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特許7214091加熱硬化用組成物および熱硬化性プラスチックの製造方法
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  • 特許-加熱硬化用組成物および熱硬化性プラスチックの製造方法 図1
  • 特許-加熱硬化用組成物および熱硬化性プラスチックの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】加熱硬化用組成物および熱硬化性プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08H 7/00 20110101AFI20230123BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230123BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20230123BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
C08H7/00
C08L63/00 A
C08L97/00
C08K7/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017243121
(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公開番号】P2019108490
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-10-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】棚池 修
(72)【発明者】
【氏名】石井 亮
(72)【発明者】
【氏名】蛯名 武雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】ネー ティティ
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084456(JP,A)
【文献】特開平04-106128(JP,A)
【文献】特開2016-060813(JP,A)
【文献】特開2018-104688(JP,A)
【文献】特開2012-092282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 1/00- 99/00
C09H 1/00- 9/04
C08G 59/00- 59/72
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質又は草本系のバイオマスに由来し、かつポリエチレングリコール鎖がリグニンの骨格に結合した改質リグニンが、前記改質リグニンを加温下に溶解できかつ200℃より低い沸点を有する炭素数5以下のアルコールを含んで凝集したリグニン固形組成物を含有してなることを特徴とするリグニン組成物。
【請求項2】
木質又は草本系のバイオマスに由来し、かつポリエチレングリコール鎖がリグニンの骨格に結合した改質リグニンが、前記改質リグニンを加温下に溶解できかつ200℃より低い沸点を有する炭素数5以下のアルコールを含んで凝集したリグニン固形組成物と、エポキシ化合物とを含有してなることを特徴とする加熱硬化用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のリグニン固形組成物とエポキシ化合物とを加熱混合して加熱硬化用液状樹脂組成物を作成することを特徴とする加熱硬化用液状樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の加熱硬化用液状樹脂組成物を冷却して加熱硬化用固形樹脂組成物を作成することを特徴とする加熱硬化用固形樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の加熱硬化用固形樹脂組成物を加熱して再度溶融し、鋳型で成型後に硬化させて熱硬化性プラスチックを作成することを特徴とする熱硬化性プラスチックの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の加熱硬化用固形樹脂組成物をそのまま加熱加圧成型をして硬化させて熱硬化性プラスチックを作成することを特徴とする熱硬化性プラスチックの製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の加熱硬化用樹脂組成物に人工繊維を配合してなることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物。
【請求項8】
請求項3に記載の加熱硬化用液状樹脂組成物を加温状態で人工繊維と混合し、冷却によって固化させて繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物を得ることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の加熱硬化用固形組成物を人工繊維と加熱混合し、冷却によって固化させて繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物を得ることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項3または4に記載の加熱硬化用液状または固形樹脂組成物を人工繊維と混合し、ついで加熱硬化させることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱硬化用組成物および熱硬化性プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は主に石油由来で合成されるが、近年の二酸化炭素排出削減のニーズに応えるため、各種バイオマス由来からの合成も試みられているところである。リグニンは木の20~30%を占める成分であり、間伐材や製紙工程などから大量に得られるにもかかわらず、工業製品の基礎高分子原料としてはあまり使われてこなかった。これはリグニンが複雑な構造の巨大分子であり、木種による個体差を有しているため、分離精製の難しさにより大規模化学製品の原料としては高コストであることが主たる原因である。
【0003】
近年、従来法とは異なる、ポリエチレングリコールを溶媒とした木材原料の酸加水分解処理により、改質リグニンとして従来よりも比較的均質なリグニン成分を抽出しやすくして、粉体有機化合物原料として連続供給できることが可能な例が見出されている。
【0004】
改質リグニンは、従来のリグニンと同様にその水酸基を活用してエポキシ化合物との重合により熱硬化性のリグニン由来エポキシ樹脂が作製できる。他方、改質リグニンは、従来のリグニンと比較した場合は、溶剤等により液状化しやすく、より簡便に同エポキシ樹脂を作製できる特徴がある。
【0005】
これまでにもその作製は試みられているが、一般的なアルカリ蒸解法で木材から得られるリグニンや製紙工程で得られるリグニンスルホン酸は、平易に用いられる安全かつ汎用の有機溶剤への溶解はほぼ困難であり、熱によっても溶融はしにくく、プラスチック原料として抽出するために様々な原料の前処理や特殊な溶媒、および分離精製法の検討がなされている。たとえば、水蒸気爆砕によってリグニンを細かく粉砕し低分子量のリグニンのみを抽出することで溶媒に溶けやすくしてからエポキシ化合物との重合を行っている(特許文献1)。さらに、アルカリ蒸解によって得られたリグニンをフェノールとの反応によりリグノフェノールを合成・分離して、エピクロロヒドリンとの反応によりエポキシ樹脂を作製している(特許文献2)。どちらもリグニンを液状化してエポキシ樹脂化を行っている例であるが、工程の複雑化や使用する化学物質の対環境負荷性などに大きな課題がある。
【0006】
本発明者らは、改質リグニンが環境負荷の小さいポリエチレングリコールの使用によって分離精製しやすく改質されたものであることを利用し、再び同じポリエチレングリコールあるいは類似構造を持つエチレングリコール系の安全性の高い有機溶剤に溶けやすいことに着目して液状化を行い、工業的に汎用のエポキシ化合物とともに硬化させて熱硬化性のプラスチックを作る例を先般、見出している。
【0007】
しかしながら、本方法では、ポリエチレングリコール系有機溶剤に改質リグニンを十分溶解させるために120℃以上の加熱を行い、かつ4時間以上攪拌する必要があった。また、エポキシ化合物との混合物を用いてハンドレイアップ法や真空含侵法などによって成形加工を行う際、混合物の流動性を維持するため、温度を120℃以上の温度に保持する必要があり、十分な流動性を得るため温度を上げすぎると成型加工の途中で硬化が進んでしまう工程上の困難さがあった。加えて、ポリエチレングリコールの沸点はエポキシ化合物との硬化温度よりも高いため、未反応のポリエチレングリコールが硬化物に残留するため、硬化時間は触媒無しでは60時間以上かかり、かつ、プラスチックの強度を下げる問題があった。
【0008】
また、本発明者らは、改質リグニンを工業的に汎用の有機溶剤(ジメチルホルムアミド、DMF)に溶解して液状化し、さらにエポキシ化合物と混合し、乾燥により有機溶剤を除去して仮硬化した後に加熱硬化させることを特徴とする手法も併せて見出した。
【0009】
しかしながら、DMFなどの汎用の有機溶剤については、室温で容易に改質リグニンを溶解するものの高沸点の溶媒であり、溶媒を完全除去するためにはエポキシ化合物との硬化温度よりも高い150℃以上の高温にする必要があり、溶媒除去と硬化が同時進行することによる樹脂の歪みなど成型上の困難さがあった。加えて、DMFなどについて対環境負荷性、安全性に問題があった。
【0010】
以上のように、改質リグニンから熱硬化性プラスチックを得るための技術においては、高い溶解温度と高い溶媒除去温度による工程の複雑化や使用する化学物質の対環境負荷性などになお改良すべき課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-221113号公報
【文献】特開2011-99083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、リグニンの木質バイオマス素材としての有効利用のため、改質リグニンとエポキシ化合物との直接の反応により硬化物を得ること、そのための平易なリグニン溶解手法と溶媒除去法、および、それに続く硬化条件を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
(1)ポリエチレングリコールにより化学修飾された改質リグニンをアルコールに溶解したリグニン液状組成物またはリグニン固形組成物を含有してなるリグニン組成物。
(2)ポリエチレングリコールにより化学修飾された改質リグニンをアルコールで溶解したリグニン液状組成物またはリグニン固形組成物とエポキシ化合物とを含有してなる加熱硬化用樹脂組成物。
(3)(2)に記載のリグニン固形組成物とエポキシ化合物とを加熱混合して加熱硬化用液状樹脂組成物を作成することを特徴とする加熱硬化用液状樹脂組成物の製造方法。
(4)(3)に記載の加熱硬化用液状樹脂組成物を冷却して加熱硬化用固形樹脂組成物を作成する加熱硬化用固体樹脂組成物の製造方法。
(5)(4)に記載の加熱硬化用固形樹脂組成物を加熱して再度溶融し、鋳型で成型後に硬化させて熱硬化性プラスチックを作成することを特徴とする熱硬化性プラスチックの製造方法。
(6)(4)に記載の加熱硬化用固形樹脂組成物をそのまま加熱加圧成型をして硬化させて熱硬化性プラスチックを作成することを特徴とする熱硬化性プラスチックの製造方法。
(7)(2)に記載の加熱硬化用樹脂組成物に人工繊維を配合してなる繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物。
(8)(3)または(4)に記載の加熱硬化用液状または固形組成物を人工繊維と混合し、冷却によって固化させて繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物を得ることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物の製造方法。
(9)(3)または(4)に記載の加熱硬化用液状または固形樹脂組成物を人工繊維と混合し、ついで加熱硬化させることを特徴とする繊維強化熱硬化性プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、使用する改質リグニンが、室温では溶けないが、好適には沸点付近で加温することでアルコール系溶媒への溶解度が増す現象を見出したことにより、容易に改質リグニンの液状化を行い、工業的に汎用のエポキシ化合物と混合しやすい状態をつくりだすことによって、熱硬化性のプラスチック樹脂液の作製効率を大幅に向上させるところに特徴のある手法である。また、樹脂の熱硬化温度と溶媒の除去温度に大きな差を設けることで、溶媒除去を十分行ってから熱硬化のプロセスに移ることが可能であり、成型加工を容易かつ多様にするところに特徴のある手法である。さらに、貧溶媒のアルコールを使ってリグニンを加熱溶解することで、冷却によりエポキシ化合物と混合しやすい状態となったリグニンを固形物として分離することが可能であり、蒸発だけに頼らずとも過剰な溶媒アルコールの容易な回収と除去、再利用が行えるところに特徴のある手法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1において、エタノール中で作成するリグニン固形物を得るプロセスを示す。
図2】実施例3において、加熱硬化用樹脂組成物の溶融状況と硬度を示す。
【0016】
本発明は、先行技術と比べて高沸点有機溶媒を必要とせず、また改質リグニンとアルコール系溶媒、及びエポキシ化合物との混合は低温かつ短時間で完了するため、従来法から大幅な時間短縮が図れる。また、平易な固液分離の手法と低温での乾燥によりアルコール系溶剤を除去できるため、省プロセス、対環境安全性に優位がある。
【0017】
また、本発明は、アルコール系溶媒と混合後、同溶媒を含む改質リグニン固形物を得た後、さらに100℃以下でエポキシ化合物と混合させ未硬化混合物を作成することができるところに特徴を有する方法も提供する。先行技術と比較して、好適には100℃以上で改質リグニン、溶剤、エポキシ化合物を混合する必要がなく、かつ、未硬化混合物を室温で保管可能であることから、加熱混合温度が高く樹脂液の混合後すぐに使い切らなければいけない従来法に対し省プロセス性に優位がある。
【0018】
さらに、改質リグニンとエポキシ化合物の良好な混合を維持したままアルコールの分離除去が容易であるため、改質リグニンとエポキシ化合物の比を容易に調節が可能であり、改質リグニンを50%以上にまで高めた高リグニン含有エポキシ樹脂の作製を可能とする。
【0019】
また、先行技術と比較して、エポキシの硬化温度よりも低い温度で溶媒の大部分を除去可能なため、硬化前の混合物の固体を得ることが可能である。したがって、各種人工繊維に未硬化混合物を含浸したプリプレグの作成が可能である。また、このプリプレグ、または、未硬化混合物固体と人工繊維織物との積層体を加熱成型により加工が可能であり、ハンドレイアップ法や真空含侵法に比べて省プロセス性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の加熱硬化用樹脂組成物は、ポリエチレングリコールにより化学修飾された改質リグニンをアルコールで溶解したリグニン液状物または凝集・分離によって得た固形リグニン組成物とエポキシ化合物とを含有してなる。その加熱硬化用樹脂組成物は、好適には、さらに硬化促進剤を混合してなる。溶解、混合に際しては、攪拌翼を備えた攪拌装置、振とう攪拌装置、ホモジナイザー等を用いるのが好適である。
【0021】
本発明で用いる改質リグニンとしては、ポリエチレングリコール鎖がリグニンの骨格に結合したものが用いられる。ポリエチレングリコール鎖をリグニンに結合させる方法としては、エポキシ基を有するポリエチレングリコールを用いた誘導体化の方法、リグニンを含む黒液にポリエチレングリコールを溶解し処理する方法、ポリエチレングリコールを媒体とした酸加溶媒分解法などが例示されるが、本発明においては、酸加溶媒分解法により得られた改質リグニンが好適に用いられる。ここで反応に用いられるポリエチレングリコールの分子量は100~1000、好ましくは200~600である。改質リグニンを製造する原料となる植物バイオマスは特に限定されるものではないが、スギ、ヒノキ等の針葉樹材、カバ、ミズナラ等の広葉樹材、あるいは、稲わら、バガス、タケ等の草本系バイオマスが用いられる。酸加溶媒分解は、これら植物バイオマスのチップあるいは粉砕物に、好適には、約5重量倍のポリエチレングリコールとポリエチレングリコールに対して0.1~0.9%の硫酸を加え、約140℃で60~90分間加温して行われる。反応物を好ましくは0.1~0.2Mの薄い苛性ソーダ溶液で希釈した後、不溶解のパルプ成分を濾過により取り除き、濾液を硫酸等で酸性化することで沈澱物を生成させる。その沈殿物を濾過もしくは遠心分離で取り除いた物質が改質リグニンとして利用される。
【0022】
ポリエチレングリコールにより修飾された改質リグニンは、さらに極性基を付加した改質リグニンも用いられ得る。極性基はカルボキシル基、アミノ基、水酸基が好適に用いられ、より好適にはカルボキシル基が用いられる。
【0023】
本発明において用いられるエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油、アルキレン-1,6-ジエポキシ等の脂肪族系;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0024】
本発明で用いる硬化促進剤は、エポキシ系樹脂の硬化促進剤であればいずれのものでもよく、例えば、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネンー5(通称DBN)や1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7(通称DBU)等の三級アミンや三級アミン塩、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィンやホスホニウム塩を用いてよい。使用する際の硬化促進剤の全固体に対する重量割合は、20重量%未満であり、好ましくは0.1~10重量%である。
【0025】
本発明において、アルコールは、改質リグニンを加温下に溶解する有機溶媒として用いられる。アルコールとしては、エポキシ樹脂の硬化処理温度より低い沸点を有していればよく、メタノール(沸点:約64℃)、エタノール(沸点:約78℃9、1-プロパノール(沸点:約97℃)、2-プロパノール(沸点:約82℃)、1-ブタノール(沸点:約117℃)、2-ブタノール(沸点:約100℃)、イソブタノール(沸点:約108℃)、t-ブタノール(沸点:約83℃)、等の炭素数5以下のアルコールが挙げられる。特に溶解性、除去の容易さ、安全性等の点からメタノール、エタノール、2-プロパノールが好適である。
【0026】
改質リグニンとアルコールの混合重量比は、50重量部対50重量部から50重量部対20重量部の範囲であるのが好適である。
【0027】
本発明の一実施態様において、本発明の熱硬化性プラスチックは、上記加熱硬化用樹脂組成物を加熱することで、残留アルコール分が除去され、ついで硬化させることにより得られる。加熱により、改質リグニン分子中の水酸基とエポキシ化合物分子中のエポキシ基が直接反応して重合し、硬化する。加熱は、通常50~200℃、好適には80℃~150℃、2~60時間程度から選ばれる。このような80℃~150℃、2~60時間程度の硬化処理でHB以上の鉛筆硬度を有する熱硬化性プラスチックが得られる。
【0028】
本発明の1つの実施態様において、具体的には、改質リグニンを、80℃以下に加温したアルコール系の溶媒に一度溶かすことで、汎用のエポキシ化合物と液相混合しやすい状態になることを見出した。この手法で混合・液状化した樹脂組成物を型に入れた後に、徐々に加熱温度を上げて残留溶媒を蒸発させてからさらに硬化温度まで上げて加熱硬化させる。
【0029】
本発明のもう1つの実施態様において、本発明の固形リグニン組成物は、ポリエチレングリコールにより化学修飾された改質リグニンをアルコール中で溶解後、凝集と分離により作られる、アルコール分を含んで凝集したリグニンの固体状物質である。そしてさらに、本発明のもう1つの実施態様において、本発明の加熱硬化用樹脂組成物は、この固形リグニン組成物とエポキシ化合物とを含有してなり、この加熱硬化用樹脂組成物を加熱して余剰アルコール分を除去させ、ついで硬化させることにより、熱硬化性プラスチックの製造方法を提供する。
【0030】
たとえば、アルコール溶媒で改質リグニンを溶解し、ついで一旦冷却させることでリグニン固形物を凝集させ、遊離した残余のアルコール系を単純な分離により除去してアルコールを含むリグニン固形分として回収し、さらに100℃以下で汎用のエポキシ化合物と混合し、アルコールの残留量を抑えた改質リグニン、エポキシ化合物からなる液状または固形の未硬化混合物を得る。この未反応混合物を成型加工と加熱処理により、樹脂硬化物を得る。
【0031】
アルコールの大部分を除去した段階の改質リグニンとエポキシ化合物との未硬化混合物は、エポキシ化合物の硬化温度には達していないため、成型・加熱硬化の直前までストックできる原料として提供でき、加熱混合と硬化のプロセスを別にできるため、プラスチック製造のプロセスを効率的にすることができる。
【0032】
本発明の加熱硬化用樹脂組成物に人工繊維を配合してなる繊維強化熱硬化性プラスチック用原料組成物を得ることができる。
液体の未硬化混合物を、ガラス繊維、炭素繊維、ポリプロピレン繊維等の人工繊維に含浸させ、徐々に加温することでアルコール溶媒を除去したのちに硬化させることで、繊維強化バイオマスプラスチック材を提供し得る。さらに、固体の未硬化混合物をそのまま加熱圧縮成型することによって得られる樹脂板、さらには、人工繊維と固体の未硬化混合物を積層し加熱圧縮によって得られる繊維強化バイオマスプラスチック材を提供し得る。
【0033】
すなわち、改質リグニンをアルコールで溶解した液状物とエポキシ化合物とを含有してなる加熱硬化用樹脂組成物、またはポリエチレングリコールにより化学修飾された改質リグニンとアルコールとを含有してなる固形リグニン組成物とエポキシ化合物とを含有してなる加熱硬化用樹脂組成物を、人工繊維と混合し、ついで加熱硬化させることにより繊維強化熱硬化性プラスチックを製造し得る。
【0034】
さらには、記載の加熱硬化用樹脂組成物と人工繊維を積層し、加熱加圧処理することにより成形と硬化を行うことにより繊維強化熱硬化性プラスチックを製造し得る。
【実施例
【0035】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
改質リグニンとして、分子量200のポリエチレングリコールを溶媒とした酸加水溶媒分解法で得られたものを用いた。改質リグニンを溶かす溶媒として、市販のエタノール(特級)を用い、エポキシ化合物としてはビスフェノールA型を用いた。
実施例1:エタノール中で作製するリグニン固形物
図1に示すように、大過剰量のエタノールに改質リグニン粉末を混合し攪拌したところ、室温では全く反応が起こらずリグニンの粉は沈殿したが、70℃に加温すると改質リグニンは徐々に溶解し色が黒ずみ液状となった。室温まで冷却したところ、改質リグニンは凝集し始め、エタノールと分離した粘性の高い団子状の塊を得ることができた。エタノールはデカンテーションにより除去して塊を取り出し、リグニンの固形物を得ることができた。このリグニン固形物を、ビスフェノールA型エポキシ化合物と80℃程度で加熱したところ流動性の高い液状の混合物を数分で再び得ることができた。
実施例2:リグニン固形物とエポキシ化合物から作成したプラスチック
【0037】
実施例1と同様に作成したリグニン固形物を重量比で50~100%の割合で100℃でエポキシ化合物を混合し、アルミニウム製の型に流し込んで120℃で一昼夜加熱硬化処理を行うと、表1のように、リグニンの割合が多すぎた場合は発泡して硬化はせず、樹脂はできなかったが、50%~70%前後という、高いリグニンの割合ではエポキシ樹脂の作製が可能であり、ショア硬度が最大82の硬い硬化物を得ることができた。
【表1】
【0038】
実施例3:ストック可能な未硬化樹脂組成物の作成
実施例1と同様にエタノール中で80℃で溶融後に冷却して作成した、エタノールを含むリグニンの団子状の塊はショア硬度が1~7の柔らかい固形物であり、固体としてのストックが可能であった。この塊をリグニンとの重量比1:1でビスフェノールAと混合し、100℃で加熱し続けると、残留しているエタノールが徐々に蒸発し、徐々に粘性が下がって改質リグニンとビスフェノールAからなる固形混合物が得られた。この固形物を一旦冷やして取り出したところ、ショア硬度は20前後の固形物であった。この固形物を、アルミニウム製の型に入れ、120℃で一昼夜加熱すると、再溶融した後にアルミニウム型の形になってから硬化し、ショア硬度78の硬いプラスチックが得られた。硬化後一旦冷却して、再び120℃で加熱しても今度は溶融することはなかった。以上から、エタノール中で作るリグニン固形物、および、エポキシ化合物と混合して作る硬化前樹脂組成物いずれも、固体の状態で作り置きできることが可能であることがわかった。
実施例4:繊維強化複合プラスチックの作成
【0039】
実施例1と同様に作成したエタノールを含む団子状のリグニンの塊をリグニンとの重量比1:1でビスフェノールAと混合し、80℃で加熱して作成した改質リグニンとビスフェノールAからなる液体をガラス繊維織物に染み込ませて120℃で一昼夜加熱すると、ガラス繊維複合エポキシ硬化物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の熱硬化性プラスチックは、家電、自動車、OA機器用プラスチック部材として、さらには配管用シール材、接着シート等として、木質バイオマス資源の有効利用に供され得る。
図1
図2