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特許7216362三次元造形方法、三次元造形装置およびこれに用いる基材
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  • 特許-三次元造形方法、三次元造形装置およびこれに用いる基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】三次元造形方法、三次元造形装置およびこれに用いる基材
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/30 20210101AFI20230125BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20230125BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230125BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230125BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B22F12/30
B22F10/28
B33Y10/00
B33Y30/00
C22C33/02 103B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018134293
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2020012148
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正樹
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521315(JP,A)
【文献】国際公開第2017/108653(WO,A1)
【文献】特開2013-076142(JP,A)
【文献】特開2000-314423(JP,A)
【文献】特開平09-085463(JP,A)
【文献】特開2018-003147(JP,A)
【文献】特表2019-502823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/30
B22F 3/00
B22F 10/28
B33Y 10/00
B33Y 30/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を用意すること、
ステンレス鋼を含む造形用基材と、前記造形用基材の少なくとも造形可能領域に備えられ前記造形用粉体と前記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を備える造形支持基材を用意すること、
前記反応防止膜上に、前記造形用粉体を層状に敷いて粉末床を用意すること、および、
前記粉末床にエネルギー線を供給する粉末床溶融結合方式によって前記造形支持基材上に造形物を造形すること、を含む、三次元造形方法。
【請求項2】
前記反応防止膜は、溶射皮膜である、請求項1に記載の三次元造形方法。
【請求項3】
前記溶射皮膜は、セラミック溶射皮膜である、請求項2に記載の三次元造形方法。
【請求項4】
前記反応防止膜の表面粗さRaは、2μm以上6μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の三次元造形方法。
【請求項5】
前記エネルギー線として、レーザを使用する、請求項1~のいずれか1項に記載の三次元造形方法。
【請求項6】
少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を貯留する粉体貯留部と、
前記造形用粉体を用い粉末床溶融結合方式によって造形を行う造形部と、を備え、
前記造形部は、造形物を支持する造形支持基材を含み、
前記造形支持基材は、ステンレス鋼を含む造形用基材と、前記造形用基材の少なくとも造形可能領域に備えられ前記造形用粉体と前記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を含む、三次元造形装置。
【請求項7】
少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を用いる粉末床溶融結合方式の三次元造形に用いる造形支持基材であって、
ステンレス鋼を含む造形用基材と、前記造形用基材の少なくとも造形可能領域に備えられ前記造形用粉体と前記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を含む、造形支持基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形方法、三次元造形装置およびこれに用いる基材に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元形状の数値表現(典型的には3D CADデータ)をもとに物体を作製する付加製造(Additive manufacturing)技術の一つとして、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion:PBF)法が知られている。このPBF法では、目的の造形物を複数の薄層に切り分けた状態に対応するスライスデータを用意する。そして造形プラットフォーム(Build Platform)または造形用基材と呼ばれる平らな金属板の上に原料粉末を敷き詰めて、粉末床(Powder Bed)と呼ばれる粉末層を用意する。そしてこの粉末床に、レーザあるいは電子ビームをスライスデータに従って走査させながら照射することで、粉末粒子を溶融・緻密化した断面層が形成される。そしてこの断面層上に、次の断面層を順次一体的に製造してゆくことで、目的の三次元形状を有する造形物を製造することができる。
【0003】
このPBF法においては、当初は樹脂製の粉末を炭酸ガスレーザで加熱して造形がなされていた。しかし近年のビームの高出力化等により、造形用粉末として金属粉末が使用されるようになり、次いで、WC系サーメットからなる粉末材料の使用も試みられている(例えば、特許文献1~3参照)。粉末粒子は、従来は溶融せずに焼結されるに留まっていたため、造形物は気孔を多く含むものであった。しかしながら、ファイバーレーザや電子ビーム等の高出力ビームを用いたPBF法では、粉末粒子を完全に溶融させて造形することが可能となり、気孔率の低い造形物が得られるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2016/0375493号明細書
【文献】国際公開第2015/162206号明細書
【文献】特開2016-172904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属材料のみを用いるPBF法とは異なり、サーメット等のセラミック成分を含む粉末材料を用いたPBF法では、造形物が金属製の造形用基材から浮いたり、金属製基材との界面付近で造形物にクラックが入ったりして造形が上手く行えないという問題が生じ得た。造形物の浮きは、当該部位において造形のための入熱が金属製基材に放出されることを妨げ、造形物への蓄熱と熱供給過多とを招く原因となり得る。その結果、造形物に歪みが生じたり、造形物が金属製基材から突然剥離したり割れるなどして、造形を継続することが不可能になる場合があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば造形粉末としてセラミック成分を含む粉末を用いたときに、造形用基材からの造形物の浮きや剥離を抑制することができる、三次元造形方法を提供する。また、他の目的として、造形粉末としてセラミック成分を含む粉末を用いたときに、造形用基材からの造形物の浮きや剥離が抑制されている三次元造形装置と、これに用いる基材とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
PBF法用の金属製基材には、造形によって基材に反りが発生しないよう、比較的硬質なステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS316等)からなる厚板が使用されている。本発明者らの検討によると、造形に金属製粉体を用いる場合は問題ないが、サーメット等のセラミック成分(例えばWC)を含む粉末材料を用いたPBFでは、金属製基材に含まれる鉄(Fe)成分と、造形用粉体に含まれるセラミック成分とが反応し、造形物と造形用基材との界面に反応生成物を形成するという特有の事象が生じ得ることを知見した。この界面の反応層はセラミック化されており、金属と比べて脆性が高い。そのため、サーメットからなる造形物の寸法がある程度大きくなると、金属製基材と造形物との熱膨張特性の差が蓄積され、造形物が界面反応層の部分において金属製基材から浮いたり、剥がれて割れたりし得ることが判明した。かかる事象を抑制するために、例えば、造形用基材を造形物と同じ材料によって作製することが有効となり得る。しかしながら、例えば超硬合金であるWC系サーメットからなる厚板は、極めて高価となり、このような材料を造形の都度用意することはコスト的に非常に困難である。
【0008】
そこで、ここに開示される技術は、三次元造形方法を提供する。この三次元造形方法は、少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を用意すること、造形用基材と、前記造形用基材の造形可能領域に備えられ上記造形用粉体と上記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を備える造形支持基材を用意すること、上記造形支持基材上に、上記造形用粉体を層状に敷いて粉末床を用意すること、および、上記粉末床にエネルギー線を供給する粉末床溶融結合(PBF)方式によって上記造形支持基材上に造形物を造形すること、を含む。この三次元造形方法によると、造形支持基材として、表面に反応防止膜を備える造形用基材を使用する。これにより、造形物が含むセラミック成分と、造形用基材とが反応することを好適に抑制することができる。そのため、セラミック成分を含む造形用粉体を用いた造形を、安価かつ簡便に、造形精度よく実施することができる。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記反応防止膜は、溶射皮膜である。反応防止膜が溶射皮膜として備えられていることで、密着性と耐熱性とを兼ね備えた反応防止膜が提供されるために好ましい。また、上記溶射皮膜は、セラミック溶射皮膜であることが好ましい。セラミック溶射皮膜は、セラミックでありながら造形用基材と反応しない。これにより、造形物に含まれるセラミック成分(例えばWC)と金属製基材との反応を特に好適に抑制することができる。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記反応防止膜の表面粗さは、0.5μm以上5μm以下である。これにより、造形用粉体と反応防止膜の表面との間には、適度な摩擦が発生し得る。これにより、造形用粉体を造形支持基材の上で滑らせることなく、好適に薄く敷き詰めることができる。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記造形用基材は、ステンレス鋼を含む。造形支持基材は、造形用基材の表面に反応防止膜を備えていることから、例えばWC/Co等の超硬合金組成の造形支持基材を使用する必要がない。またステンレス鋼は、剛性および耐熱性が高く、PBF法の造形用基材として好ましい。これにより、上記効果を有する造形支持基材を安価に用意することができるために好ましい。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記エネルギー線として、レーザを使用する。これにより、大出力で造形用粉体を溶融し、緻密な造形物を作ることができるために好ましい。
【0013】
他の側面において、ここに開示される技術は、三次元造形装置を提供する。この三次元造形装置は、少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を貯留する粉体貯留部と、上記造形用粉体を用い粉末床溶融結合方式によって造形を行う造形部と、を備える。そして上記造形部は、造形物を支持する造形支持基材を含み、上記造形支持基材は、造形用基材と、上記造形用基材の少なくとも造形可能領域に備えられ上記造形用粉体と上記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を含む。これにより、セラミック成分を含む造形物と造形支持基材との反応を抑制して、安定して三次元造形を行えるために好ましい。
【0014】
さらに他の側面において、ここに開示される技術は、造形支持基材を提供する。この造形支持基材は、少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を用いる粉末床溶融結合方式の三次元造形に用いるためにものである。そして造形支持基材は、造形用基材と、上記造形用基材の少なくとも造形可能領域に備えられ上記造形用粉体と上記造形用基材との反応を防止する反応防止膜と、を含む。
造形支持基材は、直接的に造形物が形成されるため、造形物が金属材料やサーメット材料であると、造形支持基材を傷つけずに造形物を分離するのが困難となり得る。そして造形支持基材は、消耗品でもあり得る。そこでここに開示される技術は、セラミック成分を含む造形用粉体との反応が生じない造形支持基材を単独の物品としても提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態にかかる三次元造形装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、一実施形態にかかる造形支持基材の断面図である。
図3図3(a)(b)は、例1および例2の造形物の低倍率の観察像である。
図4図4(a)(b)は、例1および例2の造形物と基材との界面近傍の高倍率の断面観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と当該分野における出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され、実施することができる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書において、数値範囲を示す「A~B」は「A以上B以下」を意味する。
【0017】
(三次元造形方法)
ここに開示される三次元造形方法は、以下の工程S1~S4を含む。
S1.少なくともセラミック成分を含む造形用粉体を用意すること
S2.造形用基材と、上記造形用基材の造形可能領域に備えられた反応防止膜と、を備える造形支持基材を用意すること
S3.上記造形支持基材上に、上記造形用粉体を層状に敷いて粉末床を用意すること
S4.上記粉末床にエネルギー線を供給する粉末床溶融結合方式によって上記造形支持基材上に造形物を造形すること
【0018】
また、この三次元造形方法は、これに限定されるものではないが、例えばここに開示される造形支持基材と、三次元造形装置とを用いることによって好適に実施することができる。図1は、一実施形態に係る三次元造形装置1の構成を示す模式図である。三次元造形装置1は、少なくとも粉体貯留部10と、造形部20と、を備える。そして造形部20は、造形物を支持する造形支持基材26を含む。
以下、三次元造形装置1と併せて、三次元造形方法の各工程について説明する。
【0019】
(S1:第一工程)
第一工程では、少なくともセラミック成分を含む造形用粉体2を用意する。この造形用粉体2は、PBF方式の三次元造形における造形原料として使用するためのものである。この造形用粉体2は、三次元造形装置1の粉体貯留部10に貯留される。粉体貯留部10は、例えば、貯留槽12と、貯留槽12の底部を構成し、昇降可能に構成されている昇降テーブル14と、リコータ16とを備えている。貯留槽12と昇降テーブル14の上面とによって形成される空間に、造形用粉体2が貯留される。
【0020】
セラミック成分としては、例えば、各種金属の酸化物からなるセラミック(酸化物系セラミック)材料であってもよいし、炭化物、ホウ化物、窒化物、アパタイト等の非酸化物からなるセラミック材料であってよい。ここで、酸化物系セラミックとしては、特に限定されることなく各種の金属の酸化物とすることができる。かかる酸化物系セラミックを構成する金属元素としては、例えば、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等の半金属元素、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等の典型元素、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の遷移金属元素、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Er)、ルテチウム(Lu)等のランタノイド元素から選択される1種または2種以上が挙げられる。なかでも、Mg、Y、Ti、Zr、Cr、Mn、Fe、Zn、Al、Erから選択される1種または2種以上の元素であることが好ましい。
【0021】
酸化物系セラミックとして、より具体的には、例えば、アルミナ、ジルコニア、イットリア、クロミア、チタニア、コバルタイト、マグネシア、シリカ、カルシア、セリア、フェライト、スピネル、ジルコン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ルテチウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、マンガン酸化物、酸化タンタル、酸化テルピウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモン含有酸化スズ、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム、酸化ジルコニウムアルミネート、酸化ジルコニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネート、酸化ハフニウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化ランタンシリケート、酸化ランタンアルミネート、酸化イットリウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化タンタルシリケート等が挙げられる。
【0022】
また、非酸化物系セラミックとしては、例えば、炭化タングステン(WC)、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの炭化物、ホウ化タングステン(WB)、ホウ化モリブデン、ホウ化クロム、ホウ化ハフニウム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化タンタル、ホウ化チタンなどのホウ化物、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物、フオルステライト、ステアタイト、コーディエライト、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、サイアロン等の複合化物、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等のリン酸化合物等が挙げられる。中でも、造形用基材の材料として汎用されているステンレス鋼と反応しやすい炭化タングステン(WC)を含む場合に、ここに加持される技術の効果が顕著に現れるために好ましい。
【0023】
以上のセラミックは、任意の元素がドープ又は置換されていてもよい。また、これらのセラミックは、いずれか1種を単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。例えば、2種以上のセラミックが含まれる場合には、その一部または全部が複合化物を形成していても良い。このような複合化されたセラミックの例としては、例えば、具体的には、イットリア安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛や、上記のサイアロン、上記複合酸化物等が挙げられる。造形用粉末がかかるセラミックを含むことで、当該セラミックを含む造形物を造形することができる。
【0024】
また造形用粉体は、セラミック成分に加えて、結合金属成分と、を含むことが好ましい。結合金属成分は、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つである。すなわち、このような造形用粉体は、例えば、タングステンカーバイド(WC)などの炭化物系セラミックスと、結合金属成分とを含むことから、造形によって造形物中にサーメットを形成し得る。すなわち、このような成分を含む造形用粉体を用いることで、サーメットからなる造形物を造形することができる。
【0025】
ここで、サーメットを形成し得る造形用粉体において、セラミック相を構成するW、CおよびBは、造形用粉体全体の70質量%以上を占めることが好ましい。このような割合でW系セラミック相を含むサーメットは、超硬合金となることが知られている。これらのセラミック相構成成分が70質量%に満たないと、造形後に形成されるサーメットにおいて、サーメットに特徴的な超硬性が十分に得られないために好ましくない。また、セラミック相構成成分は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましい。換言すると、結合金属成分は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。結合金属成分が少なすぎると、セラミック相同士を結合する結合金属の量が少なくなって、脆性の高いサーメットとなりがちであるために好ましくない。これらの各成分は、粉体の形態を有している。各成分は各々が単独で粉体を構成していてもよいし、あるいはいずれか2以上の成分が化合物となって粉体を構成していてもよい。粉体は、主として一次粒子の集合からなる粉体であってもよいし、一次粒子が結合されて二次粒子の形態の粉体であってもよい。造形用粉体は、各成分が保管中および造形中にその均質性を維持するために、二次粒子の形態の粉体であることがより好ましい。これにより、例えば、造形用粉体からなる薄層(粉末床)を用意するために造形用粉体を均したり、流動させたり、造形用粉体を繰り返しリサイクルしても、各成分が密度差等により徐々に分離することを抑制できるために好ましい。
【0026】
造形用粉体の平均粒子径は特に制限されず、例えば、使用する粉末積層造形装置の規格に適した大きさとすることができる。例えば、造形に際して造形用粉体を流動させて造形用粉体の薄層を形成するのに適した粒径とするとよい。造形用粉体の平均粒子径の上限は、例えば、より大きいものとする場合には、100μm超過とすることができるが、典型的には100μm以下とすることができ、好ましくは75μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、一例として10μm以下とすることができる。造形用粉体は、平均粒子径が小さくなるにつれて、例えば造形エリアにおいて造形用粉体の充填率が向上する点において好ましい。その結果、直接造形される三次元造形物の緻密度を好適に増すことができる。また、造形される三次元造形物の表面粗さ(Ra)を小さくできるとともに、寸法精度を向上させるという効果を得ることもできる。
【0027】
また、造形用粉体の平均粒子径の下限は、造形用粉体の流動性や取り扱い性に影響を与えない範囲であれば特に制限されない。これに限定されるものではないが、より小さいものとする場合には、平均粒子径は、例えば、10μm以下、5μm以下、さらには1μm以下等とすることができる。しかしながら、二次粒子の形態を有する造形用粉体の場合は、必ずしも平均二次粒子径を小さくする必要はない。したがって、例えば、造形用粉体を形成する際のハンドリングや造形用粉体の流動性を考慮した場合には、平均粒子径の下限を1μm以上とすることができ、5μm以上が適切であり、10μm以上が好ましく、例えば、20μm以上がより好ましい。造形用粉体の平均粒子径が大きくなるにつれて、造形用粉体の流動性が向上し得る。その結果、造形装置への造形用粉体の供給を良好に実施することができ、作製される三次元造形物の仕上がり(造形精度)が良好となるために好ましい。
【0028】
なお、通常、例えば平均粒子径が10μm未満程度の微細な粉末材料は、粒子形状の制御が困難となり、また、比表面積が増大されるため、流動性が低下し得る。そのため、このような粉末材料を粉末積層造形に用いると、粉末材料の供給の際の平坦化が困難となりがちである。そしてさらに、その質量の小ささから、かかる粉末材料の飛散等が発生し、ハンドリングが困難となり得る。この傾向は、後述の造形工程においてレーザや電子ビームを照射したときに、その反動で造形用粉体が舞い上げられるために特に顕著となり得る。これに対し、造形用粉体が二次粒子で構成されていると、一次粒子の形態は維持しつつも、粒子の重みづけを実現することができる。また、上記のとおり、組成の異なる第1の粉末と第2の粉末とを含んでいても、造形用粉体における成分濃度を均一に保つことができる。これによって、より平均粒子径の小さい一次粒子を用いることによる利点と、より平均粒径の大きな二次粒子を用いることによる利点とを両方兼ね備えることができて好ましい。
【0029】
なお、造形用粉体が二次粒子の形態を有する場合、一次粒子はバインダによって結合されていてもよいし、バインダ等を含まず焼結等により直接結合されていてもよい。好ましくは、造形用粉体は、バインダレスで二次粒子の形態を有することが好ましい。造形用粉体は、例えば、造粒焼結粒子の集合として構成されている。ここで造粒焼結粒子とは、一次粒子が焼結され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物(粒子の体をなしたもの)をいう。そしてここでいう「焼結」とは、一次粒子同士が直接的に結合した状態をいう。したがって、焼結は、固相焼結および液相焼結のいずれであってもよい。また、本明細書でいう焼結は、いわゆる融着,溶融結合を含み得る。粉末積層造形におけるエネルギー源としては、レーザ、電子ビーム、アーク等が汎用されており、これらが造形用粉体に照射されたときには高いエネルギーが解放されて造形用粉体に衝撃が生じ得る。このような衝撃により、バインダにより結合された造粒粒子は崩壊したり、一次粒子が飛散したりする虞がある。このような事態の発生を避けるため、造粒粒子は焼結により個々の一次粒子が結合された、いわゆる造粒焼結粒子として構成されることが好ましい。この造粒焼結粒子は、エネルギー源としてより強度の高いレーザ等を照射された場合であっても、造形用粉体の崩壊および飛散等が生じ難いために好ましい。このことは、造形物の造形精度および品質を損なうことなく、造形速度の高速化に繋がり得る(例えば、レーザ走査速度を速め得る、あるいはレーザ走査速度を低減する必要がない)ために好ましい。
【0030】
造形用粉体を構成する造粒焼結粒子の顆粒強度(焼結強度)は、1MPaを超えるように規定することができる。これにより、造形のためのエネルギーにより造粒焼結粒子が崩壊したり、飛散したりするのを好適に抑制することができる。その結果、造形エリアへの材料粉末の供給が安定するため、ムラの無い高品質な造形物を造形できるために好ましい。なお、おおよその目安として、例えば、バインダにより造粒一体化された造粒粒子は、顆粒強度が1MPaに満たないと考えることができる。造粒焼結粒子の顆粒強度は、10MPa以上であるのが好ましく、50MPa以上であるのがより好ましく、100MPa以上(例えば200MPa以上)であるのが特に好ましい。しかしながら、発明者らの検討によると、顆粒強度が強すぎると、造形用粉体を十分に溶融させるのが困難となるために好ましくない。また、顆粒強度が強すぎる造粒焼結粒子は、概ね造粒されていない単一粒子と類似した構成となるまで焼結が進行し、球状化した粒子とその性状が似たものとなってしまう。かかる観点から、顆粒強度は10000MPa未満とする。顆粒強度は5000MPa以下であるのが好ましく、2500MPa以下であるのがより好ましく、1000MPa以下(例えば800MPa以下)であるのが特に好ましい。
【0031】
本明細書において、造形用粉体を構成する造粒焼結粒子の「顆粒強度」は、電磁力負荷方式の圧縮試験機を用いて測定される当該粒子の破壊強度を採用することができる。具体的には、加圧圧子と加圧板との間に一つの造粒焼結粒子を固定し、電磁力により加圧圧子と加圧板との間に一定の増加割合で圧縮の負荷力を与えていく。圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、その際の測定試料の変形量を測定していく。測定した試料の変形特性結果を専用のプログラムで処理することで、強度値(破壊強度)を計算することができる。本明細書においては、造形用粉体を構成する任意の10個以上の造粒焼結粒子について、微小圧縮試験装置(株式会社島津製作所製、MCT-500)を用いて測定した破壊強度の算術平均値を、顆粒強度として採用している。なお、各造粒焼結粒子について、圧縮試験にて得られた臨界荷重をL[N]、平均粒子径をd[mm]としたとき、造粒焼結粒子の破壊強度σ[MPa]は、次式:σ=2.8×L/π/d;で算出される。
【0032】
このような造形用粉体は、粉体を構成する複数の粒子(典型的には一次粒子である)の間に間隙が存在する。そして個々の一次粒子間には間隙が形成され、一次粒子は互いに3次元的に結合される。これによって、造形用粉体はエネルギー源(熱源)からエネルギーを受け取りやすく、溶解しやすいという利点がある。その結果、二次粒子間の間隙は容易に消失されて、例えば鋳型を使用して製造する焼結体(バルク体)に近い、緻密性の高い高硬度な造形物を得ることができる。
【0033】
一方で、ここに開示される造形用粉体において、二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、例えば、20μm以下(20μm未満)であることが好ましく、10μm以下(10μm未満)であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。また、二次粒子の形態の造形用粉体を作成するために用いる原料粉末の平均粒子径は、例えば、1nm以上とすることができ、200nm以上であることがより好ましく、例えば500nm以上とすることができる。原料粉末の平均粒子径は、10μm以下(10μm未満)であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。
【0034】
(S2:第二工程)
第二工程では、造形支持基材26を用意する。図2は、造形支持基材26の構成を説明する断面図である。造形支持基材26は、造形用基材26Bと、この造形用基材26Bの表面のうち、三次元造形装置1の少なくとも造形可能領域に備えられた反応防止膜26Aと、を備える。図2において、反応防止膜26Aは造形用基材26Bの一つの表面の全体に設けられている。反応防止膜26Aが造形用基材26Bの一つの表面の全部を覆うことで、反応防止膜26Aの密着性が高まるために好ましい。ただし、反応防止膜26Aは、造形用基材26Bの全面を覆うことなく、少なくとも造形可能領域に設けられていればよい。造形可能領域とは、造形支持基材26の上方の表面であって、後述のレーザ発生装置28によってエネルギー線の照射が可能な領域をいう。
【0035】
造形用基材26Bは、PBF法による造形を行うとの観点から、各種の金属材料によって構成するとよい。PBF法による造形の初期においては、造形支持基材26に近い位置の造形用粉体2に対して高出力ビームが照射されることから、造形用基材26Bは、耐熱性と、耐熱強度とに優れた材料であることが好ましい。このような材料としては、従来より造形用基材として汎用されてきた、SUS304、SUS316、SUS316L等に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼の使用が好ましい。造形用基材26Bの寸法は、三次元造形装置1の造形エリアの寸法に応じて適宜設定するとよい。造形用基材26Bは、この基材上に造形された造形物が、例えば蓄熱ムラ等によって内部に熱応力を溜めている場合でも、変形しないことが求められる。そのため、造形用基材26Bの厚みは、たとえば、5mm以上とすることができ、10mm以上であることが好ましく、12mm以上がより好ましく、例えば15mm以上であってよい。造形用基材26Bの厚みの上限は特に設定されず、たとえば、5cm以下程度であってよい。
【0036】
反応防止膜26Aは、造形用粉体2と造形用基材26Bとの反応を防止する機能を有する。本発明者らの検討によると、造形用粉体2と造形用基材26Bとの反応は、造形用粉体2の成分が造形用基材26B側にマイグレーションすることによって生じると考えられる。そこで、反応防止膜26Aは、造形用粉体2の成分のマイグレーションを抑制することができる材料により好ましく構成することができる。このような材料としては、例えば、造形用粉体2を構成する元素の移動を遮断する化合物、あるいは、当該元素をその結晶構造内に取り込みやすい化合物が挙げられる。このような金属材料およびセラミック材料としては、上記の造形用粉体の欄に記載した材料と重複するために重ねての記載は省略する。なかでも、反応防止膜26Aとしては、例えば、造形物を構成する金属元素を少なくとも一つ含む金属および/またはその酸化物が好ましく、造形物を構成する金属元素を全て含む金属および/またはその酸化物がより好ましく、造形物と同組成の材料からなることが特に好ましい。これにより、マイグレーションを防止するとともに、造形初期に造形用粉体と反応防止膜が反応しても、変質を避けることができる。
【0037】
また、反応防止膜26Aの形成方法は特に限定されない。たとえば、めっき法、溶射法、ペースト塗布法、印刷法、ゾルゲル法、スピンコート法、化学的気相成長法、物理気相法等のいずれであってもよい。なかでも、反応防止膜26Aは、溶射法によって造形用基材26Bの表面に形成された溶射皮膜であることが好ましい。溶射法では、基材の表面に、各種の樹脂、金属、セラミックス、およびサーメット等からなる粉末状の溶射材料を、燃焼または電気エネルギーにより軟化または溶融状態にして吹き付ける。このことにより、基材の表面に、溶射材料からなる溶射皮膜が付着形成される。特に、溶射法として、高速フレーム溶射法、減圧プラズマ溶射法を採用することで、造形用基材26Bとの密着性の良好な反応防止膜を形成することができるために特に好ましい。
【0038】
また、反応防止膜26Aが溶射皮膜である場合、溶射皮膜は適度に気孔を含み得る。このような構成によると、造形用基材26Bと造形物との間に発生する熱応力の差を好適に緩和することができるために好ましい。かかる観点において、反応防止膜26Aは、気孔率が0.5%~15%、好ましくは1%~10%、例えば1%~5%であるとよい。これにより、適度な強度を備えながらも熱応力緩和効果をよりよく発揮できるために好ましい。
【0039】
この反応防止膜26Aは、造形用基材26Bとの密着性および密着強度を高めるために、造形用基材26Bの表面を粗面化処理してから形成されたものであると好ましい。このことにより、反応防止膜26Aと造形用基材26Bとが機械構造的に噛み合って、より高い付着強度を実現するために好ましい。粗面化処理としては、例えば、#10~50程度の砥粒(例えばアルミナグリッド)を用いたブラスト処理を施すことが好適例として示される。このブラスト処理によると、造形用基材26Bの表面を、表面粗さRaとして3~7μm程度に粗面化することができる。これにより、造形用基材26Bと反応防止膜26Aとの密着性と密着強度とが高められ、その結果、造形支持基材26と造形物との密着性および密着強度も高くなるために好ましい。
【0040】
反応防止膜26Aの厚み(平均厚み)は、造形物の組成や大きさ、形状等によっても異なるために厳密には制限されないが、例えば、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、造形用粉体と造形用基材26Bの反応を確実に防止するとの観点からは300μm以上がより好ましい。反応防止膜26Aの厚みの上限は特に制限されないが、たとえば、500μm以下程度を目安とするとよい。
【0041】
さらに、反応防止膜26Aは、造形用基材26Bと接合していない側の表面の表面粗さRaが2~6μm程度であるとよい。これにより、造形初期に、造形支持基材26の表面に造形用粉体2を容易に薄く敷くことができるために望ましい。
【0042】
この造形支持基材26は、図1に示したように、三次元造形装置1の造形部20に備えられる。造形部20は、粉体貯留部10の側方に備えられている。造形部20は、PBF法によって造形物を造形する機能を備えている。造形部20は、造形槽22と、造形槽22の底部を構成し昇降可能に構成されている昇降テーブル24と、造形支持基材26と、熱源としてのレーザ発生装置28とを備えている。造形槽22と、昇降テーブル24の上面とで構成される空間が、造形エリアとなる。造形支持基材26は、昇降テーブル24の上面に、着脱自在に固定されている。造形支持基材26は、例えば、造形前に昇降テーブル24の上面に固定されて、造形後に造形物とともに昇降テーブル24から取り外される。造形支持基材26は、例えば、造形物を載置、支持する造形テーブルとしての役割を有する。
【0043】
(S3:第三工程)
第三工程では、造形支持基材26上に、造形用粉体2を層状に敷いて粉末床を用意する。三次元造形装置1において、貯留槽12と造形槽22との上端は概ね面一である。リコータ16は、貯留槽12および造形槽22に渡し架けるように配置されている。図1に示すように昇降テーブル14が下方に下げられていることで、粉体貯留部10に収容できる造形用粉体2の貯蔵量が増大される。また、貯留槽12に造形用粉体2を収容した状態で昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ上昇させることで、貯留槽12から所定量の造形用粉体2を押し出すことができる。造形部20では、昇降テーブル24を所定厚みΔt2だけ上端から下げることで、所定厚みΔt2で造形用粉体2を収容することができる。
【0044】
三次元造形装置1では、貯留槽12から造形用粉体2を押し出した状態で、リコータ16を貯留槽12および造形槽22の上を通過するように、貯留槽12の端部から、造形槽22の反対側の端部まで移動させる。このことにより、貯留槽12から押し出された造形用粉体2を、リコータ16によって造形槽22に移動させるとともに、造形槽22に敷き詰めることができる。また造形槽22に供給された造形用粉体2の表面にリコータ16を走査させることで、造形用粉体2の上面を平坦化して、均質な造形用粉体2の薄層を形成することができる。これにより、所定の厚みΔt2の造形用粉体2の層(粉末床)を用意することができる。また、リコータ16で均された造形用粉体2の上面が、造形面となる。
【0045】
(S4:第四工程)
第四工程では、粉末床にエネルギー線を供給する粉末床溶融結合方式によって、造形支持基材26上に造形物を造形する。本実施形態の三次元造形装置1はレーザ発生装置28を備え、エネルギー線としてレーザを発生して粉末床に照射する。レーザ発生装置28は、例えば積層造形データに基づいた走査ラインでレーザ光を発振する。積層造形データは、造形対象物を複数の層にスライスしたときの各断面層における断面画像についての三次元データである。積層造形データは、例えば、造形対象物の立体形状を3D CADソフトウェアや3D CGソフトウェア等を用いて作製し、これをSTL(Standard Triangulated Language)形式に変換することで用意することができる。積層造形データの用意については、従来技術と同様であってよく、ここに開示される技術を何ら特徴づけないため、更なる詳細な説明は省略する。この積層造形データは、三次元造形装置1の図示しない記憶部に記憶される。これにより、造形用粉体2は溶融されて、その後固化する。このことにより、造形用粉体2は、積層造形データに対応した断面形状に結合する。その結果、例えば第1層目の断面層を形成することができる。
【0046】
PBF方式の三次元造形法には、いわゆるレーザ焼結法、レーザ選択焼結(Selective Laser Sintering:SLS)法、電子ビーム焼結法等と呼ばれるものが包含される。なお、より高密度なエネルギーを供給できるとの観点から、エネルギー源としてはレーザを用いることが好ましい。レーザの種類は特に制限されず、例えば、固体レーザ(YAG・ガラス・ルビー等)、液体レーザ、気体(炭酸ガス等)レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ、化学レーザ、ファイバーレーザ等であってよい。このPBF方式の三次元造形方法についても従来と同様であるために、更なる詳細な説明は省略する。
【0047】
なお、第四工程では、引き続き、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ上げて再度造形用粉体2を押出し、昇降テーブル24を所定厚みΔt2だけ下げて造形槽22に造形用粉体2の収容スペースを設ける。そして、貯留槽12から造形用粉体2を押し出した状態で、リコータ16を貯留槽12および造形槽22の上を通過するように、貯留槽12の端部から、造形槽22の反対側の端部まで移動させる。これにより、押し出された造形用粉体2を新たに造形槽22に供給することができる。また、造形用粉体2をリコータ16で均すことで第2層目の粉末床を形成する。
【0048】
そして2層目の粉末床に対し、用意した積層造形データに基づいてレーザや電子ビームなどのエネルギー線を照射する。このとき、第2層目の粉末床は溶融し、下層である第1層目の断面層等と一体化した状態で固化する。このことにより、第2層目まの断面層が造形される。このようにして、造形した断面層上に、再び造形用粉体の粉末床を用意し、次の断面層を一体的に形成する。このことを繰り返すことにより、目的の立体形状を有する造形物を製造することができる。
【0049】
造形物の造形が完了すると、造形物は、典型的には、造形支持基材26と一体化された状態で昇降テーブル24から取り外される。その後、造形物と造形支持基材26との海面近くを放電加工等によって切り離すことで、造形物を得ることができる。
【0050】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0051】
造形用基材として、厚さ12mmのSUS430製プレートを用いて、その上に反応防止膜を形成した。まず、アルミナグリッド#80を用い、SUS430製プレート(厚み15mm)の片面全体をブラスト処理により粗面化した後、ブラスト処理面に高速フレーム溶射を行い、300μm厚の溶射皮膜(反応防止膜)を作製した。ブラスト処理によるプレートの表面粗さRaは約5μmであった。溶射装置は、溶射施工高速フレーム溶射機(PRAXAIR/TAFA社製JP-5000)を用いた。溶射用粉末には、タングステンカーバイドを70重量%およびコバルトを30重量%含有するサーメット(WC/30%Co)からなり、平均粒子径28μm(粒度分布幅-45+15μm)の粉末を用いた。溶射条件は、酸素流量:1900scfh(893l/min)、灯油流量:5.1gph(0.32l/min)、溶射距離:380mm、バレル:8インチ(約200mm)、溶射用粉末供給量:75g/minとした。これにより、プレート表面に形成されたままの溶射皮膜の表面粗さRaは約5μmであった。
【0052】
上記の造形用基材を用いて、3D Systems社製の金属焼結方式の三次元造形用プリンタProX200を使用し、2cm×5cmの寸法の板状の造形物を造形した。造形用粉末として、粒度が-20+5μm(ふるい開き目20μm通過、5μm不通過)のタングステンカーバイドを含有する顆粒粉末(W1152)を用いた。この粉末組成は、WC/30%Coである。造形条件は、レーザ出力:255W、走査速度:300mm/s、ピッチ幅:0.1mm、積層厚さ:0.03mmとした。これにより得られた造形物を、例1の造形物とした。また、対照として、上記で用意した反応防止膜のない造形用基材(SUS430製プレート)を用い、同様の条件で造形することで、例2の造形物を得た。
【0053】
例1および例2の造形物について、図3(a)(b)にそれぞれ低倍率の観察像を示した。図3(b)に示すように、反応防止膜を備えていない例2の造形用基材を用いて造形すると、50層目を造形したあたりで造形物の長手方向の端部に造形用基板からの浮きが見られた。その後、浮きにより歪んだ造形物上に造形を続けたところ、100層目を造形したあたりで突如造形物が造形用基板から剥離する事態が生じ、その後の造形を継続することが不可能となった。これに対し、反応防止膜を設けた例1の造形用基材を用いて造形することにより、造形物の浮きや剥離の問題は生じず、図3(a)に示すように、予定した造形を完了することができた。
【0054】
そこで例1および例2の造形物について断面だしを行い、造形用基板と造形物との界面近傍の切断面を高倍率で観察し、その観察像を図4(a)(b)にそれぞれ示した。図4(b)に示すように、例2の反応防止膜のない造形用基材を用いて造形した場合は、造形物と造形用基材の境界部で反応が生じ、反応生成物が形成されていることが確認された。例2の造形では、この反応生成物が脆弱であることにより、造形に伴い発生する熱応力によって反応生成物の位置で界面が破壊され、造形物の浮きや剥離が生じたものと考えられる。これに対し、図4(a)に示すように、例1の反応防止膜を備える造形用基材を用いて造形した場合は、造形物と造形用基材の境界部での反応が抑制されていることが確認できた。そのため、例1の造形では、造形物の浮きや剥離が生じることなく、複雑形状の造形物を作製できることがわかった。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、上記実施形態において、粉体貯留部10は、造形部20の側方に備えられ、昇降テーブル14を上昇させることで貯留槽12から造形用粉体2を押し出して供給していた。しかしながら、粉体貯留部10の構成はこれに限定されない。粉体貯留部10は、例えば、造形部20の上方に備えられ、造形用粉体2を落下させることで造形槽22に供給するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 三次元造形装置
10 粉体貯留部
20 造形部
26 造形支持基材
26A 反応防止膜
26B 造形用基材
図1
図2
図3
図4