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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】固体電解質及び固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230118BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230118BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230118BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20230118BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/08
H01G11/56
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021508705
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041710
(87)【国際公開番号】W WO2020194822
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/012917
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 怜雄奈
(72)【発明者】
【氏名】大西 玄将
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊広
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】八木 援
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224427(JP,A)
【文献】特開2015-176854(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194705(WO,A1)
【文献】特開昭49-081898(JP,A)
【文献】特開平05-054712(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125633(WO,A1)
【文献】特開2010-212153(JP,A)
【文献】特開2015-196621(JP,A)
【文献】特開2017-095351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/08
H01G 11/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3LiOH・LiSO で表される結晶構造を含む固体電解質であって、前記固体電解質がホウ素をさらに含み、前記ホウ素を含む固体電解質がX線回折により3LiOH・Li SO と同定される範囲内のものであり、前記固体電解質中に含まれる硫黄Sに対する、前記ホウ素Bのモル比である、B/Sが0.002超1.0未満である、固体電解質。
【請求項2】
前記固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピークの半値幅が0.500°以下である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiOHと同定される2θ=20.5°付近のピーク強度ILiOHの比である、ILiOH/ILHSが0.234未満である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiSOと同定される2θ=22.2°付近のピーク強度ILi2SO4の比である、ILi2SO4/ILHSが1.10未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記固体電解質が溶融凝固体である、請求項1~のいずれか一項に記載の固体電解質。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の固体電解質の製造方法であって、
LiOH、LiSO及びLiBOを含む原料を溶融して冷却することによって凝固体を形成する工程を含む、固体電解質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の固体電解質の製造方法であって、
LiOH、LiSO及びLiBOを含む粉末をメカニカルミリングにより混合粉砕して固体電解質粉末を合成する工程を含む、固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及び固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池及びキャパシタ等の蓄電素子に用いられる固体電解質の研究開発が盛んである。特に、室温から高温にかけて十分なリチウムイオン伝導度を維持可能な固体電解質の開発が望まれている。ここで、非特許文献1では、LiSOとLiOHを均質に溶融した後に急冷させた凝固体を固体電解質として用いることが提案されている。特に、この固体電解質が低温で動作するデバイスに用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】V.K.DESHPANDE, F.C.RAGHUWANSHI AND K.SINGH, "ELECTRICAL CONDUCTIVITY OF THE Li2SO4-LiOH SYSTEM", Solid State Ionics 18 & 19 (1986)378-381
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の固体電解質は、室温におけるリチウムイオン伝導度が十分に高いとはいえない。また、非特許文献1の固体電解質は、伝導度の温度依存性が小さく、温度上昇による伝導度上昇効果が期待できない。つまり、この固体電解質は室温から高温にかけて十分なリチウムイオン伝導度を有する材料とはいえない。これらの問題に対し、本発明者らは、3LiOH・LiSOで表される固体電解質が25℃において高いリチウムイオン伝導度を呈するとの知見を得ている。しかしながら、上記組成の材料のみでは高温で長時間保持した場合にリチウムイオン伝導度が低下しやすいとの別の問題があることが分かってきた。
【0005】
本発明者らは、今般、3LiOH・LiSOと同定される固体電解質にホウ素をさらに含有させることで、高温で長時間保持した後においてもリチウムイオン伝導度の低下を有意に抑制できるとの知見を得た。
【0006】
したがって、本発明の目的は、高温で長時間保持した後においてもリチウムイオン伝導度の低下を有意に抑制可能な3LiOH・LiSOベースの固体電解質を提供することにある。
【0007】
本発明の一態様によれば、X線回折により3LiOH・LiSOと同定される固体電解質であって、前記固体電解質がホウ素をさらに含む、固体電解質が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、前記固体電解質の製造方法であって、
LiOH、LiSO及びLiBOを含む原料を溶融して冷却することによって凝固体を形成する工程を含む、固体電解質の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の別の態様によれば、前記固体電解質の製造方法であって、
LiOH、LiSO及びLiBOを含む粉末をメカニカルミリングにより混合粉砕して固体電解質粉末を合成する工程を含む、固体電解質の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
固体電解質
本発明による固体電解質は、X線回折により3LiOH・LiSOと同定される固体電解質である。そして、この固体電解質はホウ素をさらに含む。3LiOH・LiSOと同定される固体電解質にホウ素をさらに含有させることで、高温で長時間保持した後においてもリチウムイオン伝導度の低下を有意に抑制することができる。すなわち、前述したとおり、本発明者らは、3LiOH・LiSOで表される固体電解質が25℃において高いリチウムイオン伝導度を呈するとの知見を得ている。しかしながら、上記組成のみでは高温で長時間保持した場合にリチウムイオン伝導度が低下しやすいとの別の問題があることが分かってきた。この点、3LiOH・LiSOと同定される固体電解質にホウ素をさらに含有させることで上記問題を解決することができる。ホウ素の含有によりイオン伝導度維持率を向上できるメカニズムは定かではないが、X線回折測定によると、ホウ素を含有させることにより、3LiOH・LiSOの回折ピークがわずかに高角側にシフトしていることから、ホウ素は3LiOH・LiSOの結晶構造のサイトのいずれかに取り込まれ、結晶構造の温度に対する安定性を向上させているものと推察される。
【0011】
したがって、本発明による固体電解質は、リチウムイオン二次電池及びキャパシタ等の蓄電素子に用いられるのが好ましく、特に好ましくはリチウムイオン二次電池に用いられる。リチウムイオン二次電池は、全固体電池(例えば全固体リチウムイオン二次電池)であってもよい。また、リチウムイオン二次電池は、固体電解質がセパレータとして用いられ、セパレータと対向電極との間に電解液を備えた液系の電池(例えばリチウム空気電池)であってもよい。
【0012】
上述のとおり、本発明による固体電解質は、X線回折により3LiOH・LiSOと同定される固体電解質である。すなわち、固体電解質は3LiOH・LiSOを主相として含むものである。固体電解質に3LiOH・LiSOが含まれているか否かは、X線回折パターンにおいて、ICDDデータベースの032-0598を用いて同定することで確認可能である。ここで「3LiOH・LiSO」とは、結晶構造が3LiOH・LiSOと同一とみなせるものを指し、結晶組成が3LiOH・LiSOと必ずしも同一である必要はない。すなわち、3LiOH・LiSOと同等の結晶構造を有するかぎり、組成がLiOH:LiSO=3:1から外れるものも本発明の固体電解質に包含されるものとする。したがって、ホウ素を含有する固体電解質(例えばホウ素が固溶し、X線回折ピークが高角度側にシフトした3LiOH・LiSO)であっても、結晶構造が3LiOH・LiSOと同一とみなせるかぎり、3LiOH・LiSOとして本明細書では言及するものとする。同様に、本発明の固体電解質は不可避不純物の含有も許容するものである。
【0013】
したがって、固体電解質には、主相である3LiOH・LiSO以外に、異相が含まれていてもよい。異相は、Li、O、H、S及びBから選択される複数の元素を含むものであってもよいし、あるいはLi、O、H、S及びBから選択される複数の元素のみからなるものであってもよい。異相の例としては、原料に由来するLiOH、LiSO及び/又はLiBO等が挙げられる。これらの異相については3LiOH・LiSOを形成する際に、未反応の原料が残存したものと考えられるが、リチウムイオン伝導に寄与しないため、LiBO以外はその量は少ない方が望ましい。もっとも、LiBOのようにホウ素を含む異相については、高温長時間保持後のリチウムイオン伝導度維持率の向上に寄与しうることから、所望の量で含有されてもよい。もっとも、固体電解質はホウ素が固溶された3LiOH・LiSOの単相で構成されるものであってもよい。
【0014】
本発明の固体電解質はホウ素をさらに含む。固体電解質中に含まれる硫黄Sに対するホウ素Bのモル比(B/S)は、0.002超1.0未満であるのが好ましく、より好ましくは0.003以上0.9以下、さらに好ましくは0.005以上0.8以下である。ホウ素含有量が少量であると、高温でのリチウムイオン伝導度の維持率が低下するが、上記範囲内のB/Sであるとリチウムイオン伝導度の維持率を向上することが可能である。また、ホウ素含有量が多いとリチウムイオン伝導度の絶対値の低下を招きうるが、上記範囲内のB/Sであるとホウ素を含む未反応の異相の含有量が低くなるため、リチウムイオン伝導度の絶対値を高くすることができる。
【0015】
本発明による固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピークの半値幅が0.500°以下であるのが好ましく、より好ましくは0.400°以下、さらに好ましくは0.200°以下である。このような範囲であると高温長時間保持後のリチウムイオン伝導度維持率をさらに向上できる。上記半値幅は小さければ小さいほど結晶性が高いことを意味するため好ましく、下限値は特に限定されるものではないが、典型的には0.08°以上、より典型的には0.1°以上である。
【0016】
本発明による固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiOHと同定される2θ=20.5°付近のピーク強度ILiOHの比である、ILiOH/ILHSが0.234未満であるのが好ましく、より好ましくは0.230以下、さらに好ましくは0.200以下である。LiOHが多いとリチウムイオン伝導度の絶対値の低下を招きうるが、上記範囲であるとLiOHの含有率が低くなるため、リチウムイオン伝導度の絶対値を高くすることができる。
【0017】
本発明による固体電解質は、CuKαを線源としたX線回折パターンにおける、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiSOと同定される2θ=22.2°付近のピーク強度ILi2SO4の比である、ILi2SO4/ILHSが1.10未満であるのが好ましく、より好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.20以下である。LiSOが多いとリチウムイオン伝導度の絶対値の低下を招きうるが、上記範囲であるとLiSOの含有率が低くなるため、リチウムイオン伝導度の絶対値を高くすることができる。
【0018】
本発明による固体電解質は、圧粉体であってもよいが、溶融凝固体(すなわち加熱溶融後に凝固させたもの)が好ましい。
【0019】
製造方法
本発明の好ましい態様によれば、本発明の固体電解質は、LiOH、LiSO及びLiBOを含む原料を溶融して冷却することによって凝固体を形成する工程を経て製造することができる。この場合に用いる原料はxLiOH・LiSO・yLiBO(式中、2.0≦x≦4、0.002≦y≦1)で表される組成を有するのがイオン伝導度の観点から好ましいが、所望の特性が得られるかぎりこれに限定されない(例えば1.0≦x≦4であってもよい)。例えば、固体電解質の製造は、(a)LiOH、LiSO及びLiBOを含む原料(好ましくは上記組成の原料)の溶融物を冷却することによって凝固体を形成し、(b)凝固体を粉砕又はメカニカルミリングすることによって固体電解質粉末とし、(c)固体電解質粉末を成形すること又は固体電解質粉末を再度溶融後冷却して固化することによって固体電解質を形成することにより行うことができる。上記(a)における溶融物の冷却は急冷又は徐冷(例えば炉冷)のいずれでもよい。上記(b)におけるメカニカルミリングは、公知の手法及び条件に従い、ジルコニア容器等にジルコニアボール等の玉石と固体電解質の凝固体を投入して粉砕することにより行うことができる。上記(c)工程における成形は、プレス(例えば金型プレス、ラバープレス)等の様々な手法により行うことができ、好ましくは金型プレスである。上記(c)工程における固体電解質粉末の再度の溶融後の冷却時の降温速度は10~1000℃/hであるのが好ましく、より好ましくは10~100℃/hである。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、LiOH、LiSO及びLiBOを含む粉末をメカニカルミリングにより混合粉砕して固体電解質粉末を合成する工程を経て製造することができる。この場合に用いる粉末は、xLiOH・LiSO・yLiBO(式中、2.0≦x≦4、0.002≦y≦1)で表される原料組成をもたらす配合比でLiOH粉末、LiSO粉末及びLiBO粉末を含むのがイオン伝導度の観点から好ましいが、所望の特性が得られるかぎりこれに限定されない(例えば1.0≦x≦4であってもよい)。例えば、固体電解質の製造は、(a)LiOH粉末、LiSO粉末及びLiBO粉末を(好ましくは上記組成をもたらす配合比で)メカニカルミリングにより混合粉砕して固体電解質粉末を合成し、(b)固体電解質粉末を成形すること又は固体電解質粉末を加熱溶融後冷却することによって固体電解質を形成することにより行うことができる。上記(a)におけるメカニカルミリングは、公知の手法及び条件に従い、ジルコニア容器等の容器にジルコニアボール等の玉石とLiOH粉末、LiSO粉末及びLiBO粉末を投入して混合粉砕することにより行うことができる。この混合粉砕により固体電解質粉末の合成反応を進行させることができる。上記(b)工程における成形は、プレス(例えば金型プレス、ラバープレス)等の様々な手法により行うことができ、好ましくは金型プレスである。上記(b)工程における固体電解質粉末の溶融後の冷却の降温速度は10~1000℃/hであるのが好ましく、より好ましくは10~100℃/hである。
【実施例
【0021】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0022】
例1~3
(1)原料粉末の準備
LiSO粉末(市販品、純度99%以上)、LiOH粉末(市販品、純度98%以上)、及びLiBO(市販品、純度99%以上)を表1に示されるモル比となるように混合して原料混合粉末を得た。これらの粉末は、露点-50℃以下のAr雰囲気中のグローブボックス中で取り扱い、吸湿等の変質が起こらないように十分に注意した。
【0023】
(2)メカニカルミリング
Ar雰囲気中のグローブボックス内で、45mlのジルコニアポットに原料混合粉末及び10個のジルコニアボール(直径10mm)を投入し、ジルコニアポットを完全に密閉した。このジルコニアポットを遊星型ボールミル機に取り付け、回転数400rpmで50時間メカニカルミリングを行って、固体電解質粉末を合成した。
【0024】
(3)金型プレス
得られた固体電解質粉末を750MPaの圧力で金型プレスして、直径10mm及び厚さ0.5mmのペレット状の固体電解質を形成した。
【0025】
(4)評価
得られた固体電解質に対して以下の評価を行った。
【0026】
<X線回折>
固体電解質をX線回折装置(XRD、X線源:CuKα線)で分析することによりX線回折パターンを得た。なお、金属Si粉を内部標準として添加して2θ位置を合わせた。得られたX線回折パターンとICDDデータベースの032-0598とを対比することによって、3LiOH・LiSO結晶相の同定を行い、3LiOH・LiSOの有無を判定した。また、上記得られたXRDプロファイルに基づき、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピークの半値幅を算出した。さらに、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiOHと同定される2θ=20.5°付近のピーク強度ILiOHの比(ILiOH/ILHS)を算出した。同様に、3LiOH・LiSOと同定される2θ=18.4°付近のピーク強度ILHSに対する、LiSOと同定される2θ=22.2°付近のピーク強度ILi2SO4の比(ILi2SO4/ILHS)を算出した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0027】
<150℃100時間保持後のイオン伝導度及び伝導度維持率>
固体電解質のリチウムイオン伝導度を一般的な交流インピーダンス測定を用いて以下のようにして測定した。まず、Ar雰囲気中において、固体電解質を2枚のステンレス鋼(SUS)電極の間に挟み、セル(宝泉株式会社製、コインセルCR2032)に入れて密閉し、イオン伝導度測定用セルを作製した。このイオン伝導度測定用セルを150℃の恒温乾燥器に入れ、交流インピーダンス測定装置(BioLogic社製、VMP3)を用いて交流インピーダンス法によりコンダクタンス(1/r)を測定した。測定した値とリチウムイオン伝導度σ=L/r(1/A)の式に基づき、初期リチウムイオン伝導度Cを算出した。
【0028】
また、上記イオン伝導度測定用セル内で固体電解質を150℃で100時間保持した後、上記同様にしてリチウムイオン伝導度Cを測定した。150℃で100時間保持した後の固体電解質のリチウムイオン伝導度Cを、初期リチウムイオン伝導度Cで除して100を乗じることにより、150℃で100時間保持後の伝導度維持率(%)を求めた。
【0029】
<化学分析>
各例で得られた固体電解質についてホウ素と硫黄の定量分析を行った。ホウ素及び硫黄の各々についてICP発光分光分析法(ICP-AES)にて、検量線法で定量分析を行った。ホウ素及び硫黄の各分析値をモル数に換算し、B/Sとして算出した。
【0030】
例4~20
(1)原料粉末の準備
LiSO粉末(市販品、純度99%以上)、LiOH粉末(市販品、純度98%以上)、及びLiBO(市販品、純度99%以上)を表1に示されるモル比となるように混合して原料混合粉末を得た。これらの粉末は、露点-50℃以下のAr雰囲気中のグローブボックス中で取り扱い、吸湿等の変質が起こらないように十分に注意した。
【0031】
(2)溶融合成
Ar雰囲気中で原料混合粉末を高純度アルミナ製のるつぼに投入し、このるつぼを電気炉にセットし、430℃で2時間熱処理を行い溶融物を作製した。引き続き、電気炉内にて100℃/hで溶融物を冷却して凝固物を形成した。
【0032】
(3)乳鉢粉砕
得られた凝固物をAr雰囲気中にて乳鉢で粉砕することによって、平均粒径D50が5~50μmの固体電解質粉末を得た。
【0033】
(4)溶融
Ar雰囲気中のグローブボックス内で、固体電解質粉末を250MPaの圧力で金型プレスすることによって、直径10mmのペレット状の固体電解質を形成した。直径10mm、厚さ0.5mmの2枚のステンレス鋼(SUS)電極の間にペレット状の固体電解質を挟み、得られた積層物の上に15gの重しを載せ、400℃で45分加熱することにより固体電解質を溶融させた。その後、100℃/hで溶融物を冷却して凝固体を形成した。
【0034】
(5)評価
得られた凝固体(固体電解質)に対して例1と同様にして評価を行った。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0035】
結果
例1~20の固体電解質の作製条件及び評価結果を表1にまとめて示す。例1~20において、LiOH、LiSO及びLiBOを含む原料混合粉末を溶融又はメカニカルミリングして固体電解質を合成する工程や、固体電解質粉末を再度溶融する工程において、重量減は1%以下と非常に小さいものであり、固体電解質を構成するLi、O、H、S及びBの組成は調合時の組成からほとんど変化していないものと推測される。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果について詳しく説明する。今回の例1~20すべてのX線回折パターンの主相は、ICDDデータベースの032-0598と一致していたことから、3LiOH・LiSO結晶相が存在することが分かった。ここでいう主相とは、LiOH、LiSO及びLiBOに帰属されないピークをいう。なお、特にホウ素を高濃度含んだ例においては、3LiOH・LiSO結晶相のX線回折パターンの高角シフトが見られた。例えば、LiBOを添加していない例8においては3LiOH・LiSOの2θ=18.43°のピークが、LiBOを添加した例5では18.46°と高角側にピークシフトしており、ホウ素が3LiOH・LiSO結晶相の骨格内に固溶したものと推測される。高角シフトしたことを除いてはICDDデータベースの032-0598と一致し、3LiOH・LiSOと同定される固体電解質を含むことが分かった。また、LiBOを加えて合成した例1、2、4~7、9~13及び15~20においては、化学分析にてB/Sが0より大きい値となり、固体電解質にホウ素が含まれていることが分かった。
【0038】
ホウ素を含まない例3、8及び14はイオン伝導度維持率が75%以下と小さく、例13のようにB/Sが0.002以上となることで、イオン伝導度維持率が80%以上と大きくなることが分かった。また、例4及び6の150℃100時間保持後のイオン伝導度を比較すると、例4では伝導度が低いことが分かった。これはLiBOの添加量が多いため、未反応の異相の含有率が高くなったためと推測され、ホウ素の添加量を示すB/Sは1.0未満が好ましいことが分かった。
【0039】
次に、例1及び2に対し同一組成で溶融法にて作製した例4及び6にてイオン伝導度維持率が大きい。X線回折による3LiOH・LiSOの半値幅に注目すると、例4及び6にて半値幅が狭いことから結晶性が高いことが推測され、結晶としてより安定であり伝導度維持率が大きくなったと推測される。以上のことから、3LiOH・LiSOの半値幅は0.500以下が好ましいと考えられる。
【0040】
また、XRDでLiOHが検出される例6、11及び15の150℃100時間保持後のイオン伝導度を比較すると、例6及び11はイオン伝導度が例15よりも高いことが分かる。X線回折によるピーク強度比(ILiOH/ILHS)に注目すると、例15にてその値が大きいことから、LiOHが異相として残留していることが推測され、これがイオン伝導を阻害したものと推測される。このことから、LiOHが異相として検出される場合は、ピーク強度比(ILiOH/ILHS)が0.234以下であるのが好ましいと考えられる。また、XRDでLiSOが検出される例17及び20の150℃保持後のイオン伝導度を比較すると、例17はイオン伝導度が例20よりも高いことが分かる。X線回折によるピーク強度比(ILi2SO4/ILHS)に注目すると、例20にてその値が大きいことから、LiSOが異相として残留していることが推測され、これがイオン伝導を阻害したものと推測される。このことから、LiSOが異相として検出される場合は、ピーク強度比(ILi2SO4/ILHS)が1.1未満であるのが好ましいと考えられる。
【0041】
さらに、例6、11、17及び20に着目すると次のことが分かる。ここで、これらの例の原料配合割合はいずれもxLiOH・LiSO・yLiBO(式中、1.0≦x≦4、0.002≦y≦1)で表される範囲内の組成であり、しかもLiSO:LiBO比が1:0.05であるため、LiOHのモル比(上記式におけるx)のみを変動させたことによる特性変化を見ることができる。そして、例6、11、17及び20はいずれも150℃100時間保持後の伝導度維持率で望ましい結果が得られているものの、x=3、2.6及び2である例6、11及び17のイオン伝導度の方が、x=1.0である例20よりも高いイオン伝導度を示すことが分かる。このことから、2.0≦x≦4、0.002≦y≦1の範囲がイオン伝導度の観点から好ましい範囲であるといえる。