(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230125BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230125BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230125BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20230125BHJP
H01F 1/375 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
B32B27/18 Z
C01G49/00 E
H01F1/375
(21)【出願番号】P 2017129752
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】西谷 誠治
(72)【発明者】
【氏名】葛生 知宏
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/149785(WO,A1)
【文献】特開2016-111341(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043449(WO,A1)
【文献】特開2004-022892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K9/00
C01G49/00
H01F1/375
B32B7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された電波吸収膜と、を備える電波吸収体であって、
前記電波吸収膜は、MTC型ε-Fe
2O
3と、黒色酸化チタンとを少なくとも含み、
前記MTC型ε-Fe
2O
3は、空間群がε-Fe
2O
3結晶と同じであり、かつε-M
xTi
yCo
yFe
2-2y-xO
3(ただし、MはGa、In、Al、及びRhから選ばれる少なくとも1種からなる元素であり、0<x<1、0<y<1)で表される結晶であ
り、
前記黒色酸化チタンの配合割合が、前記電波吸収膜の体積に対して、5体積部以上40体積部以下である電波吸収体。
【請求項2】
前記黒色酸化チタンは、Ti
4O
7、及びλ-Ti
3O
5から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記電波吸収膜が、熱硬化性樹脂の硬化物をさらに含む請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる請求項3に記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記電波吸収膜が、セラミックスをさらに含む請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記セラミックスは、金属酸化物からなる請求項5に記載の電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の周辺の障害物を検知して、当該障害物との衝突を未然に回避するために、衝突被害軽減ブレーキを搭載した車両が増加している。衝突被害軽減ブレーキのセンサーには、ミリ波レーダー装置、赤外線レーダー装置、カメラを用いた画像認識装置が知られている。なかでも、ミリ波レーダー装置は、逆光、雨霧などの影響を受けにくく、視界の効かない夜間や悪天候時に強いことから注目されている。
【0003】
ミリ波レーダー装置は、送信用アンテナから出射する電波(以下、送信波)として76GHz帯(76GHz以上77GHz以下)又は79GHz帯(77GHz以上81GHz以下)の電波を主に用い、障害物から反射してきた電波を受信用アンテナで受信することによって、障害物の位置、相対速度、方向などを検知する。
【0004】
しかし、送信波の一部がミリ波レーダー装置内部で反射され、この反射された電波(以下、直接波)が受信用アンテナに直接受信されてしまうことがあり、ミリ波レーダー装置が電波の反射が弱い歩行者を検知しにくくなるなどのおそれがあった。そのため、このような直接波を除去するために、76GHz以上81GHz以下を含む周波数帯域において、高い反射減衰量を発現する電波吸収体が求められている。
【0005】
このような電波吸収体として、特許文献1には、アルミニウム製である平面状の基材上に形成された、膜厚が220~230μmの電波吸収膜を備える電波吸収体であって、電波吸収体は、76GHz、78GHz、79GHzに電波吸収量が最大となるピークを有し、電波吸収膜は、イプシロン型酸化鉄、カーボンナノチューブ、チタン酸バリウム、樹脂及び分散剤からなり、イプシロン型酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶、及び、結晶と空間群がε-Fe2O3と同じであって、ε-Fe2O3結晶のFeサイトの一部がGaで置換されたものであり、式ε-Ga0.45Fe1.55O3で表され、電波吸収膜の比誘電率が、17.2~26.0である電波吸収体が具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に具体的に開示されている電波吸収体は、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅は7GHz未満であり、反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅は2GHz未満である。そのため、従来の電波吸収体では、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅が狭く、直接波を十分に除去できないおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅が広い電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電波吸収体は、基材と、前記基材上に形成された電波吸収膜と、を備える電波吸収体であって、前記電波吸収膜は、MTC型ε-Fe2O3と、黒色酸化チタンとを少なくとも含み、前記MTC型ε-Fe2O3は、空間群がε-Fe2O3結晶と同じであり、かつε-MxTiyCoyFe2-2y-xO3(ただし、MはGa、In、Al、及びRhから選ばれる少なくとも1種からなる元素であり、0<x<1、0<y<1)で表される結晶であり、前記黒色酸化チタンの配合割合が、前記電波吸収膜の体積に対して、5体積部以上40体積部以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅が広い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、本発明の第一実施形態に係る電波吸収体の概略正面図である。
図1Bは、
図1A中の切断線Z-Zに従って切断した電波吸収体の概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一実施形態に係る電波吸収体の使用形態に係るミリ波レーダー装置の概略断面図である。
【
図3】
図3Aは、本発明の第二実施形態に係る電波吸収体の概略正面図である。
図3Bは、
図3A中の切断線Z-Zに従って切断した電波吸収体の概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1~4の電波吸収体の電波の周波数に対する反射減衰量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
[第一実施形態に係る電波吸収体1]
図1Aは、第一実施形態に係る電波吸収体1(以下、第一電波吸収体1という場合がある)の概略正面図である。
図1Bは、
図1A中の切断線Z-Zに従って切断した第一電波吸収体1の概略断面図である。
【0014】
第一電波吸収体1は、
図1A及び
図1Bに示すように、第一基材10と、第一電波吸収膜20とを備える単層型電波吸収体である。第一電波吸収膜20は、第一基材10上に形成されている。第一基材10は、電子導電体からなる。第一電波吸収膜20は、複数のMTC型ε-Fe
2O
3粒子21と、複数の黒色酸化チタン粒子22と、熱硬化性樹脂の硬化物23とからなる。複数のMTC型ε-Fe
2O
3粒子21、及び複数の黒色酸化チタン粒子22は、熱硬化性樹脂の硬化物23中に分散されている。MTC型ε-Fe
2O
3は、空間群がε-Fe
2O
3結晶と同じであり、かつ一般式ε-M
xTi
yCo
yFe
2-2y-xO
3(ただし、MはGa、In、Al、及びRhから選ばれる少なくとも1種からなる元素であり、0<x<1、0<y<1)で表される結晶である。ここで、MTC型ε-Fe
2O
3粒子21とは、MTC型ε-Fe
2O
3の結晶を主成分とする粒子である。複数の黒色酸化チタン粒子22とは、黒色酸化チタンの結晶を主成分とする粒子である。黒色酸化チタンとは、TiO
2に対して酸素原子が不足している亜酸化チタンを意味し、一般式TiO
x(ただし、1≦x<2)で表される。結晶の存在比は、X線回折パターンに基づくリードベルト法による解析によって求めることができる。
【0015】
第一電波吸収体1は上記の構成からなるので、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅が従来よりも広い。すなわち、第一電波吸収体1は少なくとも76GHz~81GHzの電波を除去しやすくなる。そのため、例えば、後述するように、第一電波吸収体1をミリ波レーダー装置(送信波:76GHz帯又は79GHz帯)内部に配置して使用すれば、レーダー装置内部で反射した電磁波などの不要な電磁波を十分に吸収でき、ミリ波レーダー装置は、歩行者を検知しやすくなる。ここで、76GHz~81GHzを含む周波数帯域とは、76GHz~81GHzを含めばよく、好ましくは65GHz~95GHzである。反射減衰量の測定方法は、実施例に記載の反射減衰量の測定方法と同一である。
【0016】
さらに、第一電波吸収体1は上記の構成からなるので、65GHz~95GHzの電波の入射角に対する依存性(以下、入射角依存性)が従来よりも小さい。第一電波吸収体1では、65GHz~95GHzの範囲に反射減衰量のピークを有し、-10dB以下を示す入射角範囲がTE波(Transverse Electric Wave)で最大60度、TM波(Transverse Magnetic Wave)で最大60度、-15dB以下を示す入射角範囲がTE波で最大50度、TM波で最大45度と高い反射減衰量を維持することができる。
【0017】
第一電波吸収体1は、好ましくは20GHz~300GHzの間、より好ましくは65GHz~95GHzの間、さらに好ましくは76GHz~81GHzの間に、反射減衰量が最低となる吸収ピーク(電波吸収量が最大となる吸収ピーク)を有する。
【0018】
第一電波吸収体1の反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅は、広ければ広いほど好ましい。反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅の下限は、好ましくは10GHz、より好ましくは8GHzである。ここで、第一電波吸収体1の反射減衰量が-10dB以下を示す範囲が離散的に複数存在する場合、反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅は、これらの合計であればよい。例えば、反射減衰量が-10dB以下を示す範囲が、65GHz~68GHz、75GHz~80GHzである場合、反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅は8GHzとなる。
【0019】
第一電波吸収体1の反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅は、広ければ広いほど好ましい。反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅の下限は、好ましくは6GHz、より好ましくは4GHzである。ここで、第一電波吸収体1の反射減衰量が-15dB以下を示す範囲が離散的に複数存在する場合、反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅は、これらの合計であればよい。
【0020】
〔第一基材10〕
第一電波吸収体1は、第一基材10を備える。第一基材10は、第一電波吸収膜20を支持する。
【0021】
第一基材10は、厚みが均一な平板状であり、第一面10A及び第二面10Bを有する。第一面10Aは、平坦な面である。第一面10A上には、第一電波吸収膜20が形成されている。第一基材10の寸法は、第一電波吸収体1の使用用途などに応じて、適宜調整すればよい。第一基材10の厚さは、好ましくは0.1μm以上5cm以下である。
【0022】
第一基材10は電子導電体からなる。これにより、第一電波吸収体1は、第一基材10の材質が電子導電体でない別の材質からなる他は第一電波吸収体1と同一の構成と比べて、反射減衰量がより大きい。これは、後述する理由によると推測される。電波が第一電波吸収体1に照射されると、電波は第一電波吸収膜20の表面上で一部反射(第一反射波と呼ぶ)され、残りの電波は第一電波吸収膜20の内部を伝播し、MTC型ε-Fe2O3及び黒色酸化チタンによって減衰された後、第一基材10の表面に到達する。電波は第一基材10の表面で発生する渦電流によって完全に反射され、再び第一電波吸収膜20の内部を減衰しながら伝播し、第一電波吸収膜20の表面に到達して、一部は反射されて再び第一電波吸収膜20の内部に戻り、残りの電波は第一電波吸収膜20の表面20Aから放射される(第二反射波と呼ぶ)。以降、同様に第一電波吸収膜20内部での反射と減衰が繰り返される。第一電波吸収膜20の厚みを適切に制御することにより、反射波同士(第一反射波、第二反射波・・・)を干渉させて相殺させることができる。このように、第一電波吸収膜20内部において繰り返される反射と減衰を利用した電波の減衰と、反射波の干渉により、高い反射減衰量を達成することができる。電子導電体としては金属を用いることが好ましい。金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼材(SUS)、銅、真鍮、銀、金、白金などを用いることができる。ここで、金属とは、比抵抗(20℃)が10-4Ω・m以下である物質をいう。
【0023】
第一基材10は第一面10Aが平坦な平板状であるが、本発明はこれに限定されず、第一基材10の形状は、第一電波吸収体1の使用用途などに応じ適宜調整すればよく、例えば、湾曲状などであってもよいし、第一面10Aは、凹凸形状であってもよい。凹凸形状を構成する凸部の断面形状として、半円、半楕円、三角形、長方形、菱形、六角形などが挙げられる。
【0024】
〔第一電波吸収膜20〕
第一電波吸収体1は、第一電波吸収膜20を備える。第一電波吸収膜20は、電波のエネルギーの一部を熱エネルギーに変換する。すなわち、第一電波吸収膜20は、第一電波吸収膜20内部を伝搬する電波を吸収する。第一電波吸収膜20は、第一基材10の第一面10A上に形成されている。
【0025】
第一電波吸収膜20は、複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21と、複数の黒色酸化チタン粒子22と、熱硬化性樹脂の硬化物23とからなる。複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21、及び複数の黒色酸化チタン粒子22は、熱硬化性樹脂の硬化物23中に分散されている。
【0026】
第一電波吸収膜20の厚みT20は均一である。第一電波吸収膜20の表面20Aは平坦な面である。第一電波吸収膜20の厚みT20は、吸収対象とする電波の周波数、第一電波吸収膜20の材質などに応じて適宜調整すればよい。特に、第一電波吸収膜20の厚みT20は、吸収対象とする電波の第一電波吸収膜20内における波長の4分の1に、その波長の2分の1のn倍を加えた厚みであることが好ましい。nは、0以上の整数であり、好ましくは0以上3以下、より好ましくは0以上1以下である。また、第一電波吸収膜20の厚みT20を調整することによって、第一電波吸収体1の反射減衰量、吸収ピークが現れる周波数、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅などを調整することができる。第一電波吸収膜20の厚みT20は、透過型電子顕微鏡(TEM)の第一電波吸収膜20の断面のTEM像をもとに求めることができる。
【0027】
第一電波吸収膜20の厚みT20が、電波の第一電波吸収膜20内における波長の4分の1に、その波長の2分の1のn倍を加えた厚みであれば、第一面10A側から発する電波の反射波をより低減することができる。これは、表面20Aで反射する電波と、第一電波吸収膜20内部の第一面10Aで反射して表面20Aから出射する電波(以下、第一内部反射波)とが逆位相となり、互いに干渉して打ち消し合うことが主要因であると推測される。この第一内部反射波は、第一面10Aで一度のみ反射された一次反射波のみならず、第一面10Aで二度以上反射された複次反射波を含む。
【0028】
第一電波吸収膜20の比透磁率は、MTC型ε酸化鉄の共鳴周波数における虚部が好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上である。第一電波吸収膜20の比誘電率は、好ましくは3以上、より好ましくは7以上である。
【0029】
第一電波吸収体1では、第一電波吸収膜20の表面20Aは平坦な面であるが、本発明はこれに限定されず、表面20Aの形状は、電波が第一電波吸収膜20内部に入射しやすい形状であることが好ましく、例えば、ピラミッド形状、ウェッジ形状などであってもよい。また、第一電波吸収体1では、
図1Aに示すように、第一電波吸収膜20は第一基材10の第一面10Aの全面に形成されていないが、本発明はこれに限定されず、第一電波吸収膜20は第一面10Aの全面に形成されていてもよい。
【0030】
(MTC型ε-Fe2O3粒子21)
第一電波吸収膜20は、一種類以上の組成のMTC型ε-Fe2O3粒子21を含有する。これにより、第一電波吸収体1は、中心吸収周波数が30GHz~220GHzの反射減衰量に優れる。特に、第一電波吸収体1は、従来のイプシロン型-ガリウム酸化鉄の粒子を含有する場合よりも広い吸収帯域を実現できる。例えば、反射減衰量が-15dBとなる周波数領域が4GHz以上、-10dBとなる周波数領域が6GHz以上であるような広帯域での吸収性能を実現できる。
【0031】
MTC型ε-Fe2O3は、空間群がε-Fe2O3結晶と同じであって、ε-MxTiyCoyFe2-2y-xO3(ただし、MはGa、In、Al、及びRhから選ばれる少なくとも1種からなる元素であり、0<x<1、0<y<1、2-2y-x>0)で表される結晶である。すなわち、MTC型ε-Fe2O3は、ε-Fe2O3結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換され、かつTi,Coとの共ドープを行い、精製して得られる結晶であって、ε-Fe2O3結晶の鉄イオンの一部がMイオン、Tiイオン、Coイオンで置換された結晶である。
【0032】
M元素の置換量を調整することにより、第一電波吸収体1の反射減衰量が最低となる吸収ピークの周波数を制御することができる。
【0033】
複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21は、単一組成の粒子のみからなってもよいし、異なる組成の粒子を含んでいてもよく、対象とする電波の周波数に応じて適宜調整すればよい。例えば、複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21は、GTC型ε-Fe2O3粒子(MがGa)のみを含んでもよいし、GTC型ε-Fe2O3粒子(MがGa)、ITC型ε-Fe2O3粒子(MがIn)、ATC型ε-Fe2O3粒子(MがAl)、及びRTC型ε-Fe2O3粒子(MがRh)の少なくとも1つ以上を含んでいてもよい。
【0034】
MTC型ε-Fe2O3粒子21の形状は、球状である。これにより、第一電波吸収膜20に対する複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21の充填量を高くすることができる。
【0035】
MTC型ε-Fe2O3粒子21の平均粒径は、MTC型ε-Fe2O3粒子21が単磁区構造となる程度の大きさであることが好ましく、具体的に好ましくは5nm以上200nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下である。MTC型ε-Fe2O3粒子21の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により第一電波吸収膜20の断面観察を行い、TEM像をもとに、10個のMTC型ε-Fe2O3粒子21の面積から求めた粒径の平均値である。
【0036】
MTC型ε-Fe2O3粒子21の含有割合は、第一電波吸収膜20の体積に対して、好ましくは5体積部以上70体積部以下、より好ましくは10体積部以上60体積部以下、さらに好ましくは10体積部以上40体積部以下である。
【0037】
第一電波吸収体1では、MTC型ε-Fe2O3粒子21の形状は球状であるが、本発明はこれに限定されず、ロッド状、扁平状、不規則形状などであってもよい。
【0038】
(黒色酸化チタン粒子22)
第一電波吸収膜20は、複数の黒色酸化チタン粒子22を含有する。これにより、第一電波吸収体1は、第一電波吸収膜20が黒色酸化チタン粒子22を含有しない他は第一電波吸収体1と同一の構成と比べて、第一電波吸収体1の反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅がより広くなる。
【0039】
黒色酸化チタン粒子22の周波数75GHz以上において比誘電率は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。これにより、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅をより広げることができる。
【0040】
黒色酸化チタンは、TiO2に対して酸素原子が不足している亜酸化チタンを意味し、一般式TiOx(ただし、1≦x<2)で表されるxの下限値は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。xの上限値は、好ましくは2未満、より好ましくは1.9以下、さらに好ましくは1.85以下である。具体的に、黒色酸化チタンとしては、例えば、TiO、Ti2O3、λ-Ti3O5、γ-Ti3O5、β-Ti3O5、Ti4O7、Ti5O9、Ti6O11などが挙げられる。なかでも、76GHz~81GHzにおいて高い誘電率を示すなどの観点から、Ti4O7及びλ-Ti3O5から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0041】
黒色酸化チタン粒子22の形状は、表面に凹凸があるサンゴ状の形状である。これにより、第一電波吸収膜20に対する複数の黒色酸化チタン粒子22の充填量を高くすることができる。
【0042】
黒色酸化チタン粒子22の平均二次粒径は、好ましくは100nm以上10μm以下である。黒色酸化チタン粒子22の平均二次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により粉末状試料の形状観察を行い、SEM像をもとに、求めた粒径の平均値である。
【0043】
黒色酸化チタン粒子22の配合割合は、第一電波吸収膜20の体積に対して、好ましくは5体積部以上70体積部以下、より好ましくは10体積部以上60体積部以下、さらに好ましくは10体積部以上40体積部以下である。
【0044】
第一電波吸収体1では、黒色酸化チタン粒子22の形状はサンゴ状の形状であるが、本発明はこれに限定されず、球状、扁平状、不規則形状などであってもよい。
【0045】
(熱硬化性樹脂の硬化物23)
第一電波吸収膜20は、熱硬化性樹脂の硬化物23を含む。熱硬化性樹脂の硬化物23は、主に、MTC型ε-Fe2O3粒子21及び黒色酸化チタン粒子22を、第一基材10に接着させるバインダーとして機能する。
【0046】
熱硬化性樹脂としては、熱により硬化して、MTC型ε-Fe2O3及び黒色酸化チタンを第一基材10に接着させることができる樹脂であればよく、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シアン酸エステル樹脂、イソシアネート樹脂、ポリベンズオキサゾール樹脂、これらの変性樹脂などを用いることができる。なかでも、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂及びポリイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0047】
熱硬化性樹脂の硬化物23の配合割合は、第一電波吸収膜20の体積に対して、好ましくは5体積部以上70体積部以下、より好ましくは10体積部以上60体積部以下、さらに好ましくは20体積部以上60体積部以下である。
【0048】
第一電波吸収体1では、第一電波吸収膜20は熱硬化性樹脂の硬化物23を含むが、本発明はこれに限定されず、本発明における電波吸収膜はMTC型ε-Fe2O3及び黒色酸化チタンを含んでいればよい。その例として、電波吸収膜は、MTC型ε-Fe2O3及び黒色酸化チタンのみからなってもよいし、MTC型ε-Fe2O3及び黒色酸化チタンの他に後述するセラミックスなどを含んでもよい。
【0049】
(添加剤)
第一電波吸収膜20は、複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21と、複数の黒色酸化チタン粒子22と、熱硬化性樹脂の硬化物23とからなるが、本発明はこれに限定されず、必要に応じて、無機材料、添加剤などを含有していてもよい。無機材料としては、カーボン類、金属酸化物などが挙げられる。カーボン類としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、カーボンブラックなどが挙げられる。金属酸化物としては、チタン酸バリウム、酸化鉄、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。添加剤としては、例えば、分散剤、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、金属不活性剤、難燃剤、帯電防止剤などを用いることができる。分散剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤などが挙げられる。これら無機材料、添加剤などの形状は特に限定されず、例えば、球状、扁平状、ファイバー状などであってもよい。添加剤の配合割合は、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜調整すればよい。
【0050】
[第一実施形態に係る電波吸収体1の使用形態]
図2は、第一電波吸収体1の第一使用形態に係るミリ波レーダー装置100の概略断面図である。
【0051】
第一電波吸収体1は、車載用のミリ波レーダー装置100内部などに配置されて使用されることが好ましい。
【0052】
ミリ波レーダー装置100は、
図2に示すように、基板110と、送信用アンテナ120と、受信用アンテナ130と、回路140と、レドーム150と、第一電波吸収体1とを備える。送信用アンテナ120、受信用アンテナ130、回路140及び第一電波吸収体1は、基板110上に配置されている。回路140は、送信用アンテナ120及び受信用アンテナ130の間の受信用アンテナ130側に配置されている。第一電波吸収体1は、送信用アンテナ120及び受信用アンテナ130の間の送信用アンテナ120側に配置されている。レドーム150は、送信用アンテナ120及び受信用アンテナ130を覆っている。
【0053】
ミリ波レーダー装置100は、送信用アンテナ120から電波200(以下、送信波200)を出射し、障害物から反射してきた電波300(以下、受信波300)を受信することによって、障害物の位置、相対速度、方向などを検知する。電波200としては、周波数30GHz~300GHzの電波を含み、特に76GHz帯(76GHz~77GHz)、79GHz帯(77GHz~81GHz)が好ましい。障害物としては、車両、歩行者などを含む。
【0054】
ミリ波レーダー装置100では、送信用アンテナ120から出射された送信波200のうちレドーム150で反射される送信波210(以下、反射波210)を、第一電波吸収体1によって、吸収することができる。第一電波吸収体1は、76GHz~81GHzを含む周波数帯域において、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅が広いので、従来の電波吸収体と比較して、反射波210が回路140及び受信用アンテナ130に到達しにくくなる。これにより、ミリ波レーダー装置100は、電波の反射の弱い歩行者を高感度で検知しやすくなる。さらに、回路140の誤作動を抑制することができる。
【0055】
[第一電波吸収体1の製造方法]
第一電波吸収体1の製造方法としては、例えば、第一基材10、及び第一電波吸収膜20をそれぞれ準備し、これらを接合する方法あるいは、第一基材10を準備し、第一基材10の第一面10Aに、電波吸収膜用組成物を塗布し、電波吸収膜用組成物を熱硬化させて第一電波吸収膜20を形成する方法などが挙げられる。
【0056】
電波吸収膜用組成物の塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、アプリケーター法などが挙げられる。電波吸収膜用組成物を熱硬化させる方法としては、例えば、公知の方法により、電波吸収膜用組成物を加熱すればよい。
【0057】
電波吸収膜用組成物は、MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末と、黒色酸化チタン粒子22の粉末と、上述した熱硬化性樹脂とを少なくとも含有し、第一電波吸収膜20を所望の膜厚とすることができる流動性を有する。電波吸収膜用組成物は、必要に応じて分散媒を含有してもよい。
【0058】
得られる第一電波吸収膜20の比透磁率の調整方法としては、例えば、MTC型ε-Fe2O3における置換元素Mによる置換量を調整する方法、第一電波吸収膜20中のMTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の含有量を調整する方法などが挙げられる。得られる第一電波吸収膜20の比誘電率の調整方法としては、黒色酸化チタン粒子22の粉末の含有量を調整する方法が挙げられる。
【0059】
<MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末>
MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末は、MTC型ε-Fe2O3粒子21の集合体である。MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の平均粒径は、各々の粒子21が単磁区構造となる程度に微細であることが好ましい。MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の平均粒径の上限は、好ましくは18nm以下である。MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の下限は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上である。MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の平均粒径の下限が上記範囲であれば、MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の単位重量当たりの磁気特性が劣化しにくくなる。MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末の平均粒径の測定は、実施例に記載の方法と同様である。
【0060】
〔MTC型ε-酸化鉄粒子21の粉末の製造方法〕
MTC型ε-酸化鉄粒子21の粉末の製造方法としては、例えば、硝酸鉄(III)などの鉄イオンを含む水溶液に、置換元素である金属元素Ti,Co,Mを含む硝酸塩水溶液などを混合させ、アンモニア水などのアルカリ性溶液を加えることにより、金属水酸化物を得る工程(a1)と、金属水酸化物をシリコーン酸化物でコーティングして、前駆体粉末を得る工程(b1)と、前駆体粉末を酸化性雰囲気下で熱処理して熱処理粉末を得る工程(c1)と、熱処理粉末にエッチング処理を施す工程(d1)とを含み、工程(a1)、工程(b1)、工程(c1)及び工程(d1)をこの順に行う方法などが挙げられる。
【0061】
(工程(a1))
工程(a1)では、鉄及び置換元素である金属元素Ti,Co,Mを含む金属水酸化物を得る。
【0062】
鉄及び置換元素である金属元素を含む金属水酸化物を得る方法としては、例えば、硝酸鉄(III)九水和物、硫酸チタン(IV)n水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、及びM化合物と、純水とを混合して分散液を調整し、この分散液にアンモニア水溶液を滴下して撹拌する方法などが挙げられる。この撹拌により、鉄及び置換元素である金属元素Ti,Co,Mを含む金属水酸化物が生成する。
【0063】
M化合物としては、MがGaの場合は硝酸ガリウム(III)n水和物などを、MがInの場合は硝酸インジウム(III)n水和物などを、MがAlの場合は硝酸アルミニウム(III)n水和物などを、MがRhの場合は硝酸ロジウム(III)n水和物などをそれぞれ用いることができる。硝酸鉄(III)九水和物、硫酸チタン(IV)n水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、及びM化合物の添加割合は、所望するMTC型ε-Fe2O3の組成に応じて適宜調整すればよい。
【0064】
アンモニア水溶液の滴下量は、硝酸鉄(III)1モルあたり、アンモニア換算で、好ましくは3~30モルである。アンモニア水溶液を分散液に滴下する際の分散液の温度は、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~60℃である。
【0065】
(工程(b1))
工程(b1)では、金属元素が被着した硝酸鉄(III)をシリコーン酸化物でコーティングして、前駆体粉末を得る。前駆体粉末は、シリコーン酸化物でコーティングされた硝酸鉄(III)の粒子の集合体である。
【0066】
金属元素が被着した硝酸鉄(III)をシリコーン酸化物でコーティングする方法としては、例えば、上述したアンモニア水溶液を滴下した分散液に、テトラエトキシシラン(TEOS)を滴下し、撹拌した後、室温まで放冷し、分離処理する方法などが挙げられる。
【0067】
TEOSの滴下量は、硝酸鉄(III)1モルあたり、好ましくは0.5~15モルである。撹拌時間は、好ましくは15時間以上30時間以下である。放冷が完了したら、所定量の沈殿剤を加えることが好ましい。沈殿剤としては、例えば、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。分離処理する方法としては、例えば、上述したTEOSを滴下した分散液を吸引濾過して固形物を回収し、回収した固形物を乾燥させる方法などが挙げられる。乾燥温度は、好ましくは60℃程度である。
【0068】
(工程(c1))
工程(c1)では、前駆体粉末を酸化性雰囲気下で熱処理して熱処理粉末を得る。熱処理粉末は、シリコーン酸化物で被覆されたMTC型ε-酸化鉄粒子21が得られる。
【0069】
熱処理の温度は、好ましくは900℃以上1200℃未満、より好ましくは950℃以上1150℃以下である。熱処理の時間は、好ましくは0.5時間以上10時間以下、より好ましくは2時間以上5時間以下である。酸化性雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、酸素及び窒素の混合雰囲気などが挙げられ、なかでも、コスト、作業性の観点から、大気雰囲気が好ましい。
【0070】
(工程(d1))
工程(d1)では、熱処理粉末にエッチング処理を施す。これにより、熱処理粉末からシリコーン酸化物を除去し、MTC型ε-酸化鉄粒子21の集合体(粉末)が得られる。
【0071】
エッチング処理の処理方法としては、例えば、上述した熱処理粉末を解粒処理し、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に添加して撹拌する方法などが挙げられる。水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の液温は好ましくは60℃以上70℃以下である。水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の濃度は好ましくは5M程度である。撹拌時間は、好ましくは15時間以上30時間以下である。
【0072】
<黒色酸化チタン粒子22の粉末>
黒色酸化チタン粒子22の粉末は、黒色酸化チタン粒子22の集合体である。黒色酸化チタン粒子22の粉末の平均二次粒径は、好ましくは100nm以上10μm以下である。黒色酸化チタン粒子22の粉末の平均二次粒径の測定は、実施例に記載の方法と同様である。
【0073】
〔黒色酸化チタン粒子22の製造方法〕
黒色酸化チタン粒子22として、多孔質Ti4O7粒子を用いることが好ましい。
【0074】
多孔質Ti4O7粒子の製造方法としては、例えば、TiO2粒子からなる粉末を水素雰囲気下で焼成して、凝集体を得る工程(a2)を含み、さらに、必要に応じて、凝集体に粉砕処理を施して、多孔質Ti4O7粒子を得る工程(b2)を含んでもよい。
【0075】
(工程(a2))
工程(a2)では、TiO2粒子からなる粉末を水素雰囲気下で焼成して、凝集体を得る。この焼成によりTiO2粒子の還元反応が進行するため、凝集体は、Ti3+を含んだ酸化物であるTi4O7(Ti3+Ti4+O7)からなる。
【0076】
TiO2粒子の粒径は、好ましくは500nm以下である。TiO2粒子の結晶構造として、アナターゼ型、ルチル型などが挙げられる。水素ガスの流量は、好ましくは0.05L/min以上0.5L/min以下、より好ましくは0.1L/min以上0.5L/min以下である。焼成温度は、好ましくは900℃以上1200℃以下、より好ましくは1000℃以上1200℃以下である。焼成温度を保持する時間は、好ましくは10時間以内、より好ましくは3時間以上7時間以内である。
【0077】
(工程(b2))
工程(b2)では、凝集体に粉砕処理を施して、多孔質Ti4O7粒子を得る。これにより、所望の粒径及び形状の多孔質Ti4O7粒子が得られる。
【0078】
粉砕処理の方法としては、例えばボールミル法、ロッドミル法、圧搾粉砕による粉砕法などが挙げられる。
【0079】
(分散媒)
分散媒としては、電波吸収膜用組成物の材質などに応じて適宜調整すればよく、例えば、水、有機溶剤、有機溶剤の水溶液などを用いることができる。有機溶剤としては、例えば、ケトン類、アルコール類、エーテル系アルコール類、飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類、乳酸エステル類、エーテル系エステル類などを用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ケトン類としては、例えば、ジエチルケトン、メチルブチルケトンなどが挙げられる。アルコール類としては、例えば、n-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノールなどが挙げられる。エーテル系アルコール類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類としては、例えば、酢酸-n-ブチル、酢酸アミルなどが挙げられる。乳酸エステル類としては、例えば、乳酸エチル、乳酸-n-ブチルなどが挙げられる。エーテル系エステル類等としては、例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどが挙げられる。
【0080】
[第二実施形態に係る電波吸収体2]
図3Aは、第二実施形態に係る電波吸収体2(以下、第二電波吸収体2という場合がある)の概略正面図である。
図3Bは、
図3A中の切断線Z-Zに従って切断した第二電波吸収体2の概略断面図である。
図3A及び
図3Bにおいて、
図1A及び
図1Bに示す第一電波吸収体1の構成部材と同一の構成部材には同一符号を付して重複説明を省略する場合がある。
【0081】
第二電波吸収体2は、熱硬化性樹脂の硬化物23の代わりに、セラミックス31を用いる他は、第一電波吸収体1と同様の構成である。
【0082】
第二電波吸収体2は、
図3A及び
図3Bに示すように、第一基材10と、第二電波吸収膜30とを備える単層型電波吸収体である。第二電波吸収膜30は、第一基材10上に形成されている。第二電波吸収膜30は、複数のMTC型ε-Fe
2O
3粒子21と、複数の黒色酸化チタン粒子22と、セラミックス31とからなる。
【0083】
第二電波吸収体2は、タイル建材、道路舗装材、外壁材などとして好適に用いることができる。
【0084】
〔第二電波吸収膜30〕
第二電波吸収体2は、第二電波吸収膜30を備える。第二電波吸収膜30は、電波エネルギーの一部を熱エネルギーに変換する。すなわち、第二電波吸収膜30は、第二電波吸収膜30内部を伝搬する電波を吸収する。第二電波吸収膜30は、第一基材10の第一面10A上に形成されている。
【0085】
第二電波吸収膜30は、複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21と、複数の黒色酸化チタン粒子22と、セラミックス31とからなる。複数のMTC型ε-Fe2O3粒子21、及び複数の黒色酸化チタン粒子22は、セラミックス31中に分散されている。
【0086】
第二電波吸収膜30の厚みは均一である。第二電波吸収膜30の表面30Aは平坦な面である。第二電波吸収膜30の厚みT30は、吸収対象とする電波の周波数、第二電波吸収膜30の材質などに応じて適宜調整すればよく、好ましくは10μm以上10mm以下、より好ましくは100μm以上2mm以下である。特に、第二電波吸収膜30の厚みT30は、吸収対象とする電波の第二電波吸収膜30内における波長の4分の1に、その波長の2分の1のn倍を加えた厚みであることが好ましい。nは、0以上の整数であり、好ましくは0以上3以下、より好ましくは0以上1以下である。また、第二電波吸収膜30の厚みT30を調整することによって、第二電波吸収体2の反射減衰量、吸収ピークが現れる周波数、高い反射減衰量を示す周波数帯域幅などを調整することができる。第二電波吸収膜30の厚みT30は、透過型電子顕微鏡(TEM)の第二電波吸収膜30の断面のTEM像をもとに求めることができる。
【0087】
第二電波吸収膜30の厚みT30が、電波の第二電波吸収膜30内における波長の4分の1に、その波長の2分の1のn倍を加えた厚みであれば、第一面10A側から発するミ電波の反射波をより低減することができる。これは、表面30Aで反射する電波と、第二電波吸収膜30内部の第一面10Aで反射して表面30Aから出射する電波(以下、第二内部反射波)とが逆位相となり、互いに干渉して打ち消し合うことが主要因であると推測される。この第二内部反射波は、第一面10Aで一度のみ反射された一次反射波のみならず、第一面10Aで二度以上反射された複次反射波を含む。
【0088】
第二電波吸収膜30の比透磁率は、MTC型ε酸化鉄の共鳴周波数における虚部が好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上である。第二電波吸収膜30の比誘電率は、好ましくは3以上、より好ましくは7以上である。
【0089】
第二電波吸収体2では、第二電波吸収膜30の表面30Aは平坦な面であるが、本発明はこれに限定されず、第二電波吸収膜30の表面30Aの形状は、電波が第二電波吸収膜30内部に入射しやすい形状であることが好ましく、例えば、ピラミッド形状、ウェッジ形状などであってもよい。また、第二電波吸収体2では、
図3Aに示すように、第二電波吸収膜30は第一基材10の第一面10Aの全面に形成されていないが、本発明はこれに限定されず、第二電波吸収膜30は第一基材10の第一面10Aの全面に形成されていてもよい。
【0090】
セラミックス31を構成する材料としては、電気的絶縁性を有する材料であればよく、例えば、金属酸化物、金属の非酸化物、ガラスなどが挙げられ、なかでも、耐熱性、耐薬品性、耐光性などの観点から、酸化物が好ましい。金属酸化物としては、例えば、SiO2、Al2O3、MgOなどが挙げられる。金属の非酸化物としては、例えば、SiC、Si3N4などが挙げられる。ガラスとしては、結晶化ガラス、汎用ガラス、低融点ガラス、非酸化物系ガラスなどが挙げられる。結晶化ガラスとしては、例えば、Li2O3-Al2O3-SiO2-MgO系、MgO-Al2O3-SiO2系、CaO-Al2O3-SiO2系などが挙げられる。汎用ガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。低融点ガラスとしては、例えば、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスなどが挙げられる。非酸化物系ガラスとしては、例えば、オキシナイトライド(酸窒化)ガラス、フッ化物系ガラス、カルコゲン系ガラスなどが挙げられる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0092】
[反射減衰量のシミュレーション解析]
〔実施例1~10,比較例1~5〕
伝送理論に基づくインピーダンス整合計算を用いて、表1に示す組成及び厚み、電波の周波数(65GHz~100GHz)に対する反射減衰量を計算した。このシミュレーション結果に基づいて求めた「反射減衰量が-10dB以下を示す周波数帯域幅(GHz)」、及び「反射減衰量が-15dB以下を示す周波数帯域幅(GHz)」を表1に示す。
【0093】
【0094】
[反射減衰量の実測]
〔実施例1〕
MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末、黒色酸化チタン粒子22の粉末、空気が表2に記載の割合となるに混合して電波吸収膜用組成物を得た。電波吸収膜用組成物の固形分濃度は、41質量%であった。
【0095】
第一基材10として、アルミニウムからなる基板を用いた。この基板は、厚さ2mmであり、厚みが均一な平板状であった。第一面10Aは、平坦な面であった。
【0096】
第一基材10の第一面10A上に、調製された電波吸収用組成物膜を、スリット塗布し、塗布膜を形成した。次いで、この塗布膜を熱硬化させて、第一電波吸収膜20を得た。これにより、第一電波吸収体1が得られた。
【0097】
〔MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末〕
MTC型ε-Fe2O3粒子21の粉末として、以下のようにして合成したイプシロン酸化鉄粉末を用いた。
【0098】
まず、ゾル-ゲル法を用いて前駆体粉末の合成を行った。硝酸鉄(III) 九水和物 28g、硫酸チタン(IV) n水和物 0.69g、硝酸コバルト(II) 六水和物 0.61g、硝酸ガリウム(II) n水和物 3.9gを量りとり、1L三角フラスコに入れた。この際、金属量の総和をFe+Ga+Ti+Co=64.0mmolとなるように調整して金属量を変化させた。金属比は、ε-GaxTi0.05Co0.05Fe1.90-xO3について仕込み比をx=0.23とした。金属塩を全て入れたナスフラスコに1400mLの純水を加え、30℃に設定したオイルバス中で加熱しながら25%アンモニア水溶液57.2mLをおよそ1,2滴/秒の速度で滴下し、30分間攪拌を続けて水酸化物として共沈させた。これにより、鉄及び金属元素Ga,Ti,Coを含む金属水酸化物を得た。
【0099】
その後、アンモニア水溶液を滴下した分散液に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS) 52.8mLをおよそ1,2滴/秒の速度で滴下し、20時間加熱攪拌を続け、二酸化ケイ素を生成させた。攪拌終了後、吸引濾過によって生成固体を濾別した。生成固体をシャーレに移し、60℃で一晩乾燥させて、前駆体粉末を得た。
【0100】
得られた前駆体粉末をるつぼに入れ、電気炉を使用して大気雰囲気下にて1100℃で4時間焼成した。これにより、熱処理粉末を得た。この際、昇温速度が4K/分、降温速度が5K/分とした。熱処理粉末の各粒子は、二酸化ケイ素で被覆されていた。
【0101】
得られた熱処理粉末に3MNaOH水溶液を加えて65℃のオイルバス中で24時間加熱攪拌することで、二酸化ケイ素を除去した。その後、遠心分離により上澄み溶液を除去し、得られた固体を一晩乾燥させて、イプシロン酸化鉄粉末を得た。
【0102】
得られたイプシロン酸化鉄粉末について、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製の「Agilent7700x」)を用いて元素分析した結果、Ga:Ti:Co:Fe=0.23:0.05:0.05:1.67であった。すなわち、得られたイプシロン酸化鉄粉末は、ε-Ga0.23Ti0.05Co0.05Fe1.67O3の粒子(以下、GTC型ε-Fe2O3粒子)の粉末であることがわかった。
【0103】
得られたイプシロン酸化鉄粉末について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製の「JEM2000EX」)を用いて、100万倍の写真を撮影し、各粒子の形状は粒子状を確認したところ、球状であることが確認できた。さらに、この写真からイプシロン酸化鉄粉末の各粒子における最も長い径と、最も短い径とを測定し、その平均値を算出することにより粒子径を求めた。独立したイプシロン酸化鉄粉末の各粒子の少なくとも100個以上について求めた粒子径の平均値(平均粒径)は、約30nmであった。
【0104】
〔黒色酸化チタン粒子22の粉末〕
黒色酸化チタン粒子22の粉末として、以下のようにして合成した黒色酸化チタン粉末を用いた。
【0105】
TiO2粒子からなる粉末(平均粒径:7nm、結晶構造:アナターゼ型)を水素雰囲気下で焼成して、凝集体を得た。水素ガスの流量は、0.3L/minであった。焼成温度は、1000℃であった。焼成温度を保持する時間は、5時間であった。これにより、黒色酸化チタン粉末を得た。
【0106】
得られた黒色酸化チタン粉末について、X線回析(XRD)パターンを解析したところ、現れたピークから、得られた黒色酸化チタン粉末内にはTi4O7が99%生成し、Ti3O5が1%生成していることがわかった。
【0107】
〔実施例2~4〕
空気の代わりに、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製の「YX4000H」)を用い、第一電波吸収膜20の厚みT20が表2に示す厚みとなるように第一基材10の第一面10A上に、塗布膜を形成した他は、実施例1と同様にして、第一電波吸収体1を得た。
【0108】
〔比較例1~3〕
G型ε-Fe2O3粒子の粉末、カーボンナノチューブ(CNT)、チタン酸バリウム粒子、樹脂、及び分散剤を、表2に記載の組成となるように、ターピネオール中に加え、各成分を均一に溶解又は分散させて膜形成用ペーストを得た。膜形成用ペーストの固形分濃度は、40質量%に調整した。
【0109】
G型ε-Fe2O3粒子の粉末として、ε-Ga0.45Fe1.55O3の粒子の粉末を用いた。この粒子の平均粒子径は20~30nmであった。カーボンナノチューブ(CNT)としては、長径150nmの多層カーボンナノチューブを用いた。チタン酸バリウム粒子は、平均粒子径10nmであるものを用いた。樹脂として、セルロース(メチルセルロース)を用いた。分散剤としては、ジ(イソプロピルオキシ)ジ(イソステアロイルオキシ)チタンと、ビニルトリメトキシシランの質量比1:1の混合物を用いた。
【0110】
第一基材10上に、膜形成用ペーストを、スリット塗布し、塗布膜を形成した。塗布膜の膜厚は、電波吸収膜の膜厚が表2に記載の膜厚になるように調整した。次いで、形成された塗布膜を乾燥させて、電波吸収体を得た。なお、比較例1~3の電波吸収体は、特許文献1の実施例1~3の電波吸収体にそれぞれ対応する。
【0111】
〔反射減衰量の測定〕
(実施例1、比較例1~3)
得られた電波吸収体について、ベクトルネットワークアナライザーを用いた自由空間法にて60GHz以上93GHz以下における反射減衰量を測定した。実施例1の測定結果を
図4に示す。
【0112】
(実施例2~4)
得られる第一電波吸収体1について、テラヘルツ時間領域分光法(株式会社アドバンテスト製の「TAS7400TS」)を用いたテラヘルツ分光法にて50GHz以上100GHz以下における反射減衰量を測定した。具体的に、第一電波吸収体1にパルステラヘルツ波を照射し、その反射パルステラヘルツ波の時間波形を測定し、これをフーリエ変換することより反射減衰量の波長依存性を測定した。得られた実施例2~4の測定結果にフーリエ変換補正処理を施すことによって、データ点の間の補間を行った。実施例2~4の測定結果、及び実施例2~4の測定結果にフーリエ変換補正処理を施したデータを
図4に示す。
【0113】
【0114】
[反射減衰量の入射角依存性のシミュレーション解析]
(実施例1~4,比較例4,5)
伝送理論に基づくインピーダンス整合計算を用いて、表3に示す組成及び厚み、電波吸収膜の表面への入射角度、設定した入射角度ごとに、電波の周波数(65GHz~100GHz)に対する反射減衰量をそれぞれ計算した。これらのシミュレーション結果に基づいて求めた「0°反射減衰量ピーク値における-10dB以下を示す入射角範囲(°)」、及び「0°反射減衰量ピーク値における-15dB以下を示す入射角範囲(°)」を表3に示す。また、表3中の角度は、電波吸収膜の表面への入射角度を意味し、電波吸収膜の表面に対して垂直な方向を0°とする。また、表3中の「0°反射減衰量ピーク値における-10dB以下を示す入射角範囲(°)」が「0°-60°」とは、入射角度が60°を超えると、上記電波の周波数の範囲内において、反射減衰量が-10dB超であったことを意味する。
【0115】
実施例においては、65GHz~95GHzの範囲に反射減衰量のピークを有し、-10dB以下を示す入射角範囲がTE波(Transverse Electric Wave)で最大60度、TM波(Transverse Magnetic Wave)で最大60度、-15dB以下を示す入射角範囲がTE波で最大50度、TM波で最大45度と高い反射減衰量を維持することができる。以上のことから実施例を用いることにより、入射角角度依存性が小さくなることが分かる。
【0116】
なお、比較例4においては、0°反射減衰量ピーク値において-15dB以下を示さず、評価不能であった。
【0117】
【符号の説明】
【0118】
1,2 電波吸収体
10 基材
20,30 電波吸収膜
21 MTC型ε-Fe2O3粒子
22 黒色酸化チタン粒子
23 熱硬化性樹脂の硬化物
31 セラミックス
100 ミリ波レーダー装置
110 基板
120 送信用アンテナ
130 受信用アンテナ
140 回路
150 レドーム
200 送信波
210 反射波
300 受信波