(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】表面性状測定装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/20 20060101AFI20230119BHJP
G01B 5/28 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
G01B5/20 C
G01B5/28 102
(21)【出願番号】P 2018199956
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 樹
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-219216(JP,A)
【文献】特開2011-163796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/20-5/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の被測定面に接触しながら前記被測定面を倣い走査することによって被測定面の表面性状を測定する表面性状測定器と、前記表面性状測定器が前記被測定面に沿って倣い走査するように前記表面性状測定器と前記被測定物とを三次元的に相対移動させる相対移動機構と、前記表面性状測定器および前記相対移動機構の動作を制御する制御装置と、を具備した表面性状測定装置であって、
前記表面性状測定器は、
回転軸を支点として円弧運動可能に支持された測定アームと、前記測定アームの先端に設けられたスタイラスと、前記測定アームの円弧運動による変位を検出する変位検出器と、前記測定アームを円弧運動方向へ付勢して前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段と、を有し、
前記制御装置は、
前記測定力の向きおよび大きさを指令する測定力指令を出力する測定力指令部と、前記測定力付与手段に制御信号を印加することにより前記測定力付与手段によって発生する前記測定力の向きおよび大きさを制御する測定力制御部と、を備え、
前記測定力制御部は、
前記表面性状測定器の前記被測定物に対する
前記被測定面に沿った方向の測定速度に応じて
前記被測定面に交差する方向への前記測定アームの変位速さの所定閾値を設定し、
前記変位検出器からの変位検出信号を監視し、前記測定アームの変位速さが所定閾値以下であるときは、前記測定力指令に応じた向きおよび大きさの測定力が発生するように前記制御信号を前記測定力付与手段に印加し、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛ける
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面性状測定装置において、
前記測定力制御部は、
前記測定力指令の値に応じた電圧信号である測定力指令電圧を生成する測定力指令電圧生成部と、
前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力を前記測定力付与手段に発生させる電圧信号であるフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、
前記測定力指令電圧から前記フィードバック信号を減算する減算手段と、
前記変位検出器からの変位検出信号に基づいて、前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えたか否かを判定する判定回路と、を備え、
前記判定回路は、前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えたと判定した場合に、前記フィードバック信号が前記減算手段に入力されるようにする
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の表面性状測定装置において、
フィードバック信号生成部は、前記変位検出器からの変位検出信号の周波数値に応じた電圧信号を生成する周波数電圧変換回路で構成されている
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の表面性状測定装置において、
前記フィードバック信号生成部と減算手段との間にスイッチ手段が設けられ、
前記判定回路は、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には前記スイッチ手段をオンにし、
前記測定アームの変位速さが所定閾値以下である場合には前記スイッチ手段をオフにする
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の表面性状測定装置において、
前記スイッチ手段がオフのときに、前記表面性状測定器は前記被測定面の表面性状を測定する
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の表面性状測定装置において、
前記測定力制御部は、前記測定速度と前記閾値との対応を示す閾値テーブルを記憶している
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【請求項7】
回転軸を支点として円弧運動可能に支持された測定アーム、前記測定アームの先端に設けられたスタイラス、前記測定アームの円弧運動による変位を検出する変位検出器、および、前記測定アームを円弧運動方向へ付勢して前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段を有する表面性状測定器と、
前記表面性状測定器が被測定物の被測定面に沿って倣い走査するように前記表面性状測定器と前記被測定物とを三次元的に相対移動させる相対移動機構と、を具備した表面性状測定装置の制御方法であって、
前記測定力の向きおよび大きさを指令する測定力指令に基づいた制御信号を前記測定力付与手段に印加することにより前記測定力付与手段によって発生する前記測定力の向きおよび大きさを制御し、
前記表面性状測定器の前記被測定物に対する
前記被測定面に沿った方向の測定速度に応じて
前記被測定面に交差する方向への前記測定アームの変位速さの所定閾値を設定し、
前記変位検出器からの変位検出信号を監視し、前記測定アームの変位速さが所定閾値以下であるときは、前記測定力指令に応じた向きおよび大きさの測定力が発生するように前記制御信号を前記測定力付与手段に印加し、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛ける
ことを特徴とする表面性状測定装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面性状測定装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物表面をスタイラスで倣い走査することで被測定物の表面性状(輪郭、粗さ、うねりなど)を測定する表面性状測定装置が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1に開示された表面性状測定装置は、円弧運動可能に支持された測定アームと、測定アームの先端に設けられたスタイラスと、スタイラスが所定の測定力で被測定物に当接するように測定アームに力を作用させる測定力付与手段と、測定アームをステージに対して相対移動させる移動機構と、測定アームの円弧運動による変位を検出する変位検出部と、を備えている。
【0003】
表面性状測定装置には、測定アームが倣い移動しながら追従できる限界の角度(追従限界角度)がある。すなわち、被測定面の傾斜角度が緩やか(傾斜角度が追従限界角度以下)である場合、スタイラスは被測定面に一定の測定力で接触しつつ倣い移動することができる。一方、被測定面に傾斜角度の大きな段差があり、その傾斜角度が追従限界角度を超えている場合、スタイラスが被測定面の傾斜に追従できず、被測定面から離れて浮き上がった後、再び被測定面に近接して衝突することになる(測定アームの落下と称される)。
測定アームの落下が生じると、衝突によりスタイラスおよび被測定物が損傷する可能性がある。これに対し、本願出願人により、スタイラスが測定対象と衝突するような不都合を防止できる表面性状測定装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2に開示された表面性状測定装置は、前記測定力の向きおよび大きさを指令する測定力指令を出力する測定力指令部と、前記測定力付与手段に制御信号を印加することにより前記測定力付与手段によって発生する前記測定力の向きおよび大きさを制御する測定力制御部と、を備え、前記測定力制御部は、前記変位検出器からの変位検出信号を監視し、前記測定アームの変位速さが所定閾値以下であるときは、前記測定力指令に応じた向きおよび大きさの測定力が発生するように前記制御信号を前記測定力付与手段に印加し、前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛ける構成を備えている。
従って、特許文献2に開示された表面性状測定装置によれば、測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合(測定アームの落下が生じた場合)でも、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛けることができ、スタイラスが測定対象と衝突してしまうような測定アームの落下を抑止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-225742号公報
【文献】特許第6133678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、特許文献2に開示された表面性状測定装置により、スタイラスが測定対象と衝突してしまうような測定アームの落下を抑止できるようになった。
しかし、特許文献2に開示された表面性状測定装置では、測定アームの変位速度の判定基準となる所定閾値が一定値であるため、次のような不都合が生じる可能性がある。
測定アームの測定速度(測定アームの倣い動作の速度)が一定のとき、被測定物の傾斜が小さければ測定アームは傾斜に追従できるが、被測定物の傾斜が大きく段差状になると、測定アームが傾斜面から浮き上がり、落下が生じることになる。一方、同じ傾斜角度の傾斜面に対しては、測定速度が大きいほど測定アームの変位速度も大きくなり、やがて傾斜面から浮き上がり、落下が生じることになる。
これらの落下に対して、特許文献2の表面性状測定装置により落下防止機能が提供されるが、閾値が一定値であると、様々な条件に適切に対応できない可能性がある。例えば、閾値が小さいと、様々な測定速度あるいは傾斜角度に対して落下防止機能が確実に働くものの、落下防止機能が頻繁に働くことで、測定作業が円滑に行えない可能性がある。一方、閾値が大きいと、落下防止機能が抑制されるものの、落下防止機能が確実に働かない状況が生じる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、様々な測定条件のもとでスタイラスの落下を確実に防止しつつ、測定作業が円滑に行える表面性状測定装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面性状測定装置は、
被測定物の被測定面に接触しながら前記被測定面を倣い走査することによって被測定面の表面性状を測定する表面性状測定器と、前記表面性状測定器が前記被測定面に沿って倣い走査するように前記表面性状測定器と前記被測定物とを三次元的に相対移動させる相対移動機構と、前記表面性状測定器および前記相対移動機構の動作を制御する制御装置と、を具備した表面性状測定装置であって、
前記表面性状測定器は、
回転軸を支点として円弧運動可能に支持された測定アームと、前記測定アームの先端に設けられたスタイラスと、前記測定アームの円弧運動による変位を検出する変位検出器と、前記測定アームを円弧運動方向へ付勢して前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段と、を有し、
前記制御装置は、
前記測定力の向きおよび大きさを指令する測定力指令を出力する測定力指令部と、前記測定力付与手段に制御信号を印加することにより前記測定力付与手段によって発生する前記測定力の向きおよび大きさを制御する測定力制御部と、を備え、
前記測定力制御部は、
前記表面性状測定器の前記被測定物に対する測定速度に応じて前記測定アームの変位速さの所定閾値を設定し、
前記変位検出器からの変位検出信号を監視し、前記測定アームの変位速さが所定閾値以下であるときは、前記測定力指令に応じた向きおよび大きさの測定力が発生するように前記制御信号を前記測定力付与手段に印加し、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛ける
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の表面性状測定装置において、
前記測定力制御部は、
前記測定力指令の値に応じた電圧信号である測定力指令電圧を生成する測定力指令電圧生成部と、
前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力を前記測定力付与手段に発生させる電圧信号であるフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、
前記測定力指令電圧から前記フィードバック信号を減算する減算手段と、
前記変位検出器からの変位検出信号に基づいて、前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えたか否かを判定する判定回路と、を備え、
前記判定回路は、前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えたと判定した場合に、前記フィードバック信号が前記減算手段に入力されるようにする
ことが好ましい。
【0010】
本発明の表面性状測定装置において、
フィードバック信号生成部は、前記変位検出器からの変位検出信号の周波数値に応じた電圧信号を生成する周波数電圧変換回路で構成されている
ことが好ましい。
【0011】
本発明では、
前記フィードバック信号生成部と減算手段との間にスイッチ手段が設けられ、
前記判定回路は、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には前記スイッチ手段をオンにし、
前記測定アームの変位速さが所定閾値以下である場合には前記スイッチ手段をオフにする
ことが好ましい。
【0012】
本発明の表面性状測定装置において、
前記スイッチ手段がオフのときに、前記表面性状測定器は前記被測定面の表面性状を測定する
ことが好ましい。
【0013】
本発明の表面性状測定装置において、
前記測定力制御部は、前記測定速度と前記閾値との対応を示す閾値テーブルを記憶している
ことを特徴とする表面性状測定装置。
【0014】
本発明の表面性状測定装置の制御方法は、
回転軸を支点として円弧運動可能に支持された測定アーム、前記測定アームの先端に設けられたスタイラス、前記測定アームの円弧運動による変位を検出する変位検出器、および、前記測定アームを円弧運動方向へ付勢して前記スタイラスに測定力を付与する測定力付与手段を有する表面性状測定器と、
前記表面性状測定器が被測定物の被測定面に沿って倣い走査するように前記表面性状測定器と前記被測定物とを三次元的に相対移動させる相対移動機構と、を具備した表面性状測定装置の制御方法であって、
前記測定力の向きおよび大きさを指令する測定力指令に基づいた制御信号を前記測定力付与手段に印加することにより前記測定力付与手段によって発生する前記測定力の向きおよび大きさを制御し、
前記表面性状測定器の前記被測定物に対する測定速度に応じて前記測定アームの変位速さの所定閾値を設定し、
前記変位検出器からの変位検出信号を監視し、前記測定アームの変位速さが所定閾値以下であるときは、前記測定力指令に応じた向きおよび大きさの測定力が発生するように前記制御信号を前記測定力付与手段に印加し、
前記測定アームの変位速さが所定閾値を超えた場合には、前記測定アームの先端を上方に持ち上げる方向の力が前記測定力付与手段に発生するようにフィードバックを掛ける
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、スタイラスが測定対象と衝突してしまうような測定アームの落下を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る表面性状測定装置を示す図。
【
図2】前記第1実施形態において、X軸駆動機構および表面性状測定器の構成を示す図。
【
図3】前記第1実施形態の制御装置の機能ブロック図。
【
図4】前記第1実施形態の測定力制御部の機能ブロック図。
【
図5】前記第1実施形態における測定速度と閾値(落下検知速度)との関係を示す図。
【
図6】前記第1実施形態における下向き面SDと上向き面SUとを有する被測定物Wを連続的に測定する様子を示す図。
【
図7】前記第1実施形態における信号の符号の正負を説明するための図。
【
図8】前記第1実施形態における傾斜角度が緩やかな被測定面を倣い測定を示す図。
【
図9】前記第1実施形態における傾斜角度が大きな段差を有する被測定面を倣い測定を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、表面性状測定装置100を示す図である。
表面性状測定装置100は、表面性状測定機200と、制御装置300と、を備える。
表面性状測定機200の構成自体は既知のものであるが、簡単に説明しておく。
表面性状測定機200は、ベース210と、ベース210上に配置され上面に被測定物Wを載置するステージ220と、被測定面Sに当接するスタイラスを有するとともにスタイラスの微小上下動を検出する表面性状測定器230と、表面性状測定器230とステージ220とを相対移動させる相対移動機構250と、を備える。
【0018】
(相対移動機構250)
まず、相対移動機構250について説明する。
相対移動機構250は、Y軸駆動機構260と、Z軸駆動機構270と、X軸駆動機構280と、を備える。
Y軸駆動機構260は、ベース210とステージ220との間に設けられ、ステージ220を水平方向の一方向(Y軸方向)へ移動させる。ここでは、Y軸方向は、
図1の紙面に垂直な方向とした。また、Z軸駆動機構270は、ベース210の上面に立設されたZコラム271と、Zコラム271に上下方向(Z軸方向)へ昇降移動可能に設けられたZスライダ272と、を備える。Y軸駆動機構260およびZ軸駆動機構270は、詳しい図示を省略するが、例えばボールねじ軸とこのボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構で構成されていてもよい。なお、Y軸駆動機構260にはベース210とステージ220との相対変位を検出するためのY方向位置検出器261(
図3参照)が付設され、Z軸駆動機構270にはZスライダ272の昇降量を検出するためのZ方向位置検出器273(
図3参照)が付設されている。
【0019】
X軸駆動機構280は、Zスライダ272の内部に設けられており、表面性状測定器230をX軸方向に移動させるものである。なお、X軸方向は、
図1では紙面左右方向であり、すなわち、ステージ220の移動方向(Y軸方向)およびZスライダ272の移動方向(Z軸方向)に対して直交する方向である。
【0020】
図2は、X軸駆動機構および表面性状測定器の構成を示す図である。
図2においては、Zスライダ272の内部と、表面性状測定器230のケーシング236の内部を示している。
X軸駆動機構280は、ガイドレール281と、Xスライダ282と、X方向位置検出器283と、送り機構284と、を備える。
【0021】
ガイドレール281がX方向に沿って固定的に設けられ、ガイドレール281を摺動可能にXスライダ282が設けられている。
X方向位置検出器283は、Xスライダ282のX軸方向位置を検出する。送り機構284は、送りねじ軸285と、モータ286と、動力伝達機構287と、を有し、送りねじ軸285とXスライダ282とが螺合している。モータ286の回転動力は動力伝達機構287を介して送りねじ軸285に伝達される。送りねじ軸285の回転によりXスライダ282がX軸方向に沿って移動する。
【0022】
(表面性状測定器230)
次に、表面性状測定器230の構成を説明する。
表面性状測定器230は、ブラケット231と、測定アーム233と、スタイラス233U、233Dと、バランスウェイト234と、変位検出器235と、測定力付与手段240と、ケーシング236と、を備える。
【0023】
Xスライダ282にブラケット231が吊り下げ支持され、ブラケット231には、回転軸232を支点として上下方向へ揺動(円弧運動)できるように測定アーム233が支持されている。スタイラス233U、233Dは、測定アーム233の先端(
図2中の左端)において測定アーム233の長手方向に対して垂直に突設されている。ここで、スタイラス233Uが上向きに設けられ、スタイラス233Dが下向きに設けられているとする。バランスウェイト234は、測定アーム233の基端側(
図2中の右端)に位置調整可能に設けられている。
【0024】
変位検出器235は、測定アーム233の円弧運動量(Z軸方向の変位量)を検出する。変位検出器235は、測定アーム233の円弧運動の方向に沿って湾曲したスケール目盛り(不図示)を有するスケール235Aと、スケール235Aに対向して設けられた検出ヘッド235Bと、を有する。スケール235Aは、測定アーム233の基端側において、測定アーム233と一体的に変位するように測定アーム233に固定されている。また、検出ヘッド235Bは、図示しない支持部材により、ブラケット231に対して固定的に配設されている。測定アームの円弧運動は検出ヘッド235Bにより検出され、検出ヘッド235Bは、測定アーム233の円弧運動量に対応した数のパルス信号(変位検出パルス信号)を出力する。
【0025】
測定力付与手段240は、測定アーム233の基端寄りに配置されたボイスコイルモータであり、測定アーム233の先端が上方向または下方向に付勢されるように測定アーム233に力を掛ける。
測定力付与手段240は、磁石241とボイスコイル242とで構成されている。磁石241は円筒形状であって、測定アーム233の途中に設けられている。ボイスコイル242は磁石241を貫通するように配置されている。ボイスコイル242は固定的に設けられており、例えば、ブラケット231に固定されていてもよい。
【0026】
ボイスコイル242に電流が流れると、ボイスコイル242に磁力が発生する。すると、ボイスコイル242と磁石241との相互作用により、測定アーム233の先端が上方向または下方向へ付勢される。このとき、ボイスコイル242に流れる電流量(電流値)が変わると、測定アームに掛かる付勢力の強弱が変化する。したがって、この構成により、スタイラスと被測定面Sとの接触力すなわち測定力を付与しかつその力を調整する測定力付与手段としての機能を果たす。
【0027】
また、ボイスコイル242に流れる電流の向きを切り替えることで測定アーム233に掛かる付勢力の方向が切り替わる。例えば、測定アーム233の先端を上向きに付勢していたものが下向きに変わるということである。したがって、測定力付与手段240は、測定姿勢切替え手段としての機能も兼ねている。
【0028】
以上の構成において、相対移動機構250(Y軸駆動機構260、Z軸駆動機構270、X軸駆動機構280)により、表面性状測定器230を被測定物Wに対して三次元的に相対移動させることができる。そして、表面性状測定器230のスタイラス233U、233Dを被測定面Sに接触させながら表面性状測定器230を被測定面Sに沿って倣い移動させる。このときのスタイラス233U、233Dの微小上下動は測定アーム233の揺動量として変位検出器235で検出される。従って、被測定物の輪郭形状のみならず、被測定面の表面性状(微小凹凸、表面粗さ、うねり)も測定することができる。
【0029】
ここで、表面性状測定器230の測定アーム233は被測定面の微小な凹凸に応じて鋭敏に揺動することが求められる。したがって、測定アーム233を固定的に支持することはできない。測定アーム233は回転軸232によって揺動可能に軸支された状態で、バランスウェイト234、測定力付与手段240からの付勢力および被測定面からの反力によって微妙にバランスを取りながら支持されている。
【0030】
(制御装置300)
図3に制御装置300の機能ブロック図を示す。
制御装置300は、インターフェース部310と、中央制御部(測定力指令部)320と、メモリ330と、検出回路部340と、動作制御部350と、測定力制御部400と、を備える。
【0031】
制御装置300は、インターフェース部310を介して外部の入力手段311および出力手段312に接続されている。入力手段311としては、キーボード、マウスの他、各種のデータ読み取り手段であってもよい。出力手段312は、表示装置やプリンタの他、データ演算によって被測定面形状を求める各種演算装置であってもよい。
【0032】
中央制御部320は、いわゆるCPU(中央処理装置)であり、制御装置300全体の動作を統合的に管理する。メモリ330はROMまたはRAMであり、各種の動作制御プログラムが格納されているとともに、データ入出力時のバッファともなる。
【0033】
検出回路部340は、Y方向位置検出器261、Z方向位置検出器273、X方向位置検出器283および変位検出器235からの信号(例えばパルス信号)を検出し、測定データとしてインターフェース部310を介して外部出力する。
【0034】
動作制御部350は、Y軸駆動機構260、Z軸駆動機構270およびX軸駆動機構280に駆動信号を印加し、表面性状測定器230を被測定面Sに沿って倣い移動させる。すなわち、動作制御部350は、中央制御部320からの指令を受けて、Y軸駆動機構260、Z軸駆動機構270およびX軸駆動機構280のそれぞれに駆動パルスを出力する。
【0035】
(測定力制御部400)
測定力制御部400について説明する。
図4は、測定力制御部の機能ブロック図である。
測定力制御部400は、測定力付与手段240のボイスコイル242に印加する制御電流Iを制御することで測定力の大きさおよび向きを制御する。測定力制御部400には、中央制御部320からの測定力指令と変位検出器235からの変位検出パルスが入力され、これら測定力指令と変位検出パルスとに基づいてボイスコイル242に印加する制御電流Iの値を制御する。
【0036】
測定力制御部400は、デジタルアナログ変換器(測定力指令電圧生成部)410と、周波数電圧変換回路(フィードバック信号生成部)420と、スイッチ手段430と、減算器440と、電圧電流変換回路450と、判定回路460と、閾値設定部470を備えている。
【0037】
デジタルアナログ変換器410は、中央制御部320から測定力指令を受けて、この測定力指令に応じた電圧信号VAを出力する。ここに、デジタルアナログ変換器410が測定力指令電圧生成部を構成する。電圧信号VAは減算器440の加算側端子に入力される。ここでいう測定力指令には、スタイラス233U、233Dが被測定面Sを押す測定力(接触応力)の大きさの指令の他、測定アーム233の先端を上向きに付勢するかまたは下向きに付勢するかといった付勢力の方向(測定姿勢)の指令を含む。また、例えば被測定物の設計データに基づいて被測定物の形状が分かっている場合、中央制御部320は、スタイラス233U、233Dが被測定物の表面を一定の測定力で倣い走査するように測定力指令を発生させる。
ここに、中央制御部320が測定力指令部を構成する。
また、電圧信号VAは、中央制御部320からの測定力指令をそれに応じた電圧値に変換した信号であるので、本発明では、デジタルアナログ変換器410からの電圧信号VAを測定力指令電圧と称することがある。
【0038】
周波数電圧変換回路420には変位検出器235からの変位検出パルスが入力される。周波数電圧変換回路420は、変位検出パルスの周波数に応じた電圧信号VBを出力する。変位検出器235は測定アーム233の円弧運動量を検出するものであるところ、測定アーム233の円弧運動が速くなると変位検出パルスの周波数は高くなる。
逆に、測定アーム233の円弧運動が遅くなると変位検出パルスの周波数は低くなる。したがって、測定アーム233の円弧運動が速くなると周波数電圧変換回路420からの電圧信号VBは高くなり、測定アーム233の円弧運動が遅くなると周波数電圧変換回路420からの電圧信号VBは低くなる。
言ってみれば、電圧信号VBは、測定アーム233の円弧運動の速さを電圧に変換したフィードバック信号に相当する。従って、本明細書では、周波数電圧変換回路420からの電圧信号VBをフィードバック電圧信号と称することがある。
ここに、周波数電圧変換回路420がフィードバック信号生成部を構成する。
【0039】
スイッチ手段430は、周波数電圧変換回路420と減算器440との間に設けられており、周波数電圧変換回路420からの電圧信号VBはスイッチ手段430を介して減算器440の減算側端子に入力される。スイッチ手段430は、判定回路460における判定結果に応じてオンオフ制御されるものであるが、詳しくは後述する。スイッチ手段430は例えばMOSFETなどの半導体スイッチであってもよく、もちろんメカニカルスイッチであってもよい。
【0040】
減算器440は、電圧信号VAから電圧信号VBを減算して電圧信号VCを生成し、この電圧信号VCを電圧電流変換回路450に出力する。なお、電圧信号VAとは、測定力指令に応じてデジタルアナログ変換器410から出力される電圧信号である。
電圧信号VBとは、測定アーム233の円弧運動の速さに応じて周波数電圧変換回路420から出力される電圧信号(フィードバック電圧信号)である。そして、電圧信号VAから電圧信号VBを減算して生成される電圧信号VCは、測定力付与手段に発生する力の向きおよび大きさを制御する制御電圧信号となる。
【0041】
電圧電流変換回路450は、制御電圧信号(電圧信号VC)の電圧レベルに応じた制御電流Iを生成し、この制御電流Iをボイスコイル242に印加する。
【0042】
判定回路460は、スイッチ手段430をオンオフ制御する。判定回路460には変位検出器235からの変位検出パルスが入力され、判定回路460は、変位検出パルスの周波数の高低に応じてスイッチ手段430のオンオフを切り替える。
判定回路460には、閾値設定部470により所定の周波数閾値が設定されており、判定回路460は、変位検出パルスが前記周波数閾値を超えているか否かを判定する。そして、変位検出パルスの周波数が前記周波数閾値を超えた場合、判定回路460は、スイッチ手段430をオン(閉)にする。スイッチ手段430がオン(閉)になると、フィードバック電圧信号(電圧信号VB)が減算器440に入力されるようになる。
一方、変位検出パルスの周波数が周波数閾値以下である場合、判定回路460は、スイッチ手段430をオフ(開)にする。スイッチ手段430がオフ(開)になると、フィードバック電圧信号(電圧信号VB)が減算器440に入力されなくなる。
【0043】
閾値設定部470は、判定回路460に所定の周波数閾値を設定するものであり、その設定にあたっては、測定速度(倣い方向の移動速度)に応じて所定の周波数閾値を設定する。
周波数閾値の設定に用いる測定速度は、ユーザが各種測定条件を設定するときに入力手段311を介して入力される測定速度(測定速度目標値)が利用でき、あるいは検出回路部340で検出される測定速度(測定速度実測値)でもよい。
閾値設定部470には、測定速度に応じて所定の周波数閾値を設定するために、測定速度と閾値との対応関係のデータを与える閾値テーブル471が接続されている。
【0044】
図5には、測定アーム233の測定速度と閾値(落下検知速度)、最大追従角度および落下検知距離の関係が示されている。
測定速度が小さい領域(0.02~2.00mm/s)では、被測定物に対する測定アーム233の追従性が高く、最大追従角度も83度と大きい。このため、測定速度が0.02~1.00mm/sの閾値は10mm/sに、測定速度が2.00mm/sの閾値は20mm/sと比較的小さな値に設定される。また、落下検知距離も0.5mm、1.2mmと小さくてよい。
測定速度が大きい領域(5.00~30.00mm/s)では、被測定物に対する測定アーム233の追従性が低くなるので、測定速度が増すにつれて最大追従角度が81~45度と小さくなる。この領域では、閾値は比較的大きく30mm/sに設定される。また、落下検知距離も2.1mmに設定される。落下距離が短い方がスタイラス破損の恐れが少ないため、この領域では、一律の値を用いて制限しているとも言える。
【0045】
閾値テーブル471には、
図5の相関関係のうち、測定速度と閾値との関係が記録されている。
閾値設定部470は、ユーザが指定した測定速度、または検出回路部340で検出される測定速度に基づいて、閾値テーブル471から該当する閾値を取り出し、その閾値(落下検知速度)に応じた周波数を周波数閾値として判定回路460に設定する。
これにより、判定回路460においては、測定アーム233の倣い速度(測定速度)に応じた落下検知により、落下抑止の機能を起動することができる。
【0046】
〔第1実施形態の動作〕
次に、上記構成を有する本実施形態の動作を説明する。
倣い測定を行う基本的な動作は既存技術と同じであるので、以下では、本実施形態の特徴的部分である測定力制御部400の動作を中心に説明する。測定動作中に出現する典型的ないくつかの場面を例にして、測定力制御部400の動作を説明する。
【0047】
(測定方向(測定姿勢)の切替え動作)
被測定物の表面を測定するにあたって、測定方向(測定姿勢)を切り替える場面がある。例えば
図6に示すように、被測定物Wが被測定面として下向き面SDと上向き面SUとを有し、下向き面SDを倣い測定した後(
図6(A))、続けて上向き面SUを倣い測定する(
図6(B))ような場合がある。この場合、下向き面SDを倣い測定する際(
図6(A))には測定アーム233の先端には上向きの付勢力(測定力)を掛け(
図6中の矢印MU)、上向き面SUを倣い測定する際(
図6(B))には測定アーム233の先端には下向きの付勢力(測定力)MDを掛ける必要がある。したがって、
図6(A)の状態から
図6(B)の状態に遷移するにあたって、測定力の方向を上向き(MU)から下向き(MD)に切り替えることになる。
【0048】
本発明では被測定面Sが下向きであるか上向きであるかを厳密に定義する必要はないが、例えば、被測定面S上の一点から空間に向かう法線ベクトルが鉛直方向下向きの成分を持っていれば、その被測定面Sは下向き面SDであるとすればよい。逆に、被測定面S上の一点から空間に向かう法線ベクトルが鉛直方向上向きの成分を持っていれば、その被測定面Sは上向き面SUであるとすればよい。
【0049】
説明の便宜上、測定力が上向き(MU)の時の測定力指令の符号を負とする。この状態でボイスコイル242に流れる制御電流Iの向きを負とする(
図7(A)を参照されたい)。次に、
図7(B)のように測定力を下向き(MD)に切り替えたときの測定力指令の符号を正とする。この状態でボイスコイル242に流れる制御電流Iの向きを正とする(
図7(B)を参照されたい)。
図7(A)から
図7(B)の状態になる際にボイスコイル242に流れる制御電流Iの向きが逆になることになる。
測定力指令の符号が逆になると、測定アーム233の先端に急激に下向きの付勢力(測定力)MDが掛かる。さらに、測定アーム233には重力も掛かっているので、測定アームが急に下向きに変位しそうであるが、この点、本実施形態ではフィードバックが掛かって測定アーム233の変位速度が所定値以下に抑制されるようになっている。
【0050】
なお、ボイスコイル242に流れる電流を徐々に小さくして0にし、さらに徐々に正電流を流していく、という方法は有り得る。しかし、この場合でも、ボイスコイル242に流れる電流が例えば0になってしまうと測定アーム233の重さを支える力が無くなってしまうのであるから、その瞬間、測定アームは重力で落下し、急に下向きに変位することになる。
【0051】
信号の流れを順を追って説明する。
測定力を上向き(MU)から下向き(MD)に切り替えるにあたって、中央制御部320からの測定力指令が負から正の値に切り替わったとする。測定力指令はデジタルアナログ変換器410によって指令値に応じたアナログの電圧信号VAに変換されて出力される。測定力指令が正のときの電圧指令値(電圧信号VA)の符号を正とする。電圧信号VAは減算器440を介して電圧電流変換回路450に入力され、電圧信号VAの大きさに応じた制御電流Iとしてボイスコイル242に印加される。このようにして、測定力指令に応じた制御電流Iがボイスコイル242に印加されると、測定アーム233の先端には下向きの付勢力(測定力)MDが掛かる。測定アーム233の先端には下向きの付勢力(測定力)MDと重力とが掛かるので、測定アーム233の先端は急に下向きに変位する。
【0052】
この瞬間、測定アーム233の先端の急速な(下向き)変位は、変位検出器235で検出され、検出された変位信号パルスは周波数電圧変換回路420および判定回路460に入力される。ここでは、測定アーム233の先端が急速に下向きに変位して、その変位検出パルスの周波数がかなり高く、周波数閾値を超えたとする。
【0053】
この場合、判定回路460は、変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えたことを判定し、スイッチ手段430をオン(閉)にする。また同時に、周波数電圧変換回路420は、変位検出パルスの周波数をそれに応じた電圧信号VBに変換する。このようにして生成された電圧信号VBは減算器440の減算側端子に入力される。
【0054】
減算器440においては、制御電圧信号(電圧信号VC)が測定力指令電圧(電圧信号VA)からフィードバック電圧信号(電圧信号VB)を減算したものとして生成される。このとき、フィードバック電圧信号(電圧信号VB)は負帰還されているのであるから、測定アーム233の先端の下方向変位(あるいは落下)に対して反対の作用を生じさせる。すなわち、フィードバック電圧信号(電圧信号VB)は測定アーム233の先端を上方向に持ち上げる作用を有しており(
図6(B)中の矢印B)、これによって、測定アーム233の先端の急激な下方向変位(落下)が抑制されるようになる。このようにして、測定アーム233の測定姿勢を上向きの付勢力が掛かった状態から下向きの付勢力が掛かる状態へ所定速度以下で移行させることができる。
【0055】
(倣い測定動作時(その1))
次に、被測定面Sを倣い測定する際の動作を説明する。
まず、
図8のように、被測定面の傾斜角度が緩やかで追従限界角度以下であるような場合を考える。なお、後の対比説明のため、被測定面は上向き面SUであるとする。傾斜角度が緩やかで追従限界角度以下である場合、測定動作は既知のものと同様になる。
【0056】
倣い測定の開始に当たり、まず、
図8に示すように、スタイラス233Dを上向き面SUに所定の測定力MDで接触させる。このとき、中央制御部320は、メモリ330に記憶された被測定物Wの設計データおよび予め設定された測定パートプログラムを読み出し、これに基づいて、スタイラス233Dを測定のスタート点に移動させるように動作制御部350に指令を送る。動作制御部350は、Y軸駆動機構260、Z軸駆動機構270およびX軸駆動機構280を駆動させて表面性状測定器230を移動させる。スタイラス233Dが測定のスタート点の直上に来たところで、中央制御部320は測定力制御部400に対して一定の測定力を発生させる指令を送る。
【0057】
ここでは被測定面Sが上向き面SUであるので、中央制御部320は、測定アーム233の先端を下向きに付勢するように測定力制御部400に測定力指令を送る。下向きの付勢力を発生させる測定力指令によって測定アーム233の先端を下向きに付勢する動作については、前述の「測定方向の切替え動作」と同じである。すなわち、測定アーム233の急激な下方向変位(落下)に対してはフィードバックが掛かり、測定アーム233の先端は所定速度以下で徐々に下方向に変位する。
【0058】
そして、
図8に示すようにスタイラス233Dが上向き面SUに当接する。このとき、スタイラス233Dに対しては、測定アーム233自身の自重による重力と測定力付与手段(ボイスコイルモータ)240からの下向き付勢力とが合わさって下向きに掛かる。また、上向き面SUから上向きの反力がスタイラス233Dに掛かる。これにより、スタイラス233Dの先端と上向き面SUとは所定の測定力で接触することになる。上向き面SUから上向きの反力が掛かることによって測定アーム233が下から支えられ、落下しないようになっていることはいうまでもない。
【0059】
上向き面SUに沿って(
図8の紙面上で左から右へ)、X方向に倣い測定するにあたっては、被測定物の設計データおよび予め設定された測定パートプログラムに基づいて、中央制御部320から動作制御部350にX方向およびZ方向への移動指令が送られる。すると、X軸駆動機構280およびZ軸駆動機構270の駆動により、スタイラス233D(測定アーム233)が上向き面SUに沿ってX方向に倣い移動する。
X軸駆動機構280およびZ軸駆動機構270の駆動量はそれぞれX方向位置検出器283およびZ方向位置検出器273で検出され、各検出値は検出回路部340で収集される。さらに、上向き面SUの微小凹凸やうねりにより、スタイラス233Dが上下し、この上下変動は測定アーム233の円弧運動として変位検出器235にて検出される。変位検出器235からの検出信号(変位検出パルス信号)も検出回路部340にて収集される。検出回路部340にて収集された検出値は、測定データとして出力手段312から外部出力される。
【0060】
ここで、
図8に示す上向き面SUに傾斜があったとしてもその傾斜角度は緩やかである。したがって、X軸駆動機構280で表面性状測定器230をX方向に倣い移動させつつZ軸駆動機構270で表面性状測定器230をZ軸方向に昇降させることで、表面性状測定器230を上向き面SUに追従させることができる。すると、所定の測定力を保ちながらスタイラス233Dは上向き面SUとの接触を維持する。このとき、スタイラス233Dは上向き面SUの微小凹凸やうねりによってわずかに上下動するが、その変位速度は小さい。変位検出器235によって測定アーム233の円弧運動が検出され、その変位検出パルスは測定力制御部400の周波数電圧変換回路420および判定回路460に入力されているが、上向き面SUの傾斜角度が追従限界角度以下であれば、判定回路460における閾値判定において変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えることがない。したがって、スイッチ手段430はオフ(開)のままとなり、すなわち、フィードバック制御は停止されている。
この場合、測定力付与手段240に対しては、中央制御部320からの測定力指令に基づく制御電流Iが印加されるだけであるので、この指令通りの所定測定力による倣い測定が実行されることになる。
【0061】
(倣い測定動作時(その2))
次に、被測定面Sに傾斜角度の大きな段差があり、この段差の傾斜角度が追従限界角度を超えている場合を考える。
図9に示す上向き面SUには点Xpを過ぎたところに傾斜角度の大きな段差がある。スタート点からスタイラス233Dを倣い移動させて点Xpに至るところまでは前記「倣い測定動作時(その1)」で説明した通りである。
【0062】
点Xpを過ぎたところで段差に差し掛かる。この段差の傾斜角度が大きすぎて、X軸駆動機構280による走査速度に対してZ軸駆動機構270による昇降動作が間に合わないことになる。すると、表面性状測定器230が上向き面SUに追従できず、スタイラス233Dが上向き面SUから離れてしまう。すると、上向き面SUからの上向き反力が無くなるので、測定アーム233は落下を始めることになる。
【0063】
測定アーム233が落下を始めると、測定アーム233の先端は急に下向きに変位することになる。しかし、この瞬間、測定アーム233の先端の急速な下向きの変位は変位検出器235で検出され、検出された変位信号パルスは周波数電圧変換回路420および判定回路460に入力される。そして、判定回路460は、変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えたことを判定し、スイッチ手段430をオン(閉)にする。同時に、周波数電圧変換回路420は、変位検出パルスの周波数をそれに応じたフィードバック電圧信号(電圧信号VB)に変換する。
従って、減算器440においては、制御電圧Cが測定力指令電圧(電圧信号VA)からフィードバック電圧信号(電圧信号VB)を減算したものとして生成される。このフィードバック電圧信号(電圧信号VB)により、測定アーム233の先端を上方向に持ち上げる力(
図9中の矢印B)が測定力付与手段(ボイスコイルモータ)240に発生し、これによって、測定アーム233の急激な下方向変位(落下)が抑制される。このようにして、上向き面SUの傾斜角度が大きすぎてスタイラス233Dが上向き面SUから離れても、測定アーム233が落下することはない。すなわち、測定アーム233の落下によってスタイラス233Dが上向き面SUに衝突するような事態は回避される。
【0064】
フィードバックが掛かって測定アーム233の急激な下方向変位(落下)が抑制されると、周波数電圧変換回路420から出力されるフィードバック電圧信号(電圧信号VB)は徐々に低くなる。また、変位検出パルスの周波数が周波数閾値以下になれば、判定回路460はスイッチ手段430をオフ(開)にする。したがって、フィードバック制御のループは自動的にオフになる。
このようにして、測定アーム233の先端が上向き面SUに衝撃を抑えて接触(着地)した後は、フィードバック制御のループがオフになっているので、所定の測定力での測定を再開する。
【0065】
なお、変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えたことが判定回路460によって検知された場合には、その旨が中央制御部320に報知されるようにし、中央制御部320からの指令により測定動作を中断させるようにしてもよい。
【0066】
〔第1実施形態の効果〕
このような構成を有する第1実施形態によれば次の効果を奏する。
(1)変位検出器235にて検出した変位検出パルスを周波数電圧変換回路420および判定回路460にフィードバックさせ、変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えた場合にはフィードバックをオン(閉)にする。したがって、測定アーム233が急に落下動作を始めたとしてもすぐに落下を抑止し、落下によってスタイラス233Dが被測定物Wに衝突するといった事故を回避することができる。
【0067】
(2)本実施形態では、判定回路460とスイッチ手段430とを設け、変位検出パルスの周波数が周波数閾値を超えた場合にだけスイッチ手段430をオン(閉)にするようにしている。すなわち、通常の倣い測定動作を行っているときにはフィードバック制御がオフになっており、必要なときにだけフィードバック制御がオン(閉)になるようにしている。常時フィードバック制御をオンにしておけば測定アーム233の落下を確実に防ぐことができるし、判定回路460やスイッチ手段430が不要になるとも考えられる(特開2012-225742号公報には判定回路およびスイッチ手段を持たない測定姿勢・測定力制御回路が開示されている)。
しかしながら、フィードバック制御を常時オンにしていると、スタイラス233D、233Uの微小上下運動がある度に測定力付与手段(ボイスコイルモータ)240に印加される制御電流Iが変動することになってしまう。これは測定力の変動を生じさせ、ひいては測定誤差に繋がる可能性もある。また、フィードバック制御を常時オンにするとなると、応答遅れを見込んでおく必要があるので倣い走査速度をあまり速くできず、測定効率を上げ難いということもある。
この点、本実施形態では、判定回路460とスイッチ手段430とを設け、通常の倣い測定を行っている間はフィードバック制御をオフ(開)にしている。従って、通常の倣い測定にあっては中央制御部320からの測定力指令に従った一定の測定力となり、このことは安定した測定結果に繋がる。また、落下によりフィードバック制御がオンになっても、着地時には自動的にオフになるので、着地後に一定の測定力での測定を直ちに再開することができる。これにより、被測定物Wに段差があり、段差により測定アーム233が落下しても、下の段の表面に着地後に測定が再開されるので、各段の表面を継続して測定することが可能となる。段差のある被測定物Wの測定スループットを向上することができる。
(3)本実施形態では、閾値設定部470が、測定アーム233の測定速度に応じた閾値を判定回路460に設定するため、測定速度に応じて落下検知速度を変更することができる。この際、基準となる測定速度はユーザが任意に設定できるほか、検出回路部340で検出される測定アーム233の倣い速度(測定速度)を常時監視し、検出された測定速度に基づいて閾値テーブル471から該当する閾値を取り出し、その閾値を判定回路460に設定することができる。このため、判定回路460においては、測定アーム233の実際の倣い速度(測定速度)に応じた落下検知により、落下抑止の機能を起動することができる。
その結果、様々な測定条件のもとでスタイラス233Dの落下を確実に防止しつつ、測定作業を円滑に行うことができる。
【0068】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態にあっては、変位検出器から出力される変位検出パルス信号の周波数を監視し、この周波数が所定周波数閾値を超えたらフィードバック制御をオン(閉)にする、という制御を行っていた。
本実施形態では、監視対象を「変位検出パルス信号の周波数」に代えて、測定アームの変位速度、すなわち、スタイラス233U、233Dの変位速度としてもよい。すなわち、下向きか上向きかという移動方向を含めた移動速度を監視対象とし、測定アーム(スタイラス233Dと言っても同義)が下向きに所定速度閾値以上で落下したことを検出した場合にフィードバック制御をオン(閉)にするようにしてもよい。この場合には、変位検出器から出力される変位検出パルス信号をそのまま測定力制御部にフィードバックするのではなく、例えば検出回路部340で速度の値に変換してから測定力制御部にフィードバックする。また、周波数電圧変換回路に代えて、速度値に応じた電圧を出力する速度電圧変換回路を適用する。このような変形例1でも測定アーム233(スタイラス233U、233D)の落下を検知して、測定アーム233(スタイラス233U、233D)の急激な下方向変位(落下)を抑止できることは理解されるであろう。
【0069】
ただし、第1実施形態と第2実施形態と対比すると、第1実施形態の方が好ましいと言える。
第1実施形態のように変位検出パルス信号をそのままフィードバック信号として利用すれば応答速度が極めて速い。
一方、第2実施形態のように変位検出パルス信号を速度に換算するという処理を介在させると、その分だけ応答が遅くなる。
変位検出パルス信号の周波数の大きさだけでは、測定アーム233(スタイラス233U、233D)が上に変位しているのか下に落下しているのかという向きまでは分からない。
しかし、測定アーム233が意図せず急激に変位してしまう事態は重力による落下が主たる要因であり、重力で測定アーム233(スタイラス233D)が落下してしまった場合に被測定物Wとの衝突に繋がる恐れがある。
【0070】
逆に、被測定面である下向き面SDに対し、スタイラス233Uを上向きに付勢しながら下向き面SDを測定しているとする。
この場合、仮に下向き面SDの傾斜角度が大きくて追従不可能となり、スタイラス233Uが下向き面SDから離れたとしても、スタイラス233Uと下向き面SDとが衝突するという事態にはならない。
【0071】
このように考えてみると、第1実施形態のように変位検出パルス信号をそのままフィードバック信号とし、測定アーム233を持ち上げる方向にフィードバック信号が作用するようにしておけば、スタイラス233Dと上向き面SUとの衝突は防げることがわかる。しかも、変位検出パルス信号をそのままフィードバック信号とすれば、応答が速く、構成も簡易であるという利点もある。
【0072】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
測定力付与手段(ボイスコイルモータ)240を測定アーム233に取り付けるにあたっては、磁石241を(例えばブラケットに)固定的に設け、ボイスコイル242を測定アーム233に取り付けるようにしてもよい。測定力付与手段240としては、ボイスコイルモータの他、圧電素子を利用したアクチュエータなどでも構成できる。
【0073】
判定回路460は、スイッチ手段430のオンオフ制御のみならず、周波数電圧変換回路420のオンオフ制御も行ってもよい。すなわち、判定回路460は、変位検出パルス信号の周波数が周波数閾値を超えた場合にのみ周波数電圧変換回路420をオン(起動)にし、変位検出パルス信号の周波数が周波数閾値以下であれば周波数電圧変換回路420をオフ(停止)にしてもよい。判定回路460が周波数電圧変換回路420のオンオフ制御を行う場合、スイッチ手段430は省略してもよい。
【0074】
上記第1実施形態では、測定力制御部400に周波数電圧変換回路420を設けておき、周波数電圧変換回路420は、変位検出パルス信号の周波数に応じた電圧信号VBをフィードバック電圧信号として生成した。この場合、変位検出パルス信号の周波数が高ければそれだけ大きな電圧信号VBが生成されるので、測定アーム233の落下状況に応じたフィードバックが掛かるという利点がある。
ここで、測定アーム233の急激な落下を抑止するということだけを考えるなら、電圧信号VBは変位検出パルスの周波数に応じた値でなくてもよく、測定アーム233の落下を止めるかまたは測定アーム233の落下速度を緩和できる程度の値の電圧値であればよい。従って、このような場合には、フィードバック信号生成部には変位検出パルス信号を入力せず、フィードバック信号生成部は予め定められた電圧値を出力できるようになっていればよい。
【0075】
上記各実施形態では、測定力制御部400をアナログ回路的に構成している。すなわち、測定力指令をまず最初にデジタルアナログ変換器410でアナログ変換し、その後、測定力指令電圧(電圧信号VA)からフィードバック電圧信号(電圧信号VB)を減算する処理を行っている。これに対し、減算処理をデジタル演算として行ってもよいことはもちろんである。フィードバック信号をデジタル信号として生成しておき、測定力指令からフィードバック信号をデジタル論理演算で減算すればよい。
また、測定力制御部400をCPUおよびメモリで構成し、所定プログラムによってソフトウェア的に測定力制御部の各機能を実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は表面性状測定装置およびその制御方法に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
100…表面性状測定装置、200…表面性状測定機、210…ベース、220…ステージ、230…表面性状測定器、231…ブラケット、232…回転軸、233…測定アーム、233D、233U…スタイラス、234…バランスウェイト、235…変位検出器、235A…スケール、235B…検出ヘッド、236…ケーシング、240…測定力付与手段(ボイスコイルモータ)、241…磁石、242…ボイスコイル、250…相対移動機構、260…Y軸駆動機構、261…Y方向位置検出器、270…Z軸駆動機構、271…Zコラム、272…Zスライダ、273…Z方向位置検出器、280…X軸駆動機構、281…ガイドレール、282…Xスライダ、283…X方向位置検出器、284…送り機構、285…送りねじ軸、286…モータ、287…動力伝達機構、300…制御装置、310…インターフェース部、311…入力手段、312…出力手段、320…中央制御部(測定力指令部)、330…メモリ、340…検出回路部、350…動作制御部、400…測定力制御部、410…デジタルアナログ変換器(測定力指令電圧生成部)、420…周波数電圧変換回路(フィードバック信号生成部)、430…スイッチ手段、440…減算器、450…電圧電流変換回路、460…判定回路、470…閾値設定部、471…閾値テーブル。