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特許7213006導電性水溶液の製造装置及び導電性水溶液の製造方法
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  • 特許-導電性水溶液の製造装置及び導電性水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】導電性水溶液の製造装置及び導電性水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20230101AFI20230119BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/42 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017022494
(22)【出願日】2017-02-09
(65)【公開番号】P2018126700
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-12-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐一
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】山崎 慎一
【審判官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-255921(JP,A)
【文献】特開2011-194402(JP,A)
【文献】特開2016-76589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料水として金属イオン濃度が10ng/L以下の純水又は超純水のみが流通するように構成されたイオン交換装置と、
前記イオン交換装置を通過した直後の原料水に導電性付与物質を添加して溶解することで導電性水溶液を生成する導電性付与物質供給装置とを備え、
前記導電性付与物質がアンモニアであり、前記イオン交換装置にイオン交換体としてカチオン交換樹脂が充填されている、導電性水溶液製造装置。
【請求項2】
前記イオン交換装置の出口と前記導電性付与物質供給装置における前記アンモニアの添加箇所との離間距離が5m以下である、請求項1に記載の導電性水溶液製造装置。
【請求項3】
記導電性付与物質供給装置が前記アンモニアをアンモニア(アンモニウムイオン)の濃度が50mg/L以下となるように添加する、請求項1又は2に記載の導電性水溶液製造装置。
【請求項4】
前記イオン交換装置を通過後の原料水中の金属イオン濃度が10ng/L以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性水溶液製造装置。
【請求項5】
原料水として金属イオン濃度が10ng/L以下の純水又は超純水のみをイオン交換体に接触させるイオン交換工程と、
前記イオン交換工程でイオン交換処理した直後の原料水に導電性付与物質を添加して溶解することで導電性水溶液を生成する工程とを含み、
前記導電性付与物質がアンモニアであり、前記イオン交換工程において前記原料水を前記イオン交換体としてのカチオン交換樹脂に接触させる、導電性水溶液の製造方法。
【請求項6】
記導電性水溶液を生成する工程において前記アンモニアをアンモニア(アンモニウムイオン)の濃度が50mg/L以下となるように添加する、請求項に記載の導電性水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記イオン交換体との接触後の原料水中の金属イオン濃度が10ng/L以下である、請求項5又は6に記載の導電性水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性水溶液の製造装置及び製造方法に関し、特に高純度な導電性水溶液を得るのに好適な導電性水溶液の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造プロセスでは、不純物が高度に除去された超純水を用いて半導体ウエハやガラス基板の洗浄が行われている。
【0003】
このような超純水を用いた半導体ウエハの洗浄では、超純水の比抵抗値が高いため静電気が発生しやすく、絶縁膜の静電破壊や微粒子の再付着を招くおそれがある。そのため、近年では、超純水に微量のアンモニアなどの導電性付与物質を溶解させることで、超純水の比抵抗値を低くなるように調整し、静電気の発生を抑制することが行われている。
【0004】
この超純水に微量の導電性付与物質を溶解させた導電性水溶液は、超純水に導電性付与物質を添加する装置を用いて製造されているが、なるべく高純度のものが望ましいため、導電性付与物質を添加した導電性水溶液をイオン交換装置で処理することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-76590号公報
【文献】特開2016-76589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された導電性水溶液の製造装置では、超純水に導電性付与物質を添加した後、イオン交換装置で処理しているので、例えば導電性付与物質としてアンモニアを添加し、得られる導電性水溶液から不純物としての金属イオンを除去する場合には、アンモニウムイオンが金属イオンの除去の障害となり、十分に純度を向上させるのが困難である、という問題点がある。特に、導電性水溶液の濃度が濃い場合に、その導電性物質がイオン交換体とイオン交換し、除去したい物質の除去が困難となる。また、導電性水溶液の濃度を変動させる場合には、イオン交換装置中のイオン交換体がイオンを吸着したり、あるいは吐き出したりするので、所望の濃度に安定するまでに時間がかかる、という問題点がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、安定した濃度で導電性水溶液を製造することができ、濃度の変更に対する追従性に優れた導電性水溶液の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明は第一に、原料水が流通するように構成されたイオン交換装置と、前記イオン交換装置を通過した原料水に導電性付与物質を添加して導電性水溶液を生成する導電性付与物質供給装置とを備え、前記イオン交換装置を通過した原料水に前記導電性付与物質を溶解することで生成され、該原料水に導電性を付与するイオンがカチオンである場合、前記イオン交換装置にはカチオン交換体が充填され、前記イオンがアニオンである場合、前記イオン交換装置にはアニオン交換体が充填されている、導電性水溶液製造装置を提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)によれば、超純水などの原料水をイオン交換装置に流通させると、イオン交換反応により原料水中のイオンが高度に除去されることになる。このとき所望とする導電性水溶液がカチオン性の場合には、付与するカチオン源にとって他のカチオンが阻害要因となる一方、所望とする導電性水溶液がアニオン性の場合には、付与するアニオン源にとって他のアニオンが阻害要因となるので、対応するイオンを除去するイオン交換体をイオン交換装置に充填してこれらを除去することで、添加する導電性付与物質に応じて高精度に制御された導電性水溶液を安定的に得ることができる。しかも原料水の純度が高い(対応するアニオン又はカチオンが除去されている)ので、添加される導電性付与物質の量に応じて導電性水溶液の濃度が迅速に変動するため、導電性付与物質に起因するイオン濃度の変更に対する追従性に優れている。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記イオン交換装置の出口と前記導電性付与物質供給装置における前記導電性付与物質の添加箇所との離間距離が5m以下であることが好ましい(発明2)。
【0011】
かかる発明(発明2)によれば、イオン交換装置でイオンを高度に除去した原料水に対して迅速に導電性付与物質を添加することで、不純物の溶解を防止して添加する導電性付与物質の濃度に応じた導電性水溶液を得ることができる。
【0012】
上記発明(発明1、2)においては、前記導電性付与物質がアンモニアであることが好ましい(発明3)。
【0013】
かかる発明(発明3)によれば、高純度のアンモニア水溶液が求められる半導体ウエハの洗浄水の製造装置として好適である。
【0014】
上記発明(発明3)においては、前記イオン交換装置にカチオン交換体が充填されていることが好ましい(発明4)。
【0015】
かかる発明(発明4)によれば、原料水に含まれる金属イオンなどのカチオンを高度に除去することで、高純度のアンモニア水溶液が求められる半導体ウエハの洗浄水の製造装置として特に好適である。
【0016】
上記発明(発明3、4)においては、前記原料水は金属イオン濃度が10ng/L以下の純水又は超純水であることが好ましい(発明5)。
【0017】
かかる発明(発明5)によれば、この原料水をイオン交換装置で処理して、金属イオンをさらに高度に除去することにより、金属イオンの少ない希釈アンモニア水溶液を得ることができ、さらに導電性付与物質供給装置でのアンモニアの添加量からアンモニア水溶液の濃度を把握することができる。
【0018】
上記発明(発明3~5)においては、前記イオン交換装置を通過後の原料水中の金属イオン濃度が10ng/L以下であることが好ましい(発明6)。
【0019】
かかる発明(発明6)によれば、高純度のアンモニア水溶液とすることで、このアンモニア水溶液を用いた半導体ウエハの洗浄などの処理を好適に行うことができる。
【0020】
また、本発明は第二に、原料水をイオン交換体に接触させるイオン交換工程と、前記イオン交換工程でイオン交換処理した原料水に導電性付与物質を添加して導電性水溶液を生成する工程とを含み、前記イオン交換処理した原料水に前記導電性付与物質を溶解することで生成され、該原料水に導電性を付与するイオンがカチオンである場合、前記イオン交換体としてカチオン交換体に接触させ、前記イオンがアニオンである場合、前記イオン交換体としてアニオン交換体に接触させる、導電性水溶液の製造方法を提供する(発明7)。
【0021】
かかる発明(発明7)によれば、超純水などの原料水をイオン交換体に接触させると、イオン交換反応により原料水中のイオンが高度に除去されることになる。このとき所望とする導電性水溶液がカチオン性の場合には、付与するカチオン源にとって他のカチオンが阻害要因となる一方、所望とする導電性水溶液がアニオン性の場合には、付与するアニオン源にとって他のアニオンが阻害要因となるので、対応するイオンを除去可能なイオン交換体に接触させてこれらを除去することで、添加する導電性付与物質に応じて高純度の導電性水溶液を安定的に製造することができる。しかも原料水の純度が高い(対応するアニオン又はカチオンが除去されている)ので、添加される導電性付与物質の量に応じて導電性水溶液の濃度が迅速に変動するため、導電性付与物質に起因するイオン濃度の変更に対する追従性に優れている。
【0022】
上記発明(発明7)においては、前記導電性付与物質がアンモニアであることが好ましい(発明8)。
【0023】
かかる発明(発明8)によれば、高純度のアンモニア水溶液が求められる半導体ウエハの洗浄水の製造方法として好適である。
【0024】
上記発明(発明8)においては、前記イオン交換体がカチオン交換体であることが好ましい(発明9)。
【0025】
かかる発明(発明9)によれば、原料水に含まれる金属イオンなどのカチオンを高度に除去することで、高純度のアンモニア水溶液が求められる半導体ウエハの洗浄水の製造方法として特に好適である。
【0026】
上記発明(発明8、9)においては、前記原料水は金属イオン濃度が10ng/L以下の純水又は超純水であることが好ましい(発明10)。
【0027】
かかる発明(発明10)によれば、この原料水をイオン交換装置で処理して、金属イオンをさらに高度に除去することにより、金属イオンの少ない希釈アンモニア水溶液を得ることができ、さらに導電性付与物質供給装置でのアンモニアの添加量からアンモニア水溶液の濃度を把握することができる。
【0028】
上記発明(発明8~10)においては、前記イオン交換体との接触後の原料水中の金属イオン濃度が10ng/L以下であることが好ましい(発明11)。
【0029】
かかる発明(発明11)によれば、高純度のアンモニア水溶液とすることで、このアンモニア水溶液を用いた半導体ウエハの洗浄などの処理を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の導電性水溶液製造装置によれば、原料水をイオン交換装置に流通させることでイオン交換反応により原料水中のイオンが高度に除去されることになるため、高純度の導電性水溶液を安定的に得ることができる。しかも原料水の純度が高いので、導電性付与物質に起因するイオン濃度の変更に対する追従性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一実施形態の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
図2】本発明の第二実施形態の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
図3】本発明の第三実施形態の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
図4】実施例1~4の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
図5】実施例5~7の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
図6】比較例1~5の導電性水溶液製造装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は本発明の第一の実施形態による導電性水溶液製造装置を示す概略図であり、図1において導電性水溶液製造装置1は、原料水としての超純水Wを供給する主配管11の途中に設けられたイオン交換装置2と、この主配管11のイオン交換装置2より下流側に合流する供給管12と、この供給管12に連通した導電性付与物質供給装置3とを有する。なお、図示していないが、導電性水溶液製造装置1には、必要に応じて各種のフィルタや弁が適宜設置されていてもよい。
【0033】
上述したような導電性水溶液製造装置1において、イオン交換装置2には、イオン交換体としてのイオン交換樹脂が充填されている。このイオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂、カチオン、あるいはアニオン交換樹脂とカチオンとの混合樹脂を用いることができるが、後述する導電性付与物質によって異なる。
【0034】
具体的には、導電性付与物質を溶解して超純水Wに導電性を付与するイオンがカチオンである場合には、イオン交換装置2にはカチオン交換樹脂を充填することが好ましく、また、超純水Wに導電性を付与するイオンがアニオンである場合にはアニオン交換樹脂を充填することが好ましい。例えば、導電性付与物質がアンモニアである場合、上記イオンはカチオン、すなわちアンモニウムイオン(NH )であるため、イオン交換装置2にはカチオン交換樹脂が充填されていることが好ましい。このときのカチオン交換樹脂のイオン形としては、特に限定されるものではないが、Na形のような塩形であると、Naなどの塩類が導電性水溶液に含まれ、これにより半導体ウエハが汚染されるおそれがあるため、H形またはアンモニウムイオン形であることが好ましい。また、導電性付与物質が二酸化炭素である場合、上記イオンはアニオン、すなわち重炭酸イオン(HCO )または炭酸イオン(CO 2-)であるため、イオン交換装置2には、アニオン交換樹脂が充填されていることが好ましい。このときのアニオン交換樹脂のイオン形としては、特に限定されるものではないが、Cl形などであると、Clなどが導電性水溶液に含まれ、これにより半導体ウエハが汚染されるおそれがあるため、OH形、重炭酸イオン形、炭酸イオン形のいずれかであることが好ましい。特に導電性付与物質としてアンモニアを用い、イオン交換装置2にカチオン交換樹脂が充填されている組み合わせが好適である。
【0035】
導電性付与物質供給装置3は、イオン交換装置2で処理した原料水(以下、処理水とする)に導電性付与物質を添加して導電性水溶液を生成するものであり、処理水に導電性付与物質を添加することができるものであれば、その方法は特に限定されるものではない。例えば、ガス状の導電性付与物質を処理水に添加して溶解させる場合、中空糸製のガス透過膜を用いて溶解させる方法や、配管内に直接バブリングする方法などを用いることができる。また、純水または超純水に導電性付与物質を高濃度に溶解させた水溶液を処理水に添加して希釈する場合、タンクに貯留した当該水溶液を往復動式定量ポンプやシリンジポンプを用いて添加する方法や、タンク内に加圧不活性ガスを導入することで上記水溶液を圧送する圧送手段などを用いることができる。なお、本実施形態において、「導電性付与物質」とは、原料水(処理水)である超純水Wに溶解することでイオン(アニオンまたはカチオン)を生成し、そのイオンによって超純水Wに導電性を付与する物質を意味する。このような導電性付与物質としては、種々の物質を用いることができるが、製造される導電性水溶液W1が半導体ウエハの洗浄に使用される場合には、二酸化炭素やアンモニアが好適であり、特にアンモニアが好適である。このアンモニアは所定の濃度のアンモニア水として添加することが好ましい。
【0036】
この導電性付与物質供給装置3における導電性付与物質の添加位置は、イオン交換装置2の出口から5m以下であることが好ましい。このようにイオン交換装置2の出口との離間距離を5m以下とすることにより、イオン交換装置2から処理水を搬送する過程でのイオンの混入などを抑制して、高純度の処理水に対して導電性付与物質を添加することができる。
【0037】
次に上述したような構成を有する本実施形態の導電性水溶液製造装置1を用いた導電性水溶液の製造方法について説明する。
【0038】
まず、原料水としての超純水Wをイオン交換装置2内のイオン交換樹脂に接触させる。ここで用いる超純水Wとしては、比抵抗値が18MΩ・cm以上の水をいうものとする。また、導電性付与物質を溶解して超純水Wに導電性を付与するイオンがアンモニアである場合には、この超純水Wの金属イオン濃度が10ng/L以下であることが好ましい。これによりイオン交換装置2の処理水における金属イオン濃度を極めて低いレベルにすることができる。
【0039】
このイオン交換装置2においてカチオン成分又はアニオン成分を除去する。具体的には、導電性付与物質を溶解して超純水Wに導電性を付与するイオンがカチオンである場合には、イオン交換装置2にはカチオン交換樹脂を充填してカチオン成分を除去することが好ましく、また、超純水Wに導電性を付与するイオンがアニオンである場合にはアニオン交換樹脂を充填することが好ましい。例えば、導電性付与物質がアンモニアである場合、カチオン成分を除去することが好ましく、また、導電性付与物質が二酸化炭素である場合、上記イオンはアニオン、すなわち重炭酸イオン(HCO )または炭酸イオン(CO 2-)であるため、アニオン成分を除去することが好ましい。
【0040】
特に導電性付与物質を溶解して超純水Wに導電性を付与するイオンがアンモニアである場合、カチオン交換樹脂を充填したイオン交換装置2で処理することで、得られる処理水の金属イオン濃度を10ng/L以下にすることが好ましい。例えば、原料水である超純水Wの金属イオン濃度が10ng/L以下であれば、得られる処理水の金属イオン濃度を1ng/L以下、さらに0.1ng/L以下の極めて低いレベルにまで低減することができる。
【0041】
続いて導電性付与物質供給装置3から供給管12を経由して導電性付与物質をイオン交換装置2の処理水に添加する。ここで、本実施形態においては、イオン交換装置2の処理水は、超純水Wから導電性付与物質に対応したアニオン又はカチオンが除去したものであるので、導電性付与物質の添加量に応じた導電性水溶液を安定的に製造することができる。しかも、イオン交換装置2の処理水が高純度であるので、導電性付与物質に起因するイオン濃度の変更に対する追従性に優れる、という効果も奏する。すなわち、導電性水溶液W1の濃度を変更するために導電性付与物質の添加量を変更することにより、所望の濃度の導電性水溶液W1に迅速に変動させることができる。さらに、導電性付与物質供給装置3での導電性付与物質の添加量から、導電性水溶液の濃度を概ね把握することができる。そこで、所望の水質の導電性水溶液を安定してユースポイントに供給するためには、導電性水溶液の濃度を継続的に監視することが好ましい。
【0042】
特に、導電性付与物質供給装置3として、アンモニアを用いた場合には、処理水の金属イオン濃度を1ng/L以下、特に0.1ng/L以下の極めて低いレベルにまで低減することで、得られる希薄アンモニア水に含まれる金属イオンの影響を抑制することができて好ましい。このような本実施形態の導電性水溶液製造方法は、導電性付与物質供給装置3としてアンモニアを用いた場合、アンモニア(アンモニウムイオン)の濃度が100mg/L以下、特に50mg/L以下の希薄アンモニア水の製造に好適である。
【0043】
次に本発明の第二の実施形態による導電性水溶液製造装置について、図2に基づいて説明する。第二の実施形態による導電性水溶液製造装置は、導電性付与物質供給装置3の下流に予備希釈貯槽4を備え、この予備希釈貯槽4に導電性付与物質を供給するとともに、イオン交換装置2で処理した処理水が分岐管13を介してこの予備希釈貯槽4に供給される構成とした以外は上述した第一の実施形態の導電性水溶液製造装置と同様の構成を有する。このように導電性付与物質をイオン交換装置2で処理した処理水で予備的に希釈することにより、イオン性不純物が低減された導電性付与物質の溶液とした後、イオン交換装置2の処理水に溶解することで導電性水溶液W1を製造することができる。
【0044】
本発明の第三の実施形態による導電性水溶液製造装置について、図3に基づいて説明する。この導電性水溶液製造装置1は、導電性付与物質の予備希釈貯槽4にイオン交換装置2で処理した処理水を供給する代わりに超純水W0を供給し、導電性付与物質を希釈する構成とした以外は上述した第二の実施形態の導電性水溶液製造装置と同じ構成を有する。このように導電性付与物質をイオン交換装置2で処理した処理水と同等の水質の超純水W0で予備的に希釈することにより、イオン性不純物が低減された導電性付与物質の溶液とした後、イオン交換装置2の処理水に溶解することで導電性水溶液W1を製造することができる。
【0045】
以上、本発明の導電性水溶液の製造装置及び導電性水溶液の製造方法について、上記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、導電性付与物質供給装置3及び予備希釈貯槽4には窒素ガスなどの不活性ガスのパージ機能を設けてもよい。さらに、導電性付与物質供給装置3及び予備希釈貯槽4に導電性を付与するイオンの濃度センサを設けるとともに主配管11の導電性付与物質供給ポイントより後段にも濃度センサを設けて、導電性付与物質の添加量を制御するようにしてもよい。なお、上述した各実施形態では、超純水Wを用いた場合について説明したが、これよりも純度の劣る純水に対して同様に適用することもできる。
【実施例
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
図4に示す導電性水溶液製造装置1を用い、導電性水溶液W1として希薄アンモニア水を製造した。ここで、図4に示す導電性水溶液製造装置1は、図1に示す導電性水溶液製造装置において、導電性付与物質供給装置3が導電性付与物質としてアンモニア水を供給するものであり、イオン交換装置2にイオン交換体としてカチオン交換樹脂を充填したものであり、さらに試験用にイオン交換装置2の上流及び下流に入口サンプリングポイント及び処理水サンプリングポイントを設けるとともにアンモニア水の添加箇所の下流に出口サンプリングポイントを設けたものである。
【0048】
このような導電性水溶液製造装置において、金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wをイオン交換装置2で処理した後、アンモニア濃度35mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入し、初期アンモニア水溶液を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度は10ng/Lであった。
【0049】
その後アンモニア濃度が10mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は10mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例1において、アンモニア濃度が0.1mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更した以外は同様にして希薄アンモニア水W1を製造した。そして、設定変更から1分経過後、出口サンプリングポイントでアンモニア水溶液を採取し、アンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は0.1mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0051】
[実施例3]
実施例1において、原料水として金属イオン濃度100ng/Lの超純水Wをイオン交換装置2で処理した後、アンモニア濃度35mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入し、初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度は100ng/Lであった。
【0052】
その後アンモニア濃度が1mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後、出口サンプリングポイントでアンモニア水溶液を採取し、アンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は1mg/Lで金属イオン濃度は10ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0053】
[実施例4]
実施例1において、原料水として金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wをイオン交換装置2で処理した後、アンモニア濃度0.1mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入し、初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は0.1mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。
【0054】
その後アンモニア濃度が35mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後、出口サンプリングポイントでアンモニア水溶液を採取し、アンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果をイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1に示す。
【0055】
[実施例5]
図5に示す導電性水溶液製造装置1を用い、希薄アンモニア水W1を製造した。ここで、図5に示す導電性水溶液製造装置1は、図3に示す導電性水溶液製造装置において、導電性付与物質供給装置3が導電性付与物質としてアンモニア水を予備希釈貯槽4に供給するものであり、この予備希釈貯槽4には、金属イオン濃度0.1ng/L未満の超純水W0が供給されてアンモニア水を希釈する構成を有し、さらにイオン交換装置2にカチオン交換樹脂を充填したものである。そして、試験用にイオン交換装置2の上流及び下流に入口サンプリングポイント及び処理水サンプリングポイントを設けるとともにアンモニアの添加箇所の下流に出口サンプリングポイントを設けている。
【0056】
このような導電性水溶液製造装置において、金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wをイオン交換装置2で処理した後、アンモニア濃度35mg/Lとなるように初期設定して予備希釈貯槽4からアンモニア溶液を注入し、初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。
【0057】
その後アンモニア濃度が10mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い予備希釈貯槽4からのアンモニア溶液の注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後、出口サンプリングポイントでアンモニア水溶液を採取し、アンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は10mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1あわせて示す。
【0058】
[実施例6]
実施例5において、アンモニア濃度が0.1mg/Lとなるように設定を変更し、予備希釈貯槽4からのアンモニア溶液の注入量を変更した以外は同様にして希薄アンモニア水W1を製造した。そして、設定変更から1分経過後、出口サンプリングポイントでアンモニア水溶液を採取し、アンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は0.1mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0059】
[実施例7]
実施例5において、原料水として金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wをイオン交換装置2で処理した後、アンモニア濃度0.1mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入し、初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は0.1mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。
【0060】
その後アンモニア濃度が35mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度は0.1ng/L未満であった。これらの結果を入口水(超純水W)及びイオン交換装置2の処理水の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0061】
[比較例1]
図6に示す導電性水溶液製造装置1を用い、希薄アンモニア水W1を製造した。ここで、図6に示す導電性水溶液製造装置1は、超純水Wに導電性付与物質供給装置3からアンモニア水を供給するとともに、その後カチオン交換樹脂を充填したイオン交換装置2で処理する構成であり、さらに試験用にアンモニアの添加箇所の上流に入口サンプリングポイントを設けるとともにイオン交換装置2の下流に出口サンプリングポイントを設けている。
【0062】
このような導電性水溶液製造装置において、金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wにアンモニア濃度35mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入した後、イオン交換装置2で処理して初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度10ng/Lであった。
【0063】
その後アンモニア濃度が10mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は15mg/Lで金属イオン濃度は3ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0064】
[比較例2]
比較例1において、アンモニア濃度が25mg/Lとなるように設定を変更し、導電性付与物質供給装置3からのアンモニア溶液の注入量を変更した以外は同様にして希薄アンモニア水W1を製造した。そして、設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は29mg/Lで金属イオン濃度は4ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0065】
[比較例3]
比較例1において、アンモニア濃度が0.1mg/Lとなるように設定を変更し、導電性付与物質供給装置3からのアンモニア溶液の注入量を変更した以外は同様にして希薄アンモニア水W1を製造した。そして、設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は10mg/Lで金属イオン濃度は2ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)の金属イオン濃度とともに表1にあわせて示す。
【0066】
[比較例4]
比較例1において、金属イオン濃度10ng/Lの超純水Wにアンモニア濃度0.1mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入した後、イオン交換装置2で処理して初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は0.1mg/Lで金属イオン濃度10ng/Lであった。
【0067】
その後アンモニア濃度が35mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は29mg/Lで金属イオン濃度4ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)の金属イオン濃度とともに表1に示す。
【0068】
[比較例5]
比較例1において、金属イオン濃度100ng/Lの超純水Wにアンモニア濃度35mg/Lとなるように初期設定して導電性付与物質供給装置3からアンモニアを注入した後、イオン交換装置2で処理して初期アンモニア水を製造した。この初期アンモニア水の濃度が安定した時点で出口サンプリングポイントで初期アンモニア水溶液をサンプリングし、アンモニア濃度と金属濃度を測定した結果、アンモニア濃度は35mg/Lで金属イオン濃度10ng/Lであった。
【0069】
その後アンモニア濃度が10mg/Lとなるように設定を変更し、これに伴い導電性付与物質供給装置3からのアンモニアの注入量を変更して希薄アンモニア水W1を製造した。設定変更から1分経過後の出口水をサンプリングしてアンモニア濃度と金属濃度を測定したところ、アンモニア濃度は14mg/Lで金属イオン濃度は27ng/Lであった。これらの結果を入口水(超純水W)の金属イオン濃度とともに表1に示す。

【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなとおり超純水Wをカチオン交換樹脂で処理した後アンモニア水を添加した実施例1~7の導電性水溶液製造装置では、アンモニア濃度の設定変更から1分経過後のアンモニア濃度の設定値との乖離率が小さく、得られる希薄アンモニア水W1における金属イオン濃度も小さかった。これに対し、超純水Wにアンモニアを添加した後カチオン交換樹脂で処理した比較例1~5の導電性水溶液製造装置では、アンモニア濃度の設定変更から1分経過後のアンモニア濃度の追従性が悪く、得られる希薄アンモニア水W1における金属イオン濃度がアンモニ水の濃度の影響により大きかった。
【符号の説明】
【0072】
1 導電性水溶液製造装置
2 イオン交換装置
3 導電性付与物質供給装置
4 予備希釈貯槽
W 超純水(原料水)
W1 導電性水溶液(希薄アンモニア水)
W0 超純水(希釈水)
図1
図2
図3
図4
図5
図6