(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】金属光沢有機結晶薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 13/04 20060101AFI20230126BHJP
C07C 245/08 20060101ALI20230126BHJP
C07C 43/215 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C25D13/04
C07C245/08
C07C43/215
(21)【出願番号】P 2019031400
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 行成
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 典生
(72)【発明者】
【氏名】簗田 耕作
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014871(JP,A)
【文献】特開2018-058971(JP,A)
【文献】特開2018-035239(JP,A)
【文献】特開2014-031445(JP,A)
【文献】Kondo, Yukishige; Nakajima, Kazuya; Kato, Masakatsu; Ohrui, Hidetaka Takahashi, Yutaka,Golden organic crystals of an azobenzene derivative containing two ester bonds,Coloration Technology,2015年,131(3),,255-258
【文献】Kondo, Yukishige; Matsumoto, Akiko; Fukuyasu, Kengo; Nakajima, Kazuya; Takahashi, Yutaka,Gold-Colored Organic Crystals of an Azobenzene Derivative,Langmuir,2014年,30(15),,4422-4426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/04
C09D 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散させた分散液に電場を印加して前記結晶粒子を泳動させ、前記分散液中に配置された製膜対象部材に前記結晶粒子を堆積させる工程を含む金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【化1】
[式中、Xは-N=N-、-C=C-、又は-CONH-で表される基を示す。R
1及びR
2はそれぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基、及び-(CH
2)
nCOOR
3、-(CH
2)
nR
4、-(CH
2)
nCONHR
5、-CR
6R
7COOR
8、又は-(CH
2)
nOCOCH
3で表される基のいずれかを示し、R
3は水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を示し、R
4はヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、フェニル基、フェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)、ナフチル基、又はナフチルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)を示し、R
5は炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を示し、R
6は水素原子又はメチル基を示し、R
7は炭素数1~4のアルキル基を示し、R
8は炭素数1~5のアルキル基を示し、nは1~12の整数を示す。]
【請求項2】
前記分散液中に配置された一対の電極に電圧を印加することにより、前記分散液に電場を印加する請求項1に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記製膜対象部材が前記電極である請求項2に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記製膜対象部材が前記一対の電極間に配置されている請求項2に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物を再結晶化する工程と、
再結晶化により得られた前記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散媒に分散させて前記分散液を調製する工程と、をさらに含む請求項1~4のいずれか1項に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢有機結晶薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高級感のある意匠性を付与するため、物品に金属光沢薄膜を形成することが広く行われている。
【0003】
金属光沢薄膜を形成する際には、アルミニウム等の金属粉末を分散させた光輝性顔料組成物が用いられることが多い。しかし、このような光輝性顔料組成物を用いて形成した金属光沢薄膜は、導電性を有し、また、電磁波を遮蔽する性質を有するため、電子機器の筐体等に形成する薄膜としては不向きである。
【0004】
そこで、近年、金属に替わる材料として金属光沢を示す新規材料の開発がなされている。例えば、特許文献1~3には、金属光沢結晶を形成する低分子有機化合物を含有する着色組成物が開示されている。特許文献1~3の着色組成物をインクジェット記録装置やバーコーター等を用いて記録媒体に印刷することにより、金属光沢を示す記録物を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-35239号公報
【文献】特開2018-58971号公報
【文献】特開2019-14871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な金属光沢有機結晶薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散させた分散液に電場を印加して前記結晶粒子を泳動させ、前記分散液中に配置された製膜対象部材に前記結晶粒子を堆積させる工程を含む金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【化1】
[式中、Xは-N=N-、-C=C-、又は-CONH-で表される基を示す。R
1及びR
2はそれぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基、及び-(CH
2)
nCOOR
3、-(CH
2)
nR
4、-(CH
2)
nCONHR
5、-CR
6R
7COOR
8、又は-(CH
2)
nOCOCH
3で表される基のいずれかを示し、R
3は水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を示し、R
4はヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、フェニル基、フェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)、ナフチル基、又はナフチルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)を示し、R
5は炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を示し、R
6は水素原子又はメチル基を示し、R
7は炭素数1~4のアルキル基を示し、R
8は炭素数1~5のアルキル基を示し、nは1~12の整数を示す。]
【0008】
<2> 前記分散液中に配置された一対の電極に電圧を印加することにより、前記分散液に電場を印加する<1>に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【0009】
<3> 前記製膜対象部材が前記電極である<2>に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【0010】
<4> 前記製膜対象部材が前記一対の電極間に配置されている<2>に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【0011】
<5> 前記式(1)で表される化合物を再結晶化する工程と、
再結晶化により得られた前記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散媒に分散させて前記分散液を調製する工程と、をさらに含む<1>~<4>のいずれか1項に記載の金属光沢有機結晶薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な金属光沢有機結晶薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電気泳動堆積法による金属光沢有機結晶薄膜の製造方法の一態様を示す図である。
【
図2】電気泳動堆積法による金属光沢有機結晶薄膜の製造方法の他の態様を示す図である。
【
図3】電気泳動堆積法により得られた金属光沢有機結晶薄膜の正反射率のスペクトルを示す図である。
【
図4】印加電圧又は電圧印加時間を変化させた場合の金属光沢有機結晶薄膜の堆積量を示す図である。
【
図5】印加電圧を変化させて形成した金属光沢有機結晶薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す図である。
【
図6】印加電圧を変化させて形成した金属光沢有機結晶薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す図である。
【
図7】印加電圧を変化させて形成した金属光沢有機結晶薄膜の膜厚を示す図である。
【
図8】電気泳動堆積法により得られた金属光沢有機結晶薄膜(EPD膜)、及び溶液を滴下して得られた有機結晶薄膜(滴下膜)の正反射率のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る金属光沢有機結晶薄膜の製造方法(以下、単に「本実施形態に係る製造方法」ともいう。)は、下記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散させた分散液に電場を印加して結晶粒子を泳動させ、分散液中に配置された製膜対象部材に結晶粒子を堆積させる工程を含む。
【0015】
【化2】
[式中、Xは-N=N-、-C=C-、又は-CONH-で表される基を示す。R
1及びR
2はそれぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基、及び-(CH
2)
nCOOR
3、-(CH
2)
nR
4、-(CH
2)
nCONHR
5、-CR
6R
7COOR
8、又は-(CH
2)
nOCOCH
3で表される基のいずれかを示し、R
3は水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を示し、R
4はヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、フェニル基、フェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)、ナフチル基、又はナフチルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)を示し、R
5は炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を示し、R
6は水素原子又はメチル基を示し、R
7は炭素数1~4のアルキル基を示し、R
8は炭素数1~5のアルキル基を示し、nは1~12の整数を示す。]
【0016】
上記式(1)で表される化合物の結晶粒子は平板状であり、その積層体は金属光沢を発現する。本発明者らは、上記式(1)で表される化合物の結晶粒子の性質について鋭意検討を進めた結果、上記式(1)で表される化合物の結晶粒子が分散液中で負に帯電していること;この分散液に電場を印加すると、結晶粒子が泳動して分散液中の製膜対象部材に堆積し、金属光沢有機結晶薄膜が得られること;等を見出した。本実施形態に係る製造方法は、このような知見に基づくものである。後述する実施例に示すとおり、本実施形態に係る製造方法によれば、例えば、最大正反射率が2%以上である金属光沢有機結晶薄膜を得ることができる。
【0017】
上記式(1)で表される化合物の結晶粒子は、泳動性を高める観点から、微細な粒子であることが好ましい。微細な結晶粒子を得るため、分散媒に分散させる前に、必要に応じて上記式(1)で表される化合物を再結晶化してもよい。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、上記式(1)で表される化合物を再結晶化する工程と、再結晶化により得られた上記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散媒に分散させて分散液を調製する工程と、をさらに含むものであってもよい。
【0018】
再結晶化の方法としては、例えば、アセトン、エタノール、クロロホルム、酢酸エチル等の有機溶媒、或いはこれら有機溶媒と水との混合溶媒に上記式(1)で表される化合物を加え、必要に応じて加熱して完全に溶解させた後、溶液を冷却する方法が挙げられる。その際、溶液を20℃以下の温度に急冷することが、結晶成長を抑えて微細な結晶粒子を得る観点から好ましい。
【0019】
上記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散させる分散媒としては、結晶粒子の溶解性が低く、かつ、電場を印加した際に電気分解し難い溶媒であれば特に制限されない。分散媒の例としては、ヘキサン、アセトン、エタノール等が挙げられ、その中でもヘキサンが好ましい。
【0020】
分散液中における上記式(1)で表される化合物の結晶粒子の含有率は特に制限されない。結晶粒子の含有率は、例えば、0.008g/mL~0.1g/mLであってもよく、0.01g/mL~0.02g/mLであってもよい。
【0021】
上記式(1)で表される化合物の結晶粒子を分散させた分散液に電場を印加することにより、結晶粒子を泳動させることができる。
【0022】
例えば、
図1に示すように、容器10に分散液20を入れ、分散液20中に直流電源に接続した一対の電極(陽極15a及び陰極15b)を浸漬する。該一対の電極に直流電圧を印加すると、結晶粒子が陽極15a側に泳動し、陽極15aの表面に堆積する。その結果、陽極15a上に金属光沢有機結晶薄膜30を形成することができる。この態様では、陽極15aが製膜対象部材となる。
【0023】
陽極15a及び陰極15bとしては、電気泳動堆積法で使用されている電極を特に制限なく使用することができる。一例としては、金、白金、ステンレス鋼、アルミニウム、炭素等からなる電極や、ガラス等からなる基板にインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、フッ素錫酸化物(FTO)等からなる導電膜を形成した電極等が挙げられる。
電極間の距離は、例えば、0.5cm~5cm程度に設定される。
【0024】
印加電圧は、例えば、30V~200Vが好ましい。電圧印加時間は、印加電圧等に応じて適宜設定することができる。電圧印加時間は、例えば、5秒間~3分間程度に設定される。
【0025】
或いは、
図2に示すように、容器10に分散液20を入れ、分散液20中に直流電源に接続した一対の電極(陽極15a及び陰極15b)を浸漬するとともに、一対の電極間に製膜対象部材40を配置してもよい。該一対の電極に直流電圧を印加すると、結晶粒子が陽極15a側に泳動し、製膜対象部材40の表面に堆積する。その結果、製膜対象部材40上に金属光沢有機結晶薄膜30を形成することができる。
【0026】
製膜対象部材40としては特に制限されず、任意の材質からなる部材を使用することができる。
【0027】
本実施形態の製造方法で得られる金属光沢有機結晶薄膜は、平板上の結晶粒子が複数積層された積層構造を有する。金属光沢有機結晶薄膜の膜厚は、例えば、20μm~200μmであってもよく、30μm~150μmであってもよい。
【0028】
なお、以上の説明では、分散液中に一対の電極を配置し、該一対の電極に直流電圧を印加することにより分散液に直流電場を印加するものとしたが、この態様に限定されるものではない。例えば、分散液を入れた容器の外部に配置された電極に直流電圧を印加し、分散液に直流電場を印加するようにしてもよい。この場合にも、分散液中に製膜対象部材を配置することにより、該製膜対象部材の表面に金属光沢有機結晶薄膜を形成することができる。
【0029】
また、以上の説明では、分散液に直流電場を印加するものとしたが、この態様に限定されず、分散液に交流電場を印加するようにしてもよい。分散液に交流電場を印加する場合であっても、バイアス、デューティー比、波形等を調整することで、製膜対象部材の表面に金属光沢有機結晶薄膜を形成することができる。
【0030】
以下、上記式(1)で表される化合物について詳細に説明する。
【0031】
上記式(1)中のXは、-N=N-、-C=C-、又は-CONH-で表される基を示す。Xが-N=N-で表される基である場合、製造した金属光沢有機結晶薄膜は金色光沢を示す。一方、Xが-C=C-又は-CONH-で表される基である場合、製造した金属光沢有機結晶薄膜は銀色光沢を示す。
【0032】
なお、上記式(1)で表される化合物は、Xに結合する基の立体配置によってトランス体及びシス体の異性体が存在するが、金属光沢を発現するためにはトランス体であることが好ましい。ただし、金属光沢を発現する限りトランス体とシス体との混合物であっても構わない。
【0033】
上記式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、フェニル基、ナフチル基、及びその他の基のいずれかを示す。
【0034】
R1及びR2における炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、2~20が好ましく、3~20がより好ましく、3~11がさらに好ましい。
【0035】
R1及びR2における炭素数2~20のアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、構造中に複数の炭素-炭素二重結合を有していてもよい。具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、1,3-ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等が挙げられる。
【0036】
R1及びR2におけるフェニル基は、金属光沢の発現等に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、シアノ基、シアノアルキル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基等が挙げられる。置換基中のアルキル部分の炭素数は1~6が好ましい。
【0037】
R1及びR2におけるナフチル基は、金属光沢の発現等に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、シアノ基、シアノアルキル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基等が挙げられる。置換基中のアルキル部分の炭素数は1~6が好ましい。
【0038】
R1及びR2におけるその他の基としては、-(CH2)nCOOR3、-(CH2)nR4、-(CH2)nCONHR5、-CR6R7COOR8、又は-(CH2)nOCOCH3で表される基が挙げられる。
【0039】
R3は、水素原子又は炭素数1~2のアルキル基を示す。
R4は、ヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、炭素数2~5のアルケニルオキシ基、フェニル基、フェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)、ナフチル基、又はナフチルアルキル基(アルキル部分の炭素数が1~3)を示す。
R5は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数1~12のヒドロキシアルキル基を示す。
R6は、水素原子又はメチル基を示す。
R7は、炭素数1~4のアルキル基を示す。
R8は、炭素数1~5のアルキル基を示す。
nは、1~12の整数を示す。
【0040】
R3における炭素数1~2のアルキル基としては、メチル基及びエチル基が挙げられる。
【0041】
R4における炭素数1~2のアルコキシ基としては、メトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。
【0042】
R4における炭素数2~5のアルケニルオキシ基は、アルケニル部分が直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体例としては、ビニルエーテル基、メチルビニルエーテル基、エチルビニルエーテル基等が挙げられる。
【0043】
R4におけるフェニル基、及びアルキル部分の炭素数が1~3のフェニルアルキル基は、金属光沢の発現等に悪影響を与えない範囲でフェニル基の部分に置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、シアノ基、シアノアルキル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基等が挙げられる。置換基中のアルキル部分の炭素数は1~6が好ましい。
【0044】
R4におけるナフチル基、及びアルキル部分の炭素数が1~3のナフチルアルキル基は、金属光沢の発現等に悪影響を与えない範囲でフェニル基の部分に置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、シアノ基、シアノアルキル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基等が挙げられる。置換基中のアルキル部分の炭素数は1~6が好ましい。
【0045】
R5における炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0046】
R5における炭素数2~20のアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、構造中に複数の炭素-炭素二重結合を有していてもよい。具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、1,3-ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等が挙げられる。
【0047】
R5における炭素数1~12のヒドロキシアルキル基は、アルキル部分が直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体例としては、-(CH2)mOH(ただし、mは1~12の整数)で表される基が挙げられる。
【0048】
R7における炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0049】
R8における炭素数1~5のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられる。
【0050】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記実施例や特許文献1~3に記載された化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0052】
【0053】
ビーカーにp-アミノフェノール(10.5g,96.3mmol)を量りとり、水(92.9mL)を加えて撹拌した後、3℃以下に氷冷した。次いで、濃塩酸(36.6mL)を水(115mL)で希釈した溶液を3℃以下が保たれるように滴下し、塩酸塩水溶液とした。次いで、水(550mL)に溶解させた亜硝酸ナトリウム(6.98g,100mmol)を3℃以下が保たれるように滴下し、ジアゾ化を行った。
【0054】
別のビーカーに水(91.4mL)を入れ、そこに硫酸銅(II)五水和物(41.4g,164mmol)を加えて溶解させた後、アンモニア水(27.4mL)を加えて撹拌した。次いで、塩化ヒドロキシルアンモニウム(6.98g,100mmol)を発泡に注意しながら加えた。この溶液を撹拌すると溶液の色が青色から緑色を経て橙色に変化した。ジアゾ化を行った溶液に対してこの橙色の溶液を3℃以下が保たれるように滴下することでカップリング反応を行った。得られた混合溶液を1時間撹拌し、吸引濾過によって濾物を得た。この濾物を酢酸エチルに溶解させ、再度吸引濾過した。目的物質が溶解した酢酸エチル溶液を飽和食塩水で分液した後、酢酸エチル層を硫酸マグネシウムにて脱水乾燥した。この酢酸エチル層をエバポレーターにて減圧留去することにより、目的物質であるOH-azoを得た。合成の確認は1H-NMRを用いて行った。収率は30%であった。
【0055】
【0056】
セプタムを付けた二口ナスフラスコにOH-azo(2.01g,9.39mmol)、炭酸カリウム(9.14g,66.1mmol)、及びアセトン(200mL)を加え、66℃で加熱撹拌しながら還流を行った。30分間程度経過すると溶液の色が黒色から黒褐色へと変化した。次いで、1-ブロモ-3-メチルブタン(13.6mL,109mmol)を加え、66℃で加熱撹拌しながら2日間還流を行った。吸引濾過によって炭酸カリウムを除去し、濾液をエバポレーターにて減圧留去することにより、目的物質であるDC-azoを得た。合成の確認は1H-NMRを用いて行った。収率は87%であった。
【0057】
(DC-azoの再結晶化)
合成したDC-azo(0.4g)をサンプル瓶中でアセトン(55mL)に溶解させた後、水(25mL)を加えて懸濁させた。この混合液をウォーターバスで約85℃まで加温し、完全に溶解させた。その後、20℃の水にサンプル瓶を浸して急冷することでDC-azoの微結晶を得た。室温に2時間静置した後、吸引濾過によってDC-azoの微結晶を回収した。回収した微結晶は、真空デシケーターを用いて1時間乾燥させた。
【0058】
回収したDC-azoの微結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、100個の粒子の粒径をImageJソフトウェアにより測定したところ、その算術平均値(平均粒径)は約170μmであった。
【0059】
<調製例2>
(Butoxy-azoの合成)
【化5】
【0060】
セプタムを付けた二口ナスフラスコにOH-azo(2.00g,9.35mmol)、炭酸カリウム(9.00g,67.1mmol)、及びアセトン(200mL)を加え、66℃で加熱撹拌しながら還流を行った。次いで、1-ブロモブタン(10mL,92.5mmol)を加え、66℃で加熱撹拌しながら2日間還流を行った。吸引濾過によって炭酸カリウムを除去し、濾液をエバポレーターにて減圧留去することにより、目的物質であるButoxy-azoを得た。合成の確認は1H-NMRを用いて行った。収率は81%であった。
【0061】
(Butoxy-azoの再結晶化)
合成したButoxy-azo(0.5g)をサンプル瓶中でアセトン(100mL)に溶解させた後、水(40mL)を加えて懸濁させた。この混合液をウォーターバスで約75℃まで加温し、完全に溶解させた。その後、20℃の水にサンプル瓶を浸して急冷することでButoxy-azoの微結晶を得た。室温に2時間静置した後、吸引濾過によってButoxy-azoの微結晶を回収した。回収した微結晶は、真空デシケーターを用いて1時間乾燥させた。
【0062】
<調製例3>
(EtOCO-azoの合成)
【化6】
【0063】
セプタムを付けた二口ナスフラスコにOH-azo(2.14g,10.0mmol)、炭酸カリウム(5.53g,40.0mmol)、及びアセトン(200mL)を加え、66℃で加熱撹拌しながら還流を行った。次いで、ブロモ酢酸エチル(13mL,117mmol)を加え、66℃で加熱撹拌しながら3日間還流を行った。吸引濾過によって炭酸カリウムを除去し、濾液をエバポレーターにて減圧留去することにより、目的物質であるEtOCO-azoを得た。合成の確認は1H-NMRを用いて行った。収率は84%であった。
【0064】
(EtOCO-azoの再結晶化)
合成したEtOCO-azo(0.5g)をサンプル瓶中でアセトン(100mL)に溶解させた後、水(80mL)を加えて懸濁させた。この混合液をウォーターバスで約75℃まで加温し、完全に溶解させた。その後、20℃の水にサンプル瓶を浸して急冷することでEtOCO-azoの微結晶を得た。室温に2時間静置した後、吸引濾過によってEtOCO-azoの微結晶を回収した。回収した微結晶は、真空デシケーターを用いて1時間乾燥させた。
【0065】
<調製例4>
(DC-stilbeneの合成)
【化7】
【0066】
セプタムを付けた二口ナスフラスコに4-ヒドロキシベンズアルデヒド(7.0g,51mmol)、炭酸カリウム(14.2g,103mmol)、及びアセトニトリル(40mL)を加えて窒素下にした後、66℃で加熱撹拌しながら還流を行った。次いで、1-ブロモ-3-メチルブタン(7.7g,51mmol)を加え、80℃で加熱撹拌しながら1日間還流を行った。反応終了後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチル及び25%水酸化ナトリウム水溶液(2×100mL)で抽出した。さらに、有機層を酢酸エチル及び水(2×100mL)で抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液をエバポレーターにて減圧留去することにより、中間体である4-(3-メチル-ブトキシ)-ベンズアルデヒドを得た。
【0067】
セプタムを付けたナスフラスコに、チタノセンジクロライド(4.0g)及び亜鉛粉末(2.0g)を加えて窒素下にした。次いで、モレキュラーシーブを用いて完全に脱水した安定剤無添加テトラヒドロフラン(25mL)を加え、室温で溶液の色が赤色から緑色に変化するまで撹拌した。溶液が緑色に変化したのを確認した後、ナスフラスコに4-(3-メチル-ブトキシ)-ベンズアルデヒド(2.0mL)を加えて反応させた。反応終了後、tert-ブチルメチルエーテルで反応をクエンチさせた。反応溶液を吸引濾過し、濾物を除去した後、1N塩酸及び水でそれぞれ分液を行った。得られた有機層を減圧留去することにより、目的物質であるDC-stilbeneを得た。収率は90%であった。
【0068】
(DC-stilbeneの再結晶化)
合成したDC-stilbene(0.5g)をサンプル瓶中でエタノール(70mL)に分散させ、ウォーターバスで約75℃まで加温し、完全に溶解させた。その後、20℃の水にサンプル瓶を浸して急冷することでDC-stilbeneの微結晶を得た。室温に2時間静置した後、吸引濾過によってDC-stilbeneの微結晶を回収した。回収した微結晶は、真空デシケーターを用いて30分間乾燥させた。
【0069】
<試験例1>
図1に示すように、底面直径2.5cmの円筒形の容器にDC-azo、Butoxy-azo、EtOCO-azo、又はDC-stilbeneの微結晶(0.2g)とヘキサン(9mL)とを加え、撹拌子(1cm)及びマグネチックスターラーを用いて500rpmの撹拌速度で撹拌することにより微結晶を分散させた。電極としては、直流電源に接続した2枚のITOガラス基板(電極間距離:1cm)を使用した。各電極の1cm×1cmの領域を分散液中に浸漬した状態で200Vの電圧を1分間印加することにより、陽極側のITO膜上に金属光沢有機結晶薄膜を形成した。直流電源の電圧は、ITOガラス基板を取り出してから0Vにした。
【0070】
得られた金属光沢有機結晶薄膜の正反射率を
図3に示す。
図3には参考のため、ITOガラス基板の正反射率も併せて示す。正反射率は、大型積分球装置(JASCO ILN-472、日本分光株式会社製、入射角:5°)を取り付けた紫外可視分光光度計(JASCO V-570 UV/VIS/NIR Spectrophotometer、日本分光株式会社製)にて25℃で測定した。
【0071】
図3に示すとおり、DC-azo、Butoxy-azo、EtOCO-azo、又はDC-stilbeneの微結晶を用いて形成した金属光沢有機結晶薄膜の最大正反射率はいずれも2%以上であった。正反射率のスペクトル形状から、DC-azo、Butoxy-azo、又はEtOCO-azoの微結晶を用いて形成した有機結晶薄膜は金属光沢を有し、DC-stilbeneの微結晶を用いて形成した有機結晶薄膜は銀色光沢を有することが分かる。
【0072】
<試験例2>
図1に示すように、底面直径2.5cmの円筒形の容器にDC-azoの微結晶(0.2g)とヘキサン(9mL)とを加え、撹拌子(1cm)及びマグネチックスターラーを用いて500rpmの撹拌速度で撹拌することにより微結晶を分散させた。電極としては、直流電源に接続した2枚のステンレス基板(電極間距離:1cm)を使用した。各電極の1cm×1cmの領域を分散液中に浸漬した状態で30V~200Vの電圧を30秒間印加することにより、陽極側のステンレス基板上に金属光沢有機結晶薄膜を形成した。また、同様にして、120Vの電圧を5秒間~300秒間印加することにより、陽極側のステンレス基板上に金属光沢有機結晶薄膜を形成した。直流電源の電圧は、ステンレス基板を取り出してから0Vにした。
【0073】
電圧印加時間を30秒間に固定して印加電圧を変化させた場合の金属光沢有機結晶薄膜の堆積量を
図4(A)に示し、印加電圧を120Vに固定して電圧印加時間を変化させた場合の金属光沢有機結晶薄膜の堆積量を
図4(B)に示す。堆積量は、金属光沢有機結晶薄膜をアセトンに溶解させた後、溶液の濃度を紫外可視分光光度計で測定することにより算出した。
【0074】
図4(A)に示すとおり、印加電圧が200Vまでの範囲では印加電圧に比例して堆積量が増加した。また、
図4(B)に示すとおり、電圧印加時間が90秒間程度までは時間に比例して堆積量が増加したが、その後は堆積量の増加は認められなかった。
【0075】
<試験例3>
50V、100V、150V、又は200Vの電圧を30秒間印加した以外は試験例2と同様にして、ステンレス基板上に金属光沢有機結晶薄膜を形成した。金属光沢有機結晶薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を
図5(A)~(D)に示す。また、300個の粒子の面積をImageJソフトウェアで測定したときの度数分布表を下記表1に示す。表1中、例えば、階級値「0」の行における度数「169」は、面積が10000μm
2未満である粒子の数が169個であったことを意味し、階級値「10000」の行における度数「80」は、面積が10000μm
2以上20000μm
2未満である粒子の数が80個であったことを意味する。
【0076】
【0077】
図5(A)~(D)及び表1に示すとおり、印加電圧の増加に伴って粒径の大きい粒子の割合が増加した。これは、印加電圧の増加により大きい粒子が泳動し易くなったためと考えられる。
【0078】
<試験例4>
100V、150V、又は200Vの電圧を30秒間印加した以外は試験例2と同様にして、ステンレス基板上に金属光沢有機結晶薄膜を形成した。金属光沢有機結晶薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を
図6(A)~(C)に示す。また、金属光沢有機結晶薄膜の膜厚を測定した結果を
図7に示す。
【0079】
図6(A)~(C)に示すとおり、金属光沢有機結晶薄膜は、平板状の結晶粒子が複数積層された構造を有していた。また、
図7に示すとおり、金属光沢有機結晶薄膜の膜厚は50μm~150μm程度であった。金属光沢の発現には平板状の結晶粒子が複数積層された構造を有する必要があるとされており(特開2018-40953号公報を参照)、この知見と整合するものであった。
【0080】
<試験例5>
試験例1と同様にして、DC-azoの微結晶を用いてITOガラス上に金属光沢有機結晶薄膜(EPD膜)を形成した。
また、比較のため、DC-azoの微結晶(100mg)をアセトン(5mL)に溶解させ、得られた溶液(0.1mL)を45℃に熱したスライドガラス上に滴下し、アセトンを蒸発させてDC-azoを結晶化させることにより、有機結晶薄膜(滴下膜)を形成した。
【0081】
試験例1と同様にしてEPD膜及び滴下膜の正反射率を測定した結果を
図8に示す。
図8に示すとおり、EPD膜は最大正反射率が5%程度であり金属光沢を示したが、滴下膜は金属光沢を示さなかった。
【符号の説明】
【0082】
10 容器、15a 陽極、15b 陰極、20 分散液、30 金属光沢有機結晶薄膜、40 製膜対象部材