(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体、ならびにポリα-1,3-グルカンカルバメート、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液及びポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 5/00 20060101AFI20230119BHJP
C08K 5/21 20060101ALI20230119BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08L5/00
C08K5/21
C08B37/00 K
(21)【出願番号】P 2019088213
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161942
【氏名又は名称】鴨 みどり
(72)【発明者】
【氏名】原田 信幸
(72)【発明者】
【氏名】奥 智治
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】木村 聡
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/131711(WO,A1)
【文献】特表2017-503909(JP,A)
【文献】特開昭57-143301(JP,A)
【文献】特開平11-071403(JP,A)
【文献】特開2019-001876(JP,A)
【文献】特開2018-102249(JP,A)
【文献】特開昭54-145615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が10mPa・s以上である、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体。
【請求項2】
グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00である、ポリα-1,3-グルカンカルバメート。
【請求項3】
前記ポリα-1,3-グルカンカルバメート1.0gを16mlのDMSO溶液に溶解させた時の粘度が100mPa・s以上である、請求項2に記載のポリα-1,3-グルカンカルバメート。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液。
【請求項5】
グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00であるポリα-1,3-グルカンカルバメートからなる、ポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体、ならびにポリα-1,3-グルカンカルバメート、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液及びポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源問題や廃棄物処理、環境保全の観点から、様々な分野において再生可能材料の開発と応用が求められてきている。その資源として注目されている材料の一つに天然高分子の一つである多糖類を原料とするバイオベースプラスチックがある。天然多糖類としてはセルロース(β-1,4-グルカン)、デンプン(α-1,4-グルカン)、キシラン(β-1,4-キシラン)等の植物由来のものや、カードラン(β-1,3-グルカン)やデキストラン(α-1,6-グルカン)等の微生物が生産するものがある。これらの多糖類を活用する試みが種々なされてきている。
【0003】
特許文献1には、(1,3-)β-D-グルカンのカルバモバイル化もしくは置換カルバモバイル化誘導体が記載されている。実施例では、(1,3-)β-D-グルカンを乾燥ジメチルスルホオキサイド中に懸濁後、エチルイソシアネートを加えて置換カルバモバイル化誘導体を得たこと、ならびに抗腫瘍剤としての適用が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリα-1,3-グルカンフィルムの製造方法が記載され、実施例3には、4.1%のNaOHおよび5%の尿素の組成の溶媒混合物にポリα-1,3-グルカンを溶解させ、グルカンの9.1重量%の溶液を含有する溶液を調製し、この溶液をガラスプレート上に注ぐことによってグルカンフィルムを流延し、空気乾燥後、脱イオン水浴に浸漬することによってフィルムを製造する方法が記載されている。
上記多糖類については、さらなる種々の活用が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭63-12076号公報
【文献】特表2017-503909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、多糖類についてのさらなる種々の活用として、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途での潜在的な有用性を備えた新規なポリα-1,3-グルカン尿素水溶液分散体、ならびに新規なポリα-1,3-グルカンカルバメート、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液及びポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリα-1,3-グルカンに所定の条件で尿素を適用することに依り、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途での潜在的な有用性を備えた新規なポリα-1,3-グルカン尿素水溶液分散体、ならびに新規なポリα-1,3-グルカンカルバメート、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液及びポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、粘度が10mPa・s以上である、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体である。
【0009】
また、本発明は、グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00であるポリα-1,3-グルカンカルバメートである。
上記ポリα-1,3-グルカンカルバメートは、好ましくは、1.0gを16mlのDMSO溶液に溶解させた時の粘度が100mPa・s以上である。
【0010】
また、本発明は、上記ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液である。
【0011】
また、本発明は、グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00であるポリα-1,3-グルカンカルバメートからなるポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途での潜在的な有用性を備えた新規なポリα-1,3-グルカン尿素水溶液分散体、ならびに新規なポリα-1,3-グルカンカルバメート、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液及びポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカンカルバメートの13C-NMRチャートを示す図である。
【
図2】他の実施例で得られた本発明の一実施態様のポリα-1,3-グルカンカルバメートのIRチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体]
本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体は、ポリα-1,3-グルカンが尿素水溶液に分散体しており、粘度が10mPa・s以上である。
【0015】
本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体の粘度は、10mPa・s以上であり、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上である。上記粘度は、実施例に記載の方法で求めることができる。本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体では、上記粘度が10mPa・s以上であるため、皮膚に塗布した場合に滑らかであり、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途に有用である。
【0016】
本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体におけるポリα-1,3-グルカンの含有量は、上記分散体100質量%中、0.5~20.0質量%が好ましく、5.0~20.0質量%がより好ましく、10.0~20.0質量%がさらに好ましい。ポリα-1,3-グルカンの含有量を上記範囲とすることにより、皮膚に塗布した場合により滑らかであり、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途でより有用になる。
【0017】
また、本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体における尿素の含有量は、上記分散体100質量%中、0.5~30.0質量%が好ましく、3.0~28.0質量%がより好ましく、5.0~25.0質量%がさらに好ましい。尿素の含有量を上記範囲とすることにより、皮膚に塗布した場合により滑らかであり、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途でより有用になる。
【0018】
また、本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体におけるポリα-1,3-グルカンと尿素の含有量は、上記分散体100質量%中、10.0~50.0質量%が好ましく、15.0~45.0質量%がより好ましく、20.0~40.0質量%がさらに好ましい。ポリα-1,3-グルカンと尿素の含有量を上記範囲とすることにより、皮膚に塗布した場合により滑らかであり、化粧品、パーソナルケア製品等の様々な用途でより有用になる。
【0019】
また、本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体は、ポリα-1,3-グルカン、尿素及び水以外の他の成分を含んでいても良い。上記他の成分としては、セラミド、ヒアルロン酸、グリセリン、グリセリド、トリグリセリド、スクワラン、スクワレン、アミノ酸、脂肪酸、リン脂質、リノール酸、ムコ多糖、乳酸ナトリウム、杏仁油、菜種油、ヤシ油、トウモロコシ油、ホホバ油、レシチン、レチノール、オリーブ油、ベニバナ油、ゴマ油、シアバター、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、コレステロール、コレステロールエステル、脂肪酸、オレンジ油などの保湿成分;香料、UV吸収剤、顔料、アミノ酸、酸化防止剤、ビタミン、酸化亜鉛、ワセリン、白色ワセリン、ビタミンA、カオリンなどの、肌疾患の治療や予防、化粧又は肌の保湿などの効果を有する活性成分などが挙げられる。これらは1種または2種以上を混合して使用できる。
【0020】
本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体の製造方法としては、
(1)ポリα-1,3-グルカンを尿素、水と一度に加えて、撹拌混合する方法
(2)予め尿素と水を混合して尿素水溶液としてから、ポリα-1,3-グルカンを添加し撹拌混合する方法、
(3)予めポリα-1,3-グルカンと尿素を混合してから、水を添加し撹拌混合する方法
が挙げられる。
【0021】
ポリα-1,3-グルカンは、水分が含まれたウェットケーキの状態でも良く、乾燥して水分が0.1質量%以下の状態であってもよい。ポリα-1,3-グルカンの含水量は、ポリα-1,3-グルカン100質量%に対し、水分を0~240質量%程度含むものが使用できる。本発明のポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体の製造方法で用いるポリα-1,3-グルカンとしては、ポリα-1,3-グルカン100質量%に対し、水を25質量%未満含むものであることが好ましく、20質量%以下含むものであることがより好ましく、10質量%以下含むものであることがさらに好ましく、5質量%以下含むものであることが特に好ましい。ポリα-1,3-グルカンの含水量が上記範囲であると、ポリα-1,3-グルカンの保存や取扱いがより容易となり好ましい。
【0022】
上記ポリα-1,3-グルカンとしては、特開2018-102249号公報に記載のα-1,3-グルカンの製造方法で得られるポリα-1,3-グルカンが好ましく使用できる。上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、グルコース単位がα-1,3-グリコシド結合によって直鎖状に重合した構造を有することを特徴とする。好ましくは、α-1,3-グルカンは、完全直鎖状の構造を有する。ここで、「完全直鎖状」とは、α-1,3-グルカンを構成するグルコース単位がα-1,3-グリコシド結合以外の分岐(グルコース及び他の糖による分岐)を実質的に有しないことを意味する。
【0023】
また、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、従来のα-1,3-グルカン合成手法では得られなかった大きな分子量を有することを特徴とする。具体的には、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、20×104以上の重量平均分子量(Mw)を有する。好ましくは、70×104以上、より好ましくは100×104以上、さらに好ましくは120×104以上の重量平均分子量(Mw)を有することができる。
【0024】
また、上記製造方法により得られるα-1,3-グルカンは、分子量のばらつきが少ないという利点を有する。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnである多分散度(PDI;又は分子量分布ともいう)が、好ましくは1.0~2.5の範囲であり、より好ましくは1.0~2.0の範囲であり、さらに好ましくは1.0~1.7の範囲である。
【0025】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定には、当該技術分野における公知の手法を用いることができ、例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、またはゲル透過クロマトグラフィー(GPC)などの手段を用いることができる。
【0026】
[ポリα-1,3-グルカンカルバメート]
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートは、グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00である。上記置換度がこのような範囲であると、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の溶媒に溶解し易くなる。汎用溶媒であるDMSO溶液とすることにより、種々の分野への応用が可能となる。
【0027】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートは、上記ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を加熱処理することにより得ることができる。加熱処理の温度としては、130~180℃程度とすることができる。また、加熱時間は、1~10時間程度とすることができる。加熱処理は、熱風乾燥器で行うことができる。本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートは、上記ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を上記加熱処理することにより得られた固体をエタノール等の溶媒で洗浄後、減圧乾燥することにより、製造できる。
【0028】
上記ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体におけるポリα-1,3-グルカンと尿素の比率は、質量比で尿素:ポリα-1,3-グルカン=0.4~2.5:1であることが好ましく、0.6~1.8:1であることがより好ましく、1.0~1.6:1であることがさらに好ましい。ポリα-1,3-グルカンと尿素の比率を上記範囲とすることにより、ポリα-1,3-グルカンカルバメートにおいて、カルバメート基の置換度をより高くすることができる。
【0029】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートは、好ましくは、上記ポリα-1,3-グルカンカルバメート1.0gを16mlのDMSO溶液に溶解させた時の粘度が100mPa・s以上であり、より好ましくは200mPa・s以上であり、さらに好ましくは1000mPa・s以上である。このような特性を有する場合に、DMSO溶液により容易に溶解することができ、基板に塗布等してフィルム等により容易に成形できる。
【0030】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートは、ゲルろ過クロマトグラフィー担体、徐放性薬剤担体、イオン交換クロマトグラフ担体、アフィニティクロマトグラフ担体等、キラル特性を活かした、従来のキラル充填剤よりもさらに優れた光学分割能を有する材料などの様々な分野に応用できる。
【0031】
[ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液]
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液は、上記本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートをDMSOに溶解することにより製造できる。汎用溶媒であるDMSO溶液とすることにより、フィルム形成等、種々の分野への応用が可能となる。
【0032】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液は、好ましくは粘度が100mPa・s以上であり、より好ましくは200mPa・s以上であり、さらに好ましくは1000mPa・s以上である。このような粘度である場合に、基板に塗布等してフィルム等に、より容易に成形できる。
【0033】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液におけるポリα-1,3-グルカンカルバメートの含有量は、0.01~15質量%程度とすることができ、好ましくは5~15質量%程度とすることができる。このような範囲とした場合に、基板に塗布等してフィルム等に、より容易に成形できる。
【0034】
[ポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルム]
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムは、グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00であるポリα-1,3-グルカンカルバメートからなる。
【0035】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムは、上記本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液を用いて簡易に製造することができる。本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)ポリα-1,3-グルカンカルバメートのDMSO溶液を適当な基板上に塗布して塗膜を形成する工程
(2)上記塗膜を水と接触させる工程
【0036】
上記工程(1)において、塗膜を形成する方法としては特に限定されず、スピンコート等の公知の方法が使用できる。
【0037】
本発明のポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムは、グルコース単位当たりのカルバメート基の置換度が0.10~1.00であるポリα-1,3-グルカンカルバメートからなっているため、ポリα-1,3-グルカンカルバメート特有の特性を活かし、ゲルろ過クロマトグラフィー担体、徐放性薬剤担体、イオン交換クロマトグラフ担体、アフィニティクロマトグラフ担体等、キラル特性を活かした、従来のキラル充填剤よりもさらに優れた光学分割能を有する材料などの様々な分野に応用できる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。以下において、部は質量部を意味する。
【0039】
<粘度測定>
本発明におけるポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体の粘度測定は、E型粘度計(TVE-25L、東機産業社製)を使用して25℃で行った。測定は100rpmで300秒撹拌後の粘度を測定した。
【0040】
<IR測定>
日本分光株式会社製 フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR 6200)を使用し、ダイヤモンドATRで測定した。
【0041】
<13C-NMR測定>
サンプル濃度10重量%のDMSO溶液を作成し、日本電子株式会社(JEOL)製 JNM-ECS400(磁場強度9.4T)を用いて測定した。
【0042】
<置換度>
株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製 有機微量分析装置(JM10)を用い、ポリα-1,3-グルカンカルバメートの炭素・水素・窒素含量を測定、その窒素含量から置換度を求めた。
【0043】
実施例1-1
ポリα-1,3-グルカン100部を尿素100部、水400部と撹拌混合し、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(1)を得た。この尿素水溶液分散体(1)の粘度は3030センチポイズ(3030mPa・s)であった。
尚、実施例および比較例で使用したポリα-1,3-グルカンは、特開2018-102249号公報に記載の方法により、スクロースを原料として用い、30℃以下の温度条件下で、スクロースとα-1,3-グルカン合成酵素とを反応させて、脱イオン水で洗浄後、一晩凍結乾燥して製造したものを使用した。このものは2質量%の水分を含んでいた。α-1,3-グルカン合成酵素としては虫歯菌(Streptococcus salivarius)由来の酵素を使用した。このポリα-1,3-グルカンは、α-1,3-グリコシド結合によりグルコース単位が直鎖状に重合した構造を有し、重量平均分子量(Mw)は約20×104であった。
【0044】
実施例1-2
実施例1-1で得られたポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(1)を130℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(1)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(1)の置換度は0.12であった。
【0045】
実施例2-1
ポリα-1,3-グルカン100部を尿素200部、水600部と撹拌混合し、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(2)を得た。この尿素水溶液分散体(2)の粘度は390センチポイズ(390mPa・s)であった。
【0046】
実施例2-2
実施例2-1で得られたポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(2)を140℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(2)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(2)の置換度は0.32であった。
【0047】
実施例3-1
ポリα-1,3-グルカン100部を尿素50部、水600部と撹拌混合し、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(3)を得た。この尿素水溶液分散体(3)の粘度は622(622mPa・s)であった。
【0048】
実施例3-2
実施例3-1で得られたポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体(3)を140℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(3)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(3)の置換度は0.13であった。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(3)1gを16mlのDMSO溶液に溶解させた溶液の粘度は271センチポイズ(271mPa・s)であった。
【0049】
実施例4
ポリα-1,3-グルカン100部を尿素90部、水580部と撹拌混合し、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を140℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(4)を得た。IR測定の結果、ポリα-1,3-グルカンカルバメート(4)は1700cm-1にアミド結合由来のピークを示し、このものはDMSOに溶解した。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(4)の置換度は0.15であった。
【0050】
実施例5
尿素67部を水600部に溶解し、尿素水溶液を得た。撹拌下にポリα-1,3-グルカン100部をこの尿素水溶液に加え、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、140℃の熱風乾燥機中で1.5時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(5)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(5)の置換度は0.14であった。
【0051】
実施例6
尿素83部を水583部に溶解し、尿素水溶液を得た。撹拌下にポリα-1,3-グルカン100部をこの尿素水溶液に加え、ポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、140℃の熱風乾燥機中で2時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥してポリα-1,3-グルカンカルバメート(6)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(6)の置換度は0.41であった。
このポリα-1,3-グルカンカルバメート(6)100部に842部のジメチルスルホキシド(DMSO)を加え、24時間撹拌し、ポリα-1,3-グルカンカルバメート(6)のDMSO溶液を作成した。この溶液をスピンコート(500rpm、20秒)し、得られたスピンコート溶液を水と接触させて、ポリα-1,3-グルカンカルバメートのフィルムを作成した。得られたポリα-1,3-グルカンカルバメートフィルムのIRはフィルム化前のポリα-1,3-グルカンカルバメートのそれと同じであった。
【0052】
実施例7
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素129部を混合し、このものに撹拌しながら水535部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、145℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.32のポリα-1,3-グルカンカルバメート(7)を得た。
【0053】
実施例8
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素100部を混合し、このものに撹拌しながら水527部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、145℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.27のポリα-1,3-グルカンカルバメート(8)を得た。
【0054】
実施例9
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素82部を混合し、このものに撹拌しながら水574部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、145℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.38のポリα-1,3-グルカンカルバメート(9)を得た。
【0055】
実施例10
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素156部を混合し、このものに撹拌しながら水536部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、145℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.97のポリα-1,3-グルカンカルバメート(10)を得た。
図1にポリα-1,3-グルカンカルバメート(10)の13C-NMRを示した。156ppmにカルバモイル基由来のカルボニルの炭素のピークが見られた。
【0056】
実施例11
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素111部を混合し、このものに撹拌しながら水370部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、140℃の熱風乾燥機中で5時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.54のポリα-1,3-グルカンカルバメート(11)を得た。
図2にポリα-1,3-グルカンカルバメート(11)のIRチャートを示した。1700cm
-1にカルバモイル基由来のカルボニルの吸収が見られた。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(11)1.0gを16mlのDMSO溶液に溶解させた溶液の粘度は3338センチポイズ(3338mPa・s)であった。
【0057】
実施例12
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素98部を混合し、このものに撹拌しながら水393部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、150℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.64のポリα-1,3-グルカンカルバメート(12)を得た。
【0058】
実施例13
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水594部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、150℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.33のポリα-1,3-グルカンカルバメート(13)を得た。
【0059】
実施例14
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水596部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、160℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.63のポリα-1,3-グルカンカルバメート(14)を得た。
【0060】
実施例15
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水596部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、170℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.50のポリα-1,3-グルカンカルバメート(15)を得た。
【0061】
実施例16
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水592部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、180℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.66のポリα-1,3-グルカンカルバメート(16)を得た。ポリα-1,3-グルカンカルバメート(16)1.0gを16mlのDMSO溶液に溶解させた溶液の粘度は3587センチポイズ(3587mPa・s)であった。
【0062】
実施例17
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水397部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、140℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.49のポリα-1,3-グルカンカルバメート(17)を得た。
【0063】
実施例18
ポリα-1,3-グルカン100部と尿素150部を混合し、このものに撹拌しながら水400部を加えてポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を得た。このポリα-1,3-グルカンの尿素水溶液分散体を、130℃の熱風乾燥機中で3時間加熱処理し、得られた固形物を水洗、エタノール洗浄した後、減圧乾燥して、置換度が0.14のポリα-1,3-グルカンカルバメート(18)を得た。