(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】防水部品およびそれを備えた電子機器、インサート成形体の防水方法ならびに電子機器の防水方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20230126BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20230126BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20230126BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20230126BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20230126BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C70/12
B29C70/42
B29C70/68
B29K101:12
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2019550320
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039883
(87)【国際公開番号】W WO2019087961
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017208765
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅井 直人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠規
(72)【発明者】
【氏名】重松 宇治
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-286544(JP,A)
【文献】特開2015-209521(JP,A)
【文献】国際公開第2016/038945(WO,A1)
【文献】特開2014-229469(JP,A)
【文献】特開2014-141630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
C08L 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である
スイッチ用防水部品であって、
該熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である、
スイッチ用防水部品。
【請求項2】
前記インサート成形体の外形寸法が、幅15mm以下、奥行き50mm以下、厚み50mm以下であり、前記外形寸法の前記奥行きは、前記幅よりも長い、請求項1に記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)の融点またはガラス転移温度が130℃以上である、請求項1または2に記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)の融点が280℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A)が、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドおよびポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(A)が、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるポリアミドである、請求項5に記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項7】
無機繊維状強化材(B)が、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカーおよびミルドファイバーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~6のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項8】
無機繊維状強化材(B)がワラストナイトである、請求項7に記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項9】
表面実装工程に適用される用途に使用される、請求項1~8のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品。
【請求項10】
請求項
1~9のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品を備えた電子機器。
【請求項11】
携帯電子機器である、請求項
10に記載の電子機器。
【請求項12】
熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなる
スイッチ用インサート成形体の防水方法。
【請求項13】
前記インサート成形体の外形寸法が、幅15mm以下、奥行き50mm以下、厚み50mm以下であり、前記外形寸法の前記奥行きは、前記幅よりも長い、請求項12に記載の
スイッチ用インサート成形体の防水方法。
【請求項14】
熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物の、
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなる
スイッチ用インサート成形体の防水のための使用。
【請求項15】
前記インサート成形体の外形寸法が、幅15mm以下、奥行き50mm以下、厚み50mm以下であり、前記外形寸法の前記奥行きは、前記幅よりも長い、請求項14に記載の
スイッチ用インサート成形体の防水のための使用。
【請求項16】
請求項1~9のいずれかに記載の
スイッチ用防水部品を
用いる、電子機器の防水方法。
【請求項17】
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する、
スイッチ用防水部品の製造方法。
【請求項18】
前記インサート成形により得られるインサート成形体の外形寸法が、幅15mm以下、奥行き50mm以下、厚み50mm以下であり、前記外形寸法の前記奥行きは、前記幅よりも長い、請求項
17に記載の
スイッチ用防水部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水部品およびそれを備えた電子機器、インサート成形体の防水方法ならびに電子機器の防水方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の電子機器には防水性が求められることが多くなっている。このような電子機器の外部接続端子は典型的には樹脂や樹脂組成物と金属部品の複合体であり、金属部品が外部に露出していることが多く、樹脂や樹脂組成物と金属との接合面における防水が課題となる。従来、このような外部接続端子における防水方法としては、弾性体等のシール材を用いる方法が知られている(特許文献1等)。しかしながら、弾性体を取り付けるため一工程で部品を完成できない点、小型化が困難である点、弾性体自身やその取り付け工程にコストが発生する点などの問題点があった。
そこで、金型にインサートされた金属部品に対して樹脂や樹脂組成物を射出成形し、一体に接合するインサート成形による防水部品の製造方法が提案されている(特許文献2、3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-33155号公報
【文献】特開2012-59381号公報
【文献】特開2016-81737号公報
【文献】特開2014-141630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に金属部品と樹脂または樹脂組成物の膨張収縮特性は大きく異なるため、特にガラス繊維を含有する樹脂組成物を使用したインサート成形体においては、インサート成形工程、リフロー工程およびその後の冷却工程において、膨張収縮特性の差に応じた応力が発生し、金属部品と樹脂または樹脂組成物との間に微小な隙間が生じやすく、防水性に課題が残されている。
【0005】
すなわち本発明の課題は、リフロー工程等の加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品およびそれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品において、用いる熱可塑性樹脂に特定の無機繊維状強化材を特定量添加することにより、防水性が向上することを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】
本発明は、下記[1]~[17]に関する。
[1]熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体である防水部品であって、
該熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である、防水部品。
[2]熱可塑性樹脂(A)の融点またはガラス転移温度が130℃以上である、[1]に記載の防水部品。
[3]熱可塑性樹脂(A)の融点が280℃以上である、[1]または[2]に記載の防水部品。
[4]熱可塑性樹脂(A)が、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィドおよびポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の防水部品。
[5]熱可塑性樹脂(A)が、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるポリアミドである、[4]に記載の防水部品。
[6]無機繊維状強化材(B)が、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカーおよびミルドファイバーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の防水部品。
[7]無機繊維状強化材(B)がワラストナイトである、[6]に記載の防水部品。
[8]表面実装工程に適用される用途に使用される、[1]~[7]のいずれかに記載の防水部品。
[9]外部接続端子である、[1]~[8]のいずれかに記載の防水部品。
[10]スイッチである、[1]~[8]のいずれかに記載の防水部品。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の防水部品を備えた電子機器。
[12]携帯電子機器である、[11]に記載の電子機器。
[13]熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物を用いる、
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の防水方法。
[14]
熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、
無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である熱可塑性樹脂組成物の、
熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の防水のための使用。
[15][1]~[8]のいずれかに記載の防水部品を外部接続端子として用いる、電子機器の防水方法。
[16][1]~[8]のいずれかに記載の防水部品をスイッチとして用いる、電子機器の防水方法。
[17]熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する、防水部品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、リフロー工程などの加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品およびそれを備えた電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例のレッドインクテストにて用いた成形品の写真である。成形品の外形寸法は、幅2.8mm、奥行き3.0mm、厚み1.3mmである。
【
図2】実施例のレッドインクテストにおいて「漏れる」と判定される場合を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の防水部品は、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体であって、該熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)を含み、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、無機繊維状強化材(B)の含有量が8~130質量部であり、無機繊維状強化材(B)の平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である。
前記熱可塑性樹脂組成物を用いることで、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の(熱可塑性樹脂組成物と金属との接合面における)防水性が向上し、防水部品の防水性が十分となる。
この理由は必ずしも定かではないが、前記熱可塑性樹脂組成物を用いることで、インサート成形工程や加熱工程後に残留する樹脂組成物の応力を緩和し、熱可塑性樹脂組成物と金属との接合面における隙間の発生を防ぐことができるためと考えられる。
【0011】
(熱可塑性樹脂(A))
本発明で用いる熱可塑性樹脂(A)としては、上記効果を付与できるものであれば特に制限はなく、例えばポリカーボネート;ポリフェニレンオキサイド;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリアリレート;環状ポリオレフィン;ポリエーテルイミド;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリイミド;芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルアミド等の液晶ポリマー;ポリアミノビスマレイミド;ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。
中でも、寸法安定性および耐熱性の観点から、液晶ポリマー、ポリカーボネート、PPSおよびポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、PPSおよびポリアミドがより好ましく、ポリアミドがさらに好ましい。
【0012】
また、熱可塑性樹脂(A)は、防水性、耐熱性および成形性の観点から、融点またはガラス転移温度が130℃以上であることが好ましい。
なお本発明において、「融点またはガラス転移温度が130℃以上である」とは、融点およびガラス転移温度の少なくともいずれかが130℃以上であることを意味する。熱可塑性樹脂(A)の融点またはガラス転移温度は、耐熱性および成形性の観点から、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、成形時における樹脂の熱分解を防ぐ観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは320℃以下である。本発明における融点およびガラス転移温度は実施例に記載された方法で測定されたものである。
【0013】
熱可塑性樹脂(A)の融点は、280℃以上が好ましく、285℃以上がより好ましく、295℃以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点が前記温度以上であれば、当該熱可塑性樹脂(A)を含む防水部品を、リフロー工程等の加熱工程に晒される用途に使用しても、十分な防水性を維持することができる。
【0014】
(ポリアミド)
前記ポリアミドとしては、ジカルボン酸単位とジアミン単位を有するものが好ましい。
ジカルボン酸単位としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などに由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
また、前記ポリアミドは、本発明の効果を損なわない範囲内において、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸に由来する構成単位を溶融成形が可能な範囲で含むこともできる。
【0015】
前記ポリアミドとしては、ジアミン単位の50~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものが好ましく、ジアミン単位の60~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものがより好ましく、ジアミン単位の90~100モル%が炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位であるものがより好ましい。
【0016】
炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位としては、例えば1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,4-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;1,1-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1-エチル-1,4-ブタンジアミン、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,4-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,3-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,3-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,4-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2,5-ジメチル-1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、1,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,5-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,2-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミンなどに由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
中でも1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、および1,12-ドデカンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構成単位であることが好ましく、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミンからなる群より選択される少なくとも1種に由来する構成単位であることがより好ましい。
【0017】
ジアミン単位が1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位を共に含む場合には、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位のモル比は、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位=95/5~40/60の範囲にあることが好ましく、90/10~50/50の範囲にあることがより好ましい。
また用途によっては、1,9-ノナンジアミンに由来する構成単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する構成単位=55/45~45/55の範囲にあることが好ましい場合もある。
【0018】
前記ポリアミドにおけるジアミン単位は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素数4~18の脂肪族ジアミン単位以外のジアミン単位を含むことができる。そのようなジアミン単位としては、例えばエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどに由来する構成単位が挙げられる。これらの単位は1種または2種以上であってもよい。
【0019】
前記ポリアミドはアミノカルボン酸単位を含んでもよい。アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができる。前記ポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有量は、前記ポリアミドのジカルボン酸単位とジアミン単位の合計100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0020】
前記ポリアミドは末端封止剤由来の単位を含んでもよい。末端封止剤由来の単位は、ジアミン単位に対して1.0~10モル%であることが好ましく、2.0~7.5モル%であることがより好ましく、2.5~6.5モル%であることがさらに好ましい。
末端封止剤由来の単位を上記所望の範囲とするには、重合原料仕込み時にジアミンに対して末端封止剤を上記所望の範囲となるよう仕込むことで行うことができる。なお、重合時にモノマー成分が揮発することを考慮して、得られる樹脂に所望量の末端封止剤由来の単位が導入されるよう、重合原料仕込み時の末端封止剤の仕込み量を微調整することが望ましい。
前記ポリアミド中の末端封止剤由来の単位の含有量を求める方法としては、例えば、特開平07-228690号公報に示されているように、溶液粘度を測定し、これと数平均分子量の関係式から全末端基量を算出し、ここから滴定によって求めたアミノ基量とカルボキシル基量を減じる方法や、1H-NMRを用い、ジアミン単位と末端封止剤由来の単位のそれぞれに対応するシグナルの積分値に基づいて求める方法などが挙げられる。
【0021】
末端封止剤としては、末端アミノ基もしくは末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミンなどが挙げられる。反応性および封止末端の安定性などの観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。また、取り扱いの容易さなどの観点から末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0022】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、および安息香酸からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0023】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性および価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、およびアニリンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0024】
前記ポリアミドは、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、および溶融押出重合法などの方法により製造することができる。
【0025】
前記ポリアミドは、例えば、最初にジアミン、ジカルボン酸、および必要に応じて触媒や末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200~250℃の温度において加熱重合してプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合することにより製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流動下に行うのが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合の重合温度としては、370℃以下であるのが好ましく、かかる条件で重合すると、分解がほとんどなく、劣化の少ないポリアミドが得られる。
【0026】
前記ポリアミドを製造する際に使用することができる触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルなどが挙げられる。上記の塩またはエステルとしては、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを挙げることができる。
【0027】
また前記ポリアミドは、結晶性ポリアミド、非晶性ポリアミド、それらの混合物のいずれであってもよい。
【0028】
前記結晶性ポリアミドとしては、例えばポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMDT)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリアミド6Iとポリアミド6Tとの共重合体(ポリアミド6I/6T)、およびポリアミド6Tとポリウンデカンアミド(ポリアミド11)との共重合体(ポリアミド6T/11)およびこれらの共重合物や混合物などが挙げられる。なお前記結晶性ポリアミドには、テレフタル酸および/またはイソフタル酸のベンゼン環が、アルキル基やハロゲン原子で置換されたものも含まれる。
前記結晶性ポリアミドの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10Tが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、およびポリアミド10Tがより好ましく、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、およびポリアミド10Tがさらに好ましい。前記結晶性ポリアミドは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0029】
前記非晶性ポリアミドとしては、例えばテレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体などが挙げられる。なお前記非晶性ポリアミドには、テレフタル酸および/またはイソフタル酸のベンゼン環が、アルキル基やハロゲン原子で置換されたものも含まれる。
前記非晶性ポリアミドの中でも、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン/2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体が好ましく、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミンの重縮合体、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体がより好ましい。前記非晶性ポリアミドは、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0030】
(無機繊維状強化材(B))
本発明で用いる無機繊維状強化材(B)としては、例えばワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、およびカットファイバーなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
前記無機繊維状強化材(B)の中でも、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカーおよびミルドファイバーからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ワラストナイトまたはミルドファイバーがより好ましく、ワラストナイトがさらに好ましい。
【0031】
本発明で用いる無機繊維状強化材(B)は、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である。なお、前記平均繊維径および平均繊維長は、溶融混練前のものである。
中でも防水性の観点から、平均繊維径は9μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、7μm以下がさらに好ましい。また強度の観点から、平均繊維径は2μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましい。
また同じく防水性の観点から、平均繊維長は250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。また強度の観点から、平均繊維長は20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。
【0032】
なお、本明細書中における「平均繊維径」とは累積質量50%における繊維径であり、
無機繊維状強化材(B)を0.2%メタリン酸ナトリウム水溶液に分散させ、粒子径分布測定装置(Micromeritics Instrument Corp.製「SediGraph III 5120」等)を用いてX線透過式重力沈降法により測定可能である。
【0033】
また、本明細書中における「平均繊維長」は、電子顕微鏡法を用いた画像解析により任意に選択した400本の無機繊維状強化材(B)の繊維長を測定し、重量平均値により求めることができる。
【0034】
無機繊維状強化材(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して8~130質量部であり、40~130質量部が好ましく、45~110質量部がより好ましい。なお、無機繊維状強化材(B)の含有量が、8質量部以上であることで、無機繊維状強化材(B)の十分な補強効果が得られ、さらに防水効果も得られる。また、130質量部以下であることで、溶融混練性が良好となる。
【0035】
(その他の成分)
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、光安定剤、エラストマー、滑材、核剤、結晶化遅延材、加水分解防止剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、前記無機繊維状強化材(B)以外の無機物等、熱可塑性樹脂(A)および無機繊維状強化材(B)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。前記無機物としては、例えばカーボンナノチューブ、フラーレン、タルク、ワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アルミナシリケート、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物における他の成分の含有量は、例えば、50質量%以下とすることができ、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
また、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)と無機繊維状強化材(B)の合計含有量は、例えば、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0036】
(金属部品)
本発明で用いる金属部品を構成する金属としては、インサート成形可能なものであれば特に制限されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄、スズ、ニッケル、亜鉛、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の合金などが挙げられる。これらは表面がアルミニウム、スズ、ニッケル、金、銀等でメッキ加工されていてもよい。
【0037】
(防水部品)
本発明の防水部品は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対し、平均繊維径が10μm以下かつ平均繊維長が300μm以下である無機繊維状強化材(B)の使用量を8~130質量部として溶融混練して得られる熱可塑性樹脂組成物と、金属部品とをインサート成形する方法などにより製造可能である。
インサート成形に際しては、インサート成形法として知られている任意の方法、例えば射出インサート成形法や圧縮インサート成形法などを用いることができる。
なお、必要に応じ、インサート成形後に超音波溶着法、レーザー溶着法、振動溶着法、熱溶着法、ホットメルト法等による加工がさらに行われてもよい。
【0038】
プリント基板に電子部品を搭載する部品実装において、溶融はんだ槽(ディップ槽)への浸漬によりはんだ付けを行う挿入実装工程が従来適用されてきた。一方、近年利用が拡大している表面実装では、プリント基板にはんだペーストを印刷し、その上に電子部品を実装後、リフロー炉で一般に260℃程度で加熱することによりはんだを溶融させプリント基板と電子部品を接合する。表面実装はプリント基板の小型化や生産性向上を達成できるが、実装された部品はリフロー工程およびその後の冷却工程において、金属部品と樹脂または樹脂組成物との膨張収縮特性の差に応じた応力が発生し、金属部品と樹脂または樹脂組成物との間に微小な隙間が生じやすく、防水性を維持することが困難である。本発明の防水部品は、リフロー工程などの加熱工程を経ても、変形しにくいことから、このようなリフロー工程が採用される表面実装工程に適用される用途に使用されることが好ましい。なお、必要に応じ、リフロー工程などの加熱工程を複数回適用してもよい。
【0039】
本発明の防水部品は防水性に優れているので、FPCコネクタ、BtoBコネクタ、カードコネクタ、SMTコネクタ(同軸コネクタ等)、メモリーカードコネクタ等の外部接続端子;SMTリレー;SMTボビン;メモリーソケット、CPUソケット等のソケット;コマンドスイッチ、SMTスイッチ等のスイッチ;回転センサー、加速度センサー等のセンサーなどとして有用であり、中でも電子機器のスイッチまたは外部接続端子として有用であり、スイッチとして特に有用である。
本発明の防水部品をスイッチとして用いる場合、熱可塑性樹脂組成物および金属部品からなるインサート成形体の外形寸法を幅×奥行き×厚みとした場合、幅は15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、奥行きは50mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、厚みは50mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。なお、外形寸法の奥行きは、幅よりも長いものとする。
本発明の防水部品を、特にスイッチまたは外部接続端子として用いることにより、電子機器を効果的に防水することができる。
本発明の防水部品を備えた電子機器としては、例えばデジタルカメラやスマートフォン等の携帯電子機器などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
なお、実施例および比較例で用いる熱可塑性樹脂(A)の融点およびガラス転移温度の測定は、以下に示す方法に従って行った。
【0041】
(熱可塑性樹脂(A)の融点およびガラス転移温度)
熱可塑性樹脂(A)として用いたポリアミド(後述するPA9TおよびPA46)の融点は、メトラー・トレド(株)製の示差走査熱量分析装置(DSC822)を使用して、窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とすることで求めた。なお、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点とした。
その後、融点より30℃高い温度で10分保持して試料を完全に融解させた後、10℃/minの速度で40℃まで冷却し40℃で10分保持した。再び10℃/minの速度で融点より30℃高い温度まで昇温した時にDSC曲線が階段状に変化する中間点をガラス転移温度とした。
【0042】
実施例1~6および比較例1~3
プラスチック工学研究所製二軸押出機(スクリュー径32mmφ、L/D=30、回転数150rpm、吐出量10kg/h)に、表1に示す熱可塑性樹脂(A)、ならびに酸化防止剤、離型剤および核剤を最上流部のホッパーより供給し、さらに表1に示す無機繊維状強化材(B)をサイドフィーダーより供給して溶融混練した。溶融混練された熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出し、冷却後切断して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。なお表1中の熱可塑性樹脂(A)および無機繊維状強化材(B)の量はいずれも「質量部」を意味する。
それらのペレットを用いて、以下の方法により成形品としての評価を行った。
〔レッドインクテスト(防水性試験)〕
射出成形機TR40EH(ソディック社製)を用いて、銅母材にニッケルめっき処理されたLEDリードフレームに、各実施例または比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を、最高温度340℃、金型温度140℃、射出速度100~200mm/sで箱型(外形寸法:幅2.8mm、奥行き3.0mm、厚み1.3mm)に射出成形した。上記で得られた平板状の成形品に最高到達温度が260℃のリフロー装置により下記のリフロー条件にて加熱処理を2回行ったサンプルを用いて、下記のレッドインクテストを実施した。
リフロー条件:サンプルを25℃から150℃まで60秒かけて昇温し、次いで180℃まで90秒かけて昇温し、さらに260℃まで60秒かけて昇温した。その後260℃にて20秒間保持した後、サンプルを30秒かけて260℃から100℃まで冷却し、100℃に到達した後は空気を封入して23℃まで自然冷却した。
レッドインクテスト:熱可塑性樹脂組成物で形成された型内部に赤インク(ライオン事務器社製 スタンプインキ 赤)を滴下して、5分後にインクが型の裏に漏れているかどうかを確認した。全くインクが漏れていない場合は「漏れない」、漏れていた場合は「漏れる」と判定した。結果を表1に示す。
また、実施例のレッドインクテストにて用いた成形品の写真を
図1に、実施例のレッドインクテストにおいて「漏れる」と判定される場合を示す写真を
図2に示す。
【0043】
【0044】
なお、表1に示す各成分は下記のとおりである。
〔熱可塑性樹脂(A)〕
・PA9T-1:(株)クラレ製、PA9T(ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(モル比85/15)であるポリアミド)、融点305℃、ガラス転移温度125℃
・PA9T-2:(株)クラレ製、PA9T(ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(モル比80/20)であるポリアミド)、融点301℃、ガラス転移温度125℃
・PA46:「Stanyl TW341」、ディー・エス・エム ジャパン(株)製、PA46(主なジカルボン酸単位がアジピン酸単位であり、主なジアミン単位が1,4-ブタンジアミン単位であるポリアミド)、融点295℃、ガラス転移温度75℃
〔無機繊維状強化材(B)〕
・ワラストナイト:「SH1250」、キンセイマテック株式会社製、平均繊維径5.3μm、平均繊維長85μm、アスペクト比=16:1
・ガラス繊維:「CS3J256S」、日東紡績(株)製、平均繊維径11μm、平均繊維長3mm
【0045】
表1に示すとおり、実施例と比較例の対比により、本発明の防水部品はリフロー工程後の防水性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、リフロー工程などの加熱工程を経ても十分な防水性を有する、インサート成形体である防水部品を提供できる。当該防水部品は、特に電子機器の外部接続端子などとして有用である。