(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】リチウム電極の製造装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20230127BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230127BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230127BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230127BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20230127BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/40
C23C14/14 D
C23C14/06 G
C23C14/56 B
C23C14/58 Z
(21)【出願番号】P 2019093417
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】木本 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純一
(72)【発明者】
【氏名】宜保 学
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057000(JP,A)
【文献】特開平4-065284(JP,A)
【文献】特開2013-020974(JP,A)
【文献】特表2020-532077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C23C 14/00-14/58
C23C 14/06
C23C 14/56
C23C 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のベースフィルム上にリチウムを含む無機離型層を成膜する第1の成膜部と、
前記無機離型層上にリチウム金属層を成膜する第2の成膜部と、
前記リチウム金属層を金属フィルム上に転写する転写部と
を具備するリチウム電極の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム電極の製造装置であって、
前記第1の成膜部と、前記第2の成膜部とを有する真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設置され、前記ベースフィルムを前記第1の成膜部から前記第2の成膜部へ搬送する搬送機構と、をさらに具備する
リチウム電極の製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウム電極の製造装置であって、
前記搬送機構は、
前記第1の成膜部へ前記ベースフィルムを巻き出す巻き出しローラと、
前記第2の成膜部に搬送された前記ベースフィルムを巻き取る第1の巻き取りローラと、
前記ベースフィルムから前記リチウム金属層が転写された前記金属フィルムを巻き取る第2の巻き取りローラと、を有する
リチウム電極の製造装置。
【請求項4】
合成樹脂製のベースフィルム上に、リチウムを含む無機離型層を成膜し、
前記無機離型層上に、リチウム金属層を成膜し、
前記ベースフィルムから金属フィルム上へ前記リチウム金属層を転写する
リチウム電極の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウム電極の製造方法であって、さらに、
真空チャンバ内で前記ベースフィルムを巻き出し、
前記リチウム金属層が転写された前記金属フィルムを巻き取る
リチウム電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔上にリチウム金属層が積層されたリチウム電極の製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等のモバイル機器の進展に伴い、これらの機器に搭載されるリチウムイオン二次電池が注目されている。このような、リチウムイオン二次電池はその製造工程において、リチウム金属を基材上に形成する工程が特に重要であり、これまでに種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載のように、集電体として用いられる銅箔の上にリチウム金属膜を成膜する巻取式成膜装置が知られている。一方、特許文献2に記載のように、合成樹脂製の基板に離型層及び補助層を介してリチウム金属層を成膜し、基板上の補助層及びリチウム金属層を集電体に転写する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2018/193993号
【文献】特開2013-20974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、銅箔にリチウム金属膜を蒸着させる際の蒸着熱により銅箔に皺が発生しやすいという問題がある。また、特許文献2に記載の方法では、集電体に転写されるリチウム金属層の表面に補助層が付着しているため、リチウム層が補助層と反応して電気化学特性等のデバイス特性を劣化させるおそれがあるという問題がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、リチウム金属層の劣化を抑制することができるリチウム電極の製造装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るリチウム電極の製造装置は、第1の成膜部と、第2の成膜部と、転写部とを具備する。
前記第1の成膜部は、合成樹脂製のベースフィルム上にリチウムを含む無機層を成膜する。
前記第2の成膜部は、前記無機層上にリチウム金属層を成膜する。
前記転写部は、前記リチウム金属層を金属箔上に転写する。
【0008】
上記製造装置は、リチウムを含む無機離型層を介してリチウム金属層をベースフィルムに成膜するため、リチウム金属層の劣化を防ぎつつ、リチウム金属層を金属フィルム上に転写することができる。
【0009】
前記製造装置は、真空チャンバと、搬送機構とをさらに具備してもよい。
前記真空チャンバは、前記第1の成膜部と、前記第2の成膜部とを有する。
前記搬送機構は、前記真空チャンバ内に設置され、前記ベースフィルムを前記第1の成膜部から前記第2の成膜部へ搬送する。
これにより、ベースフィルム上に無機離型層とリチウム金属層とを真空一貫で連続的に成膜することができるため、無機離型層の大気暴露を原因とするリチウム金属層の劣化を回避できる。
【0010】
前記搬送機構は、巻き出しローラと、第1の巻き取りローラと、第2の巻き取りローラとを有してもよい。
前記巻き出しローラは、前記第1の成膜部へ前記ベースフィルムを巻き出す。
前記第1の巻き取りローラは、前記第2の成膜部に搬送された前記ベースフィルムを巻き取る。
前記第2の巻き取りローラは、前記ベースフィルムから前記リチウム金属層が転写された前記金属フィルムを巻き取る。
これにより、無機離型層及びリチウム金属層の成膜とリチウム金属の金属フィルムへの転写までの各工程を連続的に行うことができる。
【0011】
本発明の一形態に係るリチウム電極の製造方法は、合成樹脂製のベースフィルム上に、リチウムを含む無機離型層を成膜することを含む。
前記無機離型層上に、リチウム金属層が成膜される。
前記ベースフィルムから金属フィルム上へ前記リチウム金属層が転写される。
【0012】
前記製造方法は、さらに、真空チャンバ内で前記ベースフィルムを巻き出し、前記リチウム金属層が転写された前記金属フィルムを巻き取る工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウム金属層の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム電極の製造方法を説明する各工程の要部の概略断面図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウム電極の製造装置の一例を示す成膜装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[リチウム電極の製造方法]
図1(a)~(d)は、本発明の一実施形態に係るリチウム電極の製造方法を説明する各工程の要部の概略断面図である。
【0017】
本実施形態のリチウム電極の製造方法は、合成樹脂製のベースフィルムF上に無機離型層Dを成膜する工程(
図1(a))と、無機離型層D上にリチウム金属層Lを成膜する工程(
図1(b))と、リチウム金属層Lに金属フィルムMを接合する工程(
図1(c)と、リチウム金属層Lを金属フィルムMに転写する工程(
図1(d))とを有する。
【0018】
ベースフィルムFは、例えば、OPP(延伸ポリプロピレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルム、PI(ポリイミド)フィルム等の樹脂フィルムが用いられる。ベースフィルムFの厚みは特に限定されず、例えば、数μm~100μm程度である。ベースフィルムFの幅や長さについても特に制限はなく、仕様や用途に応じて適宜決定可能である。
【0019】
無機離型層Dは、リチウムを含む無機物で構成され、中でも、Li2CO3、LiF、LiCl、LiBr、Li3PO4、LiPON等のリチウムを含む固体電解質材料が好ましい。無機離型層Dは、蒸着法、スパッタ法等の成膜方法によりベースフィルムFの一方の面の全域に形成される。無機離型層Dの厚みは特に限定されず、例えば、10nm以上1000nm以下であり、好ましくは、10nm以上100nm以下である。
【0020】
リチウム金属層Lは、蒸着法、印刷法等の成膜方法により、無機離型層Dの表面の全域に形成される。リチウム金属層の厚みは特に限定されず、例えば、数μm~数十μmである。
【0021】
金属フィルムMは、例えば、銅、ニッケル、チタン等の集電体として機能する金属材料で構成される。金属フィルムMの厚みは特に限定されず、例えば数μm~数十μmである。金属フィルムMの幅や長さについても特に制限はなく、仕様や用途に応じて適宜決定可能である。
【0022】
ベースフィルムFから金属フィルムMへのリチウム金属層Lの転写工程では、
図1(c)に示すように、ベースフィルムF上のリチウム金属層Lに金属フィルムMが接合された後、
図1(d)に示すように、リチウム金属層Lを金属フィルムF上に転写する。このとき、金属フィルムMとリチウム金属層Lとの間の密着力が無機離型層Dとリチウム金属層Mとの間の密着力よりも大きくすることで、リチウム金属層Lが無機離型層Dから剥離しやすくなる。これにより、金属フィルムM上にリチウム金属層Lが積層されたリチウム電極LEが作製される。
【0023】
無機離型層Dは、金属フィルムMへ転写されたリチウム金属層Lの表面に残存していてもよい。無機離型層Dは、リチウムを含む無機材料で構成されているため、製造されたリチウム電極LEの電極特性に悪影響を及ぼすことがない。また、無機離型層Dの少なくとも一部がリチウム金属層Lの表面を被覆することで、当該無機離型層をリチウム金属層Lの表面の酸化や水酸化等を抑える保護膜として機能させることができる。
【0024】
本実施形態のリチウム電極の製造方法によれば、ベースフィルムF上に成膜したリチウム金属層Lを金属フィルムMへ転写するようにしているため、銅箔等の金属フィルム上へリチウム金属層を直接成膜する場合と比較して、リチウム金属の蒸着熱による金属フィルムの皺を発生させることなく、金属フィルム上へリチウム金属層を安定に積層することができる。
【0025】
また本実施形態によれば、ベースフィルムFとリチウム金属層Lとの間に無機離型層Dを介在させているため、ベースフィルムFから金属フィルムMへのリチウム金属層Lの転写を容易に行うことができる。
【0026】
特に無機離型層Dが樹脂成分を含まない無機材料で構成されているため、離型層中の樹脂成分との反応によるリチウム金属の変色、電気的特性の劣化を生じさせることなく、所望とする電気化学特性を有するリチウム金属層Lを安定に形成することができる。
【0027】
さらに本実施形態によれば、無機離型層Dがリチウムを含む無機材料で構成されているため、金属フィルムMへ転写されたリチウム金属層Lの表面に無機離型層Dの一部が残存する場合においても、リチウム金属層Lと電解液との間に高抵抗のSEI(Solid Electrolyte Interphase)を生じさせることなく、所望とするイオン伝導度を確保して、電池寿命及び出力特性に優れたリチウム電極を安定に製造することができる。
【0028】
[リチウム電極の製造装置]
図2は、本実施形態に係るリチウム電極の製造装置の一例を示す成膜装置の概略構成図である。
図2に示す成膜装置100は、真空チャンバ10と、搬送機構20と、転写部30とを備える。
【0029】
真空チャンバ10は、第1の成膜部11と、第2の成膜部12と、搬送室13とを有する。第1の成膜部11、第2の成膜部12及び搬送室13は、真空チャンバ10の内部に設置された仕切壁14を介して個々に区画される。第1の成膜部11、第2の成膜部12及び搬送室13には、真空排気ライン111,112,113がそれぞれ接続されており、それぞれが所定の減圧雰囲気に排気され、あるいは維持される。
【0030】
第1の成膜部11は、仕切壁14で区画された成膜室141と、成膜室141に設置された成膜源41とを有する。成膜源41は、ベースフィルムF上に無機離型層Dを成膜するための蒸発源である。成膜源41は、後述する第1のメインローラ22の周面の一部に対向する位置に配置される。
【0031】
第2の成膜源12は、仕切壁14で区画された成膜室142と、成膜室142に設置された成膜源42とを有する。成膜源42は、ベースフィルムF上にリチウム金属層Lを成膜するための蒸発源である。成膜源42は、後述する第2のメインローラ23の周面の一部に対向する位置に配置される。
【0032】
成膜源41,42は、真空蒸着用の蒸発源である。蒸発源の構成は特に限定されず、抵抗加熱式でもよいし、誘導加熱式でもよいし、電子ビーム加熱式であってもよい。成膜源41,42は、蒸発源に限られず、スパッタ成膜用のスパッタリングカソードであってもよい。
【0033】
搬送機構20は、巻き出しローラ21と、第1のメインローラ22と、第2のメインローラ23と、第1の巻き取りローラ24と、金属フィルム供給ローラ25と、第2の巻き取りローラ26と、複数のガイドローラGr1~Gr5とを有する。巻き出しローラ21、第1のメインローラ22、第2のメインローラ23、第1の巻き取りローラ24、金属フィルム供給ローラ25及び第2の巻き取りローラ26は、所定の回転速度でそれぞれ図示する方向に回転可能に構成される。
【0034】
巻き出しローラ21は、所定幅の長尺のベースフィルムFを第1の成膜部11へ向けて巻き出す。巻き出しローラ21から巻き出されたベースフィルムFは、ガイドローラGr1を介して第1のメインローラ22の周面に架け渡され、成膜源41との対向位置で無機離型層Dが成膜される。
【0035】
第1のメインローラ22は、無機離型層Dが成膜されたベースフィルムFを第2の成膜部12へ向けて搬送する。第1のメインローラ22から搬送されたベースフィルムFは、ガイドローラGr2,Gr3を介して第2のメインローラ23の周面に架け渡され、成膜源42との対向位置で、無機離型層D上にリチウム金属層Lが成膜される。
【0036】
第1のメインローラ22及び第2のメインローラ23は、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属材料で構成され、その内部を循環する冷却水等の温調媒体によってベースフィルムFを所定温度に維持することが可能に構成される。これにより、無機離型層D及び金属リチウム層Lの成膜時におけるベースフィルムFの熱伸びや皺の発生が抑制される。
【0037】
第1の巻き取りローラ24は、第2の成膜部12に搬送されたベースフィルムFを巻き取る。第2のメインローラ23から搬送されたベースフィルムFは、ガイドローラGr4及び転写部30を介して第1の巻き取りローラ24に巻き取られる。
【0038】
金属フィルム供給ローラ25は、ガイドローラGr5を介して金属フィルムMを転写部30へ供給する。第2の巻き取りローラ26は、転写部30によって金属リチウム層Lが転写された金属フィルムMを巻き取る。
【0039】
転写部30は、第2のメインローラ23と第1の巻き取りローラ24及び第2の巻き取りローラ26との間に設置される。転写部30は、第1の転写ローラ31と第2の転写ローラ32とを有する。第1の転写ローラ31及び第2の転写ローラ32は、第2のメインローラ23から搬送されたベースフィルムFと金属フィルム供給ローラ25から供給された金属フィルムMを所定圧力で挟持し、ベースフィルムF上のリチウム金属層Lへ金属フィルムMを接合する。
【0040】
転写部30において金属フィルムMへ転写されたリチウム金属層Lは、金属フィルムMと一体化されたリチウム電極LEとして第2の巻き取りローラ26へ巻き取られる。また、リチウム金属層Lが剥離されたベースフィルムFは、無機離型層Dとともに第1の巻き取りローラ24へ巻き取られる。
【0041】
以上のように、本実施形態の成膜装置100によれば、ベースフィルムF上に無機離型層Dとリチウム金属層Lとを真空一貫で連続的に成膜することができるため、無機離型層Dの大気暴露を原因とするリチウム金属層Lの劣化を回避できる。また、リチウム金属層LのベースフィルムF上への成膜と金属フィルムMへの転写とを真空一貫で連続的に行うことができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
例えば以上の実施形態では、ロール・ツー・ロール方式でリチウム金属層を成膜し、金属フィルムへ転写する処理を順次行ったが、これに限られず、複数の真空チャンバ間でリチウム金属層の成膜及び転写を行うようにしてもよい。
【0044】
また、転写部30は、金属フィルムMとの密着力を高めるための処理をリチウム金属層Lの表面に付与する前処理部を有してもよい。前処理部としては、例えば、リチウム金属層Lの表面を活性化するためのプラズマ処理などが挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
10…真空チャンバ
11…第1の成膜部
12…第2の成膜部
13…搬送室
20…搬送機構
21…巻き出しローラ
22…第1のメインローラ
23…第2のメインローラ
24…第1の巻き取りローラ
25…金属フィルム供給ローラ
26…第2の巻き取りローラ
30…転写部
100…成膜装置
D…無機離型層
F…ベースフィルム
L…リチウム金属層
M…金属フィルム
LE…リチウム電極