(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230119BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230119BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20230119BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20230119BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20230119BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/04
C08K5/5313
C08K5/3492
C08L79/00 Z
C08L27/12
(21)【出願番号】P 2020185946
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2022-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆二
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-280793(JP,A)
【文献】特表2009-512766(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059651(WO,A1)
【文献】特開2016-153471(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155289(WO,A1)
【文献】特開2004-204193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(B)繊維状無機化合物を0~100質量部、(C)下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種を25~50質量部、(D)トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩を4~15質量部、(E)熱可塑性ポリエステルエラストマーを5~15質量部、(F)ポリカルボジイミド化合物を0.5~3質量部、及び(G)フッ素樹脂0~3質量部含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【化1】
[一般式(1)及び一般式(2)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、R
5はアルキレン基、脂環族二価基又は芳香族二価基を示す。R
1及びR
2は互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。M
a
m+は価数mの金属を示し、mは2~4の整数である。M
b
n+は価数nの金属を示し、nは2~4の整数である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、前記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩又はその重合体の、JIS8825により測定する累積粒子径(D95)が10μm以上である、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(F)ポリカルボジイミド化合物が、芳香族ポリカルボジイミドである、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の含有量をC
含有量(質量部)、前記(D)成分の含有量をD
含有量(質量部)、前記(B)成分の含有量をB
含有量(質量部)、前記(G)成分の含有量をG含有量(質量部)、前記(E)成分の含有量をE
含有量(質量部)、前記(E)成分の密度をE
密度(g/cm
3)とするとき、下記式1を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【数1】
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性を有しており、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されている。一方、利用分野が拡大するにつれて、その要求性能は次第に高度化し、例えば自動車部品では難燃性や耐トラッキング性、耐加水分解性などの向上が望まれている。
【0003】
PBT樹脂の耐トラッキング性を向上させるため、リン系難燃剤と窒素含有化合物とを組み合わせて配合したPBT樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
また、一般的にリン系難燃剤は耐加水分解性を低下させることから、エポキシ化合物やカルボジイミドを添加することで耐加水分解性を向上させた樹脂組成物が提案されている(特許文献2~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/148796号
【文献】特開2019-44037号公報
【文献】特開2009-215347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の樹脂組成物は耐加水分解性が十分とは言えず、特許文献3に記載の樹脂組成物は、UL94等の難燃性(V-0)としては不十分であり、実施例記載の樹脂組成物は射出成形品に使用する場合、高粘度のため成形が困難であった。すなわち、従来のPBT樹脂組成物は、難燃性、耐トラッキング性、耐加水分解性、及び低溶融粘度のいずれも満足できるものではなく、さらなる改良が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、難燃性、耐トラッキング性、及び耐加水分解性に優れ、かつ、溶融粘度が低い難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びそれを成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
【0008】
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(B)繊維状無機化合物を0~100質量部、(C)下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種を25~50質量部、(D)トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩を4~15質量部、(E)熱可塑性ポリエステルエラストマーを5~15質量部、(F)ポリカルボジイミド化合物を0.5~3質量部、及び(G)フッ素樹脂0~3質量部含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0009】
【化1】
[一般式(1)及び一般式(2)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、R
5はアルキレン基、脂環族二価基又は芳香族二価基を示す。R
1及びR
2は互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。M
a
m+は価数mの金属を示し、mは2~4の整数である。M
b
n+は価数nの金属を示し、nは2~4の整数である。]
【0010】
(2)前記(C)下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、前記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩又はその重合体の、JIS8825により測定した累積粒子径(D95)が10μm以上である、前記(1)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0011】
(3)前記(F)ポリカルボジイミド化合物が、芳香族ポリカルボジイミドである、前記(1)又は(2)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0012】
(4)前記(C)成分の含有量をC含有量(質量部)、前記(D)成分の含有量をD含有量(質量部)、前記(B)成分の含有量をB含有量(質量部)、前記(G)成分の含有量をG含有量(質量部)、前記(E)成分の含有量をE含有量(質量部)、前記(E)成分の密度をE密度(g/cm3)とするとき、下記式1を満たす、前記(1)~(3)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0013】
【0014】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難燃性、耐トラッキング性、及び耐加水分解性に優れ、かつ、溶融粘度が低い難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びそれを成形してなる樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(以下、単に「PBT樹脂組成物」とも呼ぶ。)は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(B)繊維状無機化合物を0~100質量部、(C)一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種を25~50質量部、(D)トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩を4~15質量部、(E)熱可塑性ポリエステルエラストマーを5~15質量部、(F)ポリカルボジイミド化合物を0.5~3質量部、及び(G)フッ素樹脂を0~3質量部含むことを特徴としている。
【0017】
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、(A)PBT樹脂100質量部に対して、(B)繊維状無機化合物、(C)一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「(C)ジホスフィン酸塩等」とも呼ぶ。)、(D)トリアジン系化合物、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩、(E)熱可塑性ポリエステルエラストマー、(F)ポリカルボジイミド化合物、(G)フッ素樹脂を所定量含むことで(ただし、(B)成分及び(G)成分は任意成分である。)難燃性、耐トラッキング性、及び耐加水分解性に優れ、かつ、溶融粘度が低い。
以下、各成分について詳述する。なお、本明細書において、「(A)PBT樹脂」のことを(A)成分と呼ぶことがあり、(B)~(G)の各成分についても同様である。
【0018】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)]
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0019】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本実施形態のPBT樹脂組成物の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0020】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、0.69~1.00dL/gであることが好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られる樹脂組成物が特に機械的特性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.69dL/g未満では優れた機械的特性や耐加水分解性が得られず、1.00dL/gを超えると優れた流動性が得られないことがある。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0021】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0023】
PBT樹脂において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0025】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0026】
[(B)繊維状無機化合物]
本実施形態において、(B)繊維状無機化合物は、機械強度の向上を目的として使用される任意成分である。繊維状無機化合物としては、ガラス繊維、炭素繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維等の鉱物由来の繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維が挙げられる。中でも、ガラス繊維、が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ガラス繊維を用いる場合、その種類についても特に限定されず、例えば、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Eガラス等を用いることができるが、その中でもEガラス(無アルカリガラス)を用いることが好ましい。
【0028】
また、ガラス繊維は、通常、これらの繊維を多数本集束したものを所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましい。なお、チョップドガラス繊維のカット長については特に限定されず、例えば1~10mm程度とすることができる。
【0029】
耐熱性や剛性が要求される製品では繊維状無機化合物が必要であり、良好な外観が要求される製品では、繊維状無機化合物は少ない方が好ましい。本実施形態において、繊維状無機化合物は、PBT樹脂100質量部に対して、0~100質量部含み、100質量部を超えると、溶融粘度の増大や靭性の低下、外観が悪化する。繊維状無機化合物は0~80質量部含むことが好ましく、0~70質量部含むことがより好ましい。
【0030】
[(C)ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩、それらの重合体]
本実施形態において、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種は、難燃性及び耐トラッキング性の向上を目的として使用される。
【0031】
【化2】
[一般式(1)及び一般式(2)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、R
5はアルキレン基、脂環族二価基又は芳香族二価基を示す。R
1及びR
2は互いに結合して隣接するリン原子とともに環を形成してもよい。M
a
m+は価数mの金属を示し、mは2~4の整数である。M
b
n+は価数nの金属を示し、nは2~4の整数である。]
【0032】
R1~R4で表されるアルキル基として、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。これらの基のうち、通常、アルキル基(好ましくはC1-4アルキル基など)、アリール基(フェニル基など)などが好ましい。
【0033】
R1及びR2が結合して隣接するリン原子とともに形成する環は、環を構成するヘテロ原子として前記リン原子を有するヘテロ環(リン原子含有ヘテロ環)であり、通常、4~20員ヘテロ環、好ましくは5~16員ヘテロ環が挙げられる。また、前記リン原子含有ヘテロ環は、ビシクロ環であってもよい。前記リン原子含有ヘテロ環は、置換基を有していてもよい。
【0034】
R5で表されるアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、フェニルエチレン、プロピレン、トリメチレン、1,4-ブタンジイル、1,3-ブタンジイル基などのC6-10アリール基などの置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキレン基などが挙げられる。脂環族二価基としては、例えば、シクロヘキシレン基、シクロヘキサジメチレン基などのC5-8脂環族二価基などが挙げられる。芳香族二価基としては、例えば、フェニレン基、トリレン基などのC1-4アルキル基などの置換基を有していてもよいC6-10アリーレン基;キシリレン基などのアレーン環にメチル基などのC1-4アルキル基を有していてもよいC6-10アリーレンジC1-4アルキレン基;アレーン環にメチル基などのC1-4アルキル基を有していてもよいビスアリール基(例えば、ビフェニレン基;メタジフェニレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルカン-ジC6-10アリーレン基;ジフェニルエーテルなどのC6-10アリールエーテルに対応する二価基;ジフェニルケトンなどのジC6-10アリールケトンに対応する二価基;ジフェニルスルフィドなどのジC6-10アリールスルフィドに対応する二価基など)などが挙げられる。R5としては、これらのうち、アルキレン基(特にC1-6アルキレン基など)が好ましい。
【0035】
Ma、Mbが表す金属としては、アリカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)、アリカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)、遷移金属(鉄、コバルト、ニッケル、銅など)、周期表第12族金属(亜鉛など)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)などが挙げられる。前記金属塩は、これらの金属を一種含有してもよく、二種以上組み合わせて含有してもよい。前記金属のうち、アリカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)及び周期表第13族金属(アルミニウムなど)が好ましい。
【0036】
金属の価数は特1~4価であるが、好ましくは2~4価、より好ましくは2又は3価である。
【0037】
一般式(1)で表されるホスフィン酸の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸Ca、メチルエチルホスフィン酸Ca、ジエチルホスフィン酸Caなどのジアルキルホスフィン酸Ca塩(ジC1-10アルキルホスフィン酸Ca塩など)、フェニルホスフィン酸Ca、ジフェニルホスフィン酸Caなどのアリールホスフィン酸Ca塩(モノ又はジC6-10アリールホスフィン酸Ca塩など)、メチルフェニルホスフィン酸Caなどのアルキルアリールホスフィン酸Ca塩(C1-4アルキル-C6-10アリールホスフィン酸Ca塩など)、1-ヒドロキシ-1H-ホスホラン-1-オキシドCa塩、2-カルボキシ-1-ヒドロキシ-1H-ホスホラン-1-オキシドCa塩などの置換基を有していてもよいアルキレンホスフィン酸のCa塩(C3-8アルキレンホスフィン酸Ca塩など)、これらのCa塩に対応するAl塩の他、他の金属塩などが挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、エタン-1,2-ビス(ホスフィン酸)Ca塩などのアルカンビス(ホスフィン酸)Ca塩[C1-10アルカンビス(ホスフィン酸)Ca塩など]、エタン-1,2-ビス(メチルホスフィン酸)Ca塩などのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)Ca塩[C1-10アルカンビス(C1-6アルキルホスフィン酸)Ca塩など]、これらのCa塩に対応するAl塩の他、他の金属塩などが挙げられる。
【0039】
好ましいホスフィン酸類は、上記式(1)又は(2)で示される金属塩のうち、特にジアルキルホスフィン酸金属塩(Ca塩、Al塩など)、アルカンビスホスフィン酸金属塩(Ca塩、Al塩など)などである。
【0040】
本実施形態において、(C)ジホスフィン酸塩等のJIS8825により測定する累積粒子径(D95)(以下、「D95粒径」とも呼ぶ。)は、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましい。当該D95粒径が5μm未満であると、耐加水分解性の低下を引き起こす。また、D95粒径が500μmを超えると金型のゲート部で詰まりを生じやすく、成形品の外観が悪化してしまう。
【0041】
本実施形態において、(C)ホスフィン酸塩等は、PBT樹脂100質量部に対して、25~50質量部含む。25質量部未満では、難燃性が不十分となり、50質量部を超えると、機械特性や耐加水分解性の低下を引き起こす。一般式(1)で表されるホスフィン酸塩、その重合体、一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩及びその重合体からなる群より選択される少なくとも1種は28~48質量部含むことが好ましく、30~45質量部含むことがより好ましい。
【0042】
[(D)トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩]
トリアジン系化合物とシアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩は、難燃助剤としての役割を果たす。そして、当該塩としては、下記一般式(3)で表されるトリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩が好ましいものとして例示される。
【0043】
【化3】
[一般式(3)中、R
6、R
7は、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基、アリール基、又は炭素数1~3のオキシアルキル基であり、R
6、R
7は同一でもまた異なっていてもよい。
【0044】
本実施形態においては、上記一般式(3)で表されるトリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩の中でも特にメラミンシアヌレートの使用が特に好ましい。
【0045】
トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩の、JIS8825により測定した累積粒子径(D95)が100μm以下であることが好ましく、0.1~80μmであることがより好ましく、1~60μmであることがさらに好ましい。当該D95粒径が100μm以上であると、流動性の低下を引き起こす。
【0046】
本実施形態において、トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩は4~15質量部含み、4質量部未満では、難燃性が不十分となり、15質量部を超えると、強度や靭性などの機械的特性の低下を引き起こす要因となる。トリアジン系化合物と、シアヌール酸又はイソシアヌール酸との塩は4~14質量部含むことが好ましく、5~13質量部含むことがより好ましい。
【0047】
[(E)熱可塑性ポリエステルエラストマー]
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、樹脂組成物の靭性向上を目的として使用される。また、一般的なオレフィン系エラストマー、例えばハードセグメントにポリエチレンやポリプロピレン、ソフトセグメントとしてポリプロピレンゴムなどの共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体などに比べ、熱可塑性ポリエステルエラストマーは難燃性に優れている。熱可塑性ポリエステルエラストマーは、一般に、硬質ポリエステルブロック(芳香族ポリエステルなどのハードブロック又はハードセグメント)と、軟質ポリエステルブロック(ソフトブロック又はソフトセグメント)とがエステル結合により結合した構造を有するブロック共重合体である。熱可塑性ポリエステルエラストマーは軟質ブロックの種類によってポリエーテル型とポリエステル型の2種類に分類でき、本実施形態においてはいずれのタイプも使用することができる。
【0048】
硬質ブロックを構成する硬質ポリエステルは、PBT樹脂と同様に、ジカルボン酸類とジオール類との重縮合、オキシカルボン酸の重縮合などにより得ることができ、通常、少なくとも芳香族モノマー成分[前記PBT樹脂の項で例示の芳香族ジオール及びその反応性誘導体、前記PBT樹脂の項で例示の芳香族ジカルボン酸及びテレフタル酸(及びこれらの芳香族ジカルボン酸の反応性誘導体も含む)、及び/又は芳香族オキシカルボン酸(オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、4-カルボキシ-4’ヒドロキシ-ビフェニルなどの他、これらのオキシカルボン酸の誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体など)など)など]を用いた芳香族ポリエステルが使用できる。芳香族モノマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。芳香族ポリエステルには、必要により共重合可能なモノマー(前記PBT樹脂の項で例示の共重合性モノマーの他、1,4-ブタンジオール、テレフタル酸なども含む)を併用してもよい。
【0049】
芳香族ポリエステルは、モノマー成分として、少なくとも芳香族モノマー成分を用いればよく、例えば、全芳香族ポリエステル(芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとのポリエステルや芳香族オキシカルボン酸のポリエステルなど)であってもよく、芳香族ジカルボン酸と非芳香族ジオール(1,4-ブタンジオール、PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジオールや脂環族ジオールなど)とのポリエステル、非芳香族ジカルボン酸(前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジカルボン酸など)と芳香族ジオールとのポリエステル、芳香族オキシカルボン酸と非芳香族オキシカルボン酸(グリコール酸やオキシカプロン酸などの脂肪族オキシカルボン酸)とのポリエステルなどであってもよい。
【0050】
硬質ポリエステルのうち、結晶性の芳香族ポリエステル[例えば、ポリアルキレンアリレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-4アルキレンアリレート、共重合成分(イソフタル酸などの前記例示の共重合性モノマー)1~30モル%(例えば、3~25モル%、好ましくは5~20モル%程度の割合)で変性又は共重合された変性ポリC2-4アルキレンアリレート)など]、液晶ポリエステル、特に、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0051】
ポリエステル型エラストマーの軟質ブロックを構成する軟質ポリエステルは、PBT樹脂と同様に、ジカルボン酸類とジオール類との重縮合、オキシカルボン酸やラクトンの重縮合などにより得ることができる。軟質ポリエステルは、硬質ブロックを構成する硬質ポリエステルより柔軟であればよく、通常、少なくとも脂肪族モノマー成分[脂肪族ジオール(1,4-ブタンジオール、前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジオール及びその反応性誘導体など)、脂肪族ジカルボン酸(前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族ジカルボン酸及びその反応性誘導体など)、脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、オキシカプロン酸など)、前記PBT樹脂の項で例示のラクトンなど]を用いたポリエステルなどが使用できる。必要により、脂肪族モノマー成分には、共重合性単量体(通常、非芳香族性モノマー成分、例えば、前記PBT樹脂の項で例示の脂環族ジオールや脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体など)を併用してもよい。
【0052】
軟質ポリエステルのうち、非晶性ポリエステル、例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを用いた脂肪族ポリエステルや、ポリラクトン(前記ラクトンの開環重合体)が好ましい。
【0053】
ポリエーテル型エラストマーのソフトセグメントは、少なくともポリエーテル単位を有していればよく、ポリエーテル[例えば、ポリオキシアルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル(前記PBT樹脂の項で例示のポリオキシアルキレングリコール、好ましくはポリC2-6アルキレングリコールなど)など]やこのポリエーテルを用いたポリエステルなどで構成できる。ポリエーテルのうち、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリC2-4アルキレングリコールが好ましい。ポリエーテルを用いたポリエステルとしては、ポリエーテル(ポリオキシアルキレングリコールなど)と、ジカルボン酸[通常、非芳香族性ジカルボン酸、例えば、前記PBT樹脂の項で例示の脂肪族又は脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体など]とのポリエステルなどが挙げられる。
【0054】
これらの軟質ブロックのうち、ポリエーテル単位(脂肪族ポリエーテル単位、脂肪族ポリエーテルを用いたポリエステル単位)、及び脂肪族ポリエステル単位から選択された少なくとも一種の単位を有する軟質ポリエステルブロックが好ましい。
【0055】
熱可塑性ポリエステルエラストマーの具体例としては、例えば、ポリエステル型(すなわち、ポリエステルーポリエステル型)熱可塑性エラストマー[例えば、ポリC2-4アルキレンアリレート(特にポリブチレンテレフタレート単位を有する単独重合体、又は共重合成分(エチレングリコール、イソフタル酸など)を共重合した共重合体)などの芳香族系結晶性ポリエステルや液晶ポリエステルで構成されたハードセグメントと、脂肪族ポリエステル(ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのC2-6アルキレングリコールとC6-12アルカンジカルボン酸とのポリエステルなど)で構成されたソフトセグメントとのブロック共重合体]、ポリエーテル型(すなわち、ポリエステルーポリエーテル型)熱可塑性エラストマー[例えば、芳香族系結晶性ポリエステル又は液晶ポリエステルで構成されたハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリオキシC2-4アルキレングリコールなどのポリエーテルで構成されたソフトセグメント(ポリオキシアルキレングリコールとジカルボン酸とのポリエステルなど)とのブロック共重合体]などが例示できる。
【0056】
ポリエステルエラストマーのうち、(e-1)硬質ポリアルキレンアリレートブロックと、(e-2)ポリカプロラクトン、オキシC2-6アルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル(ポリC2-6アルキレングリコールなど)や脂肪族ポリエステルで構成された軟質ポリエステルブロックとのブロック共重合体が好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
熱可塑性エラストマーにおいて、ハードセグメント(又は硬質成分)とソフトセグメント(又は軟質成分)との質量割合は、通常、前者/後者=10/90~90/10、好ましくは20/80~80/20、さらに好ましくは30/70~70/30(例えば、40/60~60/40)程度である。
【0058】
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、柔軟性が必要とされる用途では、例えば、曲げ弾性率が1000MPa以下、好ましくは50~400MPa(特に100~300MPa)程度の範囲にあるのが好ましい。このような用途では、曲げ弾性率が小さすぎると、加工上の取り扱い性に問題が生じ、大きすぎると十分な柔軟性が得られない虞がある。
【0059】
本実施形態のPBT樹脂組成物において、熱可塑性ポリエステルエラストマーは5~15質量部含むが、5質量部未満では、靭性改善の効果が低く、15質量部を超えると、剛性低下により変形しやすくなる。熱可塑性ポリエステルエラストマーは6~13質量部含むことが好ましく、8~12質量部含むことがより好ましい。
【0060】
[(F)ポリカルボジイミド化合物]
本実施形態においては、耐加水分解性を改善する目的でポリカルボジイミド化合物を使用する。ポリカルボジイミド化合物は、分子内に少なくとも2つの(-N=C=N-)で表されるカルボジイミド基を有する化合物であり、一般的によく知られた方法で合成されたものを使用することができ、例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネート(ジイソシアネート)を約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応に付することにより合成することができる。ポリカルボジイミド化合物の製造方法としては、米国特許第2941956号明細書、特公昭47-33279号公報、J.Org.Chem.28,2069-2075(1963)、Chemical Review 1981.Vol.81.No.4.p619-621等に記載のものが公知である。
【0061】
ポリカルボジイミド化合物の製造における合成原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等を例示することができる。
【0062】
また、ポリカルボジイミド化合物の場合は、重合反応を冷却等により途中で停止させ、適当な重合度に制御することができる。この場合、末端はイソシアネートとなる。更に、適当な重合度に制御するには、モノイソシアネート等の脂肪族系ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、残存する末端イソシアネートの全て又は一部を封止する方法もある。重合度を制御することにより、ポリマーへの相溶性向上や保存安定性を高めたりすることができ、品質向上の点で好ましい。
【0063】
このようなポリカルボジイミド化合物の末端を封止して重合度を制御するモノイソシアネートとしては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート等を例示することができる。
【0064】
本実施形態に用いる好ましいポリカルボジイミド化合物は、数平均分子量が1000~30000、好ましくは2000~20000、更に好ましくは3000~15000のものである。数平均分子量が小さすぎると耐熱性に劣る虞があり、大きすぎると樹脂への分散不良や反応性の低下により、耐加水分解性向上効果が十分得られない虞がある。
【0065】
また、耐加水分解性や耐熱性の高い要求から、分子鎖骨格に芳香族成分を含む芳香族ポリカルボジイミドが特に好ましく用いられ、例えば、p-フェニレン-ビス-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミドなどの芳香族ジカルボジイミド化合物、ポリ(4,’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などの芳香族ポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。
【0066】
一般的に、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物にカルボジイミド化合物を含有すると、溶融混練時や成形時などにガスや臭気が発生する場合があるが、配合量が0.5質量%以上3.0質量%以下である場合は、より優れた耐加水分解性とカルボジイミド化合物に由来するイソシアネートガスの発生抑制とを両立することができ、作業環境の悪化を抑制しつつより優れた耐加水分解性を達成することができる。ポリカルボジイミド化合物は0.5~2.5質量部含むことが好ましく、0.8~2.0質量部含むことがより好ましい。
【0067】
[(G)フッ素樹脂]
本実施形態においては、フッ素樹脂は滴下防止剤として用いられる任意成分である。好適なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有モノマーの単独又は共重合体や、前記フッ素含有モノマーとエチレン、プロピレン、(メタ)アクリレート等の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。これらのフッ素樹脂は1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0068】
このようなフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の単独重合体や、テトラフルオロ
エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体等の共重合体が例示される。
【0069】
フッ素樹脂の添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0~3質量部含み、0~2質量部が好ましく、0.3~1.0質量部がより好ましい。
【0070】
本実施形態において、(C)成分の含有量をC含有量(質量部)、(D)成分の含有量をD含有量(質量部)、(B)成分の含有量をB含有量(質量部)とするとき、前記(G)成分の含有量をG含有量(質量部)、前記(E)成分の含有量をE含有量(質量部),前記(E)成分の密度をE密度(g/cm3)とするとき下記式1を満たすことが好ましい。本実施形態のPBT樹脂組成物は、式1を満たすことで優れた難燃性を示す。式1は、難燃性向上に寄与する成分である(C)成分、(D)成分、(B)成分、及び(G)成分の含有量の合計から、難燃性低下に寄与する成分である(E)成分の含有量を減じた式であり、各成分の寄与度を考慮して含有量割合を設定している。なお、(E)成分はその密度の3乗に反比例して難燃性低下の寄与度が小さくなるため、(E)成分の含有量を密度の3乗で除している。式1の数値範囲は140以上が好ましく、140~300がより好ましい。140未満では難燃性が満足せず、300超では成形品の外観の悪化や物性の低下を引き起こす。
【0071】
【0072】
<樹脂成形品>
本実施形態の樹脂成形品は、以上のPBT樹脂組成物を成形してなる。そのため、本実施形態の樹脂成形品は、本実施形態のPBT樹脂組成物と同様に、難燃性、耐トラッキング性、耐加水分解性に優れる。また、本実施形態のPBT樹脂組成物は溶融粘度が低いことから、成形が容易である。
【0073】
本実施形態のPBT樹脂組成物を用いて樹脂成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPBT樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0074】
本実施形態の樹脂成形品としては、自動車や電車、航空産業用用途などの高温高湿環境に長期間曝される成形品用の樹脂組成物として好適に用いることができる。この樹脂組成物からなる成形品では、十分な高温高湿環境下で長期間使用した場合でも、加水分解による劣化が生じることを防ぐことができ、更にトラッキング性と難燃性に優れるため、高電圧が使用される部品の筐体やコネクタなどに用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
各実施例・比較例において(A)~(F)成分を表1~4に示す比率(質量部)で、32mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用い、原料供給部とダイ先端部をシリンダ温度260℃、その間を200~260℃とし、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、PBT樹脂組成物からなるペレットを得た。表1~4に示す各成分の詳細を以下に示す。
なお、(C)成分及び(D)成分の粒径(D95)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、「LA920」)を用い、水を分散媒として用い測定した。
【0077】
(A)PBT樹脂
A1:ポリプラスチックス(株)製 ポリブチレンテレフタレート(固有粘度:0.80(dL/g))
A2:ポリプラスチックス(株)製 ポリブチレンテレフタレート(固有粘度:0.79(dL/g))
A3:ポリプラスチックス(株)製 ポリブチレンテレフタレート(固有粘度:0.73(dL/g))
A4:ポリプラスチックス(株)製 ポリブチレンテレフタレート(固有粘度:0.69(dL/g))
【0078】
(B)繊維状無機化合物
B1:日本電気硝子(株)製、ガラス繊維 ECS 03-T-187
【0079】
(C)ホスフィン酸塩等
C1:クラリアントジャパン(株)製、リン系難燃剤アルミニウムトリ(ジエチルホスフィネート)EXOLIT 1240、粒径:75μm
C2:クラリアントジャパン(株)製、リン系難燃剤アルミニウムトリ(ジエチルホスフィネート)EXOLIT OP940、粒径:20μm
C3:クラリアントジャパン(株)製、リン系難燃剤アルミニウムトリ(ジエチルホスフィネート)EXOLIT OP935、粒径 10μm
C4:クラリアントジャパン(株)製、リン系難燃剤アルミニウムトリ(ジエチルホスフィネート)EXOLIT OP945、粒径 5μm
【0080】
(D)トリアジンとシアヌール酸との塩
D1:BASFジャパン(株)製、メラミンシアヌレート MELAPUR MC50、粒径:50μm
D2:BASFジャパン(株)製、メラミンシアヌレート、粒径:3μm
D3:BASFジャパン(株)製、メラミンシアヌレート、粒径:60μm
【0081】
(E)熱可塑性ポリエステルエラストマー、比較用のポリマー
E1:東洋紡(株)製、ポリエステルエラストマー ペルプレン GP400、密度:1.14g/cm3
E2:三井化学(株)製、αオレフィンコポリマー タフマー MP0610、密度:0.87g/cm3
E3:UNIC社製 エチレンエチルアクリレート共重合物 NUC-6570、密度:0.93g/cm3
E4:ダウ・ケミカル社製、アクリル系コアシェルポリマー パラロイド EXL-2311、密度:1.10g/cm3
E5:住友化学(株)製、エチレン・グリシジルメタクリレート コポリマー ボンドファースト E、密度:0.94g/cm3
【0082】
(F)ポリカルボジイミド化合物
F1:ランクセス社製、カルボジイミド STABAXOL P200
【0083】
(G)フッ素樹脂
G1:ダイキン工業(株)製、ポリフロン MPA FA-500H
【0084】
(他の成分)
・酸化防止剤:BASFジャパン(株)製、IRGANOX 245
・二次酸化防止剤:(株)ADEKA製、アデカスタブ PEP-36
・滑剤:理研ビタミン(株)製、B-74
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
[評価]
得られた各実施例・比較例のペレットを用いて以下の評価を行った。
【0090】
(1)燃焼性
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片(厚み;1.6mm)を用いて難燃性(V-0)の評価を行った。V-0を満たすものをV-0と、満たさないものを不合格とした。評価結果を表5~8に示す。
【0091】
(2)耐トラッキング性
IEC60112第3版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。測定結果を表5~8に示す。なお、最大印加電圧は600Vであり、印加電圧が600Vであると耐トラッキング性が良好と言える。
【0092】
(3)引張強さ
得られたペレットを用い、ISO527-1、2に準拠して引張強さを測定した。測定結果を表5~8に示す。引張強さは、(B)繊維状無機化合物で強化されていない場合は50MPa以上、(B)繊維状無機化合物で強化されている場合は90MPa以上であると機械強度が良好と言える。
【0093】
(4)耐加水分解性
121℃、100%RHのプレッシャークッカー試験機に50時間暴露した後、ISO527-1,2に準拠して、引張強さ(MPa)を測定し、未処理前の引張強さから強度保持率を算出した。算出結果を表5~8に示す。強度保持率が70%以上であると耐加水分解性が良好と言える。
【0094】
(5)溶融粘度
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、ISO11443に準拠し、キャピログラフ1B(東洋精機製作所(株)製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec-1にて測定した。測定結果を表5~8に示す。溶融粘度が0.45kPa・s以下であると溶融粘度が低く、流動性が良好であると言える。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
表5~8より、実施例1~21においてはいずれの評価も良好であった。すなわち実施例1~19のPBT樹脂組成物は、難燃性、耐トラッキング性、及び耐加水分解性に優れ、かつ、溶融粘度が低いことが示された。
一方、比較例1~22においては、すべての評価を同時に良好な結果とすることができなかった。
以上より、(A)~(G)成分を所定の含有量で配合しないと、難燃性、耐トラッキング性、耐加水分解性、及び低溶融粘度のすべてを良好な結果を得ることができないことが分かる。
また、式1を満たしていない比較例6、8、9、11、17~19は、いずれも難燃性に劣っていた。