(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、有機薄膜積層構造および有機薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20230117BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20230117BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20230117BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
C08L101/12
C08K5/54
B32B27/06
(21)【出願番号】P 2019107252
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山梨 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小池 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】中原 勝正
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225854(JP,A)
【文献】特開2016-048732(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
C08L101/12
B32B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層上に絶縁層を形成するために使用する、以下の(A)~(D)を含有
しており、
(A)絶縁性ポリマー
(B)前記絶縁性ポリマーを溶解する第1の溶媒
(C)前記有機半導体層を構成する有機半導体を溶解しない第2の溶媒
(D)前記第1の溶媒および前記第2の溶媒のそれぞれと相溶性を示す第3の溶媒
前記第1~第3の溶媒の合計100容積部における、前記第1の溶媒の含有量が50容積部以下である樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の溶媒が、前記絶縁性ポリマーおよび前記有機半導体のいずれも溶解するものであり、
前記第2の溶媒が、前記絶縁性ポリマーおよび前記有機半導体のいずれも溶解しないものであり、
前記第3の溶媒が、前記有機半導体を溶解しないものである
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1の溶媒が、分子中にフッ素原子を含まない非フッ素系溶媒であり、
前記第2の溶媒および前記第3の溶媒が、それぞれ分子中にフッ素原子を含むフッ素系溶媒であり、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とは、分子中においてフッ素原子が占める重量の割合が異なる、
請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記絶縁性ポリマーは、繰り返し単位中に含まれる水素原子数およびハロゲン原子数の合計においてフッ素原子数が占める割合が50%以下である
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記絶縁性ポリマーが(メタ)アクリル樹脂である
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(E)カップリング剤を含有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
基板に形成された有機半導体層と、前記有機半導体層に接触した状態で積層された絶縁層とを備えた有機薄膜積層構造であって、
前記絶縁層が
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて形成されたものである有機薄膜積層構造。
【請求項8】
前記有機半導体層を形成する有機半導体化合物の分子量が2000以下である
請求項7に記載の有機薄膜積層構造。
【請求項9】
請求項7に記載の有機薄膜積層構造と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備えている有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記基板に形成されており、
前記有機半導体層が、前記基板、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、
前記ゲート電極が、前記絶縁層に形成されている
請求項9に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記有機半導体層に形成されており、
前記絶縁層が、前記有機半導体層、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、
前記ゲート電極が前記絶縁層に形成されている
請求項9に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項12】
前記ゲート電極が前記基板に形成されており、
第2の絶縁層が、前記ゲート電極を覆うように前記基板に形成されており、
前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記第2の絶縁層に形成されており、
前記有機半導体層が、前記第2の絶縁層、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、
第1の絶縁層が前記有機半導体層に積層されている
請求項9に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項13】
前記ゲート電極が前記基板に形成されており、
第2の絶縁層が、前記ゲート電極を覆うように前記基板に形成されており、
前記有機半導体層が前記第2の絶縁層に積層されており、
前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記有機半導体層に形成されており、
第1の絶縁層が、前記有機半導体層、前記ソース電極および前記ドレイン電極に積層されている
請求項9に記載の有機薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層に絶縁層を形成する樹脂組成物、有機薄膜積層構造および有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体を活性層として用いた有機薄膜トランジスタ(有機半導体トランジスタ)は、可撓性を備えた電子回路や表示装置などの使用技術として注目されている。有機薄膜トランジスタの特徴として、軽量化、薄型化に好適であることに加えて、塗布によって素子を形成できる点が挙げられる。すなわち、有機半導体層、電極層および絶縁層などを溶液の塗布により作製可能であるから、印刷装置を用いて有機薄膜トランジスタの回路を製造することができる。
近年、溶解性が高い有機半導体が開発されており、塗布によって有機半導体層を形成する技術が向上している。しかし、有機半導体層に絶縁層を積層する際に、絶縁層の材料を含む溶液を塗布することにより有機半導体層に膨潤や溶解が生じ、有機薄膜トランジスタの性能が低下する場合がある。
この問題を解決するために、有機半導体層を溶解しないパーフルオロ系ポリマーをパーフルオロ溶媒に溶解した溶液により絶縁層を形成することが報告されている(非特許文献1)。しかし、パーフルオロ系ポリマーの絶縁層には、有機半導体層から剥離しやすく、有機半導体層と絶縁層との積層構造の耐久性が低いという問題があった。
また、絶縁層として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)またはポリビニルフェノール(PVP)を用いることも報告されている(非特許文献2)。しかし、同文献の絶縁層は、絶縁層の材料の溶媒として酢酸ブチルを用いていることから、低分子の有機半導体で形成された有機半導体層に絶縁層を積層する際、膨潤または溶解が生じ有機半導体層の性能低下を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Air Stable Cross-Linked Cytop Ultrathin Gate Dielectric for High Yield Low-Voltage Top-Gate Organic Field-Effect Transistors(Xiaoyang Cheng et al, Chem. Mater. 2010, 22, 1559-1566 DOI:10.1021/cm902929b)
【文献】Ultra-thin polymer gate dielectrics for top-gate polymer field-effect transistors(Yong-Young Noh et al, Org. Electron. 2009,10, 174-180 DOI:10.1016/j.orgel.2008.10.021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機半導体層に積層する際、膨潤、溶解によって有機半導体層の性能の低下を生じさせない、有機半導体層との密着性が良い絶縁層を形成できる、塗布性が良好な樹脂組成物、積層構造および有機薄膜トランジスタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、絶縁性ポリマーと複数の溶媒を混合した混合溶媒とを用いることで、絶縁層を有機半導体層に形成する際、有機半導体層を膨潤、溶解させない、塗布性が良好な樹脂組成物を調製できるという知見に基づいており、以下の構成を備えている。
【0006】
[1]有機半導体層上に絶縁層を形成するために使用する、以下の(A)~(D)を含有する樹脂組成物。
(A)絶縁性ポリマー、(B)前記絶縁性ポリマーを溶解する第1の溶媒、(C)前記有機半導体層を構成する有機半導体を溶解しない第2の溶媒、(D)前記第1の溶媒および前記第2の溶媒のそれぞれと相溶性を示す第3の溶媒。
【0007】
[2]前記第1の溶媒が、前記絶縁性ポリマーおよび前記有機半導体のいずれも溶解するものであり、前記第2の溶媒が、前記絶縁性ポリマーおよび前記有機半導体のいずれも溶解しないものであり、前記第3の溶媒が、前記有機半導体を溶解しないものである[1]に記載の樹脂組成物。
【0008】
[3]前記第1の溶媒が、分子中にフッ素原子を含まない非フッ素系溶媒であり、前記第2の溶媒および前記第3の溶媒が、それぞれ分子中にフッ素原子を含むフッ素系溶媒であり、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とは、分子中においてフッ素原子が占める重量の割合が異なる、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0009】
[4]前記第1~第3の溶媒の合計100容積部における、前記第1の溶媒の含有量が50容積部以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5]前記絶縁性ポリマーは、繰り返し単位中に含まれる水素原子数およびハロゲン原子数の合計においてフッ素原子数が占める割合が50%以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6]前記絶縁性ポリマーが(メタ)アクリル樹脂である[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[7]さらに、(E)カップリング剤を含有する[1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0010】
[8]基板に形成された有機半導体層と、前記有機半導体層に接触した状態で積層された絶縁層とを備えた有機薄膜積層構造であって、前記絶縁層が[1]~[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて形成されたものである有機薄膜積層構造。
[9]前記有機半導体の分子量が2000以下である[8]に記載の有機薄膜積層構造。
【0011】
[10][8]に記載の有機薄膜積層構造と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備えている有機薄膜トランジスタ。
[11]前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記基板に形成されており、前記有機半導体層が、前記基板、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、前記ゲート電極が前記絶縁層に形成されている[10]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[12]前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記有機半導体層に形成されており、前記絶縁層が、前記有機半導体層、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、前記ゲート電極が前記絶縁層に形成されている[10]に記載の有機薄膜トランジスタ。
【0012】
[13]前記ゲート電極が前記基板に形成されており、第2の絶縁層が、前記ゲート電極を覆うように前記基板に形成されており、前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記第2の絶縁層に形成されており、前記有機半導体層が、前記第2の絶縁層、前記ソース電極および前記ドレイン電極を覆って積層されており、第1の絶縁層が前記有機半導体層に積層されている[10]に記載の有機薄膜トランジスタ。
[14]前記ゲート電極が前記基板に形成されており、第2の絶縁層が、前記ゲート電極を覆うように前記基板に形成されており、前記有機半導体層が前記第2の絶縁層に積層されており、前記ソース電極および前記ドレイン電極が前記有機半導体層に形成されており、第1の絶縁層が、前記有機半導体層、前記ソース電極および前記ドレイン電極に積層されている[10]に記載の有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁性ポリマーの溶媒として特定の混合溶媒を用いることにより、絶縁層を積層する際、有機半導体層に膨潤や溶解が生じることを抑制できる。また、複数種の溶媒を混合して用いることにより、絶縁性ポリマーを含有する樹脂組成物の塗布性が調整できる。したがって、有機半導体層の性能を低下させることなく、有機半導体層に密着性の良好な絶縁層が積層された有機薄膜積層構造および有機薄膜トランジスタを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の有機薄膜積層構造を模式的に示す断面図
【
図2】(a)ボトムコンタクト・トップゲート構造を備えた有機薄膜トランジスタの構造を模式的に示す断面図、(b)トップコンタクト・トップゲート構造を備えた有機薄膜トランジスタの構造を模式的に示す断面図、(c)ボトムコンタクト・ボトムゲート構造を備えた有機薄膜トランジスタの構造を模式的に示す断面図、(d)トップコンタクト・ボトムゲート構造を備えた有機薄膜トランジスタの構造を模式的に示す断面図
【
図3】(a)~(c)実施例2の積層構造を用いて作製した有機薄膜トランジスタの電気的特性を示すグラフ(Vd=-5[V])
【
図4】(a)~(c)実施例2の積層構造を用いて作製した有機薄膜トランジスタの電気的特性を示すグラフ(Vd=-30[V])
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、適宜、図面を参照して説明する。実施形態に記載した例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明は、例示以外の態様で実施することができる。
【0016】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、有機半導体層に絶縁層を形成するためのものであり、(A)絶縁性ポリマー、(B)前記絶縁性ポリマーを溶解する第1の溶媒、(C)前記有機半導体層を溶解しない第2の溶媒、および(D)前記第1の溶媒および前記第2の溶媒のそれぞれと相溶する第3の溶媒を含有している。
【0017】
[(A)絶縁性ポリマー]
絶縁性ポリマーは、絶縁層の材料となるものであり、有機半導体層との混ざり合いや相互作用を生じ難い絶縁材料が好ましい。このような絶縁材料として、主骨格が主に飽和炭化水素で構成される樹脂(ポリオレフィン系樹脂)、主骨格が主に飽和炭化水素と芳香族炭化水素とで構成される樹脂、フッ素化ポリマー(フッ素化高分子)を含む樹脂、ポリシロキサン等が挙げられる。これらの樹脂は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
絶縁層は有機半導体層との相互作用が低いことに加えて、有機半導体層との密着性が良好なものが好ましい。有機半導体層に対する密着性を良好にする観点から、絶縁性ポリマーは、繰り返し単位中に含まれる水素原子数およびハロゲン原子数の合計においてフッ素原子数が占める割合が、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、0%すなわち繰り返し単位中にフッ素原子を含まないことがさらに好ましい。
【0019】
繰り返し単位中にフッ素原子を含まない絶縁性ポリマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリスチレン-エチレン共重合体、ポリビニルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
有機半導体層に対する密着性を良好にする観点から、絶縁性ポリマーは(メタ)アクリル樹脂が好ましい。(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000~500,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましく、3,000~20,000がさらに好ましい。本明細書において、数値範囲A~Bは、A以上B以下を意味する。また、(メタ)アクリル樹脂は、第1の溶媒に対する溶解性が良く、有機半導体層に所望の厚みで絶縁層を形成する際の取扱い性に優れるという特長も備えている。
【0021】
[(B)第1の溶媒]
第1の溶媒は、絶縁性ポリマーを溶解するものであり、絶縁性ポリマーの溶媒、または分散媒として機能する。本発明において「絶縁性ポリマーを溶解する」とは、絶縁層を形成する絶縁性ポリマーの室温(25℃)における溶解度が0.1重量%以上であることをいう。絶縁層を形成するための塗布に要する回数を少なくする観点から、第1の溶媒は、絶縁性ポリマーの溶解度が1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
第1の溶媒は、絶縁性ポリマーに加えて有機半導体を溶解するものであってもよい。本発明において「有機半導体を溶解する」とは、有機半導体層の形成に用いられる有機半導体の室温(25℃)における溶解度が0.0003重量%以上であることをいう。有機半導体を溶解する第1の溶媒に後述する第2の溶媒および第3の溶媒を混合することにより、有機半導体を溶解しない混合溶媒とすることができる。
【0023】
第1の溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アニソール等の置換芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;3-クロロチオフェン等の複素環式系溶媒;ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブチルセロソルブ等のエーテル又はアルコール溶媒;酢酸エチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル溶媒;アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒;アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の含窒素溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒などの有機溶媒が挙げられる。絶縁性ポリマーを高濃度で溶解する観点から、分子中にフッ素原子を含まない非フッ素系溶媒が好ましい。
【0024】
[(C)第2の溶媒]
第2の溶媒は、有機半導体を溶解しないものであり、絶縁性ポリマーを含む溶液により有機半導体層に絶縁層を覆うために積層する際、有機半導体層に膨潤または溶解が生じることを防止する。本発明において「有機半導体を溶解しない」とは、有機半導体層の形成に用いられる有機半導体の常温(25℃)における溶解度が0.0003重量%未満であることをいう。
【0025】
溶媒に対する溶解性は、有機半導体の種類によって異なる。低分子の有機半導体は、高分子の有機半導体よりも有機溶剤への溶解性が高い。このため、低分子の有機半導体を用いて形成された有機半導体層に絶縁層を形成する場合、有機半導体層の膨潤や溶解の問題が生じやすい。そこで、本発明の樹脂組成物は、絶縁性ポリマーを溶解する第1の溶媒に、有機半導体を溶解しない第2の溶媒と、第3の溶媒を混合することで、低分子の有機半導体を用いて形成された有機半導体層に膨潤や溶解が発生することを抑制できる。なお、低分子の有機半導体とは、基本単位の繰り返し構造を備えていない有機半導体である。
【0026】
低分子の有機半導体は、分子量が小さい程、絶縁層を積層する際に膨潤や溶解が発生しやすい。第1の溶媒と第2の溶媒との混合比の調整により、例えば、分子量が1500以下、さらには1000以下の低分子の有機半導体を用いて形成された有機半導体層に、膨潤や溶解を生じさせることなく絶縁層を形成できる。
【0027】
有機半導体層は一種または二種以上の有機半導体を組み合わせて形成することができる。有機半導体層が二種以上の有機半導体で構成されている場合、複数の有機半導体の重量平均分子量を有機半導体の分子量とする。
【0028】
第2の溶媒として、分子中にフッ素原子を含むフッ素系溶媒を用いることができる。有機半導体との直交性を良好にする観点から、フッ素系溶媒の分子中においてフッ素原子が占める重量の割合が、50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0029】
((D)第3の溶媒)
第3の溶媒は、第1の溶媒および第2の溶媒のそれぞれと相溶性を示すものである。本発明において「相溶性を示す」とは、室温において、溶媒を1:1の重量比で混合し、10分間超音波を加えた後一時間静置した時点で、分離が生じないことをいう。
【0030】
第3の溶媒は、第2の溶媒と同様、フッ素系溶媒を用いることができるが、第2の溶媒とは分子中においてフッ素原子が占める重量の割合が異なっている。第1および第2の溶媒に加えて、これらのそれぞれと相溶性を示す第3の溶媒を用いることにより、樹脂の含有量が高い樹脂組成物の調整が容易になる。このため、絶縁性ポリマーを含む溶液の膜を有機半導体層上に所望の形で形成する際における樹脂組成物の塗布性を向上させることができる。
第3の溶媒は、第1および第2の溶媒のそれぞれとの相溶性を良好にする観点から、フッ素系溶媒の分子中においてフッ素原子が占める重量の割合が、20~80%が好ましく、40~75%がより好ましく、55~70%がさらに好ましい。
【0031】
樹脂組成物の濃度調整および高濃度化の観点から、第3の溶媒は、第2の溶媒よりも、室温における絶縁性ポリマーの溶解性が高いものが好ましい。このため、第3の溶媒として、絶縁性ポリマーを溶解し、かつ、有機半導体層を溶解しないものを用いてもよい。
【0032】
室温における絶縁性ポリマーのフッ素系溶媒に対する溶解性は、たとえば、フッ素系溶媒:PGMEA(酢酸-2-メトキシ-1-メチルエチル)=9:1(体積比)として混合した混合溶媒に対する、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、重量平均分子量15,000)の溶解度を用いて評価する。樹脂組成物が二種類のフッ素系溶媒を含有する場合、より高濃度のPMMAを溶解する混合溶媒に用いられたフッ素系溶媒が第3の溶媒である。
【0033】
(フッ素系溶媒)
フッ素系溶媒は、分子中にフッ素原子を有する溶媒であり、第2の溶媒および第3の溶媒として、用いられる。絶縁性ポリマーの溶媒として、二種以上のフッ素系溶媒を混合して用いることにより、有機半導体層を膨潤、溶解しない性質(以下、適宜「直交性」ともいう)、および、絶縁性ポリマーを容易に塗布できる性質(以下、適宜「塗布性」ともいう)を備えた樹脂組成物となる。
【0034】
フッ素系溶媒は、第2の溶媒および第3の溶媒として使用することができる。このため、フッ素系溶媒は、組合せによって、第2の溶媒になったり第3の溶媒になったりする。すなわち、樹脂組成物中に含まれる有機半導体層、絶縁性ポリマーおよび第1の溶媒によって、同じフッ素系溶媒が、第2の溶媒になったり第3の溶媒になったりする。
【0035】
二種のフッ素系溶媒を用いる場合に、いずれも有機半導体層に対する直交性と、第1の溶媒および他のフッ素系溶媒(第2または第3の溶媒)に対する相溶性とを備えている場合、絶縁性ポリマーの溶解性が高いフッ素系溶媒を第3の溶媒とする。ここで、絶縁性ポリマーの溶解性が高いとは、室温における絶縁性ポリマーの溶解度が高いこと、または、より低い温度において同濃度の絶縁性ポリマーを溶解できることをいう。
【0036】
フッ素系溶媒としては、例えば、2H,3H-デカフルオロペンタン、パーフルオロペンタン、トリフルオロエタノール、テトラフルオロ-1-プロパノール、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、トリフルオロ酢酸エチル、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトルエン、1,3-(トリフルオロメチル)ベンゼン、パーフルオロデカリン、オクタデカフルオロデカヒドロナフタレン、パーフルオロシクロペンテン等が挙げられる。市販品としては、例えば、3M製のNovec7100に代表されるNovec各種、FC-43に代表されるフロリナート各種、AGC(株)製のCT-Solv.180等が挙げられる。
【0037】
上述した第1~第3の溶媒の含有量を、有機半導体および絶縁性ポリマーの種類に応じて、調整することにより、塗布性および有機半導体層への直交性に優れた樹脂組成物となる。低分子の有機半導体により形成された有機半導体層に対する直交性を良好にする観点から、第1~第3の溶媒の合計100容積部における、第1の溶媒の含有量は、50容積部以下が好ましく、30容積部以下がより好ましく、10容積部以下がさらに好ましい。同様の観点から、第1~第3の溶媒の合計100重量部における、第2の溶媒と第3の溶媒とを合わせた含有量は、50容積部以上が好ましく、70容積部以上がより好ましく、90容積部以上がさらに好ましい。
【0038】
[(E)カップリング剤]
樹脂組成物は、上述した成分に加えて、カップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤を含有することで、有機半導体層と絶縁層との密着性を高くすることができる。カップリング剤としては、フルオロアルキルトリエトキシシラン等のシラン系カップリング剤が好ましい。有機半導体層との密着性が良好な絶縁層とする観点から、下記の(a)~(e)が好ましく、(a)(b)がより好ましい。
【0039】
シラン系カップリング剤として、例えば、1H,1H,2H,2H,-ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、 (ペンタフルオロフェニル)トリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、メタクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、オルトけい酸テトラエチル、トリエトキシメチルシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられ、非シラン系のカップリング剤として、ペンタフルオロベンゼンチオールが挙げられる。
カップリング剤の配合量は、例えば、樹脂組成物100重量部中に、1重量部程度とすればよい。
【0040】
[積層構造]
本発明の樹脂組成物を用いて、有機薄膜積層構造を製造することができる。上述した樹脂組成物を用いて絶縁層を形成すれば、溶解や膨潤によって有機薄膜積層の性能が低下することを抑制できる。また、絶縁層と有機薄膜積層との密着性が良い有機薄膜積層構造を提供することができる。
【0041】
図1は、本発明の有機薄膜積層構造1の構成を示す断面図である。同図に示すように、有機薄膜積層構造1は、基板11に形成された有機半導体層12に、有機半導体層12を覆う絶縁層13が積層されている。以下、機能が同じ部材には同じ記号を付して、適宜、説明を省略する。
【0042】
基板11は、有機半導体層12および絶縁層13を支持するものであり、例えば、ガラス基板、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等で構成されるプラスチック基板(樹脂基板)、石英基板、シリコン基板、ガリウム砒素基板等を用いることができる。可撓性を備えた有機薄膜積層構造1とする場合、基板11を樹脂で構成する。
【0043】
基板11は、公知のシランカップリング剤を用いて自己組織化単分子膜(SAM)を形成されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、デシルトリエトキシシラン、トリエトキシトリデカフルオロオクチルシラン、フェネチルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランが挙げられる。表面処理により、基板11における撥液性と有機半導体層12の膜質とを調整することができる。
【0044】
有機半導体層12は、半導体的な電気伝導を示す有機半導体化合物を主材料として構成されている。有機半導体化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、フタロシアニン、ペリレン、ヒドラゾン、トリフェニルメタン、ジフェニルメタン、スチルベン、アリールビニル、ピラゾリン、トリフェニルアミン、トリアリールアミン、オリゴチオフェン、フタロシアニンまたはこれらの誘導体のような低分子の有機半導体化合物や、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ポリアリールアミン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂、フルオレン-ビチオフェン共重合体、フルオレン-アリールアミン共重合体またはこれらの誘導体のような高分子の有機半導体化合物(共役系高分子材料)が挙げられる。これら有機半導体化合物は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
チアノアセン(含チオフェン縮合多環芳香族化合物)誘導体は低分子の有機半導体化合物の中でも高い移動度を示す材料として注目されている。
チアノアセンとしては、例えば、ジナフトチオフェン、ジアントラチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトベンゾジチオフェンが挙げられる。
【0046】
チアノセン誘導体の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【化1】
3,9-ジヘキシル ジナフト[2,3-b:2′,3′-d]チオフェン(3,9-dihexyl dinaphtho[2,3-b:2′,3′-d]thiophene、分子量452.70、C6-DNT-VW)
【0047】
【化2】
(3,11-ジノニル ジナフト[2,3-d:2′,3′-d′]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン(3,11- dinonyl dinaphtho[2,3-d:2′,3′-d′]benzo[1,2-b:4,5 b’]dithiophene)、分子量643.00、C9-DNBDT-NW)
【0048】
【化3】
(2-デシル-7-フェニル[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(2-Decyl-7-phenyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiophene)、分子量456.71、Ph-BTBT-C10)
【0049】
有機薄膜積層構造1を構成する絶縁層13は、本発明の樹脂組成物を用いて形成される。このため、低分子の有機半導体化合物で形成された有機半導体層12であっても、絶縁層13を積層する際に、膨潤、溶解が生じることを防止できる。したがって、絶縁層13を積層する際に有機半導体層12の性能を低下させることなく、有機薄膜積層構造1はその機能を維持できる。
【0050】
上述したように、一般に、有機半導体層12は、分子量の小さい低分子の有機半導体化合物で形成されたもののほうが、分子量の大きな高分子の有機半導体化合物で形成されたものよりも、有機溶媒に対する溶解性が高い。本発明の樹脂組成物は、第1~第3の溶媒を混合して用いることにより、有機半導体層12に対する溶解性(直交性)を調整することができる。このため、分子量が2000以下、1500以下、さらには1000以下の有機半導体化合物により形成された有機半導体層12であっても、溶解や膨潤による性能低下を招くことなく有機半導体層12に絶縁層13を積層することが可能である。
【0051】
分子量が2000以下である低分子の有機半導体化合物として、チアノセン誘導体の具体例として示したもの以外にたとえば、以下のものが挙げられる。
【0052】
【化4】
(N,N'-Di-n-octyl-3,4,9,10-perylenetetracarboxylic Diimide、分子量614.79、PTCDI-C8)
【化5】
(5,5'-(9,9'-spirobi[fluorene]-2,7-diyl)bis(2,9-di(tridecan-7-yl)anthra[2,1,9-def:6,5,10-d'e'f']diisoquinoline)-1,3,8,10(2H,9H)-tetraone、分子量1822.48、SF-PDI)
【0053】
(有機薄膜トランジスタ)
本発明は、上述した有機薄膜積層構造と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備えた有機薄膜トランジスタとして実施することができる。有機薄膜トランジスタは、例えばフレキシブルディスプレイのスイッチング素子等として用いられる。
図2(a)および
図2(b)は、基板11に有機半導体層12と絶縁層13とが積層された有機薄膜積層構造1(
図1参照)に加えて、ソース電極14およびドレイン電極15がゲート電極16よりも基板11に近い側に設けられた、トップゲート構造の有機薄膜トランジスタ2、3の構造を模式的に示す断面図である。
【0054】
図2(a)に示すボトムコンタクト・トップゲート構造を備えた有機薄膜トランジスタ2について、以下、説明する。
基板11は、有機薄膜トランジスタ2を構成する各層(各部)を支持するものである。基板11上には、下地層が設けられていてもよい。下地層により、例えば、基板11表面からのイオンの拡散を防止する効果、あるいは、ソース電極14およびドレイン電極15と基板11との密着性を向上させる効果が得られる。下地層は、例えば、酸化珪素(SiO
2)、窒化珪素(SiN)、ポリイミド、ポリアミド、架橋により不溶化したポリマー等により構成することができる。
【0055】
基板11には、ソース電極14およびドレイン電極15が、チャネル長方向に沿って、所定距離離間して並設されている。ソース電極14およびドレイン電極15は、例えば、Ag、Al、Au、Cr、Cu、In、Mo、Nb、Nd、Ni、Pd、Pt、Ta、Ti、W、またはこれらを含む合金等の金属材料を用いて構成される。ソース電極14およびドレイン電極15に用いる材料は、有機半導体層へ電荷の注入に応じて適宜選択すればよい。
【0056】
ソース電極14およびドレイン電極15を構成する材料としては、金属材料の他、ITO、FTO、ATO、SnO2等の導電性酸化物、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等の炭素材料、ポリアセチレン、ポリピロール、PEDOT(poly-ethylenedioxythiophene)のようなポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレン)、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、ポリシランまたはこれらの誘導体等の導電性高分子材料等が挙げられ、これらのうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。上述した導電性高分子材料は、通常、塩化鉄、ヨウ素、無機酸、有機酸、ポリスチレンサルフォニック酸のようなポリマー等がドープされ、導電性を付与された状態で用いられる。
【0057】
ソース電極14およびドレイン電極15の厚さ、これら電極のチャネル長、およびチャネル幅は、用途に応じて適宜設定されるが、例えば、この順に10~300nm、1~1000μmおよび0.05~5mm程度とすればよい。
【0058】
ソース電極14およびドレイン電極15から有機半導体層12へ電荷の注入効率を高めるために、ソース電極14およびドレイン電極15に表面処理を施したり、キャリア注入層を設けたりすることができる。表面処理としては、例えば、UV-O3処理、O2などを用いたプラズマ処理、ペンタフルオロベンゼンチオールに代表される自己組織化単分子膜を形成する処理などが挙げられる。
【0059】
キャリア注入層を設ける場合、ソース電極14/有機半導体層12間に設けるキャリア注入層と、ドレイン電極15/有機半導体層12間に設けるキャリア注入層とは、同一の材料で形成されていてもよく、異なる材料で形成されていてもよい。キャリア注入層は、例えば、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルおよび酸化モリブデン等の化合物を用いて製膜される。
【0060】
有機半導体層12は、ソース電極14およびドレイン電極15に接触した状態で、これら電極の全体を覆うように基板11に形成されている。有機半導体層12を形成する有機半導体は、有機薄膜積層構造1(
図1参照)と同じものを使用することができる。有機半導体層12は、薄型化・軽量化が可能であり、可撓性にも優れるため、有機薄膜トランジスタ2への適用に適している。有機半導体層12の平均厚さは、例えば、1~500nm程度である。
【0061】
図2(a)には、ソース電極14およびドレイン電極15を覆うように有機半導体層12が設けられた構成を示したが、これに限られず、ソース電極14とドレイン電極15との間の領域(チャネル領域)にのみ有機半導体層12が設けられた構成としてもよい。
【0062】
有機薄膜トランジスタ2では、絶縁層13が有機半導体層12を覆うように積層されており、絶縁層13にゲート電極16が設けられている。絶縁層13によって、ソース電極14およびドレイン電極15とゲート電極16とを絶縁している。
【0063】
絶縁層13の材料として用いる絶縁性ポリマーの重量平均分子量によっては、樹脂組成物の粘度が高くなり、樹脂組成物の塗布性が低下することがある。例えば、インクジェット法を用いて樹脂組成物の層を形成する場合に液滴の吐出が不安定になることがある。そこで、樹脂組成物の塗布性を良くする観点から、絶縁層13の材料となる絶縁性ポリマーの重量平均分子量は、1,000~500,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましく、3,000~20,000がさらに好ましい。また、絶縁性ポリマーは、重量平均分子量が低いもののほうが溶媒に対する溶解性が高い。このため、上述した重量平均分子量が比較的低い絶縁性ポリマーを用いることにより、樹脂組成物を高濃度にし、少ない塗布回数で絶縁層13を形成できる。なお、絶縁層13は一層構成のものに限定されず、二層以上の積層構成としてもよい。
【0064】
ゲート電極16は、有機半導体層12に積層された絶縁層13に形成されている。ゲート電極16は、少なくともソース電極14とドレイン電極15との間の領域に重なるように設けられている。ゲート電極16を構成する材料としては、ソース電極14およびドレイン電極15と同じもの用いることができる。ゲート電極16の厚さは、特に限定されないが、例えば、厚さの平均を10~1000nm程度とする。
【0065】
図2(b)は、トップコンタクト・トップゲート構造の有機薄膜トランジスタの構造を模式的に示す断面図である。同図に示す有機薄膜トランジスタ3は、基板11に設けられた有機半導体層12の表面にソース電極14およびドレイン電極15が設けられており、絶縁層13が、有機半導体層12、ソース電極14およびドレイン電極15を覆うように基板11に設けられている。ゲート電極16は、有機薄膜トランジスタ2同様、絶縁層13に形成されている。
【0066】
本発明の有機薄膜トランジスタは、ゲート電極が、ソース電極およびドレイン電極よりも基板側に設けられたボトムゲート構造として実施することもできる。
図2(c)は、本実施形態のボトムコンタクト・ボトムゲート構造の有機薄膜トランジスタ4の構造を模式的に示す断面図である。同図に示すように、有機薄膜トランジスタ4は、ゲート電極16が基板11に形成されており、絶縁層17が、ゲート電極16を覆うように基板11に形成されている。ソース電極14およびドレイン電極15が絶縁層17の表面に形成されており、有機半導体層12がソース電極14およびドレイン電極15を覆うように絶縁層17に積層されており、絶縁層13が有機半導体層12および絶縁層13を覆うように積層されている。
【0067】
図2(d)は、トップコンタクト・ボトムゲート構造の有機薄膜トランジスタの他の構成例を示す断面図である。同図に示すように、有機薄膜トランジスタ5は、ゲート電極16が基板11上に形成されており、絶縁層17が、ゲート電極16を覆うように基板11に形成されており、有機半導体層12が絶縁層17に積層されている。ソース電極14およびドレイン電極15が有機半導体層12に形成されており、絶縁層13が有機半導体層12、ソース電極14およびドレイン電極15を覆うように、絶縁層17に積層されている。
【0068】
図2(a)~
図2(d)に示す、有機薄膜トランジスタ2~5はいずれも、有機半導体層12と接して積層される絶縁層13が本発明の樹脂組成物により形成されたものである。このため、有機半導体層12に絶縁層13を積層する際、有機半導体層12に膨潤や溶解が生じることを抑え、有機半導体層12の性能低下を防止することができる。
【実施例】
【0069】
本発明の実施例について以下に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例および比較例において用いた原料を以下に示す。
<(A)絶縁性ポリマー>
ポリメタクリル酸メチル(PMMA、重量平均分子量15,000)
<(B)第1の溶媒>
PGMEA:酢酸-2-メトキシ-1-メチルエチル
AcOEt:酢酸エチル
トルエン
クロロホルム
<(C)第2の溶媒>
HFIP:ヘキサフルオロ-2-プロパノール
<(D)第3の溶媒>
Novec7300:ハイドロフルオロエーテル
<(E)カップリング剤>
17FDTES:1H,1H,2H,2H,-ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン
Et(TES)2:1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン
F5B-TES:(ペンタフルオロフェニル)トリエトキシシラン
PhTES:トリエトキシフェニルシラン
MA-Pr-TES:メタクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル
EtO-TES:オルトけい酸テトラエチル
PFBT:ペンタフルオロベンゼンチオール
<絶縁層形成用樹脂>
CYTOP(CTL-809A、9質量%溶液、アモルファスフッ素樹脂、AGC(株)製)
<有機半導体化合物>
C6-DNT-VW:3,9-ジヘキシル ジナフト[2,3-b:2′,3′-d]チオフェン
C9-DNBDT-NW:3,11-ジノニル ジナフト[2,3-d:2′,3′-d′]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン
<基板>
シリコン基板(表面の100nmを熱酸化処理にてSiO2化してあるもの)
【0070】
参考例、実施例および比較例では、低分子の有機半導体化合物を用いて有機半導体層を形成した。低分子の有機半導体化合物は、塗布性が良好であるが、有機溶媒に対する溶解性が高い。このため、有機半導体層に絶縁層を積層する際、有機半導体層に溶解や膨潤が生じやすい。
【0071】
(参考例)
C6-DNT-VWを濃度約0.5質量%になるようにトルエンとオルトジクロロベンゼンの混合溶媒(トルエン:オルトジクロロベンゼン-=2:1、容積(体積)比)に溶解させ、ポリスチレン(重量平均分子量3,000)が0.2質量%になるように添加し、有機半導体溶液を調製した。UV-O
3処理を30分間行ったSiO
2膜付きシリコン基板をスピンコーターに設置し、前記有機半導体溶液を10ml程度滴下し、1,000rpm、5秒間の条件で塗布し、120℃のホットプレートに基板を移動させて5分間乾燥させ、有機半導体層が形成された基板の試料を得た。
前記試料を、表1に示す有機溶媒とフッ素系溶媒とを表1に示す割合(有機溶媒:フッ素系溶媒=6:4~1:9、容積(体積)比)で混合した混合溶媒に、閉塞容器内で1分間、基板の半分を浸漬した。浸漬後、容器から試料を取り出し、エアブローにて乾燥させた後に表面状態を観察した。結果を表1に示す。
【表1】
【0072】
表1の結果に示すように、非フッ素系溶媒にフッ素系溶媒を添加した混合溶媒とすることにより、室温においてトルエンに0.5質量%以上溶解する、有機溶媒に対する溶解性が高い有機半導体化合物(C6-DNT-NW)で形成された有機半導体層の溶解を防ぐことができた。
C6-DNT-NWを有機半導体層のように、有機溶媒に対する溶解性が高い有機半導体化合物を用いた場合は、溶解を安定的に防止する観点から、混合溶媒におけるフッ素系溶媒の含有量は90体積%(容量%)以上が好ましい。
【0073】
(樹脂組成物)
(実施例1)
次に示す樹脂組成物を調整した。
樹脂組成物:PMMAが5質量%となるように、PGMEAとHFIPとNovec7300(5)との混合溶媒(PGMEA:HFIP:Novec7300=1:4:5、体積比)に溶解させて樹脂組成物を調製した。
C9-DNBDT-NWを濃度約0.2質量%になるようにメシチレンとオルトジクロロベンゼンの混合溶媒(メシチレン:オルトジクロロベンゼン=1:1、体積比)に溶解させ、ポリスチレン(重量平均分子量3,000)が0.1質量%になるように添加し、有機半導体溶液を調製した。
UV-O3処理を30分間行ったSiO2膜付きシリコン基板をスピンコーター(ミカサ製:MS-A100)に設置し、前記有機半導体溶液を100μl滴下し、1,000rpm、5秒間の条件で塗布し、120℃のホットプレートに基板を移動させて5分間乾燥させ、有機半導体層を形成した。
前記有機半導体層が形成された基板をスピンコーターに設置し、前記樹脂組成物を200μl程度滴下し、2,000rpm、30秒間の条件で塗布し、60℃のホットプレートに基板を移動させて5分間乾燥させ、120℃のホットプレートに基板を移動させて10分間乾燥させ、絶縁層を形成した。触診段差計による膜厚測定の結果、約1μmの膜厚であった。
樹脂組成物は、塗布性が良好であり、前記の手法で前記有機半導体層が形成された基板上に膜を形成することができた。
(比較例1)
樹脂組成物:PMMAが3質量%となるように、PGMEAおよびNovec7300と(PGMEA:Novec7300=1:9、体積比)混合した。PMMAとPGMEAとの溶液に、Novec7300を入れたところ、PMMAが析出し、樹脂組成物を調製することができなかった。
(比較例2)
樹脂組成物:PMMAが3 質量%となるように、PGMEAおよびHFIP(PGMEA:HFIP=1:9、体積比)と混合し、樹脂組成物を調製した。樹脂組成物は、塗布性が悪く、前記の手法で前記有機半導体層が形成された基板上に膜を形成することができなかった。
【0074】
以下の有機薄膜積層構造を作製し、テープ剥離によるゴバン目試験(JIS-K-5400)を行い、残存数を数えることで、有機半導体層と絶縁層との密着性を評価した。
表2に、100個のゴバン目について、絶縁層の残存した領域の割合に応じた残存数を示す。例えば、実施例2の有機薄膜積層構造は、100個のゴバン目のうち、10%以上の領域が残ったものが57個、50%以上の領域が残ったものが6個、100%の領域が残ったものが0個であったことを示す。
【0075】
(有機薄膜積層構造)
(実施例2)
実施例1の樹脂組成物を用いて、実施例1と同じ条件で有機半導体層を成膜し、有機薄膜積層構造を作製した。
(実施例3)
実施例1の樹脂組成物に、(E)17FDTESを1質量%添加したこと以外は、実施例2と同様にして、有機薄膜積層構造を作製した。
(実施例4~9)
17FDTESに代えて、Et(TES)2(実施例4)、PFBT(実施例5)、F5B-TES(実施例6)、Ph-TES(実施例7)、MA-Pr-TES(実施例8)またはEtO-TES(実施例9)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、有機薄膜積層構造を作製した。
【0076】
(比較例3)
絶縁層を形成するために、CYTOPを含む樹脂組成物を用い、以下のようにして、有機薄膜積層構造を作製した。
CYTOP(CTL-809A,9質量%溶液)を、CT-Solv.180で希釈し、7質量%に調整したものを樹脂組成物として用いた。塗布条件は、実施例1と同じ有機半導体層が形成された基板をスピンコーターに設置し、前記樹脂組成物を200μl程度滴下し、1,000rpm、30秒の条件で塗布し、60℃のホットプレートに基板を移動させて5分間乾燥させ、120℃のホットプレートに基板を移動させて10分間乾燥させ、絶縁層を形成した。触診段差計による膜厚測定の結果、約1μmの膜厚であった。
(比較例4)
比較例3において用いた、有機半導体層が形成された基板に代えて、UV-O3処理を30分間行ったSiO2膜付きシリコン基板を用いて、基板上に直接絶縁層を形成した。
【0077】
【表2】
比較例3、4の結果から、CYTOPを用いた絶縁層は、シリコン基板との密着性は良好であるものの、有機半導体層との密着性が悪いことが分かった。CYTOPに代えてPMMAを用いた絶縁膜は、有機半導体層との密着性が良好であった。また、樹脂組成物に(E)カップリング剤を添加することにより、有機半導体層と絶縁層との密着性を向上させることができ、シラン系カップリング剤が密着性を向上させる効果に優れていた。
【0078】
(有機薄膜トランジスタ)
(実施例13)
実施例3の樹脂組成物を用いて、有機薄膜トランジスタを作製し、電気的特性を評価した。
エタノールと水を体積比で8:2になるように混合溶媒を作製し、MPTES((3-Mercaptopropyl)triethoxysilane)を0.1v/v%(体積%)となるように加え、MPTES溶液を調整した。UV-O3処理を30分間行ったSiO2膜付きシリコン基板を、前記MPTES溶液に10分間浸漬させ、エアブローを行った後に、120℃のホットプレートで乾燥させた。この基板を蒸着装置に設置し、コンタクト電極用メタルマスクを用いてパターニングされた膜厚20nmの金電極を形成し、30分間UV-O3処理を行い、電極付きの基板を作製した。
【0079】
前記電極付きの基板をスピンコーターに設置し、前記有機半導体材料溶液を10ml程度滴下し、1,000rpm、5秒の条件で塗布し、120℃のホットプレートに基板を移動させて5分間乾燥させ、有機半導体層を形成した。
前記有機半導体層が形成された基板をスピンコーターに設置し、実施例3の樹脂組成物を実施例1と同じ条件で塗布し、絶縁層を形成した。エアブローを行った後に、蒸着装置に設置し、ゲート電極用メタルマスクを用いて、パターニングされた膜厚100nmの銀電極を形成した。
得られた有機半導体トランジスタの構造は、ボトムコンタクト・トップゲート型であり、金電極がコンタクト電極(ソース電極及びドレイン電極)で、銀電極がゲート電極である。コンタクト電極は対向電極で、チャネル長100μm、チャネル幅2000μmのパターンにし、ゲート電極はチャネル領域を覆うように配置した。
【0080】
移動度の算出に用いる、絶縁膜の静電容量(C)を測定した。上記コンタクト電極用メタルマスク及びゲート電極用メタルマスクには1mm×4mmの長方形のパターンがあり、有機半導体層と絶縁層を挟む形で金電極と銀電極を配置した。半導体パラメータアナライザー(Keysight:B1500A)を用いて静電容量測定(C-f測定)を行ったところ、2.57 nF/cm2であった。
【0081】
半導体パラメータアナライザー(Keysight:B1500A)を用い、有機半導体トランジスタの測定を行った。3端子のプローバーを用い、ソース電極を基準として、ドレイン電圧(Vd)とゲート電圧(Vg)を印加した。Vdを一定にした場合にVgを連続的に変化させ、ソース・ドレイン間に流れた電流Idを測定した。得られたId-Vg曲線より、各種パラメータ(チャネル長、チャネル幅、絶縁膜の静電容量)を用いて、キャリア移動度と閾値電圧を算出した。算出には下記の式で表される、数式1の線形領域におけるドレイン電流-ゲート電圧特性相関と、数式2の飽和領域におけるドレイン電流-ゲート電圧特性相関を用いた。
【0082】
【数1】
I
d:ドレイン電流、W:チャネル幅、L:チャネル長、μ:ホール移動度、
C:絶縁膜の静電容量、V
g:ゲート電圧、V
th:閾値電圧、V
d:ドレイン電圧
【数2】
I
d:ドレイン電流、W:チャネル幅、L:チャネル長、μ:ホール移動度、
C:絶縁膜の静電容量、V
g:ゲート電圧、V
th:閾値電圧
【0083】
結果を、表3、
図4(a)~
図4(c)および
図5(a)~
図5(c)に示す。これらの図および表に示すように、実施例3の積層構造を用いて作製した有機薄膜トランジスタは、トランジスタの電気的特性が得られ、有機半導体層および絶縁膜のそれぞれが機能することを確認した。
【0084】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、有機薄膜トランジスタの有機薄膜積層構造における、有機半導体層に接して設けられる絶縁層を形成する樹脂組成物として利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 :有機薄膜積層構造
2、3、4、5:有機薄膜トランジスタ
11 :基板
12 :有機半導体層
13 :絶縁層(第1の絶縁層)
14 :ソース電極
15 :ドレイン電極
16 :ゲート電極
17 :絶縁層(第2の絶縁層)