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特許7214998カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の製造方法、および環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
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  • 特許-カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の製造方法、および環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法 図1
  • 特許-カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の製造方法、および環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の製造方法、および環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/025 20160101AFI20230124BHJP
【FI】
C08G75/025
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018131575
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020007490
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-231255(JP,A)
【文献】特開2013-245191(JP,A)
【文献】特開2009-149863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/025
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、下記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有し、かつ、
前記有機極性溶媒(7)がクロロホルムであることを特徴とする、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)の製造方法。
【化1】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1b)中、n=1~40である。)
【請求項2】
前記工程(1)が、前記工程(1a)および(1b)に加え、さらに、工程(1d)を有しており、当該工程(1d)が、前記粗反応混合物を固液分離した後に得られた固形分に対し、さらに有機極性溶媒(6)と接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)を分離除去して、前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ジハロ芳香族化合物がジハロゲン化ベンゼンである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機極性溶媒(3)がN-メチル-2-ピロリドン、-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリノンから成る群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、下記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有し、かつ、
前記有機極性溶媒(7)がクロロホルムであることを特徴とする、環式ポリアリーレンスルフィド(2)の製造方法。
【化2】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1a)中、n=1~40である。)
【請求項6】
前記工程(1)が、前記工程(1a)および(1b)に加え、さらに、工程(1d)を有しており、当該工程(1d)が、前記粗反応混合物を固液分離した後に得られた固形分に対し、さらに有機極性溶媒(6)と接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)を分離除去して、前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
ジハロ芳香族化合物がジハロゲン化ベンゼンである請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機極性溶媒(3)がN-メチル-2-ピロリドン、-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリノンから成る群から選ばれる少なくとも1つである、請求項5記載の製造方法。
【請求項9】
有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、下記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有し、かつ、
前記有機極性溶媒(7)がクロロホルムであることを特徴とする、
環式ポリアリーレンスルフィド(2)と前記化合物(1b)との分離方法。
【化3】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1b)中、n=1~40である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で得られる反応混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドおよびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を効率よく分離して、環式ポリアリーレンスルフィドまたはカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量PAS樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
このような高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂として、固形アルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下、ジハロ芳香族化合物、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、反応系内の水分量、有機酸アルカリ金属塩の使用量を低く抑えながら反応させることによって得られる線状高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら前記線状高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂は、高靱性を有し機械的強度に優れるものの、低剪断領域の溶融粘度が低いこと、結晶化速度が遅いことにより、金型パーティングラインに樹脂が入り込みやすく、バリが発生しやすいという性質があった。このため、樹脂骨格に架橋構造を取り入れることで低剪断領域の溶融粘度を高め、PAS樹脂の流動挙動の改善を試みたものの、前記線状高分子量PAS樹脂の熱酸化架橋時に樹脂がゲル化しやすく、溶融安定性が悪いこと、また、得られた架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂は高粘度化により成形固化時の結晶化速度がより一層遅くなるという問題があった。
【0005】
そこで本発明者らは、線状高分子量PAS樹脂を用いて熱酸化架橋するにあたり、下記構造式(1)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(1a)
【0006】
【化1】
(式中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。また、-NRCOOX基をカルボキシアルキルアミノ基ということがある)を添加剤として添加することで、溶融時の増粘を抑えて樹脂の溶融安定性を向上させるとともに、成形固化時の結晶化速度の速い架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂およびその製造方法を提供できることを明らかにした(特許文献2参照)。
【0007】
一方、環式ポリアリーレンスルフィドは開環重合による高分子量直鎖状化合物の合成のためのモノマーとしての活用法など、環式物であることに基づく高機能材料や機能材料への応用展開の可能性に注目が集まっている(特許文献3)。
【0008】
しかし、該化合物(1a)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)はポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程でともに生成することから、これらを効率よく分離する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開2010/058713号パンフレット
【文献】特開2013-159656号公報
【文献】特開2009-149863号公報
【文献】特開2013-245191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため、本発明者らは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後に得られる反応混合液を有機極性溶媒と接触させて洗浄した後、固液分離し、さらに得られた固形分を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることによって、下記構造式(1a)で表される化合物(1a)と、環式ポリアリーレンスルフィドとに効率よく、かつより高純度に分離できることを見出した。
【0011】
さらに、その後、得られた環式ポリアリーレンスルフィドを含む生成物をさらに詳しく調べてみると、その中に、下記構造式(1b)
【0012】
【化2】
(式(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1b)中、n=1~40である。)で表される化合物(1b)が含まれ、環式ポリアリーレンスルフィドの高純度化に、まだ改良の余地があることが判明した。また、当該化合物(1b)は、上記構造式(1a)で表される化合物(1a)と比べて、溶融時の増粘を抑えて樹脂の溶融安定性を向上させるとともに、成形固化時の結晶化速度の速い架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂およびその製造方法を提供できる点では、同様でありながら、溶融成形時の発生ガスを抑制できることが明らかとなった。
【0013】
そこで本発明が解決しようとする課題は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後に得られる反応混合液から環式ポリアリーレンスルフィドと、当該構造式(1b)で表される化合物(1b)とを分離する方法、さらに、より高純度化してそれぞれを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後に得られる反応混合液を、溶媒洗浄工程と、100℃超かつpH6以上で、水と接触させる工程とを経ることで、下記構造式(1)で表される化合物(1)とオリゴアリーレンスルフィド(2)とを効率よく分離して、これにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で得られる反応混合物からオリゴアリーレンスルフィドとを効率よく高純度で製造できること、およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を効率よく高純度で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、前記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有することを特徴とする、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)の製造方法
【0016】
【化3】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1b)中、n=1~40である。)に関する。
【0017】
また、本発明は、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、前記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有することを特徴とする、環式ポリアリーレンスルフィド(2)の製造方法
【0018】
【化4】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1a)中、n=1~40である。)に関する。
【0019】
さらに本発明は、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、
前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒を固液分離して、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)、
反応混合液(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、前記構造式(1a)で表される化合物(1a)を分離除去して、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを含む反応混合物(S3)を得る工程(3)、
反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させることにより、前記化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)、
を有することを特徴とする、
環式ポリアリーレンスルフィド(2)と前記化合物(1b)との分離方法
【0020】
【化5】
(式(1)、(1a)および(1b)中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、Rは水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3~5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。式(1)中、n=0~40であり、式(1b)中、n=1~40である。)に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後に得られる反応混合液から環式ポリアリーレンスルフィドと、当該構造式(1b)で表される化合物(1b)とを分離する方法、さらに、より高純度化してそれぞれを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例において、工程(5)におけるろ過残渣(5)中に含まれる成分の高温GPCの測定チャートである。縦軸は濃度分率を分子量の対数値で微分した値を、横軸は分子量を表す。
図2】実施例において、工程(6)における固形状物(6)中に含まれる成分のFD-MASSの測定チャートである。縦軸は強度、横軸は質量電荷比(m/z)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する工程(1)、を有する。
【0024】
さらに工程(1)は、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、下記構造式(1)で表される化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る工程(1a)を有する。
【0025】
本発明に用いるジハロ芳香族化合物は、例えば、芳香族環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0026】
また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて併用してもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン、テトラクロルベンゼン等が挙げられる。
【0027】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を併用することもできる。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用出来る。これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0028】
更に、ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物を併用することもできる。ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0029】
1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物、前記活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物およびニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物(以下、まとめて「ポリハロ芳香族化合物」ということがある)は、必須成分のジハロ芳香族化合物に対して任意成分であるが、併用する場合には、前記ポリハロ芳香族化合物の総量がジハロ芳香族化合物との合計量に対し、0.001モル%以上の範囲であることが好ましく、0.01モル%の範囲であることがより好ましく、一方、3%以下の範囲であることが好ましく、1%以下の範囲であることがより好ましい。ポリハロ芳香族化合物の割合に応じて、主鎖が分岐する傾向となる。
【0030】
本発明に用いるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。
【0031】
尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0032】
本発明に用いる有機極性溶媒(3)としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンの脂肪族系環式構造を有するアミドが好ましい。
【0033】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒(3)の存在下、いわゆるスルフィド化剤と呼ばれる上記のアルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ジハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるジハロ芳香族化合物を実質的に液層に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。
【0034】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の具体的態様の一つとして、1)例えば、ジハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環式構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ジハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環式構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が挙げられる。
【0035】
アミド基含有環式炭化水素化合物の存在下、アルカリ金属硫化物又はアルカリ金属水硫化物と芳香族ジハロゲン化合物とを重合させるその他の具体的方法としては、
2)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
3)芳香族ジハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
4)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
5)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、等が挙げられる。
これらの中でも特に、副生成物の生成が少なく、かつ、直鎖状で高分子量を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が容易に低コストで得られる点から前記1)の方法が好ましい。
【0036】
このように、有機極性溶媒(3)中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)が得られるが、それ以外に、前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)も生成される。
生成されるポリアリーレンスルフィド樹脂(4)としては、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(3)
【0037】
【化6】
ただし、式(3)中、Ar’はアリーレン基である。nは40超、好ましくは41以上から500以下の範囲である。)で表される樹脂である。末端は特に規定されないが、原料に由来してアリール基である他に、前記活性水素を有する官能基とそのアルカリ金属塩、ハロゲン原子、カルボキシアルキルアミノ基等のカルボキシ基を有する基であって良い。
【0038】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(4)には、前記化合物(1a)ないし前記化合物(1b)を包含する前記化合物(1)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)であるものは含まれない。
【0039】
本発明においては、本発明の製造方法で得られた前記化合物(1b)または環式ポリアリーレンスルフィド(2)の存在下、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを反応させて前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得るか、または、本発明の製造方法で得られた前記化合物(1b)または環式ポリアリーレンスルフィド(2)の存在下、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とを反応させて前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)、有機極性溶媒(3)、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む粗反応混合物を得る形態も包含する。
【0040】
なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として、例えば、有機極性溶媒がN-メチル-2-ピロリドン、ジハロ芳香族化合物がp-ジクロロベンゼンである場合には前記化合物(1a)として、下記一般式(1a’)
【0041】
【化7】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるものが得られる(この化合物を“CP-MABA”と略記することがある)。
【0042】
続いて、工程(1)は、該粗反応混合物を固液分離して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る工程(1b)を有する。
【0043】
上記粗反応混合物からポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る方法に特に制限は無く、例えば、該粗反応混合物を濾過による固液分離操作により、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を分離除去して、少なくとも前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記有機極性溶媒を含む反応混合物(L1)を得る方法が挙げられる。その際、必要に応じて、該粗反応混合物中の有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留による固液分離操作により除去する工程(1c)を有していてもよく、当該工程(1c)を行った後に、該粗反応混合物を濾過による固液分離操作を行ってもよい。また、該粗反応混合物を濾過による固液分離操作を行うに際して、工程(1a)で得られた粗反応混合物に対し、または、好ましくは、工程(1b)ないし(1c)で固液分離した後に得られた固形分(スラリー)に対し、有機極性溶媒(6)を混和して、10~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは80~130℃の範囲で接触させることにより洗浄する工程(1d)を有していてもよく、当該工程を経て、ポリアリーレンスルフィド樹脂(4)及びアルカリ金属ハロゲン化物(5)を含む固形成分を濾過による固液分離操作で除去し、前記化合物(1)、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および有機極性溶媒((3)および(6))を含む濾液成分を反応混合物(L1)として得ることもできる。
【0044】
前記工程(1d)において、前記粗反応混合物に対し、または、固形分(スラリー)に対し、有機極性溶剤(6)を接触させる際の圧力は常圧もしくは加圧いずれでも良いが、0.1~0.5〔MPa〕の範囲の加圧下で行うことが好ましい。用いる有機極性溶剤(6)としてはポリアリーレンスルフィド樹脂(4)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンの脂肪族系環式構造を有するアミドが好ましい。
【0045】
有機極性溶媒(3)と(6)とは異なっていてもよいが、同じものであることが再利用時に、分離操作が不要となり好ましい。
【0046】
前記工程(1d)において、前記粗反応混合物に対し、または、固形分(スラリー)に対し、有機極性溶剤(6)を接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってポリアリーレンスルフィド樹脂(4)や有機極性溶媒(6)が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。
【0047】
本発明は、続いて、前記反応混合物(L1)から前記有機極性溶媒((3)および(6))を固液分離して、環式ポリアリーレンスルフィド(2)および前記化合物(1)を含む反応混合物(S2)を得る工程(2)を有する。
【0048】
前記濾液成分として得られた反応混合物(L1)から有機極性溶媒((3)および(6))を除去する方法は、たとえば溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物も回収する、いわゆるフラッシュ法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できる。有機極性溶剤を除去する際、固形物(不揮発分)の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるよう溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20~150℃、好ましくは40~120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0049】
本発明は、続いて、該反応混合物(S2)を100℃超かつpH6以上で、水と接触させることにより、前記構造式(1a)で表される化合物(1a)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する方法を工程(3)として有する。
【0050】
前記該反応混合物(S2)は、必要に応じて前処理として、100℃以下、好ましくは20~100℃の範囲の条件下で水と接触させる処理(水洗処理)をした後に、100℃越かつpH6以上で、水と接触させることができる。
【0051】
前記必要に応じて行う水洗処理は、例えば反応混合物(S2)に水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0052】
前記必要に応じて行う水洗処理の際に加える水の量は、最終的に得られる環式ポリアリーレンスルフィド(2)の理論収量に対して0.1~100倍の範囲にあることが好ましく、2倍~10倍の範囲にあることが洗浄効率の点からより好ましい。さらに、上記の量の水を好ましくは2~10回、より好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗処理時の水の温度は50~90℃の範囲であることが洗浄効率が良好となる点から好ましく、なかでも70~90℃の範囲であることが特に好ましい。
【0053】
必要に応じて行う水洗処理はバッチ処理として複数回行うことができる。複数回行う際には、例えば、50~90℃で洗浄を行う。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0054】
前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)は、必要に応じて水洗処理を行った後、加圧条件下、100℃超かつpH6以上で、水と接触させる。
【0055】
加圧条件としては、0.02~0.1〔MPa〕の範囲、さらに、優れた所定の精製効果を発揮しつつ、前記化合物(1)の水への溶解を促進させるために、0.02~0.1〔MPa〕で行うことが好ましい。加圧する雰囲気としては、安全性の面から窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス等の不活性ガスとの混合ガスを用いても良いが、経済性の面から、空気を用いることが最も好ましい。
【0056】
加圧条件下で前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)と水とを接触させる際の温度は、前記化合物(1a)の水への溶解度がより顕著となり前記化合物(1a)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)の分離がより効率的に行えることから、100℃超、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上である。また、この際の温度の上限は特に限定されないが、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0057】
加圧条件下で前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)と水とを接触させる際、酸や塩基を添加してpHを6以上、好ましくは6.5~11.5の範囲に調整をすることによって、前記化合物(1a)の水への溶解度等を制御することが好ましい。
特に、100℃超の熱水洗の際に塩基を添加して熱水洗後のpHを9.5~11.5にすると、前記化合物(1a)の酸性型末端(H型末端)が塩基性型末端(Na型末端)に変換されるため前記化合物(1a)の水への溶解度がさらに高められるため好ましい。
【0058】
ここで用いられる酸は、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸や酢酸が好ましい。また用いられる塩基性化合物は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。pHの測定方法は、例えば、スラリーに対して酸を添加する場合には該スラリーを濾過した濾液のpHを測定する方法が挙げられる。
【0059】
また加圧条件下で前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)と水を接触させる際に用いる水の量についても、水分子が液体として存在する量であれば特に制限は無い。加圧条件下、密閉系内の水の圧力が、その温度での飽和蒸気圧に達していれば、水が液体として存在するが、本発明においては、前記化合物(1a)が効率的に水に溶解できるためには、前記化合物(1a)100質量部に対して、100~1000質量部の範囲が好ましく、さらに100~1000質量部の範囲がより好ましく、200~800質量部の範囲がさらに好ましい。
【0060】
本発明においては、加圧条件下で前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)と水との接触は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
本発明は、加圧条件下で前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)と水とを接触させる際に用いる容器は、前記化合物(1a)を液層に溶解可能な密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器であり、本発明の目的を達成可能なものであるなら何れのものでもよいが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器などが挙げられる。
【0061】
前記化合物(1)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S2)は、必要に応じて水洗処理を行った後、加圧条件下、100℃超かつpH6以上で、水と接触させ、その後、室温まで冷却した後、必要に応じて濾過し、イオン交換水を加えて20~90℃の範囲で再度濾過して、液相成分(ろ液成分)として塩基性型末端(Na型末端)に変換された前記化合物(1a)と、固形分(ろ過残渣)として前記化合物(1b)および環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む反応混合物(S3)とに分離する。
【0062】
このようにして、分離された前記化合物(1a)と、反応混合物(S3)とはそれぞれ別々に回収する。回収して得られた前記化合物(1a)と、反応混合物(S3)とは、それぞれ、そのまま乾燥して粉末を得ても良いし、更に数回の水洗処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末として得ても良い。100℃超の熱水洗後に行う水洗処理に用いる水量は特に制限は無いが、前記化合物(1a)、または、反応混合物(S3)のそれぞれの理論収量に対して好ましくは1~100倍、より好ましくは2~10倍の範囲である。また乾燥は実質的に水が蒸発する温度に加熱して行う。乾燥は真空下で行っても良いし、空気中あるいは窒素のような不活性雰囲気下で行っても良い。
【0063】
本発明で得られた前記化合物(1a)は、例えば線状高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いて熱酸化架橋するにあたり、添加剤として添加することで溶融時の増粘を抑えて樹脂の溶融安定性を向上させるとともに、成形固化時の結晶化速度の速い架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【0064】
また、反応混合物(S3)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド(2)は、下記構造式(2)
【0065】
【化8】
(ただし、式(2)中、m=2~50、好ましくは4~13である。Ar’はアリーレン基である。)で表される環式ポリアリーレンスルフィドである。なお、Ar’は、上記のジハロ芳香族化合物から2個のハロゲン原子が脱離してなる二価のアリーレン基であり、また、ポリハロ芳香族化合物を併用する場合には、当該ポリハロ芳香族化合物から2個のハロゲン原子が脱離してなる二価のアリーレン基である。
【0066】
反応混合物(S3)中の環式ポリアリーレンスルフィド(2)と前記化合物(1b)との比率は、環式ポリアリーレンスルフィド(2)/前記化合物(1b)が、質量基準で、50/50以上の範囲であることが好ましく、65/35以上の範囲であることがより好ましく、一方、85/15以下の範囲であることが好ましく、80/20以下の範囲であることがより好ましい。
【0067】
また、反応混合物(S3)に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド(2)及び前記化合物(1b)の合計量の割合は95質量%以上の範囲であることが好ましく、98質量%以上の範囲であることがより好ましく、99質量%以上の範囲であることがさらに好ましく、一方、100質量%以下であることが好ましいが、99.9%以下の範囲であることがより好ましく、99.99%以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0068】
なお、反応混合物(S3)には、残りの成分として下記構造式(4)および(5)
【0069】
【化9】
(式中、Arはハロゲン原子を有するアリール基であり、Ar’はアリーレン基であり、)で挙げられる2量体ないし3量体成分などが挙げられる。
【0070】
本発明は、続いて、反応混合物(S3)を有機極性溶媒(7)と接触させて、下記構造式(1b)で表される化合物(1b)と環式ポリアリーレンスルフィド(2)とを分離する工程(4)を有する。
【0071】
上記反応混合物(S3)と有機極性溶媒(7)とを接触する方法に特に制限は無く、例えば、該反応混合物(S3)に前記有機極性溶媒(7)を混和し、10~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは80~130℃の範囲で接触させた後、環式ポリアリーレンスルフィド(2)を含む液相成分と、前記化合物(1b)を含む固形成分とに分離する。前記反応混合物(S3)と有機極性溶剤(7)とを接触させる際の圧力は常圧もしくは加圧いずれでも良いが、0.1~0.5〔MPa〕の範囲の加圧下で行うことが好ましい。前記反応混合物(S3)と有機極性溶剤(7)とを接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によって環式ポリアリーレンスルフィド(2)や有機極性溶媒(7)が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。
【0072】
用いる有機極性溶剤(7)としてはポリアリーレンスルフィド樹脂(4)の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6-ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できる。このうち、有機極性溶剤(7)としては、双極子モーメントμが1〔D〕(※1D=3.3356×10-30C・m)以上または誘電率ε(20℃)が2以上の極性溶媒であるものが好ましい。
【0073】
その後、分離した液相成分と固形成分とを濾過操作等により固液分離して、前記化合物(1b)を回収する工程(5)を経て前記化合物(1b)を得るか、または、環式ポリアリーレンスルフィド(2)を回収する工程(6)を経て、環式ポリアリーレンスルフィド(2)を得ることができる。
【0074】
工程(6)において、前記液相成分中の有機極性溶媒(7)を除去する方法は、たとえば溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物も回収する、いわゆるフラッシュ法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できる。有機極性溶剤(7)を除去する際、不揮発分の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるよう溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20~150℃、好ましくは40~120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
【0075】
反応混合物(S3)に前記構造式(4)および(5)で表される2量体ないし3量体成分が含まれる場合、主に液相成分側で回収される。そのため、当該液相成分側で回収される工程(4b)において、有機極性溶剤を除去した後に得られる固形分中の前記環式ポリアリーレンスルフィド(2)の割合は、前記環式ポリアリーレンスルフィド(2)と前記2量体および3量体との合計量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上から、好ましくは100%以下、より好ましくは99.99質量%以下の範囲である。
【0076】
このように本発明は、工程(4)および工程(5)を経て環式ポリアリーレンスルフィド(2)を分離することによって、前記化合物(1b)を高純度で回収することができる。このため、本発明で得られた前記化合物(1b)は各種樹脂に添加剤として配合して用いることも可能であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、このような前記化合物(1b)を配合した樹脂組成物は、前記化合物(1a)を用いた場合と同様に、溶融加工時のすぐれた流動性を発現する傾向が強く、また滞留安定性にも優れるだけでなく、前記化合物(1a)を用いた場合よりも溶融成形時の発生ガスを抑えることができる。
【0077】
一方、本発明は、工程(4)および工程(6)を経て前記化合物(1b)を分離することによって、環式ポリアリーレンスルフィドを高純度で回収することができる。このため、本発明で得られた環式ポリアリーレンスルフィドは各種樹脂に環式物であることに基づく高機能材料や機能材料として応用することができる。環式ポリアリーレンスルフィドをモノマーとして用いることも可能で、重合反応が進行しやすく、高分子量化ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【0078】
本発明により得られた環式ポリアリーレンスルフィド(2)または前記化合物(1b)を配合する際に、本発明の目的を逸脱しない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材など公知慣用の添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0079】
本発明により得られた環式ポリアリーレンスルフィド(2)または前記化合物(1b)を配合してなる組成物は、従来のポリアリーレンスルフィド樹脂と同様に、溶融混練後、直接または一旦ペレットに成形した後、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により溶融成形を行い、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物にすることができる。該成形物の用途としては、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0081】
(測定例 HPLC測定)
CP-MABA量はHPLCで液中のCP-MABA濃度を測定し、算出した。
サンプル調製:有機溶媒中にCP-MABAが含まれる場合は、溶媒をエバポレータで溶媒を留去したたのち、残渣にHPLCの移動相を加え溶解して測定サンプルを調製した。水溶液中にCP-MABAが含まれる場合は、そのまま移動相を加えて調製した。
測定サンプルのHPLC測定を行い、下記の方法で作製した標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから液中の濃度を求め、算出した。
【0082】
(標準物質:CP-MABAの合成)
48%NaOH水溶液83.4g(1.0モル)とN‐メチル‐2‐ピロリドン297.4g(3.0モル)を、撹拌機付き耐圧容器に仕込み、230℃で3時間撹拌した。この撹拌が終了した後、温度230℃のままバルブを開き、放圧し、N‐メチル‐2‐ピロリドンの蒸気圧程度である230℃において0.1MPaまで圧力を低下させ、水を留去した。その後、再び密閉し200℃程度まで温度を低下させた。
【0083】
p-ジクロロベンゼン147.0g(1.0モル)を60℃以上の温度条件下で加熱溶解して反応混合物中に投入し、250℃まで昇温後4時間撹拌した。この撹拌が終了した後、室温まで冷却した。p-ジクロロベンゼンの反応率は31モル%であった。冷却後、内容物を取り出し、水を加えて撹拌後、未反応のp-ジクロロベンゼンが不溶物となって残ったものをろ過によって取り除いた。
【0084】
次いで、ろ液である水溶液に塩酸を加えて該水溶液のpHを4に調整した。このとき水溶液中に褐色オイル状のCP-MABA(水素型)が生じた。そこにクロロホルムを加えて褐色オイル状物質を抽出した。このときの水相には、N‐メチル‐2‐ピロリドン及びその開環物である4-メチルアミノ酪酸(以下「MABA」と略記する。)が含まれるため水相は廃棄した。クロロホルム相は水洗を2回繰り返した。
【0085】
クロロホルム相に水を加えてスラリー化した状態で48%NaOH水溶液を加え、該スラリーのpHを13に調整した。このときCP-MABAはナトリウム塩となって水相に移り、クロロホルム相には副生成物であるp-クロロ-N-メチルアニリン及びN-メチルアニリンが溶解しているためクロロホルム相は廃棄した。水相はクロロホルム洗浄を2回繰り返した。
【0086】
水溶液に希塩酸を加えて該水溶液のpHを1以下に調整した。このときCP-MABAは塩酸塩となって水溶液中にとどまるので、水溶液にクロロホルムを加えて、副生成物であるp-クロロフェノールを抽出した。p-クロロフェノールが溶解したクロロホルム相は廃棄した。
【0087】
残った水溶液に48%NaOH水溶液を加え、該水溶液のpHを4に調整した。これにより、CP-MABAの塩酸塩が中和され、褐色オイル状のCP-MABA(水素型)が水溶液から析出した。CP-MABA(水素型)をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧除去することによってCP-MABA(水素型)を得た。
【0088】
(HPLC測定条件)
装置名:株式会社 島津製作所製「高速液体クロマトグラム Prominence」
カラム:株式会社 島津ジーエルシー製
「Phenomenex Luna 5u C18(2) 100A」
検出器:DAD (Diode Array Detector)
データ処理:株式会社 島津製作所製「LCsolution」
測定条件:カラム温度40℃
移動相:水
流速 1.0ml/分
【0089】
(測定例 FD-MASS)
FD-MS:日本電子株式会社製「JMS-T100GC AccuTOF」を用いて 測定した。
測定範囲:m/z=4.00~2000.00
変化率:51.2mA/min
最終電流値:40mA
カソード電圧:-10kV
【0090】
(GPC測定)
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム:東ソー株式会社製 TSK-GUARDCOLUMN SuperHZ-L +東ソー株式会社製 TSK-GEL SuperHZM-M×4
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC-8020modelII 測定条件:カラム温度 40℃ 溶媒 テトラヒドロフラン
流速0.35ml/分
試料:樹脂固形分換算で0.2質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0091】
(高温GPC測定)
センシュー科学製高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC-7000を用いて、質量平均分子量を測定した。平均分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
溶媒:1-クロロナフタレン
投入口:250℃
温度:210℃
検出器:UV検出器(360nm)
サンプル濃度:1g/L
流速:0.7mL/min
【0092】
(試料中の窒素原子濃度の測定)
三菱ケミカルアナリテック社製「TNマイナス2100H」を使用して、JIS K2609:1998(原油及び石油製品・窒素 分試験方法 第4部:化学発光法)に準拠した方法で試料中の窒素原子含有量に換算して算出した。
【0093】
(試料中の塩素原子濃度の測定)
三菱化学アナリック社製「全有機ハロゲン分析装置TOX-2100H」を使用して、JIS K2170:2013(附属書 A(規定)再生重油の塩素分試験方法(燃焼式微量電量滴定法))に準拠した方法で試料中の塩素原子含有量を算出した。ただし、当該方法において重油に対し、トルエンによる希釈したものを燃焼する点については、これを行わなかった。また、塩素標準液としてA.2 o)~r)の代わりに0.01M塩酸(15μL)を用いた。測定条件は以下の通り。
酸素流量(mL/分) :200
アルゴン流量(mL/分):200
燃焼炉温度 入口部(℃):900
燃焼炉温度 出口部(℃):1000
【0094】
(実施例)
・工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3質量%NaS)19,413質量部と、N-メチル-2-ピロリドン45000質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4644質量部を留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン22185質量部及びNMP18000質量部を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。反応後、冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物284質量部(2.25モル部)NMP663質量部に含む溶液を加圧注入し、30分間撹拌後、冷却した。
【0095】
100℃で底弁を開き、反応スラリーを150リットル平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過し、NMP48000質量部を加え、再度加圧ケーキ洗浄ろ過した。
【0096】
・工程(2)
NMPろ液500質量部を採取して1Lナスフラスコに仕込み、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下150℃でNMPを蒸留により除去し、茶色の固形状残渣を得た。さらに、この残渣を210℃熱風乾燥機で1時間乾燥して固形状残渣(S2)9.06質量部を得た。FD-MASS測定およびHPLC測定から固形状残渣(S2)中に含まれる生成物が、環式ポリアリーレンスルフィド、線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーおよびNa型CP-MABAであるとの結果を得た後、さらに当該結果も踏まえたGPC測定から、この固形状残渣(S2)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドが4.75質量部、線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーが2.04質量部およびNa型CP-MABAが2.27質量部であるとの結果を得た。
なお、本発明において、繰り返し単位2~40(2量体~40量体の混合物)を有する高分子化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【0097】
・工程(3)
得られた固形状残渣(S2)9.06質量部とイオン交換水100質量部を0.5リッターオートクレーブに仕込み、48質量%NaOH水溶液を添加してpHを10.6に調整し、150℃で10分間撹拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水100質量部を加えケーキ洗浄を行った。
【0098】
ろ液を回収し、蒸留により水を除去し、さらに120℃熱風乾燥機で4時間乾燥してろ液由来固形状物(L3)2.24質量部を得た。FD-MASS測定およびHPLC測定から固形状物(L3)中に含まれる生成物が、Na型CP-MABAであるとの結果を、さらに当該結果も踏まえたGPC測定から、この固形状物(L3)中にはNa型CP-MABA2.24質量部が含まれており、環式ポリアリーレンスルフィド0質量部および線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマー0質量部であるとの結果を得た。なお、固形状残渣(S2)中に含まれるNa型CP-MABAに対する、固形状物(S3)中に含まれるNa型CP-MABAの割合(抽出率)は、99wt%であった。
【0099】
一方、ろ液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥後して、ろ過残渣(S3)6.82質量部を得た。FD-MASS測定およびHPLC測定から、このろ過残渣(S3)中に含まれる生成物が、環式ポリアリーレンスルフィド、線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーおよびNa型CP-MABAであるとの結果を得た後、さらに当該結果も踏まえたGPC測定から、このろ過残渣(S3)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドが4.75質量部、線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーが2.04質量部およびNa型CP-MABAが0.03質量部であるとの結果を得た。また、ろ過残渣(S3)中の窒素含有量を測定したところ110μmol/gであった。
【0100】
・工程(4)
乾燥後のろ過残渣(S3)6.82質量部とクロロホルム150質量部を0.5リットルガラス容器に仕込み、70℃60分間撹拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに25℃のクロロホルム150質量部を加えてケーキ洗浄を行った。
【0101】
・工程(5)
工程(4)におけるろ液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥してろ過残渣(S5)2.31質量部を得た。FD-MASS測定およびHPLC測定から、このろ過残渣(S5)中に含まれる生成物が、環式ポリアリーレンスルフィド、線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーおよびNa型CP-MABAであるとの結果を得た後、さらに当該結果も踏まえたGPC測定より、このろ過残渣(S5)中に含まれる線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーが2.04質量部、環式ポリアリーレンスルフィドが0.24質量部、およびNa型CP-MABAが0.03質量部であった。
【0102】
また、ろ過残渣(S5)中の窒素含有量および塩素含有量を測定したところ、それぞれ210μmol/g、370μmol/gであった。続けて、このろ過残渣(S5)に対してFD-MASS測定および高温GPC測定を行い、下記構造式で表される線状ポリアリーレンスルフィドのオリゴマーが含まれていることを確認した。高温GPC測定の結果を図1に示した。なお、Mp=1700、Mw=6000、Mw/Mp=3.6であった。
【0103】
【化10】
(ただし、式(1b’)中、nは1~40のいずれかであり、Xはナトリウム原子である)
【0104】
・工程(6)
一方、工程(4)のろ過において固液分離時に除去したろ液を回収し、蒸留により水を除去し、さらに210℃熱風乾燥機で1時間乾燥してろ液由来の固形状物(L6)4.51質量部を得た。FD-MASS測定およびHPLC測定からろ液由来の固形状物(L6)中に含まれる生成物が、環式ポリアリーレンスルフィドであるとの結果を、さらに当該結果も踏まえたGPC測定より、該固形状物(L6)中には環式ポリアリーレンスルフィド4.51質量部が含まれており、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー0質量部およびNa型CP-MABA0質量部であった。なお、固形状残渣(S2)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドに対する、固形状物(L6)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの割合(抽出率)は、95wt%であった。FD-MASS測定の結果を図2に示した。
【0105】
(比較例1)
前記工程(4)において、「クロロホルム」の代わりに「n-ヘキサン」を用いたこと以外は上記の実施例と同様に行った。
【0106】
工程(L6)で得られたろ液由来の固形状物(L6’)は0.14質量部であり、該固形状物(L6’)中には環式ポリアリーレンスルフィド0.14質量部が含まれており、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー0質量部およびNa型CP-MABA0質量部であった。なお、固形状残渣(S2)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドに対する、固形状物(L6’)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの割合(抽出率)は、3wt%であった。
【0107】
一方、工程(5)で得られたろ液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥後、ろ過残渣(S5’)6.68質量部が得られた、得られたろ液残渣(S5’)は、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが2.04質量部、環式ポリアリーレンスルフィドが4.61質量部、およびNa型CP-MABAが0.03質量部であった。また、当該ろ過残渣(S5’)中の窒素含有量および塩素含有量を測定したところ、それぞれ73μmol/g、128μmol/gであった。
【0108】
(比較例2)
前記工程(4)において、「クロロホルム」の代わりに「メタノール」を用いたこと以外は上記の実施例と同様に行った。
【0109】
工程(6)で得られたろ液由来の固形状物(L6”)は0.46質量部であり、該固形状物(L6”)中には環式ポリアリーレンスルフィド0.38質量部が含まれており、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー0.05質量部およびNa型CP-MABA0.03質量部であった。なお、固形状残渣(S2)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドに対する、固形状物(L6”)中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの割合(抽出率)は、8wt%であった。
【0110】
一方、工程(5)で得られたろ液除去後の固形分を120℃熱風乾燥機で4時間乾燥後、ろ過残渣(S5”)6.36質量部が得られた、得られたろ液残渣(S5”)は、線状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーが1.99質量部、環式ポリアリーレンスルフィドが4.37質量部、およびNa型CP-MABAが0質量部であった。また、当該ろ過残渣(S5”)中の窒素含有量および塩素含有量を測定したところ、それぞれ32μmol/g、90μmol/gであった。
図1
図2