(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20230117BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019523960
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2018021814
(87)【国際公開番号】W WO2018225810
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017113792
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】名木 達哉
(72)【発明者】
【氏名】作本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森内 正人
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀則
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-185064(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0055418(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表されるジアミン及び下記式(10)(式(10)中、Lはアルキレン
とエーテル結合
で構成された炭素数2以上
10以下の2価の有機基であり、R
1及びR
2はそれぞれ独立に1価の有機基であり、p1及びp2はそれぞれ独立に0~4の整数であり、p
は1であり、q1およびq2はそれぞれ独立に1または2である)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、下記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び下記式(2-2)(式(2-2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基である)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分とから得られる、重合体、及び
(B)有機溶媒
を含有する、液晶配向剤。
【化1】
【請求項2】
上記重合体が、ポリイミド前駆体及びそのイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
上記式(2-2)におけるRが、いずれもメチル基である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体が、下記式(3)
(式(3)において、X
1
は上記式(2-1)及び(2-2)から選ばれる少なくとも1種の構造を含むテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Y
1
は式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基であり、R
11
は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である)で表される
構造単位及び式(4)(式(4)において、X
2
はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Y
2
は前記式(10)で表されるジアミンに由来する2価の有機基であり、R
12
は、前記式(3)のR
11
の定義と同じであり、R
22
は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。)で表される構造単位を有する請求項1
又は2に記載の液晶配向剤。
【化2】
【請求項5】
前記式(3)で表される構造単位を有する重合体が、液晶配向剤に含有される全重合体に対して10モル%以上含有される、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて得られる横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板。
【請求項8】
請求項7に記載の基板を有する、横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き付き特性に優れる液晶表示素子を製造するための液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、軽量、薄型かつ低消費電力の表示デバイスとして知られ、近年では大型のテレビ用途に用いられるなど、目覚ましい発展を遂げている。液晶表示素子は、例えば、電極を備えた透明な一対の基板により液晶層を挟持して構成される。そして、液晶表示素子では、液晶が基板間で所望の配向状態となるように有機材料からなる有機膜が液晶配向膜として使用されている。
【0003】
すなわち、液晶配向膜は、液晶表示素子の構成部材であって、液晶を挟持する基板の液晶と接する面に形成され、その基板間で液晶を一定の方向に配向させるという役割を担っている。そして、液晶配向膜には、液晶を、例えば、基板に対して平行な方向など、一定の方向に配向させるという役割に加え、液晶のプレチルト角を制御するという役割を求められることがある。こうした液晶配向膜における、液晶の配向を制御する能力(以下、配向制御能と言う。)は、液晶配向膜を構成する有機膜に対して配向処理を行うことによって与えられる。
【0004】
配向制御能を付与するための液晶配向膜の配向処理方法としては、従来からラビング法が知られている。ラビング法とは、基板上のポリビニルアルコールやポリアミドやポリイミド等の有機膜に対し、その表面を綿、ナイロン、ポリエステル等の布で一定方向に擦り(ラビングし)、擦った方向(ラビング方向)に液晶を配向させる方法である。このラビング法は簡便に比較的安定した液晶の配向状態を実現できるため、従来の液晶表示素子の製造プロセスにおいて利用されてきた。そして、液晶配向膜に用いられる有機膜としては、耐熱性等の信頼性や電気的特性に優れたポリイミド系の有機膜が主に選択されてきた。
【0005】
しかしながら、ポリイミドなどからなる液晶配向膜の表面を擦るラビング法は、発塵や静電気の発生が問題となることがあった。また、近年の液晶表素子の高精細化や、対応する基板上の電極や液晶駆動用のスイッチング能動素子による凹凸のため、液晶配向膜の表面を布で均一に擦ることができず、均一な液晶の配向を実現できないことがあった。そこで、ラビングを行わない液晶配向膜の別の配向処理方法として、光配向法が盛んに検討されている。
【0006】
光配向法には様々な方法があるが、直線偏光またはコリメートした光によって液晶配向膜を構成する有機膜内に異方性を形成し、その異方性に従って液晶を配向させる。
主な光配向法としては、分解型の光配向法が知られている。例えば、ポリイミド膜に偏光紫外線を照射し、分子構造の紫外線吸収の偏光方向依存性を利用して異方的な分解を生じさせる。そして、分解せずに残されたポリイミドにより液晶を配向させるようにする(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0007】
また、光架橋型や光異性化型の光配向法も知られている。例えば、ポリビニルシンナメートを用い、偏光紫外線を照射し、偏光と平行な2つの側鎖の二重結合部分で二量化反応(架橋反応)を生じさせる。そして、偏光方向と直交した方向に液晶を 配向させる(例えば、非特許文献1を参照のこと。)。また、アゾベンゼンを側鎖に有する側鎖型高分子を用いた場合、偏光紫外線を照射し、偏光と平行な側鎖のアゾ ベンゼン部で異性化反応を生じさせ、偏光方向と直交した方向に液晶を配向させる(例えば、非特許文献2を参照のこと。)。
【0008】
また、交流駆動による残像特性を改善する光配向膜として、シクロブタン環およびイミド基を含有するジアミンを用いて製造したポリアミック酸を用いる方法が知られている(例えば、特許文献3を参照のこと)。
【0009】
以上の例のように、光配向法による液晶配向膜の配向処理方法では、ラビングを不要とし、発塵や静電気の発生の懸念が無い。そして、表面に凹凸のある液晶表示素子の基板に対しても配向処理を施すことができ、工業的な 生産プロセスに好適な液晶配向膜の配向処理の方法となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第3893659号公報
【文献】特許第3612832号公報
【文献】韓国特許出願公開10-2016-0142614号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】M. Shadt et al., Jpn. J. Appl. Phys. 31, 2155 (1992).
【文献】K. Ichimura et al., Chem. Rev. 100, 1847 (2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、光配向法は、液晶表示素子の配向処理方法として従来から工業的に利用されてきたラビング法と比べてラビング工程そのものを不要とし、そのため大きな利点を備える。そして、ラビングによって配向制御能がほぼ一定となるラビング法に比べ、光配向法では、偏光した光の照射量を変化させて配向制御能を制御することができる。しかしながら、光配向法では、ラビング法による場合と同程度の配向制御能を実現しようとする場合、大量の偏光した光の照射量が必要となったり、安定な液晶の配向が実現できない場合がある。
【0013】
例えば、上記した特許文献1に記載の分解型の光配向法では、ポリイミド膜に出力500Wの高圧水銀灯からの紫外光を60分間照射する必要があるなど、長時間かつ大量の紫外線照射が必要となる。また、二量化型や光異性化型の光配向法の場合においても、数J(ジュール)~数十J程度の多くの量の紫外線照射が必要となる場合がある。さらに、光架橋型や光異性化型の光配向法の場合、液晶の配向の熱安定性や光安定性に劣るため、液晶表示素子とした場合に、配向不良や表示焼き付きが発生するといった問題があった。特に横電界駆動型の液晶表示素子では液晶分子を面内でスイッチングするため、液晶駆動後の液晶の配向ズレが発生しやすく、AC駆動に起因する表示焼き付きが大きな課題とされている。
【0014】
したがって、光配向法では、配向処理の高効率化や安定な液晶配向の実現が求められており、液晶配向膜への高い配向制御能の付与を高効率に行うことができる液晶配向膜及びその製造方法が求められている。
【0015】
本発明は、高効率で配向制御能が付与され、焼き付き特性に優れた、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成するべく鋭意検討を行った結果、以下の発明を見出した。
【0017】
1.(A)下記式(1)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、下記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び下記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分とから得られる重合体、及び(B)有機溶媒を含有する、液晶配向剤。
【0018】
【0019】
【0020】
(式(2-2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基である。)
【0021】
2.上記重合体が、ポリイミド前駆体及びそのイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1に記載の液晶配向剤。
3.上記式(2-2)におけるRがいずれもメチル基である上記1又は2のいずれかに記載の液晶配向剤。
4.前記重合体が、下記式(3)で表される上記1~3のいずれかに記載の液晶配向剤。
【0022】
【0023】
(式(3)において、X1は上記式(2-1)及び(2-2)から選ばれる少なくとも1種の構造を含むテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Y1は式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基であり、R11は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)
5.前記式(3)で表される構造単位を有する重合体が、液晶配向剤に含有される全重合体に対して10モル%以上含有される上記4に記載の液晶配向剤。
6.上記1~5のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて得られる横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜。
7.上記6に記載の横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板。
8.上記7に記載の基板を有する横電界駆動型液晶表示素子。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、高効率で配向制御能が付与され、焼き付き特性に優れた、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子を提供することができる。
本発明の方法によって製造された横電界駆動型液晶表示素子は、高効率に配向制御能が付与されているため長時間連続駆動しても表示特性が損なわれることがない。
【0025】
本発明の製造方法において用いられる重合体組成物は、自己組織能を発現し得る感光性の主鎖型高分子(以下、単に主鎖型高分子とも呼ぶ)を有しており、前記重合体組成物を用いて得られる塗膜は、自己組織能を発現し得る感光性の主鎖型高分子を有する膜である。この塗膜にはラビング処理を行うこと無く、偏光照射によって配向処理を行う。そして、偏光照射の後、その主鎖型高分子膜を加熱する工程を経て、配向制御能が付与された塗膜(以下、液晶配向膜とも称する)となる。このとき、偏光照射によって発現した僅かな異方性がドライビングフォースとなり、主鎖型高分子自体が自己組織化により効率的に再配向する。その結果、液晶配向膜として高効率な配向処理が実現し、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができる。
【0026】
また、本発明の重合体組成物によって形成された液晶配向膜は、膜強度が優れている。これにより、液晶表示素子としたときに、スリミング(化学研磨)による薄型加工処理を行っても、液晶配向膜の削れや剥がれが起きにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、上記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び上記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分から得られる重合体(以下、特定重合体とも、主鎖型高分子とも言う)を含有する液晶配向剤である。以下、各条件につき詳述する。
【0028】
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表されるジアミン(本発明では、特定ジアミンともいう。)を含むジアミン成分と、上記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物(本発明では、特定テトラカルボン酸二無水物ともいう。)、及び上記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステル(本発明では、特定テトラカルボン酸ジエステルともいう。)から選ばれる少なくとも1種を含む酸成分から得られる重合体と、有機溶媒とを含有する液晶配向剤である。
【0029】
<重合体>
本発明の液晶配向剤に用いられる重合体は、上記式(1)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、上記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び上記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分から得られる重合体である。具体例としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドなどが挙げられるが、液晶配向剤としての使用の観点から、下記式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種であると好ましい。偏光照射の後の加熱工程において、重合体中に自由回転部位が多い事でより高秩序に再配向するという点で、ポリイミド前駆体がより好ましい。
【0030】
【0031】
上記式(3)において、X1は上記式(2-1)及び(2-2)から選ばれる少なくとも1種の構造を含むテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Y1は式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基であり、R11は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。R11は、加熱によるイミド化のしやすさの点から、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0032】
<テトラカルボン酸誘導体>
X1は上記式(2-1)及び(2-2)から選ばれる少なくとも1種の構造を含むテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基である。
【0033】
【0034】
(式(2-2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基である。)
【0035】
上記の構造のうち、加熱によるイミド化のしやすさの点から、Rはメチル基であるのが好ましい。
【0036】
<ジアミン>
式(3)において、Y1は前記式(1)で表されるジアミンから2つのアミノ基を除いた構造である。
【0037】
<重合体(その他の構造単位)>
式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体は、本発明の効果を損なわない範囲において、下記式(4)で表される構造単位、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種を含んでいても良い。
【0038】
【0039】
式(4)において、X2はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Y2はジアミンに由来する2価の有機基であり、R12は、前記式(3)のR11の定義と同じであり、R22は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。また、2つあるR22の少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。
X2はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、その構造は特に限定されるものではない。また、ポリイミド前駆体中のX2は、重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶の配向性、電圧保持率、蓄積電荷など、必要とされる特性の程度に応じて適宜選択され、同一重合体中に1種類であってもよく、2種類以上が混在していても良い。
【0040】
X2の具体例をあえて示すならば、国際公開公報2015/119168号公報の13項~14項に掲載される、式(X-1)~(X-46)の構造などが挙げられる。
【0041】
以下に、好ましいX2の構造を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
【0043】
【0044】
また、ポリイミド前駆体中のY2はジアミンに由来する二価の有機基であり、その構造は特に限定されない。また、Y2は重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶の配向性、電圧保持率、蓄積電荷など、必要とされる特性の程度に応じて適宜選択され、同一重合体中に1種類であってもよく、2種類以上が混在していても良い。
【0045】
Y2の具体例をあえて示すならば、国際公開公報2015/119168号公報の4項に掲載される式(2)の構造、及び、8項~12項に掲載される、式(Y-1)~(Y-97)、(Y-101)~(Y-118)の構造;国際公開公報2013/008906号公報の6項に掲載される、式(2)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2015/122413号公報の8項に掲載される式(1)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2015/060360号公報の8項に掲載される式(3)の構造;日本国特開2012-173514号公報の8項に記載される式(1)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2010-050523号公報の9項に掲載される式(A)~(F)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基、などが挙げられる。
【0046】
好ましいY2の構造としては、下記式(5)の構造が挙げられる。
【0047】
【0048】
式(5)中、R32は単結合又は2価の有機基であり、単結合が好ましい。
R33は-(CH2)n-で表される構造である。nは2~10の整数であり、3~7が好ましい。また、任意の-CH2-はそれぞれ隣り合わない条件でエーテル、エステル、アミド、ウレア、カルバメート結合に置き換えられても良い。
R34は単結合又は2価の有機基である。
ベンゼン環上の任意の水素原子は1価の有機基で置き換えられても良く、フッ素原子又はメチル基が好ましい。
【0049】
式(5)で表される構造としては、具体的には以下のような構造が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
中でも、Y2の構造を与えるジアミンとしては、下記式(10)で表されるジアミンが好ましい。
【0056】
【0057】
(式(10)中、Lはアルキレンと、エーテル結合及びエステル結合から選ばれる結合のいずれかとを同時に含む炭素数2以上の2価の有機基であり、R1及びR2はそれぞれ独立に1価の有機基であり、p1及びp2はそれぞれ独立に0~4の整数であり、pは0または1であり、q1およびq2はそれぞれ独立に1または2である)。
【0058】
ここにおける1価の有機基としては、炭素数が1~10、好ましくは1~3を有する、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、若しくはフルオロアルコキシ基が挙げられる。なかでも、1価の有機基としては、メチル基が好ましい。
【0059】
2価の有機基としては、アルキレンとエーテル結合で構成された基や、アルキレンとエステル結合で構成された基、水素原子の一部又は全部がハロゲンに置き換えられたアルキレンとエーテル結合で構成された基や、水素原子の一部又は全部がハロゲンに置き換えられたアルキレンとエステル結合で構成された基が挙げられる。なかでも、2価の有機基としては、アルキレンとエーテル結合で構成された基が好ましい。炭素数は2以上20以下であるのが好ましく、2以上10以下であるのがより好ましい。
【0060】
また、Lの原子数のうち、主鎖の長さに関与する炭素原子と酸素原子の原子数の合計が偶数である場合、得られる重合体の直線性が高くなる結果、偏光照射の後の加熱工程において、より高秩序に再配向することで、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができるため好ましい。なお、主鎖の長さに関与する炭素原子と酸素原子の原子数の合計とは、主鎖のメチレン1つあたりの数を1、エーテル結合1つあたりの数を1、エステル結合1つあたりの数を2とした場合の合計のことである。
【0061】
p1およびp2としては、立体障害が少ないことでフェニル基同士が重なり易く、より高秩序に再配向するという点で0が好ましい。
【0062】
pとしては、自由回転部位として機能するアルキレンを有する方がより高秩序に再配向するという点で1が好ましい。
【0063】
上記式(10)のジアミンのうち、pが1であるジアミンの具体例としては以下が例示出来るが、これらに限定されない。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
ここで、r、t及びuの合計は2、4、6、8及び10等の偶数である場合、得られる重合体の直線性が高くなる結果、偏光照射の後の加熱工程において、より高秩序に再配向することで、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができる。
sは1、3、5等の奇数であるのが、上記の理由で好ましい。
【0068】
上記式(10)で表されるジアミンのうち、pが0であるジアミンの具体例としてはp-フェニレンジアミンが挙げられる。
【0069】
式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体が、式(4)で表される構造単位を同時に含む場合、式(4)で表される構造単位は、得られる液晶配向膜の配向性の観点から、式(3)と式(4)の合計に対して10モル%~90モル%であることが好ましく、より好ましくは20モル%~80モル%であり、特に好ましくは30モル%~70モル%である。
【0070】
本発明に用いるポリイミド前駆体の分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。
【0071】
本発明に用いるポリイミドとしては、前記のポリイミド前駆体を閉環させて得られるポリイミドが挙げられる。このポリイミドにおいては、アミド酸基の閉環率(イミド化率ともいう)は必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。本発明の重合体については、液晶配向性の観点から、イミド化率は0~70%が好ましく、より好ましくは0~50%である。なお、ここでいうイミド化率は、式(1)で表されるジアミン由来のイミド構造を除外して計算されるイミド化率である。
ポリイミド前駆体をイミド化させる方法としては、ポリイミド前駆体の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、又はポリイミド前駆体の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
【0072】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、上記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び上記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分から得られる重合体(特定重合体)を含有するものであるが、本発明に記載の効果を奏する限度において、異なる構造の特定重合体を2種以上含有していてもよい。また、特定重合体に加えて、その他の重合体、即ち式(1)で表されるジアミン由来の2価の基を有さない重合体を含有していてもよい。その他の重合体の種類としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレンまたはその誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。本発明の液晶配向剤がその他の重合体を含有する場合、全重合体成分に対する特定重合体の割合は10質量%以上であることが好ましく、その一例として10~100質量%が挙げられる。
【0073】
液晶配向剤は、液晶配向膜を作製するために用いられるものであり、均一な薄膜を形成させるという観点から、一般的には塗布液の形態をとる。本発明の液晶配向剤においても前記した重合体成分と、この重合体成分を溶解させる有機溶媒とを含有する塗布液であることが好ましい。その際、液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができる。均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下とすることが好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2~8質量%である。
【0074】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどを挙げることができる。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0075】
また、液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記のような溶媒に加えて液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒を併用した混合溶媒を使用することが一般的であり、本発明の液晶配向剤においてもこのような混合溶媒は好適に用いられる。併用する有機溶媒の具体例を下記に挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
【0076】
例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、下記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒などを挙げることができる。
【0077】
【0078】
式[D-1]中、D1は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、D2は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、D3は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0079】
このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0080】
本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、重合体成分及び有機溶媒以外の成分を追加的に含有しても良い。このような追加成分としては、液晶配向膜と基板との密着性や液晶配向膜とシール材との密着性を高めるための密着助剤、液晶配向膜の強度を高めるための架橋剤、液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための誘電体や導電物質などが挙げられる。これら追加成分の具体例としては、液晶配向剤に関する公知の文献に種々開示されているとおりであるが、あえてその一例を示すなら、公開公報2015/060357号パンフレットの53ページ[0105]~55ページ[0116]に開示されている成分などが挙げられる。
【0081】
<液晶配向膜を有する基板の製造方法>及び<液晶表示素子の製造方法>
本発明の液晶配向膜を有する基板の製造方法は、
[I] (A)上記式(1)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、上記式(2-1)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、及び上記式(2-2)で表されるシクロブタンテトラカルボン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種を含む酸成分から得られる重合体、及び(B)有機溶媒を含有する重合体組成物を、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布したあと、乾燥して塗膜を形成する工程;
[II] [I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III] [II]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有する。
上記工程により、配向制御能が付与された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得ることができ、該液晶配向膜を有する基板を得ることができる。
【0082】
また、上記得られた基板(第1の基板)の他に、第2の基板を準備することにより、横電界駆動型液晶表示素子を得ることができる。
第2の基板は、横電界駆動用の導電膜を有する基板に代わって、横電界駆動用の導電膜を有しない基板を用いる以外、上記工程[I]~[III](横電界駆動用の導電膜を有しない基板を用いるため、便宜上、本願において、工程[I’]~[III’]と略記する場合がある)を用いることにより、配向制御能が付与された液晶配向膜を有する第2の基板を得ることができる。
【0083】
横電界駆動型液晶表示素子の製造方法は、
[IV] 上記で得られた第1及び第2の基板を、液晶を介して第1及び第2の基板の液晶配向膜が相対するように、対向配置して液晶表示素子を得る工程;
を有する。これにより横電界駆動型液晶表示素子を得ることができる。
【0084】
以下、本発明の製造方法の有する[I]~[III]、および[IV]の各工程について説明する。
<工程[I]>
工程[I]では、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に、感光性の主鎖型高分子及び有機溶媒を含有する重合体組成物を塗布したあと乾燥して塗膜を形成する。
【0085】
<基板>
基板については、特に限定はされないが、製造される液晶表示素子が透過型である場合、透明性の高い基板が用いられることが好ましい。その場合、特に限定はされず、ガラス基板、またはアクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができる。
また、反射型の液晶表示素子への適用を考慮し、シリコンウェハなどの不透明な基板も使用できる。
【0086】
<横電界駆動用の導電膜>
基板は、横電界駆動用の導電膜を有する。
該導電膜として、液晶表示素子が透過型である場合、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、IZO(Indium Zinc Oxide:酸化インジウム亜鉛)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、反射型の液晶表示素子の場合、導電膜として、アルミなどの光を反射する材料などを挙げることができるがこれらに限定されない。
基板に導電膜を形成する方法は、従来公知の手法を用いることができる。
【0087】
上述した重合体組成物を横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布する方法は特に限定されない。
塗布方法は、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷またはインクジェット法などで行う方法が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナ法(回転塗布法)またはスプレー法などがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。
【0088】
横電界駆動用の導電膜を有する基板上に重合体組成物を塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段により30~150℃、好ましくは70~110℃で溶媒を蒸発させて塗膜を得ることができる。乾燥温度が低すぎる場合、溶剤の乾燥が不十分となる傾向があり、また加熱温度が高すぎると、熱イミド化が進行する結果、偏光露光によって光分解反応が過剰に進行してしまい、この場合自己組織化による一方向への再配向が困難になり、配向安定性を損なうことがある。従って、このときの乾燥温度は、液晶配向安定性の観点から特定重合体の熱イミド化が実質的に進行しない温度であることが好ましい。
塗膜の厚みは、厚すぎると液晶表示素子の消費電力の面で不利となり、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、好ましくは5nm~300nm、より好ましくは10nm~150nmである。
尚、[I]工程の後、続く[II]工程の前に塗膜の形成された基板を室温にまで冷却する工程を設けることも可能である。
【0089】
<工程[II]>
工程[II]では、工程[I]で得られた塗膜に偏光した紫外線を照射する。塗膜の膜面に偏光した紫外線を照射する場合、基板に対して一定の方向から偏光板を介して偏光された紫外線を照射する。使用する紫外線としては、波長100nm~400nmの範囲の紫外線を使用することができる。好ましくは、使用する塗膜の種類によりフィルター等を介して最適な波長を選択する。そして、例えば、選択的に光分解反応を誘起できるように、波長240nm~400nmの範囲の紫外線を選択して使用することができる。紫外線としては、例えば、高圧水銀灯又はメタルハライドランプから放射される光を用いることができる。
【0090】
偏光した紫外線の照射量は、使用する塗膜に依存する。照射量は、該塗膜における、偏光した紫外線の偏光方向と平行な方向の紫外線吸光度と垂直な方向の紫外線吸光度との差であるΔAの最大値(以下、ΔAmaxとも称する)を実現する偏光紫外線の量の1%~70%の範囲内とすることが好ましく、1%~50%の範囲内とすることがより好ましい。
【0091】
<工程[III]>
工程[III]では、工程[II]で偏光した紫外線の照射された塗膜を加熱する。加熱により、塗膜に配向制御能を付与することができる。
加熱は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段を用いることができる。加熱温度は、使用する塗膜で良好な液晶配向安定性及び電気特性を発現させる温度を考慮して決めることができる。
【0092】
加熱温度は、主鎖型高分子が良好な液晶配向安定性を発現する温度範囲内であることが好ましい。加熱温度が低すぎる場合、熱による異方性の増幅効果や熱イミド化が不十分となる傾向があり、また加熱温度が温度範囲よりも高すぎると、偏光露光によって付与された異方性が消失してしまう傾向があり、この場合自己組織化によって一方向に再配向することが困難になることがある。
【0093】
加熱後に形成される塗膜の厚みは、工程[I]で記した同じ理由から、好ましくは5nm~300nm、より好ましくは50nm~150nmであるのがよい。
【0094】
以上の工程を有することにより、本発明の製造方法では、高効率な、塗膜への異方性の導入を実現することができる。そして、高効率に液晶配向膜付基板を製造することができる。
【0095】
<工程[IV]>
[IV]工程は、[III]で得られた、横電界駆動用の導電膜上に液晶配向膜を有する基板(第1の基板)と、同様に上記[I’]~[III’]で得られた、導電膜を有しない液晶配向膜付基板(第2の基板)とを、液晶を介して、双方の液晶配向膜が相対するように対向配置して、公知の方法で液晶セルを作製し、横電界駆動型液晶表示素子を作製する工程である。なお、工程[I’]~[III’]は、工程[I]において、横電界駆動用の導電膜を有する基板の代わりに、該横電界駆動用導電膜を有しない基板を用いた以外、工程[I]~[III]と同様に行うことができる。工程[I]~[III]と工程[I’]~[III’]との相違点は、上述した導電膜の有無だけであるため、工程[I’]~[III’]の説明を省略する。
【0096】
液晶セル又は液晶表示素子の作製の一例を挙げるならば、上述の第1及び第2の基板を用意し、片方の基板の液晶配向膜上にスペーサを散布し、液晶配向膜面が内側になるようにして、もう片方の基板を貼り合わせ、液晶を減圧注入して封止する方法、または、スペーサを散布した液晶配向膜面に液晶を滴下した後に、基板を貼り合わせて封止を行う方法、等を例示することができる。このとき、片側の基板には横電界駆動用の櫛歯のような構造の電極を有する基板を用いることが好ましい。このときのスペーサの径は、好ましくは1μm~30μm、より好ましくは2μm~10μmである。このスペーサ径が、液晶層を挟持する一対の基板間距離、すなわち、液晶層の厚みを決めることになる。
【0097】
本発明の塗膜付基板の製造方法は、重合体組成物を基板上に塗布し塗膜を形成した後、偏光した紫外線を照射する。次いで、加熱を行うことにより主鎖型高分子膜への高効率な異方性の導入を実現し、液晶の配向制御能を備えた液晶配向膜付基板を製造する。
本発明に用いる塗膜では、主鎖の光反応に基づく自己組織化によって誘起される分子再配向の原理を利用して、塗膜への高効率な異方性の導入を実現する。本発明の製造方法では、主鎖型高分子に光反応性基として光分解性基を有する構造の場合、主鎖型高分子を用いて基板上に塗膜を形成した後、偏光した紫外線を照射し、次いで、加熱を行った後、液晶表示素子を作成する。
【0098】
したがって、本発明の方法に用いる塗膜は、塗膜への偏光した紫外線の照射と加熱処理を順次行うことにより、高効率に異方性が導入され、配向制御能に優れた液晶配向膜とすることができる。
【0099】
そして、本発明の方法に用いる塗膜では、塗膜への偏光した紫外線の照射量と、加熱処理における加熱温度を最適化する。それにより高効率な、塗膜への異方性の導入を実現することができる。
【0100】
本発明に用いられる塗膜への高効率な異方性の導入に最適な偏光紫外線の照射量は、その塗膜において感光性基が光分解反応する量を最適にする偏光紫外線の照射量に対応する。本発明に用いられる塗膜に対して偏光した紫外線を照射した結果、光分解反応する感光性基が少ないと、十分な光反応量とならない。その場合、その後に加熱しても十分な自己組織化は進行しない。
【0101】
したがって、本発明に用いられる塗膜において、偏光紫外線の照射によって感光性基が光分解反応する最適な量は、その高分子膜の0.1モル%~90モル%にすることが好ましく、0.1モル%~80モル%にすることがより好ましい。光反応する感光性基の量をこのような範囲にすることにより、その後の加熱処理での自己組織化が効率良く進み、膜中での高効率な異方性の形成が可能となる。
【0102】
本発明の方法に用いる塗膜では、偏光した紫外線の照射量の最適化により、高分子膜の主鎖における、感光性基の光分解反応の量を最適化する。そして、その後の加熱処理と併せて、高効率な、本発明に用いられる塗膜への異方性の導入を実現する。その場合、好適な偏光紫外線の量については、本発明に用いられる塗膜の紫外吸収の評価に基づいて行うことが可能である。
【0103】
すなわち、本発明に用いられる塗膜について、偏光紫外線照射後の、偏光した紫外線の偏光方向と平行な方向の紫外線吸収と、垂直な方向の紫外線吸収とをそれぞれ測定する。紫外吸収の測定結果から、その塗膜における、偏光した紫外線の偏光方向と平行な方向の紫外線吸光度と垂直な方向の紫外線吸光度との差であるΔAを評価する。そして、本発明に用いられる塗膜において実現されるΔAの最大値(ΔAmax)とそれを実現する偏光紫外線の照射量を求める。本発明の製造方法では、このΔAmaxを実現する偏光紫外線照射量を基準として、液晶配向膜の製造において照射する、好ましい量の偏光した紫外線量を決めることができる。
【0104】
以上より、本発明の製造方法では、塗膜への高効率な異方性の導入を実現するため、その主鎖型高分子が液晶配向安定性を与える温度範囲を基準として、上述したような好適な加熱温度を定めるのがよい。したがって、例えば、本発明に用いられる主鎖型高分子が液晶配向安定性を与える温度範囲が、使用する塗膜で良好な液晶配向安定性及び電気特性を発現させる温度を考慮して決めることができ、従来のポリイミドなどからなる液晶配向膜に準じた温度範囲で設定できる。すなわち偏光紫外線照射後の加熱の温度は150℃~300℃とすることが好ましく、180℃~250℃とすることがより望ましい。こうすることにより、本発明に用いられる塗膜において、より大きな異方性が付与されることになる。
【0105】
こうすることにより、本発明によって提供される液晶表示素子は光や熱などの外部ストレスに対して高い信頼性を示すことになる。
【0106】
以上のようにして、本発明の重合体を用いて製造された横電界駆動型液晶表示素子用基板又は該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子は、信頼性に優れたものとなり、大画面で高精細の液晶テレビなどに好適に利用できる。また、本発明の方法によって製造された液晶配向膜は、優れた液晶配向安定性と信頼性を有することから、液晶を用いた可変位相器にも利用することができ、この可変位相器は、例えば共振周波数を可変できるアンテナなどに好適に利用できる。
【実施例】
【0107】
実施例で使用する略号は以下のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
DA-1:下記構造式(DA-1)
DA-2:下記構造式(DA-2)
DA-3:下記構造式(DA-3)
DA-4:下記構造式(DA-4)
DA-5:下記構造式(DA-5)
DA-6:下記構造式(DA-6)
DA-7:下記構造式(DA-7)
DA-8:下記構造式(DA-8)
DA-9:下記構造式(DA-9)
DA-10:下記構造式(DA-10)
CA-1:下記構造式(CA-1)
CA-2:下記構造式(CA-2)
DE-1:下記構造式(DE-1)
DBOP:ジフェニル(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホナート
【0108】
【0109】
(但し、Bocは、下記式で表される基である。)
【0110】
【0111】
【0112】
<粘度の測定>
合成例において、重合体溶液の粘度は、E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0113】
(合成例1)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を0.485g(1.20mmol)、DA-2を0.763g(2.80mmol)量り取り、NMPを11.6g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を0.721g(3.68mmol)添加し、さらにNMPを2.9g加え、窒素雰囲気下23℃で5時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は268mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに7.8g分取し、NMPを6.8g、およびBCSを6.2g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-1)を得た。
【0114】
(合成例2)
撹拌子を入れた100mL四つ口フラスコにDE-1を1.89g(7.25mmol)量り取り、NMPを41.1g加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミンを2.37g(23.4mmol)、DA-1を0.946g(2.34mmol)、DA-2を1.49g(5.46mmol)加え、撹拌して分散させた。この懸濁液を撹拌しながらDBOPを5.71g(14.9mmol)添加し、更にNMPを5.6g加え、水冷下で13時間撹拌してポリアミック酸エステル―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸エステル―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は24.7mPa・sであった。
得られたポリアミック酸エステル溶液―ポリイミド共重合体を354gのメタノールに攪拌しながら投入し、析出した沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで3回洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミック酸エステル―ポリイミド共重合体の粉末を得た。
得られたポリアミック酸エステル―ポリイミド共重合体の粉末を2.11g、撹拌子の入った100mL三角フラスコに取り、NMPを15.5g加え、室温で20時間撹拌して溶解させた。続いて、NMPを15.2g、BCSを14.1g加え、室温で2時間撹拌して液晶配向剤(A-2)を得た。
【0115】
(合成例3)
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.94g(4.80mmol)、DA-2を0.436g(1.60mmol)、DA-3を0.477g(1.60mmol)量り取り、NMPを22.1g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.44g(7.36mmol)添加し、さらにNMPを9.5g加え、窒素雰囲気下23℃で5時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は347mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに14.5g分取し、NMPを12.6g、およびBCSを11.6g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-3)を得た。
【0116】
(合成例4)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.62g(4.00mmol)、DA-4を1.38g(6.00mmol)量り取り、NMPを30.0g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.76g(9.00mmol)添加し、さらにNMPを12.9g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は104mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.3g分取し、NMPを6.1g、およびBCSを9.2g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-4)を得た。
【0117】
(合成例5)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.21g(3.00mmol)、DA-5を1.71g(7.00mmol)量り取り、NMPを29.5g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.76g(9.00mmol)添加し、さらにNMPを12.7g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は142mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.6g分取し、NMPを6.2g、およびBCSを9.4g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-5)を得た。
【0118】
(合成例6)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.61g(4.00mmol)、DA-6を1.55g(6.00mmol)量り取り、NMPを31.1g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.76g(9.00mmol)添加し、さらにNMPを13.3g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は117mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.2g分取し、NMPを6.1g、およびBCSを9.1g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-6)を得た。
【0119】
(合成例7)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.46g(3.60mmol)、DA-7を1.62g(5.40mmol)量り取り、NMPを29.4g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.59g(8.10mmol)添加し、さらにNMPを12.6g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は139mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.6g分取し、NMPを6.2g、およびBCSを9.4g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-7)を得た。
【0120】
(合成例8)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を2.59g(6.40mmol)、DA-8を0.638g(1.60mmol)量り取り、NMPを29.2g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.41g(7.20mmol)添加し、さらにNMPを12.5g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は191mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに14.7g分取し、NMPを5.9g、およびBCSを8.8g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-8)を得た。
【0121】
(合成例9)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.46g(3.60mmol)、DA-7を1.08g(3.60mmol)、DA-9を0.615g(1.80mmol)量り取り、NMPを29.9g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.59g(8.10mmol)添加し、さらにNMPを12.8g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は108mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.1g分取し、NMPを6.0g、およびBCSを9.1g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-9)を得た。
【0122】
(合成例10)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を1.29g(3.20mmol)、DA-7を0.961g(3.20mmol)、DA-10を0.891g(1.60mmol)量り取り、NMPを28.7g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-1を1.41g(7.20mmol)添加し、さらにNMPを12.3g加え、窒素雰囲気下40℃で16時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は116mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに15.0g分取し、NMPを6.0g、およびBCSを9.0g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(A-10)を得た。
【0123】
(比較合成例1)
撹拌装置及び窒素導入管付きの50mLの四つ口フラスコに、DA-1を0.364g(0.90mmol)、DA-2を0.572g(2.10mmol)量り取り、NMPを9.2g加え、窒素を送りながら撹拌して分散させた。このジアミン懸濁液を水冷下で撹拌しながら、CA-2を0.632g(2.82mmol)添加し、さらにNMPを2.3g加え、窒素雰囲気下40℃で15時間撹拌してポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を得た。このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液の温度25℃における粘度は326mPa・sであった。
このポリアミック酸―ポリイミド共重合体の溶液を撹拌子の入った100mL三角フラスコに7.5g分取し、NMPを6.5g、およびBCSを6.0g加え、室温で2時間撹拌して、液晶配向剤(B-1)を得た。
【0124】
<液晶配向性評価用液晶セルの作製>
以下に、液晶配向性を評価するための液晶セルの作製方法を示す。
FFS方式の液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製した。初めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、IZO電極を全面に形成した。第1層目の対向電極の上には、第2層目として、CVD法により成膜したSiN(窒化珪素)膜を形成した。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目として、IZO膜をパターニングして形成した櫛歯状の画素電極を配置し、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成した。各画素のサイズは、縦10mm、横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により、電気的に絶縁されている。
【0125】
第3層目の画素電極は、特開2014-77845(日本国公開特許公報)に記載の図と同様、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極を、中央部分の屈曲した、くの字形状の電極要素を複数配列して構成したため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字の、くの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0126】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向を基準とした場合、画素の第1領域では、画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成し、画素の第2領域では、画素電極の電極要素が-10°の角度(時計回り)をなすように形成した。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が、互いに逆方向となるように構成した。
【0127】
次に、合成例および比較合成例で得られた液晶配向剤を、1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板に、スピンコート塗布にて塗布した。次いで、70℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させた。次いで、ウシオ電機(株)製露光装置:APL-L050121S1S-APW01を用いて、基板に対して鉛直方向から、波長選択フィルターおよび偏光板を介して紫外線の直線偏光を照射した。このとき、偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向が、3層目IZO櫛歯電極に対して10°傾いた方向となるように偏光面方向を設定した。次いで、230℃に設定したIR(赤外線)型オーブンで30分間焼成を行い、配向処理が施された膜厚100nmのポリイミド液晶配向膜付き基板を得た。また、対向基板として、裏面にITO電極が形成されている、高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板にも、上記と同様にして配向処理が施されたポリイミド液晶配向膜付き基板を得た。これら2枚の液晶配向膜付き基板を1組とし、片方の基板上に液晶注入口を残した形でシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合い、偏光紫外線の偏光面を基板に投影した線分の方向が平行になるようにして張り合わせて圧着した。その後、シール剤を硬化させて、セルギャップが4μmの空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-7026-100(メルク社製ネガ液晶)を注入し、注入口を封止して、FFS方式の液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを120℃で30分間加熱し、23℃で一晩放置してから液晶配向性の評価に使用した。
【0128】
<液晶配向性の評価>
この液晶セルを用い、70℃の恒温環境下、周波数30Hzで16VPPの交流電圧を96時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間を短絡させた状態にし、そのまま23℃で一晩放置した。
【0129】
放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。そして、第1画素と第2画素の角度Δ値の平均値を液晶セルの角度Δとして算出した。この液晶セルの角度Δの値が0.2°未満の場合には「良好」、角度Δの値が0.2°以上の場合には「不良」と定義し評価した。
【0130】
<膜強度の評価>
合成例および比較合成例で得られた液晶配向剤を、1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板に、スピンコート塗布にて塗布した。次いで、70℃に設定したホットプレート上で90秒間乾燥させた。次いで、230℃に設定したIR(赤外線)型オーブンで30分間焼成を行い、配向処理が施された膜厚100nmのポリイミド液晶配向膜付き基板を得た。このポリイミド膜を吉川化工製レーヨン布:YA-20-Rでラビング(ローラー直径120mm、ローラー回転数1000rpm、移動速度20mm/sec、押し込み長0.3mm)した。このポリイミド膜表面における傷や削れカスの有無を、共焦点レーザ顕微鏡で観察した。傷や削れカスが無いものを「良好」、傷や削れカスが有るものを「不良」とした。
【0131】
(実施例1)
合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を用いて、上記記載のように液晶セルを作製した。偏光紫外線の照射は、高圧水銀灯を用いて、波長選択フィルター:240LCF、および254nmタイプの偏光板を介して行った。偏光紫外線の照射量は、ウシオ電機(株)製照度計UVD-S254SBを用いて光量を測定し、波長254nmの偏光紫外線照射量が200、300、400mJ/cm2となる3種類の液晶セルを作製した。
【0132】
これらの液晶セルについて、液晶配向性を評価した結果、角度Δが最良だった偏光紫外線照射量は300mJ/cm2であり、角度Δは0.05°であり良好であった。
また、合成例1で得られた液晶配向剤(A-1)を用いて、上記記載のように膜強度を評価した結果、良好であった。
【0133】
(実施例2~10)
合成例2~10で得られた液晶配向剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、液晶配向性、および膜強度を評価した。
【0134】
(比較例1)
比較合成例1で得られた液晶配向剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、液晶配向性、および膜強度を評価した。
【0135】
表1に、合成例および比較合成例で得られた液晶配向剤を用いた際の、角度Δが最良だった偏光紫外線照射量、液晶配向性の評価の結果、および膜強度の評価の結果を示す。
【0136】
【0137】
表1に示すように、実施例1~10においては、交流駆動前後の配向方位角の差である角度Δは0.2°未満で良好であることから、液晶表示素子の表示品質向上に優れる。また、膜強度も良好であることから、液晶表示素子としたときに、スリミング(化学研磨)による薄型加工処理を行っても、液晶配向膜の削れや剥がれが起きにくくなる。一方比較例1においては、角度Δが0.2°以上で不良であり、膜強度も不良であった。
【0138】
このように本発明の方法によって製造された液晶表示素子は、非常に優れた残像特性、および膜強度を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の組成物を用いて製造された横電界駆動型液晶表示素子用基板又は該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子は、液晶配向の長期安定性に優れたものとなり、大画面で高精細の液晶テレビなどに好適に利用できる。また、本発明の組成物を用いて製造された横電界駆動型液晶表示素子用基板又は該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子は、優れた膜強度を有するため、スリミングを行う小型の携帯電話やスマートフォンなどにも好適に利用できる。更に、本発明の方法によって製造された液晶配向膜は、液晶を用いた可変位相器にも利用することができ、この可変位相器は、例えば共振周波数を可変できるアンテナなどに好適に利用できる。