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  • 特許-水中微粒子の除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】水中微粒子の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20230117BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20230117BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20230117BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D71/82 500
B01D61/14 500
B01D65/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018151720
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020025922
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋一
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】金田 真幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 光明
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136650(WO,A1)
【文献】特開2000-317413(JP,A)
【文献】特開2004-122020(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123351(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/013981(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/145419(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1408653(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
C02F 9/00
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有する精密濾過膜もしくは限外濾過膜により除去する方法であって、
該水中の微粒子の除去処理に先立ち、該精密濾過膜もしくは限外濾過膜をpH9以上のアルカリ剤で洗浄することを特徴とする水中微粒子の除去方法。
【請求項2】
前記アルカリ剤が、pH11以上のアルカリ剤であることを特徴とする請求項1に記載の水中微粒子の除去方法。
【請求項3】
前記アルカリ剤が、アルカリ金属を含まないアルカリ剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中微粒子の除去方法。
【請求項4】
前記アルカリ剤が、水酸化テトラメチルアンモニウムを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水中微粒子の除去方法。
【請求項5】
前記アルカリ剤による洗浄後に、前記精密濾過膜もしくは限外濾過膜をpH3~6の炭酸水で洗浄することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水中微粒子の除去方法。
【請求項6】
超純水製造プロセスにおいて、水中の微粒子を除去する方法である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水中微粒子の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中微粒子の除去方法に係り、詳しくは、超純水製造プロセス等において、水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有する精密濾過膜もしくは限外濾過膜により除去するに当たり、精密濾過膜もしくは限外濾過膜に導入された官能基による影響を抑え、電子部品の製造工程や洗浄工程で用いる超純水として好適な高性状の微粒子除去処理水を製造する水中微粒子の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等において使用される超純水の製造・供給システムは、一般に図1に示すような構成とされており、サブシステム3の末端に微粒子除去用の限外濾過膜(UF膜)装置17を設置することで、ナノメートルサイズの微粒子の除去を行っている。また、半導体・電子材料洗浄用の洗浄機直前に、ユースポイントポリッシャーとして、ミニサブシステムを設置し、最後段に微粒子除去用のUF膜装置を設置したり、ユースポイントにおける洗浄機内のノズル直前に微粒子除去用のUF膜を設置し、より小さいサイズの微粒子を高度に除去することも検討されている。
【0003】
近年、半導体製造プロセスの発展により、水中の微粒子管理が益々厳しくなってきており、例えば、国際半導体技術ロードマップ(ITRS:International Technology Roadmap for Semiconductors)では、2019年には、粒子径>11.9nmの保証値<1,000個/L(管理値<100個/L)とすることが求められている。
【0004】
従来、超純水製造装置において、水中の微粒子等の不純物を高度に除去して純度を高めるための技術として、次のような提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、超純水供給装置を構成する前処理装置、一次純水装置、二次純水装置(サブシステム)又は回収装置のいずれかに膜分離手段を設け、その後段にアミン溶出の低減処理を施した逆浸透膜を配置することが記載されている。逆浸透膜により微粒子を除去することも可能であるが、以下のことから、逆浸透膜を設けることは好ましくない。即ち、逆浸透膜を運転するためには昇圧しなければならず、透過水量も0.75MPaの圧力で1m/m/day程度と少ない。一方、UF膜を使用している現行システムでは、0.1MPaの圧力で7m/m/dayと50倍以上の水量があり、逆浸透膜でUF膜に匹敵する水量をまかなうためには膨大な膜面積が必要となる。また、昇圧ポンプを駆動することにより、新たな微粒子や金属類が発生するなどのリスクが生じる。
【0006】
特許文献2には、超純水ラインのUF膜の後段にアニオン官能基を有する機能性材料又は逆浸透膜を配置することが記載されているが、このアニオン官能基を有する機能性材料又は逆浸透膜は、アミン類の低減が目的であり、本発明で除去対象とする粒子径10nm以下の微粒子の除去には適さない。また、逆浸透膜を配置することは、上記特許文献1におけると同様に好ましくない。
【0007】
特許文献3にも、サブシステムにおいて、最終段のUF膜装置の前に逆浸透膜装置を設けることが記載されているが、上記特許文献1と同様の問題がある。
【0008】
特許文献4には、超純水製造ラインに使用する膜モジュールにプレフィルターを内蔵させて粒子を除去することが記載されているが、粒子径0.01mm以上の粒子の除去が目的であり、本発明で除去対象とする粒子径10nm以下の微粒子の除去を行うことはできない。
【0009】
特許文献5には、電気脱イオン装置の処理水を、イオン交換基で修飾していない濾過膜を有したUF膜濾過装置で濾過処理した後、イオン交換基で修飾したMF膜を有した膜濾過装置で処理することが記載されているが、イオン交換基としては、スルホン酸基やイミノジ酢酸基といったカチオン交換基が例示されているのみである。イオン交換基の定義には、アニオン交換基も含まれるがその種別や除去対象に関する記載はない。
【0010】
特許文献6には、サブシステムにおけるUF膜装置の後段にアニオン吸着膜装置を配置することが記載され、除去対象をシリカとした実験結果が報告されているが、アニオン交換基の種類や微粒子のサイズに関しては記載がない。イオン状シリカを除去する場合には強アニオン交換基が必要であることが一般的に知られている(ダイヤイオン1イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル、三菱化学株式会社、p15)ことから、特許文献6でも強アニオン交換基を有する膜が使用されていると考えられる。
【0011】
なお、各種の官能基で変性されたポリケトン膜については、特許文献7,8にコンデンサーや電池等のセパレーター用膜として記載され、特許文献8には、水処理用フィルター濾材としての用途も記載されているが、いずれも膜に導入された官能基の溶出についての記載はない。
【0012】
特許文献9には、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を含み、かつ、陰イオン交換容量が0.01~10ミリ当量/gであるポリケトン多孔膜が記載されており、このポリケトン多孔膜は、半導体・電子部品製造、バイオ医薬品分野、ケミカル分野、食品工業分野の製造プロセスにおいて、微粒子、ゲル、ウイルス等の不純物を効率的に除去することができることが記載されている。また、10nm微粒子や多孔膜の孔径未満のアニオン粒子の除去が可能であることを示唆する記載もある。
しかし、特許文献9には、このポリケトン多孔膜を超純水製造プロセスに適用することは記載されておらず、膜に導入された官能基の溶出に関する示唆もない。
【0013】
特許文献10には、超純水製造・供給システムにおけるユースポイント前のサブシステムや給水系路において、水中の粒子径50nm以下特に10nm以下の極微小の微粒子を高度に除去できる水中微粒子の除去装置として、弱カチオン性官能基を有する精密濾過(MF)膜もしくは限外濾過(UF)膜、具体的にはポリケトン膜に弱カチオン性官能基を導入したMF膜もしくはUF膜を有する膜濾過手段を有する水中微粒子の除去装置及びこの水中微粒子の除去装置を設けた超純水製造・供給システムが記載されている。
しかしながら、特許文献10には、膜に導入された3級アミノ基等の弱カチオン性官能基の溶出、及び溶出を抑制するためのコンディショニングについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第3906684号公報
【文献】特許第4508469号公報
【文献】特開平5-138167号公報
【文献】特許第3059238号公報
【文献】特開2004-283710号公報
【文献】特開平10-216721号公報
【文献】特開2009-286820号公報
【文献】特開2013-76024号公報
【文献】特開2014-173013号公報
【文献】特開2016-155052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の通り、従来、特許文献9,10に記載されるような官能基を導入した多孔膜を超純水製造プロセスに適用した場合において、膜に導入された官能基が得られる微粒子除去処理水に及ぼす影響についての認識はなく、このような微粒子除去膜のコンディショニング方法については検討されていない。
【0016】
しかし、本発明者らの検討により、カチオン性ないしは弱カチオン性の官能基を導入した多孔膜を用いて微粒子の除去処理を行った場合、膜に導入された官能基が水中に溶出して微粒子除去処理水に含まれるものとなり、例えば半導体ウェハの製造ないしは洗浄プロセスにこの微粒子除去処理水を用いると、溶出した官能基がウェハの表面荒れなどの問題を引き起こすことが見出された。
【0017】
本発明は、超純水製造プロセス等において、水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有するNF膜もしくはUF膜により除去するに当たり、MF膜もしくはUF膜に導入された官能基による影響を抑え、電子部品の製造工程や洗浄工程で用いる超純水として好適な高性状の微粒子除去処理水を製造する水中微粒子の除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、微粒子除去に用いる1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有するMF膜もしくはUF膜を、使用に先立ち、pH9以上のアルカリ剤で洗浄することにより、MF膜もしくはUF膜からの官能基の溶出を抑制し、溶出した官能基による影響を小さくすることができることを見出した。
【0019】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0020】
[1] 水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有する精密濾過膜もしくは限外濾過膜により除去する方法であって、該水中の微粒子の除去処理に先立ち、該精密濾過膜もしくは限外濾過膜をpH9以上のアルカリ剤で洗浄することを特徴とする水中微粒子の除去方法。
【0021】
[2] 前記アルカリ剤が、pH11以上のアルカリ剤であることを特徴とする[1]に記載の水中微粒子の除去方法。
【0022】
[3] 前記アルカリ剤が、アルカリ金属を含まないアルカリ剤であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の水中微粒子の除去方法。
【0023】
[4] 前記アルカリ剤が、水酸化テトラメチルアンモニウムを含むことを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の水中微粒子の除去方法。
【0024】
[5] 前記アルカリ剤による洗浄後に、前記精密濾過膜もしくは限外濾過膜をpH3~6の炭酸水で洗浄することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の水中微粒子の除去方法。
【0025】
[6] 超純水製造プロセスにおいて、水中の微粒子を除去する方法である[1]ないし[5]のいずれかに記載の水中微粒子の除去方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、超純水製造プロセス等において、水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有するMF膜もしくはUF膜により除去するに当たり、微粒子除去処理に先立ち、これらの膜をpH9以上のアルカリ剤で洗浄することで、導入された官能基の溶出を抑制し、官能基による影響を小さくすることができる。例えば、本発明により得られた微粒子除去処理水を用いて、Siウェハの洗浄等を行う場合、微粒子除去処理水の溶出成分に起因するウェハの表面荒れを抑制して、高品質の製品を得ることができる。
【0027】
また、本発明によるアルカリ剤による洗浄後は、炭酸水で洗浄することにより、アルカリ剤の残留を防止して残留アルカリ剤によるウェハの表面荒れ等の問題をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】超純水製造・供給システムの一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
本発明の水中微粒子の除去方法は、超純水製造プロセス等において、水中の微粒子を、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有するMF膜もしくはUF膜により除去するに当たり、微粒子除去処理に先立ち、この官能基を有するMF膜又はUF膜を、pH9以上のアルカリ剤で洗浄することを特徴とする。
【0031】
洗浄に用いるアルカリ剤はpH9以上である必要がある。洗浄に用いるアルカリ剤のpHが9未満では本発明の目的を達成し得ない。洗浄に用いるアルカリ剤はより良好な洗浄効果を得るためにpH10以上であることが好ましく、特にpH11~13であることが好ましい。
【0032】
アルカリ剤としては、無機アルカリ剤でも有機アルカリ剤でもよく、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化テトラアルキルアンモニウム(TAAH)等が挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。これらのアルカリ剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
アルカリ剤による官能基の溶出抑制効果の面では、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物が好ましいが、金属成分を含むアルカリ剤では、洗浄後にこれが膜面に残留した場合、残留金属成分による新たな影響が懸念される。これに対して、TMAH等のTAAHであれば、金属成分による影響がなく、金属成分を嫌う分野においては、このようなアルカリ剤を用いることが好ましい。
【0034】
アルカリ剤による洗浄方法は特に制限はないが、洗浄対象の膜をアルカリ剤の水溶液に浸漬する浸漬洗浄が好ましい。浸漬洗浄時間は、良好な洗浄効果を得る上では長い方が好ましく、通常2時間以上、例えば2~24時間程度とすることが好ましい。
【0035】
アルカリ剤による洗浄後の膜は、超純水によるリンスを行うことが好ましい。超純水によるリンスはオーバーフローで実施することが好ましく、リンス時間は30分以上、例えば30分~24時間程度とすることが好ましい。
【0036】
本発明では、アルカリ剤による洗浄と超純水によるリンスのみでも十分に官能基の溶出抑制効果を得ることができるが、前述の通り、洗浄に用いたアルカリ剤の膜面残留を防止するために、更に炭酸水で洗浄することが好ましい。この炭酸水による洗浄に用いる炭酸水のpHは3~6、特にpH4~6、とりわけpH4~5であることが好ましい。炭酸水のpHが高過ぎると炭酸水による残留アルカリ剤の除去効果を十分に得ることができない。
【0037】
炭酸水による洗浄は、超純水によるリンスと同様にオーバーフローで行うことが好ましい。炭酸水による洗浄時間は、洗浄効果の面では長い方が好ましく、1時間以上、特に1~24時間程度とすることが好ましい。
【0038】
上記の炭酸水による洗浄後は、洗浄した膜をそのまま微粒子の除去処理に使用することができるが、必要に応じて更に超純水でリンスしてもよい。
【0039】
本発明では、このように、使用前に予めアルカリ剤、或いはアルカリ剤と炭酸水により洗浄してコンディショニングした微粒子除去用膜を用いて、水中の微粒子の除去を行う。
【0040】
本発明で用いる微粒子除去用膜とは、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上の官能基を有するMF膜もしくはUF膜であり、このような微粒子除去用膜としては、前述の特許文献9や特許文献10に記載の多孔膜を用いることができる。
【0041】
水中の微粒子は負に帯電しているため、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム基のいずれか1つ以上のカチオン性官能基を有するMF膜もしくはUF膜を用いることにより、膜が有するカチオン性官能基に水中の微粒子を吸着して捕捉し、効率的に除去することができる。
【0042】
MF膜もしくはUF膜は、上記のカチオン性官能基を有するものであれば、その材質については特に制限はなく、ポリケトン膜、セルロース混合エステル膜、ポリエチレン膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ポリビニリデンフロライド膜、ポリテトラフルオロエチレン膜等を用いることができる。これらのうち、表面開口比が大きく、低圧でも高フラックスが期待できる上に、弱カチオン性官能基を化学修飾により容易にMF膜もしくはUF膜に導入することができることから、ポリケトン膜が好ましい。ここで、ポリケトン膜は、一酸化炭素と1種類以上のオレフィンとの共重合体であるポリケトンを10~100質量%含むポリケトン多孔膜であって、公知の方法(例えば特開2013-76024号公報、国際公開第2013/035747号)によって作製することができる。
【0043】
カチオン性官能基を有するMF膜もしくはUF膜は、電気的な吸着能で水中の微粒子を捕捉除去するものであるため、その孔径は、除去対象微粒子よりも大きくてもよいものであるが、過度に大きいと、微粒子除去効率が悪く、逆に過度に小さくても膜濾過時の圧力が高くなり好ましくない。従って、MF膜であれば孔径0.05~0.2μm程度のものが好ましく、UF膜であれば分画分子量が5000~100万程度のものが好ましい。
【0044】
MF膜もしくはUF膜の形状としては特に制限はなく、一般的に超純水の製造分野で用いられている中空糸膜、平膜等を採用することができる。
【0045】
カチオン性官能基は、MF膜もしくはUF膜を構成するポリケトン膜等に直接化学修飾により導入されたものであってもよく、カチオン性官能基を有する化合物やイオン交換樹脂などがMF膜もしくはUF膜に担持されることによりMF膜もしくはUF膜に付与されたものであってもよい。
MF膜もしくはUF膜へのカチオン性官能基の導入方法としては、前述の特許文献9,10に記載の方法を採用することができる。
【0046】
本発明の水中微粒子の除去方法におけるアルカリ剤、或いはアルカリ剤と炭酸水による洗浄は、超純水製造・供給システムにおいて、一次純水システムから超純水を製造するサブシステム、特にそのサブシステムの最後段の微粒子除去用のMF膜もしくはUF膜装置に好適に適用される。また、サブシステムからユースポイントに超純水を送給する給水系路に設けられる微粒子除去用MF膜もしくはUF膜装置やユースポイントにおける最終微粒子除去装置としてのMF膜もしくはUF膜装置に好適に適用される。
【0047】
本発明によれば、カチオン性官能基を有するMF膜もしくはUF膜装置を用いて水中の粒子径50nm以下、特に10nm以下の微粒子を高度に除去すると共に、官能基の溶出による問題を抑制し、高性状の微粒子除去処理水を得ることができる。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0049】
なお、以下の評価では、特許文献9(特開2014-173013号公報)に示されているカチオン性ポリケトン多孔膜(膜サイズ:約14cm(中空糸状態)、官能基:3級アミノ基を主体としたアミノ基、膜材質:ポリケトン、孔径:0.14μm)をサンプル膜として使用した。
【0050】
[実施例1]
以下に示す工程(1)~(7)を行ってサンプル膜からの官能基の溶出を評価した。アルカリ剤にはNaOH水溶液(pH12)を用いた。
【0051】
工程(1):200mLのNaOH水溶液(pH12)にサンプル膜を2時間浸漬した。
工程(2):(1)のサンプル膜を1L/minの超純水で30分間オーバーフローリンスした。
工程(3):(2)のサンプル膜を200mLの超純水に18時間で浸漬した。
工程(4):工程(3)の浸漬液をSiウェハ上に10mL塗布した。
工程(5):浸漬液を塗布したSiウェハを1時間静置した。
工程(6):スピン乾燥器で(5)のSiウェハを1500rpm、30秒で乾燥した。
工程(7):乾燥後のSiウェハ表面についてFT-IR分析を行った。
【0052】
なお、FT-IR分析によるSiウェハ表面の荒れの評価は、Si-Hのピーク強度とSi-Hのピークとの強度の比(指標K=Si-Hのピーク強度/Si-Hのピーク)により行った。Kの値が大きいほど、Siウェハ表面が荒れていると考えられる。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、工程(1)~(2)のアルカリ洗浄と超純水によるリンスを行わなかったこと以外は同様にしてSiウェハ表面のFT-IR分析を行った。
【0054】
[比較例2]
Siウェハ上に超純水を10mL塗布し、その後は実施例1の工程(5)~(7)を行った(ブランク)。
【0055】
実施例1及び比較例1,2のSiウェハ表面のFT-IR分析結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
[実施例2]
以下に示す工程(1)~(8)を行ってサンプル膜からの官能基の溶出を評価した。アルカリ剤にはTMAH水溶液(pH12)を用い、炭酸水としてはpH4.65のものを用いた。
【0058】
工程(1):200mLのTMAH水溶液(pH12)にサンプル膜を2時間浸漬した。
工程(2):(1)のサンプル膜を1L/minの超純水で30分間オーバーフローリンスした。
工程(3):(2)のサンプル膜を1L/minの炭酸水(pH4.65)で1時間オーバーフロー洗浄した。
工程(4):(3)のサンプル膜を200mLの超純水に18時間で浸漬した。
工程(5):工程(4)の浸漬液をSiウェハ上に10mL塗布した。
工程(6):浸漬液を塗布したSiウェハを1時間静置した。
工程(7):スピン乾燥器で(6)のSiウェハを1500rpm、30秒で乾燥した。
工程(8):乾燥後、Siウェハ表面についてFT-IR分析を行った。
【0059】
[実施例3]
実施例2において、工程(3)において、炭酸水の代りに超純水を用いてオーバーフローリンスしたこと以外は同様にしてSiウェハ表面のFT-IR分析を行った。
【0060】
実施例2,3の結果を、比較例1の結果と共に表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
[結果・考察]
実施例1より、アルカリ洗浄を施すことで、多孔膜からの官能基の溶出を抑え、Siウェハ表面の荒れを抑制できることが分かる。
実施例3より、TMAH洗浄を施すことで、比較例1よりもピーク強度比を小さくすることができ、Siウェハ表面の荒れを抑制できることが分かる。
実施例2より、アルカリ洗浄後に炭酸水による洗浄を行うことで、アルカリ剤として用いたTMAHを効率的に洗浄除去できることが分かる。
なお、NaOHで洗浄すると、大量のNaが膜面に残存し、超純水用のフィルターとしては適用し得ない場合がある。一方、TMAHは金属成分を含まないので、そのような場合においても使用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 前処理システム
2 一次純水システム
3 サブシステム
4 ユースポイント
17 UF膜装置
図1