(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂用硬化剤組成物、並びにこれを用いた熱硬化性樹脂組成物、無機強化複合樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20230126BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230126BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20230126BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08G59/40
C08L63/00 B
C08K5/17
C08K5/13
(21)【出願番号】P 2019033057
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】海野 春生
(72)【発明者】
【氏名】奥山 裕司
(72)【発明者】
【氏名】臼井 勝宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 真実
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-079846(JP,A)
【文献】特開2016-098322(JP,A)
【文献】特開2014-227465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08K 5/17
C08K 5/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤
(ただし、式:H
2
N(C
n
H
2n
)O(C
x
H
2x
)NH
2
(nおよびxは2~7の値)を有するものを除く)と、
フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物と、
レゾルシノールと、
を含み、
熱硬化性樹脂100質量部に対する前記レゾルシノールの質量割合が3~10質量部となる量で熱硬化性樹脂と配合されて用いられる、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項2】
前記レゾルシノールの質量割合が3~5質量部となる量で熱硬化性樹脂と配合されて用いられる、請求項1に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項3】
前記アミン硬化剤が第1級アミンを分子中に有する場合、前記アミン硬化剤は、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステル、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジド、脂環式ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物、モノまたはポリエポキシ化合物をアミノ基に反応させて得られるエポキシ-アミン付加物、これらのアミノ基を有する化合物とフェノール類およびホルムアルデヒドを反応させて得られるマンニッヒ変性化物、およびポリアミドアミン類からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項4】
前記レゾルシノールの配合量が、前記アミン硬化剤100質量%に対して15~40質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物。
【請求項5】
熱硬化性樹脂と、
請求項1
~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項
5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記レゾルシノールの配合量が前記熱硬化性樹脂100質量部に対して3~10質量部である、請求項
5または
6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記
レゾルシノールの配合量が
前記熱硬化性樹脂100質量部に対して3~5質量部である、請求項
7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項
5~
8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物と、
無機強化材と、
を含む、無機強化複合樹脂組成物。
【請求項10】
前記無機強化材が無機繊維である、請求項
9に記載の無機強化複合樹脂組成物。
【請求項11】
前記無機繊維が炭素繊維である、請求項
10に記載の無機強化複合樹脂組成物。
【請求項12】
前記無機強化材の体積含有率が30~85%である、請求項
9~
11のいずれか1項に記載の無機強化複合樹脂組成物。
【請求項13】
請求項
9~
12のいずれか1項に記載の無機強化複合樹脂組成物の硬化物からなる、無機強化樹脂成形品。
【請求項14】
請求項
9~
12のいずれか1項に記載の無機強化複合樹脂組成物の硬化物からなる、自動車用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物、並びにこれを用いた熱硬化性樹脂組成物、無機強化複合樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維で強化した繊維強化樹脂成形品は、自動車や航空機の筐体、各種部材をはじめ、様々な構造体用途において利用されている。
【0003】
この繊維強化樹脂成形品は、通常、液状の樹脂が含浸した強化繊維や、半硬化した樹脂が含浸した強化繊維を用いて製造される。液状の樹脂が含浸した強化繊維を用いて繊維強化樹脂成形品を製造する場合には、ハンドレイアップ成形、レジントランスファー成形、真空バック成形、フィラメントワインディング成形などの成形方法が用いられる。また、繊維強化複合材料を用いて繊維強化樹脂成型品を製造する場合には、オートクレーブ成形やプレス成形などの成形方法が用いられる。
【0004】
ここで、強化繊維に含浸させる樹脂としては、通常、常温での安定性と加熱等による硬化性を兼ね備えた樹脂であることが必要である。したがって、当該樹脂としては一般的にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0005】
なお、熱硬化性樹脂を用いる場合、熱硬化性樹脂には、強化繊維への含浸の観点、および高速生産の観点から、低粘度であることや、金型内で素早く硬化する速硬化性を有することが求められる。
【0006】
また、繊維強化樹脂成形品がユーザーの使用環境にも耐えうるよう、熱硬化性樹脂には硬化物において優れた耐熱性と機械強度を発現することも求められる。
【0007】
ここで、特許文献1では、繊維強化樹脂成型品を製造するのに用いられるエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂に加えて、第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤と、フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物と、前記フェノール性水酸基含有アミン化合物よりも活性水素当量が小さいフェノール化合物とを含むエポキシ樹脂組成物が提案されている。特許文献1によれば、このような構成を有するエポキシ樹脂組成物は低粘度かつ速硬化性を有しつつ、しかも得られる硬化物において優れた耐熱性と機械強度とを発現させることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示されているエポキシ樹脂組成物を用いた場合には、最低でも60秒程度の硬化時間が必要であることが判明した。このように、自動車部品等の大量生産時における加工費用を低減させるという観点からは、依然として速硬化性に改善の余地がある。また、速硬化性を向上させるには硬化剤の反応性を向上させるという対処も考えられる。しかしながら、単に硬化剤の反応性を高めるだけでは樹脂組成物の粘度が上昇してしまい、金型内を樹脂組成物が十分に流動することができない。その結果、大型の部品を製造することができないという問題が残る。
【0010】
そこで本発明は、熱硬化性樹脂組成物の機械強度を維持しつつ、硬化前の流動性および速硬化性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その過程で、アミン硬化剤および所定のフェノール性水酸基含有アミン化合物に加えてレゾルシノールを配合して熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を構成すると上記課題が解決できる場合があることを見出した。そして、熱硬化性樹脂に対するレゾルシノールの使用量を特定の範囲に制御することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一形態によれば、第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤と、フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物と、レゾルシノールとを含む熱硬化性樹脂用硬化剤組成物が提供される。そして、当該熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、熱硬化性樹脂100質量部に対するレゾルシノールの質量割合が3~10質量部となる量で熱硬化性樹脂と配合されて用いられる点にも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物の機械強度を維持しつつ、硬化前の流動性および速硬化性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態は、第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤と、フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物と、レゾルシノールとを含み、熱硬化性樹脂100質量部に対する前記レゾルシノールの質量割合が3~10質量部となる量で熱硬化性樹脂と配合されて用いられる、熱硬化性樹脂用硬化剤組成物である。
【0015】
[熱硬化性樹脂用硬化剤組成物]
上述したように、本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤と、フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物と、レゾルシノールとを必須の成分として含有する。
【0016】
(第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤)
第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤としては、分子中に第1級アミンまたは第2級アミンを有する化合物であればその具体的な構造について特に制限はない。このようなアミン硬化剤を用いると、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって形成される架橋ネットワーク上にアミン硬化剤が導入される結果、得られる硬化物の機械強度を向上させることができる。
【0017】
このようなアミン硬化剤のうち、第1級アミンを分子中に有するアミン硬化剤としては、例えば、第1級アミンを分子中に有する脂肪族ポリアミン化合物や芳香族ポリアミン化合物等が挙げられる。脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステル、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジドなどの鎖状式ポリアミン化合物や、メンセンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、N-アミノエチルピペラジン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ノルボルネンジアミンなどの脂環式ポリアミン化合物等の化合物が挙げられる。さらには、モノまたはポリエポキシ化合物をアミノ基に反応させて得られるエポキシ-アミン付加物、これらのアミノ基を有する化合物とフェノール類およびホルムアルデヒドを反応させて得られるマンニッヒ変性化物、ポリアミドアミン類(前記ポリアミンと長鎖カルボン酸との反応物、または、前記エポキシ付加物と長鎖カルボン酸との反応物)が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物としても使用されうる。
【0018】
芳香族ポリアミン化合物としては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノジエチルジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。
【0019】
第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤としては、例えば、第2級アミンを分子中に有する脂肪族ポリアミン化合物や芳香族ポリアミン化合物等が挙げられる。脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、1,2-プロパンジアミンや、1,3-ブタンジアミンなどの鎖状式ポリアミン化合物、N-メチルピペラジン、モルホリン、ピペリジン等の脂環式ポリアミン化合物、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-エチルトルイジン、ジフェニルアミン、ヒドロキシフェニルグリシン、N-メチルアミノフェノールサルフェート等の芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。
【0020】
上記したアミン硬化剤のなかでも、本発明のエポキシ樹脂組成物において速硬化性の機能が向上するといった観点から、分子中に第1級アミンまたは第2級アミンを有する鎖状式ポリアミン化合物または脂環式ポリアミン化合物が好ましい。
【0021】
(フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物)
フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物としては、フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有する化合物であればその具体的な構造について特に制限はない。このようなアミン化合物を後述するレゾルシノールとともに用いると、上述した熱硬化性樹脂による架橋ネットワーク中に当該アミン化合物およびレゾルシノールが導入され、硬化物のガラス転移温度の低下(耐熱性の低下)が抑制される。
【0022】
このようなフェノール性水酸基含有アミン化合物としては、例えば、下記構造式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
構造式(1)において、R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、またはアラルキル基を表し、mは1~4の整数を示し、nは1~5の整数を示す。
【0025】
ここで、炭素原子数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。炭素原子数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、トリルメチル基、トリルエチル基、トリルプロピル基、キシリルメチル基、キシリルエチル基、キシリルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、熱硬化性樹脂組成物において速硬化性の機能が向上するという観点から、R1は炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、これらの中でもR1はメチル基であることがより好ましい。
【0027】
さらに、フェノール性水酸基含有アミン化合物としては、熱硬化性樹脂組成物において速硬化性の機能が向上し、かつ得られる硬化物において高い耐熱性を発現できるという観点から、上記構造式(1)において、mが1または2であり、nが1~3の整数であることが特に好ましく、mおよびnがともに1であることが最も好ましい。
【0028】
すなわち、フェノール性水酸基含有アミン化合物としては、R1がメチル基であり、mが1または2であり、nが1~3の整数である化合物が特に好ましく、R1がメチル基であり、mおよびnがともに1である化合物が最も好ましい。
【0029】
フェノール性水酸基含有アミン化合物としては、例えば、下記構造式(1-1)~(1-6)で表される化合物などが挙げられる。
【0030】
【0031】
上記フェノール性水酸基含有アミン化合物としては、例えば、アンカミン「K-54」(エアープロダクツジャパン株式会社製)、「DMP-30」(日新EM株式会社製)などの市販品として入手することが可能である。
【0032】
(レゾルシノール)
レゾルシノールは、下記構造式(2)で表され、1,3-ジヒドロキシベンゼン、レゾルシンとも称される化合物である。
【0033】
【0034】
本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、特にレゾルシノールを含有成分として選択した点が特徴の1つである。本発明者らの検討によれば、レゾルシノールの量が後述する所定の量となるように熱硬化性樹脂に配合されることで、優れた機械強度を発現しつつ、硬化前の流動性を確保しながら速硬化性を格段に向上させることが可能である。
【0035】
以上、本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物における必須の成分について説明したが、本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、硬化剤組成物や熱硬化性樹脂組成物における従来公知の種々の添加剤をさらに含んでももちろんよい。
【0036】
本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物における各成分の配合量について特に制限はないが、フェノール性水酸基含有アミン化合物の配合量は、アミン硬化剤100質量%に対して、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~28質量%である。また、レゾルシノールの配合量は、アミン硬化剤100質量%に対して、好ましくは15~40質量%であり、より好ましくは18~30質量%である。
【0037】
本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、主剤である熱硬化性樹脂に配合されて熱硬化性樹脂組成物を構成し、熱処理によって当該熱硬化性樹脂を硬化させる用途に用いられる。
【0038】
ここで、硬化の対象とされる熱硬化性樹脂について特に制限はなく、従来公知の熱硬化性樹脂が本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物による硬化の対象とされうる。熱硬化性樹脂の一例としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられるが、常温での安定性と加熱等による硬化性などの観点からは、特にエポキシ樹脂が好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂としては、従来の熱硬化性樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物として通常配合されているものであれば、特に制限されることなく用いることができる。そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、分子構造中にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、リン原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビフェニル型エポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。アルコール型エポキシ樹脂としては、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。分子構造中にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ジグリシジルオキシナフタレン、1,1-ビス(2,7-ジグリシジルオキシ-1-ナフチル)アルカン等が挙げられる。
【0041】
上記したエポキシ樹脂のなかでも、特に得られる硬化物の耐熱性の点から、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂が好ましく、また、強化繊維への含浸性と作業性の点からビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、速硬化性と得られる硬化物の耐熱性の点から、エポキシ当量が165~200g/eqの範囲であり、25℃での粘度が4,000~30,000mPa・sの範囲であるビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。なお、本発明において、エポキシ当量は、JIS K 7236(2009)に準拠して測定される値であり、粘度は、東機産業株式会社製「TV-22」にて測定されるものである。
【0042】
また、本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、熱硬化性樹脂に配合されて熱硬化性樹脂組成物を構成して当該熱硬化性樹脂を硬化させる際の配合量にも特徴がある。すなわち、本形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物は、当該組成物に含まれるレゾルシノールの質量割合が、熱硬化性樹脂100質量部に対して3~10質量部となる量、好ましくは3~5質量部となる量で熱硬化性樹脂と配合されて用いられるものである。熱硬化性樹脂100質量部に対するレゾルシノールの配合量が3質量部未満であると、十分な速硬化性が得られず、短時間の熱処理では硬化率の高い硬化物を得ることができない虞がある。一方、熱硬化性樹脂100質量部に対するレゾルシノール(融点110℃)の配合量が10質量部超であると、得られる熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる結果、短時間でゲル化してしまい十分な流動性が得られない虞がある。
【0043】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の他の形態によれば、熱硬化性樹脂と、上述した本発明の一形態に係る熱硬化性樹脂用硬化剤組成物とを含む熱硬化性樹脂組成物もまた、提供される。ここで、熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂の具体的な構成や好ましい実施形態については上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
ここで、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、120℃におけるゲルタイムが25~70秒の範囲であることが好ましい。120℃におけるゲルタイムが25秒以上であれば、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、強化繊維への含浸性に優れる。一方、ゲルタイムが70秒以下であれば、速硬化性に優れる。なお、ゲルタイムとは、上記組成物が流動性を失い、粘性が急激に増加するまでの時間のことであり、後述する実施例の欄に記載の測定方法によって測定される。
【0045】
さらに、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物については、得られる硬化物におけるガラス転移温度が100~200℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば、得られる硬化物はより優れた耐熱性を発現できる。一方、ガラス転移温度が200℃以下であれば、得られる硬化物はより優れた機械強度を発現できる。
【0046】
さらに、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、得られる硬化物において、さらに高い耐熱性を発現できるといった観点から、熱硬化性樹脂とアミン硬化剤との合計質量を100質量部としたとき、フェノール性水酸基含有アミン化合物を0.5~10質量部の割合で含むことが好ましく、0.5~5質量部の割合で含むことがより好ましい。
【0047】
さらに、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物を無機繊維(強化繊維)等の無機強化材に含浸させて無機強化複合成形材料を製造する場合、当該熱硬化性樹脂組成物は、100~150℃における最低粘度が、0.1~1000mPa・sであることが好ましい。なお、100~150℃における最低粘度とは、熱硬化性樹脂組成物を加熱した場合に100℃から150℃までの温度範囲内における粘度(昇温粘度)の最低値を意味する。昇温粘度は、例えば、レオメトリック社製DSR-200または同等の性能を有する装置を用いて、周波数1Hz、パラレルプレート(25mmφ、ギャップ0.5mm)で測定することができる。
【0048】
ここで、熱硬化性樹脂組成物の100~150℃における最低粘度が0.1mPa・s以上であれば、無機強化複合成形材料を金型などの型に入れて無機強化複合材料の成形品を製造する場合に、無機強化複合成形材料から熱硬化性樹脂組成物が過剰に流動するのを抑制できる。また、100~150℃における最低粘度が1000mPa・s以下であれば、無機強化複合成形材料の成形品を製造する場合に熱硬化性樹脂組成物が十分に流動し、成形品からガスが抜け難くなったり、成形品に未充填部分が残ったりするのを防止することができる。
【0049】
なお、上記粘度は、昇温粘度の場合と同様に、例えば、レオメトリック社製DSR-200または同等の性能を有する装置を用いて、周波数1Hz、パラレルプレート(25mmφ、ギャップ0.5mm)で測定することができる。エポキシ樹脂組成物の100℃~150℃における最低粘度は、熱硬化性樹脂組成物を構成する各成分の種類や配合量により調節することができる。
【0050】
さらに、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤、アミン硬化剤以外の硬化剤、熱硬化性樹脂以外の樹脂、難燃剤、充填材、添加剤、有機溶剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。熱硬化性樹脂組成物を製造する際の配合順序は、本発明の効果が達成できる方法であれば特に限定されない。すなわち、すべての成分を予め混合して用いてもよいし、適宜順番に混合して用いてもよい。また、配合方法は、例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。以下、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物に配合可能な各種部材についての一例を説明する。
・硬化促進剤
硬化促進剤としては、フェノール性水酸基を含有しない第3級アミン等が挙げられる。そのような硬化促進剤としては、例えば、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体やイミダゾール誘導体、リン系化合物、第3級アミン、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。上記のような硬化促進剤を用いると、本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、通常の硬化温度よりも低い温度で硬化するようになる。また、硬化促進剤としてトリフェニルフォスフィン、2-エチル4-メチルイミダゾールを用いた場合は、硬化性、耐熱性、電気特性、耐湿信頼性等に優れるようになる。なお、硬化促進剤の使用量は、熱硬化性樹脂組成物中0.01~1質量%となる範囲であることが好ましい。
・アミン硬化剤以外の硬化剤
アミン硬化剤以外の硬化剤としては、酸無水物系化合物等が挙げられる。酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
・熱硬化性樹脂以外の樹脂
熱硬化性樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂などが挙げられる。
・難燃剤
難燃剤としては、特に限定されないが、難燃性を発揮させるために、実質的にハロゲン原子を含有しない非ハロゲン系難燃剤を含有することが好ましい。
【0051】
上記非ハロゲン系難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられ、それらの使用に際しても何等制限されるものではなく、単独で使用しても、同一系の難燃剤を複数用いてもよく、また、異なる系の難燃剤を組み合わせて用いることも可能である。
・充填材
充填材としては、例えば、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、硼酸マグネシウム、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミニウムや、非繊維状補強剤等が挙げられる。また、これらは、有機物や無機物等で被覆されていてもよい。
・添加剤
添加剤としては、例えば可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、応力緩和剤、離型剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、染料、増感材、着色用顔料、ゴム質重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防カビ剤、防汚剤、導電性高分子等が挙げられる。
・有機溶剤
有機溶剤としては、メチルエチルケトンアセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0052】
本形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、優れた流動性および速硬化性を有しながら、得られる硬化物において優れた機械強度を発現させることができる。したがって、無機強化材と配合されて無機強化複合樹脂組成物を構成することができる。このような無機強化複合樹脂組成物は、熱処理によって樹脂成分が硬化することで無機強化樹脂成形品となる。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る熱硬化性樹脂組成物と、無機強化材とを含む無機強化複合樹脂組成物もまた、提供される。また、本発明のさらに他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る無機強化複合樹脂組成物の硬化物からなる無機強化樹脂成形品(例えば、ボンネットフードやリアスポイラー、プロペラシャフト、ルーフパネル、トランクリッド、サイドシル、フロントピラー、センターピラー、クォーターピラー、ルーフレール、センターフロア、フロントフロア、リアフロア、アッパーバックパネル、リアパーシェル、ホイールハウス、リアシートバック、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、バッテリーケース、インバータケース、などの自動車部品や、これらの一部が統合した部品)もまた、提供される。
【0053】
上述した熱硬化性樹脂組成物の優れた特性を反映する形で、得られた無機強化樹脂成形品は優れた機械強度を示す。また、上述した熱硬化性樹脂組成物は優れた流動性を示すことから、無機強化樹脂成形品の製造時には金型内を速やかに流動するため大型の成形品の製造にも好適である。また、上述した熱硬化性樹脂組成物は優れた速硬化性を示すことから、無機強化樹脂成形品の大量製造にも好適である。以下、無機強化複合樹脂組成物を用いた無機強化樹脂成形品について、説明する。
【0054】
上述したように、無機強化樹脂成形品とは、無機強化複合樹脂組成物の硬化物からなるものであり、正確には無機強化材と熱硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む成形品である。
【0055】
ここで、無機強化材は、強度や剛性および耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものであり、具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニア繊維等の繊維状の無機繊維、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドファイバー等が挙げられる。またこれらのほか、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、層間剥離を目的として有機処理を施した層状ケイ酸塩等の充填材も無機強化材として用いることができる。これらの中でも特に、機械強度の観点からは炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維が好ましく用いられ、さらに軽量であるという点で炭素繊維が特に好ましく用いられる。これら無機強化材は、1種のみであってもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
【0056】
本発明の一形態に係る熱硬化性樹脂組成物から無機強化複合樹脂成形品を得る方法としては、無機強化材にワニス化した熱硬化性樹脂組成物を含浸させた中間材料を製造し、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化する(例えば、大型のオートクレーブで焼き固める)方法などが挙げられる。中間材料としては、1)金型に無機強化材を敷き、熱硬化性樹脂組成物をワニス化したものを多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法、2)オス型・メス型のいずれかを使用し、無機強化材からなる基材をワニス化した熱硬化性樹脂組成物を含浸させながら積み重ね、圧力を作用させることのできるフレキシブルな型を上記で得られた無機強化材にかぶせ、気密シールしたものを真空(減圧)成型する真空バッグ法、3)あらかじめ無機強化材を含有するワニスをシート状にしたものを金型で圧縮成型するSMCプレス法、4)無機強化材を敷き詰めた合わせ型にワニス化した熱硬化性樹脂組成物を注入するRTM法などによって製造することができる。
【0057】
無機強化樹脂成形品を製造するときの温度としては、通常80~220℃の温度範囲で調整される。より好ましくは、50~250℃の温度範囲であり、特に、50~100℃で予備硬化させ、タックフリー状の硬化物にした後、さらに120~200℃の温度条件で処理することが好ましい。かかる温度が50℃以上であれば、十分な速硬化性が得ることができる。また、かかる温度が250℃以下であれば、得られる無機強化樹脂成形品において、熱歪みによる反りが発生するのを抑制することができる。
【0058】
無機強化樹脂成形品を製造する際の圧力としては、無機強化複合樹脂組成物の厚みや体積含有率などにより異なるが、通常98~980kPaの圧力範囲で調整されることが好ましい。上記の圧力が98kPa以上であれば、無機強化複合樹脂組成物の内部まで十分に熱が伝わり、未硬化となる箇所がほとんどなくなる。このため、得られる無機強化樹脂成形品において反りが発生したりするのを抑制することができる。一方、上記の圧力が980kPa以下であれば、無機強化樹脂成形品を製造する際、硬化する前に樹脂が金型内に流れ出してしまうことを抑制できる。このため、得られる無機強化樹脂成形品において、未含浸部分が発生したり、目的とする体積含有率が得られなかったりするのを抑制することができる。
【0059】
なお、このようにして得られる無機強化樹脂成形品における無機強化材の体積含有率は、好ましくは30~85%の範囲であり、より好ましくは50~70%の範囲である。無機強化材の体積含有率がこのような範囲内の値であれば、成形品が優れた機械強度を示すため好ましい。
【0060】
以上、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物の用途として、無機強化樹脂成型品について詳細に説明したが、その他の用途、例えば、繊維強化複合材料に用いられうる。ここで、繊維強化複合材料とは、半硬化の熱硬化性樹脂組成物が強化繊維に含浸したシート状の中間素材(プリプレグ)のことである。また、さらに他の硬化物の製造にも用いられうる。例えば、所定の形状(板状、棒状、球状、シート状、フィルム状、中空状、ガス微分散状、発泡体、繊維状、ペレット状等)を有する成形品の製造に用いられてもよい。そのような成形品を得る方法としては、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、プレス成形、押出成形、発泡成形、フィルム成形に加え、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法を用いてもよい。これらの方法は、それぞれの用途に応じて、好ましい方法を適宜選択するとよい。また、加熱温度条件についても、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0062】
[製造原料の準備]
熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の製造原料として、以下のものを準備した。
【0063】
・トリメチルヘキサメチレンジアミン(第1級アミンまたは第2級アミンを分子中に有するアミン硬化剤)
・α-(ジメチルアミノ)クレゾール(フェノール性水酸基および第3級アミンを分子中に有するフェノール性水酸基含有アミン化合物)
・レゾルシノール。
【0064】
[熱硬化性樹脂用硬化剤組成物の製造]
上記で準備した製造原料を、下記の表1に示す配合で混合することにより、実施例1~3および比較例1~3の熱硬化性樹脂用硬化剤組成物を製造した。
【0065】
[熱硬化性樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)の製造]
上記で製造した熱硬化性樹脂用硬化剤組成物に、主剤としてのエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エポキシ当量184g/eq、粘度(25℃)10,100mPa・s)を80℃に加温したものを下記の表1に示す配合で添加し、混合することにより、実施例1~3および比較例1~3の熱硬化性樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)を製造した。なお、本実施例および比較例において、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量の値としては、JIS K 7236(2009)に準拠して測定される値を採用した。また、粘度の値としては、東機産業株式会社製「TV-22」にて測定される値を採用した。
【0066】
[熱硬化性樹脂組成物の評価]
(流動性の評価(ゲルタイムの測定))
上記で製造したそれぞれの熱硬化性樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)の製造直後に、得られたエポキシ樹脂組成物を120℃のホットプレート上に1cm3流し入れ、攪拌棒でかき混ぜながら、エポキシ樹脂組成物の流動性がなくなるまでの時間を測定した。結果を下記の表1に示す。なお、表1に示す結果については、ゲルタイムが25秒未満のときを「×」とし、25秒以上のときを「〇」とした。
【0067】
(速硬化性の評価(硬化度の測定))
上記で製造したそれぞれの熱硬化性樹脂組成物(エポキシ樹脂組成物)についてDSC測定(昇温速度:10℃/分)を実施して発熱量を測定した。一方、同じ組成物を120℃にて35秒間加熱することにより硬化させて硬化物を得て、得られた硬化物に対しても同じ条件でDSC測定を実施して発熱量を測定した。そして、硬化の前後における発熱量の値から、下記式に従って硬化度を算出した。
【0068】
硬化度[%]={(硬化前発熱量[J/g])-(硬化後発熱量[J/g])}/(硬化前発熱量[J/g]×100
結果を下記の表1に示す。なお、表1に示す結果については、硬化度が98%未満のときを「×」とし、98%以上のときを「〇」とした。
【0069】
(CFRP平板の製造並びに機械強度の評価(引張強度および引張弾性率の測定))
上記で製造したそれぞれの熱硬化性樹脂用硬化剤組成物と、熱硬化性樹脂の主剤としてのエポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エポキシ当量184g/eq、粘度(25℃)10,100mPa・s)と、炭素繊維(TK Industries社製、NCF(TKI300B127T)、目付量300g/m2)とを用いて、HP-RTM(高圧レジントランスファーモールディング)によりCFRP平板を製造した。なお、製造装置としては、川崎油工株式会社製800tonプレス機およびポリマーエンジニアリング株式会社製高圧シリンダ注入機を用いた。
【0070】
具体的には、上述した炭素繊維を6PLY(6枚)、500×500×2mmtにカットし積層して金型上に設置した。積層レイアウトは上から、0,90/+45,-45/0,90/+45,-45/0,90/+45,-45とした。次いで、金型温度120℃、タンク内硬化剤温度30℃、タンク内主剤(エポキシ樹脂)温度90℃、注入速度は30cc/秒、型締め圧450tonの条件でHP-RTM成形を行った。また、炭素繊維の配合量は、CFRP平板100体積部に対して50体積部となるように調整した。
【0071】
このようにして得られたCFRP平板から、NC加工により引張試験片を切り出し、JIS K 7164「プラスチック-引張特性の試験方法-第4部:等方性及び直交異方性繊維強化プラスチックの試験条件」に準拠して引張強度を測定した。なお、試験片はJIS K 7165に記載のB形とし、外形250×25mm、試験片の両面の両端50mmずつにガラスタグを貼り付けた。強度試験機INSTRON 8501、ロガーKEYENCE NR-500シリーズ HA08アナログロガー、測定器KEYENCE TM-3000シリーズTM065 光学寸法測定器を用い、試験速度1mm/分で試験を行った。そして、試験片5本の平均値を引張強度の測定値とした。結果を下記の表1に示す。
【0072】
また、上述した引張強度の測定と同じ条件で測定して得られた応力ひずみ曲線における1~3%変位の傾きの平均値から引張弾性率を求めた。ここでも、試験片5本の平均値を引張弾性率の測定値とした。結果を下記の表1に示す。
【0073】
なお、比較例1および比較例2については、エポキシ樹脂組成物が硬化しなかったため、機械強度の測定については行わなかった。
【0074】
【0075】
表1に示す結果からわかるように、レゾルシノールの配合量がエポキシ樹脂100質量部に対して3質量部未満である比較例1および比較例2においては、35秒間の加熱処理では十分な硬化性が達成できず、機械強度を測定可能な試験片が得られなかった。
【0076】
また、レゾルシノール(融点110℃)の配合量がエポキシ樹脂100質量部に対して10質量部超である比較例3においては、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる結果、短時間でゲル化してしまい十分な流動性が得られなかったこともわかる。
【0077】
これに対し、レゾルシノールの配合量がエポキシ樹脂100質量部に対して3~10質量部である実施例1~3によれば、得られた試験片の機械強度を十分なレベルに維持しつつ、優れた流動性と速硬化性とを両立することができた。