(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】海馬機能を評価するための動画の作成方法および海馬機能評価システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230123BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B10/00 H
A61B5/055 311
(21)【出願番号】P 2018181905
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017188861
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】石内 勝吾
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195835(JP,A)
【文献】特開2004-267586(JP,A)
【文献】特開2014-039604(JP,A)
【文献】石内 勝吾,”MS1-4放射線治療患者における海馬機能評価法の樹立”,第1回日本脳神経外科認知症学会学術総会,2017年06月24日
【文献】石内 勝吾,”中枢神経系への放射線治療によって生じる高次脳機能障害の評価ならびに予防法の開発”,Neurological Surgery 脳神経外科,2011年12月,39巻12号,1127-1137頁
【文献】石内 勝吾,”ヒト海馬神経新生能に対する非侵襲的ニューロイメージング”,第1回日本脳神経外科認知症学会学術総会講演集 Proceedings1,JSND,2017年12月15日,80-83頁
【文献】金子 文成 他,”理学療法トピックス/シリーズ「中枢神経機能の計測と調整」/連載第2回 機能的磁気共鳴画像法を用いた脳機能計測方法とその応用”,理学療法学,2016年,第43巻第5号,429-435頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/00
医中誌Web
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の海馬機能を評価可能な動画の作成方法であって、
被験者に対し、以下の工程:
複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し行う試行工程;
前記試行工程における各試行の終了後、被験者にその試行で提示されたテストアイテムが、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかを回答させる回答工程;および
前記試行工程で提示したテストアイテムと前記回答工程で得られた回答結果とを比較して各試行に対する回答結果の正誤を判定する正誤判定工程
を含む課題試験を行うとともに、
この課題試験実施中の被験者の海馬付近の血流量の変動を示すfMRI画像を取得し、
前記(A)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均、前記(B)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均および前記(C)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均を得て、
前記課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、前記血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、前記(A)~(C)の各パターンの試行ごとに前記fMRI画像上に表示し、このfMRI画像を連続表示することで、前記(A)~(C)の各パターンの試行に対する海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を得ることを特徴とする動画の作成方法。
【請求項2】
前記血流量を、BOLDシグナル (Blood Oxygen Level Dependent Signal)によって取得することを特徴とする請求項1の動画の作成方法。
【請求項3】
課題試験実施装置と、fMRI装置と、画像表示装置とを含む海馬機能評価システムであって、
前記課題試験実施装置は、
複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し実行するためのテストアイテム提示手段と、
各試行で提示するテストアイテムをテストアイテム提示手段に出力するテストアイテム出力手段と、
各試行の終了後、被験者が各試行で提示されたテストアイテムが、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかについての回答結果を入力する回答結果入力手段と、
回答結果入力手段を介して入力された回答結果を記憶する回答結果記憶手段と、
前記テストアイテム出力手段によって出力された各試行におけるテストアイテムと、前記回答結果記憶手段に記憶された回答結果とを比較して、各試行に対する回答結果の正誤を判定する正誤判定手段と、
を含み、
前記fMRI装置は、課題試験実施中の被験者の海馬付近の血流量の変動を示すfMRI画像を取得可能であり、
前記画像表示装置は、前記課題試験実施装置による前記課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、前記(A)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均、前記(B)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均および前記(C)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、前記(A)~(C)のパターンの試行ごとに前記fMRI画像上に表示可能であり、かつ、このfMRI画像を連続表示することで、前記(A)~(C)の各パターンの試行に対する海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を表示可能であることを特徴とする海馬機能評価システム。
【請求項4】
前記fMRI装置は、BOLDシグナル(Blood Oxygen Level Dependent Signal)を取得可能であることを特徴とする請求項3の海馬機能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海馬機能を評価するための動画の作成方法および海馬機能評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海馬は、学習と記憶に重要な役割を果たすことが知られており、その機能についての様々な研究が行われている。
【0003】
そして、本発明者は、1)交通事故、転倒・転落事故等によるびまん性軸索損傷、2)心筋梗塞や脳卒中による低酸素脳症、3)一酸化炭素中毒などにより引き起こされた高次脳機能障害、などに対する診断法および治療法を確立することを目的として研究を進め、被験者の海馬機能を評価するための新しい方法を確立している(特許文献1)。
【0004】
具体的には、特許文献1の方法は、テストアイテム(例えば絵の描かれたカードなど)を被験者に順次提示する試行を行い、被験者に提示されたテストアイテムが、(A)初めて提示されたテストアイテム、(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム、(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム、のうちのいずれであるかを回答させる。そして、その回答結果の正誤を集計することで被験者の海馬機能を評価するものである。この方法によれば、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)などの高価な装置を利用しなくても、被験者の海馬に疾患または損傷が生じている否かや新生神経細胞の状態、放射線治療後の認知機能の回復経過、内分泌系代謝疾患、糖尿病、肥満患者の認知能力(海馬新生機能)を簡便に評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】fMRI 原理と実践 3版Huettel ら。BOLD fMRI : 起源と特性 第7章192-244頁 2016メディカル・サイエンス・インターナショナル社
【文献】Adler, D.H., Pluta, J., Kadivar, S., Craige, C., Gee, J.C.,Avants, B.B., and Yushkevich, P.A. (2014). Histology-derived volumetric annotation of the human hippocampal subfields in postmortem MRI. NeuroImage 84, 505-523.
【文献】Duvernoy, HM. (2005). The human hippocampus: functional anatomy, vascularization and serial sections with MRI (Berlin: Springer Verlag).
【文献】Insausti, R., Juottonen, K., Soininen, H., Insausti, A.M., Partanen, K., Vainio, P., Laakso, M.P., and Pitkanen, A. (1998). MR volumetric analysis of the human entorhinal, perirhinal, and temporopolar cortices. AJNR Am J Neuroradiol 19, 659-671.
【文献】Shiroma, A., Nishimura, M., Nagamine, H., Miyagi, T., Hokama, Y., Watanabe, T., Murayama, S., Tsutsui, M., Tominaga, D., and Ishiuchi, S. (2016). Cerebellar Contribution to Pattern Separation of Human Hippocampal Memory Circuits. Cerebellum 15, 645-662.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法は、被験者への試行に対する回答結果の正誤を集計して得た数値から海馬機能を評価するものであるため、簡便ではあるものの、より直接的な方法として、海馬内情報伝達系を画像化することによって、精度よく海馬機能を検査、評価することができる方法を確立することが望まれていた。
【0008】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、海馬内情報伝達系を画像化することによって、精度よく被験者の海馬機能を評価することができる海馬機能の評価方法および海馬機能の評価システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被験者の海馬機能を評価可能な動画の作成方法であって、被験者に対し、以下の工程:
複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し行う試行工程;
前記試行工程における各試行の終了後、被験者にその試行で提示されたテストアイテム
が、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかを回答させる回答工程;および
前記試行工程で提示したテストアイテムと前記回答工程で得られた回答結果とを比較して各試行に対する回答結果の正誤を判定する正誤判定工程
を含む課題試験を行うとともに、
この課題試験実施中の被験者の海馬付近の血流量の変動を示すfMRI画像を取得し、
前記(A)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均、前記(B)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均および前記(C)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均を得て、 前記課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、前記血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、前記(A)~(C)の各パターンの試行ごとに前記fMRI画像上に表示し、このfMRI画像を連続表示することで、前記(A)~(C)の各パターンの試行に対する海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を得ることを特徴としている。
【0010】
この動画の作成方法では、前記血流量を、BOLDシグナル (Blood Oxygen Level Dependent Signal)によって取得することが好ましい。
【0011】
本発明の海馬機能評価システムは、課題試験実施装置と、fMRI装置と、画像表示装置とを含む海馬機能評価システムであって、
前記課題試験実施装置は、
複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し実行するためのテストアイテム提示手段と、
各試行で提示するテストアイテムをテストアイテム提示手段に出力するテストアイテム出力手段と、
各試行の終了後、被験者が各試行で提示されたテストアイテムが、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかについての回答結果を入力する回答結果入力手段と、
回答結果入力手段を介して入力された回答結果を記憶する回答結果記憶手段と、
前記テストアイテム出力手段によって出力された各試行におけるテストアイテムと、前記回答結果記憶手段に記憶された回答結果とを比較して、各試行に対する回答結果の正誤を判定する正誤判定手段と、
を含み、
前記fMRI装置は、課題試験実施中の被験者の海馬付近の血流量の変動を示すfMRI画像を取得可能であり、
前記画像表示装置は、前記課題試験実施装置による前記課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、前記(A)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均、前記(B)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均および前記(C)のパターンであると回答すべき試行に対する回答の際の血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、前記(A)~(C)のパターンの試行ごとに前記fMRI画像上に表示可能であり、かつ、このfMRI画像を連続表示することで、前記(A)~(C)の各パターンの試行に対する海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を表示可能であることを特徴としている。
【0012】
この海馬機能評価システムでは、前記fMRI装置は、BOLDシグナル(Blood Oxygen Level Dependent Signal)を取得可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の動画の作成方法によれば、海馬内情報伝達系が画像化された動画を得ることができ、この動画から精度よく被験者の海馬機能を評価することができる。本発明の海馬機能の評価システムによれば、海馬内情報伝達系を画像化することによって、精度よく被験者の海馬機能を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Lure課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図2】New課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図3】Same課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図4】Lure課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図5】New課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図6】Same課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図7】Lure課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図8】New課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図9】Same課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図10】Lure課題に対するA:control(健常者)と、B:cIR(Cranial irradiation therapy)群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図11】New課題に対するC:control(健常者)と、D:cIR群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【
図12】Same課題に対するE:control(健常者)と、F:cIR群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の動画の作成方法の一実施形態について説明する。本発明の動画の作成方法によれば、被験者の海馬機能を評価可能な動画を得ることができる。なお、本発明において「海馬」には、歯状回が含まれる。
本発明の海馬機能の評価方法では、被験者に対し所定の課題試験を行うとともに、課題試験実施中の被験者の海馬付近の血流量の変動を示すfMRI画像を取得する。そして、課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、各パターンの試行ごとの血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、fMRI画像上に表示し、このfMRI画像を連続表示することで、各パターンの試行に対する海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を得て海馬機能を評価する。
【0016】
課題試験の実施については特許文献1の記載を踏まえることができる。
【0017】
具体的には、課題試験は、以下の工程:
複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し行う試行工程;
前記試行工程における各試行の終了後、被験者にその試行で提示されたテストアイテム
が、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかを回答させる回答工程;および
前記試行工程で提示したテストアイテムと前記回答工程で得られた回答結果とを比較して各試行に対する回答結果の正誤を判定する正誤判定工程
を含む。
【0018】
以下、課題試験の各工程について説明する。
【0019】
試行工程は、複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し行う工程である。
【0020】
テストアイテムとは、被験者が目視によって図柄などを記憶すべきアイテムをいい、例えば、図柄が表されたカード、立体物、画面上に表された画像などを例示することができる。したがって、被験者にテストアイテムを提示する方法、手段もテストアイテムの種類や被験者の状態などを考慮して適宜設定することができる。
【0021】
試行工程における試行回数(テストアイテムの提示回数)やテストアイテムの提示時間、各試行間の時間的間隔などは特に限定されず、例えば、試行回数(テストアイテムの提示回数)については、被験者の状態や難易度などを考慮して、例えば30回~150回程度の範囲を例示することができる。
【0022】
回答工程では、試行工程における各試行の終了後(1回のテストアイテムの提示後)、被験者にその試行で提示されたテストアイテムが、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム、
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム、
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム
のうちのいずれであるかを回答させる。
【0023】
すなわち、回答工程において被験者が正答するためには、従前の試行で提示されたテストアイテムの内容(図柄など)をすべて記憶し、現在提示されているテストアイテムとの比較によって、(A)~(C)のパターンを選択して回答する必要がある。したがって、試行回数(テストアイテムの提示数)が増えるに従って、被験者が記憶すべきテストアイテムの種類は増えることになるため回答の難易度は高まることになる。また、テストアイテムの図柄の類似性や、テストアイテムの提示の順番などによっても回答の難易度は変わり得るため、試行工程におけるテストアイテムの提示条件を統一して、予め基準となる健常者の正答率の平均値を得ておくことが好ましい。
【0024】
以下、便宜的に、(A)初めて提示されたテストアイテムを「New」、(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテムを「Lure」、(C)従前の試行で提示されたことがあるカードと同一のテストアイテムを「Same」と記載することがある。
【0025】
回答工程における回答形式は特に限定されず、被験者の口頭での回答を第三者が記録してもよいし、被験者自身に回答用紙に回答を記入させたりすることができるが、回答結果の保存や検討が容易なコンピューターに回答を入力させることが好ましい。
【0026】
なお、パターン(B)の「類似する別種のテストアイテム」とは、例えば、図柄が表されたテストアイテムの場合では、従前の試行で提示されたテストアイテムの図柄に対して、図柄の一部が欠損または付加されているもの、図柄の外形が同一形状であるが色彩が異なるもの、図柄が左右対称に表されているものなどを例示することができる。正誤判定工程では、試行工程で提示したテストアイテムと回答工程で得られた回答結果とを比較して各試行に対する回答結果の正誤を判定する。回答結果の正誤を判定する方法は特に限定されず、例えば第三者が被験者の回答の正誤を判定してもよいが、コンピューターなどによって自動的に回答の正誤を判定させることが好ましい。
【0027】
本発明の動画の作成方法では、課題試験実施中の被験者の海馬付近、正確にはアンモン角(coru ammonis)CA1~CA4及び歯状回を含む狭義の海馬と海馬体(嗅内野、嗅上皮および海馬台等)の血流量の変動を示すfMRI画像を取得する。
【0028】
そして、上記の(A)のパターンであると回答すべき試行(以下、「New課題」と記載する)に対する回答の際の血流量の加算平均、(B)のパターンであると回答すべき試行(Lure課題)に対する回答の際の血流量の加算平均、および、(C)のパターンであると回答すべき試行(以下、「Same課題」と記載する)に対する回答の際の血流量の加算平均を得る。
【0029】
課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、各課題時の血流量の加算平均をそれぞれ相関解析する。具体的には、血流量の変動を相関解析するために利用できる指標としては、BOLDシグナル(Blood Oxygen Level Dependent Signal) を挙げることができる。脳の活動は酸素を消費し、血中酸素濃度を変化させるため、fMRI装置は、人体に磁場をかけてその応答を取り出すことにより、脳活動を反映した血中酸素濃度に依存する信号であるBOLDシグナルを得ることができる。BOLDシグナルは、脳の局所のオキシへモグロビン(酸素化ヘモグロビン)およびデオキシヘモグロビン(脱酸素化ヘモグロビン)の磁化率の相違(前者が反磁性、後者が常磁性)を利用しデオキシへモグロビンが酸素化するとMR画像がより明るくなる。BOLD反応は脳血流量(CBF)/ 脳酸素代謝率(CMRO2)に比例しCBFに影響を与えるものにはastrocyte , neuron, vasodilator PGE2やCa2+sensitive K+ channelなどが影響する。CMRO2はATP turn overやrate of Na,K-ATPase活性が関与する。簡略すればfMRIで捉えられるBOLD反応は単位ボクセルあたりのデオキシヘモグロビンの総量変化の継時的測定であり、その神経基盤は実験的に局所電場電位(local field potential:LFP)を反映するため神経活動を反映する指標となる。BOLD反応については、例えば非特許文献1を参照することができる。
【0030】
そして、相関解析して得た結果(基準時に対する血流の増加、減少等)を、各課題(New課題、Lure課題、Same課題)ごとに3次元画像にプロットして連続画像とし、fMRI画像上に表示(mapping)することで、海馬subregion、具体的には嗅内野、嗅上皮、CA1~CA4及び歯状回および海馬台などの賦活、非賦活および不活の全貌の詳細(脳の血流動態の空間的(3次元的)広がり)を表示することができる。これによって、脳海馬付近において、血流がとどまっているのか、流れているのかを確認することができる。また、脳海馬付近において、血流がとどまっている部位や、血流が流れる経路、各所での血流の大きさなどを判定することができる。
【0031】
具体的には、解剖学上定義される海馬アトラスを考慮し、公知の手法に従って、海馬付近の血流量の変動を、BOLDシグナルに基づく海馬のsubdivisionの活性化スポットおよび不活性化スポットで表示した複数のfMRI画像を取得し、このfMRI画像を3次元的にその全貌を連続表示することで、海馬の歯状回、CA3、CA1、鉤状回、内嗅皮質および鼻周囲皮質の各領域を含む海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を得ることができる。
【0032】
このように、本発明では、特許文献1の方法のように回答結果の正誤を集計して得た数値から海馬機能を評価する必要はなく、課題試験中の被験者の海馬付近の血流量の変動を相関解析した複数のfMRI画像から、各課題(New課題、Lure課題、Same課題)時の海馬内伝達経路内の血流動態を示す動画を取得することで、精度よく海馬機能を評価することができる。
【0033】
より具体的には、Lure課題に正答する場合、情報が嗅内野II層からDG(dentate gyrus:歯状回)へ送られ、DGで選別された情報はCA3に運ばれさらに識別されたのちにCA1へ送付される。このため、3回情報のやり取り(シナプス変換)による高い脳機能が要求される。New課題に正答する場合、情報が嗅内野III層からCA1へ送られ直接送付される。シナプス変換は1回であるため、脳の負担は軽度である。Same課題に正答する場合、Lure課題ほどは難しくないため、一般的には、DGを介さずにCA3に入力されCA1へ出力されるが、DGを介する系が賦活する場合もある。
【0034】
すなわち、正常な海馬内情報系を有する場合は、各課題(New課題、Lure課題、Same課題)に対して、上記の海馬内伝達経路に従ってスムーズに情報が流れシグナルの伝達が行われるのに対し、病的な脳ではシグナル伝達の機能障害が生じる。このため、被験者のfMRI画像から作成した動画からシグナルの伝達の流れを確認し、例えば同一課題によって得た健常者のfMRI画像から作成した動画と比較することで、被験者の海馬機能を評価することができる。また、DGの活動は新生ニューロンが担うため、動画から被験者のDGの活動が低いことが確認される場合は、神経新生能が低下していると評価することができる。本発明の海馬機能の評価方法では、リアルタイムにヒトの神経新生能を可視化、画像化することができるため、各種の疾患などの診断や治療に有用である。さらに、情報伝達が滞ると様々なsubregionで過活動として検出されるため、動画から過活動が確認される場合は、どの部位にとどまるかによって、病態の重症度を判定することもできる。
【0035】
このように、海馬機能障害は、Lure課題に対するシグナル伝達が最初に障害され、画像(動画)ではDGの不活性化で表現され、その際情報が嗅内野にとどまり同部位の過活動が認められる。
【0036】
本発明の動画の作成方法では、海馬機能に影響する疾患や環境について精度よく評価可能な動画を得ることができる。具体的には、本発明の動画の作成方法で得られた動画によれば、脳卒中、頭部外傷、ハンチンソン病、ストレス、うつ病、パーキンソン病、統合失調症、アルツハイマー型認知症などの病態をリアルタイムで簡便に評価することができる。このため、脳の病気の進行の程度、治療効果の判定、鑑別などに有用である。さらに、この動画は、加齢に伴う認知能低下、肥満患者の認知能力、糖尿病、内分泌代謝疾患の治療や管理などにも有効利用することができる。また、原発性及び転移性悪性腫瘍患者においては放射線や化学療法の海馬機能への影響や高次機能障害の判定にも有用である。
【0037】
次に、本発明の海馬機能評価システムの一実施形態について説明する。
【0038】
本発明の海馬機能評価システムは、本発明の海馬機能の評価方法を自動化して行うものである。したがって、上記の海馬機能の評価出方法と共通する内容については、説明を一部省略する。
【0039】
本発明の海馬機能評価システムは、課題試験実施装置と、fMRI装置と、画像表示装置とを含んでいる。
【0040】
課題試験実施装置は、テストアイテム提示手段と、テストアイテム出力手段と、回答結果入力手段と、回答結果記憶手段と、正誤判定手段とを含んでいる。
【0041】
テストアイテム提示手段は、複数のテストアイテムを被験者に順次提示する試行を繰り返し実行するためのものである。具体的には、例えばコンピューターと接続するディスプレイなどを例示することができ、ディスプレイ上に表示される画像によってテストアイテムを表示するができる。 テストアイテム出力手段は、各試行で提示するテストアイテムをテストアイテム提示手段に出力して表示する。テストアイテム出力手段は、予め設定されたテストアイテムの提示パターンを実行するためのシステムやプログラムなどを例示することができる。
【0042】
回答結果入力手段は、各試行の終了後、被験者がテストアイテム提示手段によって提示されたテストアイテムを確認し、自身の記憶に照らして、以下の(A)~(C)のパターン、
(A)初めて提示されたテストアイテム(New)、
(B)従前の試行で提示されたテストアイテムと類似する別種のテストアイテム(Lure)、
(C)従前の試行で提示されたことがあるテストアイテムと同一のテストアイテム(Same)、
のうちのいずれであるかについて回答を入力するための手段である。具体的な実施形態は特に限定されないが、例えば、ボタンを押して回答を入力する形態や、ディスプレイ(テストアイテム提示手段)上においてタッチパネル形式で入力する形態などを例示することができる。 回答結果記憶手段は、回答結果入力手段を介して入力された回答結果を記憶する記憶媒体(メモリー)などを例示することができ、コンピューターなどに格納されたものであってよい。
【0043】
正誤判定手段は、テストアイテム出力手段によって出力された各試行におけるテストアイテムと、回答結果記憶手段に記憶された回答結果とを比較して、各試行に対する回答結果の正誤を判定する。例えば、正誤判定手段は、コンピューターに格納されたプログラムによって自動的に回答の正誤を判定することができる。
【0044】
fMRI装置は、課題試験実施装置による課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、各試行に対する回答の際の海馬付近の血流量の変動を相関解析した複数のfMRI画像を取得することができる。また、fMRI装置は、BOLDシグナル(Blood Oxygen Level Dependent Signal) を得ることで血流量の変動を相関解析できるものであることが好ましい。
【0045】
したがって、fMRI装置には、上記機能を実現するための各種の構成が含まれる。具体的には、fMRI装置は、例えば、撮像部、制御部、記憶部などを備え、撮像によってfMRI画像等の各種MR画像を収集することができる。
【0046】
撮像部は、静磁場磁石、傾斜磁場コイル、傾斜磁場電源、送信RF(Radio Frequency)コイル、送信部、受信RFコイル、受信部を有し、制御部による制御の下、被験者を撮像してfMRI画像を収集する。
【0047】
制御部は、fMRI画像を撮像するために設定された撮像パラメータに基づいて、撮像部による撮像を制御する。また、制御部は、撮像部による撮像のタイミングを制御することもできる。制御部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路で実現可能である。記憶部は、撮像部によって収集された各種MR画像を記憶する。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(flash memory)等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等で実現可能である。
【0048】
画像表示装置は、fMRI装置によって取得したfMRI画像を連続表示して、海馬subregionの賦活、非賦活および不活の全貌の詳細(海馬内伝達経路内の血流動態の空間的(3次元的)広がり)を示す動画を作成する。
【0049】
画像表示装置は、課題試験実施装置による課題試験の試行前における被験者の海馬付近の血流量を基準として、New課題に対する回答の際の血流量の加算平均、Lure課題に対する回答の際の血流量の加算平均、および、Same課題に対する回答の際の血流量の加算平均のそれぞれを相関解析して得た結果を、各課題ごとにfMRI画像上に表示する。
【0050】
したがって、画像表示装置には、上記機能を実現するための各種の構成が含まれる。具体的には、例えば、画像表示装置には、表示部、表示制御部、画像記憶部などが含まれ、fMRI装置によって収集された各種MR画像の表示等を行うことができる。
【0051】
具体的には、表示部は、表示制御部による制御の下、fMRI画像や伝達経路図やその他の付加情報等を表示することができる。なお、伝達経路図は、指令に対する反応が各部位に伝達される経路を示す図であり、本発明の海馬機能評価システムにおいては、特に課題試験中における海馬内伝達経路を示す。表示部は、液晶表示器等で実現可能である。
【0052】
表示制御部は、画像表示装置の各部を制御し、fMRI画像と海馬内伝達経路図とを関係付けて表示部に表示することができる。表示制御部は、例えば、ASIC、FPGA等の集積回路、CPU、MPU等の電子回路で実現可能である。
【0053】
画像記憶部は、運動や感覚刺激の強度やタイミング等の制御情報、fMRI装置によって収集されたfMRI画像、fMRI画像の解析結果などの各種情報を記憶することができる。画像記憶部は、例えば、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等で実現可能である。
【0054】
なお、fMRI装置および画像表示装置は、上記の機能を有するものであれば特に限定されず、市販されているものを適宜使用することもできる。
【0055】
さらに、本発明の海馬機能の評価システムには、例えば、被験者のfMRI画像から作成した動画からシグナルの伝達の流れ(海馬内伝達経路)と、同一課題によって得た健常者のfMRI画像から作成した動画(海馬内伝達経路)とを比較して、海馬機能を自動的に評価する判定部などが含まれていてもよい。
【0056】
本発明の動画の作成方法、海馬機能の評価システムは、以上の実施形態に限定されることはない。
【0057】
以下、本発明の動画の作成方法と海馬機能の評価方法等について実施例とともにより詳細に説明するが、本発明の動画の作成方法、海馬機能の評価システムは、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
<課題試験実施中の海馬内伝達経路の可視化>
<1>方法
健常者36名、高次脳機能障害患者1名(治療前、治療後)および頭部放射線治療患者13名について、海馬機能を測定するために独自に開発した課題試験実施中の脳活動をfMRIを用いて同時計測を行った。
【0059】
fMRI装置は、GE社製GE 3T Discoveryを用いて、血中酸素濃度に依存するBOLDシグナル(BOLD: Blood Oxygenation Level Dependent)を測定した。
【0060】
課題試験は、特許文献1の方法を踏まえ、画面(テストアイテム提示手段)に写真(テストアイテム)を1枚ずつ提示し、その写真についてボタン(回答結果入力手段)を押すことで回答を求めた。ボタンは3つあり、初めて見る写真(New)、従前の試行で見た写真と同じもの(Same)、従前の試行で見た写真と似ているが異なる写真(Lure)を判断し、異なる指でボタン押しを行うように教示した。 課題(テストアイテムの提示)の提示時間は2500 ms、課題間の間隔は0~1000 msとした。写真の提示順序は疑似ランダムとし、New課題は76個、Same課題は16個、そしてLure課題は16個で構成した。
【0061】
課題試験中の被験者のBOLDシグナル(BOLD: Blood Oxygenation Level Dependent)について、New課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均、Lure課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均およびSame課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均を得た。
【0062】
課題試験の試行前における被験者の海馬付近のBOLDシグナルを基準として、New課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均、Lure課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均およびSame課題に対する回答の際のBOLDシグナルの加算平均のそれぞれを相関解析した。そして、画像表示装置によって、各課題(New課題、Lure課題、Same課題)負荷後の血流量の加算平均の相関解析の結果に基づいて、脳の3次元画像上にプロットして、海馬付近のBOLDシグナルの変動を示す複数のfMRI画像を取得した。
【0063】
このfMRI画像では、課題試験実施中の被験者について、BOLDシグナルに基づく活性化スポットおよび不活性化スポットを、解剖学上定義される海馬アトラス(例えば、非特許文献2-5)に従って特定した。具体的には、FMRIB Software Library v 5.0.2.1のFSLView 3.1.8(FMRIB Analysis Group 英国オックスフォード大学)を使用して、海馬のsubdivisionを描出した。色は、海馬の歯状回(赤色)、CA3(黄色)、CA1(緑色)、鉤状回(青色)、内嗅皮質(淡青色)、および鼻周囲皮質(ピンク色)で各領域を示し、活性化スポットおよび不活性化スポットおよび着色された各領域マップはSPGR画像上に重ね合わせ、時間軸から追跡して連続表示することで、課題試験実施中の被験者の海馬内伝達経路内の血流動態の3次元的な広がりを示す動画を作成することができた。
【0064】
<2>結果
(1)課題試験の正答率
各課題試験(New課題、Lure課題、Same課題)について、健常者36名の平均正答率は、New課題が96±3%、Lure課題が48±19%、Same課題が89±10%であった。
【0065】
高次脳機能障害患者(治療前)の正答率は、New課題が86%、Lure課題が0%、Same課題が63%であり、高次脳機能障害患者(治療後)は、New課題が84%、Lure課題が50%、Same課題が94%であった。
【0066】
頭部放射線治療患者13名の平均正答率は、New課題が93%、Lure課題が25%、Same課題が81.5%であった。
【0067】
(2)海馬内伝達経路
(2-1)健常者および高次脳機能障害患者(治療前、治療後)
図1は、Lure課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図2は、New課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図3は、Same課題に対する健常者の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【0068】
健康者では、活性化は完全に対称ではないが、New課題、Lure課題およびSame課題に対して、DG、CA3、CA1および鉤状回において両側海馬が同時に活性化されていることが確認された。
【0069】
図4は、Lure課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図5は、New課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図6は、Same課題に対する高次脳機能障害患者(治療前)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図7は、Lure課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図8は、New課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図9は、Same課題に対する高次脳機能障害患者(治療後)の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【0070】
図4~
図6に示したように、高次脳機能障害患者(治療前)では、Lure課題に対しては、歯状回の賦活化は認められず、嗅上皮に血流上昇を認めるのみである。Same課題に対しては、海馬台、嗅上皮付近に賦活があるものの海馬内に血流の上昇を認めない。New課題に対しては、嗅上皮およびCA1で賦活が観察された。
【0071】
図7~
図9に示したように、高次脳機能障害患者(治療後)では、Lure課題に対しては、歯状回およびCA3で賦活が観察された。Same課題に対しては、CA3で賦活が観察された。New課題に対しては、CA1及び海馬台で賦活が観察された。
【0072】
高次脳機能障害患者は、治療によりpolysynaptic pathwayが機能回復していることが確認された。
【0073】
以上のように、fMRIによる解析によって、健常者および高次脳機能障害患者の海馬内伝達経路を動画によって可視化することに成功した。動画上からもdirect pathway (entorhinal cortex からdirect にCA1 へ入る情報回路)とpolysynaptic pathway(entorhinal cortex からdentate gyrus、CA3 を介しCA1 、海馬台へ流れる情報網)を区別し得ることを明らかになり、これらの動画によって海馬機能を評価できることが確認された。
【0074】
(2-2)頭部放射線治療患者(Cranial irradiation therapy: cIR群)
図10は、Lure課題に対するA:control(健常者)と、B:cIR群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図11は、New課題に対するC:control(健常者)と、D:cIR群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
図12は、Same課題に対するE:control(健常者)と、F:cIR群の脳活動を示したfMRI画像を連続表示した動画を示した図である。
【0075】
Lure課題に対して、健常者では、DG、CA3、CA1および鉤状回において両側海馬が同時に活性化されていることが確認された。一方、cIR群では、右海馬でシグナルが抑制され、その活性化ポイントは右鼻周囲皮質に限られていたが、不活性化ポイントがDG、CA3、CA1および鉤状回のそれぞれで観察された。
【0076】
New課題に対して、健康者では、両側の鼻周囲皮質、DG、CA3、CA1、および鉤状回において活性化シグナルが観察された。一方、cIR群では、両側の鼻周囲皮質および鉤状回で活性化が観察され、両側のCA1において不活性化シグナルが観察された。
【0077】
Same課題に対して、健常者では、Lure課題の場合と同様の活性化シグナルが左右に検出され、DG、CA3、CA1および鉤状回において両海馬でのdirect CA1 activation と同様の伝達経路が観察された。一方、cIR群では、右内嗅皮質および両側のCA1および鉤状回で観察されたが、DGおよびCA3では観察されなかった。
【0078】
cIR群の海馬内での情報処理は、健常者と比較して放射線療法によって変形され、DGは、cIR群のfMRIのLure課題において最も不活性化された領域であることが確認された。
【0079】
以上のように、fMRIによる解析によって、健常者およびcIR群の海馬内伝達経路を動画によって可視化することに成功した。動画上からもdirect pathway (entorhinal cortex からdirect にCA1へ入る情報回路)とpolysynaptic pathway(entorhinal cortex からdentate gyrus、CA3を介しCA1、海馬台へ流れる情報網)を区別し得ることを明らかになり、これらの動画によって海馬機能を評価できることが確認された。