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特許7211571銀用エッチング液、及びそれを用いたプリント配線板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】銀用エッチング液、及びそれを用いたプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/30 20060101AFI20230117BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C23F1/30
H05K3/06 M
H05K3/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022552335
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2021044185
(87)【国際公開番号】W WO2022130991
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020207422
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】新林 昭太
(72)【発明者】
【氏名】深澤 憲正
(72)【発明者】
【氏名】村川 昭
(72)【発明者】
【氏名】冨士川 亘
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/080178(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/171051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸と過酸化水素を含有する水溶液である、銀層上に導体回路層が形成された基材用銀層エッチング液。
【請求項2】
前記クエン酸が1~30質量%であり、前記過酸化水素が1~22質量%であり、全エッチング液中の水が48~97質量%である、請求項1記載の銀層エッチング液。
【請求項3】
さらに0.01~5質量%の界面活性剤を含む請求項1または2記載の銀層エッチング液。
【請求項4】
絶縁性基材上に、銀層を形成し、さらに銀層上に導体回路層を形成した後、不要部の前記銀層を請求項1~3いずれか一項記載の銀層エッチング液で除去する工程を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀用エッチング液、及びそれを用いたプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の配線形成方法としてサブトラクティブ法、セミアディティブ法(SAP)及びモディファイドSAP(MSAP)があり、このうち微細配線形成にはSAP、MSAPが適している。SAP、MSAPの配線形成方法は共通しており、めっき下地層(薄い導電層又はめっき触媒層)上の回路パターンの非配線部にレジストを形成し、レジストを形成していない配線部にめっきで厚付けした後にレジストを剥離し、不要となった非配線部のめっき下地層をエッチングにより除去する方法である。
【0003】
めっき下地層のエッチング工程に起因するプリント配線板の問題として、エッチング残渣による回路絶縁信頼性の低下、過度なエッチングによる配線幅の減少(サイドエッチ)による回路の電気抵抗増大、配線部のめっき下地層のエッチング過剰進行(アンダーカット)による配線/基材間の接着強度低下等が知られている。このため、めっき下地層のエッチング工程においては、めっき下地層の残渣が無いこと、サイドエッチが小さいこと、めっき下地層のアンダーカットが無いことが要求される。
【0004】
SAP、MSAPのめっき下地層として用いられる金属は、種々のものが知られているが、めっき金属とめっき下地層の金属種が同じ場合と、異なる場合の2つに分類できる。めっき金属とめっき下地層の金属種が同じ場合、配線のサイドエッチを低減しつつ、めっき下地層をエッチングする工夫がなされているが、配線の狭ピッチ化要求に伴い、狭い配線間隔の配線の形成が困難になっている。一方、めっき金属とめっき下地層の金属種が異なる場合、めっき金属の除去性に対して、めっき下地層金属の除去性が大幅に大きいエッチング液を適切に選択すれば、狭ピッチであっても配線金属をほとんどエッチングすることなく、めっき下地層の金属のみをエッチングすることが可能である。めっき金属とめっき下地層に異なる金属種を用いたMSAPとして、銀をめっき下地層とする銅配線形成プロセスが報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0005】
上記の、銀をめっき下地層として銅配線を形成するMSAPでは、銀めっき下地層をエッチングにより除去する必要がある。この工程で用いられるエッチング液としては、銀は溶解するが銅は溶解しないという反応性が要求される。この要求を満たし、かつ、環境負荷の小さい非シアン系の銀のエッチング方法としては、モノクロル酢酸、酢酸及び過酸化水素の混合物を用いた銀めっき層の有害金属分析方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。また、酢酸と過酸化水素の混合物を含有することを特徴とする銀めっき層溶解液及び銀めっき層溶解方法が報告されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1及び2に開示されている銀用エッチング液を回路形成に使用した場合、銀が残渣として残る場合があり、回路製造の歩留まりの低下、回路の絶縁信頼性の低下、等が起こる可能性があった。また、酢酸には強い刺激臭があるため、作業者の健康に対する懸念があった。
【0007】
銀エッチングプロセスにおいて銀が基材上に残渣として残る原因としては、銀が溶け残ってしまう場合と、一度溶解した銀が再析出する場合がある。銀のエッチング液の成分としてよく使用されるカルボン酸は銀カルボン酸塩を形成するが、この塩は一般的に水に対する溶解度が低いだけでなく、熱や光に対する安定性が低い。したがって、銀イオンとして溶解している銀が、作業環境によっては、熱、光、及び化学的な刺激によって基材上に析出する懸念がある。このため、工業的な製造プロセスにおいては、作業環境に充分な配慮をする必要がある。
【0008】
非特許文献2には、銀クエン酸錯体の強い抗菌活性が報告されており、また、この銀クエン酸錯体の水に対する溶解度が大きく、熱、光に対する安定性が高いことも述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-162727号公報
【文献】特開2012-194024号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】村川昭、深澤憲正、冨士川亘、白髪潤;マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集2018,“銀ナノ粒子を下地とする銅パターン形成の検討”.
【文献】Bioinorganic Chemistry and Applications 2008,Article ID 436458.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、銀をめっき下地層に用いるプリント配線板の製造において、不要部のめっき下地層を効率よくエッチングすることができ、得られるプリント配線板の配線にサイドエッチやアンダーカットが少ない銀用エッチング液を提供することである。また、銀の再析出の懸念が小さい銀用エッチング液を提供することである。また、悪臭の少ない銀用エッチング液を提供することである。また、前記銀用エッチング液を用いたプリント配線板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、銀を溶解するための対イオンとしてクエン酸を用いて、銀の酸化剤である過酸化水素と組み合わせることにより、酢酸を用いた場合と比較して銀の再析出を大幅に低減できることを見出した。また、このエッチング液を用いることで、銀をめっき下地層に用いるプリント配線板の製造において、不要部のめっき下地層を効率よく除去することができ、得られるプリント配線板の配線にサイドエッチやアンダーカットが少ないことを見出した。また、悪臭が少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]
クエン酸と過酸化水素を含有する水溶液である銀用エッチング液。
[2]
前記クエン酸が1~30質量%であり、前記過酸化水素が1~22質量%であり、全エッチング液中の水が48~97質量%である、[1]記載の銀用エッチング液。
[3]
さらに0.01~5質量%の界面活性剤を含む[1]または[2]記載の銀用エッチング液。
[4]
絶縁性基材(A)上に、めっき下地層として銀層(M1)を形成した後、不要部の前記銀層(M1)を[1]~[3]いずれか一記載の銀用エッチング液で除去する工程を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の銀用エッチング液は、配線を形成する導体回路層(M2)をほとんど溶解することなく、めっき下地層のみを選択的に除去できる。また、本発明の銀用エッチング液は、狭ピッチの微細配線、狭隘なトレンチ部の底にあるめっき下地層であっても効率よく、残渣なく除去することができる。
【0015】
また、本発明の銀用エッチング液は、一旦溶解した銀イオンの基材上への再析出を抑止することができる。
【0016】
また、本発明の銀用エッチング液は、酢酸のような強い悪臭を生じない。
【0017】
したがって、本発明の銀用エッチング液を用いることで、レジストパターンとエッチング後に形成した回路パターンの寸法変化がほとんど無く、狭ピッチの微細配線であっても、配線パターン形成が可能となる。例えば、銀からなるめっき下地層上に電解銅めっきにより銅配線を形成した場合、本発明の銀用エッチング液は、銅を溶解しにくいため、形成された銅配線の表面を溶解しないことから、銅配線の表面粗度が極めて低く、高性能のプリント配線板を、低コストかつ高い歩留まりで提供することができる。また、本発明のプリント配線板の製造方法により製造されたプリント配線板は、通常のプリント配線板のみならず、基材表面にパターン化された金属層を有する種々の電子部材に用いることができ、例えば、コネクター、電磁波シールド、RFID等のアンテナ、フィルムコンデンサーなどにも応用できる。さらに、本発明のプリント配線板の製造方法は、種々の形状、サイズの基材上にパターン化された金属層を有する装飾めっき用途で用いることもできる。また、作業者に対する負担も少ない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の銀用エッチング液は、クエン酸、過酸化水素を含有する水溶液である。
【0019】
前記クエン酸と過酸化水素の含有率としては、後述する導体回路層(M2)を構成する金属の溶解を抑制できることから、本発明の銀用エッチング液中のクエン酸の含有率は、1~30質量%の範囲が好ましく、1~20質量%の範囲がより好ましい。また、本発明の銀用エッチング液中の過酸化水素の含有率は1~22質量%の範囲が好ましく、1~10質量%の範囲がより好ましい。また、銀を安定に、かつ、できるだけ多く溶解するため、本発明の銀用エッチング液中の水の含有率は、48~97質量%の範囲が好ましく、80~97質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
本発明の銀用エッチング液には、表面張力を下げて狭隘部への液回りを良くするため、界面活性剤を配合することが好ましい。
【0021】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系界面活性剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルホネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム塩等のアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0022】
本発明の銀用エッチング液中の界面活性剤の含有率は、表面張力を低減しながら、発泡性を抑えるため、0.01~5質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
【0023】
本発明の銀用エッチング液は、前記のクエン酸、過酸化水素を、水で希釈することで調製できる。
【0024】
本発明の銀用エッチング液には、後述する導体回路層(M2)の溶解を抑制するための保護剤をさらに添加してもよい。例えば、前記導体回路層(M2)が銅めっき層の場合、保護剤として、アゾール化合物を用いることが好ましい。
【0025】
前記アゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキソゾール、チアゾール、セレナゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール等が挙げられる。
【0026】
前記アゾール化合物の具体例としては、例えば、2-メチルベンゾイミダゾール、アミノトリアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、4-アミノベンゾトリアゾール、1-ビスアミノメチルベンゾトリアゾール、アミノテトラゾール、フェニルテトラゾール、2-フェニルチアゾール、ベンゾチアゾール等が挙げられる。これらのアゾール化合物は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0027】
本発明の銀用エッチング液に前記アゾール化合物を用いる場合、銀用エッチング液中の含有率は、0.001~2質量%の範囲が好ましく、0.01~0.2質量%の範囲がより好ましい。
【0028】
また、前記エッチング液には、前記導体回路層(M2)が銅めっき層の場合、銅めっき層の溶解を抑制できることから、保護剤として、ポリアルキレングリコールを添加することが好ましい。
【0029】
前記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の水溶性のポリアルキレングリコールが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。また、ポリアルキレングリコールの数平均分子量としては、200~20,000の範囲が好ましい。
【0030】
本発明の銀用エッチング液に前記ポリアルキレングリコールを用いる場合、銀用エッチング液中の含有率は、0.001~2質量%の範囲が好ましく、0.01~1質量%の範囲がより好ましい。
【0031】
また、本発明の銀用エッチング液には、pHの変動を抑制するための塩基性化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。
【0032】
本発明の銀用エッチング液には、さらに必要に応じて、消泡剤、防腐剤、キレート剤などの有機化合物等を配合してもよい。
【0033】
前記消泡剤としては、一般的な消泡剤を使用することができ、例えば、シリコーン系消泡剤、ノニオン系界面活性剤、ポリエーテル,高級アルコール、ポリマー系界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
前記防腐剤としては、一般的な防腐剤を使用することができ、例えば、イソチアゾリン系防腐剤、トリアジン系防腐剤、イミダゾール系防腐剤、ピリジン系防腐剤、アゾール系防腐剤、ピリチオン系防腐剤等が挙げられる。
【0035】
本発明のプリント配線板の製造方法は、絶縁性基材(A)上に、めっき下地層として銀層(M1)を形成した後、不要部の前記銀層(M1)を本発明の銀用エッチング液で除去する工程を有するものである。
【0036】
前記銀層(M1)を本発明の銀用エッチング液で除去する方法としては、前記銀層(M1)を形成した基材を前記銀用エッチング液に浸漬するか、前記基材上に前記銀用エッチング液をスプレー等で噴霧する方法が挙げられる。
【0037】
エッチング装置を用いて、銀層(M1)を除去する場合には、例えば、前記銀用エッチング液の全成分を所定の組成になるように調製した後、エッチング装置に供給してもよく、前記銀用エッチング液の各成分を個別にエッチング装置に供給し、装置内で、前記各成分を混合して、所定の組成になるように調製してもよい。
【0038】
前記銀用エッチング液は、20~40℃の温度範囲で用いることが好ましく、反応速度を上げ、表面張力を下げ、過酸化水素の分解を抑制するために、30~38℃の温度範囲で用いることがより好ましい。
【0039】
本発明のプリント配線板の製造方法の、より具体的な方法としては、例えば、絶縁性基材(A)上に、銀層(M1)を形成する工程1、前記銀層(M1)上にレジストを形成した後、配線部のレジストを除去してパターンレジストを形成する工程2、めっき処理により導体回路層(M2)を形成する工程3、パターンレジストを剥離し、非配線部の銀層(M1)を、前記銀用エッチング液により除去する工程4を有するプリント配線板の製造方法が挙げられる。
【0040】
また、本発明のプリント配線板の製造方法の、より具体的な別の方法としては、例えば、絶縁性基材(A)上に、プライマー層(B)を形成した後、プライマー層(B)上に、銀層(M1)を形成する工程1’、前記銀層(M1)上にレジストを形成した後、配線部のレジストを除去してパターンレジストを形成する工程2、めっき処理により導体回路層(M2)を形成する工程3、パターンレジストを剥離し、非配線部の銀層(M1)を前記銀用エッチング液により除去する工程4を有するプリント配線板の製造方法も挙げられる。
【0041】
前記の工程1又は工程1’で用いる前記絶縁性基材(A)の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂をグラフト共重合化した塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ウレタン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、セルロースナノファイバー、シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウム、サファイア、セラミックス、ガラス、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アルミナ等が挙げられる。
【0042】
また、前記絶縁性基材(A)として、熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂基材を好適に用いることもできる。前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。一方、前記無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ珪酸ガラス等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂と無機充填剤は、それぞれ1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0043】
前記絶縁性基材(A)の形態としては、フレキシブル材、リジッド材、リジッドフレキシブル材のいずれのものも用いることができる。より具体的には、前記絶縁性基材(A)にフィルム、シート、板状に成形された市販材料を用いてもよいし、上記した樹脂の溶液、溶融液、分散液から、任意の形状に成形した材料を用いてもよい。また、前記絶縁性基材(A)は、金属等の導電性材料の上に、上記した樹脂の材料を形成した基材であってもよい。
【0044】
また、前記絶縁性基材(A)の形態としては、フィルム、シート、板等、平面状基材の両面を貫通する貫通孔を有してもよく、基材が積層体であって、外層が貫通孔を有しており、積層体全体としては非貫通孔を有し、内層部に達する孔を持つ構造を有してもよい。
【0045】
さらに、前記絶縁性基材(A)は、後述する工程3で形成する導体回路層(M2)の基材への密着性を向上させる目的で、銀層(M1)を形成する前に、表面処理を行ってもよい。このような表面処理方法としては、例えば、UV処理、気相オゾン処理、液層オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。これらの表面処理方法は、1種の方法で行うことも2種以上の方法を併用することもできる。
【0046】
前記の工程1は、前記絶縁性基材(A)上に、銀層(M1)を形成する工程である。この銀層(M1)は、後述する工程3において、めっき処理により導体回路層(M2)を形成する際のめっき下地層となる。
【0047】
前記銀層(M1)に銀以外の金属が含有される場合、銀以外の金属の割合は、後述する工程4におけるエッチング除去性をより向上できることから、銀100質量部に対して5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0048】
前記銀層(M1)を形成する方法は特に限定されるものではなく、例えば、スパッタ法、蒸着法での形成方法;銀粒子分散液を基材に塗工、印刷する方法;基材を銀粒子分散液へ浸漬する方法;銀箔を基材に接着する方法等の公知の方法を用いることができる。
【0049】
前記の工程2においては、前記銀層(M1)上に配線部のレジストが除去されたパターンレジストを形成する。パターンレジストの形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法で行うことができ、前記銀層(M1)上に液体の感光性レジストを塗工、乾燥するか、感光性ドライフィルムレジストを、ラミネーターを用いて、前記銀層(M1)が形成された基材に加熱圧着することによって、レジスト層を形成する。前記銀層(M1)の表面は、レジスト形成前に、レジスト層との密着性向上を目的として、酸性又はアルカリ性の洗浄液による洗浄処理、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、気相オゾン処理、液相オゾン処理、表面処理剤による処理等の表面処理を行ってもよい。これらの表面処理は、1種の方法で行うことも2種以上の方法を併用することもできる。
【0050】
前記の表面処理剤による処理としては、例えば、特開平7-258870号公報に記載されている、トリアゾール系化合物、シランカップリング剤および有機酸からなる防錆剤を用いて処理する方法、特開2000-286546号公報に記載されている、有機酸、ベンゾトリアゾール系防錆剤およびシランカップリング剤を用いて処理する方法、特開2002-363189号公報に記載されている、トリアゾールやチアジアゾール等の含窒素複素環と、トリメトキシシリル基やトリエトキシシリル基等のシリル基が、チオエーテル(スルフィド)結合等を有する有機基を介して結合された構造の物質を用いて処理する方法、WO2013/186941号公報に記載されている、トリアジン環とアミノ基を有するシラン化合物を用いて処理する方法、特開2015-214743号公報に記載されている、ホルミルイミダゾール化合物と、アミノプロピルシラン化合物とを反応させて得られるイミダゾールシラン化合物を用いて処理する方法、特開2016-134454号公報に記載されているアゾールシラン化合物を用いて処理する方法、特開2017-203073号公報に記載されている、一分子中にアミノ基および芳香環を有する芳香族化合物と2以上のカルボキシル基を有する多塩基酸、ならびにハロゲン化物イオンを含む溶液で処理する方法、特開2018-16865号公報に記載されているトリアゾールシラン化合物を含有する表面処理剤で処理する方法、などを用いることができる。
【0051】
次に、前記銀層(M1)上に形成されたレジスト層にフォトマスクを通すか、ダイレクト露光機を用いて、活性光で回路パターンを露光する。露光量は、必要に応じて適宜設定すればよい。露光によりレジスト層に形成された潜像を、現像液を用いて除去することによって、パターンレジストを形成する。
【0052】
前記現像液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の水溶液が挙げられる。また、上記で露光した基材を、現像液に浸漬するか、現像液をスプレー等でレジスト上に噴霧することにより現像を行ない、この現像によって、配線部が除去されたパターンレジストを形成できる。
【0053】
パターンレジストを形成する際には、さらに、プラズマによるデスカム処理や、市販のレジスト残渣除去剤を用いて、硬化レジストと基板との境界部分に生じた裾引き部分や基板表面に残存したレジスト付着物などのレジスト残渣を除去してもよい。
【0054】
本発明でパターンレジストを形成するために用いるレジストとしては、市販の種々のレジスト材料を用いることができ、目的とするパターンの解像度、使用する露光機の種類等によって適宜選択すればよいが、後工程で電解銅めっきを行うことから、セミアディティブ工法用のドライフィルムを特に好適に用いることができる。市販のドライフィルムとしては、例えば、ニッコーマテリアルズ株式会社製の「ALFO LDF500」、「NIT2700」、旭化成株式会社製の「サンフォート UFG―258」、日立化成株式会社製の「RDシリーズ(RD-2015、1225)」、「RYシリーズ(RY-5319、5325)」、デュポン社製の「PlateMasterシリーズ(PM200、300)」等を用いることができる。
【0055】
前記の工程3においては、上記のようにして、現像により露出した銀層(M1)の上に、めっき処理を行うことにより、導体回路層(M2)を形成する。
【0056】
工程3で形成する導体回路層(M2)を形成するために行うめっき処理は、無電解めっき法、電解めっき法、又はそれらの組み合わせのいずれでもよい。
【0057】
工程3で形成する導体回路層(M2)を電解めっき法で形成する場合、前記銀層(M1)の厚さは、電気抵抗値を低くできることから、30~500nmの範囲が好ましい。さらに、工程4の除去工程における除去性をより向上できることから、40~200nmの範囲がより好ましい。
【0058】
前記銀層(M1)の厚さは、公知慣用の種々の方法によって見積もることができ、例えば、電子顕微鏡を用いた断面観察法や、蛍光X線による方法を用いることができるが、蛍光X線法を用いることが、簡便で好ましい。
【0059】
また、前記銀層(M1)の導電性としては、工程3において、電解めっき法を行う場合、導電性が高い、すなわち電気抵抗値が低いほどよいが、電解めっきが実施できる導電性があればよく、本発明によって作製しようとするプリント配線板のサイズ、使用する電源装置、電極、めっき薬液に応じて適宜、選択すればよい。
【0060】
前記銀層(M1)を銀粒子から構成される層として形成する場合、工程3において電解めっきを容易に実施できることから、前記銀層(M1)を構成する銀粒子同士が密着、接合しており導電性が高いものが好ましい。また、配線部の銀層(M1)は、銀粒子間の空隙が、導体回路層(M2)を構成するめっき金属によって充填されているものであってもよい。銀粒子間の空隙がめっき金属によって充填されると、めっき金属の存在によって、後述する工程4の、非配線部の銀層(M1)を前記銀用エッチング液により除去する工程において、導体回路層(M2)下の銀層(M1)のエッチングが抑制され、配線のアンダーカットが起こりにくくなるので好ましい。
【0061】
工程3で形成する導体回路層(M2)を無電解めっき法で形成する場合、前記銀層(M1)は、銀粒子から構成される層として形成することが好ましい。この場合の基材上の銀粒子の担持量は、0.01~0.5g/mの範囲が好ましい。
【0062】
工程3において形成する導体回路層(M2)を構成する金属は、導電性が高い金属が好ましく、例えば、銅、金、ニッケル、スズ、鉛、チタン、パラジウム、白金、アルミニウム、亜鉛、タングステン、モリブデン等が挙げられる。これらの金属の中でも、比較的安価で導電性が高く、加工が容易であり、機械的性質及び耐食性が高いことから、銅が好ましい。
【0063】
また前記導体回路層(M2)は、1種の金属からなるものであってもよく、2種以上の金属からなるものであってもよい。また、前記導体回路層(M2)は、樹脂やシリカ微粒子等の非金属物質を金属めっき皮膜中に取り込んだ複合めっき物であってもよい。
【0064】
前記の工程1’において、プライマー層(B)を形成する樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂をシェルとしアクリル樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、アミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ポリイソシアネートにフェノール等のブロック化剤を反応させて得られたブロックイソシアネートポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。なお、ウレタン樹脂をシェルとしアクリル樹脂をコアとするコア・シェル型複合樹脂は、例えば、ウレタン樹脂存在下でアクリル単量体を重合することにより得られる。また、これらの樹脂は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0065】
前記プライマー層(B)は、上記の樹脂を溶媒に溶解又は分散させた液を前記絶縁性基材(A)上に、塗工し乾燥することで形成できる。前記溶媒としては、各種有機溶剤、水性媒体が挙げられる。前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、前記水性媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。
【0066】
前記の工程4においては、パターンレジストを剥離し、非配線部の銀層(M1)を前記銀用エッチング液により除去する。パターンレジストの剥離は、使用するレジストのカタログ、仕様書等に記載されている推奨条件で行えばよい。また、パターンレジストの剥離の際に用いるレジスト剥離液としては、市販のレジスト剥離液や、45~60℃に設定した水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムの1.5~3質量%水溶液を用いることができる。レジストの剥離は、前記導体回路層(M2)を形成した基材を、剥離液に浸漬するか、剥離液をスプレー等で噴霧することによって行うことができる。
【0067】
また、工程4における非配線部の銀層(M1)の前記銀用エッチング液での除去は、前記導体回路層(M2)を形成した後、パターンレジストを剥離した基材を前記銀用エッチング液に浸漬するか、前記基材上に銀用エッチング液をスプレー等で噴霧することによって行うことができる。銀用エッチング液の成分の濃度を一定に保つために、スプレー等で噴霧し、処理部位のエッチング液の交換を促進することがより好ましい。
【0068】
エッチング装置を用いて、非配線部の銀層(M1)を除去する場合には、例えば、前記銀用エッチング液の全成分を所定の組成になるように調製した後、エッチング装置に供給してもよく、前記銀用エッチング液の各成分を個別にエッチング装置に供給し、装置内で、前記各成分を混合して、所定の組成になるように調製してもよい。
【0069】
また、前記工程4において、非配線部の銀層(M1)を前記銀用エッチング液により除去する前に、必要に応じて銀層(M1)を公知の方法で表面処理してもよい。この表面処理とは、例えば、酸性洗浄液、アルカリ性洗浄液、界面活性剤の水溶液、又は水溶性有機溶剤の水溶液を用いた洗浄処理、超音波処理、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、気相オゾン処理、液相オゾン処理、表面処理剤による処理等が挙げられる。これらの表面処理は、1種の方法で行うことも2種以上の方法を併用することもできる。
【0070】
上記の表面処理の中でも、酸性洗浄液、アルカリ性洗浄液、水溶性有機溶剤の水溶液を用いた洗浄処理が好ましい。前記酸性洗浄液は、前記非配線部の銀層(M1)表面の硫化銀による変色被膜を除去するのに用いることができ、前記非配線部の銀層(M1)のエッチングのばらつきを抑制できるため好ましい。例えば、非特許文献(Journal of Cultural Heritage(2016)17,P.20-26)には、チオ尿素をキレート剤として含む酸性洗浄液により、硫化銀被膜が溶解、除去されることが記載されている。また、前記アルカリ性洗浄液は、前記非配線部の銀層(M1)の金属表面の油脂汚れを除去することができ、前記非配線部の銀層(M1)のエッチングのばらつきを抑制できるため好ましい。さらに、前記水溶性有機溶剤の水溶液は、次工程のエッチング液の配線間への濡れ性を向上することができ、配線間の前記非配線部の銀層(M1)のエッチングのばらつきを抑制できるため好ましい。特に、前記銀用エッチング液に含まれるクエン酸と水溶性有機溶剤と界面活性剤の混合水溶液を用いると、前記非配線部の銀層(M1)のエッチングのばらつきを抑制でき、かつ銀エッチング液槽内へ異種の洗浄液混入による銀エッチング性の経時変化が抑制できるため、より好ましい。
【0071】
また、前記工程4において、非配線部の銀層(M1)を前記銀用エッチング液により除去した後、エッチング液中に溶解した銀成分がプリント配線板上に付着、残留するのを防ぐ目的で、水洗以外に、さらに洗浄操作を行ってもよい。このとき、洗浄液としては酸化銀、塩化銀、硫化銀を溶解するが、銀をほとんど溶解しないものが好ましい。具体的には過酸化水素水、又は、チオ硫酸塩もしくはトリス(3-ヒドロキシアルキル)ホスフィン、又は、メルカプトカルボン酸もしくはその塩、又は、チオ尿素を含有する水溶液を洗浄液として用いることが好ましい。これらの中でも過酸化水素水は強い酸化力を有するため、洗浄液中に溶解した銀イオンが還元されて基材や銅配線上に析出することなく洗浄することができるため、より好ましい。
【0072】
前記洗浄液として、過酸化水素水を用いる場合の濃度としては0.1~10質量%の範囲が好ましく、連続使用時の薬液の安定性の観点から0.1~2質量%の範囲がより好ましい。
【0073】
前記チオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等が挙げられる。
【0074】
チオ硫酸塩を含有する水溶液を用いる場合の濃度としては、工程時間、用いる洗浄装置の特性等によって適宜設定すればよいが、0.1~40質量%の範囲が好ましく、洗浄効率や連続使用時の薬液の安定性の観点から、1~30質量%の範囲がより好ましい。
【0075】
また、前記トリス(3-ヒドロキシアルキル)ホスフィンとしては、例えば、トリス(3-ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(3-ヒドロキシエチル)ホスフィン、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン等が挙げられる。これらのチオ硫酸塩又はトリス(3-ヒドロキシアルキル)ホスフィンは、それぞれ1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0076】
前記トリス(3-ヒドロキシアルキル)ホスフィンを含有する水溶液を用いる場合の濃度としては、工程時間、用いる洗浄装置の特性等によって適宜設定すればよいが、0.1~50質量%の範囲が好ましく、洗浄効率や連続使用時の薬液の安定性の観点から、1~40質量%の範囲がより好ましい。
【0077】
前記メルカプトカルボン酸としては、例えば、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、システイン、N―アセチルシステイン等が挙げられる。また、前記メルカプトカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0078】
メルカプトカルボン酸又はその塩の水溶液を用いる場合の濃度としては、0.1~20質量%の範囲が好ましく、洗浄効率や大量に処理する場合のプロセスコストの観点から、0.5~15質量%の範囲がより好ましい。
【0079】
銀が硫化銀として残留している場合、例えば、特許文献(特開2005-187852号公報)に記載のように、アルミニウム存在下に、アルカリ金属炭酸塩を含有した洗浄液を使用して除去することができる。また、市販の液体タイプのシルバークリーナーを使用して除去することができる。
【0080】
上記の洗浄操作を行う方法としては、例えば、前記工程4で得られたプリント配線板を前記洗浄溶液に浸漬する方法、前記プリント配線板にスプレー等で洗浄溶液を噴霧する方法等が挙げられる。洗浄溶液の温度は、室温(25℃)で用いることができるが、外気温に影響を受けずに安定的に洗浄処理を行えることから、例えば、30℃に温度設定して用いてもよい。
【0081】
また、前記工程4の非配線部の銀層(M1)をエッチング液により除去する工程と洗浄操作は、必要に応じて繰り返して行うことができる。特に、配線間隔が20μmより狭い場合は、過酸化水素水による洗浄後にチオ硫酸塩、トリス(3-ヒドロキシアルキル)ホスフィン、チオ尿素、メルカプトカルボン酸又はその塩による洗浄操作を行うことにより絶縁信頼性が向上するため好ましい。
【0082】
洗浄後は公知公用の方法で乾燥することができる。具体的には空気又は窒素のブローにより配線、及び、配線間に付着した洗浄液を除去した後、熱風乾燥機やホットプレートを用いて乾燥することが好ましい。乾燥は50~120℃の温度範囲が好ましく、水が揮発しやすく銅配線の酸化を抑制するため、60~100℃の温度範囲がより好ましい。
【0083】
本発明の工程4においては、前記エッチング液で非配線部の銀層(M1)を除去処理した後、非配線部の絶縁性を、さらに向上させる目的で、必要に応じて、さらに絶縁層の最表層の有機物を酸化分解させて除去する洗浄操作を行ってもよい。この洗浄操作には、例えば、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの水溶液に、過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液を用いることができる。
【0084】
前記アルカリ性過マンガン酸溶液を用いた洗浄は、20~80℃に設定したアルカリ性過マンガン酸溶液に、前記工程4で得られたプリント配線板を浸漬する方法、前記プリント配線板にスプレー等でアルカリ性過マンガン酸溶液を噴霧する方法等が挙げられる。前記プリント配線板は、アルカリ性過マンガン酸溶液の基材表面への濡れ性及び洗浄効率を向上させる目的で、洗浄前に、アルコール性水酸基を有する水溶性の有機溶媒に接触させる処理を行ってもよい。前記有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0085】
前記アルカリ性過マンガン酸溶液の濃度は、必要に応じて適宜選択すればよいが、0.1~10質量%の水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸ナトリウムを0.1~10質量部溶解させたものが好ましく、洗浄効率の観点から、1~6質量%の水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、過マンガン酸カリウム又は過マンガン酸ナトリウムを1~6質量部溶解させたものがより好ましい。
【0086】
上記のアルカリ性過マンガン酸塩溶液を用いた洗浄を行う場合には、アルカリ性過マンガン酸塩溶液の洗浄後に、洗浄した前記プリント配線板を、中和作用のある液を用いて洗浄することが好ましい。前記中和作用のある液としては、例えば、0.5~15質量%の硫酸、又は有機酸を含有する水溶液が挙げられる。また、前記有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸、メチオニン等が挙げられる。さらに、0.1~5質量%の過酸化水素水を併用しても構わない。これら洗浄液は1種で用いることも2種以上をそれぞれ単独で併用する、又は2種以上を混合して用いても構わない。また繰り返し洗浄を行っても構わない。また、過マンガン酸塩が基材に残留するのを防ぐために、0.5~5質量%の硫酸又は酢酸の水溶液で処理することがより好ましく、0.5~5質量%のアスコルビン酸水溶液で処理するとアルカリ性の中和と過マンガン酸塩の還元を同時に行えるため(過マンガン酸塩の還元を行えると、除去できる。)、さらに好ましい。
【0087】
過マンガン酸塩溶液の洗浄後に中和処理した後は、イオン交換水、アルコール性水酸基を有する水溶性の有機溶媒で洗浄処理を行ってもよい。前記有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0088】
洗浄後は公知公用の方法で乾燥することができる。具体的には空気または窒素のブローにより配線、及び、配線間に付着した洗浄液を除去した後、熱風乾燥機やホットプレートを用いて乾燥することが好ましい。乾燥温度は50~120℃の温度範囲が好ましく、水が揮発しやすく銅配線の酸化を抑制するために60~100℃の温度範囲がより好ましい。
【0089】
上記のアルカリ性過マンガン酸溶液による洗浄は、前記エッチング液中に溶解した銀成分がプリント配線板上に付着、残留するのを防ぐ目的で行う洗浄の後に行ってもよいし、前記エッチング液中に溶解した銀成分がプリント配線板上に付着、残留するのを防ぐ目的で、洗浄を行う代わりに、アルカリ性過マンガン酸溶液による洗浄のみを行ってもよい。
【0090】
また、本発明のプリント配線板の製造方法においては、めっき膜の応力緩和や密着力向上を目的として、工程3のめっき処理後にアニーリングを行ってもよい。アニーリングは、工程4の非配線部の銀層(M1)を除去する前に行ってもよいし、除去した後に行ってもよく、除去前後の両方で行ってもよい。
【0091】
アニーリングの温度は、用いる基材の耐熱性や使用目的によって40~300℃の温度範囲で適宜選択すればよいが、40~250℃の範囲が好ましく、めっき膜の酸化劣化を抑制する目的から、40~200℃の範囲がより好ましい。また、アニーリングの時間は、40~200℃の温度範囲の場合には、10分~10日間、200℃を超える温度でのアニーリングは、5分~10時間程度がよい。また、めっき膜をアニーリングする際には、適宜、めっき膜表面に防錆剤を付与してもよい。
【0092】
本発明の製造方法で得られたプリント配線板は、適宜、必要に応じて、回路パターン上へのソルダーレジスト層の形成、及び、導体回路層(M2)の最終表面処理として、スズめっき、ニッケル/金めっき、ニッケル/パラジウム/金めっき、パラジウム/金めっきを施してもよい。
【0093】
以上に述べた本発明の銀用エッチング液、及びそれを用いたプリント配線板の製造方法により、狭隘部の銀層(M1)であっても選択的に溶解し除去できる。したがって、本発明の技術を用いることで、レジストパターンからの寸法変化がほとんど無く、めっき処理により形成された導体回路層(M2)の表面粗度がめっき下地層の除去によってほとんど増大せず、良好な矩形断面形状の回路配線を有する高性能のプリント配線板を、低コストかつ高い歩留まりで提供することができる。また、本発明のプリント配線板の製造方法により製造されたプリント配線板は、通常のプリント配線板のみならず、基材表面にパターン化された金属層を有する種々の電子部材に用いることができ、例えば、コネクター、電磁波シールド、RFID等のアンテナ、フィルムコンデンサーなどにも応用できる。さらに、本発明のプリント配線板の製造方法は、種々の形状、サイズの基材上にパターン化された金属層を有する装飾めっき用途で用いることもできる。
【実施例
【0094】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0095】
[製造例1:プライマー(B-1)の製造]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエステルポリオール(1,4-シクロヘキサンジメタノールとネオペンチルグリコールとアジピン酸とを反応させて得られたポリエステルポリオール)100質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸17.6質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール21.7質量部及びジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート106.2質量部を、メチルエチルケトン178質量部の混合溶剤中で反応させることによって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。
【0096】
次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にトリエチルアミン13.3質量部を加えて、前記ウレタンプレポリマーが有するカルボキシル基を中和し、さらに水380質量部を加えて十分に攪拌することにより、ウレタンプレポリマーの水性分散液を得た。
【0097】
上記で得られたウレタンプレポリマーの水性分散液に、25質量%エチレンジアミン水溶液8.8質量部を加え、攪拌することによって、ウレタンプレポリマーを鎖伸長した。次いでエージング・脱溶剤することによって、ウレタン樹脂の水性分散液(不揮発分30質量%)を得た。前記ウレタン樹脂の重量平均分子量は53,000であった。
【0098】
次に、攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、単量体混合物滴下用滴下漏斗、重合触媒滴下用滴下漏斗を備えた反応容器に脱イオン水140質量部、上記で得られたウレタン樹脂の水分散液100質量部を入れ、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。その後、攪拌しながら、メタクリル酸メチル60質量部、アクリル酸n-ブチル30質量部及びN-n-ブトキシメチルアクリルアミド10質量部からなる単量体混合物と、0.5質量%過硫酸アンモニウム水溶液20質量部とを別々の滴下漏斗から、反応容器内温度を80℃に保ちながら120分間かけて滴下した。
【0099】
滴下終了後、さらに同温度にて60分間攪拌した後、反応容器内の温度を40℃に冷却して、不揮発分が20質量%になるように脱イオン水で希釈した後、200メッシュ濾布で濾過することによって、前記ウレタン樹脂をシェル層とし、メタクリル酸メチル等を原料とするアクリル樹脂をコア層とするコア・シェル型複合樹脂であるプライマー層用樹脂組成物の水分散液を得た。次に、イソプロパノールと水の質量割合が7/3となり、不揮発分が2質量%となるように、この水分散液にイソプピルアルコールと脱イオン水を加えて混合し、プライマー(B-1)を得た。
【0100】
[調製例1:銀粒子分散液の調製]
エチレングリコール45質量部及びイオン交換水55質量部の混合溶媒に、分散剤としてポリエチレンイミンにポリオキシエチレンが付加した化合物を用いて平均粒径30nmの銀粒子を分散させることによって、銀粒子及び分散剤を含有する分散体を調製した。次いで、得られた分散体に、イオン交換水、エタノール及び界面活性剤を添加して、5質量%の銀粒子分散液を調製した。
【0101】
[作製例1:ポリフェニレンスルフィド(PPS)基材の作製]
リニア型ポリフェニレンスルフィド(ASTM D1238-86によるMFR:600g/10分)100質量部、チョップドガラス繊維(旭ファイバーグラス株式会社製「FT562」、繊維状無機充填剤)58.8質量部、エチレン-メタクリル酸共重合体亜鉛イオンタイプ(三井デュポンケミカル株式会社製「ハイミラン1855」)、8.4質量部及びモンタン酸複合エステルワックス(クラリアントジャパン株式会社製「リコルブWE40」)0.8質量部を均一に混合した後、35mmφの2軸押出機を用いて290~330℃で溶融混錬し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を射出成形機で成形することにより、50mm×105mm×2mmのサイズのPPS基材を作製した。
【0102】
[作製例2:ポリイミドフィルム上の櫛歯電極(線間隔20μm)の作製]
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製「カプトン 150EN-C」;厚さ38μm)の表面に、製造例1で得られたプライマー(B-1)を、卓上型小型コーター(RKプリントコートインストルメント社製「Kプリンティングプローファー」)を用いて、乾燥後の平均厚さが200nmとなるように塗工した。次いで、120℃で5分間乾燥することによって、ポリイミドフィルムの表面にプライマー層を形成した。
調製例1で得られた銀粒子分散液を、卓上型小型コーター(RKプリントコートインストルメント社製「Kプリンティングプローファー」)を用いて、乾燥後の平均厚さが100nmとなるように塗工した。次いで、熱風乾燥機を用いて200℃で30分間乾燥することによって、プライマー層の上に銀粒子を含有する銀層を形成した。
【0103】
銀層の上に、ドライフィルムレジスト(日立化成株式会社製「フォテックRD-1225」;レジスト膜厚25μm)を、ロールラミネーターを用いて100℃で圧着することで、ポリイミド基材上に、銀粒子を含有する銀層、感光性樹脂層が積層された積層体を作製した。
【0104】
上記で得られた積層体を用い、ダイレクト露光デジタルイメージング装置(オルボテック社製「Nuvogo1000R」)を用いて、レジスト上にL/S=20/20μmの櫛歯パターンを露光した。次いで、1質量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて現像を行うことによって、銀層上に櫛歯電極パターン部が除去されたパターンレジストを形成した。
【0105】
次いで、銀層をカソードに設定し、含リン銅をアノードとして、硫酸銅を含有する電解めっき液(硫酸銅70g/L、硫酸200g/L、塩素イオン50mg/L、添加剤(奥野製薬工業株式会社製「トップルチナSF-M」)を用いて電流密度2.5A/dmで20分間電解めっきを行うことによって、レジストの除去されたパターン部に電解銅めっきによる導体回路層(膜厚10μm)からなる櫛歯電極を形成した。次いで、銅による導体回路層の形成されたフィルムを、50℃に設定した3質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することによって、パターンレジストを剥離し、櫛歯電極(線間隔20μm)を形成したポリイミドフィルムを得た。
【0106】
[作製例3:ポリフェニレンスルフィド(PPS)基材上の櫛歯電極(線間隔20μm)の作製]
作製例1で得られたPPS基材を用い、製造例1で得られたプライマー(B-1)に10秒間浸漬した後、PPS基材を引き揚げ、1分間静置した後、熱風乾燥機を用いて200℃で5分間乾燥して、PPS基材上にプライマー層(厚さ130nm)を形成した。
【0107】
次いで、このプライマー層を形成したPPS基材を、調製例1で得られた銀粒子分散液に10秒間浸漬した。その後、基材を引き揚げ、1分間静置した後、熱風乾燥機を用いて200℃で5分間乾燥して、プライマー層上に銀粒子を含有する100nm厚の銀層を形成した。
【0108】
銀層の上に、ドライフィルムレジスト(日立化成株式会社製「フォテックRD-1225」;レジスト膜厚25μm)を、真空ラミネーターを用いて100℃で圧着することで、PPS基材上に、プライマー層、銀粒子を含有する銀層、感光性樹脂層が積層された積層体を作製した。
【0109】
上記で得られた積層体を用い、作製例2と同様に、レジスト上にL/S=20/20μmの櫛歯パターンを露光し、1質量%炭酸ナトリウム水溶液を用いて現像を行うことによって、銀層上に櫛歯電極パターン部が除去されたパターンレジストを形成した。
【0110】
次いで、銀層をカソードに設定し、含リン銅をアノードとして、硫酸銅を含有する電解めっき液(硫酸銅70g/L、硫酸200g/L、塩素イオン50mg/L、添加剤(奥野製薬工業株式会社製「トップルチナSF-M」)を用いて電流密度2.5A/dmで20分間電解めっきを行うことによって、レジストの除去されたパターン部に電解銅めっきによる導体回路層(膜厚10μm)を形成した。次いで、銅による導体回路層の形成されたPPS基材を、50℃に設定した3質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することによって、パターンレジストを剥離し、櫛歯電極(線間隔20μm)を形成したPPS基材を得た。
【0111】
[作製例4:ポリイミドフィルム上の櫛歯電極(線間隔50μm)の作製]
レジスト上に作製する櫛歯パターンのL/Sを20/50μmにした以外は、作製例2と同様にして、櫛歯電極(線間隔50μm)を形成したポリイミドフィルムを得た。
【0112】
[作製例5:ポリイミドフィルム上の櫛歯電極(線間隔10μm)の作製]
レジスト上に作製する櫛歯パターンのL/Sを20/10μmにした以外は、作製例2と同様にして櫛歯電極(線間隔10μm)を形成したポリイミドフィルムを得た。
【0113】
[配線間の絶縁抵抗の測定]
上記で得られたプリント配線板について、対向櫛歯電極間の導通の有無をテスター(FLUKE社製「233リモート・ディスプレイ・デジタル・マルチメーター)で確認した。この結果、銀層の除去が不十分で、導通が確認されたものを「短絡」とし、銀層が充分に除去され、導通しなかったものを「絶縁」とした。次いで、導通しなかったものについて、日置電機株式会社製の超絶縁計「SM-8213」を用いて、同様に20μmスペースの電極間の抵抗値を測定した。ここで、抵抗値が10Ωを超えるものは、配線間の絶縁が十分だといえる。めっき下地層(銀層)の除去性の評価として、同条件で行った試験10回のうち、導通確認で短絡又は電極間抵抗値が10Ωを超えなかった場合を「不合格」として、その数を示した。
【0114】
[非配線部の絶縁抵抗の測定]
上記で得られたプリント配線板の非配線部(配線部以外の銀層除去領域)について、株式会社三菱ケミカルアナリティック製のハイレスタ-UP(MCP-HT450型)を用いて、100V印加での抵抗値を測定した。なお、抵抗値が「オーバーレンジ」となった場合は、測定装置の仕様から9.99×1013Ω以上の抵抗値であることを示す。
【0115】
[アンダーカットの有無及び配線断面形状の確認]
上記で得られたプリント配線板の配線断面を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM7800」)で500~10,000倍に拡大し観察して、アンダーカットの有無を確認した。また、配線の断面形状から、サイドエッチの有無を確認した。サイドエッチが起こる場合には、断面形状が「矩形」を保持できず、「非矩形」となる。
【0116】
[金属残渣の形状の観察]
上記で得られたプリント配線板の表面、及びエッチング処理後に処理容器に発生した異物を、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VE-9800」)で5,000~20,000倍に拡大し観察して、エッチング処理後の異物の形状を観察した。観察では、異物が「残渣」であるか「新たに発生したもの、または、溶解した銀が再析出したもの」であるかという点に着目した。
【0117】
[金属残渣の組成分析]
上記で得られたプリント配線板の表面、及びエッチング処理後に処理容器に発生した異物の組成を明らかにするため、EDS(エネルギー分散型分光)測定を行った(JEOL JSM-IT500)。
【0118】
[臭気の強さ]
銀用エッチング液の臭気の強さは、上面が開放状態である容器に銀用エッチング液を注いで静置し、その液面から30cm離れた距離から明らかに臭気を感じるものを「強」、それ以外を「弱」と評価した。
【0119】
[エッチング処理後の液の濁り]
エッチング処理後のエッチング液の濁りは、合計面積0.5m、平均厚さ100nmの銀層をエッチング処理した後の濁りを観察し、透明なまま変化が無いものを「なし」、懸濁が生じたものを「懸濁」と評価した。
【0120】
(調製例2)
水67質量部にクエン酸3質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水30質量部を加えて、均一に混合し銀用エッチング液(1)を調製した。
【0121】
(調製例3)
水70質量部にクエン酸10質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水20質量部を加えて、均一に混合し銀用エッチング液(2)を調製した。
【0122】
(調製例4)
水87質量部にクエン酸3質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水10質量部を加えて、均一に混合し銀用エッチング液(3)を調製した。
【0123】
(調製例5)
水60質量部にクエン酸20質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水20質量部を加えて、均一に混合し銀用エッチング液(4)を調製した。
【0124】
(調製例6)
31質量%過酸化水素水70質量部にクエン酸30質量部を加えて均一に混合し、銀用エッチング液(5)を調製した。
【0125】
(調製例7)
水67質量部に、酢酸3質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水30質量部を加えて、銀用エッチング液(R1)を調製した。
【0126】
(調製例8)
水67質量部に、硫酸3質量部を加え、さらに、31質量%過酸化水素水30質量部を加えて、銀用エッチング液(R2)を調製した。
【0127】
上記の調製例2~8で得られた銀用エッチング液の組成について、表1にまとめた。
【0128】
【表1】
【0129】
表1に示した調製例2~7の銀用エッチング液の評価結果の比較から、本発明の銀用エッチング液(1)~(5)は(R1)と比較して臭気が弱いことが確認できた。
【0130】
(実施例1)
作製例2で得られたポリイミドフィルムに対して、調製例2で得られた銀用エッチング液(1)を35 ℃に加温し、噴霧圧力0.2 MPa、フルコーンノズルで60秒間噴霧して櫛歯電極部以外の銀層を除去することで、プリント配線板を得た。
【0131】
(実施例2~7)
表2に示した基材、及び、銀用エッチング剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、プリント配線板を得た。ただし、実施例6では、噴霧時間を15秒間とした。得られたプリント配線板について、後述する方法により、配線間のテスターによる導通確認、絶縁抵抗の測定、非配線部の絶縁抵抗の測定、アンダーカットの有無及び配線断面形状の確認を行った。
【0132】
【表2】
【0133】
(実施例8)
作製例5で得られたポリイミドフィルムを水洗後、これに対して、調製例4で得られた銀用エッチング液(3)を35 ℃に加温し、噴霧圧力0.2 MPa、フルコーンノズルで60秒間噴霧して櫛歯電極部以外の銀層を除去した。さらに、イオン交換水(25℃)に2分間浸漬洗浄後、エアブローを用いて基材表面に付着している洗浄液を除去し、70℃のホットプレートを用いて3分間乾燥を行った。次いで、過マンガン酸カリウム5質量%と水酸化ナトリウム4質量%とを含有する混合水溶液(50℃)に1分間浸漬後、イオン交換水を用いて処理液を十分にすすぎ洗浄した後、イオン交換水(25℃)に2分間浸漬して洗浄した。次いで、10質量%酢酸水溶液(25℃)で30秒間中和し、イオン交換水(25℃)で2分間浸漬洗浄した後、70℃のホットプレートを用いて3分間乾燥して櫛歯電極部以外の銀層が除去されたプリント配線板を得た。
【0134】
(実施例9)
基材を、作製例3で得られたPPS基材にした以外は実施例8と同じ方法で、櫛歯電極部以外の銀層を除去することで、プリント配線板を得た。
【0135】
【表3】
【0136】
表2及び表3に示した実施例1~9で得られたプリント配線板の評価結果から、本発明の銀用エッチング液(1)~(5)を用いることにより、非配線部の銀層が十分に除去できることが確認できた。これらの基材のエッチング後の表面を走査型電子顕微鏡で20,000倍まで観察したところ、非回路部に明確な残渣や異物は観察されなかった。
【0137】
(比較例1~4)
表4に示したポリイミド基材、及び、銀用エッチング剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、プリント配線板を得た。
【0138】
【表4】
【0139】
表2~4の評価結果から、本発明の銀用エッチング液(1)~(5)を使用した実施例1~9では、所定量の銀をエッチング処理した後も液が懸濁しなかったのに対し、銀用エッチング液(R1)を使用した比較例1~3ではエッチング処理後に直ちに液が半透明に懸濁した。この結果から、銀用エッチング液(1)~(5)の銀溶解安定性の高さが確認できた。
【0140】
なお、このとき、(R1)を入れていた処理容器の内面に、直径が100~500nmである銀を含む結晶状構造物が発生していることが観察された。懸濁したエッチング液による基材汚染の可能性を検証するために、未処理のポリイミドフィルムをエッチング液に浸漬して取り出し、表面を観察したところ、フィルム表面に同じ結晶が少数付着しているのが観察された。これらは銀の結晶であり、銀が再析出したものと考えられ、エッチング処理後の基材洗浄を適切に実施しないと、基材を汚染する可能性があることがわかった。この結果から、銀用エッチング液(1)~(5)の銀溶解安定性の高さが確認できた。
【0141】
また、表4に示した比較例4で得られたプリント配線板の評価結果から、クエン酸の代わりに硫酸を含有するエッチング液(R2)を用いた場合は、非配線部の銀層が十分に除去できないだけでなく、配線の銅が溶解して断面形状が非矩形となることが確認できた。これらのうち、絶縁性が不十分な試料表面を観察したところ、比較例1~3とは異なり、溶け残った銀のみが観察され、エッチング前と異なる銀を含む結晶状構造物は観察されなかった。