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特許7211812カチオン染着繊維、カチオン可染皮革様シート、カチオン染着皮革様シート、カチオン染着繊維の製造方法及びカチオン染着皮革様シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】カチオン染着繊維、カチオン可染皮革様シート、カチオン染着皮革様シート、カチオン染着繊維の製造方法及びカチオン染着皮革様シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/37 20060101AFI20230117BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20230117BHJP
   D06P 3/00 20060101ALI20230117BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20230117BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
D06M15/37
D06N3/00
D06P3/00 Z
D06M101:32
D06M101:34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018246224
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105659
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】芦田 哲哉
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-131919(JP,A)
【文献】特開2003-247177(JP,A)
【文献】特開2003-147688(JP,A)
【文献】特開2012-144837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/37
D06N 3/00
D06P 3/00
D06M 101/32
D06M 101/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族スルホン酸縮合物を付着させた未染色繊維を、カチオン染料で染色したカチオン染着繊維。
【請求項2】
前記未染色繊維は、アニオン基を有しない、カチオン非可染ナイロン繊維またはカチオン非可染ポリエステル繊維を含む請求項1に記載のカチオン染着繊維。
【請求項3】
未染色繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と前記繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートを含み、
前記未染色繊維及び前記高分子弾性体の表面に、芳香族スルホン酸縮合物を付着されている、カチオン可染皮革様シート。
【請求項4】
前記未染色繊維は、アニオン基を有しない、カチオン非可染ナイロン繊維またはカチオン非可染ポリエステル繊維を含む請求項3に記載のカチオン可染皮革様シート。
【請求項5】
前記未染色繊維の繊維は0.05dtex以下の平均繊度を有する請求項3まは4に記載のカチオン可染皮革様シート。
【請求項6】
請求項3~5の何れか1項に記載のカチオン可染皮革様シートをカチオン染料で染色したカチオン染着皮革様シート。
【請求項7】
未染色繊維の表面に芳香族スルホン酸縮合物を付着させる工程と、
前記芳香族スルホン酸縮合物を付着された未染色繊維をカチオン染料で染色する、カチオン染着繊維の製造方法。
【請求項8】
前記未染色繊維は、アニオン基を有しない、カチオン非可染ナイロン繊維またはカチオン非可染ポリエステル繊維を含む請求項7に記載のカチオン染着繊維の製造方法。
【請求項9】
未染色繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と前記繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートの前記未染色繊維と前記高分子弾性体の表面に芳香族スルホン酸縮合物を付着させる工程と、
前記芳香族スルホン酸縮合物を付着さた前記未染色繊維及び前記高分子弾性体をカチオン染料で染色する、カチオン染着皮革様シートの製造方法。
【請求項10】
前記未染色繊維は、アニオン基を有しない、カチオン非可染ナイロン繊維またはカチオン非可染ポリエステル繊維を含む請求項9に記載のカチオン染着皮革様シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染着繊維,カチオン可染皮革様シート,カチオン染着皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体に高分子弾性体を含浸付与した人工皮革等の皮革様シートが知られている。皮革様シートは通常、染色されて用いられる。
【0003】
従来、ナイロン繊維を染色するための染料としては、酸性染料や、コバルト,クロム等の重金属を含有する含金酸性染料が広く用いられていた。ナイロン繊維はアニオン性の酸性染料の染着座になるカチオン性のアミノ基末端を有するために、酸性染料や含金酸性染料に対して可染性を示す。また、イオン性の染着座を有しないポリエステル繊維を染色するための染料としては分散染料が広く用いられていた。
【0004】
一方、イオン性染料としてはカチオン染料が知られている。カチオン染料で染色された繊維は発色性に優れる利点がある。しかし、一般的なナイロン繊維やポリエステル繊維は、カチオン染料の染着座になるアニオン基を分子内に有しないために、カチオン染料に対して染着性を有しない。
【0005】
カチオン染料に染色されないナイロン繊維を、カチオン染料に染色されるように改変したカチオン可染ナイロン繊維は知られている。例えば、下記特許文献1は、ポリアミド繊維にカチオン染着性を付与するために、ポリアミド分子にカチオン染料の染着座になるスルホン酸末端基を導入することにより、ポリアミド繊維をカチオン可染性に改変することを提案している。
【0006】
また、イオン性の染着座を有しないポリエステル繊維を、カチオン染料に染色されるように改変したカチオン可染ポリエステル(Cation Dyeable Polyester :CDP)繊維も知られている。例えば、下記特許文献2及び特許文献3は、カチオン可染性を付与するためのアニオン性を有する5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩等の単量体成分を共重合単位として含有させた、CDP繊維を開示する。また、特許文献2及び特許文献3は、青色カチオン染料で染色されたカチオン可染繊維を含む皮革様シートまたは繊維構造体に、アニオン性を有する多価フェノール誘導体を付与することにより、青色カチオン染料で染色されたカチオン可染繊維の耐湿熱変色性が向上することを開示する。
【0007】
ところで、人工皮革等の皮革様シートを染色して用いる場合、次のような問題もあった。表面の繊維を毛羽立たせた立毛面を有する立毛皮革様シートを染色した場合、繊維に対する染料の染着性が高分子弾性体に対する染料の染着性よりも高いために、繊維の発色と高分子弾性体の発色とに差異を生じやすかった。とくに、立毛皮革様シートを濃色に染色した場合、繊維のみが濃色になり、高分子弾性体は染色されず明色になることにより、立毛面に色ムラが生じて、色または光沢が不均一で落ち着きのない「イラツキ」とも称される外観を呈するという問題があった。
【0008】
イラツキを抑制するために、高分子弾性体に顔料を配合して着色する方法も知られている。具体的には、例えば、下記特許文献4は、皮革様シート物質は性質を異にする複数種の高分子物質の複合物であるために、各高分子物質の染色堅牢度などの性質が異なることにより、濃色に発色させにくかったり、異色感を生じたり、発色性が悪かったりする等の課題を開示し、そのような課題を解決する方法として、ポリウレタンに顔料を添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-67923号公報
【文献】国際公開2018/221452号パンフレット
【文献】国際公開2018/101016号パンフレット
【文献】特開2002-146624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、カチオン染料で染色された繊維は発色性に優れる。しかしながら、一般的なナイロン繊維やポリエステル繊維は、カチオン染料の染着座になるアニオン基を分子内に有しないために、カチオン染料に対して染着性を有しなかった。また、上述のように、カチオン染料に染色されるように改変されたカチオン可染ナイロン繊維やカチオン可染ポリエステル繊維も知られていたが、カチオン可染ナイロン繊維やカチオン可染ポリエステル繊維は分子中や分子末端にスルホン酸基を有する単位を導入するために、機械的特性が低下したり、スルホン酸基の導入量が制限され、染着座となるスルホン酸基を充分に導入することが難しかったりした。
【0011】
また、別の問題として、上述のように、カチオン可染繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートをカチオン染料で染色した場合、カチオン可染繊維のみが濃く染着され、カチオン染料の染着座を有しない高分子弾性体は染着されず、立毛面に色ムラが生じやすくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、簡単な処理によりカチオン染料に対する染着性が付与された、カチオン可染繊維,カチオン可染皮革様シート及びそれらをカチオン染料で染色したカチオン染着繊維,カチオン染着皮革様シート,並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一局面は、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートしたカチオン可染繊維である。このようなカチオン可染繊維は、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートするという簡単な処理により得ることができる。また、芳香族スルホン酸縮合物は、繊維に対する付着性、とくに、ナイロン繊維に対する付着性に優れる。
【0014】
また、未染色繊維が、アニオン基を有しない、カチオン非可染ナイロン繊維またはカチオン非可染ポリエステル繊維である場合には、本来カチオン可染性を有しない繊維をカチオン染料で染色できるようになる。
【0015】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかのカチオン可染繊維をカチオン染料で染色したカチオン染着繊維である。
【0016】
また、本発明の他の一局面は、未染色繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートを含み、未染色繊維及び高分子弾性体の表面が芳香族スルホン酸縮合物でコートされているカチオン可染皮革様シートである。このようなカチオン可染皮革様シートによれば、例えカチオン染着性を有しない未染色繊維や高分子弾性体を含んでも、未染色繊維及び高分子弾性体の表面をコートする芳香族スルホン酸縮合物のスルホン酸基がカチオン染料の染着座になることにより、未染色繊維及び高分子弾性体がカチオン染料で染色されるようになる。
【0017】
また、未染色繊維の繊維は0.05dtex以下の平均繊度を有することが、本発明の効果が顕著である点から好ましい。
【0018】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかのカチオン可染皮革様シートをカチオン染料で染色したカチオン染着皮革様シートである。このようなカチオン染着皮革様シートは、未染色繊維及び高分子弾性体のいずれもが、カチオン染料で着色されるために、二色感を生じさせにくくなる。
【0019】
また、本発明の他の一局面は、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートする工程と、芳香族スルホン酸縮合物でコートされた未染色繊維をカチオン染料で染色するカチオン染着繊維の製造方法である。
【0020】
また、本発明の他の一局面は、未染色繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートの未染色繊維と高分子弾性体の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートする工程と、芳香族スルホン酸縮合物でコートされた未染色繊維及び高分子弾性体をカチオン染料で染色するカチオン染着皮革様シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な処理によりカチオン染料の染着座が付与された、カチオン可染繊維やカチオン可染皮革様シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。
【0023】
本実施形態で用いられる未染色繊維は、染料で染色される前の繊維である。また、未染色繊維は、繊維の分子にカチオン染料の染着座になるスルホン酸基のようなアニオン基を導入されていない、カチオン染料に対する可染性を有しないカチオン非可染繊維であっても、繊維の分子にカチオン染料の染着座になるスルホン酸基のようなアニオン基を導入された、カチオン染料に対する可染性を有するカチオン可染繊維であってもよい。本発明によれば、カチオン非可染繊維を用いた場合にはカチオン可染性を有しないカチオン非可染繊維にカチオン可染性を付与することができ、カチオン可染繊維を用いた場合にはカチオン可染繊維のカチオン可染性を向上させることができる。
【0024】
カチオン非可染繊維としては、カチオン染料の染着座になるアニオン基を有しない、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6-12等のナイロン;ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル;等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、カチオン可染繊維としては、上述した、カチオン非可染繊維と同様の繊維において、カチオン染料の染着座になるスルホン酸基等のアニオン基が導入されたカチオン染料に易染性または可染性を有する繊維が挙げられる。カチオン可染性を付与するためのアニオン基を含む単量体成分の具体例としては、例えば、5-スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)や、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸,5-エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの5-テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や、5-テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸,5-エチルトリブチルアンモニウムスルホイソフタル酸などの5-テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸や、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラアルキルホスホニウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
未染色繊維は、単繊維,繊維束,糸や、不織布,織物,編物等の繊維構造体、または、それらの繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体を含む皮革様シートを形成していてもよい。
【0027】
未染色繊維の繊度は、特に限定されない。具体的には、例えば、平均繊度1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、1dtex以下のような極細繊維であってもよい。カチオン可染皮革様シートに用いられる場合には、その効果が顕著になる点から0.05dtex以下、さらには0.0001~0.05dtex、とくには0.001~0.01dtexであることが好ましい。繊度が0.05dtex以下のような極細繊維を含むカチオン可染皮革様シートは繊度の高い繊維を含むカチオン可染皮革様シートに比べて、カチオン可染皮革様シートに含まれる極細繊維の総表面積が大きくなるために、染料で鮮やかな色に染めることが通常難しかった。本実施形態における未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートしたカチオン可染繊維によれば、0.05dtex以下の極細繊維を含むカチオン可染皮革様シートであってもカチオン染料で鮮やかに発色する。
【0028】
また、未染色繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤、耐光剤、防黴剤等を必要に応じて、配合されてもよい。
【0029】
本実施形態の未染色繊維は、とくには、人工皮革や合成皮革のような皮革様シートの基材として含まれていることがとくに好ましい。人工皮革として用いられる場合には、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等の高分子弾性体が含浸されていることが好ましい。人工皮革中に含まれる高分子弾性体の割合は特に限定されないが、1~50質量%程度であることが好ましい。
【0030】
本実施形態においては、単繊維,繊維束,糸や、不織布,織布,織物,編物等の繊維構造体、または、それらの繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体を含む皮革様シート等に含まれる、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートする。このような処理により、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートされたカチオン可染繊維、または、そのカチオン可染繊維を含む繊維構造体や皮革様シートが得られる。
【0031】
芳香族スルホン酸縮合物の例としては、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物が挙げられる。このような芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としては、市販品として、日成化成(株)製の商品名ナイロンスーパー2Nや、商品名ニチレジスト KS、明成化学工業(株)製のディマフィックス等が挙げられる。
【0032】
未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートする工程としては、例えば、芳香族スルホン酸縮合物の水溶液に未染色繊維を浸漬してなじませて、繊維表面に液を浸透させた後、水洗するような方法が挙げられる。水溶液の温度は特に限定されないが、例えば、60~95℃が挙げられる。また、芳香族スルホン酸縮合物の水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、1~30owf%、さらには、5~20owf%であることが好ましい。また、浴比は特に限定されないが、例えば、1:10~50、さらには1:15~30であることが好ましい。また、浸漬時間としては、特に限定されないが、例えば1~30分間、さらには15~20分間であることが好ましい。
【0033】
このようにして、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートしたカチオン可染繊維が得られる。このようなカチオン可染繊維は、未染色繊維の表面に付着した芳香族スルホン酸縮合物のスルホン酸基を有するために、スルホン酸基を染着座とするカチオン染料に対して高い染着性を有する。
【0034】
そして、未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートしたカチオン可染繊維をカチオン染料で染色することにより、カチオン染料で染色されたカチオン染着繊維が得られる。
【0035】
カチオン染料の具体例としては、例えば、C.I.Basic Blue 54やC.I.Basic Blue 159等のアゾ系カチオン染料や、C.I.Basic Blue 3,C.I. Basic Blue 6,C.I. Basic Blue 10,C.I. Basic Blue 12,C.I.Basic Blue75,C.I. Basic Blue 96等のオキサジン系青色カチオン染料、C.I.Basic Blue 9等のチアジン系青色カチオン染料、C.I.Basic Yellow 40等のクマリン系カチオン染料、C.I.Basic Yellow 21等のメチン系カチオン染料,C.I.Basic Yellow 28等のアゾメチン系カチオン染料,C.I.Basic Red 29やC.I.Basic Red 46等のアゾ系赤色カチオン染料、C.I.Basic Violet 11 等のキサンテン系カチオン染料等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなどの染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色加工の条件としては、高圧で染色してもよいが、本実施形態の未染色繊維または皮革様シートは常圧で染色可能であるために、常圧で染色することが環境負荷が低く、染色コストを低減できる点からも好ましい。常圧で染色する場合、染色温度としては60~100℃、さらには80~100℃であることが好ましい。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。
【0037】
カチオン染料を用いて染色を行う場合、染料液中のカチオン染料の濃度は特に限定されないが、0.5~20%owf、さらには、1.0~15%owfが例示される。
【0038】
また、カチオン染料による染色後は、結合力の低いカチオン染料を洗浄することが好ましい。このような洗浄により、とくに皮革様シートの高分子弾性体に吸収されたカチオン染料が充分に除去されることにより、得られる染色された未染色繊維または皮革様シートの色移りを抑制することができる。アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中での洗浄処理は、50~100℃、さらには60~80℃の湯浴で行うことが好ましい。また、洗浄時間としては、10~30分間、さらには、15~20分間程度であることが好ましい。また、この洗浄を1回以上、好ましくは2回以上繰り返してもよい。
【0039】
本実施形態の未染色繊維の表面を芳香族スルホン酸縮合物でコートしたカチオン可染繊維は、とくに、未染色繊維を三次元絡合処理してなる繊維構造体と繊維構造体に含浸付与された高分子弾性体とを含む皮革様シートの形態で用いられることが好ましい。このような皮革様シートとして用いられる場合には、未染色繊維だけでなく、高分子弾性体の表面も芳香族スルホン酸縮合物でコートされるために、未染色繊維及び高分子弾性体のいずれもが、カチオン染料で着色されて二色感が生じにくくなる。このような皮革様シートとしては、表面の繊維を起毛した起毛調の人工皮革が挙げられる。
【実施例
【0040】
[実施例1]
アニオン基を有しない、平均繊度0.007dtexの未変性のナイロン6の繊維からなる不織布70質量%及びポリウレタン30質量%を含む、厚さ1.0mm、見掛け密度0.38g/cm3のスエード調の立毛人工皮革基体を準備した。
【0041】
そして、得られた立毛人工皮革基体を、芳香族スルホン酸縮合物(日成化成(株)製の商品名ナイロンスーパー2N)の浴比1:30、10%owfに調製した処理液に95℃×30分間の条件で浸漬し、乾燥することにより、立毛人工皮革基体の未変性のナイロン6の繊維及びポリウレタンの表面に芳香族スルホン酸縮合物を付着させた。
【0042】
そして、芳香族スルホン酸縮合物を付着させた立毛人工皮革基体を青色カチオン染料で染色した。青色カチオン染料としては、日成化成(株)製のニチロンBlue CNFを用いた。詳しくは、ニチロンBlue CNF 5%owfを含む染料液で120℃×40分間の条件で染色した。そして、2g/LのソルジンR溶液を用いて70℃×20分間の条件でソーピングを2回行うことにより、鮮やかな濃紺色に染着されたスエード調の立毛人工皮革を得た。そして、立毛人工皮革の立毛面の発色を、分光光度計(ミノルタ社製:CM-3700)を用い、表面の平均的な位置を万遍なく3点て測定し、その平均値を算出した。立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、明度L*=45.33、a*=-6.91、b*=-36.79、彩度c*=37.43、色相h=259.36であった。また、ナイロン6の繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感は低かった。
【0043】
[実施例2]
アニオン基を有しない、平均繊度0.2dtexのイソフタル酸6モル%変性のポリエチレンテレフタレート(PET)の繊維からなる不織布90質量%及びポリウレタン10質量%を含む、厚さ0.7mm、見掛け密度0.49g/cm3のスエード調の立毛人工皮革基体を準備した。
【0044】
そして、得られた立毛人工皮革基体を、芳香族スルホン酸縮合物(日成化成(株)製の商品名ナイロンスーパー2N)の浴比1:20、1%owfに調整した処理液に95℃×30分間の条件で浸漬し、乾燥することにより、立毛人工皮革基体の未変性のPETの繊維及びポリウレタンの表面に芳香族スルホン酸縮合物を付着させた。
【0045】
そして、芳香族スルホン酸縮合物を付着させた立毛人工皮革基体を青色カチオン染料で染色した。青色カチオン染料としては、ニチロンBlue CNFを用いた。詳しくは、3%owfを含む染料液で120℃×60分間の条件で染色した。そして、2g/LのソルジンR溶液を用いて70℃×20分間の条件でソーピングを2回行うことにより、鮮やかな濃紺色に染着されたスエード調の立毛人工皮革を得た。このようにして、鮮やかな濃紺色に染着されたスエード調の立毛人工皮革を得た。そして、立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=41.72、a*=-6.80、b*=-38.12、c*=38.72、h=259.88であった。また、PETの繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感は低かった。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、芳香族スルホン酸縮合物を10%owf付与した代わりに、5%owf付与した以外は同様にして、鮮やかな濃紺色に染着されたスエード調の立毛人工皮革を得た。立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=51.08、a*=-8.01、b*=―33.91、c*=34.84、h=256.71であった。また、ナイロン6の繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感は低かった。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、芳香族スルホン酸縮合物を10%owf付与した代わりに、15%owf付与した以外は同様にして、鮮やかな濃紺色に染着されたスエード調の立毛人工皮革を得た。立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=41.34、a*=-4.97、b*=-38.13、c*=38.45、h=262.58であった。また、ナイロン6の繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感は低かった。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、立毛人工皮革基体を、芳香族スルホン酸縮合物の処理液で処理する工程を省略した以外は同様にして、立毛人工皮革基体を青色カチオン染料で染色した。立毛人工皮革は、カチオン染料でほとんど染着しなかった。立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=49.43、a*=7.31、b*=-16.72、c*=18.23、h=293.70であった。
【0049】
[比較例2]
実施例2において、立毛人工皮革基体を、芳香族スルホン酸縮合物の処理液で処理する工程を省略した以外は同様にして、立毛人工皮革基体を青色カチオン染料で染色した。立毛人工皮革は、カチオン染料でほとんど染着しなかった。立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=49.43、a*=7.31、b*=-16.75、c*=18.23、h=293.70であった。
【0050】
[比較例3]
スルホン酸基を有する、平均繊度0.2dtexのスルホイソフタル酸アルカリ金属塩1.7モル%変性のカチオン可染ポリエチレンテレフタレート(カチオン可染PET)の繊維からなる不織布90質量%及びポリウレタン10質量%を含む、厚さ0.7mm、見掛け密度0.49g/cm3のスエード調の立毛人工皮革基体を準備した。
【0051】
そして、立毛人工皮革基体を、芳香族スルホン酸縮合物の処理液で処理する工程を省略した以外は実施例2と同様にして、立毛人工皮革基体を青色カチオン染料で染色した。立毛人工皮革は、カチオン染料で染着された。立毛人工皮革の立毛面のL*a*b*表色系の座標値は、L*=35.18、a*=-2.56、b*=-40.21、c*=40.30、h=266.36であった。しかし、ポリウレタンはほとんど染着されておらず、PETの繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感が明瞭に認識できた。
【0052】
芳香族スルホン酸縮合物でコートされた実施例1の立毛人工皮革とコートされていない比較例1の立毛人工皮革とを比較すると、実施例1の立毛人工皮革は比較例1の立毛人工皮革に比べて、明度が低い濃色であり、彩度も高く、繊維の発色とポリウレタンの発色の差による2色感も低かった。芳香族スルホン酸縮合物でコートされた実施例2の立毛人工皮革とコートされていない比較例2の立毛人工皮革、及び芳香族スルホン酸縮合物でコートされた実施例3の立毛人工皮革とコートされていない比較例3の立毛人工皮革も同様の結果であった。また、カチオン可染PETからなる不織布にポリウレタンを付与した立毛人工皮革基体を芳香族スルホン酸縮合物でコートせずにカチオン染料で染色した比較例3の立毛人工皮革は、ポリウレタンがほとんど染色されず、2色感が明瞭に認識された。