する。そして、蒸発器11では、図示しない発熱部品にて発生した熱により、液相の作動流体Cが気化し、蒸気Cvが生成される。生成された蒸気Cvは、蒸気管12の流路12rに流れるとともに、液管14に設けられた蒸気移動経路40の流路43に流れる。このとき、流路43の横断面積が、蒸気管12の流路12rの横断面積よりも小さく形成されている。このため、蒸発器11で生成された蒸気Cvの大部分が蒸気管12の流路12rに流れ、蒸発器11で生成された蒸気Cvの一部のみが蒸気移動経路40の流路43に流れる。
【0058】
流路43内では、蒸発器11で生成された蒸気Cvが蒸発器11から流路43の長さ方向に沿って区画壁42に向かって移動する。このように蒸気Cvが流路43内を移動することにより、その蒸気Cvの蒸発潜熱(気化潜熱)によって、液管14の多孔質体30内に浸透した作動流体Cを温めることができる。これにより、例えばループ型ヒートパイプ1を有する電子機器2を、寒冷地や冬季などにおいて周囲温度が作動流体Cの凝固点よりも低い温度となる環境で使用する場合であっても、液管14内において液相の作動流体Cが固相に相変化することを好適に抑制できる。
【0059】
ここで、流路43に蒸気Cvが流れると、その流路43内において蒸気Cvが液化する場合がある。この液化した作動流体Cが流路43内に滞留すると、その作動流体Cが固相に相変化するおそれがある。これに対し、本実施形態の蒸気移動経路40には、多孔質部50が設けられている。この多孔質部50は、蒸気移動経路40の長さ方向に沿って、蒸気移動経路40の長さ方向の端部である区画壁42から蒸発器11の近傍まで延びている。多孔質部50は、その多孔質部50に生じる毛細管力によって、流路43内で液化した液相の作動流体Cを蒸発器11へと導く。これにより、流路43内において蒸気Cvが液化した場合であっても、その液化した作動流体Cを蒸発器11に向かって還流させることができ、液化した作動流体Cが流路43内に滞留することを抑制することができる。この結果、流路43内において作動流体Cが固相に相変化することを好適に抑制することができる。
【0060】
次に、ループ型ヒートパイプ1の製造方法について説明する。
まず、図5(a)に示す工程では、平板状の金属シート80を準備する。金属シート80は、最終的に金属層62(図3参照)となる部材である。金属シート80は、例えば、銅、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム合金等から構成されている。金属シート80の厚さは、例えば、50μm~200μm程度とすることができる。
【0061】
次に、図5(b)に示す工程では、金属シート80の上面にレジスト層81を形成し、金属シート80の下面にレジスト層82を形成する。レジスト層81,82としては、例えば、感光性のドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0062】
続いて、図5(c)に示す工程では、レジスト層81を露光及び現像して、金属シート80の上面を選択的に露出する開口部81X,81Yを形成する。同様に、レジスト層82を露光及び現像して、金属シート80の下面を選択的に露出する開口部82X,82Yを形成する。開口部81X,82Xは、図3に示す有底孔62u,62dの形状及び位置にそれぞれ対応するように形成される。開口部81Y,82Yは、図3に示す有底孔62f,62gの形状及び位置にそれぞれ対応するように形成される。なお、金属シート80のうち壁部62w,62t(図3参照)に対応する部分は、レジスト層81,82に被覆されている。
【0063】
次いで、図5(d)に示す工程では、開口部81X,81Y内に露出する金属シート80を、金属シート80の上面側からエッチングするとともに、開口部82X,82Y内に露出する金属シート80を、金属シート80の下面側からエッチングする。開口部81Xにより、金属シート80の上面側に有底孔62uが形成され、開口部82Xにより、金属シート80の下面側に有底孔62dが形成される。有底孔62uと有底孔62dは、平面視において部分的に重なるように形成され、その重なる部分において有底孔62uと有底孔62dとが互いに連通して細孔62zが形成される。また、開口部81Yにより、金属シート80の上面側に有底孔62fが形成され、開口部82Yにより、金属シート80の下面側に有底孔62gが形成される。有底孔62fと有底孔62gは、平面視において部分的に重なるように形成され、その重なる部分において有底孔62fと有底孔62gとが互いに連通して細孔62hが形成される。金属シート80のエッチングには、例えば、塩化第二鉄溶液を用いることができる。
【0064】
次に、レジスト層81,82を剥離液により剥離する。これにより、図5(e)に示すように、一対の壁部62wと壁部62tと多孔質体62sと多孔質部62eとを有する金属層62を形成することができる。
【0065】
続いて、図6(a)に示す工程では、孔や溝が形成されていないべた状の金属層61及び金属層66を準備する。また、図5(a)~図5(e)に示した工程と同様の方法により、金属層63,64,65を形成する。なお、金属層63,64,65に形成される有底孔、細孔及び貫通孔の形状及び位置は、例えば、図3に示した通りである。
【0066】
次いで、図6(b)に示す工程では、金属層61の下方に、金属層62,63,64,65,66をこの順番で積層し、加圧及び加熱により固相接合を行う。例えば、所定温度(例えば、900℃程度)に加熱しながら積層した金属層61,62,63,64,65,66をプレスすることにより、固相接合にて金属層61,62,63,64,65,66を接合する。これにより、隣接する金属層61,62,63,64,65,66同士が直接接合され、図1に示した蒸発器11、凝縮器13、蒸気管12及び液管14を有するループ型ヒートパイプ1が形成される。このとき、液管14には多孔質体30及び蒸気移動経路40が形成され、蒸発器11には多孔質体20が形成される。
【0067】
その後、例えば、真空ポンプ等を用いて液管14内を排気した後、図示しない注入口から液管14内に作動流体Cを注入し、その後注入口を封止する。
次に、本実施形態の効果を説明する。
【0068】
(1)液管14内に設けられた多孔質体30と、液管14内の一部に多孔質体30と区画されて設けられ、蒸発器11から液管14の長さ方向に沿って延び、蒸発器11で気化された作動流体(つまり、蒸気Cv)が移動する蒸気移動経路40とを設けた。蒸気移動経路40内を蒸気Cvが移動することにより、その蒸気Cvの蒸発潜熱(気化潜熱)によって、液管14の多孔質体30内に浸透した作動流体Cを温めることができる。これにより、例えばループ型ヒートパイプ1を有する電子機器2を、寒冷地や冬季などにおいて周囲温度が作動流体Cの凝固点よりも低い温度となる環境で使用する場合であっても、液管14内において液相の作動流体Cが固相に相変化することを好適に抑制できる。このため、ループ型ヒートパイプ1において、作動流体Cの相変化を利用した熱輸送を好適に行うことができる。この結果、電子機器2を寒冷地などで使用する場合であっても、発熱部品を好適に冷却することができる。
【0069】
(2)蒸気移動経路40に多孔質部50を設けた。この多孔質部50は、蒸気移動経路40の長さ方向に沿って、蒸気移動経路40の長さ方向の端部である区画壁42から蒸発器11の近傍まで延びている。多孔質部50は、その多孔質部50に生じる毛細管力によって、流路43内で液化した液相の作動流体Cを蒸発器11へと導く。これにより、流路43内において蒸気Cvが液化した場合であっても、その液化した作動流体Cを蒸発器11に向かって還流させることができ、液化した作動流体Cが流路43内に滞留することを抑制することができる。この結果、流路43内において作動流体Cが固相に相変化することを好適に抑制することができる。
【0070】
(3)多孔質部50を、流路43を囲む壁部(ここでは、区画壁41,42、管壁14w及び金属層62,65)のうち流路43と多孔質体30とを区画する区画壁41,42以外の壁部(ここでは、金属層62,65)に形成した。これにより、蒸気Cvの移動する流路43と多孔質体30との間に、多孔質部50が介在されない。このため、流路43を移動する蒸気Cvの蒸発潜熱によって、多孔質体30に浸透した作動流体Cを好適に温めることができる。また、区画壁41,42によって、蒸気移動経路40の流路43と多孔質体30の有する流路14rとを完全に分離させることで、流路43を移動する蒸気Cvが多孔質体30に移動しないようにできる。このため、流路14rにおける作動流体Cの流動を好適に維持することができる。
【0071】
(4)流路43を囲む壁部のうち区画壁41を、蒸発器11の内部空間に突出するように形成した。この構成によれば、液管14のうち多孔質体30の形成された領域と、蒸気移動経路40の流路43とを好適に仕切ることができる。これにより、例えば、多孔質体30により蒸発器11に導かれた液相の作動流体Cが液相のまま蒸気移動経路40に流れることを好適に抑制できる。
【0072】
(5)流路43を囲む壁部のうち区画壁41を、蒸発器11内に設けられた多孔質体20の連結部21に食い込むように形成した。この構成によれば、流路43と向かい合う多孔質体20と、多孔質体30と向かい合う多孔質体20とが区画壁41によって仕切られる。これにより、多孔質体30によって蒸発器11に導かれた液相の作動流体Cが、連結部21全体に浸透する前に気化されて流路43に流れることを好適に抑制できる。この結果、蒸発器11で生成された蒸気Cvが流路43に主体的に流れることを好適に抑制できる。
【0073】
(6)流路43を囲む壁部は、液管14の管壁14wと区画壁41,42とを含む。すなわち、液管14の管壁14wを、流路43を囲む壁部として利用した。これにより、管壁14wを利用せずに流路43を囲む壁部を形成する場合に比べて、凝縮器13で液化された作動流体Cが流れる空間(つまり、多孔質体30が形成される空間)を広く確保することができる。
【0074】
(7)蒸気移動経路40の流路43の横断面積を、多孔質体30が有する流路14rの横断面積よりも大きく形成し、蒸気管12の流路12rの横断面積よりも小さく形成した。これにより、蒸発器11で生成された蒸気Cvの大部分を蒸気管12の流路12rに流しつつも、蒸発器11で生成された蒸気Cvの一部を蒸気移動経路40の流路43に流すことができる。
【0075】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0076】
以下に、液管14の各変更例を説明する。なお、各変更例において上記実施形態と同じ構成部材、各変更例の間において同じ構成部材については同じ符号を付してその説明の一部又は全てを省略する場合がある。なお、液管以外の部分については上記実施形態(図1参照)と同じであるため、図1等を参照し、図面及び説明を省略する。
【0077】
・上記実施形態の蒸気移動経路40では、流路43を囲む壁部のうち金属層61~66の積層方向に対向する壁部、つまり金属層62,65に多孔質部50(多孔質部62e,65e)を設けた。これに限らず、例えば、金属層62,65のいずれか一方のみに多孔質部50を設けるようにしてもよい。また、流路43を囲む壁部のうち管壁14w(壁部62w~65w)や区画壁41,42(壁部62t~65t)に多孔質部50を設けるようにしてもよい。この場合には、例えば、管壁14wを構成する壁部62w~65wの一部に、それら壁部62w~65wと連続して一体に多孔質部50を設けるようにしてもよい。また、区画壁41,42を構成する壁部62t~65tの一部に、それら壁部62t~65tと連続して一体に多孔質部50を設けるようにしてもよい。これらの場合であっても、多孔質部50は、流路43に接して形成される。
【0078】
・上記実施形態の蒸気移動経路40では、流路43を囲む壁部に多孔質部50を設けるようにした。これに限らず、流路43を囲む壁部に対して、多孔質部50の代わりに、溝部を形成するようにしてもよい。溝部の形状は、その溝部に生じる毛細管力によって、流路43において液化した作動流体Cを蒸発器11まで誘導することのできる形状であれば、特に限定されない。
【0079】
・例えば図7に示すように、蒸気移動経路40において、液管14の管壁14wに溝部91,92を形成するようにしてもよい。管壁14wの側面のうち流路43と接する側面には、蒸気移動経路40の長さ方向に延びる線状の溝部91,92が形成されている。溝部91,92は、例えば、管壁14wを構成する壁部62w~65wの幅を変えることにより形成されている。図7に示す変更例では、壁部62w~65wのうち、壁部63w,65wの幅を壁部62w,64wの幅よりも小さくすることにより、溝部91,92を形成している。溝部91は、壁部62wの側面と壁部63wの側面と壁部64wの側面とによって形成される段差により構成されている。溝部92は、壁部64wの側面と壁部65wの側面とによって形成される段差により構成されている。溝部91,92は、流路43と連通している。溝部91,92は、それら溝部91,92に生じる毛細管力によって、流路43において液化した作動流体Cを蒸発器11(図2参照)まで誘導することができる。
【0080】
なお、本変更例では、図3に示した金属層62,65の多孔質部62e,65e(多孔質部50)の形成が省略されている。この場合の流路43は、管壁14wを構成する壁部62w~65wと、区画壁41,42を構成する壁部62t~65tと、金属層61,66とによって囲まれている。本変更例の流路43は、積層された金属層61~66のうちの中間の金属層62~65をそれぞれ厚さ方向に貫通する貫通孔62X,63X,64X,65Xにより構成されている。金属層62~65は、それぞれの貫通孔62X,63X,64X,65Xが互いに重なるように積層されている。
【0081】
・例えば図8に示す液管14では、管壁14wの側面に形成される溝部が図7と相違している。管壁14wの側面のうち流路43と接する側面には、蒸気移動経路40の長さ方向に延びる線状の溝部62k~65kを有している。溝部62k~65kは、例えば、断面円弧状に形成されている。溝部62k~65kは、例えば、管壁14wを構成する壁部62w~65wの上面から厚さ方向の中央部にかけて窪むように形成されている。例えば、溝部62k~65kは、壁部62w~65wを上面からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部62k~65kは、流路43と連通している。溝部62k~65kは、それら溝部62k~65kに生じる毛細管力によって、流路43において液化した作動流体Cを蒸発器11まで誘導することができる。
【0082】
・例えば図9に示す液管14では、管壁14wの側面に形成される溝部が図8と相違するとともに、金属層61,66に溝部が形成されている。管壁14wの側面のうち流路43と接する側面には、蒸気移動経路40の長さ方向に延びる線状の溝部61k2,62k1,62k2,63k1,63k2,64k1,64k2,65k1,65k2,66k1を有している。
【0083】
溝部62k1は、例えば、管壁14wを構成する壁部62wを上面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部62k2は、例えば、管壁14wを構成する壁部62wを下面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部63k1は、例えば、管壁14wを構成する壁部63wを上面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部63k2は、例えば、管壁14wを構成する壁部63wを下面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部64k1は、例えば、管壁14wを構成する壁部64wを上面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部64k2は、例えば、管壁14wを構成する壁部64wを下面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部65k1は、例えば、管壁14wを構成する壁部65wを上面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部65k2は、例えば、管壁14wを構成する壁部65wを下面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部61k2は、例えば、最外層の金属層61を下面側からハーフエッチングすることにより形成されている。溝部66k1は、例えば、最外層の金属層66を上面側からハーフエッチングすることにより形成されている。これら溝部61k2,62k1,62k2,63k1,63k2,64k1,64k2,65k1,65k2,66k1は、例えば、断面円弧状に形成されている。溝部61k2,62k1,62k2,63k1,63k2,64k1,64k2,65k1,65k2,66k1は、流路43と連通している。溝部61k2,62k1,62k2,63k1,63k2,64k1,64k2,65k1,65k2,66k1は、それらに生じる毛細管力によって、流路43において液化した作動流体Cを蒸発器11まで誘導することができる。
【0084】
図7図9に示した変更例では、管壁14wの側面に溝部を形成するようにしたが、区画壁41,42の側面に溝部を形成するようにしてもよい。また、金属層61の下面や金属層66の上面に溝部を形成するようにしてもよい。
【0085】
図7図9に示した変更例において、図3に示した金属層62,65の多孔質部62e,65e(多孔質部50)を形成するようにしてもよい。
・上記実施形態の液管14のうち蒸気移動経路40以外の部分における構造は、凝縮器13で液化された作動流体Cを蒸発器11まで導くことのできる構造であれば、特に限定されない。例えば、液管14のうち蒸気移動経路40以外の部分に、多孔質体30の形成されていない空間を形成するようにしてもよい。この空間は、凝縮器13で液化された作動流体Cが流れる流路として機能する。
【0086】
例えば図10に示すように、蒸気移動経路40と隣接して蒸気移動経路40と多孔質体30との間に、多孔質体30の形成されていない空間、つまり凝縮器13で液化された作動流体Cが流れる流路14tを形成するようにしてもよい。流路14tは、例えば、蒸気移動経路40の区画壁41に接するように形成されている。流路14tは、例えば、多孔質体30に接するように形成されている。流路14tは、例えば、蒸気移動経路40の長さ方向に沿って延びるように形成されている。
【0087】
図11に示すように、流路14tは、積層された金属層61~66のうちの中間の金属層62~65をそれぞれ厚さ方向に貫通する貫通孔62Y,63Y,64Y,65Yにより構成されている。金属層62~65は、それぞれの貫通孔62Y,63Y,64Y,65Yが互いに重なるように積層されている。貫通孔62Yは、例えば、金属層62の多孔質体62sが有する有底孔62u,62dの少なくとも一方(図11では有底孔62d)と連通している。貫通孔63Yは、例えば、金属層63の多孔質体63sが有する有底孔63u,63dの少なくとも一方(図11では有底孔63u)と連通している。貫通孔64Yは、例えば、金属層64の多孔質体64sが有する有底孔64u,64dの少なくとも一方(図11では図示略)と連通している。貫通孔65Yは、例えば、金属層65の多孔質体65sが有する有底孔65u,65dの少なくとも一方(図11では有底孔65d)と連通している。
【0088】
以上説明した流路14tを設けることにより、流路14tを設けない場合に比べて、液管14内において凝縮器13で液化された作動流体Cを貯蔵できる量を増大させることができる。また、流路14tを蒸気移動経路40に隣接して設けたため、蒸気移動経路40の流路43を移動する蒸気Cvによって温められる作動流体Cの量を増大させることができる。
【0089】
図10に示した変更例では、流路14tを、蒸発器11から液管14の長さ方向の途中まで延びるように形成したが、これに限定されない。例えば、流路14tを、液管14の長さ方向の全長にわたって延びるように形成してもよい。
【0090】
・上記実施形態に示す有底孔の形状を適宜変更してもよい。
・上記実施形態において、上面側の有底孔の深さと、下面側の有底孔の深さとが異なっていてもよい。
【0091】
・上記実施形態の多孔質体20,30及び多孔質部50では、上面側から窪む第1有底孔と、下面側から窪む第2有底孔と、それら第1有底孔と第2有底孔とが部分的に連通して形成された細孔とを有する金属層を含む構造としたが、これに限定されない。例えば、厚さ方向に貫通する第1貫通孔を有する第1金属層と、厚さ方向に貫通する第2貫通孔を有する第2金属層とを有し、第1貫通孔と第2貫通孔とを部分的に重なるように第1金属層と第2金属層とを積層することにより、多孔質体20,30及び多孔質部50を構成してもよい。この場合には、第1貫通孔と第2貫通孔とが部分的に重なる部分において互いに連通する細孔が形成される。
【0092】
・上記実施形態における蒸気移動経路40の形成位置は特に限定されない。すなわち、蒸気移動経路40は、蒸発器11から液管14の長さ方向に延びるように形成されていれば、その形成位置は特に限定されない。
【0093】
例えば図12に示すように、蒸気移動経路40を、一対の管壁14wのうち、液管14の屈曲部の曲げ外側を構成する管壁14wの近傍に設けるようにしてもよい。なお、液管14の屈曲部の曲げ外側を構成する管壁14wに作動流体Cの注入口が設けられる場合には、その注入口に重ならないように蒸気移動経路40が形成される。
【0094】
・また、蒸気移動経路40を、液管14の幅方向の中央部に設けるようにしてもよい。
・上記実施形態の液管14に、複数の蒸気移動経路40を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 ループ型ヒートパイプ
2 電子機器
11 蒸発器
12 蒸気管
13 凝縮器
14 液管
14r 流路
14t 流路
14w 管壁
20 多孔質体
40 蒸気移動経路
41,42 区画壁
43 流路
61~66 金属層
50,62e,65e 多孔質部
62f,65f 有底孔(第1有底孔)
62g,65g 有底孔(第2有底孔)
62h,65h 細孔
30,62s-65s 多孔質体
62u~65u 有底孔
62d~65d 有底孔
62z~65z 細孔
62w~65w 壁部
62t~65t 壁部
62k-65k 溝部
61k2,62k1,62k2,63k1,63k2 溝部
64k1,64k2,65k1,65k2,66k1 溝部
91,92 溝部
C 作動流体
Cv 蒸気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12