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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】光モジュール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20230127BHJP
   G02B 6/132 20060101ALI20230127BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
G02B6/12 301
G02B6/132
H01L31/10 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019160035
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021039221
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 駿
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0104441(US,A1)
【文献】特開2000-298218(JP,A)
【文献】特開2006-171157(JP,A)
【文献】特開2017-011020(JP,A)
【文献】特表2016-538713(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109148619(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/13
H01L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の上面に形成されたGeパターンを含むGeフォトダイオードと、
前記Geフォトダイオードと光結合するように前記シリコン基板上に設けられた光導波路とを備え、
前記光導波路は、
前記シリコン基板の上面に形成された、0.7μm以上1μm未満の厚さを有する下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に形成された光導波路コアと、
前記光導波路コアを覆うように前記下部クラッド層上に形成された上部クラッド層とを備え、
前記下部クラッド層は、前記シリコン基板上の前記Geパターンの形成領域を露出させる開口を有し、
前記光導波路コアの終端部は前記Geパターンの少なくとも上面に接していることを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記光導波路を伝搬する光の波長は1260nm以上1360nm以下のOバンドである、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記Geパターンの上面は、前記下部クラッド層の上面よりも上方に位置する、請求項1又は2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記Geパターンの側面にはファセット面が形成されており、
前記ファセット面と前記開口の内壁面との間の溝内に絶縁膜が埋め込まれている、請求項1又は2に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記シリコン基板の上面は、第1の上面と、前記第1の上面よりも高い第2の上面とを有し、
前記下部クラッド層は、前記第1の上面に形成されており、
前記Geパターンは、前記第2の上面に形成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記第1の上面は、前記シリコン基板の上面であり、
前記第2の上面は、前記シリコン基板の上面に形成されたSiパターンの上面である、請求項5に記載の光モジュール。
【請求項7】
前記シリコン基板がバルクシリコン基板からなる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光モジュール。
【請求項8】
前記光導波路コアがSiNxからなる、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光モジュール。
【請求項9】
バルクシリコン基板の上面に、0.7μm以上1μm未満の厚さを有する下部クラッド層を形成する工程と、
前記下部クラッド層に開口を形成して前記バルクシリコン基板の上面の一部を露出させる工程と、
前記開口から露出する前記バルクシリコン基板の上面の一部にGeパターンを選択成長させて当該開口内に埋め込む工程と、
前記下部クラッド層の上面及び前記Geパターンの上面に光導波路コア層を形成する工程と、
前記光導波路コア層をパターニングすることにより前記Geパターンの少なくとも上面に接する光導波路コアを形成する工程と、
前記下部クラッド層の露出面及び前記光導波路コアの露出面を覆う上部クラッド層を形成する工程と備えることをと特徴とする光モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記Geパターンを選択成長させる工程は、前記Geパターンを前記下部クラッド層と同じ高さまで選択成長させた後、前記Geパターンのファセット面と前記開口の内壁面との間に形成される溝の内部を含む下部クラッド層の上面全体に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜の上面をCMPにより平坦化して前記Geパターンの上面を露出させる工程をさらに含む、請求項9に記載の光モジュールの製造方法。
【請求項11】
前記Geパターンを選択成長させる工程は、ファセット面の影響を受けない厚さまで前記Geパターンを前記下部クラッド層よりも厚く選択成長させた後、CMPにより平坦化する工程を含む、請求項9に記載の光モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信分野において使用される、光導波路素子とフォトダイオードとを備える光モジュールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンフォトニクスを用いた光電子集積技術の開発が進んでいる。シリコンフォトニクスの光電子集積技術の基本光部品は、シリコン(Si)系光導波路とゲルマニウム(Ge)フォトダイオードとから構成される。これまで、シリコン系光導波路としてシリコンリッチな石英系材料であるSiOxをコアに用いたSiOx光導波路とゲルマニウムフォトダイオードとを同一基板上にモノリシックに集積した小型光モジュールが開発され(特許文献1参照)、通信システムへの応用が期待されている。
【0003】
SiOx光導波路とゲルマニウムフォトダイオードから構成された光モジュールにおいて、SiOxコアの屈折率の制御にはシリコン量の微妙な制御が必要であり、光導波路の特性の再現性が低い。そのため、酸窒化シリコン(SiON)からなる光導波路コアを用いた光モジュールも提案されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、ゲルマニウムフォトダイオード、シリコンコアからなるシリコン光導波路、及び酸窒化シリコンコアからなる酸窒化シリコン光導波路がこれらの順に接続した光モジュール及びその製造方法が記載されている。この光モジュールは、光導波路を構成する酸窒化シリコンコアが第1酸窒化シリコン層(141)及び第2酸窒化シリコン層(142)から構成されているので、フォトダイオードを構成するゲルマニウムパターンの形成前と後とに分けて酸窒化シリコン層を形成することができる。したがって、ゲルマニウムの選択成長が可能となり、シリコン光導波路、酸窒化光導波路、ゲルマニウムフォトダイオードのモノリシック集積を実現できる。
【0005】
特許文献2に記載された従来の光モジュールでは、酸化シリコン(SiO)からなる下部クラッド層上に下部シリコンパターンを介してゲルマニウムパターンを形成する必要があり、下部クラッド層及び下部シリコンパターンを形成するためにSOI(Silicon on Insulator)基板が好ましく使用されている。しかし、SOI基板はシリコン支持基板上に埋め込み酸化膜(BOX(Buried Oxide)層)を介して単結晶シリコン層が形成されたものであり、バルクシリコン基板と比べると非常に高価であるため、光モジュールの低コスト化を阻害する要因となっている。
【0006】
特許文献3には、SOI基板ではなくSi基板上に光集積回路を構築するため、Si基板上に厚さ1μmのGeフォトダイオード(アクティブデバイス)を構築し、アクティブデバイスの上部にアクティブデバイスと光結合するように光導波路(アドオン導波路)を形成し、光導波路がアンダークラッド層、石英導波路コア及びオーバークラッド層からなり、アンダークラッド層の厚さを1μm以上とする構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5761754号公報
【文献】特開2017-191158号公報
【文献】特開2016-156933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載された従来の光モジュールの構造では、Si基板による光吸収損失を低減するためにGeフォトダイオードと光導波路との間の離間距離を広げる必要があり、例えばアンダークラッド層の厚さを少なくとも1μm以上確保する必要がある。
【0009】
しかしながら、Si基板による光吸収損失の影響を受けないようにアンダークラッド層を十分に厚くした場合、光導波路コアとGeフォトダイオードとの離間距離が大きくなることにより両者の光結合度が低下するという問題がある。アンダークラッド層に合わせてGeフォトダイオードを厚くすることにより、Geフォトダイオードと光導波路との間の光結合度を確保することは可能である。しかしながら、Geフォトダイオードを厚くする場合、ゲルマニウム結晶成長に時間がかかり、製造効率が非常に悪いという問題がある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、Geフォトダイオードの結晶性及び製造効率を高めつつ、Geフォトダイオードと光導波路との光結合度を強めることが可能な光モジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明による光モジュールは、シリコン基板と、前記シリコン基板上に形成されたGeパターンを含むGeフォトダイオードと、前記Geフォトダイオードと光結合するように前記シリコン基板上に設けられた光導波路とを備え、前記光導波路は、前記シリコン基板上に形成された下部クラッド層と、前記下部クラッド層上に形成された光導波路コアと、前記光導波路コアを覆うように前記下部クラッド層上に形成された上部クラッド層とを備え、前記下部クラッド層は、前記シリコン基板上の前記Geパターンの形成領域を露出させる開口を有し、前記光導波路コアの終端部は前記Geパターンの上面及び側面の少なくとも一方に接していることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、Geパターンとその上方に設けられる光導波路コアとが直接接続する。よって、Geフォトダイオードと光導波路との光結合度を強めることができ、光導波路コアを伝搬する光をGeフォトダイオードに確実に送り込むことができる。
【0013】
本発明において、前記下部クラッド層の厚さは0.7μm以上1μm未満であることが好ましく、0.9μm以上1μm未満であることが特に好ましい。これにより、Geパターンを薄く形成することができ、Geパターンの厚さが1μm程度であったとしてもその上面を少なくとも下部クラッド層の上面とほぼ同じ高さかそれ以上にすることができる。したがって、Geフォトダイオードの結晶性及び製造効率を高めることができる。
【0014】
本発明において、前記光導波路を伝搬する光の波長は1260nm以上1360nm以下のOバンドであることが好ましい。光導波路を伝搬する光の波長をOバンドとすることで光がシリコン基板にまで達することが無くなり、下部クラッド層の厚さを1μm未満に薄くしてもシリコン基板による光吸収損失を低減できる。
【0015】
本発明において、前記Geパターンの上面は、前記下部クラッド層の上面よりも上方に位置していてもよく、前記光導波路コアの上面よりも上方に位置していてもよい。いずれの構成でも光導波路コアとGeパターンとを直接接続することができ、光導波路を伝搬する光をGeフォトダイオードに確実に送り込むことができる。
【0016】
本発明において、前記シリコン基板の上面は、第1の上面と、前記第1の上面よりも高い第2の上面とを有し、前記下部クラッド層は、前記第1の上面に形成されており、前記Geパターンは、前記第2の上面に形成されていることが好ましい。この場合において、前記第1の上面は、前記シリコン基板の上面であり、前記第2の上面は、前記シリコン基板の上面に形成されたSiパターンの上面であってもよい。この構成によれば、Geパターンを厚く形成しなくてもその上面を下部クラッド層の上面よりも高くすることができる。したがって、Ge結晶成長にかかるコストを低減しつつ、Geフォトダイオードと光導波路との光結合度を強めることができる。
【0017】
前記シリコン基板がバルクシリコン基板からなることが好ましい。この構成によれば、光モジュールの基板コストを低減できる。
【0018】
前記光導波路コアが窒化シリコン(SiNx)からなることが好ましい。窒化シリコンは光通信に用いられる光の波長に対して透明なアモルファス材料であるため、光損失が低く、光導波路として好適である。また窒化シリコンは熱的に安定しており、熱光学係数が小さく、温度変動に対する屈折率変化が小さいことから、温度変動に対して堅牢な光モジュールを実現できる。
【0019】
また、本発明による光モジュールの製造方法は、シリコン基板の上面に下部クラッド層を形成する工程と、前記下部クラッド層に開口を形成して前記シリコン基板の上面の一部を露出させる工程と、前記開口から露出する前記シリコン基板の上面の一部にGeパターンを選択成長させる工程と、前記下部クラッド層の上面及び前記Geパターンの上面に光導波路コア層を形成する工程と、前記光導波路コア層をパターニングすることにより前記Geパターンの上面及び側面の少なくとも一方に接する光導波路コアを形成する工程と、前記下部クラッド層の露出面及び前記光導波路コアの露出面を覆う上部クラッド層を形成する工程と備えることをと特徴とする。
【0020】
本発明によれば、Geフォトダイオードと光導波路との光結合度を強めることができ、光導波路コアを伝搬する光をGeフォトダイオードに確実に送り込むことができる。またGeフォトダイオードをシリコン基板の上面に形成するので、ゲルマニウムの結晶品質を向上させて受光感度を向上させることができる。また、下部クラッド層が0.7μm以上1μm未満であるので、Geフォトダイオードの厚さが1μm未満と薄くても光導波路コアと直接接続できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Geフォトダイオードの結晶性及び製造効率を高めつつ、Geフォトダイオードと光導波路との光結合度を強めることが可能な光モジュール及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態による光モジュールの構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った断面図である。
図2図2(a)及び(b)は、図1のY-Y線及びY-Y線に沿った光モジュールの断面図である。
図3図3は、SiOからなる下部クラッド層の厚さd(μm)と光導波路の伝搬損失(dB/cm)との関係を示すグラフである。
図4図4(a)~(g)は、本発明の実施の形態による光モジュールの製造方法の一例を示す略断面図である。
図5図5(a)~(e)は、Geパターンの形成方法を説明する略断面図である。
図6図6(a)及び(b)は、本発明の第2の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
図7図7(a)及び(b)は、本発明の第3の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
図8図8は、本発明の第4の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
図9図9は、本発明の第5の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態による光モジュールの構成を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った断面図である。また図2(a)及び(b)は、図1のY-Y線及びY-Y線に沿った光モジュールの断面図である。
【0025】
図1(a)及び(b)及び図2(a)及び(b)に示すように、この光モジュール1は、シリコン基板10と、シリコン基板10上に設けられたGeフォトダイオード20と、Geフォトダイオード20の上面と接するようにシリコン基板10上に設けられた光導波路30とを備えており、Geフォトダイオード20は光導波路30の終端部に接続されている。光導波路30は、シリコン基板10上に形成された下部クラッド層31と、下部クラッド層31上に形成された窒化シリコン(SiNx)からなる光導波路コア32と、光導波路コア32を覆うように下部クラッド層31上に形成された上部クラッド層33とで構成されている。
【0026】
シリコン基板10はバルクシリコン基板であることが好ましい。バルクシリコン基板とはバルクシリコンウェーハを加工して得られるシリコン基板のことを言い、バルクシリコンウェーハとは単結晶シリコンインゴットを1mm程度の厚さにスライスしてその表面を鏡面研磨することにより得られるポリッシュト・ウェーハのことを言う。バルクシリコン基板はSOI基板等と比べて安価であり、光デバイスと電子デバイスのモノリシック集積も容易である。
【0027】
Geフォトダイオード20は、シリコン基板10の上面に形成されたGeパターン21を有している。本実施形態によるGeパターン21はシリコン基板10上に結晶成長させた単結晶ゲルマニウムであることが好ましい。Geパターン21が単結晶からなることにより、受光感度が高いGeフォトダイオードを実現できる。本実施形態において、Geパターン21は下部クラッド層31と同じ厚さを有しているが、後述するように下部クラッド層31よりも厚く形成してもよい。ただし、Geパターン21を厚くするほどその結晶成長に時間がかかり、製造コストが増加するため、Geパターン21はできるだけ薄いほうがよい。
【0028】
下部クラッド層31は酸化シリコン(SiO)等からなり、Geフォトダイオード20の形成領域を除くシリコン基板10の略全面に形成されているが、少なくとも光導波路30の形成領域に形成されていればよい。下部クラッド層31は、光導波路コア32に対するクラッド層としてだけでなく、シリコン基板10上にゲルマニウムを選択的に堆積させるためのマスクとしての役割も果たしている。
【0029】
下部クラッド層31の厚さは、光導波路コア32内に光を閉じ込めることができる限りにおいて特に限定されないが、0.7μm以上1μm未満とすることが好ましく、0.9μm以上1μm未満であることが特に好ましい。下部クラッド層31の厚さが1μm未満であれば、Geパターン21を薄く形成することができ、Geパターン21の厚さが1μm程度であったとしてもその上面を少なくとも下部クラッド層31の上面とほぼ同じ高さかそれ以上にすることができる。したがって、Geパターン21とその上方に設けられる光導波路コア32とを直接接続できる。
【0030】
光導波路コア32は、下部クラッド層31の上面に選択的に形成された窒化シリコン(SiNx)からなる細線パターンである。窒化シリコンは光通信に用いられる1300~1550nm近傍の光の波長に対して透明な材料であるため、光導波路として好適である。また窒化シリコンはアモルファスであるため、多結晶シリコンのように結晶粒界で光が散乱することがなく、光損失が低い光導波路となる。さらに窒化シリコンは熱的に安定しており、熱光学係数が小さく、温度変動に対する屈折率変化が小さいことから、温度変動に対して堅牢な光モジュールを実現できる。
【0031】
本実施形態による光導波路30は、光の波長が1260~1360nm(中心波長1310nm)のOバンドの光に対してシングルモードで動作するように設計される。そのため、SiN(屈折率n=1.99)からなる光導波路コア32の幅wは600~1100nmであることが好ましい。また光導波路コア32の高さhは400~800nmであることが好ましく、h≦-0.8w+1320の関係を満たすことが特に好ましい。
【0032】
上部クラッド層33は酸化シリコン(SiO)等からなり、光導波路コア32の形成領域を含む下部クラッド層31の略全面に形成されており、光導波路コア32の上面及び側面とGeパターン21の露出面を覆っている。上部クラッド層33の厚さは、光導波路コア32内に光を閉じ込めることができる限りにおいて特に限定されず、例えば1~10μmとすることができる。
【0033】
Geフォトダイオード20は、シリコン基板10の上面に選択的に形成されたGeパターン21を含み、Geパターン21はシリコン基板10の上面に直接形成されている。本実施形態によるGeフォトダイオード20は、基板と平行な横方向(面内方向)にpin接合を有する。すなわち、図2(a)に示すように、Geパターン21は、p型ドーパントがドープされたp領域21pと、n型ドーパントがドープされたn領域21nと、ドーパントがドープされていないi領域21iとを有している。本実施形態において、p領域21p及びn領域21nは、光導波路の延在方向(Y方向)と直交する幅方向(X方向)の一端側及び他端側にそれぞれ設けられており、i領域21iはp領域21pとn領域21nとの間に設けられている。p領域21p及びn領域21nは、上部クラッド層33を貫通するコンタクトプラグであるp側電極40p及びn側電極40nにそれぞれ接続されている。
【0034】
シリコン基板10上にGeパターン21を直接形成するので、単結晶ゲルマニウムを選択成長させることができ、結晶品質を向上させて受光感度を向上させることができる。また、シリコン基板10の上面にGeフォトダイオード20を直接形成し、Geフォトダイオード20の上層に窒化シリコンからなる光導波路コア32を形成するので、SOI基板ではなくバルクシリコン基板を使用することができ、基板コストを低減できる。また窒化シリコンはアモルファスであり、多結晶シリコンのような結晶粒界が存在しないため、光の散乱が非常に小さい。また、熱的にも安定しているので、光導波路コア32に必要な光学特性を安定的に確保できる。
【0035】
図3は、SiOからなる下部クラッド層の厚さd(μm)と光導波路の伝搬損失(dB/cm)との関係を示すグラフである。
【0036】
図3に示すように、下部クラッド層の厚さdが大きくなるほど伝搬損失は小さくなる。また、光の波長が1550nmである場合よりも1300nmである場合の方が、伝搬損失が小さくなる。このように、光導波路30を伝搬する光の波長を約1300nmのOバンドとすることで、下部クラッド層の厚さを1μm未満に薄くしても光の伝搬損失を小さくできる。これにより1μm程度のGeパターン21であってもその上層に設けられる光導波路コア32と直接接続することが可能となるので、光導波路30とGeフォトダイオード20との光結合度を強めることができる。さらに図示のように、下部クラッド層31の厚さが0.7μm以上であれば、約1300nmのOバンドにおいて光の伝搬損失を10dB/cm以下に抑えることができる。さらに、下部クラッド層31の厚さが0.9μm以上であれば、Oバンドにおいて光の伝搬損失を2dB/cm以下に抑えることができる。ここで、伝搬損失が10dB/cmであり、導波路長が1cmである場合には、光強度が1/10になってしまう。この場合、10dB/cmの伝搬損失は許容できない。しかし、導波路長が1mm程度の光モジュールであれば、伝搬損失が10dB/cmであっても実際の伝搬損失は1dB(80%)となるので、10dB/cmの伝搬損失を許容可能である。
【0037】
図4(a)~(g)は、本発明の実施の形態による光モジュールの製造方法の一例を示す略断面図である。
【0038】
本実施形態による光モジュールの製造方法は、まずシリコン基板10を用意し、シリコン基板10の全面に厚さが0.7μm以上1μm未満のSiO膜からなる下部クラッド層31を形成する(図4(a))。
【0039】
次に、シリコン基板10の上面の一部が露出するように下部クラッド層31に開口31aを形成する(図4(b))。開口31aはSiO膜をフォトリソグラフィ及びドライエッチングでパターニングすることにより形成できる。これにより、シリコン基板10上のGeパターン21の形成領域を露出させることができる。
【0040】
次に、下部クラッド層31の開口31aから露出するシリコン基板10の上面の一部にGeパターン21をCVD法により形成する(図4(c))。ゲルマニウムは結晶成長中の炉内圧を10Pa未満とするUHVCVD法(Ultra-High Vacuum CVD)により形成してもよく、結晶成長中の炉内圧を1×10Pa未満とする減圧CVD法により形成してもよい。あるいは、GeHをソースガスとし、基板温度を600~650℃とする熱CVD法によりゲルマニウムを形成することも可能である。このとき、ゲルマニウムは開口31a内のシリコン基板10の上面にのみ堆積し、SiO膜からなる下部クラッド層31の上面には堆積しないので、Geパターン21を選択成長させることができる。シリコン基板10上にGeパターン21を直接形成するので、フォトダイオードの受光感度を高めることができる。
【0041】
図5(a)~(e)は、Geパターンの形成方法を説明する略断面図である。Geパターン21の成長面にはファセット面が形成される場合がある。そのため、図5(a)に示すようにGeパターン21を下部クラッド層31と同じ高さまで選択成長させる場合には、開口31a内をGeパターン21で完全に埋めることができず、Geパターン21と開口31aの内壁面との間に溝21t(隙間)が形成される。このような溝21tは、Geパターン21及び下部クラッド層31の上面に形成される光導波路コア32の平坦性を悪化させ、光導波路30とGeフォトダイオード20との光結合度が低下する。
【0042】
溝21tの影響をなくすためには、溝21tを埋めて平坦化することが好ましく、図5(b)に示すように溝21tの内部を含む下部クラッド層31の上面全体にSiOの絶縁膜34を形成した後、図5(c)に示すようにCMP(Chemical Mechanical Polishing)により平坦化してGeパターン21の上面を露出させることが好ましい。あるいは、図5(d)に示すようにファセット面の影響を受けない厚さまでGeパターン21を下部クラッド層31よりも厚く選択成長させた後、図5(e)に示すようにCMP(Chemical Mechanical Polishing)により平坦化してもよい。
【0043】
次に、Geパターン21の上面を含む下部クラッド層31の上面全体に窒化シリコン膜からなる光導波路コア層32LをCVDまたはスパッタ法により形成し(図4(d))、さらに光導波路コア層32Lをパターニングすることにより光導波路コア32を形成する(図4(e))。
【0044】
次に、光導波路コア32の露出面(上面及び側面)及びGeパターン21の露出面(上面)を含む下部クラッド層31の上面全体にSiO膜からなる上部クラッド層33を形成する(図4(f))。
【0045】
その後、上部クラッド層33を貫通してGeパターン21の上面を露出させるコンタクトホールをパターニングすることにより形成し、コンタクトホール内に電極材料を埋め込むことにより、Geパターン21のp領域21pに接続されたp側電極40pと、Geパターン21のn領域21nに接続されたn側電極40nを形成する(図4(g))。以上により、シリコン基板10上にGeフォトダイオード20及び光導波路30が形成された光モジュール1が完成する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態による光モジュール1は、シリコン基板10上に形成されたGeフォトダイオード20と光導波路30とを備え、光導波路30は、下部クラッド層31と、光導波路コア32と、上部クラッド層33とを有し、光導波路コア32の終端部はGeフォトダイオード20の上面に接しているので、Geフォトダイオード20と光導波路30との光結合度を強めることができ、光導波路コア32を伝搬する光をGeフォトダイオード20に確実に送り込むことができる。また、高価なSOI基板を使用する必要はなく、バルクシリコン基板を用いて光モジュール1を構成することができる。
【0047】
また、本実施形態による光モジュール1は、光導波路30を構成する下部クラッド層31が0.7μm以上1μm未満であるので、Geパターン21の厚さが1μm以下と薄くても光導波路コア32とGeパターン21とを直接接続できる。さらに、光導波路30を伝搬する光の波長帯が1260~1360nm(Oバンド)であるため、下部クラッド層31が1μm未満と薄い場合でもシリコン基板10による光吸収を抑制でき、光導波路30の伝搬損失を低減することができる。さらに、光導波路コア32が窒化シリコン(SiNx)からなるので、温度変動に対して堅牢な光モジュールを実現できる。
【0048】
(第2の実施の形態)
図6(a)及び(b)は、本発明の第2の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
【0049】
図6(a)及び(b)に示すように、本実施形態による光モジュール1の特徴は、Geパターン21の上面が下部クラッド層31の上面よりも上方に位置している点にある。特に、図6(a)は、Geパターン21の上面が光導波路コア32の上面よりも下方に位置している場合を示しており、図6(b)は、Geパターン21の上面が光導波路コア32の上面よりも上方に位置している場合を示している。
【0050】
このように、本実施形態による光モジュール1は、Geパターン21が下部クラッド層31の上面よりも上方に位置しているので、光導波路コア32内を伝搬する光をGeパターン21内に確実に送り込むことができる。
【0051】
(第3の実施の形態)
図7(a)及び(b)は、本発明の第3の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
【0052】
図7(a)及び(b)に示すように、本実施形態による光モジュール1の特徴は、シリコン基板10の上面に段差が形成されており、Geパターン21の形成領域の下地面(第2の上面)の高さが周囲の面(第1の上面)よりも高くなっている点にある。このうち、図7(a)は、Geパターン21の形成領域におけるシリコン基板10上にエピタキシャル膜からなるSiパターン10eを選択成長させたものである。また図7(b)は、Geパターン21の形成領域以外のシリコン基板10の上面をエッチング等により掘り下げることにより、Geパターン21の形成領域を相対的に高くしたものである。シリコン基板10の上面のエッチング等による掘り下げは、例えば光導波路コア32の形成領域に限定して行ってもよい。
【0053】
このように、本実施形態による光モジュール1は、Geパターン21の形成領域と平面視で重なるシリコン基板10の上面の一部がその周囲よりも高くなっているので、Geパターン21を厚く形成しなくても、その上面を下部クラッド層31の上面よりも高くすることができる。したがって、Ge結晶成長にかかるコストを低減しつつ、Geフォトダイオード20と光導波路30との光結合度を強めることができる。
【0054】
(第4の実施の形態)
図8は、本発明の第4の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
【0055】
図8に示すように、本実施形態による光モジュール1の特徴は、Geフォトダイオード20が基板に垂直な縦方向のpin接合を有する点にある。縦方向のpin接合を実現するため、シリコン基板10の表層部にはn領域10nが形成されており、このn領域10n上にGeパターン21が形成されている。またGeパターン21の上層部にはp領域21pが形成されている。Geパターン21の下層部はi領域21iである。本実施形態においてはシリコン基板10側にn領域を形成し、Geパターン21の上層側にp領域を形成しているが、シリコン基板10側にp領域を形成し、Geパターン21の上層側にn領域を形成してもよい。
【0056】
図示のように、シリコン基板10のn領域10nのX方向の幅はGeパターン21のX方向の幅よりも広いので、n領域10nはGeパターン21と平面視で重ならない露出面を有している。そしてn領域10nの露出面の一部は、上部クラッド層33及び下部クラッド層31を貫通するコンタクトプラグであるn側電極40nに接続されている。また、p領域21pは、上部クラッド層33を貫通するコンタクトプラグであるp側電極40pに接続されている。このように、本実施形態による光モジュール1は、Geフォトダイオード20が縦方向のpin接合を有しているが、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0057】
また本実施形態によれば、Geフォトダイオード20の高速応答の実現が容易である。Geフォトダイオード20の高速応答を実現するためには、キャリアがi領域21iを通過する時間をできるだけ短くする必要があり、そのためにはi領域21iをできるだけ狭くする必要がある。横方向のpin接合ではリソグラフィによりi領域21iの幅を制御する必要があるが、縦方向のpin接合ではGe層の厚さでi領域21iの幅を制御できる。Ge結晶成長プロセスでGe層の厚さを1um未満に抑えつつi領域21iの厚さを精密に制御することは容易なため、プロセス要求精度の緩和が可能となる。
【0058】
(第5の実施の形態)
図9は、本発明の第5の実施の形態による光モジュールの構成を示す略断面図である。
【0059】
図9に示すように、本実施形態による光モジュール1の特徴は、第1乃至第3の実施の形態の応用例であって、Geフォトダイオード20に近接した近端領域D1における光導波路30の下部クラッド層31の厚さが0.7μm以上1μm未満になっており、Geフォトダイオード20から遠く離れた遠端領域D3の光導波路30の下部クラッド層31の厚さが2μm以上となっている点にある。さらに、近端領域D1と遠端領域D3との間には、下部クラッド層31の厚さが徐々に小さくなる遷移領域D2が設けられている。近端領域D1内の光導波路30の長さは、遷移領域D2内及び遠端領域D3内の光導波路30の合計長さよりも短いことが好ましい。
【0060】
このように、本実施形態による光モジュール1は、光導波路30の下部クラッド層31がGeフォトダイオード20との接続位置近傍において薄く、Geフォトダイオード20から遠く離れた位置において厚く形成されているので、光導波路30の伝搬損失を低減しながらGeフォトダイオード20と光導波路30との光結合度を強めることができる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0062】
例えば、上記実施形態による光モジュール1はシリコン基板10上にGeフォトダイオード20と光導波路30だけが設けられた構成であるが、他の光デバイスと共にモノリシック集積されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 光モジュール
10 シリコン基板
10e エピタキシャル膜
10n シリコン基板のn領域
20 Geフォトダイオード
21 Geパターン
21i Geパターンのi領域
21n Geパターンのn領域
21p Geパターンのp領域
21t 溝
30 光導波路
31 下部クラッド層
31a 下部クラッド層の開口
32 光導波路コア
32L 光導波路コア層
33 上部クラッド層
34 絶縁膜
40n n側電極
40p p側電極
D1 近端領域
D2 遷移領域
D3 遠端領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9