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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】延伸多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20230124BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20230124BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230124BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20230124BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
C08J9/00 CET
B29C67/20 B
B01D69/02
B01D71/26
B01D71/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018094580
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019199529
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小井土 俊介
(72)【発明者】
【氏名】根本 友幸
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222823(JP,A)
【文献】特開2014-101445(JP,A)
【文献】特開2015-229688(JP,A)
【文献】特開2017-128096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60、67/20
B01D 53/22、61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン(A)、及び、ビニル芳香族エラストマー(B)を含む延伸多孔フィルムであって、
該ポリプロピレン(A)は、貯蔵弾性率が1.70×10Pa以上3.00×10Pa以下であり、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上40g/10分以下であり、
平均細孔径が0.20μm以上1.00μm以下である延伸多孔フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン(A)はメタロセン系ポリプロピレンである請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項3】
濾過速度が20ml/min・cm以上200ml/min・cm以下である請求項1又は2に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項4】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が2.0g/10分以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項5】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)測定時に流動しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項6】
空孔率が50%以上である請求項1~のいずれか1項に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項7】
透気度が50秒/100cc以下である請求項1~のいずれか1項に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項8】
酸化防止剤の溶出量が1450ppm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに1項に記載の延伸多孔フィルムを備えたフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸多孔フィルムに関し、該延伸多孔フィルムは包装用品、衛生用品、畜産用品、農業用品、建築用品、医療用品、光拡散板、反射シート、電池用セパレーターまたは、分離膜として利用でき、特に食品関連分野、製薬・化粧品分野、化学工業品分野、電子工業分野に利用されるフィルターとして好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
精密濾過膜や限外濾過膜等の多孔膜による濾過操作は、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬食品産業(除菌、酵素精製)などの多方面にわたって実用化されている。特に近年は河川水等を除濁して飲料水や工業用水を製造するための手法としても多用されつつある。膜の素材としては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系等多種多様のものが用いられている。
中でもポリオレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等)は、疎水性のために耐水性が高いため、水系濾過膜の素材として適しており、多用されている。
【0003】
また、フィルターなど用途に使用される際、オリゴマーなど低分子量物や酸化防止剤などの安定剤が、濾過液体に混入する可能性があるという問題点を有しているため、低分子量物や添加剤の溶出が少ないフィルターが強く望まれる。
【0004】
この種の高分子に微細な連通孔を多数作る技術としては下記に記載するような種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂にポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを含有するシートを二軸延伸して多孔膜を得ることが開示されている。
【0005】
特許文献2では、高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンと充填剤を含む樹脂組成物からなるフィルムを延伸して多孔質フィルムを得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では超高分子量ポリエチレン高密度ポリエチレンから成る組成物と製膜用溶剤とを含有する混合物を押出して延伸した後、製膜用溶剤を抽出し、乾燥して微多孔膜を形成させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-101445号公報
【文献】特開2007-297583号公報
【文献】特開2013-108045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂を用いた多孔膜が開示されているが、さらに濾過速度が優れた多孔膜が望まれている。
【0009】
特許文献2ではポリエチレン系樹脂の多孔膜を延伸によって作製しているが、得られる多孔膜の透気度が低く、濾過膜としての性能が不十分である可能性が高い。
【0010】
特許文献3では抽出処理に要するコストが大きいという問題点がある。可塑剤の抽出除去が有機溶剤を用いて行われるため、有機溶剤が大量に必要となり、環境への影響が懸念される。
【0011】
本発明の課題は、多数の空孔構造を有することにより、優れた透気性能を有し、濾過速度も優れた、安価なポリプロピレン製多孔フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の実情に鑑み鋭意検討した結果、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、第1の発明によれば、ポリプロピレン(A)、及び、ビニル芳香族エラストマー(B)を含む延伸多孔フィルムであって、該ポリプロピレン(A)は、貯蔵弾性率が1.70×10Pa以上3.00×10Pa以下であり、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が3.0g/10分以上40g/10分以下であり、平均細孔径が0.20μm以上1.00μm以下である延伸多孔フィルムが提供される。
【0014】
また、第2の発明によれば、第1の発明において、前記ポリプロピレン(A)はメタロセン系ポリプロピレンである延伸多孔フィルムが提供される。
【0015】
さらに、第3の発明によれば、第1または第2の発明において、濾過速度が20ml/min・cm以上200ml/min・cm以下である延伸多孔フィルムが提供される。
【0016】
また、第4の発明によれば、第1~3のいずれかの発明において、前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が2.0g/10分以下である延伸多孔フィルムが提供される。
【0017】
さらに、第5の発明によれば、第1~4のいずれかの発明において、空孔率が50%以上である延伸多孔フィルムが提供される。
【0018】
また、第6の発明によれば、第1~5のいずれかの発明において、透気度が50秒/100cc以下である延伸多孔フィルムが提供される。
【0019】
第7の発明によれば、第1~6のいずれかの発明に係る多孔フィルムを備えたフィルターが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多数の空孔構造を有することにより、優れた透気性能を有し、濾過速度も優れた、安価なポリプロピレン製多孔フィルムを提供することが可能となる。この多孔フィルムは自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬食品産業(除菌、酵素精製)などの濾過膜として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳しく説明する。
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特性する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。また、本発明における主成分とは、80質量% 以上、好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含有することである。
【0022】
1.本フィルム
本発明の延伸多孔フィルム(以下、「本フィルム」と称することがある。)は、ポリプロピレン(A)、及び、ビニル芳香族エラストマー(B)を含む延伸多孔フィルムであって、該ポリプロピレン(A)は、貯蔵弾性率が1.70×10Pa以上3.00×10Pa以下であり、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が3.0g/10分以上40g/10分以下であり、平均細孔径が0.20μm以上1.00μm以下である延伸多孔フィルムである。
以下、本発明の延伸多孔フィルムについて記載する。
【0023】
(1)平均細孔径
本フィルムの平均細孔径は、0.20μm以上が好ましく、0.25μm以上がより好ましく、0.30μm以上であることが更に好ましく、0.40μm以上であることが特に好ましい。一方上限に関しては1.00μm以下が好ましく、0.95μm以下がより好ましく、0.90μm以下であることが更に好ましい。0.20μm以上であることで本フィルムの濾過速度が優れたものとなる。1.00μm以下であることで、濾過精度が高いフィルムとすることができる。
平均細孔径は、後述するように、用いる樹脂の種類、延伸条件により調整可能である。
ここで平均細孔径は、パームポロメーター(Porous Materials社製)を用いて測定するものであり、試液としてポリヘキサフルオロプロペン系液体「GALWICK」(Porous Materials社製、表面張力:15.6dynes/cm)を使用し、ASTM F316-86に準拠して測定したものである。
【0024】
(2)厚み
本フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。一方、上限は300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。厚みが50μm以上であれば、充分な強度を有することができる。また、厚みが300mm以下であれば、小型化・軽量化が求められる用途に対しても使用が容易である。
【0025】
(3)空孔率
空孔率は多孔構造を規定する為の重要な要素であり、本フィルムにおける多孔層の空間部分の割合を示すものである。一般に空孔率が高いほど、優れたろ過速度を有することが知られており、本フィルムは、空孔率が50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。上限に関しては98%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。空孔率が50%以上であれば、求める多孔機能を有した多孔フィルムとすることができる。
空孔率は、用いる樹脂の種類、延伸条件により調整可能である。
ここで空孔率は、得られた延伸多孔フィルムの実質量W1を測定する一方、フィルムを構成する組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、このW0、W1から、下記式に基づき算出したものである。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0026】
(4)透気度
本フィルムの透気度は、好ましくは50秒/100cc以下、より好ましくは45秒/100cc以下、更に好ましくは40秒/100cc以下である。透気度が上記範囲であれば、強度と多孔性を両立した多孔フィルムを得ることができるため好ましい。一方、透気度の下限に関しては特に制限はないが、通常1秒/100cc以上である。
【0027】
(5)酸化防止剤の溶出量
本フィルムにおいては、酸化防止剤の溶出量が1450ppm以下であるのがが好ましく、1400ppm以下であるのがより好ましく、1350ppmが更に好ましい。1300ppm以下であることで、濾過後の濾液の汚染が少なく、フィルター用途に使用できるろ過膜とすることができる。用いる材料の種類によって、溶出量を調整することができる。
【0028】
(6)濾過速度
本フィルムの濾過速度は20ml/min・cm以上200ml/min・cm以下であることが好ましい。下限については、40ml/min・cm以上がより好ましく、60ml/min・cm以上であることが更に好ましい。上限については、180ml/min・cm以下がより好ましく、160ml/min・cm以下であることが更に好ましい。20ml/min・cm以上であることで、フィルター用途に実用化できる濾過速度となる。一方、200ml/min・cm以下であることで、濾過精度が高いフィルムとすることができる。
濾過速度は、平均細孔径により調整可能である。
ここで濾過速度とは、25℃の空気雰囲気下において有効濾過面積(A)9.6cmとし、所定の体積(V)100ccのアセトンが0.07MPaの減圧力にて多孔質フィルムを通過することまでの時間(t)を測定し、下記式に基づき算出したものである。
濾過速度=V×60/t×A
【0029】
以下、本フィルムの原料について詳述した後、本フィルムの製造方法について詳述する。
【0030】
2.本フィルムの原料
(ポリプロピレン(A))
本発明におけるポリプロピレン(A)としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1―ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。
本発明において用いられるポリプロピレン(A)は、ホモポリプロピレンを用いることが好ましい。ホモポリプロピレンを選択することで、フィルター用途としての機械的強度を十分に確保できる。
【0031】
ポリプロピレン(A)の貯蔵弾性率は1.70×10Pa以上3.00×10Pa以下である。下限に関しては、1.70×10Pa以上であり、1.80×10Paがより好ましく1.90×10Pa以上であることが更に好ましい。上限に関しては、3.00×10Pa以下であり、2.90×10Pa以下がより好ましく、2.80×10Pa以下であることが更に好ましい。1.70×10Pa以上であることで、ポリプロピレン(A)とビニル芳香族エラストマー(B)の海島構造をもつ組成物を延伸した際に、両者の界面で多孔化しやすくなる。一方、3.00×10Pa以下であることで、透気度および濾過速度に優れたフィルムとすることができる。
弾性率は、用いる樹脂の種類により調整可能である。
ここで貯蔵弾性率は、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分、20℃の条件にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7198A法の動的粘弾性測定)によって得られるものである。
【0032】
ポリプロピレンとビニル芳香族エラストマーを混合すると、海島構造をもつ組成物が得られる。さらに、この組成物をシート化し延伸すると、海島構造の界面部分の破壊によって、孔部分を持つフィルムが得られる。ここで、貯蔵弾性率が高いポリプロピレンを用いた場合は、延伸時の延伸応力が界面部分に集中するため、界面部分の破壊が効率的に進み、多孔化フィルムが得られる。
本発明は、ポリプロピレンのMFRが大きいものを用いることで、平均細孔径が大きく濾過速度に優れた多孔化フィルムが得られることを見出したものである。つまり、同程度の貯蔵弾性率であっても、MFRが高いポリプロピレンを用いることで平均細孔径が大きく濾過速度に優れた多孔化フィルムが得られる。
MFRが大きいポリプロピレンを用いた場合、、延伸時の延伸応力がポリプロピレン部分に比較的集中し、界面部分の破壊が起こりにくくなると予想されていたことから、この効果は驚くべきものである。
【0033】
また、ポリプロピレン(A)は、上記貯蔵弾性率を満たしやすいという観点から、メタロセン触媒により合成されたメタロセン系ポリプロピレンであることが好ましい。ポリプロピレンは、触媒の選択により、分子量、分子量分布、分岐構造等の構造的特徴を制御できることが知られており、当業者であれば、触媒の種類により重合体の種類を区別することも可能であり、例えば、メタロセン触媒で重合されたポリプロピレンをメタロセン系ポリプロピレンと称したり、メタロセン触媒以外の触媒で重合されたポリプロピレンを非メタロセン系ポリプロピレンと称したりする場合もある。
メタロセン系ポリプロピレンは、低分子量成分の含有が少なく、異物の発生が少なくなるためフィルター関連用途への使用に好適である。
【0034】
また、ポリプロピレン(A)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が3.0~40g/10分以下であることが好ましく、5.0~40g/10分であることがより好ましい。MFRが3.0g/10分以上とすることで、大きい島部を有する海島構造が形成され、その組成物を延伸した際に多孔化しやすくなる。一方、MFRが40g/10分以下とすることで、フィルムの強度を十分に有することができる。
なお、ポリプロピレン(A)のMFRはJIS K7210に準拠して温度230℃で荷重2.16kgの条件で測定したものである。
【0035】
ポリプロピレン(A)は、1種類もしくは2種類以上のポリプロピレン(A)を含み、2種類以上の成分からなる場合、2種類以上の成分のブレンド物として上記貯蔵弾性率、MFRの範囲を満たしていることが好ましい。
【0036】
本発明の延伸多孔フィルムにおいては、溶媒抽出等の分離操作により、ポリプロピレン(A)を取り出したときに、上記貯蔵弾性率、MFRの範囲を満たしていればよい。
【0037】
(ビニル芳香族エラストマー(B))
本発明の延伸多孔フィルムはビニル芳香族エラストマー(B)を含むことが重要である。ビニル芳香族エラストマー(B)を含むことにより、効率的に微細で均一性の高い多孔構造が得られ、空孔の形状や孔径を制御し易くなる。
【0038】
本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)とは、スチレン成分を基材とした熱可塑性エラストマーの1種で、軟質成分(例えばブタジエン成分)と硬質成分(例えばスチレン成分)との連続体からなる共重合体である。
【0039】
また、前記共重合体の種類について、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。一般にブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分れブロック構造等種々のものが知られている。本発明においてはいずれの構造のものを用いてもよい。
【0040】
本発明に用いられるビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃で荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が2.0g/10分以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、流動しないものが特に好ましい。ポリプロピレンと混合した際、その組成物中に分散した前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、樹脂との粘度差によってその形状が変化するが、前記範囲内におけるMFRのものであるならば、その形状が球状になり易いからである。球状分散したドメインは、アスペクト比が大きなドメインとは異なり、その後の延伸工程によって得られる多孔構造の均一性が高くなり易く、物性安定性に優れるので好ましい。さらに、上記範囲内におけるMFRであった場合、延伸工程時において、高い弾性率を有するマトリックスと低い弾性率のドメイン界面部分に応力が集中しやすくなるため、開孔起点が生じやすく、多孔化し易いという特徴を有する。
ここで、ビニル芳香族エラストマー(B)のMFRはJIS K7210に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したものである。
【0041】
また、本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)は、スチレン含有量が10質量%~40質量%であることが好ましく、10質量%~35質量%であることがより好ましい。ビニル芳香族エラストマー(B)中のスチレン含有量が10質量%以上であることにより、効果的に組成物中にドメインを形成することができ、スチレン含有量が40質量%以下であることにより、過度に大きなドメイン形成を抑制することができる。
【0042】
また、本フィルムに占めるポリプロピレン(A)、及び、ビニル芳香族エラストマーの量については、本フィルム100質量部に対して、ポリプロピレン(A)55~85質量部、ビニル芳香族エラストマー(B)15~45質量部であることが好ましい。より好ましくは、本フィルム100質量部に対して、ポリプロピレン(A)60~80質量部、ビニル芳香族エラストマー(B)が20~40質量部である。
ポリプロピレン(A)が85質量部以下、かつ、ビニル芳香族エラストマー(B)が15質量%以上であることによって、ポリプロピレン(A)とビニル芳香族エラストマー(B)を混合したフィルムを延伸した際に空孔が生じやすくなる。一方、ポリプロピレン(A)が55質量部以上、かつ、ビニル芳香族エラストマー(B)が45質量部以下であることによって、ポリプロピレン(A)とビニル芳香族エラストマー(B)を混合した際に、ビニル芳香族エラストマー(B)同士が適度に分散し、延伸により多孔部分が多く生成しやすくなる。
【0043】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)の具体的な種類については特に限定しないが、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0044】
効率的にフィルム中にビニル芳香族エラストマー(B)を分散させるためには、前記ビニル芳香族エラストマー(B)の中でも、ポリプロピレン(A)との相溶性が高い、エチレン成分、ブチレン成分が含有されているものが好ましく、中でも、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)がより好ましい。
【0045】
本発明を構成する延伸多孔フィルム中には、ビニル芳香族エラストマー(B)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0046】
(結晶核剤(C))
本発明では、ポリプロピレン(A)に結晶核剤(C)を更に含有することが好ましい。結晶核剤(C)を含有することにより、前記ポリプロピレン(A)の結晶化が促進され、結晶構造が緻密に均一化する。それゆえ、延伸前の組成物における前記ポリプロピレン(A)は緻密に均一化した結晶部と、該結晶部間に存在する非晶部とからなり、前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は前記ポリプロピレン(A)の非晶部に多く存在する。そのため、延伸により前記ポリプロピレン(A)の緻密な結晶部と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)との界面で生じる多孔化は、マトリックスの結晶化に伴う弾性率の向上によって容易になり、かつ、結晶の緻密な均一化によって、得られる多孔構造も緻密で均一な多孔構造を形成しやすくなる。
【0047】
ポリプロピレン(A)の緻密な結晶構造を得るために用いる結晶核剤(C)としては、α晶核剤又はβ晶核剤が好ましい。α晶核剤を含有することによって、得られるポリプロピレン(A)の球晶サイズは微細なものとなる。そのため、延伸工程時に得られる多孔構造は均一性が高くなる。また、β晶核剤を含有することで、上述した作用だけでなく、生成されるβ晶の延伸工程でのα晶への転位によるクレーズ形成も可能となる。このクレーズを二軸延伸により拡大させることで、さらに良好な透気性能を得ることができるようになる。
【0048】
前記結晶核剤(C)の含有量は、前記ポリプロピレン(A)100質量部に対し、0.001~5.0質量部であることが好ましい。
【0049】
α晶核剤としては、例えば、タルク、ミョウバン、シリカ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、カーボンブラック、粘土鉱物などの無機化合物;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸、1-メチルシクロペンタンカルボン酸、2-メチルシクロペンタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1-メチルシクロヘキサンカルボン酸、4-メチルシクロヘキサンカルボン酸、3,5-ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、4-ブチルシクロヘキサンカルボン酸、4-オクチルシクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、4-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、エチル安息香酸、4-t-ブチル安息香酸、サリチル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの脂肪族モノカルボン酸を除くカルボン酸;前記非脂肪族モノカルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムなどの正塩または塩基性塩;1・2,3・4-ジベンジリデンソルビトールなどのジベンジリデンソルビトール系化合物;リチウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェートなどのアリールフォスフェート系化合物;前記アリールフォスフェート系化合物の内、環状多価金属アリールフォスフェート系化合物と酢酸、乳酸、プロピオン酸、アクリル酸、オクチル酸、イソオクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ベヘン酸、エルカ酸、モンタン酸、メリシン酸、ステアロイル乳酸、β-N-ラウリルアミノプロピオン酸、β-N-メチル-N-ラウロイルアミノプロピオン酸などの脂肪酸族モノカルボン酸のリチウム、ナトリウムまたはカリウム塩など脂肪酸モノカルボン酸アルカリ金属塩、もしくは塩基性アルミニウム・リチウム・ヒドロキシ・カーボネート・ハイドレートとの混合物;ポリ3-メチル-1-ブテン、ポリ3-メチル-1-ペンテン、ポリ3-エチル-1-ペンテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ4-メチル-1-ヘキセン、ポリ4,4-ジメチル-1-ペンテン、ポリ4、4-ジメチル-1-ヘキセン、ポリ4-エチル-1-ヘキセン、ポリ3-エチル-1-ヘキセン、ポリアリルナフタレン、ポリアリルノルボルナン、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリアリルベンゼン、ポリアリルトルエン、ポリビニルシクロペンタン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリビニルシクロペプタン、ポリビニルトリメチルシラン、ポリアリルトリメチルシランなどの高分子化合物、などが挙げられる。
【0050】
(他の成分)
本フィルムを構成する原料としてには、本発明の効果を損なわない範囲において、前記のポリプロピレン(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)以外の成分、例えばポリプロピレン(A)以外の他の樹脂を含有することを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0051】
また、本フィルムには、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般にフィルムに配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0052】
さらに、本発明においては、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工などを施すことができ、用途に応じて本発明の多孔シートを数枚重ねて使用することも可能である。
【0053】
3.本フィルムの製造方法
本発明のフィルムは、まず、原料を混合し、実質的に未延伸のシートを、押出方法にて製造する。
原料の混合方法は、一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ミル、ニーダーブレンダーなど、各種公知の方法を採用することができ、これらの方法を用いて、あらかじめ各成分を溶融混合し、ペレット状に加工したものを押出成形に用いてもよいし、溶融混合し直接押出成形を行ってもよい。
押出方法としては、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等の各種成形方法を採用し得るが、中でも、本発明のフィルムに要求される物性や用途の観点からは、Tダイ押出成形が好ましい。
【0054】
次いで、押出方法により作成された実質的に未延伸フィルムを延伸し、本発明のフィルムを得る。延伸方法としては、ロール、テンター、チューブラー、オートグラフ等の各種方法を採用し得るが、本発明のフィルムの延伸方法としては、ロールによる縦延伸工程と、テンターによる横延伸工程を組み合わせた、逐次二軸延伸を採用することが好適である。
【0055】
以下、上記未延伸フィルムを、空孔率が50%以上となるように延伸し本フィルムを得る工程を詳述する。
得られた未延伸フィルムを一軸延伸、又は、二軸延伸を行う。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。未延伸フィルムの組成、厚み、および延伸倍率を変更することにより、作成される積層多孔フィルムの厚み、空孔率を調整することができる点が本発明の一つの利点である。本発明の目的である本フィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸がより好ましい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦方向の延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横方向の延伸」という。横延伸は、延伸区間となる一対の駆動ロールの速度差を利用して行う方法が好ましいが、これに限定されるものではない。 一方、横延伸に用いる装置は、クリップ式テンターを用いることが好ましい。但しこれに限定するものではない。
【0056】
本発明の実施形態の一例に係る本フィルムの製造方法は、前記未延伸フィルムを、0℃~60℃の温度で縦方向に1.1倍以上5.0倍未満で延伸し、60℃~160℃の温度で縦方向に1.1倍以上3.0倍未満で延伸し、70~150℃の温度で横方向に1.1倍以上10倍未満で二軸延伸する方法である。以下に詳細を説明する。
【0057】
縦延伸を行う際は、延伸による開孔をし易くするための理由から、高温縦延伸の前に以下の低温縦延伸工程成形を行うことが好ましい。
未延伸フィルムを好ましくは0℃~60℃、より好ましくは10~40℃の温度で、好ましくは縦方向に1.1倍以上4.5倍未満、より好ましくは、1.2倍以上4.0倍未満の範囲で延伸する。0℃以下で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、60℃を超える温度で延伸した場合は、得られる延伸フィルムの空孔率が低くなる傾向がある。また、本実施の形態で得られる多孔フィルムの透過性が向上することから、上記延伸工程を実施する前に、フィルム成形工程で得られたフィルムを一定の温度範囲で一定時間熱処理しても良い。
【0058】
次いで、上記で得られた延伸フィルムを好ましくは60℃~160℃、より好ましくは70℃~130℃の温度で、縦方向に好ましくは1.1倍以上6.0倍未満、より好ましくは、1.2倍以上5.0倍未満の範囲で高温縦延伸する。60℃未満で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、160℃を超える温度で延伸した場合は、得られる延伸フィルムの気孔率が低くなる傾向がある。また、本実施の形態の多孔フィルムに要求される物性や用途の観点から、上記したような条件で2段階以上延伸することが好ましい。延伸工程を1段階とすると、得られる延伸フィルムが、要求された物性を満たさない場合がある。
【0059】
縦延伸倍率は、任意に選択することができるが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1倍以上15倍未満が好ましく、より好ましくは1.5倍以上12倍未満であり、さらに好ましくは1.5倍以上10倍未満である。一軸延伸あたりの延伸倍率を1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分起こっていることを示唆している。また、15倍未満とすることで、空孔の変形は抑制され、十分に白化した多孔フィルムを得ることができる。
【0060】
横延伸を行う際用いる装置としては、前述のとおり、クリップ式テンターを用いることが好ましい。クリップ式テンターは、横延伸用のクリップ走行装置とオーブンとから構成される。
上記クリップ走行装置は縦延伸フィルムの両端部を一対のクリップで掴んで搬送すると同時に、グリップ走行装置のガイドレールが開いて2列のグリップ間の距離を広げることにより当該フィルムを延伸する。
上記オーブンは、流れ方向にいくつかのゾーンに区切られており、ゾーンごとに設定温度又は熱風の風量を変えられることが望ましい。上流側から、予熱ゾーンを設けて縦延伸フィルムを延伸可能な温度にまで加熱し、延伸ゾーンで延伸し、延伸後に必要に応じて熱処理ゾーンを設けて熱処理し、オーブンから前記フィルムが出て常温に曝される前に徐冷ゾーンを設けられる。
【0061】
横延伸を行う際の温度に関しては、フィルムを好ましくは70~150℃であり、より好ましくは80~140℃の温度範囲で横方向に延伸する。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、縦延伸時に生じた空孔が拡大されて空孔率を増加することができ、十分な多孔性を有することができる。
【0062】
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.1倍以上10倍未満であり、より好ましくは1.5倍以上9.0倍未満、更に好ましくは2.0倍以上8.0倍未満である。規定した横延伸倍率で延伸することによって、縦延伸時に生じた空孔を変形することなく、十分な空孔率を有することができる。
【0063】
延伸速度は、好ましくは10~20000%/分の範囲、より好ましくは100~10000%/分の範囲である。10%/分以上であれば、十分な延伸倍率を効率よく得ることができ、製造コストを抑えることができる一方、20000%/分以下であれば、フィルムの破断等が起こるのを抑えることができる。
【0064】
4.フィルター
本発明のフィルターは、上記のような本発明の本フィルムを備えるものである。本発明のフィルターは、本発明の積層多孔フィルムのみの構造であってもよく、他の層と組み合わせた構造であってもよい。本発明のフィルターは、水或いはアセトンといった水系溶媒、ハロゲン化物、エステル類、エーテル、ベンゼン、トルエンといった石油系溶剤を生成するためのフィルター、具体的には、自動車産業(電着塗料)回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などにおいて使用される精密濾過膜として有用である。
【0065】
多孔フィルムを濾過システムに組み込む場合、多孔フィルムを同心状に巻きつけた状態(ワインド型)や、ブリーツ加工を施し円筒の容器に収納した状態(カートリッジフィルター)とすることが可能であり、このカートリッジフィルターを、簡便に濾過システムに組み込むことができる。
【0066】
次に、実施例および比較例を示し、本フィルムについて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、多孔フィルムの引き取り(流れ)方向を「MD」、その直角方向を「TD」と記載する。
【0067】
(ポリプロピレン(A))
・A-1;ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg):20g/10分、20℃貯蔵弾性率:2.05×10Pa、密度:0.9g/cm
・A-2;ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg):3.5g/10分、20℃貯蔵弾性率:1.67×10Pa、密度:0.9g/cm
・A-3;ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg):2.4g/10分、20℃貯蔵弾性率:2.03×10Pa、密度:0.9g/cm
(ビニル芳香族エラストマー(B))
・B-1;スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン-(エチレン/プロピレン)-スチレンブロック共重合体(SEPS)、MFR(230℃、2.16kg):延伸時に流動せず、スチレン含有量:20質量%)。
・B-2;スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン-(エチレン/プロピレン)共重合体(SEP)、MFR(230℃、2.16kg):0.1g/10分、スチレン含有量:35質量%)。
(結晶核剤(C))
・C-1;α晶核剤(ソルビトール系化合物、グレード名:ゲルオールMD―LM30G、新日本理化社製)
【0068】
(1)平均細孔径
パームポロメーター(Porous Materials社製)を用いて測定した。試液としてポリヘキサフルオロプロペン系液体「GALWICK」(Porous Materials社製、表面張力:15.6dynes/cm)を使用し、ASTM F316-86に準拠して測定した。
【0069】
(2)厚み
得られた延伸フィルムを1/1000mmのダイアルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0070】
(3)空孔率
得られた延伸フィルムの実質量W1を測定し、フィルムを構成する組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0071】
(4)酸化防止剤の溶出量
得られた延伸フィルム300cmを50℃の酢酸ブチル(25ml)に浸漬させ、72時間静置した後、浸漬溶液を0.2μmのフィルターに通しGPC測定を行って得られた溶出量を延伸フィルムの質量にて換算し、定量値とした。
【0072】
(5)透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P8117に準拠して透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
(6)濾過速度
25℃の空気雰囲気下において有効濾過面積(A)9.6cmとし、所定の体積(V)100ccのアセトンが0.07MPaの減圧力にて延伸多孔フィルムを通過することまでの時間(t)を測定した。それらの値から下記式に基づき濾過速度を算出した。
濾過速度=V×60/t×A
【0073】
(実施例1)
ポリプロピレン(A-1)を70質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー(B-1)を30質量%、前記ポリプロピレン(A-1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B-1)との混合樹脂組成物100質量部に対し、結晶核剤(C-1)を0.1質量部の割合で配合し、2軸押出機に投入し、設定温度230℃で溶融混練後、ストランドダイにてストランド状に賦形した後、ストランドカッターにて裁断し、ペレット化した。
得られたペレットを単軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、127℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚み230μmの未延伸シート状物を得た。その後、得られた未延伸シート状物を、20℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度130℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度130℃、3.5倍横方向に延伸した後、140℃で熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
ポリプロピレン(A-1)を70質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー(B-2)を30質量%、前記ポリプロピレン(A-1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B-1)との混合樹脂組成物100質量部に対し、結晶核剤(C-1)を0.1質量部の割合で配合し、Φ25mm二軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、Tダイ内からフィルムとして押出し、115℃のキャストロールに密着急冷し、厚み230μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸シート状物を、20℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度130℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度130℃、3倍横方向に延伸した後、140℃で熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
ポリプロピレン(A-2)を70質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー(B-2)を30質量%、前記ポリプロピレン(A-1)と前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B-1)との混合樹脂組成物100質量部に対し、結晶核剤(C-1)を0.1質量部の割合で配合し、Φ25mm二軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、Tダイ内からフィルムとして押出し、95℃のキャストロールに密着急冷し、厚み230μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸シート状物を、20℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度115℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度115℃、3倍横方向に延伸した後、125℃で熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
ポリプロピレン(A-3)を70質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー(B-1)を30質量%用いた以外は実施例1と同様に厚み230μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸シート状物を、20℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度145℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度145℃、3倍横方向に延伸した後、155℃で熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0077】
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂(A-3)を70質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー(B-2)を30質量%用いた以外は比較例2と同様に二軸延伸多孔フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1、2は、濾過速度が20ml/min・cm以上、透気度は50sec/100cc以下であるので、優れた透気性能を有し、濾過速度も優れた多孔フィルムが得られていることがわかる。
【0080】
比較例1は、透気度、空孔率が実施例と比較して著しく高く、濾過性能に劣ると考えられため、良好な濾過性能が得られておらず、溶出量など測定は実施しなかった。これは、ポリプロピレンの貯蔵弾性率が低いため、延伸時の空孔形成に乏しく、形成される空孔の割合が低くなっているためと考えられる。
【0081】
比較例2は、同じビニル芳香族エラストマー(B-1)を用いた実施例1と比較すると、透気度、濾過速度が劣っていた。
【0082】
比較例3は、同じビニル芳香族エラストマー(B-2)を用いた実施例2と比較すると、透気度、濾過速度が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の延伸多孔フィルムは、多数の空孔構造を有するため、透気度、濾過性能にも優れた、延伸多孔フィルムであり、特に水を生成するためのフィルター、又は、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬食品産業(除菌、酵素精製)などの濾過膜として有用である。