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特許7216648熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体とそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体とそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20230125BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230125BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230125BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230125BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C08L33/12
C08K3/34
C08L69/00
B32B27/20 Z
B32B27/30 A
C08K9/04
B32B27/36 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019532637
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027701
(87)【国際公開番号】W WO2019022074
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017142662
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐作
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097028(JP,A)
【文献】特開2007-023074(JP,A)
【文献】特開2007-176751(JP,A)
【文献】特開2007-268952(JP,A)
【文献】特開2007-145015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂の少なくとも1種類の熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、下記一般式(1)で示される化合物により有機化処理された層状珪酸塩(B)を0.1~5質量部含む、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式中のRは、下記式(A)で表される第4級アンモニウムカチオン
-N - ・・・(A)
(式中、R ,R 及びR は、それぞれC ~C 10 の直鎖又は分岐を有するアルキル基を表す);
xは、1~5の整数、Rは、OH;ZはCl をそれぞれ表す。)
【請求項2】
前記層状珪酸塩(B)が、天然または合成モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、ノントロナイト、サポナイト及びマイカからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)がメタクリル樹脂である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)と前記層状珪酸塩(B)とを溶融混練によって混合して得られる、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I);に、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II);が積層されている積層体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物(I)とスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物(II)を共押出成形によって積層することを特徴とする、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂および層状無機化合物を含む樹脂組成物に関する。また、本発明は、前記樹脂組成物を含む成形品および積層体に関する。さらに、本発明は、前記積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂から製造された合成樹脂成形品は、透明性、耐薬品性、表面硬度、耐候性、成形加工性等に優れ、電子機器や家電製品、自動車部品、建材、各種フィルム材料等、種々の分野で利用されている。
しかしながら、これらの合成樹脂製品は用途によっては、その表面硬度が不足しているため、他の硬い物体との接触、摩擦、ひっかき等により表面に損傷を受けることがあり、更なる表面硬度改善の要望がある。
【0003】
メタクリル樹脂の特徴である優れた透明性を保持したまま、表面硬度を改善する手段として、メタクリル樹脂と一次粒子径がナノサイズの無機物とを複合化させる試みが行われている。特許文献1には、溶剤に分散した可視光線波長以下の直径を有するシリカ微粒子を非結晶の有機高分子の重合過程で混合することにより得られる樹脂組成物および成形体が開示されている。また、特許文献2には、メチルメタクリレートを主成分とする単量体を、ラジカル重合開始剤および一次粒子径が1nm~100nmであり、水素イオン濃度pH7におけるζ電位が-10mV以上である無機物粒子の共存下に、水中で乳化重合することにより得られる無機物粒子含有メタクリル樹脂が開示されている。
しかしながら、これらのかかる樹脂組成物は、メタクリル樹脂の重合中に無機粒子を添加する方法で製造されるため、重合方法および条件によっては透明性を損なうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-343349
【文献】特開2007-91990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、透明性と表面硬度に優れた熱可塑性樹脂組成物、成形品および積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0007】
[1];メタクリル樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂の少なくとも1種類の熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、下記一般式(1)で示される化合物により有機化処理された層状珪酸塩(B)を0.1~5質量部含む、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式中のRは、第4級アンモニウムカチオン、第4級ホスフォニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンまたはピリジニウムカチオン;xは、1~5の整数、Rは、OH、C(O)OH、NH、SHまたはCH;Zは対アニオンをそれぞれ表す。)
[2];前記層状珪酸塩(B)が、天然または合成モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、ノントロナイト、サポナイト及びマイカからなる群より選択される少なくとも1つである[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3];前記熱可塑性樹脂(A)がメタクリル樹脂である[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]; 前記熱可塑性樹脂(A)と前記層状珪酸塩(B)とを溶融混練によって混合して得られる、[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5];[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
[6];[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I);に、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II);が積層されている積層体。
[7];[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物(I)とスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物(II)を共押出成形によって積層することを特徴とする、[6]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性と表面硬度に優れるため、積層体用材料として好適である。
本発明の積層体は、透明性および表面硬度に優れ、さらにメタクリル樹脂が本来有する外観品位を保っており、自動車や建材の加飾体板として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物を詳細に説明する。
【0010】
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と層状珪酸塩(B)とを少なくとも含有する。熱可塑性樹脂(A)と層状珪酸塩(B)とを少なくとも含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる層が、熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)である。
【0011】
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)について以下説明する。
【0012】
熱可塑性樹脂(A)は、メタクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む。
【0013】
上記メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含む樹脂である。
かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と称する)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸1-メチルシクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘプチル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-8-イルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アラルキルエステル;などが挙げられ、入手性の観点から、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、およびメタクリル酸tert-ブチルが好ましく、MMAが最も好ましい。メタクリル樹脂におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、メタクリル酸エステルに由来する構造単位のみであってもよい。これらのメタクリル酸エステルは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0014】
また、表面硬度の向上を効果的に発現できることおよび耐熱性の観点から、上記メタクリル樹脂は、MMAに由来する構造単位を80質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することがさらに好ましく、MMAに由来する構造単位のみであってもよい。
【0015】
また、上記メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。かかる他の単量体としては、アクリル酸メチル(以下、「MA」と称する)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸3-ジメチルアミノエチルなどのアクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;スチレン系単量体;(メタ)アクリロニトリル;オレフィン類;共役ジエン;無水マレイン酸;(N-置換)マレイミド;等が挙げられ、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル等のアクリル酸エステルが好ましく、MAおよびアクリル酸エチルがより好ましく、MAが最も好ましい。メタクリル樹脂におけるこれら他の単量体に由来する構造単位の含有量は、合計で20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。他の単量体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0016】
上記メタクリル樹脂は、上記したメタクリル酸エステルおよび任意成分である他の単量体を重合することで得られる。かかる重合において、複数種の単量体を用いる場合は、通常、かかる複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製したのち、重合に供する。重合方法に特に制限はないが、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などの方法でラジカル重合することが好ましく、層状珪酸塩との混練性の観点から、懸濁重合法、乳化重合法が更に好ましく、懸濁重合法が特に好ましい。得られた重合体は、さらに主鎖に無水グルタル環、グルタルイミド環、ラクトン環、イミド環等を形成させる高分子反応に供してもよい。
【0017】
上記メタクリル樹脂の重量平均分子量(以下、「Mw」と称する)は40,000~500,000が好ましい。かかるMwが40,000以上であることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物は耐擦傷性、耐熱性に優れるものとなり、500,000以下であることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形加工性に優れ、本発明の積層体の生産性を高められる。
なお本明細書において、Mwはゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0018】
上記メタクリル樹脂のガラス転移温度は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。かかるガラス転移温度が100℃以上であることで、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れるものとなる。なお、本明細書におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/分で測定し、中点法で算出したときの温度である。
【0019】
上記メタクリル樹脂のメルトフローレイト(以下、「MFR」と称する)は1~10g/10分の範囲であることが好ましい。かかるMFRの下限値は1.2g/10分以上であることがより好ましく、1.5g/10分であることがさらに好ましい。また、かかるMFRの上限値は7.0g/10分以下であることがより好ましく、4.0g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRが1~10g/10分の範囲にあると、加熱溶融成形の安定性が良好である。なお、本明細書におけるMFRとは、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定した値である。
【0020】
本発明に係る熱可塑性樹脂(A)に用いるポリカーボネート樹脂は、好適には二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応して得られる。
【0021】
上記二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。これらの二価フェノールは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0022】
上記カーボネート前駆体としては、ホスゲンなどのカルボニルハライド、トリホスゲン、ジフェニルカーボネートなどのカーボネートエステル、二価フェノールのジハロホルメートなどのハロホルメート等が挙げられる。これらのカーボネート前駆体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0023】
上記ポリカーボネート樹脂の製造方法に特に制限はなく、例えば二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法や、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法などが挙げられる。
【0024】
上記ポリカーボネート樹脂のMwは25,000~65,000の範囲が好ましく、30,000~55,000の範囲であることがより好ましい。かかるMwが25,000以上であることで本発明の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、耐熱性に優れ、65,000以下であることで成形加工性に優れる。
【0025】
上記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、120~160℃の範囲であることが好ましく、135~155℃の範囲であることがより好ましく、140~150℃の範囲であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が120~160℃の範囲であることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物は耐熱性に優れる。
【0026】
上記ポリカーボネート樹脂のMFRは3~50g/10分の範囲であるのが好ましく、5~40g/10分の範囲であるのがより好ましく、7~30g/10分の範囲であるのがさらに好ましい。MFRが3~50g/10分の範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形性に優れる。なお、本明細書におけるポリカーボネートのMFRとは、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定したものである。
【0027】
前記ポリカーボネートは、市販品を用いてもよく、例えば、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」および「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」などが好適に使用できる。
【0028】
[層状珪酸塩(B)]
層状珪酸塩(B)について以下説明する。
【0029】
本明細書において、層状珪酸塩とは、層間に交換性金属カチオンを有する層状の珪酸塩鉱物であって後述する有機化されたものを意味する。有機化される前の層状の珪酸塩鉱物は天然物であってもよく、合成物であってもよい。
【0030】
有機化処理される前の層状珪酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト及びノントロナイト等のスメクタイト系粘度鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等が挙げられる。
なかでも、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト(特に合成ヘクトライト)、膨潤性マイカ、及びバーミキュライトからなる群より選択される少なくとも1種が好適に用いられる。異物・不純物を殆ど含まず、品質が一定している点で合成物が好ましい。
該層状珪酸塩は、フッ素等で改質されていても良い。フッ素化された層状珪酸塩としては、フッ素化モンモリロナイト、フッ素化マイカ等が挙げられる。
これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
層状珪酸塩の結晶形状としては特に限定されないが、平均長さ、平均厚さ、アスペクト比等は以下の範囲のものが好ましい。
即ち、平均長さの好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は2μm、より好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は1μmであり、平均厚さの好ましい下限は0.002μm、好ましい上限は1μm、より好ましい下限は0.004μm、より好ましい上限は0.5μmであり、アスペクト比の好ましい下限は20、上限は500であり、より好ましい下限は50、上限は200である。
これらの層状珪酸塩の長さや厚さは、本発明の熱可塑性樹脂組成物の断面を電子顕微鏡等で観察することによって測定される。
【0032】
上記層状珪酸塩は、形状異方性効果が大きいことが好ましい。ここで形状異方性効果とは、形状異方性効果=薄片状結晶の積層面の表面積/薄片状結晶の側片の表面積、で表される。
形状異方性効果の大きい層状珪酸塩を用いることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物は優れた力学的物性を有するものとなる。
薄片状結晶の積層面の表面積および薄片状結晶の側片の表面積は、例えば、電子顕微鏡等によって観察される。
【0033】
また、層状珪酸塩の層間に存在する交換性金属カチオンとは、層状珪酸塩の薄片状結晶の表面に存在するナトリウムやカルシウム等の金属イオンを意味しており、これらの金属イオンはカチオン性物質とのカチオン交換性を有しているため、カチオン性を有する種々の物質を層状珪酸塩の結晶の層間に挿入(インターカレート)することができる。
【0034】
層状珪酸塩のカチオン交換容量としては特に限定されないが、好ましい下限は25ミリ当量/100g、上限は200ミリ当量/100gである。25ミリ当量/100g未満であると、カチオン交換により層状珪酸塩の結晶層間にインターカレートされるカチオン性物質の量が少なくなるために、結晶層間が十分に非極性化(疎水化)されないことがある。200ミリ当量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になりすぎて、結晶薄片が剥離し難くなることがある。
【0035】
層状珪酸塩は、下記一般式(1)で示される化合物により有機化処理される。
【化2】
ここで、式中のRは、第4級アンモニウムカチオン、第4級ホスフォニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンまたはピリジニウムカチオン;xは、1~5の整数、Rは、OH、C(O)OH、NH、SHまたはCH;Zは対アニオンをそれぞれ表す。
【0036】
上記一般式(1)で示されるRは、第4級アンモニウムカチオンであることが好ましい。第4級アンモニウムカチオンは一般的に次式で表される。
-N
ここで、R,RおよびRは、それぞれC~C10の直鎖または分岐を有するアルキル基からなる。R,RおよびRとしては、メチル基が好ましい。
【0037】
上記一般式(1)で示されるRは、第4級ホスフォニウムカチオンであることが好ましい。
第4級ホスフォニウムカチオンは一般的に次式で表される。

ここで、R,RおよびRは、それぞれC~C10のアルキル基もしくはC~C12のアリール基からなる。R,RおよびRとしては、フェニル基が好ましい。
【0038】
上記一般式(1)において、Rは、下記式で表されるイミダゾリウムカチオン
【化3】
(式中、Ra1は、アルキル基もしくはアリール基を示す。Ra2、Ra3、Ra4は、同一または相異なり、水素原子、アルキル基もしくはアリール基を示す。)
であることが好ましい。
【0039】
上記一般式(1)において、Rは、下記式で表されるピリジニウムカチオン
【化4】
(式中、Rb1~Rb5は、同一または相異なり、水素原子、アルキル基もしくはアリール基を示す。)
であることが好ましい。
【0040】
上記一般式(1)において、xは、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。
【0041】
上記一般式(1)において、Rは、OH(アルコール)、C(O)OH(カルボン酸)、NH(アミン)、SH(チオール)またはCH(メチル)であることが好ましく、OHであることがより好ましい。
【0042】
上記一般式(1)において、Zは、対アニオンを示す。対アニオンは、無機アニオンもしくは有機アニオンのいずれでもよく、ハロゲン化物アニオン(F、Cl、Br、I)、水酸化物アニオン、酢酸アニオンであることが好ましい。
【0043】
上記一般式(1)の好ましい形態の例として、Rは第四級アンモニウムカチオン、xは2、RはOH、Zはハロゲン化物アニオンが挙げられる。ハロゲン化物アニオンは、塩化物アニオンであることがより好ましい。
【0044】
上記一般式(1)で示される化合物による有機化処理は、1種の化合物を単独で用いられてもよく、2種以上の一般式(1)の化合物による有機化処理が併用されてもよい。
有機化処理は、一般式(1)で表される化合物の溶媒溶液に未処理の層状珪酸塩を必要に応じて撹拌しながら浸漬することにより行うことができる。溶媒としては、水が好ましい。処理温度は室温から60℃程度で行われ、処理時間は、1~24時間程度である。有機化処理により、層状珪酸塩の層間に存在するナトリウムやカリウムなどの交換性金属カチオンの10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%が[R-(CH-R]で表される有機カチオンと交換される。一般式(1)の化合物の使用量は、このようなカチオン交換を実現するのに必要な量を使用すればよく、このような使用量は当業者が容易に決定できる。
【0045】
上記、熱可塑性樹脂(A)に対する層状珪酸塩(B)の配合量の下限は熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部、上限は5質量部であり、好ましい下限は0.5質量部、上限は3質量部であり、より好ましい下限は0.75質量部、上限は2質量部である。
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対する層状珪酸塩(B)の配合量が、0.1質量部未満であると、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面硬度の向上効果が小さくなる。また、5質量部を超えると、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性が低下する。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形品とした状態では、熱可塑性樹脂(A)を熱分解等により除去することにより層状珪酸塩(B)の配合量を求めてもよい。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記した熱可塑性樹脂(A)と層状珪酸塩(B)とを混合して得られる。かかる混合は、例えば溶融混合法、溶液混合法等が使用できる。溶融混合法では、例えば一軸又は多軸混練機、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の溶融混練機を用いて、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気下で溶融混練を行う。溶液混合法では、熱可塑性樹脂(A)と層状珪酸塩(B)とを、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解又は分散させて混合する。本発明の熱可塑性樹脂組成物の混合方法は、熱可塑性樹脂(A)への層状珪酸塩(B)の分散性と生産性の観点から、二軸混練機を用いた溶融混合法で行うことが好ましい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂(A)と層状珪酸塩(B)以外の他の重合体を含有してもよい。かかる他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、後述する本発明の積層体に用いることのできるスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビ二リデン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これら他の重合体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中におけるこれら他の重合体の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
上記熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などが挙げられる。これら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定でき、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部とすることが好ましい。
【0050】
上記熱可塑性樹脂組成物に他の重合体および/または添加剤を含有させる際は、熱可塑性樹脂(A)および/または層状珪酸塩(B)を重合または変性する際に添加しても、熱可塑性樹脂(A)および層状珪酸塩(B)を混合する際に添加しても、熱可塑性樹脂(A)および層状珪酸塩(B)を混合した後にさらに添加してもよい。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を、(共)押出成形法、Tダイラミネート成形法、押出被覆法などの押出成形法1インサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションブレス成形法などの射出成形法;ブロー成形法;カレンダー成形法;プレス成形法;スラッシュ成形法などの方法で加熱溶融成形することによって各種成形品を得ることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)の透明性を保持したまま、表面硬度を向上することができるため、フィルム、シートなどのような厚さ0.05~3.0mmの薄く広い成形品の製造に好適である。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フィルム、シートなどの各種成形品に利用される。かかる各種成形品の用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどを挙げることができる。
以下、本発明の積層体を詳細に説明する。
【0053】
本発明の積層体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I);と、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II);とを備える積層体である。
【0054】
ポリカーボネート系樹脂はポリカーボネート樹脂を主体とする樹脂である。ポリカーボネート樹脂は、熱可塑性樹脂(A)として上記したものを挙げることができる。ポリカーボネート系樹脂としては、ポリカーボネート単位以外に、ポリエステル構造、ポリウレタン構造、ポリエーテル構造及びポリシロキサン構造のいずれかを有する単位を含有している重合体であってもよい。
【0055】
ポリカーボネート系樹脂の分子量は特に制限されない。押出成形による製造の容易さの観点から、ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量は13000~30000であることが好ましい。同様の観点から250℃、100sec-1におけるポリカーボネート系樹脂の溶融粘度は13000~60000ポイズであることが好ましい。分子量の調節は末端停止剤や分岐剤の量を調整することによって行うことができる。
【0056】
スチレン系樹脂には、ポリスチレンの他に、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、スチレン-無水マレイン酸-MMA共重合体(SMM樹脂)、スチレン-マレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリロニトリル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド-アクリル酸ブチル共重合体、ゴム強化耐衝撃性ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、エチレン-プロピレンゴム強化スチレン-アクリロニトリル共重合体(AES樹脂)、ポリアクリル酸エステルゴム強化スチレン-アクリロニトリル共重合体(AAS樹脂)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体(MBS樹脂)等のスチレン系樹脂、又はこれらの混合物が含まれる。
【0057】
スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II)を構成する樹脂には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で添加剤を配合することが可能である。添加剤は例えば、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、艶消し剤などである。
【0058】
本発明の積層体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)およびスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II)から構成されてもよく、熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)、熱可塑性樹脂組成物からなる層(II)以外に、他の樹脂からなる層(他の樹脂層)や金属からなる層等を有していてもよい。かかる他の樹脂層に含まれる樹脂としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂以外の各種熱可塑性樹脂;熱硬化樹脂;エネルギー線硬化樹脂;等が挙げられる。
【0059】
上記した他の樹脂層として、耐擦傷層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層、粘着層、衝撃強度付与層などが挙げられる。
【0060】
これら他の樹脂層は1層であっても、複数であってもよい。またこれら他の樹脂層が複数ある場合、互いに同じ樹脂からなっていても、異なる樹脂からなっていてもよい。本発明の積層体において、かかる他の樹脂層の配置順序には特に制限はなく、表層であっても、内層であってもよい。
【0061】
本発明の積層体の厚さは、優れた外観を維持しつつ生産性よく製造する観点から、0.03~5.0mmの範囲であることが好ましく、0.05~4.0mmであることがより好ましく、0.1~3.0mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0062】
本発明の積層体における熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)の厚さは0.01~0.5mmの範囲であることが好ましく、0.015~0.3mmの範囲であることがより好ましく、0.02~0.1mmの範囲であることがさらに好ましい。かかる厚さが0.01mm未満であると耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また0.5mmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。
また本発明の積層体における熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)の厚さが薄い場合、例えば0.1mm以下であれば、本発明の熱可塑性樹脂組成物の全光線透過率が低い場合でも、本発明の積層体としての全光線透過率は高く維持できる。
【0063】
本発明の積層体におけるスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II)の厚さは0.02~4.9mmの範囲であることが好ましく、0.035~3.9mmの範囲であることがより好ましく、0.08~2.9mmの範囲であることがさらに好ましい。かかる厚さが0.02mm未満であると耐衝撃性が不足する場合がある。また4.9mmを超えると生産性が低下する場合がある。
【0064】
本発明の積層体が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)およびスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物からなる層(II)から構成される場合、本発明の積層体の積層順序としては、(I)-(II);(I)-(II)-(I);(II)-(I)-(II);(I)-(II)-(I)-(II)-(I);などが挙げられ、耐擦傷性を高める観点から、(I)-(II);(I)-(II)-(I);(I)-(II)-(I)-(II)-(I);など、少なくとも一方の表面が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる層(I)となるように積層されていることが好ましい。
【0065】
また、本発明の積層体が他の樹脂層を有する場合には、かかる他の樹脂層を(III)と表記した場合、本発明の積層体の積層順序としては、(I)-(II)-(III);(III)-(I)-(II);(III)-(I)-(II)-(III);(III)-(I)-(II)-(I)-(III);(I)-(II)-(III)-(II)-(I);などが挙げられる。
例えば(III)が、トップコート層である場合、かかる本発明の積層体の積層順序は、トップコート層を(III’)と表記すると、(III’)-(I)-(II);(III’)-(I)-(II)-(III’)、(III’)-(I)-(II)-(I)-(III’)など、少なくとも一方の表面がトップコート層となるように積層されていることが好ましい。
【0066】
また、本発明の積層体が(III)に加えて、さらに(III)とは異なる他の樹脂層を有する場合には、かかる(III)とは異なる他の樹脂層を(IV)と表記した場合、本発明の積層体の積層順序としては、(I)-(II)-(III)-(IV);(IV)-(III)-(I)-(II);(IV)-(III)-(I)-(II)-(III);(IV)-(I)-(II)-(III);(IV)-(III)-(I)-(II)-(III)-(IV);(IV)-(III)-(I)-(II)-(I)-(III)-(IV);などが挙げられる。
【0067】
例えば(III)が耐擦傷層であって、(IV)が反射防止層である場合、反射防止層を(IV’)と表記すると、(IV’)-(III’)-(I)-(II);(IV’)-(III’)-(I)-(II)-(III’);(IV’)-(III’)-(I)-(II)-(III’)-(IV’);(IV’)-(III’)-(I)-(II)-(I)-(III’)-(IV’);などの順に積層されていることが好ましい。
【0068】
高温高湿下における反りの発生を抑制する観点から、本発明の積層体は厚さ方向に対称となるような積層順序とすることが好ましく、さらに厚さ方向に対称となるように各層の厚さも対称となっていることがより好ましい。
【0069】
本発明の積層体の製造方法に特に制限はなく、多層押出成形、多層プレス成形、多色射出成形、インサート射出成形などの多層成形法により製造することができる。これら多層成形法にうち、生産性の観点から、本発明の熱可塑性樹脂組成物とスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物との多層押出成形が好ましい。
【0070】
多層押出成形の方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂の多層積層体の製造に用いられる公知の多層押出成形法を好ましく採用でき、より好適にはフラットなTダイと表面が鏡面仕上げされたポリシングロールを備えた装置によって成形される。
この場合のTダイの方式としては、加熱溶融状態の本発明の積層体における熱可塑性樹脂組成物(I)およびスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物(II)をTダイ流入前に積層するフィードブロック方式、本発明の積層体における熱可塑性樹脂組成物(I)およびスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びこれらの混合物のいずれかを含む熱可塑性樹脂組成物(II)がTダイ内部で積層されるマルチマニホールド方式などを採用できる。積層体を構成する各層間の界面の平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0071】
本発明の積層体の用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどを挙げることができる。
【実施例
【0072】
以下に実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1a~4aおよび比較例1a~3aで得られたメタクリル樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂組成物の物性を以下の方法で測定した。また、実施例1b~4bおよび比較例1b、2bで得られたメタクリル樹脂組成物からなる層;と、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる層;とを備える積層体の物性を以下の方法で測定した。
【0074】
[全光線透過率]
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、シリンダ温度250℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で実施例および比較例で得られたメタクリル樹脂組成物を射出成形して、厚さ3mm、長片200mm、短辺50mmの長方形の試験片を得た。また、シリンダ温度を280℃、金型温度を80℃に変更した以外は前記と同条件で実施例および比較例で得られたポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して、前記と同形状の試験片を得た。
各試験片をJIS K7361-1に記載された方法に準拠して、分光色差計SE5000 日本電色工業株式会社製を使用し、全光線透過率を測定した。
【0075】
[光沢度]
マイクロ-トリ-グロス(携帯型光沢計)(BYKガードナー社製)を用いて測定した。前記と同様の方法で作製した実施例1a~4a、1b~4bおよび比較例1a~3a、1b~2bのメタクリル樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形体(厚さ3mm)表面の光沢度をJIS 8741-1997に準拠して、60度鏡面光沢度を測定した。
【0076】
[鉛筆硬度]
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機株式会社製)を用いて測定した。前記と同様の方法で作製した実施例1a~4a、1b~4bおよび比較例1a~3a、1b~2bのメタクリル樹脂組成物、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形体(厚さ3mm)表面に対して角度45度、荷重750gで鉛筆の芯を押付けながら引っ掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、5回試験を行い2回以上傷跡が生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度を鉛筆硬度とした。
【0077】
[透明性]
実施例および比較例の積層体をJIS K7361-1に記載された方法に準拠して、分光色差計SE5000 日本電色工業株式会社製を使用し、全光線透過率を測定した。
全光線透過率が、85%以上のものを○、85%より小さいものを×として透明性を評価した。
【0078】
[防眩性]
液晶表示装置の画面を全面グリーン表示にして、表示素子上に実施例1b~4bおよび比較例1b~2bの積層体を載置して目視で観察を行い、ギラツキがないものを○、ギラツキがあるものを×として防眩性を評価した。
【0079】
[表面硬度]
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機株式会社製)を用いて測定した。実施例1b~4bおよび比較例1b~2bの積層体の本発明のメタクリル樹脂組成物またはポリカーボネート樹脂組成物側の表面に対して角度45度、荷重750gで鉛筆の芯を押付けながら引っ掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、5回試験を行い2回以上傷跡が生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度を鉛筆硬度とした。
鉛筆硬度が、3H以上のものを○、3Hより小さいものを×として表面硬度を評価した。
【0080】
<各種材料例>
本発明に係るメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂について、下記に示す材料を用いた。
<メタクリル樹脂>
株式会社クラレ製「パラペットG-1000P」
<ポリカーボネート樹脂>
住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー300-8」
<ABS樹脂>
日本エイアンドエル株式会社製「クララスチックST-100」
<層状珪酸塩>
Tenasi Tech社製「SOLID-TT」
【0081】
(実施例1a)
メタクリル樹脂100質量部と層状珪酸塩0.5質量部をタンブラーで乾式混合し、軸径15mmの二軸押出機(株式会社テクノベル製、商品名:KZW15-45MG)で、シリンダ温度215~225℃、ダイ温度225℃、スクリュ回転数430rpmの条件で溶融混練を行い、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(以下「熱可塑性樹脂組成物(1)と称する」を得た。熱可塑性樹脂組成物(1)の組成および物性を表1に示す。
【0082】
(実施例2a)
層状珪酸塩1.0質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(2)を得た。熱可塑性樹脂組成物(2)の組成および物性を表1に示す。
【0083】
(実施例3a)
層状珪酸塩2.0質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(3)を得た。熱可塑性樹脂組成物(3)の組成および物性を表1に示す。
【0084】
(実施例4a)
メタクリル樹脂をポリカーボネート樹脂に、層状珪酸塩を1.0質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(4)を得た。熱可塑性樹脂組成物(4)の組成および物性を表1に示す。
【0085】
(比較例1a)
層状珪酸塩を0質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(5)を得た。熱可塑性樹脂組成物(5)の組成および物性を表1に示す。
【0086】
(比較例2a)
層状珪酸塩を10質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(6)を得た。熱可塑性樹脂組成物(6)の組成および物性を表1に示す。
【0087】
(比較例3a)
メタクリル樹脂をポリカーボネート樹脂、層状珪酸塩0質量部に変えた以外は、実施例1aと同じ方法にて熱可塑性樹脂組成物(7)を得た。熱可塑性樹脂組成物(7)の組成および物性を表1に示す。
【0088】
実施例1a~4a、比較例1a~3aについて表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(実施例1b)
軸径50mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度280℃、吐出量30kg/時の条件にて溶融状態で押出した。一方、軸径30mmの単軸押出機に熱可塑性樹脂組成物(2)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度220℃、吐出量3.3kg/時の条件にて溶融状態で押出した。かかる溶融状態のポリカーボネート樹脂と熱可塑性樹脂組成物(2)とを2種2層用のジャンクションブロックに導入し、250℃に設定したマルチマニホールドダイで積層し、シート状に押出成形し、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(2)からなる層(I)と厚さ900μmのポリカーボネート樹脂からなる層(II)との2層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0091】
(実施例2b)
ポリカーボネート樹脂の代わりにABS樹脂を使用した以外は実施例1bと同様に、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(2)からなる層(I)と厚さ900μmのABS樹脂からなる層(II)との2層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0092】
(実施例3b)
熱可塑性樹脂組成物(2)の代わりに熱可塑性樹脂組成物(4)を使用し、ポリカーボネート樹脂の代わりにABS樹脂を使用した以外は実施例1bと同様に、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(4)からなる層(I)と厚さ900μmのABS樹脂からなる層(II)との2層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0093】
(実施例4b)
軸径50mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度280℃、吐出量30kg/時の条件にて溶融状態で押出した。一方、軸径30mmの単軸押出機に熱可塑性樹脂組成物(2)のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度220℃、吐出量7.5kg/時の条件にて溶融状態で押出した。かかる溶融状態のポリカーボネート樹脂と熱可塑性樹脂組成物(2)と2種3層用のジャンクションブロックに導入し、250℃に設定したマルチマニホールドダイで積層し、シート状に押出成形し、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(2)からなる層(I)と厚さ800μmのポリカーボネート樹脂からなる層(II)と厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(2)からなる層(III)の3層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0094】
(比較例1b)
熱可塑性樹脂組成物(2)の代わりに熱可塑性樹脂組成物(5)を使用した以外は実施例1bと同様に、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(5)からなる層(I)と厚さ900μmのポリカーボネート樹脂からなる層(II)との2層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0095】
(比較例2b)
熱可塑性樹脂組成物(2)の代わりに熱可塑性樹脂組成物(6)を使用した以外は実施例1bと同様に、厚さ100μmの熱可塑性樹脂組成物(6)からなる層(I)と厚さ900μmのポリカーボネート樹脂からなる層(II)との2層から形成される厚さ1mmの積層体を製造した。かかる積層体の評価結果を表2に示す。
【0096】
実施例1b~4b、比較例1b~2bについて表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(1)~(4)(実施例1a~4a)は、本来メタクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂が有する高い透明性を保持したまま光沢度を低減し、表面硬度に優れる。本発明の熱可塑性樹組成物を備える本発明の積層体(実施例1b~4b)は、高い透明性を維持したまま、防眩性に優れ、基材となる層の表面硬度を著しく向上することができる。
これに対して、層状珪酸塩を含有していない熱可塑性樹脂組成物(5)および(7)(比較例1aおよび3a)は、表面硬度が低く、かかる比較例の熱可塑性樹脂組成物を用いた積層体(比較例1b)の表面硬度も低い。また、層状珪酸塩の含有量が多い熱可塑性樹脂組成物(6)(比較例2a)は、透明性が低く、かかる比較例の熱可塑性樹脂組成物を用いた積層体(比較例2b)の透明性も低い。
このように本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本来メタクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂が有する高い透明性を保持しつつ、防眩性、表面硬度に優れる。これらの特徴により、本発明の熱可塑性樹脂組成物を備える積層体は、高い透明性を保持したまま、基材となる層の表面硬度を著しく向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる層を備える積層体は、透明性と表面硬度が良好であるという特徴を有し、表示装置のカバーや筐体、車輛の内外装や窓材やカバー、建材の内装材等に用いる上で好適である。