(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】コプロコッカス属菌の増殖促進用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230125BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20230125BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230125BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230125BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230125BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230125BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K31/7004
A61P3/10
A61P3/06
A61P37/04
A61P1/14
A61P1/04
A61P29/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2018208741
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】下仲 敦
(72)【発明者】
【氏名】山地 健人
(72)【発明者】
【氏名】土橋 英恵
(72)【発明者】
【氏名】北村 範子
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲郎
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-178683(JP,A)
【文献】特表2018-530600(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018500(WO,A1)
【文献】特開2013-053121(JP,A)
【文献】特開2005-263744(JP,A)
【文献】特開2010-018528(JP,A)
【文献】特開2019-011257(JP,A)
【文献】特開2000-139451(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159643(WO,A1)
【文献】特開2017-163980(JP,A)
【文献】Youngji Han et al,Tracing the Anti-Inflammatory Mechanism/Triggers of d-Allulose: A Profile Study of Microbiome Composition and mRNA Expression in Diet-Induced Obese Mice,Molecular Nutrition & Food Research,2020年03月,64(5),e1900982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
A23L
A23C
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進用組成物。
【請求項2】
D-ソルボースを有効成分とする組成物を除く、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
D-ソルボースを含む組成物を除く、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
経口摂取させるための、請求項1
~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ヒト1日当たりの有効摂取量のD-プシコースを含んでなる、請求項1
~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
D-プシコースのヒト1日当たりの有効摂取量が
5~
20gである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1週間以上継続して摂取させる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
単位包装形態である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
食品組成物である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康や疾病に腸内細菌叢が密接に関係していることが知られており、特に、加齢やストレスによりヒトの腸内細菌叢の環境は大きく変化することが知られている。このため、腸内環境を整えることで、ストレスによる感染症発現リスクを低下させる可能性や、肥満、癌、糖尿病、肝臓疾患、自己免疫疾患、免疫機能の低下等を改善させる可能性が示されている。
【0003】
ヒトの腸内には500~1000種類、100兆個以上の腸内細菌が生息しているといわれ、一般に、ビフィズス菌や乳酸菌のような有用性のある微生物(有用菌)と、ウェルシュ菌のような有害性のある微生物(有害菌)が共に生息している。ヒトの腸内環境をよりよい状態で維持するためには、腸内有用菌を優勢種として、大腸等に存在させることが重要と考えられている。ビフィズス菌や乳酸菌以外の腸内有用菌としては、腸管内で酪酸を産生する酪酸産生菌が知られている。この酪酸産生菌のうち、コプロコッカス(Coprococcus)属細菌は、ヒト腸内菌叢中で一般的に5%以上の占有率を示す優勢な菌(優占菌)であり(非特許文献1)、末期肝硬変患者の腸内菌叢において減少することが確認されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Scientific Reports. 7, Article number: 14874, 2017
【文献】Qin N. et al., Nature. 513(7516): 59-64, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進用組成物と、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、今般、D-プシコースをヒト対象に経口摂取させることにより、腸内菌叢中のコプロコッカス属菌の占有率を有意に増加させることができることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進用組成物および腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進剤。
[2]経口摂取させるための、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]ヒト1日当たりの有効摂取量のD-プシコースを含んでなる、上記[1]または[2]に記載の組成物および用剤。
[4]D-プシコースのヒト1日当たりの有効摂取量が1~50gである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[5]1週間以上継続して摂取させる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[6]単位包装形態である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[7]食品組成物である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[9]D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢の改善用組成物および腸内菌叢の改善剤。
[10]D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内における酪酸産生促進用組成物および腸内における酪酸産生促進剤。
[11]D-プシコースを有効成分として含んでなる、血糖および/または脂質代謝の促進、免疫機能向上、または消化および/または吸収促進に用いるための組成物並びに血糖および/または脂質代謝の促進剤、免疫機能向上剤、および消化および/または吸収促進剤。
[12]D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善用組成物および該疾患または症状の治療、予防または改善剤。
[13]D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減用組成物並びに腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減剤。
【0008】
上記[1]および[9]~[13]の組成物を本明細書において「本発明の組成物」と、上記[1]および[9]~[13]の用剤を本明細書において「本発明の用剤」と、それぞれいうことがある。
【0009】
本発明の組成物および用剤は希少糖として食経験のあるD-プシコースを有効成分として利用するものであることから、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進を期待して長期間にわたって摂取しても副作用が少なく、安全性が高い点において有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明の組成物および用剤の有効成分であるD-プシコースは、希少糖の一つであり、D-アルロース(Allulose)あるいはD-リボ-2-ヘキスロース(D-ribo-2-hexulose)とも呼ばれる。本発明においてD-プシコースは、天然物から精製したもの、発酵法によって製造したもの、酵素学的手法によって製造したもの、化学合成によって製造したもの等のいずれを使用してもよいが、製造の簡易性の観点から、酵素学的手法によって製造したものを好適に使用することができる。また、本発明に使用されるD-プシコースは、完全に精製されたものでものであっても、あるいは少量の不純物を含むものであってもよい。D-プシコースは、例えば、ズイナ等の植物から抽出したもの、アルカリ異性化法によりD-グルコースやD-フラクトースにアルカリを作用させて異性化させたもの(アルカリ異性化法)、Aspergillus
aculeatus等の糸状菌等を用いて発酵生産させたもの(発酵法)、澱粉、グルコース、フラクトース等にイソメラーゼやエピメラーゼといった酵素を作用させて異性化させたもの(酵素異性化法)を使用することができ、D-プシコースを含む糖組成物(例えば、シロップ、粉末品)をそのまま用いてもよい。D-プシコースはまた、市販品(例えば、「レアシュガースウィート」松谷化学工業社製、「ASTRAEA」松谷化学工業社製)を用いることができる。
【0011】
本発明の組成物および用剤は、D-プシコースのままで提供することができ、あるいは、D-プシコースと他の成分とを混合して提供することもできる。本発明の組成物および用剤におけるD-プシコースの含有量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることができ、本発明はこれに限定されないが、その含有量(固形分換算)は全体量に対して以下のように定めることができる。すなわち、本発明の組成物および用剤におけるD-プシコースの含有量の下限値は0.5質量%とすることができ、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%、3質量%、4質量%または5質量%である。また、上記含有量の上限値は100質量%とすることができ、好ましくは99質量%、より好ましくは90質量%、80質量%、70質量%または60質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.5~100質量%(好ましくは1~99質量%、より好ましくは2~90質量%または5~60質量%)とすることができる。
【0012】
本発明の組成物および用剤中のD-プシコースの含有量は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)により測定することができる。
【0013】
本発明の組成物および用剤は、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進のために用いられる。コプロコッカス(Coprococcus)属菌は腸内の有用菌の一種であり、酪酸産生菌である。ここで、「コプロコッカス属菌の増殖促進」はコプロコッカス属菌の増加促進を含む意味で用いられる。また、「コプロコッカス属菌の増殖促進」の程度は、腸内菌叢中のコプロコッカス属菌の占有率(%)を指標にして評価することができる(後記実施例参照)。具体的には、D-プシコースの摂取後の腸内菌叢に占めるコプロコッカス属菌の割合が、摂取前の腸内菌叢中のコプロコッカス属菌を上回る場合に、好ましくは、D-プシコースの摂取後の腸内菌叢に占めるコプロコッカス属菌の割合が、摂取前の腸内菌叢中のコプロコッカス属菌の割合よりも有意差(有意水準5%)をもって上回った場合に、あるいは、D-プシコースの摂取後の腸内菌叢に占めるコプロコッカス属菌の割合が、摂取前の腸内菌叢中のコプロコッカス属菌の割合の約1.1倍以上である場合に、より好ましくは約1.2倍以上である場合に、より一層好ましくは約1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上、特に好ましくは1.5倍以上、さらに特に好ましくは1.6倍以上、1.8倍以上または2倍以上である場合に、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖を促進したと判定することができる。
【0014】
後記実施例に示されるように、D-プシコースは腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進作用を有するところ、コプロコッカス属菌は酪酸産生菌であり、腸内の酪酸産生を増加させる。ここで、酪酸は、結腸上皮細胞で優先的に消費される主要エネルギー源であり、上皮細胞の賦活化や正常結腸上皮細胞の増殖を促進するため、腸内の酪酸産生増加による血糖・脂質代謝の促進、腸粘膜の正常化による免疫機能向上、腸管機能向上による消化・吸収促進等の生理機能がもたらされる。腸内の酪酸産生増加はまた、結腸内pHの低下(さらには、胆汁酸塩の溶解性の低下、ミネラル吸収性の向上、アンモニア吸収の抑制、病原性微生物の抑制)、結腸静脈および肝門脈の血行促進、大腸がん細胞の増殖抑制およびアポトーシス誘導、結腸がんおよび結腸炎に対する保護作用、抗炎症作用、水およびナトリウムの吸収促進、イオンおよび流動物の吸収促進、下痢の抑制、結腸内での酸化ストレス低減、満腹感の促進による肥満抑制、腸管バリア機能の向上(さらには、ムチン層形成促進、抗菌ペプチド・タイトジャンクション構成タンパク質の分泌促進)、リーキーガット症候群(LGS)の抑制等の様々な生理機能をもたらすことが知られている(例えば、Gijs den Besten et al., Journal of lipid research, jlr-R036012, 2013、Tan Jian et al., Advances in immunology 121:91-119, 2014、T. Sakata and H. Ichikawa, Journal of Japan Oil Chemists’ Society 46(10): 1205-1212, 1997、Topping, Asia Pacific J Clin Nutr. 5(1):15-19, 1996およびRiviere et.al., Leroy F1, De Vuyst L1., Front Microbiol. 7: 979, 2016参照)。このため、本発明の組成物および用剤は、腸内菌叢の改善や、腸内の酪酸産生を増加させるために用いることができ、さらには、腸内の酪酸産生増加によりもたらされる生理機能を発揮させるために用いることができる。
【0015】
従って、本発明によれば、D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢の改善用組成物および腸内菌叢の改善剤と、D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内における酪酸産生促進用組成物および腸内における酪酸産生促進剤が提供される。本発明によればまた、D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内の酪酸産生増加に起因する生理機能を発揮させるための組成物が提供され、例えば、血糖および/または脂質代謝の促進、腸粘膜の正常化による免疫向上、または腸管機能向上による消化および/または吸収促進に用いるための組成物と、血糖および/または脂質代謝の促進剤、腸粘膜の正常化による免疫向上剤、および腸管機能向上による消化および/または吸収促進剤が提供される。
【0016】
本発明によればさらに、D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善用組成物および該疾患または症状の治療、予防または改善剤が提供される。腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患および症状としては、炎症性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患)、悪性腫瘍(例えば、大腸癌等の腸管内に生ずる悪性腫瘍)が挙げられる。
【0017】
本発明の組成物および用剤はまた、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクがある対象または腸内菌叢の悪化リスクがある対象に摂取させることができ、それにより、前記疾患の発症リスクまたは腸内菌叢の悪化リスクを低減することができる。すなわち、本発明の別の面によれば、D-プシコースを有効成分として含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減用組成物と、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減剤が提供される。ここで、「腸内菌叢の悪化」は、服薬、疾病、食生活、ストレス、睡眠不足等の外的要因に加え、生理的、遺伝的な内的要因によっても引き起こされる。また、「腸内菌叢の悪化」は「ディスバイオーシス」を含む意味で用いられ、(1)微生物叢の多様性が失われる、(2)腸内細菌数が減少する、および/または(3)病原微生物が優位を占めるようになる等の事象により特徴付けられる。また、「疾患または症状の発症リスクがある対象」は、疾患または症状の自覚症状がないが、将来において該疾患または症状の発症の恐れがある対象を意味し、「腸内菌叢の悪化リスクがある対象」は、腸内菌叢悪化に伴う自覚症状がないが、将来において腸内菌叢の悪化の恐れがある対象を意味する。また、「発症リスクの低減」は、疾患または症状の発症確率が低減されることを意味し、「腸内菌叢の悪化リスクの低減」は、腸内菌叢悪化の確率が低減されることを意味する。
【0018】
本発明の組成物および用剤は、D-プシコースを有効成分として含んでなるものである。D-プシコースはカロリーが殆どないものの、甘味度が砂糖の7割程度あることから、本発明の組成物および用剤は、代替甘味料としてカロリー摂取を抑えつつ、腸内有用菌であるコプロコッカス属菌のヒト腸内菌叢中の占有率(%)を増加させることができる点で有利である。
【0019】
本発明の組成物および用剤は、医薬品(例えば、医薬組成物)、医薬部外品、食品(例えば、食品組成物)、飼料(例えば、ペットフード)等の形態で提供することができ、後記の記載に従い、実施することができる。
【0020】
本発明の有効成分であるD-プシコースは、ヒトおよび非ヒト動物に経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の有効成分であるD-プシコースを食品として提供する場合には、D-プシコースをそのまま食品に含有させることができ、該食品はD-プシコースを有効量含有した食品である。ここで、D-プシコースを「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲でD-プシコースが摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)およびサプリメントを含む意味で用いられる。「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であっても、固形状の形態であってもよい。
【0022】
本発明で提供される食品としては、D-プシコースを配合できる食品であれば特に限定されず、例示すれば以下の通りである。
・菓子類(例えば、プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、チューインガム、チョコレート、ペストリー、バタークリーム、カスタードグリーム、シュークリーム、ホットケーキ、パン、ポテトチップス、フライドポテト、ポップコーン、ビスケット、クラッカー、パイ、スポンジケーキ、カステラ、ワッフル、ケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー等の洋菓子;せんべい、おかき、おこし、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羹、水羊羹、あめ等の和菓子;シャーベット等の冷菓)
・乾燥麺製品(例えば、マカロニ、パスタ、蕎麦、うどん、ラーメン)
・卵製品(例えば、マヨネーズ、生クリーム)
・飲料(例えば、機能性飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、無果汁飲料、果肉飲料、野菜ジュース、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、アルコール飲料、ビール風飲料)
・嗜好品(例えば、緑茶、紅茶、インスタントコーヒー、ココア、缶入りコーヒードリンク)
・乳製品(例えば、アイスクリーム、ヨーグルト、ヨーグルトドリンク、コーヒー用ミルク、バター、バターソース、チーズ、発酵乳、加工乳)
・ペースト類(例えば、マーマレード、ジャム、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト)
・レトルト食品(例えば、スープ、シチュー、カレー)
・畜肉製品(例えば、ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、ラード)
・魚介類製品(例えば、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、ちくわ、ハンペン、魚の干物、鰹節、鯖節、煮干し、うに、いかの塩辛、スルメ、魚のみりん干し、貝の干物、鮭等の燻製品)
・佃煮類(例えば、小魚、貝類、山菜、茸、昆布)
・カレー類(例えば、即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー)
・調味料(例えば、みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、ケチャップ、オイスターソース、固形ブイヨン、焼き肉のたれ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素、ペースト、インスタントスープ、ふりかけ、ドレッシング、マヨネーズ、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、サラダ油、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガー等各種調味料への甘味料として)
・揚げ製品(例えば、油揚げ、油揚げ菓子、即席ラーメン)
・その他の食品(例えば、豆乳、マーガリン、ショートニング、果実のシロップ漬け)
【0023】
本発明で提供される食品の製造にあたっては、D-プシコースは各食品の特性や目的に応じ、適当な製造工程の段階で原材料に添加することができる。
【0024】
本発明の組成物および用剤をサプリメントとして提供する場合には、D-プシコースを含有させる以外は通常のサプリメントの製造方法に従って製造することができる。ここで、サプリメントとしては、D-プシコースあるいはそれを含有する糖質組成物に賦形剤、結合剤等を加え、造粒することにより製造された顆粒剤および粉剤、D-プシコースあるいはそれを含有する糖質組成物に賦形剤、増粘剤等を加え練り合わせたペースト、D-プシコースあるいはそれを含有する糖質組成物に賦形剤、結合剤等を加え練り合わせた後に打錠することにより製造された錠剤、D-プシコースあるいはそれを含有する糖質組成物をカプセル等に封入したカプセル剤等が挙げられる。本発明においてはまた、対象が自身で、各種性状(例えば、液状、固形状、粉末状、顆粒状、ペースト状)のD-プシコースを、水、飲食品、食事等に添加して摂取することもできる。
【0025】
本発明の医薬品および食品は、希少糖として食経験があるD-プシコースを利用することから、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。D-プシコースの摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。D-プシコースを食品として摂取させる場合、D-プシコースの摂取量は、例えば、成人1日当たり、1~50g(好ましくは2.5~30g、より好ましくは5~20g)の範囲とすることができ、あるいは、摂取対象の体重1kg当たり0.016g~0.9g、好ましくは0.04g~0.5g、より好ましくは0.07g~0.4gの範囲とすることができる。また、摂取回数に特に制限はなく、上記有効摂取量を1日1回摂取させても、数回に分けて摂取させてもよい。また、摂取タイミングについても特に制限はなく、対象が摂取しやすい時期に摂取することができる。なお、上記のD-プシコースの摂取量、摂取回数および摂取タイミング並びに下記のD-プシコースの摂取態様は、D-プシコースを非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合にも適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。
【0026】
本発明の組成物および用剤は、他の経口摂取できる組成物や用剤と併用することに制限はない。本発明の組成物および用剤は、例えば、腸内菌叢の改善効果が期待できる素材や組成物と併用することで、コプロコッカス属菌の増殖促進効果をさらに高めることができる。このような素材や組成物としては、難消化性単糖、糖アルコール、オリゴ糖、食物繊維等が挙げられ、具体例としては、マンノース、タガトース、アロース、キシリトール、ソルビト-ル、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳菓オリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、セルロース、キチン、キトサン、ペクチン、イヌリン、カラギーナン、マンナン、フコイダン、アガロース、難消化性デキストリン、難消化性グルカン、ポリデキストロース、グアーガム分解物、レジスタントスターチ、絹タンパク、およびカカオ豆、大豆、米、そば、酒粕等に由来するレジスタントプロテイン、並びにこれらの化学修飾物が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物および用剤は、コプロコッカス属菌の増殖促進に有効な1日分の摂取量のD-プシコースを含んでなる組成物で提供することができる。この場合、本発明の組成物および用剤は、1日分の有効摂取量を摂取できるように包装されていてもよく、1日分の有効摂取量が摂取できる限り、包装形態は一包装であっても、複数包装であってもよい。包装形態で提供する場合、1日分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または当該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0028】
本発明の組成物および用剤を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、袋、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセル等の収容可能な容器等が挙げられる。
【0029】
本発明の組成物および用剤はその効果をよりよく発揮させるために、少なくとも1週間以上継続的に摂取させることができ、好ましくは2週間以上、より好ましくは1ヶ月以上の継続的な摂取である。ここで、「継続的に」とは、毎日投与あるいは少なくとも2日に1回の投与を続けることを意味する。本発明の組成物および用剤を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【0030】
本発明の食品には、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進機能や、腸内菌叢の改善機能に関する表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため本発明の食品には、例えば、以下の一部または全部の表示が付されてもよい。
・腸内環境を整える
・腸内環境を改善する
・腸内環境の改善に役立つ
・腸内環境を良好に保つ
・腸内フローラを良好にする
・腸の調子を整える
・おなかの調子を整える
【0031】
本発明の別の面によれば、有効量のD-プシコースを、それを必要とする対象(例えば、ヒトまたは非ヒト動物)に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進方法が提供される。本発明の腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進方法は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0032】
本発明のさらに別の面によれば、有効量のD-プシコースを、それを必要とする対象(例えば、ヒトまたは非ヒト動物)に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善方法並びに腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減方法が提供される。本発明の治療、予防または改善方法並びに本発明のリスク低減方法は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0033】
本発明のさらにまた別の面によれば、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進剤の製造のためのD-プシコースの使用と、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進剤としてのD-プシコースの使用が提供される。本発明によればまた、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療剤、予防剤または改善剤の製造のためのD-プシコースの使用と、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療剤、予防剤または改善剤としてのD-プシコースの使用が提供される。本発明によればまた、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減剤の製造のためのD-プシコースの使用と、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減の低減剤としてのD-プシコースの使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0034】
本発明のさらにまた別の面によれば、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進に用いるためのD-プシコースと、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善に用いるためのD-プシコースが提供される。本発明によればまた、腸内菌叢におけるコプロコッカス属菌の増殖促進により治療、予防または改善しうる疾患または症状の発症リスクおよび/または腸内菌叢の悪化リスクの低減に用いるためのD-プシコースが提供される。上記のD-プシコースは、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0035】
本発明の方法および使用はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【実施例】
【0036】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0037】
例1:D-プシコースの腸内菌叢に対する効果
(1)被験者の選別
20歳以上65歳未満の男性であって脂質および血糖値の指標に関してやや高値である未治療の者を選抜した。具体的には、下記アまたはイに該当する者を選抜した。
ア LDLコレステロール値が120mg/dL以上160mg/dL未満である者
イ 空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満あるいはHbA1c(NGSP)が6.2%以上6.5%未満である糖尿病境界域の者
【0038】
アまたはイに該当する者について下記スクリーニングを実施し被験者を選抜した。スクリーニングにおける除外基準は、(a)重篤な既往歴がある者、(b)消化管切除手術歴がある者(盲腸切除を除く)、(c)血糖値および脂質に関連する医薬品治療をしている者、(d)オリゴ糖や甘味料に関してアレルギーがある者、(e)血糖値および脂質に関して有効性を謳う食品を継続摂取している者、(f)本試験以外の臨床試験やモニター(食品、医薬品、化粧品または塗布薬)に参加中の者または本試験期間途中から参加予定の者および(g)その他、試験責任医師が被験者として不適当と判断した者とした。スクリーニングにより上記アを満たす7名および上記イを満たす7名の被験者(計14名)が選抜された。なお、アとイのいずれをも満たす者はイを満たす被験者に分類した。また、被験者にはヘルシンキ宣言によるガイドラインに基づいて実験内容を十分に説明したあと、被験者全員から実験の同意書を得た。
【0039】
(2)被験食
上記(1)で選抜した被験者14名に被験食としてD-プシコース(松谷化学工業社製、D-プシコース含有率99%)15gを1日1回、朝食時に飲料水等に溶解させて摂取させる単群オープン試験(非盲検試験)を行った。被験食の摂食期間は1か月間とした。
【0040】
(3)腸内菌叢のメタゲノム解析
D-プシコース摂取前および摂取開始から1か月後(以下、単に「摂取1か月後」ということがある。)に採便し、摂取前および摂取1か月後の各腸内菌叢DNAを調製した。腸内菌叢DNAを試料として、MiSeq(イルミナ社製)を用いて16S rRNAシーケンス法によるメタゲノム解析を行い、腸内菌叢の構造を取得した。D-プシコース摂取前および摂取1か月後の菌叢構造を属レベルで比較することにより、D-プシコース摂取が腸内菌叢へ与える影響を評価した。
【0041】
(4)統計学的解析
上記(3)で得られたD-プシコース摂取前後のメタゲノム解析結果について対応のあるt検定を実施した。危険率[P値]は5%未満とした。
【0042】
(5)結果
結果は、表1に示す通りであった。なお、検出された229個のOTU(Operational Taxonomic Unit、データ操作上一つのまとまりとして扱うための単位であり「操作的分類単位」ともよばれる)のうち、腸内菌叢における占有率が高い上位30菌群について評価し、31~229位のOTUをまとめて「その他」とした。また、分類不能のOTU2菌群を「分類不能OTU1」、「分類不能OTU2」とした。
【0043】
【0044】
表1の結果から、D-プシコース摂取前と比較して、摂取1か月後の腸内菌叢ではコプロコッカス(Coprococcus)属の占有率が有意に増大した。具体的には、腸内菌叢中のコプロコッカス属の平均占有率は4.19%から6.36%へ有意に増大(P=0.028)した。コプロコッカス属は酪酸を産生する細菌であり、腸内における酪酸産生増加による癌細胞の抑制、腸粘膜の正常化、整腸作用等が知られていることから、D-プシコースの摂取は腸内菌叢を改善する効果を示すことが確認された。また、腸内菌叢における最優占菌種であるビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属およびブラウティア(Blautia)属は、それぞれ平均占有率の増加が見られたが有意差は確認されなかった。