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特許7217385ポリアセタール樹脂組成物及び燃料接触体
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  • 特許-ポリアセタール樹脂組成物及び燃料接触体 図1
  • 特許-ポリアセタール樹脂組成物及び燃料接触体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物及び燃料接触体
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20230126BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230126BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230126BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20230126BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20230126BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/04
C08K3/22
C08K5/053
C08K5/103
C08L71/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022517896
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2021043638
(87)【国際公開番号】W WO2022137998
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020213853
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】神田 裕基
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/075107(WO,A1)
【文献】特開2019-218442(JP,A)
【文献】特開2010-144112(JP,A)
【文献】特開2011-132370(JP,A)
【文献】特開2014-122264(JP,A)
【文献】特開2007-084604(JP,A)
【文献】特開2013-028737(JP,A)
【文献】特開2012-140482(JP,A)
【文献】特開2008-189891(JP,A)
【文献】特開2015-209474(JP,A)
【文献】特開2016-020453(JP,A)
【文献】特開2018-172456(JP,A)
【文献】特表2008-527128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0318072(US,A1)
【文献】国際公開第2007/032081(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102675818(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102634162(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103897331(CN,A)
【文献】国際公開第2022/004235(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/004236(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/009616(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂を100質量部と、
(B)酸化防止剤を0.1~1.0質量部と、
(C)酸化マグネシウム及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種を0.3~2.0質量部と、
(D)ポリアルキレングリコールを0.5~3.0質量部と、
(E)エステル化率が80%以上である、多価アルコールの脂肪酸エステルを0.01~1.0質量部と、
(F)炭素系導電添加剤を0.3~2.5質量部と、を含有し、
前記(F)炭素系導電添加剤が、(F1)複数のカーボンナノチューブがそれぞれ分岐結合又は架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合した状態で含む構造体であるカーボンナノストラクチャーのみ、及び前記(F1)カーボンナノストラクチャーと(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックとの組合せから選ばれる一つであり、
前記(F)炭素系導電添加剤が、前記(F1)カーボンナノストラクチャーと(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックとの組合せの場合、前記(F1)カーボンナノストラクチャー、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.3質量部以上含む、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂が、ホルムアルデヒドの環状オリゴマーを主モノマーとし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールから選択される化合物をコモノマーとする共重合体である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)酸化マグネシウムのBET比表面積が100m/g以上である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記(F1)カーボンナノストラクチャーと前記(F2)カーボンブラックとの質量比((F2)/(F1))が以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記(E)多価アルコールの脂肪酸エステルは、炭素原子数が3以上の多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品を備える燃料接触体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物、及びそれを成形してなる燃料接触体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(以下、「POM樹脂」とも呼ぶ。)は耐薬品性に優れることから、POM樹脂を原料とする成形品は自動車部品として広く使用されている。例えば、燃料油と直接接触する燃料ポンプモジュール等に代表される燃料搬送ユニット等の大型部品として用いられる。
【0003】
近年、各国の環境規制に対応するため、燃料の低硫黄化が進められている。しかしながら、脱硫設備には多大な費用がかかることから、一部の国では未だ高硫黄燃料が流通している。これらの高硫黄燃料は、低硫黄燃料に比べてPOM樹脂を劣化させやすい傾向がある。
【0004】
ところで、POM樹脂から製造される射出成形品は、射出成形時の冷却により、成形品内部で残留応力を有している。この射出成形品に高硫黄燃料等が接触すると、残留応力の大きな箇所でクラックが発生し、燃料漏れ等のトラブルの原因となり得る。従って、高硫黄燃料が流通している国々に対しては、高硫黄燃料に対して高い耐性を有する樹脂材料を原料にする必要がある。
【0005】
これらの課題に対して、本出願人は、ポリアセタール樹脂にアルカリ土類金属酸化物、ポリアルキレングリコール、特定のエステルを含有させることにより、大幅に改善できることを報告している(特許文献1参照)。特に高硫黄燃料に接触する燃料搬送ユニット等の部品に対しては、大きな改善が見られた。
【0006】
一方、上記のような燃料ポンプ周辺に用いられる成形品としては、静電気による燃料の引火を防止するため、成形品に導電性を付与し、帯電しないようにすることが求められる。POM樹脂に導電性を付与するための一策として、カーボンブラックや炭素繊維等の導電性フィラーを添加することが知られている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5814419号公報
【文献】特公平07-002891号公報
【文献】特表2004-526596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、POM樹脂組成物において、燃料に対する耐久性を付与するためにアルカリ土類金属酸化物を添加し、さらに帯電防止効果を発現させるためにカーボンブラック等の導電性フィラーを添加すると、靭性が大幅に低下するという問題がある。すなわち、POM樹脂組成物において、帯電防止効果の発現と、酸成分に対する耐久性の発現とを同時に実現しようとすると靭性の著しい低下を招くこととなる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、靭性が大きく低下することなく、高硫黄燃料に対する耐久性と帯電防止効果が付与されたPOM樹脂組成物及び燃料接触体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)(A)ポリアセタール樹脂を100質量部と、
(B)酸化防止剤を0.1~1.0質量部と、
(C)酸化マグネシウム及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種を0.3~2.0質量部と、
(D)ポリアルキレングリコールを0.5~3.0質量部と、
(E)エステル化率が80%以上である、多価アルコールの脂肪酸エステルを0.01~1.0質量部と、
(F)炭素系導電添加剤を0.3~2.5質量部と、を含有し、
前記(F)炭素系導電添加剤が、(F1)カーボンナノストラクチャーのみ、及び(F1)カーボンナノストラクチャーと(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックとの組合せから選ばれる一つである、ポリアセタール樹脂組成物。
【0011】
(2)前記ポリアセタール樹脂が、ホルムアルデヒドの環状オリゴマーを主モノマーとし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールから選択される化合物をコモノマーとする共重合体である、前記(1)に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0012】
(3)前記(C)酸化マグネシウムのBET比表面積が100m/g以上である、前記(1)又は(2)に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0013】
(4)前記(F1)カーボンナノストラクチャーと前記(F2)カーボンブラックとの質量比((F2)/(F1))が10以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0014】
(5)前記(E)多価アルコールの脂肪酸エステルは、炭素原子数が3以上の多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【0015】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物の成形品を備える燃料接触体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、靭性が大きく低下することなく、高硫黄燃料に対する耐久性と帯電防止効果が付与されたPOM樹脂組成物及び燃料接触体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】カーボンナノストラクチャーについて、(A)溶融混練前、(B)溶融混練開始直後、(C)溶融混練後の状態を模式的に示す図である。
図2】実施例において、表面抵抗率及び体積抵抗率の測定に使用した試験片の(A)上面図、(B)裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態のPOM樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂を100質量部と、(B)酸化防止剤を0.1~1.0質量部と、(C)酸化マグネシウム及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種を0.3~2.0質量部と、(D)ポリアルキレングリコールを0.5~3.0質量部と、(E)エステル化率が80%以上である、多価アルコールの脂肪酸エステルを0.01~1.0質量部と、(F)炭素系導電添加剤を0.3~2.5質量部と、を含有する。そして、(F)炭素系導電添加剤が、(F1)カーボンナノストラクチャーのみ、及び(F1)カーボンナノストラクチャーと(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックとの組合せから選ばれる一つであることを特徴としている。
【0019】
本実施形態のPOM樹脂組成物においては、POM樹脂に対して(C)酸化マグネシウム及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種を配合することで高硫黄燃料に対する耐久性を付与することができる。また、(F)炭素系導電添加剤を配合することで、導電性を付与することができ、帯電防止効果を発現させることができる。ここで、従来であれば、帯電防止効果を発現させるためにカーボンブラック等を添加すると、酸化マグネシウム等と相まって靭性の著しい低下を招く。しかし、本実施形態においては、(F)炭素系導電添加剤により導電性を付与しているため、靭性の著しい低下を抑えることができる。そのメカニズムについては後述する。なお、「高硫黄燃料」とは、硫黄成分濃度が0.1質量%以上の燃料をいう。
以下、本実施形態のPOM樹脂組成物の各成分について説明する。
【0020】
[(A)ポリアセタール樹脂(POM樹脂)]
本実施形態で用いられる(A)POM樹脂とは、オキシメチレン基(-CHO-)を主たる構成単位とする高分子化合物をいい、実質的にオキシメチレン基の繰り返し単位のみからなるポリアセタールポリマー、オキシメチレン基以外に他の構成単位を少量含有するポリアセタールコポリマー等が挙げられる。これらは何れも使用可能であるが、耐燃料性の観点から、ポリアセタールコポリマーを基体樹脂とするのが好ましい。
【0021】
(A)成分がポリアセタールコポリマーである場合、ポリアセタールコポリマーとしては、コモノマー成分を0.5~30質量%共重合させてなるポリアセタールコポリマーが好ましく、特に好ましくはコモノマー成分を0.5~10質量%共重合させてなるものである。コモノマー成分を共重合させてなるポリアセタールコポリマーは、耐酸性に優れると共に、優れた熱安定性、機械的強度等を保持できる。また、ポリアセタールコポリマーは、分子が線状構造を有するものだけでなく、分岐構造、架橋構造を有するものであってもよい。
【0022】
このようなポリアセタールコポリマーを製造するにあたり、主モノマーとしては、トリオキサンに代表されるホルムアルデヒドの環状オリゴマーが用いられる。また、コモノマー成分としては、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールから選択される化合物が用いられる。このようなコモノマーとしては、例えばエチレンオキシド、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、プロピレンオキシド等が挙げられる。
【0023】
上記のような(A)POM樹脂、特にポリアセタール共重合体において、その重合度等については特に制約はなく、その使用目的や成形手段に応じた重合度等の調整が可能である。ただし、耐酸性と成形性の両立の観点から、ISO1133に準じて、測定温度190℃、荷重2.16kgにおいて測定されるメルトマスフローレイト(MFR)が1~100g/10分であることが好ましく、特に好ましくは5~30g/10分である。
【0024】
[(B)酸化防止剤]
本実施形態において使用される(B)酸化防止剤としては、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。芳香族アミン系酸化防止剤としては、N-フェニル-1-ナフチルアミン、ビス(4-オクチルフェニル)アミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。中でも、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましい。
【0025】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヘキサメチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチル-フェノール)、ジステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が例示され、中でも、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ヘキサメチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0026】
本実施形態においては、これらの酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種又は二種以上を使用することができる。
【0027】
本実施形態における(B)酸化防止剤の配合量は、(A)POM樹脂100質量部に対し、0.1~1.0質量部であり、0.2~0.8質量部であることがより好ましい。
【0028】
[(C)酸化マグネシウム、酸化亜鉛]
本実施形態のPOM樹脂組成物には、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種(以下、「(C)成分」とも呼ぶ。)が配合される。本実施形態において使用される(C)成分は、耐高硫黄燃料(高硫黄燃料に対する耐久性(以下、「耐燃料性」とも呼ぶ。))の改善と機械物性や成形性等の性能のバランスが優れており好ましい。
【0029】
酸化マグネシウムに関しては、BET比表面積が100m/g以上であり、平均粒径が1.5μm以下であることが好ましい。これらの条件を満たすことで、靭性の低下を抑制しつつ耐燃料性が得られることとなる。酸化マグネシウムのBET比表面積は、100~500m/gが好ましく、120~300m/gがより好ましい。また、酸化マグネシウムの平均粒径は、0.2~1.3μmが好ましく、0.3~1.0μmがより好ましい。平均粒径は、レーザー回折/散乱法より測定した粒度分布(体積基準)における積算値50%の粒径によって定めたものである。
【0030】
本実施形態における(C)成分の配合量は、(A)POM樹脂100質量部に対して、0.3~2.0質量部であり、1.0~1.8質量部であることが好ましい。(C)成分の配合量は、0.3質量部以上であることで耐燃料性において特に優れ、また2.0質量部以下で安定的な生産が可能となり、1.8質量部以内で機械特性のバランスにおいて特に優れる。これまでは(C)成分が多くなるとPOM樹脂中の不安定末端の分解を促進することがあったが、本実施形態の(A)POM樹脂であれば、その分解を抑制することができることから、(C)成分を増量することによる耐燃料性向上の特性を見出すことができた。
【0031】
[(D)ポリアルキレングリコール]
本実施形態において使用される(D)ポリアルキレングリコールの種類は特に限定されないが、POM樹脂との親和性の観点から、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを含有するものが好ましく、ポリエチレングリコールを含有するものがより好ましい。
【0032】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、POM樹脂中での分散性の観点から、1,000以上50,000以下であることが好ましく、5,000以上30,000以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求めたポリスチレン換算の分子量であるものとする。
【0033】
本実施形態における(D)ポリアルキレングリコールの含有量は、(A)POM樹脂100質量部に対し、0.5~3.0質量部であり、1.0~2.0質量部であることがより好ましい。(D)ポリアルキレングリコールの配合量が少ないと、十分な応力緩和が行われない可能性がある。(D)ポリアルキレングリコールの配合量が過剰の場合、成形品の機械物性が低下する可能性がある。
【0034】
[(E)多価アルコールの脂肪酸エステル]
本実施形態において使用される(E)多価アルコールの脂肪酸エステルは、エステル化率が80%以上のものである。エステル化率が80%未満であると耐燃料性に劣る。(E)多価アルコールの脂肪酸エステルのエステル化率は、85%以上が好ましい。
【0035】
多価アルコールは脂肪族であっても芳香族であってもよいが、(A)POM樹脂との親和性の点で脂肪族であることが好ましい。
【0036】
多価アルコールの価数は特に限定されるものではないが、3以上4以下であることが好ましい。また、多価アルコールの炭素原子数は特に限定されるものではないが、(A)POM樹脂との親和性の点で、3以上10以下であることが好ましく、3以上5以下であることがより好ましい。
【0037】
(E)成分のエステルを形成するための好ましい多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、メソエリスリトール、ペンチトース、ヘキシトール、ソルビトール等が挙げられるが、硫黄燃料に浸漬した後におけるPOM樹脂組成物の質量減少を低く抑えられる点で、多価アルコールは、ペンタエリスリトールであることが好ましい。
【0038】
脂肪酸の種類は特に限定されるものでないが、(A)POM樹脂との親和性の点で、炭素原子数10以上30以下の脂肪酸であることが好ましく、炭素原子数10以上20以下の脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。
【0039】
(E)成分のエステルを形成するための好ましい脂肪酸として、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等が挙げられ、好ましくはステアリン酸が挙げられる。
【0040】
(E)成分としては、炭素原子数が3以上の多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物であることが好ましい。具体的には、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートが好適に用いられ、ペンタエリスリトールテトラステアレートがより好適に用いられる。なお、(E)成分は、それを構成する多価アルコールや脂肪酸が異なるエステル化物や、エステル化率の異なるエステル化物の2種以上を併用してもよい。
【0041】
本実施形態における(E)多価アルコールの脂肪酸エステルの含有量は、(A)POM樹脂100質量部に対し、0.01~1.0質量部であり、0.05~1.0質量部であることがより好ましい。(E)多価アルコールの脂肪酸フルエステルの配合量が0.01質量部未満であると、成形品の離型性が悪化する可能性がある。(E)多価アルコールの脂肪酸エステルの配合量が1.0質量部超の場合は、成形品の加工性が低下する可能性がある。
【0042】
[(F)炭素系導電添加剤]
本実施形態のPOM樹脂組成物には、(A)POM樹脂に対して所定量の(F)炭素系導電添加剤が配合される。(F)炭素系導電添加剤は、(F1)カーボンナノストラクチャー(以下、「CNS」とも呼ぶ。)のみ、及び(F1)カーボンナノストラクチャーと(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックとの組合せから選ばれる一つである。そして、POM樹脂組成物に(F)炭素系導電添加剤を添加することにより、導電性が付与され、帯電防止効果が発揮される。また、カーボンブラックを単独で添加すると、得られる成形品の靭性が低下するが、(F)炭素系導電添加剤の添加によって靭性の低下を抑えることができる。
以下に、(F1)カーボンナノストラクチャー及び(F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックのそれぞれについて説明する。
【0043】
((F1)カーボンナノストラクチャー(CNS))
本実施形態で使用するCNSは、複数のカーボンナノチューブが結合した状態で含む構造体であり、カーボンナノチューブは分岐結合や架橋構造で他のカーボンナノチューブと結合している。このようなCNSの詳細は、米国特許出願公開第2013-0071565号明細書、米国特許第9,113,031号明細書、同第9,447,259号明細書、同第9,111,658号明細書に記載されている。
【0044】
CNSの形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態で使用するCNSを模式的に示しており、(A)はPOM樹脂と溶融混練する前の状態、(B)は溶融混練開始直後の状態、(C)は溶融混練後の状態を示す。図1(A)に示すように、溶融混練前のCNS10は、分岐したカーボンナノチューブ12が多数絡み合って結合した構造体をなす。そして、CNS10をPOM樹脂20中に投じて溶融混練すると、図1(B)に示すようにCNS10は多数に分断される。溶融混練が進むと、CNS10はさらに分断され、図1(C)に示すように各カーボンナノチューブ12の1本1本が接点14を介して接した状態となる。すなわち、図1(C)の状態では、POM樹脂中において、広範囲にわたりカーボンナノチューブ12が多数接した状態となり導電経路を形成するため、導電性が発現する。また、カーボンナノチューブ12が無秩序に絡み合うことで三次元網目構造を形成するため、靭性の低下を抑えることができると考えられる。
【0045】
図1(C)に示す形態のCNSを得るには、図1(A)に示すCNSが所定のフレーク状であることが好ましい。図1(A)に示すフレーク状のCNSは、複数のカーボンナノチューブを含み、カーボンナノチューブは枝分かれし、架橋結合され、及び相互に共通の壁を共有している。この場合、複数のカーボンナノチューブのすべてが枝分かれ、架橋結合、及び共通の壁を共有するといった構造的特徴を有するものではなく、複数のカーボンナノチューブが全体としてこれらの構造的特徴のうち、少なくとも1つを有していればよい。そして、上記のようなフレーク状のCNSを用いることで、溶融混練により図1(C)に示す形態となる。
【0046】
上記のようなフレーク状のCNSは、繊維材料等の成長基材上に成長させ、成長したCNSを成長基材からCNSを取り出すことで得られる。CNSの成長プロセスでは、繊維、トウ、糸、織物、不織布、シート、テープ、ベルト等の成長基材を使用することができる。すなわち、成長基材はスプール可能な寸法の繊維材料とすることができ、成長基材を搬送させながら、CNSの形成を連続的に実行することができる。
より具体的には、触媒を成長基材に塗布し、細孔CVDプロセスによりCNSの成長を図ることができる。そして、CNSを形成した成長基材を保存して、その後、CNSを取り出すために巻き取ることができる。
【0047】
CNSを成長基材上で成長させるに際し、複数の遷移金属ナノ粒子を含む触媒を用いることが好ましい。成長基材上に触媒を塗布するには、例えば、液体又はコロイド状前駆物質による蒸着を使用した直接的な触媒塗布などの粒子吸着を介して実行すればよい。遷移金属ナノ粒子触媒としては、d-ブロック遷移金属又はd-ブロック遷移金属塩が含まれる。遷移金属塩を、熱処理せずに成長基材に塗布してもよいし、あるいは、遷移金属塩を、熱処理により成長基材上でゼロ価の遷移金属に転換してもよい。
【0048】
CNSは、複雑な構造形態を有するネットワーク中にカーボンナノチューブを含むが、この複雑な構造形態は、毎秒数ミクロン程度の急速な成長速度で生成するカーボンナノチューブの成長条件で、成長基材上にCNSを形成したことに由来するものと考えられる。
【0049】
繊維材料上でカーボンナノチューブを合成するに当たり、米国特許出願公開第2004/0245088号に開示されている内容を含め、カーボンナノチューブを形成する様々な技術を採用することができる。繊維上で成長するCNSは、例えばマイクロキャビティ、熱及びプラズマ強化CVD技術、レーザアブレーション、アーク放電、及び高圧一酸化炭素(HiPCO)等の技術によって形成することができる。アセチレンガスを電離して、カーボンナノチューブ合成用の低温カーボンプラズマを生成することもできる。このとき、プラズマは、触媒を有する繊維材料に向けられる。このように、繊維材料上でCNSを合成するには、(a)カーボンプラズマを形成することと、(b)繊維材料に配置された触媒にカーボンプラズマを向けること、の2つの条件を含むことが好ましい。成長するカーボンナノチューブの直径は、カーボンナノチューブ形成触媒のサイズによって規定される。また、サイジングされた繊維材料を550~800℃程度に加熱することによりCNSの合成を容易にすることができる。カーボンナノチューブの成長を開始するには、2つのガスを反応器内に流入させる。すなわち、アルゴン、ヘリウム、又は窒素などのプロセスガスと、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタンなどの炭素含有ガスである。そして、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ形成触媒の位置で成長する。
【0050】
本実施形態において使用するCNSは市販品としてもよい。例えば、CABOT社製のATHLOS 200、ATHLOS 100等を使用することができる。
【0051】
((F2)BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラック)
本実施形態においては、カーボンブラックの中でも、BET比表面積が300m/g以上のカーボンブラックを用いる。ただし、当該カーボンブラックは単独で用いるのではなく、CNSと組合せて用いる。当該カーボンブラックが配合されたPOM樹脂組成物は導電性が高いため、CNSと併用しても導電性を保持することができる。逆に、BET比表面積が300m/g未満のカーボンブラックが配合されたPOM樹脂組成物は導電性が低く、導電性を十分に確保するには配合量を増加させる必要があり、そうすると靭性の低下を抑えることができない。当該BET比表面積は、310m/g以上が好ましく、350m/g以上がより好ましく、上限としては特に限定はないが、2000m/g程度である。
なお、BET比表面積は、ASTM D4820に準拠して測定することができる。
【0052】
上記のような特定のカーボンブラックとしては、ライオン(株)製、ケッチェンブラックEC300J(BET比表面積:800m/g)、ケッチェンブラックEC600JD(BET比表面積:1270m/g)、ライオナイトEC200L(BET比表面積:377m/g)等が挙げられる。
【0053】
本実施形態のPOM樹脂組成物において、(F)炭素系導電添加剤はPOM樹脂100質量部に対して0.3~2.5質量部が配合される。(F)炭素系導電添加剤の配合量が0.3質量部未満であると導電性に劣り、2.5質量部を超えると靭性が低下する。当該CNSの配合量は0.5~2.0質量部が好ましく、0.6~1.8質量部がより好ましく、0.8~1.5質量部がさらに好ましい。
【0054】
また、(F1)CNSと(F2)カーボンブラックとの組合せで用いる場合、(F1)CNSと(F2)カーボンブラックとの質量比((F2)/(F1))が10以下であることが好ましく、0超5以下であることがより好ましい。当該質量比が10以下であると、導電性と靭性とのバランスを確保することができる。また、F2/F1の値が0に近づくほど、CNSが過剰量配合されることを意味するが、そのようにCNSが過剰配合されてもよい。ただ、CNSは高価であることを考慮すれば、費用対効果の兼ね合いから、F2/F1の値の下限は、0.1であることが好ましい。
【0055】
[その他の成分]
本実施形態のPOM樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を含有するものであってもよい。本実施形態のPOM樹脂組成物の目的・効果を阻害しない限り、POM樹脂組成物に対する公知の安定剤を1種又は2種以上添加することができる。
【0056】
本実施形態のPOM樹脂組成物を用いて成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPOM樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0057】
以上の本実施形態のPOM樹脂組成物は、後記の自動車部品とすることもできるし、あるいは帯電防止機能及び燃料に対する耐性を有する成形品とすることもできる。
【0058】
<燃料接触体>
本実施形態の燃料接触体は、上記POM樹脂組成物の成形品を備える。当該成形品は、上記POM樹脂組成物を用いて、慣用の成形方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形等の方法で成形することにより得ることができる。
【0059】
本実施形態の燃料接触体は、高硫黄燃料に限らず、低硫黄燃料を接触させたものであってもよい。
【実施例
【0060】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1~20、比較例1~14]
各実施例・比較例において、表1~4に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度200℃の二軸押出機に投入して、溶融混練し、ペレット化した。なお、表1~4において、各成分の数値は質量部を示す。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
(A)ポリアセタール樹脂(POM樹脂)
A-1;トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタール共重合体。MFR(ISO1133に準じて、190℃,荷重2160gで測定):9g/10min)
【0062】
(B)酸化防止剤
B-1:テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASF社製、Irganox1010)
B-2:4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業(株)製、ノクラックCD)
【0063】
(C)酸化マグネシウム等
C-1:酸化マグネシウム、BET比表面積135m/g、平均粒径0.9μm(協和化学工業(株)製、キョーワマグMF150)
C-2:酸化マグネシウム、BET比表面積30m/g、平均粒径0.6μm(協和化学工業(株)製、キョーワマグMF30)
C-3:酸化マグネシウム、BET比表面積155m/g、平均粒径7μm(協和化学工業(株)製、キョーワマグ150)
C-4:酸化亜鉛(BET比表面積 60~90m/g)(正同化学工業(株)製、活性亜鉛華AZO)
【0064】
(平均粒径の測定)
(株)堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920を用いて、以下の測定条件の下、レーザー回折/散乱法により粒度分布を測定し、積算値50%の平均粒径(50%d)を求めた。
~測定条件~
・循環速度:5
・レーザー光源:632.8nmHe-Neレーザー1mW、タングステンランプ50W・検出器:リング状75分割シリコンフォトダイオード×1、シリコンフォトダイオード×12
・分散媒:蒸留水
・超音波:有り
・透過率:75~90%
・水との相対屈折率:1.32
・粒子径基準:体積
【0065】
(D)ポリアルキレングリコール
D-1:ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製、PEG6000S)
【0066】
(E)多価アルコールの脂肪酸エステル
E-1:ペンタエリスリトールテトラステアレート(エステル化率80%以上の多価アルコールの脂肪酸エステル、日油(株)製、ユニスターH476)
E-2:グリセリントリステアレート(エステル化率80%以上の多価アルコールの脂肪酸エステル、理研ビタミン(株)製、ポエムS-95)
E-3:グリセリンモノステアレート(エステル化率80%未満の多価アルコールの脂肪酸エステル、理研ビタミン(株)製、リケマールS-100A)
【0067】
(F)カーボンナノストラクチャー、カーボンブラック
F-1:カーボンナノストラクチャー(CABOT社製、ATHLOS 200)
F-2:カーボンブラック(ライオン(株)製、ケッチェンブラックEC300J、BET比表面積:800m/g)
F-3:カーボンブラック(ライオン(株)製、ライオナイトEC200L、BET比表面積:377m/g)
F-4:カーボンブラック(デンカ(株)製、デンカブラック、BET比表面積:65m/g)
【0068】
<評価>
実施例及び比較例で調製したPOM樹脂組成物を用い、以下の評価を行った。
【0069】
(1)耐燃料性の評価
調製したPOM樹脂組成物のペレットを用いて射出成形により厚さ1mmのASTM 4号ダンベル試験片を作製した。そして、POM樹脂組成物の耐燃料性を評価するため、上記ダンベル試験片をディーゼル燃料(製品名:CEC RF 90-A-92、ハルターマン社製)に100℃で14日間浸漬し、その前後の試験片の質量から燃料浸漬による質量減少率を算出し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表1~4に示す。
[評価基準]
A:20%以下
B:20%超
【0070】
次いで、実施例及び比較例で調製したPOM樹脂組成物を用い、ISO294-1に記載の多目的試験片を、ISO9988-1,2に準じた条件で射出成形機(EC40,東芝機械(株)製)にて射出成形により作製し、以下の(2)及び(3)の評価に用いた。
【0071】
(2)引張破壊呼び歪(靭性)の評価
上記多目的試験片を用いてISO527-1、2に準拠した引張破壊呼び歪を測定し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表1~4に示す。
[評価基準]
A:10%以上
B:10%未満
【0072】
(3)導電性
上記多目的試験片を用いて以下の評価をした。
(表面抵抗率・体積抵抗率)
上記のようにして得た多目的試験片の外観を図2に示す。図2(A)は表面を示し、図2(B)は裏面を示す。当該試験片の各面の所定領域(図2のハッチング領域)に導電塗料(ドータイトD500、藤倉化成(株)製)を塗布して乾燥した。その後、低抵抗率測定装置(DIGITAL MULTIMETER R6450、アドバンテスト製)を使用し、図2(A)のA-B間の抵抗を測定し、これを表面抵抗率とした。また、図2のC-D間の抵抗を測定し、これを体積抵抗率とした。表面抵抗率及び体積抵抗率のそれぞれについて、以下の評価基準に従い評価した。評価結果を表1~4に示す。
[表面抵抗率の評価基準]
A:1.0×10Ω/□以下
B:1.0×10Ω/□超1.0×107Ω/□以下
C:1.0×107Ω/□超
[体積抵抗率の評価基準]
A:1.0×10Ω・cm以下
B:1.0×10Ω・cm超1.0×107Ω・cm以下
C:1.0×107Ω・cm超
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表1~4より、実施例1~20においてはいずれの評価も良好な結果が得られたことが分かる。これに対して、比較例1~14においては、すべての評価を同時に良好な結果とすることができなかった。
比較例1は、(C)~(F)成分が配合されていない点で実施例2と異なり、耐燃料性及び導電性に劣る。比較例2は、(F)成分が配合されていない点で実施例2と異なり、導電性に劣る。比較例3は、(C)成分が配合されていない点で実施例2と異なり、耐燃料性に劣る。比較例4は、(D)成分が配合されていない点で実施例2と異なり、耐燃料性に劣る。比較例5は、(C)成分が過少である点で実施例2と異なり、耐燃料性に劣る。比較例6は、(C)成分が過剰である点及び(F)成分を若干増量した点で実施例2と異なり、靭性に劣る。比較例7は、(D)成分が過少である点で実施例2とは異なり、耐燃料性に劣る。比較例8は、(D)成分が過剰である点及び(F)成分を若干増量した点で実施例2と異なり、靭性に劣る。比較例9は、(E)成分が過剰である点で実施例2と異なり耐燃料性に劣る。比較例10は、(E)成分としてエステル化率が80%未満のものを用いた点で実施例2と異なり、耐燃料性に劣る。比較例11及び12は、それぞれ、(F)成分が過少であるか過剰であるかにおいて実施例2と異なり、比較例11は導電性に劣り、比較例12は靭性に劣る。比較例13は、カーボンナノストラクチャーとカーボンブラックとの組合せで用いた(F)成分を過剰とした点で実施例16と異なり、靭性に劣る。比較例14は、カーボンブラックのBET比表面積が過小のカーボンブラックを用いた点で実施例18と異なり、導電性に劣る。
以上より、(A)~(F)成分を所定の含有量で配合しないと、靭性、耐燃料性、及び帯電防止効果のすべてを良好な結果を得ることができないことが分かる。
図1
図2