IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧 ▶ JNCファイバーズ株式会社の特許一覧

特許7216322フィルター濾材およびこれを用いたフィルター
<>
  • 特許-フィルター濾材およびこれを用いたフィルター 図1
  • 特許-フィルター濾材およびこれを用いたフィルター 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】フィルター濾材およびこれを用いたフィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20230125BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20230125BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D04H1/4382
D01F1/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019007782
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020116487
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平本 晋平
(72)【発明者】
【氏名】梅林 陽
(72)【発明者】
【氏名】伊東 秀実
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-036763(JP,A)
【文献】中国実用新案第204952465(CN,U)
【文献】中国実用新案第205832783(CN,U)
【文献】特開2011-190795(JP,A)
【文献】特開2015-193940(JP,A)
【文献】特開2010-058328(JP,A)
【文献】特開2014-159033(JP,A)
【文献】特開2012-122922(JP,A)
【文献】特開2008-221073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
B32B 5/26
D01F 1/10
D04H 1/4374
D04H 1/4382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維層と基材層とを含むフィルター濾材であって、
前記フィルター濾材の平均流量孔径が3.0μm以下であり、かつ前記極細繊維層の表面における水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下である、
フィルター濾材。
【請求項2】
前記極細繊維層を構成する極細繊維に、撥水剤が含有される、請求項1に記載のフィルター濾材。
【請求項3】
前記極細繊維層を構成する極細繊維に、前記撥水剤が混合されている、請求項2に記載のフィルター濾材。
【請求項4】
前記撥水剤にフッ素が含有される、請求項2または3に記載のフィルター濾材。
【請求項5】
前記極細繊維層の目付けが、0.1~20.0g/mである、請求項1~のいずれか1項に記載のフィルター濾材。
【請求項6】
前記基材層が、平均繊維径が1~30μmである不織布で構成される、請求項1~のいずれか1項に記載のフィルター濾材。
【請求項7】
前記極細繊維層を構成する極細繊維は、フッ素を含む撥水剤を含有させた疎水性樹脂である、
請求項1~のいずれか1項に記載のフィルター濾材。
【請求項8】
前記疎水性樹脂がフッ素系樹脂である、
請求項に記載のフィルター濾材。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のフィルター濾材を含む、フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストを捕集するためのフィルター濾材、およびこれを用いたフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
High Efficiency Particulate Air(HEPA)フィルターをはじめとする高性能フィルターは高い捕集効率を有することから、クリーンルーム用のフィルター、掃除機や空気清浄機用などの家電フィルター、ビル空調用のフィルター、産業用のフィルター、自動車のキャビンフィルターなどに使われている。高性能フィルターの使用において、ダストの目詰まりによって圧力損失が既定値まで達した場合には新品に交換するが、省資源化やランニングコスト抑制のために、洗浄して再使用できる高性能フィルターが望まれている。
【0003】
このようなフィルターの例として、特許文献1には、高性能フィルターの低圧損化を図るためのガラス繊維濾材が提案されている。特許文献1の濾材は、平均繊維径0.2~0.6μmの極細ガラス短繊維と平均繊維径3~5μmの合繊とを配合し、抄造することによって、厚み方向に組成の勾配を有する濾材を得るものである。また、特許文献2には、粉塵保持量の増加を図るためのエレクトレット濾材が提案されている。特許文献2の濾材は、ポリプロピレンのメルトブロー不織布と支持層とが接合された積層構造で、メルトブロー不織布は繊維径が5μm程度であり、孔径が1.0mm以下の小孔が多数形成されている。特許文献2の濾材は、折り畳まれてプリーツフィルターとして用いられる。
【0004】
一方、特許文献3には、ダストを容易に除去できるPTFE微多孔膜を表面に配置した積層体であるフィルター濾材が提案されている。PTFE微多孔膜は、ノードと呼ばれる樹脂塊の間に非常に細いフィブリルが形成された緻密膜であるため、捕集されたダストは膜の表面に堆積され易くなり、このようなフィルター濾材からは比較的容易にダストを洗い流すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-077400号公報
【文献】特開2014-226629号公報
【文献】特開2016-209870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2のようなガラス繊維濾材やエレクトレット濾材は、濾材を構成する繊維の間に形成される孔の大きさ(平均流量孔径)が比較的大きく、捕集されたダストが濾材の内部まで入り込む。このため、捕集されたダストを容易に取り除くことができず、場合によっては化学薬品などを用いて洗浄する必要があるため、環境面やコスト面に問題があった。
【0007】
一方、特許文献3のフィルター濾材では、濾材の表面に付着したダストを除去するために水洗いする場合があるが、PTFE微多孔膜は液滴除去性が必ずしも十分ではなく、ダストを含んだ水が表面上に一部残ることがあり、自浄性や速乾性の点で課題があった。
【0008】
本発明の課題は、上記の問題を解決し、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、かつ、化学薬品等を使用せずに水で容易にダストを除去でき、速乾性に優れるフィルター濾材、および当該フィルター濾材を用いてなるフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、静電紡糸等の方法で得られる極めて細い繊維を用いて、平均流量細孔径を一定以下とすることによって、低い圧力損失と高い捕集効率とを高いレベルで両立できることを確認した。また、このような極細繊維に撥水性を付与すると、濾材表面の撥水性が向上し、洗浄後に表面の液滴が除去しやすくなるため速乾性が向上する一方で、濾材の中に水が浸入しにくくなり洗浄性が損なわれることを見出した。そこで発明者らは速乾性と洗浄性を両立するためにさらに検討を重ね、濾材表面の水の付着エネルギーをパラメータとすることで、速乾性と洗浄性とを表すことが可能で、さらに、濾材表面の水の付着エネルギーを一定値以下とすることによって、ダストの捕集効率、圧力損失に加えて、洗浄性および速乾性を両立する濾材を得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、上記の課題を解決する以下の構成を有する。
【0011】
[1]極細繊維層と基材層とを含むフィルター濾材であって、前記フィルター濾材の平均流量孔径が3.0μm以下であり、かつ前記極細繊維層の表面における水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下である、フィルター濾材。
[2]前記極細繊維層を構成する極細繊維に、撥水剤が含有される、前記[1]に記載のフィルター濾材。
[3]前記撥水剤にフッ素が含有される、前記[2]に記載のフィルター濾材。
[4]前記極細繊維層の目付けが、0.1~20.0g/mである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のフィルター濾材。
[5]前記基材層が、平均繊維径が1~30μmである不織布で構成される、[1]~[4]のいずれか1項に記載のフィルター濾材。
[6]前記[1]~[5]のいずれか1項に記載のフィルター濾材を含む、フィルター。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成を有する本発明によれば、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、化学薬品等を使用せずに水で容易にダストを除去でき、速乾性にも優れるフィルター濾材を提供することが可能となる。特に、掃除機や空気清浄機用などの家電フィルター、ビル空調用のエアフィルター、産業用の中・高性能フィルター、クリーンルーム用のHEPAフィルターやULPAフィルター、自動車用のエアフィルター等に好適なフィルター濾材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1のフィルター濾材の洗浄性評価後の光学写真である。
図2】比較例1のフィルター濾材の洗浄性評価後の光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のフィルター濾材は、極細繊維層と基材層とを含むフィルター濾材であって、フィルター濾材の平均流量孔径が3.0μm以下であり、また、極細繊維層の表面における水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下であることを特徴とする。このような特徴を有することで、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、化学薬品等を使用せずに水で容易にダストを除去でき、速乾性に優れるフィルター濾材を提供することが可能となる。
【0016】
<極細繊維層>
本発明のフィルター濾材は極細繊維層を含む。なお、本明細書において、極細繊維とは、平均繊維径が1μm未満である繊維を意味する。このような極細繊維層を構成する極細繊維としては、特に限定されないが、平均繊維径が10~999.9nmの範囲であることが好ましく、50~200nmであることがより好ましく、80~150nmの範囲であることがさらに好ましい。極細繊維の平均繊維径が小さくなると、比表面積が大きくなるため、高捕集効率かつ低圧力損失といった高いフィルター特性が得られやすくなる。また、濾材を構成する繊維間に形成される孔径が小さくなるため、濾材の表面でダストが捕集されやすくなり、洗浄が容易になる。一方、繊維径の減少とともに繊維1本当たりの力学強度が低下し、フィルター加工時や使用時において繊維破断を引き起こす可能性があるが、極細繊維の平均繊維径が10nm以上であれば満足できる単糸強度が得られる。極細繊維の繊維径の変動係数は、特に限定されないが、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であればさらに好ましい。第一の繊維の変動係数が0.5以下であれば優れたフィルター特性と易洗浄性を得ることが可能である。平均繊維径は公知の方法で測定することができ、例えば、走査型電子顕微鏡を使用して、極細繊維を観察し、画像解析ソフトを用いて極細繊維50本の直径を測定し、その平均値を平均繊維径とすることなどが挙げられる。
【0017】
極細繊維を構成する樹脂は、特に限定されず、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの共重合体などの高分子材料を例示できる。水の付着エネルギーの低減という観点から、極細繊維を構成する樹脂は、疎水性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂であることがより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることがさらに好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、特に限定されないが、フッ化ビニリデン重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとの共重合体などを例示できる。極細繊維を構成する樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、10,000~10,000,000の範囲であることが好ましく、50,000~5,000,000の範囲であることがより好ましく、100,000~1,000,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、極細繊維の繊維形成性に優れ、平均繊維径の小さい極細繊維が得られ易くなるため好ましく、10,000,000以下であれば、溶解性や熱可塑性に優れ、加工が容易になるため好ましい。
【0018】
極細繊維層を構成する極細繊維には、撥水剤が含有されることが好ましい。撥水剤を含有することで、フィルター濾材表面の水の付着エネルギーを下げ、洗浄性、速乾性を向上させることが可能となる。撥水剤としては、水の付着エネルギーを下げる効果を奏するものであれば、特に限定されず、シリコン系シラン化合物、フッ素系シラン化合物、フッ素含有かご型シルセスキオキサン、フッ素変性ポリウレタン、シリコン変性ポリウレタンを例示できる。中でも、フッ素含有かご型シルセスキオキサンまたはフッ素変性ポリウレタン等のフッ素を含む撥水剤を用いることが、撥水性、作業性、価格の観点から好ましい。撥水剤の含有割合は特に限定されないが、極細繊維及び静電紡糸法による紡糸の際に生じる微粒子に対して、0.1~20重量%の範囲であることが好ましく、1~15重量%であることがより好ましい。撥水剤の濃度が0.1重量%以上であれば、水の付着エネルギーを下げる効果が得ることができ、20重量%以下であれば、使用量に見合う効果の向上が得られるため好ましい。
【0019】
本発明のフィルター濾材は、極細繊維層の表面における水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下であることを特徴とするところ、水の付着エネルギーは、表面からの水の滑落しやすさを表す指標である。水の付着エネルギー(E)は、極細繊維層上に水を滴下したフィルター濾材を傾け、水が滑落し始める時の滑落角(α)、その時点の水の接触半径(r)と液滴の質量(m)を用いて、以下の式(1)より算出される。具体的な測定方法は実施例に示される。
【数1】
【0020】
特に理論に拘束されるものではないが、極細繊維層における水の付着エネルギーは、極細繊維によって形成される表面の微細な凹凸構造、極細繊維の撥水性、その他の性質によって左右されるものと考えられている。表面の撥水性の評価指標としては、接触角の値を用いることが一般的であるが、表面の液滴除去性能を評価するには接触角だけでは不十分で、水の付着エネルギーの値を用いることが好ましい。本発明のフィルター濾材は、極細繊維層の表面の水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下であることが肝要であり、2.0mJ/m以下であればより好ましい。下限は特に制限されるものではないが、工業的な合理性を考慮すると0.1mJ/m以上とすることができる。水の付着エネルギーが3.0mJ/m以下であれば、洗浄中に水が極細繊維層を滑落しやすくなり、フィルターを水洗いした後の水切れが良く、速乾性が得られる。
【0021】
極細繊維層の目付は、求められるフィルター性能、洗浄性、速乾性などによって適宜選択可能であるが、例えば、0.1~20.0g/mの範囲を例示できる。目付が0.1g/m以上であれば、極細繊維が構成する繊維マトリクスが十分緻密となり、捕集効率や洗浄性を向上させることができ、20.0g/m以下であれば、圧力損失を低くすることができる。このような観点から、極細繊維層の目付けとしては、0.2~10.0g/mの範囲であることがより好ましく、0.5~5.0g/mの範囲であることがさらに好ましい。
【0022】
極細繊維層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0023】
極細繊維層の製造方法としては、特に限定されないが、静電紡糸法で製造されることが好ましい。静電紡糸法を用いることで、極細繊維を均一に紡糸することが可能であり、優れたフィルター特性を得ることができる。
【0024】
静電紡糸法とは、紡糸溶液を吐出させるとともに、電界を作用させて、吐出された紡溶液を繊維化し、コレクター上にサブミクロンオーダーのナノ繊維を不織布状に捕集する方法である。静電紡糸の方式は特に限定されず、一般的に知られている方式、例えば、1本もしくは複数のニードルを使用するニードル方式、ニードル先端に気流を噴き付けることでニードル1本あたりの生産性を向上させるエアブロー方式、1つのスピナレットに複数の溶液吐出孔を設けた多孔スピナレット方式、溶液槽に半浸漬させた円柱状や螺旋ワイヤ状の回転電極を用いるフリーサーフェス方式、供給エアによってポリマー溶液表面に発生したバブルを起点に静電紡糸するエレクトロバブル方式などが挙げられ、求めるナノ繊維の繊維径や物性に応じて選択することができる。
【0025】
紡糸溶液としては、曳糸性を有するものであれば特に限定されないが、樹脂を溶媒に分散させたもの、樹脂を溶媒に溶解させたもの、樹脂を熱やレーザー照射によって溶融させたものなどを用いることができる。本発明においては、非常に細く均一な繊維を得るために、樹脂を溶媒に溶解させたものを紡糸溶液として用いることが好ましい。
【0026】
樹脂を分散または溶解させる溶媒としては、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、蟻酸、酢酸、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロ酢酸及びこれらの混合物などを例示できる。混合して使用する場合の混合率は、特に限定されるものではなく、求める曳糸性や分散性、得られる繊維やフィルター濾材の物性を鑑みて、適宜設定することができる。
【0027】
極細繊維が撥水剤を含有する場合、特に限定されないが、紡糸溶液に樹脂とともに撥水剤を混合させることが好ましい。混合方法は特に限定されず、攪拌や超音波処理などの方法を例示できる。また、混合順序も特に限定されず、同時に混合しても、逐次に混合してもよい。混合時間は、撥水剤が紡糸溶液中に均一に分散または溶解していれば特に限定されず、1~24時間、攪拌や超音波処理をしてもよい。
【0028】
静電紡糸の安定性や繊維形成性を向上させる目的で、紡糸溶液中にさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤、臭化テトラブチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタモンモノラウレートなどの非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。界面活性剤の濃度は、紡糸溶液に対して5重量%以下の範囲であることが好ましい。5重量%以下であれば、使用に見合う効果の向上が得られるため好ましい。
【0029】
本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上記以外の成分も紡糸溶液の成分として含んでもよい。
【0030】
静電紡糸により極細繊維を得るためには、紡糸溶液の粘度を、10~10,000cPの範囲に調製することが好ましく、50~8,000cPの範囲であることがより好ましい。粘度が10cP以上であると、繊維を形成するための曳糸性が得られ、10,000cP以下であると、紡糸溶液を吐出させるのが容易となる。粘度が50~8,000cPの範囲であれば、広い紡糸条件範囲で良好な曳糸性が得られるのでより好ましい。紡糸溶液の粘度は、繊維形成性材料の分子量、濃度や溶媒の種類や混合率を適宜変更することで、調整することができる。
【0031】
紡糸溶液の温度は、常温で紡糸することもできるし、加熱・冷却して紡糸してもよい。紡糸溶液を吐出させる方法としては、例えば、ポンプを用いてシリンジに充填した紡糸溶液をノズルから吐出させる方法などが挙げられる。ノズルの内径としては、特に限定されないが、0.1~1.5mmの範囲であるのが好ましい。また吐出量としては、特に限定されないが、0.1~10mL/hrであるのが好ましい。
【0032】
電界を作用させる方法としては、ノズルとコレクターに電界を形成させることができれば特に限定されるものではなく、例えば、ノズルに高電圧を印加し、コレクターを接地してもよい。印加する電圧は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~100kVの範囲であるのが好ましい。また、ノズルとコレクターとの距離は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~50cmの範囲であるのが好ましい。コレクターは、紡糸された繊維を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定させるものではない。コレクターの素材としては、金属等の導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、例えば、平板状、シャフト状、コンベア状などを挙げることができる。コレクターが平板状であると、シート状に繊維集合体を捕集することができ、シャフト状であると、チューブ状に繊維集合体を捕集することができる。コンベア状であれば、シート状に捕集された繊維集合体を連続的に製造することができる。本発明では、コレクター上に基材層を載置してその上に紡糸することによって、基材層の上に直接、極細繊維層を形成させることが好ましい。
【0033】
<基材層>
本発明のフィルター濾材は基材層を含む。基材層を含むことで、極細繊維層の特性に、力学強度、耐久性、プリーツ加工性、接着特性などを付与することができる。基材層としては、フィルター濾材の要求特性や形態に応じて、適宜選択することができ、例えば、不織布、織布、ネットまたは微多孔フィルムなどを例示できる。
【0034】
基材層を構成する素材は、特に限定されないが、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系素材を用いた基材層の場合には、耐薬品性に優れるという特徴があり、耐薬品性が必要な液体フィルターなどの用途で好適に使用できる。ポリエチレンテレフタレート、ポリブチテレフタレート、ポリ乳酸、またはこれらを主成分とする共重合体などのポリエステル系素材を用いた基材層の場合には、プリーツ特性に優れるので、プリーツ加工が必要なエアフィルターなどの用途で好適に使用できる。
【0035】
フィルター濾材の加工性や通気性の観点から、基材層として不織布を用いることが好ましい。不織布としては、特に限定されず、不織布としては、スルーエアー不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、湿式不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ケミカルボンド不織布、フラッシュ紡糸不織布、静電紡糸不織布等を挙げることができる。
【0036】
本発明のフィルター濾材は、極細繊維層と基材層とが一体化していることが好ましい。一体化する方法としては、特に限定されないが、別々製造された極細繊維層と基材層とを接着剤や熱融着により一体化しても良いし、基材層上に極細繊維層を直接紡糸することにより一体化してもよく、基材層上に極細繊維層を直接紡糸した後、さらに熱による接着加工を施してもよい。
【0037】
熱による接着加工を実施する場合には、特に限定されないが、低融点成分と高融点成分で構成される熱融着性複合繊維からなる不織布を基材層として使用することが好ましい。熱融着性複合繊維の素材構成、複合形態、断面形状は特に限定されず、公知のものを使用できる。素材構成としては、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリプロピレンとポリプロピレン、共重合ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートなどの組み合わせが例示できる。さらに素材の入手容易性などを考慮すると、好ましくは、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートのいずれかの組み合わせが例示できる。
【0038】
断面の複合形態としては、例えば、鞘芯型、偏心鞘芯型、または並列型などが例示できる。繊維の断面形状も特に限定されず、一般的な丸形の他に、楕円形、中空形、三角形、四角形、八用形などの異型断面など、あらゆる断面形状を採用することができるが、極細繊維層と基材層との密着性を高めるという観点から、極細繊維層表面に対して略平行な扁平形状を有していることが好ましい。このような断面形状の繊維を有する基材層は、例えば、楕円形、扁平形、半円形の繊維をウェブ状に加工した後、熱や接着剤により接着する方法や、円形の繊維から構成される不織布を熱ロールによって圧密加工することによって得ることができる。
【0039】
上記熱融着性複合繊維からなる不織布を製造する方法は、特に限定されず、カーディング法、抄紙法、エアレイド法、メルトブローン法、またはスパンボンド法などの公知の製造方法が使用できる。不織布に加工する際の繊維接着方法についても、特に限定されず、例えば、エアスルー加工による熱融着やエンボス加工による熱圧着、ニードルパンチやスパンレース加工による繊維交絡、接着剤によるケミカルボンドなどが挙げられる。
【0040】
基材層を構成する繊維の太さは、特に制限されないが、例えば、平均繊維径が1~100μmのものを用いることができ、5~50μmであれば好ましく、10~30μmであればより好ましい。平均繊維径が1μm以上であれば基材層の圧力損失を抑制することができ、平均繊維径が100μm以下であれば極細繊維層を均一に捕集することができる。
【0041】
基材層の目付としては、特に限定されず、15g/m以上であることが好ましく、30g/m以上であることがより好ましく、60g/m以上であることがさらに好ましい。基材層の目付が15g/m以上であれば、極細繊維層の収縮、皺入り、カール等を抑制し、加工強度を付与することが可能となる。基材層の比容積は特に限定されず、5cm/g以下であることが好ましく、3cm/g以下であることがさらに好ましい。基材層の比容積が5cm/g以下であれば、極細繊維層の剥離強度、耐摩耗性が向上し、繰り返し洗浄した際の捕集効率の低下が小さくなるため好ましい。基材層の厚みは、特に制限されず、所望のフィルター物性や用途に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05~10mmとすることができ、0.1~5mmであれば好ましい。例えば、プリーツフィルターとして用いる場合、基材層を0.1~5mmとすることでプリーツ加工適性が向上するため好ましい。
【0042】
基材層の通気度としては、特に限定されないが、10cc/cm/秒以上であることが好ましく、100cc/cm/秒以上であることがより好ましく、200cc/cm/秒以上であることがさらに好ましい。通気度が、10cc/cm/秒以上であれば、圧力損失を低くすることができるため好ましい。
【0043】
極細繊維層を静電紡糸法により、基材層に直接紡糸することでフィルター濾材を製造する場合、基材層の電気漏洩抵抗値としては、電気漏洩抵抗値が1010Ω以下であることが好ましく、10Ω以下であることがより好ましい。電気漏洩抵抗値が1010Ω以下であれば、極細繊維層が基材層上に電気的に反発することをなく安定に堆積させることが可能となり、密着性を高めることができる。基材層の縦方向と横方向の引張強度の平均値は、特に限定されないが、強度や剛性、加工性付与の観点から、30N/50mm以上であることが好ましく、60N/50mm以上であることがより好ましい。
【0044】
基材層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、エレクトレット加工、制電加工、撥水加工、抗菌加工、紫外線吸収加工、近赤外吸収加工、防汚加工、着色加工などを施されていてもよいが、洗浄性の観点から、撥水加工が施されていることが好ましい。
【0045】
<フィルター濾材>
本発明のフィルター濾材は、前述の極細繊維層および基材層を含むが、その極細繊維層の表面側にさらに、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層を、積層一体化してもよい。積層一体化することで、極細繊維層面が表面に露出しにくくなり、耐摩耗性、耐久性、加工強度を向上させることができる。洗浄性の観点から、ネットが積層一体化されていることが好ましい。一体化方法としては、特に限定されず、加熱したフラットロールやエンボスロールによる熱圧着処理、ホットメルト剤や化学接着剤による接着処理、循環熱風もしくは輻射熱による熱接着処理などを採用することができる。
【0046】
本発明のフィルター濾材は、平均流量孔径が3.0μm以下であることを特徴とする。本明細書において、フィルター濾材の平均流量孔径とは、極細繊維層と基材層とを含むフィルター濾材全体の平均流量孔径をいう。平均流量孔径は、濾材を構成する繊維の間に形成される孔の大きさの指標であり、公知の方法で測定することができる。例えば、細孔径分布測定器等によって測定でき、詳細は実施例に示される。平均流量孔径が3.0μm以下であれば、捕集効率と圧力損失を両立させ、かつ、ダストが濾材内部に進入しにくくなり、洗浄性を向上させることができると考えられている。平均流量孔径の下限は、フィルター濾材の圧力損失の観点からは0.1μm以上であることが好ましい。フィルター濾材の平均流量孔径は、極細繊維の平均繊維径、目付などを適宜変更することで調整可能である。基材層は、平均流量孔径には大きく寄与しないと考えられている。
【0047】
本発明のフィルター濾材におけるダストの捕集効率は、特に限定されないが、90%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましく、99.97%以上であることがさらに好ましい。また、圧力損失は、特に限定されないが、300Pa以下であることが好ましく、180Pa以下であることがより好ましく、160Pa以下であることがさらに好ましい。ここで、ダストの捕集効率および圧力損失は、粒子径:0.07μm(個数中央径)、粒子濃度:10~25mg/mの粒子を、流速5.3cm/秒でサンプルを通過させたときの測定値である。ダストの捕集効率と圧力損失は、極細繊維の平均繊維径や目付を適宜変更して調整することが可能である。
【0048】
本発明のフィルター濾材は、枠、補強材、本発明以外のフィルター濾材等の公知の構成と組み合わされて、フィルターとして利用される。フィルターは、プリーツフィルター、平板状フィルター、円筒状フィルター、等のいずれの形態であってもよいが、プリーツフィルターとして好適に用いることができる。フィルターとして利用する際、フィルター濾材の極細繊維層側を、フィルターの表面側(吸気側)として用いることが好ましい。フィルターの用途としては、特に制限されないが、掃除機や空気清浄機用などの家電フィルター、ビル空調用のエアフィルター、産業用の中・高性能フィルター、クリーンルーム用のHEPAフィルターやULPAフィルター、自動車用のキャビンフィルターなどであることが好ましい。
【実施例
【0049】
下記の実施例は、例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
【0050】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量:30万)をN,N-ジメチルアセトアミドに18重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%、撥水剤としてフルオロオクチルシルセスキオキサン(エヌビーディナノテクノロジーズ社製)をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを含む熱接着性複合繊維からなるスルーエアー不織布(繊維径:10μm、厚み:60μm、目付:18g/m)を基材として、この上に前記紡糸溶液を注射針(テルモ社製、ゲージ:27G、針長:19mm)から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が0.5g/mとなるように作製した。本実施例の紡糸条件は、単孔溶液供給量は1.0mL/hr、印加電圧は30kV、紡糸距離は150mm、紡糸空間は気温25度および湿度30%であった。
【0051】
[実施例2]
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量:30万)をN,N-ジメチルアセトアミドに18重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%、撥水剤としてフルオロオクチルシルセスキオキサン(エヌビーディナノテクノロジーズ社製)をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、実施例1に記載のスルーエアー不織布を基材として、この上に前記紡糸溶液を注射針(テルモ社製、ゲージ:27G、針長:19mm)から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が1.5g/mとなるように作製した。本実施例の紡糸条件は、実施例1に記載の条件であった。
【0052】
[実施例3]
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量:30万)をN,N-ジメチルアセトアミドに18重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%、撥水剤としてフッ素系共重合体(大日精化社製、ダイアロマーFF129D)をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、実施例1に記載のスルーエアー不織布を基材として、この上に前記紡糸溶液を注射針(テルモ社製、ゲージ:27G、針長:19mm)から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が1.5g/mとなるように作製した。本実施例の紡糸条件は、実施例1に記載の条件であった。
【0053】
[実施例4]
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ディーアイシーコベストロポリマー社製、T1190)を混合溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド:テトラヒドロフラン=60重量%:40重量%)に12重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%、撥水剤としてフルオロオクチルシルセスキオキサン(エヌビーディナノテクノロジーズ社製)を熱可塑性ポリウレタンエラストマーの重量に対して10重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、実施例1に記載のスルーエアー不織布を基材として、この上に前記紡糸溶液を注射針(テルモ社製、ゲージ:27G、針長:19mm)から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が3.0g/mとなるように作製した。本実施例の紡糸条件は、実施例1に記載の条件であった。
【0054】
[比較例1]
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量:30万)をN,N-ジメチルアセトアミドに18重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%、撥水剤としてフルオロオクチルシルセスキオキサン(エヌビーディナノテクノロジーズ社製)をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、実施例1に記載のスルーエアー不織布を基材として、この上に前記紡糸溶液を実施例1に記載の注射針から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が0.1g/mとなるように作製した。本比較例の紡糸条件は、実施例1に記載の条件であった。
【0055】
[比較例2]
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量:30万)をN,N-ジメチルアセトアミドに18重量%の濃度で溶解し、導電助剤としてラウリル硫酸ナトリウムを全溶液重量に対して0.025重量%の濃度で添加し、紡糸溶液を調製した。次に、実施例1に記載のスルーエアー不織布を基材として、この上に前記紡糸溶液を実施例1に記載の注射針から紡出して静電紡糸をし、極細繊維層の目付が1.2g/mとなるように作製した。本比較例の紡糸条件は、実施例1に記載の条件であった。
【0056】
実施例中に示した物性値の測定方法と定義を以下に示す。
【0057】
<平均流量孔径>
Porous Materials社製のAutometed Perm Porometerを用いて、浸液にPorous Materials社製のガルウィック(表面張力=15.6dynes/cm)を用い、JIS K3832(バブルポイント法)に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0058】
<フィルター濾材の圧力損失>
TSI社製のフィルター効率自動検出装置(Model8130)を使用して、流速5.3cm/秒に設定して圧力損失を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
<フィルター濾材の極細繊維面における水の付着エネルギー>
協和界面科学株式会社製の接触角測定装置DM-500を用いて、平坦なガラス基板上にフィルター濾材を静止させた。ガラス基板の傾きを0度の状態で4.0μLの水の液滴をフィルター濾材表面上に滴下し、液滴が静止した3秒後に静的接触角を測定した。その後、ガラス基板を0.5度/秒の速さで傾斜させ、液滴の端点が静止位置から離れたときの液滴の滑落角をα、着液半径をr、液滴質量をm、重力加速度をgとし、下記の式(1)から付着エネルギーE(mJ/m)を求めた。結果を表1に示す。
【0060】
【数2】
【0061】
<洗浄性の評価>
JIS試験用粉体8種関東ローム1.0gをフィルター濾材面(100cm)に均一に負荷し、粉体を負荷した面と反対側から1m/秒の風速で1分間吸引した。粉体を負荷したフィルター濾材を40°の角度に傾け、濾材面から5cmの高さから、400mLの純水を落下させて洗浄した。その後、乾燥機内に70℃で1時間静置して乾燥させた。乾燥後、前記フィルター濾材の圧力損失の方法に則して測定した。この操作を計5回繰り返した。初期圧力損失をP、洗浄性の評価終了後の圧力損失をPとし、下記の式(2)から圧力損失上昇率Rを算出した。洗浄性は、圧力損失上昇率Rが0%以上5%未満の場合は◎、5%以上10%未満の場合は〇、10%以上の場合は×とした。結果を表1に示す。
【0062】
【数3】
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1~4と比較例1を比較すると、平均流量孔径が3.0μm以下である実施例1~4は高い洗浄性を示したが、平均流量孔径が3.0μmを越える比較例1は低い洗浄性を示した。比較例1は、付着エネルギーについては、実施例1~4より劣るものではないにも関わらず、洗浄性が得られなかった。これは、平均流量孔径が3.0μm以下である実施例1~4のフィルター濾材では、ダストが濾材内部に進入しにくくなり、洗浄性が向上したためであると考えられた。
【0065】
実施例1~4と比較例2は充分なダスト捕集性を備えていた。しかし、実施例1~4と比較例2を比較すると、付着エネルギーが3.0mJ/m以下である実施例1~4は洗浄性が高いが、付着エネルギーが3.0mJ/mを超える比較例2は、洗浄性が低かった。比較例2は、平均流量孔径については、実施例1~4より劣るものではないにも関わらず、洗浄性が得られなかった。これは、付着エネルギーが3.0mJ/m以下であると、ダストを含んだ液滴が濾材表面から除去されやすくなったためであると考えられた。
【0066】
図1、2に、洗浄性評価後の実施例1及び比較例1のフィルター濾材の光学写真を示す。図1(実施例1)のフィルター濾材は、視覚的にほぼ確認できない程度までダストが洗浄除去された。一方、図2(比較例1)のフィルター濾材は、フィルター表面に残存するダストが視認できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のフィルター濾材は、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、化学薬品等を使用せずに水で容易にダストを除去できるため、掃除機や空気清浄機用などの家電フィルター、ビル空調用のエアフィルター、産業用の中・高性能フィルター、クリーンルーム用のHEPAフィルターやULPAフィルター、自動車用のキャビンフィルターなどに好適に用いることが可能である。
図1
図2