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特許7216817充電式リチウムイオン電池用正極材料の前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-24
(45)【発行日】2023-02-01
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用正極材料の前駆体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230125BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230125BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230125BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021521391
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2019078860
(87)【国際公開番号】W WO2020083980
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】18202213.7
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】リアン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユリ・イ
(72)【発明者】
【氏名】クリス・ドリーセン
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154916(JP,A)
【文献】特表2018-523899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための前駆体化合物であって、前記前駆体化合物が、金属含有M’-水酸化物、-オキシ水酸化物、又は-炭酸塩のうちのいずれか1つであり、M’=Ni1-x-y-zMnCoz、x>0、y>0、0.70≦1-x-y-z≦0.95、及び0≦z<0.1であり、前記前駆体化合物が、金属含有化合物M’を含むコア、及び金属含有化合物M’を含むシェルを有することを含み、M’=Ni1-xc-yc-zcMnxcCoyczcであり、0<xc≦0.2、0<yc≦0.2、0≦zc<0.1、及び0.75≦1-xc-yc-zc≦0.95であり、M’=Ni1-xs-ys-zsMnxsCoyszsであり、0<xs≦0.25、0.75<ys≦0.95、0≦zs<0.1、及び0≦1-xs-ys-zs≦0.10であり、
Aはドーパントである、前駆体化合物。
【請求項2】
0.05≦xs≦0.25である、請求項1に記載の前駆体化合物。
【請求項3】
0.05≦xs≦0.15である、請求項1又は2に記載の前駆体化合物。
【請求項4】
1-xs-ys-zs=0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の前駆体化合物。
【請求項5】
前記前駆体化合物が、平均半径Rを有し、前記シェルが、平均厚さTsを有し、Tsが、Rの0.5~5%である、請求項1~4のいずれかに記載の前駆体化合物。
【請求項6】
Aが、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、及びAlのうちのいずれか1つ以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の前駆体化合物。
【請求項7】
前記前駆体化合物が、M’-水酸化物又は-オキシ水酸化物であり、0.05<xc<0.15、0.05<yc<0.15、zc=0、及び0.75<1-x-y-z<0.85であり、0.05<xs<0.15、0.85<ys<0.95、及びzs=0である、請求項4~6のいずれか一項に記載の前駆体化合物。
【請求項8】
前記リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載の前駆体化合物の使用。
【請求項9】
リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための方法であって、
-請求項1~7のいずれか一項に記載の前駆体化合物を提供する工程と、
-前記前駆体化合物LiOHと混合物を提供する工程と、
-前記混合物を680℃以上かつ800℃以下の温度で焼結する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
前記混合物が780℃以下の温度で焼結される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の前駆体化合物を提供する前記工程が、
-M’SCO、NaOH、及びNHを含む第1の水溶液を提供するサブ工程であって、OHイオンの含有量が、M’イオンの含有量の少なくとも2倍である、提供するサブ工程と、
-M’(OH)をコア材料として沈殿させるサブ工程と、
-前記沈殿したM’(OH)、M’SO、NaOH、及びNHを含む第2の水溶液を提供するサブ工程であって、それにより、前記M’(OH)コア材料、及びM’を含むシェル材料を含む、前記前駆体化合物を沈殿させる、提供するサブ工程と、を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムイオン電池における正極材料の前駆体として適用可能な金属含有前駆体に関する。具体的には、前駆体化合物は、コアとシェルとの間のコバルト濃度の差によるコアシェル構造を有する。
【背景技術】
【0002】
携帯電子機器の需要の高まり、及び電気自動車産業における有望な開発に伴い、必然的に適切な電源が必要になる。今までは、リチウムイオン電池(lithium-ion battery、LIB)は、その高エネルギー及び電力密度により、前述のニーズに対して最良の電力供給源であった。携帯電子機器内の市販のLIBは、典型的には、最も一般的な正極材料として、黒鉛系負極及びリチウムコバルト酸化物(lithium cobalt oxide、LCO)から構成されている。しかしながら、LCOは、その良好な性能評判にもかかわらず、コバルト(cobalt、Co)の熱安定性の低さ、及び最近の狂乱価格など、いくつかの大きな制限に直面している。
【0003】
正極材料としてLCOの依存性を減少させる魅力的な代替物の1つは、LCO自体に由来するリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(lithium nickel manganese cobalt oxide、NMC)である。LCOの構造を採用すると、NMC組成は、一般に、LiM’Oと表記され、M’=Ni1-x-yMnCOである。ニッケル(nickel、Ni)及びマンガン(manganese、Mn)によるCoの部分的な置換により、良好な性能、低価格、並びに高い熱安定性に達する可能性を達成することができる。
【0004】
NMCの多くの可能な組成比の中で、Ni富化材料は、他の材料と比較して高い可逆容量を生成することが分かった。例えば、NMC811(M’=Ni0.8Mn0.1Co0.1)は、NMC111(M’=Ni1/3Mn1/3Co1/3)よりも約30%多い容量を有する。
【0005】
本発明の枠組みでは、Ni富化NMC化合物又は材料はLiM’Oカソード材料であり、Niのモル含有量は、少なくとも0.70molである。
【0006】
Ni富化アプローチはまた、Ni及びMnの価格がCoと比較して比較的低く、安定しているため、材料の価格も下がる。しかしながら、その欠点もまた、Niの存在感の高さから生じる。
【0007】
Ni富化NMCは、二酸化炭素及び水分を含む空気雰囲気中では安定しない。したがって、加工用の余分な工程が必要となり、生産コストの増加をもたらす。更に、Manthiramらは、「Energy Storage Materials Journal」、2017年1月号、p.125~139において、Ni富化層状材料の粒子が、電池の充電及び放電中の体積変化で生じる粒子亀裂によって劣化すると説明している。この体積変化は、構造内のNi含有量が多いほど、より深刻になる傾向がある。
【0008】
不安定性の原因が高濃度のNiであることを理解することにより、高Ni材料を正極材料として安全に適用するためのアプローチとして、異なる組成を有する外層を追加することが浮上した。このような層を生産するには、例えば、従来の炭素被覆、金属粒子被覆、及び各個々の粒子の表面からコアへの濃度勾配の作成など、様々な方法及び材料を使用することができる。外部層又は外部シェルは、その構造的一体性を維持しながら、外部環境からコアを保護する。
【0009】
例えば、米国特許出願公開第2018/233740号(又は米国特許第740号)は、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含むリチウム遷移金属酸化物から構成されたコアと、遷移金属酸化物を含むCo系シェルと、を含むコアシェル構造を有する前駆体から作製されたリチウム二次電池用正極活性材料を開示する。米国特許第740号では、作製されたカソード材料は、前駆体のコアシェル構造を保持する。当該カソード材料は、NMCコア、及びコバルトを含むリチウム遷移金属酸化物から構成されたCo系シェルを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、先行技術に従って前駆体から得たNMCカソード材料と比較して、低温(例えば、800℃未満の温度)で、電気化学的性能が向上したリチウム化されたNi富化NMC化合物に変換することができる、Ni富化NMC前駆体(すなわち、少なくとも0.70molのNiを含む前駆体)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、請求項1に記載のリチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための前駆体化合物を提供することによって達成され、前駆体は、金属含有M’-水酸化物、-オキシ水酸化物、又は-炭酸塩のうちのいずれか1つであり、M’=Ni1-x-y-zMnCOyAz、x>0、y>0、0.70≦1-x-y-z≦0.95、及び0≦z<0.1であり、前駆体は、金属含有化合物M’を含むコア、及び金属含有化合物M’を含むシェルを有することを含み、M’=Ni1-xc-yc-zcMnxcCOyczcであり、0<xc≦0.2、0<yc≦0.2、0≦zc<0.1、及び0.75≦1-x-y-z≦0.95であり、M’=Ni1-xs-ys-zsMnxsCOyszsであり、0<xs≦0.25、0.75<ys≦0.95、0≦zs<0.1、及び0≦1-xs-ys-zs≦0.10である。
【0012】
表3及び表4に提供される結果に例示するように、
-Ni0.8Mn0.1Co0.1の組成を有するコア、及び
-Mn0.1Co0.9(EX1)又はMn0.05Co0.95(EX2)の組成を有するシェルという特徴を有する前駆体から製造されたEX1又はEX2による正極活性材料粉末を使用した電池では、94%を超える改善された第1のサイクル効率(E)が達成されることが実際に観察され、
EX1及びEX2による上述の前駆体は、EX1及びEX2のカソード活性材料に変換されるように、リチウム源の存在下で低温(700℃~780℃)で焼結される。
【0013】
EX1又はEX2から作製されたカソード材料について測定されたEの値は、シェル中にMnを含まないCEX4(CEX4-P3、E91%)から作製されたカソード材料の値よりも優れている。CEX4は、米国特許第740号に開示される前駆体と同等の前駆体である。CEX4は、EX1又はEX2の変換と同じT℃の範囲でカソード材料に変換されるが、それでもCEX4から得られたカソード材料は、EC性能(DQ1及びE)が劣っており、CEX4を高温でカソード材料に変換しても、良好になることは期待できない。したがって、米国特許第740号の教示とは反対に、請求項1に記載のコアシェル前駆体のシェル中のMnの存在は、当該前駆体で作製されたカソード材料のEC性能の改善をもたらす。
【0014】
正極材料の第1のサイクル効率は、重要なパラメータである。正極材料と負極材料との間の第1のサイクル効率の低い値は、電池の比容量を決定する。負極材料の効率は、一般に92~94%であり、これは、多くのNMCタイプの正極材料よりも高い値である。したがって、正極材料の第1のサイクル効率は、92%超、好ましくは94%超であることが望ましい。
【0015】
容量は、電池から取り出すことができるエネルギー量を表すので、放電容量が高い正極材料が非常に望ましい。正極材料の第1の放電容量は、本発明の分析方法によって得られるように、196mAh/gよりも高いことが好ましい。
【0016】
本発明による前駆体から調製された正極材料は、より良好な耐熱性を有することも観察された。
【0017】
DSC分析は、正極材料の安全性を評価するための良好なツールである。EX1から作製されたカソード材料(EX1-P1及びEX1-P3)は、所望のレベルの安全性を達成することができることが観察された。
【0018】
本発明は、以下の実施形態に関するものである。
【0019】
実施形態1
第1の態様を鑑みると、本発明は、リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための前駆体化合物を提供することができ、前駆体は、金属含有M’-水酸化物、-オキシ水酸化物、又は-炭酸塩のうちのいずれか1つであり、M’=Ni1-x-y-zMnCO、x>0、y>0、0.70≦1-x-y-z≦0.95、及び0≦z<0.1であり、前駆体は、金属含有化合物M’cを含むコア、及び金属含有化合物M’sを含むシェルを有することを含み、M’=Ni1-xc-yc-zcMnxcCOyczcであり、0<xc≦0.2、0<yc≦0.2、0≦zc<0.1、及び0.75≦1-x-y-z≦0.95であり、M’=Ni1-xs-ys-zsMnxsCOyszsであり、0<xs≦0.25、0.75<ys≦0.95、0≦zs<0.1、及び0≦1-xs-ys-zs≦0.10である。
【0020】
実施形態2
実施形態1による第2の実施形態では、1-xs-ys-zs=0である。
【0021】
実施形態3
実施形態1又は2による第3の実施形態では、0.05≦xs≦0.25である。
【0022】
実施形態4
実施形態1又は2による第4の実施形態では、0<xs≦0.15である。
【0023】
実施形態5
実施形態1又は2による第5の実施形態では、0.05≦xs≦0.15である。
【0024】
実施形態6
実施形態1又は2による第6の実施形態では、前駆体は、M’-水酸化物又は-オキシ水酸化物であり、0.05<xc<0.15、0.05<yc<0.15、zc=0、及び0.75<1-x-y-z<0.85であり、0.05<xs<0.15、0.85<ys<0.95、及びz=0である。
【0025】
実施形態7
実施形態1~6のいずれかによる第7の実施形態では、前駆体化合物は、平均半径Rを有し、シェルは、平均厚さTを有し、Tは、Rの0.5~5%である。異なる実施形態では、Aは、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、及びAlのうちのいずれか1つ以上であってもよい。
【0026】
第2の態様を鑑みると、本発明は、リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末の製造において、実施形態1~7のいずれかによる前駆体化合物の使用を提供することができる。
【0027】
第3の態様を鑑みると、本発明は、
-実施形態1~7のいずれかによる前駆体化合物を提供する工程と、
-前駆体化合物をLiOHと混合する工程と、
-混合物を680℃以上かつ800℃以下の温度、好ましくは780℃以下の温度で焼結する工程と、を含む、リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための方法を提供することができる。
【0028】
本方法では、本発明による前駆体化合物を提供する工程は、
-M’SCO、NaOH、及びNHを含む第1の水溶液を提供するサブ工程であって、OHイオンの含有量は、M’イオンの含有量の少なくとも2倍である、提供するサブ工程と、
-M’(OH)をコア材料として沈殿させるサブ工程と、
-沈殿したM’(OH)、M’SO、NaOH、及びNHを含む第2の水溶液を提供するサブ工程であって、それにより、M’(OH)コア材料、及びM’を含むシェル材料を含む、本発明による前駆体化合物を沈殿させる、提供するサブ工程と、を含み得る。
【0029】
このプロセスでは、沈殿したM’(OH)を、M’SO、NaOH、及びNHを含む第2の水溶液に移し、それにより、M’(OH)コア材料上にM’を含むシェル材料を沈殿させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】コアシェル粒子の概略図
図2】異なる温度で調製したEX1、CEX2、及びCEX3の第1のサイクル効率性能の比較
図3】25℃におけるEX1-P3、EX1-P4、CEX3-P3、及びCEX3-P3-Aのフルセルサイクル性能の比較
図4】45℃におけるEX1-P3、EX1-P4、CEX3-P3、及びCEX3-P3-Aのフルセルサイクル性能の比較
図5】EX1-P1及びCEX3-P1(上部)、並びにEX1-P3及びCEX3-P3(下部)のDSCデータ
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施を可能にするために、以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態が詳細に説明される。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態に関して記載するが、本発明はこれらの好ましい実施形態を限定するものと理解するべきではない。それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態を考慮することから明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0032】
本発明による金属含有前駆体から調製されたNi富化NMC化合物は、より高レベルの安全性を促進する、改善された第1のサイクル効率、サイクル安定性、及び熱安定性を有する。これは、金属含有前駆体のコアシェル概念と、金属含有前駆体中の全体的に高いNi含有量との相乗的な利点を利用することによって達成される。
【0033】
この技術分野では、金属含有前駆体は、一般に、水酸化物(M’(OH))、オキシ水酸化物(M’O(OH)(2-a)、0<=a<=1)、又は炭酸塩(M’CO)の形態を採るが、これらの形態に限定されるものではない。金属(M’)は、Ni及びCo、又はNi、Co、及びMnのいずれかを含む。金属含有前駆体は、ドーパントを含有し得る。ドーパント(A)は、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V、及びAlの要素のうちのいずれか1つ以上であり得る。したがって、式は、M’=Ni1-x-y-zMnCOであり得る。前駆体全体のM’(1-x-y-z)に対するNiのモル比は、少なくとも0.70、最大で0.95であり得る。通常の生産プロセスでは、金属含有前駆体中の金属間のモル比は、最終正極材料中に反映される。Ni/M’が0.70未満である場合、正極材料の容量効果が限定される。Ni/M’が0.95よりも高い場合、高品質の金属含有前駆体の調製が困難であるだけでなく、高品質の正極材料の調製も極めて困難である。ドーパントは、金属含有前駆体から調製された正極材料を含有する電池の性能及び安全性の改善に寄与することができる。
【0034】
金属含有前駆体の粒子は、コア及びシェルを含み、両方とも金属間で異なるモル比を有し、ここに本発明の鍵がある。コアの金属組成は、式M’=Ni1-xc-yc-zcMnxcCOyczcによって定義される。シェル中の金属の金属組成は、式M’=Ni1-xs-ys-zsMnxsCOyszsによって定義される。コアの体積は、本発明のシェルの体積よりも大きいため、M’は、主に組成全体(M’)を決定する。コア中のNi含有量(1-xc-yc-zc)は、粒子全体の高Ni含有量(1-x-y-z)を得るために、少なくとも0.75であり得る。シェル中のCo含有量(ys)は、少なくとも0.75であり得る。シェル中のNi含有量(1-xs-ys-zs)は、最大で0.10であり得るが、好ましくはゼロである。シェル中のMn含有量(xs)は、0.05~0.1であり得る。シェル中の高い割合のCoは、レート能力を改善し、追加容量を提供するために補強層として機能し、一方、わずかな割合のMnは、高度に脱リチウム化された状態構造を安定化させるために必要とされる。
【0035】
シェル部(T)の平均厚さは、図1に示すように、粒子(R)の平均半径とコア部(R)の平均半径との間の差として定義される。Tは、少なくともRx0.005(Rの0.5%)及び最大Rx0.05(Rの5%)であり得る。例えば、金属含有前駆体の平均粒子径(直径)が10μmである場合、Tの範囲は、25nm~250nmであり得る。TがRの5%よりも高い場合、組成全体におけるシェル部の寄与が高くなりすぎて、シェル部が限定された量のNiを含むため、前駆体中のNi含有量(1-x-y-z)は低くなる。TがRの0.5%未満である場合、本発明の効果は限定される。
【0036】
上述の金属含有前駆体は、いくつかの異なる方法によって調製することができる。韓国特許出願公開第101547972号に記載されている共沈殿プロセスは、コアシェル金属含有前駆体を生産するための可能なプロセスの1つである。本方法は、均質な球状前駆体粒子を大規模に調製することに優れている。Ni含有量の高いコア部は、まず、連続撹拌槽反応器内で沈殿させる。次いで、第1の沈殿プロセスからの沈殿したスラリー又は粉末を第2の沈殿プロセスの種子として使用して、Ni富化コア上にCo富化シェルを調製する。このプロセスでは高温処理を行わないため、コアとシェルの組成は別個であるべきであり、金属含有量勾配は、界面コア/シェルに形成されない。乾燥/湿潤被覆プロセスもまた、可能なプロセスである。沈殿したNi富化金属含有前駆体は、Co富化ナノ粉末又は溶液によって更に被覆されてもよい。
【0037】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0038】
A)粒子径分布(Particle size distribution、PSD)分析
PSDは、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えるMalvern Mastersizer 3000を用いて測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における粒子径として定義される。スパンは、(D90-D10)/D50として定義される。
【0039】
B)誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma、ICP)分析
本明細書におけるNMC生産物の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)法によってAgillent ICP 720-ESを用いて測定する。粉末サンプル1gは、三角フラスコ内の50 mLの高純度塩酸に溶解する。前駆体が完全に溶解するまで、フラスコを時計皿でカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液及びすすぎ水を250mLのメスフラスコに移す。その後、メスフラスコの250mLの標線までDI水を充填し、続いて、完全に均質化する。ピペットで適量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコの内部標準及び250mLの標線まで10%塩酸を充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0040】
C)コインセル試験
正極の調製に関しては、重量比90:5:5の配合で、電気化学的活性材料、コンダクタ(Super P、Timcal)、及びバインダ(KF#9305、Kureha)を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジェナイザを用いて調製する。均質化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーで被覆した箔をオーブン中で120℃で乾燥させて、次にカレンダ加工工具を用いてプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard 2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1M LiPFを電解質として使用し、かつセパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0041】
各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタティックサイクリングステーション(Toyo)を用いて25℃でサイクルする。サンプルを評価するために使用したコインセル試験スケジュールを表1に詳述する。スケジュールでは、1Cの電流定義を160mA/gとして使用し、4.3~3.0V/Li金属窓範囲における0.1Cでのレート性能の評価を含む。初期充電容量CQ1及び放電容量DQ1を、定電流モード(CC)で測定する。第1のサイクル効率(EF)は、%で以下として表される:
【0042】
【数1】
【0043】
【表1】
【0044】
D)フルセル試験
650mAhのパウチ型電池を以下のように調製する。上記のように正極活性材料粉末を調製し、Super-P(Timcalから市販されているSuper-PTM Li)、及び正極導電剤としてグラファイト(Timcalから市販されているKS-6)、並びに正極結合剤としてポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販されているPVDF 1710)を分散媒としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に加え、これにより、正極活性材料粉末、正極導電剤、並びに正極結合剤の質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔で作製された正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅及び長さは、それぞれ43mm及び450mmである。典型的なカソード活性材料充填重量は、13.9mg/cmである。次いで、電極を乾燥させ、100kgfの圧力を使用してカレンダ加工する。典型的な電極密度は3.2g/cmである。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、CMC(カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム)とSBR(スチレンブタジエンゴム)との質量比96/2/2の混合物を銅箔の両面に塗布する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するNi板をアーク溶接する。セル平衡化に使用される典型的なカソード及びアノード放電容量比は0.75である。EC(ethylene carbonate)及びDEC(diethyl carbonate)の体積比1:2の混合溶媒中に、1.0mol/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)塩を溶解させることにより、非水性電解質を得る。
【0045】
正極シートと負極シートとそれらの間に差し込まれた厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgardから市販されているCelgard(登録商標)2320)で作製されたセパレータシートとを巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻いて、螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得る。次いで、巻かれた電極アセンブリ及び電解質は、-50℃の露点を有する風乾室内で、アルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が調製される。二次電池の設計容量は、4.20Vに充電されるとき、650mAhである。
非水電解液を、室温で8時間含浸させる。電池は、その理論容量の15%で予備充電し、やはり室温で1日エージングする。次いで、30秒間、電池をガス抜きし、アルミニウムパウチを密閉する。以下の通り、使用するための電池を調製する:CCモードにおいて0.5Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下がる前に、CCモード(定電流)において0.2C(1C=650mA)の電流を用いて4.2Vまで、次にCVモード(定電圧)においてC/20のカットオフ電流に到達するまで、電池を充電する。
【0046】
リチウムフルセル二次電池を、25℃及び45℃の両方で、以下の条件下で数回充電及び放電して、それらの充放電サイクル性能を測定する。
-CCモードにおいて1Cのレート下で4.2Vまで、次にCVモードにおいてC/20に到達するまで、充電を実施する。
-次いで、セルを、10分間休止設定する。
-CCモードにおいて1Cのレートで、2.7Vに下がるまで放電を実施する。
-再度、セルを10分間休止設定する。
-電池の保持容量が約80%に達するまで充放電サイクルを続ける。100サイクルごとに、CCモードにおいて0.2Cのレートで2.7Vに下がるまで放電を実施する。
【0047】
E)示差走査熱量計(DSC)
約3.3mgの活性材料を含有する小形コインセル電極を押込んで、コインセルに組み立てる。C/24の充電レート(1C=175mAh/g)を使用してコインセルを4.3Vまで充電し、続いて少なくとも1時間定電圧充電する。コインセルの分解後、DMCで電極を繰り返し洗浄して、残留する電解質を除去する。DMCの蒸発後、電極をステンレス鋼の缶内へと埋めて、かつ約1.2mgのPVDF系電解質を加え、続いてセルを密封して閉じる(圧着)。TAインストルメントDSC Q10装置を用いて、DSC測定を実施する。5K/minの加熱レートを使用して、50℃~350℃でDSC走査を実施する。DSCセル及び圧縮装置もまた、TAにより供給された。
【0048】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0049】
実施例1
沈殿プロセスは、オーバーフロー管及び400W.の羽根車モータを使用して、10Lの液体体積を有する反応器内で実施される。直径10cmの羽根車を800RPMで撹拌する。反応器は、4つのバッフルを有し、激しい撹拌が可能である。激しい撹拌による酸化を回避するために、液面上に50L/hの窒素ガスを流している。硫酸ニッケル、硫酸マンガン、及び硫酸コバルト(NiSO、MnSO、CoSO)を含有する、全濃度110g/Lを有する3つの溶液を調製して、混合MeSO溶液を得、式中、Meは、Ni、Mn、及びCoから構成される。第1の溶液は、Ni:Mn:Coのモル比が0.8:0.1:0.1であり、第2の溶液は、0.0:0.1:0.9のモル比を有し、第3の溶液は、1/3:1/3:1/3のモル比を有する。400g/LのNaOH溶液及び25%のアンモニア原液が使用される。
【0050】
式Ni0.74Mn0.09Co0.170.27(OH)1.73を有するサンプルEX1を、複数の工程プロセスで調製する。
【0051】
S1-種子調製:
Ni0.80.1Co0.1(OH)の種子前駆体は、6時間の特定の滞留時間を有する連続撹拌槽反応器(CSTR)内の典型的な共沈殿を使用して調製される。また、種子前駆体の組成は、種子が最終粒子のごく一部であり、その組成に影響を与えないため、異なるものであってもよい。最初に、反応器に水及びアンモニアを充填して、内部に15g/Lのアンモニア溶液を得る。反応器内の温度は、60℃である。反応器を開始溶液で満たした後、アンモニアと金属の比を1:1に保ち、pHを約11.7に保ちながら、異なる試薬(MeSO溶液、NaOH溶液、NH溶液)を異なる注入点で反応器内に同時にポンプ注入する。沈殿反応中には、溶液中の各金属イオンに対して2個を超えるOHイオンが存在するべきである。24時間後、反応器が安定した状態になり、D50が5~20μmになると、オーバーフローからのスラリーを回収する。沈殿した金属水酸化物を洗浄し、保護雰囲気下で濾過して、溶解した塩及びアンモニアを除去する。200gの湿潤ケーキを1Lの水で再パルプ化し、ボールミルによる機械的粉砕で処理する。この処理により、D50の大きさが2μm未満に減少する。
【0052】
S2-コア粒子の沈殿:
Ni0.8Mn0.1Co0.1(OH)のコア前駆体は、3時間の特定の又は平均滞留時間を有する連続撹拌槽反応器(CSTR)内の改質共沈殿を使用して調製される。8:1:1のMeSO溶液組成を使用する。最初に、反応器に水及びアンモニアを充填して、内部に15g/Lのアンモニア溶液を得る。反応器内の温度は、60℃である。反応器を開始溶液で満たした後、アンモニアと金属の比を1:1に保ち、NaOH溶液でpHを約11.7に保ちながら、異なる試薬(MeSO溶液、NaOH溶液、NH溶液)を異なる注入点で反応器内に同時にポンプ注入する。溶液中の各金属イオンに対して2個を超えるOHイオンが存在するべきである。6時間後、S1からの種子100gを反応器に加える。反応器内の(粒子径)スパンは、直ちに大きくなり、D50は小さくなる。少なくとも6時間後、スパンは、0.9未満の値まで着実に減少する。この時点で、粒子は、約6~11μmまで成長している。次に、オーバーフローのスラリーを3Lのビーカーに回収し、粒子をビーカー内で沈降させる。30分ごとにビーカーをデカントし、スラリーを反応器に戻す。粒子が十分な大きさ(約11μm)に達したときに、試薬の投与を停止する。
【0053】
S3-シェルの沈殿:
S2で反応器に投与された金属硫酸塩溶液(MeSO)を、第2のMeSO(今回はMe=Mn0.1Co0.9)溶液に切り替える。全ての化学物質の投与を再開し、オーバーフローを3Lのビーカーに回収する。30分ごとにビーカーをデカントして濾過液を除去し、スラリーを反応器に戻す。この実施は、所望の厚さを有するシェルがこの手順を使用して成長するまで継続される。沈殿した金属(オキシ-)水酸化物を洗浄し、保護雰囲気下で濾過して、溶解した塩及びアンモニアを除去する。湿潤ケーキを、窒素下で150℃の炉内で乾燥させる。最終コアシェルの沈殿した金属(オキシ-)水酸化物は、EX1と標識される。ICP分析からのEX1の平均金属組成は、表2に示すように、Ni:Mn:Co=73.8:9.5:16.7(mol%)である。pH、撹拌レート、化学濃度、及び温度などの重要な要因は、沈殿プロセス中に慎重に制御されて、一定の最終生産組成を維持する。シェルの厚さは、プロセス条件に基づいて計算することができるが、XPS深度プロファイリング又は更にはTEMなどの高度な分析器具を使用して後から測定することもできる。
【0054】
【表2】
【0055】
正極材料の調製
正極材料は、EX1をリチウム源とブレンドし、続いて700℃~820℃の温度で焼結することによって得られる。LiOHは、リチウム源として選択され、ブレンドは、Liと金属のモル比(Li/M’)が1.00になるように設計される。30gのこのブレンドを、3つの異なる温度(700℃、740℃、780℃、及び820℃)で、るつぼ内で焼結する。目標温度での焼結は、酸素雰囲気下で12時間実施される。焼結された凝集化合物を粉砕し、ふるい分けする。調製された正極材料は、EX1-P1、EX1-P2、EX1-P3、及びCEX1-P4とそれぞれ標識される。表3は、上記のコインセル試験における正極材料の電気化学的性能を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
この表3では、680℃~800℃未満の温度で焼結された、本発明による前駆体から作製されたカソード材料が、最高E値を有することを実証した。
【0058】
実施例2
式Ni0.73Mn0.09Co0.170.24(OH)1.76を有するEX2は、第3のMeS0溶液(Me=Mn0.05Co0.95)溶液が、第2のMeSO溶液の代わりにS3工程で使用されることを除いて、EX1に記載したものと同じ手順によって調製される。ICP分析からの最終コアシェル沈殿物EX2の平均金属組成は、表2に示すように、Ni:Mn:Co=73.5:9.5:17.1(mol%)である。正極材料EX2-P1は、EX2がEX1の代わりに金属含有化合物として使用されることを除いて、EX1-P1と同じ手順によって調製される。表4は、上記のコインセル試験における正極材料の電気化学的性能を示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に提供された結果から、680℃~800℃未満の焼結温度でEX2から作製されたカソード材料について高いE値を達成することを確認する。
【0061】
比較実施例2
式Ni0.76Mn0.12Co0.120.27(OH)1.73を有するCEX2は、第4のMeS0溶液(Me=Ni1/3Mn1/3Co1/3)が、第2のMeSO溶液の代わりにS3工程で使用されることを除いて、EX1に記載したものと同じ手順によって調製される。ICP分析からの最終コアシェル沈殿物CEX2の平均金属組成は、表2に示すように、Ni:Mn:Co=76.1:11.6:12.4(mol%)である。正極材料CEX2-P1、CEX2-P2、CEX2-P3、及びCEX2-P4は、CEX2がEX1の代わりに金属含有化合物として使用されることを除いて、EX1-P1、EX1-P2、EX1-P3、及びCEX1-P4と同じ手順によってそれぞれ調製される。表5は、上記のコインセル試験における正極材料の電気化学的性能を示す。
【0062】
【表5】
【0063】
比較実施例3
式Ni0.8Mn0.1Co0.10.25(OH)1.75を有するCEX3は、S3工程におけるシェルの沈殿を省略することを除いて、EX1に記載したものと同じ手順によって調製される。沈殿物CEX3の平均金属組成は、表2に示すように、Ni:Mn:Co=79.8:9.8:10.4(mol%)である。正極材料CEX3-P1、CEX3-P2、CEX3-P3、及びCEX3-P4は、CEX3がEX1の代わりに金属含有化合物として使用されることを除いて、EX1-P1、EX1-P2、EX1-P3、及びCEX1-P4と同じ手順によってそれぞれ調製される。
【0064】
表面改質正極材料CEX3-P3-Aは、以下の手順によって調製される。1000gのCEX3-P3を、37gの微細な(Co0.97Mn0.03及び17gのLiOH・HOと混合する。この混合物をチャンバ炉内で800℃、10時間、酸素流量10L/分で加熱する。加熱された化合物はふるい分けされ、CEX3-P3-Aと標識され、式LiNi0.77Mn0.13Co0.10を有する。式LiNi0.75Mn0.10Co0.15を有するCEX3-P3-Bは、56gの微細な(Co0.97Mn0.03及び26gのLiOH・HOがCEX3-P3と混合されることを除いて、CEX3-P3-Aと同じ手順によって調製される。表6は、上記のコインセル試験における正極材料の電気化学的性能を示す。
【0065】
【表6】
【0066】
CEX3-P3-A及びBは、CEX3-P1~4に用いられるプロセスとは異なる製造プロセスから作製される。CEX3-P3-A及びBは、リチウム化中の第1の加熱(780℃)、続いて(Co0.97Mn0.03及びLiOH・HOの被覆(800℃)というCEX3の2段階処理から生じる。
【0067】
図2は、異なる金属含有化合物によって調製された正極材料の第1のサイクル効率を示す。EX1によって調製された正極材料は、一般に、対応する焼結温度において他の正極材料よりも高いE値を有する。各実施例及び比較実施例群の中で、820℃で焼結された前駆体であるCEX1-P4、CEX2-P4、及びCEX3-P4は、最低E値を示す。
【0068】
表面改質化合物であるCEX3-P3-A及びCEX3-P3-Bもまた、EX1によって調製された正極材料よりも低いEを有する。通常の表面被覆プロセスでは、同様のNi含有量にもかかわらず、本発明のコアシェル金属含有技術によって調製された正極材料と同じ優れた電気化学的特性を提供することができないことを示す。
【0069】
比較実施例4
式Ni0.73Mn0.09Co0.180.15(OH)1.85を有するCEX4は、CoSO4溶液が第2のMeSO溶液の代わりにS3工程で使用されることを除いて、EX1に記載したものと同じ手順によって調製される。ICP分析からの最終コアシェル沈殿物CEX4の平均金属組成は、表2に示すように、Ni:Mn:表2に示すように、Co=73.1:9.0:17.9(mol%)である。正極材料CEX4-P3は、CEX4がEX1の代わりに金属含有化合物として使用されることを除いて、EX1-P3と同じ手順によって調製される。表7は、上記のコインセル試験における正極材料の電気化学的性能を示す。
【0070】
【表7】
【0071】
CEX4-P3は、シェル内にMn含有量を有さずに前駆体CEX4から得られる。CEX4-P3のE値(91.3%)は、EX1-P3のE値(94.1%)よりもはるかに低く、これは、特許請求の範囲の含有範囲内における粒子シェル中にMnが存在することの影響を実証している。
【0072】
図3及び図4に、25℃及び45℃におけるEX1-P3、CEX3-P3、及びCEX3-P3-Aのフルセルサイクル性能を示す。サイクル寿命は、容量が80%.以下に劣化する前の充放電サイクルの数として定義される。サイクル寿命の値は、直線の方程式によって外挿することができ、表8に示す。EX1-P3は、最小勾配を有し、25℃で1913サイクル後に80%の容量に達することが明らかである。CEX3-P3については、約921サイクルまで半減し、CEX3-P3-Aについては、更に少ない(349サイクルのみ)。どちらの測定温度でも同じ傾向が観察される。その結果、EX1-P3は、比較実施例に比べて良好なサイクル性を明らかに示す。
【0073】
【表8】
【0074】
図5に、EX1-P1、CEX3-P1、EX1-P3、及びCEX3-P3で調製した充電正極のDSC分析を示す。各グラフにおける最高発熱ピークは、正極材料の熱分解を示し、これは、高温で発生することが好ましい。EX1-P3の熱分解は、約260℃で発生し、CEX3-P3の分解温度(245℃)から約15℃ずれていた。EX1-P1及びCEX2-P1にも同じ傾向が観察される。
図1
図2
図3
図4
図5