(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】積層シートとその製造方法、及び保護カバー付きディスプレイ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230125BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230125BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20230125BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20230125BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20230125BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/36 102
G09F9/00 304Z
G02B1/14
G02B1/115
G02F1/13363
(21)【出願番号】P 2020500480
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2019004848
(87)【国際公開番号】W WO2019159890
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018022861
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】船崎 一男
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164276(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/093037(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 48/18,48/88
G09F 9/00
G02B 1/14
G02B 1/115
G02F 1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂及び/又は下記一般式(1)で表される共重合単位を含む変性ポリカーボネート樹脂を含有する表面層が積層された積層シートであって、
総厚みが
0.4~0.9mmであり、
総厚みに対する前記表面層の厚みの割合が10~30%であり、
100℃で5時間加熱されたときに、加熱前後の双方において、少なくとも一部の面内のレターデーション値が50~330nmであり、加熱前に対する加熱後の前記レターデーション値の低下率が35%未満であり、
以下の方法により測定される曲げ強度が
1.5~15Nである、積層シート。
<曲げ強度の測定方法>
長さ80mm幅10mmの積層シートについて、歪み速度3mm/min、支点間距離30mmの条件で3点曲げ試験を行い、歪みが1.0%の時に積層シートにかかる試験力(N)を曲げ強度とする。
【化1】
(上記式(1)中、R
1はメチル基を示し、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xはアルキレン基又はアルキリデン基を示す。)
【請求項2】
前記表面層は、メタクリル樹脂5~90質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~10質量%とを含む、
請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記共重合体は、芳香族ビニル化合物単位50~84質量%、無水マレイン酸単位15~49質量%、及びメタクリル酸エステル単位1~35質量%を含む、
請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記表面層は、メタクリル樹脂と多層構造ゴム粒子とを含む、
請求項1に記載の積層シート。
【請求項5】
前記表面層上に、耐擦傷性層、眩光防止層、又は反射防止層を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項6】
液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイの保護カバー用である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項7】
液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイと、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層シートからなる保護カバーとを含む、保護カバー付きディスプレイ。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂を含有する前記基材層の少なくとも片面に前記メタクリル樹脂及び/又は前記変性ポリカーボネート樹脂を含有する前記表面層が積層された熱可塑性樹脂積層体を溶融状態でTダイから共押出する工程と、
互いに隣接する3つ以上の冷却ロールを用い、前記溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、第n番目(但し、n≧1)の冷却ロールと第n+1番目の冷却ロールとの間に挟み込み、第n+1番目の冷却ロールに巻き掛ける操作をn=1から複数回繰り返すことにより冷却する工程と、
冷却後に得られた前記積層シートを引取りロールによって引き取る工程とを含み、
最後の前記冷却ロールから剥離する位置における前記熱可塑性樹脂積層体の全体温度(T1)を、前記基材層の構成樹脂のガラス転移温度(TgA)に対し-2℃~+19℃の範囲とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の積層シートの製造方法。
【請求項9】
前記引取りロールの周速度(V4)と第2番目の前記冷却ロールの周速度(V2)との周速度比(V4/V2)を0.98~1.01とする、
請求項8に記載の積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シートとその製造方法、及び保護カバー付きディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、並びに、かかるフラットパネルディスプレイとタッチパネル(タッチスクリーンとも言う)とを組み合わせたタッチパネルディスプレイは、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用されている。特に車載用ディスプレイは、車の自動運転の研究が進む中、コックピットの技術開発、法規制の動向、及び安全性の観点から、重要性が増している。
入力操作等による表面の擦傷等を防止するために、液晶ディスプレイ及びタッチパネル等の表面には、好ましくは透明な保護カバーが設置される。保護カバーの材質としては従来強化ガラスが主に使用されているが、近年では加工性及び軽量化の観点から、透明樹脂の使用が増えてきている。保護カバーには、光沢、耐擦傷性、及び耐衝撃性等の機能が求められる。
【0003】
透明樹脂製の保護カバーとして、特許文献1には、耐衝撃性に優れるポリカーボネート樹脂層と、高光沢で耐擦傷性に優れるメタクリル樹脂層とを含む積層シートが開示されている(請求項1)。この積層シートは、加熱溶融成形、好ましくは共押出成形によって製造することができる。この加熱溶融成形においては、2種類の樹脂の特性の違いにより、得られる積層シートに歪み応力が残る場合がある。この歪み応力は「残留応力」と呼ばれ、この残留応力を有する積層シートでは熱変化によって反り又は縮みが生じる恐れがある。
【0004】
液晶ディスプレイ用の保護カバーは、液晶ディスプレイの前面側(視認者側)に設置され、視認者はこの保護カバーを通して液晶ディスプレイの画面を見る。従来一般的な保護カバーは液晶ディスプレイからの出射光の偏光性をほとんど変化させないため、偏光サングラス等の偏光フィルタを通して画面を見ると、出射光の偏光軸と偏光フィルタの透過軸とがなす角度によっては、画面が暗くなり、画像の視認性が低下する場合がある(いわゆるブラックアウト現象)。そこで、偏光フィルタを通して液晶ディスプレイの画面を見る場合の画像の視認性の低下を抑制しうる液晶ディスプレイ用の保護カバーが検討されている。例えば、特許文献2には、面内のレターデーション値(Re値)を85~300nmに規定した液晶ディスプレイ保護カバーが開示されている(請求項1)。Re値は例えば、保護カバーにおける樹脂の配向と残留応力により制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-33751号公報
【文献】特開2010-085978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等のディスプレイに対する薄型化及び軽量化の要請が益々高まっている。そのため、このようなディスプレイに用いられる各種部材の薄型化及び/又は軽量化が進んでおり、保護カバーに用いられる積層シートの薄型化が検討されている。しかしながら、積層シートの厚みを薄くすると、積層シートの剛性が低下し、この積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイの画面操作時に画像の歪み又は滲みが見られる恐れがある。また、積層シートの押出成形では、積層シートの厚みが薄くなると、冷却ロール上での冷却速度が速くなるため、Re値の制御と保護カバーの良好な表面性とを両立させることが困難となる。具体的には、Re値を所望の範囲内に制御する場合、冷却ロールから積層シートが剥離する際に積層シートの表面に剥離マーク(いわゆるチャタマーク)がつきやすく、表面性の良好な積層シートを得ることが難しくなる。
【0007】
積層シートは、製造工程及び使用環境下等において、高温に曝され得る。
保護カバーの少なくとも一方の面には、耐擦傷性(ハードコート性)及び/又は視認性向上のための低反射性を有する硬化被膜を形成することができる。この場合、硬化被膜を形成する工程において、積層シートは100℃程度の温度に加熱され得る。例えば、熱硬化性の被膜材料は硬化に加熱を要するし、光硬化性の被膜材料は光照射時に熱を受ける。被膜材料が溶剤を含む場合、溶剤乾燥のために加熱される場合がある。
また、カーナビゲーションシステム等の車載用表示装置、携帯電話(スマートフォンを含む)等に搭載される液晶ディスプレイ用の保護板は、夏季日照下にダッシュボード上に配置される場合等、100℃以上の高温環境下で使用される場合があり得る。
このように製造工程及び使用環境下等で積層シートが高温に曝された場合、熱により積層シート中の樹脂の配向及び/又は残留応力が変化することで、積層シートのRe値が低下して所望の範囲外となる恐れがある。Re値の熱変化は小さいことが好ましい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護カバーとして好適に使用され、面内のレターデーション値(Re値)が好適な範囲内であり、全体の厚みを従来よりも薄くしても充分な剛性と良好な表面性を有することが可能な積層シートを提供することを目的とする。
なお、本発明は、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護カバーとして好適なものであるが、任意の用途に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[10]の積層シートとその製造方法、及び保護カバー付きディスプレイを提供する。
【0010】
[1] ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂及び/又は下記一般式(1)で表される共重合単位を含む変性ポリカーボネート樹脂を含有する表面層が積層された積層シートであって、
総厚みが0.3~0.95mmであり、
100℃で5時間加熱されたときに、加熱前後の双方において、少なくとも一部の面内のレターデーション値が50~330nmであり、加熱前に対する加熱後の前記レターデーション値の低下率が35%未満であり、
以下の方法により測定される曲げ強度が1N以上である、積層シート。
<曲げ強度の測定方法>
長さ80mm幅10mmの積層シートについて、歪み速度3mm/min、支点間距離30mmの条件で3点曲げ試験を行い、歪みが1.0%の時に積層シートにかかる試験力(N)を曲げ強度とする。
【0011】
【化1】
(上記式(1)中、R
1はメチル基を示し、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Xはアルキレン基又はアルキリデン基を示す。)
【0012】
[2] 総厚みに対する前記表面層の厚みの割合が5~32%である、[1]の積層シート。
[3] 前記表面層は、メタクリル樹脂5~90質量%と、芳香族ビニル化合物単位及び無水マレイン酸単位を含む共重合体95~10質量%とを含む、[1]又は[2]の積層シート。
[4] 前記共重合体は、芳香族ビニル化合物単位50~84質量%、無水マレイン酸単位15~49質量%、及びメタクリル酸エステル単位1~35質量%を含む、[3]の積層シート。
【0013】
[5] 前記表面層は、メタクリル樹脂と多層構造ゴム粒子とを含む、[1]又は[2]の積層シート。
[6] 前記表面層上に、耐擦傷性層、眩光防止層、又は反射防止層を有する、[1]~[5]のいずれかの積層シート。
[7] 液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイの保護カバー用である、[1]~[6]のいずれかの積層シート。
[8] 液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイと、[1]~[6]のいずれかの積層シートからなる保護カバーとを含む、保護カバー付きディスプレイ。
【0014】
[9] 前記ポリカーボネート樹脂を含有する前記基材層の少なくとも片面に前記メタクリル樹脂及び/又は前記変性ポリカーボネート樹脂を含有する前記表面層が積層された熱可塑性樹脂積層体を溶融状態でTダイから共押出する工程と、
互いに隣接する3つ以上の冷却ロールを用い、前記溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、第n番目(但し、n≧1)の冷却ロールと第n+1番目の冷却ロールとの間に挟み込み、第n+1番目の冷却ロールに巻き掛ける操作をn=1から複数回繰り返すことにより冷却する工程と、
冷却後に得られた前記積層シートを引取りロールによって引き取る工程とを含み、
最後の前記冷却ロールから剥離する位置における前記熱可塑性樹脂積層体の全体温度(T1)を、前記基材層の構成樹脂のガラス転移温度(TgA)に対し-2℃~+19℃の範囲とする、[1]~[7]のいずれかの積層シートの製造方法。
[10] 前記引取りロールの周速度(V4)と第2番目の前記冷却ロールの周速度(V2)との周速度比(V4/V2)を0.98~1.01とする、[9]の積層シートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護カバーとして好適に使用され、面内のレターデーション値(Re値)が好適な範囲内であり、全体の厚みを従来よりも薄くしても充分な剛性と良好な表面性を有することが可能な積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の積層シートの模式断面図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態の積層シートの模式断面図である。
【
図3】本発明に係る一実施形態の積層シートの製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[積層シート]
本発明の積層シートは、ポリカーボネート樹脂(PC)を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂(PM)及び/又は変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)を含有する表面層が積層された構造を有する。
図1、
図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の積層シートの模式断面図である。これらの図において、同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。
図1に示す第1実施形態の積層シート10Xは、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層11の両面にそれぞれ、メタクリル樹脂(PM)及び/又は変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)を含有する表面層12A、12Bが積層された構造を有している。表面層12Aと表面層12Bは、組成と厚みが同一でも非同一でもよい。
図2に示す第2実施形態の積層シート10Yは、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層11の片面にメタクリル樹脂(PM)及び/又は変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)を含有する表面層12が積層された構造を有している。
積層シート10X、10Yにおいて、各層の厚みは適宜設計することができる。積層シート10X、10Yは、上記以外の任意の層を有していてもよい。
【0018】
(基材層)
基材層は、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含有する。本明細書において、ポリカーボネート樹脂は、特に明記しない限り、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂等の一般的なポリカーボネート樹脂(非変性ポリカーボネート樹脂とも言う)である。非変性ポリカーボネート樹脂は、後記一般式(2)で表される構造単位のみからなるポリカーボネート樹脂である。ポリカーボネート樹脂(PC)は、耐衝撃性等に優れる樹脂である。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(PC)は、好適には1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂(PC)の製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(PC)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることで、本発明の積層シートは耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなる。Mwが100,000以下であることで、ポリカーボネート樹脂(PC)は成形性に優れ、本発明の積層シートの生産性を高められる。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(PC)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0022】
基材層は必要に応じて、1種以上の他の重合体を含むことができる。他の重合体としては特に制限されず、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。基材層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0023】
基材層は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、コアシェル粒子及びブロック共重合体等の耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。基材層の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
基材層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、ポリカーボネート樹脂(PC)の重合時でも重合後でもよい。
【0024】
本明細書において、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含む基材層の構成樹脂のガラス転移温度をTgAと表す。TgAは好ましくは120~160℃、より好ましくは130~155℃、特に好ましくは140~150℃である。
【0025】
加熱溶融成形の安定性の観点から、1種以上のポリカーボネート樹脂(PC)を含む基材層の構成樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは3~20g/10分、特に好ましくは5~10g/10分である。本明細書において、基材層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定される値である。
【0026】
(表面層)
表面層は、1種以上のメタクリル樹脂(PM)及び/又は1種以上の変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)を含む。
【0027】
一態様において、表面層は、1種以上のメタクリル樹脂(PM)を含有するメタクリル樹脂含有層である。メタクリル樹脂(PM)は、光沢、透明性、及び表面硬度等に優れる樹脂である。表面層中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは20~100質量である。
加熱溶融成形の安定性の観点から、1種以上のメタクリル樹脂(PM)を含むメタクリル樹脂含有層の構成樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~10g/10分、より好ましくは1.5~7g/10分、特に好ましくは2~4g/10分である。本明細書において、メタクリル樹脂含有層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0028】
表面層として好ましいメタクリル樹脂含有層としては、1種以上のメタクリル樹脂(PM)及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂(組成物)からなるメタクリル樹脂含有層(MLA);メタクリル樹脂(PM)及びSMA樹脂(S)(詳細については後記)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂組成物(MR1)からなるメタクリル樹脂含有層(MLB);メタクリル樹脂(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)(詳細については後記)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができるメタクリル樹脂組成物(MR2)からなるメタクリル樹脂含有層(MLC)等が挙げられる。
【0029】
<メタクリル樹脂(PM)>
メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)に含まれるメタクリル樹脂(PM)は、好ましくはメタクリル酸メチル(MMA)を含む1種以上のメタクリル酸炭化水素エステル(以下、単にメタクリル酸エステルとも言う)に由来する構造単位を含む単独重合体又は共重合体である。メタクリル酸エステル中の炭化水素基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等の非環状脂肪族炭化水素基であっても、脂環式炭化水素基であっても、フェニル基等の芳香族炭化水素基であってもよい。透明性の観点から、メタクリル樹脂(PM)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0030】
メタクリル樹脂(PM)は、メタクリル酸エステル以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸3-ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等が好ましく、MA及びアクリル酸エチル等がより好ましく、MAが特に好ましい。メタクリル樹脂(PM)における他の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0031】
メタクリル樹脂(PM)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0032】
メタクリル樹脂(PM)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000~500,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが500,000以下であることでメタクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。本明細書において、特に明記しない限り、「Mw」はゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0033】
<メタクリル樹脂組成物(MR1)>
メタクリル樹脂組成物(MR1)は、上記のメタクリル樹脂(PM)及びSMA樹脂(S)を含み、さらに及び必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。樹脂組成物(MR1)中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~55質量%、特に好ましくは10~50質量%である。樹脂組成物(MR1)中のSMA樹脂(S)の含有量は、好ましくは95~20質量%、より好ましくは95~45質量%、特に好ましくは90~50質量%である。これらの樹脂の含有量が上記の範囲であると、表面層の耐熱性が向上し、硬化被膜を形成する工程において積層シートが加熱された際に積層シートの表面荒れを抑制することができる。また、基材層に用いられるポリカーボネート樹脂(PC)とのガラス転移温度差を小さくすることができ、シート成形における積層シートの反りを低減することができる。
【0034】
本明細書において、SMA樹脂(S)とは、1種以上の芳香族ビニル化合物及び無水マレイン酸(MAH)を含む1種以上の酸無水物に由来する構造単位を含む共重合体である。芳香族ビニル化合物としては、スチレン(St);2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、及び4-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン及び4-メチル-α-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン;が挙げられる。中でも、入手性の観点からスチレン(St)が好ましい。樹脂組成物(MR1)の透明性及び耐湿性の観点から、SMA樹脂(S)中の芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は、好ましくは50~85質量%、より好ましくは55~82質量%、特に好ましくは60~80質量%である。酸無水物としては入手性の観点から少なくとも無水マレイン酸(MAH)を用い、必要に応じて、無水シトラコン酸及びジメチル無水マレイン酸等の他の酸無水物を用いることができる。樹脂組成物(MR1)の透明性及び耐熱性の観点から、SMA樹脂(S)中の酸無水物単量体単位の含有量は、好ましくは15~50質量%、より好ましくは18~45質量%、特に好ましくは20~40質量%である。
【0035】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物及び酸無水物に加え、1種以上のメタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を含むことができる。メタクリル酸エステルとしては、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸1-フェニルエチル等が挙げられる。中でも、アルキル基の炭素数が1~7であるメタクリル酸アルキルエステル等が好ましい。SMA樹脂(S)の耐熱性及び透明性の観点から、MMAが特に好ましい。積層シートの曲げ加工性及び透明性の観点から、SMA樹脂(S)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~30質量%、特に好ましくは5~26質量%である。この場合において、芳香族ビニル化合物単量体単位の含有量は好ましくは50~84質量%、酸無水物単量体単位の含有量は好ましくは15~49質量%である。
【0036】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、及びメタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。他の単量体としては、メタクリル樹脂(PM)の説明において上述したものを用いることができる。SMA樹脂(S)中の他の単量体単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0037】
SMA樹脂(S)は、芳香族ビニル化合物、酸無水物、必要に応じてメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。この重合においては、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法は特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法及び溶液重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0038】
SMA樹脂(S)のMwは、好ましくは40,000~300,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル樹脂含有層は耐擦傷性及び耐衝撃性に優れるものとなり、Mwが300,000以下であることでメタクリル樹脂含有層は成形性に優れるものとなる。
【0039】
樹脂組成物(MR1)は、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(S)、及び必要に応じて他の重合体を混合して得られる。混合法としては、溶融混合法及び溶液混合法等が挙げられる。溶融混合法では、単軸又は多軸の混練機;オープンロール、バンバリーミキサー、及びニーダー等の溶融混練機等を用い、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下で溶融混練を行うことができる。溶液混合法では、メタクリル樹脂(PM)とSMA樹脂(S)とを、トルエン、テトラヒドロフラン、及びメチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解させて混合することができる。
【0040】
<メタクリル樹脂組成物(MR2)>
メタクリル樹脂組成物(MR2)は、上記のメタクリル樹脂(PM)及び多層構造ゴム粒子(RP)を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の重合体を含むことができる。樹脂組成物(MR2)中のメタクリル樹脂(PM)の含有量は、好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~95質量%である。樹脂組成物(MR2)中の多層構造ゴム粒子(RP)の含有量は、好ましくは20~1質量%、より好ましくは15~5質量%である。表面層が多層構造ゴム粒子(RP)を含むことで、積層シートの耐割れ性等を向上することができる。多層構造ゴム粒子(RP)の含有量が過少では、打ち抜き加工時の条件によっては端部に割れが生じる恐れがある。一方、多層構造ゴム粒子の含有量が過多では、成形時及び折り曲げ時等に積層シートに白化が生じる、表面層の表面硬度が低下して傷が付き易くなる、形状転写後の製品外観が悪くなる等の恐れがある。
【0041】
本明細書において、多層構造ゴム粒子(RP)はアクリル系多層構造ゴム粒子である。多層構造ゴム粒子(RP)としては、1種以上のアクリル酸アルキルエステル共重合体を含む1層以上のグラフト共重合体層を有するアクリル系多層構造ゴム粒子が挙げられる。かかるアクリル系多層構造ゴム粒子としては、特開2004-352837号公報等に開示のものを使用できる。アクリル系多層構造ゴム粒子は好ましくは、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む架橋重合体層を有することができる。
多層構造ゴム粒子(RP)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、多層構造ゴム粒子(RP)は、最内層(RP-a)と1層以上の中間層(RP-b)と最外層(RP-c)とを含む3層以上のコアシェル多層構造粒子である。
【0042】
最内層(RP-a)の構成重合体は、MMA単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最内層(RP-a)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~99.99質量%、より好ましくは85~99質量%、特に好ましくは90~98質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最内層(RP-a)の割合は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは7~13質量%である。最内層(RP-a)の割合がかかる範囲内にあることで、表面層の耐熱性を高めることができる。
【0043】
中間層(RP-b)の構成重合体は、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。中間層(RP-b)の構成重合体中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは70~99.8質量%、より好ましくは75~90質量%、特に好ましくは78~86質量%である。3層以上の多層構造ゴム粒子(RP)中の中間層(RP-b)の割合は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%である。中間層(RP-b)の割合がかかる範囲内であることで、表面層の表面硬度を高め、表面層を割れ難くすることができる。
【0044】
最外層(RP-c)の構成重合体は、MMA単位を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最外層(RP-c)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最外層(RP-c)の割合は、好ましくは35~50質量%、より好ましくは37~45質量%である。最外層(RP-c)の割合がかかる範囲内であることで、表面層の表面硬度を高め、表面層を割れ難くすることができる。
【0045】
多層構造ゴム粒子(RP)の粒子怪は、好ましくは0.05~0.3μmである。粒子径は、電子顕微鏡観察及び動的光散乱測定等の公知方法により測定することができる。電子顕微鏡観察による測定は例えば、電子染色法により多層構造ゴム粒子(RP)の特定の層を選択的に染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて複数の粒子の粒子径を実測し、それらの平均値を求めることによって行うことができる。動的光散乱法は、粒子径が大きくなる程、粒子のブラウン運動が大きくなるという原理を利用する測定法である。
【0046】
多層構造ゴム粒子(RP)は、多層構造ゴム粒子(RP)同士の膠着による取り扱い性の低下、及び、溶融混練時の分散不良による耐衝撃性の低下を抑制するため、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)とを含むラテックス又は粉体の形態で用いることができる。分散用粒子(D)は例えば、MMAを主とする1種以上の単量体の(共)重合体からなり、多層構造ゴム粒子(RP)よりも相対的に粒子径の小さい粒子を用いることができる。
【0047】
分散用粒子(D)の粒子径は、分散性向上の観点から、できるだけ小さいことが好ましく、乳化重合法による製造再現性の観点から、好ましくは40~120nm、より好ましくは50~100nmである。分散用粒子(D)の添加量は、分散性向上効果の観点から、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)との合計量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0048】
メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)は必要に応じて、1種以上の他の重合体を含むことができる。他の重合体としては特に制限されず、基材層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)は必要に応じて、各種添加剤を含むことができる。添加剤としては、基材層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)の構成樹脂100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
メタクリル樹脂含有層(MLA)~(MLC)に他の重合体及び/又は添加剤を含有させる場合、添加タイミングは、メタクリル樹脂(PM)、SMA樹脂(S)、及び多層構造ゴム粒子(RP)等の樹脂の重合時でもよいし、メタクリル樹脂(PM)を含む複数種の樹脂の混合時又は混合後でもよい。
【0049】
<変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)>
他態様において、表面層は、1種以上の変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)を含有する変性ポリカーボネート樹脂含有層である。本明細書において、変性ポリカーボネート(M-PC)は、下記一般式(1)で表される共重合単位を含むポリカーボネート樹脂である。変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)は、耐擦傷性等に優れる樹脂である。表面層中の変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)の含有量は、好ましくは20~100質量である。
【0050】
【0051】
上記一般式(1)において、R1はメチル基である。R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R2及びR3は水素原子であることが好ましい。
Xは、アルキレン基又はアルキリデン基である。これらの基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルキレン基としては炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、1,4-ブチレン、及び1,6-へキシレン等が挙げられる。アルキリデン基としては炭素数2~10のアルキリデン基が好ましく、エチリデン基、2,2-プロピリデン基、2,2-ブチリデン基、及び3,3-ヘキシリデン基等が挙げられる。Xはアルキリデン基であるのが好ましく、2,2-プロピリデン基(イソプロピリデン基とも言う)が特に好ましい。
【0052】
変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)は、一般的なポリカーボネート樹脂(PC)と同様、好適には1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。ポリカーボネート樹脂(M-PC)の製造方法としては、ポリカーボネート樹脂(PC)と同様、界面重合法及びエステル交換法等が挙げられる。
表面層に用いて好適な変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)としては、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位(R1がメチル基、R2とR3が水素原子、Xがイソプロピリデン基である構造単位)を有する変性ポリカーボネート樹脂(M-PCX);2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位(R1、R2、R3がメチル基、Xがイソプロピリデン基である構造単位)を有する(M-PCY)等が挙げられる。中でも、変性ポリカーボネート樹脂(M-PCY)が好ましい。
上記の変性ポリカーボネート樹脂(M-PCX)、(M-PCY)は、二価フェノールとして、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、又は2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンを使用して製造することができる。
【0053】
変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)は必要に応じて、上記一般式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位、例えば、下記一般式(2)で表される構造単位、あるいは他の二価フェノールに由来する構造単位を有することができる。変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)中における一般式(1)で表される構造単位の共重合量は、好ましくは90~10モル%、より好ましくは80~20モル%である。
【0054】
【化3】
(上記一般式(2)中、Xは上記一般式(1)におけるXと同様である。)
【0055】
上記一般式(2)で表されるポリカーボネート構造単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノールA由来のカーボネート構造単位が挙げられる。変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)中におけるこのビスフェノールA由来のカーボネート構造単位の共重合量は、好ましくは90~10モル%、より好ましくは80~20モル%である。
【0056】
上記一般式(1)、(2)で表される構造単位以外の他の構造単位の原料である二価フェノールとしては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、及び4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル等が挙げられる。
【0057】
変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは19,000~32,000である。Mvがこの範囲にあれば、変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)の成形性が良く、耐擦傷性に優れた表面層が得られやすい。Mvが19,000未満では表面層の耐擦傷性の向上効果が不充分となる恐れがある。Mvが32,000超では、変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)の溶融粘度が増して成形性が低下する傾向がある。Mvの下限は、好ましくは20,000、より好ましくは22,000、特に好ましくは24,000であり、Mvの上限は好ましくは30,000、より好ましくは28,000である。
なお、本明細書において、変性ポリカーボネート樹脂(M-PC)の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出される値である。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0058】
<積層シートの総厚み、表面層の厚み>
本発明の積層シートの総厚み(TT)、表面層の厚み(ST)、及び、積層シートの総厚み(TT)に対する表面層の厚み(ST)の割合(以下、「表面層比率」とも言う。)(ST/TT)は、積層シートの用途及び積層シートに対する要求性能により適宜設計される。
近年、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等のディスプレイに対する薄型化及び軽量化の要請が益々高まっている。そのため、このようなディスプレイの保護カバーとして好適に用いられる積層シートは、薄型化が検討されている。従来のディスプレイ用保護カバーの総厚みは好ましくは0.4~2mm、より好ましくは0.5~1.5mmであるのに対して、本発明の積層シートの総厚み(TT)は相対的に薄く、0.3~0.95mm、好ましくは0.4~0.90mm、より好ましくは0.45~0.80mmである。TTが上記の範囲内であると、本発明の積層シートは充分な剛性を有し、本発明の積層シートは打ち抜き加工性に優れ、本発明の積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイの画面操作時の画像の歪み及び滲みが抑制される。
【0059】
表面層の厚み(ST)は、好ましくは0.03~0.30mm、より好ましくは0.05~0.20mm、特に好ましくは0.06~0.18mmである。なお、基材層の両面にそれぞれ表面層が積層された積層シートの場合、STは2つの表面層の厚みの合計とする。STが上記の範囲内であると、本発明の積層シートは充分な剛性を有し、本発明の積層シートは打ち抜き加工性に優れ、本発明の積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイの画面操作時の画像の歪み及び滲みが抑制される。
表面層比率(ST/TT)は、好ましくは5~32%、より好ましくは8~30%、特に好ましくは10~30%である。ST/TTが上記の範囲内であると、本発明の積層シートは充分な剛性を有し、本発明の積層シートは打ち抜き加工性に優れ、本発明の積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイの画面操作時の画像の歪み及び滲みが抑制される。
【0060】
<積層シートの曲げ強度>
本発明の積層シートは、以下の方法により測定される曲げ強度が1N以上、好ましくは1~20N、より好ましくは1.5~15.0Nである。
曲げ強度の測定方法:
長さ80mm×幅10mmの積層シートについて、歪み速度3mm/min、支点間距離L=30mmの条件で3点曲げ試験を行い、歪みが1.0%の時に積層シートにかかる試験力(N)を曲げ強度とする。
積層シートの曲げ強度が1N以上であると、本発明の積層シートは充分な剛性を有し、本発明の積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイの画面操作時の画像の歪み及び滲みが抑制される。
本発明では、総厚み(TT)及び表面層比率(ST/TT)等を好適化することによって、上記曲げ強度を実現することができる。
【0061】
<他の樹脂層>
本発明の積層シートは、基材層の少なくとも片面に表面層が積層されたものであれば、他の樹脂層を有していてもよい。
本発明の積層シートは必要に応じて、表面層上に硬化被膜を有することができる。硬化被膜は耐擦傷性層又は視認性向上効果のための低反射性層として機能することができる。硬化被膜は公知方法にて形成することができる(特開2004-299199号公報及び特開2006-103169号公報等を参照されたい。)。耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜(耐擦傷性層、ハードコート層)の厚みは、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。薄すぎると表面硬度が不充分となり、厚すぎると製造工程中の折り曲げにより割れが発生する恐れがある。低反射性硬化被膜(低反射性層)の厚みは、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となる恐れがある。
本発明の積層シートは必要に応じて、表面層上に公知の眩光防止(アンチグレア)層及び/又は反射防止(アンチリフレクション)層を有することができる。
【0062】
[積層シートの製造方法]
以下、本発明の積層シートの製造方法の好ましい態様について説明する。本発明の積層シートは公知方法により製造することができ、好ましくは共押出成形を含む製造方法により製造される。
【0063】
(工程(X))
基材層の構成樹脂と表面層の構成樹脂はそれぞれ加熱溶融され、基材層の少なくとも一方の面に表面層が積層された熱可塑性樹脂積層体の形態で、幅広の吐出口を有するTダイから溶融状態で共押出される。
【0064】
基材層用及び表面層用の溶融樹脂は、積層前にフィルタにより溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した各溶融樹脂を用いて多層成形することにより、異物及びゲルに起因する欠点の少ない積層シートが得られる。フィルタの濾材は、使用温度、粘度、及び濾過精度等により適宜選択される。例えば、グラスファイバー等からなる不織布;フェノール樹脂含浸セルロース製のシート状物;金属繊維不織布焼結シート状物;金属粉末焼結シート状物;金網;及びこれらの組合せ等が挙げられる。中でも耐熱性及び耐久性の観点から、金属繊維不織布焼結シート状物を複数枚積層したフィルタが好ましい。フィルタの濾過精度は特に制限されず、好ましくは30μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0065】
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。積層シートの層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0066】
Tダイから共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は、複数の冷却ロールを用いて冷却される。本発明では、互いに隣接する3つ以上の冷却ロールを用い、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、第n番目(但し、n≧1)の冷却ロールと第n+1番目の冷却ロールとの間に挟み込み、第n+1番目の冷却ロールに巻き掛ける操作をn=1から複数回繰り返すことにより冷却する。例えば、3つの冷却ロールを用いる場合、繰り返し回数は2回である。
【0067】
冷却ロールとしては、金属ロール及び外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロール(以下、金属弾性ロールとも言う)等が挙げられる。金属ロールとしては、ドリルドロール及びスパイラルロール等が挙げられる。金属ロールの表面は、鏡面であってもよいし、模様又は凹凸等を有していてもよい。金属弾性ロールは例えば、ステンレス鋼等からなる軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うステンレス鋼等からなる金属製薄膜と、これら軸ロール及び金属製薄膜の間に封入された流体とからなり、流体の存在により弾性を示すことができる。金属製薄膜の厚みは好ましくは2~5mm程度である。金属製薄膜は、屈曲性及び可撓性等を有することが好ましく、溶接継ぎ部のないシームレス構造であるのが好ましい。このような金属製薄膜を備えた金属弾性ロールは、耐久性に優れると共に、金属製薄膜を鏡面化すれば通常の鏡面ロールと同様の取り扱いができ、金属製薄膜に模様及び凹凸等を付与すればその形状を転写できるロールになるので、使い勝手がよい。
【0068】
冷却後に得られた積層シートは、引取りロールによって引き取られる。以上の共押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「積層シート」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
【0069】
図3に、一実施形態として、Tダイ31、第1~第3冷却ロール32~34、及び一対の引取りロール35を含む製造装置の模式図を示す。Tダイ31から共押出された熱可塑性樹脂積層体は第1~第3冷却ロール32~34を用いて冷却され、一対の引取りロール35により引き取られる。図示例では、第3冷却ロール34が「最後に熱可塑性樹脂積層体が巻き掛けられる冷却ロール(以下、単に最後の冷却ロールとも言う)」である。
第3冷却ロール34の後段に隣接して第4以降の冷却ロールを設置してもよい。この場合は、熱可塑性樹脂積層体が最後に巻き掛けられる冷却ロールが「最後の冷却ロール」となる。なお、互いに隣接した複数の冷却ロールと引取りロールとの間には必要に応じて搬送用ロールを設置することができり、搬送用ロールは「冷却ロール」には含めない。
なお、製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【0070】
本発明の製造方法では、最後の冷却ロール(
図3では第3冷却ロール)から剥離する位置における熱可塑性樹脂積層体の全体温度(T1)を基材層の構成樹脂のガラス転移温度(TgA)に対して-2℃~+19℃の範囲とする。T1はTgAに対して、好ましくは-2℃~+15℃、より好ましくは+0.1℃~+10℃である。TgAに対してT1が前記の範囲を下回る場合は、耐擦傷性(ハードコート性)及び/又は低反射性を有する硬化被膜を形成する工程等における加熱時にレターデーション値(Re値)の低下率が大きくなる恐れがある。TgAに対してT1が前記の範囲を上回る場合は、冷却ロールから積層シートが剥離する際に積層シートの表面に剥離マーク(いわゆるチャタマーク)がついて、表面性が悪化する恐れがある。なお、T1は後記[実施例]の項に記載の方法にて測定するものとする。
【0071】
「レターデーション(Re)」とは、分子主鎖方向の光とそれに垂直な方向の光との位相差である。一般的に高分子は加熱溶融成形されることで任意の形状を得ることができるが、加熱及び冷却の過程において発生する応力によって分子が配向してレターデーションが発生することが知られている。したがって、レターデーションを制御するためには分子の配向を制御する必要がある。分子の配向は例えば、高分子のガラス転移温度近傍での成形時の応力により発生する。なお、本明細書において、「レターデーション」は特に明記しない限り、面内のレターデーションを示すものとする。
【0072】
押出成形の過程における製造条件を好適化することにより分子の配向を制御し、これによって、積層シートの成形後のRe値を好適化でき、さらに、Re値の熱変化を抑制することができる。加熱前後の双方において、積層シートは、少なくとも一部(押出成形の場合、少なくとも幅方向の一部)のRe値が50~330nmであり、加熱前に対する加熱後の積層シートのRe値の低下率が35%未満であることが好ましい。
【0073】
<周速度比とRe値との関係>
本明細書において、特に明記しない限り、「周速度比」は、第2冷却ロールに対するそれ以外の任意の冷却ロール又は引取りロールの周速度の比である。第2冷却ロールの周速度はV2、第3冷却ロールの周速度はV3、引取ロールの周速度はV4と表す。
【0074】
本発明者らが第2冷却ロールに対する引取りロールの周速度比(V4/V2)とRe値との関係について種々評価した結果、周速度比(V4/V2)が大きいほどRe値が増すことが分かった。その理由は、以下のように推定される。T1を基材層の構成樹脂のガラス転移温度(TgA)に対して-2℃~+19℃、好ましくは-2℃~+15℃、特に好ましくは+0.1℃~+10℃の温度に調整する条件で、引取りロールの周速度比を大きくし、積層シートに大きな引張応力をかける場合、樹脂の分子が配向しやすい温度領域であるため、Re値が増すと推察される。
【0075】
上記知見から、T1を基材層の構成樹脂のガラス転移温度(TgA)に対して-2℃~+19℃、好ましくは-2℃~+15℃の温度に制御し、周速度比(V4/V2)を好適な範囲内に調整することで、Re値及び加熱後のRe値の低下率を制御できることが分かった。具体的には、本発明では、周速度比(V4/V2)を0.98~1.01とする。周速度比(V4/V2)が1.01超では、Re値が330nmを超える恐れがある。周速度比(V4/V2)が0.98未満ではRe値が50nm未満となる恐れがある。Re値の好適化の観点から、周速度比(V4/V2)は、より好ましくは0.98以上1.0未満、より好ましくは0.985~0.995である。
【0076】
<Re値の低下率の評価のための加熱条件>
積層シートのRe値の低下率を評価するための加熱条件は例えば、100℃で5時間とすることができる。例えば、試験片を設定温度±3℃に管理されたオーブン内で所定時間加熱することで、評価を実施することができる。なお、上記加熱条件の温度は、積層シートの表面に耐擦傷性(ハードコート性)及び/又は低反射性を有する硬化被膜を形成する工程における加熱温度等を考慮している。
【0077】
上記の本発明の好ましい製造方法によれば、100℃で5時間加熱したときに、加熱前後の双方において、少なくとも一部(押出成形の場合、少なくとも幅方向の一部)のRe値が50~330nm、好ましくは80~250nmであり、加熱前に対する加熱後のRe値の低下率が35%未満、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、特に好ましくは15%未満である積層シートを製造することができる。
上記のような特性を有する積層シートを液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護カバーとして用いる場合、偏光サングラス等の偏光フィルタを通した液晶ディスプレイの視認性が良好となり、好ましい。
【0078】
(工程(Y))
工程(X)後に得られた積層シートの少なくとも一方の面に必要に応じて、公知方法にて硬化被膜を形成することができる。
工程(X)で得られた積層シートの表面に、熱硬化性化合物又は活性エネルギー線硬化性化合物を含む、好ましくは液状の硬化性組成物を塗布し、加熱又は活性エネルギー線照射によって塗膜を硬化することで、硬化被膜を形成することができる。活性エネルギー線硬化性化合物とは、電子線及び紫外線等の活性エネルギー線を照射されることにより硬化する性質を有する化合物である。熱硬化性組成物としては、ポリオルガノシロキサン系及び架橋型アクリル系等が挙げられる。活性エネルギー線硬化性組成物としては、1官能又は多官能のアクリレート系のモノマー又はオリゴマー等の硬化性化合物と光重合開始剤とを含むものが挙げられる。硬化被膜は、市販のハードコート剤を用いて形成することができる。
【0079】
本発明によれば、液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等の保護カバーとして好適に使用され、面内のレターデーション値(Re値)が好適な範囲内であり、全体の厚みを従来よりも薄くしても充分な剛性と良好な表面性を有することが可能な積層シートを提供することができる。
本発明の積層シートは、Re値が好適な範囲内であり、Re値の熱変化が小さい。このような特性を有する本発明の積層シートを保護カバーとして用いた液晶ディスプレイ及びタッチパネルディスプレイ等は、偏光フィルタを使用した環境においても、視認性が良好である。
本発明の積層シートは、全体の厚みを従来よりも薄くしても曲げ強度等の特性が良好であり、充分な剛性を有することができる。そのため、本発明の積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイは、積層シートの全体の厚みを従来よりも薄くしても、画面操作時に画像の歪み及び滲みが抑制される。また、押出成形時に、冷却ロールから積層シートが剥離する際に積層シートの表面に剥離マーク(いわゆるチャタマーク)がつくことが抑制され、表面性の良好な積層シートを得ることができる。
【0080】
[用途]
本発明の積層シートは例えば、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;テレビ;携帯電話(スマートフォンを含む)、パーソナルコンピュータ、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用される、液晶ディスプレイ又はタッチパネルディスプレイの保護カバーとして好適である。
【実施例】
【0081】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(SMA樹脂(S)の共重合組成)
SMA樹脂(S)の共重合組成は、核磁気共鳴装置(日本電子社製「GX-270」)を用い、下記の手順で13C-NMR法により求めた。
SMA樹脂(S)0.03gを重水素化クロロホルム1.5mlに溶解させて試料溶液を調製し、室温環境下、積算回数4000~5000回の条件にて13C-NMRスペクトルを測定し、以下の値を求めた。
・[スチレン単位中のベンゼン環(炭素数6)のカーボンピーク(127、134,143ppm付近)の積分強度]/6
・[無水マレイン酸単位中のカルボニル部位(炭素数2)のカーボンピーク(170ppm付近)の積分強度]/2
・[MMA単位中のカルボニル部位(炭素数1)のカーボンピーク(175ppm付近)の積分強度]/1
以上の値の面積比から、試料中のスチレン単位、無水マレイン酸単位、MMA単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれの単量体単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位:MMA単位=104:98:100)から、SMA樹脂(S)中の各単量体単位の質量組成を求めた。
【0082】
(重量平均分子量(Mw))
樹脂のMwは、下記の手順でGPC法により求めた。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPCで測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいてMwを決定した。
【0083】
(各層の構成樹脂のガラス転移温度)
各層の構成樹脂のガラス転移温度は、構成樹脂(組成物)10mgをアルミパンに入れ、示差走査熱量計(「DSC-50」、株式会社リガク製)を用いて、測定を実施した。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で200℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られた結果から、中点法でガラス転移温度を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
【0084】
(熱可塑性樹脂(積層)体の全体温度(T1))
最後の冷却ロール(具体的には第3冷却ロール)から剥離する位置における熱可塑性樹脂(積層)体の全体温度(T1)を、赤外線放射温度計を用いて測定した。測定位置は積層シートの幅方向の中心部とした。
【0085】
(打ち抜き加工性)
得られた積層シートから、打ち抜き装置(株式会社ダンベル製 SDL-200)を用い、温度23℃で100mm四方のシート片を打ち抜いた。打ち抜き刃としてトムソン刃(株式会社ダンベル製、38mm×38mm)を用い、積層シートの表面層側に打ち抜き刃を当てた。打ち抜き時の下敷きとして、カッティングマットを使用した。5回評価を行い、トリミング箇所を目視確認し、以下の基準で判定した。
A:全ての試験片でクラックが発生しなかった
B:クラックが発生した試験片が1枚あった
C:クラックが発生した試験片が2枚以上あった
【0086】
(表面性)
蛍光灯が設置された室内にて、積層シートの両面を目視観察し、次の基準で表面性を評価した。
A:積層シートの表面に冷却ロールからの剥離マーク(いわゆるチャタマーク)が見られない。
B:積層シートの表面にチャタマークが目立たない程度に少し見られる。
C:積層シートの表面にチャタマークが目立って見られる。
【0087】
(Re値とその低下率)
ランニングソーを用いて、積層シートから100mm四方の試験片を切り出した。この試験片を100℃±3℃に管理されたオーブン内で5時間加熱した。加熱前後についてそれぞれ、以下のようにRe値を測定した。試験片を23℃±3℃の環境下に10分以上放置した後、株式会社フォトニックラティス製「WPA-100(-L)」を用いて、Re値を測定した。測定箇所は、試験片の中央部とした。加熱前後のRe値の低下率を、以下の式から求めた。
[Re値の低下率(%)]
=([加熱前のRe値]-[加熱後のRe値])/[加熱前のRe値]×100
【0088】
(偏光サングラス装着時の視認性)
ランニングソーを用いて、積層シートから100mm四方の試験片を切り出した。この試験片を100℃±3℃に管理されたオーブン内で5時間加熱した。次に、目から35cm離れた位置にカラー液晶ディスプレイを配置して画像を表示させた。そして、液晶ディスプレイの手前の目から30cm離れた位置に、加熱後の試験片をディスプレイの画面に対して平行に配置した。なお、表面層側が視認者側となるように、試験片を配置した。
まず、偏光サングラスを装着しない状態で、試験片を厚さ方向に通して、画像を目視した。次に、偏光サングラスを装着した状態で、顔を画像に向けたまま左右に首を傾けて、上記と同様に画像を目視した。次の基準で視認性を評価した。
A:偏光サングラスの装着有無によって画像の見え方に顕著な変化がなく、偏光サングラスの装着の有無によらず画像は問題なく視認できた。
B:偏光サングラスを装着しない状態から偏光サングラスを装着して首をある角度に傾けた時に、画像がやや暗くなったかやや濃い着色が見られ、画像の視認性が低下した。
C:偏光サングラスを装着しない状態から偏光サングラスを装着して首をある角度に傾けた時に、画像が顕著に暗くなったか顕著に濃い着色が見られ、画像の視認性が低下した。
【0089】
(曲げ強度)
積層シートから長さ80mm×幅10mmの試験片を切り出し、株式会社島津製作所社製のオートグラフ「AG-IS 5KN」を用いて、曲げ試験を行った。歪み速度3mm/min、支点間距離L=30mmの条件で、3点曲げ試験を実施した。歪みが1.0%の時に積層シートにかかる試験力(N)を曲げ強度とした。
【0090】
(タッチパネルディスプレイ操作の評価)
公知方法にてカラー液晶パネル上にタッチセンサーフィルムと積層シートとを順次貼合して、タッチパネルディスプレイを作製した。なお、積層シートの表面層が最表面となるように、貼合を実施した。人指し指を用いてタッチパネルディスプレイの画面操作を実施し、表示画像の視認性を以下の基準で目視評価した。なお、人指し指の操作によってタッチパネルディスプレイにかかる荷重を電子天秤で測定したところ、約700gであった。
A:表示画像に歪み及び滲みが見られない。
B:表示画像に少しの歪み及び/又は滲みが見られる。
C:表示画像に顕著に歪み及び/又は滲みが見られる。
【0091】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<ポリカーボネート樹脂(PC)>
(PC1)住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標) PCX」(温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分、Tg=150℃)。
【0092】
<メタクリル樹脂(PM)>
(PM1)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、株式会社クラレ製「パラペット(登録商標) HR」(温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=115℃)。
【0093】
<SMA樹脂(S)>
(S1) 国際公開第2010/013557号に記載の方法に準拠して、SMA樹脂(スチレン-無水マレイン酸-MMA共重合体、スチレン単位/無水マレイン酸単位/MMA単位(質量比)=56/18/26、Mw=150,000、Tg=138℃)を得た。
【0094】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1)>
(MR1-1)メタクリル樹脂(PM1)とSMA樹脂(S1)とを質量比30:70で混合して、メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)を得た。
【0095】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
(RP1)以下の組成の共重合体からなる最内層(RP-a1)、中間層(RP-b1)、及び最外層(RP-c1)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(RP1)を製造した。粒子径は0.23μmであった。
最内層(RP-a1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(RP-b1):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(RP-c1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0096】
<分散用粒子(D)>
(D1)メタクリル系共重合体粒子、メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル単位(質量比)=90/10、粒子径:0.11μm。
【0097】
<多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)>
多層構造ゴム粒子(RP1)を含むラテックスと分散用粒子(D1)を含むラテックスとを固形分質量比67対33の割合で混合した。得られた混合ラテックスを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したラテックスの2倍量の90℃温水に凍結ラテックスを投入し、溶解してスラリーとした後、20分間90℃に保持して脱水し、80℃で乾燥して多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)を得た。
【0098】
<メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2)>
(MR2-1)メタクリル樹脂(PM1)と多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)とを質量比88対12で溶融混練して、メタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2-1)を得た。
【0099】
<変性ポリカーボネート(M-PC)>
(M-PC1)特開2017-110180号公報の製造例1に記載の方法に準拠して、鉛筆硬度2H、粘度平均分子量(Mv)22,000の変性ポリカーボネート樹脂(M-PC1)を得た。
【0100】
(実施例1)
図3に示したような製造装置を用いて積層シートを成形した。
65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて押出した溶融状態のメタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)と、150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて押出した溶融状態のポリカーボネート樹脂(PC1)とを、マルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから溶融状態の2層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。
次いで、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた積層シートを一対の引取りロールによって引き取った。なお、第3冷却ロールにポリカーボネート樹脂含有層が接するようにした。
第3冷却ロールから熱可塑性樹脂積層体が剥離する位置における、熱可塑性樹脂積層体の全体温度(T1)は、第2冷却ロール及び第3冷却ロールの温度を制御することで154℃に調整した。第2冷却ロールと引取りロールとの周速度比(V4/V2)を0.99に、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの周速度比(V3/V2)を1.00に調整した。
以上のようにして、メタクリル樹脂を含有する表面層1-ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の積層構造を有する2層構造の積層シートを得た。積層シートは、表面層1の厚みを0.07mm、基材層の厚みを0.43mmとし、総厚み(TT)を0.50mmとした。表面層比率(ST/TT)は14%であった。得られた積層シートの層構成と評価結果を表1、表2に示す。
【0101】
(実施例2)
図3に示したような製造装置を用いて積層シートを成形した。
65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて押出した溶融状態のメタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)と、150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて押出した溶融状態のポリカーボネート樹脂(PC1)と、65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて押出した溶融状態のメタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR1-1)とを、マルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから溶融状態の3層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。
次いで、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた積層シートを一対の引取りロールによって引き取った。
第3冷却ロールから熱可塑性樹脂積層体が剥離する位置における、熱可塑性樹脂積層体の全体温度(T1)は、第2冷却ロール及び第3冷却ロールの温度を制御することで154℃に調整した。第2冷却ロールと引取りロールとの周速度比(V4/V2)を0.99に、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの周速度比(V3/V2)を1.00に調整した。
以上のようにして、メタクリル樹脂を含有する第1の表面層(表面層1)-ポリカーボネート樹脂を含有する基材層-メタクリル樹脂を含有する第2の表面層(表面層2)の積層構造を有する3層構造の積層シートを得た。積層シートは、2つのメタクリル樹脂含有層の厚みをいずれも0.07mm、ポリカーボネート樹脂含有層の厚みを0.36mmとし、総厚み(TT)を0.50mmとした。表面層1と表面層2の組成と厚みは同一とした。表面層比率(ST/TT)は28%であった。得られた積層シートの層構成と評価結果を表1、表2に示す。
【0102】
(実施例3~16)
各層の構成樹脂と厚みを表1に示すように変更した以外は実施例1又は実施例2と同様にして、2層構造又は3層構造の積層シートを作製した。なお、これらの例において、表1に記載のない条件は共通条件とした。各例の評価結果を表2に示す。
【0103】
(比較例1~3)
図3に示したような製造装置を用いて積層シートを成形した。
150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)及び単層Tダイを用いて、ポリカーボネート樹脂(PC1)からなる溶融状態の単層構造の熱可塑性樹脂体を押出した。
次いで、溶融状態の熱可塑性樹脂体を、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた単層シートを一対の引取りロールによって引き取った。
第3冷却ロールから熱可塑性樹脂体が剥離する位置における、熱可塑性樹脂体の全体温度(T1)は、第2冷却ロール及び第3冷却ロールの温度を制御することで154℃に調整した。第2冷却ロールと引取りロールとの周速度比(V4/V2)を0.99に、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの周速度比(V3/V2)を1.00に調整した。
以上のようにして、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層のみからなる単層シートを得た。各例において得られた単層シートの層構成と評価結果を表1、表2に示す。なお、これらの例において、表1に記載のない条件は共通条件とした。
【0104】
(比較例4~7)
各層の厚みを表1に示すように変更した以外は実施例1又は実施例2と同様にして、2層構造又は3層構造の積層シートを作製した。なお、これらの例において、表1に記載のない条件は共通条件とした。各例の評価結果を表2に示す。
【0105】
(比較例8~17)
温度T1及び周速度比V4/V2を表3に示すように変更した以外は実施例1又は実施例2と同様にして、2層構造又は3層構造の積層シートを作製した。なお、これらの例において、表3に記載のない条件は共通条件とした。各例の評価結果を表4に示す。表3、表4には、実施例1、2のデータについても、合わせて記載してある。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
[結果のまとめ]
実施例1~16では、T1をTgAに対し-2℃~+19℃の範囲内とし、V4/V2を0.98~1.01の範囲内とする製造条件で、ポリカーボネート樹脂を含有する基材層の少なくとも片面に、メタクリル樹脂及び/又は変性ポリカーボネート樹脂を含有する表面層が積層され、総厚みが0.3~0.95mmである積層シートを押出成形した。これらの実施例では、Re値が好適な範囲内であり、全体の厚みを従来よりも薄くしても充分な剛性と良好な表面性を有することが可能な積層シートを製造することができた。
上記実施例で得られた積層シートはいずれも、Re値が好適な範囲内であり、Re値の熱変化が小さく、このような特性を有する積層シートを保護カバーとして用いた液晶ディスプレイは、偏光フィルタを使用した環境においても、視認性が良好であった。
上記実施例で得られた積層シートは、全体の厚みを従来よりも薄くしても曲げ強度が良好であり、充分な剛性を有することができた。そのため、上記実施例で得られた積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイは、積層シートの全体の厚みを従来よりも薄くしても、画面操作時に画像の歪み及び滲みが抑制された。また、押出成形時に、最後の冷却ロールから剥離する際に積層シートの表面に剥離マーク(いわゆるチャタマーク)がつくことが抑制され、表面性の良好な積層シートを得ることができた。
【0111】
比較例1~3では、ポリカーボネート樹脂含有層のみからなる単層シートを製造した。これらの例では、ポリカーボネート樹脂の冷却ロールからの剥離性が悪いため、第2冷却ロールからの剥離マークが発生し、得られた単層シートは表面性が不良となった。なお、これらの例において、第2冷却ロールからの剥離マークを抑制するためにT1を低下させると、Re値が好適な範囲外となり、偏光サングラス装着時の液晶ディスプレイの目視評価が不良となった。
比較例1で得られた単層シートは曲げ強度が低く剛性が不充分であるため、得られた単層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイは、画面操作時に画像の歪み及び/又は滲みが観られた。
【0112】
比較例4、5で得られた積層シートは総厚みが過大であったため、打ち抜き試験において良好な端面を得ることができなった。
【0113】
比較例6、7で得られた積層シートは総厚みが過小であったため、曲げ強度が低く剛性が不充分であった。そのため、得られた積層シートを保護カバーとして用いたタッチパネルディスプレイは、画面操作時に画像の歪み及び/又は滲みが観られた。これらの例では、加熱後のRe値の低下率も大きかった。
【0114】
T1をTgAに対して-2℃未満とした比較例8、9では、得られた積層シートは加熱前後のRe値が好適な範囲外であった。T1をTgAに対して-2℃未満とした比較例10、11では、得られた積層シートは加熱後のRe値の低下率が大きかった。T1をTgAに対して+19℃超とした比較例12、13では、得られた積層シートは加熱前後のRe値が好適な範囲外であり、表面性も不良であった。V4/V2を0.98未満とした比較例14、15では、得られた積層シートは加熱後のRe値が好適な範囲外であった。V4/V2を1.01超とした比較例16、17では、得られた積層シートは加熱前後のRe値が好適な範囲外であった。これらの例で得られた積層シートはいずれも、偏光サングラス装着時の液晶ディスプレイの目視評価が不良となった。
【0115】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0116】
この出願は、2018年2月13日に出願された日本出願特願2018-022861号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0117】
10X、10Y 積層シート
11 基材層
12、12A,12B 表面層
31 Tダイ
32 第1冷却ロール(第1番目の冷却ロール)
33 第2冷却ロール(第2番目の冷却ロール)
34 第3冷却ロール(第3番目の冷却ロール)
35 引取りロール
36 積層シート