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特許7214310加熱調理用油脂組成物およびその製造方法
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  • 特許-加熱調理用油脂組成物およびその製造方法 図1
  • 特許-加熱調理用油脂組成物およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】加熱調理用油脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230123BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018203456
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020068676
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108219916(CN,A)
【文献】特許第5535461(JP,B2)
【文献】特開2013-236549(JP,A)
【文献】特開2009-100734(JP,A)
【文献】特許第4095111(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
C11B
C11C
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種から採油した粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有することを特徴とする油脂の製造方法によって製造された精製油脂(以下、有機酸脱ガム精製油という)を、有機酸脱ガム精製油以外の菜種油、加熱調理用油脂組成物に対して0.1~50重量%混合する工程を有する、加熱劣化耐性を有する加熱調理用油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸脱ガム精製油の原料油(原油または粗油)は、50~100%が圧搾油であることを特徴とする、請求項1に記載の加熱調理用油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱調理用油脂組成物がフライ用油脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の加熱調理用油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
菜種から採油した粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有することを特徴とする油脂の製造方法によって製造された精製油脂を有効成分とする、有機酸脱ガム精製油以外の菜種油の品質改善剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理用油脂組成物およびその製造方法に関するものであり、特に、加熱調理時における、油脂の酸価、色度、重合物量等の上昇を抑制することができ、加熱劣化耐性を有する加熱調理用油脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の品質に対する関心がますます高まりつつあり、揚げ物等の加工食品に使用されている食用油脂も例外ではない。食用油脂は、一般的に熱と光により劣化するが、この時、水分が存在すると加水分解劣化が起こり、また、酸素が存在すると酸化劣化が起こるので、食用油脂の風味や色調も劣化してしまう。そして、主に、加水分解劣化は酸価の値に、酸化劣化は過酸化物価の値に影響を与えるため、酸価や過酸化物価は食用油脂の劣化の指標として一般的に用いられている。例えば、「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」には、即席めん類は、めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、又は過酸化物価が30を超えるものであってはならない、と記載してある。
【0003】
また、特にフライ用の食用油脂(以下、フライ用油脂という)はその劣化により、着色したり、重合物量が増加したりする。そして、フライ用油脂が着色すると、そのままフライ調理品が着色するので、外観が悪くなる。また、フライ用油脂中の重合物量が増加すると、フライ時の泡立ちに悪影響を及ぼす。そのため、フライ用油脂の酸価、色度、重合物量等はフライ用油脂の交換時期の重要な指標となる。
【0004】
フライ用油脂のうち、特に、スーパー、飲食店、レストラン等で使用される業務用のフライ用油脂は、長時間にわたって大量のフライ調理品を加熱調理することが多いため、例えば、酸価で使用の可否を判断することが一般的に行われている。そこで、加水分解劣化等による酸価の上昇が早いと油脂の耐久性が悪くなるという問題点があった。
【0005】
そのため、これまでに加熱調理時における油脂の耐久性を向上させるための技術が様々報告されており、例えば、特許文献1では、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸等のリン酸以外の有機酸を用いて脱ガムを行う工程を経て油脂を製造することで、当該油脂自体の加熱臭および加熱着色が抑制されるといった技術が報告されていた。
【文献】特許第5535461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載される油脂は、自分自身の着色を抑制するという観点では優れた効果を発揮するものの、上記で述べた重要な油脂の交換基準である酸価や重合物量の上昇抑制という観点では全く調査されておらず、加熱劣化耐性を有する油脂と呼ぶにはふさわしくなかった。ここで、加熱劣化耐性とは、長時間にわたって大量のフライ調理品を加熱調理しても、酸価、色度、及び重合物量の上昇を抑制することができることを意味する。また、このような油脂が加熱劣化耐性のない他の油脂に対して、加熱劣化耐性を付与できることは全く予測もされていなかった。
【0007】
従って、本発明の課題は、長時間にわたって大量のフライ調理品を加熱調理しても、酸価、色度、及び重合物量の上昇を抑制することができる、すなわち、加熱劣化耐性を有する加熱調理用油脂組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために、鋭意研究を行った結果、意外にも、特許文献1に記載の方法で製造された油脂、すなわち、粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有することを特徴とする油脂の製造方法によって製造された油脂(以下、「有機酸脱ガム精製油」という)を、所望の油脂に対して、所定量添加することで、長時間にわたって大量のフライ調理品を加熱調理しても、酸価、色度、及び重合物量の上昇を抑制することができること見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含み得る。
〔1〕粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有することを特徴とする油脂の製造方法によって製造された精製油脂(以下、有機酸脱ガム精製油という)を、所望の油脂に対して0.1~50重量%添加してなる、加熱劣化耐性を有する加熱調理用油脂組成物。
〔2〕前記有機酸脱ガム精製油の原料油(原油または粗油)は、50~100%が圧搾油であることを特徴とする、〔1〕に記載の加熱調理用油脂組成物。
〔3〕前記加熱調理用油脂組成物がフライ用油脂であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の加熱調理用油脂組成物。
〔4〕粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有することを特徴とする油脂の製造方法によって製造された精製油脂を準備し、所望の油脂に添加する工程を有する、加熱劣化耐性を有する加熱調理用油脂組成物の製造方法。
〔5〕上記有機酸脱ガム精製油を有効成分とする、油脂の品質改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、特許文献1に記載の「有機酸脱ガム精製油」を他の所望の油脂に所定量添加することにより、前記「有機酸脱ガム精製油」単独では得られなかった、酸価及び重合物量の上昇抑制効果を有する、加熱調理用油脂組成物を提供することが可能となる。これにより、加熱調理時における油脂の劣化を抑制し、交換時期を延長することが可能となるので、油脂の廃棄を抑制することができ、コスト削減や環境保全にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る「有機酸脱ガム精製油」の精製工程フローの一例を示す図である。
図2】有機酸脱ガム精製油の添加濃度を横軸に、酸価、色度、重合物量の対照比%を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
〔「有機酸脱ガム精製油」の製造〕
本発明の実施の形態に係る「有機酸脱ガム精製油」の製造方法は、特許文献1に記載のとおり、粗油を精製して油脂を製造する工程において、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む水溶液(以下、有機酸水溶液という)を対油脂100ppm~5000ppmの有機酸濃度となるように粗油又は原油に添加して脱ガム処理を行い、その後、アルカリ脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う工程を有する。図1は、本発明の実施の形態に係る「有機酸脱ガム精製油」の製造工程フローの一例を示す図である。
【0013】
(粗油)
「有機酸脱ガム精製油」の製造において、精製の対象とされる粗油は、植物から採油されたものであることが好ましい。例えば、菜種油、大豆油、べに花油、ひまわり油、コーン油、ごま油、綿実油、フラックス油、米油、パーム油、パーム分別油、ヤシ油等である。採油方法は、機械的圧搾、及び溶媒(溶剤)抽出による方法がある。
【0014】
「有機酸脱ガム精製油」の製造において、粗油の50~100%が圧搾油であることが好ましい。また、粗油の80~100%が圧搾油であることがより好ましく、100%全てが圧搾油であることが最も好ましい。この時、圧搾油以外は、抽出油であることが好ましい。圧搾油を粗油の50%以上とすることで、保存時の風味維持が良好となる点で好ましい。
【0015】
(水脱ガム処理)
従来の方法に従い、粗油に対し、水(水蒸気)で脱ガム処理を行い、原油を得ることができる。
【0016】
(酸による脱ガム処理)
水脱ガム処理をして得た原油に対し、酸による脱ガム処理を行う。「有機酸脱ガム精製油」の製造において、当該脱ガム処理は、クエン酸、リンゴ酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸を含む有機酸水溶液を対油脂100ppm~5000ppm(0.01%~0.50%)の有機酸濃度となるように原油に添加して、攪拌した後に、沈殿物を分離して行う。なお、酸による脱ガム処理は、粗油に対して行うこともできるが、ガム質の除去の点から、原油に対して実施した方がより好ましい。
【0017】
クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸以外の酸、例えば、従来、一般的に使用されてきたリン酸単独では本発明の実施の形態に係る「有機酸脱ガム精製油」を得ることができない。また、その他の有機酸、例えば、乳酸、酢酸、酪酸単独でも、本発明の実施の形態に係る「有機酸脱ガム精製油」を得ることができない。しかし、これらの有機酸をクエン酸、リンゴ酸、シュウ酸に追加で添加しても差し支えない。
【0018】
また、有機酸濃度が対油脂100ppmより小さくなると、加熱臭(戻り臭)が強くなり、保存後の風味の維持も難しくなる。一方、有機酸濃度が対油脂5000ppmを超えると、加熱による着色が抑制し難くなる。
【0019】
脱ガム処理は、油脂温度を70~96℃とし、撹拌時間(脱ガム処理時間)5秒~60分にて行うことが好ましく、油脂温度を75~95℃とし、攪拌時間を5秒~10分にて行うことがより好ましい。油脂温度は、より好ましくは、80~90℃であり、更に好ましくは85~90℃である。攪拌時間は、より好ましくは1分~10分であり、更に好ましくは5分~10分であり、最も好ましくは7分~10分である。油脂温度は、96℃を超えて100℃未満でも品質上は問題ないものが製造できるが、エネルギーコストの無駄となる。また、70~96℃の範囲を外れると保存後の良好な風味の維持が難しくなってくる。攪拌時間は、60分を超えて行っても問題ないが、生産性低下や収率の低下の点で好ましいとは言えない。
【0020】
攪拌後、遠心分離もしくは静置分離により沈殿物を除去する。連続で沈殿物を除去できる連続式遠心分離装置を用いることが好ましい。
【0021】
添加する有機酸水溶液は、有機酸の濃度が3~65%であることが好ましい。10~60%であることがより好ましい。さらに、より好ましくは、10~50%である。有機酸の濃度が10%よりも高くなると、精製油脂の収率(水洗時の収率)が95%を超えるので好ましい。
【0022】
(水洗処理)
酸による脱ガム処理後、アルカリによる脱酸処理を行うことなく、水洗処理を行う。アルカリによる脱酸処理を行うと、本発明の効果を得ることができない。水洗処理は、水を油に添加、攪拌した後、水相を除去して行う。水洗処理は、水の温度50~100℃で行うことが攪拌後に油相と水相を分離させるために好ましい。
【0023】
添加する水は、添加水量が多いほど水洗効率が高くなるが、エネルギーコストが上昇する。添加水量は、対油3~200質量%であることが好ましい。
【0024】
水相の除去は、攪拌後に遠心分離もしくは静置分離により行う。連続で水相を除去できる連続式遠心分離装置を用いることが好ましい。連続式遠心分離装置を用いる場合の添加水量は、対油5~15質量%が好ましい。
【0025】
(水洗処理後の処理)
水洗処理後の処理、すなわち、乾燥処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理は、従来の方法に従って行なうことができる。脱色処理は、白土を用いることもできるが、活性白土を用いることが好ましい。脱ろう処理は、行っても行なわなくてもよい。
【0026】
〔本発明の実施の形態に係る「加熱調理用油脂組成物」〕
上記〔0012〕~〔0025〕に記載の方法で得られた「有機酸脱ガム精製油」を得て、これを所望の油脂に対して添加(混合)することによって、本発明の実施の形態に係る加熱調理用油脂組成物を得ることができる。
【0027】
「有機酸脱ガム精製油」を添加する「所望の油脂」とは、種別を特に問わないが、例えば菜種油(キャノーラ油)、大豆油、べに花油、ひまわり油、コーン油、ごま油、綿実油、フラックス油、米油、パーム油、パーム分別油、ヤシ油等である。
【0028】
「有機酸脱ガム精製油」の添加濃度は、加熱調理用油脂組成物に対して、1~50重量%が好ましく、1~20重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。添加濃度が1重量%未満もしくは50重量%よりも大きくなると、酸価及び重合物量の上昇抑制効果が十分ではなくなる。一方、着色の上昇抑制効果は、1重量%以上であれば、十分に見られるのでこのような範囲であれば問題ない。
【0029】
〔本発明の実施の形態に係る「加熱調理用油脂組成物の製造方法」〕
本発明の実施の形態に係る加熱調理用油脂組成物の製造方法は、上述した所望の油脂に、上記「有機酸脱ガム精製油」を混合する工程を有する。混合する工程は、均質な物が得られる限り、公知のいかなる混合方法を用いてもよい。例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー等の機械を用いて行うこともできるし、スパチュラ等を用いて手で行うこともできる。
「有機酸脱ガム精製油」を所望の油脂に混合する濃度は、加熱調理用油脂組成物に対して、1~50重量%が好ましく、1~20重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましい。
【0030】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、「有機酸脱ガム精製油」を単独で利用することでは得られなかった、優れた酸価および重合物量の上昇抑制効果を、所望の油脂に「有機酸脱ガム精製油」を添加することで、容易に得ることができる(好ましい実施形態において、酸価は0.75以下、より好ましい実施形態では0.65以下である。好ましい実施形態において、重合物量は22%以下、より好ましい実施形態では20%以下である。)。加えて、着色抑制効果(色度をY(黄色)およびR(赤色)を用いてY+10Rとして指数化したとき、好ましい実施形態において12以下、より好ましい実施形態では9以下である。)も同時に得ることができる。
【0031】
また、本発明の実施の形態に係る加熱調理用油脂組成物には、本発明の効果を損ねない範囲に、その他の成分を加えることができる。例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物等)である。これらの成分としては、例えば、シリコーンオイル、酸化防止剤、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。特にシリコーンオイルについては、業務用用途の食用油脂に広く添加されていることから、本発明の実施に係る加熱調理用油脂組成物にも添加されていることが好ましい。
【0032】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。その他の乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン縮合リシノレート、ジアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。油脂に溶解又は分散するものであれば、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。
【0033】
(油脂の品質改善剤)
ところで、以上述べたように、本発明に用いる「有機酸脱ガム精製油」は、加熱調理用油脂組成物の酸価、色度、及び重合物量の上昇を長期間にわたって抑制することができるので、本発明は、上記「有機酸脱ガム精製油」を有効成分とする油脂の品質改善剤にも関する。以下に示すように、本発明の品質改善剤を所望の油脂に配合することにより、当該油脂の酸価、色度、及び重合物量の上昇を長期間にわたって抑制することができ、加熱劣化耐性効果を達成することができる。
また、本発明の品質改善剤は、有効成分であると上述した「有機酸脱ガム精製油」を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、品質改良剤等の他の成分を含有させたものであってもよい。
【実施例
【0034】
次に実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
〔「有機酸脱ガム精製油」の調製〕
図1のフローに従って、菜種から圧搾法によって採油した粗油を水脱ガム処理して得た原油に対して、クエン酸10%水溶液を有機酸含量が300ppmとなるように添加し脱ガム処理を行い、アルカリ脱酸せずに水洗い(85~95℃、添加水量 対油6~13質量%)して脱色、脱臭を行うことにより「有機酸脱ガム精製油」を得た(図1中の脱ろう処理は省略)。
【0036】
〔「有機酸脱ガム精製油」を添加した加熱調理用油脂組成物の調製〕
シリコーンオイルを含有する市販の業務用キャノーラ油(日清オイリオグループ(株)社製、商品名:『日清キャノーラ油』)に対し、上記「有機酸脱ガム精製油」をそれぞれ0、1、5、10、20、50、80、100重量%となるように添加し、スパチュラを用い手で混合したサンプルを用意した(すなわち、0%はキャノーラ油単品;比較例1を表し、100%は「有機酸脱ガム精製油」単品;比較例3を表す)。
上記サンプルを50gずつ量り取り、200mlのガラスビーカーの中に入れた。これをマントルヒーターによって温度調節器を用いて温度を維持しながら185℃で加熱した。32時間加熱した後、常温まで冷まし、酸価・色度・重合物量をそれぞれ以下の方法にて測定した。
【0037】
(測定方法)
・酸価は、基準油脂分析試験法「2.3.1-2013」(日本油脂化学会制定)に準じて求めた。具体的には、指示薬にフェノールフタレインを用い、溶媒にイソプロピルアルコールを用いてサンプル油を溶解させ、オートビュレットを利用して水酸化カリウム水溶液で滴定することにより求めた。
・色度は、基準油脂分析試験法「2.2.1.1-2013」(日本油脂化学会制定)に準じて求めた。具体的には、ロビボンド比色計(THE TINTOMETER.LTD社製 PFX995)により1インチセルを使用して測定し、Y+10Rとして指数化して求めた(Y:黄色、R:赤)。
・重合物量は、基準油脂分析試験法「2.5.7-2013」(日本油脂化学会制定)に準じて求めた。具体的には、テトラヒドロフランに溶解させ、HPLCにて測定し、トリアシルグリセロール溶出部に対する比率(重量%)で求めた。
また、酸価・色度・重合物量それぞれについて、キャノーラ油単品(比較例1)の値を100とした際のそれぞれのサンプルの値を対照比(%)として指数化した。その結果を表1に示す。なお、[]内は対照比(%)を表す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果、すなわち、有機酸脱ガム精製油の添加濃度を横軸に、酸価、色度、重合物量の対照比%を縦軸にとったグラフを図2に示す。
【0040】
表1および図2より、「有機酸脱ガム精製油」の添加量が対キャノーラ油1~50重量%となる実施例1~5の加熱調理用油脂組成物において、酸価および重合物量に有意な低減(対照比95%以下)が見られ、本発明の効果が得られていた。一方で、「有機酸脱ガム精製油」を全く含まない比較例1、および、50重量%を上回る添加量の比較例2および3の加熱調理用油脂組成物では、酸価および重合物量に低減が全く見られず、本発明の効果が得られていないことがわかった。他方、「有機酸脱ガム精製油」の添加量が対キャノーラ油1重量%以上である加熱調理用油脂組成物であると、色度に有意な低減(対照比59~87%)が見られ、本発明の効果が得られていた。
【0041】
また、「有機酸脱ガム精製油」そのものである比較例3については、前述のとおり、色度については有意な低減(対照比59%)が見られたものの、酸価および重合物量については低減が全く見られなかった。これは、「有機酸脱ガム精製油」そのものには、加熱料理時における酸価および重合物量の低減効果はないが、他の油脂に添加して混ぜたものにおいては、加熱料理時における酸価および重合物量の低減効果があることを示している。
【0042】
また、本発明の効果が見られた「有機酸脱ガム精製油」の添加量の中でも、特に、酸価、色度及び重合物量において有意な低減が見られる1~50重量%が好ましく、1~20重量%がより好ましく、5~20重量%がさらに好ましいことがわかった。
図1
図2